説明

脱離有機物分析方法および脱離有機物分析装置

【課題】高真空下で昇温された試料から脱離する脱離有機物でも高精度で分析でき、その同定、定量も可能な脱離有機物分析方法および脱離有機物分析装置の提供を目的とする。
【解決手段】試料を設置する試料室10と、試料室10内を減圧する減圧手段12と、試料室10内の前記試料を加熱する加熱手段14と、試料室10にキャリアガスを導入するガス導入手段16と、前記試料から脱離した脱離有機物を分析する分析手段18とを備え、試料室10と分析手段18が試料供給配管32で接続されている脱離有機物分析装置100。また、減圧した試料室10内で試料を昇温して脱離有機物を脱離させる工程と、試料室10内にキャリアガスを導入して前記脱離有機物をキャリアガスに含ませる工程と、前記脱離有機物を含むキャリアガスを分析手段18に供給する工程と、前記脱離有機物を分析する工程を有する脱離有機物分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱離有機物分析方法および脱離有機物分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの高機能化に伴い、半導体フィルム、電子フィルム、光学フィルム等は、機能性付与のための多層化が進んでおり、製造工程が複雑化している。積層方法としては、例えば、真空蒸着やスパッタリング等が挙げられる。これらの積層方法では、積層環境が高真空で高温となるため、フィルムから残溶剤や原料、フィルムの分解物等の脱離有機物が多量に脱離する。該脱離有機物は、密着性や積層性を阻害し、結果としてデバイス性能の悪化や、経時劣化の要因となる。そのため、製造工程中の脱離有機物を低減する材料開発が進められている。
【0003】
一方、製造中にフィルム等から脱離する脱離有機物を分析する方法が知られている。
例えば、特許文献1および2には、真空室内に設置した試料を高真空状態で昇温することで気化して脱離した脱離有機物を、ターボ分子ポンプ等で吸引し、質量分析計で分析する方法が示されている。
【0004】
また、特許文献3および4には、キャリアガスを流通させながら試料を昇温させ、該試料から気化して脱離した脱離有機物を前記キャリアガスとともにガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)に供給して分析する方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−243536号公報
【特許文献2】特開2003−4679号公報
【特許文献3】特開平11−173962号公報
【特許文献4】特開2003−262576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2に記載されている方法は、未知の脱離有機物を同定し、定量することは困難である。
また、特許文献3および4に記載されている方法は、脱離有機物を発生させる環境を高真空条件にできないため、実際の製造工程における環境を反映した条件での高精度な分析が行えない。
【0007】
本発明は、高真空下で昇温された試料から脱離する脱離有機物でも高精度で分析でき、該脱離有機物の同定、定量も可能な脱離有機物分析方法および脱離有機物分析装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の脱離有機物分析方法は、下記の減圧脱離工程、キャリアガス導入工程、脱離有機物供給工程および分析工程を有する方法である。
減圧脱離工程:試料室内に設置した試料を、前記試料室内を減圧した状態で昇温し、前記試料から脱離有機物を脱離させる工程。
キャリアガス導入工程:前記減圧脱離工程後に、減圧された前記試料室内にキャリアガスを導入して前記脱離有機物をキャリアガスに含ませる工程。
脱離有機物供給工程:前記脱離有機物を含むキャリアガスを前記試料室から分析手段に供給する工程。
分析工程:前記分析手段で前記脱離有機物を分析する工程。
【0009】
前記減圧脱離工程は、1.0Pa以下の真空度まで前記試料室内を減圧することが好ましい。
また、前記分析手段は、ガスクロマトグラフ質量分析計であることが好ましい。
【0010】
