腎細胞癌を診断および処置するための方法
腎細胞癌(RCC)を検出および診断するための客観的な方法を本明細書に記載する。一つの態様において、本診断法は、RCC細胞と正常細胞とを識別するRCC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む。本発明は、腎細胞癌の処置において有用な治療剤をスクリーニングする方法、腎細胞癌を処置する方法、および腎細胞癌に対するワクチンを被験者に接種する方法をさらに提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、腎細胞癌を診断および処置する方法に関する。なお本出願は、その内容が参照により全体として本明細書に組み入れられる、2005年7月28日に提出された米国特許仮出願第60/703,640号、および2006年5月11日に提出された第60/799,960号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腎細胞癌(RCC)は、尿生殖器系の3番目に多い悪性疾患であり、全てのヒト悪性疾患の2〜3%を占める。現在のところ、限局したRCC腫瘍に関しては外科的切除が最も有効な処置であるが、進行期RCCを有する患者に関しては満足のゆく処置は得られていない。RCCに関するいくつかの治療は、約20%の効奏率を達成したが、重度の有害反応がしばしば起こり、患者の予後は全体的に改善されていないように思われる(Ljungberg B, et al., (1999) B J U Int. 84: 405-11; Levy DA, et al. (1998) J Urol 159: 1163-7)。腫瘍の病期は最も参考となる予後因子であると考えられているが、腎臓癌発生の基礎となる分子メカニズムに関してはほとんどわかっていない。
【0003】
RCC腫瘍は、明細胞(80%)、乳頭(約10%)、嫌色素性(<5%)、または顆粒状、紡錘状、もしくは嚢胞関連癌(5〜15%)といった組織学的特色に基づいて特徴付けられる。これらの組織学的サブタイプはそれぞれ、独自の臨床挙動を示し、明細胞および顆粒型は、より激しい臨床表現型を示す傾向がある。本研究では、最も主要な型である明細胞癌を選択した。具体的には、本発明者らは、そのような腫瘍における大規模な遺伝子発現プロファイル分析を行った。他のグループによって報告された類似の研究から、予後的目的のために、またはRCCの分類のために有用となる可能性があるいくつかの遺伝子が既に同定されている(Takahashi M, et al. (2001) Proc Natl Acad Sci USA 98: 9754-9;Young AN, et al. (2001) Am J Pathol. 158: 1639-51;Skubitz KM & Skubitz AP. (2002) J Lab Clin Med 140: 52-64;Takahashi M, et al. (2003) Oncogene 22: 6810-8;Higgins JP, et al. (2003) Am J Pathol 162: 925-32)。腎臓癌の遺伝子発現プロファイルに関するいくつかの研究により、診断マーカーまたは予後プロファイルとしての候補となる可能性がある遺伝子が発見された。しかし、腫瘍塊に由来するこれらのデータは、RCC細胞が様々な細胞成分を含む固体の塊として存在することから、腎臓癌発生の際に生じる発現の変化を適切に反映することができない。したがって、これまでに公表されたRCCの発現プロファイルは、不均一なプロファイルを反映する可能性がある。
【0004】
cDNAマイクロアレイ技術により、正常細胞および悪性細胞における包括的な遺伝子発現プロファイルを発見すること、ならびに悪性細胞における遺伝子発現を対応する正常細胞と比較することが可能になった(Okabe et al., (2001) Cancer Res 61:2129-37;Kitahara et al., (2001) Cancer Res 61 : 3544-9;Lin et al., (2002) Oncogene 21 :4120-8;Hasegawa et al., (2002) Cancer Res 62:7012-7)。このアプローチは、癌細胞の複雑な性質の解明、および発癌機構の理解を可能にする。腫瘍において脱制御される遺伝子を同定することによって、個々の癌のより精密で正確な診断を得ることができ、新規治療標的を開発することができる(Bienz and Clevers, (2000) Cell 103:311-20)。ゲノム全体での観点から腫瘍の基礎となるメカニズムを明らかにするため、そして新規治療薬の開発や診断のための標的分子を発見するために、本発明者らは、遺伝子23040個のcDNAマイクロアレイを用いていくつかの腫瘍細胞の発現プロファイルを解析した(Okabe et al., (2001) Cancer Res 61:2129-37; Kitahara et al., (2001) Cancer Res 61:3544-9; Lin et al., (2002) Oncogene 21:4120-8; Hasegawa et al., (2002) Cancer Res 62:7012-7)。
【0005】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究により、ある種の抗腫瘍薬の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、その活性化が翻訳後ファルネシル化に依存するRasに関連した増殖シグナル伝達経路を阻害するように当初開発された、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の処置に有効であることが実証されている(Sun J., et al., (1998) Oncogene.;16:1467-73)。抗癌剤と、癌原遺伝子受容体HER2/neuに拮抗することを目的とした抗HER2モノクローナル抗体、トラスツズマブを併用したヒト臨床試験では、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が達成されている(Molina MA., et al., (2001) Cancer Res. ;61:4744-9)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を処置するためにようやく開発されてきている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(O'Dwyer ME & Druker BJ. (2000) Curr Opin Oncol.;12:594-7)。したがって、癌細胞において一般にアップレギュレートされる遺伝子産物が、新規抗癌剤を開発するための有力な標的となり得ることは明白である。
【0006】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することがさらに実証されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他の多くのTAAが発見されている(Boon. (1993) Int J Cancer 54: 177-80; Boon and van der Bruggen. (1996) J Exp Med 183: 725-9; van der Bruggen et al., (1991) Science 254: 1643-7; Brichard et al., (1993) J Exp Med 178: 489-95; Kawakami et al., (1994) J Exp Med 180: 347-52)。新たに発見されたTAAのいくつかについては、現在、免疫療法の標的として臨床開発が行われている。これまでに発見されたTAAには、MAGE((van der Bruggen et al., (1991) Science 254: 1643-7)、gp100(Kawakami et al., (1994) J Exp Med 180: 347-52)、SART(Shichijo et al., (1998) J Exp Med 187: 277-88)、およびNY-ESO-1(Chen et al., (1997) Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8)が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが実証されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., (2001) Brit J Cancer 84: 1052-7)、HER2/neu(Tanaka et al., (2001) Brit J Cancer 84: 94-9)、CEA(Nukaya et al., (1999) Int J Cancer 80: 92-7)などが含まれる。
【0007】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にも関わらず(Rosenberg et al., (1998) Nature Med 4: 321-7; Mukherji et al., (1995) Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82; Hu et al., (1996) Cancer Res 56: 2479-83)、例えば結腸直腸癌などの腺癌の処置に現在利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAのみである。癌細胞において大量に発現され、さらにその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補となると考えられる。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン法の臨床応用を促進すると期待される(Boon and van der Bruggen, (1996) J Exp Med 183: 725-9; van der Bruggen et al., (1991) Science 254: 1643-7; Brichard et al., (1993) J Exp Med 178: 489-95; Kawakami et al., (1994) J Exp Med 180: 347-52; Shichijo et al., (1998) J Exp Med 187: 277-88; Chen et al., (1997) Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8; Harris, (1996) J Natl Cancer Inst 88: 1442-55; Butterfield et al., (1999) Cancer Res 59: 3134-42; Vissers et al., (1999) Cancer Res 59: 5554-9; van der Burg et al., (1996) J Immunol 156: 3308-14; Tanaka et al., (1997) Cancer Res 57: 4465-8; Fujie et al., (1999) Int J Cancer 80: 169-72; Kikuchi et al., (1999) Int J Cancer 81: 459-66; Oiso et al., (1999) Int J Cancer 81: 387-94)。
【0008】
