脳におけるホスホジエステラーゼ活性およびホスホジエステラーゼ1B媒介シグナル伝達の調節

【課題】神経系におけるホスホジエステラーゼの調節に関連する疾患または障害の治療に使用可能な新規な組成物または薬物の開発に使用できる新規なスクリーニング方法を提供すること、および、少なくともある程度はホスホジエステラーゼによりモジュレートされる細胞内シグナル伝達経路の異常または調節障害による疾患または障害の治療剤を開発すること。
【解決手段】ドーパミンD1細胞内受容体を発現する細胞または組織におけるドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路の活性を増強するための医薬であって、PDE1Bと結合しまたはその発現を変化させ、その結果ドーパミンD1受容体の活性を増強するためにPDE1B媒介cAMP加水分解を低減する化合物を有効成分として含む、上記医薬により、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国立精神保健研究所から授与された補助金番号MH40899に基づく政府の支援によってなされたものである。アメリカ合衆国政府は、本発明において一定の権利を有するものである。
【0002】
本出願は、アメリカ合衆国特許法(35 U.S.C.)第119条(e)に基づいて、2001年8月31日付けで出願されたアメリカ合衆国仮特許出願第60/316,320号に基づく利権を主張するものであり、その仮特許出願は参照により全体が本明細書に組み入れられる。
【0003】
1. 技術分野
本発明は、限定するものではないがドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路においてホスホジエステラーゼ1B(PDE1B)の活性をモジュレートするための方法および組成物に関する。また、本発明は、PDE1Bのモジュレーションによって、限定するものではないがDARPP-32およびGluR1 AMPA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子の活性をモジュレートするための方法および組成物に関する。また、本発明は、PDE1B活性をモジュレートする化合物の医薬組成物および該化合物のスクリーニング方法に関する。また、本発明は、PDE1Bのモジュレーション物質、好ましくは限定するものではないがPDE1Bの阻害物質またはPDE1Bの産生を低下させる薬剤を投与することによる、限定するものではないがPDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の症状を治療する方法または改善方法に関する。
【背景技術】
【0004】
2. 発明の背景
環状ヌクレオチドとカルシウムは、脳幹神経節または線条体として知られる脳の領域におけるシグナル伝達経路の主要な二次的な伝達物質である。NMDA型グルタミン酸受容体を活性化し、かつ/またはドーパミンD2受容体を活性化すると、細胞内カルシウム濃度が増大して(Greengard, P.ら, 1999. Neuron 23:435-447;Kotter, R. 1994. Prog. Neurobiol. 44:163-196)、カルモジュリン依存性キナーゼII(CaMKII)やカルシニューリンなどのエフェクターの活性化が起こり、場合によってはカルシウムおよびカルモジュリン依存性ホスホジエステラーゼ(CaM-PDE)の活性化が起こることもある。ドーパミンD1またはD2受容体が活性化されると、それぞれ、アデニリルシクラーゼの活性化(およびcAMPの増大)または阻害(およびcAMPの低下)が起こる。細胞内cGMP濃度もまた、ドーパミンD1受容体の活性化の後では増大し、D2受容体の活性化の後では変化しないか抑制される。環状ヌクレオチドは、DARPP-32(ドーパミンおよびcAMPにより調節されるリン酸化タンパク質)およびcAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)などの下流のシグナル伝達経路エレメントをリン酸化するプロテインキナーゼA(PKA;cAMP依存性プロテインキナーゼ)および/またはプロテインキナーゼG(PKG;cGMP依存性プロテインキナーゼ)を活性化する。これらのシグナル伝達経路は、ホスホジエステラーゼ(PDE)により、環状ヌクレオチドがその5’-一リン酸へと加水分解されことによってダウンレギュレートされる。したがって、cAMPおよび/またはcGMPを加水分解するカルシウム調節型PDEは、脳幹神経節(線条体)におけるドーパミン調節型シグナル伝達経路と、限定するものではないが一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)およびエンドルフィン細胞内シグナル伝達経路などの他の細胞内シグナル伝達経路との間の仲介物質となる見込みがある。
【0005】
海馬媒介性の学習および記憶に関連する可塑性の主な形態である長期増強および長期抑圧もまた、PKA(Abel, T.ら, 1997. Cell 88:615-626;Skoulakis, E.M.C.ら, 1993. Neuron 11:197-208)、CaMKII(Bach, M.E.ら, 1995. Cell 81:905-915;Mayford, M.ら, 1995. Cell 81:891-904)、CREB(Bourtchuladze, R.ら, 1994. Cell 79:59-68;Guzowski, J.F.ら, 1997. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:2693-2698;Yin, J.C.P.ら, 1994. Cell 79:49-58)およびカルシニューリン(Mansuy, I.M.ら, 1998. Cell 92:39-49)の活性を含む環状ヌクレオチドおよびカルシウム/カルモジュリンシグナル伝達カスケードにより調節される。キイロショウジョウバエ(Drosophila)の突然変異体では、嗅覚条件付けパラダイムにおける学習障害に伴って細胞内cAMPレベルの変化またはcAMPシグナル伝達経路の変化が起こることが示されている(Qui, Y.およびR.L. Davis. 1993. Genes Dev. 7:1447-1458;Livingstone, M.S.ら, 1984. Cell 37:205-215;Skoulakis, E.M.C.ら, 1993. Neuron 11:197-208;Davis, R.L.ら, 1995. Mol. Cell. Biochem. 149/150:271-278)。cGMPの活性もまた、逆行性シグナル伝達である一酸化窒素経路を介して学習および記憶に関与している(Gally, J.A.ら, 1990. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:3547-3551;Garthwaite, J. 1991. Trends Neurosci. 14:60-67)。
【0006】
10種のPDEファミリーが同定されているが、カルモジュリン依存性ホスホジエステラーゼ(CaM-PDE)であるファミリーIだけが、カルシウムと環状ヌクレオチドとの間のシグナル伝達経路の可能性のある相互作用点として作用することが示されている。3つの既知のCaM-PDE遺伝子PDE1A、PDE1BおよびPDE1Cは全て、中枢神経系組織において発現される。PDE1Aは脳全体で発現され、海馬のCA1〜CA3層および小脳での発現レベルは高めであり、線条体でのレベルは低い(Borisy, F.F.ら, 1992. J. Neurosci. 12:915-923;Yan, C.ら, 1994. J. Neurosci. 14:973-984)。PDE1Bは主に、線条体、歯状回、嗅索および小脳において発現され、その発現は、ドーパミン作動性神経支配のレベルが高い脳の領域と相関関係がある(Furuyama, T.ら, 1994. Mol. Brain Res. 26:331-336;Polli, J.W.およびR.L. Kincaid. 1994. J. Neurosci. 14:1251-1261;Yan, C.ら, 1994. J. Neurosci. 14:973-984)。PDE1Cは主に、嗅上皮、小脳顆粒細胞および線条体において発現される(Yan, C.ら, 1995. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:9677-9681;Yan, C.ら, 1996. J. Biol. Chem. 271:25699-25706)。発現パターンは広く研究されているが、CaM-PDEの脳における生理学的役割は立証されていない。
【0007】
したがって、当業界では、神経系におけるホスホジエステラーゼの調節に関連する疾患または障害の治療に使用可能な新規な組成物または薬物の開発に使用できる新規なスクリーニング方法を提供することが必要とされている。さらに、少なくともある程度はホスホジエステラーゼによりモジュレートされる細胞内シグナル伝達経路の異常または調節障害による疾患または障害の治療剤を開発することが必要とされている。本発明は、そのような方法および組成物を提供する。
【0008】
本出願のセクション2または他のセクションにおけるいずれの参考文献の引用または照合も、そのような参考文献が本発明の先行技術として利用し得ることを認めるものであると見なされるべきではない。
【発明の概要】
【0009】
3. 発明の概要
本発明は、ホスホジエステラーゼ(PDE)活性、特にホスホジエステラーゼB1(PDE1B)活性が、脳の組織において、自発運動活性(locomotor activity)ならびに学習および記憶の調節物質として機能するという、本発明者らにとって驚くべき知見に基づく。本発明によれば、PDE1Bは、限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路、好ましくは神経系における調節の治療標的として利用し得る。好ましい実施形態において、PDE1Bは、例えばPDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療の治療標的として利用し得る。1つの特定の実施形態において、PDE1Bは、パーキンソン病の治療の治療標的として利用し得る。
【0010】
本発明は、細胞または組織におけるPDE1B活性のモジュレーション方法であって、その細胞または組織を、ドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートするのに十分な量の化合物と接触させることを含み、その細胞または組織とその化合物と接触によりPDE1B活性がモジュレートされる上記方法を提供する。特定の実施形態において、その化合物はPDE1Bと結合する。他の実施形態において、その化合物はPDE1Bの発現を変化させる。他の実施形態において、DARPP-32のホスホ-Thr34(以後、「ホスホ-Thr34」と呼ぶ)またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845(以後、「ホスホ-Ser845」と呼ぶ)のリン酸化がモジュレートされる。
【0011】
また、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害を治療する方法であって、その患者に、PDE1B活性を変化させる薬剤を投与することを含み、PDE1B活性がDARPP-32および/またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化をモジュレートする上記方法を提供する。
【0012】
本発明は、個体(例えば患者)または動物の被験体における、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を治療する方法であって、有効量の本発明の化合物を投与してPDE1B活性をモジュレートすることを含む上記方法を提供する。1つの実施形態において、その薬剤はPDE1B活性を促進または増大させる。別の実施形態において、その薬剤はPDE1B活性を抑制または低下させる。特定の実施形態において、その薬剤は、PDE1B活性をモジュレートすることによって、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性を促進(もしくは増大)または抑制(もしくは低下)させる。
【0013】
特定の実施形態において、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害を治療する方法であって、その患者に、PDE1B活性をモジュレートする薬剤を投与することを含み、DARPP-32のThr34におけるリン酸化および/またはGluR1 AMPA受容体のSer845におけるリン酸化がモジュレートされる上記方法を提供する。特定の実施形態において、その薬剤は、PDE1Bに結合することによって、PDE1B活性をモジュレートする。
【0014】
1つの実施形態において、そのような治療が必要な被験体に、PDE1B活性を調節し、かつDARPP-32の活性、GluR1 AMPA受容体の活性、および/または限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートするのに十分な量の本発明の化合物を投与する。
【0015】
また、本発明は、細胞または組織でのドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路におけるPDE1B活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、そのPDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その試験化合物のPDE1B活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、DARPP-32のホスホ-Thr34(以後、「ホスホ-Thr34」と呼ぶ)またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845(以後、「ホスホ-Ser845」と呼ぶ)のリン酸化がモジュレートされる。他の実施形態においては、PDE1B活性の差が、その試験化合物の、DARPP-32またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標となる。他の実施形態においては、PDE1B活性の差が、その試験化合物の、ARPP-16、ARPP-19、ARPP-21、CREB、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K ATPaseまたはNMDA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標となる。
【0016】
また、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、そのPDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その試験化合物の上記経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、DARPP-32のホスホ-Thr34(以下、「ホスホ-Thr34」と呼ぶ)またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845(以下、「ホスホ-Ser845」と呼ぶ)のリン酸化がモジュレートされる。他の実施形態において、PDE1B活性の差が、その試験化合物の、DARPP-32またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。他の実施形態においては、PDE1B活性の差が、その試験化合物の、ARPP-16、ARPP-19、ARPP-21、CREB、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K ATPaseまたはNMDA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標となる。
【0017】
また、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチドまたはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、そのPDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その試験化合物の上記経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、DARPP-32のホスホ-Thr34(以後、「ホスホ-Thr34」と呼ぶ)またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845(以後、「ホスホ-Ser845」と呼ぶ)のリン酸化がモジュレートされる。
【0018】
また、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のPDE1B活性のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の上記経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、上記のPDE1B活性のレベルと対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の、DARPP-32またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。他の実施形態においては、PDE1B活性の差が、その試験化合物の、ARPP-16、ARPP-19、ARPP-21、CREB、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K ATPaseまたはNMDA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標となる。他の実施形態においては、上記のPDE1B活性のレベルと対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチドまたはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標となる。
【0019】
また、本発明は、細胞または組織でのドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路におけるPDE1B活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物のPDE1B活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態においては、上記のPDE1B活性のレベルと対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の、DARPP-32またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化依存的活性をモジュレートする能力の指標となる。他の実施形態においては、PDE1B活性の差が、その試験化合物の、ARPP-16、ARPP-19、ARPP-21、CREB、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K ATPaseまたはNMDA受容体のリン酸化依存的活性をモジュレートする能力の指標となる。他の実施形態において、上記のPDE1B活性のレベルと対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の、ドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチドまたはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標となる。
【0020】
また、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療が必要な患者におけるその障害の治療能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) 細胞または組織内でPDE1BおよびThr34脱リン酸化DARPP-32を候補薬剤と接触させ;
(b) Thr34脱リン酸化DARPP-32のリン酸化の量を測定すること;
を含み、その候補薬剤の存在下でThr34脱リン酸化DARPP-32のリン酸化の増大が検出された場合に、その薬剤が同定されるものとする上記方法を提供する。特定の実施形態において、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を治療する能力を試験する。
【0021】
また、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療が必要な患者におけるその障害の治療能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) 細胞または組織内で、PDE1BおよびSer845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体を候補薬剤と接触させ;
(b) Ser845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体のリン酸化の量を測定すること;
を含み、その候補薬剤の存在下でSer845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体のリン酸化の増大が検出された場合に、その薬剤が同定されるものとする上記方法を提供する。特定の実施形態において、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を治療する能力を試験する。
【0022】
また、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を候補薬剤と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、PDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その候補薬剤のドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、この方法は、
(d) ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路がモジュレートされたか否かを判定すること;
をさらに含む。
【0023】
また、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチドまたはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を候補薬剤と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、PDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その候補薬剤の上記の細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、この方法は、
(d) 上記の細胞内シグナル伝達経路がモジュレートされたか否かを判定すること;
をさらに含む。
【0024】
また、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体の細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を候補薬剤と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物のドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、この方法は、
(c) ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路がモジュレートされたか否かを判定すること;
をさらに含む。
【0025】
また、本発明は、細胞または組織における、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチドまたはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を候補薬剤と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の上記の細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、この方法は、
(d) 上記の細胞内シグナル伝達経路の活性がモジュレートされたか否かを判定すること;をさらに含む。
【0026】
また、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) その候補治療薬剤に対するその動物の応答を測定し;
(c) その動物の応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定すること;
を含む上記方法を提供する。特定の実施形態において、この動物はマウスである。他の実施形態において、この障害はパーキンソン病である。
【0027】
また、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路と相互作用する神経伝達物質の投与に対するその動物の応答を測定し;
(c) その動物の応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定すること;
を含む上記方法を提供する。特定の実施形態において、この動物はマウスである。他の実施形態において、この障害はパーキンソン病である。
【0028】
また、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) ドーパミン投与に対するその動物の応答を測定し;
(c) その動物のドーパミン投与に対する応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定すること;
を含む上記方法を提供する。特定の実施形態において、この動物はマウスである。他の実施形態において、この障害はパーキンソン病である。
【0029】
また、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) その動物の応答を測定し、そこにおいて、その応答は、
(i) 水平自発運動活性について試験期間の間に探索行動を示すこと;
(ii) メタンフェタミン治療剤の投与の後に機能亢進を示すこと;
(iii) モーリスの水迷路の習得における経路長;
(iv) その動物からの線条体切片におけるホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの変化;
(v) その動物からの側坐核切片におけるホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの変化;
からなる群から選択されるものであり;
(c) その動物の応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定すること;
を含む上記方法を提供する。特定の実施形態において、この動物はマウスである。他の実施形態において、この障害はパーキンソン病である。
【0030】