本発明の脱離有機物分析装置は、試料を設置する試料室と、前記試料室内を減圧する減圧手段と、前記試料室内の前記試料を加熱して昇温させる加熱手段と、前記試料室にキャリアガスを導入するガス導入手段と、前記試料から脱離した脱離有機物を分析する分析手段と、を備え、前記試料室と前記分析手段が前記脱離有機物を供給する試料供給配管で接続されている。
前記分析手段は、ガスクロマトグラフ質量分析計であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脱離有機物分析方法によれば、高真空下で昇温された試料から脱離する脱離有機物でも高精度で分析でき、該脱離有機物の同定、定量も可能である。
また、本発明の脱離有機物分析装置を用いれば、高真空下で昇温された試料から脱離する脱離有機物でも高精度で分析でき、該脱離有機物の同定、定量も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の脱離有機物分析装置の一例を示した概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[脱離有機物分析装置]
本発明の脱離有機物分析装置は、試料を減圧状態で昇温した時に該試料から気化して脱離する脱離有機物を分析する装置である。以下、本発明の脱離有機物分析装置の一例を図1に基づいて説明する。
本実施形態の脱離有機物分析装置100(以下、単に「分析装置100」という。)は、図1に示すように、試料を設置する試料室10と、試料室10内を減圧する減圧手段12と、試料室10内の前記試料を加熱して昇温させる加熱手段14と、試料室10にキャリアガスを導入するガス導入手段16と、前記試料から脱離した脱離有機物を分析する分析手段18と、を備えている。
【0014】
試料室10と減圧手段12は、配管20および配管24によって接続されている。また、試料室10とガス導入手段16は、配管22および配管24によって接続されている。配管20と配管22は、それぞれの一端が減圧手段12とガス導入手段16に接続され、それぞれの他端が合流するように、配管24の一端と接続されている。
配管20には開閉バルブ26が設けられ、配管22には開閉バルブ28が設けられ、配管24には開閉バルブ30が設けられている。
また、試料室10と分析手段18は、試料供給配管32によって接続されている。試料供給配管32には、開閉バルブ34が設けられている。
【0015】
試料室10は、内部に試料を設置でき、かつ減圧手段12によって内部を減圧できるものであればよい。
試料室10の形状は特に限定されない。また、試料室10の大きさは、内部に試料を設置できる大きさであればよい。例えば、試料室10が円筒状の場合、試料室を減圧する効率、および試料を加熱する効率が高まることから、その内径は40mm以下が好ましく、20mm以下がより好ましい。
また、試料室10は、内部を所望の温度にするため、内部の温度を測定する熱電対が備えられていることが好ましい。
【0016】
減圧手段12としては、試料室10内の気体を吸引して減圧できるものであればよく、例えば、ダイヤフラムポンプ、油回転ポンプ、メカニカルブースターポンプ、エゼクタポンプ、ソープションポンプ等の減圧ポンプが挙げられる。特に高真空度が必要な場合は、前記減圧ポンプとあわせて、ターボ分子ポンプを使用することが好ましい。
【0017】
加熱手段14は、内部に試料室10が設けられており、試料室10内の試料を加熱できるようになっている。加熱手段14は、試料室10内の試料を加熱できるものであればよく、例えば、抵抗加熱炉、赤外線加熱炉、誘電加熱炉等が挙げられる。
【0018】
ガス導入手段16としては、試料室10内に所望の流量でキャリアガスを導入できるものであればよく、例えば、キャリアガスボンベ等が挙げられる。
【0019】
分析手段18としては、試料から脱離した脱離有機物を分析できるものであればよく、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC−MS)、ガスクロマトグラフ原子発光検出器(GC−AED)、ガスクロマトグラフ赤外分光計(GC−IR)等が挙げられる。なかでも、未知の脱離有機物の同定および定量が可能なことから、GC−MSが好ましい。
【0020】
