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脳疾患モデル神経細胞株の製造方法及びその用途
説明

脳疾患モデル神経細胞株の製造方法及びその用途

【課題】脳疾患機構の解析に有用な神経細胞株の樹立。
【解決手段】神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養することを含む、神経細胞株の製造方法、該方法により得られた細胞株および脳疾患の治療・予防剤となり得る物質のスクリーニング方法等を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞株の製造方法、該方法により製造され得る神経細胞株、グルタミン酸神経毒性を抑制し得る物質のスクリーニング方法、酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオテクノロジーの進展により、癌、AIDS、遺伝子疾患などの様々な疾病に対する新薬や健康・美容に関する機能性食品(例えば肥満や糖尿病などの予防的役割を持つ食品)に関する研究開発が急速に進み、産業界からも非常に注目されている。その中で、わが国の三大疾病の一つである脳卒中の病態を解明し、有効な治療法及び予防法を開発することは、高齢化を迎えた現代社会の急務の一つである。脳卒中にみられる神経細胞死は、梗塞や虚血時に脳内に放出される高濃度のグルタミン酸により引き起こされることが知られている(非特許文献1〜3)。さらに、過剰なグルタミン酸濃度による神経細胞死は、脳卒中のみならず老人痴呆の主要な原因であるアルツハイマー病、脳外傷、てんかん、肝性脳症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病などにおいてもみられる現象であり(非特許文献4〜6)、これらの神経細胞死の機構解明および抑制物質の探索は重要な研究課題である。現在、グルタミン酸誘導神経細胞死の解明には、脳組織スライス、神経細胞の初代培養、サルやマウスなどのモデル動物を用いた研究が行われている(非特許文献7〜9)。しかしながら、これらは重要な試験法である一方で、生体脳組織を直接用いるため高度で特殊な技術が必要であり、さらに、実験動物の個体差により結果が不安定であり、大量の試験処理には適さないという欠点がある。
【0003】
また、近年、高齢化社会を迎えた現代社会において、脳疾患、癌、糖尿病、高血圧などの生活習慣病を予防・治療するための対策が強く望まれている。脳疾患をはじめ生活習慣病を予防・治療するためには、その原因の一つとされている酸化ストレスによる酸化障害から細胞や組織を保護することが有効である。一般的に、脳組織を標的とした抗酸化剤の探索には、試験管内の化学反応(フリーラジカルの消去試験等)利用した手法および動物組織切片やモデル動物を利用した手法が用いられている。しかしながら、前者の手法では試験管内の化学反応であるため、得られた酸化剤が脳神経細胞に対し毒性がある場合や脳神経細胞を酸化障害から保護することができない場合があり、後者の手法では実験動物を用いるため、それらの個体差により結果が不安定であり、大量の実験処理には適さないという欠点がある。
【0004】
したがって、容易で安定な研究開発基盤を提供するためには、培養神経細胞株を用いたモデル神経細胞試験法の確立が強く望まれている。しかしながら現在まで、グルタミン酸に応答して神経細胞死を誘導することが可能な神経細胞株を獲得し得る方法は明らかにされておらず、脳疾患に対する抑制・予防効果を迅速に評価することのできるアッセイ系の構築が必要とされている。
【非特許文献1】Rossi DJら、Nature、403(6767)、p.316-21、Jan 20、2000年
【非特許文献2】Kaku DAら、Science 、260(5113)、p.1516-8、Jun 4、1993年
【非特許文献3】Bano Dら、Cell、120(2)、p.275-85、Jan 28、2005年
【非特許文献4】Lee MSら、Nature、405(6784)、p.360-4、May 18、2000年
【非特許文献5】Beal MF、Ann Neurol.、31(2)、p.119-30、Feb、1992年
【非特許文献6】Mattson MPら、Ann N Y Acad Sci.、893、p.154-75、1999年
【非特許文献7】Cronberg Tら、Stroke 、35(3)、p.753-7、Mar、2004年
【非特許文献8】Bancila Vら、J Neurochem.、90(5)、p.1243-50、Sep、2004年
【非特許文献9】Dixon JFら、Proc. Natl. Acad. Sci. U S A.、95(14)、p.8363-8、Jul 7、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
グルタミン酸や酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患のモデル細胞の提供と、該細胞を用いたグルタミン酸や酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患の予防・治療剤となり得る物質のスクリーニング方法を提供すること。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究したところ、正常脳組織から分離した神経細胞を、接着培養後、細胞間相互作用を高める立体的環境下で培養することにより、グルタミン酸に応答して神経細胞死が誘導される神経細胞株が得られることを見出した。また、同様の方法で、酸化ストレスに応答して神経細胞死が誘導される神経細胞株が得られることも見出した。本発明者らはこれらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明は、以下のものを提供する:
(1)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養することを含む、神経細胞株の製造方法、
(2)該神経細胞株がグルタミン酸感受性である、上記(1)記載の方法、
(3)上記(2)記載の方法により製造され得る、グルタミン酸感受性神経細胞株、
(4)下記の工程(a)〜(c)を含む、グルタミン酸神経毒性を抑制し得る物質のスクリーニング方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株を、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触させる工程、
(b)上記工程(a)における生細胞数または死細胞数を測定し、該細胞数を被験物質の不存在下でグルタミン酸感受性細胞株とグルタミン酸を接触させた場合における生細胞数または死細胞数とを比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、グルタミン酸神経毒性を抑制し得る物質を選択する工程、
(5)脳疾患の予防・治療剤となり得る物質のスクリーニング方法である、上記(4)記載の方法、
(6)上記(4)記載の方法により得られた物質を含む、脳疾患の予防・治療剤、
(7)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株を含む、脳疾患の予防・治療剤、
(8)下記の工程(a)、(b)を含む、グルタミン酸により誘導される神経細胞死に関連する遺伝子の同定方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株と、グルタミン酸を接触させる工程、
(b)グルタミン酸を接触させたグルタミン酸感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルを解析し、該遺伝子発現プロファイルを対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較する工程、
(9)該神経細胞株が酸化ストレス感受性である、上記(1)記載の方法、
(10)上記(9)記載の方法により製造され得る、酸化ストレス感受性神経細胞株、
(11)下記の工程(a)〜(c)を含む、酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株に、被験物質の存在下で酸化ストレスを与える工程、
