脳波計測用電極装置
【課題】頭皮に電極を直接接触させることなく脳波信号の計測を行うことが可能な脳波計測用電極装置を提供する。
【解決手段】人の頭皮10に頭髪11を介して装着される電極2と、電極2に接続され、電極2と頭皮10との間の静電容量結合による電圧変化を検出するオペアンプ30と、一端が電極2に接続されるとともに他端が接地される抵抗素子4とを備え、電極2が頭皮10に頭髪11を介して装着された場合に、電極2および頭皮10間に形成されるコンデンサと抵抗素子4とによって形成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数が限りなく0に近似されるように、抵抗素子4の抵抗値が決定されている。電極2は基板に一方の面に実装され、基板の他方の面にオペアンプ30が実装され、基板は、電極2のみが露出するように、樹脂によりモールドされている。
【解決手段】人の頭皮10に頭髪11を介して装着される電極2と、電極2に接続され、電極2と頭皮10との間の静電容量結合による電圧変化を検出するオペアンプ30と、一端が電極2に接続されるとともに他端が接地される抵抗素子4とを備え、電極2が頭皮10に頭髪11を介して装着された場合に、電極2および頭皮10間に形成されるコンデンサと抵抗素子4とによって形成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数が限りなく0に近似されるように、抵抗素子4の抵抗値が決定されている。電極2は基板に一方の面に実装され、基板の他方の面にオペアンプ30が実装され、基板は、電極2のみが露出するように、樹脂によりモールドされている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭皮に電極を直接接触させることなく頭髪の上からでも高い精度の脳波検査を可能とする脳波計測用電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の感性を脳波から客観的に評価することが行われており、脳波を用いて、例えば製品の評価や乗り物の乗り心地の評価などを分析する技術についての研究が進められている。このような脳波を用いた評価を精度よく行う上で、脳波信号を精度よく計測することは不可欠である。
【0003】
脳波信号は、例えば、銀−塩化銀製の皿電極からなる複数の電極を被験者の頭皮に接触させて計測するが、頭髪の存在や頭の形状の不均一さから、電極と頭皮との確実な接触状態を実現するために、計測前に、被験者の頭皮の脂肪分や汚れを清拭するなどの頭皮処理を行った後、ペーストを使用して電極を頭皮に接触させることが一般的に行われている。しかしながら、ペーストを用いる場合には、ペーストが頭皮に接触するために被験者に不快感を与えるという問題が生じるともに、頭髪をかき分けて頭皮に電極を接触させる必要があるために、計測を開始するまでに要する時間が多大となり、被験者にかかる負担が大きいという問題も生じる。また、電極を頭皮に装着するにあたっては、専門性が要求され、手軽に日常的に使用するには不向きであるという問題も生じる。
【0004】
そこで、ペーストを使用しないペーストレスの脳波信号検出方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の検出方法は、電解液として生理食塩水を吸水した状態の弾性部材を電極として頭皮に接触させる方式のものであり、ペーストを使用しないので、被験者の不快感については軽減可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−34429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の検出方法においても、電極を頭皮に直接接触させる必要があるために、頭髪をかき分けて頭皮を露出させる必要があるなど、検査を開始するまでに要する時間が多大となって被験者にかかる負担が大きいという問題を生じる。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、頭皮に電極を直接接触させることなく脳波信号の計測を行うことが可能な脳波計測用電極装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、人の脳波信号を検出するために用いられる脳波計測用電極装置であって、人の頭皮に頭髪を介して装着される導電性の電極と、前記電極に接続され、前記電極と頭皮との間の静電容量結合による電圧変化を検出する増幅回路と、一端が前記電極に接続されるとともに他端が接地される抵抗素子とを備え、前記電極が人の頭皮に頭髪を介して装着された場合に、前記電極および頭皮間に形成されるコンデンサと前記抵抗素子とによって形成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数が限りなく0に近似されるように、前記抵抗素子の抵抗値が決定されていることを特徴とする脳波計測用電極装置により達成される。
【0009】
本発明の好ましい実施態様においては、基板の一方の面に前記電極が実装されるとともに、前記基板の他方の面に前記増幅回路が実装され、前記基板に設けられたスルーホールを介して前記電極および前記増幅回路が接続されることを特徴としている。
【0010】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記基板は、前記電極のみが露出するように、樹脂によりモールドされていることを特徴としている。
【0011】
本発明のさらに好ましい他の実施態様においては、前記基板は、前記電極および前記増幅回路を含む全体が樹脂によりモールドされていることを特徴としている。
【0012】
本発明のさらに好ましい他の実施態様においては、前記脳波計測用電極装置は、帽子に組み込まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、頭皮に電極を直接接触させることなく頭髪の上からでも脳波信号を検出することが可能な脳波計測用電極装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る脳波計測用電極装置の概略構成を示す回路図である。
【図2】図1の等価回路図である。
【図3】脳波計測用電極装置の断面図である。
【図4】電極の装着位置を説明する説明図である。
【図5】実験に使用した電極およびそれを被験者の頭部に装着した状態を示す写真である。
【図6】実施例1において、開眼時および閉眼時に計測した脳波信号の計測波形の一部分を示すグラフである。
【図7】図5の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図8】実施例2において、睡眠時に計測した脳波信号の計測波形の一部分を示すグラフである。
【図9】図8の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図10】実施例3の計測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図11】実施例3において、睡眠時に計測した脳波信号の計測波形の一部分を示すグラフである。
【図12】図11の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図13】脳波計測用電極装置を目出し帽に組み込んだ状態を示す斜視図である。
【図14】実施例4において、睡眠時において計測した脳波信号の計測波形一部分を示すグラフである。
【図15】図14の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図16】実施例4において、睡眠時において計測した脳波信号の計測波形一部分を示すグラフである。
