説明

腎盂尿管移行部の診断及び評価用のポリペプチドマーカー

本発明は、尿管腎盂移行部(UAS)の診断のための方法に関する。前記方法において、試料中の少なくとも1つのポリペプチドマーカーの存在又は不存在が測定され、前記ポリペプチドマーカーは、マーカー1から277(頻度マーカー)から選択され、又はマーカー278から308から選択される少なくとも1つのポリペプチドマーカー(振幅マーカー)の振幅が決定され、これらは、分子質量及び移動時間(CE時間)に対する値によって特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎盂尿管移行部閉塞(PUJO)の重度の診断及び評価のための、対象から得た試料中の1つ又はそれ以上のペプチドマーカーの存在又は不存在の使用、並びに腎盂尿管移行部閉塞の診断及び評価の方法に関し、1つ又は複数のペプチドマーカーの存在又は不存在は、PUJOの重度の指標である。
【背景技術】
【0002】
尿管の異常は、児童において最も頻繁に見られる異常である。妊婦への定期的な超音波検査のために、このような異常は、しばしば、出生前に検出される。これらの異常の1つが、水腎症又は腎盂尿管移行部閉塞(いわゆる片側水腎症)である。本疾病は、医学的には、拡張又は閉塞した腎盂−腎杯系を伴い、腎盂から尿管への移行部における尿の流れが妨害されることとして定義される。
【0003】
出生前診断は、超音波検査によってのみ実施することが可能であるが、出生後診断は、例えば、利尿薬の投与下で、超音波検査によって実施することができる。治療の過程にとって重大な問題は、いつから外科的介入を要する重度に達するかということである。拡張が生じた際に、利尿薬の投与後、腎杯系の拡張のさらなる増大が存在しない場合には、現行の技術水準によれば、手術は不要である。これに対して、閉塞(利尿薬の投与後における腎杯系の恒久的又は漸増的拡張)又はその他の機能的悪化が検出された場合には、手術が必要である。これらの2つの症状の間の段階では全て、手術(新生児又は幼児に重篤な合併症を伴い得る。)の要否に関して明確な決定を下すことはできない。
【発明の開示】
【0004】
驚くべきことに、対象から得た尿の試料中の特定のペプチドマーカーは、腎盂尿管移行部閉塞の診断のために使用することが可能であり、従って、手術が必要かどうかを決定するために使用できることがここに見出された。
【0005】
従って、本発明は、腎盂尿管移行部閉塞の診断ための、対象から得た試料中の少なくとも1つのペプチドマーカー、理想的には、数個のポリペプチドマーカーの存在又は不存在の使用に関連し、前記1つ又は複数のポリペプチドマーカーは、表1に記載されているように分子質量及び移動時間によって特徴付けられるポリペプチドマーカー番号1ないし番号308から選択される。
【0006】
【表5】


【0007】
本発明を用いれば、腎盂尿管移行部閉塞の重度を決定することも可能である。これらの情報は、手術が必要かどうか、又は患者がなお待機し得るかどうかを決定するのに役立つ。
【0008】
移動時間は、例えば、実施例2の項目2に記載されているように、キャピラリー電気泳動(CE)によって測定される。従って、長さ90cm及び75μmの内径(ID)及び360μmの外径(OD)のガラスキャピラリーが、30kVの電圧で操作される。試料用溶媒として、水中の、30%メタノール、0.5%ギ酸が使用される。
【0009】
CE移動時間は変動し得ることが知られている。それにもかかわらず、ポリペプチドマーカーが溶出される順序は、典型的には、使用される何れのCE系についても同じである。移動時間の差を釣り合わせるために、移動時間が公知である標準物質を用いて、系を標準化し得る。これらの標準物質は、例えば、実施例に記載されているポリペプチドであり得る(実施例の項目3を参照。)。
【0010】
表1から3に示されているポリペプチドマーカーの特性は、例えば、Neuhoffら(Rapid Communications in mass spectrometry,2004,Vol.20,pp.149−156)によって詳しく記載されている方法であるキャピラリー電気泳動−質量分析法(CE−MS)を用いて測定された。各測定間又は異なる質量分析計間での分子質量の変動は、比較的小さく、典型的には、±0.1%の範囲内、好ましくは、±0.05%の範囲内、より好ましくは、±0.03%の範囲内、さらに好ましくは、±0.01%の範囲内である。
