腎不全の進行抑制用医薬組成物、並びに腎不全の合併症の予防及び治療用医薬組成物
【課題】腎不全患者に直接的に適用できる新規薬物療法及び食事療法等に用い得る医薬組成物及び機能性食品を提供する。
【解決手段】本発明の医薬組成物は、カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【解決手段】本発明の医薬組成物は、カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎不全及び末期腎不全の進行抑制、並びにその合併症の予防及び治療に用いられる医薬組成物、機能性食品、及びキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本には約1300万人の慢性腎不全患者がいると考えられており、さらに進行した末期腎不全の透析患者は約27万人に達する。慢性腎不全の多くは自覚症状がなく、この疾病により蓄積する尿毒症物質(インドキシル硫酸等)は、腎機能の低下のみならず、動脈硬化をはじめとする種々の合併症の要因となることが分かってきた。
慢性腎不全の治療法には、食事療法と薬物療法とがある。食事療法は、塩分制限と低タンパク食を基本とする療法であり、薬物療法は、慢性腎不全の増悪因子である高血圧症、高脂血症及び糖尿病等の治療薬を用いる間接的な療法が主となっている。唯一直接的な療法として、インドキシル硫酸を吸着する球形吸着炭クレメジン(株式会社クレハ製;特許文献1参照)又はその類似物(他社製)を用いる療法が知られている。
【0003】
しかしながら、薬物療法としての球形吸着炭の使用は、末期腎不全の透析患者に対して禁止されているため、末期腎不全患者では尿毒症物質インドキシル硫酸(透析では除去不可)による合併症のリスクが高くなるという問題があった。また、球形吸着炭を使用できる場合であっても、これには各種ビタミンも吸着し除去してしまうというデメリットがあった。
ところで、近年、本発明者らの研究等により、インドキシル硫酸の作用発現には活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)の発生が深く関与していることが明らかとなった(非特許文献1参照)。これまで、抗酸化の視点から慢性腎不全や末期腎不全の薬物療法及び食事療法を行う試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2607422号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hidehisa Shimizu et al., “ROS and PDFG-βreceptors are critically involved in indoxyl sulfate actions that promote vascular smooth muscle cell proliferation and migration”, Am. J. Physiol. Cell Physiol., vol. 297, p. C389-C396, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、腎不全患者、具体的には慢性腎不全及び末期腎不全の患者(特に透析患者)のいずれにも直接的に適用できる、新規薬物療法及び食事療法に用い得る医薬及び機能性食品の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、腎不全の進行抑制用並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の医薬組成物、機能性食品及びキット等を提供するものである。
(1)カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、医薬組成物。
上記医薬組成物は、例えば、腎不全の進行抑制用の医薬組成物、あるいは、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の医薬組成物である。ここで、上記腎不全は、例えば、慢性腎不全又は末期腎不全であり、上記腎不全の合併症は、例えば、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0008】
(2)カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、機能性食品。
上記機能性食品は、例えば、腎不全の進行抑制用の機能性食品、あるいは、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の機能性食品である。ここで、上記腎不全は、例えば、慢性腎不全又は末期腎不全であり、上記腎不全の合併症は、例えば、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
(3)カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、腎不全の進行抑制用キット、あるいは、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用キット。
上記キットにおいて、上記腎不全は、例えば、慢性腎不全又は末期腎不全であり、上記腎不全の合併症は、例えば、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、慢性腎不全患者及び末期腎不全患者に対して直接的な薬物療法及び食事療法を可能とする、医薬組成物、機能性食品及びキット等を提供することができる。
本発明の医薬組成物、機能性食品及びキットは、慢性腎不全及び末期腎不全の進行抑制、それらの合併症の予防及び治療(改善)を効果的に行うことができる点で、極めて有用性に優れたものである。また、本発明の機能性食品においては、有効成分であるカルノシン酸等をサプリメントとして摂取可能な状態で提供することもでき、実用性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インドキシル硫酸(IS)が単独で血管平滑筋細胞(VSMC)を増殖及び遊走させると同時に、ISの同時添加及び前処理が血小板由来増殖因子(PDGF)依存的なVSMCの増殖と遊走を増強することを示す図である。
【図2】ISが単独で活性酸素種(ROS)を産生すると同時に、ISの前処理がPDGF依存的なROSの産生を増強することを示す図である。
【図3】ISが、酸化ストレスと同様に、VSMCの増殖と遊走に関わるリン酸化酵素であるERK及びp38を活性化することを示す図である。
【図4】カルノシン酸がインビトロで抗酸化活性を有することを示す図である。
【図5】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度で血管内皮細胞(VEC)の増殖を誘導できることを示す図である。
【図6】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度でPDGF依存的なVSMCの増殖を抑制できることを示す図である。
【図7】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度でVECの創傷治癒を誘導できることを示す図である。
【図8】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度でPDGF依存的なVSMCの遊走を抑制できることを示す図である。
【図9】カルノシン酸が酸化ストレスによるVECの細胞死を抑制できることを示す図である。
【図10】カルノシン酸が抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1、ヘムオキシゲナーゼ-2、及びスーパーオキシドジスムターゼ-1の発現を誘導することを示す図である。
【図11】VSMCにおいて、カルノシン酸の前処理が、ISによる細胞内ROSの上昇を抑制することを示す図である。
【図12】カルノシン酸の前処理が、IS依存的なVSMCの増殖および遊走を抑制できることを示す図である。
【図13】HK-2において、カルノシン酸が、IS依存的なMonocyte chemotactic protein-1(MCP-1)及びα-smooth muscle actin(α-SM actin)のmRNA上昇を抑制することができることを示す図である。
【図14】HK-2において、カルノシン酸が、IS依存的なTransforming growth factor-β(TGF-β)、MCP-1、及びα-Smooth muscle actinのタンパク質レベルの上昇を抑制することができることを示す図である。
【図15】HK-2において、カルノシン酸が、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)のタンパク質レベルを上昇させることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0013】
1.本発明の概要
前述したように、近年、本発明者らの研究等により、インドキシル硫酸の作用発現には活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)の発生が深く関与していることが明らかとなった(Hidehisa Shimizu et al., 2009(前掲:非特許文献1))。
尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、腎不全(慢性腎不全及び末期腎不全)により蓄積し、腎機能の低下(腎不全の進行)のみならず、動脈硬化をはじめとする種々の合併症の要因となる。
本発明者は、ローズマリー(シソ科植物)の主成分の一つであるカルノシン酸が、生体内において極めて高い抗酸化活性を誘導するものであり、その結果、インドキシル硫酸の作用を低濃度で抑制又は阻害し得るものであることを見出した。
【0014】
より詳細に説明すると、次の通りである。すなわち、生体内においては、多くの抗酸化タンパク質(HO-1等)の遺伝子発現が、転写因子Nrf2によって制御されている。通常の環境下(非ストレス下)では、Nrf2は、ユビキチンリガーゼKeap1と結合しており、プロテアソームにより恒常的に分解されているため、抗酸化タンパク質の発現は抑制状態にある。他方、非通常の環境下(ストレス下)にさらされると、細胞内のKeap1が修飾を受けて構造変化を起こし、Nrf2との相互作用(結合)が抑制される。そうすると、蓄積したNrf2が細胞核に移行し、一連の抗酸化タンパク質等の発現を亢進させ、その結果、抗酸化活性が誘導される。カルノシン酸はNrf2とKeap1との相互作用(結合)を弱め、Nrf2による抗酸化タンパク質の発現亢進を誘導し、結果として抗酸化活性を誘導することが知られている。
そして、このカルノシン酸及びその誘導体等を主成分とする医薬組成物及び機能性食品が、腎不全(慢性腎不全及び末期腎不全)の進行阻害、並びにその合併症の予防や改善に有効に用い得ることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
2.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、前述した通り、カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩(以下「カルノシン酸等」ということがある)を有効成分として含むことを特徴とするものである。詳しくは、本発明の医薬組成物は、腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものであることが好ましい。
なお、本発明は、カルノシン酸等を用いること(具体的には、カルノシン酸等の有効量を患者に投与すること)を特徴とする腎不全の進行抑制方法、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療方法;腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の薬剤を製造するためのカルノシン酸等の使用;腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のカルノシン酸等の使用;腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のカルノシン酸等をも含むものである。
【0016】
本発明において、腎不全としては、腎不全の進行過程(第1期〜第4期)に伴う腎機能が低下した状態をすべて含むものとするが、特に慢性腎不全及び末期腎不全の状態のことをいう。慢性腎不全とは、腎機能が正常時の30%以下程度に低下した状態をいい(例えば、血清クレアチニン値が3 mg/dL以上)、一般には第3期に相当する。末期腎不全とは、腎機能が正常時の10%以下に低下し(例えば、血清クレアチニン値が8 mg/dL以上)、そのままでは生命維持ができないため透析(人工透析)等が必要な状態をいい、一般には第4期に相当する。
本発明において、腎不全の合併症としては、限定はされないが、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血等が挙げられるが、中でも特に、動脈硬化、高血圧症及び糖尿病が、本発明の医薬組成物による予防及び治療の対象疾患として好適である。
【0017】
本発明の医薬組成物の有効成分である、ローズマリー葉成分のカルノシン酸は、公知の市販のもの(例えばシグマ社製等)を使用することができるが、限定はされず、独自に抽出及び精製等したものを使用してもよい。なお、カルノシン酸は下記式(1)で表されるものである。