また、本発明は、本発明のスクリーニング方法により同定された化合物を試験するための動物モデルを提供するものであり、その化合物は、本発明の動物モデルを用いて機能的有用性について試験される。1つの好ましい実施形態において、本発明は、PDE1Bが欠損している動物モデル、例えば「null」または「ノックアウト」マウスを提供する。1つの実施形態において、本発明は、その内在性PDE1B遺伝子においてホモ接合型の破壊を含むトランスジェニックノックアウトマウスを提供するものであり、その破壊により、機能性PDE1Bタンパク質の発現が阻止され、さらに、野生型PDE1B遺伝子を有するマウスと比較したそのノックアウトマウスの表現型が、cAMPまたはcGMPの加水分解についてアッセイした場合に、PDE1B酵素活性を示さないことを含む。特定の実施形態において、この破壊は、PDE1B触媒部位のターゲティング破壊を含む。他の実施形態において、野生型PDE1B遺伝子と比較したこのPDE1Bノックアウトマウスの表現型は、さらに、試験期間の最初の30分の間に、水平自発運動活性について有意により高い探索行動を示すこと、メタンフェタミン治療剤の投与の後に有意により高い機能亢進を示すこと、モーリスの水迷路の習得において有意に長い経路長を示すこと、D1受容体アゴニストを投与した際にそのマウスからの線条体切片においてホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの増大を示すこと、ならびに、D1受容体アゴニストを投与した際にそのマウスからの側坐核切片においてホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの増大を示すこと、からなる群から選択される表現型を含む。
【0031】
3.1 定義
本明細書において用いられる「モジュレートする」または「モジュレーション」という用語は、それが持つ通常の意味を有するものとし、「増大する」、「抑制(阻害)する」および「模倣する(mimic)」という言葉の意味を包含する。活性の「モジュレーション」とは、活性の増大または低下のいずれかとすることができる。
【0032】
本明細書において用いられる「アゴニスト」とは、受容体を介して、または受容体上で直接的または間接的に作用して薬理学的作用を生じる任意の化合物であり、一方、「アンタゴニスト」とは、受容体の刺激およびそれにより生じる薬理学的作用を遮断する任意の化合物である。
【0033】
本明細書において用いられるモジュレーション化合物の「有効量」とは、本明細書で開示されているような分析方法を用いた研究のデータに基づいて、当業者により決定され得る量である。そのようなデータとしては、限定するものではないが、後記で述べるようなIC50測定の結果が挙げられる。
【0034】
本明細書において用いられる「DARPP-32」という用語は、「ドーパミン-および環状AMP(cAMP)調節型リン酸化タンパク質」および「DARPP32」と交換可能に用いられ、新線条体中の中程度の大きさの有刺状ニューロンに選択的に多く存在する32キロダルトンの細胞質ゾルタンパク質である。ヒト、マウス、ラットおよびウシのDARPP-32のアミノ酸配列は、Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)(参照により全体が本明細書に組み込まれる)に開示されている(それぞれ、配列番号1〜4を参照)。
【0035】
本明細書において用いられる「Thr75 DARPP-32」という用語は、「Thr75 DARPP32」、「Thr75 DARPP-32」、「トレオニン-75 DARPP-32」および「トレオニン-75 DARPP-32」ならびに類似の略語と交換可能に用いられ、GenBankのアクセッションがAAB30129.1であるBreneら(J. Neurosci. 14:985-998(1994))に開示されているようなDARPP-32のアミノ酸配列における75番目のアミノ酸残基を表わし、これは、Cdk5によりリン酸化されプロテインホスファターゼ2A(PP2A)により脱リン酸化され得るトレオニン残基である。
【0036】
本明細書において用いられる「Thr75DARPP-32」という用語は、ヒトDARPP-32のアミノ酸配列における75番目のアミノ酸残基を表わす。特に他に明示されていない限り、この用語は、マウス、ウシなどの別の種に由来するDARPP-32における対応のアミノ酸残基も意味し得る。これらの配列は当業者には周知であり、その対応のアミノ酸残基は一般的な方法を用いて同定することができる。
【0037】
上記で開示されているように、本明細書において用いられる「ホスホ-Thr75 DARPP-32」という用語または類似の略語は、Thr75 DARPP-32のリン酸化された形態を表わす。
【0038】
本明細書において用いられる「DARPP-32のCdk5リン酸化可能断片」という用語は、脱リン酸化形態である場合はCdk5によりリン酸化され得、かつプロテインホスファターゼ2A(PP2A)により脱リン酸化され得るトレオニン残基を含むDARPP-32のタンパク質断片である。配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトDARPP-32の場合、このトレオニン残基は、好ましくはThr75 DARPP-32である。そのような断片は、約5〜100残基、さらに好ましくは約10〜50残基とすることができる。例えば、1つの特定の実施形態において、このペプチド断片は、配列番号1の配列内のThr75を含む5個の連続するアミノ酸を含む。このタイプの別の実施形態において、このペプチド断片は、配列番号1の配列内のThr75を含む7個の連続するアミノ酸を含む。別の実施形態において、このペプチド断片は、配列番号1の配列内のThr75を含む10〜25個の連続するアミノ酸を含む。このペプチド断片は全て、融合ペプチドまたはタンパク質の一部とすることができる。DARPP-32のCdk5リン酸化可能断片は、当業界で一般的に知られているいずれかの方法により、例えば切り出すこと(例えばプロテアーゼを用いる)により、またはリン酸化されている断片を脱リン酸化することにより、またはThr75-DARPP-32タンパク質の大きな断片もしくは全長DARPP-32タンパク質から脱リン酸化されている断片を切り出すこと(例えばプロテアーゼを用いる)により調製できる。したがって、これらの断片は、後記に開示されている標準的なペプチド合成により合成するか、または組換えDNA法もしくは古典的なタンパク質分解により作製することができる。
【0039】
本明細書において用いられる「Thr34 DARPP-32」という用語は、「Thr34 DARPP32」、「thr34 DARPP-32」、「トレオニン-34 DARPP-32」および「トレオニン-34 DARPP-32」ならびに類似の略語と交換可能に用いられ、GenBankのアクセッションがAAB30129.1であるBreneら(J. Neurosci. 14:985-998(1994))に開示されているようなDARPP-32のアミノ酸配列における34番目のアミノ酸残基を表わし、これは、環状AMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)によりリン酸化されるか、プロテインホスファターゼ2B(PP2B)により脱リン酸化され得るトレオニン残基である。
【0040】
本明細書において用いられる「Thr34DARPP-32」という用語は、ヒトDARPP-32のアミノ酸配列における34番目のアミノ酸残基を表わす。特に他に明示されていない限り、この用語は、マウス、ウシなどの別の種に由来するDARPP-32における対応のアミノ酸残基も意味し得る。これらの配列は当業者には周知であり、その対応のアミノ酸残基は一般的な方法を用いて同定することができる。
【0041】
上記で開示されているような本明細書において用いられる「ホスホ-Thr34 DARPP-32」という用語または類似の略語は、Thr34 DARPP-32のリン酸化された形態を表わす。
【0042】
本明細書において用いられる「DARPP-32のPKAリン酸化可能断片」という用語は、脱リン酸化形態である場合はPKAによりリン酸化され得るトレオニン残基を含むDARPP-32のタンパク質断片である。配列番号1のアミノ酸配列を有するヒトDARPP-32の場合、このトレオニン残基は、好ましくはThr34 DARPP-32である。そのような断片は、約5〜100残基、さらに好ましくは約10〜50残基とすることができる。例えば、1つの特定の実施形態において、このペプチド断片は、配列番号1の配列内のThr34を含む5個の連続するアミノ酸を含む。このタイプの別の実施形態において、このペプチド断片は、配列番号1の配列内のThr34を含む7個の連続するアミノ酸を含む。別の実施形態において、このペプチド断片は、配列番号の配列内のThr34を含む10〜25個の連続するアミノ酸を含む。このペプチド断片は全て、融合ペプチドまたはタンパク質の部分とすることができる。DARPP-32のPKAリン酸化可能断片は、当業界で一般的に知られているいずれかの方法により、例えば切り出し(例えばプロテアーゼを用いる)により、またはリン酸化されている断片を脱リン酸化することにより、またはThr75-DARPP-32タンパク質の大きな断片もしくは全長DARPP-32タンパク質から脱リン酸化されている断片を切り出すこと(例えばプロテアーゼを用いる)により調製することが可能である。したがって、これらの断片は、後記に開示されている標準的なペプチド合成により合成するか、または組換えDNA法もしくは古典的なタンパク質分解により作製することができる。
【0043】
本明細書において用いられる「Ser845 GluR1 AMPA受容体」という用語は、「Ser845-GluR1 AMPA受容体」、「Ser845 GluR1 AMPA」、「セリン-845 GluR1 AMPA」ならびに類似の略語と交換可能に用いられ、成熟型ヒトGluR1 AMPA受容体サブユニットのアミノ酸配列の845番目のアミノ酸残基(すなわち、GenBankのアクセッション番号がNP-000818(配列番号7)であるPuckettら (1991, Molecular cloning and chromosomal localization of one of the human glutamate receptor genes, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 88(17), 7557-7561)により開示されているプレタンパク質配列の863番目のセリン)を表わし、これは、PKAによりリン酸化され得るセリン残基である。
【0044】
本明細書において用いられる「Ser845 GluR1 AMPA受容体」という用語は、ヒト成熟型GluR1 AMPA受容体サブユニットのアミノ酸配列の845番目のアミノ酸残基を表わす。特にそうではないと明示されていない限り、この用語は、マウス、ウシなどの別の種に由来するGluR1 AMPA受容体における対応のアミノ酸残基も意味し得る。これらの配列は当業者には周知であり、その対応のアミノ酸残基は一般的な方法を用いて同定することができる。
【0045】
上記で開示されているような本明細書において用いられる「ホスホ-Ser845 GluR1 AMPA受容体」という用語または類似の略語は、Ser845 GluR1 AMPA受容体のリン酸化された形態を表わす。
【0046】
本明細書において用いられる「GluR1 AMPA受容体のPKAリン酸化可能断片」という用語は、脱リン酸化形態である場合はPKAによりリン酸化され得るセリン残基を含むGluR1 AMPA受容体のタンパク質断片である。配列番号7のアミノ酸配列を有するヒトGluR1 AMPA受容体の場合、このセリン残基は、好ましくは成熟形態のSer845 GluR1 AMPA受容体(プレタンパク質配列の845番目のSer)である。そのような断片は、約5〜100残基、さらに好ましくは約10〜50残基とすることができる。例えば、1つの特定の実施形態において、このペプチド断片は、Ser845を含む5個の連続するアミノ酸を含む。このタイプの別の実施形態において、このペプチド断片は、Ser845を含む7個の連続するアミノ酸を含む。別の実施形態において、このペプチド断片は、Ser845を含む10〜25個の連続するアミノ酸を含む。このペプチド断片は全て、融合ペプチドまたはタンパク質の一部とすることができる。GluR1 AMPA受容体のPKAリン酸化可能断片は、当業界で一般的に知られているいずれかの方法により、例えば切り出し(例えばプロテアーゼを用いる)により、およびリン酸化されている断片を脱リン酸化することにより、またはSer845 GluR1 AMPA受容体タンパク質の大きな断片もしくは全長GluR1 AMPA受容体タンパク質から脱リン酸化されている断片を切り出すこと(例えばプロテアーゼを用いる)により調製することができる。したがって、これらの断片は、後記に開示されているいずれかの標準的なペプチド合成により合成するか、または組換えDNA法もしくは古典的なタンパク質分解により作製することができる。
【0047】
当業者であれば理解されることであるが、限定するものではないがDARPP-32およびGluR1 AMPAを含む細胞内シグナル伝達分子の他のリン酸化可能および脱リン酸化可能な断片は、当業界で周知の方法に従い、上記に開示した一般的な方法を用いて容易に調製可能である。
【0048】
上記で記載したように、本明細書において用いられるキナーゼ反応におけるDARPP-32またはDARPP-32のリン酸化可能断片のリン酸化の量および/または速度は、当業界で公知の標準的な統計学的方法により測定した場合に、DARPP-32またはDARPP-32のリン酸化可能断片のこのリン酸化の量および/または速度が統計学的に有意な量で増大または低下したならば、「有意に変化している」という。別の実施形態において、この有意な変化は、対照の反応と比較して少なくとも約10〜25%である。好ましくは、候補調節物質の存在下で見られる、対象とする分子(例えばCK1またはCdk5)によるDARPP-32のリン酸化の速度の有意な変化は、この反応のミカエリス定数(例えばVmaxまたはKm)と幾つかの点で相関関係を示す。例えば、抑制物質の場合は、KIを測定することができる。したがって、特定の実施形態において、候補調節物質を調節物質として同定できるようにするために、反応混合物中で種々の濃度の調節物質を調べることが好ましい場合がある。
【0049】
上記で記載されているように、本明細書において用いられるホスファターゼ反応におけるDARPP-32またはDARPP-32の脱リン酸化可能断片の脱リン酸化の量および/または速度は、当業界で公知の標準的な統計学的方法により測定した場合に、DARPP-32またはDARPP-32の脱リン酸化可能断片のこの脱リン酸化の量および/または速度が統計学的に有意な量で増大または低下したならば、「有意に変化している」という。別の実施形態において、この有意な変化は、対照の反応と比較して少なくとも約10〜25%である。好ましくは、候補調節物質の存在下で見られる、関心のある分子(例えばPP2C、PP2BまたはPP2A)によるDARPP-32の脱リン酸化の速度の有意な変化は、この反応のミカエリス定数(例えばVmaxまたはKm)と幾つかの点で相関関係を示す。例えば、抑制物質の場合は、KIを測定することができる。したがって、特定の実施形態において、候補調節物質を調節物質として同定できるようにするために、反応混合物中で種々の濃度の調節物質を調べることが好ましい場合がある。
【0050】
本明細書において用いられる「PDE1B関連障害」という用語は、「ホスホジエステラーゼ1B関連障害」、「PDE1B障害」または類似の用語と交換可能に用いられる。PDE1B関連障害としては、限定するものではないが、パーキンソン病、ハンティングトン病、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、神経変性障害、ツレット症候群、チック障害、レッシュ−ナイハン病、疼痛、失調症、物質もしくは薬物の乱用、精神分裂病、分裂感情障害、うつ病、情動障害、躁うつ病性障害、強迫性障害、摂食障害、嘔吐、パニック障害、不安障害、片頭痛、ミオクローヌス、月経前症候群(PMS)、心的外傷後ストレス症候群、カルチノイド症候群、アルツハイマー病、脳卒中、癲癇、睡眠−概日リズム障害(例えば不眠症)、性障害、ストレス障害、高血圧症および癌が挙げられる。また、PDE1B関連障害としては、限定するものではないが、興奮性の細胞、組織または器官(例えばニューロン、脳、中枢神経系など)内でのPDE1Bにより媒介される神経伝達(しかしそれらに限定されない)などのシグナル伝達経路の異常または調節障害に伴う疾患(例えばパーキンソン病)または症状(例えばコカイン嗜癖)も含まれる。また、PDE1B関連障害としては、限定するものではないが、PDE1B関連障害の症状も含まれる。特定の実施形態において、影響を受ける経路としては、DARPP-32のリン酸化および/または脱リン酸化が挙げられ、この場合、その調節障害の対応する治療は、DARPP-32の1つ以上の特定のトレオニン残基および/またはセリン残基のリン酸化および/または脱リン酸化の刺激および/または抑制を含む(例えば、Greengardら, Neuron 23:435-447 (1999);Bibbら, Proc. Natl. Acad. Sci. 97:6809-6814 (2000);ならびにBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)を参照;それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)。他の実施形態において、影響を受ける経路として、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)によるGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845のリン酸化が挙げられ、この場合、この調節障害の対応する治療は、GluR1 AMPA受容体の1つ以上の特定のセリン残基のリン酸化および/または脱リン酸化の刺激および/または抑制を含む(例えば、Kameyama, K.ら, 1998. Neuron 21:1163-1175を参照)。さらに他の実施形態において、影響を受ける経路としては、ドーパミン経路の終点としてのAMPA受容体のGluR1サブユニットが挙げられている。さらに他の実施形態において、影響を受ける経路としては、当業者には明らかであるように、限定するものではないが、幾つかのタイプのカルシウムチャンネル、Na/K ATPase、NMDA受容体、CREBなどのリン酸化を含むドーパミン作動性細胞内シグナル伝達経路の生物学的作用の他の終点が挙げられている。
【0051】
本明細書において用いられる「ドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路」は、「D1受容体細胞内シグナル伝達経路」、「ドーパミンD1細胞内シグナル伝達カスケード」、「ドーパミンD1シグナル伝達カスケード」または類似の用語と交換可能に用いられる。
【0052】
本明細書において用いられる「ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害」という用語は、「D1受容体細胞内シグナル伝達経路障害」という用語または類似の用語と交換可能に用いられる。ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害としては、限定するものではないが、パーキンソン病、ハンティングトン病、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、神経変性障害、ツレット症候群、チック障害、レッシュ−ナイハン病、疼痛、失調症、物質もしくは薬物の乱用、精神分裂病、分裂感情障害、うつ病、情動障害、躁うつ病性障害、強迫性障害、摂食障害、嘔吐、パニック障害、不安障害、片頭痛、ミオクローヌス、月経前症候群(PMS)、心的外傷後ストレス症候群、カルチノイド症候群、アルツハイマー病、脳卒中、癲癇、睡眠−概日リズム障害(例えば不眠症)、性障害、ストレス障害、高血圧症および癌が挙げられる。また、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害としては、限定するものではないが、興奮性の細胞、組織または器官(例えばニューロン、脳、中枢神経系など)内でのドーパミンD1受容体により媒介される神経伝達(しかしそれらに限定されない)などのシグナル伝達経路の異常または調節障害に伴う疾患(例えばパーキンソン病)または症状(例えばコカイン嗜癖)も含まれる。また、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害としては、限定するものではないが、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の症状も含まれる。特定の実施形態において、影響を受ける経路としては、DARPP-32のリン酸化および/または脱リン酸化が挙げられ、この場合、その調節障害の対応する治療は、DARPP-32の1つ以上の特定のトレオニン残基および/またはセリン残基のリン酸化および/または脱リン酸化の刺激および/または抑制を含む(例えば、Greengardら, Neuron 23:435-447 (1999);Bibbら, Proc. Natl. Acad. Sci. 97:6809-6814 (2000);ならびにBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)を参照;それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)。他の実施形態において、影響を受ける経路として、cAMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)によるGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845のリン酸化が挙げられ、この場合、その調節障害の対応する治療は、GluR1 AMPA受容体の1つ以上の特定のセリン残基のリン酸化および/または脱リン酸化の刺激および/または抑制を含む(例えば、Kameyama, K.ら, 1998. Neuron 21:1163-1175を参照)。
【0053】
本明細書において用いられる「小さな有機分子」とは、分子量が3キロダルトン未満、好ましくは1.5キロダルトン未満の有機化合物(または無機化合物(例えば金属)と錯化されている有機化合物)である。好ましくは、小さな有機分子は血液脳関門を通過することができるものである。
【0054】
本明細書において用いられる「約」という用語は、10〜15%以内、好ましくは5〜10%以内であることを意味する。例えば、約60個のアミノ酸残基を含むアミノ酸配列は、51〜69個のアミノ酸残基、さらに好ましくは57〜63個のアミノ酸残基を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】PDE1Bのターゲティング戦略ならびに第3世代の戻し交配体の子孫のサザンおよびノーザンブロット分析結果である。図1Aは、内在性PDE1B遺伝子の一部の概略、およびターゲティングベクターを用いた相同組換えの結果を示す。中心触媒ドメインをコードするPDE1B遺伝子の3.1kbの部分は、2.9kbのHRRT遺伝子で置き換えることにより破壊した。破壊により、StuI断片の大きさが3.7kbから2.2kbへと変化し、NdeI/KpnI断片の大きさが3.7kbから10.6kbへと変化した。PDE1B遺伝子の上部の棒線は、ターゲティングベクターに含まれるゲノムDNA配列を表わす。PDE1B遺伝子の下部の棒線は、ES細胞およびマウスゲノムDNAのサザンブロット分析に用いる制限断片を示す。番号を付した太い縦線はエキソンを表わす。細い縦線は、制限酵素部位を示す。S、StuI;N、NdeI;X、XbaI;A、AccI;K、KpnI。図1Bは、野生型(W)、ヘテロ接合型(H)およびnull(N)の遺伝子型を示す第3世代の戻し交配マウスの子孫の、StuIで消化したマウスゲノムDNAのサザンブロットの結果である。2.2kbのStuI断片は、ターゲティングベクターを用いた相同組換えにより作製した。全てのブロットは、PDE1Bの第3エキソンのプローブでプローブした。図1Cは、それぞれの遺伝子型のマウスからの脳の全RNAを、ノーザンブロットにより、中心触媒ドメインに該当するcDNAプローブであるK-17(Repaskeら, 1992, J. Biol Chem 267:18683-18688)とハイブリダイズさせることにより分析した結果である。WTおよびPDE1B+/-マウスにおいてのみ、予想どおりの約3.0kbの転写産物が見られる(上部)。同じノーザンブロットについてのメチレンブルー染色したリボゾームバンドからは、等しいRNAのローディングが示される(下部)。詳細についてはセクション6を参照。
【図2】図2は、水平活性を示す。PDE1B-/-、PDE1B+/-およびWTマウス(雄性および雌性の組合せ)についての平均±SEMの水平活性が示されている。矢印は、メタンフェタミン投与(1mg/kg)した時間である。カウント数は、3分間隔あたりのフォトビーム遮蔽の総数を表わす。PDE1B-/-マウスは、メタンフェタミンチャレンジの前(F(2,120)=8.55;P<0.0003)および後(F(2,120)=11.18;P<0.0001)の双方とも、WTマウスと比較して過活動性であった。p<0.05、**p<0.01、n=+/+、71匹;+/-、114匹;-/-、49匹。詳細については、セクション6を参照。
【図3】図3は、性別による全距離の差を表す。図示されているのは、3分のブロック内に活性装置内で雄(上部)および雌(下部)が移動した平均±SEMの距離である。矢印は、メタンフェタミン投与(1mg/kg)した時間である。雌PDE1B-/-マウスは、メタンフェタミンチャンレンジ前の期間に、WTマウスと比較して機能亢進的であったが(F(2,120)=3.07;P<0.05)、しかし雄PDE1B-/-マウスはそうではなかった;この性別の違いによる差は、チャレンジ後の期間までは続かなかった。n=+/+、71匹;+/-、114匹;-/-、49匹。詳細はセクション6を参照されたい。
【図4】図4は、WYおよびPDE1B-/-マウスにおけるPKA媒介基質のリン酸化を示す。図4Aは、WTおよびPDE1B-/-マウスからの対照(Con)線条体切片およびアデニリルシクラーゼ活性化剤ホルスコリンで処理した切片(For)におけるホスホ-Thr34-DARPP-32のレベルを示すイムノブロットの結果である。図4Bは、ホルスコリンに応答してのホスホ-Thr34-DARPP-32の増大倍率(WTホルスコリンと比較してp<0.05;Mann-WhitneyのU検定;n=処理グループあたり3匹のマウス)。図4Cは、WTおよびPDE1B-/-マウスからの未処理(Con)およびD1アゴニスト処理(D1)の線条体切片におけるホスホ-Thr34および全DARPP-32(左)ならびにホスホ-Ser845および全GluR1(右)のレベルを示すイムノブロットの結果である。図4Dは、D1アゴニストと共にインキュベートした際のホスホ-Thr34-DARPP-32(左)およびホスホ-Ser845-GluR1(右)のレベルの増大の平均SEMを示す(未処理の対照切片と比較してp<0.05;D1処理したWTの切片と比較してp<0.05;Mann-WhitneyのU検定;n=処理グループあたり3匹のマウス)。詳細はセクション6を参照されたい。
【図5】図5は、モーリスの水迷路における空間学習についての結果を示す。図5Aは、+、それぞれの遺伝子型のマウスが踏み台に到達するまでの経路長(平均±SEM)である。PDE1B-/-マウスおよびPDE1B+/-マウスは、WTマウスと比較して有意に増大した経路長を示す(F(2,112)=9.19;p<0.0002)。図5Bは、それぞれの遺伝子型のマウスについての踏み台からの累積距離(平均±SEM)である。PDE1B-/-マウスおよびPDE1B+/-マウスは、WTマウスと比較して有意に増大した累積距離を示した(F(2,112)=8.38;p<0.0004)。データは、1日当たり4回の試行の平均について、全6日間にわたっての平均をとって示す。野生型マウスと比較して**p<0.01。n=+/+、55匹;+/-、101匹;-/-、66匹。詳細はセクション6を参照されたい。