分析装置100は、試料室10内に試料を設置し、開閉バルブ26および開閉バルブ30を開き、開閉バルブ28と開閉バルブ34を閉じた状態で減圧手段12を稼働することで、試料室10内の気体を吸引して減圧状態にすることができる。また、加熱手段14によって試料を加熱した後、開閉バルブ28および開閉バルブ30を開き、開閉バルブ26および開閉バルブ34を閉じた状態でガス導入手段16を稼働することで、試料室10にキャリアガスを導入することができる。さらに、開閉バルブ34を開いた状態でガス導入手段16によるキャリアガスの導入を継続することで、試料供給配管32を通じて試料室10内における脱離有機物を含むキャリアガスを分析手段18に供給することができる。
【0021】
[脱離有機物分析方法]
以下、本発明の脱離有機物分析方法の一例として、分析装置100を使用する方法について説明する。本実施形態の脱離有機物分析方法は、例えば、下記の減圧脱離工程、キャリアガス導入工程、脱離有機物供給工程および分析工程を有する方法が挙げられる。
減圧脱離工程:試料室10内に設置した試料を、試料室10内を減圧した状態で昇温し、前記試料から脱離有機物を脱離させる工程。
キャリアガス導入工程:前記減圧脱離工程後に、減圧された試料室10内にキャリアガスを導入して前記脱離有機物をキャリアガスに含ませる工程。
脱離有機物供給工程:前記脱離有機物を含むキャリアガスを試料室10から分析手段18に供給する工程。
分析工程:分析手段18で前記脱離有機物を分析する工程。
【0022】
(減圧脱離工程)
試料室10内に試料を設置し、開閉バルブ26および開閉バルブ30を開き、開閉バルブ28と開閉バルブ34を閉じた状態で減圧手段12によって試料室10内の気体を吸引することで、試料室10内を所望の減圧状態とし、開閉バルブ26および開閉バルブ30を閉じてから加熱手段14によって試料室10内の試料を昇温する。減圧状態で昇温されることで試料から脱離有機物が気化して脱離する。
【0023】
使用する試料の形態は、試料室10内に設置できる形態であればよく、例えば、薄膜フィルム、ガラス基板上にフィルムが積層された積層体、シリコンウエハ基板等が挙げられる。
これら試料から脱離する脱離有機物としては、フィルム中に存在する低分子化合物(例えば、フィルムとなる高分子化合物を構成するモノマーの未反応物等。)、重合時に使用してフィルム内に残存した重合開始剤、有機溶媒、減圧状態における加熱によって生じたフィルムの分解物等が挙げられる。
【0024】
試料の大きさは、試料室10内に設置できる大きさであればよく、0.1mm角〜15mm角が好ましく、0.5mm角〜10mm角がより好ましい。試料の厚さは、0.1μm〜5mmが好ましく、0.5μm〜3mmがより好ましく、1μm〜1mmがさらに好ましい。試料の大きさおよび厚さが下限値以上であれば、試料の取り扱い性に優れ、脱離有機物の発生量が十分で、脱離有機物を精度良く分析することが容易になる。試料の大きさおよび厚さが上限値以下であれば、脱離有機物の発生量が多くなりすぎて分析手段が故障することを抑制しつつ、脱離有機物を精度良く分析することが容易になる。
【0025】
減圧脱離工程における減圧状態とは、大気圧である1.0×10Paより低い圧力の状態を意味する。
減圧脱離工程における真空度は、試料とする物品の実際の製造工程に則した条件にすればよい。例えば、試料とする物品の実際の製造工程において、真空蒸着やスパッタリング等の薄膜形成が実施される場合、実際の製造工程における環境で発生する脱離有機物の分析がより高精度に行えることから、真空度は、1.0Pa以下が好ましく、0.7Pa以下がより好ましく、0.05Pa以下がさらに好ましく、0.01Pa以下が特に好ましい。
【0026】
試料の昇温速度および処理温度(最高温度)等の条件についても、試料とする物品の実際の製造工程に則した条件にすればよい。
例えば、赤外線加熱炉を用いた場合、試料の昇温速度は1〜50℃/秒が好ましく、3〜30℃/秒がより好ましい。
処理温度は、試料とする物品の実際の製造工程において、真空蒸着やスパッタリング等の薄膜形成が実施される場合、実際の製造工程における環境で発生する脱離有機物の分析がより高精度に行えることから、100〜400℃が好ましく、150〜350℃がより好ましい。
【0027】
(キャリアガス導入工程)
