説明

腎炎治療又は予防用医薬組成物

【課題】副作用が少なく効果の高い、新規な腎炎の治療又は予防用医薬組成物を提供する。
【解決手段】本発明の新規な腎炎の治療又は予防用医薬組成物は、エンテロラクトンを有効成分して含むものである。本発明の腎炎の治療又は予防用医薬組成物は、糸球体腎炎の治療又は予防用に好適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎炎治療又は予防用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腎臓は、尿生成を通じて、体液の恒常性の維持、尿素などのタンパク質代謝物の排出、内分泌と代謝調節など、生物にとって重要な機能を有している。この腎臓の疾患には大きく分けて腎炎と腎不全がある。腎炎は、腎臓における炎症のことである。腎炎には間質性腎炎や腎盂炎などが含まれるが、一般的には糸球体腎炎のことを指す。腎炎自体が原因で腎不全を引き起こすこともある。腎不全は腎機能の低下をきたす病態の総称であり、急性腎不全と慢性腎不全に大きく分けられる。ほとんどの糸球体腎炎の発症は、抗原抗体反応が基礎になっており、これが糸球体へのフィブリン沈着などの病理学的変化をもたらす。また腎障害、特に腎炎の進行に伴い、細胞外基質成分の沈着が観察され、不可逆的な組織学的変化と腎機能の低下に至る。
【0003】
従来、腎炎の治療には抗炎症剤として、アスピリンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs;non-steroidal anti-inflammatory drugs)が用いられていた。また腎疾患はその発症機序により細かく分類されるが、その多くで共通して見られるのは、異常な免疫反応による免疫複合体の沈着とそれに伴う補体や細胞性免疫の活性化である。これらの観点から、TGF−β産生阻害活性に基づくマクロライド化合物による腎炎治療剤や、免疫機能抑制剤なども開発されている。また、血行動態の変化に伴う高血糖や最終糖化産物の刺激、内皮細胞・メサンギウム細胞の刺激に対する応答(増殖、サイトカイン・ケモカイン・増殖因子の産生放出)による増殖が引き続いて起こることにより腎炎の増悪が生じる。さらに、糸球体硬化に進行する場合には、細胞外マトリックスの産生・沈着増加、MMPsやプラスミンの産生低下、tumor inhibitor of metalloprotease(TIMP)、PAI−1の産生増加がおこることがわかっている(例えば、非特許文献1)。しかしながら、これらの腎炎の治療に用いられている非ステロイド抗炎症剤にはシクロオキシゲナーゼの阻害活性があるため、各種プロスタグランジンの合成を阻害することにより、胃痛・頭痛などの原因となり、更には腎臓への活性によっては腎不全の原因ともなりうるという副作用がある。
【0004】
これに対して、近年、副作用が少なく腎炎治療又は予防効果の高い腎炎治療又は予防用医薬組成として、トリプレニルフェノール化合物を有効成分とした組成物も開発されている(特許文献1)。しかし、依然として、腎炎・腎不全などにより、人工透析を行う患者数は多く、副作用が少なく、腎炎の治療又は予防効果の高い、新たな医薬品や食品が求められているところである。
【0005】
一方、リグナンは、フェニルプロパノイド単位からなるフェノール化合物であり、これらは少量ながらも、植物の根、葉、茎、種子、果実といったあらゆる部分に分布している。リグナンはエストロゲンと同様に腸肝循環し、尿中にグルクロニド抱合体又は硫酸塩抱合体として放出される(非特許文献2)。このうち、松の木由来のリグナンであるハイドロキシマタイレシノール(HMR)の哺乳動物体内における主な代謝産物であるエンテロラクトン(ENL)が高い肝癌増殖抑制作用を有し、それを用いた肝癌予防及び治療用組成物、肝癌予防及び治療用薬剤、及び機能性食品が知られている(特許文献2)。
また、亜麻に多く含まれるリグナンであるセコイソラリシレシノールジグリコシド(SDG)および、その代謝産物のセコイソラリシレシノール(SECO)がループス腎炎の治療に有益であるとする文献もある(特許文献3)。しかし、この文献では、エンテロラクトン(ENL)およびエンテロジオール(END)については実験中ほとんど検出されなかったとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2007/040082号パンフレット号公報
【特許文献2】国際公開WO2005/063233号パンフレット号公報
【特許文献3】米国特許第5837256号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「糸球体障害進行のメカニズムと治療への展望」、医学のあゆみ、2004年、第209巻、第33−38頁
