説明

脳の代謝機能不全のための栄養補充剤

【課題】脳の代謝機能不全に罹患した個体の治療に有用な薬学的組成物の提供。
【解決手段】糖と、クレブス回路中間体もしくはその塩、またはクレブス回路中間体の前駆体とを含有する薬学的組成物。糖としては、単糖、二糖、多糖、およびそれらの混合物であることが好ましい。クレブス回路中間体としては、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、またはそれらの混合物であることが好ましい。クレブス回路中間体の前駆体としては、2-ケト-4-ヒドロキシプロパノール、2,4-ジヒドロキシブタノール、2-ケト-4-ヒドロキシブタノール、2,4-ジヒドロキシ酪酸、2-ケト-4-ヒドロキシ酪酸、アスパラギン酸塩、オキサロ酢酸のモノ-アルキルエステル、オキサロ酢酸のジ-アルキルエステル、およびそれらの混合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、1997年10月24日に出願された米国特許仮出願第60/063,165号の恩典を請求するものである。
【0002】
発明の技術分野
本発明は、脳の代謝機能不全に罹患した個体のための栄養補充剤、および脳の代謝機能不全によって示される障害の治療法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
異化過程の通常の作用時には、エネルギーが獲得され、かつその後容易に利用できる形、つまりアデノシン三リン酸(「ATP」)のリン酸結合として保存される。エネルギーが同化過程において必要となった際には、ATPのリン酸結合は切断され、同化反応を駆動するためのエネルギーを生じ、かつアデノシン二リン酸(「ADP」)が再生される。この異化過程は、タンパク質、多糖および脂質の分解に関連している。タンパク質は、小さいペプチドおよび構成アミノ酸へと分解され、多糖および二糖は単糖構成体へと分解され、かつ脂質は、グリセロールおよび脂肪酸構成体へと分解される。これらの化合物は更に、主として炭素数2のアセチル基のようなより小さい化合物へも分解される。
【0004】
炭素数2のアセチル基は異化過程において必須の成分であり、これはアセチルCoAによりクレブストリカルボン酸回路(「クレブス回路」)へと導入される。このアセチル基は、異化の最終工程の炭素源として利用される。クレブス回路および付随して起こる電子伝達系は、炭素数2のアセチル基の完全な酸化を可能にし、二酸化炭素と水を生成する一連の酵素により制御された反応である。図1に示したように、アセチル基は、オキサロ酢酸への結合によってクレブス回路に導入され、クエン酸を生成する。それに続くクレブス回路の工程の間に、クエン酸はアコニット酸へ、その後イソクエン酸へと転換されるか、あるいは、直接イソクエン酸に転換される。イソクエン酸がケトグルタル酸に転換される間に、1個の炭素原子が二酸化炭素へと完全に酸化される。ケトグルタル酸がコハク酸へ転換される間に、第二の炭素原子が二酸化炭素へと完全に酸化される。残りの工程では、コハク酸がフマル酸に転換され、フマル酸がリンゴ酸に転換され、かつリンゴ酸はオキサロ酢酸へ転換される。クレブス回路が1回完全に回ると、アセチル基のエネルギーを獲得し、ATP1分子、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(「NADH」)3分子、およびフラビンアデニンジニクレオチドFADH21分子を生じる。NADHおよびFADH2はその後電子伝達系において電子供給体として使用され、更にATP分子を生じる。
【0005】
クレブス回路および付随する電子伝達系は、様々な種類の細胞に存在し、細胞のエネルギー要求に応じて数が変動するミトコンドリアにおいて生じる。例えば、神経細胞および筋肉細胞は極めて高いエネルギー要求性を有するので、ミトコンドリア数が非常に多い。それらの高いエネルギー要求性のために、これらの細胞種は、異化経路の崩壊に関連した障害もしくは状態、または他の欠陥のある細胞内エネルギー代謝に関連した障害もしくは状態に対して特に脆弱である。代表的障害または状態は、アルツハイマー病(「AD」)、パーキンソン病(「PD」)、ハンチントン病(「HD」)、および他の神経変性疾患を含む(Bealら、「神経変性疾患の病因はミトコンドリアエネルギー代謝の欠損が原因か?(Do Defects in Mitochondrial Energy Metabolism Underlie the Pathology of Neurodegenerative Disease?)」、Trends Neurosci.、16(4):125-131(1993)(非特許文献1);Jenkinsら、「局所性1H NMR分光法を用いるハンチントン病におけるインビボでのエネルギー代謝障害の証拠(Evidence for Inpairment of Energy Metabolism in vivo in Huntington's Disease Using Localized 1H NMR Spectroscopy)」、Neurol.、43:2689-2695(1993)(非特許文献2))。
【0006】
ADは、ヒトに不能状態をもたらす痴呆の最も一般的な原因である。ADは進行性の変性疾患であるので、患者のみならず、患者の家族や介護者にも影響を及ぼす。ADの初期段階においては、日常生活動作(「ADL」)は認知または機能的障害によってごくわずかな影響を受け、これは本疾患の最初の臨床徴候となることが多い(Smallら、「アルツハイマー病および関連疾患の診断・治療(Diagnosis and Treatment of Alzheimer Disease and Related Disorders)」、アメリカ老人精神医学協会、アルツハイマー協会、およびアメリカ老人協会の統一見解、JAMA、278:1363-1371(1997)(非特許文献3))。ADが進行するにつれて、患者のADLを行う能力は弱まり、患者は介護者や他の家族に一層依存するようになる(Galaskoら、「アルツハイマー病の臨床試験のための日常生活動作の評価一覧(An Inventory to Assess Activities of Daily Living for Clinical Trial in Alzheimer's Disease」、Alzheimer Dis. Assoc. Disord.、11(Suppl.2):S33-S39(1997)(非特許文献4)を参照のこと)。
【0007】
PDは、脳のシナプス前ドーパミン作用性ニューロンの変性、その後の放出される神経伝達物質ドーパミン量の減少の結果であると広く考えられている。従って、不適当なドーパミン放出は、PDの症状である随意筋調節障害の発症につながる。PDの運動機能障害の症状は、これまではドーパミン受容体アゴニスト、モノアミン酸化酵素結合阻害剤、三環系抗うつ薬、抗コリン作用薬、およびヒスタミンH1-アンタゴニストを使用して治療されている。残念なことに、主要病因に関連する事象である黒質の細胞変性は、このような治療によって救済されることはない。本疾患は進行し続け、一定期間経過後にはドーパミン代償療法が無効になることが多い。しかしPDは、運動機能障害に加え、神経精神障害または症状によっても特徴付けられる。これらは、感情鈍麻−無気力、うつ病および痴呆を含む。標準のL-ドーパ療法にあまりよく反応しない痴呆のPD患者が報告されている。更にこれらの治療は、神経精神症状に関してはほとんどまたは全く恩典がない。
