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腎盂、尿管及び膀胱癌の検出方法及び検出システム
説明

腎盂、尿管及び膀胱癌の検出方法及び検出システム

【課題】患者の痛みを伴わない非侵襲的で感度と特異度が高い腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法並びに検出システムを提供する。
【解決手段】尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出することを特徴とする、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法、及び尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出する手段を備えることを特徴とする、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法、並びに検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
腎盂、尿管及び膀胱癌の確定診断は、主として膀胱鏡、尿管鏡等を用いて採取した病変の病理組織診断によるが、患者に与える苦痛が大きく経済的負担も大きいという問題がある。他方、尿中剥離細胞から癌細胞の有無を観察して診断する尿検体を用いた細胞診断システムは、侵襲性が低く特異度も高く安価であるが、感度が低く、特に異型度の低い尿路上皮癌において顕著であるため診断精度が低いという問題がある。
【0003】
そのため、患者の痛みを伴わない非侵襲性で精度の高い腎盂、尿管及び膀胱癌の診断システムが望まれている。
【0004】
AlkBはDNAとRNAにおいて1-メチルアデニンと3-メチルシトシンの酸化的脱メチル化を触媒する大腸菌のタンパク質である。ヒトAlkBホモログ(hABH)、hABH1、hABH2及びhABH3は既に同定されていたが、非特許文献1ではhABH4-hABH7 mRNAを同定したこと、新規遺伝子であるhABH8をクローン化したことが報告されている。当該hABH8は膀胱癌細胞で高く発現している。
【0005】
非特許文献2では、膀胱癌細胞株を用いて、hABH-8遺伝子をノックダウンすると、癌細胞内のNAD(P)H oxidase (NOX) Iの発現が減少し、続いて細胞内の活性酸素種(ROS)産生が抑制され、その後、細胞死(アポトーシス)が誘導されたことが報告されている。また、ヌードマウスを用いてヒト膀胱癌細胞をマウス膀胱内に移植(同所性移植)した後に、膀胱内にsiRNAを注入して癌細胞のhABH-8を抑制すると、膀胱癌細胞のアポトーシスが誘導され、膀胱癌腫瘍体積が著しく縮小したことも報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tsujikawa K et al. J. Cell Mol. Med., 2007, 11(5), 1105-16
【非特許文献2】Shimada K et al. Cancer Res., 2009, 69(7), 3157-3164
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述するように現在腎盂、尿管及び膀胱癌の確定診断は、患者に高度の苦痛を強いる膀胱鏡等を用いた組織採取に頼らざるを得ない。一方、尿検体を用いた細胞診は、患者の苦痛は皆無であるが、細胞の形態的特徴(いわゆる異型の程度)だけで癌か否かを診断する検査法であるため診断精度が低く、異型の程度が低い場合や細胞変性が強い場合などにおいて癌と確定診断することができない。また、経験的知識が求められるため、観察者間の不一致も目立つという問題がある。
【0008】
すなわち、現状の腎盂、尿管及び膀胱癌の診断法では患者に苦痛を与えない高精度の診断システムが確立されていない。
【0009】
そこで、本発明は、患者の痛みを伴わない非侵襲的で感度と特異度が高い腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法並びに検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
非特許文献2の記載内容から、hABH-8は活性酸素種(スーパーオキシドアニオン、過酸化水素)の産生を介して膀胱癌の進展を促進するものと考えられる(図1)。
【0011】
そこで、本発明者らは、尿中に剥離した細胞について活性酸素種を蛍光標識し、蛍光顕微鏡下に観察して陽性細胞を検出し異型の有無など形態的特徴を観察すること、及び標識したサンプルをフローサイトメトリーにかけてヒストグラムを作成し良性細胞と比較して陽性側へのシフトを認めるか否かの判定をすることで尿細胞診を行うことにより、上記目的を達成することができるという知見を得た。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の癌細胞の検出方法及び癌細胞の検出システムを提供するものである。
【0013】
(I) 癌細胞の検出方法
(I-1) 尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出することを特徴とする、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
(I-2) (1)尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程、及び
(2)蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行う工程、
を含む腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
(I-3) (1)尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程、及び
