説明

脳卒中を処置する方法

【課題】脳卒中を処置するための方法及び組成物の提供。
【解決手段】脳卒中を処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを被験体に投与するステップを含む方法。また、抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片を上記被験体に投与するステップを含む方法。さらに、被験体における外傷性脳損傷(TBI)、脊髄損傷(SCI)、虚血・再灌流損傷を処置する方法としても、これらVLA−1アンタゴニスト、抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片の投与が有用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2006年5月25日に出願され、その全体が本明細書中に参考として援用される米国仮特許出願第60/809,149号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
脳卒中は世界中で死亡及び身体障害の主要原因である。本年、約700,000人のアメリカ人が脳卒中を有することになる。米国では脳卒中は3番目に頻度が高い死亡原因であり、長期的な重度身体障害の主要原因である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明は、ある程度、虚血障害、例えば、脳卒中を処置するのにVLA−1の調節を用いることができるという所見に基づく。従って、本発明は、一態様では被験体における脳卒中を処置する方法を提供する。該方法は、脳卒中を処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを被験体に投与するステップを含む。「VLA−1アンタゴニスト」とは、VLA−1の相互作用又は活性を少なくともある程度阻害する薬剤(例えば、任意の化合物)を指す。例えば、該薬剤はVLA−1の活性(例えば、VLA−1のリガンド、例えば、コラーゲンへの結合)を少なくともある程度阻害し、或いは該薬剤はVLA−1をコードする核酸を少なくともある程度阻害し、例えば、VLA−1蛋白質の発現を低下させる。一実施形態では、該薬剤はVLA−1がコラーゲン、例えば、コラーゲンIVに結合する能力を低下させ、該薬剤の非存在下での結合と比べて、例えば、少なくとも2,3,5,10,20,50又は100倍、VLA−1/コラーゲン結合の親和性を低下させ、且つ/或いは少なくとも5%、例えば、少なくとも10%,25%,50%,75%,90%,95%又はそれ以上、VLA−1/コラーゲン結合を低下させる。
【0004】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片である。該抗VLA−1抗体はモノクローナル抗体又はその抗原結合断片でよい。該抗VLA−1抗体は、完全長でよく(例えば、IgG(例えば、IgG1,IgG2,IgG3,IgG4),IgM,IgA(例えば、IgA1,IgA2),IgD及びIgE)、或いは抗原結合断片(例えば、Fab,F(ab’)又はscFv断片又は1つ若しくはそれ以上のCDR)のみを含んでもよい。抗体又はその抗原結合断片は、2本の重鎖の免疫グロブリン及び2本の軽鎖の免疫グロブリンを含んでよく、或いは1本鎖抗体でよい。該抗体は任意に、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン又はミュー定常領域遺伝子を含んでもよい。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は実質的にヒト抗体由来の重鎖及び軽鎖定常領域、例えば、ヒトIgG1定常領域又はその一部分を含む。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体はヒト抗体である。
【0005】
他の実施形態では、該抗体又はその抗原結合断片はキメラ又はヒト化抗体である。本明細書で論じるように、該抗体は、CDR移植又はヒト化、或いはより一般的には、非ヒト抗体由来のCDR及びヒトにおいてより免疫原性が低く、例えば、マウスCDRが天然で生じるマウスフレームワークより抗原性が低いものとして選択されるフレームワークを有する抗体でよい。
【0006】
好ましい実施形態では、該抗VLA−1抗体は、非天然抗体、例えば、非ヒト抗体、例えば、本明細書で述べる非ヒト抗体由来の、少なくとも重鎖CDR3、好ましくは全重鎖CDR、更に好ましくは全3本の重鎖CDR及び全3本の軽鎖CDRを有する、キメラ、CDR移植又はヒト化抗体である。好ましい実施形態では、該CDRは本明細書で言及されるCDRと1,2又は3個のアミノ酸残基が異なってよく、例えば、重鎖CDR3は本明細書で述べる供給源由来でよいが、その他の別のCDRは本明細書で述べるように異なってよい。
【0007】
好ましい抗VLA−1抗体は、例えば、ヒト化AQC2抗体(例えば、ATCC寄託番号PTA−3274を有するハイブリドーマによって産生される)、AJH10(ATCC PTA−3580)、hAQC2(ATCC PTA−3275)、haAQC2(ATCC PTA−3274)、hsAQC2(ATCC PTA−3356)、mAQC2(ATCC PTA−3273)及びモノクローナル抗体1B3(ATCC HB−10536)を含む。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は、AQC2,AJH10,hAQC2,haAQC2,hsAQC2,mAQC2及び/又は1B3と同じエピトープに結合しうる。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体はVLA−1への結合に対し、AQC2,AJH10,hAQC2,haAQC2,hsAQC2,mAQC2及び/又は1B3と競合する。
【0008】
一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は、VLA−1のα1サブユニット、例えば、VLA−1のα1−Iドメインに結合する。
【0009】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、ポリペプチド、例えば、ラミニン又はコラーゲンI,III若しくはIV或いは本明細書で述べるラミニン又はコラーゲンI,III若しくはIVのVLA−1結合ペプチドである。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、VLA−1ペプチド、例えば、α1サブユニットの断片、例えば、アミノ酸配列VQRGGR又は保存的アミノ酸置換を有する同様のアミノ酸配列を含むα1−Iドメインの断片である。ラミニン、コラーゲン又はVLA−1ペプチドは、例えば、本明細書で述べるように、コラーゲンIVに対するK562−α1依存性接着を阻害する能力によって試験されるように、VLA−1機能を阻止する。
【0010】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、VLA−1核酸、例えば、2本鎖RNA(dsRNA)分子、アンチセンス分子、リボザイム、三重らせん分子、アプタマー若しくはそれらの任意の組合せの発現又は翻訳のインヒビターである。
【0011】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、本明細書で述べる小分子(例えば、2500Da未満、好ましくは1500Da未満の分子量を有する化学物質)又は化学物質、例えば、有機小分子である。
【0012】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、脳内神経組織における虚血損傷を低減するほどの量及び/又は時間にて投与されうる。
【0013】
典型的には、被験体は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウサギ又は農業用哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタなど)である。例えば、被験体は、ヒト、例えば、ヒト男性又は女性である。該被験体は少なくとも18,25,30,45,50,55,60又は70歳でよい。
【0014】
一実施形態では、被験体は脳卒中を起こしている。脳卒中は、出血性脳卒中、虚血性脳卒中又は一過性虚血発作(TIA)でありうる。
【0015】
一実施形態では、被験体は処置の48時間以内、例えば、2,3,5,8,12,20又は30時間以内に脳卒中を起こしている。別の実施形態では、被験体は、処置の48時間以上前であるが、直近の3又は2週間以内に脳卒中を起こしている。
【0016】
別の実施形態では、被験体は脳卒中のリスクがあり、例えば、脳卒中のリスクを生じさせる病状を起こし続けており、或いは起こしている。そのような病状の例には、高血圧;喫煙;糖尿病;頸動脈又は他の動脈疾患;末梢動脈疾患;心房細動;他の心疾患;一過性虚血発作(TIA);一部の血液障害(例えば、赤血球数増加;鎌状赤血球病);高血中コレステロール;運動不足及び肥満;過度の飲酒;一部の違法薬物;脳卒中の既往;或いは心臓発作の既往が含まれる。
【0017】
一実施形態では、被験体は、1つ又はそれ以上の以下の症状:突発性の顔面のしびれ又は脱力、突発性の腕のしびれ又は脱力;突発性の脚のしびれ又は脱力;突発性の意識混濁;突発性の発話困難;突発性の理解困難;突発性の片目又は両目での視覚困難;突発性の歩行困難;突発性眩暈;突発性の平衡感覚又は協調運動障害;突発的で重度の原因不明の頭痛を示す。一部の実施形態では、被験体は脳卒中を持続していると診断されている。
【0018】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、未処置被験体における梗塞サイズに対し、脳内神経組織における梗塞のサイズを、例えば、少なくとも5,10,15,20,40,50,60,70若しくは80%又はそれ以上縮小させるほどの量にて投与される。梗塞サイズを縮小させるほどの量は、例えば、本明細書で述べるように、動物モデルを用いて評価することができる。
【0019】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、1つ又はそれ以上の脳卒中評価基準、例えば、本明細書で述べる基準又は尺度における症状を、少なくとも5,10,15,20,40,50,60,70若しくは80%又はそれ以上或いは尺度でのハーフステップ又はフルステップ分、改善するほどの量にて投与される。例えば、修正ランキンスケールスコアは、少なくとも1ステップ、例えば、少なくとも2,3又は4ステップ分、低下させることができ、且つ/或いは該スコアは、例えば、4,3,2,1又は0に低下させることができる。NIHSSスコアは、少なくとも1ステップ、例えば、少なくとも2,3,4,5,6,7,8,9,10,12,14,16,18,20ステップ分又はそれ以上、低下させることができ、且つ/或いは該スコアは、例えば、15,13,12,10,9,8,7,6,5,4,3,2,1又は0に低下させることができる。バーセル指数スコアは、少なくとも5ステップ、例えば、少なくとも10,15,20,25,30,35,40,45,50,55,60ステップ分又はそれ以上、上昇させることができ、且つ/或いは該スコアは、例えば、50,60,70,75,80,85,90,95又は100に上昇させることができる。
【0020】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、1日あたり0.025mg/kg〜1日あたり30mg/kg、例えば、0.1〜5mg/kg、例えば、0.3〜3mg/kgの用量にて投与される。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、脳卒中後14日間以内に少なくとも2回、例えば、脳卒中後14日間以内に少なくとも3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14回投与される。該アンタゴニストは、例えば、1日1回、隔日1回、週2回、週1回又は1日1回で1日、例えば、2,3,4,5,6,7,14若しくは28日間、投与することができる。該VLA−1アンタゴニストは静脈内又は非経口投与することができる。
【0021】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、脳卒中処置と併用して投与される。例えば、該処置は、脳卒中を有し、或いは脳卒中のリスクがある被験体に治療上の利益を付与する第二の薬剤投与を含む。例示的な第二の薬剤は、例えば、血栓溶解剤(例えば、ストレプトキナーゼ、アシル化プラスミノーゲン・ストレプトキナーゼ活性化因子複合体(APSAC)、ウロキナーゼ、1本鎖ウロキナーゼ・プラスミノーゲン活性化因子(scu−PA)、抗炎症剤、蛇毒由来トロンビン様酵素、例えば、アンクロド、トロンビン阻害剤、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)及び上記各々の生物活性変異体);抗凝固剤(例えば、ワルファリン又はヘパリン);抗血小板薬(例えば、アスピリン);糖蛋白質IIb/IIIa阻害剤;グリコサミノグリカン;クマリン;GCSF;メラトニン;アポトーシス阻害剤(例えば、カスパーゼ阻害剤);抗酸化剤(例えば、NXY−059);及び神経保護剤(例えば、NMDA受容体拮抗薬又はカンナビノイド拮抗薬)を含む。
【0022】
好ましい実施形態では、該VLA−1アンタゴニストと該第二の薬剤は同時に投与される。好ましい実施形態では、最初に該VLA−1アンタゴニストが投与され、次に該第二の薬剤が投与される。好ましい実施形態では、最初に該第二の薬剤が投与され、次に該VLA−1アンタゴニストが投与される。
【0023】
本明細書で用いられるように、「併用投与される」とは、2つ又はそれ以上の薬剤(例えば、VLA−1アンタゴニストと第二の薬剤)が、各薬剤の被験体に対する重なり効果が生じるように、同時或いは一定間隔以内に被験体に投与されるということである。組合せ効果が得られるように、第一の薬剤と第二の薬剤の投与は十分に近接して間隔を置くことが好ましい。その間隔は、数時間、数日又は数週間の間隔でよい。一般的に、該薬剤は被験体において同時に生物学的に利用可能であり、例えば、検出可能である。好ましい実施形態では、該薬剤の1つ、例えば、第一の薬剤の少なくとも1回の投与が行われ、その間、他方の薬剤、例えば、該VLA−1アンタゴニストは被験体において治療レベルにて未だ存在する。
【0024】
一実施形態では、該方法は、脳卒中後基準、例えば、本明細書で述べる脳卒中評価基準又は尺度で被験体を評価するステップも含む。一部の実施形態では、その評価は該VLA−1アンタゴニストの投与後少なくとも1時間、例えば、少なくとも2,4,6,8,12,24若しくは48時間又は少なくとも1週間、2週間、4週間、10週間、13週間、20週間若しくはそれ以上の週間にて行われる。1つ又はそれ以上の下記の期間すなわち:処置開始前;処置中;又は1つ若しくはそれ以上の処置要素がなされた後に、被験体を評価することができる。評価には、同一のVLA−1アンタゴニストによる更なる処置又は追加薬剤による追加処置の必要性の評価が含まれうる。好ましい実施形態では、事前に選択された評価結果が得られる場合、追加ステップがとられ、例えば、被験体は別の処置を施行され、或いは別の評価又は試験が行われる。
【0025】
別の実施形態では、該方法は、脳卒中(例えば、虚血性脳卒中、出血性脳卒中又は一過性虚血発作)を有する又は脳卒中の症状を有する被験体を特定するステップを更に含む。
【0026】
一態様では、本開示内容は被験体を処置する方法を特徴とし、該方法は、(a)被験体が虚血、例えば、脳卒中後虚血を有するかを判定するステップ;(b)虚血を生じさせる脳卒中又は他の事象が事前に選択された時間、例えば、本明細書で述べる時間内であるかを判定するステップ;並びに(a)及び(b)が満たされる場合、虚血を処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを被験体に投与するステップを含む。
【0027】
一態様では、本開示内容は、脳卒中、例えば、本明細書で述べるような脳卒中を処置するのに用いるVLA−1アンタゴニストを特徴とする。該アンタゴニストは本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べるVLA−1抗体でよい。別の態様では、本開示内容は、脳卒中、例えば、本明細書で述べるような脳卒中を処置するための薬剤の製造のためのVLA−1アンタゴニストの使用を特徴とする。該アンタゴニストは本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べるVLA−1抗体でよい。
【0028】
一態様では、本開示内容は、VLA−1アンタゴニスト、例えば、VLA−1抗体及び脳卒中を処置する際の該アンタゴニストの使用のための取扱説明書が付いたラベルを含む容器を特徴とする。
【0029】
一態様では、本開示内容は、被験体における虚血損傷、例えば、本明細書で述べる虚血損傷を処置する方法を特徴とし、該方法は、虚血損傷を処置するのに有効な量にて、VLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べる抗VLA−1抗体を被験体に投与するステップを含む。別の態様では、本開示内容は、被験体における虚血・再灌流損傷を処置する方法を特徴とし、該方法は、虚血・再灌流損傷を処置するのに有効な量にて、VLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べる抗VLA−1抗体を被験体に投与するステップを含む。
【0030】
別の態様では、本開示内容は被験体における外傷性脳損傷(TBI)を処置する方法を特徴とする。該方法は、TBIを処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを被験体に投与するステップを含む。
【0031】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片である。該抗VLA−1抗体はモノクローナル抗体又はその抗原結合断片でよい。該抗VLA−1抗体は、完全長でよく(例えば、IgG(例えば、IgG1,IgG2,IgG3,IgG4),IgM,IgA(例えば、IgA1,IgA2),IgD及びIgE)、或いは抗原結合断片(例えば、Fab,F(ab’)又はscFv断片又は1つ若しくはそれ以上のCDR)のみを含んでもよい。抗体又はその抗原結合断片は、2本の重鎖の免疫グロブリン及び2本の軽鎖の免疫グロブリンを含んでよく、或いは1本鎖抗体でよい。該抗体は任意に、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン又はミュー定常領域遺伝子を含んでもよい。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は実質的にヒト抗体由来の重鎖及び軽鎖定常領域、例えば、ヒトIgG1定常領域又はその一部分を含む。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体はヒト抗体である。
