説明

脳コンプライアンスの監視

【課題】脳コンプライアンスを監視するための、より簡素で、より迅速で、より正確な技法を提供する。
【解決手段】第1の圧力センサを、患者の脳内の第1の硬膜下の位置、好ましくは髄膜下の位置に置き、少なくとも第2の圧力センサを、脳内の第1の位置とは異なる第2の硬膜下の位置、好ましくは髄膜下の位置に置くことによって患者の脳コンプライアンスを監視するためのシステム及び方法が提供される。圧力センサから導出された信号の各々から得られた少なくとも1つのパラメータが比較されて、患者の脳コンプライアンスが推定される。別法として、少なくとも1つの圧力センサが、少なくとも2つの異なる周波数を有する基準信号の生成器と共に利用される。好ましくは、脳コンプライアンスの変化が、比較されたパラメータの変化を定量することによって検出され、また、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の脳コンプライアンスを監視するためのシステム及び方法に関し、より具体的には、患者の脳内における異なる硬膜下の位置、好ましくは髄膜下の位置に置かれた少なくとも2つの圧力センサから得られた信号を、反復的に、好ましくは連続的に比較して、脳コンプライアンスの変化を検出することに関する。あるいは、生成された2つ以上の基準周波数が、1つ以上の圧力センサの位置で測定される。
【背景技術】
【0002】
ヒトの脳組織には灰白質及び白質が含まれるが、この灰白質及び白質は、頭蓋内の脳脊髄液中に懸濁しており、大脳動脈を通じて送達される血液によって栄養分を与えられる。灰白質は、大脳皮質などの中に、密集した神経細胞体を有し、下にある白質は、他のニューロンに信号を伝達する、密に充填された軸索を含んでいる。脳組織は様々な密度を有するものであり、血液と脳脊髄液がそれぞれ通常約10パーセントを占める状態で、頭蓋内の容量の約80パーセントを占めている。
【0003】
脳脊髄液は、脳室として知られる複数の連結した腔内で産生され、典型的には1日に4回〜5回、一新される。健康なヒトの脳脊髄液は、大脳動脈の拍動によって駆られて徐々にかつ連続的に脳室を通じて流れ、脳組織及び脊柱の周りに、次いで、小さな開口部を通じてくも膜の中に流れるが、くも膜は脳実質及び脳室を囲む髄膜の中間層であり、ここで液体は、最終的に血流へと再吸収される。
【0004】
正常な条件下において、身体の機構は、組織の弾力性によって、また血液及び脳脊髄液の総量を調節することによって、流体量が微増しても頭蓋内圧が上昇しないように頭蓋内の流体量の変化を補う。同様に、健常な脳は、頭蓋内圧の上昇に対応する頭蓋内容積の増加を最小にするように、頭蓋内圧の上昇を補う。この容積及び圧力の関係は、脳コンプライアンスに関連して説明され得るが、本願でこの用語は、エラスタンス及び頭蓋内コンプライアンスという用語を包含することを意図するものである。
【0005】
ヒトの自己調節機構がいかなる量の変化をも補うことができる限りにおいて、脳はコンプライアンスを有する。脳の自己調節又は補償機構が機能しなくなると、直ちに、血液及び脳脊髄液が排出できなくなり、脳はもはや流体量のいかなる増加にも適応できなくなる。
【0006】
脳コンプライアンスの低下は結果として、セダー(Seder)らがシュプリンガー・ニューヨーク社(Springer New York)発行(2008年)の書籍「集中治療医学(Intensive Care Medicine)」で「頭蓋内圧上昇を有する患者の多元的モニタリング(Multimodality Monitoring in Patients with Elevated Intracranial Pressure)」において説明しているように、頭蓋内圧の望ましくない上昇をもたらす。脳コンプライアンス低下は、脳硬度上昇(increased brain stiffness)又は脳硬化(stiff brain)とも呼ばれる。更に液量が加えられると、ある閾値に達し、その閾値を超えると、液量の微増が頭蓋内圧の劇的でかつ不健康な上昇をもたらす。
【0007】
頭蓋内圧は、シュタイナー(Steiner)らによって「損傷した脳の監視:ICP及びCBF(Monitoring the injured brain: ICP and CBF)」、英国麻酔学会誌(British Journal of Anaesthesia)97(1):26〜38(2006年)に、また、ブリーン(Brean)らによって「脳実質と脳室内で同時に測定した頭蓋内圧力の比較(Comparison of Intracranial Pressure Measured Simultaneously Within the Brain Parenchyma and Cerebral Ventricles)」、臨床モニタリング及びコンピューティング学会誌(Journal of Clinical Monitoring and Computing)20:411〜414(2006年)に述べられているように、多数の硬膜外及び硬膜下の位置で測定されてきた。
