説明

脳血管障害改善剤

【課題】使用期間に制限がなく、治療中においても絶食期間が続かない、経口投与が可能な脳血管障害改善剤の提供。
【解決手段】ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールを含む栄養組成物を有効成分とすることで、使用期間に制限がなく、治療中においても絶食期間が続かない、経口投与が可能な脳血管障害剤を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールを必須成分として含む栄養組成物を有効成分とする脳血管障害改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管障害による疾病として、脳の血管が詰まることにより起こる脳血栓症、脳塞栓症または一過性脳虚血発作等の脳梗塞や脳の血管が破れることにより起こる脳出血、くも膜下出血等が知られている。脳は酸素消費率の高い臓器であり、脂質を多く含んでいることから、フリーラジカルなどによる酸化ストレスに曝されやすい。そのため、酸化ストレスと脳血管障害との関連性が指摘されており、脳梗塞急性期の第一次脳保護療法等においては、酸化ストレスを制御して脳保護効果を示す「エダラボン」(3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン)(ラジカット(登録商標))が脳保護薬(フリーラジカルスカベンジャー)として使用されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、本剤は投与期間が発症後から14日以内に限られており、継続して使用できないという問題があった。
【0003】
また、脳梗塞等の脳血管障害による疾病の治療においては、脳浮腫等の病態が落ち着くまで経腸栄養剤(濃厚流動食)の投与を控えることが多い。これは、脳浮腫による脳幹部への圧迫が重度であると嘔吐中枢の障害により反射的に嘔吐をくりかえすためである。脳浮腫の治療には輸液から「濃グリセリン」(グリセオール注(商標登録))などを投与することがあるが、経腸栄養剤で脳浮腫を抑えるというものはない。このため脳浮腫を軽減できる新たな経腸栄養剤が開発されれば、脳血管障害発症早期より投与することが可能になる。
【0004】
近年、低酸素虚血性モデルラットや脳梗塞モデルラットに、酸化ストレスを制御する物質であるアスコルビン酸(ビタミンC)やカテキン等の抗酸化剤を注射投与(injection)したところ、脳梗塞部分の面積や酸化ストレスが減少したことが報告されている(例えば、非特許文献1,2参照)。しかし、これらの記載に基づいて、抗酸化剤を有効成分とする薬剤を開発した場合、注射投与用となるため患者に与える心身的な負担が大きいものとなる。
以上のように、従来にくらべて使用期限に制限がなく、また経口投与で酸化ストレスを軽減し、脳血管障害を持続的に改善するような新たな脳血管障害改善剤の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−257020号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Brain & Development 31 (2009) 307−317.
【非特許文献2】Brain Research 1019 (2004) 47−54.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、使用期間に制限がなく、経口投与が可能な脳血管障害改善剤の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールと言った、脳血管障害の改善に作用する成分を必須成分として含む栄養組成物が意外にも脳梗塞等の脳血管障害による疾病の改善に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
このような栄養組成物を有効成分とする本発明の脳血管障害改善剤は、有効成分が食品として使用され得る栄養組成物であるため人体等に安全であり、これ自体を摂取することにより、栄養補給と同時に脳血管障害の治療、改善にも役立つものである。さらに使用期間に制限もないことから、長期間の疾病管理ができる理想的な脳血管障害改善剤である。
【0009】
