説明

腎損傷および他の主要な器官を処置するための、診断用および間葉系幹細胞(多能性間質細胞)特異的な治療用のバイオマーカーとしてのSDF−1(CXCL12)を使用する方法

本願は、患者の尿中でのバイオマーカーの量の変化を検出することによって、急性腎損傷を含む腎臓の病状の検出および診断を記載する。これらバイオマーカーとしては、基質由来因子(SDF−1もしくはCXCL12)が挙げられる。いくつかの実施形態によれば、本発明は、患者における急性腎損傷(AKI)の可能性を検出するか、またはAKIを診断するための方法を提供し、上記方法は、上記患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、上記患者から得た尿サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程によるものであり、ここで上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、上記尿サンプルにおいて、上記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度より高い場合、上記患者は、AKIを有する可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
この出願は、2008年10月22日に出願された米国仮出願第61/107,468号(この内容は、その全体が参考として本明細書に援用される)に対する優先権を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本願は、患者の尿および血清におけるバイオマーカーとしてのSDF−1もしくはCXCL12の量の変化を検出することによって、急性腎損傷(acute kidney injury)を含む、腎疾患および他の主要な器官(例えば、肝臓、心臓、脳、膵臓、肺)の疾患の検出、診断および処置に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
急性腎損傷(AKI)は、数時間もしくは数日内の腎臓の排出機能の急激な悪化として定義され、「尿毒症性毒素」の蓄積、および重要なことには、カリウム、水素および他のイオンの血中レベルでの上昇を生じ、それらの全ては、生命を脅かす多系にわたる合併症(例えば、出血、発作(seizure)、心不整脈もしくは心停止)、ならびに肺欝血および不十分な酸素取り込みによる考えられる容量過負荷の一因となる。AKIの最も一般的な原因は、腎の虚血傷害(これは、腎尿細管および糸球体後性血管内皮細胞の損傷を生じる)である。AKIのこの虚血形態についての主な病因としては、血管内容積縮小が挙げられ、これは、出血、血栓症事象、ショック、敗血症、主要な心血管の手術、動脈狭窄などから生じる。AKIの腎毒性形態は、放射線造影剤、かなりの数の頻繁に使用される医薬(例えば、化学療法剤、抗生物質、ならびにcis−白金およびシクロスポリンのような特定の免疫抑制剤)によって引き起こされ得る。もっともAKIの全ての形態に関するリスクがある患者としては、糖尿病、腎臓、肝臓、心血管疾患が根底にある患者、高齢者、骨髄移植のレシピエント、および癌および他の衰弱性の障害がある患者が挙げられる。
【0004】
AKIの虚血性形態および腎毒性形態の両方が、尿細管および微小血管内皮細胞の機能不全および死滅を生じる。致死に近い損傷した尿細管細胞は、脱分化し、それらの極性を失い、ビメンチン(間葉細胞マーカー)およびPax−2(胚性腎における間葉性−上皮分化転換のプロセスにおいてのみ通常は発現される転写因子)を発現する。損傷した内皮細胞はまた、特徴的な変化を示す。
【0005】
腎臓は、重篤な急性発作(insult)の後すら、自己再生の顕著な能力および結果として生じるほぼ正常な機能の再確立を有する。損傷したネフロンセグメントの再生は、生き残った尿細管細胞および内皮細胞の移動、増殖および再分化の結果であると考えられている。しかし、上記生き残った尿細管細胞および血管内皮細胞の自己再生能は、重篤なAKIでは大きい可能性がある。何れの原因からも区別されたAKI(すなわち、多臓器不全(MOF)なしで起こるAKI)を有する患者は、50%より高い死亡率を有し続けている。このひどい予後は、集中治療支援、血液透析、および心房性ナトリウム利尿ペプチド、インスリン様増殖因子−I(IGF−I)の最近の使用、より生体適合性の透析膜、持続的血液透析、および他の介入にも関わらず、改善されてこなかった。腎臓の自己防御および重篤な損傷後の自己再生能を高めることが急務である。
【0006】
AKIの別の急性の形態(移植関連急性腎不全(TA−ARF))はまた、早期移植片機能不全(EGD)といわれ、一般に、腎移植の際に、死体ドナーから移植片を受けている患者において主に発症するが、TA−ARFは、生体の血縁のあるドナー腎を受けている患者においても生じ得る。現在行われている腎移植のうちの最大50%までが、死体ドナーを利用する。重大なTA−ARFを発症している腎臓のレシピエントは、移植片機能が回復するまで、血液透析による処置を必要とする。TA−ARFのリスクは、高齢のドナーおよびレシピエント、限界の移植片品質、ならびに上記レシピエントにおける顕著な併存疾患の罹病率(comorbidity)および以前の移植、ならびに死体ドナーからのドナー腎増の採取と、上記レシピエントへのその移植との間にある長い時間(「冷虚血時間」として公知)とともに増大する。早期移植片機能不全もしくはTA−ARFは、深刻な長期間の成り行き(consequence)を有する。それらとしては、TA−ARFにより開始される進行性の不可逆的な腎機能喪失に起因する移植片喪失の加速、および上記腎移植片の早期の喪失をもたらす急性拒絶エピソードの発生率の増大が挙げられる。従って、TA−ARFもしくはEGDに起因する早期移植片機能不全の処置を提供する必要性は大きい。
【0007】
慢性腎不全(CRF)もしくは慢性腎疾患(CKD)は、ネフロンの進行性の喪失および結果として腎機能の喪失であり、末期腎疾患(ESRD)を生じる。この時点で、患者の生存は、透析支援もしくは腎移植に依存する。上記ネフロン(すなわち、糸球体、細管および毛細血管)の進行性の喪失は、いつまでもとどまる線維症、炎症性および硬化プロセス(糸球体および腎間質において最も顕著医に発現される)から生じるようである。ネフロンの喪失は、糖尿病性腎症、糸球体腎炎、多くのたんぱく尿障害、高血圧症、腎臓に対する脈管炎性、炎症性、および他の傷害によって最も一般的に開始される。現在利用可能な形態の治療(例えば、アンジオテンシン転換酵素インヒビター、アンジオテンシンレセプターブロッカー、他の降圧薬および抗炎症薬(例えば、ステロイド、シクロスポリンなど)の投与、脂質低下剤、ω−3脂肪酸、低タンパク質食餌、最適な体重、血圧および血糖のコントロール(特に、糖尿病において)は、上記の状態において腎機能の慢性的な喪失を顕著に遅らせ得かつときおり停止させ得る。ESRDの発症は、いくらかの従順な患者および遅延した他の患者において予防され得る。これらの成功にも拘わらず、長期にわたる透析もしくは移植を要するESRDを有する患者数の年間増加は、6%のままであり、このことは、引き続き増大している医療負担および経済的負担を表している。従来の治療に応答できない患者(すなわち、腎機能が悪化し続けている患者)を処置するために、CRFもしくはCKDおよびそれによるESRDの有効な処置の新たな介入の開発が急務である。幹細胞処置は、腎臓における線維症プロセスを停止する/改善する(reverse)ために提供される。