【図17】脳波計測用電極装置の他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る脳波計測用電極装置1の概略構成を、図2は図1の等価回路を示す回路図を、図3は脳波計測用電極装置1の構成を示す断面図を、それぞれ示している。図1〜図3に示すように、脳波計測用電極装置1は、主要な構成として、導電性を有する電極2と、増幅回路3と、抵抗素子4とを備えており、人の頭皮10に電極2を直接接触させることなく頭髪11の上からでも脳から発生する電気信号の検出を可能とするものである。
【0016】
電極2は、人の頭皮10の表面に直接接して装着されるのではなく、人の頭髪11を誘電体として用い、この誘電体としての頭髪11を挟んだ状態で頭皮10に装着される。この電極2は、人の頭皮10とで仮想的なコンデンサ5(図2参照)を形成し、電極2と頭皮10との間の静電容量結合によって、脳の発生電位(脳電位)Vvivoを検出するための容量結合型電極として機能する。
【0017】
電極2を構成する材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、人の頭髪11上に装着したときに、人の頭部に違和感を与えない程度の軟らかさを有していることが好ましく、本実施形態では、平板状の銅板により構成されている。この電極2は、増幅回路3に接続されており、脳電位Vvivoの変動に応じて変動する電極2の電位(電気信号)を増幅回路3に伝達している。
【0018】
増幅回路3は、電極2と人の頭皮10との間の静電容量結合による電圧変化を検出することにより、脳電位Vvivoを検出するものであり、本実施形態では、高入力インピーダンス(低出力インピーダンス)のオペアンプ30により構成されている。オペアンプ30の入力端子(+側)30Aには、電極2が接続されており、電極2の電位(脳電位VVIVO)が電気信号として入力される。また、オペアンプ30の入力端子(−側)30Bは、オペアンプ30の出力端子30Cからのフィードバックが入力される。オペアンプ30は、上記した構成によって、電流の入力を抑制しつつ、電極2からの電気信号を出力端子32Cに伝達することができる。この増幅回路3は、信号線12(図3に示す)を介して図示しない計測機器に接続されており、増幅回路3の出力電圧VOUTは電気信号として前記計測機器に入力され、脳波信号の計測に用いられる。
【0019】
抵抗素子4は、電極2に溜まる電荷により、増幅回路3の出力電圧VOUTが飽和することを防ぐため、前記電荷を放出するために設けられた抵抗である。この抵抗素子4は、一端が電極2に、他端がグランド端子6に、それぞれ接続されており、かかる構成、つまり、電極2と頭皮10とで形成されるコンデンサ5および抵抗素子4によって、脳電位Vvivoを入力とした仮想的な回路が形成される。この回路構成はハイパスフィルタ7として機能し、このハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fcは、2つのパラメータRg,Cbを用いて以下の数式(1)で表される。なお、Rgは、オペアンプ30の入力端子(+側)とグランド端子6との間に設けられた前記抵抗素子4の抵抗値である。また、Cbは、電極2と人の頭皮10とで形成されるコンデンサ5の静電容量値である。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、電極2により出力される脳電位Vvivoの電気信号は、このハイパスフィルタ7を通過し、ハイパスフィルタ7によって、所定の周波数成分がカットされた状態で、増幅回路3に入力される。そのため、脳電位Vvivoの電気信号をより正確に増幅回路3に出力するためには、このハイパスフィルタ7の影響を小さくする、つまり、カットオフ周波数fcが小さな値となるように、抵抗値Rgを設定する必要がある。そこで、本実施形態では、ハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fcが限りなく0に近似されるように、抵抗値Rgをできるだけ大きく設定し、ハイパスフィルタ7の影響を無視できるように構成している。
【0022】
抵抗値Rgは、静電容量値Cbを考慮(Cb≪Rg)して、適宜設定することができるが、望ましい値の一例を示せば、Rg=2.2[MΩ]である。なお、抵抗値Rgの値は大きければ大きいほど、電極2により出力される脳電位Vvivoの電気信号は、ハイパスフィルタ7による影響を受け難いと考えられるので、抵抗値Rgの値は2.2[MΩ]よりも大きくてもよい。この抵抗値Rgの値を上記式(1)に代入すると、カットオフ周波数fcはfc≒0[Hz]と近似できるので、ハイパスフィルタ7の影響を無視することが可能となっている。
【0023】
本実施形態の脳波計測用電極装置1は、電極2とオペアンプ30とが一体形成されたアクティブ電極により構成されており、図3に示すように、基板8の一方の面にオペアンプ30が実装されているとともに、基板8のオペアンプ30とは反対の側の他方の面に電極2が実装されている。電極2およびオペアンプ30は、基板8に形成されたスルーホール(図示せず)に挿入したリーディングワイヤ(図示せず)によって接続されている。また、基板8は、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂により覆われており、その大部分がモールド樹脂9に封入されることで、電極2以外の他の部品にショートなどのトラブルが発生しないようになっている。なお、電極2については、少なくともその表面20は樹脂モールドされておらず、外部に露出するようになっている。
【0024】
次に、上記した構成の脳波計測用電極装置1による計測原理を説明する。図2に示す様に、電極2は、人の頭皮10に誘電体(頭髪11)を挟んで装着される。電極2は、図2の破線で囲んだ領域中のコンデンサ5の一方の電極に対応し、抵抗素子4を介して接地されている。図2のように、頭皮10と電極2との間の静電容量値をCb、抵抗素子4の抵抗値をRg、オペアンプ30の入力段の抵抗値および静電容量値をそれぞれRop,Cop、脳電位をVvivo、オペアンプ30の出力電圧をVoutとすると、かかる仮想的な回路構成の伝達関数は、以下の数式(2)で表される。
【0025】
【数2】
【0026】
上記数式(2)において、オペアンプ30の特性により、オペアンプ30の抵抗値Ropは十分に大きいために、以下の数式(3)のように近似できる。
【0027】
【数3】
【0028】
また、上記数式(1)および数式(3)を用いると、以下の数式(4)のように近似できる。
【0029】
【数4】
【0030】
さらに、オペアンプ30の特性により、オペアンプ30の静電容量値Copは他の静電容量値よりCbも十分に小さいために、以下の数式(5)のように近似でき、上記数式(2)において、上記数式(3),(4),(5)のように仮定すると、Vout≒Vvivoが導かれる。
【0031】
【数5】
【0032】
このように、本実施形態の脳波計測用電極装置1によれば、人の頭皮10に電極2を直接接触させることなく、頭皮10に頭髪11を挟んだ状態で装着して計測するようにしても、脳電位Vvivoをその電圧値を変えることなく検出することが可能となっている。
【0033】
以下に、本発明に係る脳波計測用電極装置(以下、「容量結合型電極」という。)1を用いた脳波計測の実施例を示す。脳波の基礎律動には周波数ごとに名前が付けられており、主要な周波数帯域として、δ波(0.5Hz〜4Hz),θ波(4Hz〜8Hz),α波(8Hz〜13Hz),β波(13Hz〜40Hz)の4つに分けられる。そこで、本実施例では、その中でも覚醒時および睡眠時に出現する特徴的な脳波であるα波,β波,δ波が容量結合型電極1を用いて計測できるか否かを確認するために、以下の4つの実験(実施例1〜実施例4)を行った。計測は、健常成人男性1名を対象に、シールド室内で行った。
【0034】
容量結合型電極1は、電極2に、直径約5mmおよび厚さ約0.65mmの円板状の銅板を用い、図3に示すように、銅板の表面が露出するように、基板8をエポキシ樹脂で覆い成形したものを使用した。オペアンプ30は、低雑音タイプのもの(BURR-BROWN社製の「OPA124U」)を使用した。
