説明

脳圧排圧測定装置

【課題】圧排圧を直接測定することができるとともに、従来の脳ヘラと同一形状及び寸法を維持して視野及び空間を確保することができ、さらには熱の影響による補正も不要な、脳圧排圧測定装置を得る。
【解決手段】厚さ約0.2mm程度のフィルム状の感圧センサを当該感圧センサの厚さと形状を有した溝を脳ヘラの片面に切削して埋設及び接着して形成した感圧センサ付脳ヘラと、前記感圧センサから出る信号を変換して圧排圧を算出し、該圧排圧をモニタ表示するための表示器と、予め設定した圧排圧を超えた場合にアラームを発する警報器と、前記圧排圧の測定データを保存するためのメモリ等を具備した測定装置とにて構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳外科手術を行なう際において、脳組織を脳ヘラで圧排するときの圧排圧を測定して当該圧排圧をモニタ表示するとともに、予め設定された圧排圧を超えたときにアラームを発することができる、脳圧排圧測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脳外科手術で脳患部の手術を行う場合、頭蓋骨に穴を開け、該穴を通して手術が行なわれている。該手術において、患部が脳の内深部にある場合等には、手術を行ない易くすべく脳ヘラを用いて脳組織を圧排し、視野及び空間を確保している。このとき、脳組織を長時間圧排したり強く圧迫し過ぎると、脳浮腫や脳挫傷などの合併症が起こることがある。
【0003】
上記脳ヘラによる脳組織の圧排圧は術者の経験に委ねられていることが多いが、圧排圧を数値化してモニタ表示できる装置も開発されている。例えば、特開平09−103435号公報の「発明の名称:脳ベラ固定装置」では、脳ヘラに歪ゲージを固着し、該歪ゲージから出る信号を変換器に入力し、顕微鏡内のモニタに圧排圧を数値表示させる装置について記載されている。なお、前記歪ゲージの固着位置は特に明記されていないものの、図から脳ヘラの中央より後ろと判断される。また、特開平09−327441号公報の「発明の名称:脳べら圧測定用受圧部」では、脳ヘラの先端部に薄く柔軟で無伸縮性の材料でなる袋をベルトで固定するとともに、該袋に配管されたチューブを圧力計に接続し、前記袋内に封入した空気圧を圧排圧として計測表示させることが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平09−103435
【特許文献2】特開平09−327441
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しがしながら、上記特開平09−103435号公報記載の装置は、歪ゲージの固着位置が脳ヘラの中央より後ろにあるため、脳ヘラ全体にかかる歪圧を測定しているに過ぎず、脳組織の圧排圧を直接測定することができないという欠点があった。該歪ゲージは、センサ自体に架かる歪圧を測定するセンサのため、脳組織と当接する脳ヘラの先端部に配置して圧迫しても歪が発生せず、正確な測定ができないという欠点もあった。
【0006】
また、特開平09−327441号公報記載のものは、上記欠点を解決すべくセンサを脳組織と当接する脳ヘラの先端部に配置して圧排圧を直接測定できるものの、センサ自体が空気を封入した袋のため、その厚みにより視野及び空間の確保が妨げられるという致命的な欠点があった。また、前記袋には空気圧を圧力計に伝達するチューブが接続されているため、術中において当該チューブが邪魔になるという欠点や、熱の影響を受けるため、補正が必要になるという欠点もあった。
【0007】
本発明は、上記様々な欠点を解決するために成されたものであり、脳外科手術を行なう際において、脳組織を脳ヘラで圧排するときの圧排圧を直接測定することができるとともに、従来の脳ヘラと同一形状及び寸法を維持して視野及び空間を確保することができ、さらには熱の影響による補正も不要な、脳圧排圧測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の脳圧排圧測定装置は、厚さ約0.2mm程度のフィルム状の感圧センサを当該感圧センサの厚さと形状を有した溝を脳ヘラの片面に切削して埋設及び接着して形成した感圧センサ付脳ヘラと、前記感圧センサから出る信号を変換して圧排圧を算出し、該圧排圧をモニタ表示するための表示器と、予め設定した圧排圧を超えた場合にアラームを発する警報器と、前記圧排圧の測定データを保存するためのメモリ等を具備した測定装置とにて構成する。
【0009】