減圧脱離工程の後、開閉バルブ26および開閉バルブ34を閉じ、開閉バルブ28および開閉バルブ30を開いた状態で、ガス導入手段16によって試料室10内にキャリアガスを導入することで、減圧脱離工程で脱離した脱離有機物をキャリアガスに含ませる。キャリアガス導入工程では、キャリアガスの導入を試料室10内が大気圧となるまで行うことが好ましい。これにより、発生した脱離有機物を、試料供給配管32を通じて分析手段18へ導入する準備が整う。なお、キャリアガス導入後の試料室10内の圧力は、大気圧よりも低くなっていてもよい。
キャリアガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等の不活性ガスが挙げられる。キャリアガスの流量・流速は、使用する分析装置に応じて、適宜設定すればよい。
【0028】
前述したように、特許文献1、2の分析方法では、減圧状態で昇温した試料から脱離した脱離有機物を分析するため、減圧手段によって減圧を行いつつ、脱離した脱離有機物を吸引して分析を実施していた。そのため、キャリアガスを必要とするGC−MS等の分析機器による分析に適しておらず、脱離有機物の同定、定量が困難であった。また、特許文献3、4の分析方法では、キャリアガスを使用しているが、脱離有機物を脱離させる条件が減圧条件でないため、試料とする物品の実際の製造工程を反映した条件での脱離有機物の分析が行えなかった。
これに対し、本発明の脱離有機物分析方法は、減圧脱離工程において減圧状態で試料を昇温して脱離有機物を脱離させた後、キャリアガス導入工程で試料室内にキャリアガスを導入して前記脱離有機物をキャリアガスに含ませ、後述する工程で脱離有機物を含むキャリアガスを分析手段に供給して分析することを特徴とする。これにより、試料とする物品の実際の製造工程における、減圧状態で加熱する環境を反映した条件で脱離した脱離有機物を捕集できるので、該脱離有機物を高精度で分析することができ、またGC−MS等によって該脱離有機物を同定、定量することも可能となる。
【0029】
(脱離有機物供給工程)
試料室10内の脱離有機物を含むキャリアガスを分析手段18に供給する。試料室10内の脱離有機物を分析手段18に供給する方法は、脱離有機物を充分に分析手段18に供給できる方法であればよい。この例では、開閉バルブ26を閉じ、開閉バルブ28,30,34を開いた状態として、試料室10内の脱離有機物を分析手段18に供給できる流量でガス導入手段16からキャリアガスを送ることで、試料室10内における脱離有機物を含むキャリアガスを分析手段18へと供給することができる。
また、開閉バルブ26および開閉バルブ34を閉じ、開閉バルブ28および開閉バルブ30を開いた状態で、前記キャリアガス導入工程で試料室10内が大気圧を超える加圧状態となるまでキャリアガスの導入を実施して開閉バルブ30を閉じた後、開閉バルブ34を開くことで、試料室10内で加圧状態とされた脱離有機物を含むキャリアガスが分析手段18に供給されるようにしてもよい。
【0030】
脱離有機物供給工程では、試料供給配管32の温度を、前記減圧脱離工程における試料室10内の試料の処理温度(最高温度)と同じ温度にすることが好ましい。これにより、試料室10から分析手段18に脱離有機物が供給される際に、試料供給配管32の内壁面に脱離有機物が吸着することを抑制しやすくなり、分析精度が向上する。
【0031】
(分析工程)
試料室10から試料供給配管32を通じて供給された脱離有機物を分析手段18によって分析する。
分析手段18による分析は使用する機器に応じて条件を適宜設定して行えばよい。本発明の脱離有機物分析方法では、未知の脱離有機物の同定および定量が可能となることから、分析手段18としてGC−MSを使用して分析を行うことが好ましい。
【0032】
以上説明した本発明の脱離有機物分析装置および脱離有機物分析方法にあっては、試料とする物品の実際の製造工程での環境を反映した条件で試料から脱離する脱離有機物を捕集できるので、高真空下で昇温された試料から脱離する脱離有機物でも高精度な分析が可能である。また、キャリアガスを必要とするGC−MS等の分析にも適しているため、実際の製造工程での環境を反映した条件で試料から脱離する脱離有機物の同定および定量も可能である。
【0033】
