脳腫瘍を治療するための医薬組成物又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物、及びその使用
【課題】脳腫瘍を治療するための医薬組成物、又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物の提供。
【解決手段】薬剤的に許容可能なキャリアと、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分と、を含む、脳腫瘍を治療するための医薬組成物、又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物。
【解決手段】薬剤的に許容可能なキャリアと、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分と、を含む、脳腫瘍を治療するための医薬組成物、又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物及びその使用に関し、具体的には、ヒトの悪性神経膠腫のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性脳腫瘍は、悪性腫瘍のケースの約2%を占める。悪性脳腫瘍の発生率は低いが、この疾患の特定の発癌要因が存在しないため、抑制するのが困難である。脳腫瘍は、脳由来又は関連する細胞由来に増殖する原発性脳腫瘍と、体の他の部位の癌細胞由来の転移性脳腫瘍とを含む。脳腫瘍は一般的にゆっくりと発生し、その発生には数週間から数年を要する。脳腫瘍の症状は、悪心、頭痛、脳圧上昇による意識障害、発作、ホルモン異常、並びに検知能力低下、失語、四肢弛緩、知覚障害、視界喪失及び視野喪失等といった部分的な脳機能障害を含む。
【0003】
悪性脳腫瘍は正常組織内で広がり、増殖し、及び手術で切除することは容易ではないため、脳腫瘍の治療においては化学療法を行わなければならない。しかしながら、ほとんどの抗癌剤は、脳内の特別な“脳血液関門”の障壁のために、細胞傷害効果を発揮するように脳腫瘍細胞に送達され得ず、治療効果は制限されている。結果として、末期の脳腫瘍患者の平均生存年数は、通常、わずか約1年である。
【0004】
現在、臨床で悪性脳腫瘍の治療に通常用いられる薬剤の一つにテモゾロミド(TMZ)がある。それは、イミダゾール−テトラジン型の経口化学療法薬であり、脳腫瘍細胞を殺傷するために脳血液関門を通過することができる。それゆえ、それは効果的に腫瘍の増殖を抑えることができ、さらには脳腫瘍を治療することがきる。テモゾロミドは、特にグリオーマ(多形性膠芽腫及び退形成性星細胞腫を含む)に有効である。しかしながら、テモゾロミドの毒性は高く、悪心、嘔吐、頭痛、体力不足、倦怠感、食欲不振等といった副作用が生じる。さらに、テモゾロミドは、治療効果を高めるために通常、放射線療法と組み合わせられるため、より深刻な副作用が生じる。
【0005】
テモゾロミドは、メチル化剤である。テモゾロミドは、DNAのグアニン内6位の酸素原子をメチル化することにより、DNA二重螺旋構造を変形させてDNA複製を阻害し、癌細胞を死に導き得ると通常考えられている。しかしながら、このようなメカニズムは、腫瘍細胞におけるO6−メチルグアニンDNA−メチルトランスフェラーゼ(MGMT)により阻害される。MGMTは、細胞内の異常なメチル化を取り除き、修復機能を発揮するためである。そのため、MGMTは、テモゾロミドの効果を弱める。結果として、腫瘍細胞においてはテモゾロミドへの耐性が生じる。前述のMGMTの抑制効果のため、テモゾロミドの効果を達成させるためにはその用量を増加させることが必要である。これにより、必然的により深刻な副作用が生じ、患者への負担が増加する。
【0006】
腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を効果的に低減させることができれば、テモゾロミドの不必要な用量増加を回避することができ、患者への負担を軽減することができる。非特許文献1に記載の試験では、脳腫瘍患者の体内のMGMT発現が抑制されている場合、テモゾロミドの効果は必ずしも亢進されないことが明らかにされた(この内容は、参照により本明細書に取り込まれる)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ranson et.al.,Randomized Trial of the Combination of Lomeguatrib and Temozolomide Compared With Temozolomide Alone in Chemotherapy Naive Patients With Metastatic Cutaneous Melanoma,J Clin Oncol,2007.Vol.25:2540−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、治療中のテモゾロミドの不必要な過量投与を回避し患者への負担を軽減するために、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるのに効果的な医薬組成物又は方法がいまだ必要とされている。加えて、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性が低減される一方でテモゾロミドの効果が向上され得るとしたら、治療中の患者のさらなる一助となり得、患者への負担を軽減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の目的は、対象における脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させる方法を提供することであり、該方法は、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。
【化1】
【0010】
好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。
【0011】
本発明の他の目的は、対象の脳腫瘍を治療する方法を提供することであり、該方法は、前記化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。好ましくは、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが前記対象に投与される。
【0012】
本発明のさらなる目的は、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物を提供することであり、該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。
【0013】
本発明はまた、脳腫瘍を治療するための医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドであり、より好ましくは、該医薬組成物はさらにテモゾロミドを含む。
【0014】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】種々の脳腫瘍細胞株内でのMGMT(O6−メチルグアニンDNA−メチルトランスフェラーゼ)発現を示すタンパク質電気泳動像の図である。
【図2】テモゾロミドの種々の脳腫瘍細胞株に対する抑制率を示す統計的なグラフの図である。
【図3】脳腫瘍細胞株8901における(Z)−ブチリデンフタリド(Z−Bdph)及び(E)−ブチリデンフタリド(E−Bdph)のMGMTのRNA発現への影響を示す電気泳動像の図である。
【図4】テモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞株8901における(Z)−ブチリデンフタリド及び(E)−ブチリデンフタリドのMGMTのタンパク質発現への影響を示すタンパク質電気泳動像の図である。
【図5】テモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞株GBM22−TMZにおける(Z)−ブチリデンフタリドのMGMTのタンパク質発現に対する抑制を示すタンパク質電気泳動像の図である。
【図6】(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせのテモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞株8901に対する抑制率を示す曲線図である。
【図7】(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせの脳腫瘍細胞株GBM22−TMZに対する抑制率を示す統計的なグラフの図である。
【図8】(Z)−ブチリデンフタリドの脳腫瘍細胞株DBTRGに対する抑制率を示す曲線図である。
【図9】(E)−ブチリデンフタリドの脳腫瘍細胞株DBTRGに対する抑制率を示す曲線図である。
【図10】(Z)−ブチリデンフタリドの種々の脳腫瘍細胞株に対する抑制率を示す統計的なグラフの図である。
【図11A】(Z)−ブチリデンフタリド、テモゾロミド、又はこれらの組み合わせによるマウスの腫瘍増殖抑制を示す曲線図である。
【図11B】マウスの体重変化を示す曲線図である。
【図12A】(Z)−ブチリデンフタリドのウエハー(又は錠剤)及びテモゾロミドのウエハー(又は錠剤)の組み合わせによるマウスの腫瘍増殖抑制を示す曲線図である。
【図12B】マウスの体重変化を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特にことわらない限り、本明細書中で(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一“、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0017】
脳腫瘍は、グリオーマと非グリオーマとに分けられ得る。最もよくみられる脳腫瘍はグリオーマであり、それには星状細胞腫(グリオーマの約70〜80%を占める)、乏突起膠腫、及び上衣腫が含まれる。非グリオーマは、胚芽腫、髄膜腫、頭蓋咽頭腫、神経鞘腫、神経節膠腫、下垂体腺腫、及び脈絡叢の腫瘍を含む。
【0018】
前述の通り、テモゾロミドは高い毒性及び強い副作用を有しており、腫瘍細胞は容易にテモゾロミドへの薬剤耐性を有するようになり得る。そのため、テモゾロミドの臨床適用は極めて限られている。本発明者らは、(E)−ブチリデンフタリド(トランス−ブチリデンフタリド)に比して(Z)−ブチリデンフタリド(シス−ブチリデンフタリド)はより高いMGMT発現抑制活性を有すること、及び(Z)−ブチリデンフタリドは脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を効果的に低減させ、テモゾロミドのテモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞に対する細胞毒性感受性を亢進させ得ることを見出した。それゆえ、(Z)−ブチリデンフタリドは、対象へのテモゾロミド投与により引き起こされる問題を低減させ、又は解決さえし得る。
【0019】
したがって、本発明は、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。
【化2】
【0020】
本発明の医薬組成物は好ましくは、ヒトの悪性神経膠腫のテモゾロミド耐性を低減させるために用いられる。好ましくは、該活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。
【0021】
脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるために本発明の医薬組成物を適用する場合、活性成分は、対象の必要に応じて、1日1回、1日複数回、又は数日ごとに1回等で投与され得る。例えば、(Z)−ブチリデンフタリドは、1日1回、約30mg/kg−体重から約500mg/kg−体重の用量で投与され得る。“mg/kg−体重”の単位は、対象の体重キログラムあたり必要とされる用量を意味する。しかしながら、テモゾロミドへの深刻な耐性を有する患者においては、用量は実際の状態に依存して数倍又は数十倍に増加され得る。さらに、投与は適切なアプローチにより行われ得、例えば、限定されることなく、経口投与、皮下投与、経鼻投与、又は静脈内投与により行われ得る。薬物放出時間及び用量は注射投与により正確に制御され得るため、皮下投与又は静脈内投与するのが好ましい。
【0022】
また、(Z)−ブチリデンフタリドは、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させ得るばかりでなく、抗脳腫瘍効果をも有し、テモゾロミドの脳腫瘍細胞に対する細胞毒性を亢進させ得ることが見出された。(Z)−ブチリデンフタリドがテモゾロミドと一緒に(引き続いて、又は同時に)投与される場合、(Z)−ブチリデンフタリドは、脳腫瘍の治療において著しく高い効果をもたらし、さらにはテモゾロミドの投与量を低減させ得る。
【0023】
それゆえ、本発明はまた、脳腫瘍を治療するための、好ましくはヒトの悪性神経膠腫を治療するための医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。後述の実施例に示されるように、(E)−ブチリデンフタリド(2500μMの高用量でさえも効果的に脳腫瘍細胞を殺傷することができない)に比して、(Z)−ブチリデンフタリドは、約250μMの用量で50%の脳腫瘍細胞死亡率(IC50)を達成し得る。
