説明

脳波計測システム、方法及びコンピュータプログラム

【課題】皮膚処理及びペーストやジェルのような塗布剤の利用なしに電極を装着して脳波を計測する際に、電極の接触インピーダンスを適切かつ安定して計測できるようにする。
【解決手段】脳波計測システム10は、ユーザ100の頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極110を用いてユーザの脳波を計測する脳波計測部120と、当該少なくとも2つの電極を用いて電極の接触インピーダンスを計測するインピーダンス計測部130と、特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するトリガ生成部とトリガ信号が生成された時間起点を用いて、脳波を計測する時間区間と接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替える切り替え制御部200と接触インピーダンスと脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、計測された脳波の振幅を補正する補正部とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの皮膚に接触させた複数の電極で脳波を計測する脳波計測システム、脳波計測方法、および脳波計測方法を実行するコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機器を操作するためのインタフェースとして脳波が注目されている。物理的な操作を行わずに思っただけで操作する方法は、四肢が不自由な人のための操作手段を提供するだけでなく、ヘッドマウントディスプレイ(Head Mounted Display(HMD))等のウェアラブル(wearable)機器のハンズフリー操作手段としても注目されている。脳波の中でも人が外界の状況を認識や判断を行ったり、意思を決定し行動しようとする際、すなわち人の知覚、認知あるいは行動に関わる何らかの事象が起こった際に現れる脳波である事象関連電位あるいは誘発電位は機器操作インタフェースとしての利用が検討されている。
【0003】
脳波を利用したインタフェースとして、特許文献1があげられる。特許文献1では、脳波の事象関連電位の特徴的な信号を用いてユーザが選択したいと思っている選択肢を判別する技術が開示されている。
【0004】
ここで、「脳波」とは通常、脳活動(脳神経細胞の電気的活動)を示す。また、「事象関連電位(event−related potential:ERP)」とは、脳波の一部であり、外的あるいは内的な事象に時間的に関連して生じる脳の一過性の電位変動をいう。
【0005】
脳波を計測する脳波計は、基準極と計測対象極とを備えている。脳波計は、その基準極と計測対象極との電位の差である脳波信号を計測する。頭皮上の電極より取得される脳波の電位は、非常に小さく、数マイクロボルトから数十マイクロボルト程度である。
【0006】
非特許文献1では、このように小さな電位変化である脳波信号を安定して計測するために、ユーザと電極との接触インピーダンス(以下、単に「接触インピーダンス」と呼ぶ。)を5kΩ以下にすることが推奨されている。また、取得された脳波信号は、脳波計の入力アンプで増幅される。よって、計測された脳波信号は脳波形の入力アンプ回路インピーダンス(以下、「入力インピーダンス」と呼ぶ。)の影響を受けている。
【0007】
図1を参照しながら、接触インピーダン及び入力インピーダンスが脳波信号に与える影響を説明する。図1は、脳波信号の波形(真の値)と、接触インピーダンス及び入力インピーダンスによる影響を受けた脳波信号の波形の模式図である。真の値は、生体信号源に近い位置で計測され、接触インピーダンスおよび入力インピーダンスの影響を受けていない値である。
【0008】
いま、入力インピーダンスと接触インピーダンスとの比(入力インピーダンス/接触インピーダンス)に注目する。図1からわかるように、入力インピーダンスと接触インピーダンスとの比が小さい場合(10)より、入力インピーダンスと接触インピーダンスとの比が大きい場合(100)の方が、真の値に近い。つまり、入力アンプの持つ入力インピーダンスと電極の接触インピーダンスとの比が、計測される脳波信号の振幅誤差に影響していると言える。入力インピーダンスと接触インピーダンスとの比が大きいことが、より好ましいと言える。
【0009】
以下、どのように入力インピーダンスと接触インピーダンスとの比を大きくするかを検討する。入力インピーダンスと接触インピーダンスとの比を大きくするためには、できるだけ入力インピーダンスを大きくするか、接触インピーダンスを小さくする必要がある。
【0010】
しかしながら、入力インピーダンスを極端に大きくすることは困難である。その理由は以下のとおりである。
【0011】
アンプの入力インピーダンスを大きくすることにより、脳波計回路の入力インピーダンスは空気の絶縁特性に近づく。よって、電源や周辺電子機器に由来するノイズが空気を介して混入する比率が高くなり、脳波計測が困難になる。よって、電磁シールドを施した特殊な空間でない限り、屋内及び車内、又は屋外等のノイズ源が多数存在する空間では、脳波計測を行う際に、入力インピーダンスを極端に高くすることは困難である。
【0012】
そこで、電極の接触インピーダンスを低くして、入力インピーダンスとの比をできるだけ大きく保つことが求められる。さらに、脳波計測中に、脳波信号の振幅が変化しないように、電極の接触インピーダンスを安定させることが必要である。
【0013】
従来の脳波計測においては、皮膚の角質を除去し、電解液を含むペーストあるいはジェルを皮膚と電極の間に塗布した上で、皮膚に電極を固定していた。その結果、皮膚と電極との間の接触面積等を安定させることができ、接触インピーダンスの変動を抑制してきた。さらに被験者には頭部をできるだけ動かさないよう指示することで、動作や振動により電極が皮膚上でずれたり、浮いたりすることを防ぐことでも接触インピーダンスの変動を抑制してきた。
【0014】
特許文献2では、動きを制限できない乳幼児の誘発電位を計測する際に電極の接触インピーダンスを利用する方法が示されている。乳幼児の聴性脳幹反応(Auditory Brainstem Responce)と呼ばれる聴覚刺激に対する誘発電位を計測する際に、加算平均のための反復計測を中断して電極の接触インピーダンスを確認している。
【0015】
そして特許文献2は、接触インピーダンスが所定の基準よりも高い場合にはデータを削除して、振幅誤差の大きいデータを加算平均に加えないようにし、安定した計測結果を得る方法を提案している。この方法は、反復計測の試行を何回かごとにブロックに分割し、ブロックの計測終了ごとに接触インピーダンスを計測する。そして、インピーダンスが高い場合には直前に計測したブロックに含まれる脳波は加算平均処理から除外している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2005−34620号公報
【特許文献2】特開2001−231768号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】誘発電位の正常値に関する小委員会(委員長下河内稔)編「誘発電位測定指針(1997年改訂)」脳波と筋電図、1997年25巻(P1−P16)
【非特許文献2】A Searle and L Kirkup著 「A direct comparison of wet, dry and insulating bioelectric recording electrodes」、Physiological Measurement、2000年21巻(P271−P283)
【非特許文献2】日本臨床神経生理学会ペーパレス脳波計検討委員会(委員長石山陽事)編「ペーパレス脳波計の性能と使用基準(2000)」臨床神経生理学、28巻3号(P270−P276)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
脳波をウェアラブル機器のインタフェースとして利用する場合、機器装着のたびにユーザが角質を除去し、かつ、ペーストあるいはジェルを使用することを要求すると、装着に時間がかかる上に装着感が悪いため、ユーザにとって煩わしく、実用性に欠ける。そこで非特許文献2のように、角質除去をせず、ペーストあるいはジェルを用いない電極(以下、「ドライ電極」と言う。)の検討がされている。
【0019】
しかしながら、上記のようなドライ電極の接触インピーダンスについては、これまで詳細なデータは公開されていない。したがって、そもそもドライ電極を用いて接触インピーダンスを小さくすることが実用的な範囲で可能かどうかが、不明である。
【0020】
そこで接触インピーダンスの計測について検討する。
【0021】
通常、生体に電極が接触した状態における接触インピーダンスは、ユーザの皮膚に接触した2つの電極のうち一方に計測用信号を入力し、他方の電極でその計測用信号を取得し、入力信号と取得信号の電圧差から求める。
【0022】
しかし、低周波領域のインピーダンスは、入力信号の周波数に依存するため、インピーダンス計測に用いる入力信号は計測しようとする脳波の信号周波数に近接する周波数を用いる必要がある。脳波計測中に、脳波信号の周波数に近接する周波数で、かつ、脳波信号より大きな電気信号を用いてインピーダンス計測を行うことは非常に困難である。そのため、脳波計測中に接触インピーダンスを同時にモニタすることは非常に困難である。
【0023】
また、接触インピーダンスを求める際、事象関連電位や誘発電位は、複数回繰り返して計測された脳波信号を加算平均した信号から観測される。
【0024】
よって、複数回繰り返して脳波信号を計測する何回かごとに、接触インピーダンスを計測する方法が考えられる。そして、接触インピーダンスが一定の範囲を超えた場合には直近の計測データを加算平均処理から除去する。
【0025】
この場合、仮に、接触インピーダンスの変動が大きい場合には、除去する計測データが増加することになる。一般的に、事象関連電位や誘発電位の計測では、脳波信号を多く加算した計測データが必要である。よって、除去するデータが増加すると、必要な加算回数を確保するための計測時間が長くなるという課題がある。脳波を用いて電子機器の操作指示を行う場合等には、計測時間の延長は許容しがたい。
【0026】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、皮膚処理およびペーストやジェルのような塗布剤の利用なしに電極を装着して脳波を計測する際に、電極の接触インピーダンスを適切かつ安定して計測することを可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明による脳波計測システムは、ユーザの頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極と、前記少なくとも2つの電極を用いて、前記ユーザの脳波を計測する脳波計測部と、前記少なくとも2つの電極を用いて、電極の接触インピーダンスを計測するインピーダンス計測部と、特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するトリガ生成部と、前記トリガ信号が生成された時間起点を用いて、前記脳波計測部により脳波を計測する時間区間と、前記インピーダンス計測部により接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替える切り替え制御部と、前記接触インピーダンスと前記脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、前記脳波計測部で計測された脳波の振幅を補正する補正部とを備え、前記切り替え制御部は、前記事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、前記事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替える。
【0028】
前記切り替え制御部が切り替える時間区間のうち、前記接触インピーダンスを計測する時間区間は、前記トリガ信号を起点としてあらかじめ定められた時間長の時間区間であって、当該トリガと対応付けられる事象関連電位の成分あるいは誘発電位の成分を含む時間区間の開始までの間の時間区間であってもよい。
【0029】
前記切り替え制御部が切り替える時間区間のうち、前記脳波を計測する時間区間は、前記トリガ信号を起点としてあらかじめ定められた時間長の時間区間であり、前記接触インピーダンスを計測する時間区間は、前記脳波を計測する時間区間以外の時間区間であってもよい。