【0035】
<実施例1>
α波は、覚醒時の安静状態における閉眼時に、後頭部に比較的優位に出現することが知られている。また、β波は、覚醒時の安静状態における開眼時に、頭部中心部に比較的多く出現することが知られている。そこで、本実施例1では、容量結合型電極1を用いてα波およびβ波を計測できるか否かを確認するため、開眼時と閉眼時の脳波計測を行った。電極の装着位置は、図4に示す国際脳波学会の標準法である10-20法に従って、O2の1点に電極を装着した。被験者の頭部に装着された容量結合型電極1から出力される出力電圧Voutは、信号線12(図3に示す)を介して計測機器(図示せず)に入力される。また、基準電極導出法に従い、被験者の耳朶(本実施例では、左耳朶A1)に電極(基準電極)を取り付け、左耳朶A1の電位を基準電圧V0としてとり、同様に計測機器に入力することにより、該計測機器によりVoutとV0との差動増幅および電気信号のバンドパスフィルタリングを行い、目的とする脳波信号を取得して、時系列データとしてPC(図示せず)に記憶させた。また、比較例として、従来の銀−塩化銀皿電極(以下、「リファレンス電極」という。)を被験者の頭部の同じ位置に装着し、容量結合型電極1と同様の方法で、同時に脳波計測を行った。なお、計測機器としては、携帯型多用途生体アンプ(TEAC社製の「Polymate」)を使用した。バンドパスフィルタの設定値は、5.0〜60[Hz]に設定した(なお、後述する他の実施例では、0.5〜30[Hz]に設定した。)。
【0036】
リファレンス電極100は、図5(a)に示すように、容量結合型電極1と並べて、計測部位の頭髪を掻き分け、ペーストを使用して装着した。一方、容量結合型電極1は、頭髪の上にテープなど固定のみ行った。また、各電極と頭部との密着性を向上させるために、各電極の上から頭髪にシールを貼り付け、ネットなどにより固定した(図5の(b)参照)。
【0037】
計測結果を図6および図7に示す。図6は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による開眼時および閉眼時の脳波信号の計測波形のうち、計測開始後10秒の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1による開眼時の脳波計測波形、リファレンス電極100による開眼時の脳波計測波形、容量結合型電極1による閉眼時の脳波計測波形、リファレンス電極100による閉眼時の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図7は、計測開始後60秒の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0038】
図6を参照すると、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、容量結合型電極1による脳波計測波形においても、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、閉眼時にα波を確認することができるとともに、開眼時にはα波が抑制されてβ波(速波)が増加していることを確認することができた。
【0039】
また、図7を参照すると、容量結合型電極1による脳波計測波形では、図7(a),(b)から分かるように、開眼時には周波数帯域の広域にスペクトルが分散しているのに対し、閉眼時には10Hzにおいてスペクトルが最大になっていることを確認することができた。また、図7の(a)と(c)、および、図7の(b)と(d)を比較すると、容量結合型電極1による脳波計測波形とリファレンス電極100による脳波計測波形とで、同等レベルの周波数解析結果が得られることを確認することができた。
【0040】
これらの結果から、容量結合型電極1を使用することにより、主要な脳波であるα波およびβ波を、頭皮に直接接触させることなく頭髪の上に装着するようにしても計測することが可能であることが確認された。
【0041】
<実施例2>
δ波は、一般的には深睡眠(睡眠深度3または4)時に出現し、安静覚醒時に出現すると、直ちに脳機能の異常低下と判定できる徐波(α波よりも周波数が小さい波のこと)である。そこで、本実施例2では、容量結合型電極1を用いて睡眠時の特徴的な脳波であるδ波を計測できるか否かを確認するため、1晩の睡眠時の脳波計測を行った。電極の装着位置は、図4に示す国際脳波学会の標準法である10-20法に従って、C3,C4,O1,O2の4点に電極を装着した。なお、本実施例2では、被験者の左耳朶A1および右耳朶A2に基準電極を取り付けて、左耳朶A1および右耳朶A2の電位を基準電圧V0としてとり、基準電極の活性化による影響を低減するために、C3−A2,O1−A2,C4−A1,O2−A1のように、探査電極および基準電極を組み合わせた基準電極導出法を用いた。また、容量結合型電極1およびリファレンス電極100については、各電極位置ごとに、上記した実施例1と同様の方法で被験者の頭部に装着した。
【0042】
計測結果を図8および図9に示す。図8は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による深睡眠(睡眠深度3,4)時の20秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図9は、図8の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0043】
図8を参照すると、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、例えば、C3位置およびC4位置における脳波計測波形では、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、2.5秒〜5秒の間、および、8秒〜15秒の間で、δ波を顕著に確認することができた。
【0044】
また、図9を参照すると、図9(a),(c),(e),(g)からも分かるように、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同様、δ波の周波数帯域である0.5〜4.0[Hz]でスペクトルが最大になっていることを確認することができた。
【0045】
これらの結果から、容量結合型電極1を使用することにより、主要な脳波であるδ波を、頭皮に直接接触させることなく頭髪の上に装着するようにしても計測することが可能であることが確認された。
【0046】
<実施例3>
本実施例3は、上記した実施例1,2において、容量結合型電極1がリファレンス電極100からのクロストークにより、リファレンス電極100から計測装置に出力される電気信号と同一の電気信号を該計測装置に出力する可能性があることを考慮したものである。本実施例3では、図10に示すように、計測機器およびPCをそれぞれ2台ずつ用意し、脳波計測のために、被験者の頭部に装着された容量結合型電極1から出力される出力電圧Voutの電気信号を計測機器14AおよびPC15Aに出力する一方で、リファレンス電極100から出力される電気信号を、容量結合型電極1とは別の計測機器15BおよびPC15Bに出力し、容量結合型電極1とリファレンス電極100とを電気的に完全に分離したうえで、上記実施例2と同様の方法で脳波計測を行うようにした。
【0047】
計測結果を図11および図12に示す。図11は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による深睡眠(睡眠深度4)時の40秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図12は、図11の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0048】