【非特許文献2】Axelson M , Setchell K D , The excretion of lignan sin rats -- evidence for an intestinal bacterial source for this new group of compounds. FEBS Lett. 1981 Jan 26; 123 (2) : 337-42.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、副作用が少なく効果の高い、新規な腎炎の治療又は予防用医薬組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題に対して検討した結果、糸球体腎炎の三大症状(タンパク尿症、低アルブミン血症、脂質異常症)に対し、エンテロラクトンが、尿タンパク質量、及び血清中のトリグリセリド濃度を低下させるとともに、腎臓組織病変を改善し、腎炎を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の手段を提供するものである。
<1>エンテロラクトンを有効成分として含む、腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
<2>前記腎炎が糸球体腎炎であることを特徴とする前記<1>項記載の腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
<3>9質量%以下のタンパク質をさらに含む前記<1>又は<2>項記載の腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
<4>0.2〜0.4質量%のメチオニンまたはシスチンと、0.3〜0.4質量%のスレオニンとをさらに含む前記<3>項記載の腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、副作用が少なく効果の高い、新規な腎炎の治療又は予防用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施例にかかる尿タンパク量に対するエンテロラクトン投与の効果を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例にかかる血清中のトリグリセリド濃度に対するエンテロラクトン投与の効果を示すグラフである。
【図3】本発明の実施例にかかる正常群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。
【図4】本発明の実施例にかかる正常群の腎臓組織切片の糸球体部位の顕微鏡写真である。
【図5】本発明の実施例にかかるC20群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。
【図6】本発明の実施例にかかるC20群の腎臓組織切片の糸球体部位の顕微鏡写真である。
【図7】本発明の実施例にかかるC20+ENL群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。
【図8】本発明の実施例にかかるC20+ENL群の腎臓組織切片の糸球体部位の顕微鏡写真である。
【図9】本発明の実施例にかかる8.5CMT群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。
【図10】本発明の実施例にかかる8.5CMT群の腎臓組織切片の糸球体部位の顕微鏡写真である。
【図11】本発明の実施例にかかる8.5CMT+ENL群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。
【図12】本発明の実施例にかかる8.5CMT+ENL群の腎臓組織切片の糸球体部位の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の腎炎の治療又は予防用医薬組成物は、エンテロラクトン(enterolactone,ENL)を有効成分として含むものである。本発明で有効成分として使用されるエンテロラクトンは、マンマリアンリグナン(mammalian lignans)の一種として知られている植物リグナン代謝産物であり、例えば、松の木由来の植物リグナンであるハイドロキシマタイレシノール(hydroxymatairesinol,HMR)の主な代謝産物として知られている。他に、エンテロラクトンの植物リグナン前駆体としては、マタイレシノール(matairesinol,MR)、セコイソラリシレシノール(secoisolariciresinol,SECO)、セコイソラリシレシノールジグリコシド(secoisolarisiresinol diglycoside,SDG)、シリンガレシノール(syringaresinol)、アークチゲニン(arctigenin)、ラリシレシノール(lariciresinol)、ピノレシノール(pinoresinol)が挙げられる。