上記感圧センサは、上下2層の細長いフィルムから成り、各フィルムの先端部表面には電極を設け、該電極と接続された導線を後端部まで伸長して設け、前記各々の電極を対向させるとともに当該電極間に感圧材料を挟んでラミネート加工し、前記導線の端部にコネクタを設けて構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脳圧排圧測定装置を使用して脳外科手術を行なうようにすれば、脳組織を脳ヘラで圧排するときの圧排圧を感圧センサ付脳ヘラにより直接且つ正確に測定することができるという効果を奏する。また、前記感圧センサ付脳ヘラは従来の脳ヘラと同一形状及び寸法のために視野及び空間を十分確保することができるという効果を奏する。さらには熱の影響による補正も不要のため測定が容易であるという効果も奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明を実施するための最良の形態を図を用いて説明する。
【0012】
図1は本発明の脳圧排圧測定装置を構成する測定装置の回路ブロック図及び感圧センサ付脳ヘラとの接続図である。該図に示すように、本発明の脳圧排圧測定装置は、感圧センサ付脳ヘラ1の後端部にあるコネクタ8を、測定装置10に接続された信号入力用のコネクタ9に接続して構成する。前記感圧センサ付脳ヘラ1は、脳幹部の視野及び空間を確保すべく脳組織を各々反対方向に圧排するため、通常は2本使用する。なお、実際の手術を行う際において、前記感圧センサ付脳ヘラ1は、本願出願人の一人が出願した特開2002−345825号公報に記載の「脳ベラ固定装置」等により予め保持させておく必要がある。
【0013】
上記測定装置10は、感圧センサ付脳ヘラ1内の感圧センサ3から出力されるアナログ信号を入力して信号処理を行うためのAMP部11と、該AMP部11から出力されるアナログ信号をデジタル信号に変換するためのA/D変換部12と、前記デジタル信号をスケーリングして圧排圧を算出したり当該測定装置10内の各回路ブロックを制御するためのCPU13と、該圧排圧をモニタ表示するためのモニタ制御部15及びLCDモニタ16と、予め設定した圧排圧を超えた場合にアラームを発するためのアラーム制御部17及びブザー18と、前記圧排圧の測定データの保存及び制御プログラムを格納するためのメモリ部14と、上記各回路ブロックに回路電源を供給するための電源部19等にて構成する。
【0014】
上記LCDモニタ16は、圧排圧の表示のほかに、圧排時間,アラーム設定値,患者名,病名など様々な表示を行うことができ、LEDや有機EL等を表示器として使用しても構わない。また、上記ブザー18は、一般的なマグネチックブザーのほかに、圧電ブザーやスピーカー等を警報器として使用しても構わない。さらに、上記メモリ部14において、測定データの保存にUSBメモリやSDカード等を利用すれば、測定終了後にパソコンに差し替えてデータ集計を行うことができる。なお、電源部19には通常は商用電源を接続するが、携帯用等の場合にはバッテリー駆動であっても構わない。
【0015】
次に、図2は感圧センサ付脳ヘラに用いる感圧センサの外形図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。該図に示すように、感圧センサ3は、上下2層の細長いフィルム5から成り、各フィルム5の先端部表面には電極6を設け、該電極6と接続された導線7を後端部まで伸長して設け、前記各々の電極6を対向させるとともに当該電極間に感圧材料(図示せず)を挟み、厚さ約0.2mm程度のフィルム状にラミネート加工し、前記導線7の端部にコネクタ8を設けて構成する。
【0016】
上記感圧材料は、2層の電極6間に圧迫力が加わったときに抵抗値が変化するものや静電容量が変化するものなど任意であり、特に限定するものではない。
【0017】
次に、図3は感圧センサ付脳ヘラに用いる脳ヘラ本体の外形図であり、(a)は平面図、(b)は(a)におけるA−A側面断面図である。該図に示すように、感圧センサ付脳ヘラ1は、従来の脳ヘラ2の片面に、埋設する感圧センサ3の厚さと形状を有した溝4を切削し、該溝4内に上記感圧センサ3を接着して構成する。脳ヘラ2は、圧排時において脳組織を抱え込むような形状に曲げるため、感圧センサ3を構成するフィルム5や導線7は、脳ヘラ2と一体となって曲げることができる。
【0018】
図4は上記のようにして構成した、本発明の脳圧排圧測定装置を構成する感圧センサ付脳ヘラの外形図である。脳ヘラ2の形状は図示した形状に限定せず、脳外科手術で多く使用される先端側にテーパー状に細くなるものなど、いかなる形状のものであっても構わない。このとき、感圧センサ3の形状も使用する脳ヘラの形状に合わせて変えても構わない。