【0008】
脳コンプライアンスを定量する初期の方法においては、頭蓋内圧の変動を生じさせるために、1種類以上の量の流体が頭蓋内に加えられ、その変動が、頭蓋内圧を直接測定することによって調べられていた。ポーテラ(Portella)らによって「重傷頭部外傷における連続的な脳コンプライアンスのモニタリング:頭蓋内圧及び脳灌流圧との関係(Continuous cerebral compliance monitoring in severe head injury: its relationship with intracranial pressure and cerebral perfusion pressure)」、脳神経外科会報(Acta Neurochirurgica)(ウィーン(Wein))(2005年)147:707〜713に述べられているように、脳灌流圧値を得るために、脳コンプライアンスが、長年にわたり、脳灌流圧を調べることを含めて様々な技法によって推定されてきたが、脳灌流圧は頭蓋内圧を測定し、次いで、体血圧又は平均動脈圧からその頭蓋内圧を減算することによって算出されてきた。いくつかの手技においては、圧力トランスデューサを備えた内在する橈骨動脈カテーテルが平均動脈圧を測定する間、頭蓋内圧を連続的に監視するために、脳室カテーテルが脳室内に置かれていた。
【0009】
シュピーゲルベルグ(Spiegelberg)システムは、先端部に空気嚢を装着したダブルルーメン脳室カテーテルを使用する。脳コンプライアンスは、最高数百パルスで嚢の容積を増すことによって発生する頭蓋内圧の微増量の移動平均から算出される。安定した平均値が得られ、次いで、平均の脳コンプライアンスが1分ごとに測定されるが、このこともまた、上記のポーテラ(Portella)らの論文において述べられている。しかしながら、この技法では、周波数応答が不十分となることがあり、つまり、シュピーゲルベルグシステムが、1つの平均値を記録する間に1分間以上が経過することもある。
【0010】
米国特許公開第2009/0143656号において、マンワーリング(Manwaring)らは、前頭部上の眼窩上動脈の隣に配置された酸素濃度計又は外耳道内に配置された鼓膜変位センサなどの第1の非侵襲性頭蓋内流量センサ、及び第2の非侵襲性頭蓋外センサから導出された拍動性の潅流流量信号における位相ずれを検出することによって、頭蓋内圧を測定し脳コンプライアンスを決定する特定のシステム及び方法について述べている。
【0011】
圧力に関連する信号を取得し処理するためのいくつかの技法が、アイデ(Eide)によって米国特許第7,335,162号及び同第7,559,898号、並びに米国特許公開第2009/0069711号において述べられており、それらの技法では、1つ又は2つの頭蓋内圧センサが、単独で、又は硬膜外又は頭蓋外のセンサと共に使用される。
【0012】
クハールクジク(Kucharczyk)らは、米国特許第6,537,232号において、頭蓋内薬物送達などの磁気共鳴画像誘導手技の間に、頭蓋内圧を監視するための装置及び方法を開示している。流体が注入又は回収されるときにフィードバックを与えるために、1つ以上の圧力センサがカテーテルに沿って配置される。複数の圧力センサが利用されて、薬物送達の間の圧力勾配が検出され測定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
したがって、脳コンプライアンスを監視するための、より簡素で、より迅速で、より正確な技法を得ることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、実質的に連続的にかつ正確に患者の脳コンプライアンスを監視することである。
【0015】
本発明の別の目的は、迅速に脳コンプライアンスを推定し、その変化を検出することである。
【0016】
本発明の更なる目的は、気体又は液体を患者の頭蓋内に注入することなく、つまり頭蓋内の容積変化を人為的に誘発することなく、脳コンプライアンスを監視することである。
【0017】
本発明は、異なる硬膜下の位置、好ましくは髄膜下の位置で測定された圧力の比較、又は、1つ以上の圧力センサの位置における2つ以上の周波数測定値の比較を利用して、脳コンプライアンスの変化を迅速に監視し検出することを実現した結果として得られるものである。本願で用いられる硬膜下という用語は、髄膜の硬膜の最外層の下方にあるすべての組織、液体、及び空間を包含することを意図するものであり、したがって、上矢状静脈洞などの硬膜内の洞、並びに、灰白質、白質及び脳室を包含するものである。本願で用いられる髄膜下という用語は、髄膜の最内層である軟膜の下方にあるすべてのものを包含することを意図するものであり、換言すれば、髄膜下という用語は、くも膜及び硬膜、並びにそれらの中の任意の空間又は洞を除外するものである。本願で用いられる脳実質という用語は、灰白質、白質、及び脳の機能を与える脳の他の基本的な部分を包含することを意図するものである。