(b)上記工程(a)における生細胞数または死細胞数を測定し、該細胞数を被験物質の不存在下で酸化ストレス感受性神経細胞株に酸化ストレスを与えた場合における生細胞数または死細胞数とを比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、酸化障害を抑制するための保護物質となり得る物質を選択する工程、
(12)脳疾患の予防・治療剤となり得る物質のスクリーニング方法である、上記(11)記載の方法、
(13)上記(11)記載の方法により得られた物質を含む、脳疾患の予防・治療剤、
(14)下記の工程(a)、(b)を含む、酸化ストレスにより誘導される神経細胞死に関連する遺伝子の同定方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株に、酸化ストレスを与える工程、
(b)酸化ストレスを与えた酸化ストレス感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルを解析し、該遺伝子発現プロファイルを対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較する工程、
(15)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株を含む、脳疾患の予防・治療剤、
(16)該神経細胞株がグルタミン酸感受性および酸化ストレス感受性である、上記(1)記載の方法、
(17)上記(16)記載の方法により製造され得る、グルタミン酸感受性および酸化ストレス感受性を有する神経細胞株。
【発明の効果】
【0008】
本発明の神経細胞株の製造方法によれば、グルタミン酸に応答して神経細胞死が誘導される神経細胞株や酸化ストレスに応答して神経細胞死が誘導される神経細胞株を得ることができる。また、本発明の方法により製造され得る神経細胞株を用いれば、過剰のグルタミン酸により引き起こされる脳疾患に対する抑制・予防効果を有する物質のスクリーニングや評価を行えるアッセイ系を提供することができる。また、本発明の方法により製造され得る神経細胞株を用いれば、酸化ストレスにより引き起こされる脳疾患に対する抑制・予防効果を有する物質のスクリーニングや評価を行えるアッセイ系を提供することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(1.神経細胞株の製造)
本発明の製造方法においては、神経系細胞が培養に供せられる。
【0010】
神経系細胞とは、神経細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、上衣細胞、グリア前駆細胞および将来神経細胞、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ミクログリア等になり得る細胞等を含む。神経系細胞としては、万能細胞に由来する神経系細胞、生体から分離した神経系細胞等を挙げることができる。
【0011】
「万能細胞に由来する神経系細胞」とは、神経系細胞への分化能力を有した万能細胞から、神経系組織への分化培養条件のもと新たに分離した神経系細胞を意味する。万能細胞としては、例えば、生殖細胞、受精卵、胚性・組織幹細胞、融合細胞、一部の組織細胞等が挙げられる。
【0012】
「生体から分離した神経系細胞」とは、正常な神経機能を保持させた初代培養を目的とし、生体(胎生期、新生期、成体期)から新たに分離した神経系細胞を意味する。なお、「正常な神経機能を保持させた初代培養」とは、無秩序な神経分化誘導、神経毒性、染色体異常によるガン化・機能低下を引き起こさず、正常な神経機能を維持することを目的とする初代培養を意味する。なお、神経系細胞を分離する生体の時期(胎生期、新生期、成体期)は、特に限定されないが、胎生期が好ましい。
【0013】
生体としては、例えば温血動物、好ましくは哺乳動物が挙げられる。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ヤギ、サル、ヒト等が挙げられ、好ましくは、マウス、ラット、サル、ヒト等が挙げられる。
【0014】
「生体から分離した神経系細胞」としては、神経系組織由来のものが好ましい。該神経系組織としては、特に限定されないが、中枢神経系(脳;終脳、間脳、中脳、橋、小脳、延髄および脊髄)及び末梢神経系(脳から出る脳神経、脊髄から出る脊髄神経)が挙げられ、中でも中枢神経系(脳;終脳、間脳、中脳、橋、小脳、延髄および脊髄)が好ましい。なお、該中枢神経系としては、本発明の方法により神経細胞株を製造し得る限り特に限定されず、腫瘍化した組織や遺伝子が変異した組織等でもよいが、正常組織であることがより好ましい。
【0015】
神経系細胞としては、中枢神経系細胞(脳細胞、脊髄細胞等)および末梢神経系細胞(感覚神経細胞、運動神経細胞等)が挙げられ、中でも中枢神経系細胞(脳細胞、脊髄細胞等)が好ましい。
【0016】
神経系細胞には、神経幹細胞、神経前駆細胞、グリア前駆細胞、神経細胞、上衣細胞、グリア細胞(アストロサイト、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞)、O2A細胞、マイクログリア細胞等が含まれ得る。
【0017】
組織から神経系細胞を分離する方法は、自体公知の方法、例えば酵素処理や機械的処理で分離する方法等が挙げられる。細胞へのダメージや、得られる培養系の安定性を考慮すれば、酵素処理で分離するのが好ましい。酵素処理に用いられる酵素としては、例えば、トリプシン、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、パパイン等が挙げられ、好ましくはトリプシンである。該酵素処理の条件は、細胞にダメージを与えず、本発明の方法により神経細胞株を製造し得る限り特に限定されない。
【0018】
該分離した細胞が神経系細胞であるか否かは、例えば、神経系細胞マーカーの発現により確認できる。神経系細胞マーカーとしては、例えば、ネスチン、NCAM、Tuj1、チロシン水酸化酵素(TH)、セロトニン、MAP2、MAP2ab、NeuN、GABA、グルタメート、ChAT、Sox1、MUSASHI、GFAP、Vimentin、SSEA-1、A2B5、ニューロフィラメント、O4、S-100、Mac1、GalC等が挙げられる。
【0019】
次に、該分離した神経系細胞は接着培養に供される。
【0020】
「接着培養」とは、細胞を、培養培地中において、細胞培養器の接触面に対し、接着させた状態で培養することをいう。接着培養では、細胞は2次元構造で培養され得る。「接着」の強度は、本発明の方法により神経細胞株が製造され得る強度範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、タッピング処理、ピペッティング処理等の人為的処理によらなければ、生存性を維持したまま細胞を剥離することができない程度の強度である。
【0021】
接着培養では、接着性を増強させるため、細胞接着性の培養器、例えば細胞外マトリックス(例えばラミニン、テネイシン、フィブロネクチン、コラーゲン)、ポリ−D-リジン、ポリ−L−リジン、ポリエチレンイミン等によりコーティング処理した培養器を使用することが好ましい。特に限定されないが、該コーティングは、ポリ−L−リジン、フィブロネクチン等が特に好ましい。
【0022】
本発明の方法に用いられる培養培地の基礎培地は、本発明の方法により神経細胞株を製造し得る培地であれば、特に限定されないが、例えば、自体公知の基礎培地(DMEM、EMEM、RPMI-1640、α-MEM、F-12、F-10、M-199、HAM、L-15、ERDF等)を挙げることができる。また、神経細胞培養用等に改変された培地(Neurobasal等)を用いてもよく、上記基礎培地の混合物(DMEM/F12等)を用いてもよい。
【0023】
培養培地としては、血清を含んでいても含まなくてもよいが、血清による無秩序な神経分化誘導、神経毒性、染色体異常によるガン化・機能低下を抑えるという理由から無血清培地が用いられ得る。ここで、無血清培地とは、無調製または未精製の血清を含まない培地を意味し、精製された血液由来成分や動物組織由来成分(例えば、増殖因子)が混入している培地は無血清培地に該当するものとする。