【0018】
【化1】
【0019】
また、本発明の医薬組成物の有効成分としては、カルノシン酸と共に又はカルノシン酸に代えて、カルノシン酸誘導体を用いることもできる。当該誘導体としては、カルノシン酸由来の化学構造を有する等、当業者の技術常識に基づいてカルノシン酸の誘導体と考えられるものであればよく、限定はされないが、抗酸化活性の誘導能がカルノシン酸と同程度ものが好ましい。具体的には、カルノシン酸誘導体としては、例えば下記式(2)で表されるものが挙げられる。
【0020】
【化2】
【0021】
上記式(2)中、R1、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、酸素原子、任意に置換されてもよいC1-10アルキル、任意に置換されてもよいC2-10アルケニル、任意に置換されてもよいC2-10アルキニル、任意に置換されてもよいC6-14アリール、又は任意に置換されてもよい5〜14員ヘテロアリールを表し、R2は、カルボキシル基、アシル基、ヒドロキシル基、又はカルボニル基(これらの基は任意の基で置換されていてもよい)を表す。
ここで、R1、R2、R3及びR4における上記置換基は、酸素原子、C1-6アルキル、OR20及びCOOR20(R20は、水素原子、C1-6アルキル、若しくはC2-6アルケニルを表す。)のうちの1種又は複数種から選択される。なお、上記において、例えば「C1-10」との表記は、「炭素数1〜10の」との意味を表す。
【0022】
カルノシン酸及びその誘導体の薬理学的に許容し得る塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、及び重炭酸塩など)、有機カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、及びクエン酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、及びカンファースルホン酸塩など)、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが好ましく挙げられる。
【0023】
カルノシン酸等としては、例えば、生体内で酸化、還元、加水分解、又は抱合などの代謝を受けるものも包含するほか、生体内で酸化、還元、又は加水分解などの代謝を受けてカルノシン酸等を生成する化合物をも包含する。
カルノシン酸等は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではない。また、カルノシン酸等は、S-体、R-体あるいはRS-体のいずれであってもよく、限定はされない。さらに、カルノシン酸等は、その種類により水和物の形で存在する場合もあり、本発明においては当該水和物もカルノシン酸等に含むものとする。
【0024】
本発明の医薬組成物において、有効成分としてのカルノシン酸等の含有割合は、限定はされず、適宜設定することができるが、例えば、医薬組成物全体に対して、0.01〜99重量%の範囲内とすることができ、さらに0.01〜95重量%、0.01〜90重量%、0.05〜80重量%、0.1〜70重量%、0.2〜50重量%、0.5〜30重量%又は1〜20重量%の範囲内としてもよい。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の医薬組成物は、腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療の効果を十分に発揮することができる。
本発明の医薬組成物は、カルノシン酸等以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で他の成分を含んでいてもよく、例えば、後述する薬剤製造上一般に用いられるもの等を含むことができる。
【0025】
本発明の医薬組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物に対して、種々の投与経路、具体的には、経口、又は非経口(例えば静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、直腸投与、経皮投与)で投与することができる。従って、本発明に使用するカルノシン酸等は、単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化して用いることができる。
剤形としては、経口剤では、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、及びトローチ剤等が挙げられ、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)、吸入剤、軟膏剤、点鼻剤、及びリポソーム剤等が挙げられる。なお、上述した各種経口剤とする場合、本発明の医薬組成物は、場合によりサプリメント剤(後述する本発明の機能性食品にも該当する)として利用することもできる。
【0026】
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じ、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬品製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して常法により製剤化することが可能である。
当該成分として使用可能な無毒性のものとしては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、及びベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。
【0027】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、及び二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、及びメグルミン等が、崩壊剤としては、例えば、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、及びカルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、及び硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、及び桂皮末等が、それぞれ好ましく挙げられ、いずれもその塩又はそれらの水和物であってもよい。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(カルノシン酸等)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数(/1日)、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の医薬組成物を、非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に具体的に説明する。
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されないが、各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、有効成分となるカルノシン酸等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
【0029】
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、有効成分となるカルノシン酸等を、適用対象(患者)の体重1kgあたり、1〜100mg服用できる量とすることができ、あるいは2〜50mg服用できる量や5〜10mg服用できる量とすることもできる。
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、前述した剤形のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、有効成分となるカルノシン酸等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0030】
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、有効成分となるカルノシン酸等を、適用対象(被験者;患者)の体重1kgあたり、1〜100mg服用できる量とすることができ、あるいは2〜50mg服用できる量や5〜10mg服用できる量とすることもできる。また、経口剤中の有効成分の配合割合は、限定はされず、1日あたりの投与回数等を考慮して、適宜設定することができる。
【0031】
3.機能性食品
本発明の機能性食品は、前述した通り、カルノシン酸等を有効成分として含むことを特徴とするものである。詳しくは、本発明の機能性食品は、腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものであることが好ましい。
食品の種類としては、経口摂取できるものであればよく、限定はされず、公知の各種食料及び飲料が含まれる。サプリメント剤(錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤及びトローチ剤等)としての形態も、本発明の機能性食品に含まれる。
例えば、食料の具体例としては、例えば、調味料、マヨネーズ、ヨーグルト及び各種菓子等が挙げられ、飲料の具体例としては、例えば、ローズマリー茶、緑茶、コカコーラ、野菜ジュース、果物ジュース及び栄養ドリンク等が挙げられる。
なお、腎不全、腎不全の合併症、カルノシン酸等、カルノシン酸誘導体等に関しては、前記2.項での説明記載が適宜適用できる。
【0032】
本発明の機能性食品において、有効成分としてのカルノシン酸等の含有割合は、限定はされず、食品の種類及び形態等に応じて適宜設定することができるが、例えば、機能性食品全体に対して、0.01〜99重量%の範囲内とすることができ、さらに0.01〜95重量%、0.01〜90重量%、0.05〜80重量%、0.1〜70重量%、0.2〜50重量%、0.5〜30重量%又は1〜20重量%の範囲内としてもよい。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の機能性食品は、腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療の効果を十分に発揮することができる。
本発明の機能性食品は、カルノシン酸等以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
本発明の機能性食品の摂取量は、一般には、食品中の有効成分(カルノシン酸等)の配合割合を考慮した上で、摂取対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況、摂取回数(/1日)、摂取期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の機能性食品の摂取量(1日あたり)は、一般には、有効成分となるカルノシン酸等を、適用対象(被験者;患者)の体重1kgあたり、1〜100mg服用できる量とすることができ、あるいは2〜50mg服用できる量や5〜10mg服用できる量とすることもできる。
【0034】
4.キット
腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び治療を行うに当たっては、カルノシン酸等を含むキット(具体例として、前述した本発明の医薬組成物を含むキット)を用いることができる。
当該キットにおけるカルノシン酸等の形態は、限定はされないが、安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮し、例えば溶解した状態で備えられていてもよい。
当該キットは、カルノシン酸等以外にも、適宜、他の構成要素を含むことができる。
当該キットは、構成要素として少なくとも前述したカルノシン酸等を備えているものであればよい。従って、腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び治療に必須となる構成要素の全てを、当該カルノシン酸等と共に備えているものであってもよいし、別々に備えているものであってもよく、限定はされない。
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
<材料>
下記の材料をそれぞれ入手して用いた(材料名:入手元)。
・インドキシル硫酸(IS): 株式会社クレハ
・ウシ血清アルブミン、トリプシン阻害剤、エラスターゼIII: Sigma
・コラゲナーゼI(#CLS1): Worthington Biochemical Co.
・ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM) high-gulcose (4500 mg/l)、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S): Sigma
・ウシ胎児血清(FBS): Gibco
・リン酸緩衝食塩水(PBS): Nissui Pharmaceutical
・PDGF-BB: Austral Biologicals
・BCATM Protein Assay Reagent: Pierce
・PVDFメンブレン: Millipore
・Phospho-ERK Antibody、phospho-p38 Antibody、Phospho-PDGF Receptorβ (Tyr857) antibody: Cell Signaling Technology