【0030】
前記切り替え制御部が切り替える時間区間のうち、前記接触インピーダンスを計測する時間区間は、前記トリガ信号を起点としてからあらかじめ定められた時間長の時間区間であり、前記脳波を計測する時間区間は、前記接触インピーダンスを計測する時間区間以外の時間区間であってもよい。
【0031】
前記少なくとも2つの電極は、アース電極と計測電極とを含み、前記脳波計測部は、計測した脳波信号を増幅するためのアンプを有し、前記補正部は、前記計測電極の電極接触インピーダンスと、前記アンプの入力インピーダンスとの比に基づいて振幅補正値を決定してもよい。
【0032】
前記少なくとも2つの電極は、アース電極と、第1計測電極と第2計測電極とを含み、前記脳波計測部は、計測した脳波信号を増幅するためのアンプを有し、前記第1計測電極および前記第2計測電極の各々を用いて脳波を計測し、前記補正部は、前記第1計測電極および前記第2計測電極の各々の接触インピーダンスとアンプの入力インピーダンスに基づいて、差動増幅波形を生成してもよい。
【0033】
前記補正部は、前記第1計測電極で計測される脳波の振幅を、前記第1計測電極の接触インピーダンスと前記アンプの入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて補正して第1補正波形を生成し、かつ、前記第2計測電極で計測される脳波の振幅を、前記第2計測電極の接触インピーダンスと前記アンプの入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて補正して第2補正波形を生成し、前記第1補正波形と前記第2補正波形との差として、前記差動増幅波形を生成してもよい。
【0034】
前記脳波計測システムは、前記事象関連電位の成分あるいは前記誘発電位の成分をあらかじめ定められた基準に従って判別する判別処理部をさらに備えていてもよい。
【0035】
前記脳波計測システムは、複数回計測された前記脳波の電位を前記トリガ信号を起点とする同一時間軸上で加算平均して1つの時間波形を生成する加算平均部をさらに備えていてもよい。
【0036】
前記脳波計測システムは、前記あらかじめ定められた基準である判別基準を記憶する判別基準記憶部であって、前記判別基準記憶部は前記電極インピーダンスの絶対値と電極インピーダンスの変動幅と電極インピーダンスの変動比と電極インピーダンスと入力インピーダンスの比のうち少なくとも何れか1つの指標に従って複数のグループに区分された判別基準を記憶する判別基準記憶部をさらに備え、前記判別処理部は、判別する脳波または前記加算平均結果に対応付けられた電極インピーダンスと、電極インピーダンスの変動幅と電極インピーダンスの変動比と電極インピーダンスと入力インピーダンスの比に従って前記判別基準記憶部に記憶された判別基準を選択して当該脳波はまたは加算平均結果を判別してもよい。
【0037】
本発明による脳波計測方法は、ユーザの頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極を用いて、前記ユーザの脳波を計測するステップと、前記少なくとも2つの電極を用いて、電極の接触インピーダンスを計測するステップと、特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するステップと、前記トリガ信号が生成された時間起点を用いて、前記脳波を計測するステップにより脳波を計測する時間区間と、前記接触インピーダンスを計測するステップにより接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替えるステップと、前記接触インピーダンスと前記脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、前記脳波を計測するステップで計測された脳波の振幅を補正するステップとを包含し、前記切り替えるステップは、前記事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、前記事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替える。
【0038】
本発明によるコンピュータプログラムは、脳波計測システムのコンピュータによって実行されるコンピュータプログラムであって、前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータに対し、ユーザの頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極を用いて計測された、前記ユーザの脳波を受け取るステップと、前記少なくとも2つの電極を用いて、電極の接触インピーダンスを計測するステップと、特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するステップと、前記トリガ信号が生成された時間起点を用いて、前記脳波が計測される時間区間と、前記接触インピーダンスを計測するステップにより接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替えるステップと、前記接触インピーダンスと前記脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、前記脳波を計測するステップで計測された脳波の振幅を補正するステップとを実行させ、前記切り替えるステップは、前記事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、前記事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替える。
【発明の効果】
【0039】
本発明の脳波計測システムによれば、事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、接触インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替えられる。そして接触インピーダンスと脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、脳波計測部で計測された脳波の振幅を補正する。これにより、電極の接触インピーダンスの変動に影響されることなく安定した脳波を計測することができる。さらに、安定した脳波に基づいて、電極の接触インピーダンスの変動に影響されることなく安定して動作する脳波インタフェースを構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】脳波信号の波形(真の値)と、接触インピーダンス及び入力インピーダンスによる影響を受けた脳波信号の波形の模式図である。
【図2】脳波計測時と同様にユーザが電極を皮膚に装着した状態で接触インピーダンスを計測した結果を示す。
【図3】本発明の実施形態1にかかる脳波計測システム10の構成図である。
【図4】事象関連電位の成分、当該成分に対応するトリガとなる事象の代表的な例、事象関連電位の成分を含む脳波信号を計測する時間範囲、接触インピーダンス計測を行う時間範囲、および、基準値を求めるための脳波信号の計測時間の例を示す図である。
【図5】トリガ制御部180の詳細な構成図である。
【図6】インピーダンス計測部130、電極110aおよび110bの詳細な構成図である。
【図7】補正処理部160の詳細な構成図である。
【図8】本実施形態における脳波計測システム10の処理手順を示すフローチャートである。
【図9】本実施形態における脳波計測システム10の動作の詳細を時間軸で示す模式図である。
【図10】本発明の実施形態1の変形例1にかかる脳波計測システム10aの構成図である。
【図11】変形例1のトリガ制御部280の詳細な構成図である。
【図12】実施形態1の変形例1の処理手順を示すフローチャートである。
【図13】(a)および(b)は、1計測の範囲を示す図である。
【図14】被験者の任意の動作をトリガとし、トリガに先行する脳活動を観察対象とする場合の1計測の範囲を示す図である。
【図15】特定の外部環境あるいは外部環境の変化をトリガとして検出する環境音検出部490の構成図である。
【図16】本発明の実施形態1の変形例2にかかる脳波計測システム10bの構成図である。
【図17】インピーダンス計測部330、アース電極110a、計測電極110bおよび計測電極110cの詳細な構成図である。
【図18】補正処理部360の詳細な構成図である。
【図19】変形例2の処理手順を示すフローチャートである。
【図20】本発明の実施形態2にかかる脳波計測システム20の構成図である。
【図21】実施形態2の脳波計測システム20の処理手順を示すフローチャートである。
【図22】本発明の実施形態3にかかる脳波計測システム30の構成図である。
【図23】加算平均部510の詳細な構成図である。
【図24】実施形態3の脳波計測システム30の処理手順を示すフローチャートである。
【図25】教師データ520に格納された教師データの値と分布を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による脳波計測システムの実施形態を説明する。
【0042】
実施形態の説明に先立ち、まず本願発明者らが実施した実験を説明する。この実験により、本願発明者らは初めて、ドライ電極の接触インピーダンスが電極装着中に大きく変動するという知見を見出した。
【0043】
図2は、脳波計測時と同様にユーザが電極を皮膚に装着した状態で接触インピーダンスを計測した結果を示す。横軸は計測時間(秒)であり、縦軸は接触インピーダンス(Ω)である。
【0044】
具体的な計測方法を説明する。ユーザの前額部(forehead)の上部の中心付近に、2つの銀―塩化銀電極を5cmの間隔で接触させた。そして、Agilent社製インピーダンスアナライザ4249Aを用いて、計測信号として周波数40Hzで500mVの正弦波を用いて、連続して接触インピーダンスを計測した。
【0045】
図2では、電極が前額から動かないように指で軽く押さえる程度の圧力である30g/cm2以上の圧力で電極を皮膚に押し当てて固定した場合の接触インピーダンスと、30g/cm2未満の圧力で電極を皮膚に接触させた場合の接触インピーダンスとを示した。
【0046】
圧力30g/cm2以上で固定した場合では接触インピーダンスは1MΩ前後であり、数10kΩ程度の幅で変動している。この接触インピーダンスの値は非特許文献2と一致する。
【0047】
「*」で示される圧力30g/cm2未満の場合には、接触インピーダンスは1.2MΩから1.5MΩ程度の幅で変動している。一方、「+」で示される圧力30g/cm2以上の場合には、接触インピーダンスは概ね1.0MΩ近傍で変動している。簡易に装着可能な電極を想定する場合、圧力が30g/cm2以上で装着されることもあれば、圧力が30g/cm2未満で装着されることもある。仮に圧力が30g/cm2以上で装着されたとしても、その圧力を維持できるとは限らない。そうすると、接触インピーダンスは1MΩから1.5MΩの変動幅、すなわち1MΩを基準とすると1.5倍の変動幅を持つ。
【0048】
また、この計測結果は、40Hzの計測信号で得られた値である。接触インピーダンスは信号の周波数が低い方が大きいことが知られている。脳波、特に事象関連電位や誘発電位の周波数は10Hz以下であるため、10Hz以下の計測信号で接触インピーダンスを計測できたならば、その接触インピーダンスは40Hzの計測信号で得られた図2の値より高くなる。これは、接触インピーダンスの変動幅も大きくなり得ることを意味する。非特許文献3に示されるように、現在の脳波計においてはアンプの入力インピーダンスは100MΩ以上が推奨されており、ペーストで固定する際の数kΩから数10kΩの間であれば振幅誤差は非常に小さく無視できる。
【0049】
しかしながら、ペーストで固定せず、かつ、10Hz以下の信号を用いて計測する場合には、この振幅誤差は無視できない。たとえば今回の計測では電極の接触インピーダンスは1MΩから1.5MΩであり、入力インピーダンスを100MΩとすると、接触インピーダンスと入力インピーダンスの比は100から約67となる。振幅誤差は1%を超えている。さらに低い周波数では接触インピーダンスが高くなることを考慮すると、誤差は数%に及び、その誤差量は接触インピーダンスの変動に伴って変化するため、計測される脳波は非常に不安定なものとなる。
【0050】
ドライ電極の接触インピーダンスが電極装着中に大きく変動する場合を考慮しなければならない。