【0011】
本発明のポリペプチドマーカーは、タンパク質若しくはペプチド又はタンパク質若しくはペプチドの分解産物である。本発明のポリペプチドマーカーは、例えば、グリコシル化、リン酸化、アルキル化又はジスルフィド架橋などの翻訳後修飾によって、又は、例えば、分解の範囲に含まれる他の反応によって化学的に修飾され得る。さらに、ポリペプチドマーカーは、例えば、試料の精製の範囲内で、化学的に変化され得、例えば、酸化され得る。
【0012】
ポリペプチドマーカー(分子質量及び移動時間)を決定するパラメータから進んで、従来技術において公知の方法によって、対応するポリペプチドの配列を同定することが可能である。
【0013】
PUJOの重度を診断するために、本発明のポリペプチド(表1から3を参照。)が使用される。「診断」とは、疾病又は傷害に対して症候又は現象を割り当てることによって、知識を取得する過程を意味する。本事例では、PUJOの重度は、特定のポリペプチドマーカーの存在又は不存在から結論付けられる。従って、本発明のポリペプチドマーカーは、対象から得た試料中において測定され、その存在又は不存在は、PUJOの重度を結論付けることを可能とする。ポリペプチドマーカーの存在又は不存在は、従来技術において公知のあらゆる方法によって測定することが可能である。公知であり得る方法は、以下に例示されている。
【0014】
その測定された値が、その閾値と少なくとも同じ程度に高ければ、ポリペプチドマーカーは存在すると考えられる。測定された値がこれより低ければ、ポリペプチドマーカーは存在しないと考えられる。閾値は、測定方法の感度(検出限界)によって、又は経験的に求めることができる。
【0015】
本発明において、好ましくは、ある分子質量に対する試料の測定された値が、ブランク試料(例えば、緩衝液又は溶媒のみ)の測定された値より、少なくとも2倍高ければ、閾値を超えていると考えられる。
【0016】
1つ又は複数のポリペプチドマーカーの存在又は不存在が測定されるように、1つ又は複数のポリペプチドマーカーが使用され、存在又は不存在は、PUJOの重度の指標となる(頻度マーカー)。従って、PUJOを有しない対象中に典型的に存在するが、重いPUJOを有する対象中には、より低い頻度で存在し、又は全く存在しないポリペプチドマーカー、例えば、1−249が存在する(表2)。さらに、重いPUJO(手術が必要)を有する患者中に存在するが、PUJOを有しない患者(対照)中により低い頻度で存在し、又は全く存在しないポリペプチドマーカー(ポリペプチドマーカー250から277など)が存在する。
【0017】
【表6】


【0018】
頻度マーカー(存在又は不存在の測定)に加えて、又は代えて、表3に示されている振幅マーカーも、腎盂尿管移行部閉塞の診断のために使用され得る(番号278−308)。
【0019】
振幅マーカーは、存在又は不存在は決定的でないが、シグナルの高さ(振幅)が両群にシグナルが存在するかどうかを決定するように使用される。表3には、測定された全ての試料にわたって平均された対応するシグナルの平均振幅(質量及び移動時間によって特徴付けられる。)が記されている。異なって濃縮された試料又は異なる測定法間の比較可能性を実現するために、試料の全てのペプチドシグナルは、100万カウントの総振幅になるように標準化される。従って、各マーカーのそれぞれの平均振幅は、100万分率(ppm)として表記されている。
【0020】
使用された全ての群は、信頼できる平均振幅を得るために、少なくとも20の各患者又は対照試料からなる。診断に対する決定(重いPUJOであるか否か)は、対照群又はPUJO群中の平均振幅と比較して、患者試料中の各ポリペプチドマーカーの振幅がどれほど高いかに応じて行われる。振幅が、どちらかといえばPUJO群の平均振幅に対応する場合には、腎盂尿管移行部閉塞の存在が検討されるべきであり、どちらかといえば対照群の平均振幅に対応する場合には、PUJOの不存在を検討すべきである。より正確な定義は、マーカー番号298を用いて与えられなければならない(表3)。マーカーの平均振幅は、重度のPUJOにおいて、著しく増加する(4428ppm対対照群中の1983ppm)。ここで、患者試料中のこのマーカーに対する値が0から1983ppmであり、又は、この範囲を最大20%超過すれば(すなわち、0から2316ppm)、この試料は、対照群に属する。値が4428ppm若しくは最大20%以下であり、又はこれより高い場合には(すなわち、3542と極めて高い値との間)、重度の腎盂尿管移行部閉塞の存在が考慮されるべきである。