【0018】
本発明は、少なくとも第1及び第2の圧力センサを使用して、あるいは、生成された少なくとも2つの基準周波数を少なくとも1つの圧力センサで使用することによって、患者の脳内の脳コンプライアンスを監視するシステム及び方法を特徴とする。第1の圧力センサは第1の硬膜下の位置に置かれ、第2の圧力センサは、その第1の位置とは異なる第2の硬膜下の位置に置かれる。圧力センサから導出された信号の各々から得られた少なくとも1つのパラメータが比較されて、患者の脳コンプライアンスが推定される。
【0019】
ある好ましい実施形態において、その比較することは、位相差、傾きの変化、信号同士の間の振幅差のうちの少なくとも1つを定量することを含む。圧力センサの第1の位置は脳室内にあり、第2の位置はその脳実質の組織内にある。別法として、第1及び第2の位置は、第1の位置が脳の白質内にあり、第2の位置が脳の灰白質内にあるなど、脳実質内の異なる組織内にある。一実施形態において、第1及び第2の位置は、脳の異なる半球内にある。
【0020】
いくつかの実施形態において、第1及び第2のセンサは、カテーテル、シャント、又はプローブの一部分など、異なる硬膜下の位置、好ましくは髄膜下の位置に独立に配置可能な別々の構造体上に設けられる。一実施形態において、頭蓋を貫く単一のアクセス用穿頭孔が形成され、各構造体は、その穿頭孔を通じて第1及び第2の位置へと挿入される。他の実施形態において、少なくとも第3の圧力センサが設けられ、第1及び第2の位置の組織とは異なる組織に配置される。
【0021】
更なる実施形態において、圧力センサから導出された信号の間に初期の差が定められ、信号間の差の変化が検出されて、脳コンプライアンスの変化が定量される。脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱すると、認知可能な指示が生成される。一実施形態において、予め選択された水準未満に脳コンプライアンスが低下すると、警告のシンボル又は音声など、視覚又は聴覚による指示が警告を出す。別の実施形態において、定形の圧力伝搬波など、少なくとも1つの内部又は外部の基準信号が、頭蓋内の容積を変化させることなく脳内で伝わるように生成され、導出された信号の各々から得られたパラメータが、基準信号と比較される。
【0022】
少なくとも2つの基準周波数が利用される場合、少なくとも第1の圧力センサが、脳内で伝わる少なくとも第1及び第2の基準圧力伝搬信号を生成するシステムに接続されるが、その第1の基準信号は第1の周波数を有し、その第2の基準信号は、第1の周波数とは異なる第2の周波数を有する。システムは、圧力センサから導出された信号から得られた、第1及び第2の基準信号に関連する少なくとも1つのパラメータを比較して、患者の脳コンプライアンスを推定する。
【0023】
また、本発明は、少なくとも第1及び第2の圧力センサを使用し、第1の圧力センサを、第1の硬膜下の位置、好ましくは髄膜下の位置に置いて第1の波形を生成し、第2の圧力センサを、第1の位置とは異なる脳実質内の第2の位置に置いて第2の波形を生成することによって、患者の脳を囲む髄膜の硬膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するためのシステム及び方法として表現されてもよい。そのシステム及び方法は、圧力センサから得られた各波形の位相、傾き、振幅、又は他の導出された波形の特徴のうちの少なくとも1つを比較して、患者の脳コンプライアンスを推定することを更に含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下で、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照して更に詳細に説明する。
【図1A】患者の断面斜視図であり、本発明の一実施形態に従って脳内の様々な硬膜下の位置に配置された圧力センサを示している。
【図1B】本発明によるシステムの信号処理部分の概略図。
【図2】本発明の別の実施形態に従って、脳を囲む髄膜の下方に配置される2つの圧力センサを各々が担持する2つの別々のプローブの部分垂直横断面図。
【図3A】第1の信号に関連する、より小さい振幅を有する少なくとも1つの圧力信号。
【図3B】第1の信号に関連する、位相シフトを有する少なくとも1つの圧力信号。
【図4A】第1の信号に関連する、位相と振幅の双方に差を有する複数の圧力信号。
【図4B】本発明の別の実施形態に従って脳コンプライアンスを推定するための、外部的に生成された基準圧力波に関連する少なくとも1つの圧力信号。
【図5】図1Bに示すシステムと類似したシステムの一実施形態の構成図。