【0024】
本発明の培養培地には、増殖因子が含まれ得る。増殖因子は、特に限定されないが、例えば、EGF family、FGF family、Neurotrophin/NGF family、Interleukin 6 family、TGF-β superfamily等が挙げられる。該増殖因子は、1種類を単独で使用しても複数の種類を組み合わせて使用してもよく、例えば、EGF単独、FGF2単独、EGFとFGF2の組み合わせ等での使用が挙げられる。培養培地中の増殖因子の濃度は、細胞密度により変動し、特に限定されないが、例えば、EGFが含まれる場合、EGFの濃度としては1.0〜10×10細胞/mlに対して0.1〜100ng/ml、FGF2が含まれる場合、FGF2の濃度としては1.0〜10×10細胞/mlに対して0.1〜100ng/ml等が例示される。
【0025】
また、本発明の培養培地には、自体公知の添加物が含まれ得る。添加物としては、例えば、有機酸(例えばピルビン酸ナトリウム等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール、脂質、セレン等)、緩衝剤(例えばHEPES等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)、アルブミン等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。
【0026】
分離した神経系細胞の培養条件は特に限定されず、通常当分野で実施される条件で実施することができる。例えば、5%CO雰囲気下、37℃で7日間以上培養される。分離した神経系細胞の無血清培地中の濃度は、分離した神経系細胞の培養を可能とする限り特に限定されないが、例えば、約0.1〜50×10細胞/ml、好ましくは約0.1〜10×10細胞/ml、より好ましくは約0.5〜5×10細胞/mlである。
【0027】
分離した神経系細胞は、接着培養で継代培養される。継代培養は、例えば、該神経系細胞がサブコンフルエントの状態で、自体公知の方法で行われることが好ましい。具体的には、3〜7日間毎の継代培養等が例示されるが、これに限定されない。
【0028】
接着培養の期間は、特に限定されないが、0.5〜12ヶ月間、好ましくは1〜2ヶ月間である。
【0029】
接着培養後、該神経系細胞は、細胞間相互作用を高める立体的環境下で培養される。なお、立体的環境下で培養される際、該神経系細胞は、神経幹細胞マーカー(例えばネスチン等)に対し、陽性であることが好ましい。
【0030】
「立体的環境下で培養」とは、細胞同士の接触を増加し、細胞間相互作用を高めることを目的に、集合体を形成した細胞塊(スフェアー状態)を、培養培地中において培養することをいう。スフェアー状態での培養では、細胞は立体的な3次元構造で、つまりin vivoの脳組織環境に近い条件で培養され得る。また、細胞間相互作用を高めるために立体的環境下で培養することが可能であれば、シート状態での培養、スキャフォールドを用いた培養など、特にスフェアー状態での培養に限定されない。以下、このような培養を、必要に応じて「立体培養」と省略する。
【0031】
立体培養で用いられる培養器は、細胞の浮遊培養が可能なものであれば特に限定されないが、例えば、フラスコ、細胞培養用フラスコ、ディッシュ、ペトリディッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトルが挙げられる。
【0032】
立体培養では、培養器は細胞非接着性であることが好ましい。細胞非接着性の培養器としては、培養器の表面が細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリックス等によるコーティング処理)されていないもの、細胞が接着しにくい培養器(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリスチレン等の付着性の低いプラスチック製の培養器等)を使用できる。
【0033】
立体培養で用いられる培養培地(基礎培地、増殖因子、添加物等)は、接着培養と同様のものが挙げられる。
【0034】
立体培養の培養条件(培養温度、CO濃度等)は、接着培養と同様の条件が挙げられる。
【0035】
神経系細胞の無血清培地中の濃度は、分離した神経系細胞の立体培養を可能とする限り特に限定されないが、例えば約0.05〜50×10細胞/ml、好ましくは約0.1〜10×10細胞/ml、より好ましくは約0.1〜1×10細胞/mlである。
【0036】
接着培養後の神経系細胞は、立体培養で継代培養される。継代培養は、例えば、該神経系細胞がサブコンフルエントの状態で、自体公知の方法で行われることが好ましい。具体的には、5〜10日間毎の継代培養等が例示されるが、これに限定されない。
【0037】
立体培養開始から、例えば、10日後以上、好ましくは20日後以上、より好ましくは30日後以上、最も好ましくは40日後以上立体培養を継続することにより、本発明の神経細胞株を得ることができる。
【0038】
本発明の方法により製造され得る神経細胞株は、グルタミン酸感受性および/または酸化ストレス感受性を有し得る。従って、該神経細胞株は、グルタミン酸神経細胞毒性や酸化障害等に起因する脳疾患のアッセイ系等に有用である。以下、本発明の製造方法により製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株(以下「本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株」という。)および酸化ストレス感受性神経細胞株(以下「本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株」という。)について詳述する。
【0039】
(2.グルタミン酸感受性神経細胞株)
(2.1.グルタミン酸感受性神経細胞株の製造)
本発明において「グルタミン酸感受性神経細胞株」とは、グルタミン酸に応答して細胞死が誘導され得る神経細胞株のことを示す。
【0040】
該グルタミン酸感受性神経細胞株は、上述の方法により製造することができ、例えば、立体培養開始約10日後からグルタミン酸に応答して細胞死が誘導され得る神経細胞が培養中に出現し、約10日後〜30日後で該神経細胞数または割合は劇的に増加し、約40日後にはほとんど全ての細胞がグルタミン酸に応答して細胞死が誘導され得る神経細胞株となる。
【0041】
さらに、本発明の方法により製造され得る神経細胞株が、グルタミン酸に対し感受性を有するか否かを確認してもよい。
【0042】
該確認は、好ましくは本発明の方法により製造され得る神経細胞株とグルタミン酸との接触によって行われる。該接触は、好ましくは上述の培養培地中で行われ得る。通常は、例えば終濃度0.1〜100mM、好ましくは1〜50mM、さらに好ましくは1〜25mM、最も好ましくは5〜20mMのグルタミン酸濃度において感受性の確認を行う。
【0043】
本発明の方法により製造され得る神経細胞株とグルタミン酸との接触後、1〜10日、好ましくは1〜7日、より好ましくは3〜5日後に、該神経細胞株がグルタミン酸により神経細胞死を誘導されているか否かを評価する。該評価は、例えば、生細胞数の測定や死細胞数の測定等によりなされる。生細胞数および死細胞の測定は、自体公知の方法(トリパンブルー染色法、LDH法、MTT法、フローサイトメトリー法等)により行われ得る。
【0044】
上述のグルタミン酸の濃度(例えば、1mM)において感受性を有すれば、グルタミン酸感受性といえる。
【0045】
グルタミン酸により神経毒性(神経細胞死、増殖抑制等)が誘導されていると評価された細胞株を、本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株とすることができる。
【0046】
(2.2.グルタミン酸神経毒性に対する抑制物質のスクリーニング方法および該方法により得られた物質を含有する脳疾患の予防・治療剤)
(2.2.1.グルタミン酸神経毒性に対する抑制物質のスクリーニング方法)
また、本発明では、以下の工程を含むグルタミン酸神経毒性に対する抑制物質のスクリーニング方法も提供する。