特定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)がペプチド刺激を受けると、ペプチドに反応して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイによるとHLA-A24またはHLA-A0201拘束的な様式で腫瘍細胞に対して細胞障害性を及ぼすことはほとんどないと繰り返し報告されている(Kawano et al., (2000) Cancer Res 60: 3550-8; Nishizaka et al., (2000) Cancer Res 60: 4830-7; Tamura et al., (2001) Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかしながら、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人集団と同様に日本人集団においても一般的なHLA対立遺伝子である(Date et al., (1996) Tissue Antigens 47: 93-101; Kondo et al., (1995) J Immunol 155: 4307-12; Kubo et al., (1994) J Immunol 152: 3913-24; Imanishi et al., (1992) Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065; Williams et al., (1997) Tissue Antigen 49: 129-33)。したがって、これらのHLAによって提示された癌の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌の処置に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常は高濃度でのペプチドの使用に起因することが公知であり、これにより抗原提示細胞(APC)上で高レベルの特異的ペプチド/MHC複合体が生成され、これらのCTLが効率的に活性化されることになる(Alexander-Miller et al., (1996) Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7)。
【0009】
このため、癌に関係する発癌機構の解明、および新規抗癌剤を開発するための可能性のある標的の同定を目的とした取り組みとして、腎癌細胞の精製集団における遺伝子発現パターンの大規模解析を、27,436種の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて行った。より具体的には、cDNAマイクロアレイおよびレーザービームマイクロダイセクションの組み合わせを用いて、腎細胞癌の外科的検体15例の正確なゲノム全域にわたる発現プロファイルを調べた。本明細書で詳細に考察する所見から、これらの同定された遺伝子が腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たしている可能性があり、したがってこれらが抗癌薬の開発のための有望な標的であることが示唆される。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、腎細胞癌(RCC)と相関する遺伝子発現のパターンの発見に関する。腎細胞癌で差次的に発現される遺伝子は本明細書で、「RCC核酸」または「RCCポリヌクレオチド」と集合的に呼ばれ、また対応する、コードされたポリペプチドは「RCCポリペプチド」または「RCCタンパク質」と呼ばれる。
【0011】
腎臓癌発生に関係する分子メカニズムの特徴付けのために、本発明者らは、ヒト遺伝子27,436個を表すcDNAマイクロアレイと、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)とを組み合わせて用いることにより、正常腎皮質と比較して腎細胞癌(RCC)の外科的検体15例のゲノム全域にわたる遺伝子発現プロファイルを分析した。本発明者らは、腎細胞癌において一般的にアップレギュレートされた遺伝子251個および腎細胞癌においてダウンレギュレートされた遺伝子721個を同定した。アップレギュレートされた遺伝子の中で、その機能が現在わかっていない遺伝子は74個であったが、一方で、機能がわかっていない189個の遺伝子は、腎細胞癌において一般的にダウンレギュレートされていると同定された。代表的な候補遺伝子19個による半定量的RT-PCR実験の結果は、本発明者らのマイクロアレイ分析が信頼できることを支持した。これらのデータは、その産物がRCCの処置に関する分子標的として役立つ可能性がある候補遺伝子を発見するために有用な情報を提供するはずである。
【0012】
したがって、本発明は、組織試料のような患者に由来する生体試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における腎細胞癌を診断または腎細胞癌に対する素因を決定する方法を提供する。本明細書において、「RCC関連遺伝子」という用語は、正常細胞と比較してRCC細胞において異なる発現レベルを特徴とする遺伝子を指す。正常細胞とは、正常腎組織から得られる細胞である。本発明の文脈において、RCC関連遺伝子は、RCC 1〜972と番号がつけられた遺伝子の一つまたは複数である。遺伝子の正常対照レベルと比較して遺伝子発現レベルが変化(たとえば、増加または減少)すれば、対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。
【0013】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるタンパク質発現レベルを指し、正常対照レベルおよびRCC対照レベルの両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであってもよく、複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであってもよい。例えば対照レベルは、過去に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースの場合がある。「正常対照レベル」とは、正常な健常個体において、またはRCCに罹患していないことが判明している個体の集団において検出される遺伝子の発現レベルを指す。正常個体とは、腎細胞癌の臨床症状を有さない個体のことである。これに対して、「RCC対照レベル」とは、RCCに罹患した集団で見出されるRCC関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0014】
正常対照レベルと比較して、被験試料中で検出されるRCC 1〜251と番号付けされた遺伝子のうち1つ又は複数の発現レベルが増加していることにより、(試料を採取した)対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。一方、被験試料中に検出されるRCC 252〜972と番号付けされた遺伝子のうち1つ又は複数の発現レベルが正常対照レベルと比較して低下していることにより、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。
【0015】
または、試料における一群のRCC関連遺伝子の発現を、同じ一群の遺伝子のRCC対照レベルと比較することができる。試料における発現とRCC対照における発現との間の類似性により、(試料を採取した)対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。
【0016】
本発明によれば、対照レベルと比較して遺伝子発現が10%、25%、または50%上昇または低下している場合に、遺伝子発現レベルは「変化している」とみなされる。または同様に、対照レベルと比較して、1倍、2倍、5倍またはそれ以上増加または減少した場合に、遺伝子発現は変化しているとみなされうる。例えばアレイ上で、RCC関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって、発現が判定される。
【0017】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料とは、被験対象から、例えば、RCCを有することが判明しているかその疑いがある患者から得られる任意の組織である。例えば、組織は上皮細胞を含み得る。より具体的には、組織は、腎細胞癌(RCC)由来の上皮細胞であり得る。
【0018】
本発明はまた、二つまたはそれより多いRCC 1〜972の遺伝子発現レベルで構成されるRCC参照発現プロファイルを提供する。またはRCC参照発現プロファイルは、二つまたはそれより多いRCC 1〜251またはRCC 252〜972で構成されてもよい。
【0019】
本発明はさらに、RCC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験作用物質に接触させる段階、およびRCC関連遺伝子の発現レベルもしくは活性、またはその遺伝子産物の活性を決定する段階によって、RCC関連遺伝子、たとえばRCC 1〜972の発現または活性を阻害または増強する作用物質を同定する方法を提供する。被験細胞は、腎細胞癌から得られた上皮細胞のような上皮細胞であってもよい。遺伝子の対照レベルと比較して、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 1〜251)の発現レベル、またはその遺伝子産物の活性が減少すれば、被験作用物質が、RCC関連遺伝子の阻害剤であること、およびRCCの症状を軽減させるために用いられる可能性があることが示される。または、遺伝子の対照レベルと比較してダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 252〜972)の発現レベルもしくは活性、またはその遺伝子産物の活性が増加すれば、該被験作用物質が、RCC関連遺伝子の発現または機能の増強物質であり、RCCの症状を軽減させるために用いられる可能性があることが示される。
【0020】
本発明はまた、一つまたは複数のRCC核酸またはRCCポリペプチドに結合する検出試薬を含むキットを提供する。一つまたは複数のRCC核酸に結合する核酸のアレイも同様に提供される。
【0021】
本発明の治療法には、対象にアンチセンス組成物を投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は特異的標的遺伝子の発現を低減させる。たとえば、アンチセンス組成物は、RCC 1〜251からなる群より選択されるアップレギュレートされたRCC関連遺伝子配列と相補的なヌクレオチドを含んでもよい。または、本発明には、低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階が含まれてもよい。本発明の文脈において、siRNA組成物は、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子、たとえばRCC 1〜251からなる群より選択される核酸、特にC6700V2 (RCC 81)、B7032N (RCC 126)、およびB9320 (RCC173)の発現を低減させる。
【0022】
なおもう一つの方法において、対象における腎細胞癌の処置または予防は、リボザイム組成物を該対象に投与することによって行ってもよい。したがって、本発明は、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 1〜251)の発現を低減させる核酸特異的リボザイム組成物を含む。本発明の他の治療法には、本明細書において開示されたダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 252〜972)の一つもしくは複数の発現、またはこれらの遺伝子の一つもしくは複数によってコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物を対象に投与する方法が含まれる。
