説明

脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物

【課題】神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用の優れた脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物を提供する。
【解決手段】本発明の脳機能改善剤は、シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とする。該脳機能改善剤は神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用を有するため、医薬品、飲食品、飼料等の脳機能改善組成物の有効成分として使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物に関し、さらに詳しくは主に柑橘類に含まれる特定の香味成分又はその生体内代謝物を含有する脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、レモン、ライム、グレープフルーツ、スダチ等の柑橘類由来の精油(柑橘オイル)には、香り成分、芳香成分、芳味成分などとして知られているリモネン、シトラール、リナロール、ヌートカトン等の香味成分が多量に含有されていることが知られている。それらの香味成分の一部は、アロマテラピーや香料、芳香剤などに利用され、リラックス効果や抗ストレス効果等があることが確認されている。リモネンは柑橘オイルを中心に、植物オイルに広く含まれる成分である。シトラールはレモンの特徴的な香りとしてレモンやレモングラスなどに多く含まれている。またヌートカトンはグレープフルーツの特徴的な香味成分として知られている。また、リナロールは柑橘類以外にもクスノキ科ホウショウにも多く含まれ芳樟油とも呼ばれる。
【0003】
柑橘オイル成分中の主要成分であるリモネンは、生体摂取後、生体内の酵素により酸化誘導体としてのペリリルアルコール(ペリラアルコール)やペリラ酸に速やかに代謝される。従来より、これら代謝物は特許文献1に記載されるようにガン増殖抑制作用等の薬理効果を有していることが知られている。また、同代謝物は、特許文献2に記載されるようにドーパミンやセロトニン等の神経伝達物質の放出を亢進する作用を有していることも知られている。また、リモネンやシトラールは、神経伝達物質を介したストレス軽減作用があること、リモネンでは光学異性体(R−,S−)により差異があること、リモネン代謝物はリモネンよりも神経伝達物質代謝に強く影響を及ぼすことが報告されている。リモネンの光学異性体であるR−体は柑橘類を中心に天然に広く見られるが、S−体はミントやシソなど一部の植物に含まれる希少な精油成分である。柑橘類の中でもレモンはS−リモネンを多く含むことが知られている。生体内におけるリモネン代謝物であるペリラ酸やペリリルアルコールは、植物中においてはミント類やシソなどに多く含まれることが知られている。
【特許文献1】特表平9−510446号公報
【特許文献2】特開2005−330252号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、主に柑橘類に多く含まれる特定の香味成分又はその生体内代謝物が脳機能改善作用を有するという知見に基づいてなされたものである。その目的とするところは、神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用の優れた脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1記載の脳機能改善剤は、シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とすることを特徴とする。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の脳機能改善剤において、シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とするとともに神経成長因子増強剤として使用される。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の脳機能改善剤において、前記シトラール、リモネン及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とするとともに記憶学習能向上剤として使用される。
【0008】
請求項4記載の脳機能改善組成物は、請求項1から請求項3のいずれか一項記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する。
請求項5記載の発明は、請求項4記載の脳機能改善組成物において、飲食品、医薬品及び飼料から選ばれる少なくとも一つとして使用される。
【0009】
請求項6記載の脳機能改善剤は、経口摂取により生体内に投与されるとともに、シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とする。