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株を、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触させる工程、
(b)上記工程(a)における生細胞数または死細胞数を測定し、該細胞数を被験物質の不存在下でグルタミン酸感受性細胞株とグルタミン酸を接触させた場合における生細胞数または死細胞数とを比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、グルタミン酸神経毒性を抑制し得る物質を選択する工程。
【0047】
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、タンパク質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0048】
上記工程(a)では、グルタミン酸感受性神経細胞株が、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触条件下におかれる。グルタミン酸感受性神経細胞株に対するグルタミン酸の接触は、培養培地中で行われ得る。なお、グルタミン酸の接触は、被験物質とグルタミン酸感受性神経細胞株との接触前でも、接触後であってもよい。なお、接触させるグルタミン酸の濃度は、細胞死を誘導させ得る濃度範囲であれば特に限定されないが、例えば終濃度0.1〜100mM、好ましくは1〜50mM、さらに好ましくは1〜25mM、最も好ましくは5〜20mMである。
【0049】
上記工程(b)では、先ず、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触させた細胞における生細胞数または死細胞数が測定される。生細胞数または死細胞数の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。なお、該測定は、特に限定されないが、グルタミン酸との接触後、1〜10日、好ましくは1〜7日、より好ましくは3〜5日後になされる。
【0050】
次いで、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触させた細胞における生細胞数または死細胞数が、被験物質の不存在下でグルタミン酸感受性細胞とグルタミン酸を接触させた場合における生細胞数または死細胞数と比較される。生細胞数または死細胞数の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質の不存在下でグルタミン酸感受性細胞とグルタミン酸を接触させた場合における生細胞数または死細胞数は、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触させた細胞における生細胞数または死細胞数の測定に対し、事前に測定した生細胞数または死細胞数であっても、同時に測定した生細胞数または死細胞数であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した生細胞数または死細胞数であることが好ましい。
【0051】
上記工程(c)では、グルタミン酸神経細胞毒性を抑制し得る物質が選択される。グルタミン酸神経細胞毒性の抑制は、生細胞数の増加または死細胞数の減少であり得る。このように選択された物質は、グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患の調節(予防・治療)に有用であり得る。
【0052】
また、上記スクリーニング方法は、(d)選択された被験物質がグルタミン酸神経細胞毒性を抑制し得ることを確認する工程(確認工程)をさらに含むことができる。確認工程は、例えば、正常な動物に対し、あるいはグルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患の動物またはモデル動物に対し、選択された被験物質を投与することで行なわれ得る。
【0053】
(2.2.2.本発明のスクリーニング法により得られた物質を含有する脳疾患の予防・治療剤)
上記スクリーニング法により得られた物質は、グルタミン酸神経細胞毒性を抑制する効果を奏するので、該物質を含有する脳疾患の予防・治療剤とすることができる。
【0054】
該脳疾患としては、グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患であれば特に限定されないが、例えば、脳卒中、アルツハイマー病、脳外傷、てんかん、肝性脳症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳老化等が挙げられる。
【0055】
該物質を含有する脳疾患の予防・治療剤には、グルタミン酸神経細胞毒性を抑制する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0056】
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0057】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水、オレンジジュースのような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
【0058】
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0059】
該物質を含有する脳疾患の予防・治療剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0060】
(2.2.3.本発明のスクリーニング法により得られた物質を含有する、脳疾患に対する抑制・予防効果を有する機能性食品)
上記スクリーニング法により得られた物質は、また、飲食品(食品補助剤、保健機能食品、栄養補助食品等を含む)等として使用することができる。その形態は特に限定されるものではなく、グルタミン酸神経細胞毒性の抑制を発揮させるのに必要な量のみ飲食品に含有させても良い。なお、本発明において飲食品とは、動物用試料をも含み得る。
【0061】
該物質を飲食品に使用するには、特に困難はなく、例えばジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。このような飲食品を保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には脳疾患の予防又は治療のために用いるものであるという表示を付した飲食品、特に特定保健用食品等も含まれる。
【0062】
また、本発明の薬剤を食品補助剤等として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。
【0063】
(2.2.4.本発明のスクリーニング法により得られた物質を含有する化粧料)
なお、上記スクリーニング方法により得られた物質は、細胞種の中でも非常にストレスに弱い神経細胞をグルタミン酸神経毒性から保護し得る物質である。従って、該物質を有効成分として含有する細胞保護を目的とする化粧料への応用も可能である。
【0064】
化粧料としては、例えば、化粧水、クリーム、乳液、パック等の基礎化粧品、ファンデーションなどのメイクアップ化粧品、入浴剤、石鹸等が挙げられる。該物質を化粧料として調製する場合には、通常化粧料に用いられる油脂類、ロウ類、脂肪酸類、界面活性剤類、アルコール類、エステル類、炭化水素類、ビタミン、アミノ酸、酵素、核酸、化粧品活性剤、防腐剤、香料、フィラー、顔料、UV遮蔽剤、臭気吸収剤、染料、保湿剤(グリセロール等)等の化粧品原料基準、日本薬局方、食品添加物公定書など記載の原料等を、該物質の効果を損なわない範囲で添加することもできる。これらの製品は、該物質を所定量含有させる以外は、通常の方法で製造することができ、例えば、化粧水は、精製水にグリセリンのような保湿剤、皮膚栄養剤等を溶解し、防腐剤、香料等をアルコールに溶解し、両者を混合して室温下に可溶化させ、アルコール部に本発明のスクリーニング方法により得られた物質または医薬として許容されるその塩を加えて製造することができる。
【0065】