すなわち、本発明は次の(1)〜(7)の脳血管障害改善剤等に関する。
(1)ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールを必須成分として含む栄養組成物を有効成分とする脳血管障害改善剤。
(2)ミネラル類がセレン、クロム、銅および亜鉛である上記(1)に記載の脳血管障害改善剤。
(3)栄養組成物(100kcal)あたりに含有されるビタミンCが3〜300mgであり、ビタミンEが0.2〜12mgであり、セレンが4〜25μgであり、クロムが2〜20μgであり、銅が0.02〜0.4mgであり、亜鉛が0.4〜2mgであり、かつ、ポリフェノール類が0.01〜1.1gである上記(1)または(2)に記載の脳血管障害改善剤。
(4)さらに、次の1)〜4)の特徴を有する栄養組成物を有効成分とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の脳血管障害改善剤。
1)乳蛋白質および大豆蛋白質または大豆蛋白質、脂質、水溶性食物繊維および/またはオリゴ糖、ポリフェノール類、ビタミン、ミネラルおよびミネラル類を栄養成分として含有する
2)含有される乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比率が0/1〜4/1である
3)栄養組成物(100kcal)あたりに含有される脂質中の構成脂肪酸組成がn−3系脂肪酸0.1〜0.6gおよびn−6系脂肪酸0.2〜1.2gであり、且つn−3系脂肪酸/n−6系脂肪酸の重量比率が1/6以上である
4)栄養組成物(100kcal)あたりに含有される水溶性食物繊維および/またはオリゴ糖が0.4〜1.5gである
(5)n−3系脂肪酸が、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸であり、n−6系脂肪酸がリノール酸である、上記(4)に記載の脳血管障害改善剤。
(6)ポリフェノール類が、茶由来またはブドウ種子由来のポリフェノール類である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の脳血管障害改善剤。
(7)脳血管障害が脳梗塞、脳出血またはくも膜下出血である上記(1)〜(6)のいずれかに記載の脳血管障害改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の脳血管障害改善剤の提供により、脳梗塞等の脳血管障害による疾病において、新たな治療方法を提供することができる。本発明の脳血管障害改善剤は、脳血管障害の改善に作用する成分を必須成分として含む栄養組成物を有効成分とするものであるため、薬剤としての利用に加え、食事のように利用することも可能であると考えられる。従って、エダラボンのような使用期間の限られた従来の薬剤を組み合わせ、投薬の予定を組むことで、脳梗塞等の患者において、長期間でかつ網羅的な脳血管障害の改善が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】Roter rod testの結果を示した図である(試験例)。
【図2】脳含水量の測定結果を示した図である(試験例)。
【図3】脳梗塞の範囲の測定結果を示した図である(試験例)。
【図4】IL−6の測定結果を示した図である(試験例)。
【図5】TBATRSの測定結果を示した図である(試験例)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「脳血管障害改善剤」とは、脳血管が詰まる、破れる等の障害が起こることを予防し、また、これらの障害が起こった場合には改善する剤のことをいう。
本発明の「脳血管障害改善剤」は、ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールを必須成分として含む栄養組成物を有効成分とする剤であればよく、これらの必須成分以外に必要な栄養成分等を含んでいてもよい。ここで、「ミネラル類」としては、セレン、クロム、銅および亜鉛が挙げられる。さらに、ナトリウム、塩素、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、モリブデン、マンガン、鉄、ヨウ素等のミネラル類を含んでいても良い。
【0013】