【0021】
【表7】

【0022】
1つ又はそれ以上のポリペプチドマーカーの存在又は不存在が測定される試料が得られる対象は、PUJOに罹患することができるあらゆる対象であり得る。好ましくは、対象は哺乳動物であり、最も好ましくは、ヒトである。
【0023】
頻度マーカーは、幾つかの試料において振幅が低い振幅マーカーの変形である。マーカーが見出されない対応する試料を、検出限界の桁の極めて小さな振幅を有する振幅の計算中に含めることによって、このような頻度マーカーを振幅マーカーに変換することが可能である。
【0024】
本発明の好ましい実施形態において、PUJOの重度を決定するために、1つのポリペプチドマーカーだけでなく、ポリペプチドマーカーの組み合わせが使用され、PUJOの重度は、ポリペプチドマーカーの存在又は不存在から結論付けることができる。複数のポリペプチドマーカーを比較することによって、病気又は対照個体中の典型的な存在確率から得られる2、3の各偏差から得られた全体的結果における偏りを低下させ、又は回避することができる。
【0025】
本発明の1つ又は複数のペプチドマーカーの存在又は不存在が測定される試料は、対象の身体から得られる何れかの試料であり得る。試料は、対象の状態についての情報(重度のPUJOであるか否か)を与えるのに適したポリペプチド組成物を有する試料である。例えば、試料は、血液、尿、滑液、組織液、身体分泌、汗、脳脊髄液、リンパ、腸、胃又は膵液、胆汁、涙液、組織試料、精液、膣液又は糞便試料であり得る。好ましくは、試料は、液体試料である。
【0026】
好ましい実施形態において、試料は、尿試料又は血液試料であり、血液試料は(血液)血清又は(血液)血漿試料であり得る。
【0027】
尿試料は、従来技術において好ましいように採取することが可能である。好ましくは、本発明において、中間尿試料が前記尿試料として使用される。例えば、尿試料は、WO01/74275に記載されているように、排尿装置を用いても採取され得る。
【0028】
血液試料は、例えば、静脈、動脈又は毛細血管から、従来技術において公知の方法によって採取することができる。通常、血液試料は、例えば、対象の腕から、注射器を用いて静脈血を採取することによって得られる。「血液試料」という用語には、血漿又は血清など、さらなる精製及び分離方法によって血液から取得される試料が含まれる。
【0029】
試料中のポリペプチドマーカーの存在又は不存在は、ポリペプチドマーカーを測定するのに適した従来技術において公知のあらゆる方法によって測定し得る。このような方法は、当業者に公知である。原則として、ポリペプチドマーカーの存在又は不存在は、質量分析法などの直接法によって、又は例えば、リガンドを用いた間接法によって決定することができる。
【0030】
必要であれば、又は所望であれば、対象から得た試料、例えば、尿又は血液試料は、何れかの適切な手段によって前処理され得、例えば、1つ又は複数のポリペプチドマーカーの存在又は不存在が測定される前に精製又は分離され得る。処理は、例えば、精製、分離、希釈又は濃縮を含み得る。前記方法は、例えば、遠心、ろ過、限外ろ過、透析、沈殿、又はアフィニティー分離若しくはイオン交換クロマトグラフィーを用いた分離などのクロマトグラフィー法、電気泳動分離、すなわち、電場を付与した際の、溶液中での帯電した粒子の異なる移動挙動による分離であり得る。その具体例は、ゲル電気泳動、二次元ポリアクリルアミドゲル電気泳動(2D−PAGE)、キャピラリー電気泳動、金属アフィニティークロマトグラフィー、固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、レクチンをベースとしたアフィニティークロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、順相及び逆相HPLC、陽イオン交換クロマトグラフィー及び表面への選択的結合である。これら全ての方法は、当業者に周知であり、当業者は、使用される試料及び1つ又は複数のポリペプチドマーカーの存在又は不存在を測定するための方法に応じて方法を選択することが可能である。
