説明

脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法

【課題】粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法において、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させ、それにより付着液に随伴するニッケル損失を低減させることができる脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法を提供する
【解決手段】前記脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法であって、前記脱鉄殿物にレパルプ水を加えてスラリーを形成し、該スラリーを60〜100℃に加温し、硫酸を添加して浸出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法に関し、さらに詳しくは、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法において、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させ、それにより付着液に随伴するニッケル損失を低減させることができる脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ニッケルマット等のニッケル原料を浸出して得られる粗硫酸ニッケル水溶液は、有価金属としてニッケル、場合によりニッケルとともにコバルトを含有しており、ニッケル又はコバルトの金属、化合物等を製造する原料として用いられている。ところが、通常のニッケル精錬工程から得られる粗硫酸ニッケル水溶液には、製品品質に影響を及ぼす、鉄、アルミニウム、銅、クロム、亜鉛、ヒ素、リン等の不純物元素が含有されている。したがって、これらの不純物元素を除去し、精製された硫酸ニッケル水溶液あるいは含コバルト硫酸ニッケル水溶液を得るために、粗硫酸ニッケル水溶液の精製が行なわれている。
【0003】
例えば、粗硫酸ニッケル水溶液の精製プロセスの一例として、図1に示される処理工程が用いられている。
図1において、粗硫酸ニッケル水溶液4は、脱鉄工程1と溶媒抽出工程2により精製され、精製された硫酸ニッケル水溶液12が得られる。ここで、溶媒抽出工程2の前段に脱鉄工程1を設けることにより、粗硫酸ニッケル水溶液4中に含まれる鉄ならびにその他の不純物元素の大部分を除去している。すなわち、粗硫酸ニッケル水溶液中に含有される不純物元素の中で、特に、鉄については、溶媒抽出において有機溶媒中に分配するとクラッドの発生の原因となる問題があるほか、逆抽出の効率が非常に悪いので逆抽出液として多量の強硫酸を必要とするという問題がある。さらに、粗硫酸ニッケル水溶液中に含まれるその他の不純物元素についても、溶媒抽出のみでは除去することが難しいからである。
【0004】
この脱鉄工程1では、粗硫酸ニッケル水溶液4に含まれるFe2+を空気5を吹込みつつFe3+に酸化した後、pH調整剤として消石灰6を添加して中和反応によってFe(OH)を生成させて脱鉄殿物8として除去している(例えば、特許文献1、2参照。)。ここで、その他の不純物についても、同時に、中和反応によって水酸化物あるいはカルシウム化合物として除去される。
【0005】
この工程で得られた脱鉄液7は、必要に応じて、溶媒抽出工程2でさらに精製される。また、脱鉄殿物8は、ニッケル回収工程3において硫酸9で浸出される。ここでは、脱鉄殿物8に含まれる不純物元素を液側に溶出させることなく一部共沈殿されたニッケル水酸化物を浸出させて、回収硫酸ニッケル水溶液10として回収する。また、得られたニッケル回収後殿物11は、他部署へ不純物元素含有物として払い出されている。このニッケル回収後殿物11中のニッケル含有量が多いと、ニッケル損失の増加に直結する。ここで、スラリーのろ過性が非常に悪い場合には、ろ過操作でのコストの増加と、ニッケル回収工程3において付着液によるニッケルの随伴によるニッケル損失の増加の原因となるという問題があった。
【0006】
以上の状況から、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させることができるニッケルの浸出方法が求められている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−95660号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2002−69539号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる、水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法において、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させ、それにより付着液に随伴するニッケル損失を低減させることができる脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる、水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法について、鋭意研究を重ねた結果、脱鉄殿物にレパルプ水を加えて得られたスラリーを特定の温度に加温し、これに硫酸を添加して浸出したところ、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性の向上が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法であって、
