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脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法
説明

脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法

【課題】神経活動のデコーディング方法を使用した訓練装置を提供する。
【解決手段】訓練装置1000は、被験者の脳内の所定の領域における脳活動を検出するための脳活動検出装置108と、演算処理装置102と、被験者にニューロフィードバック情報(呈示情報)を提示するための出力装置130とを備える。演算処理装置102は、脳神経の活性化のパターンをデコードして、訓練対象となっている事象に対して事前に取得されている目標活性化のパターンに対する近似度を算出し、算出された近似度に基づいて、報酬値を算出し、報酬値に対応する呈示情報を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象となる事象に対する学習を行う脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バーチャル・リアリティ(VR)などコンピュータ・グラフィックス(CG)技術を利用して訓練を行う訓練システムとして、被訓練者の生体反応を測定しながら訓練を行うものがある(たとえば、特許文献1、特許文献2を参照)。この特許文献1に開示された訓練支援装置では、被訓練者の生体反応として脳の活動領域を近赤外光により検出し、障害を有する被訓練者のリハビリテーションやイメージトレーニングを手助けするものである。この訓練支援装置では、訓練として課された計算課題や記憶課題等を行っている最中の被訓練者の脳の活動領域を測定し、訓練終了後に訓練の効果を確認する、というものである。また、特許文献2には、訓練中の被訓練者の生体反応に応じて訓練シナリオを常に最適なものとする訓練システムが開示されている。
【0003】
このように、本来感知することのできない生理学的な指標を科学的にとらえ、対象者に知覚できるようにフィードバックして体内状態を制御する技術を、「バイオフィードバック」と呼ぶ。
【0004】
従来のバイオフィードバックは、脈拍や呼吸などの生体情報が用いられる場合はあるものの、主として、人からの脳波による出力を画像や音など視聴覚等で感知できる形態への変換によって人に対して行う出力である。脳波の状態をリアルタイムで知ることができるため、自ら脳波の状態を制御するために役立つ技術である。
【0005】
このようなバイオフィードバックは、たとえば、不整脈、頭痛、自律神経失調、高血圧などの治療に使用される他、スポーツ分野での精神訓練に利用される場合もある。
【0006】
また、たとえば、特許文献3には、運動機能や脳機能などに障害を持つ患者を対象とし、リハビリテーションを行っている患者の状態を計測し、訓練内容を評価するリハビリテーション支援装置が開示されている。このリハビリテーション支援装置は、歩行周期にあわせて股・膝・足関節駆動部を駆動し、両下肢を協調させて動作させるとともに、健足側もしくは患足側の運動のタイミングを訓練者へ提示し、効果的な歩行訓練を支援するものである。
【0007】
さらに、従来、電化製品といった機器に対するスイッチやリモコンの操作は、四肢が不自由な人にとって容易ではない。そこで、脳電位を用いて機器を制御する技術が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。このような技術では、機器を制御するための制御信号を、脳電位から得られる脳波に基づいて出力する。特許文献4に記載の技術では、バイオフィードバック法を用いて脳波を意識的に変化させ、この脳波に対して周波数解析や演算比較を行い、制御信号を取得する。あるいは、特許文献5には、検知手段が、異なる部位において脳電位を検知し、検知したそれぞれの脳電位を所定の閾値と比較し、当該比較結果に応じた活性化パターンを生成し、生成した活性化パターンに基づいて、脳の活性化状態を示す活性化パターンと機器を制御するための制御信号とを対応付けて予め格納手段に格納されている制御信号から抽出した制御信号を機器に送信する、脳電位に基づいて機器を制御する方法が開示されている。
【0008】
ところで、人の感覚・知覚システムは、周囲を取り巻く環境に応じて常に変化する。こうした変化の大半は、発達早期の決まった段階、すなわち「臨界期」と呼ばれる時期に起こる。しかし、成人においても、周辺環境の重要な変化に適応できる程度には感覚・知覚システムの可塑性が保たれる。たとえば、成人が特定の知覚刺激を使った訓練を受けたり特定の知覚刺激に曝露されることによって、その訓練課題の成績あるいは知覚刺激への感度が向上し、さらに、その訓練結果が数ヶ月から数年間維持されることが報告されている(たとえば、非特許文献1を参照)。こうした変化は知覚学習と呼ばれ、すべての感覚器、すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のそれぞれにおいて起こることが確認されている。
【0009】
ただし、たとえば、視覚処理のどの段階で知覚学習が起こるのか、と言う点については、従来、議論がある状態であった(たとえば、非特許文献2を参照)。このため、どのような方法により、知覚学習を支援するのが効果的であるかについては、明らかではなかった。
【0010】
一方で、脳活動を計測する手法としては、脳皮質に直接電極を接触させて皮質脳波を計測する方法や、外部から非侵襲的に計測する手法として、脳内ニューロンの活動で生じる微少電流を頭蓋につけた電極から拾って増幅記録する脳波(EEG: Electroencephalogram)の計測や、核磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)を利用して、ヒトおよび動物の脳の活動に関連した血流動態反応を視覚化する方法の機能的核磁気共鳴画像法(fMRI:functinal Magnetic Resonance Imaging)や、脳の電気的な活動によって生じる磁場を超伝導量子干渉計 (SQUIDs) で高感度に計測するイメージング技術である脳磁図(Magnetoencephalography)法、近赤外光を用いて頭皮上から非侵襲的にヘモグロビン(Hb)の増減や酸素交換情報に伴う指標を計測して脳機能をマッピングする近赤外光計測法(NIRS:Near−InfraRed Spectroscopy)などがある。
【0011】
従来のfMRIを用いた研究は、人への感覚刺激とそれに関連して生じる脳活動との間のマッピングをとることが積極的に行われてきた。神経活動をコード(符号)と見なすと、従来の方法は刺激が脳でどのように表現されているか、つまり神経活動が刺激をどのようにコーディングしているかを調べていることになる。
【0012】
これに対して、その逆に、神経活動からどのような刺激が与えられているかを読み取る、神経活動のデコーディングについて、すでに報告がある(たとえば、非特許文献3を参照)。
【0013】
また、fMRIのデータを組み合わせることでMEGデータやEEGデータから、高時間・空間分解能で脳内神経活動を直接計測できる非侵襲の計測手法についても報告されている(特許文献6,特許文献7,非特許文献4,5を参照)。
【0014】
さらに、脳活動において、複数方位のうちのある方位への運動の活動が活性化していることを脳波計や脳磁計による計測値からデコードし、ブレイン・マシン・インタフェースに活用する点についても、すでに報告がある(たとえば、非特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−294593号公報
【特許文献2】特開2007−264055号公報
【特許文献3】特開2005−13442号公報
【特許文献4】特開2002−125945号公報
【特許文献5】特開2005−278685号公報