・Goat anti-rat IgG, HRP conjugated、Anti-mouse IgG, conjugated、Anti-PDGF Receptorβ: Santa Cruz Biotechnology
・Anti-α-Tubulin Mouse mAb(DM1A): Calbiochem
・Anti-Phosphotyrosine, clone 4G10: Upstate Cell Signaling Solutions
・Chemi-Lumi One L: ナカライテスク
・N-アセチル-L-システイン(NAC)、diphenyleneiodium (DPI)、PD98059、SB203580: Calbiochem
・2’,7’-ジクロロフルオレセイン(DCF): Wako
・Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit: Promega
・ポリカーボネートメンブレン: Corning
【0037】
<方法>
血管平滑筋細胞(VSMC)の単離・培養
日本チャールズリバー社より購入した5週齢雄のSprague-Dawley (SD)ラットより、エーテル麻酔下で、胸部大動脈を採取した。その後、3% P/Sを含むPBS(-)中で血管の周りの結合組織を除去した後、HEPES (42 mM)、ウシ血清アルブミン (0.2%)、トリプシン阻害剤 (375 mg/ml)、エラスターゼIII (125 mg/ml)を含むDMEMに血管を浸し、37℃で30分間酵素処理を行った。次に外膜を剥離し、血管を細かくなるまで切断して細胞を回収し、コラゲナーゼI (1 mg/ml)を含むDMEM中で37℃、2時間反応させた。その後、遠心分離(1000 rpm、5分、室温)を行い、細胞を回収して細胞培養用ディッシュで37℃、5% CO2存在下で培養した。継代数3代まではコラーゲンコート処理されたディッシュを用い、4代目以降は通常のディッシュを使用した。10% FBS、1% P/Sを含むDMEM high-glucose (4500 mg/ml)を用いて細胞を継代した。実験には継代数5代から10代までの細胞を用いた。
【0038】
細胞増殖の測定
Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit (Promega)を用いて細胞増殖を評価した。96穴プレートにVSMCを3 x 104 cells/well播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMで48時間同調培養した。その後、PDGF又はISを添加し48時間後、上記キットで評価した。ISの前処理実験では、VSMCを48時間同調培養後にISを添加し24時間培養し、PBS(-)を用いた洗浄によりISを除去した後、PDGFを添加し、さらに48時間培養した。
その結果を、図1(A)に示した。
【0039】
ボイデンチャンバー変法による遊走の測定
VSMCを10 cmディッシュに9 x 105cells播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMによって48時間同調培養を行った。細胞を回収し、フィブロネクチンコート処理をしたボイデンチャンバーに2 x 105 個の細胞を播種した。チャンバーの下位区画にIS又はPDGFを添加し、5時間後にメタノールで細胞を固定し、ヘマトキシリンで核を染色した。2〜7日後、メンブレン下側に遊走した細胞を顕微鏡で観察し、6視野当たりの細胞数を数え、細胞遊走を評価した。ISの前処理実験では、VSMCを48時間同調培養後にISを添加し、24時間培養した。その後、PBS(-)を用いた洗浄によりISを除去した後、細胞を回収し、ボイデンチャンバーに播種した。
その結果を、図1(B)に示した。
【0040】
細胞内活性酸素種(ROS)の測定
VSMCを3.5 cmディッシュに2 x 105 cells播種して接着させた後、0.1% FBSを含む培地で48時間同調培養を行った。その後、以下の2つの条件で細胞内ROS量を測定した。
第一の条件では、蛍光試薬2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート (DCF-DA)を添加して15分間反応させた後、IS又はPDGFで10分間刺激し、HBSSで2回洗浄後、共焦点蛍光顕微鏡を用いて488 nmの励起波長で生じた蛍光強度を測定し、細胞内ROS産生の指標とした。第二の条件では、ISで24時間刺激したが、刺激終了15分前にDCF-DAを添加した。その後は、第一の条件と同様の処理を行った。
その結果を、図2(A)に示した。
【0041】
また、ISの前処理実験では、VSMCを48時間同調培養後にISを添加し、24時間培養した。培養終了15分前にDCF-DAを添加し、HBSSを用いた洗浄によりISを除去した後、PDGFで10分間刺激し、第一の条件で測定した。
その結果を、図2(B)に示した。
【0042】
ウェスタンブロッティング
反応後のVSMCは、ただちに-80℃で凍結した。その後、Lysis buffer (50 mM HEPES pH7.5, 50 mM NaCl, 1 mM EDTA, 5%グリセロール, 100 mM NaF, 10 mM ピロリン酸ナトリウム, 1% Triton X-100, 1 mM NaVO4, 1 mM PMSF, 10μg/ml アンチパイン, 10μg/ml ロイペプチン, 10μg/ml アプロチニン) を加え、スクレイパーで細胞を剥ぎ取り、回収した。氷上に20分間静置し、4℃、14000 rpmで15分間遠心分離を行い、上清を回収した。その後、BCATMProtein Assay Reagentを用いて回収した細胞抽出液のタンパク質濃度を測定し、一定量のタンパク質を含む細胞抽出液をSDS-PAGEに供した。泳動終了後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。その後、5%スキムミルク / TBS-Tまたは5% BSA / TBS-Tでブロッキングを行い、各種一次抗体で反応させた。1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、二次抗体を反応させた。再び、1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、Chemi-Lumi One Lを用いて、二次抗体に標識された西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)による化学発光を、LAS1000又はLAS4000miniにより検出した。
その結果を、図3に示した。
【実施例2】
【0043】
<材料>
下記の材料をそれぞれ入手して用いた(材料名:入手元)。
・インドキシル硫酸(IS):株式会社クレハ
・カルノシン酸: Sigma
・ロスマリン酸、コーヒー酸: Cayman
・ナリンギン: Extrasynthese
・ウルソル酸: Biomol
・Antibiotic-antimycotic、ウシ胎児血清(FBS): Invitrogen
・1000 mg/lグルコースを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM low glucose)、4500 mg/lグルコースを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM high glucose)、ウシ血清アルブミン(BSA)、トリプシン阻害剤、エラスターゼIII、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S): Sigma
・コラゲナーゼI(#CLS1): Worthington biochemical Co.
・血小板由来増殖因子(PDGF): Austral Biologicals
・線維芽細胞増殖因子(bFGF): Pepro tech
・ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、L-アルギニン: Sigma
・H2O2、フィブロネクチン、メタノール、エタノール: Wako
・CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagent: Promega
・トリパンブルー: Gibco
・1-オレオイルリゾホスファチジン酸(LPA): Cayman
・ボイデンチャンバー: Corning
・1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH): ナカライテスク
・ジアミノフルオレセイン-2 ジアセテート(DAF-2 DA): 第一化学薬品株式会社
・ISOGEN: ニッポンジーン
・イソプロパノール: ナカライテスク
・ランダムプライマー: Takara
・Reverse transcription buffer、Fast start + universal green master: Roche
・RNase阻害剤: Toyobo
・ジチオスレイトール(DTT)、M-MLV-Reverse transcriptase: Invitrogen
・クロロホルム: Wako
・dNTPs: Applied biosystems
・各種プライマー: RIKAKEN
【0044】
なお、上記カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン及びウルソル酸の具体的な構造式は下記の通りである。
【0045】
【化3】
【0046】
<方法>
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazy(DPPH)ラジカル消去による抗酸化活性の評価
DPPH(400μM)、MESバッファー(200 mM、pH 6.0)及び20% エタノールを等量ずつ加えて混合液を調製した。予め、DPPHは100% エタノールに溶解させ400μMに調整し、MESバッファーはMillQに溶解させた後NaOH溶液を用いてpH 6.0、200 mMに調整した。200μMの各種化合物(トロロクス(6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethyl-chroman-2-carboxylic acid)(東京化成工業株式会社)、カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン、ウルソル酸及びエピガロカテキンガレート(EGCG)(三井農林株式会社))を最終濃度0〜50μM、総容量30μlになるように80% エタノールに溶解し、96 wellプレートに添加した。その後、各wellに混合液を90μlずつ添加し、10秒程度攪拌した。室温に20分間静置した後、マイクロプレートリーダーを用いて550 nmの波長を測定した。
その結果を、図4に示した。
【0047】
血管内皮細胞(VEC)の単離・培養
と畜場よりブタの胸部大動脈を入手し、PBS(-)で洗浄した後、3% P/Sを含むPBS(-)に30分以上浸して滅菌した。滅菌後の血管をハサミで切り開き、血管内側の表面の細胞を、メスを用いて採取した。その後、遠心(1500 rpm、5分、室温)によって細胞を回収し、上清を除去後、細胞培養用ディッシュで培養した。10% FBS、1% P/Sを含むDMEM low-glucose (1000 mg/l)を用い、5% CO2、37℃にて培養した。実験には4代から10代までの細胞を用いた。
【0048】
血管平滑筋細胞(VSMC)の単離・培養
日本チャールズリバー社より購入した5週齢雄のSprague-Dawley (SD)ラットより、エーテル麻酔下で、胸部大動脈を採取した。その後、3% P/Sを含むPBS(-)中で血管の周りの結合組織を除去した後、HEPES (42 mM)、ウシ血清アルブミン (0.2%)、トリプシン阻害剤 (375 mg/ml)、エラスターゼIII (125 mg/ml)を含むDMEMに血管を浸し、37℃で30分間酵素処理を行った。次に、外膜を剥離し、血管を細かくなるまで切断して細胞を回収し、コラゲナーゼI (1 mg/ml)を含むDMEM中で37℃、2時間反応させた。その後、遠心分離(1000 rpm、5分、室温)を行い、細胞を回収して細胞培養用ディッシュで37℃、5%CO2存在下で培養した。継代数3代まではコラーゲンコート処理されたディッシュを用い、4代目以降は通常のディッシュを使用した。10%FBSを含むDMEM high-glucose (4500 mg/ml)を用いて細胞を継代した。実験には継代数5代から10代までの細胞を用いた。
【0049】
細胞増殖の測定
Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit (Promega)を用いて細胞増殖を評価した。
VECの場合、96穴プレートに細胞を2 x 104 cells/well播種し接着させた後、1% FBSを含むDMEMで16時間同調培養した。その後、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン及びウルソル酸)を調製し、カルノシン酸は最終濃度0.1、0.3、1、3、10、30μMとなるように添加し、その他の化合物については10、20、30μMとなるように添加して、さらに24時間培養した。その後、上記キットで評価した。
【0050】
