説明

脱色用プロテアーゼおよびその用途

【課題】人体に対する影響の少ない微生物を用いて、着色溶液等に含まれる着色成分を脱色する作用のある脱色用プロテアーゼを提供すること。
【解決手段】
[1]アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を培養して得られる脱色用プロテアーゼ。
[2]前記アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−73菌株として寄託されている、請求項1に記載の脱色用プロテアーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は脱色用プロテアーゼおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
産業活動の過程で排出される廃液の着色成分を脱色するためには硫酸アルミニウムや塩化第二鉄等の凝集剤を用いた沈殿法、オゾン等による分解法、活性炭等による吸着法等が使用されてきたが、これらの方法では経済性、操作性の面で大規模に実施することが容易ではなく、着色成分を除去できたとしても今度は使用済みの凝集剤や活性炭等の処理が問題となる。
この様な問題に対処するため、現在では微生物による脱色作用の応用が注目されていきている。
具体的には、リグニン、染料、フミンおよびメラノイジンの着色成分を効率よく脱色する優れたアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)による着色溶液の脱色方法が提案されている(特許文献1)。
このアスペルギルス・フミガタスによる脱色の際に前記アスペルギルス・フミガタス自体が着色してくることから、大部分は前記アスペルギルス・フミガタスの吸着による脱色作用であることが示唆されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平6−153913号公報
【特許文献2】特開平6−39392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら微生物は種類によっては人体に対する影響が未知のものも存在することから、人体に対して安全な微生物の用途拡大が期待されていた。
本発明の目的は人体に対する影響の少ない微生物を用いて、着色溶液等に含まれる着色成分を脱色する作用のある脱色用プロテアーゼを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討した結果、鰹節かび菌を培養して得られるプロテアーゼが脱色作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、
[1]アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を培養して得られる脱色用プロテアーゼを提供するものである。
また本発明は、
[2]前記アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)が、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−73菌株として寄託されている、上記[1]に記載の脱色用プロテアーゼを提供するものである。
また本発明は、
[3]アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を、水を含む培地により15〜55℃の範囲で12時間〜12日の間培養し、得られた培養液の不溶分を除去した溶液に含まれる、上記[1]または[2]に記載の脱色用プロテアーゼを提供するものである。
[4]分子量が45000〜66000の範囲である、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の脱色用プロテアーゼを提供するものである。
また本発明は、
[5]N末端アミノ酸配列の末端の7個のアミノ酸がAla−Ala−Glu−Gly−Ala−Val−Glyの順に配列している、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の脱色用プロテアーゼを提供するものである。
また本発明は、
[6]アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を、水を含む培地により15〜55℃の範囲で12時間〜12日の間培養する工程と、得られた培養液の不溶分を除去する工程と、を含むことを特徴とする、脱色用プロテアーゼの生産方法を提供するものである。
また本発明は、
[7]上記[1]〜[5]のいずれかに記載の脱色用プロテアーゼを用いることを特徴とする、着色成分の脱色方法を提供するものである。
また本発明は、
[8]前記着色成分が、ヘモグロビンおよびミオグロビンの少なくとも一方である、上記[7]に記載の脱色方法を提供するものである。
また本発明は、