本発明に係る化粧料は、通常、有効量を皮膚などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布されることにより使用(投与)され得る。
【0066】
(2.3.本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株を含む、脳疾患の予防・治療剤)
本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株は、一部の脳機能を担う特定の神経細胞集団であると考えられるため、グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患等において、グルタミン酸による神経細胞死により失われた神経系細胞を補充するためなどに用いることができる。グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患としては、脳卒中、アルツハイマー病、脳外傷、てんかん、肝性脳症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳老化等が挙げられる。
【0067】
従って、本発明は、本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株を有効成分として含有してなる、脳疾患の予防・治療剤を提供する。本発明の脳疾患の予防・治療剤は、患者に投与すること等により、グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患(脳卒中、アルツハイマー病、脳外傷、てんかん、肝性脳症、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン病、脳老化等)の予防・治療に有用に用いることができる。
【0068】
例えば、グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患の患者から、神経系細胞を採取し、本発明の方法により当該患者由来のグルタミン酸感受性神経細胞株を製造する。そして、該グルタミン酸感受性神経細胞株を当該患者に投与することで、グルタミン酸による神経細胞死に関連する疾患を予防・治療することが出来る。
【0069】
本発明の脳疾患の予防・治療剤は、常套手段に従って、有効量の上記グルタミン酸感受性神経細胞株を医薬として許容される担体と混合する等して、経口/非経口製剤として製造することが出来る。本発明の脳疾患の予防・治療剤は、通常は、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D−ソルビトール、D−マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることが出来る。本発明の脳疾患の予防・治療剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合してもよい。
【0070】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒト等の上述の哺乳動物に対して投与することができる。
【0071】
本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、通常、成人の患者(体重60kgとして)においては、例えば非経口投与の場合、一日につき1×10細胞〜1×10細胞個程度を投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0072】
(2.4.グルタミン酸により誘導される神経細胞死に関連する遺伝子の同定方法)
また、本発明では、以下の工程を含む、グルタミン酸により誘導される神経細胞死に関連する遺伝子同定方法を提供する。
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株と、グルタミン酸を接触させる工程、
(b)グルタミン酸を接触させたグルタミン酸感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルを解析し、該遺伝子発現プロファイルを対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較する工程。
【0073】
上記工程(a)では、グルタミン酸感受性神経細胞株とグルタミン酸を接触させる。該接触は、上記と同様の方法にて行われる。
【0074】
上記工程(b)では、グルタミン酸を接触させたグルタミン酸感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルが解析される。該遺伝子発現プロファイルの解析は、例えば、DNAチップ、DNAマイクロアレイ等を用いて、公知の方法で行うことができる。
【0075】
対照細胞としては、例えば、グルタミン酸と接触させたグルタミン酸非感受性神経細胞株、グルタミン酸と非接触のグルタミン酸感受性神経細胞株などが用いられる。
【0076】
グルタミン酸を接触させたグルタミン酸感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルと、対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較することにより、グルタミン酸により誘導される神経細胞死に関連する脳疾患機構の遺伝子レベルでの解明が可能となり得る。
【0077】
本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株は、グルタミン酸により誘導される神経細胞死に関連する脳疾患のモデル細胞となり得るので、遺伝子発現のみならず、神経細胞死に関連するタンパク質、ペプチド、RNA(siRNAやmiRNAなどのnon-cording RNAを含む)等を含めた機能分子の機序を明らかにするために用いることができる。従って、本発明のグルタミン酸感受性神経細胞株は、脳疾患機構を解明するための様々なアッセイ系に用いることができる。
【0078】
(3.酸化ストレス感受性神経細胞株)
(3.1.酸化ストレス感受性神経細胞株の製造)
本発明において「酸化ストレス感受性神経細胞株」とは、酸化ストレスに応答して細胞死が誘導され得る神経細胞株のことを示す。
【0079】
「酸化ストレス」とは、生体内において生成される活性酸素群(スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素等)の酸化損傷力と生体がもつ抗酸化システムのポテンシャルの差である。該活性酸素群が過剰になると、脂質、蛋白質、糖、核酸等が酸化変性し、細胞機能が障害されることが知られている。
【0080】
本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株は、上記神経細胞株と同様の方法で製造することができる。
【0081】
本発明の方法により製造され得る神経細胞株は、酸化ストレスに対し感受性を有するか否かが確認され得る。
【0082】
該確認は、好ましくは本発明の方法により製造され得る神経細胞株に酸化ストレスを与えることにより行われる。該酸化ストレスは、例えば、1)培養培地に含まれている抗酸化物質を除去した培養培地と交換する、2)酸化物を添加する、3)インキュベーター内の酸素濃度を上昇させる、など、公知の方法で与えることができる。
【0083】
例えば、上記1)の場合、脂質混合液、アルブミン、セレン、メルカプトエタノール、ビタミン等が除去された培養培地が用いられる。
【0084】
例えば、上記2)の場合、該酸化物としては、例えば、酸化脂質、スーパーオキシド、NO生成物、過酸化水素、紫外線照射、放射線照射、次亜塩素酸等が挙げられる。該酸化物の添加量としては、酸化ストレスによる細胞死を誘導させ得る濃度範囲であれば特に限定されないが、例えば過酸化水素を用いたときは1〜20mMの濃度が挙げられる。
【0085】
例えば、上記3)の場合、インキュベーター内の酸素濃度としては、例えば、20%〜95%、好ましくは20%〜40%が挙げられる。
【0086】