【0008】
HDは、およそ1万人にひとりの割合で罹患する家族性の神経変性障害である(Martinら「ハンチントン病:病因および管理(Huntington's Disease:Pathogenesis and Management)」、N. Engl. J. Med.、315:1267-1276(1986)(非特許文献5);Gusella、「ハンチントン病(Huntington's Disease)」、Adv. Hum. Genet.、20:125-151(1991)(非特許文献6))。これは、常染色体優性で遺伝し、舞踏病様運動、痴呆、認知減退により特徴付けられる。本疾患は通常、中年期、年齢30から50歳の間に発症するが、一部の症例においては非常に若年期または晩年に発症することがある。本症状は進行性であり、最も頻繁には運動障害の続発性合併症の結果として、典型的には発症の10〜20年後には死の転機を迎える。HDの病因の主要部位は線条であり、ここでは神経の最大90%もが枯渇することがある。認知機能障害および最終的な痴呆は、皮質性ニューロン(cortical neuron)の喪失または脳幹神経節の認知領域における正常活動の崩壊のいずれかに起因していると思われる。特徴的な舞踏病は、線条のニューロン喪失によって引き起こされると考えられるが、視床下核の活性の減退も寄与していると思われる。
【0009】
グルタミン酸誘導性の神経細胞死は、HDに寄与していると考えられている。グルタミン酸は脳の主要な興奮性伝達物質である。これは、実質的には全ての中枢神経を興奮させ、かつ神経末端に極めて高濃度(10-3M)で存在する。グルタミン酸受容体は、4型に分けられる(それらのモデルとなるアゴニストによって命名される):カイニン酸型受容体、N-メチル-D-アスパラギン酸(「NMDA」)型受容体、α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソオキサゾルプロピオン酸(「AMPA」)型受容体、および代謝共役型受容体(metabolotrophic receptor)。多くの正常なシナプス伝達事象は、グルタミン酸放出に関連している。しかしグルタミン酸は、高レベルで神経毒および神経死も誘発する(Choi、「グルタミン酸の神経毒および神経系疾患(Glutamate Neurotoxicity and Disease of the Nervous System)」、Neuron、1:623-634(1988)(非特許文献7))。細胞死のメカニズムは、主としてNMDA受容体へのグルタミン酸の持続性の作用により生じる。これらの毒性の変化は、グルタミン酸により引き起こされ、いわゆるグルタミン酸興奮毒性と称されるものは、卒中または過度の痙攣のような急性脳外傷後の、細胞の損傷および細胞死の原因であると考えられる。興奮毒性は、脳虚血、ADおよびHDに関与している可能性が示唆されている(Greenamyreら、「アルツハイマー病およびハンチントン病におけるL-グルタミン酸結合の変化(Alternations in L-gulutamate Binding in Alzheimer's and Huntington's Diseases」、Science、227:1496-1499(1985)(非特許文献8);Choi、「グルタミン酸の神経毒および神経系疾患(Gulutamate Neurotoxicity and Diseases of Nervous System」、Neuron、1:623-634(1988)(非特許文献7))。
【0010】
エネルギー代謝を改善し、おそらく細胞死を防止するような薬物の投与が、エネルギー−欠乏細胞によって特徴付けられる障害を治療することを目的として示唆されている(Bealら、「神経変性疾患の病因はミトコンドリアエネルギー代謝の欠損が原因か?(Do Defects in Mitochondrial Energy Metabolism Undrlie the Pathology of Neurodegenerative Diseases ?)」、Trends Neurosci.、16(4):125-131(1993)(非特許文献1))。エネルギー欠乏細胞(すなわち低酸素症および低血糖症の結果)のエネルギーレベルを増大する一つの方法は、正常な代謝ではその後酢酸塩へと転換されるピルビン酸の投与である。イズミ(Izumi)らに付与された米国特許第5,395,822号(特許文献1)(「Izumi」)によると、虚血性事象(すなわち、低酸素症および低血糖症の状態を引き起こす)の前後の患者へのピルビン酸の投与は、通常は虚血性事象に関連する神経変性を防止するのに十分である。イズミ(Izumi)はまた、脳損傷に寄与する因子であるブドウ糖の虚血性事象前の投与は、投与が乳酸アシドーシスを生じるために望ましくないことを確定した。
【0011】
ADの治療法は、NADHもしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(「NADPH」)、またはそれらの塩の投与を含む。NADHまたはNADPHの投与が、バークメイヤー(Birkmayer)に付与された米国特許第5,444,053号(特許文献2)において開示されており、これは他のリンゴ酸、コハク酸、および酢酸を含む様々な酸で生成された塩の使用を開示している。NADHおよびNADPHを使用するPDを治療する同様の方法は、両方ともバークメイヤー(Birkmayer)に付与された米国特許第5,019,561号(特許文献3)および第4,970,200号(特許文献4)に開示されている。
【0012】
本発明は、異化経路の崩壊または他の細胞内エネルギー代謝の欠損に関連した状態の治療における前述の欠点の克服に関連する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,395,822号
【特許文献2】米国特許第5,444,053号
【特許文献3】米国特許第5,019,561号
【特許文献4】米国特許第4,970,200号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Bealら、「神経変性疾患の病因はミトコンドリアエネルギー代謝の欠損が原因か?(Do Defects in Mitochondrial Energy Metabolism Underlie the Pathology of Neurodegenerative Disease?)」、Trends Neurosci.、16(4):125-131(1993)