【0031】
本発明の一実施形態において、キャピラリー電気泳動によって分離される前に、試料は、限外ろ過によって分離、精製され、及び/又は特定の分子サイズのポリペプチドマーカーを含有する画分への限外ろ過によって分けられる。
【0032】
好ましくは、ポリペプチドマーカーの存在又は不存在を測定するために、質量分析法が使用され、試料の精製又は分離は、このような方法の上流で実施され得る。現在使用されている方法と比べて、質量分析は、試料の多くの(100>)のポリペプチドの濃度を、単一の分析によって測定することができるという利点を有している。質量分析装置のあらゆる種類が使用され得る。質量分析法を使用することによって、複雑な混合物中で約±0.01%の測定精度での定型操作として、ポリペプチドマーカーの10fmol、すなわち、10kDタンパク質の0.1ngを測定することが可能である。質量分析装置では、イオン形成ユニットが、適切な分析装置と連結されている。例えば、液体試料中のイオンを測定するために、電子スプレーイオン化(ESI)インターフェースが最も使用されているのに対して、マトリックス中に結晶化された試料由来のイオンを測定するために、MALDI(マトリックス支援レーザー脱離/イオン化)が使用される。形成されたイオンを分析するために、例えば、四重極、イオントラップ又は飛行時間(TOF)分析装置が使用され得る。
【0033】
電子スプレーイオン化(ESI)では、溶液中に存在する分子が、とりわけ、高電圧(例えば、1から8kV)の影響下で微粉化され、高電圧は帯電した液滴をまず形成し、これは溶媒の蒸発からより小さくなる。最後に、いわゆる、クーロン破裂が、遊離イオンの形成をもたらし、次いで、遊離イオンを分析及び検出することができる。
【0034】
TOFを用いたイオンの分析では、イオンに運動エネルギーの等しい量を付与する特定の加速電圧が印加される。その後、飛行管を通じた所定の浮遊距離を飛行するのに各イオンが要する時間が、極めて正確に測定される。運動エネルギーの等しい量を用いるので、イオンの速度はイオンの質量に依存し、従って、イオンの質量を測定することが可能となる。TOF分析装置は、極めて高い走査速度を有しており、従って、優れた分解に達する。
【0035】
ポリペプチドマーカーの存在及び不存在の測定のための好ましい方法には、レーザー脱離/イオン化質量分析法、MALDI−TOFMS、SELDI−TOFMS(表面増強されたレーザー脱離/イオン化)などの気相イオン分光法、LCMS(液体クロマトグラフィー/質量分析法)、2D−PAGE/MS及びキャピラリー電気泳動−質量分析法(CE−MS)が含まれる。上記の方法は全て、当業者に公知である。
【0036】
特に好ましい方法は、キャピラリー電気泳動が質量分析法と組み合わされたCE−MSである。この方法は、例えば、ドイツ特許出願DE10021737、Kaiserら(J.Chromatogr A,2003,Vol.1013:157−171及びElectrophoresis, 2004, 25:2044−2055)及びWittkeら(J.Chromatogr.A,2003,Vol.1013:173−181)に幾分詳しく記載されている。CE−MS技術は、短時間内に、小容量で、高い感度で試料のポリペプチドマーカーの数百の存在を同時に測定することを可能とする。試料が測定された後、測定されたポリペプチドマーカーのパターンが準備され、このパターンは、病気の又は健康な対象の基準パターンと比較することができる。多くの事例で、PUJOの診断用ポリペプチドマーカーの限られた数を使用することが十分である。ESI−TOFMSにオンラインで連結されたCEを含むCE−MS法は、さらに好ましい。
【0037】
CE−MSの場合、揮発性溶媒の使用が好ましく、実質的に無塩の条件下で作業を行うことが最適である。このような溶媒の例には、アセトニトリル、イソプロパノール、メタノールなどが含まれる。分析物、好ましくはポリペプチドをプロトン化するために、水又は弱酸(例えば、0.1%から1%ギ酸)で、溶媒を希釈することが可能である。