本発明の方法により製造され得る神経細胞株に酸化ストレスを与えた後、1〜10日、好ましくは1〜7日、より好ましくは2〜4日後に、該神経細胞株が酸化ストレスにより神経細胞死を誘導されているか否かを評価する。該評価は、例えば、生細胞数の測定や死細胞数の測定等によりなされる。生細胞数および死細胞の測定は、自体公知の方法(トリパンブルー染色法、LDH法、MTT法、フローサイトメトリー法等)により行われ得る。
【0087】
酸化ストレスにより神経毒性(神経細胞死、増殖抑制等)が誘導されていると評価された細胞株を、本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株とすることができる。
【0088】
(3.2.酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法および該方法により得られた物質を含有する脳疾患の予防・治療剤)
(3.2.1.酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法)
本発明では、以下の工程を含む酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法を提供する。
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株に、被験物質の存在下で酸化ストレスを与える工程、
(b)上記工程(a)における生細胞数または死細胞数を測定し、該細胞数を被験物質の不存在下で酸化ストレス感受性神経細胞株に酸化ストレスを与えた場合における生細胞数または死細胞数とを比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、酸化障害を抑制するための保護物質となり得る物質を選択する工程。
【0089】
「酸化障害」とは、酸化ストレスによる神経毒性(神経細胞死、増殖抑制等)、細胞毒性(細胞死、増殖抑制等)、核酸の障害、脂質の障害等を示す。
【0090】
スクリーニング方法に供される被験物質は、上述と同様なものが挙げられる。
【0091】
上記工程(a)では、酸化ストレス感受性神経細胞株が、被験物質の存在下で酸化ストレスを与える条件下におかれる。酸化ストレス感受性神経細胞株に対する酸化ストレスは、培養培地中で与え得る。なお、酸化ストレス感受性神経細胞株に酸化ストレスを与えるのは、被験物質の存在前であっても、存在後であってもよい。なお、酸化ストレスは、上述と同様の方法で与えられる。
【0092】
上記工程(b)では、先ず、被験物質の存在下で酸化ストレスを与えた細胞における生細胞数または死細胞数が測定される。生細胞数または死細胞数の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。なお、該測定は、特に限定されないが、酸化ストレスを与えた後、1〜10日、好ましくは1〜7日、より好ましくは2〜4日後になされる。
【0093】
次いで、被験物質の存在下で酸化ストレスを与えた細胞における生細胞数または死細胞数が、被験物質の不存在下で酸化ストレスを与えた場合における生細胞数または死細胞数と比較される。生細胞数または死細胞数の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質の不存在下で酸化ストレスを与えた場合における生細胞数または死細胞数は、被験物質の存在下で酸化ストレスを与えた細胞における生細胞数または死細胞数の測定に対し、事前に測定した生細胞数または死細胞数であっても、同時に測定した生細胞数または死細胞数であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した生細胞数または死細胞数であることが好ましい。
【0094】
上記工程(c)では、酸化障害を抑制するための保護物質となり得る物質が選択される。酸化障害の抑制は、生細胞数の増加または死細胞数の減少であり得る。このように選択された被験物質は、酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患の調節(予防・治療)に有用であり得る。
【0095】
また、上記スクリーニング方法は、(d)選択された被験物質が酸化ストレスによる神経細胞死を抑制し得ることを確認する工程(確認工程)をさらに含むことができる。確認工程は、例えば、正常な動物に対し、あるいは酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患の動物またはモデル動物に対し、選択された被験物質を投与することで行なわれ得る。
【0096】
(3.2.2.本発明のスクリーニング方法により得られた物質を含有する脳疾患の予防・治療剤)
上記スクリーニング法により得られた物質は、酸化障害を抑制する効果を奏するので、該物質を含有する脳疾患の予防・治療剤とすることができる。
【0097】
該脳疾患としては、酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患であれば特に限定されないが、例えば、アルツハイマー病、脳外傷、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳梗塞、脳虚血、脳老化等が挙げられる。
【0098】
該物質を含有する脳疾患の予防・治療剤には、酸化障害を抑制する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
【0099】
医薬上許容され得る担体としては、上述と同様のものが例示される。
【0100】
経口投与に好適な製剤、非経口的な投与に好適な製剤としては、上述と同様のものが例示される。
【0101】
該物質を含有する脳疾患の予防・治療剤の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
【0102】
(3.2.3.本発明のスクリーニング方法により得られた物質を含有する、脳疾患に対する抑制・予防効果を有する機能性食品)
上記スクリーニング法により得られた物質は、また、飲食品(食品補助剤、保健機能食品、栄養補助食品等を含む)等として使用することができる。その形態は特に限定されるものではなく、酸化障害の抑制を発揮させるのに必要な量のみ飲食品に含有させても良い。なお、本発明において飲食品とは、動物用試料をも含み得る。
【0103】
該物質を飲食品に使用するには、特に困難はなく、例えばジュース、牛乳、菓子、ゼリー等に混ぜて飲食することができる。このような飲食品を保健機能食品として提供することも可能であり、この保健機能食品には脳疾患の予防又は治療のために用いるものであるという表示を付した飲食品、特に特定保健用食品等も含まれる。
【0104】
また、本発明の薬剤を食品補助剤等として使用する場合、例えば錠剤、カプセル、散剤、顆粒、懸濁剤、チュアブル剤、シロップ剤等の形態に調製することができる。
【0105】
(3.2.4.本発明のスクリーニング方法により得られた物質を含有する化粧料)
また、上記スクリーニング方法により得られた物質は、細胞種の中でも非常にストレスに弱い神経細胞を酸化ストレスから保護し得る物質である。従って、該物質を有効成分として含有する細胞保護や酸化ストレス保護を目的とする化粧料への応用も可能である。
【0106】
化粧料としての形態、添加物、製造法等は、上述と同様のものが例示される。
【0107】
本発明に係る化粧料は、通常、有効量を皮膚などの所要部位に直接噴霧、貼付または塗布されることにより使用(投与)され得る。
【0108】
(3.3.本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株を含む、脳疾患の予防・治療剤)
本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株は、一部の脳機能を担う特定の神経細胞集団であると考えられるため、酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患等において、酸化ストレスによる神経細胞死により失われた神経系細胞を補充するためなどに用いることができる。酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患としては、アルツハイマー病、脳外傷、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳梗塞、脳虚血、脳老化等が挙げられる。