【特許文献6】国際公開第03/057035号パンフレット
【特許文献7】特開2008−178546号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】T.Watanabe,J.E.Nanez Sr,S.Koyama,I.Mukai,J.Liederman and Y.Sasaki: Greater plasticity in lower-level than higher-level visual motion processing in a passive perceptual learning task.Nature Neuroscience,5,1003-1009,2002
【非特許文献2】伊藤 希、渡邊 武郎、佐々木 由香著、「知覚学習における近年の成果」、Vision,Vol.22,No.2,pp.115-121,2010
【非特許文献3】Miyawaki Y et al.(2009): Visual image reconstruction from human brain activity using a combination of multiscale local image decoders.Neuron.Dec 10;60(5):915-29
【非特許文献4】M.Sato,T.Yoshioka,S.Kajihara,K.Toyama,N.Goda,K.Doya,and M.Kawato,”Hierarchical Bayesian estimation for MEG inverse problem,” NeuroImage,vol.23,pp.806-826,2004
【非特許文献5】T.Yoshioka,K.Toyama,M.Kawato,O.Yamashita,S.Nishina,N.Yamagishi,and M.Sato,”Evaluation of hierarchical Bayesian method through retinotopic brain activities reconstruction from fMRI and MEG signals,” NeuroImage,vol.42,pp.1397-1413,2008
【非特許文献6】Stephan Waldert,Tobias Pistohl,Christoph Braun,Tonio Ball,Ad Aertsen,Carsten Mehring,”A review on directional information in neural signals for brain-machine interfaces”,Journal of Physiology-Paris,103 (2009) pp.244-254
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、上述したように、脳視覚処理のどの段階で知覚学習が起こるのかについて不明であることも一因となり、神経活動のデコーディング方法をどのように使用すれば、効果的な知覚学習が可能であるかが、必ずしも明らかではないと言う問題があった。
【0018】
また、神経活動のデコーディング方法を用いた知覚学習を用いて、ブレインマシンインタフェースを実現したり、あるいは、リハビリテーションをどのように実施するべきかが、必ずしも明らかではないという問題もあった。
【0019】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであって、神経活動のデコーディング方法を使用して、ユーザ自身の行動により所定の脳機能を更新することを支援することが可能な脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
この発明の1つの局面に従うと、脳機能亢進支援装置であって、被験者の脳内の所定の領域における脳活動を示す信号を検知するための脳活動検知手段と、脳活動検知手段により検知された信号から、脳神経の活動のパターンをデコードするためのデコード手段と、脳機能を亢進させる対象となっている事象に対して事前に取得されている目標活性化のパターンを格納するための記憶手段と、デコード手段のデコード結果に基づいて、目標活性化のパターンとデコード結果との近似度に応じて、近似度に対応する報酬値を算出する演算手段と、報酬値の大きさを示す呈示情報を被験者に対して呈示するための出力手段とを備える。
【0021】
好ましくは、演算手段は、呈示情報として、事象を呈示することなく報酬値に対応する呈示情報を呈示するための情報を、出力装置に対して出力する。
【0022】
好ましくは、事象は、脳内において、いずれのクラスに分類されるかという識別問題に帰着される認知の対象であり、デコード手段は、脳神経の活動パターンがいずれのクラスに対応するかの尤度を算出する。
【0023】
好ましくは、出力手段を含む支援端末と、デコード手段と記憶手段と、演算手段とを含む演算処理装置とを備え、支援端末は、脳活動検知手段により検知された信号をデコード手段に送信するための通信手段を含む。
【0024】
好ましくは、デコード手段は、初期視覚野における脳神経の活動をデコードする。
【0025】
好ましくは、脳活動検知手段は、機能的核磁気共鳴映像装置を含む。
【0026】
好ましくは、脳活動検知手段は、頭蓋外部からの近赤外光および脳波の計測手段を含む。
【0027】
この発明の他の局面に従うと、脳機能亢進支援方法であって、被験者の脳内の所定の領域における脳活動を示す信号を検知するための脳活動検知装置の信号から、脳神経の活動のパターンをデコードするためのデコード装置を用いた脳機能亢進支援方法であって、脳活動検知手段により検知された信号から、デコード装置により脳神経の活動のパターンをデコードするステップと、脳機能を亢進させる対象となっている事象に対して事前に取得されている目標活性化のパターンと、デコードの結果との近似度に応じて、近似度に対応する報酬値を算出するステップと、被験者に対して、報酬値の大きさを示す呈示情報を呈示するステップとを備える。
【0028】
好ましくは、呈示情報を呈示するステップにおいては、呈示情報として、脳機能の亢進対象となっている事象を呈示することなく報酬値に対応する呈示情報を呈示するための情報を、出力装置に対して出力する。
【発明の効果】
【0029】
本発明の脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法によれば、脳内の神経活動のデコーディング方法を使用して、所定の脳機能の対象となる事象について、被験者自身がその脳機能の亢進のための行動を実施することが可能となる。
【0030】
また、本発明の脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法によれば、脳内の神経活動のデコーディング方法を使用して、被験者に対して訓練対象となる事象についての訓練を行うことが可能となる。
【0031】
あるいは、本発明の脳機能亢進支援装置および脳機能亢進支援方法によれば、被験者に訓練対象となる事象に対応した刺激を与える必要がない。したがって、被験者が使用する訓練端末を小型化することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施の形態1の訓練装置1000の機能ブロック図である。
【図2】方位に対する視覚刺激とその知覚学習との関係を示す概念図である。
【図3】実施の形態の訓練装置1000の知覚学習の手順を概念的に説明する図である。
【図4】訓練装置1000の動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】知覚学習の実験フローについて説明する図である。
【図6】事前テスト(S200)と、事後テスト(S206)において、被験者の行ったタスクを説明する図である。
【図7】実験の各段階において、被験者に対する刺激呈示のシーケンスを示す図である。
【図8】視覚刺激として提示されるガボールパッチの例を示す図である。