【0010】
請求項7記載の脳機能改善組成物は、請求項6記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する。
請求項8記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項記載の脳機能改善剤において、前記シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分の有効成分は、柑橘オイルとして配合される。
【0011】
請求項9記載の発明は、請求項8記載の脳機能改善剤において、前記柑橘オイルはレモンオイルである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用の優れた脳機能改善剤及びそれを含有する脳機能改善組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した脳機能改善剤の一実施形態を詳細に説明する。
本実施形態の脳機能改善剤は、脳機能改善作用を有するシトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分として含有する。また、リモネンは生体内において代謝により酸化誘導体としてのペリリルアルコール及びペリラ酸に変換されるため、ペリリルアルコール及びペリラ酸の代わりにリモネンを適用してもよい。本実施形態における脳機能改善作用とは、具体的には神経成長(栄養)因子の増強作用、記憶学習能の向上作用が挙げられる。
【0014】
神経成長因子は、神経細胞の分化を促進し、その生存を維持する作用を有するタンパク質群である。神経成長因子は、具体的にはNerve Growth Factor(NGF)、Brain-derived Neurotrophic Factor(BDNF)等のニューロトロフィン類、増殖因子類、及びサイトカイン類等が挙げられる。神経成長因子は、一般に発生期の神経細胞の分化の促進や生理的な神経細胞死を抑制することで、生体内の神経ネットワークの構築を制御しており、標的細胞から供給されるシナプス形成を導く実体であると考えられている。生体内における神経成長因子の作用の低下は脳機能の老化・変性が進行する原因となると考えられている。本実施形態の脳機能改善剤は、神経成長因子を増強する作用に優れているシトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分として含有するため、優れた神経細胞の老化・変性防止作用を発揮することができる。つまり、本実施形態の脳機能改善剤は、神経成長因子増強剤として好適に使用され得る。神経成長因子増強剤としては神経成長因子を増強する作用に特に優れているシトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸が有効成分として好ましい。これらの有効成分は単独で配合してもよく、二種以上を組み合わせて配合してもよい。尚、リモネンは生体内において代謝により酸化誘導体としてのペリリルアルコール及びペリラ酸に変換されるため、ペリリルアルコール及びペリラ酸の代わりにリモネンを適用しても同様の効果を得ることができる。脳機能改善剤の投与により神経の変性部位が脊髄前角運動ニューロンである筋萎縮性側策硬化症、変性部位が大脳皮質ニューロンであるアルツハイマー病及び変性部位が中脳黒質ドーパミンニューロンであるパーキンソン病等の神経変性疾患の改善効果が期待される。
【0015】
また、本実施形態の脳機能改善剤を生体内に投与することにより、神経ネットワークの構築による記憶学習能の向上、及びアセチルコリン、ドーパミンなど神経伝達物質の作用増強効果が期待できる。つまり、本実施形態の脳機能改善剤は、記憶学習能向上剤として好適に使用され得る。記憶学習能向上剤としては記憶学習能を向上する作用に特に優れているシトラール、リモネン及びペリラ酸が有効成分としてより好ましい。これらの有効成分は単独で配合してもよく、二種以上を組み合わせて配合してもよい。尚、また、リモネンは生体内において代謝により酸化誘導体としてのペリラ酸に変換されるため、ペリラ酸の代わりにリモネンを適用しても同様の効果を得ることができる。
【0016】
脳機能改善作用を有するシトラール、リナロール、ヌートカトン及びリモネンは、主に柑橘類において芳味成分の一種として多く含有されている。特に柑橘類の果皮の表面にある油胞より搾出される精油(柑橘油)中に多く含有されている。シトラール(citral,C1016O,分子量152.24)は、テルペン系アルデヒド類に分類され、レモン等の柑橘類やレモングラスなどの精油に高含有されている。シトラールを含むテルペン系アルデヒド類には、抗炎症作用及び抗真菌作用を始めとして、鎮痛作用、結石溶解作用、鎮静作用、消化促進作用、血圧降下作用、抗ウイルス作用、抗菌作用などが知られている。リナロール(linalol,C1018O,分子量154.25)は、モノテルペンアルコールに分類され、柑橘類全般に含まれている。また、クスノキ科ホウショウにも多く含まれ芳樟油とも呼ばれる。ヌートカトン(nootkatone,C1522O,分子量218.33)は、セスキテルペンケトンに分類され、グレープフルーツ中において芳味成分として多く含まれている。