(2)工程(1)で蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める工程、
を含む腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
(I-4) (I-2)に記載の方法から得られる結果と(I-3)に記載の方法から得られる結果を組み合わせて癌細胞の有無の判定を行う、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
(I-5) 前記活性酸素種がスーパーオキシドアニオン及び過酸化水素から選択される少なくとも1種である、(I-1)〜(I-4)のいずれかに記載の方法。
(I-6) 前記癌細胞が膀胱癌細胞である、(I-1)〜(I-5)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(II) 癌細胞の検出システム
(II-1) 尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出する手段を備えることを特徴とする、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
(II-2) 尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段と、
蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行うための手段
とを備える腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
(II-3) 尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段と、
上記手段により蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める手段
とを備える腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
(II-4) (II-2)に記載のシステムと、
(II-3)に記載のシステムと、
上記2つのシステムから得られる結果を組み合わせて癌細胞の有無を判定する判定機構
とを備える腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
(II-5) 前記活性酸素種がスーパーオキシドアニオン及び過酸化水素から選択される少なくとも1種である、(II-1)〜(II-4)のいずれかに記載のシステム。
(II-6) 前記癌細胞が膀胱癌細胞である、(II-1)〜(II-5)のいずれかに記載のシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌の癌細胞の検出方法及び検出システムは、患者の痛みを伴わない非侵襲的で感度と特異度が高いという優れた特性を有している。
【0016】
また、本発明によれば、活性酸素と反応する検出試薬を患者尿検体中の浮游細胞に反応させ、陽性を示す細胞の形態的特徴を観察することで効率よく癌細胞の検出が可能となる。更に、蛍光強度の測定(ヒストグラムの測定)と陰性検体との比較による定性的な分析により、観察者の技量などの不確定要素に左右されない癌細胞の検出が可能となる。
【0017】
本発明の方法及びシステムによれば、癌細胞の異型度に関わらずに高い感度と特異度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】膀胱癌の進展についてのメカニズムを示す図である。
【図2】尿中剥離細胞の活性酸素種(ROS)の標識原理を示す図である
【図3】実施例における尿検体を用いた活性酸素種の解析の結果を示す図である。(A)蛍光標識された細胞像、(B)フローサイトメトリーの結果
【図4】膀胱癌(49症例)と非癌症例(80例)に対する尿細胞診断精度の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0020】
癌細胞の検出方法
本発明の方法は、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法であって、尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出することを特徴とする。
【0021】
当該方法は、非侵襲性であるので患者の痛みを伴わず、更に感度と特異度が高いという点で従来技術に対し優れている。尿中の剥離した癌細胞が正常細胞と比較して活性酸素種を多く産生することから、尿中剥離細胞の活性酸素種の産生を調べることで癌細胞を検出することが可能となる。
【0022】
また、本発明の方法によれば、新鮮検体を扱う限り、感度80%以上、特異度90%以上で上記癌細胞の検出を行うことも可能である。更に、本発明の方法は低異型度の上記癌においても高い検出感度が得られる。
【0023】
本発明における被験対象は、哺乳動物(ヒト、サル、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、マウス、ラット等)であり、特にヒトである。尿中の剥離細胞は、腎盂、尿管又は膀胱に由来するものである。
【0024】
本発明において検出する活性酸素種としては、好ましくはスーパーオキシドアニオン(O2-)及び過酸化水素であり、スーパーオキシドアニオンと過酸化水素の両方を検出することが特に好ましい。
【0025】
当該活性酸素種を検出する方法としては蛍光標識する方法が挙げられ、例えば、2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセインは過酸化水素との反応で緑色蛍光を発色し、ジヒドロエチジウムはスーパーオキシドアニオンとの反応で赤色蛍光を発色する。蛍光標識を行うことで蛍光顕微鏡下にスーパーオキシドアニオン及び過酸化水素の産生細胞を抽出できる。