[9]独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター に受託番号NITE P−73菌株として寄託されている、アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の脱色用プロテアーゼは、ミオグロビン、ヘモグロビン等の着色成分を有効に脱色することができる。
また前記脱色用プロテアーゼは鰹節かび菌を培地で培養することにより簡便に得られることから量産性、経済性に優れる。
さらに前記脱色用プロテアーゼは食品用途に応用されている鰹節かび菌により得られることから比較的人体に対する影響が少ないプロセスにより得ることができ、特に食品、化粧品分野等の脱色用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の脱色用プロテアーゼは鰹節かび菌であるアスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を培養することにより得られる。
前記アスペルギルス レペンスの培養には、鰹節かび菌の培養に用いられている公知の培地用成分を使用することができる。
【0008】
例えば、培養に使用する炭素源としては、グルコース、マンノース、フラクトース、マンノース、リボース、キシロース等のアルドース類、グルコン酸、マンノン酸等のアルドン酸類、グルカル酸、マンナル酸等のアルダル酸類、ソルビトール、マンニトール等のアルジトール類、グルクロン酸、マンヌロン酸等のウロン酸類等、
植物、動物由来のでんぷん、抽出液等、
エタノール、グリセリン等の水酸基含有化合物等を挙げることができる。
また培養に使用する窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、尿素等を挙げることができる。
また培養に使用するリン源としては、リン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等を挙げることができる。
また培養に使用するカリウム源としては、塩化カリウム、硝酸カリウム等を挙げることができる。
【0009】
前記炭素源、窒素源、リン源、カリウム源等は一種もしくは二種以上を使用することができる。
【0010】
前記培地用成分として、必要に応じてpHを調整するための緩衝成分、ポリアクリル酸誘導体等のゲル化成分等を配合することができる。
【0011】
前記アスペルギルス レペンスを培養するときの条件は以下の通りである。
【0012】
前記アスペルギルス レペンスの培養を行うときの温度は、15〜55℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは25〜45℃の範囲である。
前記アスペルギルス レペンスの培養を行うときの時間は、12時間〜12日の範囲であることが好ましく、より好ましくは2〜11日の範囲であり、さらに好ましくは3〜10日の範囲である。
前記アスペルギルス レペンスの培養を行うときのpHは、2〜8の範囲の範囲が好ましく、より好ましくは3〜7の範囲であり、さらに好ましくは4〜6の範囲である。
【0013】
前記アスペルギルス レペンスの培養の際に使用する水に特に限定はなく、イオン交換水、蒸留水、水道水、通常の水道水から塩素を除去した工業用水等が使用される。
【0014】
前記アスペルギルス レペンスの培養後、前記培地のうち水に溶けない成分を遠心分離、濾過等の操作により除去することにより、前記脱色用プロテアーゼを含む溶液を得ることができる。
この様にして得られた脱色用プロテアーゼを、ミオグロビン、ヘモグロビン等の着色成分と接触させることにより、前記着色成分を脱色させることができる。
前記着色成分の脱色は、前記脱色用プロテアーゼと前記着色成分とを水溶液中で接触させる方法等により行うことができる。
【0015】
次に本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0016】
本実施例に使用したアスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)MK82は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−73菌株として寄託されているものである。
前記アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)MK82の微生物学上の特徴は次の通りである。
【0017】
(1)生育温度
25〜30℃の範囲で良好に生育する。
(2)生育pH
pH3.0〜pH8.0の範囲で生育が可能である。
(3)培地選択性
寒天培地上で、ツァペック・ドッグス培地、PDA培地(ポテトデキストロース寒天培地)、MY20培地(ぶどう糖200g、ペプトン5g、麦芽エキス3g、酵母エキス3gおよび蒸留水1リットルの組成)、サブロー培地で生育が可能であったが、コーンミール培地で生育させることはできなかった。
(4)顕微鏡を使用した形態観察結果
ホウキ状に配列した梗子をもち、その先端に分生子の数珠上の連鎖を生じる形態が観察された。
(5)MY20寒天培地上でのコロニーの様子