前記脱鉄殿物にレパルプ水を加えてスラリーを形成した後、該スラリーを60〜100℃に加温し、硫酸を添加して浸出することを特徴とする脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記スラリーの温度は、70〜100℃であることを特徴とする脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記レパルプ水は、硫酸ニッケル水溶液からなり、そのニッケルとコバルトの合計濃度は、20g/L以下であることを特徴とする脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、硫酸の添加量は、脱鉄殿物中に含まれるニッケルを硫酸で溶解する化学反応の当量の0.5〜0.6倍量であることを特徴とする脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記pHは、3.0〜4.5に調整されることを特徴とする脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法は、第1の発明において、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して得られる水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法において、スラリーの温度を所定の温度範囲に調整することにより、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させることができるので、その工業的価値は極めて大きい。
【0016】
また、第2又は3の発明では、より効率的に浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させることができるので、より有利である。
【0017】
また、第4又は5の発明では、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を大きく向上させることができるとともに、殿物中の不純物元素が液側に溶出しないpH範囲で殿物中のニッケル含有量を低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法は、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる、水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法であって、前記脱鉄殿物にレパルプ水を加えてスラリーを形成し、該スラリーを60〜100℃に加温し、硫酸を添加して浸出することを特徴とする。
【0019】
本発明において、脱鉄殿物にレパルプ水を加えて形成したスラリーに硫酸を添加して浸出する際に、スラリーの温度を60〜100℃、好ましくは70〜100℃に加温することが重要である。これによって、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性を向上させることができる。
【0020】
この作用について、図を用いて詳細に説明する。図2は、スラリーの温度(レパルプ温度)とろ過速度の関係を表す。なお、ここで、脱鉄殿物をニッケルとコバルトの合計濃度が40g/Lの硫酸ニッケル水溶液でレパルプして得られたスラリーを所定温度に加温した状態で、添加量が脱鉄殿物中に含まれるニッケルを硫酸で溶解する化学反応の当量の0.5倍量(pH4.0)になるように硫酸を添加し、その後、30分間保持した。
図2より、レパルプ温度を従来条件の55℃から70℃、90℃と上昇させると、浸出後のスラリーのろ過速度はそれぞれ3倍以上、5倍以上に向上することが分かる。同時に、浸出後の殿物の平均粒径(測定方法:マイクロトラック)も大きくなることが分かる。
【0021】
すなわち、温度が60℃未満では、ろ過性の向上が不充分である。この作用は、高温での硫酸浸出にともない脱鉄殿物に含まれる水酸化鉄(Fe(OH))の一部が酸化鉄(α−Fe)の形態へと移行し、その粒子径が大きくなり、そのためスラリーの粒径が粗くなりろ過性が向上したものと見られる。したがって、高温程、ろ過性は向上するが、100℃を超えると、加圧反応容器が必要になるので設備コストが上昇する。
これに対して、従来の条件では、スラリーの温度は30〜55℃に調整されていたので、水酸化鉄の酸化鉄への形態変化はほとんど起こらない。
【0022】
本発明に用いる脱鉄殿物としては、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる、水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物である。この脱鉄殿物は、通常のニッケル精錬工程から得られる粗硫酸ニッケル水溶液を精製する際に脱鉄工程において生成される。脱鉄工程では、例えば、粗硫酸ニッケル水溶液に含まれ製品品質に影響を及ぼす、鉄、アルミニウム、銅、クロム、亜鉛、ヒ素、リン等の不純物元素が除去され、精製された硫酸ニッケル水溶液あるいは含コバルト硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【0023】
上記脱鉄殿物の組成としては、特に限定されるものではなく、pH調整剤の種類等により異なるが、粗硫酸ニッケル水溶液中に空気を吹込みながらpH調整剤として最も一般的に使用される消石灰を用いたときには、下記の式(1)、(2)により生成される水酸化鉄(Fe(OH))、石膏(CaSO)、及び水酸化ニッケル(Ni(OH))が主成分として含まれる。