【0109】
従って、本発明は、本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株を有効成分として含有してなる、脳疾患の予防・治療剤を提供する。本発明の脳疾患の予防・治療剤は、患者に投与すること等により、酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患(アルツハイマー病、脳外傷、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病、脳梗塞、脳虚血、脳老化等)の予防・治療に有用に用いることができる。
【0110】
例えば、酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患の患者から、神経系細胞を採取し、本発明の方法により当該患者由来の酸化ストレス感受性神経細胞株を製造する。そして、該酸化ストレス感受性神経細胞株を当該患者に投与することで、酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患を予防・治療することが出来る。
【0111】
本発明の脳疾患の予防・治療剤の製造方法、含まれ得る担体等は、上述と同様のものが例示される。
【0112】
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒト等の上述の哺乳動物に対して投与することができる。
【0113】
本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法などにより差異はあるが、通常、成人の患者(体重60kgとして)においては、例えば非経口投与の場合、一日につき1×10細胞〜1×10細胞個程度を投与するのが好都合である。他の動物の場合も、60kg当たりに換算した量を投与することができる。
【0114】
(3.4.酸化ストレスにより誘導される神経細胞死に関連する遺伝子の同定方法)
また、本発明では、以下の工程を含む、酸化ストレスにより誘導される神経細胞死に関連する遺伝子同定方法を提供する。
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株に、酸化ストレスを与える工程、
(b)酸化ストレスを与えた酸化ストレス感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルを解析し、該遺伝子発現プロファイルを対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較する工程。
【0115】
上記工程(a)では、酸化ストレス感受性神経細胞株に酸化ストレスを与える。該酸化ストレスは、上記と同様の方法にて与えられる。
【0116】
上記工程(b)では、酸化ストレスを与えた酸化ストレス感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルが解析される。該遺伝子発現プロファイルの解析は、例えば、DNAチップ、DNAマイクロアレイ等を用いて、公知の方法で行うことができる。
【0117】
対照細胞としては、酸化ストレスを与えた酸化ストレス非感受性神経細胞株、酸化ストレスを与えない酸化ストレス感受性神経細胞株などが用いられる。
【0118】
酸化ストレスを与えた酸化ストレス感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルと、対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較することにより、酸化ストレスにより誘導される神経細胞死に関連する脳疾患機構の遺伝子レベルでの解明が可能となり得る。
【0119】
本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株は、酸化ストレスにより誘導される神経細胞死に関連する脳疾患のモデル細胞となり得るので、遺伝子発現のみならず、神経細胞死に関連するタンパク質、ペプチド、RNA(siRNAやmiRNAなどのnon-cording RNAを含む)等を含めた機能分子の機序を明らかにするために用いることができる。従って、本発明の酸化ストレス感受性神経細胞株は、脳疾患機構を解明するための様々なアッセイ系に用いることができる。
【0120】
本発明の方法により製造され得る神経細胞株は、また、グルタミン酸感受性および酸化ストレス感受性を有し得る。従って、上述したグルタミン酸感受性神経細胞株および酸化ストレス感受性神経細胞株の両方の性質を有し得る。本発明のグルタミン酸感受性および酸化ストレス感受性神経細胞株は、グルタミン酸神経毒性および/または酸化障害を抑制する物質のスクリーニング方法、グルタミン酸および/または酸化ストレスによる神経細胞死に関連する疾患の予防・治療剤に使用することができるので、グルタミン酸または酸化ストレスのどちらか一方に対してのみ感受性を有する細胞株に比し、非常に有用である。
【実施例】
【0121】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はいかなる意味においてもこれらに限定されない。
【0122】
〔実施例1〕神経細胞株の作製
Balb/cマウス胎児(胎生14-16日目;日本チャールス・リバー(株)より購入)から脳組織を摘出した。摘出した脳組織を、トリプシン(0.2%、5分間;インビトロジェン)を用いて消化し、脳神経細胞を分離した。分離した神経細胞を培養液で遠心洗浄(1000rpm×5min)し、フィブロネクチンコートした培養ディッシュ上に播種した。EGF(50ng/ml)、FGF2(50ng/ml)を添加したDMEM/F12培地を用い、37℃、5%COの環境下で7日間培養した。3−7日間毎に、該細胞を上記と同様の条件でトリプシン処理、遠心洗浄し、フィブロネクチンコートした培養ディッシュ上で継代培養した。1〜2ヶ月間継代培養した後、得られた神経細胞を、接着因子をコートしていない培養ディッシュ上で、スフェアー状態で培養した。5−10日間毎に、該細胞を5〜6回ピペッティングし、上記と同様の条件で遠心洗浄し、接着因子をコートしていない培養ディッシュ上で継代培養した。スフェアー培養開始から数ヶ月(1〜4ヶ月)後、グルタミン酸に応答して神経細胞死を誘導することが可能な神経細胞株が獲得できた(図1)。
【0123】
〔実施例2〕神経細胞株のグルタミン酸神経毒性試験
実施例1で得られた細胞株を用いて、グルタミン酸神経毒性試験を行った。
神経細胞株を、1〜5×10細胞/ウェルの濃度で無血清培地を用いて24ウェルプレートで前培養した。翌日、培地に終濃度10mMのグルタミン酸を添加し、神経細胞死を誘導した。
その結果、スフェアー培養開始後10日目からグルタミン酸に応答し細胞死を誘導する細胞がみられ、40日目にはほとんどの神経細胞株が細胞死を誘導した(図2)。
【0124】
〔比較例1〕PC12神経細胞株のグルタミン酸神経毒性試験
ラット褐色細胞腫であるPC12神経細胞株を用いて、実施例2と同様の方法でグルタミン酸神経毒性試験を行った。PC12細胞は、グルタミン酸による神経毒性に応答するための能力を持っていなかった(図3)。さらに、NB1神経細胞株(ヒト神経芽腫)、A172神経細胞株(ヒトグリオブラストーマ)についても同様に試験を行ったが、グルタミン酸による神経毒性に応答することはできなかった(データ示さず)。
【0125】
〔比較例2〕スフェアー培養前神経細胞株のグルタミン酸神経毒性試験
実施例1のスフェアー培養に移行する前の神経細胞株を用い、実施例2と同様の方法でグルタミン酸神経毒性試験を行った。
各増殖因子(EGF、FGF2、EGF/FGF2)に応答して得られる神経細胞株からは、グルタミン酸に応答して神経細胞死を誘導することが可能な神経細胞株は得られなかった(図4〜図6)。なお、スフェアー培養に移行しなければ、1年間の継代培養を行ってもグルタミン酸神経毒性に応答することできる神経細胞株を得ることはできなかった(データ示さず)。
【0126】
〔実施例3〕脳保護剤によるグルタミン酸誘導神経細胞死の抑制
神経細胞株を、1〜5×10細胞/ウェルの濃度で無血清培地を用いて24ウェルプレートで前培養した。翌日、培地に終濃度10mMのグルタミン酸を添加し、さらに脳卒中治療薬として用いられているラジカット(三菱ウェルファーマ)を各濃度で培地中に加え、そのグルタミン酸誘導神経細胞死の抑制効果を評価した。