【0051】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0052】
(実施形態1)
図3は、本発明の実施形態1にかかる脳波計測システム10の構成図である。本実施形態では、聴覚刺激を提示して事象関連電位を計測する例を示す。
【0053】
ここで、事象関連電位を説明する。「事象関連電位」とは、上述のように、外的あるいは内的な事象に時間的に関連して生じる脳電位の変化を意味する。例えば、脳電位の時間的変化を脳波信号として計測し、その脳波信号から事象関連電位が得られる。具体的には、脳波信号の波形のピーク(極大値又は極小値)の極性、ピークの潜時、又は脳波信号の波形の振幅や潜時の時間的な変化などによって定められる。
【0054】
外的あるいは内的な事象のうち客観的に観察可能な事象であって、脳波信号を計測する際の時間軸上のゼロ点となる事象を「トリガ」と呼ぶ。視聴覚刺激を提示する場合は視聴覚刺激をトリガとし、トリガのタイミングすなわち刺激提示時刻を脳波計測の時間軸上のゼロ点とする。トリガには被験者への刺激提示のほか、被験者の動作や行動がトリガとされ、動作が検出された時刻を脳波計測の時間軸上のゼロ点とする場合もある。
【0055】
「極性」とは、脳波信号の波形のピークが陽性成分又は陰性成分かという情報である。また、一般的には、「陽性成分」とは、0μVよりも大きい電位をいい、「陰性成分」とは、0μVよりも小さい電位をいう。
【0056】
「潜時」とは、刺激が提示等のトリガの時刻を起点として陽性成分または陰性成分のピークが出現するまでの時間を示す。
【0057】
なお、本明細書において、聴覚刺激(音声刺激ともいう。)とは、たとえば音声をスピーカから出力することをいう。なお、スピーカの種類は任意であり、床やスタンド上に設置されたスピーカでもよいし、ヘッドフォン型のスピーカでもよい。
【0058】
図4は、事象関連電位の成分、当該成分に対応するトリガとなる事象の代表的な例、事象関連電位の成分を含む脳波信号を計測する時間範囲、接触インピーダンス計測を行う時間範囲、および、基準値を求めるための脳波信号の計測時間の例を示したものである。例えば、事象関連電位の成分がP300である場合には、成分はトリガから200msから400smsで計測されるため、この期間に最も近くこれ以外の時間、例えば、トリガの時刻0から200msまでの間で例えば10Hzの電気信号を2周期分出力して、接触インピーダンスを計測する。本願ではこのように、トリガを時間の起点として、記録しようとする事象関連電位の成分を含む脳波信号を計測する時間範囲以外の時間で、かつ脳波信号を計測する時間範囲の近傍において電極の接触インピーダンスを計測する時間範囲を設定する。
【0059】
本実施形態の脳波計測システム10は、脳波計測装置11と、複数の電極110と、刺激提示部190とを備えている。
【0060】
複数の電極110は、被験者100の顔面あるいは頭皮上に接触し、生体の電気反応を取得するために設けられている。
【0061】
脳波計測装置11は、事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、接触インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替えられる。そして接触インピーダンスと脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、脳波計測部で計測された脳波の振幅を補正する。
【0062】
脳波計測装置11は、脳波計測部120と、インピーダンス計測部130と、スイッチ140と、補正部155と、制御部170と、トリガ制御部180と、切り替え制御部200とを備えている。
【0063】
脳波計測部120は電極110より取得される生体の電気反応を電位変化として計測する。
【0064】
インピーダンス計測部130は、電極110が被験者100の皮膚に接触することで作られる生体を含めた電気回路のインピーダンス(接触インピーダンス)を計測する。
【0065】
スイッチ140は、脳波計測部120またはインピーダンス計測部130のどちらか一方と電極110とを接続する。
【0066】
補正部155は、インピーダンス計測部130において計測された接触インピーダンスと脳波計測部120の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、脳波計測部120で計測された脳波の振幅を補正する。
【0067】
補正部155は、補正情報生成部150と、補正処理部160とを有している。
【0068】
補正情報生成部150は、インピーダンス計測部130で計測された接触インピーダンスと脳波計測部120に含まれるアンプの入力インピーダンスとの比より脳波の振幅を補正するためのパラメータを生成する。
【0069】
補正処理部160は、補正情報生成部150より出力された振幅補正のためのパラメータに従って、脳波計測部120で取得された脳波波形の振幅を補正する。
【0070】
制御部170は脳波計測システム10の入出力を制御する。
【0071】
トリガ制御部180は、刺激出力と脳波計測の時間同期を図る。
【0072】
切り替え制御部200は、トリガ制御部180のトリガからのタイミングに従って、スイッチ140の切り替えを制御する。
【0073】
刺激提示部190は、トリガ制御部180の出力指示に従って被験者100に聴覚刺激を出力する。
【0074】
補正情報生成部150と、補正処理部160と、制御部170と、トリガ制御部180とは、CPUおよびメモリによって実現される。なお、CPUとメモリは、例えば補正情報生成部150と補正処理部160とを含む処理用CPUとメモリと、トリガ制御部180の入出力制御用CPUおよびメモリとに別れ、独立に動作してもよい。
【0075】
図5は、トリガ制御部180の詳細な構成図である。トリガ制御部180は同CPUおよびメモリによって実現され得る計時部181と、計測時間シーケンス記憶部182と、タイミング制御部183とを備える。トリガ制御部180の具体的動作は、後に詳述する。
【0076】
図6は、インピーダンス計測部130、電極110aおよび110bの詳細な構成図である。電極110とインピーダンス計測部130とはスイッチ140を解して接続されるが、ここではスイッチ140によって接続されている状態を説明する。スイッチ140の図示および説明は省略する。
【0077】
電極110は電気的状態の標準を取得するアース電極110aと生体の電気的反応を取得する計測電極110bとを有している。
【0078】
インピーダンス計測部130は、計測信号出力部131と、電圧計測部132と、インピーダンス計算部133と、インピーダンス記憶部134とを備えている。
【0079】
計測信号出力部131は、生体を介した回路の電圧を計測するための計測用信号をアース電極110aに出力する。電圧計測部132は、計測電極110bより計測用信号を取得してその電圧を計測する。
【0080】
インピーダンス計算部133は、計測信号出力部131および電圧計測部132の各出力を利用して、接触インピーダンスを計算する。計測信号出力部131は、CPUおよびメモリによって実現され得る。インピーダンス記憶部134は、インピーダンス計算部133によって計算された接触インピーダンスを記憶する。
【0081】
図7は、補正処理部160の詳細な構成図である。補正処理部160は、取得波形記憶部161と、基準値計算部162と、基準値記憶部163と、振幅補正部164とを有している。取得波形記憶部161は、CPUおよびメモリによって実現され得る。補正処理部160の具体的動作は、後に詳述する。なお、取得波形記憶部161、基準値計算部162および基準値記憶部163は、脳波計測部120に組み込まれていてもよい。
【0082】
図8は、本実施形態における脳波計測システム10の動作を示すフローチャートを示す。また、図9は、本実施形態における脳波計測システム10の動作の詳細を時間軸で示す模式図である。以下、図8および図9に従って脳波計測システム10の動作を説明する。
【0083】
本明細書では「1計測」という語を以下のように定義する。すなわち、「1計測」とは、脳波計測システム10において、1回のトリガに対応する1回分の事象関連電位の成分(事象関連電位の1つの成分、または1連の複数個の成分)を含む時間範囲の脳波信号を取得し、1回のトリガに対応して接触インピーダンスを計測することをいう。
【0084】
事象関連電位の計測は、一般的に、非特許文献1に示されるように反復計測を行い、複数回の計測値を加算平均してノイズを低減し観察しやすい波形を得ることにより行う。
【0085】
一方、本実施形態では、上記の反復計測の各々の計測を1計測として説明する。上記の加算平均処理については、本実施形態の動作により出力された1計測の結果を用いて外部のシステム(図示せず)が行うものとする。本明細書では当該外部のシステムの説明は省略する。
【0086】
まず、制御部170が開始信号を取得し、脳波計測システム10の動作を開始する(ステップS1010)。脳波計測部120は、電極110から脳波信号として電位を計測する(ステップS1015)。ステップS1015で計測された脳波信号は後述する基準値を計算する際に利用する。
【0087】
脳波計測部120は、スイッチ140が電極110と脳波計測システム10とを接続しているか否かを判断する。また、インピーダンス計測部130は、スイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130を接続しているか否かを判断する(ステップS1020)。
【0088】
スイッチ140の動作の詳細については後述する。スイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130とを接続している場合(ステップS1020においてyes)、インピーダンス計測部130は、ステップS1030からステップS1060の動作により接触インピーダンスを計測して計測結果を保存する。
【0089】
以下、図6のインピーダンス計測部130の詳細な構成を参照しながら、ステップS1030からステップS1060を説明する。
【0090】
計測信号出力部131が、観察対象とする事象関連電位の周波数成分(10Hz以下)を持つ接触インピーダンス計測用の信号をアース電極110aに出力する(ステップS1030)。
【0091】
電圧計測部132は、計測電極110bよりインピーダンス計測用の信号と周波数成分が同一の電気信号を取得し、その電圧を計測する(ステップS1040)。接触インピーダンス計測用の信号は、例えば、周波数10Hzの正弦波である交流信号であり、電圧10V、電流は100nAとする。
【0092】
インピーダンス計算部133は、ステップS1030で計測信号出力部131が出力した接触インピーダンス計測用信号の電圧と、ステップS1040で電圧計測部132によって計測された計測電極110bから取得された信号の電圧との差分を接触インピーダンス計測用の電流の値で除し、電極の接触インピーダンスを計算する(ステップS1050)。
【0093】
インピーダンス記憶部134は、ステップS1050でインピーダンス計算部133が計算した接触インピーダンスの値を当該計測の接触インピーダンスの値として記憶する(ステップS1060)。
【0094】
トリガ制御部180は、1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了したかどうかを判断する(ステップS1090)。トリガ制御部180の動作の詳細についてはスイッチ140の詳細と合わせて後述する。
【0095】
一方、ステップS1020において、スイッチ140が電極110と接触インピーダンス計測部130とを接続していない場合、すなわちスイッチ140が電極110と脳波計測部120とを接続している場合(ステップS1020においてno)、脳波計測部120は、電極110から脳波信号として電位を計測する(ステップS1070)。
【0096】
脳波計測部120は、補正処理部160の取得波形記憶部161に、計時部181で計測された脳波信号の計測時刻とを対応付けて、計測した脳波信号の波形データを記録する(ステップS1080)。トリガ制御部180はあらかじめ事象関連電位の成分ごとに定められた例えば図4のような基準に基づき、1計測で得られた脳波および接触インピーダンスと、基準値設定用の脳波計測とが完了したかどうかを判断する(ステップS1090)。
【0097】