【0032】
他の実施形態では、該抗体又はその抗原結合断片はキメラ又はヒト化抗体である。本明細書で論じるように、該抗体は、CDR移植、ヒト化、或いはより一般的には、非ヒト抗体由来のCDR及びヒトにおいてより免疫原性が低く、例えば、マウスCDRが天然で生じるマウスフレームワークより抗原性が低いものとして選択されるフレームワークを有する抗体でよい。
【0033】
好ましい実施形態では、該抗VLA−1抗体は、非天然抗体、例えば、非ヒト抗体、例えば、本明細書で述べる非ヒト抗体由来の、少なくとも重鎖CDR3、好ましくは全重鎖CDR、更に好ましくは全3本の重鎖CDR及び全3本の軽鎖CDRを有する、キメラ、CDR移植又はヒト化抗体である。好ましい実施形態では、該CDRは本明細書で言及されるCDRと1,2又は3個のアミノ酸残基が異なってよく、例えば、重鎖CDR3は本明細書で述べる供給源由来でよいが、その他の別のCDRは本明細書で述べるように異なってよい。
【0034】
好ましい抗VLA−1抗体は、例えば、ヒト化AQC2抗体(例えば、ATCC寄託番号PTA−3274を有するハイブリドーマによって産生される)、AJH10(ATCC PTA−3580)、hAQC2(ATCC PTA−3275)、haAQC2(ATCC PTA−3274)、hsAQC2(ATCC PTA−3356)、mAQC2(ATCC PTA−3273)及びモノクローナル抗体1B3(ATCC HB−10536)を含む。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は、AQC2,AJH10,hAQC2,haAQC2,hsAQC2,mAQC2及び/又は1B3と同じエピトープに結合しうる。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体はVLA−1への結合に対し、AQC2,AJH10,hAQC2,haAQC2,hsAQC2,mAQC2及び/又は1B3と競合する。
【0035】
一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は、VLA−1のα1サブユニット、例えば、VLA−1のα1−Iドメインに結合する。
【0036】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、ポリペプチド、例えば、ラミニン又はコラーゲンI,III若しくはIV或いは本明細書で述べるラミニン又はコラーゲンI,III若しくはIVのVLA−1結合ペプチドである。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、VLA−1ペプチド、例えば、α1サブユニットの断片、例えば、アミノ酸配列VQRGGR又は保存的アミノ酸置換を有する同様のアミノ酸配列を含むα1−Iドメインの断片である。ラミニン、コラーゲン又はVLA−1ペプチドは、例えば、本明細書で述べるように、コラーゲンIVに対するK562−α1依存性接着を阻害する能力によって試験されるように、VLA−1機能を阻止する。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、VLA−1核酸、例えば、2本鎖RNA(dsRNA)分子、アンチセンス分子、リボザイム、三重らせん分子、アプタマー若しくはそれらの任意の組合せの発現又は翻訳のインヒビターである。
【0037】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、本明細書で述べる小分子(例えば、2500Da未満、好ましくは1500Da未満の分子量を有する化学物質)又は化学物質、例えば、有機小分子である。
【0038】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、TBIを処置し、例えば、治療、治癒、緩和、軽減、変質、是正、好転、改善し、或いはTBI、例えば本明細書で述べるTBIの1以上の症状に作用するほどの量及び/又は時間にて投与されうる。
【0039】
典型的には、被験体は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウサギ又は農業用哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタなど)である。例えば、被験体は、ヒト、例えば、ヒト男性又は女性である。該被験体は少なくとも18,25,30,45,50,55,60又は70歳でよい。
【0040】
TBIは、例えば、挫傷、打撲傷、裂傷又は血腫でありうる。一部の実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは一次性TBIを処置するために投与される。一部の実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは二次性TBIを処置或いは予防するために投与される。
【0041】
一実施形態では、被験体は処置の48時間以内、例えば、2,3,5,8,12,20又は30時間以内にTBIを被っている。別の実施形態では、被験体は、処置の48時間以上前であるが、直近の3又は2週間以内にTBIを被っている。
【0042】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、1つ又はそれ以上のTBI評価基準、例えば、本明細書で述べる基準にて、少なくとも5,10,15,20,40,50,60,70若しくは80%又はそれ以上、症状を改善するほどの量にて投与される。
【0043】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、1日あたり0.025mg/kg〜1日あたり30mg/kg、例えば、0.1〜5mg/kg、例えば、0.3〜3mg/kgの用量にて投与される。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、脳卒中後14日間以内に少なくとも2回、例えば、脳卒中後14日間以内に少なくとも3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14回投与される。該アンタゴニストは、例えば、1日1回、隔日1回、週2回、週1回又は1日1回で1日、例えば、2,3,4,5,6,7,14若しくは28日間、投与することができる。該VLA−1アンタゴニストは静脈内又は非経口投与することができる。
【0044】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストはTBI処置と併用して投与される。例えば、該VLA−1アンタゴニストは、他の損傷及び感染のための手術及び/又は処置と併用して投与することができる。好ましい実施形態では、該VLA−1アンタゴニストと第二の薬剤は同時に投与される。好ましい実施形態では、最初に該VLA−1アンタゴニストが投与され、次に第二の薬剤が投与される。好ましい実施形態では、最初に第二の薬剤が投与され、次に該VLA−1アンタゴニストが投与される。
【0045】
一実施形態では、該方法は本明細書で述べるTBI基準で被験体を評価するステップも含む。一部の実施形態では、その評価は該VLA−1アンタゴニストの投与後少なくとも1時間、例えば、少なくとも2,4,6,8,12,24若しくは48時間又は少なくとも1週間、2週間、4週間、10週間、13週間、20週間若しくはそれ以上の週間にて行われる。1つ又はそれ以上の下記の期間すなわち:処置開始前;処置中;又は1つ若しくはそれ以上の処置要素がなされた後に被験体を評価することができる。評価には、同一のVLA−1アンタゴニストによる更なる処置又は追加薬剤による追加処置の必要性の評価が含まれうる。好ましい実施形態では、事前に選択された評価結果が得られる場合、追加ステップがとられ、例えば、被験体は別の処置を施行され、或いは別の評価又は試験が行われる。
【0046】
一態様では、本開示内容は、TBI、例えば、本明細書で述べるようなTBIを処置するのに用いるVLA−1アンタゴニストを特徴とする。該アンタゴニストは本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べるVLA−1抗体でよい。別の態様では、本開示内容は、TBI、例えば、本明細書で述べるようなTBIを処置するための薬剤の製造のためのVLA−1アンタゴニストの使用を特徴とする。該アンタゴニストは本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べるVLA−1抗体でよい。
【0047】
一態様では、本開示内容は、VLA−1アンタゴニスト、例えば、VLA−1抗体及びTBIを処置する際の該アンタゴニストの使用のための取扱説明書が付いたラベルを含む容器を特徴とする。
【0048】
別の態様では、本開示内容は被験体における脊髄損傷(SCI)を処置する方法を特徴とする。該方法は、SCIを処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを被験体に投与するステップを含む。
【0049】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片である。該抗VLA−1抗体はモノクローナル抗体又はその抗原結合断片でよい。該抗VLA−1抗体は、完全長でよく(例えば、IgG(例えば、IgG1,IgG2,IgG3,IgG4),IgM,IgA(例えば、IgA1,IgA2),IgD及びIgE)、或いは抗原結合断片(例えば、Fab,F(ab’)又はscFv断片又は1つ若しくはそれ以上のCDR)のみを含んでもよい。抗体又はその抗原結合断片は、2本の重鎖の免疫グロブリン及び2本の軽鎖の免疫グロブリンを含んでよく、或いは1本鎖抗体でよい。該抗体は任意に、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン又はミュー定常領域遺伝子を含んでもよい。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は実質的にヒト抗体由来の重鎖及び軽鎖定常領域、例えば、ヒトIgG1定常領域又はその一部分を含む。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体はヒト抗体である。
【0050】
他の実施形態では、該抗体又はその抗原結合断片はキメラ又はヒト化抗体である。本明細書で論じるように、該抗体は、CDR移植、ヒト化、或いはより一般的には、非ヒト抗体由来のCDR及びヒトにおいてより免疫原性が低く、例えば、マウスCDRが天然で生じるマウスフレームワークより抗原性が低いものとして選択されるフレームワークを有する抗体でよい。
【0051】
好ましい実施形態では、該抗VLA−1抗体は、非天然抗体、例えば、非ヒト抗体、例えば、本明細書で述べる非ヒト抗体由来の、少なくとも重鎖CDR3、好ましくは全重鎖CDR、更に好ましくは全3本の重鎖CDR及び全3本の軽鎖CDRを有する、キメラ、CDR移植又はヒト化抗体である。好ましい実施形態では、該CDRは本明細書で言及されるCDRと1,2又は3個のアミノ酸残基が異なってよく、例えば、重鎖CDR3は本明細書で述べる供給源由来でよいが、その他の別のCDRは本明細書で述べるように異なってよい。
【0052】
好ましい抗VLA−1抗体は、例えば、ヒト化AQC2抗体(例えば、ATCC寄託番号PTA−3274を有するハイブリドーマによって産生される)、AJH10(ATCC PTA−3580)、hAQC2(ATCC PTA−3275)、haAQC2(ATCC PTA−3274)、hsAQC2(ATCC PTA−3356)、mAQC2(ATCC PTA−3273)及びモノクローナル抗体1B3(ATCC HB−10536)を含む。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は、AQC2,AJH10,hAQC2,haAQC2,hsAQC2,mAQC2及び/又は1B3と同じエピトープに結合しうる。一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体はVLA−1への結合に対し、AQC2,AJH10,hAQC2,haAQC2,hsAQC2,mAQC2及び/又は1B3と競合する。
【0053】
一部の実施形態では、該抗VLA−1抗体は、VLA−1のα1サブユニット、例えば、VLA−1のα1−Iドメインに結合する。
【0054】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、ポリペプチド、例えば、ラミニン又はコラーゲンI,III若しくはIV或いは本明細書で述べるラミニン又はコラーゲンI,III若しくはIVのVLA−1結合ペプチドである。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、VLA−1ペプチド、例えば、α1サブユニットの断片、例えば、アミノ酸配列VQRGGR又は保存的アミノ酸置換を有する同様のアミノ酸配列を含むα1−Iドメインの断片である。ラミニン、コラーゲン又はVLA−1ペプチドは、例えば、本明細書で述べるように、コラーゲンIVに対するK562−α1依存性接着を阻害する能力によって試験されるように、VLA−1機能を阻止する。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、VLA−1核酸、例えば、2本鎖RNA(dsRNA)分子、アンチセンス分子、リボザイム、三重らせん分子、アプタマー若しくはそれらの任意の組合せの発現又は翻訳のインヒビターである。
【0055】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、本明細書で述べる小分子(例えば、2500Da未満、好ましくは1500Da未満の分子量を有する化学物質)又は化学物質、例えば、有機小分子である。
【0056】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、SCIを処置し、例えば、治療、治癒、緩和、軽減、変質、是正、好転、改善し、或いはSCI、例えば本明細書で述べるSCIの1以上の症状に作用するほどの量及び/又は時間にて投与されうる。
【0057】
典型的には、被験体は、哺乳動物、例えば、ヒト、イヌ、ネコ、サル、ウサギ又は農業用哺乳動物(例えば、ウマ、ウシ、ブタなど)である。例えば、被験体は、ヒト、例えば、ヒト男性又は女性である。該被験体は少なくとも18,25,30,45,50,55,60又は70歳でよい。
【0058】
一部の実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは一次性SCIを処置するために投与される。一部の実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは二次性SCIを処置或いは予防するために投与される。
【0059】
一実施形態では、被験体は処置の48時間以内、例えば、2,3,5,8,12,20又は30時間以内にSCIを被っている。別の実施形態では、被験体は、処置の48時間以上前であるが、直近の3又は2週間以内にSCIを被っている。
【0060】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、1つ又はそれ以上のSCI評価基準、例えば、本明細書で述べる基準にて、少なくとも5,10,15,20,40,50,60,70若しくは80%又はそれ以上、症状を改善するほどの量にて投与される。
【0061】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、1日あたり0.025mg/kg〜1日あたり30mg/kg、例えば、0.1〜5mg/kg、例えば、0.3〜3mg/kgの用量にて投与される。一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは、脳卒中後14日間以内に少なくとも2回、例えば、脳卒中後14日間以内に少なくとも3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13又は14回投与される。該アンタゴニストは、例えば、1日1回、隔日1回、週2回、週1回又は1日1回で1日、例えば、2,3,4,5,6,7,14若しくは28日間、投与することができる。該VLA−1アンタゴニストは静脈内又は非経口投与することができる。
【0062】
一実施形態では、該VLA−1アンタゴニストはSCI処置用の第二の薬剤と併用して投与される。該第二の薬剤は、例えば、メチルプレドニゾロンのようなコルチコステロイド又はグルココルチコイドでよい。好ましい実施形態では、該VLA−1アンタゴニストと該第二の薬剤は同時に投与される。好ましい実施形態では、最初に該VLA−1アンタゴニストが投与され、次に該第二の薬剤が投与される。好ましい実施形態では、最初に該第二の薬剤が投与され、次に該VLA−1アンタゴニストが投与される。
【0063】
一実施形態では、該方法は本明細書で述べるSCI基準で被験体を評価するステップも含む。一部の実施形態では、その評価は該VLA−1アンタゴニストの投与後少なくとも1時間、例えば、少なくとも2,4,6,8,12,24若しくは48時間又は少なくとも1週間、2週間、4週間、10週間、13週間、20週間若しくはそれ以上の週間にて行われる。1つ又はそれ以上の下記の期間:処置開始前;処置中;又は1つ若しくはそれ以上の処置要素がなされた後に被験体を評価することができる。評価には、同一のVLA−1アンタゴニストによる更なる処置又は追加薬剤による追加処置の必要性の評価が含まれうる。好ましい実施形態では、事前に選択された評価結果が得られる場合、追加ステップがとられ、例えば、被験体は別の処置を施行され、或いは別の評価又は試験が行われる。
【0064】
一態様では、本開示内容は、SCI、例えば、本明細書で述べるようなSCIを処置するのに用いるVLA−1アンタゴニストを特徴とする。該アンタゴニストは本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べるVLA−1抗体でよい。別の態様では、本開示内容は、SCI、例えば、本明細書で述べるようなSCIを処置するための薬剤の製造のためのVLA−1アンタゴニストの使用を特徴とする。該アンタゴニストは本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト、例えば、本明細書で述べるVLA−1抗体でよい。
【0065】