【図6】モーリスの水迷路における空間学習:隠された踏み台のタスクの習得についての結果を示す。データは、3種の遺伝子型の各々について1日当たり4回の試行の平均で示す。PDE1B-/-マウスおよびPDE1B+/-マウスは、3〜6日目において、WTマウスと比較して有意に増大した経路長を示した(踏み台の相互作用による日による遺伝子型;F(10,560)=2.01;p<0.04)。WTマウスと比較してp<0.05および**p<0.01。黒ダイヤ形、+/+(n=55匹);灰色四角、+/-(n=101匹);白三角、-/-(n=66匹)。詳細はセクション6を参照されたい。
【図7】図7は、モーリスの水迷路における空間記憶:プローブ試行の能力の結果を示す図である。経路長(平均±SEM)は、2回のプローブ試行および性別について平均した標的の環状水路(A)および外側の環状水路(B)における全遊泳距離に対するパーセンテージとして表わす。野生型マウスと比較してp<0.01。詳細はセクション6を参照されたい。
【発明を実施するための形態】
【0056】
5.発明の詳細な説明
本発明は、ホスホジエステラーゼ(PDE)活性、特にホスホジエステラーゼB1(PDE1B)活性が、脳組織において、自発運動活性ならびに学習および記憶の調節物質として機能するという、本発明者らにとって驚くべき知見に基づく。本発明によれば、PDE1Bは、限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路、好ましくは神経系におけるそうした細胞内シグナル伝達経路の調節の治療標的として利用し得る。好ましい実施形態において、PDE1Bは、例えばPDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療の治療標的として利用し得る。1つの特定の実施形態において、PDE1Bは、パーキンソン病の治療の治療標的として利用し得る。
【0057】
ドーパミン(DA)そのものの、およびドーパミン作動性神経伝達を促進する薬剤の活性化は、細胞表面受容体に対して作用する。いずれの特定の理論にも拘束されるものではないが、本発明の1つの態様において、ドーパミンD1受容体は、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路を介してDARPP-32のリン酸化を媒介する。本発明によれば、ドーパミンD1受容体を活性化すると、アデニリルシクラーゼの活性化(およびcAMPの増大)が起こる。cAMPはプロテインキナーゼA(PKA;cAMP依存性プロテインキナーゼ)を活性化し、このプロテインキナーゼAは、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2BおよびPP-1を含む細胞内シグナル伝達経路における下流のエレメントをリン酸化(またはそのリン酸化をモジュレート)する。これらの細胞内シグナル伝達経路は、限定するものではないがcAMPをその5’-一リン酸へと加水分解するPDE1Bを含むホスホジエステラーゼ(PDE)によりダウンレギュレートまたは拮抗的に阻害される。
【0058】
本発明の別の態様においては、ドーパミンD2受容体を活性化すると、アデニリルシクラーゼの抑制(およびcAMPの低下)が起こる。D2受容体の活性化の後で、cGMPの細胞内濃度は変化しないか抑制されない。cGMPはプロテインキナーゼG(PKG;cGMP依存性プロテインキナーゼ)を活性化し、このプロテインキナーゼGは、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2BおよびPP-1を含む細胞内シグナル伝達経路の下流のエレメントを含む(しかしそれらに限定されない)下流のシグナル伝達経路エレメントをリン酸化する。
【0059】
本発明の別の態様においては、カルシウム調節型PDE1Bは、ドーパミン調節型細胞内シグナル伝達経路と、限定するものではないが一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む別の細胞内シグナル伝達経路との間の調節活性の仲介物質である。本発明の別の態様においては、PDE1Bは、DARPP-32のリン酸化をモジュレートする他のcAMPまたはcGMP結合インプット(A2a、D2、アヘン、一酸化窒素、グルタミン酸など)からのシグナル伝達を調節する。さらに、特定の態様において、PDE1Bは、限定するものではないがAMPA受容体、カルシウムチャンネル、Na/K ATPase、NMDA受容体およびCREBを含む終点タンパク質のPKAおよびPKGによる直接リン酸化をモジュレートすることによって、D1受容体ならびに他の他のcAMPまたはcGMP結合インプット(A2a、D2、アヘン、一酸化窒素、グルタミン酸など)からのDARPP-32非依存性シグナル伝達を調節する。したがって、本発明によれば、PDE1B媒介環状ヌクレオチド加水分解の不活性化によるcAMPシグナル伝達の増大は、DARPP-32およびこれらの関連する細胞内シグナル伝達経路の活性を調節することによって、ドーパミン作動性機能において重要な役割を担っている。したがって、本発明によれば、PDE1B活性をモジュレートすれば、これらの相互に関係する細胞内シグナル伝達経路の活性もモジュレートされるはずである。
【0060】
開示を明確にするために、限定しようとするものではないが、本発明の詳細な説明を、以下に述べるサブセクションに分ける。
【0061】
5.1 PDE1B活性のモジュレーション方法
本発明は、細胞または組織におけるPDE1B活性のモジュレーション方法であって、その細胞または組織を、限定するものではないがドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内伝達経路の活性を変化させるのに十分な量の化合物と接触させることを含み、その細胞または組織とその化合物と接触によりPDE1B活性がモジュレートされる上記方法を提供する。
【0062】
特定の実施形態において、この化合物は、PDE1Bに結合することによってPDE1B活性をモジュレートする。結合は、当業界で周知の方法に従い、標準的な当業界で公知のいずれかの生理学的条件下で測定できる。
【0063】
他の実施形態において、DARPP-32のホスホ-Thr34またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845のリン酸化が、PDE1Bの調節によってモジュレートされる。
【0064】
他の実施形態において、限定するものではないがカルシウムチャンネル、Na/K ATPase、NMDA受容体およびCREBを含む細胞内シグナル伝達経路の下流のエレメントのリン酸化が、PDE1Bの調節によってモジュレートされる。
【0065】
本発明はまた、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質-32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2BおよびPP-1、カルシムチャンネル、Na/K ATPaseおよびNMDA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子の活性のモジュレーション方法であって、限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路の活性を変化させるのに十分な量の化合物を(例えば個体、患者または動物に)投与することを含む上記方法を提供する。特定の実施形態において、この化合物は本発明の方法により同定される化合物であり、そこにおいて、その化合物はPDE1B活性をモジュレートするものであり、PDE1B活性をモジュレートすることにより、細胞または組織における上記の細胞内シグナル伝達経路の活性の変化が起こる。1つの特定の実施形態において、この化合物はPDE1Bに結合する。別の特定の実施形態において、この化合物は、PDE1Bの発現を改変させる。特定の実施形態において、この細胞内シグナル伝達分子は、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路において下流にある。
【0066】
1つの特定の実施形態において、この細胞内シグナル伝達分子は興奮性の細胞、例えばニューロン内に存在する。
【0067】
本発明の特定の実施形態において、PDE1Bの活性が増大する。他の特定の実施形態において、PDE1Bの活性が低下する。特定の実施形態において、PDE1Bの活性はPDE1Bの発現を包含する。発現(例えば遺伝子発現、タンパク質の発現)は、当業界で公知のいずれの方法によっても測定できる。
【0068】
別の実施形態において、本発明は、細胞または組織における、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質-32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2BおよびPP-1、カルシムチャンネル、Na/K ATPaseおよびNMDA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子のリン酸化依存的活性化の調節方法であって、PDE1B活性をモジュレートするのに十分な量の化合物を投与することを含み、そこにおいて、PDE1B活性をモジュレートすることにより、その細胞または組織における上記分子のリン酸化依存的活性化を変化させる。
【0069】
本発明によれば、細胞または組織としては、限定するものではないが、例えば感覚ニューロン、運動ニューロンもしくは介在ニューロンなどの興奮性細胞;グリア細胞;例えばニューロン細胞もしくはグリア細胞の一次培養物などの細胞の一次培養物;ニューロン細胞系もしくはグリア細胞系から誘導される細胞;解離させた細胞;細胞全体もしくは無傷の細胞;透過性にした細胞(permeabilized cell(s));細胞破砕調製物;単離および/もしくは精製された細胞調製物;細胞抽出物もしくは精製酵素調製物;例えば脳、脳の構造物、脳の切片、脊髄、脊髄の切片、中枢神経系、末梢神経系もしくは神経などの組織もしくは器官;組織の切片、ならびに動物全体が挙げられる。
【0070】
特定の実施形態において、脳の構造物とは、他の哺乳動物種における線条体、脳幹神経節、側坐核、またはそれらの解剖学的および/もしくは機能性の対応物である。
【0071】
1つの実施形態において、関心のある細胞または組織におけるPDE1B活性をin vitroでモジュレートするための方法が提供される。
【0072】
別の実施形態において、関心のある細胞または組織におけるPDE1B活性は、in situまたはin vivoでモジュレートされる。in vitro、in situおよびin vivoでの適用としては、限定するものではないが、上記で開示されている細胞または組織のいずれかにおける活性のモジュレーションを挙げることができる。
【0073】
5.2 PDE1Bの活性をモジュレートする化合物のスクリーニング方法
本発明は、細胞または組織におけるPDE1B活性をモジュレートするための薬剤、薬物または化合物のin vivo、in situおよびin vitroでの同定方法を提供する。1つの態様において、この方法は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を治療する能力について試験すべき薬剤の同定方法を含む。そのような方法は、単独で、または互いに組み合わせて用いることができる。
【0074】
1つの実施形態において、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、そのPDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その試験化合物の、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。
【0075】
本発明の1つの態様においては、本発明の方法により測定されるPDE1B活性の差は、その試験化合物の、限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。
【0076】
本発明の別の態様においては、PDE1B活性の差は、その試験化合物の、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K、ATPaseおよびNMDA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。
【0077】
別の実施形態において、本発明は、細胞または組織でのドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路におけるPDE1B活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、そのPDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その試験化合物のPDE1B活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、このPDE1B活性の差は、その試験化合物の、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である。別の実施形態において、このPDE1B活性の差は、その試験化合物の、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K、ATPaseおよびNMDA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。
【0078】
本発明によれば、対照のレベルとは、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織において測定される別の基準レベル、または細胞または組織において試験化合物と接触させる前に測定されるレベルを意味する。
【0079】
本発明はまた、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路分子の活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のPDE1B活性のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路分子の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、PDE1B活性をモジュレートすることにより、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路のモジュレーションが調節される。他の実施形態において、このPDE1B活性の活性の差は、その試験化合物の、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K、ATPaseおよびNMDA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。
【0080】
別の実施形態において、本発明は、細胞または組織でのドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路におけるPDE1B活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のPDE1B活性のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物のPDE1B活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、PDE1B活性をモジュレートすると、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路のモジュレーションが調節される。特定の実施形態において、PDE1B活性の活性の差は、その試験化合物の、限定するものではないがDARPP-32(ドーパミンおよびcAMP-調節型リン酸化タンパク質-32)、ARPP-16(DARPP-16)、ARPP-19(DARPP-19)、ARPP-21(DARPP-21)、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K、ATPaseおよびNMDA受容体を含む細胞内シグナル伝達分子のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である。
【0081】
本発明はまた、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害の治療能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) 候補薬剤を、PDE1BおよびThr34脱リン酸化DARPP-32と接触させ;
(b) Thr34脱リン酸化DARPP-32のリン酸化の量を測定すること;
を含み、その候補薬剤の存在下でThr34脱リン酸化DARPP-32のリン酸化の増大が検出された場合に、その薬剤が同定されるものとする上記方法を提供する。特定の実施形態において、PDE1BおよびThr34脱リン酸化DARPP-32は細胞内または組織内にあるものとする。他の実施形態において、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を治療する能力が試験される。
【0082】
本発明はまた、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害の治療能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) 候補薬剤をPDE1BおよびSer845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体と接触させ;
(b) Ser845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体のリン酸化の量を測定すること;
を含み、その候補薬剤の存在下でSer845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体のリン酸化の増大が検出された場合に、その薬剤が同定されるものとする上記方法を提供する。特定の実施形態において、PDE1BおよびSer845脱リン酸化GluR1 AMPA受容体は細胞内または組織内にあるものとする。他の実施形態において、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を治療する能力が試験される。
【0083】
別の実施形態において、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b) その細胞または組織を候補薬剤と接触させ;
(c) その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、PDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その候補薬剤の上記の細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、この方法は、
(d) 上記の細胞内シグナル伝達経路がモジュレートされたか否かを判定すること;
をさらに含む。1つの特定の実施形態において、この細胞内シグナル伝達経路はドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路である。
【0084】
別の実施形態において、本発明は、細胞または組織におけるドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする能力について試験すべき薬剤の同定方法であって、
(a) その細胞または組織を候補薬剤と接触させ;
(b) その細胞または組織におけるPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、上記のPDE1B活性のレベルと、試験化合物と接触させていない同等の細胞または組織における対照のPDE1B活性のレベルとの差が、その試験化合物の上記の細胞内シグナル伝達経路をモジュレートする能力の指標である上記方法を提供する。特定の実施形態において、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路のモジュレーションはPDE1Bによりモジュレートされる。特定の実施形態において、この方法は、
(c) 上記の細胞内シグナル伝達経路がモジュレートされたか否かを判定すること;
をさらに含む。1つの特定の実施形態において、この細胞内シグナル伝達経路はドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路である。
【0085】
当業者であれば明確に理解されるであろうが、本明細書に開示されている合理的薬物設計を組み込んだ手順を含む、PDE1B活性をモジュレートできる薬剤、薬物または化合物を同定するための本明細書で開示されている実施形態のいずれかおよび/または全ては組み合わせて、さらに別の薬剤のスクリーニング(screens)およびアッセイを形成するようにすることができ、それらは全て、本発明により想定されるものである。
【0086】
PDE1Bは、cAMPレベルを調節する上で重要な役割を担っており、脳においてcAMP-PKA経路は多くの他のシグナル伝達経路と相互作用するので、PDE1Bのモジュレーションは、特定の実施形態において、限定するものではないがパーキンソン病、ハンティングトン病、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、神経変性障害、ツレット症候群、チック障害、レッシュ−ナイハン病、疼痛、失調症、物質もしくは薬物の乱用、精神分裂病、分裂感情障害、うつ病、情動障害、躁うつ病性障害、強迫性障害、摂食障害、嘔吐、パニック障害、不安障害、片頭痛、ミオクローヌス、月経前症候群(PMS)、心的外傷後ストレス症候群、カルチノイド症候群、アルツハイマー病、脳卒中、癲癇、睡眠−概日リズム障害(例えば不眠症)、性障害、ストレス障害、高血圧症および癌を含む障害の症状を改善し、かつ/またはその障害の治療に使用される。
【0087】
本発明の方法によれば、細胞または組織を試験化合物で処理する前または処理した後のいずれにおいても、DARPP-32のリン酸化および/またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化のパターンおよび/またはレベルを測定することができる。
【0088】
当業者であれば、本発明に従って、化合物がDARPP-32のリン酸化および/またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化のパターンおよび/またはレベルを既知の改善化合物と同様に変化させることができるものとして同定されれば、その化合物は、PDE1B関連障害、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害、ならびにドーパミン作動性系が関与する他の症状の治療に使用できることが理解されるであろう。そのような症状としては、限定するものではないが、PDE1B関連障害およびドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害が挙げられる。本発明の文脈において、同定された化合物は、本明細書に提示されているような研究から得られるデータに基づいて当業者により決定され得る有効な用量または量で投与される。そのようなデータとしては、限定するものではないが、IC50測定からの結果が挙げられる。
【0089】
本発明はまた、PDE1B活性のモジュレーションによってドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートできる薬剤のin vivoでの同定方法を提供する。こうした方法は、単独で、または本明細書で開示されているようなin vitro法およびin situ法と組み合わせて用いることができる。
【0090】
1つのそのようなin vitro法は、その薬剤をヒト以外の哺乳動物に投与することを含む。次に、PDE1Bの活性化の量(および/または速度)を測定する。薬剤は、その薬剤の存在下で、PDE1Bの活性化の量(および/または速度)がその薬剤の不在下での場合と比較して増大または低下した場合には、PDE1Bのモジュレーションによって、限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートできるものとして同定される。好ましい実施形態において、このヒト以外の哺乳動物は齧歯類である。さらに好ましい1つの実施形態において、この齧歯類は野生型マウスである。他の実施形態において、このヒト以外の哺乳動物は、疾患または障害の動物モデルである。そのような動物モデルは本明細書中で開示されている。
【0091】
別の実施形態において、実験動物を使用して、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害に対する候補薬剤の作用を確認する。次に、その障害を改善する候補モジュレーション物質を選定することができる。
【0092】
例えば、特定の実施形態において、その薬剤の存在下または不在下で動物の自発運動(locomotor)または学習行動の応答を測定することができる。特定の実施形態において、マウスなどの動物の自発運動活性を、セクション6で開示されているような活性モニターで測定できる。1つの特定の実施形態において、セクション6で開示されているように、例えば水平自発運動活性の際の探索行動についての試験、メタンフェタミン治療剤を投与した後での自発運動活性についての試験、またはモーリスの水迷路などの行動試験を用いることができる。
【0093】
動物または動物モデルにおいて候補治療薬剤(例えば候補薬剤、候補モジュレーション物質など)の試験方法は、当業界で周知である。したがって、候補治療薬剤は、動物全体を治療するのに使用できる。候補モジュレーション物質は、目的とする用途に応じて、局所、経口、皮下または腹腔内(例えば腹腔内注射によるもの)を含む種々の方法で投与することができる。最適な用量は、経験的に決定される。動物は、例えば収束マイクロ波ビーム照射により犠牲にすることができる。
【0094】
限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の病理学的症状の軽減におけるこれらの化合物の可能性のある効能は、疾患についての動物モデルで評価することができる。例えば、ヒトの疾患を引き起こす形態のハンティングトン病(HD)遺伝子を異所的に発現する動物は、HD患者と同様の神経病理学的症状を示す。これらのようなモデルは、後記に開示するようないずれの候補治療薬剤の効能の評価にも使用できる。一般に、アッセイでは少なくとも2グループの動物を用い、そのうち、少なくとも1つのグループは、候補モジュレーション物質を含まない投与ビヒクルが投与される対照群である。
【0095】
1つの実施形態において、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) その候補治療薬剤に対するその動物の応答を測定し;
(c) その動物の応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定することを含む上記方法を提供する。1つの好ましい実施形態において、その動物はマウスである。
【0096】
別の実施形態において、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) 細胞内シグナル伝達経路と相互作用する神経伝達物質の投与に対するその動物の応答を測定し;