VSMCの場合、96穴プレートに細胞を3 x 104 cells/well播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMで48時間同調培養した。続いてPDGF刺激群においては、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン及びウルソル酸)を調製し、カルノシン酸は最終濃度1、3、10、30、100μMとなるように添加し、その他の化合物については最終濃度10、30、100μMとなるように添加して、30分後に、さらにPDGFを最終濃度20 ng/mlになるように添加し、48時間培養した。非刺激群においては化合物のみで48時間培養した。その後、上記キットで評価した。また、インドキシル硫酸に対するカルノシン酸の効果を調べる場合は、48時間同調培養後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM及び5μMとなるように添加し12時間培養した。その後、250μMのインドキシル硫酸存在下で48時間培養し、上記キットで評価した。
以上の結果を、図5、図6及び図12に示した。
【0051】
Wound healing assayによる創傷治癒の評価
VECを3.5 cmディッシュに2 x 105cells播き、8時間接着させた後、1% FBSを含むDMEMによって16時間同調培養を行った。続いて、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸及びナリンギン)を調製し、カルノシン酸は最終濃度3μMとなるように添加し、その他の化合物については最終濃度30μMとなるように添加して、30分後に200μlチップを用いて細胞層に模擬的な傷を作った。ポジティブコントロールとして5μMのLPAを用いた。傷を作った時間を0時間として、0時間と24時間後の傷周辺の写真を、明視野顕微鏡(LEICA DM IRBE)を用いて撮影した。1種類の化合物につき3視野の写真を撮影し、24時間経過後に傷の範囲内に移動した細胞数を計測し、創傷治癒能力の指標とした。
その結果を、図7に示した。
【0052】
ボイデンチャンバー変法によるVSMCの遊走の測定
VSMCを10 cmディシュに9 x 105cells播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMによって48時間同調培養を行った。続いて、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸及びコーヒー酸)を調製し、カルノシン酸は最終濃度1μMとなるように添加し、ローズマリー酸とコーヒー酸は最終濃度10μMとなるように添加して、30分間反応させた後細胞を回収し、フィブロネクチンコート処理をしたボイデンチャンバーに2 x 105 cellsを播種した。PDGF刺激群においては下位区画にPDGFを最終濃度20 ng/mlとなるように添加した。各種化合物も上下両区画に添加した。5時間後にメタノールで細胞を固定し、ヘマトキシリンで核を染色した。2〜7日後、メンブレン下側に遊走した細胞を顕微鏡で観察し、6視野当たりの細胞数を数え、細胞遊走を評価した。また、インドキシル硫酸に対するカルノシン酸の効果を調べる場合は、48時間同調培養後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM及び5μMとなるように添加し12時間培養した。その後は、PDGFの代わりに、インドキシル硫酸を最終濃度250μMとなるように添加した以外は、上記と同様の条件で測定した。
その結果を、図8および図12に示した。
【0053】
VECのH2O2に対する保護効果の実験
96穴プレートに細胞を2 x 104 cells/well播種し接着させた後、1% FBSを含むDMEMで16時間同調培養した。その後、各化合物を添加し24時間培養後、化合物をPBSにより洗浄除去後、H2O2を最終濃度600μMとなるように添加し、さらに化合物非共存下で24時間培養した。細胞数はCell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kitで評価した。
その結果を、図9に示した。
【0054】
Real-time PCRによるmRNA定量
VECを6 cmディッシュに5 x 105cellsで播き接着させた後、1% FBSを含むDMEMで16時間同調培養を行った。その後、カルノシン酸を添加し、図10に示す時間(12時間及び24時間)反応した。全RNA抽出はISOGEN(ニッポンジーン)を用い、添付のプロトコールに従って抽出した。全RNA(2〜5μg)を、ランダムプライマーを用いた逆転写反応に供した。逆転写によって得たcDNAにFast start + universal green master(0.72 x)、Fowardプライマー(0.2μM)及びReverseプライマー(0.2μM)をそれぞれ加え、7300 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosysteme)によってリアルタイムPCRを行った。各タンパク質のmRNA量を18SまたはGAPDHの発現量によって補正し比較した。
その結果を、図10に示した。
【0055】
細胞内活性酸素種(ROS)の測定
VSMCを3.5 cm dishに2 x 105 cells播種して接着させた後、0.1% FBSを含む培地で48時間同調培養を行った。その後、カルノシン酸の存在下と非存在下とでそれぞれ24時間培養し、蛍光試薬 2’,7’-dichlorofluoresein diacetate (DCF-DA)を添加し15分間反応させた後、ISで10分間刺激した。HBSSで2回洗浄後、共焦点蛍光顕微鏡を用いて488 nmの励起波長で生じた蛍光強度を測定し、細胞内ROS産生の指標とした。
その結果を、図11に示した。
【実施例3】
【0056】
<材料>
下記の材料をそれぞれ入手して用いた(材料名:入手元)。
・インドキシル硫酸(IS):株式会社クレハ
・カルノシン酸: Sigma
・Antibiotic-antimycotic、ウシ胎児血清(FBS): Invitrogen
・ダルベッコ変法イーグル培地/栄養混合物F12ハム(DMEM/F12): Sigma
・ISOGEN: ニッポンジーン
・イソプロパノール: ナカライテスク
・エタノール、クロロホルム: Wako
・N-アセチル-L-システイン(NAC)
・CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagent: Promega
・Reverse transcription buffer、Fast start + universal green master: Roche
・RNase阻害剤: Toyobo
・MCP-1 Antibody、TGF-β Antibody:Cell Signaling Technology
・Anti-α-Tubulin Mouse mAb(DM1A): Calbiochem
・Goat anti-rat IgG, HRP conjugated、Anti-mouse IgG, conjugated
・α-SM actin Antibody: Sigma
・ジチオスレイトール(DTT)、M-MLV-Reverse transcriptase: Invitrogen
・dNTPs: Applied biosystems
・各種プライマー: RIKAKEN
【0057】
<方法>
ヒト近位尿細管細胞株HK-2の培養
ヒト近位尿細管細胞株HK-2をAmerican Type Culture Collectionから購入し、10%FBSおよびITS(インスリン 1 g/l、トランスフェリン 0.55 g/l、亜セレン酸ナトリウム 0.00067 g/l)を含むDMEM/F-12培地で培養した。
【0058】
Real-time PCRによるmRNA定量
HK-2細胞を3.5 cmディッシュに3 x 105 cellsで播き接着させた後、0.1% FBSを含むDMEM/F-12で12時間同調培養を行った。その後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM、5μMとなるように添加し、24時間培養後、さらに、インドキシル硫酸を最終濃度250μMとなるように添加して48時間反応させた。また、カルノシン酸の代わりにNACを加えた同様の実験を行った。その場合、12時間の同調培養後、NACを添加30分反応させた後、さらに72時間反応させた。全RNA抽出はISOGEN(ニッポンジーン)を用い、添付のプロトコールに従って抽出した。全RNA(2〜5μg)を、ランダムプライマーを用いた逆転写反応に供した。逆転写によって得たcDNAにFast start + universal green master(0.72 x)、Fowardプライマー(0.2μM)及びReverseプライマー(0.2μM)をそれぞれ加え、7300 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)によってリアルタイムPCRを行った。各タンパク質のmRNA量を18SまたはGAPDHの発現量によって補正し比較した。
その結果を、図13に示した。
【0059】
ウェスタンブロッティング
MCP-1、TGF-β、α-SM actin の検出に関しては、HK-2細胞を3.5 cmディッシュに3 x 105 cellsで播き接着させた後、0.1% FBSを含むDMEM/F-12で12時間同調培養を行った。その後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM、5μMとなるように添加し、24時間培養後、さらに、インドキシル硫酸を最終濃度250μMとなるように添加して、72時間反応させた。HO-1の検出に関しては、上記同様12時間の同調培養を行った後、濃度依存性を調べる場合は、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM、5μMとなるように添加し12時間培養した。また、時間依存性を調べる場合は、カルノシン酸を最終濃度5μMとなるように添加し、6時間、12時間、24時間培養を行った。反応後のHK-2は、ただちに-80℃で凍結した。その後、Lysis buffer (50 mM HEPES pH7.5, 50 mM NaCl, 1 mM EDTA, 5%グリセロール, 100 mM NaF, 10 mM ピロリン酸ナトリウム, 1% Triton X-100, 1 mM NaVO4, 1 mM PMSF, 10μg/ml アンチパイン, 10μg/ml ロイペプチン, 10μg/ml アプロチニン) を加え、スクレイパーで細胞を剥ぎ取り、回収した。氷上に20分間静置し、4℃、14000 rpmで15分間遠心分離を行い、上清を回収した。その後、BCATMProtein Assay Reagentを用いて回収した細胞抽出液のタンパク質濃度を測定し、一定量のタンパク質を含む細胞抽出液をSDS-PAGEに供した。泳動終了後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。その後、5%スキムミルク / TBS-Tまたは5% BSA / TBS-Tでブロッキングを行い、各種一次抗体で反応させた。1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、二次抗体を反応させた。再び、1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、Chemi-Lumi One Lを用いて、二次抗体に標識された西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)による化学発光を、LAS1000又はLAS4000miniにより検出した。
【0060】
その結果を、図14及び図15に示した。
図14及び図15に示すように、本実施例により、カルノシン酸が抗酸化活性を介してインドキシル硫酸のVSMC、VEC及びHK-2に対する作用を効果的に抑制することが確認された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、慢性腎不全及び末期腎不全の進行抑制、並びにその合併症の予防及び治療に用いられる医薬組成物、機能性食品、及びキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、日本には約1300万人の慢性腎不全患者がいると考えられており、さらに進行した末期腎不全の透析患者は約27万人に達する。慢性腎不全の多くは自覚症状がなく、この疾病により蓄積する尿毒症物質(インドキシル硫酸等)は、腎機能の低下のみならず、動脈硬化をはじめとする種々の合併症の要因となることが分かってきた。
慢性腎不全の治療法には、食事療法と薬物療法とがある。食事療法は、塩分制限と低タンパク食を基本とする療法であり、薬物療法は、慢性腎不全の増悪因子である高血圧症、高脂血症及び糖尿病等の治療薬を用いる間接的な療法が主となっている。唯一直接的な療法として、インドキシル硫酸を吸着する球形吸着炭クレメジン(株式会社クレハ製;特許文献1参照)又はその類似物(他社製)を用いる療法が知られている。
【0003】
しかしながら、薬物療法としての球形吸着炭の使用は、末期腎不全の透析患者に対して禁止されているため、末期腎不全患者では尿毒症物質インドキシル硫酸(透析では除去不可)による合併症のリスクが高くなるという問題があった。また、球形吸着炭を使用できる場合であっても、これには各種ビタミンも吸着し除去してしまうというデメリットがあった。