観察開始初期には白色の毛足の長いコロニーを形成した。その後、次第に黒褐色の毛足の短いコロニーへと変化することが確認された。
【0018】
[アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)MK82の培養]
(1−1)前培養の工程
表1に示す液体培地7.0mlを培養チューブに入れ、アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)MK82を白金耳により一回植菌し、30℃の温度で2日間振盪培養した。この際の振盪速度は210rpmとした。
【0019】
(1−2)本培養の工程
前培養により得られた前記培養チューブ3本を、表1に示す液体培地400mlを含む3リットルフラスコに添加し30℃で振盪培養した。この際の振盪速度は140rpmとした。培養後、培養液を遠心分離(8000×g、10分、4℃)して不溶分を除去し、得られた上清を脱色用プロテアーゼ溶液として以後使用した。
【0020】
【表1】

【0021】
[脱色測定法]
ミオグロビン溶液(1.2mg / ml)、ヘモグロビン溶液(1.2mg/ml)0.75mlに、前記脱色用プロテアーゼ溶液0.11mlを添加し撹拌した。24時間後、反応溶液を遠心分離(13000×g、10分)し、上澄み液を希釈して吸光度を測定した。ミオグロビンの場合は408nmで、ヘモグロビンの場合は404nmにおいて吸光度を測定した。脱色反応は25℃、24時間反応させた。
【0022】
比較基準(コントロール)として、前記脱色用プロテアーゼ溶液のかわりに無菌の表1に示す液体培地を添加し24時間反応させた。
【0023】
24時間後の反応溶液の上澄み液の吸光度が低いほど、反応溶液は脱色し沈殿が出来たことを示す。
【0024】
脱色用プロテアーゼ1unitは、24時間で反応溶液の上澄み液の吸光度を1.0減少させる量と定義した。
1unit = (K‐S)× 希釈倍率×1/0.11
K:コントロールの吸光度
S:培養液を添加した反応溶液の吸光度
【0025】
[培養経過]
前培養により得られた前記培養チューブ3本を、表1に示す液体培地400mlを含む3リットルフラスコで培養し、培養液を経時的に無菌でサンプリングし、13000rpm、4℃、10分の条件で遠心した。
前記遠心分離の際の速度は6000〜20000rpmの範囲が好ましく、8000〜16000rpmの範囲であればより好ましい。
得られた上清を脱色活性測定に用いた。結果を図1に示す。
【0026】
脱色用プロテアーゼは3日目から菌体外に出てきた。8日目以降は上清中の脱色用プロテアーゼの活性に変化は見られなかった。
【実施例2】
【0027】
[脱色用プロテアーゼの精製]ゲル濾過クロマトグラフィー
(2−1)ゲル濾過クロマトグラフィーによる精製
脱色用プロテアーゼ溶液を濃縮してからゲル濾過クロマトグラフィーを行い、前記脱色用プロテアーゼを精製した。
まず脱色用プロテアーゼ溶液をエバポレーターにより減圧下に濃縮し、濃縮液を0.2M NaClを含む酢酸緩衝液(pH5、20mM、以下「buffer A」という。)により平衡化した商品名TOYOPEARL HW−55F(東ソー社製)を充填したカラム(4.0×33cm)により分離した。
前記buffer Aを用いて流速20ml/hで前記脱色用プロテアーゼを溶出した。各フラクション(2.5 ml/tube)の前記脱色用プロテアーゼの活性を測定し,高活性画分(ピーク時の活性の50%以上の活性を持つ画分)を集めた。これをフラクション1とする。
【0028】
前記フラクション1を遠心ろ過で濃縮し、同じく商品名TOYOPEARL HW−55F を充填したカラム(2.0×95cm)により分離した。前記buffer Aを用いて流速20 ml/hで前記脱色用プロテアーゼを溶出した。各フラクション(2 ml/tube)の前記脱色用プロテアーゼの活性を測定し、高活性画分を集めた。これをフラクション2とする。
【0029】
(2−2)DE−52 celluloseカラムクロマトグラフィー
前記フラクション2を前記buffer A 1リットルに対して1回目は3時間、2回目は12時間透析した。前記buffer Aで平衡化したDE−52 cellulose(Whatman Chemical Separation社製、商品名Clifton、米国)を充填したカラム(1.6×12.5cm)により分離した。buffer Aでカラムを洗浄した後、0〜0.5M NaClを含むbuffer Aを用いてリニアグラジエント法により、流速40 ml/hで脱色用プロテアーゼを溶出した。各フラクション(3.0 ml/tube)の脱色活性活性を測定した。結果を図2に示す。
【0030】
ゲルろ過クロマトグラフィーおよびDE−52 celluloseカラムクロマトグラフィーにより脱色用プロテアーゼを単一に精製することができた。
【0031】
[比較例1]硫安分画
脱色用プロテアーゼ溶液に、30%、50%、80%飽和となるように硫酸アンモニウムを添加した。各段階で得られた沈殿を酢酸緩衝液(pH5.0、20mM)で溶解し、透析した後脱色測定を行った。その結果、脱色用プロテアーゼの活性は見られなかった。