【図9】デコーダの処理を示す概念図である。
【図10】多項分布スパースロジスティク回帰を用いて、被験者の見ている画像を判別する手続きを説明するための概念図である。
【図11】訓練装置1000におけるニューロフィードバックの概念を示す図である。
【図12】各被験者に割り当てられたターゲットとなる方位を示す図である。
【図13】誘導段階で、デコーダによって評価された(60度だけ互に相違する)3つの方位の各々の平均の尤度を示す図である。
【図14】ニューロフィードバック1日目の最初の段階のテストについて、ターゲット方位に対する被験者間の平均尤度を示す図である。
【図15】V1野およびV2野における、誘導段階の全体にわたる平均的な活性化パターンからデコーダにより算出された3つの方位に対する平均尤度を示す図である。
【図16】事前テストおよび事後テストにおける視覚刺激の弁別能力を比較した図である。
【図17】事後テストと事前テストとの差である弁別感度の改善d´を示す図である。
【図18】誘導段階の日数と弁別感度の改善d´との関係を示す図である。
【図19】各被験者のすべての試行に対する、ターゲット方位の尤度の加重を計算し、加重に対する感度変動をプロットした図である。
【図20】6人の新しい被験者による対照実験の結果を示す図である。
【図21】脳活動を観測する観測手段としてのブレインキャップを示す模式図である。
【図22】実施の形態2の訓練装置2000の機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態の訓練装置の構成について、図に従って説明する。なお、以下の実施の形態において、同じ符号を付した構成要素および処理工程は、同一または相当するものであり、必要でない場合は、その説明は繰り返さない。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1の訓練装置1000の機能ブロック図である。
【0035】
図1を参照して、訓練装置1000は、被験者(図示せず)の脳内の所定の領域における脳活動を検出するための脳活動検出装置108と、演算処理装置102と、被験者にニューロフィードバック情報(呈示情報)を提示するための出力装置130とを備える。
【0036】
ここで、脳活動検出装置108としては、上述したfMRI、脳磁計、近赤外光計測装置(NIRS)、脳波計、またはこれらの組み合わせを使用することができる。このうち、fMRIとNIRSとは、脳内の血流変化に関連する信号を検出するものであり、高空間分解能である。一方で、脳磁計や脳波計は、脳活動に伴う電磁場の変化を検出するための高時間分解能であるという特徴をもつ。したがって、たとえば、fMRIと脳磁計とを組み合わせれば、空間的にも時間的にも高分解能で脳活動を計測することができる。あるいは、NIRSと脳波計とを組み合わせても、同様に空間的にも時間的にも高分解能で脳活動を計測するシステムを小型で携帯可能な大きさで構成することも可能である。
【0037】
出力装置130としては、以下では、視覚的なフィードバック情報を被験者に提示するためのディスプレイ装置であるものとして説明する。ただし、フィードバック情報としては、視覚情報に限られず、たとえば、音声情報や、触覚情報などを提示することも可能である。
【0038】
演算処理装置102は、特に限定されないが、たとえば、汎用のパーソナルコンピュータにより実現することができる。もちろん、専用のハードウェアを用いてもよい。
【0039】
演算処理装置102は、脳活動検出装置108からの信号を受け取るための入力インタフェース(以下、入力I/F)110と、入力I/F110からの信号に対して、所定の演算処理を施すことにより、脳神経の活性化のパターンをデコードして、訓練対象となっている事象に対して事前に取得されている目標活性化のパターンに対する近似度を算出し、算出された近似度に基づいて、近似度に応じた報酬値を算出し、報酬値に対応する呈示情報を生成するための演算装置112と、演算装置112が動作するためのプログラムや、上述した目標活性化のパターンの情報を格納し、かつ、演算装置112のワーキングメモリとして機能を果たすための記憶装置114と、演算装置112からの呈示情報を表示するための信号を出力装置130に対して出力するための出力インタフェース(以下、出力I/F)124とを備える。
【0040】
なお、ここで、「近似度」とは、予め取得された基準となる特定の目標活性化のパターンと現時点の脳神経の活性化のパターンとを比較した場合の「パターンとしての近似度」であってもよいし、あるいは、このような明示的な目標活性化のパターンそのものを基準とするのではなく、予め定められた(1つまたは複数の)評価の尺度に基づいて得られる評価値に照らして、現時点の脳神経の活性化のパターンが目標にどの程度近づいているのかを判定した結果であってもよい。あるいは、「近似度」とは、予め分類された活性化のパターンの複数のクラスうち、現時点の脳神経の活性化のパターンが、いずれのクラスに分類されるかについて、目標となるクラスに属する可能性の程度を示す値(たとえば、尤度)であってもよい。
【0041】
演算装置112は、記憶装置114に格納されたプログラムにしたがって動作し、脳活動検出装置108からの信号を、現在の脳活動がどのような刺激を受けているときの神経活動の活性化状態のパターンに対応するかを導出するために、デコード処理するデコード処理部116と、デコードされた結果が目標活性化のパターンに一致する程度を判定する判定部118と、判定結果に応じて、一致度が大きいほどより大きな報酬値を算出する報酬算出部120と、算出された報酬値に対応する呈示情報を生成する呈示情報生成部122とを備える。
【0042】
なお、ここでは、フィードバック情報として視覚情報を呈示することとしているので、呈示情報生成部122は、報酬値の大きさを示す画像情報を呈示情報として生成する。なお、このような画像情報の具体例については、後に説明する。
【0043】
また、出力装置130から被験者に呈示されるのは、目標活性化のパターンを生じさせるような視覚刺激そのものではなく、あくまで、報酬値に対応する呈示情報である。したがって、訓練装置1000の出力装置130として、ディスプレイを使用している場合であっても、訓練対象となる知覚としては、視覚に限られず、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のように、視覚とは異なるものであってもよい。あるいは、訓練装置1000から被験者に呈示される情報も、画像情報に限られず、音声情報、匂い情報、味の情報、触感の情報のようなものであってよく、これらの情報により報酬値の大きさを被験者が理解できるものであればよい。
【0044】
(知覚学習)
以下では、本実施の形態で使用する刺激と関連する、方位に対する視覚刺激とその知覚学習について簡単に説明する。
【0045】
図2は、このような方位に対する視覚刺激とその知覚学習との関係を示す概念図である。
【0046】
図2においては、縦縞の縞模様図形において、コントラストが異なる3つのパターンPA,PB,PCを例示的に示している。コントラストは、PA→PB→PCの順番で強くなる。
【0047】
一般的な知覚学習においては、知覚学習前(トレーニング前)のコントラスト強度に対する弁別能力をグラフに比べて、知覚学習後(トレーニング後)のコントラスト強度に対する弁別能力が、向上することが観測される。ここで、弁別能力とは、たとえば、ガボールパッチの画像にノイズを付加していったときに、どのレベルのS/N比まで、識別可能であるかにより、特定することができる。
【0048】
図3は、実施の形態の訓練装置1000の知覚学習の手順を概念的に説明する図である。
【0049】
図2のような従来の知覚学習に対して、上述した図1の訓練装置1000では、脳内の所定の領域の脳内活動を検出し、これをデコードして、デコード結果と目標となる活性化パターンとの一致度とに応じた報酬情報を被験者にニューロフィードバックすることで知覚学習を実行するものである。