ところで、近年、本発明者らの研究等により、インドキシル硫酸の作用発現には活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)の発生が深く関与していることが明らかとなった(非特許文献1参照)。これまで、抗酸化の視点から慢性腎不全や末期腎不全の薬物療法及び食事療法を行う試みはなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2607422号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hidehisa Shimizu et al., “ROS and PDFG-βreceptors are critically involved in indoxyl sulfate actions that promote vascular smooth muscle cell proliferation and migration”, Am. J. Physiol. Cell Physiol., vol. 297, p. C389-C396, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況下において、腎不全患者、具体的には慢性腎不全及び末期腎不全の患者(特に透析患者)のいずれにも直接的に適用できる、新規薬物療法及び食事療法に用い得る医薬及び機能性食品の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記状況を考慮してなされたもので、以下に示す、腎不全の進行抑制用並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の医薬組成物、機能性食品及びキット等を提供するものである。
(1)カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、医薬組成物。
上記医薬組成物は、例えば、腎不全の進行抑制用の医薬組成物、あるいは、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の医薬組成物である。ここで、上記腎不全は、例えば、慢性腎不全又は末期腎不全であり、上記腎不全の合併症は、例えば、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0008】
(2)カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、機能性食品。
上記機能性食品は、例えば、腎不全の進行抑制用の機能性食品、あるいは、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の機能性食品である。ここで、上記腎不全は、例えば、慢性腎不全又は末期腎不全であり、上記腎不全の合併症は、例えば、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0009】
(3)カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、腎不全の進行抑制用キット、あるいは、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用キット。
上記キットにおいて、上記腎不全は、例えば、慢性腎不全又は末期腎不全であり、上記腎不全の合併症は、例えば、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、慢性腎不全患者及び末期腎不全患者に対して直接的な薬物療法及び食事療法を可能とする、医薬組成物、機能性食品及びキット等を提供することができる。
本発明の医薬組成物、機能性食品及びキットは、慢性腎不全及び末期腎不全の進行抑制、それらの合併症の予防及び治療(改善)を効果的に行うことができる点で、極めて有用性に優れたものである。また、本発明の機能性食品においては、有効成分であるカルノシン酸等をサプリメントとして摂取可能な状態で提供することもでき、実用性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】インドキシル硫酸(IS)が単独で血管平滑筋細胞(VSMC)を増殖及び遊走させると同時に、ISの同時添加及び前処理が血小板由来増殖因子(PDGF)依存的なVSMCの増殖と遊走を増強することを示す図である。
【図2】ISが単独で活性酸素種(ROS)を産生すると同時に、ISの前処理がPDGF依存的なROSの産生を増強することを示す図である。
【図3】ISが、酸化ストレスと同様に、VSMCの増殖と遊走に関わるリン酸化酵素であるERK及びp38を活性化することを示す図である。
【図4】カルノシン酸がインビトロで抗酸化活性を有することを示す図である。
【図5】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度で血管内皮細胞(VEC)の増殖を誘導できることを示す図である。
【図6】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度でPDGF依存的なVSMCの増殖を抑制できることを示す図である。
【図7】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度でVECの創傷治癒を誘導できることを示す図である。
【図8】カルノシン酸がローズマリーの他の含有成分と比較して、より低濃度でPDGF依存的なVSMCの遊走を抑制できることを示す図である。
【図9】カルノシン酸が酸化ストレスによるVECの細胞死を抑制できることを示す図である。
【図10】カルノシン酸が抗酸化酵素であるヘムオキシゲナーゼ-1、ヘムオキシゲナーゼ-2、及びスーパーオキシドジスムターゼ-1の発現を誘導することを示す図である。
【図11】VSMCにおいて、カルノシン酸の前処理が、ISによる細胞内ROSの上昇を抑制することを示す図である。
【図12】カルノシン酸の前処理が、IS依存的なVSMCの増殖および遊走を抑制できることを示す図である。
【図13】HK-2において、カルノシン酸が、IS依存的なMonocyte chemotactic protein-1(MCP-1)及びα-smooth muscle actin(α-SM actin)のmRNA上昇を抑制することができることを示す図である。
【図14】HK-2において、カルノシン酸が、IS依存的なTransforming growth factor-β(TGF-β)、MCP-1、及びα-Smooth muscle actinのタンパク質レベルの上昇を抑制することができることを示す図である。
【図15】HK-2において、カルノシン酸が、ヘムオキシゲナーゼ-1(HO-1)のタンパク質レベルを上昇させることを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。なお、本明細書において引用された全ての刊行物、例えば先行技術文献、及び公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込まれる。
【0013】
1.本発明の概要
前述したように、近年、本発明者らの研究等により、インドキシル硫酸の作用発現には活性酸素種(ROS;reactive oxygen species)の発生が深く関与していることが明らかとなった(Hidehisa Shimizu et al., 2009(前掲:非特許文献1))。
尿毒症物質であるインドキシル硫酸は、腎不全(慢性腎不全及び末期腎不全)により蓄積し、腎機能の低下(腎不全の進行)のみならず、動脈硬化をはじめとする種々の合併症の要因となる。
本発明者は、ローズマリー(シソ科植物)の主成分の一つであるカルノシン酸が、生体内において極めて高い抗酸化活性を誘導するものであり、その結果、インドキシル硫酸の作用を低濃度で抑制又は阻害し得るものであることを見出した。
【0014】
より詳細に説明すると、次の通りである。すなわち、生体内においては、多くの抗酸化タンパク質(HO-1等)の遺伝子発現が、転写因子Nrf2によって制御されている。通常の環境下(非ストレス下)では、Nrf2は、ユビキチンリガーゼKeap1と結合しており、プロテアソームにより恒常的に分解されているため、抗酸化タンパク質の発現は抑制状態にある。他方、非通常の環境下(ストレス下)にさらされると、細胞内のKeap1が修飾を受けて構造変化を起こし、Nrf2との相互作用(結合)が抑制される。そうすると、蓄積したNrf2が細胞核に移行し、一連の抗酸化タンパク質等の発現を亢進させ、その結果、抗酸化活性が誘導される。カルノシン酸はNrf2とKeap1との相互作用(結合)を弱め、Nrf2による抗酸化タンパク質の発現亢進を誘導し、結果として抗酸化活性を誘導することが知られている。
そして、このカルノシン酸及びその誘導体等を主成分とする医薬組成物及び機能性食品が、腎不全(慢性腎不全及び末期腎不全)の進行阻害、並びにその合併症の予防や改善に有効に用い得ることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
2.医薬組成物
本発明の医薬組成物は、前述した通り、カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩(以下「カルノシン酸等」ということがある)を有効成分として含むことを特徴とするものである。詳しくは、本発明の医薬組成物は、腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものであることが好ましい。
なお、本発明は、カルノシン酸等を用いること(具体的には、カルノシン酸等の有効量を患者に投与すること)を特徴とする腎不全の進行抑制方法、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療方法;腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用の薬剤を製造するためのカルノシン酸等の使用;腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のカルノシン酸等の使用;腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のカルノシン酸等をも含むものである。
【0016】
本発明において、腎不全としては、腎不全の進行過程(第1期〜第4期)に伴う腎機能が低下した状態をすべて含むものとするが、特に慢性腎不全及び末期腎不全の状態のことをいう。慢性腎不全とは、腎機能が正常時の30%以下程度に低下した状態をいい(例えば、血清クレアチニン値が3 mg/dL以上)、一般には第3期に相当する。末期腎不全とは、腎機能が正常時の10%以下に低下し(例えば、血清クレアチニン値が8 mg/dL以上)、そのままでは生命維持ができないため透析(人工透析)等が必要な状態をいい、一般には第4期に相当する。
本発明において、腎不全の合併症としては、限定はされないが、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血等が挙げられるが、中でも特に、動脈硬化、高血圧症及び糖尿病が、本発明の医薬組成物による予防及び治療の対象疾患として好適である。
【0017】
本発明の医薬組成物の有効成分である、ローズマリー葉成分のカルノシン酸は、公知の市販のもの(例えばシグマ社製等)を使用することができるが、限定はされず、独自に抽出及び精製等したものを使用してもよい。なお、カルノシン酸は下記式(1)で表されるものである。
【0018】
【化1】
【0019】
また、本発明の医薬組成物の有効成分としては、カルノシン酸と共に又はカルノシン酸に代えて、カルノシン酸誘導体を用いることもできる。当該誘導体としては、カルノシン酸由来の化学構造を有する等、当業者の技術常識に基づいてカルノシン酸の誘導体と考えられるものであればよく、限定はされないが、抗酸化活性の誘導能がカルノシン酸と同程度ものが好ましい。具体的には、カルノシン酸誘導体としては、例えば下記式(2)で表されるものが挙げられる。
【0020】
【化2】
【0021】
上記式(2)中、R1、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、酸素原子、任意に置換されてもよいC1-10アルキル、任意に置換されてもよいC2-10アルケニル、任意に置換されてもよいC2-10アルキニル、任意に置換されてもよいC6-14アリール、又は任意に置換されてもよい5〜14員ヘテロアリールを表し、R2は、カルボキシル基、アシル基、ヒドロキシル基、又はカルボニル基(これらの基は任意の基で置換されていてもよい)を表す。
ここで、R1、R2、R3及びR4における上記置換基は、酸素原子、C1-6アルキル、OR20及びCOOR20(R20は、水素原子、C1-6アルキル、若しくはC2-6アルケニルを表す。)のうちの1種又は複数種から選択される。なお、上記において、例えば「C1-10」との表記は、「炭素数1〜10の」との意味を表す。
【0022】
カルノシン酸及びその誘導体の薬理学的に許容し得る塩としては、限定はされないが、例えば、ハロゲン化水素酸塩(例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、及びヨウ化水素酸塩など)、無機酸塩(例えば、硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、炭酸塩、及び重炭酸塩など)、有機カルボン酸塩(例えば、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、フマル酸塩、及びクエン酸塩など)、有機スルホン酸塩(例えば、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、及びカンファースルホン酸塩など)、アミノ酸塩(例えば、アスパラギン酸塩、及びグルタミン酸塩など)、四級アミン塩、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、及びカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、マグネシウム塩、及びカルシウム塩など)などが好ましく挙げられる。