【0008】
臨床上の急性腎損傷(AKI)を診断するために、血清クレアチニン(SCr)および血中尿素窒素(BUN)の濃度を測定する、現在使用されている実験的試験は、所定の腎臓傷害(ショック、外傷、敗血症、大手術、薬物)の24〜48時間後にのみ、AKIを同定することができることは、現在十分に認識されている。AKIのこの診断の遅れは、治療的介入もしくは予防的介入の開始の遅れに繋がる。それによって、高死亡率(50%を超える)、長期の入院生活、一過性の透析の必要性、腎機能の不可逆的な損失(長期の透析処置もしくは腎移植を要する)、および上昇する医療費によって特徴付けられる、不十分な結果しか生じない。
【0009】
実験的AKIは、マウス腎臓において上記ケモカインSDF−1(CXCL12)の顕著なアップレギュレーションを引き起こし、SDF−1の同族レセプターであるCXCR4を発現する細胞のホーミングを媒介することが、以前(非特許文献1)報告された。造血幹細胞(HSC)、内皮前駆細胞(EPC)、および間葉系幹細胞もしくは多能性間質細胞(Multipotent Stromal Cell)(MSC)はともに、CXCR4を発現し、損傷した腎へのそれら細胞の増加は、CXCR4もしくはAMD3100(CXCR4の特異的ブロッカー)に対する中和抗体によってブロックされ得る。生理学的に、SDF−1レベルは、骨髄ニッチにおいて最高であり、それによって、骨髄移植物の補充(recruitment)および生着(engraftment)を促進する。実験的AKIにおいて、SDF−1の腎でのレベルは、骨髄中のものより大きく、このことは、AKIの予防および処置のために与えられるMSCの増加を促進する。
【0010】
AKIの早期診断のための他の新規なバイオマーカーは、ヒトにおいて既に試験されてきた。これらとしては、NGAL、IL−18、KIM−1、およびL型脂肪酸結合タンパク質(非特許文献2;非特許文献3;および非特許文献4)が挙げられる。これらバイオマーカーはまた、実験的および臨床上の急性腎不全において診断的およびいくらか予後予測的(prognostic)な有用性を有することが示された。しかし、上記バイオマーカーとは異なって、AKIを有する腎臓におけるSDF−1の強力なアップレギュレーション、および尿へのその初期の放出(損傷後2時間以内)は、AKIを特異的に診断し、重要なことには、そして同時に、MSCベースの治療が最も有効かつ示された時点で同定する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】F.Toegelら Kidney International(2005)62:1772〜1784
【非特許文献2】JM Thurmanら Kidney International(2008)73:379〜81
【非特許文献3】CR Parikhら Kidney International(2008)73:801〜3
【非特許文献4】WH Hanら Kidney International(2008)73:863〜9
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の要旨)
いくつかの実施形態によれば、本発明は、患者における急性腎損傷(AKI)の可能性を検出するか、またはAKIを診断するための方法を提供し、上記方法は、上記患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、上記患者から得た尿サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程によるものであり、ここで上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、上記尿サンプルにおいて、上記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度より高い場合、上記患者は、AKIを有する可能性がある。いくつかの実施形態によれば、上記患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、上記患者がAKIに罹患する前の時点で、上記患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって、決定される。いくつかの実施形態において、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度は、数名の被験体に由来する尿中で測定して、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度が決定される。いくつかの実施形態において、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)は、上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される。いくつかの実施形態において、上記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される。
【0013】
本発明はまた、患者における多臓器不全(MOF)の可能性を検出するか、またはMOFを診断するための方法を提供し、上記方法は、上記患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、上記患者の血清中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、上記患者から得られた尿サンプルおよび血清サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程によるものであり、ここで上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、上記尿サンプルおよび上記血清サンプルにおいて、上記尿もしくは血清中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度より高い場合、上記患者は、MOFを有する可能性がある。いくつかの実施形態によれば、上記患者の尿もしくは血清中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、上記患者がMOFに罹患する前の時点で、上記患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される。いくつかの実施形態において、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度は、数名の被験体に由来する尿もしくは血清中で測定して、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度が決定される。いくつかの実施形態において、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)は、上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される。いくつかの実施形態において、上記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される。