これらの植物リグナン前駆体は、腸内細菌により、所定の代謝経路を経てその代謝産物である、エンテロラクトンに変換される。例えば、代謝の過程で、セコイソラリシレシノールジグリコシド(SDG)は、糖がとれてセコイソラリシレシノール(SECO)となり、このセコイソラリシレシノールはエンテロジオール(enterodiol,END)を経てエンテロラクトンへと変換される。マタイレシノールは直接エンテロラクトンへ変換される。
【0014】
本発明において、エンテロラクトンは、市販品のエンテロラクトンを使用することが可能であり、また、公知の方法で合成することができる。エンテロラクトンとしては、例えば、下記の構造式で表される化合物を用いることができる。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明におけるエンテロラクトンは、その幾何異性体(geometric isomer)、立体異性体(stereoisomer)も含め、遊離形態、薬学的に許容され得る塩若しくはエステルの形態、又は溶媒和物の形態で用いることができる。その場合には、本医薬組成物の製造方法は、それぞれの形態とするための加工工程を含むことができる。
塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、またはクエン酸、ギ酸、フマール酸、リンゴ酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等を例示することができる無機酸または有機酸が、本発明におけるエンテロラクトンの薬学的に許容され得る塩の形成に好適である。また、例えばナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を含む化合物と、塩基性アミンと、塩基性アミノ酸とからなる群より選択された少なくともひとつの化合物も、このような薬学的に許容され得る塩の形成に好適である。本発明においてエンテロラクトンの塩を形成する場合には、例えば、上述した無機酸若しくは有機酸、又は各化合物とエンテロラクトンとを質量比で1:10〜1:20で混合すればよいが、これに限定されない。
【0017】
また、1〜10個の炭素数を有するアルコール及びカルボン酸などの化合物からなる群
より選択された少なくともひとつの化合物、好ましくは、メチルアルコール、エチルアルコール、酢酸、およびプロピオン酸などの化合物が、本発明の化合物の薬学的に許容され得るエステルの形成に好適である。本発明においてエンテロラクトンのエステル化物を形成する場合には、例えば、上述したアルコール及びカルボン酸とエンテロラクトンとを質量比で1:1〜1:10で混合すればよいが、これに限定されない。
また、水などが、本発明の化合物の薬学的に許容され得る溶媒和の形成に好適である。
本発明においてエンテロラクトンの溶媒和物は、例えば、エンテロラクトンを、50mg/ml〜200mg/mlの濃度で溶解させればよいが、これに限定されない。
【0018】
ほとんどの糸球体腎炎は、抗原抗体反応が基礎となって発症し、この抗原抗体反応が、糸球体へのフィブリン沈着等の病理学的変化をもたらす。また腎炎の進行に伴い細胞外基質成分の沈着が観察され、その後、不可逆的な組織学的変化と腎機能の低下に至る。本発明の腎炎の治療又は予防用医薬組成物の有効成分であるエンテロラクトンは、糸球体腎炎の三大症状であるタンパク尿症、低アルブミン血症、及び脂質異常症に対して、尿タンパク質量、及び血清中のトリグリセリド濃度等を低下させ、腎炎の治療又は予防用医薬組成物の有効成分として作用することができる。また、本発明の腎炎の治療又は予防用医薬組成物は、腎炎に伴う腎臓の組織学的変化である腎盂拡張、尿細管拡張、糸球体基底膜肥厚などを抑制及び改善することができる。
【0019】
また、本発明の治療又は予防用医薬組成物は、その剤型に合わせて医薬的に許容可能な担体を含むものであってもよい。このような担体としては、この用途に一般に使用される各種有機あるいは無機担体物質が挙げられる。また、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤等が挙げられる。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、吸着剤、湿潤剤等、この用途に通常用いられる添加物を含んでもよい。
【0020】