一態様では、本開示内容は、VLA−1アンタゴニスト、例えば、VLA−1抗体及びSCIを処置する際の該アンタゴニストの使用のための取扱説明書が付いたラベルを含む
容器を特徴とする。
【0066】
本明細書で用いられるように、「処置(treatment)」、「処置する(treat)」又は「処置(する)(treating)」という用語は、障害(例えば、脳卒中、TBI又はSCI)と関連する病状、症状又はパラメータを改善し、或いは障害(障害、例えば、脳卒中、TBI又はSCIによって引き起こされる二次性損傷を含む)の発症、進行又は増悪を統計的に有意な程度又は当業者にとって検出可能な程度に低減するのに有効な量、態様及び/又はモードにて治療を施行することをいう。従って、処置は治療的及び/又は予防的利益をもたらすことができる。有効な量、態様又はモードは、被験体によって異なり得、被験体に合わせられうる。本明細書で用いられるように、「処置」は、脳卒中のリスクが高い被験体、例えば、一過性虚血発作を起こした被験体の予防的処置も包含する。好ましい実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは虚血損傷後に投与される。好ましい実施形態では、該VLA−1アンタゴニストは被験体が脳卒中を有した後に投与される。
【0067】
本明細書で用いられるように、「処置するのに有効な量」又は「治療有効量」という用語は、被験体への単回又は多回投与後、障害と関連する病状、症状若しくはパラメータを改善又は予防的に処置し、或いは障害の発症、進行又は増悪を統計的に有意な程度又は当業者にとって検出可能な程度に低減するのに有効なVLA−1アンタゴニストの量をいう。例えば、脳卒中の場合、「処置するのに有効な量」とは、未処置被験体における梗塞サイズに対し、脳内神経組織における梗塞のサイズを、例えば、少なくとも5,10,15,20,40,50,60,70若しくは80%又はそれ以上縮小させるほどの量をいう。或いは、「処置するのに有効な量」とは、本明細書で述べる1つ若しくはそれ以上の脳卒中、TBI又はSCI評価基準にて、少なくとも5,10,15,20,40,50,60,70若しくは80%又はそれ以上、症状を改善するほどの量をいう。
【0068】
本明細書で用いられるように、「脳卒中」とは、脳に供給する1つ若しくはそれ以上の血管の閉塞又は出血によって引き起こされ、細胞死をもたらす病状を指す一般的な用語である。本明細書で用いられるような「虚血性脳卒中」とは、脳に供給する1つ又はそれ以上の血管の閉塞によって引き起こされる脳卒中をいう。虚血性脳卒中のタイプには、例えば、塞栓性脳卒中、心塞栓性脳卒中、血栓性脳卒中、大血管血栓症、ラクナ梗塞、動脈間性脳卒中(artery−artery stroke)及び潜因性脳卒中が含まれる。本明細書で用いられるような「出血性脳卒中」とは、脳に供給する1つ又はそれ以上の血管の出血によって引き起こされる脳卒中をいう。出血性脳卒中のタイプには、例えば、硬膜下、実質内、硬膜外及びくも膜下出血性脳卒中が含まれる。
【0069】
本明細書で用いられるように、「外傷性脳損傷」又は「TBI」とは、物理的力又は外傷によって引き起こされる損傷をいう。TBIは一次性又は二次性でありうる。「一次性TBI」は物理的力又は外傷の直後に生じ、例えば、血腫、くも膜下出血、脳浮腫、頭蓋内圧上昇及び脳低酸素をもたらしうる。「二次性TBI」は物理的力又は外傷後、数時間から数日にわたって生じ得、重度の二次事象(例えば、脳卒中)をもたらしうる。被験体がグラスゴー・コーマ・スケール(GCS)でスコア13〜15の場合、TBIは「軽度」と定義づけられる。軽度TBIは、物理的力又は外傷後5分以下の意識喪失(LOC)並びに/或いは物理的力又は外傷後10分以下の記憶喪失と関連しうる。被験体がGCSでスコア13未満の場合、TBIは「中等度〜重度」と定義づけられる。
【0070】
本明細書で用いられるように、「脊髄損傷」又は“SCI”とは、脊髄および/又はその周囲域に対して持続する外傷をいう。脊髄は、圧迫、切断或いは挫傷され、軸索への物理的又は生理的損傷をもたらし、損傷した軸索長に沿った神経電気インパルス伝達に影響を及ぼしうる。関連する細胞体を含む大集団の軸索が死滅し、脳と末梢神経との伝達の喪失を生じさせうる。従って、SCIは完全又は部分的な運動機能の突然の喪失をもたらし、その程度は損傷の位置に依存する。高度(頸部)SCIは、運動機能の全損、四肢麻痺、呼吸調節の喪失及び/又は心血管虚脱をもたらしうる。低度(胸部)SCIは、腕又は呼吸器疾患を伴わずに対麻痺をもたらしうる。
【0071】
特許、特許出願及び参考文献はすべて、それらの全体を参照して本明細書に組み込まれる。相反する場合、本出願が統制する。
【0072】
本発明の1つ又はそれ以上の実施形態の詳細が、添付図面及び以下の説明において示される。本発明の他の特徴、目的及び利点は、該説明及び図面並びに特許請求の範囲から明らかにあるであろう。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
被験体における脳卒中を処置する方法であって、脳卒中を処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目2)
被験体における脳卒中を処置する方法であって、抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片を上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目3)
上記脳卒中が虚血性脳卒中である、項目1に記載の方法。
(項目4)
上記脳卒中が出血性脳卒中である、項目1に記載の方法。
(項目5)
上記抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片が、ヒト、キメラ若しくはヒト化抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片である、項目2に記載の方法。
(項目6)
上記抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片が、ヒト化AQC2抗体又はその抗原結合断片である、項目2に記載の方法。
(項目7)
上記抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片が、ATCC寄託番号PTA−3274を有するハイブリドーマによって産生される、項目2に記載の方法。
(項目8)
上記被験体が哺乳動物である、項目1に記載の方法。
(項目9)
上記被験体がヒトである、項目8に記載の方法。
(項目10)
上記被験体が脳卒中を起こしている、項目1に記載の方法。
(項目11)
上記抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片が、脳卒中の48時間以内に投与される、項目10に記載の方法。
(項目12)
上記VLA−1アンタゴニストが、静脈内又は非経口投与される、項目1に記載の方法。
(項目13)
上記VLA−1アンタゴニストが、1日あたり0.1mg/kgから1日あたり5mg/kgまでの用量にて投与される、項目1に記載の方法。
(項目14)
上記VLA−1アンタゴニストが、脳卒中後7日以内に少なくとも2回投与される、項目10に記載の方法。
(項目15)
上記VLA−1アンタゴニストが、別の治療薬と併用して投与される、項目1に記載の方法。
(項目16)
上記別の治療薬が、抗血小板薬、血栓溶解酵素、凝集阻害剤、糖蛋白質IIb/IIIa阻害剤、グリコサミノグリカン、トロンビン阻害剤、抗凝固剤、ヘパリン、クマリン、tPA、GCSF、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、アンクロド、アセチルサリチル酸(acetylsalicyclic acid)、メラトニン及びカスパーゼ阻害剤からなる群より選択される、項目15に記載の方法。
(項目17)
ヒトにおける脳卒中を処置する方法であって、脳卒中を処置するのに有効な量にてVLA−1抗体又はその抗原結合断片を上記ヒトに投与するステップを含む方法。
(項目18)
脳卒中を起こしたヒトを処置する方法であって、脳卒中を処置するのに有効な量にてヒト化抗VLA−1ブロッキング抗体を脳卒中の72時間以内に上記ヒトに投与するステップを含む方法。
(項目19)
被験体における外傷性脳損傷(TBI)を処置する方法であって、TBIを処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目20)
被験体における外傷性脳損傷(TBI)を処置する方法であって、抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片を上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目21)
上記TBIが、挫傷、打撲傷、裂傷又は血腫である、項目19に記載の方法。
(項目22)
上記抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片が、ヒト、キメラ若しくはヒト化抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片である、項目21に記載の方法。
(項目23)
被験体における脊髄損傷(SCI)を処置する方法であって、SCIを処置するのに有効な量にてVLA−1アンタゴニストを上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目24)
被験体における脊髄損傷(SCI)を処置する方法であって、抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片を上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目25)
上記SCIが、不完全SCI、脊髄中心症候群、ブラウン・セカール症候群、脊髄前方症候群、脊髄円錐症候群及び馬尾症候群からなる群より選択される、項目23に記載の方法。
(項目26)
上記抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片が、ヒト、キメラ若しくはヒト化抗VLA−1抗体又はその抗原結合断片である、項目24に記載の方法。
(項目27)
被験体における虚血損傷を処置する方法であって、上記損傷を処置するのに有効な量にてVLA−1ブロッキング抗体又はその抗原結合断片を上記被験体に投与するステップを含む方法。
(項目28)
被験体における虚血・再灌流損傷を処置する方法であって、上記損傷を処置するのに有効な量にてVLA−1ブロッキング抗体又はその抗原結合断片を上記被験体に投与するステップを含む方法。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1A】図1AはMCAO後の行動評価を示すグラフ図である。
【図1B】図1BはMCAO後の対照群と抗VLA−1抗体で処置されたマウスにおける梗塞半球のパーセンテージを示すグラフ図である。
【図1C】図1CはMCAO後の対照群と抗VLA−1抗体で処置されたマウスにおける梗塞体積を示すグラフ図である。
【図1D】図1DはMCAO後の対照群と抗VLA−1抗体で処置されたマウスにおける浮腫パーセントを示すグラフ図である。
【図2A】図2AはMCAO後の対照群と抗VLA−1抗体で処置されたマウスにおける梗塞体積を示すグラフ図である。
【図2B】図2BはMCAO後の対照群と抗VLA−1抗体で処置されたマウスにおける浮腫パーセントを示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
本明細書で提示される結果は、VLA−1ブロッキング抗体が、脳虚血モデルにおいてin vivoにて梗塞サイズを縮小させることができることを示す。その結果は、特に、VLA−1アンタゴニスト、例えば、VLA−1抗体の投与がCNSにおける虚血損傷、特に、外傷性虚血損傷を低減することを示す。従って、VLA−1アンタゴニスト、例えば、VLA−1抗体は、脳卒中、外傷性脳損傷(TBI)及び脊髄損傷(SCI)並びに他の虚血損傷を処置するため、単独で、或いは別の処置と併用して投与することができる。
【0075】
(VLA−1)
インテグリンは、細胞−細胞及び細胞−マトリックス接着を媒介する細胞表面受容体のスーパーファミリーである。これらの蛋白質は、発達及び組織修復時に細胞の成長、移動及び分化のための足場及びシグナルを付与することが知られている。該蛋白質は免疫及び炎症プロセスに関与している。
【0076】
インテグリンは2本の非共有結合ポリペプチド鎖α及びβからなるヘテロ二量体蛋白質である。各鎖のアミノ末端は鎖間結合及びリガンド結合に寄与する球状頭部を形成する。該球状頭部はストークによって膜貫通セグメントに結合される。通常、細胞質尾部は50アミノ酸残基長未満である。元々、インテグリンサブファミリーは、ヘテロ二量体を形成するのにどのβサブユニットが用いられるかということに基づいてもともと定義づけられた。β1含有インテグリンはVLA分子とも称され、「極晩期活性化(very late activation)」抗原を指す。VLA−1〜VLA−6は、それぞれα1〜α6(即ち、CD49a〜CD49f)を含むβ1サブファミリーメンバーを指す。一般的評論については、Cellular and Molecular Immunology,Abul K.Abbasら(編)、W.B.Saunders Company,Philadelphia,PA,2000を参照されたい。
【0077】
コラーゲン(両方のタイプI及びIV)及びラミニンは、α1β1インテグリン(即ち、VLA−1)の周知のリガンドである。VLA−1は、コラーゲン上の細胞の接着及び移動(Keelyら、1995,J.Cell Sci.108:595−607;及びGotwalsら、1996,J.Clin.Invest.97:2469−2477);創傷治癒の重要な要素である、コラーゲン基質の収縮及び再構成の促進(上記Gotwalsら;及びChiro,1991,Cell 67:403−410);並びに細胞外基質の再構築に関与する遺伝子の発現調節(Riikonenら、1995,J.Biol.Chem.270:1−5;及びLangholzら、1995,J.Cell
Biol.131:1903−1915)に関与している。
【0078】
(VLA−1アンタゴニスト)
脳卒中を処置するため、種々の薬剤をVLA−1アンタゴニストとして用いることができる。このような薬剤には、VLA−1又はVLA−1の一部、例えば、VLA−1のα1サブユニットに対する抗体が含まれる。一部の好ましい薬剤には、2001年4月14日に申請された米国特許出願60/283,794及び2001年7月6日に申請された米国特許出願60/303,689に開示され、また、WO02/083854に開示されている抗VLA−1抗体が含まれる。これらの出願の開示内容はそれらの全体を参照して本明細書に組み込まれる。他の薬剤には、VLA−1とそのリガンド、例えば、コラーゲン又はラミニンとの相互作用を阻止し、或いはインテグリンの細胞シグナル伝達を調節し、VLA−1と関連する細胞活性又は生化学的機能を低下させる小分子が含まれる。また、本明細書で開示される方法において有用な薬剤には、例えば、遺伝子治療及びアンチセンス技術によってVLA−1の発現を低下させる薬剤が含まれる。
【0079】
(抗VLA−1抗体)
例示的なVLA−1アンタゴニストはVLA−1に結合する抗体を含む。一実施形態では、該抗体は、例えば、相互作用を物理的に阻止し、VLA−1及び/又はVLA−1リガンドのその対応物に対する親和性を低下させ、VLA−1複合体を崩壊又は不安定化し、VLA−1を隔離し、或いは分解のためにVLA−1を標的とすることにより、VLA−1とVLA−1リガンド(例えば、コラーゲン)との相互作用を阻害する。一実施形態では、該抗体は、VLA−1/リガンド結合面に関与する、1つ又はそれ以上のアミノ酸残基においてVLA−1に結合することができる。そのようなアミノ酸残基は、例えば、アラニンスキャニングによって特定することができる。別の実施形態では、該抗体はVLA−1/リガンド結合に関与しない残基に結合することができる。例えば、該抗体はVLA−1の構造を変化させることができ、これにより、結合親和性を低下させ、或いは該抗体はVLA−1/リガンド結合を立体的に阻害しうる。一実施形態では、該抗体はVLA−1が媒介する事象又は活性の活性化を低下させることができる。
【0080】
本明細書で用いられるように、「抗体」という用語は、少なくとも1つの免疫グロブリン可変領域、例えば、免疫グロブリン可変ドメイン又は免疫グロブリン可変ドメイン配列を付与するアミノ酸配列を含む蛋白質をいう。例えば、抗体は1つの重(H)鎖可変領域(本明細書ではVHと省略される)及び1つの軽(L)鎖可変領域(本明細書ではVLと省略される)を含みうる。別例では、抗体は2つの重(H)鎖可変領域及び2つの軽(L)鎖可変領域を含む。「抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片(例えば、1本鎖抗体、Fab断片、F(ab’)断片、Fd断片、Fv断片及びdAb断片)並びに完全抗体、例えば、IgA,IgG(例えば、IgG1,IgG2,IgG3,IgG4),IgE,IgD,IgM(及びそれらのサブタイプ)型の無傷及び/又は完全長免疫グロブリンを包含する。免疫グロブリンの軽鎖はカッパ又はラムダ型の軽鎖でよい。一実施形態では、該抗体はグリコシル化される。抗体は、抗体依存性細胞毒性及び/又は補体媒介性
細胞毒性に対して機能的になり得、或いはこれらの活性の一方又は両方に対して非機能的になりうる。
【0081】
VH及びVL領域は、「フレームワーク領域」(FR)と称される、より保存的な領域が散在する、相補性決定領域(“CDR”)と称される超可変性領域に更に細分化されうる。FR及びCDRの範囲は正確に画定されている(Kabat,E.A.ら(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、米国保健福祉省(US Department of Health and Human Services)、NIH出版番号91−3242;及びChothia,C.ら(1987)J.Mol.Biol.196:901−917を参照)。本明細書ではKabat定義が用いられる。典型的には、各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシル末端へ以下の順序:FR1,CDR1,FR2,CDR2,FR3,CDR3,FR4で配置される3つのCDR及び4つのFRからなる。
【0082】