【0014】
本発明はまた、患者におけるAKIを処置するための方法を提供し、上記方法は、上記患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、上記患者から得た尿サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程によるものであり、ここで上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、上記尿サンプルおよび上記血清サンプルにおいて、上記正常なレベルより高い場合、間葉系幹細胞(MSC)の治療上有効な量が、上記患者に投与され、それによって、上記患者におけるAKIを処置する。いくつかの実施形態によれば、上記患者の尿もしくは血清中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、上記患者がAKIに罹患する前の時点で、上記患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される。いくつかの実施形態において、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度は、数名の被験体に由来する尿もしくは血清中で測定して、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度が決定される。いくつかの実施形態において、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)は、SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される。いくつかの実施形態において、上記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される。いくつかの実施形態において、MSCの治療上の用量は、約1×10〜1.5×10細胞の間である。いくつかの実施形態において、上記MSCは、密度勾配から単離され、ここで上記MSCが存在する勾配の密度は、1.050〜1.070g/mlの間である。いくつかの実施形態において、上記MSCは、投与する前に、血小板溶解物(PL)中で培養される。
【0015】
本発明はまた、患者におけるAKIを処置するための方法を提供し、上記方法は、by 上記患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、CD26を投与して、上記患者から得た尿サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程によるものであり、ここで上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度は、上記尿サンプルおよび上記血清サンプルにおいて、上記正常なレベルより高い場合、間葉系幹細胞(MSC)の治療上有効な量は、上記患者に投与され、それによって、上記患者におけるAKIを処置する。いくつかの実施形態によれば、上記患者の尿もしくは血清中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、上記患者がAKIに罹患する前の時点で、上記患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される。いくつかの実施形態において、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度は、数名の被験体に由来する尿もしくは血清中で測定して、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度が決定される。いくつかの実施形態において、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)は、上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される。いくつかの実施形態において、上記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される。いくつかの実施形態において、MSCの治療上の用量は、約1×10〜1.5×10細胞の間である。いくつかの実施形態において、上記MSCは、密度勾配から単離され、ここで上記MSCが存在する勾配の密度は、1.050〜1.070g/mlの間である。いくつかの実施形態において、上記MSCは、投与する前に、血小板溶解物(PL)中で培養される。
【0016】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、ドナーから患者への腎移植のための方法を提供し、上記方法は、上記ドナーの尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程、上記ドナーから得た尿サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程によるものであり、ここで上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度は、上記尿サンプルおよび上記血清サンプルにおいて、上記正常なレベルより高い場合、間葉系幹細胞(MSC)の治療上有効な量は、上記腎臓が移植されるときに上記患者に投与される。いくつかの実施形態によれば、上記患者の尿もしくは血清中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、上記患者がAKIに罹患する前の時点で、上記患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される。いくつかの実施形態において、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度は、数名の被験体に由来する尿もしくは血清において測定して、上記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度が決定される。