【0050】
図4は、訓練装置1000の動作を説明するためのフローチャートである。
【0051】
図4を参照して、訓練装置1000では、処理が開始されると(S100)、ある時間にわたって、訓練したい行動を記録し(S102)、このような行動時の脳活動を脳活動検出装置108、たとえば、fMRIで検出した結果から、行動と脳内の神経活動の活性化パターンとの関係についてデコーダをトレーニングすることで、デコーダを構成する(S104)。
【0052】
その後、被験者が自身で念じて誘導した脳内の活性化パターンをデコードし(S106)、報酬値に対応する呈示情報を呈示する(S108)。被験者は、この呈示情報がより大きな報酬値に対応するように、誘導を継続する。そして、訓練のレベルが所定のレベルに達したときに(S110)、処理を終了する(S112)。
【0053】
「訓練のレベルが所定のレベルに達する」とは、たとえば、規定の報酬値のレベル以上となることが、所定の時間だけ継続することなどを判断基準とすることができる。
【0054】
(訓練装置1000による知覚学習)
以下では、訓練装置1000による知覚学習の実験結果について説明する。
【0055】
なお、以下では、被験者の脳内活動を計測する手法としては、fMRIを例にとって説明することにする。
【0056】
後により詳しく説明するが、実験の結果を要約して説明すると、被験者は、連続して呈示される単色の円形図形のサイズをできるだけ大きくするように努力すること依頼された。円形図形のサイズは、被験者の初期視覚野(一次視覚野(V1野)、二次視覚野(V2野))の一時的なfMRI信号活性化パターンが、現実の特定のターゲットとなる方位刺激の提示によって誘起されたパターンとして分類される尤度に比例するようにされた。
【0057】
被験者は、円形図形が何を表現しており、また、正確にどのようにすれば、その円形図形のサイズをコントロールできるのかについては、何ら知識がない状態であった。
【0058】
この手続きの後、知覚行動の能力は、他の方位ではなくターゲットとなった刺激方位に対して著しく改善した。
【0059】
これらの結果は、成熟した脳の初期視覚野の目標とされたニューロンの活性化パターンを反復的に誘導すれば、円形図形サイズが表わしたものの自覚的な意識がなく、実験の企図についての知識のない状態で、外部ターゲット刺激が提示されなくても、知覚学習を引き起こすのに十分であることを示す。
【0060】
図5は、このような知覚学習の実験フローについて説明する図である。
【0061】
まず、被験者には、知覚行動について事前のテストを実施する(S200)。ここでは、ガボールパッチについて、方位の弁別能力のテストを行い、知覚学習前の弁別能力の状態についての情報を得る。
【0062】
以下では、「方位に対する視覚刺激」とは、ある特定の方位に傾いているパターンを被験者に呈示することをいい、具体例としては、たとえば、ある特定方位のガボール(Gabor)パッチを、被験者に呈示することをいうものとする。
【0063】
ここで、ガボールパッチは、視覚科学、特に心理物理学の多くの実験に使われる基本的な刺激パターンのひとつである。これは正弦波縞に2次元ガウス関数をかけたもので、無限に続く正弦波縞の一部を滑らかに切り出したもの、といえる。輝度コントラストの2次元的分布c(x,y)を原点中心として表すと
c(x,y)=Asin(2πfxx)×exp(−(x2/2δ2+y2/2δ2)) …(1)
という形になる(縦縞の場合)。A は振幅、fx は空間周波数であり、ガウス関数の分散δは方位によらず一定である。
【0064】
次に、被験者に、さまざまな方位のガボールパッチを呈示した場合の、その各パッチのパターンについて、fMRIで観測される脳内の神経の活性化パターンを、デコード処理部116がデコード処理するためのトレーニングを実行し、fMRIデコーダを構成する(S202)。特に限定されないが、デコード処理部116は、機械学習アルゴリズムを用いており、学習により、被験者の脳内の神経の活性化パターンを、そのような活性化が生じている際に被験者に呈示される刺激の種類に分類する機能を獲得するものであるとする。
【0065】
なお、ここでは、ガボールパッチをデコーダの構成のための刺激として被験者に呈示している。以下、より一般的に、知覚学習についての学習対象となる事象を表す情報を刺激情報と呼ぶ。
【0066】
続いて、被験者に対して、fMRI装置での観測をしつつ、報酬値に対応した呈示情報を呈示してニューラルフィードバックを与え、知覚学習を実行する(S204)。
【0067】
その後、被験者に対して、ガボールパッチについて、弁別能力のテストを行い、知覚学習後の弁別能力の状態についての情報を得る(S206)。
【0068】
図5の実験のフローについて、より詳しく説明すると以下のとおりである。
【0069】
上述したような4つの実験の段階(S200〜S206)にかけた時間は、以下のようになる。
【0070】
i)事前テスト(1日)、ii)fMRIデコーダの構成(1日)、iii)誘導(デコードされたfMRI ニューロフィードバック、6人の被験者には10日、4人の被験者には5日)、iv)事後テスト(1日)。なお、異なる段階は少なくとも24時間だけ分離された。
【0071】
(事前テストと事後テストの段階)
図6は、図5における実験のフローのうち、事前テスト(S200)と、事後テスト(S206)において、被験者の行ったタスクを説明する図である。
【0072】
事前テスト段階および事後テスト段階では、V1野およびV2野のような初期視覚野の活性化パターンの誘導の結果、ターゲット方位の知覚学習が生じたかどうかテストするために、被験者の方位弁別タスクの能力が測定された。
【0073】
図6に示すように、各テストでは、被験者は、ガボールパッチが提示された後、3つの方位(10°,70°,130°) のうちのどれが提示されたかを報告するように依頼された。
【0074】
図7は、実験の各段階において、被験者に対する刺激呈示のシーケンスを示す図である。
【0075】
図7(a)は、事前テスト段階および事後テスト段階での刺激呈示のシーケンスを示す。まず、300msの期間、ガボールパッチが被験者に呈示され、次の2秒間で、被験者に自分が知覚したガボールパッチの方位を報告してもらう。以上の呈示と報告を所定回数繰り返す。
【0076】
図8は、提示されるガボールパッチの例を示す図である。
【0077】
まず、被験者に呈示されるガボールパッチの方位は、10°,70° or 130°のうちのいずれかである。
【0078】
さらに、呈示されるパターンには、複数のレベルのノイズが重畳されることで、弁別の容易さを変えて呈示している。
【0079】
(fMRIデコーダの構成の段階)
次に、図5に示したfMRIデコーダの構成の段階(S202)について説明する。
【0080】
図9は、このようなデコーダの処理を示す概念図である。
【0081】
デコーダ構成段階は、各被験者に対してガボールパッチ中の3つの方位のうちの各々の提示によって引き起こされるV1野およびV2野からfMRI活性化パターンを得るために実行される。
【0082】
図7(b)に示すように、被験者は、ガボールパッチへの注意を維持することを意図したタスクを行なうように依頼された。すなわち、被験者のタスクは、6秒間の刺激呈示期間と、これに続く、6秒間の方位の報告期間とからなり、このようなタスクを24回実行した。各刺激呈示期間の最初において、ガボールパッチの中央にある凝視ポイントの色が白から緑(図中では、濃いグレーで示す。以下同じ)に変わり、刺激期間が開始されたことを被験者に示した。各ガボールパッチには、50%のノイズが付加された。また、刺激呈示期間中において、その期間内で同一方位のガボールパッチは、1Hzで点滅した。各タスクの試行において、ガボールパッチの方位は、ランダムに選択された。24回の試行のうち、半分の12回の試行では、点滅する6回のガボールパッチのうち5つは同じ空間周波数であるが、1回は空間周波数を増加させた。残りの12回の試行では、空間周波数は変化していない。