(c) その動物の応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定することを含む上記方法を提供する。1つの好ましい実施形態において、その動物はマウスである。別の実施形態において、この細胞内シグナル伝達経路は、ドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチドまたはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路である。
【0097】
別の実施形態において、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) ドーパミン投与に対するその動物の応答を測定し;
(c) その動物のドーパミン投与に対する応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定する
ことを含む上記方法を提供する。1つの好ましい実施形態において、その動物はマウスである。
【0098】
別の実施形態において、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害の治療に使用するための候補治療薬剤の選定方法であって、
(a) 候補治療薬剤を動物に投与し;
(b) その動物の応答を測定し、そこにおいて、その応答は、
(i) 水平自発運動活性について試験期間の間に探索行動を示すこと;
(ii) メタンフェタミン治療剤の投与の後に機能亢進を示すこと;
(iii) モーリスの水迷路の習得における経路長;
(iv) その動物からの線条体切片におけるホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの変化;
(v) その動物からの側坐核切片におけるホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの変化
からなる群から選択されるものであり;
(c) その動物の応答を、その候補治療薬剤が投与されていない対照動物の応答と比較し;
(d) その動物とその対照動物との間で見られる応答の差に基づいて、候補治療薬剤を選定する
ことを含む上記方法を提供する。1つの好ましい実施形態において、その動物はマウスである。
【0099】
本発明の別の態様は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療において使用する可能性のある治療薬剤の選定方法であって、推測される治療薬剤を動物モデルに投与し、その障害と関連すると考え得るその動物モデルの表現型の特徴のいずれかに対するその推定治療薬剤の作用を測定および/または判定することを含む上記方法である。
【0100】
候補治療薬剤は、試験応答と正常(すなわち生来または野生型の)応答との間に統計学的な有意性があるか否かに基づいて選定される。測定/判定される特徴に統計学上有意な変化を示す候補治療薬剤が選定される。1つの好ましい実施形態において、治療薬剤の存在下での野生型動物の応答は、その薬剤が投与されていない野生型動物の応答とは特徴的に異なる。
【0101】
本発明のさらに別の態様は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療において使用の可能性が治療薬剤の選定方法であって、推測される治療薬剤をその障害の動物モデルに投与し、その障害と関連すると考え得る上記で概記した特徴のいずれかに対するその推定治療薬剤の作用を測定および/または判定することを含む上記方法である。
【0102】
別の実施形態において、この薬剤は、D1受容体アゴニストと共に投与される。次に、PDE1B活性のモジュレーションの量(および/または速度)を測定する。この薬剤の不在下で例えばD1受容体アゴニストを投与すると、PDE1B、DARPP-32およびGluR1 AMPA受容体の活性が増大するはずなので、薬剤は、この薬剤の存在下での活性化の量(および/または速度)がこの薬剤の不在下での場合と比較して有意に増大または低下した場合には、PDE1Bの活性をモジュレートできるものとして同定される。
【0103】
別の実施形態において、D1受容体アンタゴニストと共に投与される。次に、PDE1B活性のモジュレーションの量(および/または速度)を測定する。この薬剤の不在下でD1受容体アンタゴニストを投与すると、PDE1B、DARPP-32およびGluR1 AMPA受容体の活性が低下するはずなので、薬剤は、この薬剤の存在下での活性化の量(および/または速度)がこの薬剤の不在下での場合と比較して有意に増大または低下した場合には、PDE1Bの活性をモジュレートできるものとして同定される。
【0104】
特定の実施形態において、異なる構造骨格(例えばプリン)に基づく化合物のコンビナトリアルライブラリーならびに無関係の天然に存在する化合物が薬物候補として試験できる。このタイプの1つの好ましい実施形態において、このアッセイは、ハイスループット法を用いて、本明細書で開示されるような自動化されたロボットによる技法により行われる。陽性の結果(「ヒット」)は、対照の反応(薬物候補はアッセイに含められていない)と比較した場合のPDE1Bの活性の低下または増大に該当する。
【0105】
薬物候補が選定されたら、この薬物候補の構造改変体を試験することができる。これらの化合物は、膜透過性、作用の特異性および毒性などのパラメーターを用いて調べたり修飾することも可能である。次いで、この二次スクリーニングの選定された(例えば最も強力な)化合物を、in situおよび動物モデル(セクション5.5を参照)で評価して、選定した化合物が、最低限の副作用で、または全く副作用を起こさずに、PDE1Bの活性を変化させるか否か、および/または推定される行動の変化を誘導するか否か、を判定することができる。そうした行動の異常性としては、限定するものではないが、本明細書で開示されているような自発運動活性または学習および記憶を試験すること(例えば、Kostenら, J. Pharmacol., Exp. Ther. 269:137-144 (1994);Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)も参照;それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)、ならびに/または選択した薬剤の自己投与もしくはプレパルス抑制(例えば1998年7月7日発行の米国特許第5,777,195号を参照;これは参照により全体が本明細書に組み入れられる)が挙げられる。特定の実施形態において、当業界で一般的に知られている抗うつ剤の効能の試験方法、例えば齧歯類の尾懸垂試験が使用できる。
【0106】
次に、これらの試験に続いて、臨床研究におけるヒトでの治験を行う。あるいはまた、特定の実施形態では、臨床研究におけるヒトでの治験は、動物での試験を行わずに実施することが可能である。PDE1B以外の標的に影響を及ぼす化合物もまた、後記で例示する別の標的を用いて同様にスクリーニングできる。
【0107】
あるいはまた、PDE1B活性のモジュレーション物質(例えば活性化剤または阻害剤)は、例えば組換バクテリオファージにより得られるランダムペプチドライブラリー(例えば、ScottおよびSmith, Science 249:386-390 (1990);Cwirlaら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-6382 (1990);Devlinら, Science 249:404-46 (1990)を参照)または化学的ライブラリーをスクリーニングすることにより得ることができる。「ファージ法」を用いると、非常に大きなライブラリー(106〜108個の化学的要素)を構築することができる。第2のアプローチとしては、化学的方法が使用でき、Geysen法(Geysenら, Molecular Immunology 23:709-715 (1986);Geysenら, J. Immunologic Method 102:259-274 (1987))およびFodorらの方法(Science 251:767-773 (1991))がその例である。Furkaら(14th international Congress of Biochemistry, 第5巻, 要旨集 FR:013 (1988);Furka, Int. J. Peptide Protein Res. 37:487-493 (1991))、Houghton(1986年12月発行の米国特許第4,631,211号)およびRutterら(1991年4月23日発行の米国特許第5,101,175号)は、ペプチドの混合物の生成方法を開示している。そのようなペプチドは、PDE1B活性の候補モジュレーション物質として試験することができる。
【0108】
別の態様において、本発明によれば、合成ライブラリー(Needelsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10700-4 (1993);Ohlmeyerら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:10922-10926 (1993);Lamら, 国際特許出願WO92/00252号;Kocisら, 国際特許出願WO94/28028号;それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)などを用いて、PDE1B活性化のモジュレーション物質についてスクリーニングできる。候補モジュレーション物質が同定されたら、化学的類似体を、市販されているような化学物質のライブラリー(例えばChembridge Corporation, San Diego, CAまたはExotec OAI, Abingdon, UKから販売されているもの)から選定することができるし、あるいはde noveで合成できる。候補薬剤(薬物)は、いずれかの標準的なアッセイに入れて、PDE1B活性化の活性についての作用を試験することができる。次に、PDE1B活性化の活性をモジュレートできる薬物を選定する。
【0109】
また、本発明は、小分子およびそれらの類似体のスクリーニング、ならびに例えばD1受容体またはPDE1Bにin vivoで結合してそれを抑制または活性化する分子のようなPDE1Bの天然のモジュレーション物質のスクリーニングを包含する。あるいはまた、天然の生成物のライブラリーが、例えばD1受容体またはPDE1Bの活性をモジュレートする分子についての本発明のアッセイを用いてスクリーニングできる。
【0110】
1つの特定のアッセイにおいて、例えばPDE1Bなどの標的は、固相支持体に結合させることができる。そのような標的を固相支持体に配置する方法は当業界では周知であり、ビオチンを標的に結合させアビジンを固相支持体に結合させることが挙げられる。固相支持体は、洗浄して未反応の種を除去することができる。標識した候補モジュレーション物質(例えば阻害剤)の溶液を固相支持体に接触させることができる。固相支持体は、再度洗浄して、その支持体に未結合の候補モジュレーション物質を除去する。固相支持体に残っており、したがって標的に結合している標識した候補モジュレーション物質が測定できる。あるいはまた、またはさらに、例えば標識した候補モジュレーション物質と標的との解離定数を測定することができる。標的または候補モジュレーション物質の適切な標識は、本明細書中に開示されている。
【0111】
本発明の別の態様において、候補モジュレーション物質は、Thr34 DARPP-32のPKAによるリン酸化もしくはPP2Bによる脱リン酸化を、またはSer845-GluR1 AMPA受容体のPKAによるリン酸化もしくはSer845-GluR1 AMPA受容体の脱リン酸化をモジュレートするその能力について、本明細書に開示されているような結合アッセイとは別に、または該結合アッセイの後でアッセイすることができる。1つのそうした実施形態において、Thr34 DARPP-32またはThr34残基を含むその断片のリン酸化または脱リン酸化の量および/または速度が測定される。別の実施形態において、Ser845 GluR1 AMPA受容体またはSer845残基を含むその断片のリン酸化または脱リン酸化の量および/または速度が測定される。そうしたアッセイは、当業界では公知である。特定の実施形態において、Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)(それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)またはYanら(1999, Nature Neurosci. 3:13-17)に開示されている方法が用いられる。別の実施形態において、Yanらの方法(1999, Nature Neurosci. 3:13-17)を用いて、AMPA受容体活性についてアッセイすることができる。したがって、本発明の方法によれば、次に、細胞内シグナル伝達分子の活性をモジュレートするPDE1B活性のモジュレーション物質を選定する。
【0112】
別の実施形態において、(セクション6に開示されているようにして)候補モジュレーション物質を線条体組織切片に添加することができる。組織サンプルは、各種濃度の候補モジュレーション物質で処理することができ、次に、そのサンプルをPDE1Bの活性について分析することができる。PDE1B活性の候補モジュレーション物質は、例えば、試薬を含有するクレブス重炭酸緩衝溶液中でインキュベートした即時調製新線条体切片を処理することにより、無傷のニューロンについてin situで試験することができる。これらの化合物の作用は、最適濃度およびインキュベーション時間を経験的に規定することにより試験することができる。1つの特定の実施形態において、線条体組織のホモジネートをイムノブロット分析に供する。
【0113】
5.2.1 ホスホジエステラーゼについての酵素アッセイ
本発明の方法によれば、限定するものではないがPDE1Bを含むカルモジュリン依存性ホスホジエステラーゼ(CaM-PDE)の阻害剤および活性化剤は、当業界で一般的に知られている方法を用いて検出し単離し、かつ/または単離した酵素の直接アッセイにより同定することができる。そうしたアッセイは当業者には周知である。
【0114】
例えば、1つの実施形態において、Thompsonらの方法(1971, Multiple cyclic nucleotide phosphodiesterase activities from rat brain. Biochemistry 10:311-316)を用いて、PDE活性についてアッセイすることができる。1つの態様において、cAMPまたはcGMPのいずれかが基質としてこのアッセイで使用できる。特定の実施形態において、まず、例えばSwinnenら(1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:8197-8201)に記載されているようなプロテアーゼ阻害剤の混合物を含有する緩衝液中で組織をホモジナイズする。
【0115】
PDE1Bは、脳のホモジネートから、標準的な方法を用い、例えばAB-1655ウサギ抗カルモジュリン依存性ホスホジエステラーゼ1B1アフィニティー精製抗体(Chemicon)などの市販の抗体を用いて免疫沈降させることができる。
【0116】
別の実施形態において、PDE1Bは、ウシ脳から、イオン交換クロマトグラフィーおよびカルモジュリンセファロースでのアフィニティークロマトグラフィーを用いて単離できる(Sharma, R.K., T.H. Wangら, (1980). “Purification and properties of bovine brain calmodulin-dependent cyclic nucleotide phosphodiesterase” J Biol Chem 255(12):5916-23)。
【0117】
別の実施形態において、CaM-PDE mRNAのクローン化cDNAコピーを用いて、バキュロウイルス内でエピトープタグ付け酵素を発現させることができ、この酵素は昆虫細胞抽出物からアフィニティ精製することができる。Sonnenburgらは、PDE1A酵素についてのこの手法を記載しており(Sonnenburg, W.K., D. Segerら. (1995). “Identification of inhibitory and calmodulin-binding domains of the PDE1A1 and PDE1A2 calmodulin-stimulated cyclic nucleotide phosphodiesterases”. J Biol Chem 270 52):30989-1000)、それはPDE1Bに容易に適合させることができる。
【0118】
哺乳動物のホスホジエステラーゼもまた、PDE欠損酵母内で発現させることができる(Engels, P.M. Sullivanら, (1995). “Molecular cloning and functional expression in yeast of a human cAMP-specific phosphodiesterase subtype (PDE1V-C)” FEBS Lett 358(3):305-10;Atienza, J.M.およびJ. Colicelli (1998). “Yeast model system for study of mammalian phosphodiesterases” Methods 14(1):35-42)。組換え酵母におけるCaM-PDEの発現もまた、Loughneyらにより記載されている方法(1996, “Isolation and characterization of cDNAs corresponding to two human calcium, calmodulin-regulated, 3’,5’-cuclic nucleotide phosphodiesterases” J Biol Chem 271(2):796-806)に従って行うことができる。
【0119】
CaM-PDEの過剰発現は、当業界で一般的に知られている方法に従って行うことができる。1つの実施形態において、CaM-PDEの過剰発現は、トランスフェクトした哺乳動物細胞内で、pcDNA3などのベクターを用いて行われる。この実施形態の1つの態様においては、CaM-PDEの過剰発現により、クローン化酵素の阻害を研究するための手段が得られ、これは、トランスフェクト細胞を非トランスフェクト細胞と比較することによるものである(Yan, C., A.Z. Zhaoら, (1996). “The calmodulin-dependent phosphodiesterase gene PDE1C encodes several functionally different splice variants in a tissue-specific manner” J Biol Chem 271(41):25699-706)。
【0120】
CaM-PDE活性は、当業界で一般的に知られている方法に従ってアッセイすることができる。放射標識したcAMPまたはcGMPのホスホジエステラーゼ切断を用いて、ホスホジエステラーゼの阻害剤を検出することができる。1つの実施形態において、このホスホジエステラーゼ活性についてのアッセイは、標識アデノシンの回収と、それに続く2段階生化学的アッセイに基づくものである。第1のステップでは、ホスホジエステラーゼが[3H]環状AMPを[3H]5’-AMPへと加水分解する。第2のステップでは、蛇毒5’-ヌクレオチダーゼを添加して、その[3H]5’-AMPを[3H]アデノシンへと変換する。標識アデノシンを、アニオン交換またはアフィニティクロマトグラフィーにより[3H]環状AMPから分離し、次に液体シンチレーションカウンティグにより検出する。cAMP特異的ホスホジエステラーゼPDE4についての1つのそのようなアッセイは、HansenおよびBeavo(1982, “Purification of two calcium/calmodulin-dependent forms of cyclic nucleotide phosphodiesterase by using conformation-specific monoclonal antibody chromatography” Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79(9):2788-92)により記載されており、DanielsおよびAlvarez(1996, “A semiautomated method for the assay of cyclic adenosine 5’-monophosphate phosphodiesterase” Anal Biochem 236(2):367-9)によりハイスループット用に修正が加えられている。
【0121】
これらのアッセイは、当業界で公知の方法に従って、カルシウム/カルモジュリン依存性PDE1B酵素の阻害剤を検出するように修正を加えることが可能である。例えば、1つの実施形態において、CaCl2(0.2mM)およびカルモジュリン(4μg/ml)をアッセイに添加する。半精製された混合物中のPDE1B活性は、カルシウムおよびカルモジュリンの存在下でのホスホジエステラーゼ活性を1mMのEGTAの存在下で測定される活性と比較することにより検出できる。
【0122】
別の実施形態において、ハイスループット法を用いて、例えばDanielsおよびAlvarezの方法(1996, “A semiautomated method for the assay of cyclic adenosine 5’-monophosphate phosphodiesterase” Anal Biochem 236(2):367-9)を用いて、CaM-PDEアッセイを行うことができる。特定の実施形態において、そのようなアッセイもまた、修正を加えて一段階法にすることができる。この一段階法では、蛇毒ホスホジエステラーゼを用いた3H-AMPのアデノシンへの変換は行わない。その代わり、アルカリ性pHでのアルミナまたはボロネート(boronate)樹脂を用いたアフィニティクロマトグラフィーにより[3H]環状AMPから3H-AMPを分離させる(Smith, B.J., M.R. Walesら, (1993). “A phosphodiesterase assay using alumina microcolumns” Anal Biochem 214(1):355-7;Duplantier, A.J., C.J. Andresenら, (1998). “7-Oxo-4,5,6,7-tetrahydro-1H-pyrazolo[3,4-c]pyridines as novel inhibitors of human eosinophil phosphodiesterase” J Med Chem 41(13):2268-77;Burnouf, C., E. Auclairら, (2000). “Synthesis, structure-activity relationships, and pharmacological profile of 9-amino-4-oxo-1-phenyl-3,4,6,7-tetrahydro[1,4]diazepino[6,7,1-hi]indoles: discovery of potent, selective phosphodiesterase type 4 inhibitors” J Med Chem 43(25):4850-67)。
【0123】
5.2.2 キナーゼおよびホスファターゼについての酵素アッセイ
キナーゼ活性は、当業者に公知の種々の方法、例えばParker, Lawら, 2000, Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization: nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase assays, J. Biomolec. Screening 5(2):77-88;Baderら,(2001, Journal of Biomolecular Screening 6(4):255-64);Liu, F., X.H. Maら, (2001). “Regulation of cyclin-dependent kinase 5 and casein kinase 1 by metabotropic glutamate receptors” Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America 98(20):11062-8;Evans, D.B., K.B. Rankら, (2002). “A scintillation proximity assay for studying inhibitors of human tau protein kinase II/Cdk5 using a 96-well format” Journal of Biochemical & Biophysical Methods 50(2-3):151-61)に開示されているような方法によりモニターできる。
【0124】
そのような方法を用いて、関心のあるキナーゼを含むサンプルを、適切な条件下で放射性ATPおよび適切な組成の合成ペプチド基質に暴露して、リン酸化の部位を付与する。次に、このペプチドに新たに結合する放射性リン酸を測定する。基質ペプチドに共有結合により結合させてあるビオチンなどの化学的部分の付加により、ストレプトアビジン被覆ビーズによる基質ペプチドの結合が可能になる。ビーズに結合したペプチドは単離して、結合している放射能を測定することができるか、あるいは、好ましくは、基質ペプチドに結合している放射能を、シンチレーション近似アッセイに適するビーズを用いて直接測定することができる。
【0125】
タンパク質ホスファターゼの活性は、当業者に公知の種々の方法、例えばCohenら(1988, Protein phosphatase-1 and protein phosphatase-2A from rabbit skeletal muscle, Methods Enzymolo 159:390-408)またはStewartおよびCohen(1988, Protein phosphatase-2B from rabbit skeletal muscle: a Ca2+-dependent, calmodulin-stimulated enzyme, Methods Enzymolo 159:409-16)に開示されている方法によりモニターすることができる。
【0126】
PDE1Bのモジュレーション物質はまた、DARPP-32リン酸化、すなわちSer137 DARPP-32リン酸化(CK1)、Thr75 DARPP-32リン酸化(Cdk5)もしくはThr34 DARPP-32リン酸化(PKA、PP2B、PP1)のモジュレーション物質をスクリーニングすることにより同定することができる。そのような方法は、Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)、ならびにFienbergらによる米国特許第5,777,195号(1998年7月7日発行)に開示されており、それらは参照により全体が本明細書に組み入れられる。
【0127】
5.2.3 他のリン酸化アッセイ
ペプチド基質のリン酸化は、リン酸特異的抗体(phosphospecific antibodies)の直接結合、または競合リン酸化ペプチド由来のリン酸特異的抗体の置換の測定(例えば、Parker, Lawら, 2000, Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization: nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase assays, L. Biomolec. Screening 5(2):77-88 を参照)によっても検出することができる。蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)または蛍光偏光(FP)などの蛍光法を用いて、特定のリン酸化ペプチド−抗体複合体を検出することができる。これらの方法には、結合している種の単離に依存するのではなくて、溶液中の特定の結合により起こる蛍光の変化に依存する「相同(homogenous)」な検出を用いる、という利点がある。