【0023】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象におけるRCCを処置または予防する方法は、RCC1〜251からなる群より選択されるRCC核酸にコードされるRCCポリペプチド、またはそのようなポリペプチドの免疫活性断片を含むワクチンを対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、免疫活性断片とは、完全長の天然タンパク質よりも長さは短いものの、完全長タンパク質によって誘導される免疫応答に類似した免疫応答を誘導する、ポリペプチドである。例えば、免疫活性断片とは、少なくとも8残基長であり、かつT細胞またはB細胞のような免疫細胞を刺激し得ることが好ましい。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の生成、または抗体の産生を検出することによって測定可能である。
【0024】
本発明はまた、C6700、B7032N、またはB9320の発現の阻害が、腎細胞癌に関係する細胞成長を含む、様々な癌細胞の細胞成長を阻害するために有効であるという驚くべき発見にも基づいている。本出願において記述される本発明は、部分的にこの発見に基づいている。
【0025】
本発明はまた、細胞成長を阻害する方法も提供する。本方法において、C6700、B7032N、またはB9320の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物に細胞を接触させる段階を含む方法が提供される。本発明はまた、対象における腫瘍細胞成長を阻害するための方法も提供する。そのような方法には、C6700、B7032N、およびB9320から選択される配列と特異的にハイブリダイズする低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を対象に投与する段階が含まれる。もう一つの局面において、本発明は、生物試料の細胞におけるC6700、B7032N、およびB9320遺伝子の一つまたは複数の発現を阻害するための方法を提供する。遺伝子の発現は、関心対象遺伝子(たとえば、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子)の発現を阻害するために十分な量の二本鎖リボ核酸(RNA)分子を細胞に導入することによって阻害される可能性がある。
【0026】
本発明のもう一つの局面は、核酸配列およびベクターを含む産物と共に、たとえば本発明の方法を実行するために有効なそれらを含む組成物に関する。該産物において、標的遺伝子を発現する細胞に導入した場合に、C6700、B7032N、およびB9320遺伝子の一つまたは複数の発現を阻害するsiRNA分子が提供される。そのような分子において、C6700、B7032N、またはB9320標的配列に対応するリボヌクレオチド配列であるセンス鎖と、センス鎖に対して相補的であるリボヌクレオチド配列であるアンチセンス鎖とで構成される分子である。分子のセンス鎖とアンチセンス鎖とは、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する。
【0027】
本発明はまた、細胞成長を阻害する方法を提供する。細胞成長は、C6700、B7032N、またはB9320の低分子干渉RNA(siRNA)の組成物に細胞を接触させることによって阻害される可能性がある。細胞はさらに、トランスフェクション増強物質に接触させてもよい。細胞は、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで提供されてもよい。対象は好ましくは哺乳動物、たとえばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシである。細胞は、腎細胞のような尿生殖器系であってもよい。または、細胞は、癌腫細胞または腺癌細胞のような腫瘍細胞(すなわち、癌細胞)であってもよい。たとえば、細胞は、腎細胞癌であってもよく、より詳しくは明細胞であってもよい。本発明の文脈において、「細胞成長を阻害する」という句は、処置細胞が、無処置細胞と比較してより低い速度で増殖する、または生存率の減少を有することを意味する。細胞成長は、当技術分野で公知の増殖アッセイによって測定されうる。
【0028】
本発明はさらに、腎細胞癌の候補診断マーカーとして役立つのみならず、診断のための新しい戦略および有効な抗癌剤を開発するための可能性がある有望な標的として役立つ新規転写変異体C6700V2を提供する。好ましい態様において、C6700V2ポリペプチドには、SEQ ID NO:65のオープンリーディングフレームによってコードされるアミノ酸1151個(SEQ ID NO:66)のタンパク質が含まれる。
【0029】
特に定める場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載したのと同様または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験に用いることはできるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全文が参照により組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は説明のためのものであり、制限を意図するものではない。
【0030】
本明細書に記載された方法の一つの長所は、腎細胞癌の明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなるだろう。
【0031】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの」、「ある」および「その」という用語は、特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0032】
通常、RCC細胞は様々な細胞成分を含む固形塊として存在するために、正常腎細胞と比較した、腫瘍塊を利用することによるRCCの遺伝子発現解析は、ゆがめられる。このように、結果には「ノイズデータ(noisy data)」が含まれる。したがって、純粋な細胞集団を単離する方法である、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法(LCM)、またはレーザーマイクロビームマイクロダイセクション法(LMM)を用いて、特定の癌細胞と正常上皮細胞とを得た(Kitahara et al., (2001) Cancer Res, 61: 3544-9; Gjerdrum et al., (2001) J Mol Diagn, 3: 105-10)。
【0033】
本発明は、RCC患者から得た上皮細胞と腎細胞との間で多数の核酸の発現パターンが変化しているという発見に、部分的に基づく。遺伝子発現の差異は統合型cDNAマイクロアレイシステムによって同定された。
【0034】
15例のRCCからの癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、レーザーマイクロダイセクション法とともに、27,648遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて解析した。レーザーマイクロダイセクション法によって純粋に選択した、診断された患者由来の癌細胞と正常腎細胞との発現パターンを比較することによって、251遺伝子が、RCC細胞において共通してアップレギュレートされていると同定され、721遺伝子が、RCC細胞において共通してダウンレギュレートされていると同定された。さらに、患者の血清中または尿中の癌関連タンパク質を検出する能力を有する候補分子マーカーの選別を行い、ヒトRCCにおけるシグナル抑制戦略の開発のための標的となる可能性のあるものがいくつか発見された。
【0035】
本明細書において同定された、差次的に発現される遺伝子には、RCCマーカーおよびRCC遺伝子標的としての診断上の有用性が見出され、その発現は、RCC症状の処置または軽減のために改変されうる。
【0036】
RCC患者において発現レベルが変化した(すなわち、上昇または低下した)遺伝子は、表4〜5にまとめられており、本明細書において「RCC関連遺伝子」、「RCC核酸」、または「RCCポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされるポリペプチドは「RCCポリペプチド」または「RCCタンパク質」と呼ばれる。特記されない限り、「RCC」とは、本明細書に開示した任意の配列を指す。(例えばRCC 1〜972)。以前に記載された遺伝子は、データベースのアクセッション番号とともに示す。
【0037】
細胞の試料における種々の遺伝子の発現を測定することにより、RCCを診断することができる。同様に、種々の物質に応答したこれらの遺伝子の発現を測定することにより、RCCを処置するための物質を同定することができる。
【0038】
本発明は、表4〜5に列挙したRCC配列の少なくとも一つの発現を、最大で全発現を決定する(例えば、測定する)段階を含む。公知の配列に関するGenBank(商標)データベースの項目によって提供される配列情報を使用し、当業者に周知の技術を用いて、RCC関連遺伝子の検出および測定を行うことができる。例えば、RCC配列に対応する配列データベース登録情報中の配列を用いて、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析においてRCC関連遺伝子に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築することができる。典型的に、プローブには、参照配列の少なくとも10、20、50、100、または200ヌクレオチドが含まれる。別の例としては、配列を用いて、例えば、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応などの、増幅に基づいた検出法におけるRCC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。
【0039】
次いで、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料における、1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベルを、参照集団における同じ遺伝子の発現レベルと比較する。参照細胞集団は、比較するパラメータが既知である1つまたは複数の細胞、すなわち腎細胞癌細胞(例えば、RCC細胞)または正常腎皮質細胞(例えば、非RCC細胞)を含む。
【0040】
被験細胞集団における遺伝子発現のパターンが、参照細胞集団と比較してRCCまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非RCC細胞から構成されている場合には、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現パターンに類似性があることにより、被験細胞集団が非RCCであると示される。反対に、参照細胞集団がRCC細胞から構成される場合、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現プロファイルに類似性があることにより、被験細胞集団がRCC細胞を含むことが示される。
【0041】
