説明

脱酸素剤包装材料

【課題】脱酸素剤包装体においても植物由来原料プラスチックフィルムとしてポリ乳酸フィルムの脱酸素剤包装体への利用が検討され、短期間で脱酸素剤の形態と損なうことのないバイオマス由来のプラスチックフィルムを用いた、高水分下でも形態を損なわない脱酸素剤包装材料を提供する。
【解決手段】バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)、紙層(B)、バイオマス由来のヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)の少なくとも3層を積層して成る脱酸素剤包装材料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱酸素剤包装材料に関する。更に詳しくは、環境に配慮したバイオマス由来のプラスチックフィルムを積層してなる脱酸素剤用包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の脱酸素剤包装材料は基材層を紙とし、紙に熱可塑性のプラスチックフィルムを積層したものが一般的である。このような脱酸素剤包装材料では、最外層に裏面印刷が可能な熱可塑性樹脂、最内層にヒートシール性を有した熱可塑性樹脂をラミネートし、それぞれの熱可塑性樹脂に開孔を施し通気性をコントロールした3層構成のフィルムが知られている。
【0003】
しかしながら、上記の熱可塑性樹脂は化石燃料由来の樹脂であり、使用後廃棄する際、燃焼により地球温暖化の原因の一つといわれる炭酸ガスを放出する問題がある。近年、原材料として再生可能な資源、すなわち「バイオマス」への関心が急速に高まってきており、多様なバイオマス由来の材料が製造されてきている。中でも、食品の包装材料としては、実用上の観点から、セルロースやでんぷんの化学修飾による誘導体、ポリ乳酸に代表されるバイオマス由来の材料が使用されている。上記ポリ乳酸誘導体は、トウモロコシ、サトウキビ等の再生可能な植物を原料としたバイオマス由来の材料であり、土中の微生物によって生分解性を有するポリマーとして注目を集めている(特許文献1参照)。
【0004】
近年、上記の理由から、脱酸素剤包装体においてもバイオマス由来のプラスチックフィルムとしてポリ乳酸フィルムの利用が検討されてきた。しかしながら、脱酸素剤は高水分活性の食品等に適用されることが多く、また、脱酸素剤自体が水を保持しているものが多い。ポリ乳酸フィルムはこのような高水分下において加水分解しやすいことから、短期間で脱酸素剤の形態を損なう問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−276791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、バイオマス由来のプラスチックフィルムを用いた、高水分下でも形態を損なわない脱酸素剤包装材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、バイオマス由来の原料より合成される耐加水分解性に優れた熱可塑性樹脂を脱酸素剤包装材料に用いることにより、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)、紙層(B)及びバイオマス由来の熱可塑性樹脂層(C)の少なくとも3層を積層してなる脱酸素剤包装材料である。
【0009】
また本発明は、前記脱酸素剤包装材料を用い、ヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)側の面を内側に配して脱酸素剤組成物(D)を包装してなる脱酸素剤包装体に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、バイオマス由来のプラスチックフィルムを用い、高水分下でも加水分解せず形態を損なわない脱酸素剤包装材料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る脱酸素剤包装材料の一態様を示す断面図。
【図2】本発明に係る脱酸素剤包装材料の好ましい一態様を示す断面図。
【図3】本発明に係る脱酸素剤包装体の一態様を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の一形態を図面に即して説明する。図1においては、(A)及び(C)はバイオマス由来の熱可塑性樹脂層であり、それぞれに開孔(x)(y)を施し、紙層(B)と積層して成るものである。
【0013】
本発明のバイオマス由来の熱可塑性樹脂としては、耐加水分解性に優れていれば何ら限定されないが、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記する)、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等が例示される。
