腎機能監視のための予測的な腎臓安全性生物マーカーおよび生物マーカーサイン
腎臓毒性または肝臓毒性、より具体的には病気もしくは薬物治療の結果としての腎尿細管毒性の診断または予測に使用しうる生物マーカーサインが特定された。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物マーカーサインならびに腎臓毒性または肝臓毒性、より具体的には病気もしくは薬物治療の結果としての腎尿細管毒性の監視、予後、診断、および/または治療のための方法および装置におけるその使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
末期の腎不全への進行は、タンパク尿のある多様な腎障害に共通する最終的な経路である。タンパク尿の程度は、腎疾患の進行速度に関連する。
【0003】
ヒトタンパク尿症において、尿細管間質性損傷は、糸球体損傷よりも腎機能の低下の予測に優れている。フィルター処理した尿細管毒性血漿タンパク質がこの関連性に寄与すると考えられているが、これらのタンパク質の性質は定かではない。フィルター処理したタンパク質は、ケモカインやサイトカインを排泄する近位尿細管細胞(PTC)の活性化により、部分的にその損傷効果を発揮し、結果的に炎症、間質性線維芽細胞の筋形質変換(myotransformation)、線維形成、およびアポトーシスが発生する。これが最終的に、末期の腎不全につながる。従って腎尿細管上皮細胞は、間質損傷の進行にとって重要であると考えられる。タンパク尿は、尿細管損傷および間隙性線維症の原因であることが提唱されてきた。
【0004】
この技術において、薬物治療後または病気のせいで腎機能が損なわれている時に、動物およびヒトでの腎臓や肝臓の機能を判定・監視する継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
本発明は、腎臓および肝臓の状態、機能および完全性を診断または予測するための試験および装置を提供する。本発明の生物マーカー、その他の臨床化学パラメーターあるいはその組み合わせは、腎臓または肝臓の状態の診断、薬物誘発性の腎毒性または肝毒性などの有害事象の監視、腎臓または肝臓の状態を基にした薬物による治療方法の適応、または腎臓または肝臓における病気の診断またはその有病性のための臨床試験の開発のための試験法、試験または装置に変換しうる。
【0006】
本発明によって、本書に提示したデータを基にした腎毒性または肝毒性の予測、分類、相関および診断が可能となる。
【0007】
また本書に記載したのは、動物での研究であり、ここでさまざまなモデルの腎毒性物質および肝毒性物質をさまざまな投薬方式を使用して動物に投与した。さまざまな生体試料をさまざまな時点で動物から採取した。尿、血液、器官組織、器官組織からのmRNAおよび血液を、さまざまな時点で、またさまざまな治療群で試料採取した。動物は、生体内での期間およびその後に、さまざまな方法を用いて、特に臨床的観察、生体内でのデータ(体重、摂食量、器官(特に腎臓および肝臓)の肉眼検査や顕微鏡検査など)を使用して評価した。
【0008】
図面は、例としての好ましい実施態様を描写するものであり、限定するためではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、生体内での研究で動物に投与した化合物のリストである。
【図2】図2は、10回の全研究で報告された腎臓の病変数を示す。この数を程度別および治療群別(腎毒性物質で治療した動物と、賦形剤および肝毒性物質で治療した動物)に小区分した。
【図3】図3は、10回の生体内での試験で報告された組織病理学的な腎臓の病変を示す表である。発生数は、程度別および治療群別(腎毒性物質で治療した群と、賦形剤および肝毒性物質で治療した群)に分類した。
【図4】図4は、シスプラチン研究での組織病理学的な腎臓の基質である。各列は局在的な病変を表す。各行は動物1個体に対応し、それによって動物は、用量群別(対照群、低用量群、中用量群、および高用量群)に、また各用量群内で、終了時点別の順序になっている。病変が報告されている場合には、程度がオレンジ色の四角内に該当する程度(グレード1、グレード2〜5、報告なし/グレード0)が記入されている。支配的な過程はラベル付けされている。
【図5】図5は、10回の生体内での試験で報告された組織病理学的な肝臓の病変を示す表である。発生数がリストされている。
【図6】図6は、生物マーカー用のROC(受信者動作特性)分析結果と、一定の病状についての現行の標準を示す表である。第1列は生物マーカーを表し、第2列は分子化合物、第3列は生物マーカーを測定した媒体、および第4列はROC 分析を実施した病状である。第5列は、AUCおよびその標準的エラーである。第6列は生物マーカー値が該当する病状の存在に応じて増加(+)するか、または減少(−)するかを示す。第7列および第8列は、対応する分析で使用した動物の数を表す。第11列は95%特異性(第10列)について対応する感度を示し、第9列は生物マーカーの該当する閾値を示す。当該の生物マーカー以外に、現行の標準であるBUNおよび血清クレアチニンについての結果も、10種の当該の病状について示した。この表は、リストした特定の腎臓の病状を監視するリストした具体的な生物マーカーの装置、評価法、診断試験または診断キットの実施の利用および性能を示す。
【図7】図7は、さまざまなタンパク質生物マーカー別の肝毒性の評価を示す一組の散布図である。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の肝毒性物質ANIT(α-ナフチルイソチオシアン酸)を投与した動物から獲得した。この研究では、用量に関連した組織病理学の所見は、肝臓(腎臓ではなく)で観察したものである。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはさまざまな色の陰影で表し、試料採取の時点はラベルにより表示している。生物マーカーレベルは、用量と関連性があり、そのため用量に関連した肝毒性とも関連性がある。これらのプロットで表現した生物マーカーは、血漿中のALAT測定値(図7A上)、血漿中のリポカリン-2測定値(図7A下)、血漿中のGST-mu測定値(図7B上)および尿中のリポカリン-2測定値(図7B下)である。
【図8】図8は、さまざまなタンパク質生物マーカーおよび臨床化学パラメーター別の肝毒性の評価を示す一組の散布図である。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の腎毒性物質シスプラチンを投与した動物から獲得した。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、症例対照動物(腎臓に組織病理学的所見のなかった賦形剤投与群の動物)で観察された最高の生物マーカーレベルを示す。この線よりも高いタンパク質レベルは、著しく増大した(症例対照群について100%特異性)。さまざまな臨床パラメーターおよびタンパク質で、さまざまな感度の腎臓損傷が検出されている。腎臓損傷および腎機能について現在の標準的な補助的検査(peripheral test)である血清中クレアチニン測定値は、最も感応性の低い方法である(図8A上)。血漿中シスタチンC測定値(図8A下)、尿中Kim-1測定値(図8B上)、尿中リポカリン-2測定値(図8B下)、尿中オステオポンチン測定値(図8C上)および尿中クラステリン測定値(図8C下)で、著しい腎臓の所見のある動物がより多く識別されている。
【図9】図9は、さまざまな遺伝子を腎臓由来のmRNAに転写することによる腎臓損傷の評価を示す一組の散布図である。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の腎毒性物質シスプラチンを投与した動物から獲得した。このプロットでは、発現値(Polr2gを基準としたCT値)を示している。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、対照動物で観察された最も高い発現(プロットでは最低の値)を示す。この線より下の値は、著しく増大した発現レベルに相当する(非投与動物群について100%特異性)。Kim-1(図9A)とCyr61(図9B)の両方で、腎臓損傷が早期に(より早い時点で)、組織病理学的な試験よりもより感応性の高い方法で(より低い用量レベルで)検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
定義。本書で使用するとき、「腎毒性」または「腎損傷」あるいは同様に「腎障害」という用語はすべて、数多くの病気、または(限定はされないが)、敗血症I(感染)、ショック、外傷、腎臓結石、腎感染、薬物毒性、毒物または毒素、またはヨード造影剤の注射後(副作用)といった急性腎毒性の障害過程、ならびに長期にわたる高血圧、糖尿病、うっ血性心不全、狼蒼、または鎌状赤血球貧血といった慢性腎毒性の障害過程により引き起こされうる、急激であるか(急性)あるいはゆっくりとした時間をかけて低下するか(慢性)のいずれかの、腎臓の不全または機能障害を意味するものとする。どちらの形態の腎不全も、生命にかかわる代謝性の混乱の原因となる。
【0011】
「体試料」という表現には、限定されないものの、好ましくは肝臓の生体組織、ならびに血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、嚢胞液、腹水、尿、糞便および胆汁などの体液が含まれる。本発明の一利点は、1つのマーカーを血漿や尿などの体液で特によく監視できることである。例えば、クラステリンの発現レベルは、特に血漿中でよく判定できる。
【0012】
本書で使用するとき、「個体」という用語は、1人のヒト、マウスやラットなど1匹の動物、または個体の母集団またはプールを意味するものとする。
【0013】
本書で使用するとき、「候補薬剤」または「薬物候補」という用語は、タンパク質またはその断片、抗体、小分子の阻害剤もしくは作動薬、核酸分子、油有機および無機の化合物およびこれに類するものなど、天然のまたは合成的な分子でもよい。
【0014】
一般的方法。本発明の実施においては、分子生物学、微生物学、および組換えDNAにおける数多くの従来的な技術が使用される。これらの技術は、公知であり、例えば、『Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I, II, and III, 1997(F. M. Ausubel ed.)』、『Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)』、『DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, D. N. Glover ed.(1985)』、『Oligonucleotide Synthesis, M. L. Gait ed.(1984)』、『Hames & Higgins, Nucleic Acid Hybridization,(1985)』、『Transcription and Translation, Hames & Higgins eds.(1984)』、『Animal Cell Culture, R. I. Freshney ed.(1986)』、『Immobilized Cells and Enzymes,(IRL Press, 1986)』、『Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning; the series, Methods in Enzymology(Academic Press, Inc., 1984)』、『Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, J. H. Miller & M. P. Calos eds.(Cold Spring Harbor Laboratory, 1987)』、および『Methods in Enzymology Vol. 154 and Vol. 155(Wu & Grossman, and Wu, eds., respectively)』に説明がある。
【0015】
本書で引用したすべての参考文献は、それぞれ個別の公報または特許または特許出願があらゆる目的でその全文が参照により具体的かつ個別的に組み込まれていると示されているとおり、それと同一範囲を参照することにより、その全文をあらゆる目的で組み込む。さらに、本書で引用したすべてのGenBank受入番号、Unigene Cluster番号およびタンパク質受入番号は、それぞれそうした番号があらゆる目的でその全文が参照により具体的かつ個別的に組み込まれていると示されているとおり、それと同一範囲を参照することにより、その全文をあらゆる目的で組み込む。
【0016】