その結果、1μMのラジカット濃度から抑制活性がみられ、100μM〜500μMにおいてはグルタミン酸による神経細胞死を完全に抑制した(図7)。これらの結果は、本発明で得られた神経細胞株を用いたアッセイ系(薬剤などのスクリーニング法および評価法)が脳卒中などの脳疾患に対する治療薬の開発に利用できることを示唆している。
【0127】
〔実施例4〕神経細胞株における酸化ストレス神経細胞死の誘導
神経細胞株を、1〜5×10細胞/ウェルの濃度で無血清培地を用いて24ウェルプレートで前培養した。翌日、細胞の片群を、神経細胞用培地に含まれている抗酸化物質を除去した培地(脂質、セレンを除去)に培地交換し、さらに5日間培養した。その結果、抗酸化物質除去培地で培養した神経細胞株(図8(左))は、抗酸化物質非除去培地で培養した神経細胞株(コントロール:図8(右))と比し、明らかな酸化ストレス細胞死を示していた。従って、本発明の神経細胞株は酸化ストレスに応答して神経細胞死を呈する細胞であることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の神経細胞株の製造方法、該方法により得られた細胞株、グルタミン酸誘導神経毒性に対する抑制物質のスクリーニング方法、酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法、脳疾患の機構解明のための神経細胞株アッセイ系は、脳疾患に対する抑制・予防効果を有する医薬品や機能性食品等の研究開発などに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】スフェアー培養後のEGF/FGF2依存性神経細胞株におけるグルタミン酸神経毒性試験を示す。(A)グルタミン酸添加後の細胞数の継時的変化。(B)スフェアー培養後の神経細胞株の顕微鏡写真。左:グルタミン酸無添加。右:グルタミン酸添加。
【図2】スフェアー培養によるグルタミン酸神経毒性に対する神経細胞株の経時的応答変化を示す。
【図3】PC12細胞におけるグルタミン酸神経毒性試験を示す。
【図4】スフェアー培養前のEGF依存性神経細胞株におけるグルタミン酸神経毒性試験を示す。(A)グルタミン酸添加後の細胞数の継時的変化。(B)EGF依存性神経細胞株の顕微鏡写真。左:グルタミン酸無添加。右:グルタミン酸添加。
【図5】スフェアー培養前のFGF2依存性神経細胞株におけるグルタミン酸神経毒性試験を示す。
【図6】スフェアー培養前のEGF/FGF2依存性神経細胞株におけるグルタミン酸神経毒性試験を示す。
【図7】脳保護剤ラジカットによるグルタミン酸誘導神経細胞死の抑制効果を示す。(A)グルタミン酸誘導神経細胞死抑制におけるラジカットの濃度依存性曲線(B)グルタミン酸感受性神経細胞株の顕微鏡写真。左:ラジカット無添加。右:ラジカット添加。
【図8】抗酸化物質を除去した培地による神経細胞死(酸化ストレス神経細胞死)の誘導を示す。左:抗酸化物質除去培地による神経細胞死。右:コントロール(抗酸化物質非除去培地)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養することを含む、神経細胞株の製造方法。
【請求項2】
該神経細胞株がグルタミン酸感受性である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項2記載の方法により製造され得る、グルタミン酸感受性神経細胞株。
【請求項4】
下記の工程(a)〜(c)を含む、グルタミン酸神経毒性を抑制し得る物質のスクリーニング方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株を、被験物質の存在下でグルタミン酸と接触させる工程、
(b)上記工程(a)における生細胞数または死細胞数を測定し、該細胞数を被験物質の不存在下でグルタミン酸感受性細胞株とグルタミン酸を接触させた場合における生細胞数または死細胞数とを比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、グルタミン酸神経毒性を抑制し得る物質を選択する工程。
【請求項5】
脳疾患の予防・治療剤となり得る物質のスクリーニング方法である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
請求項4記載の方法により得られた物質を含む、脳疾患の予防・治療剤。
【請求項7】
神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株を含む、脳疾患の予防・治療剤。
【請求項8】
下記の工程(a)、(b)を含む、グルタミン酸により誘導される神経細胞死に関連する遺伝子の同定方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得るグルタミン酸感受性神経細胞株と、グルタミン酸を接触させる工程、
(b)グルタミン酸を接触させたグルタミン酸感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルを解析し、該遺伝子発現プロファイルを対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較する工程。
【請求項9】
該神経細胞株が酸化ストレス感受性である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法により製造され得る、酸化ストレス感受性神経細胞株。
【請求項11】
下記の工程(a)〜(c)を含む、酸化障害を抑制するための保護物質のスクリーニング方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株に、被験物質の存在下で酸化ストレスを与える工程、
(b)上記工程(a)における生細胞数または死細胞数を測定し、該細胞数を被験物質の不存在下で酸化ストレス感受性神経細胞株に酸化ストレスを与えた場合における生細胞数または死細胞数とを比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、酸化障害を抑制するための保護物質となり得る物質を選択する工程。
【請求項12】
脳疾患の予防・治療剤となり得る物質のスクリーニング方法である、請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項11記載の方法により得られた物質を含む、脳疾患の予防・治療剤。
【請求項14】
下記の工程(a)、(b)を含む、酸化ストレスにより誘導される神経細胞死に関連する遺伝子の同定方法:
(a)神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株に、酸化ストレスを与える工程、
(b)酸化ストレスを与えた酸化ストレス感受性神経細胞株における遺伝子発現プロファイルを解析し、該遺伝子発現プロファイルを対照細胞における遺伝子発現プロファイルと比較する工程。
【請求項15】
神経系細胞を、接着培養後立体的環境下で培養して製造され得る酸化ストレス感受性神経細胞株を含む、脳疾患の予防・治療剤。
【請求項16】
該神経細胞株がグルタミン酸感受性および酸化ストレス感受性である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法により製造され得る、グルタミン酸感受性および酸化ストレス感受性を有する神経細胞株。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−254814(P2006−254814A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78225(P2005−78225)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、地域新生コンソーシアム研究開発事業、九州経済産業局委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591065549)福岡県 (121)
【Fターム(参考)】