【0017】
リモネン(limonene,C1016,分子量136.24)は、単環式モノテルペン炭化水素であり、レモン様香気を有する液体成分である。リモネンはオレンジ、レモン、グレープフルーツ等の柑橘類全般に多く含まれる。また、ミントにも多く含まれる。リモネンには、R−リモネン(D−リモネン)及びS−リモネン(L−リモネン)の互いに鏡像関係にある光学異性体が存在している。R−リモネンはオレンジやレモン等の柑橘類に含まれ、S−リモネンは特にレモンの精油に高含有されることが特徴的である。また、S−リモネンはR−リモネンよりも記憶学習能向上作用が高いことが確認されている。リモネンは、生体内で代謝されると、酸化誘導体であるペリラ酸を経て代謝産物であるペリリルアルコールを生成する。
【0018】
ペリラ酸(perillic acid 又は perilla acid)は、R−ペリラ酸及びS−ペリラ酸の互いに鏡像関係にある光学異性体が存在しているが、作用効果の優れるS−ペリラ酸が好ましい。ペリリルアルコール(perillyl alcohol又は perilla alcohol)は、R−ペリリルアルコール及びS−ペリリルアルコールの互いに鏡像関係にある光学異性体が存在している。ペリラ酸やペリリルアルコールは、植物中においてはミント類やシソなどに多く含まれることが知られている。S−ペリリルアルコールは、R−ペリリルアルコールよりも神経突起の伸長作用が高い。ペリリルアルコール及びペリラ酸はリモネンよりも神経突起の伸長作用が高く、またペリリルアルコールはペリラ酸よりも神経突起の伸長作用が高い。
【0019】
シトラール、リナロール、ヌートカトン及びリモネンを取得するための原料としては、柑橘類の果実、又はその果実の構成成分の一部を含有するものが用いられ、好ましくはレモン果実を構成する果皮(アルベド、フラベド)、果汁等が用いられる。さらに、前記原料としては、製造に要する手間を省くとともに前記柑橘類果実の有効利用を容易に図ることができることから、前記柑橘類果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣又はそれから水、親水性有機溶媒(メタノール又はエタノール)等の溶媒を用いて圧搾または抽出した抽出物を使用するのが最も好ましい。
【0020】
前記各成分の精製方法としては、上述した果皮の圧搾による抽出及び有機溶媒や水などによる抽出方法の他、公知の方法を用いることにより実施することができる。例えば、芳香成分の水蒸気蒸留による分留、超臨界抽出、液化炭酸ガスによる抽出や精製、芳香成分のクロマトグラフィー(カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、分取ガスクロマトグラフィー等)による分画等の方法を単独または組み合わせて実施することにより精製することができる。本実施形態の脳機能改善剤は、好ましくは各精製法により精製された各有効成分が適用される。しかしながら、柑橘類より粗抽出され、各有効成分が夾雑される柑橘オイルとして適用してもよい。かかる場合においても、記憶学習能の向上効果、及びアセチルコリン、ドーパミンなど神経伝達物質の作用増強効果が期待できる。柑橘オイルとしては、各有効成分が多く含有されるレモンより抽出されたレモンオイルが好ましく適用される。
【0021】
本実施形態の脳機能改善剤は、主に脳機能改善作用を効果・効能とする医薬品、医薬部外品、健康食品、健康飲料、栄養補助食品、動物用医薬品、飼料等の脳機能改善組成物の有効成分として配合されることにより摂取される。また、脳機能改善剤は、神経成長因子の増強作用を有することから、脳機能の低下を抑える脳機能低下予防剤にもなり得る。
【0022】
本実施形態の脳機能改善剤を脳機能改善組成物の一つである医薬品として使用する場合は、服用(経口摂取)により投与する場合の他、血管内投与、経皮投与等のあらゆる投与方法を採用することが可能である。剤形としては、特に限定されないが、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤等が挙げられる。また、添加剤として賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤、安定剤等を配合してもよい。この脳機能改善剤を医薬品として摂取する場合には、成人1日当たり香り成分(上記有効成分)含有量として好ましくは0.001〜2000mg/kg(体重)、より好ましくは0.01〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは0.1〜10mg/kg(体重)である。香り成分含有量として好ましくは、0.005〜5000mg/kg(体重)、より好ましくは0.05〜500mg/kg(体重)、最も好ましくは0.3〜30mg/kg(体重)である。この医薬品において、香り成分の1日当たりの摂取量が0.001mg未満の場合には前記有効成分による脳機能改善作用を効果的に高めることができないおそれがあり、逆に2000mgを越える場合には不経済であるとともに、それ以上の脳機能改善効果は得られない。