図11を参照すると、容量結合型電極1とリファレンス電極100とを電気的に完全に分離しても、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、例えば、O2位置における脳波計測波形では、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、0秒〜8秒の間、10秒〜20秒の間、および、22秒〜38秒の間で、δ波を顕著に確認することができた。
【0049】
また、図12を参照すると、図12(a),(c),(e),(g)からも分かるように、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同様、δ波の周波数帯域である1Hzでスペクトルが最大になっていることを確認することができた。
【0050】
これらの結果から、上記実施例1および実施例2の容量結合型電極1による計測結果が、リファレンス電極100からのクロストークによるものではないことが確認され、容量結合型電極1を使用することにより、頭皮に直接接触させることなく頭髪の上に装着するようにしても、主要な脳波であるα波、β波、およびδ波を計測することが可能であることが確認された。
【0051】
<実施例4>
日常生活での脳波計測は、日常生活におけるヘルスケアに有用であり、日常生活で手軽に脳波計測を行うことが求められている。そこで、本実施例4では、容量結合型電極1を用いて、手軽に脳波計測を行うことができる否かを確認するため、容量結合型電極1を帽子(本実施例では、目出し帽)に組み込み、被験者にこの帽子を着用させたうえで、1晩の睡眠時の脳波計測を行った。
【0052】
図13に示すように、本実施例4では、図4に示す頭部のC3,C4,O1,O2の各位置に電極が位置するように、容量結合型電極1を帽子13内面の頭部装着面にそれぞれ取り付けた。そして、リファレンス電極100を、被験者の頭部の所定位置(図4のC3,C4,O1,O2の各位置)に装着した後、被験者にこの帽子13を着用させ、そして、上記実施例2と同様の方法で脳波計測を行った。なお、容量結合型電極1は、ベルクロテープで帽子13に取り付けられているために、帽子13着用後の電極位置の微調整が可能になっている。なお、図13においては、人の頭髪11は図示を省略している。
【0053】
計測結果を図14〜図16に示す。図14は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による深睡眠(睡眠深度4)時の30秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図15は、図14の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0054】
図14を参照すると、容量結合型電極1を帽子13に組み込むことによって脳波を計測するようにしても、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、δ波を確認することができた。
【0055】
また、図15を参照すると、図12(a),(c),(e),(g)からも分かるように、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同等レベルの周波数解析結果が得られ、リファレンス電極100による脳波計測波形と同様、δ波の周波数帯域である1Hzでスペクトルが最大になっていることを確認することができた。
【0056】
これらの結果から、容量結合型電極1は帽子13などに組み込むことによっても、脳波の特徴的な波形の一つであるδ波の計測が可能であることが確認され、容量結合型電極1を使用することにより、簡便な方法で脳波計測を行うことが可能であることが確認された。
【0057】
また、図16は、計測開始から5時間半後における容量結合型電極1およびリファレンス電極100による30秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。
【0058】
図16を参照すると、計測開始から5時間半が経過した後においても、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、基礎律動による波形や、17.5秒および27.5秒において、睡眠深度2の判定指標である睡眠紡錘波を確認することができた。睡眠紡錘波とは、波形の輪郭が紡状を呈し、持続時間が0.5秒〜1.5秒の波形である。
【0059】
この結果から、容量結合型電極1は、長時間にわたる計測においても、これを使用することが可能であることが確認された。
【0060】
上記したとおり、本発明の脳波計測用電極装置1を用いると、人の頭皮に直接接触させることなく、頭髪の上から頭髪を挟んだ状態で頭皮に装着するようにしても、良好な信号レベルの脳波信号を計測することができる。よって、脳波計測の際に、頭皮の脂肪分や汚れを清拭するなどの頭皮処理を行ったり、ペーストを使用して電極を頭皮に接触させたりするなどの事前処理の手間が省け、その結果、被験者に不快感を与えることがないうえ、被験者にかかる負担を軽減することができる。
【0061】
また、長時間にわたる脳波の計測にも使用することが可能であるとともに、帽子などに組み込むことによっても良好な脳波信号を計測することができるので、日常生活において、簡便に脳波計測を行うことも可能である。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、図3に示すように、基板8は、電極2のみが露出するように、エポキシ樹脂により覆われて成形されているが、図17に示すように、基板8は、電極2およびオペアンプ30を含む全体がエポキシ樹脂によりモールドされていてもよい。本発明の脳波計測用電極装置1は、電極2を人の頭皮10の表面に直接接するように装着するのではなく、頭髪などの誘電体を電極2と頭皮10との間に介在させることで、電極2と頭皮10の静電容量結合によって、脳電位Vvivoを計測するようにしているので、図示例のように、電極2の表面20が樹脂により覆われていても、この樹脂は、頭皮10と電極2との間に介在させる誘電体として機能するので、良好な信号レベルの脳波信号を計測することが可能である。
【0063】
この実施形態によると、電極2がモールド樹脂9内に完全に封入されるので、電極2が外力や摩耗などによる経年変化で劣化して計測精度に影響を及ぼすおそれも少なく、また、高寿命を得ることもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 脳波計測用電極装置
2 電極
3 増幅回路
4 抵抗素子
7 ハイパスフィルタ
8 基板
9 モールド樹脂
10 頭皮
11 頭髪
13 帽子
30 オペアンプ
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭皮に電極を直接接触させることなく頭髪の上からでも高い精度の脳波検査を可能とする脳波計測用電極装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の感性を脳波から客観的に評価することが行われており、脳波を用いて、例えば製品の評価や乗り物の乗り心地の評価などを分析する技術についての研究が進められている。このような脳波を用いた評価を精度よく行う上で、脳波信号を精度よく計測することは不可欠である。
【0003】
脳波信号は、例えば、銀−塩化銀製の皿電極からなる複数の電極を被験者の頭皮に接触させて計測するが、頭髪の存在や頭の形状の不均一さから、電極と頭皮との確実な接触状態を実現するために、計測前に、被験者の頭皮の脂肪分や汚れを清拭するなどの頭皮処理を行った後、ペーストを使用して電極を頭皮に接触させることが一般的に行われている。しかしながら、ペーストを用いる場合には、ペーストが頭皮に接触するために被験者に不快感を与えるという問題が生じるともに、頭髪をかき分けて頭皮に電極を接触させる必要があるために、計測を開始するまでに要する時間が多大となり、被験者にかかる負担が大きいという問題も生じる。また、電極を頭皮に装着するにあたっては、専門性が要求され、手軽に日常的に使用するには不向きであるという問題も生じる。