本発明の生物マーカー。腎臓組織の幾つかの生物マーカー(表1および表2にリスト)のゲノムおよびタンパク質の発現を測定した。尿中および血漿中の関連するタンパク質の過程も測定した。組織におけるゲノムまたはタンパク質の発現、尿および血漿濃度の相関は、組織病理学を用いて、またタンパク尿(表2)などの検尿パラメーター、およびクレアチニン、血液尿素窒素(BUN)およびcreative クリアランスなどの血漿臨床化学パラメーター(表2参照)を用いた。調査の対象は、尿中腎臓生物マーカーが腎臓の組織損傷および潜在的な腎機能を反映しているかどうかであった。
【0017】
表1は、転写レベル(腎臓由来および肝臓由来のmRNA)について、またタンパク質レベル(尿中および血液中)について評価した生物マーカーのリストを提供する。表1のこれらの生物マーカーの測定については、下記に詳しく説明する。
【表1】
【0018】
本発明の生物マーカーは以下のとおりである。
カルビンジンD-28kは、大きなEF-handファミリーのカルシウム結合タンパク質メンバーである。カルビンジンD-28kは、あらゆる綱の脊椎動物および広範な組織内に存在する。数人の研究者が、腎臓内で最大量のカルビンジンD-28kが遠位尿細管に局在化していることを示しているが、これはカルシウム吸収の部位としての遠位尿細管の役割と関連している。『Rhoten WB et al., Anat. Rec. 227:145-151』、『Borke JL et al., Am. J. Physiol.(Renal Fluid Electrolyte Physiol)257: F842-F849 26(1989)』。その上、加齢に伴うカルビンジンD-28kの発現の減少が、年齢に関連した腸および腎臓でのCa++運搬の減少に寄与している可能性があることが示されている。『Armbrecht HJ et al., Endocrinology 125: 2950-2956(1989)』。シクロスポリンA誘発によるラット腎臓のカルビンジン-D 28kタンパク質の減少は、そのmRNAの減少の結果である。『Grenet O et al., Biochem. Pharmacol. 55(7): 1131-1133(1998)』、『Grenet O et al., Biochem. Pharmacol. 59(3): 267-272(2000)』。
【0019】
クラステリンは、テストステロン抑制前立腺応答因子2(TRPM-2)としても知られており、腎臓を含めた数多くの器官で組織損傷および/または再形成の際に誘発される偏在性の分泌性糖タンパク質であり、また上皮管の細管内腔でも見つかっている。『Jenne DE & Tschopp J, Trends Biochem. Sci. 14: 154-159(1992)』。クラステリンは、そうでなければ腎臓の損傷によって混乱を起こす細胞の相互作用を保存することが考えられる。『Silkensen JR et al., J. Am. Soc. Nephrol. 8(2): 302-305(1997)』。その上、シクロスポリンA(CsA)によって、ラット腎臓でのクラステリンmRNAレベルが増加する。『Darby IA et al., Exp. Nephrol. 3(4): 234-239(1995)』。
【0020】
上皮細胞増殖因子(EGF)は、細胞増殖、分化、および急性期応答を媒介できる分子クラスに属する小規模なポリペプチドである。EGF mRNAは、主に腎臓の細胞内で転写される。実験的に誘発された各種形態の急性腎不全で、腎臓EGFについてのmRNAおよびタンパク質レベルが著しく低下し、長期間にわたり低い状態が維持された。『Price PM et al., Am J Physiol. 268(4 Pt 2): F664-670(1995)』。その上、EGFは、腎臓の虚血性外傷の後での腎臓の尿細管の再生(Di Paolo S, et al., Nephrol Dial Transplant 2: 2687-2693(1997))、および薬物誘発性腎毒性の後での腎臓の組織修復(Morin NJ et al., Am. J. Physiol. 263: F806-F811(1992))において重要な役割を果たすと考えられている。EGFの発現レベルは、慢性の拒絶反応または薬物誘発性腎毒性に苦しむ腎臓移植患者で著しく減少することが示されてきた。さらに、シクロスポリンA(CsA)治療後の腎臓におけるEGF発現の減少が報告されている。『Deng JT et al., Transplant Proc. 26(5): 2842-2844』、『Yang CW, et al., Kindey Int. 60: 847-857(2001)』。
【0021】
腎臓損傷分子-1(Kim-1)は、細胞外の6個のシステイン免疫グロブリン領域を含む1型膜タンパク質である。Kim-1 mRNAおよびタンパク質は、正常な腎臓では低レベル(ほとんど未検出)で発現されるが、虚血後の腎臓の近位尿細管では劇的に増加する。Kim-1は、虚血後の腎臓の形態学的完全性および機能の回復に関係している。『Ichimura T et al., J. Biol. Chem. 273: 4135-4142(1998)』。Kim-1は時に、「Havcr1」と称されることがある。さまざまなタイプの損傷後の早期および大量の尿細管の発現により、Kim-1は間質の損傷過程を方向付ける機序の回復または損傷との関連が考えられる、尿細管細胞損傷の特異的マーカーとなっている。参照により本書に組み込まれたWO 2004/005544を参照。
【0022】
α-2uグロブリンに関連したタンパク質(α-2u)は、リポカリン2(LCN2)またはヒトでの好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)とも呼ばれるが、好中球の顆粒内に保存される。これは小規模な親油性物質と結合し、また炎症における役割があると考えられている。『Bundgaard JR et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 202: 1468-1475(1994)』、『Cowland JB & Borregaard N, Genomics 45: 17-23(1997)』、『Zerega B et al., Eur. J. Cell Biol. 79, 165-172(2000)』。
【0023】
オステオポンチン(OPN)は、分泌性リンタンパク質1(SPP1)としても知られており、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)細胞接着モチーフを含む、分泌性、強酸性のグリコシル化リンタンパク質である。OPNの上方制御は、幾つかの腎損傷モデルで例証されており、組織の再造形および修復における潜在的な役割が示唆されている。『Persy VP et al., Kidney Int. 56(2): 601-611(1999)』。オステオポンチンは、尿中シュウ酸カルシウム結石の主要な構成要素であることが分かった。『Kohri K et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 84: 859-864(1992)』。その上、OPNは尿中の結石生成の傾向があるラットの遠位尿細管細胞で、非常に多く発現する。『Kohri K et al., J. Biol. Chem. 268: 15180-15184(1993)』。
【0024】
ポドシンは、PDCN、SRN1、ネフローゼ2、特発性としても知られるが、腎臓の有足細胞で発現し、糸球体透過性の調節の役割を果たすタンパク質である。これは、胎児性および成長した腎糸球体の有足細胞でほぼ排他的に発現する。有足細胞のタンパク質(例えば、ポドシン)の突然変異は、結果的に先天性巣状分節状糸球体硬化を招く(Komatsuda A et al., Ren. Fail. 25(1): 87-93(2003))。また主にステロイド抵抗性ネフローゼ症候群との関係がある。
【0025】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、血管新生の促進、血管浸透性の増大、単球走化因子としての役割をすることが知られ、また糖尿病、創傷治癒、炎症反応、および組織再造形における役割をもつ。『Benjamin LE, Am J Pathol. 158: 1181-1184(2001)』。
【0026】
各マーカーは、異なる腎臓の病理所見と関連しうるため、腎臓の病状と特異的に関連したマーカーの遺伝子発現生成物の特定が可能である。例えば、カルビンジン-D28kレベルは、ミネラル化に対するカルシウム障害予測のための早期マーカーとして使用される。Kim-1レベルは、一般の腎臓傷害のマーカーである。OPNレベルは、腎臓毒性との関連がよくあるマクロファージ浸潤の早期マーカーで、また腎損傷時の組織の再造形のマーカーである。EGFレベルは、一般の腎臓毒性のための早期マーカーである。クラステリンレベルは、免疫介在性腎臓毒性の早期マーカーである。
【0027】
表2は、尿中および血液中で判定した臨床化学パラメーターのリストである。表2のこれらの生物マーカーの測定については、下記に詳しく説明する。
【表2】
【0028】
生体内研究の結果および組織病理学。10回のラット生体内研究すべてが首尾よく実施された。第3日、第7日、第14日、第21日および第22日に終了したほぼすべての動物から十分な尿が回収できた。完全なデータセット(腎臓の組織病理学、尿中臨床化学、尿中タンパク質生物マーカー、血液の臨床化学、血漿タンパク質生物マーカー、腎臓のmRNA生物マーカー)が入手できた動物のみを分析し、ここに報告する。腎毒性物質で治療した動物447体、賦形剤で治療した動物188体、および肝毒性物質で治療した動物104体を含む、合計739体の動物からのデータを分析した。9個の試料で、尿中Kim-1測定が入手されず、84個の試料で血液中Kim-1測定が入手されなかった。これらの試料は、Kim-1分析については除外したが、その他のパラメーターおよび生物マーカーの分析については含めた。
【0029】
図2に、組織病理学評価のグレードの分布を示す。グレード1とグレード2の所見が優勢なこと、およびグレード5の病変がないことは、主に軽度の腎毒性を誘発するという目標が達成されたことを示す。賦形剤投与および肝毒性物質投与の動物でのかなりの数のグレード1およびいくらかのグレード2の所見は、このプロジェクトで実施された組織病理学評価の感度レベルを示している。用量に依存した著しい腎毒性は、肝毒性物質では誘発されなかった。図3に、各グレードの発生数を含め、腎毒性物質投与の動物と対照動物(賦形剤投与および肝毒性物質投与)に分けて、報告されたすべての局在的な病変の詳細リストを示す。75種の異なる局在的な所見が観察された。
【0030】
さまざまなタイプの病変は、通常は孤立しては観察されなかったが、一般にさまざまな分子プロセスを表す非常に相関性の高いかたちで観察された。図4に、シスプラチン研究でのすべての組織病理学的所見を示す。この過程は、ネフロンの孤立した単独のセグメントには影響しないが、複数のセグメントに相関したかたちで影響する(例えば、近位尿細管および下行する直尿細管)。さらに、用量順および時間順の動物に沿った分子過程の論理的配列が観察できる。損傷の結果としての壊死が見られた後、好塩基球増加や有糸分裂などの再生過程が見られたが、ここで二次的な過程が並列して発生した(例えば、尿細管の肥大、尿細管拡張、細胞の腐肉形成(sloughing)など)。
【0031】
生物マーカーの認定には、2つの結果がある。第一に、生物マーカーの発現に最もよく対応する適切なレベルの局在化の詳細が見られるべきこと。第二に、生物マーカーの発現の引き金となる分子現象に対応する単一の組織病理学の描写が分子過程に組み込まれるべきであることである。こうして、局在的な病変がここで10のさまざまな過程に組み込まれたが、ここで各試料について、最も高いグレードに対応する局在的な病変を組み込んだ病状に割り当てた。具体的に、以下の10の病理学的過程を調査する。
【0032】
1. 近位尿細管損傷:管状セグメントS1、S2またはS3のどれかに局在した、または非局在の「壊死」、「アポトーシス」または「尿細管細胞腐肉形成」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0033】
2. 糸球体変質/損傷:「メサンギウム細胞増殖」、「メサンギウム細胞拡張」、「糸球体空胞化」または「間隙性ボーマン嚢線維症」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0034】
3. 尿細管損傷 /再生/膨張:管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な、または非局在の「壊死」、「アポトーシス」、「尿細管細胞腐肉形成」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプ、あるいは皮質、髄質または乳頭の「尿細管拡張」のグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0035】