【0128】
リン酸特異的抗体の作製方法は、当業界で周知である。1つの実施形態において、Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)(それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)に開示されている方法を用いて、例えばThr34-リン酸化DARPP-32などに対する特異性を有するリン酸化状態特異的抗体を作製することができる。
【0129】
ホスホセリン、ホスホトレオニンまたはホスホチロシンに対するリン酸化状態特異的抗体は市販されている。これらの抗体は、タンパク質が、全体として、およびその残基でリン酸化されているか否かの判定に有用である。そのような抗体は、商業的供給元から入手可能である(例えば、Santa Cruz Biotechnology Inc. Sigma RBI、Stratagene、Upstate BiotechnologyおよびZymedを含む商業的供給元の一覧については、Smith, The Scientist 15[4]:24, 2001年2月19日を参照)。
【0130】
蛍光共鳴エネルギー転移、すなわちFRETは、高分子の特定の結合を検出できる相同アッセイで広く用いられる。FRETは、励起された「ドナー」蛍光分子(フルオロフォア)の、それらのエネルギーを近傍の「アクセプター」フルオロフォアへと転移させる能力に依存するものであり、発光には依存しない。したがって、2種のフルオロフォアが、基質標的への結合によって空間的に近接すると、通常のドナーの波長において発する蛍光は減少し、アクセプターフルオロフォアが発する蛍光が増大する。ドナーの蛍光の減少またはアクセプターの蛍光の増大のいずれを用いても、結合事象を測定することができる。
【0131】
1つの実施形態において、Baderら(2001, A cGMP-dependent protein kinase assay for high throughput screening based on time-resolved fluorescence resonance energy transfer, Journal of Biomolecular Screening 6(4):255-64)に開示されている方法を用いて、例えばホスホジエステラーゼ、キナーゼまたはプロテインホスファターゼの活性を測定することができる。Baderらは、時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(「FRET」)に基づくハイスループットスクリーニングのためのcGMP依存性プロテインキナーゼアッセイを開示しており、これは、当業者であれば理解するであろうが、ホスホジエステラーゼまたはプロテインホスファターゼのアッセイ用に適合させることができる。関心のあるキナーゼを含むサンプルを、ATPとキナーゼ特異的リン酸化部位およびアミノ末端ビオチン部分を有する合成ペプチド基質とに暴露する。リン酸化されたペプチドは、アロフィコシアニン標識ストレプトアビジン、リン酸化ペプチド特異的抗体およびユーロピウムキレート標識二次抗体を用いて検出される。ストレプトアビジンとリン酸特異的抗体がリン酸化基質分子へ同時に結合すると、二次抗体上のユーロピウムキレート「ドナー」は、615nmでのユーロピウムの発光の低下および665nmの波長でのアロフィコシアニンの発光の増大として測定可能な蛍光共鳴エネルギー転移が起こるのに十分にアロフィコシアニンフルオロフォア「アクセプター」に近接するようになる。ユーロピウム−アロフィコシアニンのドナー−アクセプター対は、励起されたユーロピウムの長い蛍光寿命を利用するために一般に使用されており、かくして、シグナルは「時間分解」される。
【0132】
クマリンおよびフルオレセインイソチオシアナートなどの他のフルオロフォアの対が使用可能である。蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)に関わり得る分子の対は、FRET対と呼ばれる。エネルギー転移が起こるためには、ドナー分子およびアクセプター分子は、典型的には近接していなければならない(70〜100Å以下(Clegg, 1992, Methods Enzymol. 211:353-388;Selvin, 1995, Methods Enzymol. 246:300-334))。エネルギー転移の効率は、ドナー分子とアクセプター分子との距離が遠くにつれて急速に低下する。FRETで通常用いられる分子としては、フルオレセイン、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)、2’7’-ジメトキシ-4’5’-ジクロロ-6-カルボキシフルオレセイン(JOE)、ローダミン、6-カルボキシローダミン(R6G)、N,N,N’,N’-テトラメチル-6-カルボキシローダミン(TAMRA)、6-カルボキシ-X-ローダミン(ROX)、4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸(DABCYL)、および5-(2’-アミノエチル)アミノナフタレン-1-スルホン酸(EDANS)が挙げられる。フルオロフォアがドナーであるかアクセプターであるかは、その励起スペクトルおよび発光スペクトルならびにそれが対合するフルオロフォアによって決まる。例えば、FAMは、波長が488nmの光によって最も効率的に励起され、500〜650nmのスペクトルの光を発し、最大発光は525nmである。FAMは、JOE、TAMRAおよびROX(それらは全て、最大励起が514nm)との使用に好適なドナーフルオロフォアである。
【0133】
蛍光偏光測定もまた、ホスホジエステラーゼ、プロテインキナーゼまたはホスファターゼの活性の測定に使用できる(例えば、Parker, Lawら, 2000, Development of high throughput screening assays using fluorescence polarization: nuclear receptor-ligand-binding and kinase/phosphatase assays, J. Biomolec. Screening 5(2):77-88;Turekら, 2001, Anal. Biochem. 299:45-53を参照)。大きな特定の抗体が小さな蛍光リン酸化ペプチドへ結合すると、その回転速度(tumbling rate)が示され、蛍光偏光を増大させる。したがって、蛍光偏光は、結合している蛍光リン酸化ペプチドの量に比例する。このアッセイは競合モードで使用することができ、この場合、一定濃度の蛍光ペプチドおよび抗体を生物学的サンプルに添加し、非蛍光リン酸化タンパク質の存在を、シグナルの低下分として記録する。また、それは直接結合モードでも使用することができ、この場合、リン酸の付加(例えばキナーゼによる)または除去(例えばホスファターゼによる)により、抗体の結合がモジュレートされ、その結果として偏光シグナルがモジュレートされる。1つの特定の実施形態において、蛍光偏光アッセイは、Turekらの方法(2001, Anal. Biochem. 299:45-53)を用いて行われ、この場合、生成物特異的で抗リン酸化ペプチド特異的なペプチド(例えば抗ホスホセリン)抗体が使用される。
【0134】
別の実施形態において、リン酸化についての細胞ベースのアッセイが用いられる。1つの特定の実施形態において、タンパク質のリン酸化に基づくシグナル伝達は、in vivoで、例えば単一の生細胞内で、蛍光指示物質を使用し、Satoら(2002, Fluorescent indicators for imaging protein phosphorylation in single living cells, Nature Biotechnology 20(3):287-94)に開示されているような方法を用いて可視化される。そのようなセンサーは、フレキシブルなリンカーにより隔てられている2つの蛍光タンパク質分子からなる。このリンカーペプチドは、リン酸化部位およびリン酸化タンパク質認識エレメントを含む。リンカーがリン酸化されると、それら2つの蛍光部分を近接させるようにコンフォメーションが変化し、FRETが起こり、系の蛍光出力が変化する。
【0135】
5.3 PDE1B活性をモジュレートする薬剤
本発明はまた、限定するものではないが後記で開示されている以下の薬剤、薬物、化合物または小分子を含む、PDE1Bの活性をモジュレートするための組成物を提供する。また、本発明は、限定するものではないが後記で開示されている以下の薬剤、薬物、化合物または小分子を含む、PDE1Bの活性のモジュレートによってDARPP-32またはGluR1 AMPA受容体の活性をモジュレートするための組成物を提供する。また、本発明は、限定するものではないが後記で開示されている以下の薬剤、薬物、化合物または小分子を含む、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を治療する方法で使用するための組成物であって、PDE1Bの活性をモジュレートする該組成物を提供する。
【0136】
上記で開示されているように、いかなる理論にも拘束されるものではないが、本発明の1つの態様において、ドーパミンD1受容体は、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路を介してDARPP-32のリン酸化を媒介する。本発明によれば、ドーパミンD1受容体が活性化されると、アデニリルシクラーゼの活性化(およびcAMPの増大)が起こる。cAMPは、プロテインキナーゼA(PKA;cAMP依存性プロテインキナーゼ)を活性化し、このプロテインキナーゼAは、DARPP-32やCREBなどの下流のシグナル伝達経路エレメントをリン酸化する。これらのシグナル伝達経路は、限定するものではないがcAMPをその5’-一リン酸へと加水分解するPDE1Bを含むホスホジエステラーゼ(PDE)によりダウンレギュレートされるか拮抗的に阻害される。
【0137】
本発明の別の態様において、カルシウム調節型PDE1Bは、ドーパミン調節型細胞内シグナル伝達経路と、限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む別の細胞内シグナル伝達経路との間の活性を調節するための仲介物質である。
【0138】
したがって、本発明の方法により同定される、上記のドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路における相互作用に影響を及ぼす化合物はいずれも、PDE1B関連障害またはドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害の治療剤の基剤として役立ち得、したがって、そのような相互作用に関与する全てのタンパク質もまた、本明細書中で記載されているアッセイに使用可能である。
【0139】
当業者であれば、本発明の方法においてPDE1B活性をモジュレートできるものとして同定されたなら、その化合物は、PDE1B活性が関与している可能性がある症状を治療するために、例えばニューロンなどの細胞におけるPDE1B活性を治療目的でモジュレートするのに使用可能であることが理解されるであろう。そのような症状としては、限定するものではないが、ドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路が挙げられる。
【0140】
本発明はさらに、PDE1Bの活性をモジュレートできる薬物を開発し、ひいては、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を改善するための、合理的薬物設計を実施するための方法を提供する。そのような合理的薬物設計は、出発点としてPDE1の阻害剤(または活性化剤)として同定されている化合物を使用することにより実施することができる。したがって、本発明は、より特異的な阻害剤(または活性化剤)が同定できるようにするためのスクリーニングおよびアッセイを提供する。そのような合理的薬物設計の方法は、当業界では周知である。1つの特定の実施形態において、Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)(参照により全体が本明細書に組み入れられる)に開示されている合理的薬物設計方法が用いられる。
【0141】
実際には、候補モジュレーション物質は、GRAM、DOCKまたはAUTODOCK(Dunbrackら, Folding& Design 2:27-42(1997))などのドッキングプログラムを用いたコンピューターモデリングの使用により調べて、候補PDE1Bのモジュレーション物質を同定することができる。次いで、これらのモジュレーション物質は、PDE1B活性に対する作用について試験することができる。この手順は、候補モジュレーション物質をPDE1B複合体に対してコンピューターフィッティング(コンピューターによる当てはめ)を行って、その候補モジュレーション物質の形状および化学的構造が如何にうまくPDE1Bに結合するかを確認することを含み得る(例えば、Buggら, 1993, Scientific American (12月) 269(6):92-98;Westら, TIPS, 16:67-74(1995)を参照)。また、このサブユニットとモジュレーション物質/活性化剤との吸引力(attraction)、斥力および立体障害を見積もるのにも、コンピュータープログラムが使用できる。一般に、厳密にフィッティングするほど立体障害は低く、吸引力が大きいほどその候補モジュレーション物質は強力である。何故ならば、これらの特性は、結合定数とより緊密に一致するからである。さらに、候補薬物の設計において特異的であるほど、その薬物が他のタンパク質と相互作用する可能性は低くなる。これにより、他のタンパク質との望ましくない相互作用による起こる副作用は最低限に抑えられる。
【0142】
まず、1種以上の候補類似体が同定されるまで、PDE1Bに結合することが判っている化合物をコンピューターモデリングプログラムにより系統的に修飾することができる。さらに、次に、1種以上の候補類似体が同定されるまで、選択された類似体の系統的な修飾をコンピューターモデリングプログラムにより系統的に改変することができる。そのような解析は当業者には周知であり、例えばHIVプロテアーゼ阻害剤の開発に有効であることが示されている(例えば、Lamら, Science 263:380-384 (1994);Wlodawerら, Ann. Rev. Biochem. 62:543-585(1993);Appelt, Perspectives in Drug Discovery and Design 1:23-48(1993);Erickson, Perspectives in Drug Discovery and Design 1:109-1281993)を参照)。
【0143】
その候補薬剤またはその候補薬剤の標的(例えばPDE1BまたはDARPP-32)はいずれも、標識することができる。好適な標識としては、酵素(例えばアルカリホスファターゼもしくは西洋ワサビペルオキシダーゼ)、フルオロフォア(幾つかのフルオロフォアを挙げるとすれば、例えばフルオレセインイソチオシアナート(FITC)、フィコエリトリン(PE)、テキサスレッド(TR)、ローダミン、遊離型もしくはキレート型のランタノイド系の塩(特にEu3+))、クロモフォア、放射性同位体、キレート剤、色素、金コロイド、ラテックス粒子、リガンド(例えばビオチン)、化学発光剤、磁気ビーズもしくは磁気共鳴画像化標識が挙げられる。対照のマーカーを用いる場合、受容体と対照マーカーに対して同一または異なる標識を用いることができる。
【0144】
同位体3H、14C、32P、35S、36Cl、51Cr、57Co、58Co、59Fe、90Y、125I、131Iおよび186Reなどの放射標識が用いられる実施形態では、当業界で公知の標準的な計数法を用いることができる。
【0145】
標識が酵素である実施形態では、検出は、現在用いられている当業界で公知の比色法、吸光分光法、蛍光分光法(fluorospectrophotometric)、電流滴定法または気体定量法のいずれかにより達成できる。
【0146】
直接標識は、本発明の方法に従って使用可能な標識の一例である。直接標識とは、天然の状態で、肉眼で(例えば、複合もしくは解剖光学顕微鏡による視覚的検査により)、または光学フィルターおよび/もしくは刺激の適用(例えば蛍光を増強するための紫外光)により容易に目に見ることができるものである。本発明の方法に従って使用可能な着色標識の例としては、例えばLeuvering(米国特許第4,313,734号)により開示されているような金ゾル粒子などの金属ゾル粒子;Gribnauら(米国特許第4,373,932号)およびMayら(WO88/08534)により開示されているような色素ゾル粒子;Mayら(WO88/08534)、Snyder(欧州特許A 0280 559号および同0281 327号)により開示されているような着色ラテックス;またはCampbellら(米国特許第4,703,017号)により開示されているようなリポソームに封入されている色素が挙げられる。
【0147】
他の直接標識としては、放射ヌクレオチド(radionucleotide)、発光性成分、または限定するものではないが緑蛍光タンパク質の修飾/融合キメラ(1997年4月29日発行の米国特許第5,625,048号および1997年7月24日公開のWO97/26333(それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)に開示されているようなもの)を含む蛍光性成分が挙げられる。
【0148】
これらの直接標識デバイスに加えて、酵素を含む間接標識もまた本発明に従って使用可能である。種々のタイプの固定酵素イムノアッセイが当業界では周知であり、例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、リゾチーム、グルコース-6-ホスフェートデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼまたはウレアーゼを用いる固相酵素イムノアッセイが挙げられる。これらおよび他の同様のアッセイは当業界では周知であり、例えばEngvall(1980, Methods in Enzymology, 70:419-439の”Enzyme Immunoassay ELISA and EMIT”)および米国特許第4,857,453号に開示されている。
【0149】
特定の実施形態において、タンパク質は、代謝標識(metabolic labeling)により標識できる。代謝標識は、[35S]-メチオニンまたは[32P]-オルトリン酸などの代謝標識を補充した培地の存在下でタンパク質を発現する細胞のin vitroインキュベーションの間に起こる。[Cl2]-メチオニンによる代謝(すなわち生合成)標識に加え、本発明はさらに、[14C]-アミノ酸および[3H]-アミノ酸(不安定でない位置でトリチウムで置換されている)による標識が想定される。(例えば、Bibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/419,379号(1999年10月15日出願)、およびBibbらによる”Methods of Identifying Agents That Regulate Phosphorylation/Dephosphorylation in Dopamine Signaling”という標題の米国特許出願第09/687,959号(2000年10月13日出願)を参照;参照により全体が本明細書に組み入れられる)。
【0150】
5.4 診断方法および治療方法
本明細書で開示されているように、本発明は、PDE1Bの活性または発現をモジュレートする薬剤、薬物、化合物および組成物を提供する。また、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害を治療する方法であって、PDE1Bの活性を変化させる薬剤をその患者に投与することを含み、PDE1B活性がDARPP-32および/またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化をモジュレートする該方法を提供する。
【0151】
本発明は、有効量の本発明の化合物を投与してPDE1B活性をモジュレートすることを含む、個体(例えば患者)または動物被験体における、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を治療する方法を提供する。1つの実施形態において、その薬剤は、PDE1Bの活性を促進または増大させる。別の実施形態において、その薬剤はPDE1Bの活性を抑制または低下させる。特定の実施形態において、その薬剤は、PDE1B活性のモジュレーションによって、ドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性を促進(もしくは増大)または抑制(もしくは低下)させる。
【0152】
特定の実施形態において、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害を治療する方法であって、PDE1Bの活性をモジュレートする薬剤をその患者に投与することを含み、DARPP-32のThr34におけるリン酸化および/またはGluR1 AMPA受容体のSer845におけるリン酸化がモジュレートされる該方法を提供する。特定の実施形態において、その薬剤は、PDE1Bに結合することによってPDE1Bの活性をモジュレートする。
【0153】
1つの実施形態において、そのような治療が必要な被験体に、PDE1B活性をモジュレートし、かつDARPP-32の活性、GluR1 AMPA受容体の活性、および/または限定するものではないがドーパミンD1受容体、ドーパミンD2受容体、一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸(例えばNMDA受容体、AMPA受容体)、GABA、アセチルコリン、アデノシン(例えばA2A受容体)、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートするのに十分な量の本発明の化合物を投与する。
【0154】
本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の症状を示す患者または被験体における、その症状を改善することができる本発明の薬剤(または薬物または化合物)の投与方法を提供する。特定の実施形態において、本発明は、上記の症状を示す患者または被験体における、本明細書で開示されている方法により同定される該障害の症状を改善することができる薬剤の投与方法を提供する。
【0155】
別の実施形態において、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害を治療する方法であって、PDE1Bの活性をモジュレートする薬剤をその患者に投与することを含み、DARPP-32および/またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化がモジュレートされる該方法を提供する。1つの特定の実施形態において、PDE1活性は抑制される。
【0156】
別の実施形態において、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療が必要な患者におけるその障害を治療する方法であって、PDE1Bの活性をモジュレートし、かつThr34-リン酸化DARPP-32のリン酸化をモジュレートする薬剤をその患者に投与することを含んでなる該方法を提供する。
【0157】
別の実施形態において、本発明は、GluR1 AMPA受容体のリン酸化依存的活性化の増大または低下を特徴とする障害を治療する方法であって、PDE1Bの活性をモジュレートすることができる化合物の有効量を投与することを含んでなる該方法を提供する。
【0158】
1つの特定の実施形態において、本発明の方法は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む、PDE1B関連および/またはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の障害を特徴とする症状および/または疾患状態に関連する障害の治療に使用される。
【0159】
1つの特定の実施形態において、本発明は、パーキンソン病の治療が必要な患者におけるパーキンソン病を治療する方法であって、PDE1B活性を抑制する薬剤をその患者に投与することを含み、Thr34-DARPP-32および/またはSer845-GluR1 AMPA受容体のリン酸化が増大する該方法を提供する。
【0160】
好ましくは、この治療する方法において投与される薬剤、化合物または組成物は、上記の障害、ひいては上記の症状または疾患の治療を可能にするのに十分な量かつ十分な速度で血液脳関門を通過することができる。1つのそのような実施形態において、この薬剤は、静脈内投与される。別の実施形態では、この薬剤は、経口投与される。さらに好ましくは、この薬剤は、担体がなくても血液脳関門を通過できる(投与の方法および経路については、セクション5.6を参照)。
【0161】
また、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を有すると疑われる被験体における、その障害の診断方法であって、その被験体からのサンプル中のPDE1B活性のレベルを測定することを含み、その被験体からのサンプル中のPDE1B活性のレベルがそのような障害を有しない患者からの対照サンプル中の対照PDE1B活性のレベルと比較して高ければ、その被験体がその症状を有していることが示される該方法を提供する。特定の実施形態において、その被験体はヒトである。
【0162】
特定の実施形態において、PDE1B活性のレベルは、DARPP-32のホスホ-Thr34またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845のリン酸化を測定することにより求められる。他の実施形態において、PDE1B活性のレベルはPDE1B mRNAのレベルであり、このPDE1B mRNAのレベルは、当業界で周知の方法、例えばin situハイブリダイゼーションにより測定される。他の実施形態において、PDE1B活性のレベルはPDE1Bタンパク質もレベルであり、このタンパク質のレベルは、当業界で周知の方法、例えばイムノブロッティングにより測定される。
【0163】
また、本発明は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を有すると疑われる被験体におけるin vivoでのその障害の検出方法であって、
(a) PDE1Bを特異的に結合する薬剤を投与することであって、その薬剤は画像化方法により検出可能な標識と結合させてあること;
(b) 上記の投与の後で、その薬剤がその被験体内のPDE1Bに特異的に結合し、かつ未結合の薬剤がその被験体内でのバックグラウンドレベルから排除されるのに十分な時間にわたり洗浄すること;
(c) 次に、その被験体を、上記の画像化方法により画像化して、その被験体内のPDE1Bレベルを検出すること
を含む上記方法を提供する。特定の実施形態において、その被験体はヒトである。
【0164】
5.5 動物モデル