「免疫グロブリンドメイン」とは、免疫グロブリン分子の可変又は定常ドメイン由来のドメインをいう。典型的には、免疫グロブリンドメインは約7つのβストランドから形成される2つのβシート及び保存的ジスルフィド結合を含む(例えば、A.F.Williams及びA.N.Barclay(1988)Ann.Rev Immunol.6:381−405を参照)。「免疫グロブリン可変ドメイン配列」とは、抗原結合に好適な構造にCDR配列を位置決めするのに十分な構造を形成することができるアミノ酸配列をいう。例えば、該配列は天然可変ドメインのアミノ酸配列のすべて又は一部を含みうる。例えば、該配列は、1つ、2つ若しくはそれ以上のN又はC末端アミノ酸、内部アミノ酸を省略し、1つ若しくはそれ以上の挿入又は追加末端アミノ酸を含み、或いは他の改変を含みうる。一実施形態では、免疫グロブリン可変ドメイン配列を含むポリペプチドは、別の免疫グロブリン可変ドメイン配列と会合し、標的結合構造(又は「抗原結合部位」)、例えば、VLA−1と相互作用する構造を形成することができる。
【0083】
該抗体のVH又はVL鎖は重鎖又は軽鎖定常領域のすべて又は一部を更に含むことができ、これにより、それぞれ免疫グロブリン重鎖又は軽鎖を形成する。一実施形態では、該抗体は2本の免疫グロブリン重鎖及び2本の免疫グロブリン軽鎖の四量体である。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖はジスルフィド結合によって結合されうる。通常、重鎖定常領域は3つの定常ドメインCH1,CH2及びCH3を含む。通常、軽鎖定常領域は1つのCLドメインを含む。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含む。通常、抗体の定常領域は、免疫系の種々の細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第一成分(C1q)を含む、宿主の組織又は因子に対する抗体結合を媒介する。
【0084】
抗体の1つ又はそれ以上の領域は、ヒト領域、有効的ヒト領域又はヒト化領域でよい。例えば、1つ又はそれ以上の可変領域はヒト領域又は有効的ヒト領域でよい。例えば、1つ又はそれ以上のCDR、例えば、HC CDR1,HC CDR2,HC CDR3,LC CDR1,LC CDR2及びLC CDR3はヒトCDRでよい。各軽鎖CDRはヒトCDRでよい。HC CDR3はヒトCDRでよい。1つ又はそれ以上のフレームワーク領域は、ヒトフレームワーク領域、例えば、HC又はLCのFR1,FR2,FR3及びFR4でよい。一実施形態では、全フレームワーク領域がヒトフレームワーク領域、例えば、ヒト体細胞、例えば、免疫グロブリンを産生する造血細胞又は非造血細胞由来のヒトフレームワーク領域である。一実施形態では、ヒト配列は生殖細胞系配列、例えば、生殖細胞系核酸にコードされる生殖細胞系配列である。1つ又はそれ以上の定常領域は、ヒト領域、有効的ヒト領域又はヒト化領域でよい。別の実施形態では、フレームワーク領域(例えば、集合的にFR1,FR2及びFR3或いは集合的にFR1,FR2,FR3及びFR4)又は抗体全体の少なくとも70,75,80,85,90,92,95若しくは98%が、ヒト、有効的ヒト又はヒト化となりうる。例えば、FR1,FR2及びFR3は集合的に、ヒト生殖細胞系セグメントにコードされるヒト配列と少なくとも70,75,80,85,90,92,95,98又は99%同一或いは完全に同一となりうる。
【0085】
「有効的ヒト」免疫グロブリン可変領域とは、免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘起しないように、十分数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含む免疫グロブリン可変領域である。「有効的ヒト」抗体とは、抗体が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘起しないように、十分数のヒトアミノ酸位置を含む抗体である。
【0086】
「ヒト化」免疫グロブリン可変領域とは、修飾形態がヒトにおいて非修飾形態よりも免疫応答を誘起しないように修飾され、例えば、免疫グロブリン可変領域が正常なヒトにおいて免疫原性応答を誘起しないように、十分数のヒトフレームワークアミノ酸位置を含むように修飾される免疫グロブリン可変領域である。「ヒト化」免疫グロブリンの記述には、例えば、米国特許第6,407,213号及び第5,693,762号が含まれる。場合により、ヒト化免疫グロブリンは1つ又はそれ以上のフレームワークアミノ酸位置において非ヒトアミノ酸を含みうる。
【0087】
抗VLA−1抗体は、例えば、同系(cognate)(例えば、マウス、ラット又はウサギ)抗体を操作することによって生成されるキメラ抗体でもよい。例えば、同系(cognate)抗体は、重鎖及び/又は軽鎖のヒンジ及び/又は定常領域の一部又は全部が、別種(例えば、ヒト)由来抗体の対応する構成要素に置換されるように、組換えDNA技術によって改変することができる。一般的に、操作された抗体の可変ドメインは、同系(cognate)抗体の可変ドメインと同一或いは実質的に同一の状態である。そのような操作された抗体はキメラ抗体と称され、該ヒンジ及び/又は定常領域が由来する種(例えば、ヒト)の被験体に投与されると、同系(cognate)抗体より抗原性が低い。キメラ抗体を作製する方法は当該技術分野において公知である。好ましい定常領域は、限定されないが、IgG1及びIgG4由来の定常領域を含む。
【0088】
本明細書で述べる方法において有用な例示的な抗VLA−1抗体には、例えば、モノクローナル抗体AJH10(ATCC PTA−3580;2001年8月2日、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture
Collection,10801 University Boulevard,Manassas,VA 20110−2209)に寄託)、hAQC2(ATCC PTA−3275;2001年4月18日に寄託)、haAQC2(ATCC PTA−3274;2001年4月18日に寄託)、hsAQC2(ATCC PTA−3356;2001年5月4日に寄託)及びmAQC2(ATCC PTA−3273)が含まれる。これらの抗体はすべてブダペスト条約下で寄託された。他の抗VLA−1抗体には、例えば、米国特許第5,391,481号及び第5,788,966号に述べられているモノクローナル抗体1B3(ATCC HB−10536)並びにHa31/8が含まれる。
【0089】
(抗体の生成)
VLA−1に結合する抗体は、免疫化、例えば、動物を用いた免疫化又はファージ提示のようなin vitro方法を含む、様々な手段によって生成することができる。VLA−1の一部又は全部を免疫原又は選択の標的として用いることができる。例えば、VLA−1又はその断片、例えば、VLA−1のα1サブユニットの全部又は一部、例えば、α1−Iドメインを免疫原として用いることができる。一実施形態では、免疫化動物は、天然、ヒト又は部分的ヒト免疫グロブリン遺伝子座を有する免疫グロブリン産生細胞を含む。一実施形態では、非ヒト動物は少なくとも一部のヒト免疫グロブリン遺伝子を含む。例えば、ヒトIg遺伝子座の大断片を用いて、マウス抗体産生に欠けるマウス株を操作することが可能である。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子由来の
抗原特異的モノクローナル抗体が生成・選択されうる。例えば、XENOMOUSE(商標)、Greenら(1994)Nat.Gen.7:13−21;米国特許出願2003−0070185;米国特許第5,789,650号;及びWO96/34096を参照されたい。
【0090】
VLA−1に対する非ヒト抗体は、例えば、齧歯動物において生成することもできる。非ヒト抗体は、例えば、欧州特許第239400号;米国特許第6,602,503号;第5,693,761号;及び第6,407,213号に述べられているようにヒト化され、脱免疫化され、或いは修飾されて有効的ヒト抗体となる。
【0091】
欧州特許第239400号(Winterら)では、1つの種の相補性決定領域(CDR)の他種由来CDRとの置換(所定の可変領域内)によって抗体を改変することについて述べている。通常、非ヒト(例えば、マウス)抗体のCDRは、組換え核酸技術を用いることによってヒト抗体における対応領域内に置換され、所望の置換抗体をコードする配列を生成する。所望のアイソタイプ(通常、CHではガンマI、CLではカッパ)のヒト定常領域遺伝子セグメントを付加することができ、ヒト化重鎖及び軽鎖遺伝子が哺乳動物細胞において同時発現され、可溶性ヒト化抗体を産生することができる。抗体をヒト化する他の方法も用いることができる。例えば、他の方法は、抗体の3次元構造、結合決定因子に3次元的に近接するフレームワーク位置及び免疫原性ペプチド配列を明らかにすることができる。例えば、WO90/07861;米国特許第5,693,762号;第5,693,761号;第5,585,089号;及び第5,530,101号;Tempestら(1991)Biotechnology 9:266−271並びに米国特許第6,407,213号を参照されたい。
【0092】
時には、ヒトフレームワークへのCDRの直接転移は、結果として得られる抗体の抗原結合親和性の喪失をもたらす。この理由は、一部の同系(cognate)抗体ではフレームワーク領域内の一部のアミノ酸がCDRと相互作用し、従って、抗体の全般的抗原結合親和性に影響を与えるためである。そのような場合、同系(cognate)抗体の抗原結合活性を保持するため、アクセプター抗体のフレームワーク領域に「復帰突然変異」を導入することが肝要であろう。復帰突然変異を作製する一般的手法は当該技術分野において公知である。例えば、Queenら(上記)、Coら、Proc.Nat.Acad.Sci.USA88:2869−2873(1991)及びWO90/07861(Protein Design Labs Inc.)では、2つの主要ステップを含む手法について述べている。まず、同系(cognate)マウス抗体のV領域フレームワークに対する至適蛋白質配列相同性のコンピュータ解析により、ヒトVフレームワーク領域が選択される。次に、マウスCDRと相互作用する可能性があるフレームワークアミノ酸残基を可視化するため、コンピュータによってマウスV領域の三次構造がモデル化され、次に、これらのマウスアミノ酸残基が相同性ヒトフレームワークに重ね合わされる。この2ステップ手法下では、ヒト化抗体を設計するための複数の基準がある。第一の基準は、ヒトアクセプターとして、通常、非ヒトドナー免疫グロブリンと相同の特定のヒト免疫グロブリン由来のフレームワークを用いることであり、或いは多くのヒト抗体由来のコンセンサスフレームワークを用いることである。第二の基準は、ヒトアクセプター残基が異常であって、ドナー残基がフレームワークの特定の残基においてヒト配列に典型的である場合、アクセプターアミノ酸よりもドナーアミノ酸を用いることである。第三の基準は、CDRにすぐ隣接する位置において、アクセプターフレームワークアミノ酸残基よりもドナーフレームワークアミノ酸残基を用いることである。
【0093】
例えば、Tempest,Biotechnology 9:266−271(1991)に述べられているような異なる手法を用いてもよい。この手法下では、それぞれNEWM及びREI重鎖・軽鎖由来のV領域フレームワークが、マウス残基の過激な導入なしにCDR移植に用いられる。この手法を用いる利点は、NEWM及びREI可変領域の三次元構造がX線結晶学から既知であり、従って、CDRとV領域フレームワーク残基との具体的な相互作用を容易にモデル化することができることである。
【0094】
VLA−1に結合する完全ヒトモノクローナル抗体は、例えば、Boernerら(1991)J.Immunol.147:86−95に述べられているように、in vitroにて初回抗原刺激を受けたヒト脾細胞を用いて生成することができる。該完全ヒトモノクローナル抗体は、Perssonら(1991)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 88:2432−2436或いはHuang及びStollar(1991)J.Immunol.Methods 141:227−236;また、米国特許第5,798,230号に述べられているようなレパートリークローニングによっても調製されうる。大規模な非免疫ヒトファージ提示ライブラリーを用いて、標準的なファージ技術を用いてヒト治療法として開発されうる高親和性抗体を単離してもよい(例えば、Hoogenboomら(1998)Immunotechnology 4:1−20;Hoogenboomら(2000)Immunol Today 2:371−8;及び米国特許出願2003−0232333を参照)。完全ヒト抗体を生成するための他の方法は、不活性化された内在性Ig遺伝子座を有するとともに、非再配列ヒト抗体重鎖及び軽鎖遺伝子に対してトランスジェニックな非ヒト動物の使用を伴う。そのようなトランスジェニック動物はα1−I又はその所望の抗原性断片で免疫化することができ、次に、これに由来するB細胞からハイブリドーマが作製される。これらの方法は、例えば、ヒトIgミニ遺伝子座を含むトランスジェニックマウスに関するGenPharm/Medarex社(Palo Alto,CA)の様々な出版物/特許(例えば、米国特許第5,789,650号);XENOMICEに関するAbgenix社(Fremont,CA)の様々な出版物/特許(例えば、米国特許第6,075,181号;第6,150,584号及び第6,162,963号;Greenら、Nature Genetics 7:13−21(1994);及びMendezら、15(2):146−56(1997));並びに「トランソミック(transomic)」マウスに関するキリン社(日本)の様々な出版物/特許(例えば、欧州特許第843961号及び富塚(Tomizuka)ら、Nature Genetics 16:133−1443(1997))に述べられている。
【0095】
(抗体及び蛋白質の産生)
本明細書で述べる抗体及び他の蛋白質は原核細胞及び真核細胞において産生されうる。一実施形態では、抗体(例えば、scFv)は、Pichia属(例えば、Powersら(2001)J.Immunol.Methods 251:123−35を参照)、Hanseula属又はSaccharomyces属のような酵母細胞において発現される。
【0096】
抗体、特に完全長抗体、例えば、IgGは、哺乳動物細胞において産生されうる。組換え発現のための例示的な哺乳動物宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)(例えば、Kaufman及びSharp(1982)Mol.Biol.159:601−621に述べられているようなDHFR選択可能マーカーと共に用いられる、Urlaub及びChasin(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216−4220に述べられているdhfr−CHO細胞を含む)、リンパ球細胞株、例えば、NS0骨髄腫細胞及びSP2細胞、COS細胞、K562並びにトランスジェニック動物、例えば、トランスジェニック哺乳動物由来細胞が含まれる。例えば、該細胞は哺乳動物上皮細胞である。
【0097】
免疫グロブリンドメインをコードする核酸配列に加え、組換え発現ベクターは更なる核酸配列、例えば、宿主細胞におけるベクターの複製を調節する配列(例えば、複製起点)及び選択可能マーカー遺伝子を運びうる。選択可能マーカー遺伝子はベクターが導入された宿主細胞の選択を容易にする(例えば、米国特許第4,399,216号;第4,634,665号;及び第5,179,017号を参照)。例示的な選択可能マーカー遺伝子には、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子(メトトレキサート選択/増幅でdhfr宿主細胞に用いる)及びneo遺伝子(G418選択のため)が含まれる。
【0098】
抗体(例えば、完全長抗体又はその抗原結合部)の組換え発現のための例示的な発現系では、抗体重鎖及び抗体軽鎖をコードする組換え発現ベクターが、リン酸カルシウム媒介トランスフェクションによってdhfr−CHO細胞に導入される。該組換え発現ベクター内では、抗体重鎖及び軽鎖遺伝子は各々、高レベルの遺伝子の転写を促進するため、エンハンサー/プロモーター調節要素(例えば、CMVエンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素又はSV40エンハンサー/AdMLPプロモーター調節要素のような、SV40、CMV、アデノウイルスなどに由来する)に機能的に結合している。該組換え発現ベクターはDHFR遺伝子も運び、これは、メトトレキサート選択/増幅を用いて該ベクターをトランスフェクトされたCHO細胞の選択を可能とする。選択された形質転換宿主細胞は抗体重鎖及び軽鎖の発現を可能とするように培養され、培地から無傷の抗体が回収される。標準的な分子生物学法を用いて、組換え発現ベクターを調製し、宿主細胞にトランスフェクトし、形質転換細胞を選択し、宿主細胞を培養し、培地から抗体を回収する。例えば、一部の抗体は、プロテインA又はプロテインGを用いたアフィニティークロマトグラフィーによって分離することができる。
【0099】
抗体は、例えば、Fc受容体又はC1q又はその両方との相互作用を低下させ、或いは排除するため、修飾、例えば、Fc機能を変化させる修飾も含みうる。例えば、ヒトIgG1定常領域は、1つ又はそれ以上の残基、例えば、米国特許第5,648,260号におけるナンバリングに従って、例えば、1つ又はそれ以上の残基234及び237において突然変異させることができる。他の例示的な修飾には、米国特許第5,648,260号に述べられている修飾が含まれる。
【0100】
Fcドメインを含む一部の蛋白質では、抗体/蛋白質生成系は、Fc領域がグリコシル化される抗体又は他の蛋白質を合成するように設計されうる。例えば、IgG分子のFcドメインはCH2ドメインにおけるアスパラギン297においてグリコシル化される。Fcドメインは他の真核細胞性翻訳後修飾も含みうる。他の場合では、蛋白質はグリコシル化されない形態で生成される。
【0101】
抗体はトランスジェニック動物によって生成することもできる。例えば、米国特許第5,849,992号では、トランスジェニック哺乳動物の乳腺に抗体を発現させる方法について述べている。乳汁特異的プロモーター及び対象とする抗体、例えば、本明細書で述べる抗体をコードする核酸配列並びに分泌シグナル配列を含むトランス遺伝子が構築される。そのようなトランスジェニック哺乳動物の雌によって生成される乳汁は、乳汁に分泌される、対象とする蛋白質、例えば、抗体を含む。該蛋白質は乳汁から精製され、或いは一部の用途では直接使用されうる。
【0102】
(他の部分)
本明細書で述べる抗体は所望の機能を果たすため、他の部分を更に含みうる。例えば、抗体は、抗体の標的とされる細胞の殺滅のための毒素部分(例えば、破傷風トキソイド又はリシン)又は放射性核種(例えば、111In又は90Y)を含みうる(例えば、米国特許第6,307,026号を参照)。抗体は簡便な分離又は検出のための部分(例えば、ビオチン、蛍光部分、放射活性部分、ヒスチジン標識など)を含みうる。抗体はその血清中半減期を延長することができる部分、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)部分も含みうる。