【0004】
そこで、ペーストを使用しないペーストレスの脳波信号検出方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の検出方法は、電解液として生理食塩水を吸水した状態の弾性部材を電極として頭皮に接触させる方式のものであり、ペーストを使用しないので、被験者の不快感については軽減可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−34429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1に記載の検出方法においても、電極を頭皮に直接接触させる必要があるために、頭髪をかき分けて頭皮を露出させる必要があるなど、検査を開始するまでに要する時間が多大となって被験者にかかる負担が大きいという問題を生じる。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、頭皮に電極を直接接触させることなく脳波信号の計測を行うことが可能な脳波計測用電極装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、人の脳波信号を検出するために用いられる脳波計測用電極装置であって、人の頭皮に頭髪を介して装着される導電性の電極と、前記電極に接続され、前記電極と頭皮との間の静電容量結合による電圧変化を検出する増幅回路と、一端が前記電極に接続されるとともに他端が接地される抵抗素子とを備え、前記電極が人の頭皮に頭髪を介して装着された場合に、前記電極および頭皮間に形成されるコンデンサと前記抵抗素子とによって形成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数が限りなく0に近似されるように、前記抵抗素子の抵抗値が決定されていることを特徴とする脳波計測用電極装置により達成される。
【0009】
本発明の好ましい実施態様においては、基板の一方の面に前記電極が実装されるとともに、前記基板の他方の面に前記増幅回路が実装され、前記基板に設けられたスルーホールを介して前記電極および前記増幅回路が接続されることを特徴としている。
【0010】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記基板は、前記電極のみが露出するように、樹脂によりモールドされていることを特徴としている。
【0011】
本発明のさらに好ましい他の実施態様においては、前記基板は、前記電極および前記増幅回路を含む全体が樹脂によりモールドされていることを特徴としている。
【0012】
本発明のさらに好ましい他の実施態様においては、前記脳波計測用電極装置は、帽子に組み込まれていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、頭皮に電極を直接接触させることなく頭髪の上からでも脳波信号を検出することが可能な脳波計測用電極装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る脳波計測用電極装置の概略構成を示す回路図である。
【図2】図1の等価回路図である。
【図3】脳波計測用電極装置の断面図である。
【図4】電極の装着位置を説明する説明図である。
【図5】実験に使用した電極およびそれを被験者の頭部に装着した状態を示す写真である。
【図6】実施例1において、開眼時および閉眼時に計測した脳波信号の計測波形の一部分を示すグラフである。
【図7】図5の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図8】実施例2において、睡眠時に計測した脳波信号の計測波形の一部分を示すグラフである。
【図9】図8の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図10】実施例3の計測システムの概略構成を示すブロック図である。
【図11】実施例3において、睡眠時に計測した脳波信号の計測波形の一部分を示すグラフである。
【図12】図11の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図13】脳波計測用電極装置を目出し帽に組み込んだ状態を示す斜視図である。
【図14】実施例4において、睡眠時において計測した脳波信号の計測波形一部分を示すグラフである。
【図15】図14の計測波形に関して周波数解析を行った結果を示すグラフである。
【図16】実施例4において、睡眠時において計測した脳波信号の計測波形一部分を示すグラフである。
【図17】脳波計測用電極装置の他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る脳波計測用電極装置1の概略構成を、図2は図1の等価回路を示す回路図を、図3は脳波計測用電極装置1の構成を示す断面図を、それぞれ示している。図1〜図3に示すように、脳波計測用電極装置1は、主要な構成として、導電性を有する電極2と、増幅回路3と、抵抗素子4とを備えており、人の頭皮10に電極2を直接接触させることなく頭髪11の上からでも脳から発生する電気信号の検出を可能とするものである。
【0016】
電極2は、人の頭皮10の表面に直接接して装着されるのではなく、人の頭髪11を誘電体として用い、この誘電体としての頭髪11を挟んだ状態で頭皮10に装着される。この電極2は、人の頭皮10とで仮想的なコンデンサ5(図2参照)を形成し、電極2と頭皮10との間の静電容量結合によって、脳の発生電位(脳電位)Vvivoを検出するための容量結合型電極として機能する。
【0017】
電極2を構成する材料としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、人の頭髪11上に装着したときに、人の頭部に違和感を与えない程度の軟らかさを有していることが好ましく、本実施形態では、平板状の銅板により構成されている。この電極2は、増幅回路3に接続されており、脳電位Vvivoの変動に応じて変動する電極2の電位(電気信号)を増幅回路3に伝達している。
【0018】
増幅回路3は、電極2と人の頭皮10との間の静電容量結合による電圧変化を検出することにより、脳電位Vvivoを検出するものであり、本実施形態では、高入力インピーダンス(低出力インピーダンス)のオペアンプ30により構成されている。オペアンプ30の入力端子(+側)30Aには、電極2が接続されており、電極2の電位(脳電位VVIVO)が電気信号として入力される。また、オペアンプ30の入力端子(−側)30Bは、オペアンプ30の出力端子30Cからのフィードバックが入力される。オペアンプ30は、上記した構成によって、電流の入力を抑制しつつ、電極2からの電気信号を出力端子32Cに伝達することができる。この増幅回路3は、信号線12(図3に示す)を介して図示しない計測機器に接続されており、増幅回路3の出力電圧VOUTは電気信号として前記計測機器に入力され、脳波信号の計測に用いられる。
【0019】
抵抗素子4は、電極2に溜まる電荷により、増幅回路3の出力電圧VOUTが飽和することを防ぐため、前記電荷を放出するために設けられた抵抗である。この抵抗素子4は、一端が電極2に、他端がグランド端子6に、それぞれ接続されており、かかる構成、つまり、電極2と頭皮10とで形成されるコンデンサ5および抵抗素子4によって、脳電位Vvivoを入力とした仮想的な回路が形成される。この回路構成はハイパスフィルタ7として機能し、このハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fcは、2つのパラメータRg,Cbを用いて以下の数式(1)で表される。なお、Rgは、オペアンプ30の入力端子(+側)とグランド端子6との間に設けられた前記抵抗素子4の抵抗値である。また、Cbは、電極2と人の頭皮10とで形成されるコンデンサ5の静電容量値である。