【0023】
本実施形態の脳機能改善剤を脳機能改善組成物の一つである飲食品として使用する場合、種々の食品素材又は飲料品素材に添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、顆粒状、液状(ドリンク剤等)、カプセル状、シロップ、キャンディー等の形状に加工して健康食品製剤、栄養補助食品等として使用することができる。前記飲食品としては、具体的にはスポーツドリンク、茶葉、ハーブなどから抽出した茶類飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品、ペクチンやカラギーナン等のゲル化剤含有食品、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖やデキストリン等の糖類、香料、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の甘味料、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を含有する飲料品や食料品が挙げられる。また、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤等を適宜添加してもよい。この脳機能改善剤を飲食品を摂取する場合には、成人1日当たり香り成分(上記有効成分)含有量として好ましくは0.001〜2000mg/kg(体重)、より好ましくは0.01〜100mg/kg(体重)、最も好ましくは0.1〜10mg/kg(体重)である。香り成分含有量として好ましくは、0.005〜5000mg/kg(体重)、より好ましくは0.05〜500mg/kg(体重)、最も好ましくは0.3〜30mg/kg(体重)である。尚、飲食品として定期的且つ長期的に摂取する場合、0.001〜0.01mg/kg(体重)の低濃度の配合量であっても効果を十分に発揮することができる。この飲食品において、香り成分の1日当たりの摂取量が0.001mg未満の場合には前記有効成分による脳機能改善作用を効果的に高めることができないおそれがあり、逆に2000mgを越える場合には不経済であるとともに、それ以上の脳機能改善効果は得られない。本実施形態の脳機能改善剤を含有する飲食品は、上記芳香成分を有効成分として含有するものであり、該有効成分(シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸)が発揮する高い脳機能改善作用によって、神経細胞の老化・変性等を抑えて高い健康増進効果を発揮する。
【0024】
本実施形態の脳機能改善剤によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の脳機能改善剤は、脳機能改善作用を有するシトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の柑橘類香味成分を有効成分として含有する。したがって、主として柑橘類に多く含まれる芳香成分により優れた神経成長因子の増強作用及び記憶学習能の向上作用により高い健康増進効果を発揮することができる。
【0025】
(2)上述した柑橘類に含まれる芳香成分としての各有効成分は、生体内吸収性(特に経口摂取したときの吸収性)に優れているため、生体内において高い脳機能改善作用を発揮することができる。また、リモネンは生体内において代謝により酸化誘導体としてのペリリルアルコール及びペリラ酸(代謝産物)に変換されるため、ペリリルアルコール及びペリラ酸の代わりにリモネンを適用しても同様の効果を得ることができる。
【0026】
(3)本実施形態の脳機能改善剤において、有効成分であるシトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分は、神経成長因子を増強する作用に特に優れている。したがって、神経成長因子増強剤として好適に使用することができる。
【0027】
(4)本実施形態の脳機能改善剤において、有効成分であるシトラール、リモネン、リモネン及びペリラ酸は、記憶学習能を向上する作用に特に優れている。したがって、記憶学習能向上剤として好適に使用することができる。
【0028】
(5)本実施形態における前記香味成分は、柑橘類に多く含有されるため抽出処理することにより、各有効成分を容易かつ適切に生成・入手することができる。また、夾雑物として含有される粗抽出物でも同様の効果を発揮することができるため、天然成分由来の原料として入手することが可能であり、安全性が高く、医薬品、飲食品に容易に適用することができる。
【0029】