【0103】
(ポリペプチドアンタゴニスト)
抗体に加え、本明細書で述べる方法において有用なVLA−1アンタゴニストは、例えば、VLA−1とその生理的リガンド、例えば、コラーゲン、例えば、コラーゲンI,III若しくはIV又はラミニンとの相互作用を遮断することにより、或いはVLA−1依存性細胞シグナル伝達を調節することにより、VLA−1の機能を阻害するポリペプチドを含む。
【0104】
VLA−1アンタゴニストは1つ又はそれ以上の下記の特性を有する薬剤である:(1)VLA−1/VLA−1リガンド相互作用、例えば、VLA−1/コラーゲン相互作用を阻害するのに十分な特異性を有し、VLA−1保有細胞表面上のVLA−1抗原を覆い或いはこれに結合する;(2)VLA−1媒介シグナル、例えば、VLA−1/コラーゲン媒介シグナリングの伝達を変更し、好ましくは阻害するのに十分な特異性を有し、VLA−1保有細胞表面上のVLA−1抗原を覆い或いはこれに結合する;(3)VLA−1/VLA−1リガンド相互作用を阻害するのに十分な特異性を有し、VLA−1リガンド、例えば、コラーゲン(例えば、コラーゲンI,III又はIV)又はラミニンを覆い或いはこれに結合する;(4)VLA−1リガンド媒介VLA−1シグナリング、例えば、コラーゲン媒介VLA−1シグナリングの伝達を変更し、好ましくは阻害するのに十分な特異性を有し、VLA−1リガンド、例えば、コラーゲン(例えば、コラーゲンI,III又はIV)又はラミニンを覆い或いはこれに結合する。好ましい実施形態では、VLA−1アンタゴニストは特性1及び2の一方又は両方を有する。他の好ましい実施形態では、VLA−1アンタゴニストは特性3及び4の一方又は両方を有する。
【0105】
本明細書で述べる方法の目的に照らせば、VLA−1保有細胞表面上のVLA−1抗原に結合することが可能であって、VLA−1抗原を効果的に遮断或いは覆う如何なる薬剤も、本明細書での実施例において用いられるモノクローナル抗体の等価物であるとみなされる。
【0106】
本明細書で論じるように、本明細書で述べる方法において用いられるVLA−1アンタゴニストは、抗体又は抗体誘導体に限定されず、他の分子、例えば、VLA−1に結合する可溶性形態の他の蛋白質、例えば、VLA−1に対する天然結合蛋白質でもよい。これらのアンタゴニストには、コラーゲンI,III若しくはIV;コラーゲンI,III若しくはIVのVLA−1結合ペプチド;ラミニン;及びラミニンのVLA−1結合ペプチドが含まれる(例えば、Pfaffら、Eur.J.Biochem.225:975−84,1994;Colognato−Pykeら、J.Biol.Chem.270:9398−9406,1995;及びColognatoら、J.Biol.Chem.272:29330−29336,1997を参照)。例えば、コラーゲンI,III又はIVのVLA−1結合ペプチドは、アミノ酸配列GFOGER(例えば、Knightら、J.Biol.Chem.275:35−40,2000を参照)、GROGER(例えば、Kimら、J.Biol.Chem.280:32512−32520,2005を参照)又は類似の保存的置換アミノ酸配列を含みうる。他のアンタゴニストには、VLA−1ペプチド、例えば、アミノ酸配列VQRGGR又は類似の保存的置換アミノ酸配列を含むペプチド並びにペプチド模倣剤、例えば、WO01/96365;米国特許第6,326,403号及び第6,001,961号に述べられているペプチド模倣剤が含まれる。これらのアンタゴニストは、VLA−1に対する細胞表面結合蛋白質と競合することにより、或いはVLA−1機能を変化させることにより、作用しうる。
【0107】
(小分子アンタゴニスト)
抗体に加え、本明細書で述べる方法において有用なVLA−1アンタゴニストは、例えば、VLA−1とその生理的リガンド、例えば、コラーゲンとの相互作用を遮断することにより、或いはVLA−1依存性細胞シグナル伝達を調節することにより、VLA−1の機能を阻害する任意の非抗体化合物を含む。これらの化合物の例は、小分子化合物、例えば、Weitz−Schmidtら、Nat.Med.7:687−692,2001)に述べられている小分子化合物である。これらの化合物は、例えば、コンビナトリアル小分子ライブラリー、コンビナトリアル抗体ライブラリー、合理的薬剤設計及び従来の有機合成、引き続いての、当該技術分野において公知の任意の方法を用いた拮抗作用に対するスクリーニングを用いて特定することができる。
【0108】
一例では、組換え発現されたVLA−1又はその機能的断片を用いて、天然、半合成又は合成化合物のライブラリーをスクリーニングすることができる。特に有用なタイプのライブラリーには、コンビナトリアル小有機分子ライブラリー、ファージ提示ライブラリー及びコンビナトリアルペプチドライブラリーが含まれる。
【0109】
ライブラリーの構成要素が特定のポリペプチドに結合するかを判定する方法は、当該技術分野において公知である。一般的に、ポリペプチド標的物質は非特異的或いは特異的結合により、固体支持体表面に結合される。特異的結合は、プレート又はカラムのような固体支持体に結合される蛋白質を認識する抗体を用いてなされうる。或いは、特異的結合は、エピトープタグを介し、グルタチオン被覆固体支持体へのGST結合又はプロテインA固体支持体へのIgG融合蛋白質結合のようになされうる。
【0110】
或いは、組換え発現VLA−1又はその部分は、M13のようなファージの表面上に発現されうる。移動相におけるライブラリーは、標的と化合物との特異的結合を促進する条件下でインキュベートされる。次に、標的に結合する化合物が特定されうる。或いは、ライブラリーは固体支持体に結合され、ポリペプチド標的物質は移動相にある。
【0111】
化合物とVLA−1標的物質との結合は多くの方法によって判定されうる。競合ELISA又はRIAのような技法によって結合を特定することができ、例えば、化合物の標的への結合が抗体の同一標的への結合を低減する。これらの方法は当該技術分野において公知である。別の方法は、製造業者が提供する方法を用いて標的と化合物との相互作用を測定するため、BiaCOREを用いることである。好ましい方法は自動化ハイスループットスクリーニングであり、例えば、Burbaumら、Curr OpinChem Biol.1:72−8(1997)及びSchullekら、Anal Biochem.246:20−9(1997)を参照されたい。
【0112】
標的に結合する候補化合物が特定されると、該化合物が標的の活性を阻害するかを判定することができる。例えば、候補化合物は、コラーゲンIVに対するK562−α1依存性接着を阻害する能力をスクリーニングするのに用いることができる。例えば、米国特許出願60/303,689及びWO02/083854を参照されたい。別例では、候補化合物は、(1)VLA−1発現細胞又は(2)α1β1インテグリン含有分子若しくはその断片、例えば、α1−Iドメインへの抗VLA−1抗体の結合で競合するのに用いられる。VLA−1アンタゴニストを特定する別の方法は、合理的な薬剤設計のため、組換え発現VLA−1の構造を用いることである。例えば、WO01/73444を参照されたい。
【0113】
(核酸アンタゴニスト)
一部の実施形態では、VLA−1をコードする内在性遺伝子の発現を低減するのに核酸アンタゴニストが用いられる。一実施形態では、該核酸アンタゴニストはVLA−1をコードするmRNAを標的とするsiRNAである。他のタイプのブロッキング核酸、例えば、dsRNA、リボザイム、三重らせん形成物質、アプタマー又はアンチセンス核酸も用いることができる。
【0114】
siRNAは、オーバーハングを任意に含む小型2本鎖RNA(dsRNA)である。例えば、siRNAの2本鎖領域は約18〜25ヌクレオチド長、例えば、約19,20,21,22,23又は24ヌクレオチド長である。通常、siRNA配列は標的mRNAに正確に相補的である。dsRNA、特にsiRNAを用いて哺乳動物細胞(例えば、ヒト細胞)における遺伝子発現をサイレンシングすることができる。例えば、Clemensら(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:6499−6503;Billyら(2001)Proc.Natl.Sci.USA 98:14428−14433;Elbashirら(2001)Nature.411:494−8;Yangら(2002)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 99:9942−9947、米国特許出願20030166282,20030143204,20040038278及び20030224432を参照されたい。
【0115】
アンチセンス剤は、例えば、約8〜約80核酸塩基(即ち、約8〜約80ヌクレオチド)、例えば、約8〜約50核酸塩基又は約12〜約30核酸塩基を含みうる。アンチセンス化合物は、リボザイム、外部ガイド配列(EGS)オリゴヌクレオチド(オリゴザイム)及び標的核酸にハイブリダイズし、その発現を調節する他の短い触媒RNA若しくは触媒オリゴヌクレオチドを含む。アンチセンス化合物は、標的遺伝子における配列に相補的な、少なくとも8個の一続きの連続核酸塩基を含みうる。オリゴヌクレオチドは特異的にハイブリダイズできるために、その標的核酸配列に100%相補的である必要はない。オリゴヌクレオチドの標的への結合が標的分子の正常な機能に干渉し、有用性の喪失を生じさせる場合、オリゴヌクレオチドは特異的にハイブリダイズでき、特異的結合が所望される条件下、即ち、in vivoアッセイ又は治療処置の場合の生理的条件下、或いはin vitroアッセイの場合、該アッセイが行われる条件下で、オリゴヌクレオチドの非標的配列への非特異的結合を避けるのに十分な程度の相補性がある。
【0116】
アンチセンスオリゴヌクレオチドのmRNA(例えば、VLA−1をコードするmRNA)とのハイブリダイゼーションは、mRNAの1つ又はそれ以上の正常な機能に干渉しうる。干渉されるmRNAの機能には、あらゆる主要な機能、例えば、蛋白質翻訳部位へのRNAの転位、RNAからの蛋白質の翻訳、1つ若しくはそれ以上のmRNA種を生じさせるRNAのスプライシング及びRNAによって関与されうる触媒活性が含まれる。特定の蛋白質のRNAへの結合も、アンチセンスオリゴヌクレオチドのRNAへのハイブリダイゼーションによって干渉されうる。
【0117】
例示的なアンチセンス化合物には、標的核酸、例えば、VLA−1をコードするmRNAと特異的にハイブリダイズするDNA又はRNA配列が含まれる。相補領域は約8〜約80核酸塩基長にて延びうる。該化合物は1つ又はそれ以上の修飾核酸塩基を含みうる。修飾核酸塩基には、例えば、5−ヨードウラシル、5−ヨードシトシンのような5−置換ピリミジン並びにC5−プロピニルシトシン及びC5−プロピニルウラシルのようなC5−プロピニルピリミジンが含まれうる。他の好適な修飾核酸塩基には、N−−(C−C12)アルキルアミノシトシン及びN,N-−(C−C12)ジアルキルアミノ
シトシンが含まれる。修飾核酸塩基には、7−置換−8−アザ−7−デアザプリン及び7−置換−7−デアザプリン、例えば、7−ヨード−7−デアザプリン、7−シアノ−7−デアザプリン、7−アミノカルボニル−7−デアザプリンも含まれうる。これらの例には、6−アミノ−7−ヨード−7−デアザプリン、6−アミノ−7−シアノ−7−デアザプリン、6−アミノ−7−アミノカルボニル−7−デアザプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシ−7−ヨード−7−デアザプリン、2−アミノ−6−ヒドロキシ−7−シアノ−7−デアザプリン及び2−アミノ−6−ヒドロキシ−7−アミノカルボニル−7−デアザプリンが含まれる。更に、N−メチルアミノアデニン及びN,N−ジメチルアミノアデニンを含む、N−−(C−C12)アルキルアミノプリン及びN,N−−(C
−C12)ジアルキルアミノプリンも好適な修飾核酸塩基である。同様に、例えば、6−チオグアニンを含む、他の6−置換プリンも適切な修飾核酸塩基を構成しうる。他の好適な核酸塩基には、2−チオウラシル、8−ブロモアデニン、8−ブロモグアニン、2−フルオロアデニン及び2−フルオログアニンが含まれる。いずれもの前記修飾核酸塩基の誘導体も適切である。いずれもの前述の化合物の置換基には、C−C30アルキル、C−C30アルケニル、C−C30アルキニル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、ハロ、アミノ、アミド、ニトロ、チオ、スルホニル、カルボキシル、アルコキシ、アルキルカルボニル、アルコキシカルボニルなどが含まれる。
【0118】
他のタイプの核酸剤についての記述も利用できる。例えば、米国特許第4,987,071号;第5,116,742号;及び第5,093,246号;Woolfら(1992)Proc Natl Acad Sci USA;Antisense RNA and DNA,D.A.Melton(編)、Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1988);89:7305−9;Haselhoff及びGerlach(1988)Nature 334:585−59;Helene,C.(1991)Anticancer Drug Des.6:569−84;Helene(1992)Ann.N.Y.Acad.Sci.660:27−36;並びにMaher(1992)Bioassays 14:807−15を参照されたい。
【0119】
本明細書で述べる核酸、例えば、本明細書で述べるアンチセンス核酸は、核酸を送達する遺伝子治療プロトコルの一部として用いられる遺伝子構築体に組み込むことができ、これは、作用物質、例えば、アンチセンス核酸を細胞内に発現・産生させるのに用いることができる。そのような構成要素の発現構築体は、任意の生物学的に有効な担体、例えば、in vivoにて該構成要素遺伝子を細胞に効果的に送達することができる任意の製剤又は組成物にて投与されうる。その手法には、組換えレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス及び単純ヘルペスウイルス1型を含むウイルスベクター或いは組換え細菌又は真核生物プラスミドへの対象遺伝子の挿入が含まれる。ウイルスベクターは細胞に直接トランスフェクションする;プラスミドDNAは、例えば、カチオン性リポソーム(リポフェクチン)或いは誘導体化(例えば、抗体結合)、ポリリシン共役体、グラマシジンS、人工ウイルスエンベロープ又は他のそのような細胞内担体の補助により、更に、遺伝子構築体の直接注入又はin vivoにて行われるCaPO沈降により、送達されうる。
【0120】
細胞内への核酸のin vivo導入に好ましい手法は、核酸、例えば、cDNAを含むウイルスベクターの使用によるものである。ウイルスベクターによる細胞の感染は、標的細胞の大部分が核酸を受け取ることができるという利点を有する。加えて、ウイルスベクター内にて、例えば、ウイルスベクターに含まれるcDNAによってコードされた分子は、ウイルスベクターの核酸を取り込んだ細胞内で効率的に発現される。
【0121】
レトロウイルスベクター及びアデノ随伴ウイルスベクターは、in vivoでの外来遺伝子の、特にヒトへの送達のための組換え遺伝子送達系として用いることができる。これらのベクターは細胞への遺伝子の効率的な送達を与え、送達される核酸は宿主の染色体DNA内に安定して組み込まれる。組換えレトロウイルスを生成し、また、そのようなウイルスによってin vitro又はin vivoにて細胞を感染させるプロトコルは、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,F.M.ら(編)Greene Publishing Associates,(1989),セクション9.10−9.14及び他の標準的な実験室マニュアルに見出すことができる。好適なレトロウイルス例には、当業者には周知のpLJ,pZIP,pWE及びpEMが含まれる。エコトロピック及びアンホトロピックレトロウイルス系を調製するための好適なパッケージングウイルス株例には、ΨCrip,ΨCre,Ψ2及びΨAmが含まれる。レトロウイルスは、in vitro及び/又はin vivoにて上皮細胞を含む多くの異なる細胞型に種々の遺伝子を導入するのに用いられている(例えば、Eglitisら(1985)Science 230:1395−1398;Danos及びMulligan(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:6460−6464;Wilsonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3014−3018;Armentanoら(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:6141−6145;Huberら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8039−8043;Ferryら(1991)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8377−8381;Chowdhuryら(1991)Science
254:1802−1805;van Beusechemら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:7640−7644;Kayら(1992)Human Gene Therapy 3:641−647;Daiら(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:10892−10895;Hwuら(1993)J.Immunol.150:4104−4115;米国特許第4,868,116号及び第4,980,286号;PCT出願WO89/07136;PCT出願WO89/02468;PCT出願WO89/05345;及びPCT出願WO92/07573を参照)。
【0122】
別のウイルス遺伝子送達系では、アデノウイルス由来ベクターを用いる。例えば、Berknerら(1988)BioTechniques 6:616;Rosenfeldら(1991)Science 252:431−434;及びRosenfeldら(1992)Cell 68:143−155を参照されたい。アデノウイルス株Ad5型dl324又は他のアデノウイルス株(例えば、Ad2,Ad3,Ad7など)由来の好適なアデノウイルスベクターは当業者には公知である。
【0123】