【0024】
FeSO+1/2HSO+1/4O+3/2Ca(OH)→Fe(OH)+3/2CaSO ・・・(1)
【0025】
ここで、鉄の除去は、硫酸ニッケル水溶液中のFe2+をFe3+に酸化した後、消石灰でpHを上昇させ、中和してFe(OH)澱物を生成させることにより行なわれる。通常、中和反応はpHを5.5まで上昇させて行なわれる。このとき、石膏が副生されるとともに、鉄以外のその他の不純物元素も、水酸化物又はカルシウム化合物として除去される。
【0026】
NiSO4+Ca(OH)→Ni(OH)+CaSO ・・・(2)
【0027】
ここで、ニッケル水酸化物の生成反応は、本来は高pH範囲で行なわれるが、添加された消石灰粒子により形成された高pH領域では該反応が生じるので、ニッケルの一部が殿物中に共沈殿される。
【0028】
さらに、粗硫酸ニッケル水溶液中に遊離の硫酸が存在する場合には、下記の式(3)で表される遊離の硫酸の中和反応により大量の石膏が生成される。
【0029】
SO+Ca(OH)→CaSO+2HO ・・・(3)
【0030】
本発明に用いるレパルプ水としては、特に限定されるものではなく、新規の工業用水を用いることができるが、この場合には、粗硫酸ニッケル水溶液の精製工程を含むプロセス内の使用水量が増加し、プロセス全体の水バランスが困難になるので、ニッケルとコバルトを含む工程水、例えば、含ニッケル原料の硫酸浸出工程からの硫酸ニッケル水溶液を用いることが望ましい。
【0031】
ところで、脱鉄殿物のろ過において、使用するレパルプ水の液組成がろ過性に影響することが示された。ここで、レパルプ水は、硫酸ニッケル水溶液であり、そのニッケルとコバルトの合計濃度としては、特に限定されるものではないが、20g/L以下であることが好ましい。すなわち、レパルプ水のニッケルとコバルトの合計濃度が20g/Lを超えると、浸出後の脱鉄殿物スラリーのろ過性が低下することが示された。なお、従来の条件では、ニッケル回収工程におけるレパルプ水はニッケルとコバルトの合計濃度が40〜60g/Lで、銅、マグネシウム、カルシウムといった不純物元素も含有された硫酸ニッケル水溶液を用いていた。
【0032】
本発明に用いる硫酸の添加量としては、特に限定されるものではなく、スラリーのpHが好ましくは3.0〜4.5、より好ましくは3.5〜4.0になるように調整される。すなわち、pHが3.0未満では、脱鉄殿物に含まれる鉄以外の不純物元素の溶解が起こる。一方、pHが4.5を超えると、ニッケルの浸出率が低下し、浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量が上昇する。また、pHを4.0以下にまで低下させることにより、浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量をより低下させることができる。なお、pHが3.5〜4.0のときの硫酸添加量は、脱鉄殿物中に含まれるニッケルを硫酸で溶解する化学反応の当量の0.6〜0.5倍量に対応する。
【0033】
この浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量へのスラリーのpHの影響について図を用いて詳細に説明する。図3は、スラリーのpHと浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量の関係を表す。なお、ここで、脱鉄殿物をニッケルとコバルトの合計濃度が20g/Lの硫酸ニッケル水溶液でレパルプして得られたスラリーを温度60℃に加温した後、硫酸の添加量を変えてスラリーのpHを変化させた。
図3より、pHを4.0以下にまで低下させることにより、浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量を10重量%以下に低下させることができることが分かる。なお、本発明ではpHが4.0以下においても、ろ過性の悪化を防止することができる。ところが、従来の条件では、ろ過性の悪化によりpHを低下させることが困難であるため、pH4.3程度が用いられていた。このため、殿物中のニッケル含有量は、ろ過性の悪化による付着水にともなうニッケル損失の増加とともに、低いニッケル浸出率によりさらに増加した。
【0034】
本発明に用いるスラリー濃度としては、特に限定されるものではなく、浸出後の脱鉄殿物を固液分離するろ過装置の性能にもよるが、100〜300g/Lが好ましい。
【0035】
本発明の方法として、前記スラリーを加温し、硫酸を添加して浸出する方法として、スラリーを加温しながら硫酸を添加して浸出する方法のほか、スラリーを加温する第1の工程とスラリーに硫酸を添加しpHを調整して浸出する第2の工程とに分割して行なうことができる。これによって、pHが4.0以下において浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量を10重量%以下に低下することができる。
【実施例】
【0036】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析、及びろ過速度の評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:ICP発光分析法で行った。
(2)ろ過速度の測定:スラリー200mLを吸引ろ過し所要時間を求め、そのときのろ過面積及び時間あたりのスラリー容量(mL/(sec.m))で表した。
【0037】
(実施例1)