4. 糸球体変質/損傷または尿細管損傷 /再生/膨張:「メサンギウム細胞増殖」、「メサンギウム細胞拡張」、「糸球体空胞化」または「間隙性ボーマン嚢線維症」のタイプ、または管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な、または非局在の「壊死」、「アポトーシス」、「尿細管細胞腐肉形成」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプ、あるいは皮質、髄質または乳頭の「尿細管拡張」のグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0036】
5. 太い上行尿細管損傷/再生:太い上行尿細管に局在的な「壊死」、「アポトーシス」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0037】
6. 遠位尿細管損傷/再生:遠位尿細管に局在的な「壊死」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0038】
7. 集合尿細管損傷 /再生:集合尿細管に局在的な「壊死」、「アポトーシス」、「尿細管細胞腐肉形成」、または「好塩基球増加」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0039】
8. 尿細管ミネラル化:管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な「尿細管内の円柱 - ミネラル化」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0040】
9. 尿細管内ヒアリン円柱:管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な「尿細管内の円柱 - ヒアリン(タンパク質性、色素性)」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0041】
10. 傍糸球体装置肥大:10回の研究の動物の肝臓で観察された病状を図5にリストする。
【0042】
分析の内容。タンパク質生物マーカーを、RulesBasedMedicine(米国テキサス州)が開発・販売している多重タンパク質評価法により測定した。臨床化学パラメーター(例えば、BUN、NAG、クレアチニン、およびLDH)を、標準的な臨床化学評価法(ADVIA 1650 装置)を用いて測定した。mRNA生物マーカーは、Applied Biosystems 7900HTリアルタイムPCR装置の低密度アレイに搭載のApplied Biosystems製TaqMan遺伝子発現評価法を用いて測定した。mRNAは、標準的手順を用いて半分の腎臓から抽出した。
【0043】
データ前処理の内容。分析装置から得られた生物マーカーの濃度値を、(1)定量の上限を上回った濃度値は、定量の上限で置き換える、(2)定量の下限を下回った濃度値は、定量の下限で置き換える、(3)尿中の生物マーカーは、各試料を対応する尿中クレアチニン値で割ることで、尿中のクレアチニン濃度に正規化する、および(4)データを倍率変化として表現するために、それぞれの値を時間が一致し研究が一致する対照群(大抵は動物6体)の算術平均で割るという手順に従い前処理した。
【0044】
データ分析の内容。データの定量分析は、すべて受信者動作特性(ROC)分析に基づく。ROC分析では、二分決定問題(例えば、対照群と罹患した動物)について識別閾値が体系的変化し、また真陽性(感度)が真陰性(1-特異性)と比較してプロットされる。曲線下面積(AUC)は、感度および特異性を組み合わせて1つの値にした診断力の指標で、これにより無作為なディスクリミネータは、AUCが0.5に対応し、完全なディスクリミネータは1である。AUCの計算は、『Bradley AP, Pat. Recogn. 30(7):1145-1159(1997)』で記載された台形法積分を用いて実施した。AUCの標準的なエラーは、『Bradley(1997)』に記載されたWilcoxon統計の標準的なエラーを計算した。
【0045】
所定の生物マーカーおよび病理学についてのROC分析からのアプリケーションの例として、生物マーカー/病理学の閾値は、事前定義済みの最小特異性について下記の方式で定めた。
【0046】
所定の最小特異性(例えば、95%)について、始めに最小特異性を上回るかそれに等しい、できる限り低い厳密な特異性を決定した。その厳密な特異性について、対応する感度が最も高い閾値を選んだ。閾値をさらに変化させることでこれより高い特異性が可能な場合には、アルゴリズムでは探索がなされない。この閾値について、該当する特異性および感度を本書で報告する。
【0047】
データの分析について、以下の対照動物および罹患動物の定義を使用した。(a)対照群:賦形剤または肝毒性物質を投与した動物で、調査する病変は示されていない。(b)罹患群:腎毒性物質を投与した動物で、組織病理学評価で所定の病変についてグレード1以上を割り当てた。
【0048】
肝毒性物質を投与した動物は、それ以外の肝毒性の変化に対してマーカーの特異性を試験するために、またこれらの研究では用量に関連した腎毒性が観察されなかったため、対照群に含まれる。
【0049】
投与を受けたものの何ら病変が見られなかったか、またはその他の病変のみ(所定の具体的な組織病理学的な脈絡以外)が見られた動物は、これらの動物が「クリーン」ではないと考え、ROCについては無視した。この群の動物は、特に分子の反応が組織病理学的な症状の現れよりも早期かつ高速であるとき、未定義の状態を表す。その場合、(1)1つの腎臓の単一の組織病理学スライドが、その腎臓の全体的な状態を代表するものではない(偽陰性の組織病理学)か、(2)組織病理学症状よりも分子の反応が早期/感応性が高く、いわゆる前駆状態にあるか、または(3)組織病理学が真であるとした場合に動物は偽陽性である(偽陽性の生物マーカー)かどうかの決定ができない。これらの動物の処理の最も保守的な方法は、いずれかの群への最終的な割り当てがなされないために、これらの動物をどの分析からも除外することである。
【0050】
生物マーカーの結果および腎損傷を監視するための所定の病状。組織病理学、研究の情報および生物マーカーの値を総合したROC分析の結果は、最も関心の高い腎臓の病状および生物マーカーについて図6に示す。
【0051】
肝臓損傷の監視および識別のためのタンパク質および臨床化学パラメーター。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の肝毒性物質ANIT(α-ナフチルイソチオシアン酸)を投与した動物から獲得した。図7を参照。用量に関連した組織病理学の所見は、肝臓(腎臓ではなく)で観察したものである。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはさまざまな色の陰影で表し、試料採取の時点はラベルにより表示している。生物マーカーレベルは、用量と関連性があり、そのため用量に関連した肝毒性とも関連性がある。これらのプロットで表現した生物マーカーは、現行で標準の血漿中のALAT測定値(図7A上)、新規マーカーである血漿中のリポカリン-2測定値(図7A下)、血漿中のGST-mu測定値(図7B上)および尿中のリポカリン-2測定値(図7B下)である。
【0052】
腎臓損傷の監視および識別のためのタンパク質および臨床化学パラメーター。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の腎毒性物質シスプラチンを投与した動物から獲得した。図7を参照。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、症例対照動物(腎臓に組織病理学的所見のなかった賦形剤投与群の動物)で観察された最高の生物マーカーレベルを示す。この線よりも高いタンパク質レベルは、著しく増大した(奨励対照群について100%特異性)。またその他の閾値も可能である。95%特異性についての特定の閾値は、図6に示すとおりである。さまざまな臨床パラメーターおよびタンパク質で、さまざまな感度の腎臓損傷が検出されている。腎臓損傷および腎機能について現在の標準的な末梢性の試験(peripheral test)である血清中クレアチニン測定値は、最も感応性の低い方法である(図8A上)。血漿中シスタチンC測定値(図8A下)、尿中Kim-1測定値(図8B上)、尿中リポカリン-2測定値(図8B下)、尿中オステオポンチン測定値(図8C上)および尿中クラステリン測定値(図8C下)で、著しい腎臓の所見のある動物がより多く識別されている。
【0053】
腎臓損傷の監視および識別のための遺伝子転写。生物マーカーは、賦形剤または腎毒性物質シスプラチンのどちらかを投与した動物から獲得した。図9を参照。このプロットでは、発現値(Polr2gを基準としたCT値)を示している。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、対照動物で観察された最も高い発現(プロットでは最低の値)を示す。この線より下の値は、著しく増大した発現レベルに相当する(非投与動物群について100%特異性)。またその他の閾値も可能である。95%特異性についての特定の閾値は、図6に提示したとおりである。Kim-1(図9A)とCyr61(図9B)の両方で、腎臓損傷が早期に(より早い時点で)、組織病理学的な試験よりもより感応性の高い方法で(より低い用量レベルで)検出するために使用できる。
【0054】
本発明の実施形態および様相。数学的演算、および本書で説明したデータを使用し、本発明は以下の実施態様を提供する。
【0055】
本発明は、単一の本発明の生物マーカーの使用、または生物学的基質(尿、血液、腎臓や血液由来のmRNA)における生物マーカー(臨床化学パラメーター、タンパク質、mRNA転写)の組み合わせの使用による、腎毒性および/または肝毒性の診断、予測および分類のための方法を提供する。また本発明は、単一の生物マーカー測定または単一の生物学的基質もしくはさまざまな生物学的基質における生物マーカー(臨床化学パラメーター、タンパク質、mRNA転写)の組み合わせ測定の助けによる、組織病理学的所見、組織病理学的所見の組み合わせ、および腎臓内、肝臓内または腎臓と肝臓の両方での組織病理学的所見により明らかにされた機序の診断、予測および分類のための方法を提供する。本発明の使用において、腎臓での組織病理学的所見は、腎毒性または腎疾患の症状に対応し、また肝臓での組織病理学的所見は、肝毒性または肝疾患の症状に対応する。
【0056】
こうして、個体におけるマーカーの発現のレベル、または機能のレベルを決定することができ、それによりその個体の治療または予防療法のための適切な薬剤が選択できる。投薬または薬物選択に応用するとき、この知識によって、有害な反応または治療の失敗を回避することができ、またそのため、被験者をマーカーの発現の修飾因子で治療するとき、治療または予防の効率を高めることができる。参照により本書に組み込まれたWO 2004/005544を参照。
【0057】
本発明はさらに、生物学的基質内の単一の生物マーカーまたは生物マーカーの組み合わせを、その生物学的基質内の単一の生物マーカーまたは生物マーカーの組み合わせの助けを借りて、診断、予測および分類する方法を提供する。
【0058】
さらに本発明はなおも、生物学的基質内の本発明の生物マーカーの測定の助けを借りて個体の運命(例えば、生存率)を予測する方法を提供する。
【0059】
本発明は一面において、本発明の生物マーカーは、組織病理学的所見、組織病理学的所見の組み合わせ、および腎臓内、肝臓内または腎臓と肝臓の両方での組織病理学的所見により明らかにされた機序を、その他の生物マーカーよりも高い感度と特異性で、早い時点で、また低い用量レベルで予測、分類、診断するために使用できることを示している。
【0060】
本発明は別の面において、本発明の生物マーカーは、研究の過程で、研究のその時点での肝臓および腎臓の組織病理学の評価よりも早い時点で、組織病理学的所見、組織病理学的所見の組み合わせ、および腎臓内、肝臓内または腎臓と肝臓の両方での組織病理学的所見により明らかにされた機序を予測、分類、診断するために使用できることを示している。これは、生物マーカーの助けを借りての組織病理学のモデリング、診断、分類および予測は、組織病理学自体の評価よりも早く、感応性が高く、特異的であることを意味する。
【0061】
本発明の方法は、記述した本発明の生物マーカーとだけでなく、その分解生成物、または記述した生物マーカーと分解性生物の組み合わせとでも使用できる。分解生成物は、記述したタンパク質のペプチドまたはペプチド断片、または記述したmRNA転写のmRNA断片および分解生成物でもよい。その上、本発明の方法には、記述した生物マーカーだけでなく、さまざまなアイソフォーム、スプライシング変異体または断片など、実質的に類似した生物マーカーも使用できる。本発明の方法は一部の実施態様において、記述した本発明の生物マーカーの遺伝子の多型にも使用できる。