(6)前記芳香成分を含有する原料として、柑橘類等の果実から果汁を搾汁した後の搾汁残渣又はそれから水、親水性有機溶媒(メタノール又はエタノール)等の溶媒を用いて抽出したものを成分含有抽出物とした。したがって、これら柑橘類の果汁を用いるのと比較して、極めて容易に大量の芳香成分を容易に得ることができる。さらに、前記搾汁残渣は、前記柑橘類の果汁を含む飲料品等を製造する際に大量に廃棄されるものを利用することができるため、極めて安価に入手することができるうえ、食品リサイクル法の観点からもより好ましい。
【0030】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態においては、上記有効成分は、各有効成分が多く含有される柑橘類より抽出した。しかしながら、各有効成分は化学的に合成したものでもよく、市販品等を使用してもよい。
【0031】
・上記実施形態において、リナロールは柑橘類より抽出した。しかしながら、クスノキ科ホウショウから抽出される芳樟油を適用してもよい。
【実施例】
【0032】
次に、各試験例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
試験例1(レモン果実に含まれる香り成分の神経突起伸長の評価)
レモン果実に含まれる香り成分に着目し、表1に示される10種類の各試料について、ラット副腎髄質褐色細胞種由来細胞株であるPC12細胞(ラット副腎皮質由来親クロム性細胞腫;購入したものを継代して使用)を用いた神経突起伸長活性の評価を行った。
【0033】
<試料及び評価方法>
レモンオイルAは、レモン果皮から圧搾した精油を使用した。(芳香成分としてシトラールを約0.3%、リモネンを約60%、リナロールを約1%含む。その他、γ−テルピネン、β−ミリセン、β−ピネン、α−ピネンを含有する。)レモンオイルBは、レモン果皮から圧搾した精油を使用した。(芳香成分としてシトラールを約0.6%、リモネンを約40%、リナロールを約0.2%含む。その他、γ−テルピネン、β−ミセリン、β−ピネン、α−ピネンを含有する。)
R−リモネンはシグマ−アルドリッチ社製(純度97%)、S−リモネンはシグマ−アルドリッチ社製(純度96%)、R−ペリリルアルコールはシグマ−アルドリッチ社製(純度99%)、S−ペリリルアルコールはシグマ−アルドリッチ社製(純度96%)、S−ぺリラ酸はシグマ−アルドリッチ社製(純度95%)、シトラールは和光純薬工業社製(純度95%)、リナロールは和光純薬工業社製(純度98%)、ヌートカトンはAlfaAesar社製(純度98%)を使用した。
【0034】
PC12細胞を24穴プレートに2×104(cells/ウェル)となるように播種し0.5%FBS(牛胎児血清)含有DMEM培地(ダルベッコ改変イーグル培地;日水製薬社製、牛血清(コスモバイオ社製)と馬血清(GIBCO社製)を混合したもの)を用いてCO2インキュベーター内、37℃で24時間培養後培地交換した。培地交換24時間後に、各ウェルに対して、DMSO(ジメチルスルホキシド;和光純薬社製)で希釈した各香り成分を100μM、神経成長因子(NGF;R&D systems社製)を1.5ng/mlとなるように投与した。投与後48時間後に顕微鏡を用い、各ウェル内を観察し、約100個のPC12細胞を選択し、細胞の長径より長い突起を有する細胞数を測定した。また、全細胞数に対する神経突起伸長が認められた細胞の比率(%)を求めた。1ウェルにつき5箇所にて、このような観察を行った。DMSOのみ投与したものをコントロールとした。結果を表1及び図1に示す。
【0035】
【表1】

表1、図1に示すように、神経成長因子の存在下では、コントロールに比べて全ての試料において神経突起伸長が見られた。特に、R−ペリリルアルコール、S−ペリリルアルコール、S−ペリラ酸、シトラール、ヌートカトンは効果が大きかった。更に、シトラール、リモネン及びリナロールを含有するレモンオイルA、レモンオイルBの各レモンオイルも高い神経突起伸長作用が認められた。各香り成分、及び香り成分を含有するレモンオイルは神経成長因子増強作用を有するため神経成長因子増強剤として好適に適用されることが確認された。
【0036】
試験例2(香り成分の記憶学習能向上の評価)
試験例1において示される神経突起伸長作用効果の高い香り成分に着目し、Wistar系雄性ラットを用いステップスルー試験を行った。ステップスルー試験用ボックスは、明室は100Wの電球で照射され、暗室の床はステンレスの柵が張り巡らされ、電流が流れるようになっている。明室と暗室の間には、手動開閉式のドアがある。本実施例では、ラットに暗室の危険を覚えさせるトレーニング試験の際のみ暗室に電流を流し、その電流は0.1mA、3秒間とした。
【0037】