【非特許文献2】Jenkinsら、「局所性1H NMR分光法を用いるハンチントン病におけるインビボでのエネルギー代謝障害の証拠(Evidence for Inpairment of Energy Metabolism in vivo in Huntington's Disease Using Localized 1H NMR Spectroscopy)」、Neurol.、43:2689-2695(1993)
【非特許文献3】Smallら、「アルツハイマー病および関連疾患の診断・治療(Diagnosis and Treatment of Alzheimer Disease and Related Disorders)」、アメリカ老人精神医学協会、アルツハイマー協会、およびアメリカ老人協会の統一見解、JAMA、278:1363-1371(1997)
【非特許文献4】Galaskoら、「アルツハイマー病の臨床試験のための日常生活動作の評価一覧(An Inventory to Assess Activities of Daily Living for Clinical Trial in Alzheimer's Disease」、Alzheimer Dis. Assoc. Disord.、11(Suppl.2):S33-S39(1997)
【非特許文献5】Martinら「ハンチントン病:病因および管理(Huntington's Disease:Pathogenesis and Management)」、N. Engl. J. Med.、315:1267-1276(1986)
【非特許文献6】Gusella、「ハンチントン病(Huntington's Disease)」、Adv. Hum. Genet.、20:125-151(1991)
【非特許文献7】Choi、「グルタミン酸の神経毒および神経系疾患(Glutamate Neurotoxicity and Disease of the Nervous System)」、Neuron、1:623-634(1988)
【非特許文献8】Greenamyreら、「アルツハイマー病およびハンチントン病におけるL-グルタミン酸結合の変化(Alternations in L-gulutamate Binding in Alzheimer's and Huntington's Diseases」、Science、227:1496-1499(1985)
【発明の概要】
【0015】
本発明は、糖、およびクレブス回路中間体もしくはその塩、またはクレブス回路中間体の前駆体を含む薬学的組成物に関する。クレブス回路中間体は、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、およびそれらの混合物を含む。クレブス回路中間体の前駆体は、被験者への投与時に生体によって転換され、クレブス回路中間体を生成する化合物である。
【0016】
本発明はまた、ミトコンドリア機能障害の治療法に関する。この方法は、本発明の薬学的組成物を、ミトコンドリア機能の欠陥に関連した障害を有する被験者に、ミトコンドリア機能を改善するのに有効な条件下で投与することを含む。
【0017】
本発明は更に、脳代謝障害を有する個体において脳の機能を改善する方法に関する。この方法は、脳代謝障害を有する被験者に、本発明の薬学的組成物を、脳の機能を改善するのに有効な条件下で投与することを含む。
【0018】
本発明の薬学的組成物は、特にミトコンドリア機能の欠陥に関連した障害の予防または治療において望ましい。治療することができる障害は、神経系の状態または疾患、他の身体部分の状態または疾病(例えば、心臓血管障害、筋骨格障害など)、および全身性の状態または疾患のような、酸化的代謝レベルの低下によって特徴付けられる状態または疾患を含む。この薬学的組成物は、特に痴呆の症状によって示される神経系異常の治療における使用が望ましい。本発明の薬学的組成物を投与すると、脳細胞の代謝を増強することによって(すなわち、小脳組織のミトコンドリア機能を改善すること)、痴呆の重症度を低下することが可能である。従ってこの薬学的組成物は、痴呆の発症を遅延するための予防に関して、または様々な神経系異常に関連した痴呆の進行を遅延するための治療として、特に有用である。この薬学的組成物は、また残存しているが代謝的には障害を示すことが多い細胞の機能を改善することによって、痴呆疾患の臨床症状の発現を改善するために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、クレブス回路、および各中間体の関係を示している。オキサロ酢酸とアセチル基(アセチル-CoA由来)は結合し、クエン酸を形成する。この回路の流れにおいて、クエン酸の2個の炭素原子は完全に酸化され、二酸化炭素となり、かつオキサロ酢酸が再生される。この工程は、1分子のATP、3分子のNADH、1分子のFADH2を生成する。最終的には、還元された補因子NADHおよびFADH2が電子伝達系に導入され、結果的にこれらは酸化され、追加のATP分子を生成する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
本発明は、糖をクレブス回路の中間体またはクレブス回路中間体前駆体と共に含む薬学的組成物に関する。
【0021】
クレブス回路中間体は、クレブス回路において利用される化合物の酸または塩である。従ってクレブス回路中間体は、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、またはそれらの混合物を含む。再度図1を参照すると、本発明の薬学的組成物が含有するクレブス回路中間体に応じて、薬学的組成物は、最終的には異なる量のATPを産生することが予想される。酸化的代謝の変化に関わる多くの障害は、α-ケトグルタル酸のコハク酸への転換時または転換前のクレブス回路の破壊を含むと考えられる。このような障害について、本発明の薬学的組成物は、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、またはそれらの混合物のようなクレブス回路中間体を含むことが好ましい。
【0022】
クレブス回路中間体の前駆体は、被験者への投与時に、生体により(すなわちインビボにおいて)クレブス回路中間体へと転換される化合物である。一般に、モノ-およびジ-アルキルクエン酸塩、アコニチン酸塩、イソクエン酸塩、α-ケトグルタル酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、およびオキサロ酢酸塩は、エステル結合が生体により容易に破壊されクレブス回路中間体を生じるので、望ましい前駆体である。他のエステル前駆体も、影響を受けた細胞への前駆体分子の侵入を増強する公知の技術を用いて開発されている。例えば、本明細書に参照として組入れられているヨコヤマ(Yokoyama)に付与された米国特許第5,739,117号は、脳細胞へより効果的に侵入する多様なグルコースエステル誘導体を開示している。ある好ましいクレブス回路中間体の前駆体は、生体によりオキサロ酢酸またはオキサロ酢酸塩へと転換される化合物である。この種の前駆体の例は、2-ケト-4-ヒドロキシプロパノール、2,4-ジヒドロキシブタノール、2-ケト-4-ヒドロキシブタノール、2,4-ジヒドロキシ酪酸、2-ケト-4-ヒドロキシ酪酸、アスパラギン酸エステル、更には先に定義されたモノ-およびジ-アルキルオキサロ酢酸エステルを含む。アミノ酸アスパラギン酸塩は、アミノ基転移反応によりオキサロ酢酸へ転換される。