被験細胞集団におけるRCCマーカー遺伝子の発現レベルは、それと参照細胞集団における対応するRCCマーカー遺伝子の発現レベルとの相違が、1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍、またはそれ以上を上回って変動する場合、「変化した」とみなされる。
【0042】
被験細胞集団と参照細胞集団との間の差次的な遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞の癌状態または非癌状態に応じて差がないことが知られている核酸である。対照核酸の発現レベルは、被験集団および参照集団におけるシグナルレベルを標準化するのに用いることができる。対照遺伝子の例には、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が非制限的に含まれる。
【0043】
被験細胞集団を、複数の参照細胞集団と比較することができる。複数の参照集団のそれぞれは、公知のパラメータが異なってもよい。したがって、例えばRCC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、および、例えば非RCC細胞(正常細胞)を含むことが判明している第2の参照集団と、被験細胞集団を比較してもよい。被験細胞は、RCC細胞を含むことが判明しているか、またはそれが疑われる対象由来の組織型もしくは細胞試料中に含まれてもよい。
【0044】
被験細胞は、体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液、痰、または尿など)から得られる。例えば、被験細胞を腎組織から精製してもよい。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。好ましくは、上皮細胞は、腎細胞癌であることが判明しているか、またはそれが疑われる組織由来である。
【0045】
参照細胞集団における細胞は、被験細胞の組織型と類似した組織型に由来すべきである。任意で、参照細胞集団は、細胞株、例えば、RCC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常非RCC細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメータまたは条件に関して公知である細胞由来の分子情報のデータベースに由来してもよい。
【0046】
対象は好ましくは哺乳類である。例示的な哺乳類には、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシが含まれるが、それらに限定されない。
【0047】
本明細書に開示された遺伝子の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質または核酸のレベルで決定できる。例えば、これらの核酸配列の一つまたは複数を特異的に認識するプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション解析を用いて、遺伝子発現を決定することができる。または、遺伝子発現は、例えば、差次的に発現される遺伝子配列に特異的なプライマーを用いて、逆転写に基づくPCRアッセイ法により測定することもできる。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルで測定することによって、またはその生物活性を測定することによって、決定してもよい。このような方法は当技術分野で周知であり、例えば、遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体を利用するイムノアッセイ法が非制限的に含まれる。遺伝子にコードされるタンパク質の生物活性は一般に周知である。
【0048】
本明細書で使用する「生物」という用語は、少なくとも1つの細胞からなる任意の生き物を意味する。生物は、例えば、真核単細胞のような単純なものでもよく、または例えば、ヒトを含む哺乳動物のような複雑なものでもよい。
【0049】
本明細書で使用する「生物試料」という用語は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは構成部分のサブセット(例えば、体液(血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血(amniotic cord blood)、尿、膣液、および精液が挙げられるが、これに限定されない))を意味する。「生物試料」という用語は、さらに、生物全体またはその細胞、組織、もしくは構成部分のサブセットから調製されたホモジネート、溶解産物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を意味する。最後に、「生物試料」という用語は、同様に、タンパク質または核酸分子などの細胞成分を含む、生物を増殖させる栄養培地またはゲルなどの培地を意味しうる。
【0050】
腎細胞癌の診断
本発明の文脈において、RCCは、被験細胞集団(すなわち、患者由来の生物試料)からの一つまたは複数のRCC核酸配列の発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは、被験細胞集団は、上皮細胞、例えば腎組織から得られる細胞を含む。遺伝子発現を、血液または、尿などの他の体液から測定することもできる。タンパク質レベルを測定するために、他の生物試料を使用することも可能である。例えば、診断するべき対象由来の血液または血清中のタンパク質レベルを、イムノアッセイ法または他の従来の生物学的アッセイ法により測定することができる。
【0051】
1つまたは複数のRCC関連遺伝子、例えばRCC 1〜972の発現を、被験細胞試料または生物試料において測定し、アッセイした1つまたは複数の特定のRCC関連遺伝子に関連する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、RCCに罹患していないことが判明している集団において典型的に見出されるRCC関連遺伝子の発現プロファイルである。患者由来の組織試料における一つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベルに変化(すなわち上昇または低下)があることにより、対象がRCCに罹患しているかその発症リスクを有することが示される。例えば、被験集団における1つまたは複数のアップレギュレートされたRCC遺伝子すなわちRCC 1〜251の発現が、正常対照レベルと比較して増加していることにより、その対象がRCCに罹患しているか、またはその発症リスクを有することが示される。逆に、1つまたは複数のダウンレギュレートされた遺伝子すなわちRCC 252〜972の被験集団における発現が、正常対照レベルと比較して減少していることにより、その対象がRCCに罹患しているかまたはそのリスクを有することが示される。
【0052】
正常対照レベルと比較して、被験集団におけるRCC関連遺伝子の一つまたは複数が変化すれば、対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。たとえば、RCC関連遺伝子(RCC 1〜251、RCC 252〜972、またはRCC 1〜972)のパネルの少なくとも1%、5%、25%、50%、60%、80%、90%またはそれより多くの変化は、対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示している。
【0053】
生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルは、RCC関連遺伝子によってコードされるタンパク質に対応するmRNAを定量することによって推定することができる。mRNAの定量法は当業者に公知である。たとえば、RCC関連遺伝子に対応するmRNAレベルは、ノーザンブロッティングまたはRT-PCRによって推定することができる。RCC関連遺伝子のヌクレオチド配列は公知であることから、いかなる当業者も、RCC関連遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマーを設計することができる。たとえば、例示的なC6700V2特異的プライマーセットは、SEQ ID NO:38および12のヌクレオチド配列に記載される。または、C6700V1およびC6700V2の双方を、共通のヌクレオチド配列にアニールするプライマーセットを用いて増幅してもよい。そのようなプライマーセットの増幅産物に変異体特異的領域(すなわち、エキソン21の欠失)が含まれる場合、増幅産物は配列の長さに基づいて互いに異なる可能性がある。たとえば、SEQ ID NO:83および84のヌクレオチド配列のプライマーを、双方の変異体に関するプライマーセットとして用いてもよい。さらに、増幅産物はまた、変異体特異的プローブを用いて検出してもよい。
【0054】
さらに、RCC関連遺伝子の発現レベルは、遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。RCC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の量を決定するための方法を以下に記述する。たとえば、イムノアッセイ法を用いて生物材料におけるそのようなタンパク質の存在を決定してもよい。先に言及したように、マーカー遺伝子(すなわち、RCC関連遺伝子)が腎臓癌患者の試料において発現される限り、任意の生物材料を、タンパク質またはその活性を決定するための生物試料として用いることができる。たとえば、腎尿細管は適した生物試料の例である。しかし、血液および尿のような体液もまた分析してもよい。一方、分析されるタンパク質の活性に従ってRCC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するために適した方法を選択することができる。
【0055】
生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを推定して、正常試料(たとえば、非疾患対象に由来する試料)におけるレベルと比較してもよい。そのような比較により、遺伝子の発現レベルが正常試料のレベルより高い(表4において示されるRCC関連遺伝子、すなわち1〜251)または低い(表5において示されるRCC関連遺伝子、すなわち252〜972)ことが示される場合、対象はRCCに罹患していると判断される。正常対象および診断される対象からの生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルは、同時に決定してもよい。または、発現レベルの正常範囲は、対照群から予め採取した試料における遺伝子の発現レベルを分析することによって得られた結果に基づいて、統計学的方法によって決定することができる。対象の試料を比較することによって得られた結果を正常範囲と比較する;結果が正常範囲内に入らない場合、対象はRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有すると判断される。
【0056】
本発明の文脈において、RCCのような細胞増殖性疾患を診断するための診断物質もまた提供される。本発明の診断物質の例には、RCC関連遺伝子のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに結合する化合物が含まれる。好ましくは、RCC関連遺伝子のポリヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはRCC関連遺伝子によってコードされるポリペプチドに結合する抗体を、そのような化合物として用いる。RCCを診断する本発明の方法はまた、対象におけるRCCの処置の有効性を査定するために用いてもよい。本方法に従って、被験細胞集団のような生物試料は、RCCに関する処置を受けている対象から得られる。査定法は、RCCを診断する従来の方法に従って行うことができる。