いくつかの実施形態において、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)は、上記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される。いくつかの実施形態において、上記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される。いくつかの実施形態において、上記MSCの治療上の用量は、約1×10〜1.5×10細胞の間である。いくつかの実施形態において、上記MSCは、密度勾配から単離され、ここで上記MSCが存在する勾配の密度は、1.050〜1.070g/mlの間である。いくつかの実施形態において、上記MSCは、投与する前に、血小板溶解物(PL)中で培養される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、急性腎損傷(AKI)の前後の種々の時点での、ラットにおける血清クレアチニンの濃度を示す棒グラフである。
【図2】図2は、AKIの前後の種々の時点での、ラットにおける血漿SDF−1の濃度を示す棒グラフである。
【図3】図3は、AKIの前後の種々の時点での、ラットにおける尿中SDF−1の濃度を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明のタンパク質、ヌクレオチド配列、ペプチドなど、および方法が記載される前に、本発明が、記載される特定の方法論、プロトコル、および試薬に限定されず、これらが変動し得ることは、理解される。本明細書に記載される用語法が、特定の実施形態を記載する目的に過ぎず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される発明の範囲を限定することを意図しないこともまた、理解されるべきである。
【0019】
よって、本発明は、尿中SDF−1レベルにおける示された上昇が、腎傷害後2時間以内に急性腎損傷(AKI)を診断するための新たなツールを提供することを示す。本明細書に提供される方法は、腎臓保護的治療の初期の開始を可能にし、独特なことには、MSCの投与が腎傷害を処置するに最も有効である腎傷害後の時点を同定する。特定の薬物が、腎臓におけるそのCD26(ジペプチジルペプチダーゼIV)媒介性不活性化によって、SDF−1の腎臓発現を長期化し、それによって、AKIにおいて投与されたMSCのホーミングおよび腎臓保護的活性を強化するために有用であることは、国際出願番号PCT/US08/001371(その全体が本明細書に参考として援用される)に示された。重要なことには、このような介入はまた、MSC倹約効果(sparing effect)(すなわち、同じ有益な効果が、少数のMSCで達成されることを可能にする)を有すると予測される。従って、SDF−1は、MSC治療の有効性にとって重要であり、尿中のSDF−1の高レベルの検出は、MSCの投与に都合のよい時間を示す。
【0020】
尿中SDF−1レベルの上昇はまた、死体ドナーからの腎採取の時点に起こる。生体ドナー由来の腎臓におけるSDF−1レベルの上昇は、上記ドナー腎臓のAKIを診断するために使用され得、かつ臓器移植の時点でMSC治療の有用性を同定し得、それによって、手術後AKI(移植片機能の遅れ)および拒絶に起因するその後の移植片喪失でのAKI誘導性の上昇に起因する移植片喪失の増大を改善する。
【0021】
尿および血液の両方におけるSDF−1レベルの同時測定は、急性腎損傷(血中レベルで大きな上昇なしに尿レベルで増大)と、腎外器官(例えば、肝臓、脳、心臓、肺、膵臓など)の傷害(腎臓の負担なしの血中レベルでの増大)との間の区別を可能にする非常に有用なツールを提供する。多臓器不全(MOF)の状況において、SDF−1の血中レベルおよび尿中レベルは上昇し、このことは、多臓器の傷害を示す。MOFは、敗血症を有する(特に、後者は、大手術もしくは外傷後に発生する場合)最も重篤に病んでいる患者において発生する。これはまた、高齢の患者、糖尿病、根底にある心血管疾患および損傷した免疫防御を有するヒトにおいて非常に頻繁にかつ重篤に生じる。MOFは、ショック、AKI、漏出性の(leaky)細胞膜、肺、肝臓、心臓、血管および他の器官の機能不全によって特徴付けられる。MOFに起因する死亡率は、最も積極的な治療形態(挿管および換気支援、昇圧剤および抗生物質の投与、ステロイド、血液透析、ならびに非経口栄養が挙げられる)の利用にも拘わらず、100%に近づいている。これら患者のうちの多くは、手術もしくは外傷の創傷の治癒が重篤に損なわれており、感染した場合には、これら創傷は、再発性の感染、病的状態および死亡にさらに寄与する。
【0022】
SDF−1プロファイリング(尿および血液)は、現在の技術水準を超える以下の利点を有する。これは、AKIの非常に初期の診断を可能にする。AKI後の尿中SDF−1におけるピーク上昇は、AKI治療が最も有効であるときを示す。いかなる腎臓治療も、SDF−1プロファイリングによって管理され得る。AKI治療の一例は、MSC治療である。AKI後の尿中SDF−1のピーク上昇は、MSC治療が最も有効であるときを示す。本発明のSDF−1プロファイリング方法とともに使用される代替の治療の例としては、国際公開番号WO 04/044142およびWO 08/042174(これは、それら全体が本明細書)に記載されるものが挙げられる。SDF−1プロファイリングは、AKIと、他の腫瘍器官(心臓、脳、肝臓、肺、膵臓など)の傷害との間の区別を可能にする。SDF−1プロファイリングは、死体腎臓ドナーにおける腎傷害の初期評価を可能にし、移植後のMSC投与の効力を同時に同定する。ハイリスク手順(心臓手術)の前の上昇した尿中SDF−1レベルは、不十分な腎臓の結果を予測し、MSC治療が有効且つ必要とされることを示す。上昇した尿中SDF−1は、慢性腎疾患(糖尿病、糸球体腎炎、高血圧症など)を有する患者が、進行性の疾患を有し、そしてMSC治療に応答し得ることを示し得る。
【0023】
SDF−1プロファイリングは、AKIを有するかもしくはAKIのリスクがあると疑われる患者において、簡単な診断特異的で、予後特異的でかつ治療特異的な試験を提供する。このことは、処置(MSC治療)の初期かつ特異的な開始を可能にする。このような情報は、世界中の非常に多くの患者において非常に有用である。
【0024】
SDF−1プロファイリングはまた、尿中レベルおよび血中レベルにおける特徴的変化から、腎臓傷害と他の主要器官の傷害との間の区別を提供する。このことは、集中治療室患者において特に有用である。
【0025】
SDF−1プロファイリングは、死体ドナーから得た移植用腎臓の健康状態の評価を可能にし、移植後のMSC治療が結果を改善するときを示す。
【0026】
MSC治療後のSDF−1プロファイリングは、さらなるMSC治療が、AKIを有する患者腎移植後患者、および進行性慢性腎疾患もしくは他の主要器官の傷害を有する患者において必要とされるか否かを決定するために使用され得る。