【0023】
本発明での使用に適した糖は、ブドウ糖、果糖、マンノース、およびガラクトースのような単糖;ショ糖、麦芽糖および乳糖のような二糖類;並びに、生体で消化され単糖を生成する多糖(すなわちアミロースのようなデンプン)である。
【0024】
本発明の薬学的組成物はまた、ミトコンドリア機能(すなわち酸化的代謝)を増強する補助剤を含むことができる。適当な補助剤は、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、および他の代謝増強化合物を含む。ビタミンB-複合体は、代謝に関わるので、補助剤として投与するのに好ましい。補助剤として有用なビタミンの例は、チアミン(ビタミンB1)、リボフラビン(ビタミンB2)、ナイアシン(ビタミンB3)、ピリドキシン誘導体(ビタミンB6)、およびパントテン酸を含む。補助剤として有用なミネラルの例は、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、および亜鉛を含む。抗酸化剤の例は、アスコルビン酸、α-トコフェロール、レスベリトール(resveritol)、クエルセチンおよび他のフラボノイドを含む。代謝増強化合物の例は、L-カルニチンおよびその誘導体、並びにクレアチンを含む。クレアチン補充は、本明細書に参照として組入れられているハルトマン(Hultman)に付与された米国特許第5,767,159号に開示されている。L-カルニチンは、モデルシステムにおいてADに関連した異常を緩和することがわかった(Malowら、「アルツハイマー病の新規治療のためのスクリーニングとしての培養細胞(Cultured Cells as a Screen for Novel Treatments of Alzheimer's Disease」、Arch. Neurol.、46:1201-1203(1989)、これは本明細書に参照として組入れられている。)。
【0025】
本発明の薬学的組成物は、経口的、経直腸坐薬、非経口的、例えば皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、くも膜下内投与により、間質内注入、鼻腔内滴下、または鼻、喉、および気管支のような粘膜への塗布により投与することができる。これらは、単独でまたは適当な薬学的に許容できる賦形剤と共に投与することができ、かつ錠剤、カプセル剤、散剤、液剤、懸濁剤もしくは乳化剤のような固形または液体であることができる。
【0026】
固形単位剤形は、クレブス回路中間体またはクレブス回路中間体の前駆体を含む通常のゼラチン型および薬学的に許容できる賦形剤のような、通常の形であることができる。適当な賦形剤は、滑沢剤および不活性充填剤を含む。前述の糖を充填剤として使用することもできる。別の態様において、これらの化合物は、通常の錠剤基剤(すなわち前述の糖)と共に、アカシア、トラガカントガム、トウモロコシデンプン、またはゼラチンのような結合剤;トウモロコシデンプン、ジヤガイモデンプン、またはアルギニン酸のような崩壊剤;ステアリン酸またはステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤;および、前述の糖、サッカリンまたはアスパルテームのような甘味剤;およびペパーミント油、冬緑油または人工風味料のような、着香剤と組合わせて錠剤とされている。
【0027】
本発明の薬学的組成物はまた、薬学的賦形剤と共に生理学的に許容できる希釈剤においてこれらの物質の溶液または懸濁液により投与することができる。このような賦形剤は、追加の界面活性剤および前述したような他の薬学的に許容できる補助剤を含有または非含有の水および油のような滅菌液を含むことができる。油の例としては、石油、動物、植物または合成を原料としたものであり、例えばピーナッツ油、ダイズ油または鉱油を含む。一般に、水、生理食塩水、前述の糖により生成された糖水溶液、およびポリプロピレングリコールまたはポリエチレングリコールのようなグリコールが、液体賦形剤として、特に注射用液体として好ましい。無菌を維持しかつ微生物の影響を防止するために、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメローサルなどの抗菌剤および抗真菌剤を賦形剤に添加することができる。
【0028】
本発明の薬学的組成物は、酸化的代謝レベルの異常な低下によって特徴付けられる障害に罹患した被験者(例えば患者)の細胞代謝を増大するために有用である。本発明の薬学的組成物の投与は、クレブス回路の作用を増大することによってミトコンドリアの機能を増強すると考えられる。被験者への糖の投与はアセチル基を産生する炭素源を提供し、かつ被験者へのクレブス回路中間体またはクレブス回路中間体の前駆体の投与は、ミトコンドリアレベルで特定のクレブス回路中間体の濃度を高める。これは、ブドウ糖および他の基質における炭素数2の誘導体がクレブス回路に取り込まれるために炭素数4の中間体が必要とされるので、プライミング効果(priming effect)を有すると考えられる。特に炭素数2のアセチル基は、クレブス回路を続行するために、炭素数4のオキサロ酢酸に結合し、クエン酸を形成しなければならない。リンゴ酸は、オキサロ酢酸と平衡状態であり、他のクレブス回路中間体は、容易にリンゴ酸およびオキサロ酢酸に転換される。コハク酸およびフマル酸のリンゴ酸およびオキサロ酢酸への転換は、特に急速である。代謝が妨げられた細胞は、エネルギーを直接生成するために、クレブス回路中間体を利用する傾向がある。更に詳細に述べると、これらは中間体を利用し、電子を発生し、これらはその後電子伝達によりATPを生成する。中間体の利用は即座のエネルギー源を供給する一方、そうすることで、その後のクレブス回路の活性を妨げられる。従って本発明の薬学的組成物の投与は、クレブス回路を起動し、その結果再び効果的に作動すると考えられる。
【0029】
従って本発明の別の局面は、ミトコンドリア機能の欠陥に関わる障害を有する被験者の治療法に関する。一般にこの方法は、本発明の薬学的組成物を、ミトコンドリア機能を改善するのに有効な条件下で被験者に投与することを含む。
【0030】