【0038】
キャピラリー電気泳動を用いて、分子の電荷及びサイズによって、分子を分離することが可能である。中性の粒子は、電流を付与した際に、電気浸透流の速度で移動するのに対して、陽イオンは陰極の方向に加速され、陰イオンは減速される。電気泳動中のキャピラリーの利点は、容積に対する表面の好ましい比率に存し、これによって、電流中に発生したジュール熱の優れた放散を可能とする。次いで、これにより、高い印加電圧(通常、最大30kV)が可能となり、従って、高い分離性能及び短い分析時間が可能となる。
【0039】
キャピラリー電気泳動では、典型的には、50から75μmの内径を有するシリカガラスキャピラリーが通常使用される。使用される長さは、例えば、30から100cmである。さらに、分離キャピラリーは、通常、プラスチックで被覆されたシリカガラス製である。キャピラリーは、非処理であり得(すなわち、内部表面上のそれらの親水性基を露出している。)、又は内部表面上に被覆され得る。分解を改善するために、疎水性コーティングを使用し得る。電圧に加え、圧力も負荷することができ、圧力は、典型的には、0から1psi(約6.9KPa)の範囲内である。圧力は、分離中にのみ負荷し、又はその間、変化させ得る。
【0040】
ポリペプチドマーカーを測定するための好ましい方法において、試料のマーカーは、キャピラリー電気泳動によって分離され、次いで、直接イオン化され、検出のために、連結された質量分析装置中にオンラインで転送される。
【0041】
本発明の方法において、PUJOを診断するために、数個のポリペプチドマーカーを使用することが有利である。特に、少なくとも3つのマーカー、例えば、マーカー1、2及び3;1、2及び4などを使用し得る。少なくとも4、5又は6個のマーカーの使用が、より好ましい。
【0042】
少なくとも11のマーカーの使用、例えば、マーカー1から11が、さらに好ましい。
【0043】
表1から3中に記載されている308のマーカー全ての使用が、最も好ましい。
【0044】
数個のマーカーが使用される場合に、重度のPUJOの存在確率を求めるために、当業者に公知の統計的方法を使用し得る。S−Plusなどのコンピュータプログラムを使用することによって、例えば、Weissingerらによって記載されたランダム・フォレスト法(Random Forests method)(Kidney Int.,2004,65:2426−2434)を使用し得る。
【実施例】
【0045】
1.試料の調製
PUJOを診断するためのポリペプチドマーカーを検出するために、尿を使用した。健康なドナー(対照群)及び重度のPUJOに罹患している患者から尿を採集した。
【0046】
その後のCE−MS測定のために、限外ろ過によって、上昇した濃度で患者の尿中にも含有されるタンパク質(アルブミン及び免疫グロブリンなど)を分離しなければならなかった。従って、尿700μLを集め、ろ過緩衝液(2M尿、10mMアンモニア、0.02%SDS)700μmと混合した。この試料容量1.4mLを限外ろ過した(20kDa、Sartorius,Gottingen,Germany)。限外ろ過液1.1mLが得られるまで、遠心管内で、3000rpmで限外ろ過を行った。
【0047】
次いで、得られたろ液1.1mLをPD10カラム(Amersham Bioscience,Uppsala,Sweden)にかけ、0.01%NHOH2.5mLで溶出し、凍結乾燥された。CE−MS測定のために、次いで、ポリペプチドを、水20μL(HPLC等級、Merck)で再懸濁した。
【0048】
2.CE−MS測定
CE−MS測定は、Beckman Coulter(P/ACE MDQ System;Beckman Coulter Inc., Fullerton,CA,USA)のキャピラリー電気泳動システム及びBrukerのESI−TOF質量分析計(micro−TOF MS、Bruker Daltonik,Bremen,Germany)を用いて行った。
【0049】