【0027】
まとめると、SDF−1プロファイリングは、全世界の非常に多くの患者において、高い診断的、予後予測的かつ治療的な価値のある、完全に特有のバイオマーカーを提供する。特定的治療(MSC投与)が最も有効である時点を同定するとともに、AKIを初期に診断するその能力は、このバイオマーカーと他のバイオマーカー(例えば、NGAL、IL−18、KIM−1、L型脂肪酸結合タンパク質)とを基本的に区別する。後者は、腎傷害を早期に同定するが、所定の時点で最も有効である特定の介入タイプについての情報を提供しない。
【0028】
(SDF−1量の決定)
患者の尿、血清もしくは任意の他の体液におけるSDF−1の量は、特定のタンパク質のタンパク質濃度およびまたは存在もしくは非存在を検出するために使用される当該分野で公知の任意のアッセイを使用して測定され得る。SDF−1タンパク質検出の方法としては、ウェスタンブロットイムノアッセイ、免疫組織学、蛍光活性化セルソーティング(FACS)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、経口免疫アッセイ、酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)、もしくは固体支持体(例えば、ラテックスビーズ)を使用するイムノアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0029】
いくつかの実施形態によれば、腎臓も器官の病状もない患者に由来するコントロールサンプルは、相対的SDF−1量もしくは1の濃度値を割り当てられる。好ましい実施形態において、尿中SDF−1量、レベルおよび濃度は、尿中クレアチニン量、レベルおよび濃度に対して正規化される。この場合、AKIに罹患しているもしくはAKIに罹った患者もしくは被験体におけるSDF−1の増加量は、少なくとも2倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、および100倍増大し得る。倍数増加は、AKIの開始時期と、尿サンプルが上記AKIに罹患しているかもしくは罹っている患者もしくは被験体から採取された時期との間の時間量に依存する。コントロールに対するSDF−1の最高の倍数誘導は、AKI後2時間〜24時間の間であるはずである。上記患者もしくは被験体の尿中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度は、この時期の後に徐々に減少するはずである。
【0030】
腎臓もしくは器官の病状に対する化合物の効果は、患者の体液(好ましくは、血清もしくは尿)中のSDF−1の量もしくは濃度を検出することによって測定され得る。患者の体液中のSDF−1の量もしくは濃度に影響を及ぼす任意の適切な生理学的変化は、本発明の方法に従って検出され得る。好ましくは、上記腎臓の病状は、急性腎損傷(AKI)である。
【0031】
さらに、腎臓もしくは他の器官の病状の処置のためのMSCの投与に適したタイミングは、患者の体液(好ましくは、血清もしくは尿)中のSDF−1の量もしくは濃度を検出することによって測定され得る。虚血再灌流傷害(IRI)が、SDF−1(CXCL12)の腎臓レベルが骨髄中のものを上回る急激な上昇を引き起こすようにすることが示された。このことは、CXCR4発現(SDF−1レセプター)細胞(例えば、投与された間葉系幹細胞(MSC)、循環内皮前駆細胞などの腎臓ホーミングを強化する。AKIの直後および24時間後のMSC、およびそれらの投与は、腎機能を強力に保護し、複雑なパラクリン機構を介する腎修復を促進する。よって、AKI後の尿中SDF−1/クレアチニン濃度比の顕著な上昇は、AKIの早期診断を促進し、腎へのMSCのホーミングが、所定の時点で与えられる場合には、強化され得ることを同時に示す。このことは、続いて、最適化された腎臓の強化および修復を生じる。
【0032】
(医療用途)
本発明の組成物は、患者の体液中のSDF−1の検出を介して、器官もしくは腎臓の病状を検出および/もしくは診断するために有用である。好ましくは、これら体液は、血清および/もしくは尿である。腎臓の病状としては、急性腎損傷(AKI)が挙げられる。AKIは、腎前性の原因(低下した血液容積、肝腎症候群、血管の病状、および感染が挙げられる)によって引き起こされ得る。AKIはまた、腎性の原因(毒素、横紋筋融解、溶血、多発性骨髄腫、および急性糸球体腎炎が挙げられる)によって引き起こされ得る。AKIはまた、腎後性の原因(通常の膀胱が空になることを妨げる医薬、前立腺癌、腎臓結石、腹部悪性腫瘍、もしくは遮断された尿カテーテルが挙げられる)によって引き起こされ得る。AKIによってしばしば開始される多臓器不全の状況における他の主要器官の種々の傷害、またはAKI自体はまた、SDF−1のアップレギュレーションを引き起こす。
【0033】
本発明の組成物はまた、AKIと関連したMSC治療の投与のタイミングに有用である。SDF−1レベルが、患者の尿中で高いときに、MSCは、AKIの処置のために投与されるべきである。さらに、CD26インヒビターは、上記患者に投与され得、上記患者の尿中のSDF−1レベルが上記患者において決定され得、ここで上記SDF−1レベルが高いときに、MSC治療は、患者に投与される。本発明の組成物はまた、移植されるべき腎臓が、MSCの投与と共に移植されるべきであるか否かを決定するために有用である。ドナーの尿が、多量のSDF−1を含む場合、上記ドナーの腎臓が上記患者に移植されるときに、治療上有効な用量のMSCと同時に投与することは好ましい。
【0034】
さらに、腎臓および他の場所でSDF−1を不活性化する基本的な酵素であるCD26(ジペプチジルペプチダーゼIV)の薬理学的阻害は、臨床的に使用中である薬物(例えば、シタグリプチン、JanuviaTM)で容易に可能であるので、CD26インヒビターおよびMSCの両方でのAkiを有する患者の処置は、投与されたMSCの、腎臓へのSDF−1媒介性補充を高める。このことは、続いて、それらの腎臓保護効力を強化すると同時に、少数のMSCしか必要としない。この組み合わせ治療は、よって上記患者にとって有利であり、MSCの生成コストも下げる。
【0035】
レシピエントにおける採取の時期および移植の時期での、ドナー腎臓の機能は、後の移植片機能の遅れ(DGF)の程度(すなわち、移植後AKIの重篤度)を決定する。このことは、続いて、腎移植レシピエントにおける初期の結果(透析の必要性、入院期間の増大、AKIの罹病率および死亡率)およびその後の、拒絶に起因する移植片喪失の頻度の両方を決定する。腎採取時、移植時、および移植後の尿中SDF−1およびクレアチニンレベルの測定は、上記レシピエントにおける移植片機能の予後予測的評価を可能にし、MSC投与自体、またはCD26インヒビターと一緒の投与が、顕著なDGFに対する保護および拒絶に起因するその後の移植片喪失の二次的な上昇において有益であることを決定する。
【0036】