1計測が完了したか否かの判断は、トリガを0としたあらかじめ定められた時間区間を経過したかによって判断する。例えばトリガの前後ともに600msの経過があった場合、図9に示すトリガ以前の100msの時間経過とトリガ後の500msの時間経過により、トリガ制御部180は、−100msから0までの基準値設定のための脳波計測と、0から200msまでの接触インピーダンスの計測と200msから500msまでのP300成分を取得するための脳波計測のすべてのデータが取得されたものと見なし、1計測が完了したものと判断する。トリガ以前に100msの時間経過がない場合や、トリガ以降に500msの時間経過がない場合は1計測が完了していないと判断する。
【0098】
なお、脳波計測部120が基準値設定のための脳波計測または事象関連電位の成分を取得するための脳波計測が完了した場合にトリガ制御部180に計測完了信号を出力し、インピーダンス計測部130が接触インピーダンスの計測が完了した場合にトリガ制御部に計測完了信号を出力してもよい。このときは、トリガ制御部180は、脳波計測部120が出力する計測完了信号とインピーダンス計測部130が出力する計測完了信号を用いて1計測が完了したことを判断するとしても良い。
【0099】
ステップS1090において脳波計測あるいは接触インピーダンス計測の少なくともいずれか一方が1計測分に不足している場合(ステップS1090においてno)、ステップS1020に戻り、計測を継続する。
【0100】
ステップS1090において1計測分の脳波計測と接触インピーダンス計測が完了している場合(ステップS1090においてyes)、補正情報生成部150は、インピーダンス記憶部134に記憶された接触インピーダンスと、脳波計測部120に含まれるアンプの入力インピーダンスとに基づいて、次式により振幅補正値を計算する(ステップS1100)。
【数1】

(Ze:接触インピーダンス、Zd:入力インピーダンス)
【0101】
補正処理部160は、ステップS1100において補正情報生成部150で計算された補正値に基づいて、ステップS1080で記憶した電位波形を補正する(ステップS1110)。
【0102】
図9を参照しながら、補正処理部160の電位波形の補正処理(ステップS1110)を詳細に説明する。図9の横軸は時間(ms)を示し、縦軸は脳波信号の電位を示す。
【0103】
基準値計算部162は、取得波形記憶部161に記憶された電位波形のうち図9に示す基準値設定区間に計測された電位波形を抽出し、電位の区間平均を求める。「基準値設定区間」とは、例えば、トリガ発生時点に100ms先行する点(−100ms)からトリガ発生時(0ms)までの100msの間である。
【0104】
基準値計算部162は、計算した電位の区間平均の値を基準値、すなわち電位のゼロ点とし、基準値記憶部163に記憶する。
【0105】
振幅補正部164は、取得波形記憶部161に記憶された電位波形のうち図9に示す観察対象波形計測区間の電位波形を抽出する。「観察対象波形計測区間」とは、例えばトリガ発生時点から200ms経過した時点から500ms経過した時点までの300msの間である。
【0106】
振幅補正部164は、抽出した電位波形から基準値記憶部163に記憶した基準値を減じて、電位波形を標準化する(以下、「標準化した電位波形」と呼ぶ)。これにより、直流成分の変動による脳波信号の電位の絶対値の変化を取り除き、脳波信号の電位の相対的変化を観察し易くする。これにより、絶対値に影響されること無く、加算平均によって脳波信号の電位の相対変化である事象関連電位を抽出し易くすることができる。
【0107】
さらに振幅補正部164は、ステップS1100において補正情報生成部150で計算された振幅補正値を標準化した電位波形に乗じて振幅補正を行う。これにより、接触インピーダンスの変化により、接触インピーダンスと入力インピーダンスとの比が変化し、それに伴って計測誤差が変化することによる、計測ごとの脳波信号の歪を補正することができる。その結果、1計測ごとの脳波信号を、より真の脳波信号に近い状態にすることができる。これにより、加算平均を行う際にも、誤差を含む脳波信号を加算平均するデータに加えることにより生じる歪を減らすことができる。
【0108】
制御部170はステップS1110で補正された電位波形を出力し(ステップS1120)、1計測分の脳波計測を終了する(ステップS1130)。
【0109】
ここで、トリガ制御部180、刺激提示部190、切り替え制御部200およびスイッチ140の動作の詳細を図8のフローチャートの処理、および、図9に示す時間変化に従って詳細に説明する。
【0110】
図8のステップS1010で1計測分の脳波計測が開始されると、トリガ制御部180は計時部181を初期化して計時を開始する。
【0111】
1計測分の接触インピーダンス計測時間と脳波信号の計測時間は観察対象となる事象関連電位あるいは誘発電位の成分ごとにあらかじめ定められ、計測時間シーケンス記憶部182に記憶されている。
【0112】
タイミング制御部183は、計測時間シーケンス記憶部182に記憶された計測時間シーケンスに基づいて、スイッチ140の切り替えのタイミングとトリガとなる刺激を出力するタイミングを決定する。
【0113】
これまで参照してきた図9は、聴覚刺激に対する事象関連電位のうち刺激提示後300ms前後にピークが見られる、P300を計測する場合の計測時間シーケンスを示す。
【0114】
計測時間シーケンスは時間軸上で、脳波計測を行う期間と接触インピーダンス計測を行う期間とを、トリガを時間の起点として割り当てたものである。
【0115】
図9では、電位を標準化するための基準値を設定するための脳波計測区間をトリガより前の100msからトリガの時刻までの100msの区間とし、観察対象とする脳波成分である電位変化を計測するための脳波計測区間を、トリガ後200msから500msとする。トリガ直後から200msの間は接触インピーダンス計測を行う。
【0116】
トリガ制御部180は上記の計測時間シーケンスに基づいて、計時部181を初期化する際の初期値として−100msを設定し、計時を開始する。
【0117】
さらに、タイミング制御部183は、上記の計測時間シーケンスに従って、まず、−100msにおいてスイッチ140を脳波計測部120へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力する。これにより図8のステップS1020の判断はnoとなり、ステップS1070及びステップS1080が実行され、脳波が計測される。
【0118】
時刻0においては、タイミング制御部183は、聴覚刺激の出力情報を刺激提示部190に出力する。刺激提示部190は、聴覚刺激の出力情報に基づいて電気音響変換器より音刺激を提示する。
【0119】
同時にスイッチ140をインピーダンス計測部130へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力する。これにより、図8のステップS1020の判断はyesとなり、100ms間の脳波計測を終了し、ステップS1030からステップS1060が実行され、接触インピーダンスの計測が行われる。
【0120】
時刻200msにおいては、タイミング制御部183は再度スイッチ140を脳波計測部120へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力する。これにより図8のステップS1020の判断はnoとなり、ステップS1070、ステップS1080が実行され、脳波が計測される。一方接触インピーダンスの計測は終了される。
【0121】
時刻500msにおいて、タイミング制御部183は1計測の完了すなわち脳波計測および接触インピーダンス計測が終了したことを示す情報(終了情報)を脳波計測部120とインピーダンス計測部130と補正処理部150とに出力する。上記の終了情報によりステップS1090の判断はyesとなり、ステップS1100からステップS1130が実行され、振幅補正された脳波波形が出力され、脳波計測システム10の動作が完了する。
【0122】
なお、1計測分の計測が完了したかの判断は、トリガを0としたあらかじめ定められた時間区間を経過したかによって判断しても良い。
【0123】
実施形態1では、トリガの前100ms以上、トリガの後500ms以上の時間経過により、1計測が完了したと判断される。すなわち、当該時間経過により、図9の基準値設定のための脳波計測(−100〜0ms)と、接触インピーダンス計測(0〜200ms)と観察対象波形を取得するための脳波計測(200ms〜500ms)が行われたものと見なして処理が終了する。トリガ後500msを経過していない場合は観察対象波形を取得するための脳波計測が完了していない、または脳波計測と接触インピーダンス計測が共に完了していないため、1計測が完了していないと判断される。
【0124】
以上のように動作する脳波計測システム10では、事象関連電位あるいは誘発電位を計測する際の1計測すなわちトリガ1回の計測ごとに接触インピーダンス計測を行い、脳波計測時の直近の接触インピーダンスの値を用いて振幅補正を行う。その結果、ドライ電極の接触インピーダンスの高さとインピーダンス変動の幅の大きさに起因する、振幅誤差の大きさと誤差の変動による計測結果の不安定さを解消することができる。
【0125】
すなわち、電極を固定し電気的に安定化するペーストやジェルを用いず、振動による電極と皮膚の接触状態の変化も発生する環境においても安定して脳波計測を行うことができる。これにより、1計測ごとの脳波のばらつきが少なくなり、加算平均処理に必要な加算回数を削減することができる。
【0126】
なお、刺激に対する事象関連電位あるいは誘発電位であれば、P300以外の成分例えば、P600等の成分を計測するものとしても良い。その際接触インピーダンスの計測区間は図4に示すように、観察対象とする事象関連電位の成分が計測される期間以外の時間に設定されるものとする。
【0127】
なお、聴覚以外の刺激に対する事象関連電位あるいは誘発電位を計測するものとしてもよい。視覚刺激であればディスプレイによる画像提示や光源による光点の提示等であり、体性感覚刺激や触覚刺激であればタクタイルディスプレイ等による皮膚への圧刺激や圧縮空気によるパフ刺激等であり、そのほか嗅覚刺激、味覚刺激等、対象とする感覚に合わせた刺激提示部を用いるものとする。
【0128】
なお、事象関連電位の場合、複数種類の刺激、例えば、音高や音量の異なる音響信号や、音韻の異なる音声等を、1計測ごとに変えて計測し、刺激の種類ごとに加算平均する場合がある。このような場合、本実施形態においては、刺激提示部190に複数種類の刺激を保持しておき、制御部170への計測指示入力とともに刺激選択情報を入力することで、複数種類の刺激提示と任意の提示順序に対応することができる。また、刺激提示部190に刺激を保持しない場合は、制御部170への計測指示入力とともに提示する刺激を入力し、刺激提示部190は計測指示ごとに入力された刺激を提示することで、複数種類の刺激提示と任意の提示順序に対応することができる。複数種の刺激提示への対応については、聴覚刺激以外の視覚、体性感覚、触覚、嗅覚、味覚等についても同様である。
【0129】
(実施形態1の変形例1)
図10は、実施形態1の変形例1にかかる脳波計測システム10aの構成図である。本変形例ではトリガとして被験者の眼球運動であるサッケードの終了時点を用いる例を示す。
【0130】
本変形例による脳波計測装置11aでは、実施形態1による脳波計測装置11におけるトリガ制御部180がトリガ制御部280に入れ替わり、トリガ制御部180から出力された信号を受け取っていた刺激提示部190が、トリガ制御部280に信号を出力するサッケード検出部290に置き換わった以外は実施形態1と同一の構成である。
【0131】
また、本変形例で用いる事象関連電位は、眼球停留関連電位(Eye Fixation Related Potential:EFRP)である。眼球停留関連電位とは、急速眼球運動(サッケード)の終了時点、すなわち眼球停留の開始時点に関連して生じる脳の一過性の電位変動をいう。眼球停留関連電位のうち、眼球の停留時点より約100ミリ秒付近に後頭部で優位に出現する正の成分をラムダ反応といい、視対象に対する注意集中度によって変動することが知られている。
【0132】
サッケードとは、通常20〜70ミリ秒間の眼球運動をいう。サッケードにおいて、眼球の運動速度は、視角で表すと300〜500度/秒であるとされている。したがって、眼球の運動方向が所定時間(例えば、20〜70ミリ秒)連続して同じであり、かつ当該所定時間の平均角速度が300度/秒以上である眼球運動をサッケードとし、その終了時点を検出することにより、眼球停留が開始した時点が検出できる。
【0133】
以下、変形例1における脳波計測システム10aの構成を説明する。
【0134】