CEキャピラリーは、Beckman Coulterによって供給され、50/360μmのID/OD及び90cmの長さを有していた。CE分離用移動相は、水中の、20%アセトニトリル及び0.25%ギ酸からなった。MS上の「シース流(sheath flow)」のために、0.5%ギ酸を加えた30%イソプロパノールを使用し、この場合、2μL/分の流速であった。CE及びMSの連結は、CE−ESI−MS Sprayer Kit(Agilent Technologies,Waldbronn,Germany)によって実現した。
【0050】
試料を注入するために、1から最大6psiの圧力を加え、注入の期間は99秒であった。これらのパラメータを用いて、試料約150nLをキャピラリー中に注入し、これはキャピラリー容積の約10%に相当する。キャピラリー中の試料を濃縮するために、重積技術を使用した。従って、試料を注入する前に、1MNH溶液を(1psiで)7秒間注入し、試料を注入した後、2Mギ酸溶液を5秒間注入した。分離電圧(30kV)を印加すると、これらの溶液の間に、分析物が自動的に濃縮された。
【0051】
その後のCE分離は、圧力法(0psiで40分、次いで、0.1psiで2分間、0.2psiで2分間、0.3psiで2分間、0.4psiで2分間、最後に0.5psiで32分間)を用いて行った。従って、分離操作の総持続時間は、80分であった。
【0052】
MSの側に、可能な限り良好なシグナル強度を得るために、噴霧器の気体は、可能な最も低い値になるようにした。電子スプレーを生成するためにスプレー針に印加される電圧は、3700から4100Vであった。質量分析計の残りの設定は、製造業者の指示に従って、ペプチド検出のために最適化した。m/z400からm/z3000の質量範囲にわたって、スペクトルを記録し、3秒ごとに蓄積した。
【0053】
3.CE測定のための標準物質
CE測定をチェックし、標準化するために、表記CR移動時間によって特徴付けられる以下のタンパク質又はポリペプチドを使用した。
【0054】
【表8】

【0055】
タンパク質/ポリペプチドは、それぞれ、水中で10pmol/μLの濃度で使用した。「REV」、「ELM」、「KINCON」及び「GIVLY」は、合成ペプチドである。
【0056】
ペプチドの分子質量及びMS中に見られる各電荷状態のm/z比は、以下の表に示されている。
【0057】
【表9】

【0058】
原理上、キャピラリー電気泳動による分離の際に、移動時間の僅かな変動が起こり得ることは当業者に公知である。しかしながら、記載されている条件下では、移動の順序は変わらない。記載されている質量及びCE時間を知っている当業者にとって、彼ら自身の測定を、困難なしに本発明のポリペプチドマーカーに割り振ることは可能である。例えば、当業者は、以下のように進め得る。まず、自己の測定中に見出されたポリペプチドの1つを選択し(ペプチド1)、表記CE時間の時間枠内(例えば、±5分)に、1つ又はそれ以上の同一の質量を見出すように努める。この間隔内に、同じ質量が1つだけ見出された場合には、割り当ては完了する。幾つかの合致する質量が見出される場合には、割り当てについての決定が、なお下されなければならない。従って、測定から別のペプチド(ペプチド2)を選択し、同じく、対応する時間枠を考慮に入れながら、適切なポリペプチドマーカーを同定するように努める。
【0059】
同じく、幾つかのマーカーが対応する質量とともに見出され得る場合には、最も可能性の高い割り当ては、ペプチド1に対するシフトとペプチド2に対するシフトの間に、実質的に線形関係が存在する割り当てである。
【0060】
割り当ての問題の複雑さに応じて、割り当てのために、自己の試料からさらなるタンパク質、例えば、10個のタンパク質を場合によって使用するという考えが当業者に浮かぶ。典型的には、移動時間は、特定の絶対値によって、延長若しくは短縮され、又は、過程全体の圧縮若しくは拡張が生じる。しかしながら、同時移動するペプチドが、このような条件下においても同時移動する。
【0061】
さらに、当業者は、Zuerbigらによって、Electrophoresis 27(2006),pp.2111−2125」に記載されている移動パターンを使用することができる。当業者は、(例えば、MSExcelを用いた)単純な図表を使用して、m/z対移動時間の形態で測定をプロットすると、記載されている線のパターンも、目で見ることが可能となる。ここで、線を計数することによって、各ポリペプチドの単純な割り当てが可能である。