【図6】図5に示すシステムの信号処理を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1Aは、本発明によるシステム10の一部分を示しており、このシステム10は、カテーテル20の左枝部22によって担持された圧力センサ12及び14を有し、またカテーテル20の右枝部24によって担持された圧力センサ16及び18を有しており、圧力センサ16及び18は、患者Pの脳を囲む髄膜の硬膜の最外層の下方に配置されている。この構成において、カテーテルの左枝部22は、左半球の上方のアクセス用穿頭孔26を通じて頭蓋の中に進入しており、右枝部24は、右半球の上方のアクセス用穿頭孔28を通じて進入している。圧力センサ12は、左室LV内に配置されており、センサ16は右室RV内に配置されている。圧力センサ14及び18は、以下でより詳細に説明するように、脳実質の様々な組織に配置される。
【0026】
図1Bは、デュアルルーメン30及び32を有するカテーテル20の別の部分を示しており、デュアルルーメン30及び32はそれぞれ、圧力センサ16及び12の近くの入口孔31及び33を通じて、図1Aの脳室LV及びRVと流体連通している。カテーテル20は、4本の電気リード線34、36、38及び40を担持しており、電気リード線の各々は、1本以上のワイヤを備えており、それぞれ圧力センサ16、18、12及び14から信号プロセッサ42に信号を伝送する。本発明に従って脳コンプライアンスを監視するために、圧力センサ12、14、16及び/又は18から導出された信号の1つ以上のパラメータが、以下で更に詳細に説明するように、時間インデックスを付けられ比較される。その比較結果の視覚的及び/又は聴覚的しるしがディスプレイ44に提示され、システム10の操作者に、患者の脳コンプライアンスが依然として予め選択された水準内にあるか否か、あるいは、脳コンプライアンスの変化がシステム10によって検出されたか否かが通知される。
【0027】
図1A及び1Bに示す構成において、カテーテル枝部22及び24の先端部は、入口孔31及び33がそれぞれ、脳室RV及びLV内の脳脊髄液と連通するように置かれている。したがって、圧力センサ16及び12は、脳室RV及びLV内に配設されている。本発明のいくつかの実施形態では、必要となる圧力センサは2つのみであるため、圧力センサ12、14、16又は18のうちの1つ又は2つは、より簡潔な信号処理が望まれる場合、除かれるか、あるいは切り離されてもよい。
【0028】
本発明に従って2つ以上の圧力センサを配置する様子が、図2に示されている。プローブ50は、第1の圧力センサ52及び第2の圧力センサ54を担持しており、患者Pの頭皮SCの下にある頭蓋Cの穿頭孔56の中に置かれている。プローブ50は、洞Sを画定する髄膜Mの硬膜Dに、次いで、脳実質BPの灰白質G及び白質Wに通され、センサ52が脳室V内に配置される。好ましくは、センサ54は、2センチメートル超、より好ましくは約3センチメートル以上、センサ52から離間されており、そのため、センサ54は、確実に白質W内に置かれることになる。別の構成において、センサ62を白質W内に置くために、また、センサ64を灰白質G内に、又は別の硬膜、好ましくは髄膜下の位置に置くために、圧力センサ62及び64を担持する別個のプローブ60がまた、ボア56を通じて挿入される。更に別の構成において、プローブ50及び60はそれぞれ、マサチューセッツ州レイナム(Raynham)のコドマン・アンド・シャートレフ社(Codman & Shurtleff, Inc.)からICP EXPRESSモニタとして現在市販されているCODMAN MicroSensor感圧プローブなどの単一の圧力センサのみを担持する。他のタイプの圧力センサも本発明に従って使用され得る。上述の構成のすべてに対し、プローブ、シャント、又はカテーテルなどの1つ以上の支持構造体によって担持された少なくとも2つの圧力センサが、密度又は組織の質が異なる脳実体及び/又は脳室内の各位置に置かれることが好ましい。別法として、少なくとも2つの圧力センサが、図1Aに示すように異なる半球に置かれるか、あるいは、少なくとも1つの圧力センサが、以下でより詳細に説明するように、複数の基準信号と共に利用される。
【0029】
本発明に従って置かれた2つ以上の圧力センサから導出可能な信号の例が、図3A及び3Bに示されており、これらの信号に関して1つ以上のパラメータが比較される。頂点82を有する第1の信号80は第2の信号84と比較されるが、第2の信号84は、より低い第2の頂点86で示されるように、より小さな振幅又は波形を有している。
【0030】
図3Bにおいて、頂点92を有する第1の信号90が、位相のずれた第2の信号94と比較されており、第2の信号94は、遅延した第2のピーク96を有している。更に他の実施形態において、第1の導出位置93及び95が、波形90及び94の上向きの傾斜の変化を最大にするタイミングの差が、単独で利用されるか、あるいは、それぞれ出発点97、99の特定及び比較を支援するために使用される。