【0057】
望ましいならば、生物試料は、処置前、処置中、および/または処置後の様々な時点で対象から得られる。次に、生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定し、例えば、そのRCCの状態が判明している細胞(すなわち、癌細胞または非癌細胞)を含む参照細胞集団に由来する対照レベルと比較する。対照レベルは、処置に供されなかった生物試料を対象に決定される。
【0058】
対照レベルが癌細胞を含まない生物試料に由来する場合には、対象由来の生物試料において発現レベルと対照レベルとの間に類似性があることによって、関心対象の処置が有効であることが示される。しかし、対象に由来する生物試料中のRCC関連遺伝子の発現レベルと対照レベルとの差異によって、臨床転帰または予後がそれほど望ましくないことが示される。
【0059】
RCC関連遺伝子発現を阻害または増強する作用物質の同定
RCC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する作用物質は、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子を発現する被験細胞集団と被験作用物質とを接触させ、その後、RCC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって、同定することができる。作用物質の存在下において、対照レベルと比較して(または該被験作用物質の非存在下における発現レベルもしくは活性レベルと比較して)RCC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが低下していることにより、該作用物質が、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子の阻害物質であって、かつしたがってこれがRCCの発症又は進行を阻害するのに有用であると証明されうることが、示される。
【0060】
または、ダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増強する作用物質を、RCC関連遺伝子を発現する被験細胞集団を被験作用物質と接触させ、その後ダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって、同定することができる。RCC関連遺伝子の対照発現レベルまたは活性と比較して(または該被験作用物質の非存在下におけるレベルと比較して)RCC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが上昇していることにより、該被験作用物質が、ダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増大させることが、示される。
【0061】
被験細胞集団は、RCC関連遺伝子を発現する任意の細胞であってよい。例えば、被験細胞集団は、腎組織由来の細胞などの上皮細胞を含み得る。さらに、被験細胞は腺癌細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、被験細胞は、RCC関連遺伝子をトランスフェクトされた細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に結合したRCC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクトされた細胞であってもよい。
【0062】
対象におけるRCC処置の有効性の評価:
本明細書で同定された、差次的に発現されるRCC関連遺伝子は、RCC処置の経過のモニタリングも可能にする。本方法において、RCCに対する処置を受ける対象から被験細胞集団が提供される。望ましいならば、処置前、処置中、および/または処置後の様々な時点で、被験細胞集団を対象から入手する。続いて、細胞集団における1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現を決定し、RCCの状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は、その処置を受けるべきではない。
【0063】
参照細胞集団がRCC細胞を含まない場合、被験細胞集団と参照細胞集団におけるRCC関連遺伝子の発現が類似することは、関心対象の処置が有効であることを示す。しかし、被験集団と正常対照参照細胞集団においてRCC関連遺伝子の発現に違いがあることは、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことを示す。同様に、参照細胞集団がRCC細胞を含む場合には、被験細胞集団と参照細胞集団におけるRCC関連遺伝子の発現に差があることにより、関心対象の処置が有効であることが示されるが、一方で、被験集団および正常対照参照細胞集団におけるRCC関連遺伝子の発現が類似することは、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことを示す。
【0064】
さらに、処置後に得られた対象由来の生物試料において測定された1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、処置後レベル)を、処置開始前に得られた対象由来の生物試料において測定された1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、処置前レベル)と比較することもできる。RCC関連遺伝子がアップレギュレートされる遺伝子である場合、処置後試料において発現レベルが低下していることによって関心対象の処置が有効であることが示されており、一方、処置後試料において発現レベルが上昇しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示されている。反対に、RCC関連遺伝子がダウンレギュレートされる遺伝子である場合、処置後試料において発現レベルが上昇していることによって関心対象の処置が有効であることが示されうり、一方、処置後試料において発現レベルが上昇しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示されうる。本明細書で使用される「有効な」という用語は、処置が、対象における、病理学的にアップレギュレートされる遺伝子の発現低下、病理学的にダウンレギュレートされる遺伝子の発現上昇、または、対象における腎細胞癌の大きさ、罹患率、もしくは転移能の低下をもたらすことを指す。関心対象の処置を予防的に適用する場合、「有効である」とは、該処置が腎細胞癌の形成を遅らせるかもしくは予防すること、または、臨床的なRCCの症状を遅らせるか、予防するか、もしくは軽減することを意味する。腎細胞癌の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行われ得る。
【0065】
有効性は、RCCを診断または処置するための任意の既知の方法に関連して決定されうる。例えば、症候性の異常、例えば、体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身倦怠感、衰弱、ならびに黄疸を特定することによって、RCCを診断することができる。
【0066】
特定の個体におけるRCC処置のための治療剤の選択:
個体の遺伝子構成における違いは、様々な薬物を代謝するそれらの相対的能力における違いをもたらしうる。対象において代謝され抗RCC剤として作用する作用物質は、対象の細胞において、癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化しうる。したがって、本明細書に開示された差次的に発現するRCC関連遺伝子によって、選択された対象由来の被験細胞集団において、治療効果があるまたは予防効果があると推定されるRCC阻害物質を試験し、作用物質が対象において適したRCC阻害物質であるか否かを決定することが可能になる。
【0067】
特定の対象に適したRCC阻害物質を同定するために、該対象由来の被験細胞集団を治療薬に曝露し、1つまたは複数のRCC 1〜972遺伝子の発現を測定する。
【0068】
本発明の文脈において、被験細胞集団は、RCC関連遺伝子を発現するRCC細胞を含みうる。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補作用物質の存在下でインキュベートすることができ、被験試料の遺伝子発現パターンを測定して、一つまたは複数の参照プロファイル、例えばRCC参照発現プロファイルまたは非RCC参照発現プロファイルと比較することができる。
【0069】
RCCを含む参照細胞集団と比較して、被験細胞集団において、アップレギュレートされたRCC遺伝子すなわちRCC 1〜251の一つもしくは複数の発現が減少するか、または、ダウンレギュレートされたRCC遺伝子すなわちRCC 252〜972の一つもしくは複数の発現が増加することは、作用物質が治療効果のあることを示している。
【0070】
本発明の文脈において、被験作用物質は任意の化合物または組成物であってよい。本発明の文脈における使用に適した例示的な被験作用物質には、免疫調節物質が含まれるがこれに限定されない。
【0071】
治療剤を同定するためのスクリーニングアッセイ法:
本明細書に開示された、差次的に発現するRCC関連遺伝子を、RCCを処置するための候補治療薬を同定するために用いることもできる。本発明の方法は、候補治療薬が、RCC状態に特徴的なRCC 1〜972などの1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現プロファイルを、RCC状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変換できるか否かを判定するために、候補治療薬をスクリーニングする段階を含む。
【0072】
本発明において、RCC 1〜972はRCCの処置または予防のための治療薬のスクリーニングに有用である。
【0073】
本方法において、細胞を1つまたは複数の被験作用物質に(逐次的にまたは組み合わせて)曝露し、細胞におけるRCC 1〜972の1つまたは複数の発現を測定する。被験集団においてアッセイしたRCC関連遺伝子の発現プロファイルを、被験作用物質に曝露されていない参照細胞集団における同じRCC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0074】
低発現される(under-expressed)遺伝子の発現を刺激し得るか、または過剰発現される遺伝子の発現を抑制し得る作用物質は、臨床的に有益な可能性を有する。このような作用物質はさらに、動物または被験対象においてRCCの発症及び進行を予防する能力に関して試験され得る。
【0075】
さらなる態様において、本発明は、RCCの処置において有望な標的である候補作用物質をスクリーニングする方法を提供する。以上で詳述したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたはそれらの遺伝子産物の活性を制御することにより、RCCの発症および進行を制御することができる。このため、RCCの処置において有望な標的となる候補作用物質を、そのような発現レベルおよびその活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング方法によって同定することができる。本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a) 被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c) ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【0076】