対象遺伝子の送達に有用な更に別のウイルスベクター系はアデノ随伴ウイルス(AAV)である。例えば、Flotteら(1992)Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.7:349−356;Samulskiら(1989)J.Virol.63:3822−3828;及びMcLaughlinら(1989)J.Virol.62:1963−1973を参照されたい。
【0124】
(アプタマー)
アプタマーは、細胞表面蛋白質を含むほぼすべての分子を認識し、これに特異的に結合するのに用いることができる短いオリゴヌクレオチド配列である。指数的濃縮によるリガンドの系統的進化(SELEX)プロセスは強力であり、そのようなアプタマーを容易に特定するのに用いることができる。アプタマーは、治療及び診断に重要な広範な蛋白質、例えば、増殖因子及び細胞表面抗原のために作製されうる。これらのオリゴヌクレオチドは抗体と同様な親和性及び特異性によってその標的に結合する(Ulrich(2006)Handb Exp Pharmacol.173:305−26を参照)。Macugen(登録商標)は承認されたアプタマー治療法であり、一般的な眼球障害に対して承認された初の抗抗原性剤でもある。
【0125】
(人工転写因子)
VLA−1の発現を調節するために人工転写因子を用いることもできる。人工転写因子は、VLA−1をコードする内在性遺伝子における配列、例えば、調節領域にて、例えば、プロモーターに結合する能力のために、設計或いはライブラリーから選択することができる。例えば、人工転写因子は、in vitro(例えば、ファージ提示を用いる、米国特許第6,534,261号)又はin vivoでの選択により、或いは認識コードに基づく設計により(例えば、WO00/42219及び米国特許第6,511,808号を参照)、調製することができる。特に、多様なジンクフィンガードメインのライブラリーを作製する方法については、例えば、Rebarら(1996)Methods Enzymol 267:129;Greisman及びPabo(1997)Science 275:657;Isalanら(2001)Nat.Biotechnol 19:656;並びにWuら(1995)Proc.Natl.Acad.Sci. USA 92:344を参照されたい。
【0126】
任意に、人工転写因子は、転写調節ドメイン、例えば、転写を活性化する活性ドメイン又は転写を抑制する抑制ドメインに融合させることができる。特に、抑制ドメインはVLA−1をコードする内在性遺伝子の発現を低減するのに用いることができる。人工転写因子自体が細胞に送達される異種核酸にコードされ得、或いは蛋白質自体が細胞に送達されうる(例えば、米国特許第6,534,261号を参照)。人工転写因子をコードする配列を含む異種核酸は、例えば、脳卒中損傷又は本明細書で述べる別の損傷の部位若しくはその近傍にて、細胞、例えば、神経細胞又はグリア細胞における人工転写因子の濃度の微調整を可能とするため、誘導プロモーターに機能的に結合されうる。
【0127】
(虚血損傷)
虚血とは組織への血液供給の低下又は消失をいう。本明細書で述べる方法は虚血と関連する損傷、即ち、「虚血損傷」を処置するのに用いることができる。虚血損傷は、例えば、腎臓、肝臓、肺、膵臓、骨格筋、腸、心臓及び脳に対する損傷を含みうる。虚血損傷は、例えば、急性心筋梗塞、選択的血管形成術、冠状動脈バイパス移植、心臓バイパス又は組織若しくは臓器移植を伴う手術(例えば、心臓移植)、移植後の組織拒絶反応、移植片対宿主病、脳卒中、頭部外傷、溺水、敗血症、心停止、ショック、アテローム性動脈硬化、高血圧、コカイン誘発性心疾患、喫煙誘発性心疾患、心不全、肺高血圧、出血、毛細血管漏出症候群(例えば、小児及び成人呼吸窮迫症候群)、多臓器系不全、低膠質浸透圧状態(例えば、飢餓、神経性無食欲症又は血清蛋白質の産生低下を伴う肝不全)、アナフィラキシー、低体温、寒冷傷害(例えば、低体温灌流又は凍傷に起因する)肝腎症候群、振戦譫妄、挫滅外傷、腸間膜不全、末梢血管障害、跛行、熱傷、感電、過剰薬剤誘発性血管拡張、過剰薬剤誘発性血管収縮、放射線暴露(例えば、蛍光透視又は放射線画像検査時)或いは高エネルギーへの暴露、例えば、レーザー光への暴露と関連し、或いはそれらによって引き起こされうる。過剰薬剤誘発性血管拡張は、例えば、ニトロプルシド、ヒドララゾン(hydralazone)、ジアゾキサイド(dyazoxide)、カルシウムチャンネル遮断薬又は全身麻酔薬によって引き起こされうる。過剰薬剤誘発性血管収縮は、例えば、ネオシネフリン、イソプロテレノール、ドーパミン、ドブタミン又はコカインによって引き起こされうる。
【0128】
(虚血再灌流損傷)
「虚血再灌流損傷」とは、一時的な血流停止後、身体領域への血流の再構築(再灌流)から生じる損傷をいう。例えば、虚血再灌流損傷は、大動脈瘤の修復及び臓器移植のような一部の外科的処置時に生じうる。臨床的に、虚血再灌流損傷は、合併症、例えば、成人呼吸窮迫症候群を含む肺機能障害、腎機能障害、血小板減少症、微小血管内へのフィブリン沈着及び播種性血管内凝固障害を含む消費性凝固障害、一過性及び持続性脊髄損傷、不整脈及び急性虚血性事象、急性肝細胞障害及び壊死を含む肝機能障害、出血及び/又は梗塞を含む消化管機能障害並びに多臓器不全(MSOD)或いは急性全身性炎症痛症候群(acute systemic inflammatory distress syndromes)(SIRS)により明らかとなりうる。該損傷は、血液供給が遮断された身体部において生じ得、或いは虚血期中に血液を十分に供給されている体部において生じうる。
【0129】
(脳卒中)
脳卒中は血管の疾患又は損傷から生じる急性脳損傷に対する一般的用語である。脳卒中は少なくとも2つの主要カテゴリー:出血性脳卒中(正常血管の外部への血液の漏出から生じる)及び虚血性脳卒中(血液供給不足による脳虚血)に分類することができる。虚血性脳卒中を引き起こしうる一部の事象には、血栓、塞栓及び全身性低循環(結果的に虚血及び低酸素を伴う)が含まれる。
【0130】
一般的に、脳卒中は酸素欠乏及び二次事象による脳内の神経細胞の死及び損傷を引き起こす。血液供給不足又は他の損傷の結果として死滅する脳領域は梗塞と称される。場合により、本明細書で述べる処置を用いて、例えば、神経細胞の死及び損傷を引き起こす二次事象を低減することにより、梗塞サイズを縮小させ、或いは最小化することができる。
【0131】
通常、脳動脈壁に蓄積した血栓から生じる大脳動脈の閉塞は脳血栓と称される。脳塞栓では、大脳動脈をブロックする閉塞性物質が循環の下流に生じる(例えば、塞栓子は心臓から大脳動脈に運搬される)。脳卒中が血栓又は塞栓のいずれによって引き起こされるかを識別することは困難であるため、血栓塞栓症という用語がこれらの両タイプの脳卒中を網羅するのに用いられる。全身性低循環は、血液濃度の低下、ヘマトクリット値の低下、低血圧又は血液を適切に送り込む心臓の能力低下の結果として生じうる。
【0132】
血栓塞栓性脳卒中の処置には組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)のような血栓溶解薬が用いられている。これらの分子は、虚血の原因となる血栓を溶解させることによって機能する。そのような薬剤は、虚血部位における大脳血流を少なくとも部分的に回復させ、且つ神経細胞生存能を維持するため、急性脳卒中後、可能な限り速やかに(好ましくは、3時間以内に)投与される場合、最も有用であると考えられている。血栓塞栓性脳卒中を起こした被験体において治療上の利益を得るため、そのような血栓溶解薬の代替として、或いは血栓溶解薬と組み合わせてVLA−1アンタゴニストを用いることができる。
【0133】
血栓溶解薬は出血を増悪させるため、出血性脳卒中におけるその使用は禁忌である。しかし、出血性脳卒中の場合において治療上の利益を付与するのにVLA−1アンタゴニストを用いることができる。
【0134】
更に、VLA−1アンタゴニストは予防的脳卒中治療として、或いはその構成要素として、例えば、TIAを起こし、或いはTIAの症状を示している被験体に投与することができる。脳卒中の症状が24時間未満持続し、被験体が完全に回復する場合、被験体は一過性虚血発作(TIA)を起こしたといわれる。TIAの症状には、発話、視覚、感覚又は動作の一時的な障害が含まれる。TIAは本格的な脳卒中の前兆であると考えられることが多く、TIAを起こした被験体は、例えば、VLA−1アンタゴニスト単独による、或いは別の薬剤、例えば、抗凝固剤(例えば、クマリン及びヘパリン)又は抗血小板薬(例えば、アスピリン及びチクロピジン)を併用した予防的脳卒中治療の適応となる。
【0135】
(他の脳卒中処置)
脳卒中処置は、1つ又はそれ以上の脳卒中処置と組み合わせて用いることができる、1つ又はそれ以上のVLA−1アンタゴニストの使用を伴いうる。該処置は同時に施行することができるが、別個の時間に、例えば、所定の間隔内の別個の時間に、例えば、同じ48,24,12,6,2又は1時間以内に施行することもできる。更に、該処置は明確な投与様式を用いて施行することができる。
【0136】
VLA−1アンタゴニストを併用して施行することができる処置には、血栓溶解薬(例えば、ストレプトキナーゼ、アシル化プラスミノーゲン・ストレプトキナーゼ活性化因子
複合体(ASPAC)、ウロキナーゼ、1本鎖ウロキナーゼ・プラスミノーゲン活性化因子(scu−PA)、抗炎症剤、蛇毒由来トロンビン様酵素、例えば、アンクロド、トロンビン阻害剤、組織プラスミノーゲン活性化因子(t−PA)及び上記各々の生物活性変異体);抗凝固剤(例えば、ワルファリン又はヘパリン);抗血小板薬(例えば、アスピリン);糖蛋白質IIb/IIIa阻害剤;グリコサミノグリカン;クマリン;GCSF;メラトニン;カスパーゼ阻害剤;抗酸化剤(例えば、NXY−059、Leesら(2006)N.Engl.J.Med 354,588−600を参照)、神経保護剤(例えば、NMDA受容体拮抗薬及びカンナビノイド拮抗薬)、抗CD18抗体;抗CD11a抗体;抗ICAM−1抗体;抗VLA−4抗体、抗TWEAK抗体、抗TWEAK−R抗体、頸動脈内膜剥離術;血管形成術;ステントの挿入;並びに代替医療(例えば、鍼治療、漢方、瞑想、マッサージ、高圧酸素治療又は教育学的治療法(conductive
pedagogy))が含まれる。
【0137】
併用処置の特定例には、脳卒中症状の発症直後に脳卒中を起こした被験体にVLA−1アンタゴニストを投与すると同時に、別の処置として、例えば、t−PAを投与することを含む。翌日、被験体は、更に、以後の脳卒中を防ぐため、抗血小板薬による毎日の処置を開始し、その後、VLA−1アンタゴニストの生物学的利用能を維持するため、追加用量のVLA−1アンタゴニストを服用しうる。別例として、TIAを起こした被験体は、TIAの診断直後に、少なくとも1週間、生物学的効果を付与する用量にてVLA−1アンタゴニスト処置を開始し、次に、翌日、抗血小板治療を開始しうる。
【0138】
(脳卒中のリスク因子)
脳卒中のリスク因子を用いて、予防的用量のVLA−1アンタゴニストを付与されうる被験体又はVLA−1アンタゴニストによる処置が必要とされる更なる兆候をモニタリングすべき被験体を特定することができる。場合により、被験体は、2,3若しくは4つ又はそれ以上のリスク因子、例えば、下記一覧の因子を有する場合、処置される。
【0139】
高血圧:高血圧(140/90mmHg又はそれ以上)は極めて有意な脳卒中のリスク因子である。
【0140】
喫煙:喫煙は主要な予防可能な脳卒中のリスク因子である。たばこの煙中のニコチン及び一酸化炭素は血中酸素量を減少させる。これらは血管壁も損傷させ、凝塊をより形成しやすくさせる。喫煙と共に一部の種類の経口避妊薬を用いると、脳卒中リスクが大幅に上昇する。
【0141】
糖尿病:糖尿病は2回測定された126mg/dL以上の空腹時血漿グルコース(血糖)と定義づけられる。糖尿病は治療可能であるが、糖尿病を有することは依然として脳卒中リスクを高める。糖尿病を有する多くの被験体は、高血圧、高血中コレステロールも有し、過体重である。これらの追加因子は脳卒中リスクを更に高める。
【0142】
頸動脈又は他の動脈疾患:頸部における頸動脈は血液を脳に供給する。アテローム性動脈硬化由来の脂肪性沈着物(動脈壁におけるプラークの蓄積)によって狭窄した頸動脈は、凝血塊によって遮断されうる。頸動脈疾患は頸動脈狭窄とも称される。
【0143】
末梢血管疾患:末梢血管疾患を有する被験体は頸動脈疾患のリスクが高く、これは脳卒中リスクを高める。末梢血管疾患は脚及び腕の筋肉へ血液を供給する血管の狭窄である。これは動脈壁における脂肪性沈着物のプラークによって生じる。
【0144】
心房細動は脳卒中リスクを高める。心臓の上方室が規則的に拍動するのではなく振動し、これは血液を貯留・凝固させうる。凝血塊が剥離し、血流に入り込み、脳に至る動脈に詰まると、脳卒中となる。
【0145】
他の心疾患:冠状動脈性心疾患又は心不全を有する被験体は、正常に働く心臓を有する被験体より高い脳卒中リスクを有する。拡張型心筋症(肥大した心臓)、心臓弁膜症及び一部のタイプの先天性心臓欠陥も脳卒中リスクを高める。
【0146】
一過性虚血発作(TIA):TIAは、脳卒中様症状を生じさせるが、持続的な損傷を生じさせない「警告脳卒中」である。TIAを認識・処置することにより、重症脳卒中のリスクを低減することができる。
【0147】
一部の血液障害:赤血球数の増加は血液を増粘させ、凝血塊を生じさせる可能性を高める。これは脳卒中リスクを高める。鎌状赤血球病(鎌状赤血球貧血とも称される)は、主にアフリカ系アメリカ人に影響を及ぼす遺伝性疾患である。「鎌状」赤血球は、身体の組織及び臓器へ酸素を運搬する能力が低下し、血管に粘着する傾向があり、これにより、脳への動脈が遮断され、脳卒中が引き起こされうる。
【0148】
高血中コレステロール:高濃度の血中総コレステロール(240mg/dL以上)は心疾患の主要なリスク因子であり、これは脳卒中リスクを高める。高濃度のLDLコレステロール(100mg/dL超)及びトリグリセリド(血中脂質、150mg/dL以上)は、冠状動脈性心臓病、虚血性脳卒中又は一過性虚血発作(TIA)の既往を有する被験体において脳卒中リスクを高める。低濃度(40mg/dL未満)のHDLコレステロールも脳卒中リスクを高めうる。
【0149】
運動不足及び肥満:非活動性、肥満又はその両方の状態は、高血圧、高血中コレステロール、糖尿病、心疾患及び脳卒中のリスクを高めうる。
【0150】
過度の薬物乱用:過量のアルコールの飲酒及び静注薬物使用も脳卒中リスクを高めうる。
【0151】
加齢:小児を含むあらゆる年齢層の被験体が脳卒中を有するが、被験体が老齢であるほど脳卒中リスクが高まる。例えば、55,60,70,80又は85歳以上でリスクは一層高くなりうる。
【0152】
性別(ジェンダー):脳卒中は女性よりも男性において一般的である。ほとんどの年齢層において、任意の年において女性より多くの男性が脳卒中を有する。しかし、女性は全脳卒中死の半数以上を占める。妊娠女性はより高い脳卒中リスクを有する。
【0153】
遺伝(家族歴):親、祖父母、姉妹又は兄弟が脳卒中を有したことがある場合、脳卒中リスクは高くなる。同様に、ある種の民族的背景は脳卒中リスクの上昇をもたらしうる。
【0154】
脳卒中又は心臓発作の既往:脳卒中又は心臓発作を有したことがある被験体は、その後、脳卒中を有するリスクがはるかに高くなる。
【0155】
(脳卒中評価基準)
脳卒中を有し、或いは脳卒中のリスクがある被験体を処置するVLA−1アンタゴニストの能力は、例えば、様々な基準を用いて主観的又は客観的に評価することができる。多くの評価ツールが評価することに利用できる。
【0156】
例示的な入院前脳卒中評価ツールには、シンシナチ脳卒中スケール(Cincinnati Stroke Scale)及びロサンゼルス入院前脳卒中スクリーン(Los Angeles Prehospital Stroke Screen)(LAPSS)が含まれる。急性期評価スケールには、例えば、カナダ神経学的スケール(Canadian Neurological Scale)(CNS)、グラスゴー・コーマ・スケール(GCS)、半球脳卒中スケール(Hempispheric Stroke Scale)、Hunt及びHessスケール、Mathew脳卒中スケール、ミニメンタルステート検査(MMSE)、NIH脳卒中スケール(NIHSS)、Orgogozo脳卒中スケール、オックスフォードシャー地域脳卒中プロジェクト分類(Oxfordshire Community Stroke Project Classification)(Bamford)並びにスカンジナビア脳卒中スケールが含まれる。機能的評価スケールには、ベルグ・バランススケール(Berg Balance Scale)、修正ランキンスケール(Modified Rankin Scale)、脳卒中影響スケール(Stroke Impact Scale)(SIS)及び脳卒中特有生活の質評価(Stroke Specific Quality of Life Measure)(SS−QOL)が含まれる。アウトカム評価ツールには、米国心臓協会脳卒中アウトカム分類(American Heart Association Stroke Outcome Classification)(AHA SOC)、バーセル指数、機能的自立度評価法(Functional Independence Measurement)(FIM(商標))、グラスゴー・アウトカム・スケール(Glasgow Outcome Scale)(GOS)並びに健康調査(Health Survey)SF−36(商標)及びSF−12(商標)が含まれる。他の診断及びスクリーニング検査には、アクションリサーチ・アームテスト(Action Research Arm Test)、素晴らしき認知症スケール(Blessed−Dementia Scale)、素晴らしき認知症情報・記憶・集中力検査(Blessed−Dementia Information−Memory−Concentration Test)、血管性認知症の診断のためのDSM−IV基準、Hachinski虚血スケール、ハミルトンうつ病評価尺度(Hamilton Rating Scale for Depression)、血管性認知症の診断のためのNINDS−AIREN基準、Orpington予後スコア、見当識・記憶・集中力小検査(Short Orientation−Memory−Concentration Test)、心筋梗塞における血栓(Thrombosis In Myocardial Infarction)グレード評価スキーム、MRI画像検査(例えば、拡散・灌流画像法(Henningerら、Stroke 37:1283−1287,2006)、拡散強調(DWI)MRI法及びフロー感知画像(flow−sensitive imaging)、例えば、水抑制反転回復(fluid−attenuated inversion recovery)(FLAIR))、機能及び分光画像(Koroshetz,Ann.Neurol.39:283−284,1996)並びにPET(Heissら、Cerebrovasc.Brain Metab.Rev.5:235−263,1993)などが含まれる。