【0031】
コンプライアンス性のより高い脳は通常、図4Aに第2及び第3の波形104及び108で示すように、頂点102を有する第1の波形100と比べて、位相ずれが増し、傾斜が小さくなり、振幅が縮小した信号を生成する。第2及び第3の頂点106、110は共に、第1の頂点102と比べて、より低くかつ時間の遅れたものであると共に、より低い遅延した出発点109、111を有している。ある脳コンプライアンスの状態において、第3の波形108が図2の第1のセンサ52から導出され、第2の波形104は、共に白質W内に配置されたセンサ54及び62から導出された信号を表す。第1の波形100は、灰白質G内に配置されたセンサ64から導出されるが、灰白質Gは、その代謝の必要性が白質Wよりも高いため、約2倍の血管濃度を有しており、したがって、心臓及び/又は呼吸器による拍動により迅速に反応すると予想される。3つ以上の圧力センサの配列を使用することにより、様々な脳組織及び/又は半球における、改善された脳コンプライアンスのマップ又は指標を作成することが可能となる。コンプライアンス性のある脳において、細動脈、毛細血管、及び脳室は、圧力の脈動の少なくとも一部を吸収又は減衰するのに十分な柔軟性を持つ。
【0032】
コンプライアンスの低い脳硬化の状態においては、4つの波形すべてが実質的に同じに見える。換言すれば、心周期又は他の圧脈波源からの血液の流入によって発生した圧力は、自己調整されることがなく、圧力の上昇は、脳全体にわたってほぼ即座に検出可能となる。
【0033】
ある構成において、特定の最小位相ずれ、出発点を含んだ傾き、周波数成分、及び/又は振幅の縮小など、1つ以上のパラメータ値が、閾値として予め選択される。これらのパラメータの差異が、予め選択された値に近づくと、視覚及び/又は聴覚による警告が発せられ、脳コンプライアンスが低いことが示唆される。別の構成において、脳実質内に置かれた圧力センサに対して基準線が確立され、1つ以上の信号パラメータがその基準線から逸脱すると警告が発せられる。
【0034】
図4Bは、図2にファントム画法で示すエネルギー源70によって発生された基準圧力伝搬信号120を示している。ある構成において、エネルギー源70は、心臓又は呼吸器による脈動とは異なる1つ以上の周波数及び/又は波形を有する超音波圧脈波を発生させるために、頭蓋に対して外側に圧力トランスデューサを含んでいる。本発明に従って様々な位置に置かれた2つ以上の圧力センサが利用され、基準信号がそれらの位置を通じて伝わる様子の差異が検出される。別の構成において、エネルギー源70は、頭蓋内に硬膜外又は硬膜下のいずれかで配置されたトランスデューサに接続され、基準信号120(図4B)が内部的に生成される。
【0035】
既知の圧力波形を脳実質の中に導入することにより、いくつかの方式で信号解析を向上させることができる。第1に、基準信号120のタイミング及び期間は、基準頂点122のタイミング及び期間を含めて既知であり、圧力センサによって受信された信号124の時間インデックスと容易に比較されることができる。第2に、目標外の周波数又は波形を減少させるように、フィルタを選択することができる。第3に、振幅と周波数とがより大きくなることにより、信号対雑音比が改善される。例えば、検出された頂点126のタイミング及び大きさは、既知の基準頂点122と容易に比較されることができる。
【0036】
本発明の別の構成に従って少なくとも2つの基準周波数が利用される場合、脳内で伝わる、図2のエネルギー源70などからの少なくとも第1及び第2の基準圧力伝搬信号を生成するシステムに、少なくとも第1の圧力センサが接続され、その第1の基準信号は第1の周波数を有し、その第2の基準信号は、第1の周波数とは異なる第2の周波数を有する。システムは、圧力センサから導出された信号から得られた、第1及び第2の基準信号に関連する少なくとも1つのパラメータを比較して、患者の脳コンプライアンスを推定する。換言すれば、測定された信号の周波数成分は、脳組織のコンプライアンスの状態に従って変動すると予想される。コンプライアンス性のある脳は、高い周波数の一部を除去する一方で、脳硬化においては、同じ周波数が測定可能となる。
【0037】