なお、本発明は前述した形態には限定されない。例えば、本発明の脱離有機物分析方法は、試料供給配管32の途中に脱離有機物を捕集する捕集手段を設けた脱離有機物分析装置を用いる方法であってもよい。具体的には、例えば、前記脱離有機物供給工程で説明した方法と同様にして試料室10から脱離有機物を分析手段18の方へと送り、冷却した状態の捕集手段で該脱離有機物を一旦固化して捕集した後、捕集手段の冷却を停止して再加熱することにより、一旦捕集した脱離有機物を再び気化して分析手段18へ供給するようにしてもよい。このような捕集手段の使用は、例えば、1回の減圧脱離では分析に充分な量の脱離有機物が得られず、複数回分の脱離有機物を捕集し、分析する際に有効である。
捕集手段としては、例えば、液体窒素等の入ったデュワー瓶や、冷媒循環型冷却装置によって捕集管を冷却したコールドトラップ等が挙げられる。
【0034】
また、本発明の脱離有機物分析方法は、前記キャリアガス導入工程と脱離有機物供給工程とを同時に行ってもよい。例えば、分析装置100を使用する場合に、減圧脱離工程後に、開閉バルブ28,30,34を開いた状態でガス導入手段16からキャリアガスを送り、試料室10内にキャリアガスを導入して前記脱離有機物をキャリアガスに含ませると同時に、試料室10から分析手段18に脱離有機物を含むキャリアガスを供給するようにしてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は、「質量部」を表すものとする。
【0036】
(試料の作製)
フルオレンジアクリレート/メチルエチルケトン=50/50(質量比)の混合物(商品名「EA−0280M」、大阪ガスケミカル(株)製)を40部、ジルコニア/メチルエチルケトン=30/70(重量比)の混合物(商品名「OZ−S30K」、日産化学(株)製)を60部、およびベンゾイルエチルエーテル(商品名「セイクオールBEE」、精工化学(株)製)0.5部を混合した硬化性組成物をガラス基板にバーコーターで塗布し、溶媒乾燥、紫外線照射して厚さ5μmの薄膜フィルムを得た。得られた薄膜フィルムを大きさ3mm×5mmに裁断し、実施例・比較例における分析用の試料として用いた。
【0037】
[実施例1]
(減圧脱離工程)
分析装置100の試料室10(内径10.7mmの円筒状)内に、得られた薄膜フィルムの試料を設置し、開閉バルブ26および開閉バルブ30を開き、開閉バルブ28と開閉バルブ34を閉じた状態で、減圧手段12としてダイヤフラムポンプ(商品名「VPT−030」、アルバック機工(株)製)を用い、試料室10内の気体を吸引し、試料室10内を0.5Paとし、開閉バルブ26および開閉バルブ30を閉じてから赤外線加熱炉(装置名「赤外線ゴールドイメージ炉Ps412C特型」、アルバック理工(株)製)によって試料室10内の試料を300℃まで5℃/秒で昇温し、120分保持した。
【0038】
(キャリアガス導入工程)
減圧脱離工程の後、開閉バルブ26および開閉バルブ34を閉じ、開閉バルブ28および開閉バルブ30を開いた状態で、ヘリウムボンベから試料室10内にガスを導入することで、減圧脱離工程で脱離した脱離有機物をヘリウムガスに含ませた。
【0039】
(脱離有機物供給工程)
キャリアガス導入工程の後、開閉バルブ26を閉じ、開閉バルブ28,30,34を開いた状態とし、試料室10内の脱離有機物をGC−MSに供給できる流量(500ml/分)でヘリウムボンベからガスを送ることで、試料室10内における脱離有機物を含むヘリウムガスをGC−MSへと供給した。
【0040】
(分析工程)
脱離有機物供給工程の後、5%フェニル−メチルポリシロキサンのカラム(商品名「DB−5」、アジレント・テクノロジー(株)製)を具備したGC−MS(装置名「6890GC 5973MS」、アジレント・テクノロジー(株)製)により、ガスクロマトグラムおよびマススペクトルを得て、脱離有機物の成分の同定を行った。
得られたガスクロマトグラムおよびマススペクトルから、脱離有機物の成分がベンゾフラン(10.9分のピーク)、ビフェニル(17.2分のピーク)、9H−フルオレン−9オン(21.5分のピーク)であることを確認した。
【0041】
[実施例2]
減圧手段12としてダイヤフラムポンプ(商品名「VPT−030(DAU−20付)」、アルバック機工(株)製)とターボ分子ポンプを併用し、試料室10内の気体を吸引し、試料室10内を0.1Paとした以外は、実施例1と同様に行った。
得られたガスクロマトグラムおよびマススペクトルから、脱離有機物の成分がベンゾフラン(10.9分のピーク)、ビフェニル(17.2分のピーク)、9H−フルオレン−9オン(21.5分のピーク)であることを確認した。