サッケード検出部290は、眼球運動を検出するセンサを用い、眼球の直線的で速い動きであるサッケードを眼球の運動速度を指標にして検出し、その眼球運動の停止をトリガ情報としてトリガ制御部280に出力する。サッケード検出部290は、例えば目の上下および左右に貼り付けた電極を用いる眼電センサ、あるいは眼球をモニタするカメラと、そのカメラが撮影した画像から虹彩を抽出して眼球の運動速度を検出する画像処理回路等により構成される。
【0135】
図11は、本変形例のトリガ制御部280の詳細な構成図である。タイミング制御部183がタイミング制御部283に置き換わった以外は実施形態1と同一の構成である。
【0136】
脳波計測および接触インピーダンス計測の動作については実施形態1の図8と同様であるので説明を省略し、図13に従って、トリガ制御部280とサッケード検出部290と切り替え制御部200およびスイッチ140の動作の詳細を説明する。
【0137】
変形例1では、1計測をトリガ1回すなわち1回のサッケードに対応するEFRP成分1回分の時間範囲を含む脳波信号の計測データと接触インピーダンス計測1回とを1計測とする。EFRP成分1回分の時間範囲は例えば、トリガから200msの区間である。変形例1では基準値を脳波計測開始時点での電位とする。このため、変形例1では、基準値設定のための脳波計測を行わない。
【0138】
ステップS1010で1計測分の脳波計測が開始されると、計時部181は計時を開始し、サッケード検出部290は、被験者の眼球運動の計測を開始する。計測時間シーケンス記憶部182に記憶された、トリガを基準とした接触インピーダンス計測と脳波計測の時間シーケンスに基づいて、タイミング制御部283は、サッケード検出部290で検出されるトリガのタイミングと同期してスイッチ140の切り替えのタイミングを決定する。
【0139】
実施形態1と異なり、トリガは被験者の無意識の眼球運動であるサッケードが検出後であり、かつ、そのサッケード運動が停止した瞬間である。
【0140】
そのため、計測指示が入力された後、トリガが検出されるまでの時間は不明である。
【0141】
脳波計測区間にできるだけ時間的に近い時点で接触インピーダンスを計測するため、トリガが検出されるまでは常時接触インピーダンスを計測しておき、トリガを検出した場合にスイッチ140を切り替えて、脳波計測を行う。
【0142】
図12は実施形態1の変形例1の動作を示すフローチャートである。ステップS1015が削除された以外は図8と同一である。
【0143】
図13(a)および(b)では、脳波計測はトリガ直後から200msの区間としている。図13の(a)のシーケンスでは、脳波計測区間の直前の−100ms時点からトリガまでの100msの接触インピーダンス計測区間と、トリガから200ms時点の脳波計測区間とで1計測が実現される。
【0144】
一方、図13(b)のシーケンスでは計測指示入力からトリガまでの時間が短く、接触インピーダンス計測に必要な時間幅に満たない。よって、トリガから200ms時点までの200msの脳波計測区間と、それに続く200ms時点から300ms時点の100msの接触インピーダンス計測区間とで1計測が実現される。
【0145】
図13(a)および図13(b)の両シーケンスにおいて、基準値はトリガ検出直後の脳波計測開始時の電位とする。そのため、両シーケンスに基準値設定のための脳波計測区間はない。
【0146】
図12のステップS1010では、脳波計測の指示入力に基づき、トリガ制御部280
の計時部181は計時を開始し、トリガ制御部280は図13(a)の計測時間シーケンスに基づいて、スイッチ140をインピーダンス計測部130へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力する。
【0147】
これにより図12のステップS1020の判断はyesとなり、ステップS1030からステップS1060が実行され、接触インピーダンス計測が行われる。
【0148】
接触インピーダンス計測には、計測信号の1周期分の時間長が最低限必要である。例えば、10Hzの計測信号を用いる場合100ms以上の時間区間を接触インピーダンス計測に割り当てる必要がある。
【0149】
図13(a)では、計測指示入力からトリガであるサッケードの停止が検出されるまでに100ms以上の時間があり、図12のステップS1030からS1060がトリガ検出時まで繰り返される。
【0150】
サッケード検出部290によりトリガが検出されるとタイミング制御部283はスイッチ140を脳波計測部120へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力する。これにより図12のステップS1020の判断はnoとなり、接触インピーダンス計測が停止され、ステップS1070、ステップS1080が実行され、脳波が計測される。図13(a)の場合はトリガ検出から200msの時点でタイミング制御部283は1計測の完了すなわち脳波計測および接触インピーダンス計測の終了の情報を脳波計測部120とインピーダンス計測部130と補正処理部150とに出力する。図13(b)の場合はトリガ検出から200msの時点でタイミング制御部283は再度スイッチ140をインピーダンス計測部130へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力する。これにより、図12のステップS1020の判断はyesとなり、100ms間の脳波計測を終了し、ステップS1030からステップS1060が実行され、接触インピーダンス計測が行われる。トリガ検出から300msの時点でタイミング制御部283は1計測の完了すなわち脳波計測および接触インピーダンス計測の終了の情報を脳波計測部120とインピーダンス計測部130と補正処理部150とに出力する。
【0151】
1計測分の計測が完了したかの判断は、トリガを0としたあらかじめ定められた時間区間を経過したかによって判断する。実施形態の変形例1では、トリガの前100ms以上、トリガの後200ms以上の時間経過があった場合、図13(a)のトリガ前の100msでの接触インピーダンス計測と、トリガ後の200msでの脳波計測が行われたものと見なし、1計測が完了したものと判断する。また、トリガの前に100ms以上の時間経過が無い場合はトリガ後に300ms以上の時間経過があった場合図13(b)のトリガ後の200msでの脳波計測とトリガ後200msから300msでの接触インピーダンス計測が行われたと見なし、1計測が完了したものと判断する。トリガの前の時間経過が100ms未満であり、トリガの後の時間経過が300ms未満である場合は少なくとも接触インピーダンス計測は完了していないため、1計測が完了していないと判断する。また、トリガの後の時間経過が200ms未満である場合は、少なくとも脳波計測が完了していないため、1計測が完了していないと判断する。
【0152】
なお、実施形態1と同様、脳波計測部120が基準値設定のための脳波計測または事象関連電位の成分を取得するための脳波計測が完了した場合にトリガ制御部180に計測完了信号を出力し、インピーダンス計測部130が接触インピーダンスの計測が完了した場合にトリガ制御部に計測完了信号を出力する。トリガ制御部180は、脳波計測部120が出力する計測完了信号とインピーダンス計測部130が出力する計測完了信号を用いて1計測が完了したことを判断するとしても良い。
【0153】
1計測が完了したことによりステップS1090の判断はyesとなり、ステップS1100からステップS1130が実行され、振幅補正された脳波波形が出力され、脳波計測システム10の動作が完了する。
【0154】
以上のように動作する脳波計測システム10では、実施形態1の効果に加えて、任意のタイミングで起こるトリガに対して脳波計測の直前または直後の接触インピーダンスを計測することができ、脳波計測時の直近の接触インピーダンスの値を用いて振幅補正を行うため、安定した脳波計測を行うことができる。
【0155】
なお、本変形例では脳波計測区間をトリガ時点から200msであるため接触インピーダンス計測区間を脳波計測の直前あるいは直後としたが、観察対象となる事象関連電位あるいは誘発電位の成分の時間範囲によって実施形態1と同様にトリガ直後から接触インピーダンス計測を行うものとしてもよい。
【0156】
なお、本変形例では制御部170への指示入力1回に対して1計測を行い1計測の波形を出力して終了するものとしたが、指示入力1回に対して複数計測を行い複数の波形を出力するものとしてもよい。その際には、1計測完了時にトリガ制御部283はスイッチ140をインピーダンス計測部130へ接続するスイッチ切り替え情報を切り替え制御部200へ出力し、接触インピーダンス計測を開始する。指示入力1回に対して複数計測を行う場合であっても、スイッチ140の初期状態をインピーダンス計測部130への接続として、1計測分の計測時間シーケンスが利用され、1計測ごとに接触インピーダンス計測と計測値に基づいた補正処理が行われるものとする。
【0157】
なお、本変形例において、脳波計測中にトリガが検出された場合は脳波計測を新しいトリガを起点に再開し、図13(b)の計測時間シーケンスを適用するものとする。
【0158】
なお、本変形例において、基準値は脳波計測開始時の電位とし、基準値設定のための脳波計測を行わないものとしたが、観察対象となる事象関連電位成分を取得する時間区間以外の時間区間で脳波を計測し、その平均値を基準値としても良い。例えば、EFRPを取得するための脳波計測直後、すなわちトリガから200ms時点から300msまでの100msの区間で脳波計測を行い、この区間の電位の平均値を基準値としても良い。この場合1計測の判断は、トリガの前の時間経過が100ms以上でかつトリガ後の時間経過が300ms以上であるか、あるいはトリガ前の時間経過が100ms未満でトリガ後の時間経過が400ms以上である場合に接触インピーダンス計測1回と、観察対象である成分を取得するための脳波計測1回と、基準値設定のための脳波計測1回がすべて完了したと判断する。
【0159】
なお、本変形例においてトリガをサッケードの停止としたが、ボタン押し下げの検出等、被験者の任意の動作をトリガとしてもよい。トリガとなる動作以降の事象関連電位あるいは誘発電位を観察対象として記録する場合は図13の示す計測時間シーケンスが適用される。
【0160】
被験者の任意の動作をトリガとし、トリガに先行する脳活動を観察対象とする場合は、図14に示すように、トリガを0とし、トリガまでの時間区間、例えば−300ms時点からトリガまでの300msの間を観察対象の成分を含む脳波計測区間とする。さらに、その直前の100msを基準値生成のための脳波計測区間とする。この場合には、計時部181は常時計時を行っており、また、スイッチ140は通常の状態として電極110と脳波計測部120とを接続するものとする。
【0161】
この場合、計測指示が入力された後、トリガが検出されるまでの時間は不明であり、かつトリガから時間を遡って脳波計測を行う。そのため、計測指示が入力された後、トリガが検出されるまでは常時脳波を計測しておき、トリガを検出した場合にスイッチ140を切り替えて、接触インピーダンス計測を行う。これにより、脳波計測区間にできるだけ時間的に近い時点で接触インピーダンスを計測することができる。
【0162】
脳波計測部120は常時脳波を計測している。取得波形記憶部161は脳波計測区間の時間長と基準値の計算に必要な時間長とを合わせた直近の脳波を記憶する。ここでいう「直近の脳波」とは、トリガの検出と接触インピーダンス計測の時刻に最も近い時間において測定された脳波を意味する。より詳しく説明すると、脳波が記録されている時間の幅は不定であるため、不定の時間長の中で、時間的に最もトリガの検出またはインピーダンス計測区間に近い、「脳波計測区間の時間長と基準値の計算に必要な時間長」を取り出したものが「直近の脳波」となる。ステップS1010で1計測分の脳波計測が開始されると、ボタン押し下げ検出部は被験者のボタンの押し下げの監視を開始する。タイミング制御部283はボタン押し下げ検出部で検出されるトリガのタイミングと同期してスイッチ140の切り替えのタイミングを決定し、スイッチ140をインピーダンス計測部130へ接続するためのスイッチ切り替え情報を出力して、脳波計測を終了する。その後、接触インピーダンス計測が行われる。そしてタイミング制御部283は、脳波計測区間と脳波計測区間とを合わせた時間長(例えば、図14では400ms)の脳波が取得波形記憶部161に記憶されていない場合は、1計測に必要な脳波計測が完了していないと見なす。タイミング制御部283はスイッチを切り替えず、次のトリガを検出するまで脳波計測を継続する。