【0024】
本発明の脳腫瘍を治療するための医薬組成物はさらに、テモゾロミド、テモゾロミドの水和物、テモゾロミドのアイソスター、テモゾロミドの薬剤的に許容可能な塩、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の抗腫瘍成分を含み得る。好ましくは、該抗腫瘍成分はテモゾロミドである。好ましくは、本発明の脳腫瘍を治療するための医薬組成物は、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとを含み、テモゾロミド耐性を有する脳腫瘍を治療するために、特にはテモゾロミド耐性を有するヒトの悪性神経膠腫を治療するために用いられる。
【0025】
本発明の脳腫瘍を治療するための(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとを含む医薬組成物において、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとは、同時に、又は引き続いて投与され得る。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの用量は、任意に調節され得る。本発明の医薬組成物において、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドが用いられる場合、同じ(Z)−ブチリデンフタリドの用量で、テモゾロミドの用量を増加させていくと、コンビネーションインデックス(combination index)(CI)はしばしば下がることが見出された。コンビネーションインデックス(combination index)は、薬物用量の反応曲線を描くことにより、及びCalcuSynソフトウェア(Chou and Talalay,Quantitative analysis of dose−effect relationships:the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors.Adv.Enzyme Regul.,22:27−55,1984を参照、この内容は参照により本明細書に取り込まれる)で計算を行うことにより得られる。コンビネーションインデックス(combination index)が1未満の場合、異なる薬物は相互に相乗作用を有し、薬物の効果において相乗効果を発揮する。コンビネーションインデックス(combination index)が1の場合、薬物は相互に影響を与えない。コンビネーションインデックス(combination index)が1以上の場合、薬物は互いに拮抗する。好ましくは、脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが組み合わせて用いられる場合、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが組み合わせられて1未満のコンビネーションインデックス(combination index)をもたらす。
【0026】
本発明の一態様において、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び1200μM(200μL)である場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.33である。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び3200μM(200μL)である場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.22である。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々50μM及び3200μM(200μL)である場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.20である。
【0027】
(Z)−ブチリデンフタリドは、効果的に脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させ、テモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞に対するテモゾロミドの細胞毒性感受性を亢進させ、及びテモゾロミドとの併用時に優れた相乗効果をもたらし得るため、治療に要するテモゾロミド用量を低減することができ、テモゾロミド投与により生じる副作用を軽減させることができる。後述の実施例に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドの用量が増加するとともに、脳腫瘍細胞の50%死亡率(IC50値)を達成するために必要とされるテモゾロミドの用量は減少する。
【0028】
脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、活性成分は、対象の必要に依存して異なる頻度で投与され得る。例えば、1日1回、1日複数回、又は数日ごとに1回等である。例えば、該医薬組成物が脳腫瘍を治療するためにヒトの身体に用いられる場合、(Z)−ブチリデンフタリドは、1日1回(例えばウエハー又は錠剤の形態で)、約30mg/kg−体重から約500mg/kg−体重、好ましくは約40mg/kg−体重から約120mg/kg−体重の用量で投与され得る。“mg/kg−体重”の単位は、対象の体重キログラムあたり必要とされる用量を意味する。(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドが併用される場合、テモゾロミドは、1日1回(例えばウエハー又は錠剤の形態で)、約10mg/kg−体重から約100mg/kg−体重、好ましくは約40mg/kg−体重から約80mg/kg−体重の用量で投与され得る。例えば、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが併用される場合、良好な治療効果がもたらされるように、テモゾロミドは1日1回、約65mg/kg−体重の用量で投与され得、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは、同じウエハー、又は異なるウエハーに含有され得る。しかしながら、重症の脳腫瘍患者においては、用量は、その状態に依存して数倍又は数十倍に増加され得る。
【0029】
脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、活性成分(抗腫瘍成分と組み合わされ得る)は、例えば、限定されることなく、経口投与、皮下投与、経鼻投与、又は静脈内投与といった適切なアプローチにより投与され得る。本発明の医薬組成物は、単独で又は薬剤的な補助剤と併用して、獣医学上の及びヒトの薬剤において用いられ得る。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドが本発明の医薬組成物に用いられる場合、それらは同時に又は分けて、同じ又は異なるアプローチで投与され得る。例えば、テモゾロミドは経口投与される一方で、(Z)−ブチリデンフタリドは静脈内注射により投与され得る。
【0030】
経口投与に適する調剤形態においては、例えば、脳腫瘍を治療し脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、抗脳腫瘍効果に悪影響を及ぼすことのない補助剤を含み得る。該補助剤としては、例えば、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収抑制剤、崩壊剤、乳化剤、粘着剤、滑剤、吸湿剤、ポリマー等が挙げられる。例えば、溶媒は水及び生理食塩水から選択され得る;ポリマーはポリ(乳酸−グリコール酸供重合体)、コラーゲン、ヒドロゲル、無水物重合体等から選択され得る;並びに無水物重合体はビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ブタン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ペンタン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘプタン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)オクタン、イソフタル酸、1,4−フェニレンジプロピオン酸、ドデカン二酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ペンタン二酸、アジピン酸、グルタル酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された成分から調整され得る。該医薬組成物は、公知の方法により、例えば、ウエハー(又は錠剤)、カプセル、顆粒、散剤、流エキス剤、液剤、シロップ、懸濁液、エマルション、チンキ剤等といった、適切な経口用剤型に調製され得る。
【0031】
皮下投与又は静脈内投与の形態に関して、脳腫瘍を治療するための又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、可溶化剤、乳化剤、及び他の補助剤といった1又は2以上の成分を含有し得る。それにより、静脈内液体注射、静脈内エマルション注射、溶液注射、乾燥粉末注射、懸濁液注射、乾燥粉末懸濁液注射等をなすことができる。溶媒は、水、生理食塩水、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール、又はグリセロール等)、糖溶液、又はこれらの組み合わせを含み得る。
【0032】
脳腫瘍を治療するための又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、投与中の口腔内及び視覚的な感覚を向上させるために、香味剤、トナー、着色剤等といった添加剤を任意にさらに含有し得る。さらに、薬剤の保存性を向上させるために、合理的な量の防腐剤、抗菌剤、抗かび剤等が加えられ得る。
【0033】
脳腫瘍を治療するための又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、1又は2以上のさらなる抗脳腫瘍成分を、該抗脳腫瘍成分が(Z)−ブチリデンフタリド及び/又はテモゾロミドの効果に悪影響を及ぼさない範囲で、任意に含有し得る。それにより、本発明の医薬組成物の効果を増強し、又は製剤の製造の柔軟性を高めることができる。
【0034】
脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、活性成分(例えば、(Z)−ブチリデンフタリド)及び抗腫瘍成分(例えば、テモゾロミド)は、一緒に、分けて、又は引き続いて投与され得る。例えば、まず(Z)−ブチリデンフタリドを注射により投与し、ある時間の経過後(通常1〜2時間)、テモゾロミドを経口投与する。あるいは、(Z)−ブチリデンフタリドの注射による投与後すぐに、テモゾロミドを経口投与する。
【0035】
(Z)−ブチリデンフタリドは、適切なアプローチにより得られ得る。例えば、化学合成により調製され得、又はトウキ(angelica sinensis)から抽出及び精製され得る。例えば、ブチリデンフタリド化合物((Z)−ブチリデンフタリドと(E)−ブチリデンフタリドとのラセミ混合物を含む)は市場(例えば、Alfa Aesar社)から購入され得、適切な量のシリカゲルに埋め込まれ得る(ブチリデンフタリド:シリカゲルの重量比=1:3)。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行う。溶出の移動相としてn−ヘキサンが用いられる。溶出された(Z)−ブチリデンフタリドと(E)−ブチリデンフタリドは、異なる時点で収集され、精製結果はNMRで確認される。その結果、(Z)−ブチリデンフタリドが得られる。
【0036】
本発明はまた、対象における脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させる方法を提供する。該方法は、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。好ましくは、該活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。本発明の医薬組成物の前述の記載において、該活性成分の適用形態及び用量が提供される。
【0037】
本発明はまた、対象の脳腫瘍を治療する方法を提供する。該方法は、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。好ましくは、該活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドであり、より好ましくは、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが併用される。本発明の医薬組成物の前述の記載において、該活性成分及び(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせ投与の適用形態及び用量が提供される。
【0038】
本技術分野における当業者が本発明の特徴をよく理解できるように、技術の詳細及び本発明のために実施された好ましい態様が、添付された図とともに後述の段落において、記載される。
【実施例1】
【0039】