【0062】
また本発明は、これらのマーカー、これらの生物マーカーおよびモデルの組み合わせ、相関、予測、分類および組織病理学を持つ生物マーカーおよびその他の生物マーカーの診断の装置への導入も提供する。特に本発明は、腎臓の状態および機能または肝臓の状態および機能を監視または診断するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。本発明は別の実施態様において、腎臓または肝臓に対する薬物の副作用を監視または診断するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。また本発明は別の実施態様において、腎臓または肝臓に対する薬物の副作用を挑発もしくは誘発しない候補薬剤(薬物)を特定するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。本発明はさらに別の実施態様において、個体が腎毒性、肝毒性または腎毒性と肝毒性の両方に関する治療に反応するかどうかを判断するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。
【0063】
キットの構成要素は、ノーザン分析、逆転写PCRまたはリアルタイム定量的PCR、分岐DNA、核酸配列ベースの増幅(NASBA)、転写介在増幅、リボヌクレアーゼプロテクション法、またはマイクロアレイによる遺伝子発現の測定のためのものとしうる。別の特定の実施態様は、遺伝子発現または遺伝子発現生成物のレベルの決定手段が、本発明の生物マーカーの中から選択されるマーカー遺伝子により符号化されたタンパク質について特異的な少なくとも1つの抗体で構成されるキットを提供する。抗体は多クローン性抗体、単クローン抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体、および抗体断片のマーカーへの結合に十分な生物学的に機能的な抗体断片の中から選択されることが望ましい。遺伝子発現のレベルの決定にはイムノアッセイが特に望ましい。
【0064】
本発明の望ましい別の実施態様において、さらに個体の体試料、特に血漿または尿を獲得する手段を含むキットが提供される。特に望ましい実施態様は、さらに遺伝子発現のレベルおよび個体の体試料を判断する手段を収容するために適切な容器を含む。キットはさらに別の望ましい実施態様で、使用およびキット結果の解釈の説明書を含む。
【0065】
本発明はいくつかの実施態様において、(i)腎毒性の単一または複数の症状を寛解させる候補薬剤(薬物)の特定、(ii)肝毒性の単一または複数の症状を寛解させる候補薬剤(薬物)の特定、(iii)2種の薬剤(薬物)の腎毒性潜在力の比較、および(IV)2種の薬剤(薬物)の肝毒性潜在力の比較のための、試験、装置、評価法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。
【0066】
例えば、マーカー発現に影響する薬剤の有効性は、腎疾患または腎毒性に対する治療を受けている被験者の臨床試験で監視できる。本発明は望ましい実施例において、(i)薬剤を投与する前に被験者から投与前試料を獲得する、(ii)選択した1つ以上の本発明のマーカーについて、投与前試料での発現レベルを検出する、(iii)被験者から1つ以上の投与後試料を獲得する、(IV)投与後試料でのマーカーの発現レベルを検出する、(v)投与前試料でのマーカーの発現レベルを投与後試料でのマーカー発現レベルと比較する、および(vi)それに従い被験者への薬剤の投与を変更するといった手順を含む、薬剤(例えば、作動薬、拮抗薬、ペプチド模倣、タンパク質、ペプチド、核酸、小分子、またはその他の薬物候補)での被験者の治療の有効性を監視する方法を提供する。例えば、薬剤投与の修正は、マーカーの発現を検出されたレベルより高いレベルに増やすため、すなわち、薬剤の有効性を高めるために望ましいと考えられる。これと別に、薬剤投与の増加/減少は、それぞれ薬剤の有効性を増大/低下させるために望ましいと考えられる。
【0067】
本発明は特定の実施態様において、(a)候補薬剤の毒性の対象である腎臓組織の試料と接触する手順、(b)腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルを決定して、第一の組の値を獲得する手順、および(c)候補薬剤により誘発されない毒性の対象となる腎臓組織で、第一の組の値を同一の遺伝子についておよび手順(b)と同一の条件下で評価した遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルに対応する第二の組の値と比較する手順を含む、腎毒性の治療に使用するための候補薬剤を特定する方法を提供する。
【0068】
本発明は別の特定の実施態様において、(a)候補薬剤の毒性の対象ではない腎臓組織の試料と接触する手順、(b)腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルを決定して、第一の組の値を獲得する手順、および(c)毒性の対象ではない腎臓組織で、第一の組の値を同一の遺伝子についておよび手順(b)と同一の条件下で評価した遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特に タンパク質)のレベルに対応する第二の組の値と比較する手順を含む、腎毒性の挑発または誘発をしない候補薬剤を特定する方法を提供する。
【0069】
本発明は別の特定の実施態様において、(a)最初の薬物候補の毒性の対象ではない腎臓組織の試料と接触させ、腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルを決定して、第一の値を獲得する手順、および(b)最初の薬物候補の毒性の対象ではない腎臓組織の試料と接触させ、腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現のレベルを決定して、第二の値を獲得する手順、および(c)第一の値を第二の値と比較する手順を含む、2つの薬物候補の腎臓の細胞毒性潜在力を比較する方法を提供する。
【0070】
本発明はその他の実施態様において、肝臓および/または腎臓内で表1にリストした単一または複数の遺伝子、遺伝子発現生成物またはタンパク質の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調整用化合物の投与による、個人患者における腎毒性および/または肝毒性の治療方法を提供する。
【0071】
本発明の特定の様相において、腎障害または腎毒性を持つ、あるいはそれを持つリスクのある被験者の治療のための、予防方法および治療方法の両方の方法を提供する。予防薬の投与は、腎障害の発生が予防されるか、またはその進行を遅らせるように、腎障害の特徴的症状が現れる前になしうる。
【0072】
本発明は別の特定の実施態様において、腎毒性の少なくとも1つの症状が寛解されるように、本発明の生物マーカーの遺伝子群のうち1つ以上の遺伝子または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調節用化合物を上記の個体に投与する手順を含む、個体における腎毒性の治療または予防の方法を提供する。
【0073】
本発明はまた別の特定の実施態様において、腎毒性の少なくとも1つの症状が寛解されるように、本発明の生物マーカーの遺伝子群のうち1つ以上の遺伝子または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調節用化合物を上記の個体に投与する手順を含む、個体における腎毒性の治療方法を提供する。
【0074】
本発明はさらに別の特定の実施態様において、腎毒性の少なくとも1つの症状が寛解されるように、本発明の生物マーカーの遺伝子群のうち1つ以上の遺伝子または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調節用化合物を上記の個体に投与する手順を含む、細胞毒性薬剤の供与により治療中の個体における腎毒性の治療方法を提供する。
【0075】
本発明はマーカー、生物マーカーとモデルの組み合わせ、相関、予測、分類および本発明の診断の助けによる、肝毒性および/または腎毒性またはその症状の診断、予測、分類または監視のための、その他新規の生物マーカーを識別する方法を提供する。
【0076】
上記の方法、すなわち、(i)候補薬剤を特定する方法、(ii)2つの薬物候補の腎臓の細胞毒性潜在力を比較する方法および(iii)腎毒性の挑発または誘発をしない候補薬剤を特定する方法の特に有利な点の一つは、それらが生体外で実施されることである。使用される腎臓組織は、細胞毒性薬剤に接触させておいた培養した腎臓組織または細胞から獲得することが望ましい。腎臓組織は、腎毒性の対象となる個体の腎臓試料でもよいが、こうした方法の広範な生体外での用途を制限することがある。
【0077】
こうして本発明は、生体内での腎毒性および/または肝毒性予測、分類または診断するために、培養した腎臓組織または細胞内で上記に言及した生物マーカーを測定する試験を提供する。これは、例えばヒトの腎臓上皮性293Tcells HK2株細胞、ヒトの胎児性腎臓株細胞、またはヒトの胎児性肝臓株細胞など、単一の腎臓または肝臓の細胞またはその集合としうる。細胞が薬物またはその他の活性分子との接触など多様な変更条件にさらされた際に、発現プロファイルのベースラインプロファイルからの変化を、こうした効果の指標として使用しうる。
【0078】
ヒトの細胞や組織の、好ましくは腎臓の障害を模倣する生体内での動物モデルに基づけば、培養した腎臓組織または細胞は有利であると考えられる。これは、例えばヒト腎臓上皮性293Tcellsまたはヒト胎児性腎臓株細胞など、単一の腎臓細胞またはその集合でもよい。腎臓は(a)大量の毒素をもたらす大量の腎臓の血流、(b)毒素の相互作用または摂取が可能となる、糸球体または尿細管上皮のいずれかでの薬物との接触面積の広さ、(c)活性の物質を輸送する腎臓の能力で、これにより細胞の摂取の媒介をする特異的な輸送機序が提供される、(d)腎臓の尿細管内で発生することがあり、非中毒性の親物質からの毒物代謝生成物の生成につながりうる薬物の分解、(e)非吸収性生成物の尿中および間質中の濃度が増加しうる腎臓の濃縮メカニズムを含む、その機能的な特性から、薬物の腎毒性作用の影響を特に受けやすく、通常の機能には高い率での尿細管細胞の代謝性が必要であり、これは動揺の対象となる。
【0079】
同等物
本発明は、本出願で説明した特定の実施態様という点で制限されることはなく、これは発明の個別の様相についての一つの例証として意図される。本発明には、当業者にとって明らかなとおり、その精神および範囲から逸脱することなく、数多くの修正および変化を加えることができる。本書に列挙したものに加え、本発明の範囲内の機能的に同等な方法および装置は、上記記載から当業者にとって明らかである。こうした修正および変形は、添付した請求項の範囲内に含まれることが意図される。発明は添付した請求項の条件と、そうした請求項によって権利が付与される同等物の範囲全体とによってのみ制限される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物マーカーサインならびに腎臓毒性または肝臓毒性、より具体的には病気もしくは薬物治療の結果としての腎尿細管毒性の監視、予後、診断、および/または治療のための方法および装置におけるその使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
末期の腎不全への進行は、タンパク尿のある多様な腎障害に共通する最終的な経路である。タンパク尿の程度は、腎疾患の進行速度に関連する。
【0003】
ヒトタンパク尿症において、尿細管間質性損傷は、糸球体損傷よりも腎機能の低下の予測に優れている。フィルター処理した尿細管毒性血漿タンパク質がこの関連性に寄与すると考えられているが、これらのタンパク質の性質は定かではない。フィルター処理したタンパク質は、ケモカインやサイトカインを排泄する近位尿細管細胞(PTC)の活性化により、部分的にその損傷効果を発揮し、結果的に炎症、間質性線維芽細胞の筋形質変換(myotransformation)、線維形成、およびアポトーシスが発生する。これが最終的に、末期の腎不全につながる。従って腎尿細管上皮細胞は、間質損傷の進行にとって重要であると考えられる。タンパク尿は、尿細管損傷および間隙性線維症の原因であることが提唱されてきた。
【0004】
この技術において、薬物治療後または病気のせいで腎機能が損なわれている時に、動物およびヒトでの腎臓や肝臓の機能を判定・監視する継続的な必要性がある。
【発明の概要】
【0005】
発明の要約