本発明の方法によれば、本発明のスクリーニング方法により同定された化合物を試験するのに、動物モデルを用いることが可能であり、この場合、その化合物は、動物モデルを用いて機能的有用性について試験される。本発明の方法によれば、動物モデルは野生型動物とすることができる(モデルとして、正常または野生型の生理学的状態または行動状態について)。あるいはまた、その動物モデルは、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む疾患または障害についてのモデルとすることができる。そのような動物モデルは、PDE1Bの活性をモジュレートする化合物または疾患もしくは障害の症状を改善する化合物をスクリーニングするためのアッセイにおいて使用できる。そのような動物は、マウス、ラット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウシなどとすることができ、好ましくはヒト以外の動物である。
【0165】
本発明によれば、特定の実施形態において、その動物またはそれに由来する組織が、細胞内レベルで、特に、限定するものではないが一酸化窒素、ノルアドレナリン作用、ニューロテンシン、CCK、VIP、セロトニン、グルタミン酸、GABA、アセチルコリン、アデノシン、カンナビノイド受容体、ナトリウム利尿ペプチド(例えばANP、BNP、CNP)またはエンドルフィンの細胞内シグナル伝達経路を含む細胞内シグナル伝達経路のレベルで作用する候補治療薬剤および/または治療レジメンのスクリーニングに利用できるように、神経系の生理学的調節が改変されている動物モデルを用いることができる。そのような動物モデルが示す欠陥のいずれかを逆転させることができる薬物は、細胞内シグナル伝達カスケードのどこかの箇所で作用し、したがって、治療目的で使用できる可能性がある。さらに、幾つかの欠陥が行動レベルで起こるので、これらに影響を及ぼしたり(affectation)改変すれば、そうした行動を変容させることにおける治療目的での使用の的中度(predictive value)が高くなる可能性がある。
【0166】
したがって、本発明の方法によれば、動物モデルは、健常者集団および罹患患者集団の両者に関わる種々のタンパク質リン酸化ステップの機構を解明するためのスクリーニングツールとして使用できる。したがって、例えば、動物モデルは、種々の神経学的疾患および障害に罹患している患者の治療に使用できる種々の候補治療戦略および治療薬剤に対する応答を評価するのに使用できる。
【0167】
動物モデルを使用すると、種々の小分子薬物が、効力の増強ならびに副作用の最小限化などの可能性のある有利な作用についてスクリーニングできる。そのようなスクリーニングの典型的な候補は、幾つかの市販の薬物ライブラリーのいずれからも入手できる。
【0168】
動物モデルが利用できる具体的な神経学的疾患および行動疾患としては、限定するものではないが、本明細書で開示されているように、PDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害が挙げられる。動物の内在性または外来性の薬剤に対する種々の特徴的な応答を利用し、これらの応答を候補治療薬剤で処置した動物と比較することにより、その候補治療薬剤の特定の疾患状態における有用性の評価を行うことができる。例えば、候補治療薬剤は、特定の疾患または症状の動物モデルに投与でき、ドーパミンに対するその応答をモニターできる。次に、正常な野生型マウスにおけるドーパミンに対する応答と比較することにより、その候補治療薬剤の有用性の指標を得ることができる。
【0169】
本発明の別の態様は、限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害の治療における使用の可能性についての治療薬剤の選定方法であり、この方法は、予測される治療薬剤を動物モデルに投与し、その障害に関連すると思われるいずれかの表現型の特徴に対するその推定治療薬剤の作用の測定および/または判定を行うことを含む。
【0170】
本発明のこの態様の1つの実施形態において、予想される治療薬剤を動物モデルに投与し、ドーパミンに対する試験応答をその動物モデルについて測定し、そこにおいて、治療薬剤の不在下での動物モデルの正常な応答は、野生型動物のものとは特徴的に異なる。候補治療薬剤は、試験応答と正常な応答との間に統計学的な有意性があるか否かに基づいて選定される。測定/判定された特徴に統計学的に有意な変化を示す、候補治療薬剤が選定される。1つの好ましい実施形態において、治療薬剤が不在下での動物モデルの応答は、その候補治療薬剤を投与していない野生型動物のものとは特徴的に異なる。
【0171】
本発明のさらに別の態様は、パーキンソン病の治療における使用の可能性についての治療薬剤の選定方法であって、予想される治療薬剤を動物モデルに投与し、パーキンソン病に関連すると思われる表現型の特徴のいずれかに対する予想治療薬剤の作用の測定および/または判定を行うことを含む該方法である。
【0172】
本発明の方法に従って使用可能な動物モデルとしては、限定するものではないが、後記で開示される動物モデルが挙げられる。
【0173】
1つの実施形態において、本明細書で開示されているようなホモ接合型のPDE1Bノックアウトマウスは、候補薬剤が本明細書で開示されているようなPDE1B活性をモジュレートすることを実証または確認するための追加の試験またはアッセイにおいて使用できる。1つの実施形態において、本発明は、その内在性PDE1B遺伝子にホモ接合型の破壊を含んでいるPDE1B欠損の動物モデル、例えばnullマウスすなわち「ノックアウト」マウスであって、その破壊は、機能性PDE1Bタンパク質の発現を阻止し、さらに、野生型PDE1B遺伝子を有するマウスと比較したそのノックアウトマウスの表現型は、cAMPまたはcGMP加水分解についてアッセイした場合に、PDE1B酵素活性が無いことを含む上記動物モデルを提供する。特定の実施形態において、その破壊は、PDE1B触媒部位のターゲティング破壊を含む。他の実施形態において、その破壊は、PDE1B遺伝子のコード領域への挿入を含む。
【0174】
このノックアウトマウスは、天然の状態では機能性PDE1Bをコードし発現する遺伝子の非機能的対立遺伝子を含んでいる。したがって、天然の状態では機能性PDE1Bをコードし発現する遺伝子の2つの非機能的対立遺伝子を含むノックアウトマウスは、機能性PDE1Bを発現することができない。
【0175】
非機能的対立遺伝子は、当業界で周知の幾つかの方法のいずれかで作製でき、それらは全て、本発明で使用できる。好ましい実施形態において、非機能的対立遺伝子は、外来DNAをPDE1B対立遺伝子のコード領域、好ましくは触媒ドメインのコード領域に挿入または置換することによって欠陥性になる。幾つかの実施形態において、インサートは、PDE1Bをコードする対立遺伝子の領域の転写が起こる前に転写を終結させるシグナルを含む。そのような実施形態において、コード領域からPDE1Bの触媒ドメインのDNA部分を除去し、それを上記のインサートで置換することがさらに好ましい。
【0176】
本発明のPDE1Bノックアウトマウスは、セクション6で開示されているように、ドーパミンに対する応答および/または機能亢進が増大していることを含む表現型を有する。他の実施形態において、ドーパミンに対する応答の増大は、DARPP-32のThr34および/またはGluR1 AMPA受容体のSer845におけるリン酸化の増大により明らかになる。
【0177】
他の実施形態において、野生型PDE1B遺伝子を有するマウスと比較したPDE1Bノックアウトマウスの表現型は、さらに、次のものからなる群から選択される表現型を有する:水平自発運動活性について、試験期間の最初の30分の間に有意により高い探索行動を示すこと、メタンフェタミン治療剤の投与の後に有意により高い機能亢進を示すこと、モーリスの水迷路の習得において有意に長い経路長を示すこと、D1受容体アゴニストを投与した際にそのマウスからの線条体切片においてホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの増大を示すこと、ならびに、D1受容体アゴニストを投与した際にそのマウスからの側坐核切片においてホスホ-Thr34またはホスホ-Ser845のレベルの増大を示すこと。当業者であれば、PDE1Bが例えば本発明の化合物の投与によって実験的に抑制されている野生型マウスは、特定の実施形態では、上記のPDE1Bノックアウトマウスの表現型の特徴の幾つかおよび/または全てを示すことが理解されよう。
【0178】
本明細書で開示されているように、本発明のPDE1Bノックアウト動物は、好ましくはマウスである。この理由は、マウスは、実験研究動物として特異な利点をもたらすからである。しかし、PDE1Bタンパク質を有する他の動物はいずれも、本発明の方法に適用できることが判るであろう。そのような動物は、マウス、ラット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウシなどとすることができ、好ましくはヒト以外の哺乳動物である。
【0179】
ノックアウトマウスの作製方法は当業界では周知である。その方法は、PDE1BをコードするゲノムDNAを得て、そのゲノムDNAおよびマーカー遺伝子を含むベクターを構築することを含み、そのマーカー遺伝子は、そのゲノムDNAのエキソン内部に配置される。次に、このベクターを胚性幹(ES)細胞にエレクトロポレートし、そのベクターがゲノムに組み込まれている胚性幹(ES)細胞を選択し、選択された細胞では、マーカー遺伝子がマウスゲノムのPDE1Bの遺伝子の内在性部位に組み込まれている。次に、この細胞をマウス未分化胚芽細胞に注入し、次にこれを偽妊娠雌性マウスに再移植し、これがその生殖細胞系の中にPDE1Bの欠損対立遺伝子を含むキメラマウスを産む。次に、このキメラマウスを標準的な近交系のマウスと交配させて、ヘテロ接合型のノックアウトマウスを作製する。次に、2匹のノックアウトマウスを交配させて、ホモ接合型のノックアウトマウス子孫を作製する。
【0180】
相同組換えによりターゲティング遺伝子改変を有する細胞の作製方法は、当業界では公知である(例えば、Chappel, 米国特許第5,272,071号;および1991年5月16日公開のPCT特許出願WO91/06667;米国特許第5,464,764号;Capecchiら, 1995年11月7日発行:米国特許第5,627,059号, Capecchiら, 1997年5月6日発行;米国特許第5,487,l992号, Capecchiら, 1996年1月30日発行を参照)。相同組換えベクターおよび相同組換え動物の構築方法は、さらにThomasおよびCapecchi, 1987, Cell 51:503;Bradley, 1991, Curr. Opin. Bio/Technol. 2:823-29;ならびにPCT特許公開WO90/11354、WO91/01140およびWO93/04169に記載されている。
【0181】
1つの実施形態において、本発明は、
(a) PDE1Bの一部をコードするゲノムDNAを得て;
(b) そのゲノムDNAとマーカー遺伝子を含むベクターを構築し、そこにおいて、そのマーカー遺伝子はそのゲノムDNAのエキソンに挿入され;
(c) そのベクターを、エレクトロポレーションによりマウスの胚性幹細胞に導入し;
(d) そのベクターが、内在性PDE1B遺伝子への相同組換えによりそのゲノムへ組み込まれているために、PDE1B遺伝子が破壊されている細胞を選択し;
(e) その細胞をマウス未分化胚芽細胞に注入し、それによりキメラ未分化胚芽細胞を形成し;
(f) その得られたキメラ未分化胚芽細胞を偽妊娠マウスに移植し、そこにおいて、その偽妊娠マウスが、生殖細胞系に突然変異型PDE1B遺伝子を含んでいるキメラマウスを産み;
(g) そのキメラマウスを交配させて、破壊されたPDE1B遺伝子を含むヘテロ接合型のマウスを作製し、それにより、その破壊されたPDE1B遺伝子についてヘテロ接合型であるマウスを作製し;
(h) その破壊されたPDE1B遺伝子についてそれぞれヘテロ接合型である雄性マウスと雌性マウスを交配させ、その破壊されたPDE1B遺伝子についてホモ接合型である子孫を選別する
ことにより作製されるPDE1Bノックアウトマウスを提供する。
【0182】
別の実施形態において、パーキンソン病のマウスモデルが用いられる(Uhlら, 1985,Lancet 1:956-57;Mokry, 1995, Experimental models and behavioral tests used in the study of Parkinson’s Disease, Physiol. Res. 44:143-50; Du, 2001, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 98:14669-14674)。そのようなモデル動物系は、そのドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路に対する作用によりパーキンソン病の治療に有用な化合物をスクリーニングするのに使用できる。別の実施形態において、パーキンソン病のラットモデルが使用される。1つの特定の実施形態において、ラットに、標準的な方法に従って6-OHDA(6-ヒドロキシドーパミン;ドーパミン作動性神経毒)を片側(すなわち、一方の半球に)に注入する。6-OHDAは、ドーパミン作動性ニューロンにより選択的に摂取され、そのニューロンを死滅させる。そうした6-OHDA処置動物は、パーキンソン病の動物モデルであると考えられる(セクション6を参照)。
【0183】
別の実施形態において、精神分裂病のマウスモデルが使用される(Sipesら, 8-OH-DPAT disruption of prepulse inhibition in rats: reversal with (+) WAY 100, 135 and localization of site of action, Psychopharmacology (Berl) 117(1):41-8;Caoら, 2002, Brain Research 937:32-40)。そうしたモデル動物系は、そのドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路に対する作用により精神分裂病の治療に有用な化合物をスクリーニングするのに使用できる。
【0184】
他の実施形態において、注意欠陥障害(ADD)または注意欠陥過活動性障害(ADHD)のラットモデルが使用できる(例えば、Hansenら, 1999, Alcohol respnsiveness, hyperreactivity and motor restlessness in an animal model for attention-deficit hyperactivity disorder, Psychopharmacology 146:1-9;Russell, 2002, Behavioral Brain Res. 130:191-196を参照)。例えば、Russsellは、ADHDの遺伝的モデルである原発性高血圧ラットモデルを開示している。そうしたモデル動物系は、そのドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路に対する作用によりADHDの治療に有用な化合物をスクリーニングするのに使用できる。
【0185】
別の実施形態において、疼痛のマウスモデルが使用される(例えば、O’Callaghanら, 1975, Quantification of the analgesic activity of narcotic antagonists by a modified hot-plate procedure, J. Pharmacol Exp Ther 192:497-505;Guarnaら, 2002, J. Neurochem. 80:271-277;Menendezら, 2002, Unilateral hot plate test: a simple and sensitive method for detecting central and peripheral hyperalgesia in mice, J. Neurosci. Methods 113:91-97)。Guarnaらは、急性熱侵害受容(acute thermonociception)のマウスモデルを開示している。Menendezらは、中枢および末梢痛覚過敏のマウスモデルを開示してる。そうしたモデル動物系は、そのドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路に対する作用により疼痛の治療に有用な化合物をスクリーニングするのに使用できる。
【0186】
別の実施形態において、嗜癖(例えばコカイン嗜癖)のラットモデルが使用される(CaineおよびKoob, 1995, Pretreatment with the dopamine agonist 7-OH-DPAT shifts the cocaine self-administration dose-effect function to the left under different schedules in the rat, Behav. Pharmacol 6:333-347;Orsiniら, 2002, Brain Research 925:133-140)。そうしたモデル動物系は、そのドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路に対する作用により薬物の乱用または嗜癖の治療に有用な化合物をスクリーニングするのに使用できる。
【0187】
別の実施形態において、癲癇の動物モデルまたは組織モデルが使用される(例えば、Paschoaら, 1997, Seizure patterns in kindling and cortical stimulation models of experimental epilepsy, Brain Res. 770:221-227;Kokaia, 1995, Exper. Neurol. 133:215-224;Merlin, 1999, J. Neurophysiol. 82:1078-1081;Merlin, 2001, J. Neurophysiol. 87:621-625を参照)。Kokaia(1995, Exper. Neurol. 133:215-224)は、癲癇のマウスモデルを開示している。Merlin(2001, J. Neurophysiol. 82:1078-1081;2001, J. Neurophysiol. 87:621-625)は、癲癇のモルモット海馬切片モデルを開示している。そうしたモデル動物系またはモデル組織系は、そのドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路に対する作用により癲癇の治療に有用な化合物をスクリーニングするのに使用できる。
【0188】
別の実施形態において、その動物モデルはホモ接合型DARPP-32ノックアウトマウスである(Fienbergらによる米国特許第5,777,195号(1998年7月7日発行);Nishiらによる米国特許第6,013,621号(2000年1月11日発行);およびFienbergら, 1998. Science 281:838-842を参照;それらの各々は参照により全体が本明細書に組み入れられる)。1つの実施形態において、このホモ接合型DARPP-32ノックアウトマウスは、候補薬剤がPDE1B活性をモジュレートすることを実証または確認するための追加の試験またはアッセイにおいて使用できる。1つの特定の実施形態において、この確認は、Nishiら(米国特許第6,013,621号(2000年1月11日発行))に記載されている方法に従って実施できる。PDE1Bの活性をモジュレートする薬剤が同定された場合、その薬剤をDARPP-32ノックアウトマウスに存在させるか投与すれば、その薬剤が不在または投与されていない場合と比較して、cAMP応答性エレメント結合タンパク質(CREB)、AMPA受容体(例えばGluR1 AMPA受容体)、cAMP、cGMP、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K ATPase、NMDA受容体の活性化の大きさが低下するはずである。
【0189】
5.6 医薬組成物および製剤
本発明はまた、本明細書で開示されている本発明の薬剤(または薬物または化合物)の医薬組成物を提供する。本発明は、PDE1B活性を調節するため、および限定するものではないがPDE1B関連障害およびドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路障害を含む障害を治療するための医薬組成物を包含する。特定の実施形態では、正常な機能が低下すると、上記で挙げた疾患または障害(例えばパーキンソン病)の表現型が顕われる可能性があるので、PDE1B活性を増大させるかまたはドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の下流のエレメントを活性化させることにより、そのような障害の症状を示す個体における症状の改善が促進される。
【0190】
1つの態様において、本発明は、PDE1B関連障害またはドーパミンD1細胞内シグナル伝達経路障害の症状を示す患者または被験体においてその症状を改善できる薬剤の投与方法を提供する。特定の実施形態において、特定の障害(例えばパーキンソン病)の症状は、PDE1B活性のレベルを低下させることにより改善できる。他の実施形態において、その障害の症状はPDE1B活性のレベルを増大させることにより改善できる。
【0191】
本発明は、本明細書に開示されている本発明の薬剤、薬物または化合物の医薬組成物を提供する。この薬剤、薬物または化合物、またはそれらの生理学的に許容される塩もしくは溶媒和物は、注射投与用、または経口、局所、経鼻、吸入、ガス注入(経口もしくは経鼻による)、舌下、非経口、直腸投与用、または他の投与形態用に製剤化できる。本発明は、有効量の本発明の薬剤(単数/複数)を、製薬上許容される希釈剤、保存剤、安定化剤、乳化剤、アジュバント、賦形剤および/または担体と共に含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、種々の緩衝剤含有物(例えばTris-HCl、酢酸、リン酸)、pHおよびイオン強度の希釈剤;界面活性剤および安定化剤などの添加剤(例えばTween 80、ポリソルベート80);抗酸化剤(例えばアスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウム)、保存剤(例えばチメロサール、ベンジルアルコール)およびバルク物質(例えば乳糖、マンニトール)を含む。
【0192】
また、この組成物は、ポリ酢酸、ポリグリコール酸などの高分子化合物の特定の調製物またはリポソームに取り込ませることができる。ヒアルロン酸もまた使用できる。生物適合性の吸収性重合体は、脂肪族ポリエステル、コポリマー、およびブレンド物からなる群から選択でき、このブレンド物は、限定するものではないが乳酸(lactide)(D-、L-乳酸ならびにD-、L-およびメソ-乳酸を含む)、グリコライド(グリコール酸を含む)、ε-カプロラクトン、p-ジオキサノン(1,4-ジオキサン-2-オン、米国特許第4,052,988号に開示されている)、p-ジオキサノンのアルキル置換誘導体(例えば米国特許第5,703,200号に開示されている6,6-ジメチル-1,4-ジオキサン-2-オン)、トリエチレンカーボネート(1,3-ジオキサン-2-オン)、1,3-ジオキサノンのアルキル置換誘導体(米国特許第5,412,068号に開示されている)、δ-バレロラクトン、β-ブチルラクトン、γ-ブチロラクトン、ε-デカラクトン(decala tone)、ヒドロキシブリレート、ヒドロキシバレレート、1,4-ジオキセパン-2-オン(米国特許第4,052,988号に開示されているもの、およびそのダイマー1,5,8,12-テトラオキサシクロテトラデカン-7,14ジオン)、1,5-ジオキセパン-2-オンのホモポリマーおよびコポリマー、ならびにそれらのポリマーブンレンド物を含む。
【0193】
そのような組成物は、本発明のタンパク質および誘導体の物理的状態、in vivoでの放出速度、およびin vivoでのクリアランス速度に影響を及ぼし得る。例えば、Remington’s Pharmaceutical Science, 第18版, (1990, Mack Publishing Co., Easton, PA 18042)の1435〜1712頁を参照されたい。この組成物は、液状の形態に製剤化することもできるし、凍結乾燥形態などの乾燥粉体とすることもできる。
【0194】
ここでの使用に想定されるものは、経口用固形剤形であり、これはRemington’s Pharmaceutical Science, 第18版, (1990, Mack Publishing Co., Easton, PA 18042)の第89章に概略的に開示されている。固形剤形としては、錠剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤またはロゼンジ剤、カシェ剤もしくはペレット剤が挙げられる。また、リポソームまたはプロテノイドによるカプセル化を用いて、本発明の組成物を製剤化することもできる(例えば、米国特許第4,925,673号で報告されているプロテノイドミクロスフェア)。リポソームカプセル化を用いることができ、そのリポソーム(lipomes)は、種々のポリマーを用いて誘導体化できる(例えば米国特許第5,013,556号)。治療剤用の可能性のある固形剤形についての説明は、Marshall, K.のModern Pharmaceutics(G.S. BankerおよびC.T. Rhodes監修, 第10章, 1979)に示されている。一般に、この製剤は、上記薬剤と、不活性成分(胃の環境に対する保護および腸内での生物学的に活性な物質の放出を可能にするもの)とを含む。
【0195】
胃での十分な耐性を確実にするためには、少なくともpH5.0に不透過性であるコーティング剤が有用である。腸溶性コーティング剤として使用されるより一般的な不活性成分の例は、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、HPMCP50、HPMCP55、ポリビニルアセテートフタレート(PVAP)、ユードラジッド(Eudragit)L3OD、アクアテリック(Aquateric)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、ユードラジッド(Eudragit)L、ユードラジッド(Eudragit)Sおよびシェラックである。これらのコーティグ剤は混合フィルムとして使用できる。
【0196】
コーティング剤またはコーティング剤の混合物は、胃に対して保護しようとするものではない錠剤にも使用できる。このものとして、糖コーティング剤、錠剤を飲み込み易くするためのコーティング剤を挙げることができる。カプセル剤は、乾燥治療剤(すなわち散剤)を送達するための硬質シェル部(ゼラチンなど)から構成できる。液状の形態では、軟質ゼラチンのシェル部が使用できる。カシェ剤のシェル部の材料は、濃厚デンプンまたは他の食用ペーパーとすることができる。丸剤、ロゼンジ剤、成形錠剤または湿製錠剤では、湿式マッシング(massing)法を用いることができる。
【0197】
治療剤は、顆粒またはペレットの形態の微細な多粒子として製剤に含めることができる。また、カプセル剤投与のための材料の製剤は、粉体、軽く圧縮したプラグ、または錠剤とすることができる。治療剤はまた、圧縮により調製することもできる。
【0198】
着色剤および矯味矯臭剤は全て含めることができる。例えば、上記タンパク質(または誘導体)は、(例えばリポソームもしくはミクロスフェアへのカプセル化により)製剤化し、次にさらに、着色剤および矯味矯臭剤を含有する冷却飲料などの食用製品の中に含めることができる。
【0199】
不活性物質または充填剤で治療剤を希釈したりその量を増やすことができる。これらの希釈剤または充填剤としては、炭水化物、特にマンニトール、a-ラクトース、無水ラクトース、セルロース(例えば微結晶セルロース)、ショ糖、リン酸水素ナトリウム修飾デキストランおよびデンプンを挙げることができる。特定の無機塩もまた、充填剤として使用することができ、例えば三リン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、および塩化ナトリウムが挙げられる。市販されている希釈剤としては、ファスト-フロ(Fast-Flo)、エムデックス(Emdex)、STA-Rx1500、エンコンプレス(Emcompress)およびアビセル(Avicel)がある。