(異なる脳腫瘍細胞株におけるMGMT発現)
直径10cmのペトリ皿で、脳腫瘍細胞株8401,8901,DBTRG,U87MG,及びG5T/VGHを各々培養した。皿の60%の容量まで細胞が増殖した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を用いて細胞を洗浄した。最後に、細胞と細胞内タンパク質を収集した。ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及びウェスタンブロッティングを用いて、各々の脳腫瘍細胞株におけるMGMTタンパク質の発現を分析した。結果を図1に示す。
【0040】
図1に示される通り、各々の脳腫瘍細胞株は、異なったレベルのMGMT発現を示し、脳腫瘍細胞株8901,DBTRG,及びG5T/VGHでは高いレベルのMGMT発現を示した。
【実施例2】
【0041】
(テモゾロミドの種々の脳腫瘍細胞株に対する死亡率効果)
MTT(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,4−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)細胞生存試験を用いて、テモゾロミドの種々の脳腫瘍細胞株に対する死亡率効果を検討した(Pauwels et al.,J.Virol.Methods,1988,20,309−321を参照、この内容は参照により本明細書に取り込まれる)。
【0042】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsで脳腫瘍細胞株8401,8901,DBTRG,U87MG,及びG5T/VGHを各々培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度のテモゾロミド(0〜3200μM、200μL)を滴下した。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除き、500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加え、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。細胞の生存率、死亡率、及び種々の脳腫瘍細胞株が50%死亡率に到達したテモゾロミド濃度(IC50)を、吸光度に基づき算出した。上述の実験結果を表1及び図2に示す。
【表1】
【0043】
表1及び図2に示されるように、脳腫瘍細胞株8401に比して、高レベルでMGMTを発現していた脳腫瘍細胞株8901,DBTRG,及びG5T/VGHでは、テモゾロミドのより高いIC50値を示した。このことから、高レベルでMGMTを発現していた脳腫瘍細胞株は、テモゾロミドの薬剤耐性を有し、死亡率効果を得るためにはより高い用量が必要とされることが示唆された。
【実施例3】
【0044】
(脳腫瘍細胞におけるブチリデンフタリドのMGMT発現抑制)
この実験では、脳腫瘍細胞における(Z)−ブチリデンフタリド及び(E)−ブチリデンフタリドのMGMT発現抑制効果を示した。
【0045】
テモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株8901及びGBM22−TMZを、直径10cmのペトリ皿で各々培養した。皿の60%の容量まで細胞が増殖した後、PBS溶液を用いて細胞を洗浄した。(Z)−ブチリデンフタリド又は(E)−ブチリデンフタリドを加え、3〜48時間細胞を処理した。その後、細胞を収集した。細胞の全RNAを抽出し、cDNAに逆転写した(50マイクロ−モルのオリゴdNTP及び50ピコ−モルのランダムヘキサマープライマーを用いた)。1単位のExTaq DNAポリメラーゼ、200nMのdNTP(1μL)、及び2.5mMのMgCl2(1μL)を加え、その後、20mMのMGMTヌクレオチドプライマー(各々1μL)及び50μLの水を加えた。
【0046】
サンプルをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システム(GeneAmp PCR System 2400、パーキンエルマー社、USA)に置いた。条件は、熱変性(denaturing)、94℃、30s;アニーリング(annealing)、55℃、30s;伸長(extension)、94℃、60s;30サイクル;最後に72℃、10分間であった。後に、反応を集結させるためにシステムの温度を4℃に下げた。PCR産物を1.5%ゲル電気泳動で分析した。ゲルをFlouro−Chemイメージングシステム(アルファイノテック社)で分析し、MGMT遺伝子の発現レベルを見た。結果を図3に示す。
【0047】
これとは別に、前記の脳腫瘍細胞株8901及びGBM22−TMZの細胞内タンパク質を収集した。SDS−PAGE及びウェスタンブロッティングを用いて脳腫瘍細胞株におけるMGMTタンパク質の発現を分析した。結果を図4及び図5に示す。
【0048】
図3〜5に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドの濃度を増加させると、脳腫瘍細胞株におけるMGMTのRNA及びタンパク質の発現は低減した。このことから、(Z)−ブチリデンフタリドはMGMTの発現を抑制し得ることが示唆された。しかしながら、(E)−ブチリデンフタリドの濃度を増加させても、脳腫瘍細胞株におけるMGMTのRNA及びタンパク質の発現に著しい変化は見られなかった。
【実施例4】
【0049】
((Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株8901に対する細胞毒性感受性を亢進させる)
(Z)−ブチリデンフタリドがテモゾロミドの脳腫瘍細胞に対する細胞毒性感受性を亢進させるかについて、MTT細胞生存アッセイを用いて試験した。
【0050】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsでテモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株8901を培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度のテモゾロミド(0〜1200μM、200μL)又はテモゾロミドと(Z)−ブチリデンフタリド(0〜200μM、200μL)との組み合わせを滴下した。分析ごとに4つのマイクロウェルプレートを用い、種々の薬物濃度の組み合わせごとに4つのウェルを用いた。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除き、500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加え、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。細胞の生存率、死亡率、及び種々の脳腫瘍細胞株が50%死亡率に到達したテモゾロミド濃度(IC50)を、吸光度に基づき算出した。上述の実験結果を表2及び図6に示す。
【表2】
【0051】
表2及び図6に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いた場合、(Z)−ブチリデンフタリドの用量を増加させると、脳腫瘍細胞株が50%死亡率に到達するのに要するテモゾロミドの用量(IC50)は低くなった。このことから、(Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株に対する細胞毒性感受性を増加させ得ることが示唆された。このように、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いる場合、テモゾロミドの用量が低減され得る。
【実施例5】
【0052】
((Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株GBM22−TMZに対する細胞毒性感受性を亢進させる)
実施例4での実験工程を繰り返した。ただし、脳腫瘍細胞株はテモゾロミド耐性を有するGBM22−TMZに変更した。(Z)−ブチリデンフタリド濃度を0〜600μM(200μL)に変更する一方で、テモゾロミド濃度を0〜3200μM(200μL)に変更した。結果を図7に示す。
【0053】
図7に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いた場合、(Z)−ブチリデンフタリドの用量を増加させると、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株に対する殺傷効果が向上した。このことから、(Z)−ブチリデンフタリドはテモゾロミドの脳腫瘍細胞株に対する細胞毒性感受性を亢進させ、その結果、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いた場合、テモゾロミドの用量を低減させ得ることが示唆された。
【実施例6】
【0054】
(脳腫瘍細胞におけるブチリデンフタリドの阻害試験)
MTT細胞生存アッセイを用いて、(Z)−ブチリデンフタリド及び(E)−ブチリデンフタリドの抗脳腫瘍活性を試験した。
【0055】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsで脳腫瘍細胞株DBTRGを培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度の(Z)−ブチリデンフタリド(0〜500μM、200μL)又は(E)−ブチリデンフタリド(0〜2500μM、200μL)を滴下した。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除いた。500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加え、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。細胞の生存率及び死亡率を、吸光度に基づき算出した。上述の実験結果を表3並びに図8及び9に示す。
【表3】
【0056】
表3並びに図8及び9に示されるように、(E)−ブチリデンフタリド(濃度2500μMの高用量でも脳腫瘍細胞を効果的に殺傷することができない)に比して、(Z)−ブチリデンフタリドは、濃度約250μMの用量で腫瘍細胞の50%死亡率に到達することができる。
【実施例7】
【0057】
(脳腫瘍細胞における(Z)−ブチリデンフタリドの阻害試験)
実施例6での実験工程を繰り返した。ただし、腫瘍細胞株を腫瘍細胞株DBTRG,8401,8901,及びG5T/VGHに置き換えた。(Z)−ブチリデンフタリド濃度を0〜400μM(200μL)に変更した。結果を図10に示す。
【0058】
図10に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドは種々の脳腫瘍細胞株の増殖を効果的に抑制することができる。(Z)−ブチリデンフタリドの用量が増加するにつれて、脳腫瘍細胞株の抑制効果は向上する。
【実施例8】
【0059】
((Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組成物の脳腫瘍細胞抑制の相乗効果)
MTT細胞生存アッセイを用いて、異なる濃度の(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせの抗脳腫瘍細胞活性について試験した。(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの間で相乗効果があるかについて、コンビネーションインデックス(combination index)(CI)を用いて分析した。
【0060】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsでテモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株8901又はGBM22−TMZを培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度の(Z)−ブチリデンフタリド(脳腫瘍細胞株8901:25〜200μM(200μL)、脳腫瘍細胞株GBM22−TMZ:50〜600μM(200μL))、テモゾロミド(脳腫瘍細胞株8901:100〜1200μM(200μL)、脳腫瘍細胞株GBM22−TMZ:100〜3200μM(200μL))を滴下した。分析ごとに4つのマイクロウェルプレートを用い、種々の薬物濃度の組み合わせごとに4つのウェルを用いた。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除き、500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加えた。その後、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。種々の薬物濃度の組み合わせのO.D.平均値を用いて、異なる薬物用量の反応曲線を算出及び描出した。溶媒のみを加えた第一列のウェルの数値をネガティブコントロールとして用いる一方で、最も高い薬物用量のウェルの数値をポジティブコントロール(生存細胞の増殖は阻害されていなかった)として用いた。このようにして、薬物のIC50値を求めた。
【0061】