本発明は、腎臓および肝臓の状態、機能および完全性を診断または予測するための試験および装置を提供する。本発明の生物マーカー、その他の臨床化学パラメーターあるいはその組み合わせは、腎臓または肝臓の状態の診断、薬物誘発性の腎毒性または肝毒性などの有害事象の監視、腎臓または肝臓の状態を基にした薬物による治療方法の適応、または腎臓または肝臓における病気の診断またはその有病性のための臨床試験の開発のための試験法、試験または装置に変換しうる。
【0006】
本発明によって、本書に提示したデータを基にした腎毒性または肝毒性の予測、分類、相関および診断が可能となる。
【0007】
また本書に記載したのは、動物での研究であり、ここでさまざまなモデルの腎毒性物質および肝毒性物質をさまざまな投薬方式を使用して動物に投与した。さまざまな生体試料をさまざまな時点で動物から採取した。尿、血液、器官組織、器官組織からのmRNAおよび血液を、さまざまな時点で、またさまざまな治療群で試料採取した。動物は、生体内での期間およびその後に、さまざまな方法を用いて、特に臨床的観察、生体内でのデータ(体重、摂食量、器官(特に腎臓および肝臓)の肉眼検査や顕微鏡検査など)を使用して評価した。
【0008】
図面は、例としての好ましい実施態様を描写するものであり、限定するためではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、生体内での研究で動物に投与した化合物のリストである。
【図2】図2は、10回の全研究で報告された腎臓の病変数を示す。この数を程度別および治療群別(腎毒性物質で治療した動物と、賦形剤および肝毒性物質で治療した動物)に小区分した。
【図3】図3は、10回の生体内での試験で報告された組織病理学的な腎臓の病変を示す表である。発生数は、程度別および治療群別(腎毒性物質で治療した群と、賦形剤および肝毒性物質で治療した群)に分類した。
【図4】図4は、シスプラチン研究での組織病理学的な腎臓の基質である。各列は局在的な病変を表す。各行は動物1個体に対応し、それによって動物は、用量群別(対照群、低用量群、中用量群、および高用量群)に、また各用量群内で、終了時点別の順序になっている。病変が報告されている場合には、程度がオレンジ色の四角内に該当する程度(グレード1、グレード2〜5、報告なし/グレード0)が記入されている。支配的な過程はラベル付けされている。
【図5】図5は、10回の生体内での試験で報告された組織病理学的な肝臓の病変を示す表である。発生数がリストされている。
【図6】図6は、生物マーカー用のROC(受信者動作特性)分析結果と、一定の病状についての現行の標準を示す表である。第1列は生物マーカーを表し、第2列は分子化合物、第3列は生物マーカーを測定した媒体、および第4列はROC 分析を実施した病状である。第5列は、AUCおよびその標準的エラーである。第6列は生物マーカー値が該当する病状の存在に応じて増加(+)するか、または減少(−)するかを示す。第7列および第8列は、対応する分析で使用した動物の数を表す。第11列は95%特異性(第10列)について対応する感度を示し、第9列は生物マーカーの該当する閾値を示す。当該の生物マーカー以外に、現行の標準であるBUNおよび血清クレアチニンについての結果も、10種の当該の病状について示した。この表は、リストした特定の腎臓の病状を監視するリストした具体的な生物マーカーの装置、評価法、診断試験または診断キットの実施の利用および性能を示す。
【図7】図7は、さまざまなタンパク質生物マーカー別の肝毒性の評価を示す一組の散布図である。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の肝毒性物質ANIT(α-ナフチルイソチオシアン酸)を投与した動物から獲得した。この研究では、用量に関連した組織病理学の所見は、肝臓(腎臓ではなく)で観察したものである。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはさまざまな色の陰影で表し、試料採取の時点はラベルにより表示している。生物マーカーレベルは、用量と関連性があり、そのため用量に関連した肝毒性とも関連性がある。これらのプロットで表現した生物マーカーは、血漿中のALAT測定値(図7A上)、血漿中のリポカリン-2測定値(図7A下)、血漿中のGST-mu測定値(図7B上)および尿中のリポカリン-2測定値(図7B下)である。
【図8】図8は、さまざまなタンパク質生物マーカーおよび臨床化学パラメーター別の肝毒性の評価を示す一組の散布図である。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の腎毒性物質シスプラチンを投与した動物から獲得した。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、症例対照動物(腎臓に組織病理学的所見のなかった賦形剤投与群の動物)で観察された最高の生物マーカーレベルを示す。この線よりも高いタンパク質レベルは、著しく増大した(症例対照群について100%特異性)。さまざまな臨床パラメーターおよびタンパク質で、さまざまな感度の腎臓損傷が検出されている。腎臓損傷および腎機能について現在の標準的な補助的検査(peripheral test)である血清中クレアチニン測定値は、最も感応性の低い方法である(図8A上)。血漿中シスタチンC測定値(図8A下)、尿中Kim-1測定値(図8B上)、尿中リポカリン-2測定値(図8B下)、尿中オステオポンチン測定値(図8C上)および尿中クラステリン測定値(図8C下)で、著しい腎臓の所見のある動物がより多く識別されている。
【図9】図9は、さまざまな遺伝子を腎臓由来のmRNAに転写することによる腎臓損傷の評価を示す一組の散布図である。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の腎毒性物質シスプラチンを投与した動物から獲得した。このプロットでは、発現値(Polr2gを基準としたCT値)を示している。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、対照動物で観察された最も高い発現(プロットでは最低の値)を示す。この線より下の値は、著しく増大した発現レベルに相当する(非投与動物群について100%特異性)。Kim-1(図9A)とCyr61(図9B)の両方で、腎臓損傷が早期に(より早い時点で)、組織病理学的な試験よりもより感応性の高い方法で(より低い用量レベルで)検出できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
定義。本書で使用するとき、「腎毒性」または「腎損傷」あるいは同様に「腎障害」という用語はすべて、数多くの病気、または(限定はされないが)、敗血症I(感染)、ショック、外傷、腎臓結石、腎感染、薬物毒性、毒物または毒素、またはヨード造影剤の注射後(副作用)といった急性腎毒性の障害過程、ならびに長期にわたる高血圧、糖尿病、うっ血性心不全、狼蒼、または鎌状赤血球貧血といった慢性腎毒性の障害過程により引き起こされうる、急激であるか(急性)あるいはゆっくりとした時間をかけて低下するか(慢性)のいずれかの、腎臓の不全または機能障害を意味するものとする。どちらの形態の腎不全も、生命にかかわる代謝性の混乱の原因となる。
【0011】
「体試料」という表現には、限定されないものの、好ましくは肝臓の生体組織、ならびに血液、血漿、血清、リンパ液、脳脊髄液、嚢胞液、腹水、尿、糞便および胆汁などの体液が含まれる。本発明の一利点は、1つのマーカーを血漿や尿などの体液で特によく監視できることである。例えば、クラステリンの発現レベルは、特に血漿中でよく判定できる。
【0012】
本書で使用するとき、「個体」という用語は、1人のヒト、マウスやラットなど1匹の動物、または個体の母集団またはプールを意味するものとする。
【0013】
本書で使用するとき、「候補薬剤」または「薬物候補」という用語は、タンパク質またはその断片、抗体、小分子の阻害剤もしくは作動薬、核酸分子、油有機および無機の化合物およびこれに類するものなど、天然のまたは合成的な分子でもよい。
【0014】
一般的方法。本発明の実施においては、分子生物学、微生物学、および組換えDNAにおける数多くの従来的な技術が使用される。これらの技術は、公知であり、例えば、『Current Protocols in Molecular Biology, Volumes I, II, and III, 1997(F. M. Ausubel ed.)』、『Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)』、『DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, D. N. Glover ed.(1985)』、『Oligonucleotide Synthesis, M. L. Gait ed.(1984)』、『Hames & Higgins, Nucleic Acid Hybridization,(1985)』、『Transcription and Translation, Hames & Higgins eds.(1984)』、『Animal Cell Culture, R. I. Freshney ed.(1986)』、『Immobilized Cells and Enzymes,(IRL Press, 1986)』、『Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning; the series, Methods in Enzymology(Academic Press, Inc., 1984)』、『Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, J. H. Miller & M. P. Calos eds.(Cold Spring Harbor Laboratory, 1987)』、および『Methods in Enzymology Vol. 154 and Vol. 155(Wu & Grossman, and Wu, eds., respectively)』に説明がある。
【0015】
本書で引用したすべての参考文献は、それぞれ個別の公報または特許または特許出願があらゆる目的でその全文が参照により具体的かつ個別的に組み込まれていると示されているとおり、それと同一範囲を参照することにより、その全文をあらゆる目的で組み込む。さらに、本書で引用したすべてのGenBank受入番号、Unigene Cluster番号およびタンパク質受入番号は、それぞれそうした番号があらゆる目的でその全文が参照により具体的かつ個別的に組み込まれていると示されているとおり、それと同一範囲を参照することにより、その全文をあらゆる目的で組み込む。
【0016】
本発明の生物マーカー。腎臓組織の幾つかの生物マーカー(表1および表2にリスト)のゲノムおよびタンパク質の発現を測定した。尿中および血漿中の関連するタンパク質の過程も測定した。組織におけるゲノムまたはタンパク質の発現、尿および血漿濃度の相関は、組織病理学を用いて、またタンパク尿(表2)などの検尿パラメーター、およびクレアチニン、血液尿素窒素(BUN)およびcreative クリアランスなどの血漿臨床化学パラメーター(表2参照)を用いた。調査の対象は、尿中腎臓生物マーカーが腎臓の組織損傷および潜在的な腎機能を反映しているかどうかであった。
【0017】
表1は、転写レベル(腎臓由来および肝臓由来のmRNA)について、またタンパク質レベル(尿中および血液中)について評価した生物マーカーのリストを提供する。表1のこれらの生物マーカーの測定については、下記に詳しく説明する。
【表1】
【0018】
本発明の生物マーカーは以下のとおりである。
カルビンジンD-28kは、大きなEF-handファミリーのカルシウム結合タンパク質メンバーである。カルビンジンD-28kは、あらゆる綱の脊椎動物および広範な組織内に存在する。数人の研究者が、腎臓内で最大量のカルビンジンD-28kが遠位尿細管に局在化していることを示しているが、これはカルシウム吸収の部位としての遠位尿細管の役割と関連している。『Rhoten WB et al., Anat. Rec. 227:145-151』、『Borke JL et al., Am. J. Physiol.(Renal Fluid Electrolyte Physiol)257: F842-F849 26(1989)』。その上、加齢に伴うカルビンジンD-28kの発現の減少が、年齢に関連した腸および腎臓でのCa++運搬の減少に寄与している可能性があることが示されている。『Armbrecht HJ et al., Endocrinology 125: 2950-2956(1989)』。シクロスポリンA誘発によるラット腎臓のカルビンジン-D 28kタンパク質の減少は、そのmRNAの減少の結果である。『Grenet O et al., Biochem. Pharmacol. 55(7): 1131-1133(1998)』、『Grenet O et al., Biochem. Pharmacol. 59(3): 267-272(2000)』。