本発明の方法は、ミトコンドリア機能の欠陥に関連した障害の治療または予防において特に有用である。この方法で治療することができる障害は、一般に酸化代謝レベルの低下を特徴とする状態または疾患を含む。これらの障害は、遺伝因子、環境因子またはそれら両方によって引き起こされ得る。更に詳細に述べると、このような障害は、神経系の状態または疾患(例えば、神経変性、精神病など)、他の身体部分の状態または疾患、および全身性の状態または疾患を含む。神経系の状態または疾患の例は、酸化的代謝異常に関連したアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、脊髄小脳性運動失調、および精神病(うつ病および分裂病)を含む。他の身体部分の状態または疾病の例は、酸化的代謝に異常がある心臓血管障害(例えばアテローム性動脈硬化症、および心筋梗塞、狭心症、心筋症、心臓弁障害、および他の心不全によって惹起される状態または障害を含む心臓血管障害)、筋骨格障害(De Cooら、「ミトコンドリアミオパチー、酪酸アシドーシスおよび卒中様事象を伴う患者におけるミトコンドリアtRNA(Val)遺伝子変異(G1642A)(A Mitochondrial tRNA(Val) Gene Mutation(G1624A) in a Patient With Mitochondrial Myopathy, Lactic Acidosis, and Stroke-like Episodes」、Neurol.、50:293-295(1998)、これは本明細書中に参照として組入れられている。)、ならびに酸化的代謝が異常である、神経組織以外の他の状態または障害、例えば代謝の変化に関連することが多い認識された老人性症候群である虚弱(frailty)(Fayetteら、Eur. J. Clin.Nutrition、52:45-53(1998)、これは本明細書に参照として組入れられている。)を含む。
【0031】
多くの神経系の状態または疾患(例えばADおよび前述のもの)は、痴呆のような脳機能障害として症状発現する脳代謝機能不全により特徴付けられる。従って本発明の別の局面は、脳代謝不全を有する被験者において脳機能を改善する方法に関する。一般に、本発明の薬学的組成物は、脳代謝障害を有する被験者に、脳細胞代謝の改善に有効な条件下で投与される。脳細胞代謝を改善することによって、被験者の脳機能は顕著に改善される。
【0032】
神経系異常の治療は、典型的にはクレブス回路中間体またはクレブス回路中間体の前駆体を脳組織に取り込ませるための本発明の薬学的組成物の投与に関する。その望ましい治療効果または予防効果を発揮するために、糖およびクレブス回路中間体またはクレブス回路中間体の前駆体が、脳細胞へ輸送されなければならず、その後引き続きクレブス回路中間体および糖誘導体(例えばピルビン酸塩、酢酸塩)は、脳細胞のミトコンドリアへ取り込まれなければならない(すなわち、脳細胞ミトコンドリアでこれらはクレブス回路に組込まれる)。
【0033】
本発明の薬学的組成物が投与される方法(例えば、経口投与、静脈内注射など)および治療される患者の状態に応じて、血液−脳関門(「BBB」)とも称される脳血管内皮に打ち勝つことが、有効な投与には必要である。BBBは、脳の星状膠細胞の影響下で脳内皮細胞により形成される(Johansson、「血液脳関門の変化の説明モデル(Expression Models of Altering the Blood Brain Barrier)」、Progress in Brain Research、91:171-175(1992);Ermish、「血液脳関門のペプチド受容体および脳への輸送基質(Peptide Receptors of the Blood-Brain Barrier and Substrate Transport into the Brain)」、Progress in Brain Reseaech、91:155-161(1992)、これらは本明細書に参照として組入れられている。)。簡単に述べると、BBBは、負に帯電した密着結合した微小血管の内皮細胞の単層を含む。この層はふたつの液体含有コンパートメントを隔てている:血漿および脳実質の細胞外液。BBBの主な機能のひとつは、血漿と細胞外液の間で成分の輸送を調節することである。BBBは、血液から脳細胞への分子の自由な通過を制限する。CNSへのこの制限された浸透は、タンパク質複合体、酵素などの極性の高い巨大分子で顕著である(Boboら、「脳における巨大分子の移送が増強された送達(Convection-enhanced Delivery of Macromolecules in the Brain)」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91:2076-2080(1994)、これは本明細書に参照として組入れられている)。
【0034】
第一の方法において、クレブス回路中間体またはクレブス回路中間体の前駆体は、より容易にBBBを通過しかつ個体の脳細胞へと侵入する形状で投与される。例えば、クレブス回路中間体のモノ−またはジ−アルキルエステル(例えばリンゴ酸エステル)は特に好ましい。特定の理論に関連付けたものではないが、エステル前駆体はより親油性であり、その結果恐らくより容易にBBBを通過すると考えられている。本明細書に参照として組入れられている、ヨコヤマ(Yokoyama)に付与された米国特許第5,739,117号を参照のこと。
【0035】
別の方法において、BBBは、例えばくも膜下腔注入(Ommaya、「中枢神経系への長期アクセスおよび薬物送達のための移植可能用具(Implantable Devices for Chronic Access and Drug Delivery to the Central Nervous System)」、Cancer Drug Delivery、1(2):169-179(1984)、これは本明細書に参照として組入れられている)、手術用インプラント(Ommayaに付与された米国特許第5,222,982号、これは本明細書に参照として組入れられている)、および間質内注入(Bobbら、「脳における巨大分子移送が増強された送達」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、91:2076-2080(1994)、これは本明細書に参照として組入れられている))のような、様々な公知の戦略のいずれかにより回避される。これらの戦略はそれぞれ、クレブス回路中間体またはクレブス回路中間体前駆体の、脳脊髄液または脳実質への直接投与による、中枢神経系への送達に関連している。
【0036】
第三の方法において、クレブス回路中間体またはクレブス回路中間体前駆体は、BBBの通過を増強する分子に結合している。様々なBBB通過増強剤が同定されている(例えば透過性(permeabilizer)ペプチド)、および他のものも絶えず同定されている。
【0037】