【0163】
一方、取得波形記憶部161に十分な時間長の波形が記憶されている場合は、タイミング制御部283は1計測に必要な脳波計測が完了していると見なし、トリガから200ms時点で接触インピーダンス計測が完了したものと見なす。すなわちタイミング制御部283は、基準値設定用の脳波の計測と1回分の脳波成分を含む脳波信号と、1回分の接触インピーダンス計測が完了したものと見なす。タイミング制御部283は1計測の完了すなわち脳波計測および接触インピーダンス計測の終了の情報を脳波計測部120とインピーダンス計測部130と補正処理部150とに出力する。なお、基準値設定のための脳波計測区間はトリガ直後の100msあるいは接触インピーダンス計測区間の直後の100msでもよい。
【0164】
なお、本変形例においてトリガをサッケードの停止としたが、特定の外部環境あるいは外部環境の変化を検出してトリガとするとしてもよい。例えば図15に示すようにマイクロフォン291とアンプ292と信号処理部293によって構成された環境音検出部490を設けてもよい。環境音検出部490により、一定以上の立ち上がり速度で、一定以上の音圧を持つ音を検出した時点を検出し、その音をトリガとして、図9あるいは図13の計測時間シーケンスに従って脳波計測を行うものとしてもよい。
【0165】
なお図15は環境音検出部490の構成例を示している。環境音検出部490以外の構成は、たとえば図3に示される構成と同じであるが、当該構成は図15において便宜的に示すに過ぎない。
【0166】
(実施形態1の変形例2)
図16は本発明の実施形態1の変形例2にかかる脳波計測システム10bの構成図である。本変形例では被験者は複数の電極を装着し、2つの電極間で差動増幅を行う例を示す。
【0167】
本変形例による脳波計測装置11bでは、差動増幅を行うための2つの計測電極110が設けられ、スイッチ140がスイッチ340に置き換わり、インピーダンス計測部130がインピーダンス計測部330に置き換わり、補正部155が補正部355に置き換わった以外は実施形態1と同一の構成である。なお、補正部355では、補正部155の補正情報生成部150が補正情報生成部350に置き換わり、補正処理部160が補正処理部360に置き換わっている。
【0168】
図17は、インピーダンス計測部330、アース電極110a、計測電極110bおよび計測電極110cの詳細な構成図である。計測電極110bおよび計測電極110cとインピーダンス計測部330とはスイッチ340を解して接続されるが、ここではスイッチ340によって接続されている状態を説明する。スイッチ340の図示および説明は省略する。
【0169】
計測電極110bおよび計測電極110cは、それぞれ電気的状態の標準を取得するアース電極110aとの電位差を生体の電気的反応として取得する。
【0170】
インピーダンス計測部330は、計測信号出力部131と、電圧計測部132bおよび132cと、インピーダンス計算部133と、インピーダンス記憶部134とを備えている。
【0171】
計測信号出力部131は、インピーダンス計測部130は生体を介した回路の電圧を計測するための計測用信号をアース電極110aに出力する。
【0172】
電圧計測部132bは、計測電極110bより計測用信号を取得してその電圧を計測する。電圧計測部132cは、計測電極110cより計測用信号を取得してその電圧を計測する。
【0173】
インピーダンス計算部133は、計測信号出力部131および電圧計測部132bおよび132cの各出力を利用して、接触インピーダンスを計算する。計測信号出力部131は、CPUおよびメモリによって実現され得る。インピーダンス記憶部134は、インピーダンス計算部133によって計算された接触インピーダンスを記憶する。
【0174】
図18は、補正処理部360の詳細な構成図である。差動増幅処理部365が付け加わった以外は図7と同一の構成である。
【0175】
図19は、本変形例の動作を示すフローチャートを示す。本変形例の脳波計測システム10の動作は2つの計測電極110bおよび110cから得られた2つの波形の差分より波形を得る作動増幅処理が付け加わった以外は実施形態1に示した図8と同様である。ただし計測電極が2つあるため、ステップS1040の電圧計測、ステップS1050の接触インピーダンス計算、ステップS1060の接触インピーダンス記憶また、ステップS1070の脳波取得とステップS1080の取得波形記憶については、計測電極110bおよび計測電極110cそれぞれについて図8と同一の動作を行う。
【0176】
ステップS1110の補正処理の後に2電極間の差動増幅処理が行われるが、それ以外のステップについては実施形態1と同様であるので説明を省略する。ステップS1110において補正情報生成部350はインピーダンス記憶部134に記憶された電極ごとの接触インピーダンスと脳波計測部120に含まれるアンプの入力インピーダンスとに基づいて電極ごとに振幅補正値を計算する。
【0177】
2つの電極間で差動増幅を行う場合電極ごとの接触インピーダンスが異なると、電極ごとの振幅誤差が異なるのみでなく、電極から脳波計測部120のアンプまでのリード線を含む回路上で混入するノイズの振幅も生体信号の振幅同様に異なる。差動増幅は2つの電極に共通して混入した同相のノイズを除去し、逆相の信号を増幅する処理である。
【0178】
しかしながら、電極間で接触インピーダンスが異なる場合、アンプの入力インピーダンスは同一の固定値であるため、ノイズ、信号とも振幅が異なり、差動増幅によって除去されるはずの同相のノイズが振幅差の分残る。その結果、増幅されるはずの逆相の信号は、振幅差の分、その増幅が少なくなる。電極ごとに計測された接触インピーダンスとアンプの入力インピーダンスに基づいて、計算される補正値に基づいて行われる補正処理により、各電極の振幅誤差は標準化され、差動増幅が最も有効な状態にすることができる。
【0179】
補正処理部360はステップS1100において補正情報生成部350で計算された電極ごとの補正値に基づきステップS1080で取得波形記憶部161に電極ごとに記憶した電位波形を補正し、計測電極110bの補正波形と計測電極110cの補正波形との差分により差動増幅を行う(ステップS3110)。基準値の計算および基準値に対する標準化については実施形態1のステップS1110と同様の方法を電極ごとに適用する。標準化した電位波形にステップS1100において補正情報生成部350で計算された振幅補正値を電位波形に乗じて振幅補正を行う。上記のように計測電極ごとに振幅補正を行った波形について、差動増幅処理部365は電極110bの補正波形から計測電極110cの補正波形を減じるまたはその逆に計測電極110cの補正波形から電極110bの補正波形を減じることにより差動増幅波形を生成する。
【0180】
制御部170はステップS1110で補正され、ステップS3110の差動増幅により生成された電位波形を出力し(ステップS1120)、1計測分の脳波計測を終了する(ステップS1130)。
【0181】
以上の構成と動作により、電極ごとに計測された直近の接触インピーダンスの値にもとづいて振幅補正を行うことで、電極間の接触インピーダンスの差が標準化され、差動増幅を最も効果的に行うことができる。
【0182】
(実施形態2)
図20は、本発明の実施形態2にかかる脳波計測システム20の構成図である。実施形態2では実施形態1の脳波計測システム10が出力する1計測ごとの脳波を加算平均し、加算平均波形に基づいて判別を行う。出力は機器制御信号として利用可能である。
【0183】
本実施形態による脳波計測装置21では、実施形態1による脳波計測装置11の制御部170が制御部470に入れ替わり、加算平均部410と判別閾値記憶部420と判別処理部430とが付け加わった以外は実施形態1と同一の構成である。
【0184】
本実施形態の脳波計測システム20の動作を図21に従って説明する。
【0185】
図21は、実施形態2の脳波計測システム20の動作を示すフローチャートである。本実施形態の脳波計測システム20の動作は実施形態1の図8に示す動作のステップS1110以降に加算平均処理と判別処理が付け加わった以外は図8と同一であるので説明を適宜省略する。
【0186】
まず、制御部170が開始信号を取得し、脳波計測システム1の動作を開始する(ステップS1010)。脳波計測部120は、電極110から基準値設定用の脳波信号として電位を計測する(ステップS1015)。
【0187】
脳波計測部120とインピーダンス計測部130はスイッチ140が電極110と脳波計測システム1120を接続しているか否か、スイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130を接続しているか否かを判断する(ステップS1020)。スイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130とを接続している場合は、インピーダンス計測部130はステップS1030からステップS1060の動作により接触インピーダンスを計測して計測結果を保存する。トリガ制御部180は1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了したかどうかを判断する(ステップS1090)。
【0188】
一方、ステップS1020においてスイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130とを接続していない場合は、脳波計測部120は電極110から生体の電気反応として電位を計測する(ステップS1070)。そして脳波計測部120は、補正処理部160の取得波形記憶部161(図5)に計時部181で計測された計測時刻と合わせて記録する(ステップS1080)。トリガ制御部180は1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了したかどうかを判断する(ステップS1090)。
【0189】
ステップS1090において1計測分の計測が完了していない場合はステップS1015に戻り、計測を継続する。ステップS1090において1計測分の脳波計測と接触インピーダンス計測が完了している場合は、補正情報生成部150はインピーダンス記憶部134に記憶された接触インピーダンスと脳波計測部120に含まれるアンプの入力インピーダンスに基づいて振幅補正値を計算する(ステップS1100)。補正処理部160はステップS1100において補正情報生成部150で計算された補正値に基づきステップS1080で取得波形記憶部161に記憶した電位波形を補正する(ステップS1110)。加算平均部410はステップS1100で補正された電位波形をトリガを起点とした時間軸上で加算する(ステップS4110)。
【0190】
事象関連電位の計測においては、提示したトリガの種類、例えば聴覚刺激であれば音高、音の大きさ、周波数特性やリズム等によって分類され、トリガの分類ごとに電位波形を加算平均して、トリガの分類ごとの電位波形を比較することが行われる。ステップS4110においては、加算平均部410は制御部470よりトリガの分類情報を取得し、ステップS1100で補正処理部160より出力された電位波形の分類に基づいて加算処理を行う。
【0191】
制御部470は各トリガ分類に対する取得された電位波形の加算回数があらかじめ定められた加算回数を満たしているか否かを判断する(ステップS4120)。加算回数が不足している場合(ステップS4120においてno)は、ステップS1020に戻り1計測分の脳波計測を開始する。加算回数が充足している場合(ステップS4120においてyes)は、加算平均部410はトリガ分類ごとに加算した電位波形を分類ごとの加算回数で除し、加算平均波形を生成する(ステップS4130)。
【0192】
なお、ここでは1計測の波形が出力されるたびに加算を行ったが、加算回数分の波形を記憶しておき、加算回数が充足した時点で加算平均波形を求める計算を行っても良い。判別処理部430は判別閾値記憶部420に記憶された閾値に基づいて、ステップS4130で加算平均部410より出力された加算平均波形の判別を行う(ステップS4140)。例えば音高の高い音に対する加算平均波形と音高の低い音に対する加算平均波形のうち音高の高い音に対する加算平均波形で観察対象の事象関連電位の成分が閾値を越えている場合、具体的には判別閾値記憶部420にあらかじめ記憶された閾値が例えば5μVであり、音高の高い音に対するトリガ後300msから400msの間の事象関連電位の成分の振幅値が7μVであり、音高の低い音に対するトリガ後300msから400msの間の事象関連電位の成分の振幅値が2μVである場合、被験者が音高の高い音を選択したと判断する。なお、判別閾値記憶部420に記憶された閾値は、本発明のステップS1100からステップS1110と同様の処理を行って求めたものであり、計測値と閾値とは共に接触インピーダンスの変動による振幅誤差の影響を受けない状態で比較されるものである。