【0200】
治療剤の製剤に崩壊剤を含めて、固形の剤形にすることができる。崩壊剤として使用される物質としては、限定するものではないが、デンプン(例えば馬鈴薯デンプンまたはデンプンをベースとする市販の崩壊剤イクスプロタブ(Explotab))が挙げられる。グリコール酸ナトリウムデンプン、アンバーライト、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ウルトラミロペクチン、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、オレンジピール、酸カルボキシメチルセルロース、天然海綿、およびベントナイトは全て使用できる。別の形態の崩壊剤は、不溶性カチオン交換樹脂である。粉末ゴムは、崩壊剤および結合剤として使用可能であり、これらとしては、寒天、カラヤまたはトラガカントなどの粉末ガムを挙げることができる。アルギン酸およびそのナトリウム塩もまた、崩壊剤として有用である。
【0201】
結合剤は、治療剤を一緒に保持して硬質錠剤を形成するのに使用することができ、アカシア、トラガカント、デンプン(例えば前ゼラチン化トウモロコシデンプン)およびゼラチンなどの天然生成物に由来する物質が挙げられる。それ以外のものとしては、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)が挙げられる。ポリビニルピロリドン(PVP)およびヒドロキプロピルメチルセルロース(HPMC)は共に、アルコール溶液として、治療剤を顆粒化するのに使用できる。
【0202】
抗磨耗剤(anti-frictional agent)は、製剤化プロセスの際の粘着を防止するために、治療剤の製剤に含めることができる。滑沢剤は、治療剤と金型(die wall)との間の層として使用でき、これらとしては、限定するものではないが、そのマグネシウム塩およびカルシウム塩を含むステアリン酸、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、流動パラフィン、植物油およびワックス、タルクならびにシリカを挙げることができる。また、可溶性滑沢剤も使用でき、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム、各種分子量のポリエチレングリコール、カーボワックス(Carbowax)4000および6000などが挙げられる。
【0203】
製剤化の際の薬物の流動特性を改善することができ、かつ圧縮の際の再構成(rearrangement)を補助するための流動促進剤を添加することができる。流動促進剤としては、デンプン、タルク、発熱シリカ(pyrogenic silica)および水和シリコアルミネート(hydrated silicoaluminate)を挙げることができる。
【0204】
治療剤の水系環境への溶解を補助するために、湿潤剤として界面活性剤を添加することができる。界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸ジオクチルナトリウムおよびスルホン酸ジオクチルナトリウムなどのアニオン性界面活性剤を挙げることができる。カチオン性界面活性剤が使用でき、塩化ベンザルコニウムまたは塩化ベンゼトミウムを挙げることができる。界面活性剤として製剤に含めることができる可能性のある非イオン性界面活性剤のリストは、ラウロマクロゴール400、ポリオキシ40ステアレート、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、50および60、グリセロールモノステアレート、ポリソルベート40、60、65および80、ショ糖脂肪酸エステル、メチルセルロースならびにカルボキシメチルセルロースを挙げることができる。これらの界面活性剤は、上記タンパク質または誘導体の製剤中に、単独で、または異なる割合の混合物として存在することができる。
【0205】
薬剤の取込みを促進する可能性がある添加剤は、例えば、オレイン酸、リノール酸およびリノレン酸などの脂肪酸である。
【0206】
制御放出経口製剤が望ましいこともある。薬剤は、ゴムなどの、拡散または浸出機構による放出を可能にする不活性マトリックスの中に含めることができる。ゆっくり変性するマトリックスも、製剤に含めることができる。幾つかの腸溶性コーティング剤もまた、放出作用を遅延させることができる。
【0207】
本治療剤の制御放出の別の形態は、Oros治療剤系(Alza Corp.)をベースとする方法によるものであり、すなわち、薬剤は半透過性膜に封入されており、この半透過性膜は、水を浸入させて、浸透作用により薬剤を1つの小さな開口部から押し出す。
【0208】
他のコーティング剤が製剤に使用できる。これらとしては、コーティング槽において適用できる種々の糖が挙げられる。治療薬剤は、フィルムコーティングされている錠剤とすることも可能であり、この例で用いられる材料は、2つのグループに分類される。第1のものは、非腸溶性材料であり、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルヒドロキシ-エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピル-メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポビドンおよびポリエチレングリコールが挙げられる。第2のグループは、一般にはフタル酸のエステルである腸溶性材料から構成される。
【0209】
材料の混合物が使用して、最適なフィルムコーティグを付与することができる。フィルムコーティングは、パンコーター(pan-coater)もしくは流動床で、または圧縮コーティングにより実施できる。
【0210】
経口投与用の液状調製物は、例えば、液剤、シロップ剤または懸濁剤の形態をとることができ、あるいは使用前に水もしくは他のビヒクルで構成するための乾燥製品とすることもできる。そのような液状調製物は、慣用の手段により、懸濁剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用脂);乳化剤(例えばレシチンまたはアカシア);非水性ビヒクル(例えばアーモンド油、油状エステル、エチルアルコールまたは分留植物油);および保存剤(例えばメチルまたはプロピル-p-ヒドロキシゼンゾエートまたはソルビン酸)などの薬学的に許容される添加剤を用いて調製できる。また、この調製物は、適宜、緩衝塩、矯味矯臭剤、着色剤および甘味付与剤などを含むことができる。
【0211】
また、薬剤の経鼻送達も想定される。経鼻送達は、治療製品を鼻に投与した後で、その製品を肺に蓄積させる必要なしに、上記タンパク質が血流に直接流れるようにする。経鼻送達用の製剤には、デキストランまたはシクロデキストランが含まれる。
【0212】
吸入による投与の場合、本発明による使用のための化合物は、加圧式パックまたはネブライザーからエアロゾルスプレーを出す形態で好都合に送達され、この場合、例えばジクロロジエフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスなどの適当な噴射剤が使用される。加圧式エアロゾルの場合、単位投薬量は、一定量を送達するためのバルブを設けることにより決定できる。吸入またはガス注入で使用するための例えばゼラチンのカプセル剤およびカートリッジは、化合物と乳糖やデンプンなどの適切な粉末基剤との粉体ミックスを含んで製剤化することができる。
【0213】
化合物は、注射、例えばボーラス注射または連続輸液による非経口投与用に製剤化することができる。注射用製剤は、保存剤を添加して、例えばアンプルまたは複数回投与用容器に入った単位剤形とすることができる。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液または乳濁液の形態をとることができ、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤などの製剤化剤(formulatory agents)を含むことができる。あるいはまた、活性成分は、使用前に無菌で発熱物質不含の水などの適切なビヒクルで構成するための粉体の形態とすることができる。
【0214】
化合物はまた、例えばカカオ脂や他のグリセリドなどの慣用の坐剤用基剤を含有する、坐剤または貯留浣腸などの直腸組成物中に製剤化することができる。
【0215】
上記で開示した製剤に加えて、化合物はまた、デポー調製物として製剤化することも可能である。そのような長期作用性製剤は、埋込み(例えば皮下もしくは筋肉内)または筋肉内注射により投与できる。したがって、例えば、化合物は、適当な高分子性または疎水性の材料(例えば許容される油中での乳濁液として)またはイオン交換樹脂と共に、あるいは難溶性の誘導体として(例えば難溶性の塩として)製剤化することができる。
【0216】
組成物は、それが望まれる場合は、活性成分を含む1つ以上の単位剤形を収容することができるパックまたはディスペンサー装置とすることができる。このパックは、例えば、ブリスターパックのように、金属箔またはプラスチック箔を備えることができる。このパックまたはディスペンサー装置には、投与の指示書をつけてもよい。
【0217】
5.6.1 投与量の決定
そのような化合物の毒性および治療効率は、例えばLD50(集団の50%に対する致死量)およびED50(集団の50%において治療上有効な用量)を測定するための細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手法により決定できる。毒性と治療効率との用量比が治療指数であり、それは、LD50/ED50比として表わすことができる。高い治療指数を示す化合物が好ましい。有害な副作用を示す化合物も使用可能であるが、非罹患細胞への損傷の可能性を最低限に抑えて副作用を軽減するために、そうした化合物を罹患組織の部位にターゲティングするための送達系の設計には注意を払うべきである。
【0218】
ヒトで使用するための一連の投与量を製剤化するために、細胞培養アッセイおよび動物研究から得られるデータが使用できる。そうした化合物の投与量は、好ましくは、ED50を含み毒性が殆どまたは全く無い循環濃度の範囲内とする。投与量は、採用する剤形および利用する投与経路に応じて、この範囲内で変えることができる。本発明の方法で使用されるいずれの化合物についても、治療上有効な用量は、まずは細胞培養アッセイから見積もることができる。用量は、細胞培養において測定した場合のIC50(すなわち、症状の最大抑制の半分を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて処方することができる。そのような情報は、ヒトにおける有用な用量をさらに正確に決定するのに使用することができる。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーにより測定できる。
【0219】
5.6.2 投与経路
本発明の治療用組成物の成分は、非経口的、局所的または経粘膜的に、例えば経口的、経鼻的もしくは直腸的に、または経皮的に導入できる。投与は、例えば静脈内注射により非経口的であることが好ましく、限定するものではないが、細動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内、脳室内および頭蓋内投与が挙げられる。好ましい実施形態において、本発明の治療組成物の成分は、経口的または非経口的に導入される。
【0220】
本発明の好ましい実施形態において、薬剤(または薬物または化合物)は、血液脳関門を通過できるものであり、さらに好ましくは血液脳関門を容易に通過することができるものであり、これにより、例えば経口、非経口または静脈内投与が可能になる。あるいはまた、薬剤は、血液脳関門を通過するかそこを通過して輸送されるように修飾または改変することができる。分子を血液脳関門を通過させるために、当業界で公知の多くの戦略が利用でき、限定するものではないが、分子の疎水性を増大させること;分子をコンジュゲートとして、例えば血液脳関門内の受容体またはドコサヘキサエン酸などにターゲティングして輸送する担体に導入することが挙げられる。
【0221】
別の実施形態において、本発明の薬剤は、その薬剤を投与する技術において頭蓋に小さな穴をあける、という標準的な手法により投与される。
【0222】
別の実施形態において、分子は、頭蓋内投与され、さらに好ましくは脳室内投与される。別の実施形態において、血液脳関門の浸透圧破壊を用いて、脳への薬剤の送達を行うことができる(Nilaverら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:9829-9833 (1995))。さらに別の実施形態において、薬剤は、リポソームに含めて投与されて、血液脳関門をターゲティングすることができる。リポソームに含めた薬剤の投与は公知である(Langer, Science 249:1527-1533(1990);Treatら, Liposomes in the Therapy of infectious Disease and Cancer, Lopez-BeresteinおよびFidler(監修), Liss, New York, 317-327頁および353-365頁(1989)を参照)。そのような方法は全て、本発明において想定される。
【0223】
分子が血液脳関門を通過する能力に関してはいくつかの予測がつけられているが、これらの予測は憶測に過ぎない。化合物の脳への侵入の速度および程度は、一般に、分配係数、イオン化定数、および分子の大きさにより決定されると考えられる。脳浸透の汎用の適用モデルとしての単一の分配溶媒系は未だ出てきていないが、オクタノール−水系が特に注目されており、Hanschとその共同研究者達は、この系における約100という分配係数が、中枢神経系(CNS)への侵入については最適であることを示唆している(GlaveおよびHansch, J. Pharm. Sci. 61:589(1972);Hanschら, J. Pharm. Sci. 76:663(1987))。実際、オクタノール−水分配系だけが、化合物の血液脳関門を通過する能力の定性的指標となっている。例えば、既知のヒスタミンH2受容体アンタゴニスト間での比較から、それらの脳への浸透とオクタノール−水分配係数との間にそうした単純な関係はないことが示唆される(Youngら, J. Med. Chem. 31:656(1988))。オクタノール−水分配以外にも、他の要因が血液脳関門を通過する性質に影響を及ぼす。ヒスタミンH2受容体アンタゴニスト間での血液脳関門を通過する能力の比較から、脳への浸透は、化合物の全体的な水素結合能力が低下するに従って増大し得ることが示唆されている(Youngら, J. Med. Chem. 31:656(1988))。Begleyら(J. Neurochem. 55:12221-1230(1990))(参照により全体が本明細書に組み入れられる)は、シクロスポリンAの血液脳関門を通過する能力を開示している。Begleyらが用いた方法論は、(1) トリチウム化した薬剤化合物についての方程式を用いて脳内取込み指数(BUI)を測定すること:
BUI=[(脳の3H/脳の14C)]/(注射物の3H/注射物の14C)]×100
(式中、14C基準化合物は14Cブタノールまたは類似の溶剤である);(2) 脳浸透研究;(3) 静脈内ボーラス注射研究;および(4) 培養した脳毛細血管内皮層を用いた研究を含む。
【0224】
別の実施形態において、治療用化合物は、ビヒクル、特にリポソームに入れて送達できる(Langer, Science 249:1527-1533(1990);Treatら, Liposomes in the Therapy of infectious Disease and Cancer, Lopez-BeresteinおよびFidler(監修), Liss, New York, 317-327頁および353-327頁(1989)を参照)。その全身的副作用を軽減するために、これは薬剤を導入するための好ましい方法となり得る。
【0225】
別の実施形態において、治療用化合物は、制御放出系に入れて送達できる。例えば、薬剤は、静脈内輸液、埋込み型浸透圧ポンプ、経皮パッチ、リポソーム、または他の投与様式を用いて投与できる。1つの実施形態において、ポンプが使用できる(Langer,前掲;Sefton, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201(1987);Buchwaldら, Surgery 88:507(1980);Saudekら, N. Engl. J. Med. 321:574(1989)を参照)。別の実施形態において、高分子材料が使用できる(Medical Applications of Controlled Release, LangerおよびWise(監修), CRC Press: Boca Raton, Florida(1974);Contolled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance, SmolenおよびBall(監修), Willey: New York (1984);RangerおよびPeppas, J. Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61(1983)を参照;また、Levyら, Science 228:190(1985);Duringら, Ann. Neurol. 25:351(1989);Howardら, J. Neurosurg. 71:105(1989)を参照)。さらに別の実施形態において、制御放出系を治療標的(すなわち脳)に近接して配置することができ、かくして全身用量の一部だけで済むようになる(例えばGoodson, Medical Applications of Controlled Release, 前掲,第2巻, 115-138頁(1984)を参照)。他の制御放出系については、Langer(Science 249:1527-1533(1990)による概説で述べられている。
【0226】
説明のために以下の実験的な実施例を挙げるが、限定しようとするものではない。
【0227】
6. 実施例1:
ホスホジエステラーゼB1(PDE1B)ノックアウトマウスは、ドーパミンD1アゴニストに応答して過剰な自発運動の機能亢進およびDARPP-32リン酸化を示し、空間的学習の低下を示す
本実施例は、PDE1B媒介環状ヌクレオチド加水分解の不活性化による環状ヌクレオチドのシグナル伝達の増大が、DARPP-32および関連する伝達経路を介してドーパミン作動性機能において重要な役割を担っていることを実証するものである。
【0228】
相同組換えを用いて、ホスホジエステラーゼ媒介(PDE1B)環状ヌクレオチド加水分解活性が欠損しているマウスを作製した。PDE1B-/-(「null」)マウスは、D-メタンフェタミンを急性投与した後で、過剰な機能亢進を示した。PDE1B-/-マウスからの線条体切片は、ドーパミンD1受容体アゴニストまたはホルスコリンで刺激した後で、ホスホ-Thr34 DARPP-32レベルおよびホスホ-Ser845 DARPP-32レベルの増大を示した。PDE1B-/-およびPDE1B+/-(ヘテロ接合型)マウスはまた、モーリス迷路空間的学習の欠陥も示した。
【0229】
6.1. 材料および方法
6.1.1 PDE1Bノックアウトマウス
2つの重複するクローンTRC2およびTRC4は、PDE1B遺伝子の第2〜13エキソンに相当し、記載(Reed, T.R.ら, 1998, Mamm. Gen. 9:571-576)のようにして、I-129/SvJラムダダッシュ(Lambda Dash)IIマウスのゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより得た。第4および第5エキソンならびにpBluescript II KS(-)(Stratagene, Inc., La Jolla, CA)のマルチクローニング部位の一部を含む0.8kbのXbaI断片を、ターゲティングベクターのBamH1部位に平滑末端ライゲートした。ゲノムDNAの第9エキソンの3'側(2.4kbの非コード領域の3'側を含む)から第13エキソンまでを含む5kbのAccI/KpnI断片を、ターゲティングベクターのClaI部位に平滑末端ライゲートした(図1を参照)。ターゲティングベクターバックボーンpGKKOVは、Liら(1996, EMBO J. 15:714-724)に記載されている。このベクターは、pBluescript II SK(+)から誘導されるものであり、マルチクローニング部位のKpnI部位およびHindIII部位にそれぞれHSV-TK選択マーカーおよびPGK-HPRT選択マーカーが挿入されている。インサートの向きは配列決定により判定した。
【0230】
ターゲティングベクター(50μg)をNotIで線状化し、9.3×106個のE14TG2a胚性幹(ES)細胞にエレクトロポレートした。ES細胞は、10枚の100cm組織培養プレートで、細胞選別用に2μM Cytoveneおよび1×HAT(Life Technologies, Carlsbad, CA)を補充した15%ES細胞用ウシ胎仔血清(Life Technologies, Carlsbad, CA)、0.3mM L-グルタミン、75,000単位のPen/Strep、60単位のLIFおよび0.009%のβ-メルカプトエタノールを含有するDMEM中(プレート当たり10ml)の2.2×106個のマイトマイシンC処理マウス胚線維芽細胞上にプレーティングした。選別の5日後、302個のESクローンを選別し、24ウェルプレートで増殖させた。クローンをサザンブロット分析によりスクリーニングした。2つの陽性クローンからの細胞をC57B1/6の胚盤胞に注入し、偽妊娠の雌に移植した。キメラ子孫をC57B1/6マウス(Charles River, Wilmington, MA)と交配させて、ヘテロ接合型の子孫を得て、これをC57B1/6マウスとさらに2世代にわたり交配させて、全部で3つの戻し交配血統を得た。F3世代を相互交配することにより得られた子孫を、行動試験に用いた。
【0231】
行動試験では、未産のF4世代のPDE1B欠損マウスおよびそれらの野生型の同腹仔を用いた。生化学に用いた動物は、第3および第4世代の戻し交配体の子孫とした。マウスは、産後7日目(P7)に耳に印を付け、P7からスタートしてP112まで週に一回体重を測定した。P21またはP42に尾部の生検材料を得た。P28に同腹仔を離乳した。マウスをケージに収容し、各ケージは同じ性のものとし、ケージ当たり2〜4匹とした。同じ性別の同腹仔がいない場合、または目視による欠損が存在する場合は、個々のマウスを試験から除外した。全ての手順は、実験が終わるまで遺伝子型について知らされていない同一実験者が行った。
【0232】
6.1.2 サザンブロット分析
サザンブロット分析は、Reed(1998, Mamm. Gen. 9:571-576)により記載されているようにして、ES細胞または尾部生検材料から精製したStuIまたはNdeI/KpnI消化DNAについて行った。簡単に述べると、プレハイブリダイゼーションおよびハイブリダイゼーションを、65℃で、1% SDS、1M NaClおよび10%硫酸デキストラン中で行った。ブロットを、マウスPDE1Bの第3エキソンおよび164bpの隣接イントロン配列に相当する347bpのPCR作製プローブでスクリーニングした。用いたPCRプライマーは、5’-GACACTAAGTGGGTATAGCTGGGT-3’(配列番号5)および5’-GTGGGAATAAGTCTCAGGGTAGG-3’(配列番号6)とした。25ngのプローブを、Prime-It IIキット(Stratagene, Inc.)を用いてランダムプライミングにより32P-dCTPで放射標識し、5mg/500μlのサケ精子DNAと共に5分間沸騰させ、30mlのハイブリダイゼーション緩衝液に添加した。ブロットを12〜16時間ハイブリダイズさせ、最後のハイブリダイゼーション後の洗浄は2×SSC+1%SDS中で65℃とした。このプローブはPDE1B遺伝子の標的領域の外側である。相同組換え事象により、大きさが3.7kbから2.2kb(StuI)(図1A、Bを参照)、および3.7kbから10.6kb(NdeI/KpnI)(図1Aを参照)へと変化した。
【0233】
6.1.3 ノーザンブロット分析
脳の全RNAを、TriReagent法(Molecular Research Center, Cincinnati, OH)を用いて単離した。RNA(10μg)を、1%変性アガロースゲルで分画し、20×SSCを用いて24時間にわたりナイロン膜に移した。ブロットを、250μlの10mg/mlサケ精子DNAを補充した50%ホルムアミド、50mM NaPO4、5×SSC、5×Denhardt、0.5% SDSおよび1%グリシンを含有する10mlの溶液中で42℃にて4時間プレハイブリダイズした。ブロットを、32P標識プローブK-17、すなわちRepaskeら(1992, J. Biol. Chem. 267:18683-18688)により記載されている中心触媒ドメインに相当する378pbのマウスの部分PDE1B cDNAを用いてハイブリダイズさせた。このプローブを、100μlの10mg/mlサケ精子DNAと共に5分間沸騰させ、50%ホルムアミド、20mM NaPO4、5×SSC、1×Denhardt、0.5% SDSおよび10%硫酸デキストランを含有する10mlのハイブリダイゼーション緩衝液に添加し、42℃で21時間インキュベートした。最後のハイブリダイゼーション後の洗浄は0.1×SSC+0.1%SDS中で55℃とした。
【0234】
6.1.4 自発運動活性の測定
P50、P51またはP52に、自発運動活性を、X軸に沿って16対の光検出器-LEDおよびY軸に沿って16対が備わっている30.5cm×30.5cmのDigiscan装置(Model RXY2Z、Accuscan Electronics, Columbus, OH)で測定した。プレチャレンジ活性を1時間にわたり3分間隔で記録した。マウスは、食塩水に混ぜた1mg/kgのd-メタンフェタミン塩酸塩(遊離塩基)の皮下注射によりチャレンジして5ml/kg体重の注射量とし、活性をさらに2時間にわたり3分間隔で記録した。記録は明期(light cycle)の間に行った。水平活性、ならびに全距離、中心距離および周辺距離を測定した。
【0235】
6.1.5 モーリス迷路による自発運動活性および学習行動の測定
P50に、同腹仔の全ての動物に、一方の端にワイヤ梯子がかかっている15×244cmの真っ直ぐな水路の中で4回の試行を施した。この水路は、PVC材料上に構成されており、27〜29℃の水を35cmの深さで満たしたものとした。被験体を水路の梯子の反対側に入れ、梯子を見つけて脱出するのに最大60秒与えた。モーリスの水迷路試行を行う前に、これらの試行を用いて、遊泳の熟練度および水から脱出の動機付けを測定した。2匹の同腹仔のマウスは、遊泳能力が劣るために、さらなる行動試験から除外した。
【0236】