【0032】
[比較例2]DE−52 カラムクロマトグラフィー
脱色用プロテアーゼ溶液を透析したのち、DE−52 カラムクロマトグラフィーに供することによって脱色用プロテアーゼの活性の精製を行った。その結果、脱色用プロテアーゼの活性はDE−52に吸着し、NaClを含む酢酸緩衝液で溶出されたが、活性は非常に低い値となった。
【0033】
[比較例3]溶媒抽出
脱色用プロテアーゼの活性が、低分子有機化合物でアミン類、またはカルボン酸類、フェノール類・中性物質に由来するものであるかどうかを検討するために溶媒抽出を行った。
脱色用プロテアーゼ溶液をジエチルエーテルにより抽出し、このエーテル抽出液を用いて公知の方法によりアミン類、カルボン酸類、フェノール類・中性物質へと分類する操作を行った。
【0034】
各物質について脱色測定を行った結果、エーテル抽出液から得られた化合物は脱色しなかった。よって、脱色用プロテアーゼはアミン類、カルボン酸類およびフェノール類・中性物質のいずれでもないことが確認された。
【0035】
[比較例4]培養液の透析
脱色用プロテアーゼ溶液を透析して脱色活性を測定した結果、残存活性は50%であった。
【実施例3】
【0036】
[脱色用プロテアーゼの単一性の確認]
(3−1)ディスクポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)
Davisらの方法(B. J.Davis:Disk electrophoresis. ll. Method and application to human serum proteins.Ann. N.Y. Acad. Sci.,404-427(1964))により、7.5%(w/v)ポリアクリルアミドゲル(pH8.0)、Tris−glycine(pH8.3)の泳動用緩衝液を用いて、2.5mA/tubeの条件で3.0時間泳動した。タンパク質の染色は0.25%(w/v)Coomassie brilliant blue R−250/エタノール−酢酸−水(9:2:9)溶液で1時間行い、エタノール−酢酸−水(25:8:65)溶液に3時間浸漬して脱色後、エタノール−酢酸−水(10:15:175)溶液中に保存した。
結果を図3(a)に示す。単一なタンパク質のバンドが得られた。
【0037】
(3−2)スラブSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)
脱色用プロテアーゼを12%(w/v)ポリアクリルアミドゲルおよび0.1%(w/v)SDS−Tris−glycine(pH8.3)の泳動用bufferを用いて、200Vの条件で40分間泳動した。分子量マーカーとして、Low Molecular Weight [LMW] Calibration kit(Amarsham Pharmacia Biotech、Uppsala)を使用した。すなわち、α‐ラクトアルブミン(分子量14,400)、トリプシンインヒビター(分子量20,100)、カルボニックアンヒドラーゼ(分子量30,000)、オブアルブミン(分子量45,000)、ウシ血清アルブミン(分子量66,000)、ホスホリラーゼb(分子量97,000)である。染色および脱色は、B. J.Davis:Disk electrophoresis. ll. Method and application to human serum proteins.Ann. N.Y. Acad. Sci.,404-427(1964)、生化学実験講座1 タンパク質の化学1(東京化学同人)に記載の方法に従った。
結果を図3(b)に示す。分子量45,000〜66,000の範囲内にある単一なタンパク質のバンドが得られた。
【実施例4】
【0038】
[脱色用プロテアーゼの分子量]
実施例2のゲル濾過法の結果を図4に示す。脱色用プロテアーゼの分子量は45,000であった。
また実施例3のスラブSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)の結果、分子量は54,000であった。
以上より、前記脱色用プロテアーゼの分子量は好ましくは45,000〜54,000の範囲内にああることが判明した。
【実施例5】
【0039】
[脱色用プロテアーゼの吸収スペクトルの測定]
紫外線吸光度測定装置 HITACHI U−2800A spectrophtometerにより脱色用プロテアーゼ248μg/mlの吸収スペクトルを測定したところ、276nmで極大吸収がみられた。結果を図5に示す。
【実施例6】
【0040】
[脱色用プロテアーゼの性質]
(6−1)脱色用プロテアーゼに与えるpHの影響
50mM酒石酸−酒石酸カリウム・ナトリウム緩衝液(pH2.5〜3.0)、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0〜5.0)および50mMリン酸カリウム−ナトリウム緩衝液(pH6.0〜8.0)を用いて、ミオグロビン、ヘモグロビンのpHを調製し、24時間脱色活性反応を行なった。結果を図6に示す。