本発明の腎炎治療又は予防用医薬組成物は、間質性腎炎、腎盂腎炎、糸球体型腎炎からなる群より選択された腎炎だけでなく、これらの腎炎に起因した腎臓の機能障害、例えば急性腎不全及び慢性腎不全に対して広く用いることができる。本発明の腎炎治療又は予防用医薬組成物は、中でも、糸球体腎炎に対して好適に用いることができる。
なお、本発明における腎炎治療用医薬組成物とは、腎炎による症状が見出されている場合に、このような症状の進行を抑制し、又は緩和するために用いられる医薬組成物をいう。一方、腎炎予防用医薬組成物とは、腎炎による症状の発症が予期される場合に、予め投与してその発症を抑制するために用いられる医薬組成物をいう。ただし、使用時期又は使用の際の症状によっては複合的に用いられ、限定的に解釈されない。
【0021】
本発明の治療又は予防用医薬組成物は、経口的あるいは非経口的に投与することができ、例えば、本発明の医薬組成物を腎臓へ直接的にデリバリー可能な腹腔投与も有効な経路である。また、本発明の医薬組成物は、選択された投与形態に併せて剤型を変更することができる。経口投与に適する製剤の例としては、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤又はシロップ剤等を挙げることができ、非経口投与に適する製剤の例としては、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、貼付剤等を挙げることができる。これら化合物を成分とする薬剤の投与量は特に制限されないが、投与形態、年齢、体重、症状に応じて適宜選択すればよい。例えば静脈内投与の場合には、成人1日当り有効成分量として0.5〜1mg/kgが望ましく、また腹腔内投与の場合には、成人1日当り有効成分量として0.5〜5mg/kg、好ましくは0.5〜2mg/kg、特に0.9〜1.1mg/kgの投与が望ましい。経口投与の場合には、成人1日当り有効成分量として0.5〜2mg/kgの投与が望ましい。投与期間は、年齢、症状に応じて任意に定めることができる。また、医薬組成物中のエンテロラクトンの含有量は、特に制限は無く、例えば0.001質量%といった低濃度であっても十分な効果が得られるが、好ましくは0.0005〜0.005質量%、さらに好ましくは0.001〜0.002質量%である。
【0022】
腎炎治療用の低タンパク質食餌療法には、低タンパク質食が用いられる。本発明における低タンパク質食とは、タンパク質の含有量を通常(20質量%)よりも低くした食品を意味し、好ましくは、タンパク質9質量%以下のものを挙げることができ、本発明の腎炎の治療又は予防医薬組成物は、このような形態も包含する。本腎炎の治療又は予防医薬組成物は、腎臓への負担軽減と栄養バランスの両立の観点から、タンパク質の含有量は、好ましくは、5質量%以上であり、更に好ましくは、8〜8.5質量%である。このような低含有量のタンパク質、例えば、カゼイン、大豆タンパク、と組み合わせることによって、より効果的に腎炎を治療又は予防することができる。
【0023】
また、低タンパク質の医薬組成物とした場合には、更に、タンパク質栄養障害を克服しつつ腎炎時のタンパク尿、高脂血症(脂質異常症)、及び低アルブミン血症をも改善の観点から、特定種のアミノ酸を、含有量のバランスを調整して更に含む組成物であってもよい。この観点から用いられるアミノ酸としては、メチオニン、シスチン、スレオニン、システイン等、又はこれらの2つ以上の組み合わせを挙げることができる。特に、腎炎増悪因子であるTransforming Growth Factor−βの発現と活性を抑制し、血中造血ホルモンであるエリスロポエチン濃度の低下を防ぐ観点から、メチオニン、シスチン又はこれらの組み合わせと、スレオニンとを含むものであることが好ましく、メチオニンまたはシスチンを0.2〜0.4質量%、好ましくは0.29〜0.31質量%と、スレオニンを0.3〜0.4質量%、好ましくは0.35〜0.37質量%との割合で含有することが好ましい。
【0024】
更に、低タンパク質の医薬組成物には、その他の食餌成分も含有してもよく、このようなその他の成分としては、例えば、炭水化物、脂質、ミネラル、ビタミンを挙げることができる。ここで添加されるその他の成分の含有量は、上記のタンパク質、さらに加えてアミノ酸の含有量と栄養バランス確保の観点から適宜設定することができるが、例えば、主なエネルギー源となる炭水化物(例えば、水あめ、スターチなどのデンプン)を50〜70質量%、さらに好ましくは52〜55質量%含有することが好ましくい。
【0025】
腎臓組織病変を改善し、糸球体腎炎の三大症状であるタンパク尿症、低アルブミン血症、及び脂質異常症を抑制する観点から最も好ましい腎炎の治療又は予防用医薬組成物組成物は、エンテロラクトンを含有すると共に、アミノ酸バランスが調整され且つタンパク質含有量が低いものである。
【0026】