図1A及び1Bに示すシステム10に類似したシステム10aの好ましい構成及び動作が、図5及び6に示されている。センサ1からの信号130、センサ2からの信号132、そして好ましくはセンサnにまで至って、センサnからの信号134がマルチプレクサ136に提供され、マルチプレクサ136は、組み合わされた多重化信号137をアナログフロントエンド138に供給するが、フロントエンド138は、信号を調整するために、1つ以上の計測増幅器、フィルタ及び/又は利得段を所望に応じて含んでもよい。調節されたアナログ信号139が、アナログ/デジタルコンバータ140に提供される。デジタル化信号141が絶縁要素142に通され、患者に対する絶縁性と安全性とが高められる。分離されたデジタル信号143が、要素142から、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、又はあるタイプのコンピュータなどのプロセッサ144に通される。データが記憶メモリ146などの局所又は遠隔メディアに記憶され、上述のような1つ以上の波形、コンプライアンスの統計値、及び/又は警告状態が、ディスプレイ148上に又はディスプレイ148によって表示される。
【0038】
システム10aの別の構成において、別々のアナログフロントエンド構成要素が、各入力信号130〜134に対して設けられ、処理された個々の信号は、単一のアナログ/デジタルコンバータに並列に提供され、そのアナログ/デジタルコンバータは、単一の絶縁要素を通じてプロセッサ144にデジタル信号を直列に提供する。更に別の構成において、ディスプレイ148は、脳コンプライアンスが所定の限界を逸脱するものとして算出された場合、聴覚及び/又は視覚による警告指示を提供する。
【0039】
システム10aの動作が、図6に示す流れ図で示されている。データ解析処理が開始され(工程160)、センサ1、2〜nに対するデータ配列162、164〜166が、それぞれ波形特徴検出工程168、170〜172にて処理される。パラメータとも呼ばれる、データ配列162、164〜166から得られた1つ以上の特徴が比較され、相互相関解析が実施される(工程174)。位相差、出発点を含んだ傾き、波形間の時間遅れ、周波数成分、及び/又は振幅の差が解析される(工程176)。現在の脳コンプライアンスが、1つ以上のパラメータの間の相関の移動平均として算出される(工程178)。また、コンプライアンスと測定されたパラメータとの関係を、一次関数、多項式、又は別の実験式として算出することもできる。好ましくは、システムは、現在の脳コンプライアンスが予め選択された値を逸脱する時点を認識する。現在のコンプライアンス若しくはコンプライアンスの変化などの算出されたコンプライアンス値、又は警告状態を示す少なくとも1つの認知可能な指示が、表示されるか、あるいは生成される(工程180)。
【0040】
このように、本発明の基本的な新規な特徴について、本発明の好ましい実施形態に応用されたものとして図示し、説明し、指摘したが、説明した装置の形態及び細部において、またそれらの装置の動作において、様々な省略、置換、及び変更が、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく当業者になされ得ることが理解されよう。例えば、同じ結果を達成するように実質的に同じ方式で実質的に同じ機能を果たす要素及び/又は工程のすべての組み合わせが、本発明の範囲に含まれることが、明確に意図されている。また、説明したある実施形態から別の実施形態へと要素を置換することも、十分に意図され企図される。また、図面は必ずしも一定の尺度で描かれておらず、また事実上、概念的なものに過ぎないことが理解されよう。したがって、その意図は、添付の特許請求の範囲によって示唆されるものとしてのみ限定されることである。
【0041】
本願にて引用したすべての発行済みの特許、係属中の特許出願、刊行物、学術論文、書籍、又は任意の他の参考文献はそれぞれ、参照によって全容が組み込まれる。
【0042】
〔実施の態様〕
(1) 患者の脳を囲む髄膜の硬膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するための方法であって、
第1の圧力センサを前記脳内の第1の硬膜下の位置に置くことと、
少なくとも第2の圧力センサを、前記第1の位置とは異なる前記脳内の第2の硬膜下の位置に置くことと、
前記第1及び第2の圧力センサをシステムに接続することであって、前記システムは、前記圧力センサから導出された信号の各々から得られた少なくとも1つのパラメータを比較して、前記患者の脳コンプライアンスを推定する、ことと、を含む、方法。
(2) 前記システムによって比較することは、位相差、傾きの変化、及び前記信号同士の間の振幅の差のうちの少なくとも1つを決定することを含む、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記第1の位置は前記脳の脳室内にあり、前記第2の位置は前記脳実質の組織内にある、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記第1及び第2の位置は、異なる脳実質組織内にある、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記第1の位置は前記脳実質の白質内にあり、前記第2の位置は前記脳実質の灰白質内にある、実施態様4に記載の方法。