スクリーニングに用いるマーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。被験化合物と接触させるポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0077】
例えばマーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合するタンパク質のスクリーニング法として、当業者に既知の多数の方法を使用することができる。そのようなスクリーニングを、例えば免疫沈降法によって、具体的には以下の様式で実施することができる。マーカー遺伝子は、外来遺伝子のための発現ベクターに遺伝子を挿入することによって、宿主(たとえば動物)細胞等において発現され、その例には、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGSおよびpCD8が含まれるがこれらに限定されるわけではない。発現のために用いられるプロモーターは、たとえばSV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), (1982) Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141)、EF-αプロモーター(Kim et al., (1990) Gene 91: 217-23)、CAG プロモーター(Niwa et al., (1991) Gene 108: 193-9)、RSV LTRプロモーター(Cullen, (1987) Methods in Enzymology 152: 684-704)、SRαプロモーター(Takebe et al., (1988) Mol Cell Biol 8: 466-72)、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, (1987) Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9)、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, (1982) J Mol Appl Genet 1 : 385-94)、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., (1989)Mol Cell Biol 9: 946-58)、HSV TKプロモーター等が含まれる、一般的に用いることができる任意のプロモーターであってもよい。発現される外来遺伝子の宿主細胞への導入は、たとえば電気穿孔法(Chu et al., (1987) Nucleic Acids Res 15: 1311-26)、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, (1987) Mol Cell Biol 7: 2745-52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al., (1984) Nucleic Acids Res 12: 5707-17;Sussman and Milman, (1984) Mol Cell Biol 4: 1641-3)、リポフェクション法(Derijard B, (1994) Cell 76: 1025-37;Lamb et al., (1993) Nature Genetics 5: 22-30;Rabindran et al., (1993) Science 259: 230-4)等の任意の方法に従って行うことができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドは、その特異性が明らかにされているモノクローナル抗体のエピトープを該ポリペプチドのN末端またはC末端に導入することによって、該モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現されうる。市販のエピトープ-抗体系を用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。マルチクローニングサイトを利用して、例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現可能なベクターが市販されている。
【0078】
融合によってポリペプチドの特性を変化させないように、数個から1ダースのアミノ酸からなる小型エピトープだけを導入することによって調製された融合タンパク質も、本明細書において意図されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0079】
免疫沈降においては、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞可溶化物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチド、ポリペプチドとの結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。上記のエピトープに対する抗体に加えて、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに対する抗体を用いて免疫沈降を行うこともでき、これらの抗体は任意で上記のように調製される。
【0080】
例えば、抗体がマウスのIgG抗体の場合は、プロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって、免疫複合体を沈殿させることができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドを、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製するならば、これらのエピトープに特異的に結合する物質(グルタチオン-セファロース4Bなど)を用いて、ポリペプチドに対する抗体の使用と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0081】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(Harlow and Lane, (1988) Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York)。
【0082】
SDS-PAGEは一般的に、免疫沈降タンパク質の解析に使用されており、結合状態のタンパク質を、適切な濃度のゲルを用いて、タンパク質の分子量によって解析することができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと結合したタンパク質をクーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質に関する検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培地中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識して、その後タンパク質を検出することによって、改善することができる。タンパク質の分子量が明らかであれば、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製することが可能であり、その配列を決定することができる。
【0083】
マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnik et al., (1991) Cell 65: 83-90)を用いることができる。具体的には、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合するタンパク質は、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合するタンパク質を発現することが予想される細胞、組織、器官(例えば精巣および卵巣などの組織)、または培養細胞(例えばCaki-1、Caki-2、786-O、A704、OS-RC-2、TUHR14TKB、およびA498)に由来するcDNAライブラリーをファージベクター(例えばZAP)を用いて調製し、タンパク質をLBアガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識されたポリペプチドを上記フィルターと反応させ、該マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合したタンパク質を発現するプラークを、標識に従って検出することによって、得ることができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または、該マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは該マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと融合したペプチドやポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識されうる。放射性同位元素または蛍光などを用いる方法を使用することもできる。
【0084】
または、本発明のスクリーニング法の別の態様において、細胞を利用する2-ハイブリッド系を用いることもできる(「MATCHMAKER 2-ハイブリッド系」「哺乳動物MATCHMAKER 2-ハイブリッドアッセイキット」「MATCHMAKER 1-ハイブリッド系」(Clontech);「HybriZAP 2-ハイブリッドベクター系」(Stratagene);参考文献 “Dalton and Treisman, (1992) Cell 68: 597-612.", “Fields and Sternglanz, (1994) Trends Genet 10: 286-92.")。
【0085】
2-ハイブリッド系では、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。ライブラリーが発現した場合にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合されるように、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞から、cDNAライブラリーを調製する。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAにコードされるタンパク質は、上記のように単離されたcDNAを大腸菌(E. coli)に導入し、該タンパク質を発現させることで調製できる。
【0086】
レポーター遺伝子の例としては、これらに限定されるわけではないが、HIS3遺伝子のほかに、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0087】
また、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドに結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化してもよく、その後、該マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドと結合できるタンパク質を含む被験化合物をカラムに対して適用する。本明細書における被験化合物には例えば、細胞抽出物や細胞溶解物などがある。被験化合物をロードした後にカラムを洗浄し、ポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。