なお脱色用プロテアーゼのタンパク質量は0.38μgである。
脱色用プロテアーゼはpH2.0〜4.0において最も高い脱色活性を示した。
【0041】
(6−2)脱色用プロテアーゼに与える温度の影響
20mM酢酸緩衝液(pH5.0)を用いて,20〜90℃の各温度で15時間脱色活性反応を行なった。結果を図7に示す。
なお脱色用プロテアーゼのタンパク質量は0.65μgである。
50℃において最大活性を示した。また90℃以上においては活性を示さなかった。
【0042】
(6−3)pH安定性
脱色用プロテアーゼをそれぞれ50 mM酒石酸−酒石酸カリウム・ナトリウム緩衝液(pH2.0〜3.0)、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.0〜5.0)および50mMリン酸カリウム−ナトリウム緩衝液(pH6.0〜8.0)で、4℃、24時間透析処理後、処理前のpHに戻して残存する脱色活性をpH5.0で測定した。結果を図8に示す。
脱色用プロテアーゼはpH2.0〜5.0では、4℃で24時間処理しても高い残存活性を示した。またpH3.0〜5.0の処理において最も安定であった。脱色用プロテアーゼはpH8.0で完全に失活した。
【0043】
(6−4)熱安定性
20mM酢酸緩衝液(pH5.0)を用いて、脱色用プロテアーゼを20〜75℃の各温度で20分間加熱処理した後、24時間脱色活性反応を行い残存する活性を測定した。結果を図9に示す。
【0044】
脱色用プロテアーゼは60℃までの熱処理では80%以上の活性を維持した。しかし、それ以上の温度では急速に不安定となり、75℃の熱処理で完全に失活した。
【実施例7】
【0045】
[脱色用プロテアーゼに与える各種試薬の影響]
脱色用プロテアーゼに与える金属イオン、システインプロテアーゼ阻害試薬、金属プロテアーゼ阻害試薬、セリンプロテアーゼ阻害試薬および酸性プロテアーゼ阻害試薬の影響を調べた。脱色用プロテアーゼに終濃度が1.0mMとなるように各種試薬溶液を添加して25℃で24時間反応させ、これら各種試薬存在下で脱色活性を測定した。
脱色用プロテアーゼの脱色活性はHg2+によって促進された。Fe2+、Fe3+およびCu2+は脱色用プロテアーゼの脱色活性を阻害した。また、Papstatinも脱色用プロテアーゼの脱色活性を阻害した。
結果を表2に示す。
【0046】
【表2】

【実施例8】
【0047】
[脱色用プロテアーゼの基質特異性]
BSA、卵白アルブミン、チトクロームc、ペルオキシダーゼ、フェリチンに対する凝集(脱色)活性測定を行なった。BSA、卵白アルブミンは反応後0時間と24時間後の上清の278nmにおける吸光度とタンパク質濃度を測定した。
【0048】
チトクロームc、ペルオキシダーゼ、フェリチンはミオグロビンおよびヘモグロビンの場合と同様に極大吸収における吸光度を測定した。
【0049】
脱色用プロテアーゼはBSA、卵白アルブミン、チトクロームc、ペルオキシダーゼ、フェリチンに対して、凝集作用(沈殿形成なし)を示さなかった。
【実施例9】
【0050】
[脱色用プロテアーゼの各種ヘモグロビンに対する脱色活性]
上記実施例1〜7により使用したヘモグロビンはウシ由来である。ブタ由来、ヒト由来のヘモグロビンに対する脱色活性について調べた。
【0051】
脱色用プロテアーゼはブタ由来、ヒト由来のヘモグロビンに対しての方がウシ由来より高い脱色活性を示した。
結果を表3に示す。
【0052】
【表3】

【実施例10】
【0053】
[脱色用プロテアーゼに与える塩濃度の影響]
脱色用プロテアーゼ溶液を各塩濃度に調製し脱色活性を測定した。
【0054】
脱色用プロテアーゼはヘモグロビンに対しては塩濃度150mMのとき最も高い活性を示した。ミオグロビンに対しては150mMまで活性は安定であった。
【0055】
なお蒸留水で脱色用プロテアーゼを透析したところ、脱色活性を示さなかった。透析前と同じ塩濃度となるように脱色用プロテアーゼにNaClを添加して脱色活性を測定したが活性を示さなかった。失活したと考えられる。
結果を図10に示す。
【実施例11】
【0056】
[基質濃度と脱色用プロテアーゼの脱色活性の関係]
異なる基質濃度で脱色用プロテアーゼの脱色活性を測定した。基質濃度の単位はmg/mlである。反応液のpH5.0で、ミオグロビン、ヘモグロビンとも基質濃度0.8mg/ml以上では活性に変化が見られなかった。結果を図11〜図13に示す。
【実施例12】
【0057】
[脱色用プロテアーゼのN末端アミノ酸配列の分析]
脱色用プロテアーゼ29μgを、プロティアンミニ II(商品名Bio−Rad、Richmond社製)を用いたスラブゲル‐ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。電気泳動後、BIO−RADミニトランスブロット(Bio−Rad社製)を用いて、スラブゲルから脱色用プロテアーゼをポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜(商品名GVHP304FO、ミリポア社製)に転移した。