(間葉系幹細胞(MSC))
本発明に従うMSCは、例えば、米国特許出願公開第20070178071号(その全体が本明細書に参考として援用される)に記載されている。血小板溶解物(PL)中でのMSCの培養は、米国仮特許出願第61/086,033号(これもまた、その全体が本明細書に参考として援用される)に非常に詳細に記載されている。治療上有効な投与量のMSCの特定の実施形態は、米国特許出願第11/913,900号(これもまた、その全体が本明細書に参考として援用される)に非常に詳細に記載されている。MSCの治療効果を強化するためにCD26インヒビターを使用することは、国際出願番号PCT/US08/001371(これもまた、その全体が本明細書に参考として援用される)に記載されている。密度勾配によるMSCの単離の特定の実施形態は、米国特許出願公開第20070160583号(これもまた、その全体が本明細書に参考として援用される)に示される。
【0037】
(定義)
別段定義されなければ、本明細書で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載されるものと類似もしくは等価な方法および材料が、本発明の実施もしくは試験する上で使用され得るが、適切な方法および材料は、以下に記載される。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、それらの全体が本明細書に参考として援用される。矛盾する場合、定義を含め、本願明細書が優先する。さらに、材料、方法および実施例は、例示に過ぎず、限定であることを意図しない。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかである。
【0038】
本明細書で記載される実施形態の理解を促進する目的で、好ましい実施形態に言及がなされ、特定の語句が、これを記載するために使用される。本明細書で使用される用語法は、特定の実施形態を記載する目的のみであり、本発明の範囲を限定することは意図されない。この開示全体を通して使用される場合、単数形「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、および「上記、この、その(the)」は、文脈が明らかに別のことを指さなければ、複数形を含む。従って、例えば、「1つの(ある)組成物」への言及は、複数のこのような組成物、同様に単数の組成物を含み、「1つの(ある)治療剤」への言及は、1つ以上の治療剤および/もしくは薬剤ならびに当業者に公知のその等価物などへの言及である。従って、例えば、「1つの(ある)宿主細胞」への言及は、複数のこのような宿主細胞を含み、「1つの(ある)抗体」への言及は、1種以上の抗体および当業者に公知のその等価物などへの言及である。
【0039】
本明細書に記載される実施形態の理解を促進する目的で、患者もしくは被験体のサンプル中のSDF−1の多量もしくはより多量が意味することに、言及が為される。本発明は、SDF−1の量、レベルおよび/もしくは濃度が、AKIを有する患者もしくは被験体の血液もしくは尿中で顕著に上昇していないが、AKIを有する患者および被験体の尿中のSDF−1の量、レベルおよび/もしくは濃度が顕著に上昇しているという予測外の所見に基づいている。本発明はまた、SDF−1の量、レベルおよび/もしくは濃度が、多臓器不全(MOF)を有する患者もしくは被験体の血液もしくは血清および尿中で顕著に上昇するという予測外の所見に基づく。
【0040】
いくつかの実施形態において、SDF−1の量は、尿中クレアチニンの量、レベルおよび/もしくは濃度に対して正規化される。この場合、AKIに罹患しているもしくはAKIに罹った患者もしくは被験体におけるSDF−1の増加量は、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも30倍、少なくとも40倍、少なくとも50倍、少なくとも60倍、少なくとも70倍、少なくとも80倍、少なくとも90倍および少なくとも100倍増大し得る。倍数増加は、AKIの開始時と、尿サンプルが上記AKIに罹患しているもしくは罹患した患者もしくは被験体から採取される時期との間の時完了に依存する。コントロールを上回るSDF−1の最高の倍数誘導は、AKI後2時間〜24時間の間(例えば、AKI後4時間、6時間、8時間、10時間、12時間、14時間、16時間、18時間、20時間、および/もしくは22時間)であるはずである。上記患者もしくは被験体の尿中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度は、この期間の後に徐々に減少するはずである。
【実施例】
【0041】
以下の実施例は、本発明の方法および組成物の例示であるが限定ではない。治療において通常遭遇し、当業者にとって明らかな種々の条件およびパラメーターの他の適切な改変および適合は、上記実施形態の趣旨および範囲内である。
【0042】
(実施例1:SDF−1レベルは、急性腎損傷に罹ったラットにおいて増大する)
ラットにおけるAKIの標準的虚血/再灌流モデル(例えば、両方の腎動脈の一時的クランプ止め、続いて、クランプ除去後の再灌流)を使用して、血清および尿中のSDF−1レベル(特異的ELISA;R&D Systems)を、血清クレアチニンレベルおよび尿中クレアチニンレベルとともに、AKIの誘導後2時間、5時間、12時間、24時間、48時間および72時間にモニターし、およびAKIの7日後に再びモニターした。SDF−1の血清レベルは、これら時点で最小限にしか上昇しなかった一方で、SCrレベルは、72時間にわたって連続的に上昇し、7日目にベースラインに向かって徐々に下降した。対照的に、尿中SDF−1レベル(尿中クレアチニンに対して正規化した)は、2時間、5時間、12時間および24時間で非常に顕著に上昇し、その後徐々に低下した。尿中SDF−1/クレアチニン濃度比は、2時間で13倍、5時間で68倍、24時間で4倍、およびIRI後7日で1.7倍(対 ベースライン)、顕著に増加した。このことは、腎臓で生成されたSDF−1が、尿中に放出されることを示す。SDF−1の血中レベルは、腎機能が低下するにつれても本質的に変化しないままであるので、血中SDF−1の、尿中SDF−1レベルへの貢献度は、無視してよい。現在の研究は、血清、腎臓(mRNA、タンパク質)、および尿において、ラットにおけるAKI後のSDF−1発現プロフィールをさらに規定している。
【0043】
(実施例2:SDF−1レベルが尿サンプル中で上昇したときに急性腎損傷に罹ったラットへ投与されたMSCは、保護された腎機能および加速した回復を生じる)
ラットにおける同じAKIモデルを使用して、MSCを、以前のように(F.Toegel C. Westenfelder. Am J Physiol Renal Physiol 289:F31−F42,2005)、尿中SDF−1レベルがそのピークを迎えたとき(AKI後約5時間)およびSDF−1レベルが落ち始めたとき(24時間後)に投与した。MSCの早期の投与は、腎機能の保護および腎機能の回復の加速において最も有効であった。