【0157】
評価はVLA−1アンタゴニストの投与前及び/又は投与後に行うことができる。
【0158】
(外傷性脳損傷)
本明細書で述べるVLA−1アンタゴニストは外傷性脳損傷を処置するのに用いることができる。物理的力による脳に対する損傷は外傷性脳損傷(TBI)と広義に称される。TBIの結果としての作用は、脳の構造及び/又は機能の変化に起因する、正常な脳プロセスの変化を引き起こす。脳損傷には開放性頭部損傷と閉鎖性頭部損傷の2つの基本的なタイプがある。開放性頭部損傷では、弾丸のような物体が頭蓋骨を貫通し、脳組織を損傷させる。通常、閉鎖性頭部損傷は、脳が前後に煽られ、頭蓋骨の内側に跳ね返る間の頭部の急激な動きによって引き起こされる。閉鎖性頭部損傷はこの2つ中で最も一般的であり、自動車又は転落に関わる事故から生じることが多い。閉鎖性頭部損傷では、蛮力又は強力な振動が脳を損傷させる。この急激な動きの圧迫は神経線維又は軸索を引き裂いて引き伸ばし、脳の異なる部分の間の結合を破壊する。ほとんどの場合、結果として生じる凝血塊又は血腫が脳又はその周囲を押し付け、頭部内圧を上昇させる。開放性及び閉鎖性頭部損傷は脳に重度の損傷を引き起こし、早急な治療を必要とすることになりうる。
【0159】
頭部を打ちつける力のタイプにより、以下のような様々な損傷:頭蓋骨内の脳の震動、震盪、頭蓋骨骨折、挫傷、硬膜下血腫又はびまん性軸索損傷が生じうる。各被験体の体験は異なるが、多くの被験体がTBIに関して直面する共通の支障がある。報告されている可能性には、集中困難、無効な問題解決、短期・長期記憶障害及び運動若しくは感覚能力の低下が含まれ、摂食、着衣又は入浴のような日常生活技能を自立して行うことができなくなるほどである。最も広範に受け入れられている脳損傷の概念では、プロセスを一次性及び二次性事象に分ける。一次性脳損傷は衝撃時にある程度完結したものとみなされるが、二次損傷は外傷後数時間から数日にわたって進展する。
【0160】
一次性損傷は、交通事故のような救急事態又は一時的な意識喪失若しくは頭蓋骨骨折を引き起こす如何なることとも一般的に関連する損傷である。挫傷又は打撲傷様損傷は特定の衝撃位置下に生じることが多い。閉鎖性頭部損傷後の頭蓋骨内の脳の転位及び回旋は、長く結合している脳の神経線維又は軸索への剪断損傷をもたらし、これはびまん性軸索損傷と称される。裂傷は、脳が頭蓋骨内隆起に跨って回旋することによって引き起こされる、前頭葉・側頭葉又は血管の断裂と定義づけられる。血腫又は凝血塊は小血管が損傷によって破裂する際に生じる。これらは、頭蓋骨と脳の間(硬膜外又は硬膜下血腫)或いは脳実質自体の内部(脳内血腫)に生じうる。いずれの場合でも、十分に大きい場合、これらは脳を圧迫或いは転位させ、脳幹内の敏感な構造を損傷させる。また、これらは頭蓋骨内圧を上昇させ、最終的に脳への血液供給を遮断しうる。
【0161】
細胞レベルでの続発性二次性損傷は、脳損傷後に生じる最終的な組織喪失の主要原因と認識されるようになった。損傷組織では一連の生理、血管及び生化学事象が発動する。このプロセスは多数の系に関与し、神経ペプチド、カルシウム及びマグネシウムのような電解質、興奮性アミノ酸、プロスタグラジン(prostagladins)及びロイコトリエンのようなアラキドン酸代謝産物並びに酸素フリーラジカル形成の変化の可能性を含む。この二次性組織損傷が、脳損傷を有する被験体が被りうる大部分の長期重度有害作用の根底にある。この損傷を最小限にする処置は、正常若しくは正常に近い状態への回復又は恒久的障害の相違となりうる。
【0162】
広範な血管損傷は脳損傷の主要構成要素として益々関わるようになっている。血管反応は二相性であるように思われる。外傷の重症度により、初期変化には、血圧の初期上昇、脳血管の自動調節の初期喪失及び血液脳関門(BBB)の一時的機能停止が含まれる。血管の変化は損傷後約6時間にて最大となるが、6日間も持続しうる。これらの血管の変化の臨床的意義は未だ不明であるが、特に若年被験体において認められることが多い遅発性脳腫脹に関連しうる。
【0163】
同様に、脳挫傷が脳壊死を生じさせるプロセスは複雑であり、また、数時間にわたって持続する。毒性プロセスには、酸素フリーラジカルの放出、細胞膜に対する損傷、カルシウムの流入に対するイオンチャネルの開口、サイトカインの放出並びに血管攣縮及び虚血を引き起こしうる高反応性物質中への遊離脂肪酸の代謝が含まれる。フリーラジカルは二次性損傷のほぼすべての機序のある時点で形成される。フリーラジカルの第一標的は細胞膜の脂肪酸である。脂質過酸化反応として周知のプロセスは、幾何級数的に進行する態様にて神経、グリア及び血管細胞膜を損傷させる。脂質過酸化反応は、抑制されないと、細胞膜表面上に拡大し、最終的に細胞死をもたらす。従って、フリーラジカルは、内皮細胞を損傷させ、血液脳関門(BBB)に障害を与え、脳細胞を直接損傷させて、浮腫並びに
ニューロン及びグリアの構造変化を引き起こす。BBBの障害は脳浮腫及び脳細胞の損傷性血液由来産物への暴露の原因である。
【0164】
二次性全身性損傷(脳外)はその結果として脳への更なる損傷をもたらしうる。これは、あらゆる重症度の脳損傷後、特に、複数の損傷と関連する場合、極めて一般的である。従って、脳損傷を有する被験体は、脳損傷後数日間における再発間隔にて、低血中酸素、血圧、心肺の変化、発熱、血液凝固障害及び他の有害な変化の組合せを経験しうる。これらが生じるのは、そのような有害事象時に脳血管が弛緩して酸素及び血液の適切な供給を維持することができる正常な調節機構が、最初の外傷の結果として損なわれるときである。
【0165】
即時評価のプロトコルはその効率性及び信頼性において限界があり、侵襲的であることが多い。現在、コンピュータ支援断層撮影(CT)スキャンは、一次性脳損傷と関連する多くの異常を識別することができ、広範に利用でき、比較的低コストにて行うことができるため、TBIを評価するための標準的な診断処置として受け入れられている(Marikら、Chest 122:688−711 2002;McAllisterら、Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology 23:775−791 2001)。しかし、TBIを有して救急科を受診する被験体の診断及び管理でのCTスキャンの使用は施設間で異なり得、CTスキャン結果自体がTBI被験体において、特に、軽度TBI損傷の場合、神経精神病学的転帰の不良予測因子となりうる(McCullaghら、Brain Injury 15:489−497 2001)。
【0166】
通常、TBIの即時処置は、脳内とその周囲における出血を制御するための手術、頭蓋内圧のモニタリング及び制御、脳への適切な血流の確保並びに他の損傷及び感染に対する身体処置を伴う。軽度脳損傷を有する被験体は軽微な症状を起こすことが多く、数日又は数週間、処置を引き延ばすことがある。被験体が治療を求めることを選択すると、診察、神経学的検査、磁気共鳴画像(MRI)、ポジトロン放出断層撮影(PET)スキャン、シングルフォトンエミッションCT(SPECT)スキャン、髄液中の神経伝達物質濃度のモニタリング、コンピュータ断層撮影(CT)スキャン及びX線を用いて、被験体の損傷の程度を判定しうる。損傷のタイプ及び重症度によって更なるケアが決定する。
【0167】
TBIを受けた被験体において治療上の利益を果たすため、単独で、或いは別の処置と組み合わせてVLA−1アンタゴニストを用いることができる。更に、VLA−1アンタゴニストは、予防的TBI治療として、或いはその構成要素として、例えば、TBIを受け、或いはTBIの症状を示している被験体に投与することができる。例えば、VLA−1アンタゴニストは、一次性損傷、二次性損傷又はその両方を処置するのに用いることができる。或いは、VLA−1アンタゴニストは、一次性損傷の処置に、また、二次性損傷の予防的治療として用いることができる。VLA−1アンタゴニストの投与前及び/又は投与後に評価を行うことができる。
【0168】
(脊髄損傷)
本明細書で述べるVLA−1アンタゴニストは脊髄損傷を処置するのに用いることができる。脊髄損傷(SCI)は脊髄に対する損傷であり、その正常な運動、感覚又は自律神経機能の一時的或いは恒久的変化をもたらす。臨床試験及び実験的試験では、急性SCI後、脊髄が一次性及び二次性損傷を被ることを立証している。一次性SCIは、機械的破裂、離断、硬膜外損傷又は神経要素の逸れから生じる。通常、この損傷は脊椎の骨折及び/又は脱臼で生じる。しかし、一次性SCIは脊椎の骨折又は脱臼の非存在下で生じうる。弾丸又は武器による貫通性損傷も一次性SCIを引き起こしうる(Burneyら、Arch Surg 128(5):596−9(1993))。より一般的には、変位した骨片が貫通性の脊髄又は分節脊髄神経損傷を引き起こす。硬膜外損傷も一次性SCIを引き起こしうる。脊髄硬膜外血腫又は膿瘍は急性脊髄圧迫及び損傷を引き起こす。転移性疾患由来の脊髄圧迫は一般的な腫瘍の救急事態である。屈曲又は伸長の有無に関わらない脊柱の縦方向の逸れは、脊椎の骨折又は脱臼を伴わない一次性SCIをもたらしうる。VLA−1アンタゴニストを用いて一次性脊髄損傷を処置することができる。
【0169】
二次性SCIの病態生理は、損傷後の最初の数日にわたって進行する、多数の細胞及び分子事象に関わる(Tator,Brain Pathology 5:407−413(1995))。二次性SCIの最も重要な原因は、動脈破壊、動脈血栓及びショックに起因する低灌流によって引き起こされる、脊髄への血管損傷である。SCIは脊髄動脈に対する損傷又は侵害に由来する虚血を通して持続されうる。虚血に起因するSCIは、大動脈血流が一時的に停止される手術中に生じうる。本明細書で述べるVLA−1アンタゴニストを用いて二次性SCI損傷を処置或いは予防することができる。
【0170】
脊髄損傷は毒性によっても引き起こされうる(Tator,Brain Pathology 5:407−413(1995))。脊髄損傷における最も強力な毒性の1つは、興奮性アミノ酸神経伝達物質の蓄積及びこれによる引き続いての損傷である。グルタミン酸誘発性興奮毒性は細胞内カルシウムの上昇を引き起こす。次に、細胞内カルシウムの上昇はカルシウム依存性プロテアーゼ又はリパーゼの活性化を引き起こし得、これは、ニューロフィラメントを含む細胞骨格成分の分解及び細胞膜の溶解に起因する更なる損傷を生じさせる。アラキドン酸及びプロスタグランジンのようなエイコサノイドの過剰産生は、脂質過酸化反応及び酸素フリーラジカルに関連しうる。次に、損傷したニューロン膜からの血管作用性エイコサノイドの放出は、血管攣縮を誘発することによって進行性の外傷後虚血を引き起こしうる。局所又は全身循環に対する作用により、或いは損傷脊髄に対する直接作用により、内因性オピオイドも二次性損傷プロセスに関与しうる。本明細書で述べるVLA−1アンタゴニストを用いて毒性から生じる脊髄損傷を処置或いは予防することができる。
【0171】
重大で進行性の浮腫が脊髄損傷に続発しうる。浮腫自体が有害であるか、或いは別の損傷機構、例えば、虚血又はグルタミン酸毒性の付帯現象であるかは不明である。浮腫は実験モデル及び臨床例において、脊髄において損傷部位から相当な距離で吻側及び尾側に拡大しうる。
【0172】
SCIは、米国脊髄損傷協会機能評価スケール(American Spinal Injury Association(ASIA)Impairment Scale)に従って、損傷の程度に基づいて完全又は不完全に分類される。完全SCIでは、最下位仙骨分節において感覚及び運動機能が保存されていない(Watersら、Paraplegia 29(9):573−81(1991))。不完全SCIでは、最下位仙骨分節を含む損傷レベル下方に感覚又は運動機能が保存されている(Watersら、Archives of Physical Medicine and Rehabilitation 75(3):306−11(1994))。不完全脊髄損傷はより完全な損傷に進展しうる。より一般的には、初期事象後数時間から数日間、損傷レベルは1又は2の脊髄レベルにて上昇する。
【0173】
SCIの他の分類には、脊髄中心症候群、ブラウン・セカール症候群、脊髄前方症候群、脊髄円錐症候群及び馬尾症候群が含まれる。脊髄中心症候群は、仙骨感覚が低下し、下肢よりも大きい上肢の衰弱をもたらす頸部損傷と関連することが多い。ブラウン・セカール症候群は、対側の疼痛及び温度に対する感受性の喪失を伴う、比較的大きな同側の固有感覚及び運動感覚の喪失を引き起こす、脊髄の半側切断損傷に関わる。脊髄前方症候群は、運動機能並びに疼痛及び温度に対する感受性の変動的喪失を引き起こすが、固有感覚は維持される障害と関連することが多い。脊髄円錐症候群は仙髄及び腰髄神経根に対する損傷と関連する。この症候群は、膀胱、腸及び下肢における反射消失を特徴とするが、仙骨分節は反射の維持を示すこともありうる(例えば、球海綿体反射及び排尿反射)。馬尾症候群は、無反射性の膀胱、腸及び下肢をもたらす、脊柱管における腰仙部神経根に対する損傷に起因する。
【0174】
SCIから神経原性ショックが生じうる(Tator,Brain Pathology 5:407−413(1995))。神経原性ショックとは、急性SCIにおける自律神経機能障害及び交感神経系制御障害から生じる低血症、徐脈及び末梢血管拡張の血行力学的三徴候を指し、脊髄ショック及び乏血性ショックと識別される。乏血性ショックは頻脈と関連する傾向にある。脊髄ショックは、自律神経機能障害と関連する、特定レベル下方の反射及び直腸の緊張を含む全神経機能の完全喪失と定義づけされる。カテコールアミンの放出により初期血圧上昇が認められ、次に、低血圧が続く。腸及び膀胱を含む弛緩性麻痺が認められ、持続勃起が発現する。これらの症状は、損傷レベル下方の反射弓が再び機能し始めるまで、数時間から数日間、持続する傾向にある。
【0175】
SCIの現行治療は、該疾患を有する被験体における運動機能及び運動感覚を改善することを目的とする。コルチコステロイドが治療の中心である。メチルプレドニゾロンのようなグルココルチコイドは急性SCIの二次作用を低下させると考えられ、非貫通性急性SCIにおける高用量メチルプレドニゾロンの使用は北米でケアの基準となっている。本明細書で述べるようないずれの分類のSCI又はその症状を処置するのに、本明細書で述べるVLA−1アンタゴニストを用いることができる。VLA−1アンタゴニストは単独で、或いは別の既知のSCI治療法と組み合わせて用いることができる。
【0176】
(医薬組成物)
VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)は、例えば、脳卒中、TBI又はSCIを処置するための被験体への投与のための医薬組成物として製剤化することができる。通常、医薬組成物は医薬的に許容可能な担体を含む。本明細書で用いられるように、「医薬的に許容可能な担体」は、生理的に適合する、ありとあらゆる溶媒、分散媒、被覆剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを含む。該組成物は医薬的に許容可能な塩、例えば、酸付加塩又は塩基付加塩を含みうる(例えば、Berge,S.M.ら(1977)J.Pharm.Sci.66:1−19を参照)。
【0177】
VLA−1アンタゴニストは標準的な方法に従って製剤化することができる。製剤処方は十分に確立した技術であり、例えば、Gennaro(編)、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Lippincott,Williams & Wilkins(2000)(ISBN:0683306472);Anselら、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems、第7版、Lippincott Williams & Wilkins Publishers(1999)(ISBN:0683305727);及びKibbe(編)、Handbook of Pharmaceutical Excipients American
Pharmaceutical Association、第3版(2000)(ISBN:091733096X)に更に述べられている。
【0178】
一実施形態では、VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)は、賦形剤物質、例えば、塩化ナトリウム、第二リン酸ナトリウム七水和物、第一リン酸ナトリウム及び安定剤で製剤化することができる。これは、例えば、好適な濃度で緩衝液中に入れることができ、2〜8℃で保存することができる。
【0179】
該医薬組成物は様々な形態でよい。その形態には、例えば、液体、半固体及び固体剤形、例えば、溶液(例えば、注射用及び注入用溶液)、分散剤又は懸濁剤、錠剤、ピル、粉末、リポソーム並びに坐剤が含まれる。好ましい形態は目的とする投与様式及び治療用途に依存しうる。典型的には、本明細書で述べる薬剤の組成物は注射用又は注入用溶液の形態である。
【0180】
このような組成物は非経口様式(例えば、静脈内、皮下、腹腔内又は筋肉内注射)によって投与することができる。本明細書で用いられるような「非経口投与」及び「非経口投与される」という語句は、経腸及び局所投与以外の投与様式を意味し、通常、注射による投与であり、限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、鞘内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経皮気管内、皮下、表皮下、関節内、被膜下、くも膜下、脊髄内、髄腔内、硬膜外、脳内、頭蓋内、頸動脈内及び胸骨内注射・注入を含む。
【0181】
該組成物は、溶液、マイクロエマルション、分散剤、リポソーム又は高濃度での安定保存に適した他の規則構造物として製剤化することができる。無菌注射用溶液は、本明細書で述べる薬剤を必要量にて、必要とされる通りに上記一覧の成分の1つ又は組合せと共に適切な溶媒に組み入れ、次に、濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散剤は、本明細書で述べる薬剤を、塩基性分散媒及び上記一覧の成分からの必要な他の成分を含む無菌ビヒクルに組み入れることによって調製される。無菌注射用溶液の調製のための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、本明細書で述べる薬剤の粉末に加え、事前に濾過滅菌された溶液由来の任意の所望の追加成分を生じさせる真空乾燥及び凍結乾燥である。溶液の適正な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用により、分散剤の場合、必要な粒子サイズの維持により、また、界面活性剤の使用によって維持することができる。注射用組成物の持続的吸収は、該組成物中に吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアレート塩及びゼラチンを含有させることによってもたらされうる。
