説明

脳虚血疾患を予防及び治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用

【課題】脳傷害による脳虚血誘発性の神経症状、脳虚血誘発性の記憶障害、脳浮腫、脳卒中、エネルギー代謝障害、行動障害及び脳梗塞を治療する薬剤を提供する。
【解決手段】インビボ実験によって、脳虚血により誘発される脳梗塞、神経脱落症状、記憶障害、脳浮腫、脳卒中、エネルギー代謝障害、脳血流の変化等を効果的に低減できることを示すL−ブチルフタリドの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳虚血誘発性疾患の予防及び治療におけるL−ブチルフタリドの新規的な使用に関し、詳細には、脳虚血誘発性疾患を予防及び治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ブチルフタリドの構造は、以下のとおりに表される。
【化1】

【0003】
ブチルフタリドの光学異性体には、その中に不斉炭素原子が一つ存在していることにより左旋性−ブチルフタリド(l−NBP)と右旋性L−ブチルフタリド(d−NBP)との二種がある。L−ブチルフタリドは、天然セロリの種子から抽出して直接得られるだけでなく、合成によっても得られる。中国特許第99109673.8号明細書及びJunshan Yang、Yalun Su、Acta Pharmaceutica Sinica、1984、31:671には、L−ブチルフタリドを得る方法を開示している。
【0004】
さらに、中国特許第98125618.X号明細書には、血栓症及び血小板凝集に対する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用が開示されており、またL−ブチルフタリドが脳虚血後のNOS−NO−cGMP系機能及び神経細胞におけるアラキドン酸代謝を調節する効果を有することが明示されている。更に、中国特許第93117148.2号には、哺乳類及びヒトにおける脳虚血誘発性疾患を予防及び治療する薬剤の製造においてのラセミ体のブチルフタリドの使用が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、動物アッセイによりL−ブチルフタリドのさらなる薬理効果を見出し、その新規的な医療用途を提供し、将来の医薬製剤の新規的な活性成分として使用する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、新しいL−ブチルフタリドの使用を提供することにある。
【0007】
本発明は、哺乳類又はヒトにおける、脳虚血誘発性疾患を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0008】
特に、本発明は、脳傷害による脳虚血誘発性の神経症状を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0009】
特に、本発明は、脳虚血誘発性の記憶障害を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0010】
特に、本発明は、脳虚血誘発性の脳浮腫を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0011】
特に、本発明は、脳虚血誘発性の脳卒中を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0012】
特に、本発明は、脳虚血誘発性のエネルギー代謝障害を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0013】
特に、本発明は、脳の虚血領域における脳血流の変化を処置及び予防する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0014】
特に、本発明は、持続性脳虚血により誘発される行動障害及び脳梗塞を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0015】
特に、本発明は、虚血再灌流により誘発される神経機能障害及び脳梗塞を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用に関する。
【0016】