【0014】
本発明は、バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)、紙層(B)及びバイオマス由来ヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)の少なくとも3層を積層してなる脱酸素剤包装材料に関するものであり、図2に示すように上記熱可塑性樹脂層(A)においては紙層(B)との接着性を上げる為、接着層(A−2)ような接着層を設けてもよい。また本発明は、図3に示すように、該耐熱性包装材料のヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)側の面を内側に配して、脱酸素剤組成物(D)を包装してなる脱酸素剤包装体に関するものである。なお、図3においては、表面開孔(x)及び裏面開孔(y)の記載を省略した。
【0015】
本発明のバイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)は単層、もしくは2層以上であっても良いが、包装体の強度と紙層(B)との接触性を加味すると、2層での構成が好ましい。2層の構成は、保護層(A−1)と、保護層(A−1)と紙層(B)とを接着する為の接着層(A−2)からなる構成が例示できる。
【0016】
熱可塑性樹脂層(A)の厚みは5〜90μmが好ましく、25〜60μmがより好ましい。厚みが5μmを下回ると、強度が不十分となるため好ましくなく、厚みが90μmを上回るとコストや製袋性等の取り扱い性に問題が生じる。
【0017】
熱可塑性樹脂層(A)を、保護層(A−1)を有する層構成とすることにより、本発明の脱酸素剤包装材料は、耐衝撃性が向上すると共に、ピンホールの発生を抑制することが可能となる。また、本発明の脱酸素剤包装材料においては、保護層(A−1)を最外層に積層させることが好ましく、その場合、保護層(A−1)として透明な材料を採用すると、その裏面に印刷を施すことも可能である。最外層に積層した保護層(A−1)の裏面に印刷を施すと、脱酸素剤組成物(D)を包装して脱酸素剤包装体とした場合、食品等の被保存物と印刷用のインキ等が直接接触することを防ぐことが出来るため、安全衛生上好ましい。
【0018】
保護層(A−1)に使用できるバイオマス由来の熱可塑性樹脂としては、包装体の製造上または使用上の要請から強度が大きい方が好ましく、例えばPET、ポリアミド、ポリプロピレン等が例示できる。これらの中で強度または製造上の扱いやすさ等を考慮するとPETまたはポリアミドが好ましい。また、保護層(A−1)の厚さは、製造上の扱い易さ等から50μm以下が好ましく、5〜20μmが最も好ましい。
【0019】
バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)を、保護層(A−1)を有する層構成とする場合、保護層(A−1)と紙層(B)とを接着させる為に、接着層(A−2)を保護層(A−1)と共に積層させて、熱可塑性樹脂層(A)とすることが好ましい。接着層(A−2)は、バイオマス由来のポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂、ポリブタジエン、またはポリ塩化ビニル等のプラスティックフィルムなどが例示できる。接着層(A−2)の厚みは、10〜70μmが好ましく、より好ましくは15〜40μmである。
【0020】
紙層(B)に用いられる素材としては、セルロース等の植物由来のものまたはバイオマス由来の樹脂を用いた不織布等が使用される。紙は、中性紙、酸性紙、合成紙、和紙、洋紙、上質紙等が例示される。不織布は、湿式、乾式またはスパンボンド式不織布等何れの不織布も使用することが可能であり、材料はポリアミド、PET、レーヨン等種々のものが使用される。紙または不織布にフッ素等の撥水剤を塗布し、耐油性を持たせたものも使用される。素材の坪量としては15〜100g/mのものが好ましく用いられる。
【0021】
本発明のバイオマス由来のヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)に使用できる熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル等が例示できる。
【0022】
バイオマス由来のヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)の厚みは、10〜70μmが好ましく、より好ましくは15〜50μmである。厚みが10μmを下回ると、強度が不十分となるため好ましくなく、70μmを上回るとコストや製袋性等の取り扱い性に問題が生じる。