【0083】
報告期間においては、ガボールパッチは提示されず、凝視ポイントのみが提示されている。報告期間においては、被験者は、空間周波数の変化があったかについて、ボタンの押下により報告した。
【0084】
V1野とV2野から測定されたfMRI信号は、V1野とV2野の中に仮想的に設定されたボクセル内の活性化の振幅に変換され、測定されたfMRI信号のパターンを、3つの方位のうちの1つへ分類するように、多項分布スパースロジスティク回帰(Multinominal Sparse Logistic Regressuion)デコーダが構成された。
【0085】
スパースロジスティク回帰については、上記非特許文献3、特許文献7(特開2008−178546号公報)の他、以下の文献にも開示がある。
【0086】
文献:相良和彦、田中靖人、竹市博臣、山下宙人、長谷川良平、岡部達哉、前田太郎著、「ブレインコミュニケーション−脳と社会の通信手段−」、電子情報通信学会編、コロナ社、平成23年4月25日初版第1刷発行
また、上記特許文献7においては、このような脳神経活動のデコードにより、脳活動の情報から行動を予測する行動予測方法及び行動予測装置について開示がある。
【0087】
したがって、簡単にまとめれば、スパースロジスティクス回帰とは、ロジスティック回帰モデルをベイズモデルに拡張し、その事前分布としてスパース事前分布である自動関連決定事前分布を用いたものである。スパース事前分布を導入することで、パラメータベクトルが疎ベクトル(少数の要素で値を持ち、それ以外の要素で0となる)となるような制約を課したものであって、「学習のサンプルへの当てはまり」と「疎なパラメータ表現」との2つの基準をバランスして、過学習を避けている。それに加えて、疎なパラメータ表現を得ることによって、パラメータの学習と同時に変数選択も行われる。つまり、学習の過程において、特徴ベクトルの次元のうち、重要でないとされた次元が削除される。
【0088】
言いかえれば、デコーダへの入力は被験者の刻一刻と変わる脳活性化であり、一方で、デコーダの出力は、被験者に提示されている各方位の算出された尤度を表わす。
【0089】
図10は、このような多項分布スパースロジスティク回帰を用いて、被験者の見ている画像を再構成する手続きを説明するための概念図である。
【0090】
図10に示されるように、被験者が特定の画像を見ることで、脳内のV1野とV2野について測定されたfMRI信号は、V1野とV2野の中に仮想的に設定されたボクセル内の活性化の振幅に、脳活動パターンとして変換される。デコード処理部116は、多項分布スパースロジスティク回帰による機械学習アルゴリズムを用いて、空間的に多重解像度を持つデコーダを学習させ、それらを線形モデルに基づいて組み合わせることで視覚像再構成を行っている。
【0091】
(誘導段階:ニューロフィードバック)
次に、図5のステップS204の誘導段階、すなわち、ニューロフィードバックの段階について説明する。
【0092】
図11は、訓練装置1000におけるニューロフィードバックの概念を示す図である。
【0093】
一旦、デコード処理部116が構成されたならば、被験者はそれぞれ、5日間あるいは10日間の誘導段階に参加し、被験者がターゲット方位に相当したV1野およびV2野から活性化パターンを引き起こす方法を学習した。
【0094】
図7(c)が、このような誘導段階のシーケンスを示す。
【0095】
図7(c)および図11に示すように、各テスト中に、被験者は「なんとかして6秒後に示される緑色の円形図形を可能な限り大きくするように、大脳後部の活性化を制御するように (最大の可能なサイズは緑の円の外周に相当する)」と依頼された。
【0096】
フィードバック期間に示された円形図形のサイズはターゲット方位に対するデコーダ出力に相当した。このデコーダ出力は、デコーダの構成段階において得られた、ターゲット方位に分類されているV1野およびV2野からBOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)信号のパターンの尤度の大きさを表わした。
【0097】
すなわち、円形図形のサイズは、誘導期においてfMRI信号から得られたパターンが、前述のデコーダ構成段階中に呈示された、実際のターゲットのガボールパッチの方位によって引き起こされたパターンに、どの程度一致するか(近似度)を、示している。
【0098】
しかしながら、被験者には、円形図形のサイズが何を表わしたものであるかは通知されなかった。被験者は、フィードバック円形図形の平均の大きさに比例したボーナスの支払いを受け取るだろうと伝えられた。
【0099】
図12は、各被験者に割り当てられたターゲットとなる方位を示す図である。
【0100】
ただし、被験者自身には、自分のターゲットの方位がどの方位であるかについては告知されていない。
【0101】
つまり、ターゲット方位、ニューロフィードバックの目的および円形図形サイズの意味を含む他のすべての情報が被験者に与えないでおかれたことに注意されたい。
(誘導段階で被験者が学習した脳内活動の活性化パターン)
被験者が、ターゲット方位が実際に提示されることで誘起される活性化パターンに相当する、V1野およびV2野におけるニューロンの活性化パターンの自身による誘導を、学習することが可能であるかについて、以下、検討する。
【0102】
誘導段階中に、被験者が、ニューロンの活性化パターンを引き起こすことが可能かどうかテストするために、ターゲット方位から±60度だけ回転した他の2つの方位と比較して、選択されたターゲット方位の方へデコーダの出力がバイアスされうるかについて最初に検証した。
【0103】
図13は、誘導段階で、デコーダによって評価された(60度だけ互に相違する)3つの方位の各々の平均の尤度を示す図である。
【0104】
誘導段階で、V1野およびV2野に対するデコーダ出力において、ターゲット方位の平均尤度は、全般的に、複数の被験者にわたって、偶然の確率よりも十分に高かった(t検定の結果:t(9)=3.34、P<10-2)。
【0105】
この結果は、被験者が、他の方位に対して誘起された活性化パターンから識別可能であって、ターゲット方位に対して誘起された活性化パターンによく一致するV1野およびV2野における活性化パターンを誘導しうることを示す。
【0106】
図14は、ニューロフィードバック1日目の最初の段階のテストについて、ターゲット方位に対する被験者間の平均尤度を示す図である。
【0107】
図14によれば、最初の30回のテストについて被験者間の平均尤度は、偶然のレベルのあたりであった。
【0108】
図13と図14の結果の対比から、ターゲット方位に対する大きな方位バイアスがニューロフィードバックの前には存在しておらず、被験者が、ニューロフィードバック 1日目においてさえ、ターゲット方位と一致する活性化パターンを引き起こすことを、すばやく学習したことを示すものである。
【0109】
図15は、V1野およびV2野における、誘導段階の全体にわたる平均的な活性化パターンからデコーダにより算出された3つの方位に対する平均尤度を示す図である。
【0110】
すなわち、図15においては、被験者が、ニューロンの活性化を引き起こす可能性があることをさらに確認するために、同じデコーダを、各被験者の誘導段階中のV1野およびV2野における、各試行における活性化パターンにではなく、全体としての平均的な活性化パターンに適用している。
【0111】
試行ごとのデコードの結果と一致して、ターゲット方位の平均尤度は偶然より十分に高い(t検定の結果:t(9)=2.69、P=0.02)。
【0112】
この結果は、誘導段階中に、被験者は、ターゲット方位の提示によって誘起された活性化パターンに相当したV1野およびV2野におけるニューロンの活性化パターンを一貫して引き起こすことを学習したことを、さらに支持している。
【0113】
(被験者は、誘導段階の目的に気づいていたか?)