モーリスの水迷路は、マウス用に修正を加えたものを用いた(Upchurch, M.およびJ.M. Wehner. 1988. Behav. Gen. 18:55-68)。この迷路は、円形で、周辺がステンレス鋼製であり、直径が122cmで、直径162cmの外部タンクで包囲されているものとした。内側周辺部は平坦な白色ペイントで覆われていた。透明なアクリル製の踏み台は10×10cmであり、水の表面から1cm下に沈めた。白色の非毒性のペイントを水に添加して、踏み台が見えないようにした。水温は27〜29℃に維持した。同腹仔を2つのグループに分けて、踏み台の位置に対して均等にした。試験はP51にスタートして18日間続け、6日間ごとに、それぞれ隠れた踏み台の習得および逆戻り(踏み台を反対側の4分割領域へ移動する)、続いて手がかり付き学習(cued learning)について行った。隠れた踏み台の習得では、踏み台は南東または北西の4分割領域に配置し、出発位置(北、南、東、西)を各試行毎に無作為な順番で変えた。毎日、最大制限時間を60秒とし、試行と試行との間隔を30秒として、4回の試行を行った。60秒以内に踏み台を見つけられなかったマウスは、試行と試行との間の30秒間踏み台に載せた。習得試行の3日前および最後の習得試行の6日後に、踏み台を取り外してプローブ試行(60秒)を行った。逆戻りの段階では、踏み台を反対側の4分割領域に移動して、同じ手順を行った。手がかり付き試行では、迷路の周りに黒いカーテンを吊るして遠位の手がかりを覆い隠し、踏み台を、その上方の14cmの真鍮ロッド上に取り付けた黒色の固い円筒でマークした。毎回、踏み台および出発位置を無作為に配置して、1日当たり4回の試行を行った。マウスを試行の間の30秒間保持ケージに入れ、その間に、踏み台を次の試行の位置に置き換えた。データは、習得段階および逆戻り段階について、ビデオトラッキング装置(San Diego Instruments, San Diego, CA)を用いて記録した。手がかり付き習得の遅延時間(latencies)を、ストップウォッチで記録し、閉回路モニターで観察した。
【0237】
6.1.6 嗅覚性方向反応
P9、P11およびP13に、各同腹仔における全ての子孫を個々に、先(Acuff-Smithら, 1992.Psychopharmacology 109:255-263)に記載されているようにして、自分の巣ケージの匂いに対する嗅覚性方向反応について試験した。P7に、各同腹仔の巣の寝藁を交換した。寝藁は、P14に試験が完了するまで交換せず、試験日毎に使ってはまた巣ケージに戻した。個々の試験の前に、子マウスを母マウスから引き離し、体温を維持するために温めたパッドの上に載せた保持ケージに入れた。
【0238】
6.1.7 線条体切片の調製および処理
新線条体切片は、雄性C57/BL6マウス(6〜8週令)から、当業界で公知の方法(Nishi, A.ら, 1997. J. Neurosci. 17:8147-8155)に従って調製した。
【0239】
雄性PDE1B-/-(null)マウスおよびWTマウス(8〜12週令)を断頭した。脳を氷冷した表面に迅速に移し、ブロッキングし、4℃に保持されているビブラトーム(Vibratome)(Ted Pella, Redding, CA)の切断用表面に固定した。脳を、次の組成(mM)を有する冷たい酸素含有(95%O2/5%CO2)クレブス重炭酸緩衝液に浸した:125のNaCl、5のKCl、26のNaHCO3、1.5のCaCl2、1.5のMgCl2および10のグルコース、pH 7.4。冠状のマウス脳切片(厚み400μm)をスライスし、冷緩衝液にプールした。線条体または側座核の切片を、解剖顕微鏡観察下でその冠状切片から切り出した。個々の切片を新鮮な緩衝液中で30℃で15分間プレインキュベートした。緩衝液を交換し、プレインキュベーションをさらに30分間継続した。この2回目のプレインキュベーションが完了した時点で、緩衝液をクレブス緩衝液または試験物質を含有する緩衝液と5分間交換した。切片を液体窒素中で直ちに凍結し、アッセイを行うまで−80℃で保存した。
【0240】
6.1.8 イムノブロッティング
凍結切片を、1%SDSを含有するホモジネーション緩衝液中で超音波処理にかけた。このホモジネートのほんの一部を、ウシ血清アルブミンを標準物質として用いる標準的なアッセイによるタンパク質測定用にとっておいた。同量のタンパク質(50μg)を10%アクリルアミドゲルにローディングし、SDS/PAGEにより分離し、Tobinらにより記載されている方法(1979, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:4350-4354)によりニトロセルロース膜に移した。膜を次の抗体を用いてイムノブロットした:GluR1のSer845-リン酸化形態を検出する抗血清(Kameyama, K.ら, 1998. Neuron 21:1163-1175)、GluR1のC末端領域をリン酸化状態によらず検出する抗血清(Pharmingen, Inc.)、ホスホ-Thr34を含むDARPP-32ペプチドを検出するリン酸化特異的抗体であるmAb23(Snyder, G.Lら, 1992. J. Neurosci. 12:3071-3083)、PKAによりリン酸化された部位、またはDARPP-32をリン酸化状態によらず検出するモノクローナル抗体であるC24-5a(Hemmings, H.C.およびP. Greengard. 1986. J. Neurosci. 6:1469-1481)。
【0241】
抗体の結合は、ヤギ抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ結合TgGまたはヤギ抗マウス西洋ワサビペルオキシダーゼ結合IgGのいずれか一方およびECLイムノブロット検出系(Amersham Biosciences)と共にインキュベートすることにより明らかになった。化学発光は、オートラジオグラフィーにより検出し、バンドはHIN Image 1.52ソフトウェアを用いて走査画像を分析することにより定量した。デンシトメトリーによるECLシグナルの定量のための直線範囲は限られているので、各セットのサンプルについて数枚のフィルム写真を得て、シグナルが確実に正確な定量を可能にする密度範囲内にあるようにした。
【0242】
6.1.9 統計学的方法
データは、ANOVA(一般的な線形モデル)で解析した。繰り返し測定成分を有するデータについては、スプリットプロットANOVAを用い、分析において日および試行は同一被験体のファクターとして処理した(Kirk, 1995)。データは、各遺伝子型に対して同じ性別の1匹以上の被験体を用いて同腹仔内で平均をとった(HolsonおよびPearce, 1992)。有意な相互作用を、シンプルエフェクトANOVAを用いてさらに解析した。ポステリオリグループ比較はDuncanの方法により行った。時間依存的相互作用の解析は、活性データについて、直交分解による傾向解析を用いて行った。χ2を用いて、それぞれの遺伝子型のマウスの割合が予測されるメンデル比と合致するか否かを解析した。新線条体切片のデータは、示されているようにMann-WhitneyのU検定により解析し、この際の有意性はp<0.05として規定した。
【0243】
6.2 結果
触媒ドメインのターゲティング破壊によりPDE1B酵素が不活性になっているマウスモデルを開発した。これらの「ノックアウト」マウスを、脳におけるin vivoでのPDE1B活性の機能的有意性を同定するための研究で使用した。PDE1B活性が欠損しているマウスを作製するために、ターゲティングベクターを構築して、相同組換えによりマウス胚性幹細胞のゲノムDNA中のPDE1B触媒ドメインをコードする配列を破壊した(図1A)。HATおよびCytovene選別で生き残った302の胚性幹細胞クローンのうち、26を、PDE1Bの第3エキソンおよび隣接イントロン配列に相当するプローブを用いてサザンブロットにより分析した。破壊された遺伝子は、これらのクローンのうちの9つに存在していた。
【0244】
2種の組換え胚性幹細胞系をday E3.5 C57/B/6の胚盤胞にマイクロインジェクトし、偽妊娠雌に移植した。28匹のキメラが得られ(雄が17匹、雌が11匹)、1つの胚性幹細胞系由来の8%または29%が、C57/B1/6マウスと交配させた場合に生殖細胞系の伝達を示した。第3世代のヘテロ接合型マウスを相互交配したところ、178匹の野生型マウス(27%)、309匹のヘテロ接合型マウス(47%)、157匹のPDE1B nullマウス(24%)および13匹の遺伝子型を判定する前に死亡したマウス(2%)が産まれた。これらの割合は、2回の分析により、1:2:1という予測されるメンデル比と有意には相違しなかった。F4の遺伝子型を実証するサザンブロットを図1Bに示す。
【0245】
PDE1B nullマウスとヘテロ接合型マウスの物理的外観および全体的な行動は、野生型の同腹仔と同じであった。それら3種の遺伝子型の間では、離乳前の体重でも離乳後の体重でも有意な差異はなかった。野生型マウス(2%)と比較して多くのPDE1B nullマウス(6%)およびヘテロ接合型マウス(6%)が生後1週間以内に死亡した。K-17(ターゲティングしたドメイン内の348塩基対のマウスの部分PDE1B cDNA)(Repaske, D.R.ら, 1992. J. Biol. Chem. 267:18683-18688)でプローブした脳全RNAのノーザンブロット分析から、ヘテロ接合型マウスではPDE1B mRNAが低下し、nullマウスではPDE1B mRNAが存在しないことが示され、これらのことから、PDE1B遺伝子についてのノックアウトマウスがうまく作製されたことが確認された(図1C)。さらに、ヘテロ接合型マウスにおいて、正常な対立遺伝子の見かけのアップレギュレーションが起こっていないマウスではPDE1B mRNAレベルが低下していた。マウス脳全体からのPDE1Bの免疫沈降から、cAMP加水分解についてアッセイした場合、nullマウスではPDE1B酵素活性がないことが示された。ヘテロ接合型マウスは、野生型マウスで見られる活性レベルの50%を示した。
【0246】
PDE1B遺伝子および脳組織におけるその発現の機能的有意性を調べるために、マウスにおける一連の標準的な自発運動活性試験を用いてノックアウトマウスの自発運動活性を研究した。この試験は、自発運動に対する試験条件または治療剤の作用を規定し、次いで、その結果を推定してヒトにおける予想結果を導き出すのにルーチンに用いられる。そのような試験は、薬物開発プロセスの標準的な一部である。
【0247】
探索活性およびメタンフタミン刺激活性の両者を、null(ノックアウト)、ヘテロ接合型および野生型のマウスにおいて研究した。遺伝子型の主な影響は水平自発運動活性において見られ、チャレンジ前の探索活性とチャレンジ後の探索活性の両者について、マウス間で有意な差異があった。また、水平活性試験についてチャレンジ前およびチャレンジ後に観察した区間の相互作用(interval interaction)によっても、有意な遺伝子型があった。ANOVA解析から、チャレンジ前のヘテロ接合型マウスは、野生型マウスと同等の活性レベルを示すが(図2)、一方、PDE1B nullマウス(ノックアウトマウス)は、特に試験期間の最初の30分間に有意に高い探索行動を示すことが判明した。30〜60分までは、PDE1B nullマウスは、野生型の活性レベルの曲線に沿っていたが、活性はずっと僅かに高かった。チャレンジ後の水平活性のANOVA解析およびグループ比較から、ヘテロ接合型マウスは、活性レベルに関して、野生型マウスとは有意にではないが僅かに異なっていた。これに対して、PDE1B nullマウスは、野生型マウスよりも有意に活性が高かった。刺激された機能亢進応答は、メタンフェタミン処置の後90分間にわたって持続した。このことは、図2において、PDE1B-/-マウスではMETH後に同じ期間にわたってWTマウスで起こる上昇よりも活性の上昇が急峻であることから判る。
【0248】
PDE1B nullマウスの刺激された応答が対照の野生型マウスの応答と定量的ならびに定性的に異なるか否かを判定するために、直交分解を用いた傾向分析を行った。Nullと野生型との比較から、区間の相互作用により、遺伝子型について有意な一次、二次および三次形式の傾向が示された。野生型に対するヘテロ接合型の相互作用は、有意な影響を示さなかった。nullと野生型との比較において、二次形式の傾向はデータと最も良く一致し、このことから、nullマウスが、メタンフェタミンに応答して、野生型マウスよりも活動的であるだけでなく高い変化率を有することが判明し、このマウスでは応答速度が速いことが示された。
【0249】
全距離の終点を調べたところ、水平活性で見られるものと同じ応答パターンが得られた。水平活性の測定の場合と同様に、チャレンジ前およびチャレンジ後の双方で遺伝子型の有意な主作用が見られた。PDE1B nullマウスは、チャレンジ前の期間およびチャレンジ後の期間の双方で野生型マウスよりも長い全距離を移動した。また、区間の相互作用による表現型もチャンレンジ前およびチャレンジ後の双方について見られ、そのパターンは、水平活性の測定で見られたものと同じであった。水平活性の結果と比較した場合、全活性の測定について同定した結果には、1つの違いがあった。これは、チャレンジ前では性別の相互作用による表現型があることであった。nullの雌だけは、全体的活性に関して機能亢進的な応答を示したが、一方、nullの雄は、チャレンジ前の全体的活性において有意な増大を示さなかった(図3)。しかし、メタンフェタミンチャレンジの後、nullの雄も雌も、野生型マウスと比較して刺激された機能亢進を示した。雄のnullマウスでは全体的応答が僅かに高いと思われたが、結果は統計学的に有意なものではなかった。雄のヘテロ接合型マウスもまた、メタンフェタミンチャレンジに対して中程度の応答を示したが、これは雄の野生型マウスとは統計学的に差異はなく、遺伝子−用量効果はほんの僅かしかないことが示唆された。距離のデータを、中心および周辺での活性についてさらに解析した。両者の解析から、全体距離の測定で見られたものと同じ有意な作用および相互作用が示された。
【0250】
次に、自発運動活性を、真っ直ぐな水路およびモーリスの水迷路の手がかり付き習得で試験した。真っ直ぐな水路での試行は、遊泳能力を判定するのに用いたものであり、この試行では、3種の遺伝子型の間に有意な差異は見られず、全てのマウスは、等しい遊泳能力および脱出の動機付けを示した。同様に、近位の手がかりがあり、モーリスの水迷路から遠位の手がかりを取り除いた場合の手がかり付き学習についても、主作用も相互作用も見られなかった。
【0251】
次に、空間学習および記憶を、踏み台を隠したモーリスの水迷路試験で試験した。結果から、モーリスの水迷路の習得において、ヘテロ接合型マウスおよびPDE1B nullマウスの両者が、野生型マウスよりも経路長が有意に長いことが示された(図5A)。また、踏み台の相互作用による遺伝子型による有意な日も見られた。2つの4分割領域に踏み台を設けて試験した野生型マウスは、ヘテロ接合型マウスまたはPDE1B nullマウスよりも経路長が短かったが、相互作用は、(南西の4分割領域において)3日目から6日目まで作用が長い、という事実の結果(product)であった。また、経路長に対する性別の影響による遺伝子型による有意な試行も見られたが、性別の影響はほとんどないと思われた。遅延時間を調べたところ、同じパターンが見られた。他の測定の場合と同様に、一方の4分割領域目的地では、作用は他方(南西)よりも長かった。Nullマウスおよびヘテロ接合型マウスは、3日目および4日目では、野生型マウスよりも遅延時間が有意に長かった。性別の相互作用による遺伝子型による試行を観察したが、前と同様に、性別による影響はほとんどなかった。
【0252】
この試験についての学習曲線を調べたところ、累積距離および遅延時間についてのパターンは、グループ間でほぼ同じであった(図5および6)。全てのグループが、1日目には同様の能力を示し、このことは、遺伝子型の間で先行する能力の差異がないことを示している。翌日、野生型マウスは安定した改善を示し、試験のその後の各々の日の目的地までの距離は短くて済んだ。これに対して、nullマウスおよびヘテロ接合型マウスは、それぞれの日において、それらの野生型の対照よりも低い改善を示し、試験の3日目〜6日目では有意な差があった。6日目に24回の試行を行った後でさえ、nullマウスおよびヘテロ接合型マウスは、野生型マウスと同等には達成しなかった。
【0253】
目的領域における経路長および滞在時間のプローブ試行測定値は、2つの方法で分析した。まず第1として、これらのデータを環状流路(annuli)で分析した。1つの環状流路は標的の踏み台部位が入っており、1つは踏み台の外側端部の外側にあり、1つは踏み台の内側端部の内側にある。第2には、プローブ試行データは、迷路を4つの等しい4分割領域に分割することにより分析した。全体として、nullマウスおよびヘテロ接合型マウスは、標的の環状流路の中での遊泳が、野生型マウスよりも有意に劣っていた(図7A)。標的の環状流路および外側の環状流路の両者において、踏み台の位置の相互作用による有意な遺伝子型が見られた。ここでもまた、nullマウスおよびヘテロ接合型マウスは、野生型マウスと比較した場合、標的の環状流路における遊泳が劣り、南西の条件において影響は最も顕著であった。逆に、nullマウスおよびヘテロ接合型マウスは、外側の環状流路の中での遊泳が、野生型マウスよりも有意に優れていた(図7B)。内側の環状流路内での経路長、滞在時間または踏み台通過において有意な差は見られなかった。目的地からの平均距離については、踏み台の位置による遺伝子型による有意な日の相互作用が見られ、ヘテロ接合型マウスは、野生型マウスよりも目的位置から有意に遠くまで遊泳した。さらに、ヘテロ接合型マウスは、野生型マウスよりも滞在時間が有意に短かった。4分割領域による時間または距離の差はなかった。
【0254】
逆戻り試験では、経路長または累積距離の測定値について有意な差は見られなかった。遺伝子型の相互作用による試行を遅延時間について観察したところ、nullマウスは、試験の24回目の試行において、野生型マウスよりも遅延時間が有意に長かった。逆戻りプローブ試行については、有意な差は見られなかった。さらに、嗅覚性方向反応に関しては、3種の遺伝子型の間に有意な差は見られなかった。
【0255】
次に、PDE1B遺伝子を欠損しているマウス(PDE1B nullマウス)がPKA-媒介タンパク質リン酸化の機能的増大を示すか否かを判定するための実験を行った。脳線条体切片を、雄性の野生型マウスおよび雄性のPDE1B nullマウスから調製した。次に、この切片をドーパミンD1受容体アゴニストであるSKF81297(10μM)に10分間暴露した。DARPP-32のThr34およびGluR1 AMPA受容体のSer845におけるリン酸化に対する処理の作用を、リン酸化状態特異的抗体を用いて測定した(図4C、D)。これらの基質は、D1受容体およびPKAの活性化により調節されることが示されている(Greengard, P.ら, 1999. Neuron 23:435-447)。野生型の線条体切片では、ドーパミン受容体アゴニスト処理により対照マウス(アゴニスト未処理)と比較してホスホ−Thr34 DARPP-32のレベルは4〜5倍増大し、一方、ホスホ-Ser845のレベルもまた、アゴニスト処理により対象マウス(アゴニスト未処理)と比較して4〜5倍増大した(図4D)。野生型マウスおよびPDE1B nullマウスからの線条体切片をD1受容体アゴニストで処理した場合、ホスホ-Thr34およびホスホ-Ser845の両者のレベルとも、PDE1B nullマウスでは対照と比較して有意に増大した(ホスホ-Thr34では15倍の増大、ホスホ-Ser845では13倍の増大)(図4D)。さらに、PDE1B nullマウスからの側坐核切片では、野生型マウスと比較して、D1媒介リン酸化の増大が見られた。興味深いことに、PDE1B nullマウスからの未処理の線条体切片(図4C)または側坐核切片を野生型マウスからの線条体切片または側坐核切片と比較したところ、ホスホ-Thr34、ホスホ-Ser845の基礎レベルまたはDARPP-32もしくはGluR1の総レベルに有意な差はなかった。
【0256】
ホルスコリン(10μM)は、アデニリルシクラーゼの直接的な活性化剤であるが、これを使っても、PDE1B nullマウスおよび野生型マウスからの線条体切片におけるcAMPレベルが増大した(図4A)。ホルスコリン処理により、PDE1B nullマウスからの線条体切片では、野生型マウスの場合(21倍の増大)と比較して、有意に高いホスホ-Thr34 DARPP-32およびホスホ-Ser845 GluR1のレベルの増大(65倍の増大)が誘導された(図4B)。
【0257】
これらのデータから、PDE1B活性が欠損しているマウスは、自発的およびメタンフェタミン誘導自発運動活性が、野生型マウスおよびヘテロ接合型マウスと比較して有意に増大していることが実証された。提示された生化学的データから、PDE1B欠損マウスの行動におけるこれらの変化が、ヒトを含む動物における自発運動活性の主なレギュレーターである経路である脳の線条体経路の破壊によっておこった可能性があることが実証される。PDE1B欠損マウスで見られる行動の変化は、新しい環境に対する応答(探索)および急性薬物チャレンジ(メタンフェタミン)へ応答して見られた。さらに、これらのデータから、PDE1B欠損マウスが、メタンフェタミンチャレンジを施す前に環境に馴化することが示され、これは、チャレンジ前の期間の最後の15分の間に野生型動物と有意な差がなかった、という事実により示される。したがって、PDE1B欠損マウスは、メタンフェタミンチャレンジに応答して活性レベルの増大を示し、これはチャレンジ前の活性レベルによるものではなかった。
【0258】
自発運動活性が神経毒性物質および精神刺激剤の作用を試験するための標準的な方法であることは十分に証明されている。コカインやアンフェタミンなどの多くの薬物が、脳内のドーパミンシグナル伝達の調節によって自発運動活性に影響を及ぼすことが示されている(Traficante, L.ら, 1976. Life Sci. 19:1061-1066)。これらの薬剤は、脳内のドーパミン伝達物質に結合し、これによりドーパミンの過剰流出およびドーパミン受容体に結合しているリガンドの増大が起こり、その結果、アデニリルシクラーゼの活性化およびcAMPの細胞内レベルの増大が起こることが知られている(Giros, B.ら, 1996, Nature 379:606-612)。cAMPの細胞内レベルが増大すると、PKAを活性化して、DARPP-32およびCREBなどのタンパク質を含む細胞性タンパク質のリン酸化を起こす(Cunningham, S.およびA. Kelley. 1993. J. Neurosci. 13:2342-2350;Konradi, C.ら, 1994. J. Neurosci. 14:5623-5634;Misrendino, M.およびE Nestler. 1995. Brain Res. 674:299-306)。また、ドーパミンのD1受容体への結合は、cGMPの細胞内レベルも増大させ、その結果、PKAの活性化、ならびにDARPP-32および他のタンパク質のリン酸化が起こる(Altar, C.ら, 1990. Eur. J. Pharmacol. 181:17-21;Tsou, K.ら, 1993. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:3462-3465)。ドーパミン欠損マウス、ドーパミン受容体、ドーパミントランスポーターまたはDARPP-32に関する多くの研究から示されているように、この経路が改変されると、自発運動活性のレベルが変化する。
【0259】
PDE1B欠損(null)マウスが、野生型マウスと比較して活性レベルが増大しており、急性メタンフェタミンチャレンジにより活性はさらに増大することを示している本発明のデータ、ならびに生化学的データによれば、PDE1B環状ヌクレオチドの加水分解能を取り除くことにより、ドーパミン受容体により生じる環状ヌクレオチドの増大の大きさおよび持続期間が増大することが実証される。
【0260】
総合して検討すると、これらのデータから、PDE1B活性が、脳の線条体経路の活性化を介して自発運動に関与し、さらに学習にも関与することが実証される。PDE1B欠損マウスで見られる有意な作用から、PDE1Bが脳における自発運動活性ならびに学習の重要な調節物質であることが示される。PDE1Bノックアウトマウスでは基礎的なリン酸化は影響を受けないが、PDE1B欠損またはノックアウトマウスではDARPP-32およびGluR1のD1受容体媒介型リン酸化は増大したことを示している生化学的データは、PDE1BがPDE1Bシグナル伝達経路の改変を介して学習および自発運動に関与している、という知見をサポートするものである。
【0261】
PDE1Bが脳、特に自発運動および学習に関連することが判っている領域におけるドーパミンシグナル伝達において役割を担っている、という本発明による理解に基づけば、PDE1Bは、限定するものではないがパーキンソン病、ハンティングトン病、注意欠陥障害(ADD)、注意欠陥過活動性障害(ADHD)、神経変性障害、ツレット症候群、チック障害、レッシュ−ナイハン病、疼痛、失調症、物質もしくは薬物の乱用、精神分裂病、分裂感情障害、うつ病、情動障害、躁うつ病性障害、強迫性障害、摂食障害、嘔吐、パニック障害、不安障害、片頭痛、ミオクローヌス、月経前症候群(PMS)、心的外傷後ストレス症候群、カルチノイド症候群、アルツハイマー病、脳卒中、癲癇、睡眠−概日リズム障害(例えば不眠症)、性障害、ストレス障害、高血圧症および癌を含む種々の疾患の治療に使用可能な新規薬物の開発の新規なターゲットとなる。
【0262】
6.3 引用文献
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【0263】
本発明は、本明細書に記載されている特定の実施形態によってその範囲が限定されるものではない。事実、本明細書に記載されているもの以外の本発明の種々の改変は、当業者であれば、上記の記載から明らかであろう。そのような改変は、添付の特許請求の範囲内にあるものとする。
【0264】
本明細書で引用されている全ての引用文献は、参照によりその全体が、あたかも個々の刊行物、特許または特許出願が参照により全体があらゆる目的で組み込まれると具体的かつ個々に明記されているのと同程度にあらゆる目的で本明細書に組み入れられる。
【0265】
いずれの刊行物の引用も、それが本出願日前に開示されているためであって、先行発明により本発明がそうした刊行物よりも出願日を先行させる権利がないことを認めるものと解釈すべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞または組織におけるドーパミンD1受容体細胞内シグナル伝達経路の活性をモジュレートする化合物の同定方法であって、
(a)その細胞または組織における第1のPDE1B活性のレベルを測定し;
(b)その細胞または組織を試験化合物と接触させ;
(c)その細胞または組織における第2のPDE1B活性のレベルを測定すること;
を含み、そのPDE1B活性の第1のレベルと第2のレベルとの差が、その試験化合物の上記経路の活性をモジュレートする能力の指標である、上記方法。
【請求項2】
DARPP-32のホスホ-Thr34またはGluR1 AMPA受容体のホスホ-Ser845のリン酸化がモジュレートされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
PDE1B活性の差が、試験化合物の、DARPP-32またはGluR1 AMPA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
PDE1B活性の差が、試験化合物の、ARPP-16、ARPP-19、ARPP-21、CREB、cAMP、cGMP、CK1、CK2、Cdk5、PKA、PKG、PP-2C、PP-2B、PP-1、カルシウムチャンネル、Na/K ATPaseまたはNMDA受容体のリン酸化依存的活性化をモジュレートする能力の指標である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−95525(P2010−95525A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260695(P2009−260695)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【分割の表示】特願2003−524973(P2003−524973)の分割
【原出願日】平成14年9月3日(2002.9.3)
【出願人】(503466819)ザ ロックフェラー ユニバーシティー (2)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【Fターム(参考)】