インビボの動物実験で、L−ブチルフタリドが以下の機能を有することが示されている。
1.ラットにおいて脳傷害による脳虚血誘発性の神経症状を著しく低減
2.ラットにおいて脳虚血誘発性の記憶障害を低減
3.ラットにおいて脳虚血誘発性の脳浮腫を低減
4.ラットにおいて脳虚血誘発性の脳卒中を低減
5.ラットにおいて脳虚血誘発性のエネルギー代謝障害を低減
6.(ラットにおいて)虚血領域における脳血流を増加
7.ラットにおいて虚血により誘発される行動障害を低減
8.ラットにおいて脳虚血誘発性の脳梗塞領域を低減
【0017】
本発明者は、前記インビボの動物実験に基づいて本発明を完成した。
【発明の効果】
【0018】
本発明の利点は、脳虚血誘発性の疾患に対するL−ブチルフタリドの治療効果に存する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を、当業者に十分に理解されるようにインビボの動物実験により説明する。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
ラットにおいて脳傷害により誘発される神経症状に対するL−ブチルフタリドの効果
【0021】
実験動物:雄性ウィスターラット
【0022】
実験法:220gの重量の円錐形金属物体を高さ30cmの位置から自由落下させて左冠状縫合の後方で頭蓋冠に当てることにより、ラットに脳傷害を引き起こした。dl−NBP、d−NBP、及びl−NBP(50mg/kg)、並びにビヒクル(対照群)を5分後に経口投与して、行動の変化を24時間後に採点した。
【0023】
実験結果:ラットにおいて脳傷害に起因した脳虚血誘発性の神経症状が発症した。経口投与後、l−NBP群の神経症状はビヒクル対照(群)と比較して著しく低減していたが、dl−NBP群及びd−NBP群の場合には著しい効果が観察されず、脳傷害で誘発される脳虚血により引き起こされる神経症状に対してl−NBP(群)には著しい低減効果があることを示した。
【0024】
[実施例2]
局所脳虚血誘発性の記憶障害に対するL−ブチルフタリドの効果
【0025】
実験動物:実施例1に同じ
【0026】
実験装置:シャトルボックス
【0027】
実験法:
(1)学習及び記憶を習得させるように、ラットを訓練した。
(2)動脈結紮:タムラ(Tamura)の方法に従って、ラットに動脈結紮を行った。24時間後に、ラットに対して工程(1)の通り学習の実験を繰り返して行った。
(3)グループ分け及び投与:ラットを、正常群、擬似手術群、虚血対照群、並びにdl−NBP群、d−NBP群、及びl−NBP群(15mg/kg及び30mg/kg)の9群に分けた。施術後15分でラットに経口投与を行い、24時間後に能動回避反応及び受動回避反応の潜在性の変化を観察した。
【0028】
実験結果:正常群と比較して、虚血対照群のラットは明らかに記憶を失っており能動回避反応が劣ることが観察され、記憶障害の発症を示した。ビヒクル対照群と比較して、l−NBP群のラットの受動回避の回数は著しく増加していたが、このような効果はdl−NBP及びd−NBPを全投与しても観察されず、l−NBP群には局所脳虚血によって誘発される記憶障害を低減する効果があることを示した。
【0029】
[実施例3]
ラットにおいて脳動脈結紮により誘発される脳浮腫に対するL−ブチルフタリドの効果
【0030】
実験動物:実施例1に同じ
【0031】
実験装置:酸素計
【0032】
実験法:ラットの右中大脳動脈の結紮により脳浮腫を誘発させた。15分後に、dl−NBP、d−NBP、及びl−NBP(40mg/kg及び80mg/kg)を経口投与した。ラットを24時間後に屠殺した。前脳を取り出して、左右両側の大脳半球の重量を測定した。100℃で24時間焼成して乾燥重量を求めた。脳組織中の水の重量は、湿重量から乾燥重量を引いて算出した。その後、組織を4時間硝化し、HClを用いてpHを調整した。次に、イオン選択電極を酸素計に接続して、脳組織中のNa及びKの濃度を測定した。
【0033】
実験結果:l−NBP群では、用量依存的に脳内の水及びNaの含量が著しく低下し、且つKの含量は増加することが示されたが、d−NBP群及びdl−NBP群では有意な効果がないことが示され、局所脳虚血によって誘発される脳浮腫をl−NBPによって著しく低減できることを示唆した。dl−NBP(80mg/kg)は、脳内の水及びNaの含量を低下させ、且つKの含量を増加させることを示したが、効果に統計的有意性はなかった。この結果は、dl−NBP(80mg/kg)の中にl−NBP(40mg/kg)が存在することに起因し、dl−NBP中のd−NBPの存在がl−NBPの機能に拮抗することを示唆した。