本発明の「脳血管障害改善剤」に必須成分として含まれるビタミンC、ビタミンE、セレン、クロム、銅および亜鉛およびポリフェノールは、安全に摂取できるものであればいずれのものを用いても良い。
例えば、セレンであれば、有機または無機形態のいずれであっても良く、亜セレン酸塩、セレノアミノ酸、高濃度のセレン化合物を含有する培地内で培養して得られるセレン蓄積性を有する微生物由来のセレン含有微生物菌体等を用いることができる。クロムであれば、セレンと同様にして得られるクロム蓄積性を有する微生物由来のクロム含有微生物菌体等、銅であれば、銅含有微生物菌体等、亜鉛であれば、亜鉛含有微生物菌体等が挙げられる。さらには、例えば、硫酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、硫酸銅、グルコン酸銅などの塩類も使用できる。
またポリフェノール類であれば、緑茶、ウーロン茶、紅茶などの茶由来のカテキン類やブドウ由来のプロアントシアニジン等が挙げられる。カテキン類は、エピガロカテキンガレートを10〜70重量%含むものを用いることが好ましい。
【0014】
これらの必須成分は、それぞれ「脳血管障害改善剤」として有効に作用し得る量が含まれていれば良い。本発明の「脳血管障害改善剤」が経口摂取する剤であり、食品のように投与されるものとなる場合には、ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールは「脳血管障害改善剤」として有効に作用し得て、かつ、一日に必要とされる摂取量を満たす範囲で含まれていることが好ましい。
例えば、本発明の「脳血管障害改善剤」の有効成分である栄養組成物(100kcal)あたり、ビタミンCであれば3〜300mg、好ましくは50〜200mgであることが好ましい。ビタミンEであれば0.2〜12mg、好ましくは2.5〜10mgであることが好ましい。セレンであれば4〜25μg、好ましくは4〜16μgであることは好ましい。4μg未満では、心筋異常などのセレン欠乏症を生じる可能性があるため好ましくない。クロムであれば2〜20μg好ましくは3〜12mgであることが好ましい。銅であれば0.02〜0.4mg、好ましくは0.07〜0.3mgであることが好ましい。亜鉛であれば0.4〜2mg、好ましくは0.7〜3mgであることが好ましい。
また、ポリフェノール類は、本発明の「脳血管障害改善剤」の有効成分である栄養組成物(100kcal)あたり0.01〜1.1g、好ましくは0.027〜0.11gであることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明の「脳血管障害改善剤」の有効成分である栄養組成物に含まれ得る、必須成分以外の栄養成分として、タンパク質、脂質、水溶性食物繊維、オリゴ糖、必須成分以外のビタミン、ミネラル等が挙げられる。これらは、安全に摂取できるものであればいずれのものを用いても良い。
例えばタンパク質(窒素源)としては、乳蛋白質、大豆蛋白質等が挙げられ、これらのタンパク質の分解物、アミノ酸混合物等のペプチドやグルタミン、アルギニン等のアミノ酸そのものであっても良い。
本発明の「脳血管障害改善剤」が経口摂取する剤であり、食品のように投与されるものとなる場合には、消化・吸収に優れ、栄養価の高いタンパク質を用いることが好ましい。乳蛋白質と大豆蛋白質を用いる場合は、下痢発生の防止や便性の改善、薬理学的活性、循環器疾患、慢性疾患に対する予防効果の立場から、乳蛋白質/大豆蛋白質比が0/1〜4/1となるように用いることが好ましく、特に2/1となるように組み合わせて用いることが好ましい。
【0016】
脂質としては、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸等のn−3系脂肪酸を含有する脂質や、リノール酸等のn−6系脂肪酸を含有する脂質が挙げられる。本発明の「脳血管障害改善剤」が経口摂取する剤であり、食品のように投与されるものとなる場合には、特に速やかに消化、吸収される中鎖脂肪酸トリグリセライド等を用いても良い。