【0023】
カルノシン酸等としては、例えば、生体内で酸化、還元、加水分解、又は抱合などの代謝を受けるものも包含するほか、生体内で酸化、還元、又は加水分解などの代謝を受けてカルノシン酸等を生成する化合物をも包含する。
カルノシン酸等は、化合物の構造上生じ得るすべての異性体(例えば、幾何異性体、不斉炭素に基づく光学異性体、回転異性体、立体異性体、及び互変異性体等)及びこれら異性体の2種以上の混合物をも包含し、便宜上の構造式の記載等に限定されるものではない。また、カルノシン酸等は、S-体、R-体あるいはRS-体のいずれであってもよく、限定はされない。さらに、カルノシン酸等は、その種類により水和物の形で存在する場合もあり、本発明においては当該水和物もカルノシン酸等に含むものとする。
【0024】
本発明の医薬組成物において、有効成分としてのカルノシン酸等の含有割合は、限定はされず、適宜設定することができるが、例えば、医薬組成物全体に対して、0.01〜99重量%の範囲内とすることができ、さらに0.01〜95重量%、0.01〜90重量%、0.05〜80重量%、0.1〜70重量%、0.2〜50重量%、0.5〜30重量%又は1〜20重量%の範囲内としてもよい。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の医薬組成物は、腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療の効果を十分に発揮することができる。
本発明の医薬組成物は、カルノシン酸等以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で他の成分を含んでいてもよく、例えば、後述する薬剤製造上一般に用いられるもの等を含むことができる。
【0025】
本発明の医薬組成物は、ヒト又は非ヒト哺乳動物に対して、種々の投与経路、具体的には、経口、又は非経口(例えば静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、直腸投与、経皮投与)で投与することができる。従って、本発明に使用するカルノシン酸等は、単独で用いることも可能であるが、投与経路に応じて慣用される方法により薬学的に許容し得る担体を用いて適当な剤形に製剤化して用いることができる。
剤形としては、経口剤では、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、及びトローチ剤等が挙げられ、非経口剤では、例えば、注射剤(点滴剤を含む)、吸入剤、軟膏剤、点鼻剤、及びリポソーム剤等が挙げられる。なお、上述した各種経口剤とする場合、本発明の医薬組成物は、場合によりサプリメント剤(後述する本発明の機能性食品にも該当する)として利用することもできる。
【0026】
これら製剤の製剤化に用い得る担体としては、例えば、通常用いられる賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、及び矯味矯臭剤のほか、必要に応じ、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、増量剤、湿潤化剤、表面活性化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、及び無痛化剤等が挙げられ、医薬品製剤の原料として用いることができる公知の成分を配合して常法により製剤化することが可能である。
当該成分として使用可能な無毒性のものとしては、例えば、大豆油、牛脂、及び合成グリセライド等の動植物油;流動パラフィン、スクワラン、及び固形パラフィン等の炭化水素;ミリスチン酸オクチルドデシル、及びミリスチン酸イソプロピル等のエステル油;セトステアリルアルコール、及びベヘニルアルコール等の高級アルコール;シリコン樹脂;シリコン油;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、及びポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等の界面活性剤;ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びメチルセルロース等の水溶性高分子;エタノール、及びイソプロパノール等の低級アルコール;グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトール、及びポリエチレングリコール等の多価アルコール(ポリオール);グルコース、及びショ糖等の糖;無水ケイ酸、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、及びケイ酸アルミニウム等の無機粉体;塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機塩;精製水等が挙げられ、いずれもその塩またはその水和物であってもよい。
【0027】
賦形剤としては、例えば、乳糖、果糖、コーンスターチ、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビット、結晶セルロース、及び二酸化ケイ素等が、結合剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、メチルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、シェラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール・ポリオキシエチレン・ブロックポリマー、及びメグルミン等が、崩壊剤としては、例えば、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸カルシウム、デキストリン、ペクチン、及びカルボキシメチルセルロース・カルシウム等が、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ、及び硬化植物油等が、着色剤としては医薬品に添加することが許可されているものが、矯味矯臭剤としては、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、及び桂皮末等が、それぞれ好ましく挙げられ、いずれもその塩又はそれらの水和物であってもよい。
【0028】
本発明の医薬組成物の投与量は、一般には、製剤中の有効成分(カルノシン酸等)の配合割合を考慮した上で、投与対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況や、投与経路、投与回数(/1日)、投与期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の医薬組成物を、非経口剤又は経口剤として用いる場合について、以下に具体的に説明する。
非経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されないが、各種注射剤の場合は、例えば、単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態や、使用時に溶解液に再溶解させる凍結乾燥粉末の状態で提供され得る。当該非経口剤には、有効成分となるカルノシン酸等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、各種注射剤の場合は、水、グリセロール、プロピレングリコールや、ポリエチレングリコール等の脂肪族ポリアルコール等が挙げられる。
【0029】
非経口剤の投与量(1日あたり)は、限定はされないが、例えば各種注射剤であれば、一般には、有効成分となるカルノシン酸等を、適用対象(患者)の体重1kgあたり、1〜100mg服用できる量とすることができ、あるいは2〜50mg服用できる量や5〜10mg服用できる量とすることもできる。
経口剤として用いる場合、一般にその形態は限定されず、前述した剤形のいずれであってもよいし、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよい。当該経口剤には、有効成分となるカルノシン酸等のほかに、各種形態に応じ、公知の各種賦形材や添加剤を上記有効成分の効果が損なわれない範囲で含有することができる。例えば、結合剤(シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガカント、ポリビニルピロリドン等)、充填材(乳糖、糖、コーンスターチ、馬鈴薯でんぷん、リン酸カルシウム、ソルビトール、グリシン等)、潤滑剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ等)、崩壊剤(各種でんぷん等)、および湿潤剤(ラウリル硫酸ナトリウム等)等が挙げられる。
【0030】
経口剤の投与量(1日あたり)は、一般には、有効成分となるカルノシン酸等を、適用対象(被験者;患者)の体重1kgあたり、1〜100mg服用できる量とすることができ、あるいは2〜50mg服用できる量や5〜10mg服用できる量とすることもできる。また、経口剤中の有効成分の配合割合は、限定はされず、1日あたりの投与回数等を考慮して、適宜設定することができる。
【0031】
3.機能性食品
本発明の機能性食品は、前述した通り、カルノシン酸等を有効成分として含むことを特徴とするものである。詳しくは、本発明の機能性食品は、腎不全の進行抑制用、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものであることが好ましい。
食品の種類としては、経口摂取できるものであればよく、限定はされず、公知の各種食料及び飲料が含まれる。サプリメント剤(錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、被覆錠剤、カプセル剤、内用水剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤及びトローチ剤等)としての形態も、本発明の機能性食品に含まれる。
例えば、食料の具体例としては、例えば、調味料、マヨネーズ、ヨーグルト及び各種菓子等が挙げられ、飲料の具体例としては、例えば、ローズマリー茶、緑茶、コカコーラ、野菜ジュース、果物ジュース及び栄養ドリンク等が挙げられる。
なお、腎不全、腎不全の合併症、カルノシン酸等、カルノシン酸誘導体等に関しては、前記2.項での説明記載が適宜適用できる。
【0032】
本発明の機能性食品において、有効成分としてのカルノシン酸等の含有割合は、限定はされず、食品の種類及び形態等に応じて適宜設定することができるが、例えば、機能性食品全体に対して、0.01〜99重量%の範囲内とすることができ、さらに0.01〜95重量%、0.01〜90重量%、0.05〜80重量%、0.1〜70重量%、0.2〜50重量%、0.5〜30重量%又は1〜20重量%の範囲内としてもよい。有効成分の含有割合が上記範囲内であることにより、本発明の機能性食品は、腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び/又は治療の効果を十分に発揮することができる。
本発明の機能性食品は、カルノシン酸等以外にも、本発明の効果が著しく損なわれない範囲で他の成分を含んでいてもよい。
【0033】
本発明の機能性食品の摂取量は、一般には、食品中の有効成分(カルノシン酸等)の配合割合を考慮した上で、摂取対象(患者)の年齢、体重、病気の種類・進行状況、摂取回数(/1日)、摂取期間等を勘案し、適宜、広範囲に設定することができる。
本発明の機能性食品の摂取量(1日あたり)は、一般には、有効成分となるカルノシン酸等を、適用対象(被験者;患者)の体重1kgあたり、1〜100mg服用できる量とすることができ、あるいは2〜50mg服用できる量や5〜10mg服用できる量とすることもできる。
【0034】
4.キット
腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び治療を行うに当たっては、カルノシン酸等を含むキット(具体例として、前述した本発明の医薬組成物を含むキット)を用いることができる。
当該キットにおけるカルノシン酸等の形態は、限定はされないが、安定性(保存性)及び使用容易性等を考慮し、例えば溶解した状態で備えられていてもよい。
当該キットは、カルノシン酸等以外にも、適宜、他の構成要素を含むことができる。
当該キットは、構成要素として少なくとも前述したカルノシン酸等を備えているものであればよい。従って、腎不全の進行抑制、並びに腎不全の合併症の予防及び治療に必須となる構成要素の全てを、当該カルノシン酸等と共に備えているものであってもよいし、別々に備えているものであってもよく、限定はされない。
【0035】
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0036】
<材料>
下記の材料をそれぞれ入手して用いた(材料名:入手元)。
・インドキシル硫酸(IS): 株式会社クレハ
・ウシ血清アルブミン、トリプシン阻害剤、エラスターゼIII: Sigma
・コラゲナーゼI(#CLS1): Worthington Biochemical Co.
・ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM) high-gulcose (4500 mg/l)、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S): Sigma
・ウシ胎児血清(FBS): Gibco
・リン酸緩衝食塩水(PBS): Nissui Pharmaceutical
・PDGF-BB: Austral Biologicals
・BCATM Protein Assay Reagent: Pierce
・PVDFメンブレン: Millipore
・Phospho-ERK Antibody、phospho-p38 Antibody、Phospho-PDGF Receptorβ (Tyr857) antibody: Cell Signaling Technology
・Goat anti-rat IgG, HRP conjugated、Anti-mouse IgG, conjugated、Anti-PDGF Receptorβ: Santa Cruz Biotechnology
・Anti-α-Tubulin Mouse mAb(DM1A): Calbiochem
・Anti-Phosphotyrosine, clone 4G10: Upstate Cell Signaling Solutions
・Chemi-Lumi One L: ナカライテスク
・N-アセチル-L-システイン(NAC)、diphenyleneiodium (DPI)、PD98059、SB203580: Calbiochem
・2’,7’-ジクロロフルオレセイン(DCF): Wako
・Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit: Promega
・ポリカーボネートメンブレン: Corning
【0037】
<方法>
血管平滑筋細胞(VSMC)の単離・培養
日本チャールズリバー社より購入した5週齢雄のSprague-Dawley (SD)ラットより、エーテル麻酔下で、胸部大動脈を採取した。その後、3% P/Sを含むPBS(-)中で血管の周りの結合組織を除去した後、HEPES (42 mM)、ウシ血清アルブミン (0.2%)、トリプシン阻害剤 (375 mg/ml)、エラスターゼIII (125 mg/ml)を含むDMEMに血管を浸し、37℃で30分間酵素処理を行った。次に外膜を剥離し、血管を細かくなるまで切断して細胞を回収し、コラゲナーゼI (1 mg/ml)を含むDMEM中で37℃、2時間反応させた。その後、遠心分離(1000 rpm、5分、室温)を行い、細胞を回収して細胞培養用ディッシュで37℃、5% CO2存在下で培養した。継代数3代まではコラーゲンコート処理されたディッシュを用い、4代目以降は通常のディッシュを使用した。10% FBS、1% P/Sを含むDMEM high-glucose (4500 mg/ml)を用いて細胞を継代した。実験には継代数5代から10代までの細胞を用いた。
【0038】
細胞増殖の測定
Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit (Promega)を用いて細胞増殖を評価した。96穴プレートにVSMCを3 x 104 cells/well播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMで48時間同調培養した。その後、PDGF又はISを添加し48時間後、上記キットで評価した。ISの前処理実験では、VSMCを48時間同調培養後にISを添加し24時間培養し、PBS(-)を用いた洗浄によりISを除去した後、PDGFを添加し、さらに48時間培養した。
その結果を、図1(A)に示した。
【0039】
ボイデンチャンバー変法による遊走の測定
VSMCを10 cmディッシュに9 x 105cells播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMによって48時間同調培養を行った。細胞を回収し、フィブロネクチンコート処理をしたボイデンチャンバーに2 x 105 個の細胞を播種した。チャンバーの下位区画にIS又はPDGFを添加し、5時間後にメタノールで細胞を固定し、ヘマトキシリンで核を染色した。2〜7日後、メンブレン下側に遊走した細胞を顕微鏡で観察し、6視野当たりの細胞数を数え、細胞遊走を評価した。ISの前処理実験では、VSMCを48時間同調培養後にISを添加し、24時間培養した。その後、PBS(-)を用いた洗浄によりISを除去した後、細胞を回収し、ボイデンチャンバーに播種した。
その結果を、図1(B)に示した。
【0040】
細胞内活性酸素種(ROS)の測定
VSMCを3.5 cmディッシュに2 x 105 cells播種して接着させた後、0.1% FBSを含む培地で48時間同調培養を行った。その後、以下の2つの条件で細胞内ROS量を測定した。
第一の条件では、蛍光試薬2’,7’-ジクロロフルオレセインジアセテート (DCF-DA)を添加して15分間反応させた後、IS又はPDGFで10分間刺激し、HBSSで2回洗浄後、共焦点蛍光顕微鏡を用いて488 nmの励起波長で生じた蛍光強度を測定し、細胞内ROS産生の指標とした。第二の条件では、ISで24時間刺激したが、刺激終了15分前にDCF-DAを添加した。その後は、第一の条件と同様の処理を行った。
その結果を、図2(A)に示した。
【0041】
また、ISの前処理実験では、VSMCを48時間同調培養後にISを添加し、24時間培養した。培養終了15分前にDCF-DAを添加し、HBSSを用いた洗浄によりISを除去した後、PDGFで10分間刺激し、第一の条件で測定した。
その結果を、図2(B)に示した。
【0042】
ウェスタンブロッティング
反応後のVSMCは、ただちに-80℃で凍結した。その後、Lysis buffer (50 mM HEPES pH7.5, 50 mM NaCl, 1 mM EDTA, 5%グリセロール, 100 mM NaF, 10 mM ピロリン酸ナトリウム, 1% Triton X-100, 1 mM NaVO4, 1 mM PMSF, 10μg/ml アンチパイン, 10μg/ml ロイペプチン, 10μg/ml アプロチニン) を加え、スクレイパーで細胞を剥ぎ取り、回収した。氷上に20分間静置し、4℃、14000 rpmで15分間遠心分離を行い、上清を回収した。その後、BCATMProtein Assay Reagentを用いて回収した細胞抽出液のタンパク質濃度を測定し、一定量のタンパク質を含む細胞抽出液をSDS-PAGEに供した。泳動終了後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。その後、5%スキムミルク / TBS-Tまたは5% BSA / TBS-Tでブロッキングを行い、各種一次抗体で反応させた。1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、二次抗体を反応させた。再び、1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、Chemi-Lumi One Lを用いて、二次抗体に標識された西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)による化学発光を、LAS1000又はLAS4000miniにより検出した。
その結果を、図3に示した。
【実施例2】
【0043】
<材料>
下記の材料をそれぞれ入手して用いた(材料名:入手元)。
・インドキシル硫酸(IS):株式会社クレハ
・カルノシン酸: Sigma
・ロスマリン酸、コーヒー酸: Cayman
・ナリンギン: Extrasynthese
・ウルソル酸: Biomol
・Antibiotic-antimycotic、ウシ胎児血清(FBS): Invitrogen
・1000 mg/lグルコースを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM low glucose)、4500 mg/lグルコースを含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM high glucose)、ウシ血清アルブミン(BSA)、トリプシン阻害剤、エラスターゼIII、ペニシリン/ストレプトマイシン(P/S): Sigma
・コラゲナーゼI(#CLS1): Worthington biochemical Co.
・血小板由来増殖因子(PDGF): Austral Biologicals
・線維芽細胞増殖因子(bFGF): Pepro tech
・ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、L-アルギニン: Sigma
・H2O2、フィブロネクチン、メタノール、エタノール: Wako
・CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagent: Promega
・トリパンブルー: Gibco
・1-オレオイルリゾホスファチジン酸(LPA): Cayman
・ボイデンチャンバー: Corning
・1,1-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジル(DPPH): ナカライテスク
・ジアミノフルオレセイン-2 ジアセテート(DAF-2 DA): 第一化学薬品株式会社
・ISOGEN: ニッポンジーン
・イソプロパノール: ナカライテスク
・ランダムプライマー: Takara
・Reverse transcription buffer、Fast start + universal green master: Roche
・RNase阻害剤: Toyobo
・ジチオスレイトール(DTT)、M-MLV-Reverse transcriptase: Invitrogen
・クロロホルム: Wako
・dNTPs: Applied biosystems
・各種プライマー: RIKAKEN
【0044】
なお、上記カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン及びウルソル酸の具体的な構造式は下記の通りである。
【0045】
【化3】
【0046】
<方法>
1,1-diphenyl-2-picrylhydrazy(DPPH)ラジカル消去による抗酸化活性の評価
DPPH(400μM)、MESバッファー(200 mM、pH 6.0)及び20% エタノールを等量ずつ加えて混合液を調製した。予め、DPPHは100% エタノールに溶解させ400μMに調整し、MESバッファーはMillQに溶解させた後NaOH溶液を用いてpH 6.0、200 mMに調整した。200μMの各種化合物(トロロクス(6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethyl-chroman-2-carboxylic acid)(東京化成工業株式会社)、カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン、ウルソル酸及びエピガロカテキンガレート(EGCG)(三井農林株式会社))を最終濃度0〜50μM、総容量30μlになるように80% エタノールに溶解し、96 wellプレートに添加した。その後、各wellに混合液を90μlずつ添加し、10秒程度攪拌した。室温に20分間静置した後、マイクロプレートリーダーを用いて550 nmの波長を測定した。
その結果を、図4に示した。
【0047】
血管内皮細胞(VEC)の単離・培養
と畜場よりブタの胸部大動脈を入手し、PBS(-)で洗浄した後、3% P/Sを含むPBS(-)に30分以上浸して滅菌した。滅菌後の血管をハサミで切り開き、血管内側の表面の細胞を、メスを用いて採取した。その後、遠心(1500 rpm、5分、室温)によって細胞を回収し、上清を除去後、細胞培養用ディッシュで培養した。10% FBS、1% P/Sを含むDMEM low-glucose (1000 mg/l)を用い、5% CO2、37℃にて培養した。実験には4代から10代までの細胞を用いた。
【0048】
血管平滑筋細胞(VSMC)の単離・培養
日本チャールズリバー社より購入した5週齢雄のSprague-Dawley (SD)ラットより、エーテル麻酔下で、胸部大動脈を採取した。その後、3% P/Sを含むPBS(-)中で血管の周りの結合組織を除去した後、HEPES (42 mM)、ウシ血清アルブミン (0.2%)、トリプシン阻害剤 (375 mg/ml)、エラスターゼIII (125 mg/ml)を含むDMEMに血管を浸し、37℃で30分間酵素処理を行った。次に、外膜を剥離し、血管を細かくなるまで切断して細胞を回収し、コラゲナーゼI (1 mg/ml)を含むDMEM中で37℃、2時間反応させた。その後、遠心分離(1000 rpm、5分、室温)を行い、細胞を回収して細胞培養用ディッシュで37℃、5%CO2存在下で培養した。継代数3代まではコラーゲンコート処理されたディッシュを用い、4代目以降は通常のディッシュを使用した。10%FBSを含むDMEM high-glucose (4500 mg/ml)を用いて細胞を継代した。実験には継代数5代から10代までの細胞を用いた。
【0049】
細胞増殖の測定
Cell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kit (Promega)を用いて細胞増殖を評価した。
VECの場合、96穴プレートに細胞を2 x 104 cells/well播種し接着させた後、1% FBSを含むDMEMで16時間同調培養した。その後、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン及びウルソル酸)を調製し、カルノシン酸は最終濃度0.1、0.3、1、3、10、30μMとなるように添加し、その他の化合物については10、20、30μMとなるように添加して、さらに24時間培養した。その後、上記キットで評価した。
【0050】
VSMCの場合、96穴プレートに細胞を3 x 104 cells/well播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMで48時間同調培養した。続いてPDGF刺激群においては、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸、ナリンギン及びウルソル酸)を調製し、カルノシン酸は最終濃度1、3、10、30、100μMとなるように添加し、その他の化合物については最終濃度10、30、100μMとなるように添加して、30分後に、さらにPDGFを最終濃度20 ng/mlになるように添加し、48時間培養した。非刺激群においては化合物のみで48時間培養した。その後、上記キットで評価した。また、インドキシル硫酸に対するカルノシン酸の効果を調べる場合は、48時間同調培養後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM及び5μMとなるように添加し12時間培養した。その後、250μMのインドキシル硫酸存在下で48時間培養し、上記キットで評価した。