【0042】
[比較例1]
本発明の分析装置100を用いず、ダブルショットパイロライザー(装置名「PY−2020D」、フロンティアラボ(株)製)を用い、ヘリウム気流下で得られた薄膜フィルムの試料を300℃まで2℃/秒で昇温し、30分保持する間に発生した脱離有機物を液体窒素でトラップした後、5%ジフェニルシリコンのカラム(商品名「Ultra ALLOY5」、フロンティアラボ(株)製)を具備したGC−MS(装置名「6890GC 5973MSD」、アジレント・テクノロジー(株)製)により、ガスクロマトグラムおよびマススペクトルを得て、脱離有機物の成分の同定を行った。
得られたガスクロマトグラムおよびマススペクトルから、脱離有機物の成分がベンゾフラン(11.2分のピーク)、9H−フルオレン−9オン(22.7分のピーク)であることを確認した。
【0043】
実施例1、2および比較例1で得られた分析結果を表1に示す。
なお、表中の○、△、×は、以下のようにGC−MSから測定された脱離有機物の成分の同定の度合いを表す。
○:十分検出され、かつ同定が可能
△:検出され、おおよその同定が可能
×:検出されず、同定は不可能
【0044】
【表1】

【0045】
表1から分かるように、実施例1、2の分析方法では、ベンゾフラン、ビフェニル、9H−フルオレン−9オンの3種の脱離有機物の成分が同定できた。
一方、比較例1の分析方法では、減圧することなく加熱のみで試料から脱離有機物を脱離させようとしたため、試料から脱離有機物が脱離されず、ベンゾフラン、9H−フルオレン−9オンの2種の脱離有機物の成分しか同定できず、その精度も充分ではなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の脱離有機物分析方法および脱離有機物分析装置は、高真空下で昇温された試料から脱離する脱離有機物でも高精度で分析できることから、ディスプレイ、バックライト、照明等を構成するフィルムやシート、シリコン等のウエハ、フォトマスク、その他各種有機部材等の脱離有機物の分析に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0047】
100 脱離有機物分析装置
10 試料室
12 減圧手段
14 加熱手段
16 ガス導入手段
18 分析手段
20,22,24 配管
26,28,30,34 開閉バルブ
32 試料供給配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の減圧脱離工程、キャリアガス導入工程、脱離有機物供給工程および分析工程を有する脱離有機物分析方法。
減圧脱離工程:試料室内に設置した試料を、前記試料室内を減圧した状態で昇温し、前記試料から脱離有機物を脱離させる工程。
キャリアガス導入工程:前記減圧脱離工程後に、減圧された前記試料室内にキャリアガスを導入して前記脱離有機物をキャリアガスに含ませる工程。
脱離有機物供給工程:前記脱離有機物を含むキャリアガスを前記試料室から分析手段に供給する工程。
分析工程:前記分析手段で前記脱離有機物を分析する工程。
【請求項2】
前記減圧脱離工程において、1.0Pa以下の真空度まで前記試料室内を減圧する、請求項1に記載の脱離有機物分析方法。
【請求項3】
前記分析手段がガスクロマトグラフ質量分析計である、請求項1または2に記載の脱離有機物分析方法。
【請求項4】
試料を設置する試料室と、前記試料室内を減圧する減圧手段と、前記試料室内の前記試料を加熱して昇温させる加熱手段と、前記試料室にキャリアガスを導入するガス導入手段と、前記試料から脱離した脱離有機物を分析する分析手段と、を備え、
前記試料室と前記分析手段が前記脱離有機物を供給する試料供給配管で接続されている脱離有機物分析装置。
【請求項5】
前記分析手段がガスクロマトグラフ質量分析計である、請求項4に記載の脱離有機物分析装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−101108(P2013−101108A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224886(P2012−224886)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】