加えて、CalcuSynソフトウェアを用いて薬物用量の反応曲線を描出し、コンビネーションインデックス(combination index)を計算して、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの医薬組成物、及びその相乗効果、相加性、又は拮抗作用を分析した(Chou and Talalay,Quantitative analysis of dose−effect relationships:the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors.Adv.Enzyme Regul.,22:27−55,1984を参照、この内容は参照により本明細書に取り込まれる)。コンビネーションインデックス(combination index)が1未満の場合、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは相互に相乗作用を有する。それは、薬物の効果において相乗効果を発揮することを意味する。コンビネーションインデックス(combination index)が1の場合、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの間では影響がない。コンビネーションインデックス(combination index)が1以上の場合、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとは互いに拮抗する。結果を表4,5,及び6に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【0062】
表5及び6に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドがともに用いられた場合、この組み合わせは1未満のコンビネーションインデックス(combination index)をもたらすことができた(表中、太字の数値で表される)。このようなコンディション下では、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは相互に相乗作用を示した。具体的には、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び1200μM(200μL)の場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.33であった。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び3200μM(200μL)の場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.22であった。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々50μM及び3200μM(200μL)の場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.20であった。
【0063】
この試験から、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが組み合わされて用いられる場合、優れた相乗効果がもたらされ得ることが示される。
【実施例9】
【0064】
(in vivo試験)
皮下腫瘍移植モデルによりin vivo試験を行い、in vivoでの(Z)−ブチリデンフタリド、テモゾロミド、又はそれらの組み合わせの抗腫瘍活性を評価した。
【0065】
まず、2×106cellsのテモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株GBM22−TMZを無菌培養し、Balb/cヌードマウス(ナショナルラボラトリーアニマルセンター(台湾)より購入)に皮下注射し、in vivoでの腫瘍移植実験を行った。腫瘍が100mm3(長さ×幅×幅/2)になった時点で、治療のために皮下投与を行った。5日間連続で1日1回、腫瘍組織の反対側の1.5cm以上の位置に(Z)−ブチリデンフタリドを注射し、又はテモゾロミドを経口投与した。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドを併用した治療群においては、まず(Z)−ブチリデンフタリドを皮下投与し(SC)、2時間後、テモゾロミドを経口投与した(PO)。5日目の投与後、マウスの腫瘍サイズ及び体重を28日間連続して観察し、3日ごとに測定した。28日目の腫瘍サイズの測定値を、腫瘍増殖抑制活性の評価結果として用いた。その値が小さいほど、抑制効果は高い。単独で又は組み合わせで薬物治療を行った群とコントロール群(溶媒の注射のみ)との間の相対的な腫瘍サイズを観察し、有意差があるかについて評価した。P値が0.5未満の場合に有意差があった。結果を表7並びに図11A及び11Bに示す。
【表7】
【0066】
表7及び図11Aに示されるように、(Z)−ブチリデンフタリド又はテモゾロミドの単独投与に比して、同じ用量での(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの併用では、より効果的に腫瘍増殖が抑制され得た。このin vivo試験により、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは相互に相乗効果を示し、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせは、脳腫瘍に対してより優れた治療効果をもたらし、治療に必要とされる(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの用量を低減させ得ることが示された。
【実施例10】
【0067】
(in vivo試験−ウエハー製剤試験)
(Z)−ブチリデンフタリド及びポリ(乳酸−グリコール酸供重合体)(p(CPP−co−SA))を物理的手法により均一に混合した。得られた混合粉末を直径1〜13mmの円形の型に置き、プレスして厚さ1〜2mmの円形ウエハー(又は錠剤)に成型した。ジクロロメタン(10% w/v)を用いてテモゾロミド及びp(CPP−co−SA)を混合し、その後真空ポンプでジクロロメタンを蒸発させた。最後に、得られた粉末を円形のウエハー(又は錠剤)を成型するようにプレスして、テモゾロミドのウエハーを調製した。
【0068】
6〜8週齢で体重18〜22gの雌のBALB/c nu/nu マウス(ナショナルラボラトリーアニマルセンター(台湾)より購入)を用いてテモゾロミド耐性のヒト脳腫瘍細胞株の移植を行った。(Z)−ブチリデンフタリド、テモゾロミド、又はそれらの組み合わせの抗腫瘍効果を評価した。2×106cellsの脳腫瘍細胞株GBM22−TMZをマウスの皮下に移植した。腫瘍が形成され100〜300mm3になった時点で治療を行った。マウスをランダムに群分けした。コントロール群(ウエハーによる治療無し)と治療群(ウエハーによる治療有り)とで各々6〜8匹のマウスを用いた。異なる用量での組み合わせのウエハー((Z)−ブチリデンフタリド:テモゾロミド=1:2又は1:4)を腫瘍組織から1cm離して皮下に埋め込み、マウスの腫瘍サイズ及び体重の変化を2日ごとに測定し記録した。実験結果を図12A及び12Bに示す。
【0069】
図12Aに示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドのウエハー及びテモゾロミドのウエハーの組み合わせを用いた場合、腫瘍増殖が効果的に抑制され得た。
【0070】
前述の実験から、(Z)−ブチリデンフタリドは効果的に脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させ得、テモゾロミドと併用した場合、優れた相乗効果をもたらし得ることが示される。したがって、治療に必要とされるテモゾロミドの用量を低減し得、テモゾロミド投与により生じる副作用をも軽減し得る。
【実施例11】
【0071】
(in vivo試験−生存分析)
生存分析を行ってin vivoでの(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせによる抗グリオーマ効果について評価した。脳腫瘍細胞株GBM22−TMZ由来の膠芽細胞腫の同所性異種移植片が定着しているマウスをランダム化して、示されているテモゾロミド(66mg/kg/日;5日間)、(Z)−ブチリデンフタリド(50又は100mg/kg/日;5日間)、又はこれらの組み合わせでの治療を行った。マウスが瀕死状態に至るまで観察及び記録を行い、生存結果をカプラン−マイヤー生存曲線で示す。生存率を表8に示す。
【表8】
【0072】
表8に示されるように、コントロール群に比して、テモゾロミド、(Z)−ブチリデンフタリド、又はこれらの組み合わせで治療したマウスでは、生存率の向上が示された。加えて、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミド(50mg/kg又は100mg/kg)とを併用したマウスでは、100%の生存率を示した。このことから、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせを用いた場合、腫瘍を有するマウスの生存率が効果的に向上し得ることが示唆された。
【0073】
この生存分析により、(Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドとの組み合わせで用いた場合、優れた相乗効果をもたらし得ることが示された。したがって、腫瘍の治療に必要とされるテモゾロミドの用量を低減することができ、テモゾロミド投与により生じる副作用をも軽減することができる。
【0074】
前述の開示は、詳細な技術内容及び本発明の特徴に関する。本技術分野における当業者であれば、本発明の特徴を逸脱することなく、本明細書に記載された発明の開示及び示唆に基づき種々の変更及び置換を行い得る。それにもかかわらず、このような変更及び置換は前述の説明には完全には開示されていないものの、それらは下記に添付された特許請求の範囲に実質的に含まれる。
【0075】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願100100673(出願日2011年1月7日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物及びその使用に関し、具体的には、ヒトの悪性神経膠腫のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
悪性脳腫瘍は、悪性腫瘍のケースの約2%を占める。悪性脳腫瘍の発生率は低いが、この疾患の特定の発癌要因が存在しないため、抑制するのが困難である。脳腫瘍は、脳由来又は関連する細胞由来に増殖する原発性脳腫瘍と、体の他の部位の癌細胞由来の転移性脳腫瘍とを含む。脳腫瘍は一般的にゆっくりと発生し、その発生には数週間から数年を要する。脳腫瘍の症状は、悪心、頭痛、脳圧上昇による意識障害、発作、ホルモン異常、並びに検知能力低下、失語、四肢弛緩、知覚障害、視界喪失及び視野喪失等といった部分的な脳機能障害を含む。
【0003】
悪性脳腫瘍は正常組織内で広がり、増殖し、及び手術で切除することは容易ではないため、脳腫瘍の治療においては化学療法を行わなければならない。しかしながら、ほとんどの抗癌剤は、脳内の特別な“脳血液関門”の障壁のために、細胞傷害効果を発揮するように脳腫瘍細胞に送達され得ず、治療効果は制限されている。結果として、末期の脳腫瘍患者の平均生存年数は、通常、わずか約1年である。
【0004】
現在、臨床で悪性脳腫瘍の治療に通常用いられる薬剤の一つにテモゾロミド(TMZ)がある。それは、イミダゾール−テトラジン型の経口化学療法薬であり、脳腫瘍細胞を殺傷するために脳血液関門を通過することができる。それゆえ、それは効果的に腫瘍の増殖を抑えることができ、さらには脳腫瘍を治療することがきる。テモゾロミドは、特にグリオーマ(多形性膠芽腫及び退形成性星細胞腫を含む)に有効である。しかしながら、テモゾロミドの毒性は高く、悪心、嘔吐、頭痛、体力不足、倦怠感、食欲不振等といった副作用が生じる。さらに、テモゾロミドは、治療効果を高めるために通常、放射線療法と組み合わせられるため、より深刻な副作用が生じる。
【0005】
テモゾロミドは、メチル化剤である。テモゾロミドは、DNAのグアニン内6位の酸素原子をメチル化することにより、DNA二重螺旋構造を変形させてDNA複製を阻害し、癌細胞を死に導き得ると通常考えられている。しかしながら、このようなメカニズムは、腫瘍細胞におけるO6−メチルグアニンDNA−メチルトランスフェラーゼ(MGMT)により阻害される。MGMTは、細胞内の異常なメチル化を取り除き、修復機能を発揮するためである。そのため、MGMTは、テモゾロミドの効果を弱める。結果として、腫瘍細胞においてはテモゾロミドへの耐性が生じる。前述のMGMTの抑制効果のため、テモゾロミドの効果を達成させるためにはその用量を増加させることが必要である。これにより、必然的により深刻な副作用が生じ、患者への負担が増加する。
【0006】
腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を効果的に低減させることができれば、テモゾロミドの不必要な用量増加を回避することができ、患者への負担を軽減することができる。非特許文献1に記載の試験では、脳腫瘍患者の体内のMGMT発現が抑制されている場合、テモゾロミドの効果は必ずしも亢進されないことが明らかにされた(この内容は、参照により本明細書に取り込まれる)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ranson et.al.,Randomized Trial of the Combination of Lomeguatrib and Temozolomide Compared With Temozolomide Alone in Chemotherapy Naive Patients With Metastatic Cutaneous Melanoma,J Clin Oncol,2007.Vol.25:2540−5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、治療中のテモゾロミドの不必要な過量投与を回避し患者への負担を軽減するために、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるのに効果的な医薬組成物又は方法がいまだ必要とされている。加えて、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性が低減される一方でテモゾロミドの効果が向上され得るとしたら、治療中の患者のさらなる一助となり得、患者への負担を軽減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の目的は、対象における脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させる方法を提供することであり、該方法は、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。
【化1】
【0010】
好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。
【0011】
本発明の他の目的は、対象の脳腫瘍を治療する方法を提供することであり、該方法は、前記化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。好ましくは、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが前記対象に投与される。
【0012】
本発明のさらなる目的は、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物を提供することであり、該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。
【0013】
本発明はまた、脳腫瘍を治療するための医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドであり、より好ましくは、該医薬組成物はさらにテモゾロミドを含む。
【0014】
詳細な技術及び本発明のために実施された好ましい実施態様は、この技術分野における当業者が特許請求の範囲に記載された発明の特徴をよく理解できるように、添付された図とともに後述の段落において記載される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】種々の脳腫瘍細胞株内でのMGMT(O6−メチルグアニンDNA−メチルトランスフェラーゼ)発現を示すタンパク質電気泳動像の図である。
【図2】テモゾロミドの種々の脳腫瘍細胞株に対する抑制率を示す統計的なグラフの図である。
【図3】脳腫瘍細胞株8901における(Z)−ブチリデンフタリド(Z−Bdph)及び(E)−ブチリデンフタリド(E−Bdph)のMGMTのRNA発現への影響を示す電気泳動像の図である。
【図4】テモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞株8901における(Z)−ブチリデンフタリド及び(E)−ブチリデンフタリドのMGMTのタンパク質発現への影響を示すタンパク質電気泳動像の図である。
【図5】テモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞株GBM22−TMZにおける(Z)−ブチリデンフタリドのMGMTのタンパク質発現に対する抑制を示すタンパク質電気泳動像の図である。
【図6】(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせのテモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞株8901に対する抑制率を示す曲線図である。
【図7】(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせの脳腫瘍細胞株GBM22−TMZに対する抑制率を示す統計的なグラフの図である。
【図8】(Z)−ブチリデンフタリドの脳腫瘍細胞株DBTRGに対する抑制率を示す曲線図である。
【図9】(E)−ブチリデンフタリドの脳腫瘍細胞株DBTRGに対する抑制率を示す曲線図である。
【図10】(Z)−ブチリデンフタリドの種々の脳腫瘍細胞株に対する抑制率を示す統計的なグラフの図である。
【図11A】(Z)−ブチリデンフタリド、テモゾロミド、又はこれらの組み合わせによるマウスの腫瘍増殖抑制を示す曲線図である。
【図11B】マウスの体重変化を示す曲線図である。
【図12A】(Z)−ブチリデンフタリドのウエハー(又は錠剤)及びテモゾロミドのウエハー(又は錠剤)の組み合わせによるマウスの腫瘍増殖抑制を示す曲線図である。
【図12B】マウスの体重変化を示す曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特にことわらない限り、本明細書中で(特に後述の特許請求の範囲において)用いられる“一“、“該”又は同様の用語は、単数形式及び複数形式の両方を包含するように理解されるべきである。
【0017】
脳腫瘍は、グリオーマと非グリオーマとに分けられ得る。最もよくみられる脳腫瘍はグリオーマであり、それには星状細胞腫(グリオーマの約70〜80%を占める)、乏突起膠腫、及び上衣腫が含まれる。非グリオーマは、胚芽腫、髄膜腫、頭蓋咽頭腫、神経鞘腫、神経節膠腫、下垂体腺腫、及び脈絡叢の腫瘍を含む。
【0018】
前述の通り、テモゾロミドは高い毒性及び強い副作用を有しており、腫瘍細胞は容易にテモゾロミドへの薬剤耐性を有するようになり得る。そのため、テモゾロミドの臨床適用は極めて限られている。本発明者らは、(E)−ブチリデンフタリド(トランス−ブチリデンフタリド)に比して(Z)−ブチリデンフタリド(シス−ブチリデンフタリド)はより高いMGMT発現抑制活性を有すること、及び(Z)−ブチリデンフタリドは脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を効果的に低減させ、テモゾロミドのテモゾロミド耐性の脳腫瘍細胞に対する細胞毒性感受性を亢進させ得ることを見出した。それゆえ、(Z)−ブチリデンフタリドは、対象へのテモゾロミド投与により引き起こされる問題を低減させ、又は解決さえし得る。
【0019】
したがって、本発明は、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物を提供し、該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。
【化2】
【0020】
本発明の医薬組成物は好ましくは、ヒトの悪性神経膠腫のテモゾロミド耐性を低減させるために用いられる。好ましくは、該活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。
【0021】
脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるために本発明の医薬組成物を適用する場合、活性成分は、対象の必要に応じて、1日1回、1日複数回、又は数日ごとに1回等で投与され得る。例えば、(Z)−ブチリデンフタリドは、1日1回、約30mg/kg−体重から約500mg/kg−体重の用量で投与され得る。“mg/kg−体重”の単位は、対象の体重キログラムあたり必要とされる用量を意味する。しかしながら、テモゾロミドへの深刻な耐性を有する患者においては、用量は実際の状態に依存して数倍又は数十倍に増加され得る。さらに、投与は適切なアプローチにより行われ得、例えば、限定されることなく、経口投与、皮下投与、経鼻投与、又は静脈内投与により行われ得る。薬物放出時間及び用量は注射投与により正確に制御され得るため、皮下投与又は静脈内投与するのが好ましい。
【0022】
また、(Z)−ブチリデンフタリドは、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させ得るばかりでなく、抗脳腫瘍効果をも有し、テモゾロミドの脳腫瘍細胞に対する細胞毒性を亢進させ得ることが見出された。(Z)−ブチリデンフタリドがテモゾロミドと一緒に(引き続いて、又は同時に)投与される場合、(Z)−ブチリデンフタリドは、脳腫瘍の治療において著しく高い効果をもたらし、さらにはテモゾロミドの投与量を低減させ得る。
【0023】
それゆえ、本発明はまた、脳腫瘍を治療するための、好ましくはヒトの悪性神経膠腫を治療するための医薬組成物を提供する。該医薬組成物は、薬剤的に許容可能なキャリア、並びに化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を含む。好ましくは、前記活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。後述の実施例に示されるように、(E)−ブチリデンフタリド(2500μMの高用量でさえも効果的に脳腫瘍細胞を殺傷することができない)に比して、(Z)−ブチリデンフタリドは、約250μMの用量で50%の脳腫瘍細胞死亡率(IC50)を達成し得る。
【0024】
本発明の脳腫瘍を治療するための医薬組成物はさらに、テモゾロミド、テモゾロミドの水和物、テモゾロミドのアイソスター、テモゾロミドの薬剤的に許容可能な塩、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の抗腫瘍成分を含み得る。好ましくは、該抗腫瘍成分はテモゾロミドである。好ましくは、本発明の脳腫瘍を治療するための医薬組成物は、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとを含み、テモゾロミド耐性を有する脳腫瘍を治療するために、特にはテモゾロミド耐性を有するヒトの悪性神経膠腫を治療するために用いられる。
【0025】
本発明の脳腫瘍を治療するための(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとを含む医薬組成物において、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとは、同時に、又は引き続いて投与され得る。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの用量は、任意に調節され得る。本発明の医薬組成物において、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドが用いられる場合、同じ(Z)−ブチリデンフタリドの用量で、テモゾロミドの用量を増加させていくと、コンビネーションインデックス(combination index)(CI)はしばしば下がることが見出された。コンビネーションインデックス(combination index)は、薬物用量の反応曲線を描くことにより、及びCalcuSynソフトウェア(Chou and Talalay,Quantitative analysis of dose−effect relationships:the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors.Adv.Enzyme Regul.,22:27−55,1984を参照、この内容は参照により本明細書に取り込まれる)で計算を行うことにより得られる。コンビネーションインデックス(combination index)が1未満の場合、異なる薬物は相互に相乗作用を有し、薬物の効果において相乗効果を発揮する。コンビネーションインデックス(combination index)が1の場合、薬物は相互に影響を与えない。コンビネーションインデックス(combination index)が1以上の場合、薬物は互いに拮抗する。好ましくは、脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが組み合わせて用いられる場合、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが組み合わせられて1未満のコンビネーションインデックス(combination index)をもたらす。
【0026】
本発明の一態様において、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び1200μM(200μL)である場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.33である。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び3200μM(200μL)である場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.22である。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々50μM及び3200μM(200μL)である場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.20である。