【0193】
制御部470はステップS4140の判別結果を出力して動作を終了する(ステップS1130)。
【0194】
以上のように動作する脳波計測システム20では、事象関連電位1計測ごとに脳波計測時の直近の接触インピーダンスの値を用いて振幅補正を行い、1計測ごとのばらつきが少ない脳波を用いて加算平均を行うため、判別基準とともに振幅誤差のない状態で比較することができ、判別制度が高い。また、波形が安定しているため加算回数を削減することができる。
【0195】
なお、実施形態2において判別閾値記憶部420は観察対象である事象関連電位の成分の振幅値のみを記憶しており、判別処理部430は計測された波形の振幅値と閾値との比較を行ったが、判別閾値記憶部420は判別用教師データ波形のデータベースあるいはテーブルであっても良い。この場合は、判別処理部430は加算平均部410から出力された加算平均波形と教師データとの距離を計算し、最も距離の近い状態が選択されたものと見なす。そのほか、時間周波数領域での判別等、事象関連電位に対して行われるどのような判別方式を用いても良い。
【0196】
(実施形態3)
図22は、本発明の実施形態3にかかる脳波計測システム30の構成図である。
【0197】
実施形態3による脳波計測装置31では、実施形態1の脳波計測装置11の補正情報生成部150がデータ除去判断部540に入れ替わり、補正処理部160が加算平均部510に入れ替わり、制御部170が制御部570に入れ替わり、教師データ520と、判別処理部530と、インピーダンス蓄積部550と、インピーダンス変動情報生成部560とが付け加得られている。その相違以外は実施形態1と同一の構成である。また、脳波計測システム30から電極110、刺激提示部190および教師データ520を除いたものを脳波計測装置31とする。
【0198】
図23は、加算平均部510の詳細な構成図である。本実施形態による加算平均部510は、実施形態1の図7に示す補正処理部160の振幅補正部164が加算平均計算部541に置き換わった以外は図7の補正処理部160と同一の構成である。
【0199】
以下、図24を参照しながら本実施形態の脳波計測システム30の動作を説明する。
【0200】
図24は、実施形態3の脳波計測システム30の動作を示すフローチャートである。本実施形態の脳波計測システム30の動作は実施形態1の図8に示す動作のうちステップS1010の動作開始からステップS1090で1計測分の計測を完了するまでは実施形態1と同一の動作であるので、説明を適宜省略する。
【0201】
まず、制御部170が開始信号を取得し、脳波計測システム30の動作を開始する(ステップS1010)。脳波計測部120は、電極110から基準値設定用の脳波信号として電位を計測する(ステップS1015)。脳波計測部120とインピーダンス計測部130はスイッチ140が電極110と脳波計測部120を接続しているか否か、スイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130を接続しているか否かを判断する(ステップS1020)。
【0202】
スイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130とを接続している場合は、インピーダンス計測部130はステップS1030からステップS1060の動作により接触インピーダンスを計測して計測結果を保存する。トリガ制御部180は1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了したかどうかを判断する(ステップS1090)。
【0203】
一方、ステップS1020においてスイッチ140が電極110とインピーダンス計測部130とを接続していない場合は、脳波計測部120は電極110から生体の電気反応として電位を計測し(ステップS1070)、補正処理部160の取得波形記憶部161に計時部181で計測された計測時刻と合わせて記録する(ステップS1080)。トリガ制御部180は1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了したかどうかを判断する(ステップS1090)。
【0204】
ステップS1090において1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了していない場合(ステップS1090においてno)は、ステップS1020にもどり、計測を継続する。ステップS1090において1計測分の脳波計測および接触インピーダンス計測が完了している場合(ステップS1090においてyes)は、データ除去判断部540は、計測された当該脳波に対応する接触インピーダンスの値が定められた範囲内にあるか否かを判断する。範囲外の場合には、データ除去判断部540は当該脳波の除去を決定する(ステップS5100)。例えば電極の接触インピーダンスが1.4MΩ以上の場合に脳波を除去する。ステップS5100で当該脳波の除去が決定された場合(ステップS5110においてyes)は、ステップS1015にもどり、計測を継続する。
【0205】
ステップS5100でデータ除去判断部540が当該脳波を除去しないと決定した場合(ステップS5110においてno)は、加算平均部510は脳波計測部120から当該脳波を取得し、加算処理を行う(ステップS5120)。詳細は以下のとおりである、まずステップS1080で、加算平均計算部541は取得波形記憶部161に記憶した電位波形を標準化する。基準値計算部162は、取得波形記憶部161に記憶された電位波形のうち図9に示す基準値設定区間、例えば、トリガ発生時点に100ms先行する点からトリガ発生時までの100msの間、に計測された電位波形を抽出し、電位の区間平均を求める。この値を基準値、すなわち電位のゼロ点とし、基準値記憶部163に記憶する。
【0206】
加算平均計算部541は記憶された電位波形のうち図9に示す観察対象波形計測区間、例えばトリガ発生時点から200ms経過した時点から500ms経過した時点までの300msの間の電位波形を抽出する。抽出した電位波形から基準値記憶部163に記憶した基準値を減じて電位波形を標準化する。さらに、加算平均計算部541は標準化した電位波形をトリガを起点とした時間軸上で当該脳波を加算する(ステップS5120)。データ除去判断部540は当該脳波に対応する接触インピーダンスの値をインピーダンス蓄積部550に蓄積する(ステップS5130)。制御部570は脳波を加算した回数があらかじめ定められた加算回数を充足したか否かを判断する(ステップS5140)。加算回数が不足している場合(ステップS5140においてno)は、ステップS1020にもどり、計測を継続する。加算回数が充足している場合(ステップS5140においてyes)は、加算平均計算部541で加算された電位の時間波形を加算回数で除して平均する(ステップS5150)。インピーダンス変動情報生成部560はインピーダンス蓄積部550に蓄積された接触インピーダンスの値の分布範囲を取得する(ステップS5160)。判別処理部530はステップS5160で生成された接触インピーダンスの分布範囲に基づいて教師データ520に記憶された判別用教師データから該当する接触インピーダンスで記録された教師データを抽出する(ステップS5170)。図22の教師データ520では接触インピーダンスが小さくかつ接触インピーダンスの分布が小さい状態で記録された教師データと接触インピーダンスが大きくかつ接触インピーダンスの分布が大きい状態で記録された教師データとを記憶している。例えば、接触インピーダンスが1.1MΩより小さく、接触インピーダンスが1MΩから1.1MΩに分布する状態で記録された教師データと、接触インピーダンスが1.1MΩより大きく、接触インピーダンスが1.2MΩから1.4MΩに分布する状態で記録された教師データとの2種類である。ステップS5170において例えば接触インピーダンス値の分布範囲が図1の押し圧30g/平方センチ未満のデータのように1.2MΩから1.5MΩである場合、接触インピーダンスが大きく、接触インピーダンスが1.2MΩから1.4MΩに分布する状態で記録された教師データを選択する。判別処理部530はステップS5150で生成された加算平均波形とステップS5170で選択された教師データとのパタンマッチングを行い、被験者の状態を判別する。
【0207】
図25は、教師データ520に格納された教師データの値と分布を模式的に示す。図25(a)は接触インピーダンスが小さく接触インピーダンスの分布も小さい場合を示した模式図である。図25(b)は接触インピーダンスが大きく接触インピーダンスの分布も大きい場合を示した模式図である。
【0208】
例えば、事象関連電位でナースコールを行うシステムの場合、「ナースコールをする」と画面に提示し、ナースコールを実行する場合にはナースコールの画面提示に注意を向けることで記録される、事象関連電位のP300を検出する。P300が検出された場合にナースコールを行い、P300が検出されなければナースコールを行わない。
【0209】
図25(a)および図25(b)はP300を模式的に示している。実線はナースコールをしない場合の加算平均脳波の平均的波形であり、破線はナースコールをする際の加算平均脳波の平均的波形である。
【0210】
図25(a)では、接触インピーダンスが小さいため、計測された脳波の振幅誤差が小さく、振幅が大きい。さらに、接触インピーダンスの分布が小さいため、振幅誤差の分布が小さく、脳波波形のばらつきも小さい。そのため、ナースコールをする場合の波形としない場合の波形は波形の分布範囲を含めて分離がよく、波形のピークでナースコール無しの場合と、ナースコース実行の場合との中間点で判別閾値を設ければ、誤判定が無い。
【0211】
一方図25(b)では接触インピーダンスが大きいため、計測された脳波の振幅誤差が大きく、振幅が小さい。さらに接触インピーダンスの分布が大きいため、振幅誤差の分布が大きく、脳波波形のばらつきが大きい。そのため、ナースコールをする場合の波形としない場合の波形の差は小さく、両者の分布が重なる。そのため、ナースコール無しの場合と、ナースコース実行の場合との中間点で判別閾値を設けると、ナースコールを実行したいのに、ナースコール実行と判別されない場合とナースコールを実行するつもりはないのにナースコールをすると判別される場合とが同程度発生する。ナースコールの例においては、ナースコールを実行したいのに、実行されない場合の方がユーザの不利益が多い。よって、接触インピーダンスが大きく接触インピーダンスの分布も大きい場合には、判別閾値を、ナースコール無しの平均波形により近づけ、ナースコール実行の場合の波形分布の範囲をより多く含み、ナースコール実行時の波形検出をよりし易くする。
【0212】
すなわち、判別処理部530は、ステップS5180において、ステップS5170で接触インピーダンスの分布範囲に基づいて抽出した教師データとステップS5150で生成された加算平均波形とのマッチングを行う。このとき判別処理部530は、接触インピーダンスが小さく接触インピーダンス分布も小さい教師データを選択した際には加算平均波形と教師データとのマッチングにより、マッチする教師データがより多い、ナースコール実行か、ナースコール無しかのいずれかのグループを選択する。一方接触インピーダンスが大きく接触インピーダンス分布も大きい教師データを選択した際には、判別処理部530は、加算平均波形と教師データとのマッチングを行い、ナースコールをするグループの教師データとマッチする場合には重みをつけて、マッチする教師データが多いグループを判断する。例えば、ナースコールサルグループの教師データとマッチした際には1.3をかけ、マッチする教師データの数を比較する。これにより、脳波の振幅誤差が大きく、分布も大きくなるために、判別が困難になる接触インピーダンスが大きく、その分布も大きい場合においては、ナースコールのような必要度の高い操作の見逃しが減る。
【0213】
接触インピーダンスに従って教師データを切り替えることで、判別の精度を高めると共に、接触インピーダンスに従って判別基準を切り替えることで、波形の見逃しを防ぎ、必要度の高い操作を確実に行うことができる。
【0214】