前述のように、本発明の薬学的組成物は、ミトコンドリア機能障害に関連した神経系異常を有する被験者の治療において有用である。いくつかの神経系異常が、神経伝達システムの欠損に関連していることが知られている。例えばADは、記憶を含む認知機能において基本的役割を果たす基底前脳におけるコリン作用性神経の変性に関連している(Beckerら、「アルツハイマー型老人性痴呆におけるコリンエステラーゼ阻害の機序:臨床、医薬、治療に関して(Mechanisms of Cholinesterase Inhibition in Senile Dementia of the Alzheimer Type:Clinical, Pharmachological and Therapeutic Aspects)」、Drug Dev. Res.、12:163-195(1988))。このような変性の結果、本疾患に罹患した患者は、アセチルコリン合成、コリンアセチルトランスフェラーゼ活性、アセチルコリンエステラーゼ活性およびコリン取込みの顕著な低下を示す。ADの治療に使用されるにはいくつかの方法がある。これらは一般に、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤またはアセチルコリンの合成、貯蔵もしくは放出の変調剤の投与を含んでいる。また、NMDAグルタミン酸型受容体の活性化も、HD、筋萎縮性側索硬化症、オリーブ橋小脳萎縮症およびADの病因として意味があり、NMDAグルタミン酸受容体アンタゴニストの使用は、これらの疾患に罹患した患者にとって臨床的恩典となり得(Woodruffら「MK-801とN-メチル-D-アスパラギン酸塩受容体の相互作用:機能的結果(The Interaction between MK-801 and Receptors for N-methyl-D-aspatate:Functional Consequences)」、Neuropharm.、26:903-909(1987);Greenamyreら、「パーキンソン病治療におけるN-メチル-D-アスパラギン酸アンタゴニスト(N-methyl-D-aspartate Antagonists in the Treatment of Perkinsons' Disease)」、Arch. Neurol.、48:977-981(1991);Giuffaら、「ハンチントン舞踏病のグルタミン酸治療(Glutamatergic Therapy of Huntington's Chorea」、Clin. Neuropharm.、15:148-151(1992)、これらは本明細書に参照として組入れられている)、更には加齢による特定の神経変性作用に罹患した患者にとっても臨床的恩典となり得る(Ferris, S.H.、「痴呆症の治療戦略(Therapeutic Strategies in Dementia Disorders)」、Acta Neurol. Scand.、129(Suppl.):23-26(1990)、これは本明細書に参照として組入れられている)。PDの治療において使用される薬物に関しては、L-ドーパとその誘導体が第一の治療薬である。
【0038】
従って特定の神経系異常の治療について、本発明の薬学的組成物が、単独で、または、神経系異常の治療のための治療薬と組合わせて投与され得る。適当な治療薬は、このような神経系異常の治療のために通常使用される薬物療法を含む。例えば、ADの治療のためには、該薬学的組成物は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、アセチルコリン合成、貯蔵もしくは放出の変調剤、NDMAグルタミン酸受容体アンタゴニスト、またはそれらの組合わせのいずれかと併用投与することができる。多くの適当なアセチルコリンエステラーゼ阻害剤、アセチルコリンの合成、貯蔵もしくは放出の変調剤、およびNDMAグルタミン酸受容体アンタゴニストが現在公知であり、他のものも絶えず開発・報告されている。
【0039】
前述のように、本発明の薬学的組成物は、ミトコンドリア機能の欠陥に関係した心臓血管障害を有する被験者の治療において有用である。従って、特定の心臓血管障害の治療のために、本発明の薬学的組成物が、単独で、または心臓血管障害の治療用の通常の薬物と組合わせて投与される。例えば、本発明の薬学的組成物は、抗血液凝固薬(blood-thinner)、コレステロール低下薬、抗血小板薬、血管拡張薬、β−遮断薬、アンジオテンシン遮断薬、ジギタリスおよびジギタリス誘導体、ならびにそれらの組合せのいずれかと同時に投与することができる。多くの適当な抗血液凝固薬、コレステロール低下薬、抗血小板薬、血管拡張薬、β−遮断薬、アンジオテンシン遮断薬、およびジギタリス誘導体が、現在公知であり、他のものも絶えず開発・報告されている。
【0040】
前述のように、本発明の薬学的組成物は、ミトコンドリア機能の欠陥に関連した筋骨格障害を有する被験者の治療において有用である。従って特定の筋骨格障害の治療のために、本発明の薬学的組成物が、単独で、または他の筋骨格障害治療のための通常の薬物と併用して投与され得る。
【実施例】
【0041】
下記実施例は、本発明の態様を詳細に説明するために提供されるが、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
実施例1−リンゴ酸およびブドウ糖補充剤の投与によるアルツハイマー病の治療
オープンラベルの臨床試験において、アルツハイマー病患者7名に、リンゴ酸を投与した。リンゴ酸を最も長く与えられた患者は16週間であった。各患者は、1日あたりリンゴ酸15mgを与えられ、これは天然にブドウ糖を含有する甘くないブドウジュースにリンゴ酸を溶解して投与された。甘くないブドウジュースへのリンゴ酸の添加は、酸味のある液体を生じた。
【0042】
この酸味のあるジュースの摂取遵守状況は不定であった。患者1名が、甘くないブドウジュース中のリンゴ酸処方の摂取を単純に拒絶したので、本明細書に記した結果から除外した。リンゴ酸およびブドウ糖は、7名の患者中の6名において(患者1および3〜7)、Aricept(登録商標)(Eisai Inc.、テアネック、NJ、およびPfizer Inc.、ニューヨーク、NYから入手)を含有する「最良の利用可能な治療」と同時に投与した。
【0043】
認知を、広く使用されかつ確固たるミニ精神状態試験(Mini-Mental State Examination)(「MMSE」)により測定した(Folsteinら、「ミニ精神状態:臨床医のための患者の認知状態の等級化の実践法(Mini-Mental State:A Practical Method for Grating Congnitive States of Patients for the Clinitian)」、J. Psychiat. Res.、12:189-198(1975)、これは本明細書に参照として組入れられている)。MMSEは、ふたつのセクションに分かれている。第一のセクションは、声による反応のみを要し、患者の見当識、記憶力および注意力を試験する。第二のセクションは、患者の氏名を言う能力、口頭および文書による命令へ従う能力、自然な文章を書く能力、複雑な多角形の複写を行う能力を試験する。第一のセクションの最大スコアは21であり、第二のセクションの最大スコアは9であり、合計スコアの最大は30である。MMSEのスコアが高いと、よ高い行動能力を示している。スコア28〜30は正常な知性を示し、スコア23以下は痴呆を、スコア9以下は重度の痴呆を示す。
【0044】
患者は、リンゴ酸とブドウ糖補充剤による治療を開始する前に、MMSEを用いて試験し、補充剤投与停止後に再試験した。結果を表1に示した。
【0045】
(表1) リンゴ酸およびブドウ糖によるアルツハイマー病患者の治療

【0046】