(6) 前記第1及び第2の位置は、前記脳の異なる半球内にある、実施態様1に記載の方法。
(7) 前記第1及び第2のセンサは、前記脳内で独立に配置可能である別々の構造体に設けられる、実施態様1に記載の方法。
(8) 前記患者の前記頭蓋を貫く単一のアクセス用穿頭孔を外科的に形成することを更に含み、前記構造体が、前記単一のアクセス用穿頭孔を通じて前記脳の中に挿入されて、前記第1及び第2のセンサが、第1及び第2の髄膜下の位置に置かれる、実施態様7に記載の方法。
(9) 少なくとも第3の圧力センサを使用し、前記第3のセンサを、前記第1及び第2の位置の組織とは異なる組織に配置することを更に含む、実施態様1に記載の方法。
(10) 前記第1及び第2の位置は、2センチメートル超互いから離間する、実施態様1に記載の方法。
【0043】
(11) 前記第1及び第2の位置は、少なくとも3センチメートル互いから離間する、実施態様1に記載の方法。
(12) 前記システムによって比較することは、前記信号同士の間に初期の差異を確立することを含む、実施態様1に記載の方法。
(13) 前記システムは、前記信号同士の間の前記差異の変化を検出して脳コンプライアンスの変化を定量し、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示を生成する、実施態様1に記載の方法。
(14) 前記システムは、頭蓋内容積を変化させることなく、前記脳内で伝わる基準圧力伝搬信号を生成し、前記導出された信号の各々から得た前記パラメータを前記基準信号と比較する、実施態様1に記載の方法。
(15) 前記システムは、互いに異なる少なくとも2つの周波数で前記基準信号を生成する、実施態様14に記載の方法。
(16) 患者の脳を囲む髄膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するための方法であって、
第1の圧力センサを前記脳内の第1の髄膜下の位置に置いて、第1の波形を生成することと、
少なくとも第2の圧力センサを、前記第1の位置とは異なる前記脳内の第2の髄膜下の位置に置いて、第2の波形を生成することと、
前記第1及び第2の圧力センサをシステムに接続することであって、前記システムは、前記圧力センサによって生成された前記波形の各々の位相、傾き、及び振幅のうちの少なくとも1つを比較して、前記患者の脳コンプライアンスの変化を検出し、前記システムは更に、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示を生成する、ことと、を含む、方法。
(17) 前記第2の圧力センサは、前記第1の圧力センサから2センチメートル超離間されている、実施態様16に記載の方法。
(18) 少なくとも第3の圧力センサを使用し、前記第3のセンサを、前記第1及び第2の位置の組織とは異なる組織に配置することを更に含む、実施態様16に記載の方法。
(19) 患者の脳を囲む髄膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するためのシステムであって、
少なくとも第1及び第2の圧力センサであって、前記第1の圧力センサは前記脳内の第1の髄膜下の位置に配置可能であり、前記第2の圧力センサは、前記第1の位置とは異なる前記脳内の第2の髄膜下の位置に配置可能である、第1及び第2の圧力センサと、
前記圧力センサから導出された信号の各々から得られた少なくとも1つのパラメータを比較して、前記患者の脳コンプライアンスを推定するための、そして、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示を生成するための信号プロセッサと、を備える、システム。
(20) 前記信号プロセッサは、前記信号同士の間の前記差異の変化を検出して脳コンプライアンスの変化を定量するように構成されている、実施態様19に記載のシステム。
【0044】
(21) 少なくとも第1の基準信号を発生させるための基準信号生成器と、頭蓋内容積を変化させることなく、前記基準信号を前記脳内で伝わるように導くためのトランスデューサと、を更に含み、前記信号プロセッサは、前記導出された信号の各々から得られた前記パラメータを前記基準信号と比較する、実施態様19に記載のシステム。
(22) 前記システムは、互いに異なる少なくとも2つの周波数で前記基準信号を生成する、実施態様21に記載のシステム。
(23) 患者の脳を囲む髄膜の硬膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するための方法であって、
少なくとも第1の圧力センサを前記脳内の第1の硬膜下の位置に置くことと、