事後テスト段階の後、被験者は、フィードバックされる円形図形のサイズが何を表していたと思ったかについて質問された。しかし、被験者の回答のどれも、実験の真の作用とは全く関係がなかった。
【0114】
その後、円形図形サイズが3つの方位のうちの1つの確率を表わしたと伝えられた後、被験者は3方位のうちの1つを選んで、訓練されたと彼らが思った方位を報告するように依頼された。10人の被験者のうちの3人の被験者だけが、正確に彼または彼女のターゲット方位を選んだ。このような報告の結果についてのターゲット方位の選択の割合は、偶然として期待されるものとは本質的には区別できない(χ2乗検定、χ2 = 0.20,P = 0.90)。これらの結果は、被験者が誘導段階の目的にもニューロンの活性化の誘導パターンに対応する方位にも気づいていなかったことを示唆する。
【0115】
誘導段階の目的は、被験者にデコーダ構成段階でターゲット方位の提示によって誘起されたパターンに相当したV1野およびV2野における活性化パターンを引き起こすことを学習させ、さらに、その活性化パターンを誘導し続けることである。
【0116】
上述したように、誘導段階の1日目において、すでに、被験者は、他の2つの方位よりも、ターゲット方位として分類される活性化パターンをより頻繁に誘導することを学習し、この傾向は、ニューロフィードバックの試行が進行するとともに、より強くなっていくことが示された。
【0117】
(知覚学習による弁別精度の向上)
図16は、事前テストおよび事後テストにおける弁別能力を比較した図である。
【0118】
3要因(テスト段階×方位×S/N比)についての反復測定分散分析により、S/N比が主効果(F(3,27)=683.17、P<10-4)を示し、テスト段階と方位およびS/N比の間で有意な交互作用が示された(F(6,54)=2.68、P=0.02)。
【0119】
図17は、事後テストと事前テストとの差である弁別感度の改善d´を示す図である。
【0120】
事前テストおよび事後テストについての事後のt検定では、6%のS/N比(t(9)=5.76、P<10-2 12回の比較のボンフェローニの補正をした)でターゲット方位の弁別の能力が有意に改善することが明らかになった。
【0121】
事後テストと事前テストとの差である弁別感度の改善d´は、6%のS/N比において、ターゲット方位に対して有意に0を超えるものであった(t(9)=5.60、P<10-3、3回の比較によるボンフェローニの補正を行った)。
【0122】
これらの結果から、ターゲット方位の提示によって誘起されたパターンに対応するV1野およびV2野から活性化パターンを、当該パターンの呈示がない状態で、単に反復誘導することによって、その方位に特有の知覚学習を引き起こしたと結論することができる。
【0123】
(V1野とV2野からターゲット方位の尤度と感度(d´)変化の関係)
図18は、誘導段階の日数と弁別感度の改善d´との関係を示す図である。
【0124】
10日間のトレーニング(誘導)をした被験者に対する感度変動は、5日間のトレーニングのそれより大きかった。知覚学習の大きさは、それが漸近線に達するまでは、より長いトレーニングの方がより大きいという一般的傾向と一致していた。
【0125】
図19は、各被験者のすべての試行に対する、ターゲット方位の尤度の加重を計算し、加重に対する感度変動をプロットした図である。
【0126】
相関は、平均尤度(r=0.74、P=0.01)より、加重された尤度(r=0.87、P=10-3)では、さらに強かった。
【0127】
したがって、fMRIによる ニューロフィードバックが引き起こしたパターンが、ターゲット方位の実際の提示によって誘起されたパターンのそれにより近いほど、さらに、トレーニングがより長いほど、トレーニングの後のパフォーマンス向上がより大きくなることが示された。
【0128】
図20は、6人の新しい被験者による対照実験の結果を示す図である。
【0129】
すなわち、主実験中で観察された知覚学習が、被験者が、単にテスト段階への参加したことに起因したかどうかテストするために、6人の新しい被験者による対照実験を行ない、これらの被験者に対しては、事前および事後テスト段階が、誘導段階なしで実行された。事前テストと事後テストの間の時間間隔は主実験の中に平均時間隔と同一であった。
【0130】
図20に示されるように、有意なパフォーマンス向上は、観察されず、主実験中の知覚学習が単にテスト段階の影響によらなかったことを示した。
【0131】
なお、以上の説明では、被験者が弁別する方位は3種類であるものとして説明したが、もちろん3種類に限定されるものではなく、より多くてもよい。また、弁別の対象となる視覚情報は、上記のような方位の弁別であることにも限定されるものではなく、初期視覚野のニューロンが応答する他の視覚刺激、たとえば、空間周波数や色などであってもよい。また、被験者が弁別する対象は、視覚情報にも必ずしも限定されず、より一般に、「どのクラスに分類されるかという識別問題に帰着することができる認知」に係る対象であればよい。
【0132】
以上説明したように、本実施の形態の訓練装置によれば、具体的な刺激情報を被験者に呈示することなく、神経活動のデコーディング方法を使用した知覚学習を実施することが可能となる。
【0133】
なお、上述のとおり、知覚学習自体は、すべての感覚器、すなわち視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚のそれぞれにおいて起こることが確認されていることから、訓練装置1000の用途としては、以下のようなものが想定される。
【0134】
i)リラクセーショントレーニング
リラクセーショントレーニングとは、スポーツにおいて、競技直前に起こる過緊張や競技不安を軽減するために、緊張感や不安感に対する感じやすさを低減するためのトレーニングである。自分自身が精神的にリラックスした状態の脳内活動と、訓練中の脳内活動の状態とを比較して、リラックスしている状態との一致の程度をフィードバック情報としてフィードバックすることで、訓練装置1000により、リラクセーショントレーニングを実行することが可能である。
【0135】
なお、このようなリラクゼーションの用途としては、スポーツのトレーニングのような場合に限定されず、より一般的には、通常の生活において、休息時に、より深いリラクセーションを使用者にもたらすことを目的として使用することも可能である。
【0136】
ii)イメージトレーニング
イメージトレーニングとは、練習や試合場面を想定してその視覚像や筋運動感覚などをできるだけリアルにイメージして、試技の流れや会場の雰囲気などをあらかじめシミュレーションして、競技中のあがりを少なくするための集中力を保つための方法である。
【0137】
このような意味でのイメージトレーニングは、すでに、本番でリラックスした状態で本来の能力を発揮できるためのメンタルトレーニングとして適用が行われている。
【0138】