【0019】
次に、図5は本発明の脳圧排圧測定装置を構成する感圧センサ付脳ヘラを用いて脳モデルの前頭葉組織及び側頭葉組織を圧排している状態図である。該図に示すように、脳モデル20内にある前頭葉組織モデル21と側頭葉組織モデル22を、圧排し易いように各々の感圧センサ付脳ヘラ1の先端部を曲げ、該感圧センサ付脳ヘラ1に埋設した感圧センサ3の電極6の表面全体で脳組織を抱え込むように当接させて圧排している。なお、実際の手術時においても同様に圧排が行われる。
【0020】
図6は本発明の脳圧排圧測定装置にて測定した脳モデルの前頭葉測定データであり、図7は本発明の脳圧排圧測定装置にて測定した脳モデルの側頭葉測定データである。両図は、上記図5で示す状態で前頭葉組織モデル21と側頭葉組織モデル22を感圧センサ付脳ヘラ1で圧排したときの圧迫力を一時間程測定したグラフであるが、前頭葉組織モデル21では測定開始後約5分程で約21mmHgの圧力を一定保持しており、側頭葉組織モデル22でも測定開始後約5分程で約31mmHgの圧力を一定保持しており、安定して測定していることが判断できる。
【0021】
以上のようにして、脳組織を脳ヘラで圧排するときの圧排圧を、感圧センサ付脳ヘラ1に埋設した感圧センサ3の電極6の表面全体により直接測定することができるため、正確な圧排圧を測定することができる。また、前記感圧センサ付脳ヘラ1は従来の脳ヘラと同一形状及び寸法のために視野及び空間を十分確保することができる。さらには感圧センサ3の電極6間に挟んだ感圧材料は熱の影響を受けないため、補正も不要であり測定も容易となる。
【0022】
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の脳圧排圧測定装置を構成する測定装置の回路ブロック図及び感圧センサ付脳ヘラとの接続図である。
【図2】感圧センサ付脳ヘラに用いる感圧センサの外形図である。
【図3】感圧センサ付脳ヘラに用いる脳ヘラ本体の外形図である。
【図4】本発明の脳圧排圧測定装置を構成する感圧センサ付脳ヘラの外形図である。
【図5】本発明の脳圧排圧測定装置を構成する感圧センサ付脳ヘラを用いて脳モデルの前頭葉組織及び側頭葉組織を圧排している状態図である。
【図6】本発明の脳圧排圧測定装置にて測定した脳モデルの前頭葉測定データである。
【図7】本発明の脳圧排圧測定装置にて測定した脳モデルの側頭葉測定データである。
【符号の説明】
【0024】
1 感圧センサ付脳ヘラ
2 脳ヘラ
3 感圧センサ
4 溝
5 フィルム
6 電極
7 導線
8 コネクタ
9 コネクタ
10 測定装置
11 AMP部
12 A/D変換部
13 CPU
14 メモリ部
15 モニタ制御部
16 LCDモニタ
17 アラーム制御部
18 ブザー
19 電源部
20 脳モデル
21 前頭葉組織モデル
22 側頭葉組織モデル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ約0.2mm程度のフィルム状の感圧センサを当該感圧センサの厚さと形状を有した溝を脳ヘラの片面に切削して埋設及び接着して形成した感圧センサ付脳ヘラと、前記感圧センサから出る信号を変換して圧排圧を算出し、該圧排圧をモニタ表示するための表示器と、予め設定した圧排圧を超えた場合にアラームを発する警報器と、前記圧排圧の測定データを保存するためのメモリ等を具備した測定装置とにて構成することを特徴とした、脳圧排圧測定装置。
【請求項2】
感圧センサは、上下2層の細長いフィルムから成り、各フィルムの先端部表面には電極を設け、該電極と接続された導線を後端部まで伸長して設け、前記各々の電極を対向させるとともに当該電極間に感圧材料を挟んでラミネート加工し、前記導線の端部にコネクタを設けて構成することを特徴とした、請求項1に記載の脳圧排圧測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−210392(P2012−210392A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91564(P2011−91564)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(501264987)株式会社システム・ジェーピー (2)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】