まず、脱鉄殿物(組成:鉄品位4重量%、ニッケル品位12重量%)200gをガラス製ビーカーに入れ、その中にニッケルとコバルトの合計濃度が40g/Lの硫酸ニッケル水溶液800mLを加えてレパルプしスラリーを得た。次いで、スラリーを70℃に加温しながら、添加量が脱鉄殿物中に含まれるニッケルを硫酸で溶解する化学反応の当量の0.5倍量(pH4.0)になるように硫酸を添加し、その後、30分間保持した。その後、ろ過速度を求めた。結果を表1に示す。
【0038】
(実施例2)
スラリーを90℃に加温した以外は実施例1と同様に行ない、その後、ろ過速度を求めた。結果を表1に示す。
【0039】
(比較例1)
スラリーを55℃に加温した以外は実施例1と同様に行ない、その後、ろ過速度を求めた。結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、実施例1又は2では、スラリーの温度が60℃以上で本発明の方法に従って行われたので、高いろ過速度が得られることが分かる。これに対して、比較例1では、スラリーの温度がこれらの条件に合わないので、ろ過速度において満足すべき結果が得られないことが分かる。
【0042】
(実施例3)
まず、脱鉄殿物(組成:鉄品位4重量%、ニッケル品位12重量%)150kgを2mのニッケル回収槽に入れ、その中にニッケルとコバルトの合計濃度が20g/Lの硫酸ニッケル水溶液800Lを加えてレパルプしスラリーを得た。次いで、スラリーを60℃に加温した後、添加量が脱鉄殿物中に含まれるニッケルを硫酸で溶解する化学反応の当量の0.5倍量(pH4.0)になるように硫酸を添加し、その後、30分間保持した。その後、ろ過速度を求めた。結果を表2に示す。
【0043】
(実施例4)
スラリーを70℃に加温した以外は実施例3と同様に行ない、その後、ろ過速度を求めた。結果を表2に示す。
【0044】
(比較例2)
スラリーを30℃に加温した以外は実施例3と同様に行ない、その後、ろ過速度を求めた。結果を表2に示す。
【0045】
(比較例3)
スラリーを35℃に加温した以外は実施例3と同様に行ない、その後、ろ過速度を求めた。結果を表2に示す。
【0046】
(比較例4)
スラリーを45℃に加温した以外は実施例3と同様に行ない、その後、ろ過速度を求めた。結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2より、実施例3又は4では、スラリーの温度が60℃以上で本発明の方法に従って行われたので、高いろ過速度が得られることが分かる。これに対して、比較例2〜4では、スラリーの温度がこれらの条件に合わないので、ろ過速度において満足すべき結果が得られないことが分かる。また、実施例4では、レパルプ液のニッケルとコバルトの合計濃度が20g/L以下であるので、レパルプ液のニッケルとコバルトの合計濃度が40g/Lである場合(例えば、実施例1)と比べて、より高いろ過速度が得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上より明らかなように、本発明の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法は、粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる水酸化鉄を主成分とする脱鉄殿物から、ニッケルを効率的に回収する方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】粗硫酸ニッケル水溶液の精製プロセスの一例を表す工程図である。
【図2】スラリーの温度(レパルプ温度)とろ過速度の関係を表す図である。
【図3】スラリーのpHと浸出後の脱鉄殿物中のニッケル含有量との関係を表す図である。
【符号の説明】
【0051】
1 脱鉄工程
2 溶媒抽出工程
3 ニッケル回収工程
4 粗硫酸ニッケル水溶液
5 空気
6 消石灰
7 脱鉄液
8 脱鉄殿物
9 硫酸
10 回収硫酸ニッケル水溶液
11 ニッケル回収後殿物
12 精製された硫酸ニッケル水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹込みながら、pHを調整して不純物元素を殿物として除去する際に得られる脱鉄殿物から、硫酸を用いて該脱鉄殿物中に含まれるニッケルを浸出する方法であって、
前記脱鉄殿物にレパルプ水を加えてスラリーを形成した後、該スラリーを60〜100℃に加温し、硫酸を添加して浸出することを特徴とする脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法。
【請求項2】
前記スラリーの温度は、70〜100℃であることを特徴とする請求項1に記載の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法。
【請求項3】
前記レパルプ水は、硫酸ニッケル水溶液からなり、そのニッケルとコバルトの合計濃度が20g/L以下であることを特徴とする請求項1に記載の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法。
【請求項4】
硫酸の添加量は、脱鉄殿物中に含まれるニッケルを硫酸で溶解する化学反応の当量の0.5〜0.6倍量であることを特徴とする請求項1に記載の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法。
【請求項5】
前記pHは、3.0〜4.5に調整されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の脱鉄殿物からのニッケルの浸出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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