【0088】
被験化合物がタンパク質の場合は、得られたタンパク質のアミノ酸配列を解析し、この配列を元にオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、該タンパク質をコードするDNAを得る。
【0089】
表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、本発明における結合状態の化合物を検出または定量する手段として使用することができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識を行うことなく、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、ファルマシア)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0090】
マーカー遺伝子によってコードされる固定されたポリペプチドを、合成化学化合物、または天然物バンクもしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリに曝露した場合に結合する分子をスクリーニングする方法、およびタンパク質のみならず、タンパク質(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)に結合する化学化合物を単離するために、コンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットを用いるスクリーニング法(Wrighton et al., (1996) Science 273: 458-64; Verdine, (1996) Nature 384: 11-13)は、当業者に周知である。
【0091】
または、本発明は、以下の段階を含む、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドを用いてRCCを処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する:
(a) 被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) 段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c) RCC 1〜251からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して抑制する化合物、または、RCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して高める化合物を選択する段階。
【0092】
本発明のスクリーニング法に用いるためのポリペプチドは、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物活性を保持する限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに用いることができる。マーカー遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質に関する情報に基づいて、当業者は、該ポリペプチドの任意の生物活性をスクリーニングのための指標として選択でき、選択した生物活性を分析するために任意の適切な測定法を選択することができる。
【0093】
本スクリーニング法によって単離される化合物は、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによってその機能を活性化する分子を意味する。同様に、「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによってその機能を阻害する分子を意味する。さらに、本スクリーニング法によって単離される化合物は、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用の阻害物質または刺激物質の候補である。
【0094】
本方法において検出されるべき生物活性が細胞増殖である場合には、実施例に記載したように、例えば、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドを発現する細胞を調製し、細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を決定し、細胞周期などを測定することにより、さらにはコロニー形成活性を測定することにより、検出することができる。
【0095】
さらなる態様において、本発明は、RCCの処置または予防のための化合物のスクリーニング法を提供する。先に詳細に考察したように、マーカー遺伝子の発現レベルを制御することによって、RCCの発症および進行を制御することができる。このため、RCCの処置または予防に用いられうる化合物を、マーカー遺伝子の発現レベルを指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a) 候補化合物を1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がRCC 1〜972からなる群より選択される段階;および
(b) RCC 1〜251からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる候補化合物、またはRCC 252〜972からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【0096】
マーカー遺伝子を発現する細胞には、たとえばRCCから確立された細胞株が含まれ;そのような細胞は本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる(たとえば、Caki-1、Caki-2、786-O、A704、OS-RC-2、TUHRl4TKBおよびA498)。発現レベルは、当業者に周知の方法によって推定することができる。スクリーニング法において、一つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低減または増強する化合物は、RCCの処置または予防において用いるための候補作用物質である。
【0097】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
(a) RCC 1〜972からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 被験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、該マーカー遺伝子がRCC 1〜251からなる群より選択されるアップレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを低下させる候補化合物を、または、該マーカー遺伝子がRCC 252〜972からなる群より選択されるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現レベルを高める化合物を、選択する段階。
【0098】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。本発明のスクリーニング法に適したレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製されうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知の場合は、以前の配列情報を用いることによって、レポーター構築物を調製できる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合、該マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントをゲノムライブラリから単離することができる。
【0099】
タンパク質を結合させるために用いうる支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖類、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれる;上記の材料から作製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を用いることが好ましい。ビーズを使用する場合は、ビーズをカラムに詰めてもよい。
【0100】
タンパク質の支持体への結合は、化学結合や物理吸着などの常用の方法によって実施することができる。または、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して、タンパク質を支持体に結合させてもよい。さらに、アビジンおよびビオチンを利用して、タンパク質を支持体に結合させることもできる。
【0101】
タンパク質間の結合は緩衝液中で行うことが好ましく、緩衝液の例にはリン酸緩衝液及びTris緩衝液が含まれるがこれらに限定されるわけではない。しかしながら、タンパク質間の結合を阻害しない任意の緩衝液が適切である。
【0102】
本発明において、表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合したタンパク質の検出または定量のための手段として用いることができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識を行うことなく、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。
【0103】
または、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドを標識してもよく、結合したタンパク質の標識を用いて、結合したタンパク質の検出または測定を行うことができる。具体的には、タンパク質の一方をあらかじめ標識した後に、標識したタンパク質を被験化合物の存在下でもう一方のタンパク質と接触させ、洗浄後、結合したタンパク質を標識によって検出または測定する。
【0104】
本方法におけるタンパク質の標識のために、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびβ-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いることができる。タンパク質を放射性同位体で標識する場合には、検出または測定を液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識したタンパク質は、呈色などの基質の酵素的変化を検出するために酵素基質を添加して、吸光光度計で検出または測定することもできる。さらに、標識として蛍光物質を使用する場合は、結合状態のタンパク質を蛍光光度計を用いて検出または測定することができる。
【0105】
本スクリーニング法の文脈において抗体を使用する場合、上述の標識物質の1つを用いて抗体を標識し、該標識物質に基づいて検出または測定することが好ましい。または、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドまたはアクチンに対する抗体を、標識物質で標識した二次抗体によって検出されるべき一次抗体として用いてもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質と結合した抗体は、プロテインGカラムまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定することもできる。