割り当ての他のアプローチも可能である。基本的に、当業者は、自己のCE測定を割り当てるための内部標準として、上記ペプチドを使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎盂尿管移行部閉塞(PUJO)を診断するための方法であり、試料中の、マーカー1から277(頻度マーカー)から選択される少なくとも1つのポリペプチドマーカーの存在又は不存在を測定する段階、又はマーカー278から308(振幅マーカー)から選択される少なくとも1つのポリペプチドマーカーの振幅を測定する段階を含み、前記マーカーが、以下の分子質量及び移動時間によって特徴付けられる、前記方法。
【表1】


【請求項2】
測定されたマーカー1から277の存在又は不存在の評価が、以下の基準値
【表2】


を用いて実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マーカー278から308の振幅の評価が、以下の基準値
【表3】

を用いて実施されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に定義されている少なくとも2つ又は少なくとも3つ又は少なくとも5つ又は少なくとも10個又は全てのポリペプチドマーカーが使用される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
対象から得られる前記試料が、尿試料又は血液試料(血清又は血漿試料)である、請求項1から3の何れかに記載の方法。
【請求項6】
キャピラリー電気泳動、HPLC、気相イオン分光法及び/又は質量分析法が、1又は複数の前記ポリペプチドマーカーの存在又は不存在を検出するために使用される、請求項1から4の何れかに記載の方法。
【請求項7】
前記ポリペプチドマーカーの分子質量が測定される前に、キャピラリー電気泳動が実施される、請求項1から5の何れかに記載の方法。
【請求項8】
質量分析が、1又は複数の前記ポリペプチドマーカーの存在又は不存在を検出するために使用される、請求項1から6の何れかに記載の方法。
【請求項9】
腎盂尿管移行部閉塞を診断するための、分子質量及び移動時間の以下の値によって特徴付けられるマーカー番号1から308から選択される少なくとも1つのポリペプチドマーカーの使用。
【表4】


【請求項10】
腎盂尿管移行部閉塞を診断するための方法であり、
−試料を、少なくとも3つ、好ましくは10個の副試料に分割する段階、
−試料中の少なくとも1つのポリペプチドマーカーの存在若しくは不存在又は振幅を測定するために少なくとも2つの副試料を分析する段階、
を含み、前記ポリペプチドマーカーが、請求項1に記載の分子質量及び移動時間(CE時間)によって特徴付けられるマーカー1から308から選択される、前記方法。
【請求項11】
少なくとも10の副試料が測定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
CE時間が、25kVの印加電圧で50μmの内径(ID)を有する90cm長のガラスキャピラリーに基づき、水中の、20%アセトニトリル、0.25Mギ酸が移動溶媒として使用されることを特徴とする、請求項1から11の少なくとも一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の分子質量及び移動時間(CE時間)によって特徴付けられるマーカー1から308から選択される少なくとも10個のマーカーを含むマーカーの組み合わせ。

【公表番号】特表2009−517677(P2009−517677A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542759(P2008−542759)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2006/069098
【国際公開番号】WO2007/063090
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(507067984)モザイク・ダイアグノステイツクス・アンド・テラピユーテイツクス・アー・ゲー (5)
【Fターム(参考)】