【0020】
【数1】
【0021】
ここで、電極2により出力される脳電位Vvivoの電気信号は、このハイパスフィルタ7を通過し、ハイパスフィルタ7によって、所定の周波数成分がカットされた状態で、増幅回路3に入力される。そのため、脳電位Vvivoの電気信号をより正確に増幅回路3に出力するためには、このハイパスフィルタ7の影響を小さくする、つまり、カットオフ周波数fcが小さな値となるように、抵抗値Rgを設定する必要がある。そこで、本実施形態では、ハイパスフィルタ7のカットオフ周波数fcが限りなく0に近似されるように、抵抗値Rgをできるだけ大きく設定し、ハイパスフィルタ7の影響を無視できるように構成している。
【0022】
抵抗値Rgは、静電容量値Cbを考慮(Cb≪Rg)して、適宜設定することができるが、望ましい値の一例を示せば、Rg=2.2[MΩ]である。なお、抵抗値Rgの値は大きければ大きいほど、電極2により出力される脳電位Vvivoの電気信号は、ハイパスフィルタ7による影響を受け難いと考えられるので、抵抗値Rgの値は2.2[MΩ]よりも大きくてもよい。この抵抗値Rgの値を上記式(1)に代入すると、カットオフ周波数fcはfc≒0[Hz]と近似できるので、ハイパスフィルタ7の影響を無視することが可能となっている。
【0023】
本実施形態の脳波計測用電極装置1は、電極2とオペアンプ30とが一体形成されたアクティブ電極により構成されており、図3に示すように、基板8の一方の面にオペアンプ30が実装されているとともに、基板8のオペアンプ30とは反対の側の他方の面に電極2が実装されている。電極2およびオペアンプ30は、基板8に形成されたスルーホール(図示せず)に挿入したリーディングワイヤ(図示せず)によって接続されている。また、基板8は、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂により覆われており、その大部分がモールド樹脂9に封入されることで、電極2以外の他の部品にショートなどのトラブルが発生しないようになっている。なお、電極2については、少なくともその表面20は樹脂モールドされておらず、外部に露出するようになっている。
【0024】
次に、上記した構成の脳波計測用電極装置1による計測原理を説明する。図2に示す様に、電極2は、人の頭皮10に誘電体(頭髪11)を挟んで装着される。電極2は、図2の破線で囲んだ領域中のコンデンサ5の一方の電極に対応し、抵抗素子4を介して接地されている。図2のように、頭皮10と電極2との間の静電容量値をCb、抵抗素子4の抵抗値をRg、オペアンプ30の入力段の抵抗値および静電容量値をそれぞれRop,Cop、脳電位をVvivo、オペアンプ30の出力電圧をVoutとすると、かかる仮想的な回路構成の伝達関数は、以下の数式(2)で表される。
【0025】
【数2】
【0026】
上記数式(2)において、オペアンプ30の特性により、オペアンプ30の抵抗値Ropは十分に大きいために、以下の数式(3)のように近似できる。
【0027】
【数3】
【0028】
また、上記数式(1)および数式(3)を用いると、以下の数式(4)のように近似できる。
【0029】
【数4】
【0030】
さらに、オペアンプ30の特性により、オペアンプ30の静電容量値Copは他の静電容量値よりCbも十分に小さいために、以下の数式(5)のように近似でき、上記数式(2)において、上記数式(3),(4),(5)のように仮定すると、Vout≒Vvivoが導かれる。
【0031】
【数5】
【0032】
このように、本実施形態の脳波計測用電極装置1によれば、人の頭皮10に電極2を直接接触させることなく、頭皮10に頭髪11を挟んだ状態で装着して計測するようにしても、脳電位Vvivoをその電圧値を変えることなく検出することが可能となっている。
【0033】
以下に、本発明に係る脳波計測用電極装置(以下、「容量結合型電極」という。)1を用いた脳波計測の実施例を示す。脳波の基礎律動には周波数ごとに名前が付けられており、主要な周波数帯域として、δ波(0.5Hz〜4Hz),θ波(4Hz〜8Hz),α波(8Hz〜13Hz),β波(13Hz〜40Hz)の4つに分けられる。そこで、本実施例では、その中でも覚醒時および睡眠時に出現する特徴的な脳波であるα波,β波,δ波が容量結合型電極1を用いて計測できるか否かを確認するために、以下の4つの実験(実施例1〜実施例4)を行った。計測は、健常成人男性1名を対象に、シールド室内で行った。
【0034】
容量結合型電極1は、電極2に、直径約5mmおよび厚さ約0.65mmの円板状の銅板を用い、図3に示すように、銅板の表面が露出するように、基板8をエポキシ樹脂で覆い成形したものを使用した。オペアンプ30は、低雑音タイプのもの(BURR-BROWN社製の「OPA124U」)を使用した。
【0035】
<実施例1>
α波は、覚醒時の安静状態における閉眼時に、後頭部に比較的優位に出現することが知られている。また、β波は、覚醒時の安静状態における開眼時に、頭部中心部に比較的多く出現することが知られている。そこで、本実施例1では、容量結合型電極1を用いてα波およびβ波を計測できるか否かを確認するため、開眼時と閉眼時の脳波計測を行った。電極の装着位置は、図4に示す国際脳波学会の標準法である10-20法に従って、O2の1点に電極を装着した。被験者の頭部に装着された容量結合型電極1から出力される出力電圧Voutは、信号線12(図3に示す)を介して計測機器(図示せず)に入力される。また、基準電極導出法に従い、被験者の耳朶(本実施例では、左耳朶A1)に電極(基準電極)を取り付け、左耳朶A1の電位を基準電圧V0としてとり、同様に計測機器に入力することにより、該計測機器によりVoutとV0との差動増幅および電気信号のバンドパスフィルタリングを行い、目的とする脳波信号を取得して、時系列データとしてPC(図示せず)に記憶させた。また、比較例として、従来の銀−塩化銀皿電極(以下、「リファレンス電極」という。)を被験者の頭部の同じ位置に装着し、容量結合型電極1と同様の方法で、同時に脳波計測を行った。なお、計測機器としては、携帯型多用途生体アンプ(TEAC社製の「Polymate」)を使用した。バンドパスフィルタの設定値は、5.0〜60[Hz]に設定した(なお、後述する他の実施例では、0.5〜30[Hz]に設定した。)。
【0036】
リファレンス電極100は、図5(a)に示すように、容量結合型電極1と並べて、計測部位の頭髪を掻き分け、ペーストを使用して装着した。一方、容量結合型電極1は、頭髪の上にテープなど固定のみ行った。また、各電極と頭部との密着性を向上させるために、各電極の上から頭髪にシールを貼り付け、ネットなどにより固定した(図5の(b)参照)。
【0037】
計測結果を図6および図7に示す。図6は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による開眼時および閉眼時の脳波信号の計測波形のうち、計測開始後10秒の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1による開眼時の脳波計測波形、リファレンス電極100による開眼時の脳波計測波形、容量結合型電極1による閉眼時の脳波計測波形、リファレンス電極100による閉眼時の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図7は、計測開始後60秒の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0038】
図6を参照すると、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、容量結合型電極1による脳波計測波形においても、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、閉眼時にα波を確認することができるとともに、開眼時にはα波が抑制されてβ波(速波)が増加していることを確認することができた。