特に、本発明の「脳血管障害改善剤」の有効成分として含まれる栄養組成物(100kcal)あたり、脂質中の構成脂肪酸組成がn−3系脂肪酸0.1〜0.6gおよびn−6系脂肪酸0.2〜1.2gであり、且つn−3系脂肪酸/n−6系脂肪酸の重量比率が1/6以上となるような脂質を用いることが好ましい。n−3系脂肪酸とn−6系脂肪酸の両方を含有する油としてはシソ油、エゴマ油、アマニ油、キリ油、魚油、サフラワー油、コーン油、大豆油、ナタネ油などの食用油が挙げられる。これらを2種またはそれ以上を混合して、脂質として用いても良い。
【0017】
水溶性食物繊維としては、果実・野菜由来の水溶性ペクチン、こんにゃく・山芋由来のグルコマンナン、オーツ麦・豆類由来のガラクトマンナン、寒天、昆布・わかめ等海藻類由来のアルギン酸、紅藻類由来のカラギーナン等が挙げられ、これらを2種またはそれ以上混合して用いても良い。
オリゴ糖としては、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖等が挙げられ、これらを2種またはそれ以上混合して用いても良い。
食物繊維とオリゴ糖は、食物繊維/オリゴ糖比が4/1〜1/0になるように調整し、その合計量が本発明の「脳血管障害改善剤」の有効成分として含まれる栄養組成物(100kcal)あたり0.4〜1.5gになるように用いることが好ましい。オリゴ糖量が増加すると、下痢の発生傾向が強くなるため好ましくない。
【0018】
また、必須成分以外のビタミン類としては、ビタミンA、D、ビタミンB1、B2、B6、B12、ナイアシン、パントテン酸等が挙げられる。本発明の「脳血管障害改善剤」はさらに、小麦・米デンプン、コーンスターチおよびそれら糖質の加水分解物であるデキストリンまたはマルトデキストリン等の糖質を含んでいても良い。
【0019】
本発明の「脳血管障害改善剤」が経口摂取する剤であり、食品のように投与されるものとなる場合には、投与対象となるヒトの年齢や症状などにより異なるが、ヒト成人一人当たり一日800kcalから2500kcalとなるように、経口的に投与することが好ましい。
本発明の「脳血管障害改善剤」は、その形態は特に限定されないが、例えば各有効成分および各栄養成分を粉粉混合して得られる粉末のもの、および水に溶解して得られる液状のもの、液状のものを乾燥させて得られる粉末のものが好ましい。液状の栄養組成物の調製に当たっては、必要に応じ、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤を用いても良い。
このようにして得られた「脳血管障害改善剤」は、経口摂取する剤であり、食品のように投与することができる。この場合、「脳血管障害改善剤」としての効果を有しつつ、必要となる栄養を補給する剤としての効果も発揮することができる。このような本発明の「脳血管障害改善剤」は、通常食を摂取することが不可能な患者や、高齢者もしくは要介護者等も対象として使用することができる。
【0020】
本発明の「脳血管障害改善剤」において、「脳血管障害」とは、脳血管が詰まる、破れる等の障害のことをいい、脳血管が詰まることによって起こる脳血栓症、脳塞栓症、一過性脳虚血発作等の脳梗塞や、脳血管が破れることによって起こる脳出血、くも膜下出血等もこれに含まれる。
【0021】
以下、実施例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
<脳血管障害改善剤>
ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールを必須成分として含む栄養組成物を表1に示した配合で常法に従って調製した。この栄養組成物を本発明の脳血管障害改善剤として用いた。また、本発明の試験において比較として用いた比較栄養組成物(比較品)の配合組成も表1に示した。なお、本発明の脳血管障害改善剤における乳タンパク質/大豆蛋白質比は2/1であり、n−3系脂肪酸/n−6系脂肪酸の重量比率は1/2であった。また、比較栄養組成物は本発明の脳血管障害改善剤と比べてビタミンC、ビタミンE、銅および亜鉛の含有量が少なく、セレン、クロム、ポリフェノールは含有されていない組成物であった。
【0023】
【表1】

【0024】
[試験例]
ラット(Wistar Rat雄 220−240g(中部科学資材社)に水と本発明の脳血管障害改善剤または比較栄養組成物を7日間自由摂取させ、本発明群および比較群とした(各n=5)。その後、これらのラットを参考資料1の方法に基づき、次のように処理することで、右脳に脳梗塞を惹起させた脳梗塞モデルラットとした。