以上の結果を、図5、図6及び図12に示した。
【0051】
Wound healing assayによる創傷治癒の評価
VECを3.5 cmディッシュに2 x 105cells播き、8時間接着させた後、1% FBSを含むDMEMによって16時間同調培養を行った。続いて、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸、コーヒー酸及びナリンギン)を調製し、カルノシン酸は最終濃度3μMとなるように添加し、その他の化合物については最終濃度30μMとなるように添加して、30分後に200μlチップを用いて細胞層に模擬的な傷を作った。ポジティブコントロールとして5μMのLPAを用いた。傷を作った時間を0時間として、0時間と24時間後の傷周辺の写真を、明視野顕微鏡(LEICA DM IRBE)を用いて撮影した。1種類の化合物につき3視野の写真を撮影し、24時間経過後に傷の範囲内に移動した細胞数を計測し、創傷治癒能力の指標とした。
その結果を、図7に示した。
【0052】
ボイデンチャンバー変法によるVSMCの遊走の測定
VSMCを10 cmディシュに9 x 105cells播種し接着させた後、0.1% FBSを含むDMEMによって48時間同調培養を行った。続いて、最終濃度の100倍濃度の各種化合物(カルノシン酸、ロスマリン酸及びコーヒー酸)を調製し、カルノシン酸は最終濃度1μMとなるように添加し、ローズマリー酸とコーヒー酸は最終濃度10μMとなるように添加して、30分間反応させた後細胞を回収し、フィブロネクチンコート処理をしたボイデンチャンバーに2 x 105 cellsを播種した。PDGF刺激群においては下位区画にPDGFを最終濃度20 ng/mlとなるように添加した。各種化合物も上下両区画に添加した。5時間後にメタノールで細胞を固定し、ヘマトキシリンで核を染色した。2〜7日後、メンブレン下側に遊走した細胞を顕微鏡で観察し、6視野当たりの細胞数を数え、細胞遊走を評価した。また、インドキシル硫酸に対するカルノシン酸の効果を調べる場合は、48時間同調培養後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM及び5μMとなるように添加し12時間培養した。その後は、PDGFの代わりに、インドキシル硫酸を最終濃度250μMとなるように添加した以外は、上記と同様の条件で測定した。
その結果を、図8および図12に示した。
【0053】
VECのH2O2に対する保護効果の実験
96穴プレートに細胞を2 x 104 cells/well播種し接着させた後、1% FBSを含むDMEMで16時間同調培養した。その後、各化合物を添加し24時間培養後、化合物をPBSにより洗浄除去後、H2O2を最終濃度600μMとなるように添加し、さらに化合物非共存下で24時間培養した。細胞数はCell Titer 96 Aqueous One Solution Cell Proliferation Assay kitで評価した。
その結果を、図9に示した。
【0054】
Real-time PCRによるmRNA定量
VECを6 cmディッシュに5 x 105cellsで播き接着させた後、1% FBSを含むDMEMで16時間同調培養を行った。その後、カルノシン酸を添加し、図10に示す時間(12時間及び24時間)反応した。全RNA抽出はISOGEN(ニッポンジーン)を用い、添付のプロトコールに従って抽出した。全RNA(2〜5μg)を、ランダムプライマーを用いた逆転写反応に供した。逆転写によって得たcDNAにFast start + universal green master(0.72 x)、Fowardプライマー(0.2μM)及びReverseプライマー(0.2μM)をそれぞれ加え、7300 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosysteme)によってリアルタイムPCRを行った。各タンパク質のmRNA量を18SまたはGAPDHの発現量によって補正し比較した。
その結果を、図10に示した。
【0055】
細胞内活性酸素種(ROS)の測定
VSMCを3.5 cm dishに2 x 105 cells播種して接着させた後、0.1% FBSを含む培地で48時間同調培養を行った。その後、カルノシン酸の存在下と非存在下とでそれぞれ24時間培養し、蛍光試薬 2’,7’-dichlorofluoresein diacetate (DCF-DA)を添加し15分間反応させた後、ISで10分間刺激した。HBSSで2回洗浄後、共焦点蛍光顕微鏡を用いて488 nmの励起波長で生じた蛍光強度を測定し、細胞内ROS産生の指標とした。
その結果を、図11に示した。
【実施例3】
【0056】
<材料>
下記の材料をそれぞれ入手して用いた(材料名:入手元)。
・インドキシル硫酸(IS):株式会社クレハ
・カルノシン酸: Sigma
・Antibiotic-antimycotic、ウシ胎児血清(FBS): Invitrogen
・ダルベッコ変法イーグル培地/栄養混合物F12ハム(DMEM/F12): Sigma
・ISOGEN: ニッポンジーン
・イソプロパノール: ナカライテスク
・エタノール、クロロホルム: Wako
・N-アセチル-L-システイン(NAC)
・CellTiter 96(登録商標)AQueous One Solution Reagent: Promega
・Reverse transcription buffer、Fast start + universal green master: Roche
・RNase阻害剤: Toyobo
・MCP-1 Antibody、TGF-β Antibody:Cell Signaling Technology
・Anti-α-Tubulin Mouse mAb(DM1A): Calbiochem
・Goat anti-rat IgG, HRP conjugated、Anti-mouse IgG, conjugated
・α-SM actin Antibody: Sigma
・ジチオスレイトール(DTT)、M-MLV-Reverse transcriptase: Invitrogen
・dNTPs: Applied biosystems
・各種プライマー: RIKAKEN
【0057】
<方法>
ヒト近位尿細管細胞株HK-2の培養
ヒト近位尿細管細胞株HK-2をAmerican Type Culture Collectionから購入し、10%FBSおよびITS(インスリン 1 g/l、トランスフェリン 0.55 g/l、亜セレン酸ナトリウム 0.00067 g/l)を含むDMEM/F-12培地で培養した。
【0058】
Real-time PCRによるmRNA定量
HK-2細胞を3.5 cmディッシュに3 x 105 cellsで播き接着させた後、0.1% FBSを含むDMEM/F-12で12時間同調培養を行った。その後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM、5μMとなるように添加し、24時間培養後、さらに、インドキシル硫酸を最終濃度250μMとなるように添加して48時間反応させた。また、カルノシン酸の代わりにNACを加えた同様の実験を行った。その場合、12時間の同調培養後、NACを添加30分反応させた後、さらに72時間反応させた。全RNA抽出はISOGEN(ニッポンジーン)を用い、添付のプロトコールに従って抽出した。全RNA(2〜5μg)を、ランダムプライマーを用いた逆転写反応に供した。逆転写によって得たcDNAにFast start + universal green master(0.72 x)、Fowardプライマー(0.2μM)及びReverseプライマー(0.2μM)をそれぞれ加え、7300 Fast Real-Time PCR System(Applied Biosystems)によってリアルタイムPCRを行った。各タンパク質のmRNA量を18SまたはGAPDHの発現量によって補正し比較した。
その結果を、図13に示した。
【0059】
ウェスタンブロッティング
MCP-1、TGF-β、α-SM actin の検出に関しては、HK-2細胞を3.5 cmディッシュに3 x 105 cellsで播き接着させた後、0.1% FBSを含むDMEM/F-12で12時間同調培養を行った。その後、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM、5μMとなるように添加し、24時間培養後、さらに、インドキシル硫酸を最終濃度250μMとなるように添加して、72時間反応させた。HO-1の検出に関しては、上記同様12時間の同調培養を行った後、濃度依存性を調べる場合は、最終濃度の100倍濃度のカルノシン酸を調製し、最終濃度1μM、3μM、5μMとなるように添加し12時間培養した。また、時間依存性を調べる場合は、カルノシン酸を最終濃度5μMとなるように添加し、6時間、12時間、24時間培養を行った。反応後のHK-2は、ただちに-80℃で凍結した。その後、Lysis buffer (50 mM HEPES pH7.5, 50 mM NaCl, 1 mM EDTA, 5%グリセロール, 100 mM NaF, 10 mM ピロリン酸ナトリウム, 1% Triton X-100, 1 mM NaVO4, 1 mM PMSF, 10μg/ml アンチパイン, 10μg/ml ロイペプチン, 10μg/ml アプロチニン) を加え、スクレイパーで細胞を剥ぎ取り、回収した。氷上に20分間静置し、4℃、14000 rpmで15分間遠心分離を行い、上清を回収した。その後、BCATMProtein Assay Reagentを用いて回収した細胞抽出液のタンパク質濃度を測定し、一定量のタンパク質を含む細胞抽出液をSDS-PAGEに供した。泳動終了後、分離したタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。その後、5%スキムミルク / TBS-Tまたは5% BSA / TBS-Tでブロッキングを行い、各種一次抗体で反応させた。1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、二次抗体を反応させた。再び、1 x TBS-Tで15分間メンブレンを洗浄後、Chemi-Lumi One Lを用いて、二次抗体に標識された西洋わさびペルオキシダーゼ(HRP)による化学発光を、LAS1000又はLAS4000miniにより検出した。
【0060】
その結果を、図14及び図15に示した。
図14及び図15に示すように、本実施例により、カルノシン酸が抗酸化活性を介してインドキシル硫酸のVSMC、VEC及びHK-2に対する作用を効果的に抑制することが確認された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
腎不全の進行抑制用のものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
腎不全が、慢性腎不全又は末期腎不全である、請求項2又は3記載の組成物。
【請求項5】
腎不全の合併症が、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、機能性食品。
【請求項7】
腎不全の進行抑制用のものである、請求項6記載の食品。
【請求項8】
腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものである、請求項6記載の食品。
【請求項9】
腎不全が、慢性腎不全又は末期腎不全である、請求項7又は8記載の食品。
【請求項10】
腎不全の合併症が、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8記載の食品。
【請求項11】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、腎不全の進行抑制用キット。
【請求項12】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用キット。
【請求項13】
腎不全が、慢性腎不全又は末期腎不全である、請求項11又は12記載のキット。
【請求項14】
腎不全の合併症が、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12記載のキット。
【請求項1】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
腎不全の進行抑制用のものである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
腎不全が、慢性腎不全又は末期腎不全である、請求項2又は3記載の組成物。
【請求項5】
腎不全の合併症が、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項3記載の組成物。
【請求項6】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、機能性食品。
【請求項7】
腎不全の進行抑制用のものである、請求項6記載の食品。
【請求項8】
腎不全の合併症の予防及び/又は治療用のものである、請求項6記載の食品。
【請求項9】
腎不全が、慢性腎不全又は末期腎不全である、請求項7又は8記載の食品。
【請求項10】
腎不全の合併症が、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項8記載の食品。
【請求項11】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、腎不全の進行抑制用キット。
【請求項12】
カルノシン酸若しくはその誘導体又はそれらの薬理学的に許容し得る塩を有効成分として含むことを特徴とする、腎不全の合併症の予防及び/又は治療用キット。
【請求項13】
腎不全が、慢性腎不全又は末期腎不全である、請求項11又は12記載のキット。
【請求項14】
腎不全の合併症が、動脈硬化、高血圧症、高脂血症、糖尿病、腎性骨ジストロフィ、心膜炎及び貧血からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−32316(P2013−32316A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169646(P2011−169646)
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月2日(2011.8.2)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】
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