【0034】
[実施例4]
自然発症高血圧ラットにおける脳卒中に対するL−ブチルフタリドの効果
【0035】
実験動物:6週齢の自然発症高血圧ラット
【0036】
実験法:6週齢の自然発症高血圧ラットを、一群当たり10匹のラットとして8群に分けた。6週から始めて、一日当たり0.8〜0.9gの食塩を投与した。食塩の量を一日当たり1.2〜1.3gまで徐々に増やした。dl−NBP、d−NBP、及びl−NBP(25及び50mg/kg/日)、ビヒクル(対照群)、並びにニモジピン(37mg/kg/日)を、脳卒中の発症後第8週から始めて3週間まで、それぞれ経口投与した。神経脱落症状のスコア及び死亡時間を記録した。
【0037】
実験結果:l−NBPには、ビヒクルの対照と比較して脳卒中の発症の時間を著しく遅らせることを示し、脳卒中の発症を防ぐ効果を有することを示唆した。さらに、l−NBPは、用量依存的に脳卒中発症後の生存率を著しく増加させ、且つ神経脱落症状を低減することを示し、自然発症高血圧によって誘発される脳卒中に対する治療効果を有することを示唆した。dl−NBPは、比較的高用量でこのような効果があるに過ぎず、ニモジピンの効果と類似しており、l−NBPの効果がdl−NBPの効果より強いことを示唆した。d−NBPの効果は著しいものではなく、患者において重篤な高血圧症により誘発される脳卒中の予防及び治療効果がl−NBPにはあることを示唆した。
【0038】
[実施例5]
マウスの断頭によって誘発される、虚血脳のエネルギー代謝に対するL−ブチルフタリドの効果
【0039】
実験動物:昆明(KunMing)マウス
【0040】
被検薬:注射用L−ブチルフタリドを、ツイーン80で乳剤に製剤化
【0041】
実験法:10〜22gの昆明マウスを、一群当たり10匹のマウスとして8群に分けた。dl−NBP、d−NBP、及びl−NBP(50mg/kg/日及び100mg/kg/日)、フェノバルビタールナトリウム(陽性対照薬)(腹腔内、225mg/kg)、並びにビヒクルを経口投与した。投与後30分でマウスを断頭した。断頭とホモジネーションとの間の15秒の時間を、脳虚血時間とみなした。フォルベルグローバ(Folbergrova)の方法によって遠心単離を行い、乳酸、ATP及びPCrの含量を酵素法によって定量した。
【0042】
実験結果:虚血対照群において、脳内の乳酸の含量は増加しており、且つATP及びPCrの含量は低下していた。陽性対照薬群(腹腔内)では、乳酸の含量が著しく低下していたが、ATP及びPCrの含量は増加していた。50mg/kg及び100mg/kgのl−NBPを経口投与した後は、乳酸の含量が著しく低下していたが、ATP及びPCrの含量は増加し、(陽性対照薬)対照群と比較すると、その差は大変著しいものであった。dl−NBP群及びd−NBP群では、このような著しい効果がなかった。これらの結果は、脳のエネルギー代謝を改善する効果をl−NBPが有することを示している。
【0043】
[実施例6]
局所的脳血流に対するNBPの効果
【0044】
実験動物:雄性ウィスターラット
【0045】
実験装置:SXP手術用顕微鏡、62TZ−V型高周波電気メス、立体保定器(solid positioner)、ダイアモンドエレクトロ−テック(Diamond Electro−Tech)化学マイクロセンサ1231、2チャンネル生理学的パラメータレコーダ(two channel physiological parameter recorder)
【0046】
実験法:
(1)dl−NBP、d−NBP、及びl−NBP(15mg/kg及び30mg/kg)、並びにビヒクルを正常ラットに経口投与して、投与後様々な時間に脳血流の変化を測定した。
(2)大脳動脈の結紮を、タムラの方法に従ってラットに対して行った。経口投与は、施術後10分に実施した。ラットを、正常群、擬似手術群、ビヒクル対照群、dl−NBP群、d−NBP群、及びl−NBP群(15mg/kg及び30mg/kg)の9群に分けた。
【0047】