【0026】
本発明では、当該活性酸素種の検出と形態学的解析を組み合わせる方法(以下の癌細胞の検出方法(1))や、検出される蛍光強度と細胞数のヒストグラムの対比を行う方法(以下の癌細胞の検出方法(2))等により癌細胞を検出することができる。
【0027】
<癌細胞の検出方法(1)>
本発明の上記方法の一つの実施態様は、(1)尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程、及び(2)蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行う工程、を含むことを特徴とする。
【0028】
当該方法により、検出試薬に陽性を示す細胞の形態的特徴を観察することで効率の良い癌細胞の検出が可能となる。また、このように蛍光発色と形態的解析とを組み合わせれば感度が高く、客観性が高い癌細胞の検出が可能となる。
【0029】
本発明における活性酸素種の検出試薬としては、活性酸素種(好ましくは、スーパーオキシドアニオン及び過酸化水素)と反応して蛍光発色する試薬であれば特に限定されないが、例えば前述する2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセイン、ジヒドロエチジウム等が挙げられる。
【0030】
本発明では工程(1)の操作により蛍光発色した細胞について形態的解析を行い異型細胞であるか否かの判定を行う。ここで異型細胞とは、通常の判断手法により癌細胞として認識される異型細胞のことであり、例えば、核の腫大、N/C比の増加、核の多形化等の有意な異型を示す細胞のことを意味する。
【0031】
異型細胞の存在の確認は、蛍光顕微鏡で得られた画像により人が行っても良いし、当該画像についてコンピューターシステムの画像解析を行うことにより異型細胞の検出を行っても良い。
【0032】
本発明において、例えば一検体当たり少なくとも20個以上の蛍光発色した異型細胞が存在した場合に、腎盂癌、尿管癌又は膀胱癌が存在するとの判定を行う。
【0033】
<癌細胞の検出方法(2)>
本発明の上記方法のもう一つの実施態様は、(1)尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程、及び(2)工程(1)で蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める工程、を含むことを特徴とする。
【0034】
当該方法により、蛍光強度の測定(ヒストグラムの作成)と当該ヒストグラムの正常試料との比較を行うことで、観察者の技量などの不確定要素に左右されない精度の高い癌細胞の検出が可能となる。
【0035】
検出試薬としては前述するものと同様のものが挙げられる。
【0036】
本発明の工程(2)でヒストグラムを求めるためには公知の方法を使用することができるが、例えばフローサイトメトリーを利用した方法が挙げられる。フローサイトメトリーを使用した場合は、過酸化水素産生細胞(2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセイン陽性細胞)は励起波長490±20 nm、吸収波長520±20 nmの条件下で検出でき、スーパーオキシドアニオン陽性細胞(ジヒドロエチジウム陽性細胞)は励起波長535±20 nm、吸収波長620±20 nmの条件下で検出できる。
【0037】
本発明において、被験対象の尿検体の蛍光強度のヒストグラムが正常試料と比較して増強(シフト)している場合に、腎盂癌、尿管癌又は膀胱癌が存在するとの判定を行う。正常試料とは腎盂癌、尿管癌若しくは膀胱癌に罹患していない個体の(好ましくは、腎盂、尿管又は膀胱由来の)尿中剥離細胞を含む尿検体、又は検出試薬により蛍光発色させていない尿検体である。正常試料のデータは過去に得られたデータから標準化されたものであっても良い。
【0038】
<癌細胞の検出方法(3)>
本発明の上記方法のもう一つの実施態様は、上記癌細胞の検出方法(1)で得られる結果と癌細胞の検出方法(2)で得られる結果を組み合わせて癌細胞の有無の判定を行うことを特徴とする。
【0039】
このように複数の癌細胞の検出方法を組み合わせることで、検出の精度を向上させることが可能となる。
【0040】
上記方法では尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程は、癌細胞の検出方法(1)と癌細胞の検出方法(2)で共通とし1回のみ行っても良いし、それぞれに1回ずつ(計2回)行っても良い。
【0041】
癌細胞の検出方法(1)若しくは癌細胞の検出方法(2)のどちらか一方で陽性と判断された場合、又は癌細胞の検出方法(1)及び癌細胞の検出方法(2)の両方で陽性と判断された場合に腎盂癌、尿管癌又は膀胱癌が存在するとの判定を行う。いずれの場合に癌が存在するとの判定を行うかは、得られる感度や特異度により状況に応じて最適な組み合わせを決定する。
【0042】
本発明の方法で使用する蛍光発色させるための検出試薬は安価であり、蛍光顕微鏡やフローサイトメトリーは一般病院の検査室や検査センターなどで汎用されているので、本発明の方法は容易に実施することが可能である。
【0043】
癌細胞の検出システム
本発明のシステムは、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システムであって、尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出する手段を備えることを特徴とする。
【0044】
本発明の上記システムの一つの実施態様は、尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段と、蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行うための手段とを備えることを特徴とする(癌細胞の検出システム(1))。