【0027】
(Z)−ブチリデンフタリドは、効果的に脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させ、テモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞に対するテモゾロミドの細胞毒性感受性を亢進させ、及びテモゾロミドとの併用時に優れた相乗効果をもたらし得るため、治療に要するテモゾロミド用量を低減することができ、テモゾロミド投与により生じる副作用を軽減させることができる。後述の実施例に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドの用量が増加するとともに、脳腫瘍細胞の50%死亡率(IC50値)を達成するために必要とされるテモゾロミドの用量は減少する。
【0028】
脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、活性成分は、対象の必要に依存して異なる頻度で投与され得る。例えば、1日1回、1日複数回、又は数日ごとに1回等である。例えば、該医薬組成物が脳腫瘍を治療するためにヒトの身体に用いられる場合、(Z)−ブチリデンフタリドは、1日1回(例えばウエハー又は錠剤の形態で)、約30mg/kg−体重から約500mg/kg−体重、好ましくは約40mg/kg−体重から約120mg/kg−体重の用量で投与され得る。“mg/kg−体重”の単位は、対象の体重キログラムあたり必要とされる用量を意味する。(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドが併用される場合、テモゾロミドは、1日1回(例えばウエハー又は錠剤の形態で)、約10mg/kg−体重から約100mg/kg−体重、好ましくは約40mg/kg−体重から約80mg/kg−体重の用量で投与され得る。例えば、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが併用される場合、良好な治療効果がもたらされるように、テモゾロミドは1日1回、約65mg/kg−体重の用量で投与され得、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは、同じウエハー、又は異なるウエハーに含有され得る。しかしながら、重症の脳腫瘍患者においては、用量は、その状態に依存して数倍又は数十倍に増加され得る。
【0029】
脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、活性成分(抗腫瘍成分と組み合わされ得る)は、例えば、限定されることなく、経口投与、皮下投与、経鼻投与、又は静脈内投与といった適切なアプローチにより投与され得る。本発明の医薬組成物は、単独で又は薬剤的な補助剤と併用して、獣医学上の及びヒトの薬剤において用いられ得る。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドが本発明の医薬組成物に用いられる場合、それらは同時に又は分けて、同じ又は異なるアプローチで投与され得る。例えば、テモゾロミドは経口投与される一方で、(Z)−ブチリデンフタリドは静脈内注射により投与され得る。
【0030】
経口投与に適する調剤形態においては、例えば、脳腫瘍を治療し脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、抗脳腫瘍効果に悪影響を及ぼすことのない補助剤を含み得る。該補助剤としては、例えば、溶媒、油性溶媒、希釈剤、安定化剤、吸収抑制剤、崩壊剤、乳化剤、粘着剤、滑剤、吸湿剤、ポリマー等が挙げられる。例えば、溶媒は水及び生理食塩水から選択され得る;ポリマーはポリ(乳酸−グリコール酸供重合体)、コラーゲン、ヒドロゲル、無水物重合体等から選択され得る;並びに無水物重合体はビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ブタン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ペンタン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘプタン、ビス(p−カルボキシフェノキシ)オクタン、イソフタル酸、1,4−フェニレンジプロピオン酸、ドデカン二酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、ペンタン二酸、アジピン酸、グルタル酸、オクタン二酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、テレフタル酸、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された成分から調整され得る。該医薬組成物は、公知の方法により、例えば、ウエハー(又は錠剤)、カプセル、顆粒、散剤、流エキス剤、液剤、シロップ、懸濁液、エマルション、チンキ剤等といった、適切な経口用剤型に調製され得る。
【0031】
皮下投与又は静脈内投与の形態に関して、脳腫瘍を治療するための又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、可溶化剤、乳化剤、及び他の補助剤といった1又は2以上の成分を含有し得る。それにより、静脈内液体注射、静脈内エマルション注射、溶液注射、乾燥粉末注射、懸濁液注射、乾燥粉末懸濁液注射等をなすことができる。溶媒は、水、生理食塩水、アルコール(例えば、エタノール、プロパノール、又はグリセロール等)、糖溶液、又はこれらの組み合わせを含み得る。
【0032】
脳腫瘍を治療するための又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、投与中の口腔内及び視覚的な感覚を向上させるために、香味剤、トナー、着色剤等といった添加剤を任意にさらに含有し得る。さらに、薬剤の保存性を向上させるために、合理的な量の防腐剤、抗菌剤、抗かび剤等が加えられ得る。
【0033】
脳腫瘍を治療するための又は脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための本発明の医薬組成物は、1又は2以上のさらなる抗脳腫瘍成分を、該抗脳腫瘍成分が(Z)−ブチリデンフタリド及び/又はテモゾロミドの効果に悪影響を及ぼさない範囲で、任意に含有し得る。それにより、本発明の医薬組成物の効果を増強し、又は製剤の製造の柔軟性を高めることができる。
【0034】
脳腫瘍を治療するための本発明の医薬組成物において、活性成分(例えば、(Z)−ブチリデンフタリド)及び抗腫瘍成分(例えば、テモゾロミド)は、一緒に、分けて、又は引き続いて投与され得る。例えば、まず(Z)−ブチリデンフタリドを注射により投与し、ある時間の経過後(通常1〜2時間)、テモゾロミドを経口投与する。あるいは、(Z)−ブチリデンフタリドの注射による投与後すぐに、テモゾロミドを経口投与する。
【0035】
(Z)−ブチリデンフタリドは、適切なアプローチにより得られ得る。例えば、化学合成により調製され得、又はトウキ(angelica sinensis)から抽出及び精製され得る。例えば、ブチリデンフタリド化合物((Z)−ブチリデンフタリドと(E)−ブチリデンフタリドとのラセミ混合物を含む)は市場(例えば、Alfa Aesar社)から購入され得、適切な量のシリカゲルに埋め込まれ得る(ブチリデンフタリド:シリカゲルの重量比=1:3)。その後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーを行う。溶出の移動相としてn−ヘキサンが用いられる。溶出された(Z)−ブチリデンフタリドと(E)−ブチリデンフタリドは、異なる時点で収集され、精製結果はNMRで確認される。その結果、(Z)−ブチリデンフタリドが得られる。
【0036】
本発明はまた、対象における脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させる方法を提供する。該方法は、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。好ましくは、該活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドである。本発明の医薬組成物の前述の記載において、該活性成分の適用形態及び用量が提供される。
【0037】
本発明はまた、対象の脳腫瘍を治療する方法を提供する。該方法は、化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分を前記対象に投与することを含む。好ましくは、該活性成分は、(Z)−ブチリデンフタリドであり、より好ましくは、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが併用される。本発明の医薬組成物の前述の記載において、該活性成分及び(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせ投与の適用形態及び用量が提供される。
【0038】
本技術分野における当業者が本発明の特徴をよく理解できるように、技術の詳細及び本発明のために実施された好ましい態様が、添付された図とともに後述の段落において、記載される。
【実施例1】
【0039】
(異なる脳腫瘍細胞株におけるMGMT発現)
直径10cmのペトリ皿で、脳腫瘍細胞株8401,8901,DBTRG,U87MG,及びG5T/VGHを各々培養した。皿の60%の容量まで細胞が増殖した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液を用いて細胞を洗浄した。最後に、細胞と細胞内タンパク質を収集した。ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)及びウェスタンブロッティングを用いて、各々の脳腫瘍細胞株におけるMGMTタンパク質の発現を分析した。結果を図1に示す。
【0040】
図1に示される通り、各々の脳腫瘍細胞株は、異なったレベルのMGMT発現を示し、脳腫瘍細胞株8901,DBTRG,及びG5T/VGHでは高いレベルのMGMT発現を示した。
【実施例2】
【0041】
(テモゾロミドの種々の脳腫瘍細胞株に対する死亡率効果)
MTT(3−[4,5−ジメチルチアゾール−2−イル]−2,4−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)細胞生存試験を用いて、テモゾロミドの種々の脳腫瘍細胞株に対する死亡率効果を検討した(Pauwels et al.,J.Virol.Methods,1988,20,309−321を参照、この内容は参照により本明細書に取り込まれる)。
【0042】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsで脳腫瘍細胞株8401,8901,DBTRG,U87MG,及びG5T/VGHを各々培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度のテモゾロミド(0〜3200μM、200μL)を滴下した。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除き、500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加え、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。細胞の生存率、死亡率、及び種々の脳腫瘍細胞株が50%死亡率に到達したテモゾロミド濃度(IC50)を、吸光度に基づき算出した。上述の実験結果を表1及び図2に示す。
【表1】
【0043】
表1及び図2に示されるように、脳腫瘍細胞株8401に比して、高レベルでMGMTを発現していた脳腫瘍細胞株8901,DBTRG,及びG5T/VGHでは、テモゾロミドのより高いIC50値を示した。このことから、高レベルでMGMTを発現していた脳腫瘍細胞株は、テモゾロミドの薬剤耐性を有し、死亡率効果を得るためにはより高い用量が必要とされることが示唆された。
【実施例3】
【0044】
(脳腫瘍細胞におけるブチリデンフタリドのMGMT発現抑制)
この実験では、脳腫瘍細胞における(Z)−ブチリデンフタリド及び(E)−ブチリデンフタリドのMGMT発現抑制効果を示した。
【0045】
テモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株8901及びGBM22−TMZを、直径10cmのペトリ皿で各々培養した。皿の60%の容量まで細胞が増殖した後、PBS溶液を用いて細胞を洗浄した。(Z)−ブチリデンフタリド又は(E)−ブチリデンフタリドを加え、3〜48時間細胞を処理した。その後、細胞を収集した。細胞の全RNAを抽出し、cDNAに逆転写した(50マイクロ−モルのオリゴdNTP及び50ピコ−モルのランダムヘキサマープライマーを用いた)。1単位のExTaq DNAポリメラーゼ、200nMのdNTP(1μL)、及び2.5mMのMgCl2(1μL)を加え、その後、20mMのMGMTヌクレオチドプライマー(各々1μL)及び50μLの水を加えた。