【0044】
(実施例3:SDF−1レベルは、急性腎損傷に罹患したヒトにおいて増加している)
血清SDF−1レベルおよび尿中SDF−1レベルを、血清クレアチニンレベルおよび尿中クレアチニンレベルとともに、急性腎損傷(AKI)に罹患したヒト被験体においてモニターし、AKI後7日目に再びモニターし、AKIを経験していないヒト被験体におけるSDF−1レベルと比較する。SDF−1の血清レベルは、これら時点において最小限にしか上昇しないと予測される一方で、SCrレベルは、72時間を超えても連続的に上昇し、7日目にベースラインに向かって徐々に低下する。対照的に、本発明者らは、尿中SDF−1レベル(尿中クレアチニンに対して正規化した)が、2時間、5時間、12時間、および24時間で顕著に上昇し、その後徐々に低下すると予測する。
【0045】
(実施例4:MSC投与後のラットにおけるAKIの血中SDF−1、腎臓SDF−1および尿中SDF−1の発現レベル)
血中SDF−1、尿中SDF−1および腎臓SDF−1のレベルを、AKIに罹ったラット(例えば、両方の腎動脈を一時的にクランプ止めし、続いて、クランプ除去後に再灌流)においてモニターする。SDF−1レベルを、AKIの誘導後2時間、5時間、12時間、24時間、48時間、および72時間でモニターし、AKI後7日目に再びモニターする。本発明者らは、SDF−1の血清レベルが、これら時点で最小限にしか上昇しない一方で、SDF−1の腎臓レベルおよび尿中レベルは、2時間、5時間、12時間および24時間で顕著であり、その後徐々に低下すると予測する。
【0046】
(実施例5:MSC投与後のラットにおける慢性腎疾患モデルの血中SDF−1、腎臓SDF−1および尿中SDF−1の発現レベル)
血中SDF−1、尿中SDF−1および腎臓SDF−1のレベルを、慢性腎疾患モデルに供したラットにおいてモニターする。SDF−1レベルを、慢性腎疾患の誘導後の種々の時点でモニターし、慢性腎疾患の誘導後7日目に再びモニターする。本発明者らはまた、慢性腎疾患に罹り、MSC治療で処置したラットにおける血液、尿および腎臓中のSDF−1の発現を評価する。
【0047】
(実施例6:MSC投与ありまたはなしの、後に腎移植のドナーをつとめるラットにおける血中SDF−1、腎臓SDF−1および尿中SDF−1の発現レベル)
血中SDF−1、尿中SDF−1および腎臓SDF−1のレベルを、腎臓ドナーをつとめるラットにおいてモニターする。本発明者らはまた、MSC治療で処置している腎臓ドナーを務めるラットにおいて血液、尿および腎臓中のSDF−1の発現を評価する。
【0048】
(実施例7:MSC投与ありまたはなしの、後に腎移植のためのドナーをつとめるヒトにおける血中SDF−1、腎臓SDF−1および尿中SDF−1の発現レベル)
血液SDF−1、尿中SDF−1および腎臓SDF−1のレベルを、腎臓ドナーをつとめるヒトにおいてモニターする。本発明者らはまた、MSC治療で処置している腎臓ドナーをつとめるヒト被験体における血液、尿および腎臓におけるSDF−1の発現を評価する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出を必要とする患者において急性腎損傷(AKI)の可能性を検出する方法であって、該方法は、
a.該患者の尿中のSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程;および
b.該患者から得た尿サンプル中のSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程、
を包含し、ここで該SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、該尿サンプルにおいて、該SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度より高い場合、該患者は、AKIを有する可能性がある、
方法。
【請求項2】
前記患者の尿における前記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、該患者がAKIに罹患する前の時点で、該患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を、数名の被験体に由来する尿中で測定して、該SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を決定する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)が、前記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記尿中のSDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
検出を必要とする患者において多臓器不全(MOF)の可能性を検出する方法であって、該方法は、
a.該患者の尿におけるSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程;
b.該患者の血清におけるSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程;および
c.該患者から得た尿サンプルおよび血清サンプルにおけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程;
を包含し、
ここで該SDF−1の量、レベルもしくは濃度は、該尿サンプルおよび該血清サンプルにおいて、尿もしくは血清における該SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度より高い場合、該患者は、MOFを有する可能性がある、
方法。
【請求項7】
前記患者の尿もしくは血清における前記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、該患者がMOFに罹患する前の時点で、該患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を、数名の被験体に由来する尿もしくは血清中で測定して、該SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を決定する、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)が、前記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
処置を必要とする患者においてAKIを処置する方法であって、該方法は、
a.該患者の尿におけるSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程;および
b.該患者から得た尿サンプルにおけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程、