【0019】
クラステリンは、テストステロン抑制前立腺応答因子2(TRPM-2)としても知られており、腎臓を含めた数多くの器官で組織損傷および/または再形成の際に誘発される偏在性の分泌性糖タンパク質であり、また上皮管の細管内腔でも見つかっている。『Jenne DE & Tschopp J, Trends Biochem. Sci. 14: 154-159(1992)』。クラステリンは、そうでなければ腎臓の損傷によって混乱を起こす細胞の相互作用を保存することが考えられる。『Silkensen JR et al., J. Am. Soc. Nephrol. 8(2): 302-305(1997)』。その上、シクロスポリンA(CsA)によって、ラット腎臓でのクラステリンmRNAレベルが増加する。『Darby IA et al., Exp. Nephrol. 3(4): 234-239(1995)』。
【0020】
上皮細胞増殖因子(EGF)は、細胞増殖、分化、および急性期応答を媒介できる分子クラスに属する小規模なポリペプチドである。EGF mRNAは、主に腎臓の細胞内で転写される。実験的に誘発された各種形態の急性腎不全で、腎臓EGFについてのmRNAおよびタンパク質レベルが著しく低下し、長期間にわたり低い状態が維持された。『Price PM et al., Am J Physiol. 268(4 Pt 2): F664-670(1995)』。その上、EGFは、腎臓の虚血性外傷の後での腎臓の尿細管の再生(Di Paolo S, et al., Nephrol Dial Transplant 2: 2687-2693(1997))、および薬物誘発性腎毒性の後での腎臓の組織修復(Morin NJ et al., Am. J. Physiol. 263: F806-F811(1992))において重要な役割を果たすと考えられている。EGFの発現レベルは、慢性の拒絶反応または薬物誘発性腎毒性に苦しむ腎臓移植患者で著しく減少することが示されてきた。さらに、シクロスポリンA(CsA)治療後の腎臓におけるEGF発現の減少が報告されている。『Deng JT et al., Transplant Proc. 26(5): 2842-2844』、『Yang CW, et al., Kindey Int. 60: 847-857(2001)』。
【0021】
腎臓損傷分子-1(Kim-1)は、細胞外の6個のシステイン免疫グロブリン領域を含む1型膜タンパク質である。Kim-1 mRNAおよびタンパク質は、正常な腎臓では低レベル(ほとんど未検出)で発現されるが、虚血後の腎臓の近位尿細管では劇的に増加する。Kim-1は、虚血後の腎臓の形態学的完全性および機能の回復に関係している。『Ichimura T et al., J. Biol. Chem. 273: 4135-4142(1998)』。Kim-1は時に、「Havcr1」と称されることがある。さまざまなタイプの損傷後の早期および大量の尿細管の発現により、Kim-1は間質の損傷過程を方向付ける機序の回復または損傷との関連が考えられる、尿細管細胞損傷の特異的マーカーとなっている。参照により本書に組み込まれたWO 2004/005544を参照。
【0022】
α-2uグロブリンに関連したタンパク質(α-2u)は、リポカリン2(LCN2)またはヒトでの好中球ゼラチナーゼ関連リポカリン(NGAL)とも呼ばれるが、好中球の顆粒内に保存される。これは小規模な親油性物質と結合し、また炎症における役割があると考えられている。『Bundgaard JR et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 202: 1468-1475(1994)』、『Cowland JB & Borregaard N, Genomics 45: 17-23(1997)』、『Zerega B et al., Eur. J. Cell Biol. 79, 165-172(2000)』。
【0023】
オステオポンチン(OPN)は、分泌性リンタンパク質1(SPP1)としても知られており、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)細胞接着モチーフを含む、分泌性、強酸性のグリコシル化リンタンパク質である。OPNの上方制御は、幾つかの腎損傷モデルで例証されており、組織の再造形および修復における潜在的な役割が示唆されている。『Persy VP et al., Kidney Int. 56(2): 601-611(1999)』。オステオポンチンは、尿中シュウ酸カルシウム結石の主要な構成要素であることが分かった。『Kohri K et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 84: 859-864(1992)』。その上、OPNは尿中の結石生成の傾向があるラットの遠位尿細管細胞で、非常に多く発現する。『Kohri K et al., J. Biol. Chem. 268: 15180-15184(1993)』。
【0024】
ポドシンは、PDCN、SRN1、ネフローゼ2、特発性としても知られるが、腎臓の有足細胞で発現し、糸球体透過性の調節の役割を果たすタンパク質である。これは、胎児性および成長した腎糸球体の有足細胞でほぼ排他的に発現する。有足細胞のタンパク質(例えば、ポドシン)の突然変異は、結果的に先天性巣状分節状糸球体硬化を招く(Komatsuda A et al., Ren. Fail. 25(1): 87-93(2003))。また主にステロイド抵抗性ネフローゼ症候群との関係がある。
【0025】
血管内皮細胞増殖因子(VEGF)は、血管新生の促進、血管浸透性の増大、単球走化因子としての役割をすることが知られ、また糖尿病、創傷治癒、炎症反応、および組織再造形における役割をもつ。『Benjamin LE, Am J Pathol. 158: 1181-1184(2001)』。
【0026】
各マーカーは、異なる腎臓の病理所見と関連しうるため、腎臓の病状と特異的に関連したマーカーの遺伝子発現生成物の特定が可能である。例えば、カルビンジン-D28kレベルは、ミネラル化に対するカルシウム障害予測のための早期マーカーとして使用される。Kim-1レベルは、一般の腎臓傷害のマーカーである。OPNレベルは、腎臓毒性との関連がよくあるマクロファージ浸潤の早期マーカーで、また腎損傷時の組織の再造形のマーカーである。EGFレベルは、一般の腎臓毒性のための早期マーカーである。クラステリンレベルは、免疫介在性腎臓毒性の早期マーカーである。
【0027】
表2は、尿中および血液中で判定した臨床化学パラメーターのリストである。表2のこれらの生物マーカーの測定については、下記に詳しく説明する。
【表2】
【0028】
生体内研究の結果および組織病理学。10回のラット生体内研究すべてが首尾よく実施された。第3日、第7日、第14日、第21日および第22日に終了したほぼすべての動物から十分な尿が回収できた。完全なデータセット(腎臓の組織病理学、尿中臨床化学、尿中タンパク質生物マーカー、血液の臨床化学、血漿タンパク質生物マーカー、腎臓のmRNA生物マーカー)が入手できた動物のみを分析し、ここに報告する。腎毒性物質で治療した動物447体、賦形剤で治療した動物188体、および肝毒性物質で治療した動物104体を含む、合計739体の動物からのデータを分析した。9個の試料で、尿中Kim-1測定が入手されず、84個の試料で血液中Kim-1測定が入手されなかった。これらの試料は、Kim-1分析については除外したが、その他のパラメーターおよび生物マーカーの分析については含めた。
【0029】
図2に、組織病理学評価のグレードの分布を示す。グレード1とグレード2の所見が優勢なこと、およびグレード5の病変がないことは、主に軽度の腎毒性を誘発するという目標が達成されたことを示す。賦形剤投与および肝毒性物質投与の動物でのかなりの数のグレード1およびいくらかのグレード2の所見は、このプロジェクトで実施された組織病理学評価の感度レベルを示している。用量に依存した著しい腎毒性は、肝毒性物質では誘発されなかった。図3に、各グレードの発生数を含め、腎毒性物質投与の動物と対照動物(賦形剤投与および肝毒性物質投与)に分けて、報告されたすべての局在的な病変の詳細リストを示す。75種の異なる局在的な所見が観察された。
【0030】
さまざまなタイプの病変は、通常は孤立しては観察されなかったが、一般にさまざまな分子プロセスを表す非常に相関性の高いかたちで観察された。図4に、シスプラチン研究でのすべての組織病理学的所見を示す。この過程は、ネフロンの孤立した単独のセグメントには影響しないが、複数のセグメントに相関したかたちで影響する(例えば、近位尿細管および下行する直尿細管)。さらに、用量順および時間順の動物に沿った分子過程の論理的配列が観察できる。損傷の結果としての壊死が見られた後、好塩基球増加や有糸分裂などの再生過程が見られたが、ここで二次的な過程が並列して発生した(例えば、尿細管の肥大、尿細管拡張、細胞の腐肉形成(sloughing)など)。
【0031】
生物マーカーの認定には、2つの結果がある。第一に、生物マーカーの発現に最もよく対応する適切なレベルの局在化の詳細が見られるべきこと。第二に、生物マーカーの発現の引き金となる分子現象に対応する単一の組織病理学の描写が分子過程に組み込まれるべきであることである。こうして、局在的な病変がここで10のさまざまな過程に組み込まれたが、ここで各試料について、最も高いグレードに対応する局在的な病変を組み込んだ病状に割り当てた。具体的に、以下の10の病理学的過程を調査する。
【0032】
1. 近位尿細管損傷:管状セグメントS1、S2またはS3のどれかに局在した、または非局在の「壊死」、「アポトーシス」または「尿細管細胞腐肉形成」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0033】
2. 糸球体変質/損傷:「メサンギウム細胞増殖」、「メサンギウム細胞拡張」、「糸球体空胞化」または「間隙性ボーマン嚢線維症」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0034】
3. 尿細管損傷 /再生/膨張:管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な、または非局在の「壊死」、「アポトーシス」、「尿細管細胞腐肉形成」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプ、あるいは皮質、髄質または乳頭の「尿細管拡張」のグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0035】
4. 糸球体変質/損傷または尿細管損傷 /再生/膨張:「メサンギウム細胞増殖」、「メサンギウム細胞拡張」、「糸球体空胞化」または「間隙性ボーマン嚢線維症」のタイプ、または管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な、または非局在の「壊死」、「アポトーシス」、「尿細管細胞腐肉形成」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプ、あるいは皮質、髄質または乳頭の「尿細管拡張」のグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0036】
5. 太い上行尿細管損傷/再生:太い上行尿細管に局在的な「壊死」、「アポトーシス」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0037】
6. 遠位尿細管損傷/再生:遠位尿細管に局在的な「壊死」、「好塩基球増加」、または「有糸分裂の増加」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0038】
7. 集合尿細管損傷 /再生:集合尿細管に局在的な「壊死」、「アポトーシス」、「尿細管細胞腐肉形成」、または「好塩基球増加」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0039】
8. 尿細管ミネラル化:管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な「尿細管内の円柱 - ミネラル化」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0040】
9. 尿細管内ヒアリン円柱:管状セグメントS1、S2、S3、ヘンレ係蹄、太い上行尿細管、遠位尿細管、または集合尿細管のどれかに局在的な「尿細管内の円柱 - ヒアリン(タンパク質性、色素性)」のタイプのグレード1(「最低限」、「ごく少数」、「ごく少量」)以上の病変。
【0041】