ここで、「本番での協議の実行のための緊張感があり、かつ、肩の力を抜いている状態が両立している脳内の活動状態」を事前にデータとして取得できていれば、このような脳内の活動状態と、訓練中の脳内の活動との一致の程度をフィードバック情報として、被験者にフィードバックすれば、訓練装置1000でメンタルトレーニングを実行することが可能である。
【0139】
また、イメージトレーニングは、運動技術の習得のための補助的な練習にも使用されている。したがって、たとえば、ゴルフにおいて、ナイスショットしたときの脳内の活動の状態を事前にデータとして取得しておき、訓練中の脳内の活動との一致の程度をフィードバック情報として、被験者にフィードバックすれば、訓練装置1000で、運動技術の習得のためのメンタルトレーニングを実行することが可能である。
【0140】
iii)脳機能に起因する病気の治療
たとえば、うつ病などの気分障害の場合や、認知症などで、脳機能の一部に低下の傾向が現れた場合、現在では、薬物により、一定程度、症状を抑制したり、病気の進行を抑制することが可能となっている。これに加えて、望ましい状態にあるときの脳内の活動状態のデータを事前に取得しておけば、訓練装置1000による訓練が、病状の改善に有効である可能性がある。
【0141】
また、脳の一部が外傷などにより損傷を受けた場合に、脳の他の部位が損傷部分の機能を代償する可能性があることが知られている。そこで、このような代償が進みつつある部分の脳活動を計測して、フィードバックすることで、訓練装置1000をリハビリテーションの手法として使用できる可能性がある。
【0142】
iv)嗅覚・味覚・触覚のトレーニング
嗅覚・味覚・触覚については、一般には、人工的に訓練のための刺激を作り出すことが容易でない。しかし、訓練装置1000では、このような刺激そのものを人工的に生成する必要がないため、このような知覚を対象として訓練を行うことが可能である。
【0143】
v)記憶力の向上
ノンレム睡眠中における外部からの一定周波数の刺激が、記憶の定着に有効であるとの報告が、以下の文献にある。
【0144】
文献:Lisa Marshall,Halla Helgadottir,Matthias Molle,Jan Born,”Boosting slow oscillations during sleep potentiates memory”,Nature,Vol.444,30 November 2006,pp 610-613
したがって、外部からの刺激が脳内の記憶の定着に関わる部分の活性化に影響を与えているといえる。言い換えれば、このような活性化する部位についての活動の状態を事前にデータとして取得しておき、かつ、睡眠中の被験者に、報酬を与えることができれば、訓練装置1000を、睡眠中の記憶の定着を補助する装置として使用することが可能である。このような報酬としては、たとえば、被験者にとって、睡眠中に好ましい香りを与えたり、逆に、望ましくない状態であるときには、弱い機械的または電気的な不快な刺激を被験者に与えることなどが想定される。
【0145】
なお、訓練装置1000では、出力装置130から被験者(学習者)に呈示されるのは、目標活性化のパターンを生じさせるような刺激情報そのものではなく、あくまで、報酬値に対応する呈示情報であり、被験者は、学習の対象となる事象そのものについて知っている必要はない。このため、学習の対象となる事象が、被験者にとっては、学習前には、嫌悪する対象あるいは忌避すべきと感じるような対象であっても、このような対象について学習することが可能である。たとえば、特定の事物に対して、日常生活や社会活動に支障を来たすような恐怖を感じる「恐怖症(恐怖性障害)」というような症状が現れる場合があるが、このような症状の緩和のための訓練に使用したりすることも可能である。
【0146】
以上のとおり、訓練装置1000は、脳機能についての「訓練」にとどまらず、より一般的には、脳機能の亢進を支援することが可能であり、この意味で、上述したような手順を実現できる装置のことを「脳機能亢進支援装置」と呼ぶことにする。
(実施の形態2)
以下では、実施の形態2の訓練装置の構成について説明する。
【0147】
まず、図21は、脳活動を観測する観測手段としてのブレインキャップを示す模式図である。
【0148】
ブレインキャップ10は、人間の頭部を覆う帽子状のホルダ10Aに、第1センサ11及び第2センサ12を複数個(例えば、数十個〜数百個)ずつ設けた構成をなしている。図21では、説明のために間隔をあけた状態を模式的に記載しているが、これらの第1センサ11及び第2センサ12は、等ピッチ(例えば、数ミリメートル間隔)で配置されている。
【0149】
なお、脳活動の検出を行う領域が、予め限定されている場合には、ブレインキャップ10において、ホルダ10Aの特定の領域に限定して、第1センサ11及び第2センサ12を設ける構成とすることもできる。
【0150】
第1センサ11は、例えば、脳活動の際に生じる電気活動を非侵襲的に計測するための脳波計(EEG)センサである。ブレインキャップ10に配置された第1センサ11は、脳波計(EEG)を構成し、各センサ11,11,…が設置された位置にて脳活動に伴う脳磁場の経時的変化を計測して出力する。第1センサ11は時間分解能に優れており、ミリ秒単位での計測が可能である。
【0151】
第2センサ12は、例えば、NIRSの近赤外センサであって、比較的短い波長を持つ赤外光を出射する発光素子とその赤外光の反射光を受ける受光素子とが一組として構成されており、発光素子からの出射光の脳内での吸収量に基づいて脳血流の状態を非侵襲的に計測する。各センサ12,12,…は、自身が設置された各部位における脳血流を計測して出力する。第2センサ12は、電場又は磁場のように他の領域からの影響を受けないため空間分解能に優れており、数ミリメートル〜数十ミリメートル単位での計測が可能である。
【0152】
このような第1センサ11及び第2センサ12は、小型の構成であっても脳活動を観測することができるため、前述したようなブレインキャップ10に簡単に取り付けることができ、大型の構成を必要としない。
【0153】
本実施の形態では、図21に示したブレインキャップ10を利用して被験者の脳活動を時系列的に観測し、得られた観測データに基づいて被験者の脳活動を予測する。
【0154】
図22は、実施の形態2の訓練装置2000の機能ブロック図である。
【0155】
実施の形態2の訓練装置2000の構成が実施の形態1の訓練装置1000の構成と異なる点は、以下のとおりである。
【0156】
まず、第1に、脳活動を検出するための検出器として、上述したブレインキャップ100を使用する形態となっていることである。
【0157】
第2には、ブレインキャップ100からの計測信号を所定の送信フォーマットに変換する演算部128と、この送信フォーマットに変換された信号を演算処理装置102へ送信する通信部126とを備えた訓練端末106が設けられる構成となっていることである。さらに、訓練端末106では、通信部126により受信した、訓練のためのフィードバック情報を、演算部128が呈示情報としてディスプレイ装置130により、被験者に呈示する。