正味の結果は、MMSEスコアの改善(上昇)を示した。この改善は、対t-検定(paired t-test)を用いて解析したところ、統計学的に有意であった(P=0.00039、両側)。患者3名において、MMSEスコアは劇的に変化し、残り4名の患者ではMMSEは中等度の改善を示した。患者全員を、機能に関して介護者が等級化したスケールについても評価した。行動の等級化は、認知スコアよりもより変動していたが、前述の各患者については、その介護者は行動に改善が見られたと表現した。
【0047】
実施例2−リンゴ酸単独の補充剤の投与によるアルツハイマー病の治療
実施例1の患者3名において、栄養補充剤を、先のブドウジュースに溶解された形で摂取されるものと同量のリンゴ酸を含有するカプセル剤に交換した。患者3名全員が、2週間以内に顕著に増悪した。これらの患者の中の1名は、MMSEスコアが17から12に低下した。これらの患者の家族は、患者を当初の処方に戻すことを要求した。
【0048】
これらの知見は、患者と試験を実施する医療専門家の両方が、当初の処方よりもカプセル剤で患者がより良くなることを期待していたので、この薬効が、主としてプラセボ効果によるものではないことをを示している。これらの観察結果は、薬効が、クレブス回路中間体単独よりむしろ、本発明の薬学的組成物によるものであることも示している。
【0049】
実施例3−リンゴ酸およびブドウ糖補充剤の投与による精神病の治療
うつ病と臨床診断された患者2名を、通常の治療により監督介護(supervised care)下に置いた。各患者は、天然にブドウ糖を含有する甘くないブドウジュースにリンゴ酸を溶解たものを投与することによって、1日あたりリンゴ酸15gを与えられた。
【0050】
患者番号1
患者は、58歳女性であり、間欠性うつ病および引きこもりを伴う長期の気分変調の既往歴、精神分裂病の強い家族歴があった。患者は、選択的セロトニン再取り込み阻害剤であるゾロフト(Zoloft)(50mg/日)の維持療法を受けていた。リンゴ酸およびブドウ糖補充剤の投与の2週間後、患者は、より幸福感を覚えより活動的になり、最早他の薬物療法は必要ないと訴えた。これらの付加された薬効は、患者が栄養補充剤を服用している1ヶ月間維持され、投与中止後は数日間で消失した。
【0051】
患者番号2
患者は、60歳男性であり、うつ病の強い家族歴があり、反復性うつ病のためにSSRI(プロザック40mg/日)による維持療法を受けていた。リンゴ酸およびブドウ糖を含有する薬学的組成物を2週間投与した後、患者は、より多くの平穏とより少ない重圧を覚えた。薬学的組成物を服用しながら、プロザックを20mg/日に減量したが、機能の悪化は伴わなかった。薬学的組成物投与を中止した後には、患者は再びプロザック40mg/日を必要とした。
【0052】
本発明は例証を目的として詳細に説明しているが、このような詳細は、単に例証の目的のためであって、当業者は、前記特許請求の範囲で定義された本発明の精神および範囲を逸脱しない限りは変更を行うことができることが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖と、クレブス回路中間体もしくはその塩、またはクレブス回路中間体の前駆体とを含有する薬学的組成物。
【請求項2】
クレブス回路中間体が、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
クレブス回路中間体の前駆体が、被験者への投与時にインビボにおいて転換され、クレブス回路中間体を生成するような化合物である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前駆体が、生体により転換され、オキサロ酢酸を生成する、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前駆体が、2-ケト-4-ヒドロキシプロパノール、2,4-ジヒドロキシブタノール、2-ケト-4-ヒドロキシブタノール、2,4-ジヒドロキシ酪酸、2-ケト-4-ヒドロキシ酪酸、アスパラギン酸塩、オキサロ酢酸のモノ-アルキルエステル、オキサロ酢酸のジ-アルキルエステル、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項4記載の薬学的組成物。
【請求項6】
前駆体が、モノ−およびジ−アルキルクエン酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、α−ケトグルタル酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項7】
糖が、単糖、二糖、多糖、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項8】
単糖が、ブドウ糖、果糖、マンノース、ガラクトース、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項9】
二糖が、ショ糖、麦芽糖、乳糖、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項10】
多糖がデンプンである、請求項7記載の薬学的組成物。
【請求項11】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項12】
ミトコンドリア機能を増強する補助剤をさらに含む、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項13】
補助剤が、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、代謝増強化合物、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項12記載の薬学的組成物。
【請求項14】
代謝増強化合物が、クレアチン、L-カルニチン、L-カルニチン誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項15】
ビタミンが、チアミン、リボフラビン、ナイアシン、ピリドキシン誘導体、パントテン酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項16】
ミネラルが、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、亜鉛、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項17】
抗酸化剤が、アスコルビン酸、α−トコフェノール、レスベリトール(resveritol)、クエルセチン、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項13記載の薬学的組成物。
【請求項18】
糖がブドウ糖であり、クレブス回路中間体がマレイン酸である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項19】