前記第1の圧力センサを、前記脳内で伝わる少なくとも第1及び第2の基準圧力伝搬信号を生成するシステムに接続することであって、前記第1の基準信号は第1の周波数を有し、前記第2の基準信号は、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数を有し、前記システムは、前記圧力センサから導出された信号から得られた前記第1及び第2の基準信号に関連する少なくとも1つのパラメータを比較して、前記患者の脳コンプライアンスを推定する、ことと、を含む、方法。
(24) 患者の脳を囲む髄膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するためのシステムであって、
前記脳内の第1の髄膜下の位置に置くことが可能な少なくとも第1の圧力センサと、
少なくとも第1及び第2の基準圧力伝搬信号を発生させる基準信号生成器であって、前記第1の基準信号は第1の周波数を有し、前記第2の基準信号は、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数を有する、基準信号生成器と、
前記第1及び第2の基準信号を前記脳内で伝わるように導くためのトランスデューサと、
前記圧力センサから導出された信号から得られた前記第1及び第2の基準信号に関連する少なくとも1つのパラメータを比較して、前記患者の脳コンプライアンスを推定するための、そして、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示を生成するための信号プロセッサと、を備える、システム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の脳を囲む髄膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するためのシステムであって、
少なくとも第1及び第2の圧力センサであって、前記第1の圧力センサは前記脳内の第1の髄膜下の位置に配置可能であり、前記第2の圧力センサは、前記第1の位置とは異なる前記脳内の第2の髄膜下の位置に配置可能である、第1及び第2の圧力センサと、
前記圧力センサから導出された信号の各々から得られた少なくとも1つのパラメータを比較して、前記患者の脳コンプライアンスを推定するための、そして、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示を生成するための信号プロセッサと、を備える、システム。
【請求項2】
前記信号プロセッサは、前記信号同士の間の前記差異の変化を検出して脳コンプライアンスの変化を定量するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
少なくとも第1の基準信号を発生させるための基準信号生成器と、頭蓋内容積を変化させることなく、前記基準信号を前記脳内で伝わるように導くためのトランスデューサと、を更に含み、前記信号プロセッサは、前記導出された信号の各々から得られた前記パラメータを前記基準信号と比較する、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記システムは、互いに異なる少なくとも2つの周波数で前記基準信号を生成する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
患者の脳を囲む髄膜の下方にて脳コンプライアンスを監視するためのシステムであって、
前記脳内の第1の髄膜下の位置に置くことが可能な少なくとも第1の圧力センサと、
少なくとも第1及び第2の基準圧力伝搬信号を発生させる基準信号生成器であって、前記第1の基準信号は第1の周波数を有し、前記第2の基準信号は、前記第1の周波数とは異なる第2の周波数を有する、基準信号生成器と、
前記第1及び第2の基準信号を前記脳内で伝わるように導くためのトランスデューサと、
前記圧力センサから導出された信号から得られた前記第1及び第2の基準信号に関連する少なくとも1つのパラメータを比較して、前記患者の脳コンプライアンスを推定するための、そして、脳コンプライアンスが予め選択された値を超えて逸脱した場合、認知可能な指示を生成するための信号プロセッサと、を備える、システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−87932(P2011−87932A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−235246(P2010−235246)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(500140415)コドマン・アンド・シャートレフ・インコーポレイテッド (34)
【氏名又は名称原語表記】Codman & Shurtleff, Inc.
【住所又は居所原語表記】325 Paramount Drive, Raynham, Massachusetts 02767−0350, U.S.A.
【Fターム(参考)】