実験結果:正常ラットにおける脳の血流速度は、l−NBPの投与後30分で著しく増加した。脳の血流速度は投与後50分まで比較的高いレベルに維持され、その後増加の程度は徐々に低下したが、血圧に対する効果は全くなかった。dl−NBP及びd−NBPにはこのような効果はなく、l−NBPが血圧に実質的に影響することなく脳血流を増加させて、脳の血液供給を改善することを示唆した。動脈の結紮の後、l−NBP(15mg/kg及び30mg/kg)群においては、大脳動脈が遮断された側で線条体内における局所的血流を著しく増加させることができた。ビヒクルの対照群と比較して著しい差があった。さらに、薬物量によっても著しい差があり、l−NBPの効果が用量依存的であることを示した。dl−NBP(30mg/kg)群でも同様の増加はあったものの、この効果に統計的有意性はなかった。他の被検薬群では、有意な効果は観察されなかった。この結果、l−NBPは正常の脳血流を増加させるだけでなく、虚血領域における血流も増加させることが示された。
【0048】
[実施例7]
持続性脳虚血ラットにおける行動障害及び脳梗塞領域に対するL−ブチルフタリドの効果
【0049】
実験動物:実施例1に同じ
【0050】
実験装置:COOLPIX955デジタルカメラ、722回折格子分光計、XHF−1高速分散機、YKH−II液体高速混合機、WZ−50C2マイクロ注入ポンプ
【0051】
実験法:ウィスターラットに350mg/kgの12%クロラール水和物を腹腔内注射することにより麻酔をかけて、側臥位に固定した。外耳道から眼角までの線の中点で皮膚を切開した。筋肉を層毎に分けて、頬骨弓及び側頭骨の鱗部を露出させた。頬骨弓をはさみで切り、次いで手術用顕微鏡下に置いた。中大脳動脈を露出させるように、頬骨弓と側頭骨の鱗部との間の前節部下2mmの位置で、歯科用ドリルを用いることにより直径2mmのウィンドウを穿孔した。濾紙の小片を中動脈上に被せて、10mlの50%FeCl水溶液を濾紙上に滴下した。濾紙を30分後に取り除き、生理食塩水で洗浄した。切開部の感染を防ぐよう、2〜3滴のペニシリン(1.6´10U/mL)を添加した。次いで、切開部を層毎に縫合した。
【0052】
実験結果:
1.神経機能に対する効果
擬似手術群の動物の行動に著しい変化はなく、モデル対照群のスコアは擬似手術群と著しく異なっていた(P<0.001)。神経脱落症状スコアの改善は、モデル対照群と比較した場合、ラットにl−NBP、dl−NBP、及びd−NBPを静脈内注射した後に観察された。低用量、中用量、及び高用量のdl−NBPを投与後24時間で、スコアはそれぞれ15.6%、21.9%、及び37.5%減少し、ED30は7.2mg/kgであった。l−NBPの場合、スコアはそれぞれ17.2%、29.7%、及び35.9%減少し、ED30は6.2mg/kgであった。(低用量、中用量、及び高用量の)d−NBPの場合、スコアはそれぞれ17.2%、21.9%及び28.1%減少し、ED30は12.4mg/kgであった。l−NBPの効果はd−NBPの2倍であった。陽性薬であるニモジピンには有意な効果があった。
【0053】
2.脳梗塞領域に対する効果
モデル群の動物における梗塞領域は、擬似手術群の動物と比較して著しく増加した。2.5mg/kgの用量のdl−NBP及びd−NBPでは、梗塞領域を低減させる傾向を有することを示したが、その効果は有意ではなかった。l−NBPは、脳虚血ラットにおける脳梗塞領域を著しく低減させることを示した。5mg/kg及び10mg/kgの用量のl−NBPは、モデルラットの脳梗塞領域を著しく低減させることを示し、その効果は用量の増加に伴って増大した。モデル対照群と比較して、(低用量、中用量、及び高用量の)dl−NBPにおいて脳梗塞領域はそれぞれ、29.2%、35.2%、及び44.4%減少し、ED40は7.1mg/kgであった。3種の用量(低用量、中用量、及び高用量)のl−NBPで、脳梗塞領域はそれぞれ、38.4%、41.9%、及び50.7%減少し、ED40は3.3mg/kgであった。(低用量、中用量、及び高用量の)d−NBPにおいて、脳梗塞領域はそれぞれ27.2%、32.7%、及び39.9%減少し、ED40は10.3mg/kgであった。ED50に換算した場合、l−NBPの効果はd−NBPの約3.1倍であった。陽性薬であるニモジピンの効果は、有意であった。
【0054】
[実施例8]
脳虚血再灌流ラットにおける行動障害及び脳梗塞領域に対するL−ブチルフタリドの効果
【0055】
実験動物:実施例1に同じ
【0056】
実験装置:実施例7に同じ
【0057】