即ち、これらのラットをネンブタール(40mg/kg)麻酔下に、自然呼吸のまま固定器に固定し、頸部正中切開を加え、迷走神経の保存に留意しつつ、右頚動脈分岐部に達した。右頚動脈分岐部を中心に、総頚動脈および外頚動脈を周囲結合繊より剥離し、それぞれシリコンコートした4−0モノフィラメントにて結紮した。さらに、内頚動脈起始部にシリコンコートした4−0モノフィラメントをかけ、塞栓挿入後の結紮・固定に備えた。次いで総頸動脈を切開し、同部より塞栓を内頸動脈に向けて約15〜16mm挿入、塞栓のシリコンコートした4−0モノフィラメント近位端をシリコンコートした4−0モノフィラメントで結紮・固定した。これにより塞栓の先端は中大脳動脈分岐部を超えて、前大脳動脈内に約1〜2mm入り、塞栓の体部で中大脳動脈入口を閉塞した。これを一定時間(90分)留置後、エーテル麻酔下で抜き去り、血流を再潅流させ、脳梗塞を実験的に惹起させた。
参考文献1:小泉 仁一ら、虚血性脳浮腫の実験的研究 第1報 ラットを用いた血流再開可能な脳梗塞モデル、脳卒中、8巻1号、1986年
【0025】
1.Roter rod test
脳梗塞を起こす前に訓練前試行として回転させていないロッドにラットを5分間乗せた。また訓練試行として3−6rpmで回転させたロッドの上で歩行させた。その後、上記方法によって脳梗塞を実験的に惹起させ24時間経過した、本発明群のラットおよび比較群のラットをそれぞれ、測定試行12rpmで回転させたロッドに乗せて落下までの時間を測定した。
その結果、図1に示したように本発明の脳血管障害改善剤を摂取させたラットは、比較群のラットと比べて、回転させたロッドに長い時間乗っていられることが確認できた。従って、本発明の脳血管障害改善剤を摂取することで、運動機能を維持できることが示された。
【0026】
2.脳水分含有量の測定
脳梗塞を実験的に惹起させ24時間経過したラット(本発明群および比較群)を腹大動脈より放血屠殺した後、直ちに全脳(嗅脳および延髄にて切断)を摘出し、脳梗塞を惹起させた右脳と、惹起させていない左脳(コントロール)に分け、注意深く脳表の血液を取り除き湿重量を測定した。
その後105℃のオーブンにて4日間放置し、5日目に乾燥重量を測定した。これにより、%水分含有量=[(湿重量−乾燥重量)×100/湿重量]を算出した。
その結果、図2に示すように、本発明の脳血管障害改善剤を摂取させたラットは、比較群のラットと比べて脳梗塞を惹起させた右脳の脳水分含有量が有意に少ないことが確認された。
従って、本発明の脳血管障害改善剤を摂取することにより、脳梗塞後の脳浮腫を軽減させる可能性が高いことが示された。
【0027】
3.脳梗塞の範囲の測定
脳梗塞を実験的に惹起させ24時間経過したラットを麻酔下で採血し、PBSで還流後、脳組織を直ちに採取した。その後10%中性緩衝液加えホルマリン水で固定した。切り出した冠状切片はプレグマ(視交叉領域)から3mmのところで2%TTC(TTC: 2,3,5−triphenyltetrazolium chloride)で染色した。
その結果、図3に示すように、本発明の脳血管障害改善剤を摂取させたラットは、比較群のラットと比べて脳梗塞の範囲が明らかに狭くなっていることが確認され、本発明の脳血管障害改善剤を摂取させることにより、脳梗塞面積を減少できることが示された。従って、本発明の脳血管障害改善剤を予防的に投与することで再発した場合の軽症化目的に使用することできることが示された。
【0028】
4.IL−6の測定
脳梗塞を実験的に惹起させ24時間経過したラットを麻酔下で採血し、血漿を試料としてQuantikine Rat IL−6 Immunoassay kit(R&D System社)を用いてIL−6を測定した。
その結果、図4に示すように、本発明の脳血管障害改善剤を摂取させたラットは、比較群のラットと比べて、24時間後のIL−6値は有意に低かった(0時間:再潅流を開始した時間)。従って、本発明の脳血管障害改善剤を摂取することにより、炎症を軽減できることが示された。
【0029】
5.TBARSの測定
脳梗塞を実験的に惹起させ24時間経過したラットを麻酔下で採血後、断首し、脳梗塞を惹起させた右脳と、惹起させていない左脳(コントロール)から、それぞれ脳組織を採取した。これを氷上でRIPAバッファー(50mM Tris pH7.4、150mM EDTA、1% Triton X−100、1% Sodium Deoxycholate、0.1% SDS)に溶解し、試料とし、TBARS assat kit(Cayman Chemical Company)を用いてTBARSを測定した。