【0023】
熱可塑性樹脂層(A)及びヒートシール性熱可塑性樹脂(C)に表面開孔(x)及び裏面開孔(y)を施す方法に特に制限はなく、熱針開孔、冷針開孔、引っ掻き開孔等、公知の開孔方法を使用することが出来る。
【0024】
本発明において、熱可塑性樹脂層(A)、紙層(B)及びヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)を積層する方法に特に制限はなく、熱をかけてラミネートしてもよく、押し出し方式を用いてもよい。また、本発明の脱酸素剤包装材料においては、所期の性能を損なわない範囲でさらに任意の層を積層する事ができる。
【0025】
本発明の脱酸素剤包装材料のガーレー式透気度(JIS P8117−1998)は100〜30000秒/100ccが好ましく、400〜25000秒/100ccがより好ましい。ガーレー式透気度が30000秒/100ccを上回ると、脱酸素剤組成物(D)を包装して脱酸素剤包装体とした場合に、酸素吸収性能が低下するため好ましくなく、100秒/100cc未満では、過度の酸素吸収反応の進行のため、脱酸素剤包装体が発熱する虞があることや取り扱い時での酸素吸収能力の低下幅が大きく好ましくない。酸素透過度は各層を構成する樹脂や紙の種類のみならず、表面開孔(x)や裏面開孔(y)の孔径の他、開孔方法等により調整することができる。
【0026】
本発明の脱酸素剤包装材料の厚みは、50〜300μmが好ましく、より好ましくは60〜250μmである。厚みが50μmを下回ると、強度が不十分となるため好ましくなく、300μmを上回るとコストや製袋性等の取り扱い性に問題が生じる。
【0027】
本発明の脱酸素剤包装材料は、ヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)側の面を内側に配し、脱酸素剤組成物(D)を包装することで、脱酸素剤包装体とすることもできる。脱酸素剤組成物(D)の種類には特に制限がなく、公知のものを使用することが出来る。脱酸素剤組成物(D)の主剤としては、鉄などの金属、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、及びその塩類、グリセリン、エチレングリコール、ソルビトール、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、亜二チオン酸塩、没食子酸、ヒドロキノン、カテコール、レゾルシン、ピロガロール、ロンガリット、ソルボース、グルコース、リグニン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール等が例示される。
【0028】
鉄を主剤とする脱酸素剤組成物(D)においては、還元鉄粉、電解鉄粉、噴霧鉄粉等の各種鉄粉を使用することが好ましく、脱酸素剤組成物(D)の酸素吸収性能を向上させるために、鉄粉の他、鉄粉の酸化反応を促進する金属ハロゲン化物を配合することがより好ましい。殊に金属ハロゲン化物で表面を被覆した鉄粉が好適に用いられる。またさらに、鉄粉の酸化反応の進行に必須となる水を供与する保水剤を含有させても良い。保水剤とは水を蒸散する機能を有する剤であり、水または水を含有する調湿液を粒状物質に含浸させたものが好ましく用いられる。粒状物質としては、例えば、珪藻土、パーライト、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、活性炭、砂、石、その他のものが挙げられる。また、調湿液には、水の他に無機化合物、特に、無機塩類を溶解させた水溶液が好適に用いられる。
【0029】
本発明の脱酸素剤包装材料によって脱酸素剤組成物(D)を包装する方法には、ヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)の面を内側に配すれば特に限定されず、その方法として例えば3方シール包装、4方シール包装、スティック包装等が例示できる。
【0030】
本発明の脱酸素剤包装材料は、脱酸素剤組成物(D)の包装のみならず、その他の雰囲気調整剤、例えば乾燥剤、炭酸ガス吸収剤、炭酸ガス発生剤、エチレン吸収剤、エチレン発生剤、防錆剤等の包装にも好適に使用することが出来る。
【実施例】
【0031】
以下に本発明の実施例を示し、さらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
(実施例1)