10. 傍糸球体装置肥大:10回の研究の動物の肝臓で観察された病状を図5にリストする。
【0042】
分析の内容。タンパク質生物マーカーを、RulesBasedMedicine(米国テキサス州)が開発・販売している多重タンパク質評価法により測定した。臨床化学パラメーター(例えば、BUN、NAG、クレアチニン、およびLDH)を、標準的な臨床化学評価法(ADVIA 1650 装置)を用いて測定した。mRNA生物マーカーは、Applied Biosystems 7900HTリアルタイムPCR装置の低密度アレイに搭載のApplied Biosystems製TaqMan遺伝子発現評価法を用いて測定した。mRNAは、標準的手順を用いて半分の腎臓から抽出した。
【0043】
データ前処理の内容。分析装置から得られた生物マーカーの濃度値を、(1)定量の上限を上回った濃度値は、定量の上限で置き換える、(2)定量の下限を下回った濃度値は、定量の下限で置き換える、(3)尿中の生物マーカーは、各試料を対応する尿中クレアチニン値で割ることで、尿中のクレアチニン濃度に正規化する、および(4)データを倍率変化として表現するために、それぞれの値を時間が一致し研究が一致する対照群(大抵は動物6体)の算術平均で割るという手順に従い前処理した。
【0044】
データ分析の内容。データの定量分析は、すべて受信者動作特性(ROC)分析に基づく。ROC分析では、二分決定問題(例えば、対照群と罹患した動物)について識別閾値が体系的変化し、また真陽性(感度)が真陰性(1-特異性)と比較してプロットされる。曲線下面積(AUC)は、感度および特異性を組み合わせて1つの値にした診断力の指標で、これにより無作為なディスクリミネータは、AUCが0.5に対応し、完全なディスクリミネータは1である。AUCの計算は、『Bradley AP, Pat. Recogn. 30(7):1145-1159(1997)』で記載された台形法積分を用いて実施した。AUCの標準的なエラーは、『Bradley(1997)』に記載されたWilcoxon統計の標準的なエラーを計算した。
【0045】
所定の生物マーカーおよび病理学についてのROC分析からのアプリケーションの例として、生物マーカー/病理学の閾値は、事前定義済みの最小特異性について下記の方式で定めた。
【0046】
所定の最小特異性(例えば、95%)について、始めに最小特異性を上回るかそれに等しい、できる限り低い厳密な特異性を決定した。その厳密な特異性について、対応する感度が最も高い閾値を選んだ。閾値をさらに変化させることでこれより高い特異性が可能な場合には、アルゴリズムでは探索がなされない。この閾値について、該当する特異性および感度を本書で報告する。
【0047】
データの分析について、以下の対照動物および罹患動物の定義を使用した。(a)対照群:賦形剤または肝毒性物質を投与した動物で、調査する病変は示されていない。(b)罹患群:腎毒性物質を投与した動物で、組織病理学評価で所定の病変についてグレード1以上を割り当てた。
【0048】
肝毒性物質を投与した動物は、それ以外の肝毒性の変化に対してマーカーの特異性を試験するために、またこれらの研究では用量に関連した腎毒性が観察されなかったため、対照群に含まれる。
【0049】
投与を受けたものの何ら病変が見られなかったか、またはその他の病変のみ(所定の具体的な組織病理学的な脈絡以外)が見られた動物は、これらの動物が「クリーン」ではないと考え、ROCについては無視した。この群の動物は、特に分子の反応が組織病理学的な症状の現れよりも早期かつ高速であるとき、未定義の状態を表す。その場合、(1)1つの腎臓の単一の組織病理学スライドが、その腎臓の全体的な状態を代表するものではない(偽陰性の組織病理学)か、(2)組織病理学症状よりも分子の反応が早期/感応性が高く、いわゆる前駆状態にあるか、または(3)組織病理学が真であるとした場合に動物は偽陽性である(偽陽性の生物マーカー)かどうかの決定ができない。これらの動物の処理の最も保守的な方法は、いずれかの群への最終的な割り当てがなされないために、これらの動物をどの分析からも除外することである。
【0050】
生物マーカーの結果および腎損傷を監視するための所定の病状。組織病理学、研究の情報および生物マーカーの値を総合したROC分析の結果は、最も関心の高い腎臓の病状および生物マーカーについて図6に示す。
【0051】
肝臓損傷の監視および識別のためのタンパク質および臨床化学パラメーター。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の肝毒性物質ANIT(α-ナフチルイソチオシアン酸)を投与した動物から獲得した。図7を参照。用量に関連した組織病理学の所見は、肝臓(腎臓ではなく)で観察したものである。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはさまざまな色の陰影で表し、試料採取の時点はラベルにより表示している。生物マーカーレベルは、用量と関連性があり、そのため用量に関連した肝毒性とも関連性がある。これらのプロットで表現した生物マーカーは、現行で標準の血漿中のALAT測定値(図7A上)、新規マーカーである血漿中のリポカリン-2測定値(図7A下)、血漿中のGST-mu測定値(図7B上)および尿中のリポカリン-2測定値(図7B下)である。
【0052】
腎臓損傷の監視および識別のためのタンパク質および臨床化学パラメーター。生物マーカーは、賦形剤またはさまざまな用量の腎毒性物質シスプラチンを投与した動物から獲得した。図7を参照。このプロットでは、相対的濃度レベル(対照群に対する倍率変化)が示されている。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、症例対照動物(腎臓に組織病理学的所見のなかった賦形剤投与群の動物)で観察された最高の生物マーカーレベルを示す。この線よりも高いタンパク質レベルは、著しく増大した(奨励対照群について100%特異性)。またその他の閾値も可能である。95%特異性についての特定の閾値は、図6に示すとおりである。さまざまな臨床パラメーターおよびタンパク質で、さまざまな感度の腎臓損傷が検出されている。腎臓損傷および腎機能について現在の標準的な末梢性の試験(peripheral test)である血清中クレアチニン測定値は、最も感応性の低い方法である(図8A上)。血漿中シスタチンC測定値(図8A下)、尿中Kim-1測定値(図8B上)、尿中リポカリン-2測定値(図8B下)、尿中オステオポンチン測定値(図8C上)および尿中クラステリン測定値(図8C下)で、著しい腎臓の所見のある動物がより多く識別されている。
【0053】
腎臓損傷の監視および識別のための遺伝子転写。生物マーカーは、賦形剤または腎毒性物質シスプラチンのどちらかを投与した動物から獲得した。図9を参照。このプロットでは、発現値(Polr2gを基準としたCT値)を示している。用量レベルはX軸のラベルで表し、試料採取の時点は試料のラベルで表示している。試料は、腎臓で観察された最も高い組織病理学的所見別に、色の陰影付きで示した。水平の線は、対照動物で観察された最も高い発現(プロットでは最低の値)を示す。この線より下の値は、著しく増大した発現レベルに相当する(非投与動物群について100%特異性)。またその他の閾値も可能である。95%特異性についての特定の閾値は、図6に提示したとおりである。Kim-1(図9A)とCyr61(図9B)の両方で、腎臓損傷が早期に(より早い時点で)、組織病理学的な試験よりもより感応性の高い方法で(より低い用量レベルで)検出するために使用できる。
【0054】
本発明の実施形態および様相。数学的演算、および本書で説明したデータを使用し、本発明は以下の実施態様を提供する。
【0055】
本発明は、単一の本発明の生物マーカーの使用、または生物学的基質(尿、血液、腎臓や血液由来のmRNA)における生物マーカー(臨床化学パラメーター、タンパク質、mRNA転写)の組み合わせの使用による、腎毒性および/または肝毒性の診断、予測および分類のための方法を提供する。また本発明は、単一の生物マーカー測定または単一の生物学的基質もしくはさまざまな生物学的基質における生物マーカー(臨床化学パラメーター、タンパク質、mRNA転写)の組み合わせ測定の助けによる、組織病理学的所見、組織病理学的所見の組み合わせ、および腎臓内、肝臓内または腎臓と肝臓の両方での組織病理学的所見により明らかにされた機序の診断、予測および分類のための方法を提供する。本発明の使用において、腎臓での組織病理学的所見は、腎毒性または腎疾患の症状に対応し、また肝臓での組織病理学的所見は、肝毒性または肝疾患の症状に対応する。
【0056】
こうして、個体におけるマーカーの発現のレベル、または機能のレベルを決定することができ、それによりその個体の治療または予防療法のための適切な薬剤が選択できる。投薬または薬物選択に応用するとき、この知識によって、有害な反応または治療の失敗を回避することができ、またそのため、被験者をマーカーの発現の修飾因子で治療するとき、治療または予防の効率を高めることができる。参照により本書に組み込まれたWO 2004/005544を参照。
【0057】
本発明はさらに、生物学的基質内の単一の生物マーカーまたは生物マーカーの組み合わせを、その生物学的基質内の単一の生物マーカーまたは生物マーカーの組み合わせの助けを借りて、診断、予測および分類する方法を提供する。
【0058】
さらに本発明はなおも、生物学的基質内の本発明の生物マーカーの測定の助けを借りて個体の運命(例えば、生存率)を予測する方法を提供する。
【0059】
本発明は一面において、本発明の生物マーカーは、組織病理学的所見、組織病理学的所見の組み合わせ、および腎臓内、肝臓内または腎臓と肝臓の両方での組織病理学的所見により明らかにされた機序を、その他の生物マーカーよりも高い感度と特異性で、早い時点で、また低い用量レベルで予測、分類、診断するために使用できることを示している。
【0060】
本発明は別の面において、本発明の生物マーカーは、研究の過程で、研究のその時点での肝臓および腎臓の組織病理学の評価よりも早い時点で、組織病理学的所見、組織病理学的所見の組み合わせ、および腎臓内、肝臓内または腎臓と肝臓の両方での組織病理学的所見により明らかにされた機序を予測、分類、診断するために使用できることを示している。これは、生物マーカーの助けを借りての組織病理学のモデリング、診断、分類および予測は、組織病理学自体の評価よりも早く、感応性が高く、特異的であることを意味する。
【0061】
本発明の方法は、記述した本発明の生物マーカーとだけでなく、その分解生成物、または記述した生物マーカーと分解性生物の組み合わせとでも使用できる。分解生成物は、記述したタンパク質のペプチドまたはペプチド断片、または記述したmRNA転写のmRNA断片および分解生成物でもよい。その上、本発明の方法には、記述した生物マーカーだけでなく、さまざまなアイソフォーム、スプライシング変異体または断片など、実質的に類似した生物マーカーも使用できる。本発明の方法は一部の実施態様において、記述した本発明の生物マーカーの遺伝子の多型にも使用できる。
【0062】
また本発明は、これらのマーカー、これらの生物マーカーおよびモデルの組み合わせ、相関、予測、分類および組織病理学を持つ生物マーカーおよびその他の生物マーカーの診断の装置への導入も提供する。特に本発明は、腎臓の状態および機能または肝臓の状態および機能を監視または診断するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。本発明は別の実施態様において、腎臓または肝臓に対する薬物の副作用を監視または診断するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。また本発明は別の実施態様において、腎臓または肝臓に対する薬物の副作用を挑発もしくは誘発しない候補薬剤(薬物)を特定するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。本発明はさらに別の実施態様において、個体が腎毒性、肝毒性または腎毒性と肝毒性の両方に関する治療に反応するかどうかを判断するための試験、装置、試験法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。
【0063】
キットの構成要素は、ノーザン分析、逆転写PCRまたはリアルタイム定量的PCR、分岐DNA、核酸配列ベースの増幅(NASBA)、転写介在増幅、リボヌクレアーゼプロテクション法、またはマイクロアレイによる遺伝子発現の測定のためのものとしうる。別の特定の実施態様は、遺伝子発現または遺伝子発現生成物のレベルの決定手段が、本発明の生物マーカーの中から選択されるマーカー遺伝子により符号化されたタンパク質について特異的な少なくとも1つの抗体で構成されるキットを提供する。抗体は多クローン性抗体、単クローン抗体、ヒト化抗体またはキメラ抗体、および抗体断片のマーカーへの結合に十分な生物学的に機能的な抗体断片の中から選択されることが望ましい。遺伝子発現のレベルの決定にはイムノアッセイが特に望ましい。