【0045】
本発明の上記システムのもう一つの実施態様は、尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段と、上記手段により蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める手段とを備えることを特徴とする(癌細胞の検出システム(2))。
【0046】
当該システムは、非侵襲性であるので患者の痛みを伴わず、更に感度と特異度が高いという点で従来技術に対し優れている。
【0047】
本発明のシステムは、上記方法を実現するためのシステムであり、剥離細胞、活性酸素種、検出試薬、異型細胞等は前述するものと同様である。
【0048】
上記尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出する手段としては、例えば、活性酸素種を蛍光標識することにより検出する手段が挙げられ、具体的には前述するような活性酸素種の存在により蛍光発色する試薬を検体に投入する手段が挙げられる。
【0049】
上記尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段としては、例えば、蛍光試薬を検体に投入する手段が挙げられる。
【0050】
上記蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行うための手段としては、例えば、蛍光顕微鏡や画像解析機能により異型細胞を検出できるコンピューターシステムが挙げられる。
【0051】
上記蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める手段としては、例えば、フローサイトメトリーやセルソーターを挙げることができる。
【0052】
本発明のシステムは、更に、得られた結果(蛍光発色した異型細胞の数、蛍光強度と細胞数のヒストグラム)から、腎盂癌、尿管癌又は膀胱癌が存在するか否かの判定を行う判定機構を備えていても良い。
【0053】
本発明の上記システムのもう一つの実施態様は、癌細胞の検出システム(1)と、癌細胞の検出システム(2)と、上記2つのシステムから得られる結果を組み合わせて癌細胞の有無を判定する判定機構とを備えることを特徴とする。
【0054】
このように複数の癌細胞の検出システムを組み合わせることで、検出の精度を向上させることが可能となる。
【0055】
上記システムでは、尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段は、癌細胞の検出システム(1)と癌細胞の検出システム(2)で共通の一つの手段であっても良いし、それぞれに一つずつ有していても良い。
【0056】
上記癌細胞の有無を判定する判定機構は、癌細胞の検出システム(1)若しくは癌細胞の検出システム(2)のどちらか一方で陽性と判断された場合、又は癌細胞の検出システム(1)及び癌細胞の検出システム(2)の両方で陽性と判断された場合に腎盂癌、尿管癌又は膀胱癌が存在するとの判定を行う。いずれの場合に癌が存在するとの判定を行うかは、得られる感度や特異度により状況に応じて最適な組み合わせがユーザにより又は自動的に選択される。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0058】
実験方法
1)尿検体の収集
自然に排泄される尿検体を研究試料とするため、患者には何ら苦痛を与えるものではないが、奈良医大・医の倫理委員会規定に基づき共同研究者である奈良医大・泌尿器科医師より患者に対し研究の主旨を十分説明し、同意を得ることができた検体のみを研究に供した。
【0059】
2)活性酸素種検出試薬の反応
膀胱癌患者及び非癌患者(膀胱炎、結石など)の尿検体(尿回収用15 ml遠心管)を1500回転、5分遠心した後、上清を吸引除去して沈査のみを回収した。沈査を無血清培地で数回リンスし、同沈査に無血清培地(RPMI培地) 1 mlを加えて、過酸化水素検出試薬(二酢酸2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセイン) 20μM及びスーパーオキシドアニオン検出試薬(ジヒドロエチジウム) 100μMを細胞培養用培地下、暗室において37℃、30分間反応させ、フローサイトメトリー又は蛍光顕微鏡下の細胞解析を行なった。
【0060】
3)フローサイトメトリー
過酸化水素産生細胞(二酢酸2',7'-ジクロロジヒドロフルオレセイン陽性細胞)は励起波長490±20nm、吸収波長520±20nm条件下にて検出する一方、スーパーオキシドアニオン陽性細胞(ジヒドロエチジウム陽性細胞)は励起波長535±20nm、吸収波長620±20nm条件下にて、フローサイトメトリー(FACScanTM, Becton-Dickson, CA, USA)を用いて検出した。臨床的に明らかな非癌症例(膀胱炎)の尿検体を陰性コントロールとして用い、細胞10,000個あたりの蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求め、陰性コントロールと比較して蛍光強度のシフトが見られた検体を陽性と判定した。
【0061】
4)蛍光細胞診
2)で反応した細胞に核を染色する4',6-diamidino-2-phenylindole(DAPI)を反応させた(核は青色に映る)。蛍光顕微鏡(ライカCTR6000)下で、過酸化水素産生細胞はFITCフィルターにて緑色に、一方スーパーオキシドアニオン陽性細胞はTexas-Redフィルターにて赤色に発色する(図2)。これら両者を産生し(重ね合わせ画像にて、黄色に映る)、且つ核の腫大、N/C比の増加、核の多形性など有意な異型を示す細胞が少なくとも一検体あたり20個以上存在するものを陽性と判定した。いずれか一方の活性酸素種しか産生しない細胞や活性酸素種を産生しても異型が皆無である細胞は判定対象から除外した。