裏面に印刷を施したバイオマス由来PETフィルム(厚み:12μm)とバイオマス由来ポリエチレンフィルム(厚み:15μm)をラミネートしたラミネートフィルム1に冷針開孔を施し(孔径:0.5mm、開孔ピッチ:縦3mm、横3mm)、得られた開孔フィルム1を、耐油剤を洋紙に含ませてなる耐油紙1の片方の面に積層した。続いて、バイオマス由来直鎖状低密度ポリエチレンフィルムに熱針開孔を施した開孔フィルム2(厚み:40μm)を耐油紙の他方の面に積層し、脱酸素剤用包装材料1(総厚み:120〜130μm)を得た。脱酸素剤用包装材料1の直鎖状低密度ポリエチレン側の面を内側として、寸法40mm×70mmのサイズを折り返してなる寸法40mm×35mmの空袋に鉄を主剤とする脱酸素剤0.8gとゼオライトに塩水を含ませた水分供与剤0.9gを充填し、3方シール包装により脱酸素剤包装体1を得た。脱酸素剤包装体1をガスバリア性包装体内に装填し、空気150ccを封入し、密封した後、25℃下、100%RH(相対湿度)雰囲気下に保存し、酸素濃度が0.1容量%となるまでに要した時間(以下、脱酸素時間と表記する)を測定した。その結果、保存時の脱酸素時間は6時間であり、上記保存条件で1カ月保存後も脱酸素剤用包装材料の外観変化はなかった。
【0033】
(比較例1)
脱酸素剤用包装材料1よりバイオマス由来PETフィルムをポリ乳酸フィルムに変更し、脱酸素剤用包装材料2(総厚み:120〜130μm)を得た。脱酸素剤用包装材料2を使用した以外は実施例1と同様にして脱酸素剤包装体2を得た。以下、実施例1と同様にして保存試験を行い、脱酸素時間を測定した。その結果、保存時の脱酸素時間は6時間であったが、上記保存条件で1カ月保存後、ポリ乳酸の加水分解が起こり、包装材料に施した開孔が変形する等の外観異常が確認された。
【0034】
(参考例1)
脱酸素剤用包装材料1よりバイオマス由来のフィルムを化石燃料由来のフィルムに変更し、脱酸素剤用包装材料3(総厚み:120〜130μm)を得た。脱酸素剤用包装材料3を使用した以外は実施例1と同様にして脱酸素剤包装体3を得た。以下、実施例1と同様にして保存試験を行い、脱酸素時間を測定した。その結果、保存時の脱酸素時間は6時間であり、上記保存条件で1カ月保存後も脱酸素剤用包装材料の外観変化はなかった。
【0035】
バイオマス由来PETフィルムを用いた実施例1では、化石燃料由来のフィルムを用いた参考例1と同等の良好な結果が得られた。一方、ポリ乳酸フィルムを用いた比較例1では、包装材料に施した開孔が変形する等の外観異常が確認された。
【符号の説明】
【0036】
(A):表面開孔(x)を施した熱可塑性樹脂層
(A−1):保護層
(A−2):ヒートシール性熱可塑性樹脂層
(B):紙層
(C):裏面開孔(y)を施したヒートシール性熱可塑性樹脂層
(D):脱酸素剤組成物
(x):表面開孔
(y):裏面開孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)、紙層(B)、バイオマス由来のヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)の少なくとも3層を積層して成る脱酸素剤包装材料。
【請求項2】
前記バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(A)が、ポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレンアクリル酸共重合体、エチレンメタクリル酸共重合体、アイオノマー樹脂、ポリブタジエン及びポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも一の樹脂で構成される、請求項1に記載の脱酸素剤包装材料。
【請求項3】
前記バイオマス由来の熱可塑性樹脂層(C)が、ポリエチレン系樹脂、ポリエチレン酢酸ビニル共重合体及びポリ塩化ビニルからなる群から選択される少なくとも一の樹脂で構成される、請求項1又は2に記載の脱酸素剤包装材料。
【請求項4】
前記(A)〜(C)層の層間が、溶剤系接着剤またはポリエチレンによって貼り合わせてある事を特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の脱酸素剤包装材料。
【請求項5】
前記ポリエチレンがバイオマス由来である、請求項4に記載の脱酸素剤包装材料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れかに記載の脱酸素剤包装材料を用い、ヒートシール性熱可塑性樹脂層(C)側の面を内側に配して脱酸素剤組成物(D)を包装してなる脱酸素剤包装体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−218411(P2012−218411A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89689(P2011−89689)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】