PVDF膜を、0.1%(w/v)クマシーブリリアントブルーR−250を含む50%(v/v)メタノール溶液で染色した後、メタノール−酢酸−水(5:1:4)の溶液で脱色した。PVDF膜上で染色した脱色用プロテアーゼを膜ごと切り出し、N末端配列の分析に用いた。N末端アミノ酸配列は、プロテインシーケンサーPPSQ−10(嶋津社製)を用い、自動エドマン分解の各サイクルで生成したPTH−アミノ酸を高速液体クロマトグラフィーで同定することにより分析した。
脱色用プロテアーゼのN末端アミノ酸配列はAla−Ala−Glu−Gly−Ala−Val−Glyであった。
詳細は配列表に記載の通りである。
【実施例13】
【0058】
[脱色用プロテアーゼのプロテアーゼ活性について]
プロテアーゼ活性は、カゼインを基質とし、pH5.0にて酵素反応後にカゼインから遊離したペプチドをFolin法を用いて発色させ、600nmにおける吸光度の増加に基づいて定量することにより測定した。
この結果、プロテアーゼ活性を有していることが確認できた。
脱色活性とプロテアーゼ活性には相関性があった。
最も脱色活性の高かったフラクションは、プロテアーゼ活性においても最も高い活性を示した。
結果を図14に示す。
なお、これらの実施には次の文献を参照した。
・Folin,O.&Ciocalteau,V.:Tylosine and tryptophan determination in proteins.
J.Biol.Chem.73,627-650(1927)
・Lowry,O.H.,Rosebrough,N.J.,Farr,A.L.&Randall,R.J.:Protein measurement with the Folin phenol reagent.
J.Biol.Chem.193,265-275(1951)
・参考文献:新・タンパク質精製法 理論と実際
(Springer シュプリンガー・フェアラーク東京)
【実施例14】
【0059】
[脱色用プロテアーゼが有するプロテアーゼ活性のpH依存性]
基質にカゼイン、ヘモグロビン、ミオグロビンを用いて各基質に対するプロテアーゼ活性pH依存性について調べた。結果を図15および図16に示す。
カゼイン、ミオグロビンはpH2、ヘモグロビンはpH2.6のとき最も高い活性を示した。また、酸性側で活性がみられた。
【実施例15】
【0060】
[脱色用プロテアーゼが有するプロテアーゼ活性のpH依存性]
脱色用プロテアーゼに酸性プロテアーゼ阻害剤を終濃度で1.0mMとなるように添加しプロテアーゼ活性を測定した。基質はカゼイン(pH2.0)を用いた。
プロテアーゼ活性はPepstatinによって阻害された。また、Pepstatin存在下で脱色活性反応を行った結果、脱色活性は示さなかった。
結果を表4に示す。
【0061】
【表4】

【実施例16】
【0062】
[各種プロテアーゼの脱色作用の比較]
脱色用プロテアーゼの替わりに各種プロテアーゼを用いて脱色活性反応を行い、各種プロテアーゼが脱色作用を持つのか調べた。脱色活性は各プロテアーゼの最適pHの条件下で測定した。
各種プロテアーゼは脱色活性を示したが、その相対活性は脱色用プロテアーゼに比べ極めて低かった。
サーモライシン、α−キモトリプシンはミオグロビンの上清の吸光度を減少させたが、沈殿は形成しなかった。ヘモグロビンは沈殿を形成した。
基質にカゼインを用いてプロテアーゼ活性を測定した結果を表5に示す。
【0063】
【表5】

【0064】
次に脱色反応液のpH4、5に調製し脱色因子の変わりに各種プロテアーゼを添加した。
結果を表6に示す。
【0065】
【表6】

【0066】
次にBSA、オボアルブミン、カゼイン、ヘモグロビンおよびミオグロビンに対する各種プロテアーゼのプロテアーゼ活性について測定した。基質は終濃度0.6%、pHは各プロテアーゼの最適pHに調製した。
結果を表7に示した。結果は相対活性で示した(U/mg)。
【0067】
【表7】

【0068】
脱色用プロテアーゼおよび各種プロテアーゼの、それぞれのプロテアーゼ活性および脱色活性を表8に示した。
【0069】
【表8】

【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明により得られた脱色用プロテアーゼを用いることにより、鰹節を製造する際により鰹節の脱色を行う用途に適用できることから、色調のより白い鰹節を効率よく製造することが可能となる。色調のより白い鰹節を製造する際に、脱色のためのかび付け工程を省略することも可能となる。
加えてこれまで鰹節の生産には原料の鰹の血合部分を事前に除去することにより製造される鰹節の色調の改善が図られてきたが、本発明により得られる脱色用プロテアーゼを使用することにより、前記除去工程を省略することも可能となることから鰹節の生産工程を簡略化することができ、単位時間当たりの生産量を増加させることが可能となる。