【0064】
本発明の望ましい別の実施態様において、さらに個体の体試料、特に血漿または尿を獲得する手段を含むキットが提供される。特に望ましい実施態様は、さらに遺伝子発現のレベルおよび個体の体試料を判断する手段を収容するために適切な容器を含む。キットはさらに別の望ましい実施態様で、使用およびキット結果の解釈の説明書を含む。
【0065】
本発明はいくつかの実施態様において、(i)腎毒性の単一または複数の症状を寛解させる候補薬剤(薬物)の特定、(ii)肝毒性の単一または複数の症状を寛解させる候補薬剤(薬物)の特定、(iii)2種の薬剤(薬物)の腎毒性潜在力の比較、および(IV)2種の薬剤(薬物)の肝毒性潜在力の比較のための、試験、装置、評価法、生物マーカー試験、臨床試験キットまたは診断装置を提供する。
【0066】
例えば、マーカー発現に影響する薬剤の有効性は、腎疾患または腎毒性に対する治療を受けている被験者の臨床試験で監視できる。本発明は望ましい実施例において、(i)薬剤を投与する前に被験者から投与前試料を獲得する、(ii)選択した1つ以上の本発明のマーカーについて、投与前試料での発現レベルを検出する、(iii)被験者から1つ以上の投与後試料を獲得する、(IV)投与後試料でのマーカーの発現レベルを検出する、(v)投与前試料でのマーカーの発現レベルを投与後試料でのマーカー発現レベルと比較する、および(vi)それに従い被験者への薬剤の投与を変更するといった手順を含む、薬剤(例えば、作動薬、拮抗薬、ペプチド模倣、タンパク質、ペプチド、核酸、小分子、またはその他の薬物候補)での被験者の治療の有効性を監視する方法を提供する。例えば、薬剤投与の修正は、マーカーの発現を検出されたレベルより高いレベルに増やすため、すなわち、薬剤の有効性を高めるために望ましいと考えられる。これと別に、薬剤投与の増加/減少は、それぞれ薬剤の有効性を増大/低下させるために望ましいと考えられる。
【0067】
本発明は特定の実施態様において、(a)候補薬剤の毒性の対象である腎臓組織の試料と接触する手順、(b)腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルを決定して、第一の組の値を獲得する手順、および(c)候補薬剤により誘発されない毒性の対象となる腎臓組織で、第一の組の値を同一の遺伝子についておよび手順(b)と同一の条件下で評価した遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルに対応する第二の組の値と比較する手順を含む、腎毒性の治療に使用するための候補薬剤を特定する方法を提供する。
【0068】
本発明は別の特定の実施態様において、(a)候補薬剤の毒性の対象ではない腎臓組織の試料と接触する手順、(b)腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルを決定して、第一の組の値を獲得する手順、および(c)毒性の対象ではない腎臓組織で、第一の組の値を同一の遺伝子についておよび手順(b)と同一の条件下で評価した遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特に タンパク質)のレベルに対応する第二の組の値と比較する手順を含む、腎毒性の挑発または誘発をしない候補薬剤を特定する方法を提供する。
【0069】
本発明は別の特定の実施態様において、(a)最初の薬物候補の毒性の対象ではない腎臓組織の試料と接触させ、腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)のレベルを決定して、第一の値を獲得する手順、および(b)最初の薬物候補の毒性の対象ではない腎臓組織の試料と接触させ、腎臓組織から、本発明の生物マーカーの中から選択した1つ以上の遺伝子に対応する遺伝子発現のレベルを決定して、第二の値を獲得する手順、および(c)第一の値を第二の値と比較する手順を含む、2つの薬物候補の腎臓の細胞毒性潜在力を比較する方法を提供する。
【0070】
本発明はその他の実施態様において、肝臓および/または腎臓内で表1にリストした単一または複数の遺伝子、遺伝子発現生成物またはタンパク質の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調整用化合物の投与による、個人患者における腎毒性および/または肝毒性の治療方法を提供する。
【0071】
本発明の特定の様相において、腎障害または腎毒性を持つ、あるいはそれを持つリスクのある被験者の治療のための、予防方法および治療方法の両方の方法を提供する。予防薬の投与は、腎障害の発生が予防されるか、またはその進行を遅らせるように、腎障害の特徴的症状が現れる前になしうる。
【0072】
本発明は別の特定の実施態様において、腎毒性の少なくとも1つの症状が寛解されるように、本発明の生物マーカーの遺伝子群のうち1つ以上の遺伝子または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調節用化合物を上記の個体に投与する手順を含む、個体における腎毒性の治療または予防の方法を提供する。
【0073】
本発明はまた別の特定の実施態様において、腎毒性の少なくとも1つの症状が寛解されるように、本発明の生物マーカーの遺伝子群のうち1つ以上の遺伝子または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調節用化合物を上記の個体に投与する手順を含む、個体における腎毒性の治療方法を提供する。
【0074】
本発明はさらに別の特定の実施態様において、腎毒性の少なくとも1つの症状が寛解されるように、本発明の生物マーカーの遺伝子群のうち1つ以上の遺伝子または遺伝子発現生成物(特にタンパク質)の合成、発現または活性を調節する治療的に有効な量の調節用化合物を上記の個体に投与する手順を含む、細胞毒性薬剤の供与により治療中の個体における腎毒性の治療方法を提供する。
【0075】
本発明はマーカー、生物マーカーとモデルの組み合わせ、相関、予測、分類および本発明の診断の助けによる、肝毒性および/または腎毒性またはその症状の診断、予測、分類または監視のための、その他新規の生物マーカーを識別する方法を提供する。
【0076】
上記の方法、すなわち、(i)候補薬剤を特定する方法、(ii)2つの薬物候補の腎臓の細胞毒性潜在力を比較する方法および(iii)腎毒性の挑発または誘発をしない候補薬剤を特定する方法の特に有利な点の一つは、それらが生体外で実施されることである。使用される腎臓組織は、細胞毒性薬剤に接触させておいた培養した腎臓組織または細胞から獲得することが望ましい。腎臓組織は、腎毒性の対象となる個体の腎臓試料でもよいが、こうした方法の広範な生体外での用途を制限することがある。
【0077】
こうして本発明は、生体内での腎毒性および/または肝毒性予測、分類または診断するために、培養した腎臓組織または細胞内で上記に言及した生物マーカーを測定する試験を提供する。これは、例えばヒトの腎臓上皮性293Tcells HK2株細胞、ヒトの胎児性腎臓株細胞、またはヒトの胎児性肝臓株細胞など、単一の腎臓または肝臓の細胞またはその集合としうる。細胞が薬物またはその他の活性分子との接触など多様な変更条件にさらされた際に、発現プロファイルのベースラインプロファイルからの変化を、こうした効果の指標として使用しうる。
【0078】
ヒトの細胞や組織の、好ましくは腎臓の障害を模倣する生体内での動物モデルに基づけば、培養した腎臓組織または細胞は有利であると考えられる。これは、例えばヒト腎臓上皮性293Tcellsまたはヒト胎児性腎臓株細胞など、単一の腎臓細胞またはその集合でもよい。腎臓は(a)大量の毒素をもたらす大量の腎臓の血流、(b)毒素の相互作用または摂取が可能となる、糸球体または尿細管上皮のいずれかでの薬物との接触面積の広さ、(c)活性の物質を輸送する腎臓の能力で、これにより細胞の摂取の媒介をする特異的な輸送機序が提供される、(d)腎臓の尿細管内で発生することがあり、非中毒性の親物質からの毒物代謝生成物の生成につながりうる薬物の分解、(e)非吸収性生成物の尿中および間質中の濃度が増加しうる腎臓の濃縮メカニズムを含む、その機能的な特性から、薬物の腎毒性作用の影響を特に受けやすく、通常の機能には高い率での尿細管細胞の代謝性が必要であり、これは動揺の対象となる。
【0079】
同等物
本発明は、本出願で説明した特定の実施態様という点で制限されることはなく、これは発明の個別の様相についての一つの例証として意図される。本発明には、当業者にとって明らかなとおり、その精神および範囲から逸脱することなく、数多くの修正および変化を加えることができる。本書に列挙したものに加え、本発明の範囲内の機能的に同等な方法および装置は、上記記載から当業者にとって明らかである。こうした修正および変形は、添付した請求項の範囲内に含まれることが意図される。発明は添付した請求項の条件と、そうした請求項によって権利が付与される同等物の範囲全体とによってのみ制限される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎毒性または肝毒性を引き起こす疑いのある化合物投与後の個体における腎毒性または肝毒性を評価する方法であって、その腎毒性または肝毒性が、個体からの試料中の一組の生物マーカー測定と、対応する生物マーカーの健常な個体での測定量の比較によって特定され、その生物マーカーが表1にある生物マーカー群から選択される方法。
【請求項2】
肝毒性の評価が、以下を含む一連のタンパク質生物マーカーの測定によりなされる、請求項1の方法:
(a) 個体からの血液、血漿または血清の試料中で測定したリポカリン-2、
(b) 個体からの血液、血漿または血清の試料中で測定したグルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1(GST-mu)、および
(c) 個体からの尿試料中で測定したリポカリン-2。
【請求項3】
腎毒性の測定が、以下を含む、一連のタンパク質生物マーカーの測定によりなされる、請求項1の方法:
(a) 個体からの血液、血漿または血清の試料中で測定したシスタチンC、
(b) 個体からの尿試料中で測定した腎臓損傷分子-1(Kim-1)、および
(c) 個体からの尿試料中で測定したリポカリン-2。
【請求項4】
腎毒性の評価が以下を含む一組の遺伝子転写生物マーカーの測定による請求項1の方法:
(a) 腎臓損傷分子-1(Kim-1)、および
(c) システイン高含有タンパク質-61(CYR61)。
【請求項1】
腎毒性または肝毒性を引き起こす疑いのある化合物投与後の個体における腎毒性または肝毒性を評価する方法であって、その腎毒性または肝毒性が、個体からの試料中の一組の生物マーカー測定と、対応する生物マーカーの健常な個体での測定量の比較によって特定され、その生物マーカーが表1にある生物マーカー群から選択される方法。
【請求項2】
肝毒性の評価が、以下を含む一連のタンパク質生物マーカーの測定によりなされる、請求項1の方法:
(a) 個体からの血液、血漿または血清の試料中で測定したリポカリン-2、
(b) 個体からの血液、血漿または血清の試料中で測定したグルタチオンS-トランスフェラーゼmu 1(GST-mu)、および
(c) 個体からの尿試料中で測定したリポカリン-2。
【請求項3】
腎毒性の測定が、以下を含む、一連のタンパク質生物マーカーの測定によりなされる、請求項1の方法:
(a) 個体からの血液、血漿または血清の試料中で測定したシスタチンC、
(b) 個体からの尿試料中で測定した腎臓損傷分子-1(Kim-1)、および
(c) 個体からの尿試料中で測定したリポカリン-2。
【請求項4】
腎毒性の評価が以下を含む一組の遺伝子転写生物マーカーの測定による請求項1の方法:
(a) 腎臓損傷分子-1(Kim-1)、および
(c) システイン高含有タンパク質-61(CYR61)。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図9A】
【図9B】
【公表番号】特表2010−522871(P2010−522871A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−500250(P2010−500250)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053504
【国際公開番号】WO2008/116867
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/053504
【国際公開番号】WO2008/116867
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】
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