【0039】
また、図7を参照すると、容量結合型電極1による脳波計測波形では、図7(a),(b)から分かるように、開眼時には周波数帯域の広域にスペクトルが分散しているのに対し、閉眼時には10Hzにおいてスペクトルが最大になっていることを確認することができた。また、図7の(a)と(c)、および、図7の(b)と(d)を比較すると、容量結合型電極1による脳波計測波形とリファレンス電極100による脳波計測波形とで、同等レベルの周波数解析結果が得られることを確認することができた。
【0040】
これらの結果から、容量結合型電極1を使用することにより、主要な脳波であるα波およびβ波を、頭皮に直接接触させることなく頭髪の上に装着するようにしても計測することが可能であることが確認された。
【0041】
<実施例2>
δ波は、一般的には深睡眠(睡眠深度3または4)時に出現し、安静覚醒時に出現すると、直ちに脳機能の異常低下と判定できる徐波(α波よりも周波数が小さい波のこと)である。そこで、本実施例2では、容量結合型電極1を用いて睡眠時の特徴的な脳波であるδ波を計測できるか否かを確認するため、1晩の睡眠時の脳波計測を行った。電極の装着位置は、図4に示す国際脳波学会の標準法である10-20法に従って、C3,C4,O1,O2の4点に電極を装着した。なお、本実施例2では、被験者の左耳朶A1および右耳朶A2に基準電極を取り付けて、左耳朶A1および右耳朶A2の電位を基準電圧V0としてとり、基準電極の活性化による影響を低減するために、C3−A2,O1−A2,C4−A1,O2−A1のように、探査電極および基準電極を組み合わせた基準電極導出法を用いた。また、容量結合型電極1およびリファレンス電極100については、各電極位置ごとに、上記した実施例1と同様の方法で被験者の頭部に装着した。
【0042】
計測結果を図8および図9に示す。図8は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による深睡眠(睡眠深度3,4)時の20秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図9は、図8の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0043】
図8を参照すると、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、例えば、C3位置およびC4位置における脳波計測波形では、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、2.5秒〜5秒の間、および、8秒〜15秒の間で、δ波を顕著に確認することができた。
【0044】
また、図9を参照すると、図9(a),(c),(e),(g)からも分かるように、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同様、δ波の周波数帯域である0.5〜4.0[Hz]でスペクトルが最大になっていることを確認することができた。
【0045】
これらの結果から、容量結合型電極1を使用することにより、主要な脳波であるδ波を、頭皮に直接接触させることなく頭髪の上に装着するようにしても計測することが可能であることが確認された。
【0046】
<実施例3>
本実施例3は、上記した実施例1,2において、容量結合型電極1がリファレンス電極100からのクロストークにより、リファレンス電極100から計測装置に出力される電気信号と同一の電気信号を該計測装置に出力する可能性があることを考慮したものである。本実施例3では、図10に示すように、計測機器およびPCをそれぞれ2台ずつ用意し、脳波計測のために、被験者の頭部に装着された容量結合型電極1から出力される出力電圧Voutの電気信号を計測機器14AおよびPC15Aに出力する一方で、リファレンス電極100から出力される電気信号を、容量結合型電極1とは別の計測機器15BおよびPC15Bに出力し、容量結合型電極1とリファレンス電極100とを電気的に完全に分離したうえで、上記実施例2と同様の方法で脳波計測を行うようにした。
【0047】
計測結果を図11および図12に示す。図11は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による深睡眠(睡眠深度4)時の40秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図12は、図11の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0048】
図11を参照すると、容量結合型電極1とリファレンス電極100とを電気的に完全に分離しても、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、例えば、O2位置における脳波計測波形では、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、0秒〜8秒の間、10秒〜20秒の間、および、22秒〜38秒の間で、δ波を顕著に確認することができた。
【0049】
また、図12を参照すると、図12(a),(c),(e),(g)からも分かるように、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同様、δ波の周波数帯域である1Hzでスペクトルが最大になっていることを確認することができた。
【0050】
これらの結果から、上記実施例1および実施例2の容量結合型電極1による計測結果が、リファレンス電極100からのクロストークによるものではないことが確認され、容量結合型電極1を使用することにより、頭皮に直接接触させることなく頭髪の上に装着するようにしても、主要な脳波であるα波、β波、およびδ波を計測することが可能であることが確認された。
【0051】
<実施例4>
日常生活での脳波計測は、日常生活におけるヘルスケアに有用であり、日常生活で手軽に脳波計測を行うことが求められている。そこで、本実施例4では、容量結合型電極1を用いて、手軽に脳波計測を行うことができる否かを確認するため、容量結合型電極1を帽子(本実施例では、目出し帽)に組み込み、被験者にこの帽子を着用させたうえで、1晩の睡眠時の脳波計測を行った。
【0052】
図13に示すように、本実施例4では、図4に示す頭部のC3,C4,O1,O2の各位置に電極が位置するように、容量結合型電極1を帽子13内面の頭部装着面にそれぞれ取り付けた。そして、リファレンス電極100を、被験者の頭部の所定位置(図4のC3,C4,O1,O2の各位置)に装着した後、被験者にこの帽子13を着用させ、そして、上記実施例2と同様の方法で脳波計測を行った。なお、容量結合型電極1は、ベルクロテープで帽子13に取り付けられているために、帽子13着用後の電極位置の微調整が可能になっている。なお、図13においては、人の頭髪11は図示を省略している。
【0053】
計測結果を図14〜図16に示す。図14は、容量結合型電極1およびリファレンス電極100による深睡眠(睡眠深度4)時の30秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。図15は、図14の脳波信号の計測波形に関して、周波数解析ソフト(Light Stone社製の「OriginPro 7J」)を用いて周波数解析(FFT)した結果を示している。
【0054】
図14を参照すると、容量結合型電極1を帽子13に組み込むことによって脳波を計測するようにしても、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と極めて近似した変動を示しており、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、δ波を確認することができた。
【0055】