【0062】
試験例1
ヒト尿検体中に剥離した膀胱癌細胞が活性酸素種を産生するのに対し、正常細胞では微量な産生にとどまることを蛍光発色試薬、蛍光顕微鏡、フローサイトメトリーを用いた解析で確認できた(図3)。
【0063】
蛍光発色試薬による発色後に蛍光顕微鏡観察を行った結果、膀胱癌細胞は緑で標識された過酸化水素(FITC)、赤で標識されたO2-(スーパーオキシドアニオン、Texas Red)とも産生し、正常細胞に比べて大型で核の形も不整であった。一方、正常細胞はいずれもほとんど産生せず、小型であった(図3(A))。
【0064】
フローサイトメトリーでの解析結果から、蛍光強度は陰性検体(黒:膀胱炎症例)に比べて膀胱癌細胞(灰色)で増強していたことが判明した(図3(B))。
【0065】
上記の結果から、活性酸素と反応する検出試薬を患者尿検体中の浮游細胞に反応させ、陽性を示す細胞の形態的特徴を観察することで効率よく膀胱癌の診断が可能になり、従来の尿細胞診に求められていた「検出感度の上昇」に寄与できると期待できる。更に、フローサイトメトリーを用いた蛍光強度の測定(ヒストグラムの測定)と陰性検体との比較による定性的な分析を加味すれば、観察者の技量などの不確定要素に左右されない、より精度の高い膀胱癌診断システムが構築できる。
【0066】
試験例2
病理学的診断結果との対比及び検討から、過酸化水素とスーパーオキシドアニオンの両方を産生し、且つ有意な異型を示す細胞が一検体20個以上存在する場合を膀胱癌細胞と判定し、以下これをROS標識尿細胞診と称している。
【0067】
初発膀胱癌症例(49例)と膀胱炎や膀胱結石などの非癌症例(80例)を対象に通常の尿細胞診とROS標識尿細胞診との診断精度を比較したものを図4に示す。通常の尿細胞診では、低異型度(G1)の癌に対する検出感度が低かった。一方で、ROS標識尿細胞診では、異型度に関わらず高い感度と特異度を示した(癌異型度は、G1<G2<G3の順で高くなる)。注目すべきは、低異型度膀胱癌における診断精度が有意に改善したことである。
【0068】
更に、通常の尿細胞診では「疑陽性」としか診断できなかった14症例に対して、ROS標識尿細胞診を適応すると、感度90%、特異度100%の高い精度で判定することができた(表1)。
【0069】
【表1】

【0070】
以上の結果から、活性酸素種に着目した尿細胞診を用いることで、患者の苦痛を伴わずに、診断精度の高い尿細胞診断システムを構築できると期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出することを特徴とする、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
【請求項2】
(1)尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程、及び
(2)蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行う工程、
を含む腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
【請求項3】
(1)尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる工程、及び
(2)工程(1)で蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める工程、
を含む腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法から得られる結果と請求項3に記載の方法から得られる結果を組み合わせて癌細胞の有無の判定を行う、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出方法。
【請求項5】
前記活性酸素種がスーパーオキシドアニオン及び過酸化水素から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
尿中の剥離細胞における活性酸素種を検出する手段を備えることを特徴とする、腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
【請求項7】
尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段と、
蛍光発色した細胞における異型細胞の存在の確認を行うための手段
とを備える腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
【請求項8】
尿中の剥離細胞を活性酸素種の検出試薬により蛍光発色させる手段と、
上記手段により蛍光発色させた剥離細胞について蛍光強度と細胞数のヒストグラムを求める手段
とを備える腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
【請求項9】
請求項7に記載のシステムと、
請求項8に記載のシステムと、
上記2つのシステムから得られる結果を組み合わせて癌細胞の有無を判定する判定機構
とを備える腎盂癌、尿管癌及び膀胱癌からなる群から選択される癌細胞の検出システム。
【請求項10】
前記活性酸素種がスーパーオキシドアニオン及び過酸化水素から選択される少なくとも1種である、請求項5〜9のいずれかに記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242333(P2012−242333A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115019(P2011−115019)
【出願日】平成23年5月23日(2011.5.23)
【出願人】(507126487)公立大学法人奈良県立医科大学 (12)
【Fターム(参考)】