また鰹、鮪等を原料とする缶詰の製造には血合部分を事前に除去する工程が必要となるが、本発明の脱色用プロテアーゼを用いることによりこの除去工程が不要となる。このため鰹、鮪等を原料とする缶詰の生産効率を向上させることができる。
また衣服や手足に付着した血液汚れを効率的に脱色させることが可能となることから、医療業務等や動物の解体作業等に従事する際に生じる血液汚れを落とす洗剤用途等にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】培養日数と脱色活性との関係を示したグラフである。
【図2】ゲル濾過クロマトグラフィーのフラクション番号と脱色活性との関係を示したグラフである。
【図3】(a)はディスクポリアクリルアミドゲルの電気泳動を示す図面代用写真であり、(b)はスラブSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動を示す図面代用写真である。
【図4】実施例2に説明したゲル濾過法について、溶出量と分子量との関係を示したグラフである。
【図5】脱色用プロテアーゼの紫外線吸収スペクトルの波長と吸光度との関係を示したグラフである。
【図6】脱色用プロテアーゼのpHと脱色に関する相対活性との関係を示したグラフである。
【図7】脱色用プロテアーゼの温度と脱色に関する相対活性との関係を示したグラフである。
【図8】脱色用プロテアーゼのpHに対する安定性と脱色に関する相対活性との関係を示したグラフである。
【図9】脱色用プロテアーゼの温度に対する安定性と脱色に関する相対活性との関係を示したグラフである。
【図10】脱色用プロテアーゼの塩濃度と脱色活性との関係を示したグラフである。
【図11】脱色用プロテアーゼに対するヘモグロビンおよびミオグロビンの基質濃度ならびに脱色活性との関係を示したグラフである。
【図12】pH4におけるミオグロビンの基質濃度と脱色活性との関係を示したグラフである。
【図13】pH4におけるヘモグロビンの基質濃度と脱色活性との関係を示したグラフである。
【図14】ゲル濾過クロマトグラフィーのフラクション番号と脱色活性との関係ならびにカゼインを用いたプロテアーゼ活性との関係を示したグラフである。
【図15】基質をカゼインとしたときの、pHとプロテアーゼ活性の相対活性との関係を示したグラフである。
【図16】基質をヘモグロビンおよびミオグロビンとしたときの、pHとプロテアーゼ活性の相対活性との関係を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を培養して得られる脱色用プロテアーゼ。
【請求項2】
前記アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)が、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに受託番号NITE P−73菌株として寄託されている、請求項1に記載の脱色用プロテアーゼ。
【請求項3】
アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を、水を含む培地により15〜55℃の範囲で12時間〜12日の間培養し、得られた培養液の不溶分を除去した溶液に含まれる、請求項1または2に記載の脱色用プロテアーゼ。
【請求項4】
分子量が45000〜66000の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載の脱色用プロテアーゼ。
【請求項5】
N末端アミノ酸配列の末端の7個のアミノ酸がAla−Ala−Glu−Gly−Ala−Val−Glyの順に配列している、請求項1〜4のいずれかに記載の脱色用プロテアーゼ。
【請求項6】
アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)を、水を含む培地により15〜55℃の範囲で12時間〜12日の間培養する工程と、得られた培養液の不溶分を除去する工程と、を含むことを特徴とする、脱色用プロテアーゼの生産方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の脱色用プロテアーゼを用いることを特徴とする、着色成分の脱色方法。
【請求項8】
前記着色成分は、ヘモグロビンおよびミオグロビンの少なくとも一方である、請求項7に記載の脱色方法。
【請求項9】
独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター に受託番号NITE P−73菌株として寄託されている、アスペルギルス レペンス(Aspergillus repens)。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−219483(P2009−219483A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32067(P2009−32067)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(590006398)マルトモ株式会社 (23)
【Fターム(参考)】