を包含し、ここで該SDF−1の量、レベルもしくは濃度は、該尿サンプルおよび該血清サンプルにおいて、該正常なレベルより高い場合、治療上有効な量の間葉系幹細胞(MSC)が該患者に投与され、それによって、該患者におけるAKIを処置する、
方法。
【請求項12】
前記患者の尿もしくは血清における前記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、該患者がAKIに罹患する前の時点で、該患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を、数名の被験体に由来する尿もしくは血清において測定して、該SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を決定する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)は、前記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記MSCの治療上の用量は、約1×10〜1.5×10細胞の間である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記MSCは、密度勾配から単離され、該MSCが存在する該勾配の密度は、1.050〜1.070g/mlの間である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記MSCは、投与する前に、血小板溶解物(PL)中で培養される、請求項11に記載の方法。
【請求項19】
処置を必要とする患者においてAKIを処置する方法であって、該方法は、
a.該患者の尿におけるSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程;および
b.該患者から得た尿サンプルにおけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定するためにCD26を投与する工程、
を包含し、ここで該SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、該尿サンプルおよび該血清サンプルにおいて、該正常なレベルより高い場合、治療上有効な量の間葉系幹細胞(MSC)が、該患者に投与され、それによって、該患者におけるAKIを処置する、
方法。
【請求項20】
前記患者の尿もしくは血清における前記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、該患者がAKIに罹患する前の時点で、該患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を、数名の被験体に由来する尿もしくは血清において測定して、該SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を決定する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)が、前記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記治療上の用量のMSCは、約1×10〜1.5×10細胞の間である、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
前記MSCは、密度勾配から単離され、該MSCが存在する該勾配の密度は、1.050〜1.070g/mlの間である、請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記MSCは、投与する前に、血小板溶解物(PL)中で培養される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
ドナーから患者へ腎臓を移植する方法であって、該方法は、
a.該ドナーの尿におけるSDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度を提供する工程;および
b.該ドナーから得た尿サンプルにおけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定する工程、
を包含し、ここで
該SDF−1の量、レベルもしくは濃度が、該尿サンプルおよび該血清サンプルにおいて、該正常なレベルより高い場合、治療上有効な量の間葉系幹細胞(MSC)が、該腎臓が移植されるときに該患者に投与される、方法。
【請求項28】
前記患者の尿もしくは血清における前記SDF−1の正常なレベル、量もしくは濃度は、該患者がAKIに罹患する前の時点で、該患者におけるSDF−1の量、レベルもしくは濃度を測定することによって決定される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を、数名の被験体に由来する尿もしくは血清において測定して、該SDF−1の正常な量、レベルもしくは濃度を決定する、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
酵素結合イムノソルベントアッセイ(ELISA)が、前記SDF−1の量、レベルもしくは濃度を検出するために使用される、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記尿中SDF−1は、尿中クレアチニンに対して正規化される、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記治療上の用量のMSCは、約1×10〜1.5×10細胞の間である、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記MSCは、密度勾配から単離され、該MSCが存在する勾配の密度は、1.050〜1.070g/mlの間である、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
前記MSCは、投与する前に、血小板溶解物(PL)中で培養される、請求項27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−506558(P2012−506558A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533183(P2011−533183)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/005776
【国際公開番号】WO2010/047822
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(511031065)アローキュア インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】