なお、ステップS5180において判別処理部530は教師データ520に格納された教師データとのマッチングを行ったが、図25に示すような判別閾値をあらかじめ定めておき、接触インピーダンスにより判別閾値を選択して、加算平均波形の判別を行うものとしても良い。その際の判別閾値は、接触インピーダンスが高く、分布も大きい場合には、ナースコールのような必要度の高い操作を見逃すことの無いよう、判別閾値を設定するものとする。
【0215】
なお、本実施形態ではナースコールのように、操作の見逃しを回避する必要がある場合について説明したが、電源を切る等の、操作したと誤認識することによる被害が大きい場合には、逆に、操作があったと判断する頻度が少なくなるように判別閾値あるいはマッチング時の重みを調整する。
【0216】
各実施形態の脳波計測装置には、たとえば脳波計である脳波計測部120が設けられるとしたが、これは必須ではない。たとえば、脳波計測部120が脳波計測装置の外部に設けられていてもよい。この場合には、脳波計測部120は脳波計測装置の構成要素ではなくなる。
【0217】
また、実施形態1およびその変形例と実施形態2と実施形態3において、スイッチ140はソフトウェア(コンピュータプログラム)によって実現してもよい。
【0218】
さらに、上述した各実施形態の脳波計測装置の動作は、たとえば、コンピュータであるCPU(図示せず)が、各実施形態に関連して説明したフローチャートに基づく命令群を記述したコンピュータプログラムを実行することによって実現されてもよい。このとき、コンピュータプログラムを実行するCPUは、実行する処理に応じて、インピーダンス計測部130、スイッチ140、補正情報生成部150、補正処理部160、制御部170、トリガ制御部180および切り替え制御部200の少なくとも一つとして機能する。そのようなコンピュータプログラムもまた本発明の範疇である。
【0219】
なお、実施形態1およびその変形例と実施形態2において、補正情報生成部150および補正情報生成部350は接触インピーダンスと脳波計測部120に含まれるアンプの入力インピーダンスとの比より振幅補正情報を生成したが、皮膚と接触する電極110と脳波計測部120との間でインピーダンス変換を行うアクティブ電極を用いる場合は、アクティブ電極のインピーダンス変換部に含まれるアンプの入力インピーダンスと電極110の接触インピーダンスとの比より振幅補正情報を生成するものとする。アクティブ電極を用いる際には、インピーダンス変換部に含まれるアンプの出力インピーダンスは十分に小さく安定しているため、脳波計測部120に含まれるアンプの入力インピーダンスとの比は大きく安定しており、インピーダンス変換部から脳波計測部120の間での振幅誤差は無視できる程度に小さい。そのため、接触インピーダンスの変動による振幅誤差の変動は、インピーダンス変換部の入力インピーダンスと接触インピーダンスの比の変動によって決定され、脳波計測部120に含まれるアンプでは収束されない。
【産業上の利用可能性】
【0220】
本発明にかかる脳波計測システムでは、事象関連電位あるいは誘発電位を計測する場合に広く利用可能であり、事象関連電位あるいは誘発電位を用いた脳はインタフェースを構築する場合に有用である。また、接触インピーダンスの変動に対して頑健なためウェアラブルな情報機器や携帯電話等の通信機器等の用途にも応用できる。
【符号の説明】
【0221】
10、20、30 脳波計測システム
11、21,31 脳波計測装置
100 ユーザ
110 電極
110a アース電極
110b、110c 計測電極
120 脳波測定部
130、330 インピーダンス計測部
131 計測信号出力部
132、132b、132c 電圧測定部
133 インピーダンス計算部
134 インピーダンス記憶部
140、340 スイッチ
150、350 補正情報生成部
160、360 補正処理部
161 取得波形記憶部
162 基準値計算部
163 基準値記憶部
164 振幅補正部
170、470、570 制御部
180、280 トリガ制御部
181 計時手段
182 計測時間シーケンス記憶部
183、283 タイミング制御部
190 刺激提示手段
191 α波抽出部
200 切り替え制御部
290 サッケード検出部
291 マイクロフォン
292 アンプ
293 信号処理部
365 差動増幅処理部
410、510 加算平均部
420 判別閾値記憶部
430、530 判別処理部
520 教師データ
540 データ除去判断部
541 加算平均計算部
550 インピーダンス蓄積部
560 インピーダンス変動情報生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極と、
前記少なくとも2つの電極を用いて、前記ユーザの脳波を計測する脳波計測部と、
前記少なくとも2つの電極を用いて、電極の接触インピーダンスを計測するインピーダンス計測部と、
特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するトリガ生成部と、
前記トリガ信号が生成された時間起点を用いて、前記脳波計測部により脳波を計測する時間区間と、前記インピーダンス計測部により接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替える切り替え制御部と、
前記接触インピーダンスと前記脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、前記脳波計測部で計測された脳波の振幅を補正する補正部と
を備え、
前記切り替え制御部は、前記事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、前記事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替える、脳波計測システム。
【請求項2】
前記切り替え制御部が切り替える時間区間のうち、前記接触インピーダンスを計測する時間区間は、前記トリガ信号を起点としてあらかじめ定められた時間長の時間区間であって、当該トリガと対応付けられる事象関連電位の成分あるいは誘発電位の成分を含む時間区間の開始までの間の時間区間である、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項3】
前記切り替え制御部が切り替える時間区間のうち、前記脳波を計測する時間区間は、前記トリガ信号を起点としてあらかじめ定められた時間長の時間区間であり、前記接触インピーダンスを計測する時間区間は、前記脳波を計測する時間区間以外の時間区間である、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項4】
前記切り替え制御部が切り替える時間区間のうち、前記接触インピーダンスを計測する時間区間は、前記トリガ信号を起点としてからあらかじめ定められた時間長の時間区間であり、前記脳波を計測する時間区間は、前記接触インピーダンスを計測する時間区間以外の時間区間である、請求項1に記載の脳波計測システム、
【請求項5】
前記少なくとも2つの電極は、アース電極と計測電極とを含み、
前記脳波計測部は、計測した脳波信号を増幅するためのアンプを有し、
前記補正部は、前記計測電極の電極接触インピーダンスと、前記アンプの入力インピーダンスとの比に基づいて振幅補正値を決定する、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項6】
前記少なくとも2つの電極は、アース電極と、第1計測電極と第2計測電極とを含み、
前記脳波計測部は、計測した脳波信号を増幅するためのアンプを有し、前記第1計測電極および前記第2計測電極の各々を用いて脳波を計測し、
前記補正部は、前記第1計測電極および前記第2計測電極の各々の接触インピーダンスとアンプの入力インピーダンスに基づいて、差動増幅波形を生成する、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項7】
前記補正部は、
前記第1計測電極で計測される脳波の振幅を、前記第1計測電極の接触インピーダンスと前記アンプの入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて補正して第1補正波形を生成し、かつ、前記第2計測電極で計測される脳波の振幅を、前記第2計測電極の接触インピーダンスと前記アンプの入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて補正して第2補正波形を生成し、
前記第1補正波形と前記第2補正波形との差として、前記差動増幅波形を生成する、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項8】
前記事象関連電位の成分あるいは前記誘発電位の成分をあらかじめ定められた基準に従って判別する判別処理部をさらに備えた、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項9】
複数回計測された前記脳波の電位を前記トリガ信号を起点とする同一時間軸上で加算平均して1つの時間波形を生成する加算平均部をさらに備えた、請求項1に記載の脳波計測システム。
【請求項10】
前記あらかじめ定められた基準である判別基準を記憶する判別基準記憶部であって、前記判別基準記憶部は前記電極インピーダンスの絶対値と電極インピーダンスの変動幅と電極インピーダンスの変動比と電極インピーダンスと入力インピーダンスの比のうち少なくとも何れか1つの指標に従って複数のグループに区分された判別基準を記憶する判別基準記憶部をさらに備え、
前記判別処理部は、判別する脳波または前記加算平均結果に対応付けられた電極インピーダンスと、電極インピーダンスの変動幅と電極インピーダンスの変動比と電極インピーダンスと入力インピーダンスの比に従って前記判別基準記憶部に記憶された判別基準を選択して当該脳波はまたは加算平均結果を判別する、請求項7に記載の脳波計測システム。
【請求項11】
ユーザの頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極を用いて、前記ユーザの脳波を計測するステップと、
前記少なくとも2つの電極を用いて、電極の接触インピーダンスを計測するステップと、
特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するステップと、
前記トリガ信号が生成された時間起点を用いて、前記脳波を計測するステップにより脳波を計測する時間区間と、前記接触インピーダンスを計測するステップにより接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替えるステップと、
前記接触インピーダンスと前記脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、前記脳波を計測するステップで計測された脳波の振幅を補正するステップと
を包含し、
前記切り替えるステップは、前記事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、前記事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替える、脳波計測方法。
【請求項12】
脳波計測システムのコンピュータによって実行されるコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムは、前記コンピュータに対し、
ユーザの頭部または顔面に接触させる少なくとも2つの電極を用いて計測された、前記ユーザの脳波を受け取るステップと、
前記少なくとも2つの電極を用いて、電極の接触インピーダンスを計測するステップと、
特定の事象に起因する事象関連電位または誘発電位を計測する際の時間起点となるトリガ信号を生成するステップと、
前記トリガ信号が生成された時間起点を用いて、前記脳波が計測される時間区間と、前記接触インピーダンスを計測するステップにより接触インピーダンスを計測する時間区間とを切り替えるステップと、
前記接触インピーダンスと前記脳波計測部の入力インピーダンスとの比に基づいて算出される振幅補正値を用いて、前記脳波を計測するステップで計測された脳波の振幅を補正するステップと
を実行させ、
前記切り替えるステップは、前記事象の発生に起因して定まる1つのトリガ信号に対して、前記事象関連電位または誘発電位の脳波成分が1つ含まれる脳波を計測する時間区間と、インピーダンスを計測する時間区間とが含まれるように切り替える、コンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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