【0182】
一部の実施形態では、VLA−1アンタゴニストは、該化合物を速放から保護する担体を用いて調製され得、例えば、インプラントを含む放出制御製剤及びマイクロカプセル化送達系である。生分解性、生体適合性ポリマー、例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルソエステル及びポリ乳酸を用いることができる。そのような製剤の調製のための多くの方法は特許化され、或いは公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems,J.R.Robinson(編)、Marcel Dekker,Inc.,New York,1978を参照されたい。
【0183】
例えば、VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)は、例えば、血液、血清又は他の組織中の循環におけるその安定化及び/又は保持を、例えば、少なくとも1.5,2,5,10又は50倍向上させる部分で修飾することができる。該修飾アンタゴニストは、脳卒中、TBI又はSCI後、損傷部位に到達することができるかを評価するため、評価されうる(例えば、標識形態のアンタゴニストを用いることにより)。
【0184】
例えば、VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)は、ポリマー、例えば、実質的に非抗原性のポリマー、例えば、ポリアルキレンオキシド又はポリエチレンオキシドと結合させることができる。好適なポリマーは重量で実質的に異なる。約200〜約35,000ダルトン(又は約1,000〜約15,000及び2,000〜約12,500)の範囲の数平均分子量を有するポリマーを用いることができる。
【0185】
例えば、VLA−1アンタゴニストは、水溶性ポリマー、例えば、親水性ポリビニルポリマー、例えば、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンにコンジュゲートすることができる。このようなポリマーの非限定的一覧には、ポリアルキレンオキシドホモポリマー、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)又はポリプロピレングリコール、ポリオキシエチレン化ポリオール、それらのコポリマー並びにそれらのブロックコポリマーが含まれる。但し、ブロックコポリマーの水溶性は維持されるものとする。更なる有用なポリマーには、ポリオキシアルキレン、例えば、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン及びポリオキシエチレンとポリオキシプロピレンのブロックコポリマー(プルロニックス(Pluronics));ポリメタクリレート;カルボマー;並びに分岐又は非分岐多糖が含まれる。
【0186】
VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)が第二の薬剤と併用される場合、その2つの薬剤は別個或いは共に製剤化することができる。例えば、それぞれの医薬組成物は、例えば、投与直前に混合されて共に投与することができ、或いは、例えば、同時又は異なる時間に別個に投与することができる。
【0187】
(投与)
本明細書で述べるVLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)は、被験体、例えば、ヒト被験体に種々の方法によって投与することができる。多くの用途では、投与経路は、静脈内注射若しくは注入(IV)、皮下注射(SC)、腹腔内(IP)又は筋肉内注射の1つである。場合により、投与はCNS内、例えば、鞘内、脳室内(ICV)、脳内又は頭蓋内に直接行われうる。該アンタゴニストは固定用量として、或いはmg/kg用量にて投与することができる。
【0188】
投与量は該アンタゴニストに対する抗体の生成を低減或いは阻止するように選択することもできる。
【0189】
遮断剤の投与経路及び/又は様式は、例えば、断層画像、神経学的検査及び脳卒中、TBI若しくはSCIと関連する標準的パラメータ、例えば、本明細書で述べる評価基準を用いて、例えば、被験体をモニタリングすることにより、個々の症例に合うように調整することもできる。
【0190】
投与レジメンは、所望の応答、例えば、治療応答又は組合せ治療効果を付与するように調整される。一般に、被験体に生物利用可能量の薬剤を与えるため、任意の組合せの用量(個別又は共調合)のVLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)(及び任意に第二の薬剤)を用いることができる。例えば、0.025mg/kg〜100mg/kg,0.05〜50mg/kg,0.1〜30mg/kg,0.1〜5mg/kg又は0.3〜3mg/kgの範囲の用量を投与することができる。
【0191】
本明細書で用いられるような用量単位形態又は「固定用量」とは、処置対象の被験体に単位用量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な医薬担体と組み合わせ、また、任意に他の薬剤と組み合わせて、所望の治療効果を生じさせるように計算された所定量の活性化合物を含む。
【0192】
VLA−1アンタゴニストは、脳卒中症状若しくは徴候、TBI症状又はSCI症状の発現後、約10分〜約48時間、より好ましくは、約10分〜約24時間、より好ましくは、3時間以内に少なくとも1回投与されうる。単回又は複数回投与が行われうる。代替的或いは付加的に、該アンタゴニストは連続注入によって投与されうる。脳卒中による虚血損傷を最小限にし、脳卒中後の炎症事象による損傷を最小限にし、別の脳卒中を予防し、或いは続発する脳卒中から生じうる損傷を最小限にし、一次性又は二次性TBI若しくは症状を処置し、或いは一次性又は二次性SCI若しくは症状を処置するため、該処置は、数日間、数週間、数カ月又は更に数年間継続しうる。
【0193】
例えば、被験体が脳卒中のリスクを有し、或いはTIAを起こした場合、該アンタゴニストは予防措置として脳卒中の発症前に投与することができる。そのような予防的処置の期間は該アンタゴニストの単回投与でよく、或いは該処置は継続し得(例えば、複数回投与)、例えば、脳卒中のリスクがある被験体は、脳卒中が生じることを予防するため、数日間、数週間、数カ月又は更に数年間、該アンタゴニストで処置されうる。
【0194】
医薬組成物は治療有効量の本明細書記載のアンタゴニストを含む。そのような有効量は、投与アンタゴニストの効果、又は、2つ以上の薬剤が使用される場合、アンタゴニストと第二の薬剤との組合せ効果に基づいて決定することができる。また、アンタゴニストの治療有効量は、被験体の病態、年齢、性別及び体重のような因子並びに被験体において所望の応答を惹起する該化合物の能力、例えば、少なくとも1つの疾患パラメータ、例えば、脳卒中、TBI若しくはSCIパラメータの改善、又は、疾患、例えば、脳卒中、TBI若しくはSCIの少なくとも1つの症状の改善により異なりうる。治療有効量は、治療上有益な効果が該組成物の如何なる毒性又は有害作用をも上回る量でもある。
【0195】
(デバイス及びキット)
VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)を含む医薬組成物は、医療デバイスを用いて投与することができる。該デバイスは、例えば、未熟な被験体又は当該分野の救急スタッフが救急事態において使用でき、医療施設及び他の医療装置に移動させることができるように、可搬性、室温保存及び使用容易性のような特徴を持たせて設計することができる。該デバイスは、例えば、VLA−1アンタゴニストを含む医薬調製物を収納するための1つ又はそれ以上の収容部を含み得、1又はそれ以上の単位用量の該アンタゴニストを送達するように構成されうる。
【0196】
例えば、該医薬組成物は、米国特許第5,399,163号;第5,383,851号;第5,312,335号;第5,064,413号;第4,941,880号;第4,790,824号;又は第4,596,556号に開示されているデバイスのような無針皮下注射デバイスを用いて投与することができる。周知のインプラント及びモジュール例には、制御速度にて薬剤を分注するための埋め込み型微量注入ポンプを開示している米国特許第4,487,603号;皮膚を通して薬剤投与するための治療デバイスを開示している米国特許第4,486,194号;正確な注入速度にて薬剤を送達するための薬剤注入ポンプを開示している米国特許第4,447,233号;連続的薬剤送達のための変流量埋め込み型注入装置を開示している米国特許第4,447,224号;多室コンパートメントを有する浸透性薬剤送達系を開示している米国特許第4,439,196号;及び浸透性薬剤送達系を開示している米国特許第4,475,196号が含まれる。他の多くのデバイス、インプラント、送達系及びモジュールも公知である。
【0197】
VLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)はキットにて提供することができる。一実施形態では、該キットは、(a)VLA−1アンタゴニストを含む組成物を収容する容器及び任意に(b)情報資料を含む。該情報資料は、本明細書で述べる方法及び/又は治療上の有益性のための薬剤の使用に関する、説明的、使用説明的、営業的資料又は他の資料でよい。一実施形態では、該キットは、脳卒中、TBI又はSCIを処置するための第二の薬剤も含む。例えば、該キットは、VLA−1アンタゴニストを含む組成物を収容する第一の容器及び該第二の薬剤を含む第二の容器を含む。
【0198】
該キットの情報資料はその形式において制約されない。一実施形態では、該情報資料は、該化合物の生成、該化合物の分子量、濃度、有効期限に関する情報、バッチ又は製造地情報などを含みうる。一実施形態では、該情報資料は、脳卒中、TBI若しくはSCIを有している被験体又は脳卒中、TBI若しくはSCIのリスクがある被験体を処置するため、例えば、好適な用量、剤形又は投与様式(例えば、本明細書で述べる用量、剤形又は投与様式)にてVLA−1アンタゴニスト(例えば、抗VLA−1抗体)を投与する方法に関する。該情報は様々な形式にて提供することができ、印刷文、コンピュータ読取可能資料、ビデオ記録若しくは録音又は実体資料へのリンク若しくはアドレスを提供する情報が含まれる。
【0199】
該アンタゴニストに加え、該キット中の組成物は、他の成分、例えば、溶媒若しくは緩衝剤、安定剤又は保存剤を含みうる。該アンタゴニストは、任意の形態、例えば、液体、乾燥又は凍結乾燥形態、好ましくは、実質的に純粋且つ/或いは無菌の形態にて提供することができる。該薬剤が溶液にて提供される場合、該溶液は水溶液であることが好ましい。該薬剤が乾燥形態として提供される場合、一般に、再構成は好適な溶媒の添加による。該溶媒、例えば、無菌水又は緩衝剤は該キット中に任意に提供することができる。
【0200】
該キットは、該組成物又は該薬剤を含む組成物用の1つ又はそれ以上の容器を含みうる。一部の実施形態では、該キットは該組成物と該情報資料用の別個の容器、仕切り又はコンパートメントを含む。例えば、該組成物は、ビン、バイアル又は注射器内に収容することができ、該情報資料はプラスチックスリーブ又はパケット内に収容することができる。他の実施形態では、該キットの別個の要素は単一の非分割容器内に収容される。例えば、該組成物は、該情報資料をラベル形状にて添付したビン、バイアル又は注射器内に収容される。一部の実施形態では、該キットは複数(例えば、パック)の個々の容器を含み、各容器は1つ又はそれ以上の単位用量形態(例えば、本明細書で述べる剤形)の薬剤を含む。該容器は、組合せ単位用量、例えば、該VLA−1アンタゴニスト及び該第二の薬剤の両方を、例えば、所望の比率で含む単位を含みうる。例えば、該キットは複数の注射器、アンプル、ホイルパケット、ブリスターパック又は医療デバイスを含み、例えば、各々が単一組合せ単位用量を含む。該キットの容器は気密性、防水性(例えば、湿度又は蒸発の変化に対して不浸透性)且つ/或いは遮光性でよい。
【0201】
該キットは、該組成物の投与に適したデバイス、例えば、注射器又は他の好適な送達デバイスを任意に含む。該デバイスは、一方又は両方の薬剤を予め装填した状態で提供することができ、或いは中身がないが充填に適した状態でもよい。
【実施例】
【0202】
(実施例1−局所脳虚血に対する抗VLA−1抗体の効果)
(プロトコル)
Charles River Lab社から得た体重18〜20gのC57B6雌マウスを本試験に用いた。以下の条件で概述される二試験群にマウスを分類した。
【0203】
【化1】

マウスHa31/8又はP1.17の腹腔内注射後、最初にマウスを2%イソフランで麻酔し、その後、フェイスマスクを介して供給したO中1.0%イソフランにて維持した。フィードバック制御式加温パッド(Harvard Apparatus,Inc.Holliston,MA)を用いて直腸温を36.8〜37.2℃に維持した。中大脳動脈閉塞(MCAO)前及びその間並びに再灌流後、PeriFlux System(Perimed Inc.、スウェーデン)を用いて局所脳血流(rCBF)をモニターした。
【0204】
中大脳動脈(MCA)の可逆性閉塞で局所脳虚血を誘発するため、シリコーン/硬化剤混合物(Heraeus Kulzer社、ドイツ)を被覆した7.0ナイロンモノフィラメント縫合糸を右総頸動脈の内腔内に挿入した。内頸動脈を通して前大脳動脈の近位部まで該縫合糸を該挿入部位から9±1.0mm進め、その起点にてMCAを完全に閉塞させた。rCBFのレーザードップラー血流測定では、rCBFがベースラインの20%に低下したため、両群においてMCA閉塞が良好であることが示された。MCAOは2時間持続し、その間、傷口を縫合し、麻酔を中止した。2時間のMCA閉塞後、該フィラメントを取り出し、マウスに24時間再灌流を行った。rCBFが以前のレベル状態であるかを判定した。MCAOの2時間後且つ再灌流前、rCBFが以前のレベルの50%以上に戻って増大することが見出されたため、4匹のマウスを本試験から除外した。虚血前中後の生理的パラメータはすべて正常範囲内であり、群間に相違はなかった。
【0205】
それぞれ、MCAO後30分、再灌流後24時間にてオープンフィールドで神経学的欠損を評価・スコアリングした。その試験はHaraら(1997)によって報告された。
【0206】
0,神経学的欠損を認めない(正常)
1,右前足を伸ばすことができない(軽度)
2,対側への旋回(中等度)
3,歩行及び右側反射の喪失(重度)
両群においてMCA閉塞後の虚血損傷の体積を測定した。2時間のMCAO後の再灌流の24時間後、断頭によりマウスを殺処分し、脳を速やかに取り出し、マウス脳マトリックスを用いて6つの1mm厚冠状断面にスライスした。次に、暗所にて脳切片を室温で30分、2%2,3,5−塩化トリフェニルテトラゾリウム(TTC,Sigma社)中で染色し、次に、一晩、10%中性緩衝ホルマリンに入れた。イメージスキャナ上で脳薄片を直接スキャンした。各切片の後面上で損傷を測定した(NIH Image 1.61、米国国立衛生研究所(US National Institutes of Health))。皮質及び線条体における梗塞領域の直接測定を行い、次に、これを浮腫の影響を排除するために以下の式を用いて補正した。
対側皮質の間接梗塞領域(%)=[(対側領域−同側非外傷領域)/対側領域]×100
総梗塞体積は、皮質及び線条体を含む連続梗塞領域の数値積分により計算した。以前の処置に関して観察者が盲検化されるように、該切片をコード化した後に測定を行った。対側無傷半球と比較した虚血半球サイズの増大(%)として浮腫を定量化した。
【0207】
(結果)
MCAOを受けた対照抗体処置マウスは、脳の皮質及び皮質下領域全体にわたり、広範な損傷を保持した。虚血半球は著しく肥大し、有意な行動欠陥が認められた(例えば、回旋及び肢麻痺をもたらす不全片麻痺;図1A参照)。
【0208】
対照抗体(P1.17)で処置したマウスは、虚血半球の47.1±3.8%に及ぶ梗塞を保持した。抗VLA−1抗体で処置したマウスは、虚血半球のわずか34.3±4.2%に及ぶ、有意に小さい梗塞を保持し(P<0.02、Studentの片側T検定、n=12/群)、梗塞サイズの24%縮小を示した(図1B)。絶対体積の点から、これは、対照の平均梗塞体積80.8±6.8mm、対、抗VLA−1抗体処置の平均梗塞体積55.63±6.3mmに相当した(図1C)。脳腫脹又は浮腫は、非損傷対側半球と比較した、梗塞半球の半球サイズの拡大パーセントとして計算した。8.2%±1.9%の半球サイズ増加率を保持した抗VLA−1(Ha/31/8)処置マウスと比べ、対照(P1.17)処置マウスは18.1±%の半球サイズ平均増加率を保持した(P<0.05、Studentの片側T検定 n=12/群 図1D)。図2は3つの濃度の抗VLA−1(Ha31/8)抗体を用いた用量反応を示し、梗塞体積(図2A)及び浮腫(図2B)を共に減少させる点において、3mg/kgの抗体が30mg/kgと同程度に有効であったことを示す。
これらのデータは、マウスでの可逆性中大脳動脈閉塞モデルにおける、VLA−1阻害の神経保護及び抗炎症作用を示す。このモデルの病理は、ヒト脳卒中の病状並びに他のCNS虚血損傷、例えば、TBI及びSCIを臨床的に表し、本データは、VLA−1の阻害剤がこれら及び他の虚血関連疾患の処置において有意な利益となりうることを示唆している。
【0209】
本発明の多くの実施形態について述べた。しかし、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な改変がなされうることが理解されるであろう。従って、他の実施形態も以下の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書の一部に記載の発明。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2A】
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【図2B】
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【公開番号】特開2013−82732(P2013−82732A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−284762(P2012−284762)
【出願日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【分割の表示】特願2009−512303(P2009−512303)の分割
【原出願日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(592221528)バイオジェン・アイデック・エムエイ・インコーポレイテッド (224)
【Fターム(参考)】