また、本発明では、上記有効成分であるエンテロラクトンを機能性成分として所定量添加して、例えば、食品添加物、栄養補助食品、栄養剤、治療用食品、栄養補給食品、健康食品等の任意の種類及び形態の機能性食品を製造することができる。これらの機能性食品も本発明の治療又は予防用医薬組成物に含まれるものである。有効成分のエンテロラクトンは、各種の公知の飲料あるいは食品の成分と従来知られた任意の方法で配合して機能性食品とすることができる。例えば、乾燥食品、サプリメント、清涼飲料、ミネラルウォータ、嗜好飲料、デザート、菓子類、冷菓、アルコール飲料等の液状食品を配合することができる。ここで挙げられる飲料としては、特に限定されるものではないが、緑茶、ウーロン茶、紅茶、ハーブティー等の茶類、濃縮果汁、濃縮還元ジュース、ストレートジュース、果実ミックスジュース、果粒入り果実ジュース、果汁入り飲料、果実、野菜ミックスジュース、野菜ジュース、炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、日本酒、ビール、ワイン、カクテル、焼酎、ウイスキー等が挙げられる。また、生薬、ハーブ、アミノ酸、ビタミン、その他食品に許容される素材・原料を用いることができる。
【0027】
本発明の腎炎の治療又は予防医薬組成物は、上記で示した任意の態様により、腎炎、例えば、間質性腎炎、腎盂腎炎、糸球体型腎炎、急性腎不全、慢性腎不全などの患者に投与することで、腎炎の治療方法に用いることができる。
【実施例】
【0028】
以下に本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0029】
[実施例1]
[1]尿タンパク量、血中過酸化脂質量及び臓器肥大に対するエンテロラクトンの影響
3週齢のオスのウィスターラット(チャールス・リバー社)を、1日間ペレット飼料(CE−2、日本クレア社)を与えて飼育した後、下記表1に示す、20%カゼイン食(20C)、エンテロラクトンを添加した20%カゼイン食(20C+ENL)、メチオニンとスレオニンの補足によりアミノ酸バランスが整えられた低タンパク質食(8.5CMT)、エンテロラクトンを添加したメチオニンとスレオニンの補足によりアミノ酸バランスが整えられた低タンパク質食(8.5CM+ENL)の各餌を与えるグループに群分けを行った。飼育環境としては、温度約22℃、相対湿度60±5℃、8時から20時までの照明時間を用いた。また、各日における体重及び餌摂取量を測定した。
【0030】
【表1】

【0031】
なお、表1で、20C+ENT及び8.5CMT+ENTおけるエンテロラクトンについては、他成分の合計を100%としたものに対する質量%で示している。また、20C、20C+ENT、8.5CMT、8.5CMT+ENTの各餌を与えたラットの群をそれぞれ、20C群、20C+ENT群、8.5CMT群、8.5CMT+ENT群とも以降表記する
【0032】
群分けした2日後に、抗ラット糸球体基底膜ウサギ血清を0.6ml尾静脈内投与し、翌日更にウサギγ−グロブリン(シグマ社製)を8mg/0.2mlフロイント完全アジュバンド(和光純薬工業)を後脚の肉趾内に皮下投与して、腎炎を惹起した(腎炎モデルラット)。
次に、抗血清注射日より、尿タンパク量の測定を、前日午前9時より当日午前9時までの尿をフラスコに回収し、市販のタンパク質測定用キット(Bio-Rad Protein Assay;バイオラド社製)を用いて行った(Biosci. Biothchnol. Biochem., 65, 1155-1162 (2001) 参照)。
尿タンパク量(mg/100g体重/日)の測定結果について、表2及び図1に示す。
なお、図1において、縦軸は尿タンパク質排泄量(mg/100g体重/日)を表し、横軸は抗血清注射後の日数を示す。図1及び表2に示されるように、エンテロラクトンを加えられた餌を与えられた群は、エンテロラクトンを加えられなかった餌を与えられた群に比べ、尿タンパク質が減少する傾向が見られた。
【0033】
【表2】

【0034】
抗血清注射日後8日目に解剖を行い、肝臓・腎臓を採取し、質量を測定した。
結果を体重及び摂餌量とともに表3に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
[2]血清成分に対するエンテロラクトン投与の影響