実験法:ラットに麻酔をかけて、側臥位に固定した。手術用顕微鏡下で、頸部正中線の皮膚切開を施して左総頸動脈を露出させた。総頸動脈の分岐点から頭蓋底の血管まで、周囲の神経及び筋膜を除去した。その後、外頸動脈の分岐である、後頭動脈、上甲状腺動脈、舌動脈及び顎動脈を順次分離し、結紮して、はさみで切断した。次いで迷走神経を含まないように内頸動脈を注意深く分離した。翼口蓋動脈を、内頸動脈の根元で結紮した。第3号のナイロン縫合糸(直径0.285mm)を含む注射用第6号針を、外頸動脈の自由端に穿刺し、ナイロン縫合糸を血管内に進めた。針を注意深く抜いて、中大脳動脈を効果的に遮断するよう、ナイロン縫合糸を外頸動脈の遠位端部からウィリス環に至るまで内頸動脈内に導いた。体重によって、挿入したナイロン縫合糸から総頸動脈の分岐点までの距離は18〜20mmであった。出血を防ぐために、外頸動脈の自由端とその中のナイロン縫合糸を互いに結紮した。次いで、筋肉及び皮膚を層毎に縫合して、感染を防ぐためにペニシリンを滴下した。中大脳動脈を効果的に遮断するよう、ナイロン縫合糸の先端を火炎で燃やして丸めて、0.1%のポリ−L−リジンで被覆した。ナイロン縫合糸は、60℃のオーブン中で1時間焼成した。細胞及びタンパク質をプラスチック表面に結合させ、かくして負に荷電したナイロン縫合糸を正に荷電したものに変えて、内皮細胞の陰イオン性部分を誘引するポリ−L−リジンの能力によってナイロン縫合糸を内皮表面に密着させる。その結果、縫合部の周囲からの血液の漏出が妨げられる。擬似手術群の動物から、内頸動脈のみを分離した。MCAOの1時間後に、上肢の半身麻痺を著しく示さなかったラットと死亡したラットを除いた。MCAOの開始から1.5時間後に、内頸動脈の管腔の中のナイロン縫合糸を注意深く引き出し、その内頸動脈を再灌流させた。ラットは次いで、ケージの中に戻した。
【0058】
実験結果:
1.神経機能に対する効果
擬似手術群の動物の行動に著しい変化はなかったが、モデル対照群の動物のスコアは擬似手術群のスコアと著しく異なっていた(P<0.001)。神経脱落症状スコアの改善は、l−NBP、dl−NBP、及びd−NBPの静脈内注射後24時間で観察された。l−NBP、dl−NBP、及びd−NBPの潜在力に有意差はなかった。陽性薬であるニモジピンには有意な効果があった。
【0059】
2.脳梗塞領域に対する効果
モデル(対照)群の動物における梗塞領域は、擬似手術群と比較して著しく増加していた。dl−NBP、l−NBP、及びd−NBPの静脈内注射はすべて、脳虚血再灌流ラットにおける脳梗塞領域を著しく低減させ、且つその効果は用量の増加に伴って増大することが示された。モデル対照群と比較して、3種の用量(低用量、中用量、及び高用量)のdl−NBPで脳梗塞領域はそれぞれ37.9%、48.5%、及び59.2%減少し、ED50は5.5mg/kgであった。3種の用量(低用量、中用量、及び高用量)のl−NBPで脳梗塞領域はそれぞれ40.8%、57.0%、及び68.5%減少し、ED50は3.8mg/kgであった。3種の用量(低用量、中用量、及び高用量)のdl−NBPで脳梗塞領域はそれぞれ34.8%、46.5%、及び60.9%減少し、ED50は5.7mg/kgであった。ED50に換算した場合、l−NBPの効果はd−NBPの約1.5倍であった。陽性薬であるニモジピンには有意な効果はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳虚血誘発性疾患を治療する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用。
【請求項2】
脳虚血誘発性疾患を予防する薬剤の製造におけるL−ブチルフタリドの使用。

【公開番号】特開2011−207905(P2011−207905A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129094(P2011−129094)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【分割の表示】特願2006−549834(P2006−549834)の分割
【原出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(505059226)シジャージョアン ファーマ. グループ ジョオンチ ファーマシューティカル テクノロジー(シジャージョアン)カンパニー リミテッド (7)
【Fターム(参考)】