その結果、図5に示すように、脳梗塞を惹起させた右脳において、本発明の脳血管障害改善剤を摂取させたラットは、比較群のラットと比べて、24時間後のTBARS値は有意に低かった。従って、本発明の脳血管障害改善剤を摂取することにより、酸化ストレスを軽減できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の脳血管障害改善剤の提供により、本発明と同様に、各疾病の改善に作用する成分を必須成分として含む栄養組成物を有効成分として含む各疾病に対する効果的な剤の提案・提供が可能となる。
このような剤は、栄養組成物を有効成分とするものであるため、薬剤としての利用に加え、食事のように利用することも可能であり、従来の薬剤に比べて安価に提供され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンC、ビタミンE、ミネラル類およびポリフェノールを必須成分として含む栄養組成物を有効成分とする脳血管障害改善剤。
【請求項2】
ミネラル類がセレン、クロム、銅および亜鉛である請求項1に記載の脳血管障害改善剤。
【請求項3】
栄養組成物(100kcal)あたりに含有されるビタミンCが3〜300mgであり、ビタミンEが0.2〜12mgであり、セレンが4〜25μgであり、クロムが2〜20μgであり、銅が0.02〜0.4mgであり、亜鉛が0.4〜2mgであり、かつ、ポリフェノール類が0.01〜1.1gである請求項1または2に記載の脳血管障害改善剤。
【請求項4】
さらに、次の1)〜4)の特徴を有する栄養組成物を有効成分とする請求項1〜3のいずれかに記載の脳血管障害改善剤。
1)乳蛋白質および大豆蛋白質または大豆蛋白質、脂質、水溶性食物繊維および/またはオリゴ糖、ポリフェノール類、ビタミン、ミネラルおよびミネラル類を栄養成分として含有する
2)含有される乳蛋白質/大豆蛋白質の重量比率が0/1〜4/1である
3)栄養組成物(100kcal)あたりに含有される脂質中の構成脂肪酸組成がn−3系脂肪酸0.1〜0.6gおよびn−6系脂肪酸0.2〜1.2gであり、且つn−3系脂肪酸/n−6系脂肪酸の重量比率が1/6以上である
4)栄養組成物(100kcal)あたりに含有される水溶性食物繊維および/またはオリゴ糖が0.4〜1.5gである
【請求項5】
n−3系脂肪酸が、α−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸よりなる群から選択される少なくとも1種の脂肪酸であり、n−6系脂肪酸がリノール酸である、請求項4に記載の脳血管障害改善剤。
【請求項6】
ポリフェノール類が、茶由来またはブドウ種子由来のポリフェノール類である請求項1〜5のいずれかに記載の脳血管障害改善剤。
【請求項7】
脳血管障害が脳梗塞、脳出血またはくも膜下出血である請求項1〜6のいずれかに記載の脳血管障害改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−36147(P2012−36147A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179496(P2010−179496)
【出願日】平成22年8月10日(2010.8.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年3月17日 社団法人 日本麻酔科学会のホームページ内の「The 13▲th▼ Asian Australasian Congress of Anesthesiologists」において、文書をもって発表。 平成22年5月28日 社団法人 日本麻酔科学会の研究集会「The 13▲th▼ Asian Australasian Congress of Anesthesiologists」において、文書をもって発表。 株式会社 学研メディカル秀潤社発行『NURSING 月刊ナーシング』7月号(発行日 平成22年6月20日)に発表。
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】