【0046】
サンプルをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)システム(GeneAmp PCR System 2400、パーキンエルマー社、USA)に置いた。条件は、熱変性(denaturing)、94℃、30s;アニーリング(annealing)、55℃、30s;伸長(extension)、94℃、60s;30サイクル;最後に72℃、10分間であった。後に、反応を集結させるためにシステムの温度を4℃に下げた。PCR産物を1.5%ゲル電気泳動で分析した。ゲルをFlouro−Chemイメージングシステム(アルファイノテック社)で分析し、MGMT遺伝子の発現レベルを見た。結果を図3に示す。
【0047】
これとは別に、前記の脳腫瘍細胞株8901及びGBM22−TMZの細胞内タンパク質を収集した。SDS−PAGE及びウェスタンブロッティングを用いて脳腫瘍細胞株におけるMGMTタンパク質の発現を分析した。結果を図4及び図5に示す。
【0048】
図3〜5に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドの濃度を増加させると、脳腫瘍細胞株におけるMGMTのRNA及びタンパク質の発現は低減した。このことから、(Z)−ブチリデンフタリドはMGMTの発現を抑制し得ることが示唆された。しかしながら、(E)−ブチリデンフタリドの濃度を増加させても、脳腫瘍細胞株におけるMGMTのRNA及びタンパク質の発現に著しい変化は見られなかった。
【実施例4】
【0049】
((Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株8901に対する細胞毒性感受性を亢進させる)
(Z)−ブチリデンフタリドがテモゾロミドの脳腫瘍細胞に対する細胞毒性感受性を亢進させるかについて、MTT細胞生存アッセイを用いて試験した。
【0050】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsでテモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株8901を培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度のテモゾロミド(0〜1200μM、200μL)又はテモゾロミドと(Z)−ブチリデンフタリド(0〜200μM、200μL)との組み合わせを滴下した。分析ごとに4つのマイクロウェルプレートを用い、種々の薬物濃度の組み合わせごとに4つのウェルを用いた。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除き、500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加え、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。細胞の生存率、死亡率、及び種々の脳腫瘍細胞株が50%死亡率に到達したテモゾロミド濃度(IC50)を、吸光度に基づき算出した。上述の実験結果を表2及び図6に示す。
【表2】
【0051】
表2及び図6に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いた場合、(Z)−ブチリデンフタリドの用量を増加させると、脳腫瘍細胞株が50%死亡率に到達するのに要するテモゾロミドの用量(IC50)は低くなった。このことから、(Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株に対する細胞毒性感受性を増加させ得ることが示唆された。このように、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いる場合、テモゾロミドの用量が低減され得る。
【実施例5】
【0052】
((Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株GBM22−TMZに対する細胞毒性感受性を亢進させる)
実施例4での実験工程を繰り返した。ただし、脳腫瘍細胞株はテモゾロミド耐性を有するGBM22−TMZに変更した。(Z)−ブチリデンフタリド濃度を0〜600μM(200μL)に変更する一方で、テモゾロミド濃度を0〜3200μM(200μL)に変更した。結果を図7に示す。
【0053】
図7に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いた場合、(Z)−ブチリデンフタリドの用量を増加させると、テモゾロミドの脳腫瘍細胞株に対する殺傷効果が向上した。このことから、(Z)−ブチリデンフタリドはテモゾロミドの脳腫瘍細胞株に対する細胞毒性感受性を亢進させ、その結果、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせを用いた場合、テモゾロミドの用量を低減させ得ることが示唆された。
【実施例6】
【0054】
(脳腫瘍細胞におけるブチリデンフタリドの阻害試験)
MTT細胞生存アッセイを用いて、(Z)−ブチリデンフタリド及び(E)−ブチリデンフタリドの抗脳腫瘍活性を試験した。
【0055】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsで脳腫瘍細胞株DBTRGを培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度の(Z)−ブチリデンフタリド(0〜500μM、200μL)又は(E)−ブチリデンフタリド(0〜2500μM、200μL)を滴下した。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除いた。500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加え、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。細胞の生存率及び死亡率を、吸光度に基づき算出した。上述の実験結果を表3並びに図8及び9に示す。
【表3】
【0056】
表3並びに図8及び9に示されるように、(E)−ブチリデンフタリド(濃度2500μMの高用量でも脳腫瘍細胞を効果的に殺傷することができない)に比して、(Z)−ブチリデンフタリドは、濃度約250μMの用量で腫瘍細胞の50%死亡率に到達することができる。
【実施例7】
【0057】
(脳腫瘍細胞における(Z)−ブチリデンフタリドの阻害試験)
実施例6での実験工程を繰り返した。ただし、腫瘍細胞株を腫瘍細胞株DBTRG,8401,8901,及びG5T/VGHに置き換えた。(Z)−ブチリデンフタリド濃度を0〜400μM(200μL)に変更した。結果を図10に示す。
【0058】
図10に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドは種々の脳腫瘍細胞株の増殖を効果的に抑制することができる。(Z)−ブチリデンフタリドの用量が増加するにつれて、脳腫瘍細胞株の抑制効果は向上する。
【実施例8】
【0059】
((Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組成物の脳腫瘍細胞抑制の相乗効果)
MTT細胞生存アッセイを用いて、異なる濃度の(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせの抗脳腫瘍細胞活性について試験した。(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの間で相乗効果があるかについて、コンビネーションインデックス(combination index)(CI)を用いて分析した。
【0060】
96−マイクロウェルプレートにおいて、各ウェル3×103cellsでテモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株8901又はGBM22−TMZを培養した。翌日、プレートの内壁に沿ってウェルに異なる濃度の(Z)−ブチリデンフタリド(脳腫瘍細胞株8901:25〜200μM(200μL)、脳腫瘍細胞株GBM22−TMZ:50〜600μM(200μL))、テモゾロミド(脳腫瘍細胞株8901:100〜1200μM(200μL)、脳腫瘍細胞株GBM22−TMZ:100〜3200μM(200μL))を滴下した。分析ごとに4つのマイクロウェルプレートを用い、種々の薬物濃度の組み合わせごとに4つのウェルを用いた。溶媒をコントロール群として、第一列に置いた。細胞培養2日後、培養液を吸い上げて取り除き、500μg/mLのMTTを含有する培養液(200μL)を加え、さらに4時間培養した。培養液を吸い上げて取り除き、200μLのDMSOを加えた。その後、マイクロウェルプレートスペクトロメーターを用いて570nmの波長で細胞の吸光度を測定した。種々の薬物濃度の組み合わせのO.D.平均値を用いて、異なる薬物用量の反応曲線を算出及び描出した。溶媒のみを加えた第一列のウェルの数値をネガティブコントロールとして用いる一方で、最も高い薬物用量のウェルの数値をポジティブコントロール(生存細胞の増殖は阻害されていなかった)として用いた。このようにして、薬物のIC50値を求めた。
【0061】
加えて、CalcuSynソフトウェアを用いて薬物用量の反応曲線を描出し、コンビネーションインデックス(combination index)を計算して、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの医薬組成物、及びその相乗効果、相加性、又は拮抗作用を分析した(Chou and Talalay,Quantitative analysis of dose−effect relationships:the combined effects of multiple drugs or enzyme inhibitors.Adv.Enzyme Regul.,22:27−55,1984を参照、この内容は参照により本明細書に取り込まれる)。コンビネーションインデックス(combination index)が1未満の場合、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは相互に相乗作用を有する。それは、薬物の効果において相乗効果を発揮することを意味する。コンビネーションインデックス(combination index)が1の場合、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの間では影響がない。コンビネーションインデックス(combination index)が1以上の場合、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとは互いに拮抗する。結果を表4,5,及び6に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【0062】
表5及び6に示されるように、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドがともに用いられた場合、この組み合わせは1未満のコンビネーションインデックス(combination index)をもたらすことができた(表中、太字の数値で表される)。このようなコンディション下では、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは相互に相乗作用を示した。具体的には、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び1200μM(200μL)の場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.33であった。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々100μM及び3200μM(200μL)の場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.22であった。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの濃度が各々50μM及び3200μM(200μL)の場合、コンビネーションインデックス(combination index)は約0.20であった。
【0063】
この試験から、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとが組み合わされて用いられる場合、優れた相乗効果がもたらされ得ることが示される。
【実施例9】
【0064】
(in vivo試験)
皮下腫瘍移植モデルによりin vivo試験を行い、in vivoでの(Z)−ブチリデンフタリド、テモゾロミド、又はそれらの組み合わせの抗腫瘍活性を評価した。
【0065】