上記解剖に用いた動物の血液における、血清中の総タンパク質濃度、アルブミン濃度、グロブリン濃度、総コレストロール濃度、トリグリセリド濃度、TBRAS濃度をTBARSアッセイキット(ゼプト・メトリックス・コーポレーション(Zepto Metrix Corporation, New York, USA)製)を用いて測定した。結果を表4に示す。また、表4には、アルブミン/グロブリン(A/G比)を合わせて示した。また、トリグリセリド濃度については図2に結果を示した。図2中、縦軸は血清トリグリセリド濃度(mg/dl)を示し、横軸は各群名を示した。表4、並びに図2に示されるように、エンテロラクトンを加えられた餌を与えられた群は、エンテロラクトンを加えられなかった餌を与えられた群に比べ、血清中のトリグリセリド濃度が低下し、血清中のTBARS濃度も減少した。特に、血清中のトリグリセリド濃度に関しては、8.5CMT+ENT群でその傾向が強いことが認められた。
【0037】
【表4】

【0038】
[3]腎臓の組織切片による病理組織検査
上記解剖して重量を測定した腎臓から、常法により腎臓組織切片を作成し、ヘマトキシリン・エオシン染色を行った後、顕微鏡観察を行った。
また、抗血清注射等の処理を行わずに、通常の餌を与えた正常群に対しても同様にして腎臓組織切片を作成し、観察した。
【0039】
図3、図4は正常群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。図4は、糸球体部位について図3の写真の4倍の倍率で撮影したものである。
図3及び図4に示されるように、異常所見は認められなかった。
【0040】
図5、図6は20C群の腎臓組織切片の顕微鏡写真であり、このうち図6は糸球体部位について図5の写真の4倍の倍率で撮影したものである。
サンプル数8に対し、図5に示されるように尿細管拡張が4例に、図6に示されるように糸球体基底膜肥厚が2例にみられた。また、中等度の腎盂拡張が1例にみられた他、尿円柱が全例にみられた。
【0041】
図7、図8は20C+ENL群の腎臓組織切片の顕微鏡写真であり、このうち図8は糸球体部位について図7の写真の4倍の倍率で撮影したものである。
サンプル数6に対し、尿円柱が5例にみられたが、図7及び図8に示されるように、その他の異常所見は認められなかった。
【0042】
図9、図10はCMT群の腎臓組織切片の顕微鏡写真であり、このうち図10は糸球体部位について図9の写真の4倍の倍率で撮影したものである。
サンプル数5に対し、図9に示されるように尿細管拡張は認められなかった。また、図9に示されるように、糸球体基底膜肥厚が2例にみられたが、尿円柱が3例に認められた。
【0043】
図11、図12はCMT+ENL群の腎臓組織切片の顕微鏡写真である。
サンプル数6に対し、尿円柱が3例にみられたが、図11及び図12に示されるように、その他の異常所見は認められなかった。
【0044】
なお、上記図3〜12のうち、図3、5、7、9、11はいずれも同一の倍率(70倍)で撮影された顕微鏡写真であり、また、図4、6、8、10、12はいずれも同一の倍率(280倍)で撮影された顕微鏡写真である。
【0045】
以上のように、正常ラットに比べ糸球体腎炎モデルラットでは、タンパク尿症、低アルブミン血症、脂質異常症の発生、血中過酸化脂質濃度等の上昇が認められるが、以上の実施例に示されるように、エンテロラクトン投与によりこれらの一部が抑制された。
また、実験食中のエンテロラクトンの添加量は、低用量(0.001質量%)とした場合でも十分な効果が得られた。
エンテロラクトンの添加は、通常タンパク質食(20C)摂取時よりも、アミノ酸補足によりアミノ酸バランスが整えられた低タンパク質食(8.5CMT)摂取時のほうが優位な効果が得られることが分かった。腎臓の病理組織検査で、また、腎炎20C群や腎炎8.5CMT群で認められた腎盂拡張、尿細管拡張、糸球体基底膜肥厚は、エンテロラクトン投与により完全に消失した。これらの結果から、エンテロラクトンに腎炎抑制効果があることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンテロラクトンを有効成分として含む、腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項2】
前記腎炎が糸球体腎炎であることを特徴とする請求項1記載の腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項3】
9質量%以下のタンパク質をさらに含む請求項1又は2記載の腎炎の治療又は予防用医薬組成物。
【請求項4】
0.2〜0.4質量%のメチオニンまたはシスチンと、0.3〜0.4質量%のスレオニンとをさらに含む請求項3記載の腎炎の治療又は予防用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−17296(P2012−17296A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156141(P2010−156141)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】