ミトコンドリア機能障害の治療法であって、請求項1記載の薬学的組成物を、ミトコンドリア機能の欠陥に関連する障害を有する被験者に、ミトコンドリア機能を改善するのに有効な条件下で投与する段階を含む方法。
【請求項20】
クレブス回路中間体が、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項21】
クレブス回路中間体の前駆体が、被験者への投与時に生体により転換され、クレブス回路中間体を生成するような化合物である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
前駆体がインビボにおいて転換され、オキサロ酢酸を生成する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前駆体が、2-ケト-4-ヒドロキシプロパノール、2,4-ジヒドロキシブタノール、2-ケト-4-ヒドロキシブタノール、2,4-ジヒドロキシ酪酸、2-ケト-4-ヒドロキシ酪酸、アスパラギン酸塩、オキサロ酢酸のモノ-アルキルエステル、オキサロ酢酸のジ-アルキルエステル、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
前駆体が、モノ−およびジ−アルキルクエン酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、α−ケトグルタル酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項21記載の方法。
【請求項25】
ミトコンドリア機能を増強するための補助剤を投与する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項26】
補助剤が、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、代謝増強化合物、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
糖が、単糖、二糖、多糖、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項19記載の方法。
【請求項28】
薬学的組成物が、神経系異常、心臓血管障害、筋骨格障害、または全身性の障害に罹患した患者に投与される、請求項19記載の方法。
【請求項29】
神経系異常が、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、脊髄小脳性運動失調、または精神病である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
神経系異常がアルツハイマー病である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
アセチルコリンエステラーゼ阻害剤、アセチルコリン合成モジュレーター、アセチルコリン貯蔵モジュレーター、アセチルコリン放出モジュレーター、およびNMDAグルタミン酸受容体アンタゴニストからなる群より選択される治療薬を投与する段階をさらに含む、請求項30記載の方法。
【請求項32】
神経系異常障害がハンチントン病である、請求項29記載の方法。
【請求項33】
薬学的組成物と共に、NMDAグルタミン酸受容体アンタゴニストを投与する段階をさらに含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
心臓血管障害が、アテローム性動脈硬化性心臓血管障害、心筋症、心臓弁障害、および心不全によって惹起される障害からなる群より選択される、請求項28記載の方法。
【請求項35】
全身性の障害が虚弱である、請求項28記載の方法。
【請求項36】
投与が、経口、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内滴下、または粘膜への適用による投与である、請求項19記載の方法。
【請求項37】
脳代謝障害を有する被験者において脳機能を改善する方法であって、請求項1記載の薬学的組成物を、脳代謝障害を有する被験者に、脳機能を改善するのに有効な条件下で投与する段階を含む方法。
【請求項38】
クレブス回路中間体が、クエン酸、アコニット酸、イソクエン酸、α−ケトグルタル酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、オキサロ酢酸、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
クレブス回路中間体の前駆体が、被験者への投与時に生体によって転換され、クレブス回路中間体を生成するような化合物である、請求項37記載の方法。
【請求項40】
前駆体がインビボにおいて転換され、オキサロ酢酸を生成する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前駆体が、2-ケト-4-ヒドロキシプロパノール、2,4-ジヒドロキシブタノール、2-ケト-4-ヒドロキシブタノール、2,4-ジヒドロキシ酪酸、2-ケト-4-ヒドロキシ酪酸、アスパラギン酸塩、オキサロ酢酸のモノ-アルキルエステル、オキサロ酢酸のジ-アルキルエステル、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項40記載の方法。
【請求項42】
前駆体が、モノ−およびジ−アルキルクエン酸塩、アコニット酸塩、イソクエン酸塩、α−ケトグルタル酸塩、コハク酸塩、フマル酸塩、リンゴ酸塩、オキサロ酢酸塩、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項39記載の方法。
【請求項43】
脳機能を増強するための補助剤を投与する段階をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項44】
補助剤が、ビタミン、ミネラル、抗酸化剤、代謝増強化合物、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項43記載の方法。
【請求項45】
糖が、単糖、二糖、多糖、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項46】
投与が、経口、非経口、皮下、静脈内、筋肉内、腹腔内、鼻腔内滴下、または粘膜への適用による投与である、請求項37記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−189432(P2010−189432A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106232(P2010−106232)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【分割の表示】特願2000−517723(P2000−517723)の分割
【原出願日】平成10年9月1日(1998.9.1)
【出願人】(507017130)
【Fターム(参考)】