また、図15を参照すると、図12(a),(c),(e),(g)からも分かるように、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同等レベルの周波数解析結果が得られ、リファレンス電極100による脳波計測波形と同様、δ波の周波数帯域である1Hzでスペクトルが最大になっていることを確認することができた。
【0056】
これらの結果から、容量結合型電極1は帽子13などに組み込むことによっても、脳波の特徴的な波形の一つであるδ波の計測が可能であることが確認され、容量結合型電極1を使用することにより、簡便な方法で脳波計測を行うことが可能であることが確認された。
【0057】
また、図16は、計測開始から5時間半後における容量結合型電極1およびリファレンス電極100による30秒間の脳波信号の計測波形を示している。なお、上段から、容量結合型電極1によるC3位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC3位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるC4位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるC4位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO1位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO1位置の脳波計測波形、容量結合型電極1によるO2位置の脳波計測波形、リファレンス電極100によるO2位置の脳波計測波形、をそれぞれ示している。
【0058】
図16を参照すると、計測開始から5時間半が経過した後においても、容量結合型電極1による脳波計測波形は、リファレンス電極100による脳波計測波形と同じように、基礎律動による波形や、17.5秒および27.5秒において、睡眠深度2の判定指標である睡眠紡錘波を確認することができた。睡眠紡錘波とは、波形の輪郭が紡状を呈し、持続時間が0.5秒〜1.5秒の波形である。
【0059】
この結果から、容量結合型電極1は、長時間にわたる計測においても、これを使用することが可能であることが確認された。
【0060】
上記したとおり、本発明の脳波計測用電極装置1を用いると、人の頭皮に直接接触させることなく、頭髪の上から頭髪を挟んだ状態で頭皮に装着するようにしても、良好な信号レベルの脳波信号を計測することができる。よって、脳波計測の際に、頭皮の脂肪分や汚れを清拭するなどの頭皮処理を行ったり、ペーストを使用して電極を頭皮に接触させたりするなどの事前処理の手間が省け、その結果、被験者に不快感を与えることがないうえ、被験者にかかる負担を軽減することができる。
【0061】
また、長時間にわたる脳波の計測にも使用することが可能であるとともに、帽子などに組み込むことによっても良好な脳波信号を計測することができるので、日常生活において、簡便に脳波計測を行うことも可能である。
【0062】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態では、図3に示すように、基板8は、電極2のみが露出するように、エポキシ樹脂により覆われて成形されているが、図17に示すように、基板8は、電極2およびオペアンプ30を含む全体がエポキシ樹脂によりモールドされていてもよい。本発明の脳波計測用電極装置1は、電極2を人の頭皮10の表面に直接接するように装着するのではなく、頭髪などの誘電体を電極2と頭皮10との間に介在させることで、電極2と頭皮10の静電容量結合によって、脳電位Vvivoを計測するようにしているので、図示例のように、電極2の表面20が樹脂により覆われていても、この樹脂は、頭皮10と電極2との間に介在させる誘電体として機能するので、良好な信号レベルの脳波信号を計測することが可能である。
【0063】
この実施形態によると、電極2がモールド樹脂9内に完全に封入されるので、電極2が外力や摩耗などによる経年変化で劣化して計測精度に影響を及ぼすおそれも少なく、また、高寿命を得ることもできる。
【符号の説明】
【0064】
1 脳波計測用電極装置
2 電極
3 増幅回路
4 抵抗素子
7 ハイパスフィルタ
8 基板
9 モールド樹脂
10 頭皮
11 頭髪
13 帽子
30 オペアンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の脳波信号を計測するために用いられる脳波計測用電極装置であって、
人の頭皮に頭髪を介して装着される導電性の電極と、
前記電極に接続され、前記電極と頭皮との間の静電容量結合による電圧変化を検出する増幅回路と、
一端が前記電極に接続されるとともに他端が接地される抵抗素子とを備え、
前記電極が人の頭皮に頭髪を介して装着された場合に、前記電極および頭皮間に形成されるコンデンサと前記抵抗素子とによって形成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数が限りなく0に近似されるように、前記抵抗素子の抵抗値が決定されていることを特徴とする脳波計測用電極装置。
【請求項2】
基板の一方の面に前記電極が実装されるとともに、前記基板の他方の面に前記増幅回路が実装され、前記基板に設けられたスルーホールを介して前記電極および前記増幅回路が接続されることを特徴とする請求項1に記載の脳波計測用電極装置。
【請求項3】
前記基板は、前記電極のみが露出するように、樹脂によりモールドされていることを特徴とする請求項2に記載の脳波計測用電極装置。
【請求項4】
前記基板は、前記電極および前記増幅回路を含む全体が樹脂によりモールドされていることを特徴とする請求項2に記載の脳波計測用電極装置。
【請求項5】
前記脳波計測用電極装置は、帽子に組み込まれていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の脳波計測用電極装置。
【請求項1】
人の脳波信号を計測するために用いられる脳波計測用電極装置であって、
人の頭皮に頭髪を介して装着される導電性の電極と、
前記電極に接続され、前記電極と頭皮との間の静電容量結合による電圧変化を検出する増幅回路と、
一端が前記電極に接続されるとともに他端が接地される抵抗素子とを備え、
前記電極が人の頭皮に頭髪を介して装着された場合に、前記電極および頭皮間に形成されるコンデンサと前記抵抗素子とによって形成されるハイパスフィルタのカットオフ周波数が限りなく0に近似されるように、前記抵抗素子の抵抗値が決定されていることを特徴とする脳波計測用電極装置。
【請求項2】
基板の一方の面に前記電極が実装されるとともに、前記基板の他方の面に前記増幅回路が実装され、前記基板に設けられたスルーホールを介して前記電極および前記増幅回路が接続されることを特徴とする請求項1に記載の脳波計測用電極装置。
【請求項3】
前記基板は、前記電極のみが露出するように、樹脂によりモールドされていることを特徴とする請求項2に記載の脳波計測用電極装置。
【請求項4】
前記基板は、前記電極および前記増幅回路を含む全体が樹脂によりモールドされていることを特徴とする請求項2に記載の脳波計測用電極装置。
【請求項5】
前記脳波計測用電極装置は、帽子に組み込まれていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の脳波計測用電極装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−5640(P2012−5640A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143840(P2010−143840)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
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