Wistar系雄性ラット10週齢を1週間予備飼育した後、群分けを行った。群分けに関しては、ラットを明室に入れた後10秒後に暗室へ通じるドアを開け、暗室へ入るまでの時間を測定し、その時間の平均が一定になるように行った。本試験例の各試料は表2に示されるように、コントロール、スコポラミン(Tocris bioscience社製、正式名称scopolamine hydrobromide)(1mg/kg・体重)、レモンオイルA(100μg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)、R−リモネン(100μg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)、S−リモネン(100μg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)、S−ペリリルアルコール(50μg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)、S−ぺリラ酸(50μg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)、シトラール(50μg/kg・体重)+スコポラミン(1mg/kg・体重)の8群を使用した。スコポラミンは、アセチルコリンの可逆的拮抗物質であり、副交感神経遮断作用がある。本実施例では、健忘症モデルを作るために投与した。サンプルは、コーンオイルに溶解し経口投与、スコポラミンは皮下投与によりラット体内に注入した。
【0038】
試験スケジュールに関しては、4日間サンプルを経口投与し、4日目のサンプル投与30分後にスコポラミンを皮下投与し、さらに30分後にトレーニング試験を行った。コントロール群にはスコポラミンの代わりに生理食塩水を皮下投与した。トレーニング試験24時間後、再度ラットを明室に入れ、暗室に入るまでの時間を測定した。暗室に入らない場合、最長時間は300秒までとした。結果を表2、図2に示す。
【0039】
【表2】

表2、図2に示されるように、コントロール群と比較して、スコポラミン投与群では、入るまでの時間の減少が見られた。コントロールに比べてレモンオイル、リモネン(R−,S−)、S−ペリラ酸、シトラールにおいて入るまでの時間が増大し、学習効果が見られた。特に、レモンオイルA投与群、S−リモネン、S−ぺリラ酸、シトラールではスコポラミン投与群と比較して、入るまでの時間が有意に増大した(危険率5%)。すなわち、シトラール、リモネン及びリナロールを含有するレモンオイル、S−リモネン、S−ぺリラ酸、シトラールを投与することにより、暗室は危険であるという記憶が維持されていることが明らかとなった。シトラール、リモネン及びリナロール、レモンオイルAは記憶学習能向上作用を有するため記憶学習能向上剤として好適に適用されることが確認された。
【0040】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(a)前記リモネンは、S−リモネンである記憶学習能向上剤。従って、この(a)に記載の発明によれば、記憶学習能の向上作用を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】神経成長因子の存在下におけるレモン等の柑橘類に含まれる香味成分又はその生体内代謝物の神経突起伸長作用を示すグラフ。
【図2】健忘症モデルラットを用いたステップスルー試験結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とすることを特徴とする脳機能改善剤。
【請求項2】
前記シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とするとともに神経成長因子増強剤として使用される請求項1記載の脳機能改善剤。
【請求項3】
前記シトラール、リモネン及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とするとともに記憶学習能向上剤として使用される請求項1記載の脳機能改善剤。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する脳機能改善組成物。
【請求項5】
飲食品、医薬品及び飼料から選ばれる少なくとも一つとして使用される請求項4記載の脳機能改善組成物。
【請求項6】
経口摂取により生体内に投与されるとともに、シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分を有効成分とする脳機能改善剤。
【請求項7】
請求項6記載の脳機能改善剤を有効成分として含有する脳機能改善組成物。
【請求項8】
前記シトラール、リナロール、ヌートカトン、リモネン、ペリリルアルコール及びペリラ酸から選ばれる少なくとも一種の成分の有効成分は、柑橘オイルとして配合される請求項1から請求項3のいずれか一項記載の脳機能改善剤。
【請求項9】
前記柑橘オイルはレモンオイルである請求項8記載の脳機能改善剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−302572(P2007−302572A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129764(P2006−129764)
【出願日】平成18年5月9日(2006.5.9)
【出願人】(591134199)株式会社ポッカコーポレーション (31)
【Fターム(参考)】