【0158】
これに応じて、演算処理装置102は、入力I/F110および出力I/F124に代えて、訓練端末106との間で、たとえば、無線通信するための入出力インタフェース(以下、入出力I/F)111が設けられる。
【0159】
なお、訓練端末106と演算処理装置102とが別体となっていることが本質的であるので、訓練端末106と演算処理装置102との通信方式としては、単に2つの装置間を直接つなぐ無線通信であることに限定されず、たとえば、ネットワーク経由で通信する構成であってもよい。また、報酬値に対応する呈示情報を生成するのは、演算処理装置102側の呈示情報生成部122であってもよいし、あるいは、訓練端末106の側で、演算部128が、報酬値を演算処理装置102から受け取り、呈示情報を生成する構成としてもよい。
【0160】
第3に、演算処理装置102は、訓練端末106から送信された計測信号を処理してデコード処理部116でデコードが可能なフォーマットの信号を生成するための前処理部114を備える構成となっていることである。
【0161】
すなわち、実施の形態2の訓練装置2000では、実施の形態1において脳内の所定の領域における脳活動を検出するための脳活動検出装置108の奏する機能を、ブレインキャップ100、訓練端末106および前処理部114により実現する構成となっている。
【0162】
その他の部分は、実施の形態1の訓練装置1000の構成と同様であるので、その説明は繰り返さない。
【0163】
以上のような構成とすることにより、実施の形態2の訓練装置2000では、実施の形態1の訓練装置1000の奏する効果に加えて、被験者は、ブレインキャップ100を装着して、演算処理装置102に比べて小型である訓練端末106を保持した状態で訓練を実施することができるので、被験者の行動が束縛されない、という効果がある。また、ディスプレイ装置130は、フィードバック情報のみを表示すればよいので、小型化を実現しやすい。なお、実施の形態2の訓練装置2000も、脳機能亢進支援装置として使用することが可能である。
【0164】
今回開示された実施の形態は、本発明を具体的に実施するための構成の例示であって、本発明の技術的範囲を制限するものではない。本発明の技術的範囲は、実施の形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲の文言上の範囲および均等の意味の範囲内での変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0165】
108 脳活動検出装置、102 演算処理装置、106 訓練端末、110 入力I/F、111 入出力I/F、112 演算装置、114 記憶装置、デコード処理部116と、118 判定部、120 報酬算出部、122 呈示情報生成部、124 出力I/F、130 出力装置、1000,2000 訓練装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の脳内の所定の領域における脳活動を示す信号を検知するための脳活動検知手段と、
前記脳活動検知手段により検知された信号から、脳神経の活動のパターンをデコードするためのデコード手段と、
脳機能を亢進させる対象となっている事象に対して事前に取得されている目標活性化のパターンについての情報を格納するための記憶手段と、
前記デコード手段のデコード結果に基づいて、前記目標活性化のパターンに対する前記デコード結果の近似度に応じて、前記近似度に対応する報酬値を算出する演算手段と、
前記報酬値の大きさを示す呈示情報を前記被験者に対して呈示するための出力手段とを備える、脳機能亢進支援装置。
【請求項2】
前記演算手段は、前記呈示情報として、前記事象を呈示することなく前記報酬値に対応する前記呈示情報を呈示するための情報を、前記出力装置に対して出力する、請求項1記載の脳機能亢進支援装置。
【請求項3】
前記事象は、脳内において、いずれのクラスに分類されるかという識別問題に帰着される認知の対象であり、
前記デコード手段は、前記脳神経の活動パターンがいずれのクラスに対応するかの尤度を算出する、請求項2記載の脳機能亢進支援装置。
【請求項4】
前記出力手段を含む支援端末と、
前記デコード手段と前記記憶手段と、前記演算手段とを含む演算処理装置とを備え、
前記支援端末は、前記脳活動検知手段により検知された信号を前記デコード手段に送信するための通信手段を含む、請求項2または3記載の脳機能亢進支援装置。
【請求項5】
前記デコード手段は、初期視覚野等の特定の脳部位における脳神経の活動をデコードする、請求項1または2記載の脳機能亢進支援装置。
【請求項6】
前記脳活動検知手段は、機能的核磁気共鳴映像装置を含む、請求項1または2記載の脳機能亢進支援装置。
【請求項7】
前記脳活動検知手段は、頭蓋外部からの近赤外光および脳波の計測手段を含む、請求項1または2記載の脳機能亢進支援装置。
【請求項8】
被験者の脳内の所定の領域における脳活動を示す信号を検知するための脳活動検知装置の信号から、脳神経の活動のパターンをデコードするためのデコード装置を用いた脳機能亢進支援方法であって、
前記脳活動検知手段により検知された信号から、前記デコード装置により脳神経の活動のパターンをデコードするステップと、
脳機能を亢進させる対象となっている事象に対して事前に取得されている前記目標活性化のパターンに対する前記デコード結果の近似度に応じて、前記近似度に対応する報酬値を算出するステップと、
前記被験者に対して、前記報酬値の大きさを示す呈示情報を呈示するステップとを備える、脳機能亢進支援方法。
【請求項9】
前記呈示情報を呈示するステップにおいては、前記呈示情報として、前記脳機能の亢進対象となっている事象を呈示することなく前記報酬値に対応する前記呈示情報を呈示するための情報を、出力装置に対して出力する、請求項8記載の脳機能亢進支援方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図16】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−99392(P2013−99392A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244048(P2011−244048)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)文部科学省、平成23年度科学技術試験研究委託事業「日本の特長を活かしたBMIの統合的研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(393031586)株式会社国際電気通信基礎技術研究所 (905)
【Fターム(参考)】