まず、2×106cellsのテモゾロミド耐性を有する脳腫瘍細胞株GBM22−TMZを無菌培養し、Balb/cヌードマウス(ナショナルラボラトリーアニマルセンター(台湾)より購入)に皮下注射し、in vivoでの腫瘍移植実験を行った。腫瘍が100mm3(長さ×幅×幅/2)になった時点で、治療のために皮下投与を行った。5日間連続で1日1回、腫瘍組織の反対側の1.5cm以上の位置に(Z)−ブチリデンフタリドを注射し、又はテモゾロミドを経口投与した。(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドを併用した治療群においては、まず(Z)−ブチリデンフタリドを皮下投与し(SC)、2時間後、テモゾロミドを経口投与した(PO)。5日目の投与後、マウスの腫瘍サイズ及び体重を28日間連続して観察し、3日ごとに測定した。28日目の腫瘍サイズの測定値を、腫瘍増殖抑制活性の評価結果として用いた。その値が小さいほど、抑制効果は高い。単独で又は組み合わせで薬物治療を行った群とコントロール群(溶媒の注射のみ)との間の相対的な腫瘍サイズを観察し、有意差があるかについて評価した。P値が0.5未満の場合に有意差があった。結果を表7並びに図11A及び11Bに示す。
【表7】
【0066】
表7及び図11Aに示されるように、(Z)−ブチリデンフタリド又はテモゾロミドの単独投与に比して、同じ用量での(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの併用では、より効果的に腫瘍増殖が抑制され得た。このin vivo試験により、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドは相互に相乗効果を示し、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミドとの組み合わせは、脳腫瘍に対してより優れた治療効果をもたらし、治療に必要とされる(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの用量を低減させ得ることが示された。
【実施例10】
【0067】
(in vivo試験−ウエハー製剤試験)
(Z)−ブチリデンフタリド及びポリ(乳酸−グリコール酸供重合体)(p(CPP−co−SA))を物理的手法により均一に混合した。得られた混合粉末を直径1〜13mmの円形の型に置き、プレスして厚さ1〜2mmの円形ウエハー(又は錠剤)に成型した。ジクロロメタン(10% w/v)を用いてテモゾロミド及びp(CPP−co−SA)を混合し、その後真空ポンプでジクロロメタンを蒸発させた。最後に、得られた粉末を円形のウエハー(又は錠剤)を成型するようにプレスして、テモゾロミドのウエハーを調製した。
【0068】
6〜8週齢で体重18〜22gの雌のBALB/c nu/nu マウス(ナショナルラボラトリーアニマルセンター(台湾)より購入)を用いてテモゾロミド耐性のヒト脳腫瘍細胞株の移植を行った。(Z)−ブチリデンフタリド、テモゾロミド、又はそれらの組み合わせの抗腫瘍効果を評価した。2×106cellsの脳腫瘍細胞株GBM22−TMZをマウスの皮下に移植した。腫瘍が形成され100〜300mm3になった時点で治療を行った。マウスをランダムに群分けした。コントロール群(ウエハーによる治療無し)と治療群(ウエハーによる治療有り)とで各々6〜8匹のマウスを用いた。異なる用量での組み合わせのウエハー((Z)−ブチリデンフタリド:テモゾロミド=1:2又は1:4)を腫瘍組織から1cm離して皮下に埋め込み、マウスの腫瘍サイズ及び体重の変化を2日ごとに測定し記録した。実験結果を図12A及び12Bに示す。
【0069】
図12Aに示されるように、(Z)−ブチリデンフタリドのウエハー及びテモゾロミドのウエハーの組み合わせを用いた場合、腫瘍増殖が効果的に抑制され得た。
【0070】
前述の実験から、(Z)−ブチリデンフタリドは効果的に脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させ得、テモゾロミドと併用した場合、優れた相乗効果をもたらし得ることが示される。したがって、治療に必要とされるテモゾロミドの用量を低減し得、テモゾロミド投与により生じる副作用をも軽減し得る。
【実施例11】
【0071】
(in vivo試験−生存分析)
生存分析を行ってin vivoでの(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせによる抗グリオーマ効果について評価した。脳腫瘍細胞株GBM22−TMZ由来の膠芽細胞腫の同所性異種移植片が定着しているマウスをランダム化して、示されているテモゾロミド(66mg/kg/日;5日間)、(Z)−ブチリデンフタリド(50又は100mg/kg/日;5日間)、又はこれらの組み合わせでの治療を行った。マウスが瀕死状態に至るまで観察及び記録を行い、生存結果をカプラン−マイヤー生存曲線で示す。生存率を表8に示す。
【表8】
【0072】
表8に示されるように、コントロール群に比して、テモゾロミド、(Z)−ブチリデンフタリド、又はこれらの組み合わせで治療したマウスでは、生存率の向上が示された。加えて、(Z)−ブチリデンフタリドとテモゾロミド(50mg/kg又は100mg/kg)とを併用したマウスでは、100%の生存率を示した。このことから、(Z)−ブチリデンフタリド及びテモゾロミドの組み合わせを用いた場合、腫瘍を有するマウスの生存率が効果的に向上し得ることが示唆された。
【0073】
この生存分析により、(Z)−ブチリデンフタリドは、テモゾロミドとの組み合わせで用いた場合、優れた相乗効果をもたらし得ることが示された。したがって、腫瘍の治療に必要とされるテモゾロミドの用量を低減することができ、テモゾロミド投与により生じる副作用をも軽減することができる。
【0074】
前述の開示は、詳細な技術内容及び本発明の特徴に関する。本技術分野における当業者であれば、本発明の特徴を逸脱することなく、本明細書に記載された発明の開示及び示唆に基づき種々の変更及び置換を行い得る。それにもかかわらず、このような変更及び置換は前述の説明には完全には開示されていないものの、それらは下記に添付された特許請求の範囲に実質的に含まれる。
【0075】
(関連する出願)
本出願は、台湾特許出願100100673(出願日2011年1月7日)に基づく優先権を主張しており、その内容は本明細書に参照として取り込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤的に許容可能なキャリアと、
化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分と、
を含む、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記活性成分が、(Z)−ブチリデンフタリドである、
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記脳腫瘍細胞が、ヒト悪性神経膠腫である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
テモゾロミドのテモゾロミド耐性脳腫瘍細胞に対する細胞毒性感受性を亢進させるために用いられる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
薬剤的に許容可能なキャリアと、
化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分と、
を含む、脳腫瘍を治療するための医薬組成物。
【化2】
【請求項6】
テモゾロミド、テモゾロミドの水和物、テモゾロミドのアイソスター、テモゾロミドの薬剤的に許容可能な塩、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の抗腫瘍成分をさらに含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗腫瘍成分が、テモゾロミドである、
ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
テモゾロミドと前記活性成分とが組み合わされて1未満のコンビネーションインデックス(combination index)をもたらす、
ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記活性成分((Z)−ブチリデンフタリドとして)の用量が1日約30mg/kg−体重から約500mg/kg−体重であり、テモゾロミドの用量が1日約10mg/kg−体重から約100mg/kg−体重である、
ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記活性成分((Z)−ブチリデンフタリドとして)の用量が1日約40mg/kg−体重から約120mg/kg−体重であり、テモゾロミドの用量が1日約40mg/kg−体重から約80mg/kg−体重である、
ことを特徴とする請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記脳腫瘍が、ヒト悪性神経膠腫である、
ことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記活性成分及び前記抗腫瘍成分が一緒に、別々に、又は引き続いて投与される、
ことを特徴とする請求項6乃至11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記活性成分が、(Z)−ブチリデンフタリドである、
ことを特徴とする請求項5乃至12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項1】
薬剤的に許容可能なキャリアと、
化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分と、
を含む、脳腫瘍細胞のテモゾロミド耐性を低減させるための医薬組成物。
【化1】
【請求項2】
前記活性成分が、(Z)−ブチリデンフタリドである、
ことを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記脳腫瘍細胞が、ヒト悪性神経膠腫である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
テモゾロミドのテモゾロミド耐性脳腫瘍細胞に対する細胞毒性感受性を亢進させるために用いられる、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
薬剤的に許容可能なキャリアと、
化学式(I)の(Z)−ブチリデンフタリド、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能な塩、(Z)−ブチリデンフタリドの薬剤的に許容可能なエステル、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の活性成分と、
を含む、脳腫瘍を治療するための医薬組成物。
【化2】
【請求項6】
テモゾロミド、テモゾロミドの水和物、テモゾロミドのアイソスター、テモゾロミドの薬剤的に許容可能な塩、及びこれらの組み合わせからなる群より選択された有効量の抗腫瘍成分をさらに含む、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗腫瘍成分が、テモゾロミドである、
ことを特徴とする請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
テモゾロミドと前記活性成分とが組み合わされて1未満のコンビネーションインデックス(combination index)をもたらす、
ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記活性成分((Z)−ブチリデンフタリドとして)の用量が1日約30mg/kg−体重から約500mg/kg−体重であり、テモゾロミドの用量が1日約10mg/kg−体重から約100mg/kg−体重である、
ことを特徴とする請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記活性成分((Z)−ブチリデンフタリドとして)の用量が1日約40mg/kg−体重から約120mg/kg−体重であり、テモゾロミドの用量が1日約40mg/kg−体重から約80mg/kg−体重である、
ことを特徴とする請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記脳腫瘍が、ヒト悪性神経膠腫である、
ことを特徴とする請求項5乃至10のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記活性成分及び前記抗腫瘍成分が一緒に、別々に、又は引き続いて投与される、
ことを特徴とする請求項6乃至11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記活性成分が、(Z)−ブチリデンフタリドである、
ことを特徴とする請求項5乃至12のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【図11A】
【図11B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12A】
【図12B】
【図11B】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12A】
【図12B】
【公開番号】特開2012−144512(P2012−144512A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144450(P2011−144450)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(509075457)中國醫藥大學 (11)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]