【0106】
任意の被験化合物(例えば細胞抽出物、細胞培養物上清、発酵微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質もしくは未精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物)を、本発明のスクリーニング法に使用することができる。本発明の文脈において、被験化合物は、(1)生物学的ライブラリー、(2)空間的に位置指定可能な(spatially addressable)平行固相もしくは液相ライブラリー、(3)逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、(4)「1ビーズ-1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、および(5)アフィニティークロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリー法を含む、当技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリー法における数多くのアプローチのいずれを用いても得られる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4種類のアプローチは、化合物のペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または小分子ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成法の例は当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37:1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中に(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照されたい)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)、もしくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)に提示されうる。
【0107】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物は、それに起因する疾患、例えば、RCCなどの細胞増殖性疾患の処置または予防を目的として、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドの活性を阻害または刺激する薬剤開発のための候補である。本発明のスクリーニング法によって得られる化合物の構造の一部が付加、欠失および/または置換によって変換された化合物は、本発明のスクリーニング法によって得られる化合物として含まれる。
【0108】
RCCを処置または予防するための薬学的組成物:
本発明は、本発明の上述のスクリーニング法によって選択される任意の化合物を含む、腎細胞癌の処置または予防のための組成物を提供する。
【0109】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳類のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、必要に応じて、薬物を、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口摂取するか、または水もしくは任意の他の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取することができる。例えば、化合物を、薬学的に許容される担体または媒体と共に、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、ビヒクル、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。このような調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0110】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料が含まれるがそれらに限定されない。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油などの液体担体が上記の成分にさらに含まれ得る。注射用滅菌組成物は、注射に適した蒸留水などのビヒクルを用いる通常の薬物の実施に従って製剤化することができる。
【0111】
生理食塩水、グルコース、ならびに、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウム等のアジュバントを含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールのようなアルコール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール;ならびにポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤などの、適切な溶解剤と共に用いることができる。
【0112】
ゴマ油または大豆油は、油脂性液体として用いることができ、溶解剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと共に用いてもよく、かつ、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに/または抗酸化剤と共に製剤化してもよい。調製された注射剤を適切なアンプルに充填してもよい。
【0113】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を、例えば動脈内、静脈内、もしくは経皮注射として、または、鼻腔内、筋肉内、もしくは経口投与として患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変動するが、当業者は、適切な投与法を日常的に選択することができる。化合物がDNAにコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療用ベクターに挿入し、次に、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変動するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0114】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、一般的に、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、1日あたり約0.1 mg〜約100 mg、好ましくは1日あたり約1.0 mg〜約50 mg、より好ましくは1日あたり約1.0 mg〜約20 mgである。
【0115】
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で化合物を非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、1日あたり約0.01 mg〜約30 mg、好ましくは1日あたり約0.1〜約20 mg、およびより好ましくは1日あたり約0.1〜約10 mgの用量を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合にも、適切な投与量は、体重60 kgに変換して日常的に算出され得る。
【0116】
腎細胞癌を有する対象の予後評価:
本発明はまた、RCCを有する対象の予後を評価する方法も提供し、該方法は、被験細胞集団における一つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現を、全疾患病期にわたる患者から得られた参照細胞集団における同じRCC関連遺伝子の発現と比較する段階を含む。被験細胞集団と参照細胞集団における一つもしくは複数のRCC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することによって、または対象に由来する被験細胞集団における経時的な遺伝子発現パターンを比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0117】
例えば、RCC 252〜972などのダウンレギュレートされるRCC関連遺伝子の一つもしくは複数の発現が正常対照と比較して減少すること、またはRCC 1〜251などのアップレギュレートされるRCC関連遺伝子のうち一つもしくは複数の発現が正常対照と比較して増大することは、予後がそれほど好ましくないことを意味する。反対に、RCC関連遺伝子(例えばRCC 1〜972)のうちの一つまたは複数の発現が正常対照と類似していることは、対象の予後が比較的好ましいことを意味する。好ましくは、被験者の予後は、RCC 1〜972の発現プロファイルを比較することによって評価することができる。
【0118】
キット:
本発明はまた、RCC検出用試薬、例えば、1つもしくは複数のRCC核酸と特異的に結合するかそれらを識別する核酸(RCC核酸の一部に対して相補的なオリゴヌクレオチド配列など)、または、RCC核酸によってコードされるタンパク質と結合する抗体も含む。検出用試薬は、キットの形態で共に包装され得る。例えば、検出用試薬、例えば核酸または抗体(固体マトリクスに結合されるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは個別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または検出可能な標識は、個別の容器に包装され得る。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROMなど)もまた、キットに含まれ得る。キットのアッセイ形式は、当技術分野においていずれも既知であるノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであってもよい。
【0119】
例えば、少なくとも1つのRCC検出部位を形成するために、RCC検出用試薬を多孔性ストリップなどの固体マトリクス上に固定化できる。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが1つの核酸を含む複数の部位を含んでもよい。検査ストリップは、陰性対照および/または陽性対照に対する部位を含む場合もある。または、対照部位を検査ストリップとは別のストリップ上に配置してもよい。任意で、異なる検出部位が異なる量の固定化核酸を含んでもよく、すなわち、第1の検出部位ではより多い量で、以後の部位ではより少ない量で含んでもよい。被験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈する部位の数により、試料中に存在するRCC量の定量的指標が得られる。検出部位は、任意の適した検出可能な形態として構成されうり、典型的には検査ストリップの幅全体にわたる棒状またはドット状の形態である。
【0120】
または、キットは、一つまたは複数の核酸の核酸基質アレイを含みうる。アレイ上の核酸は、RCC 1〜972で表される1つまたは複数の核酸配列を特異的に識別する。RCC 1〜972で表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上の発現を、アレイ検査ストリップまたはチップに対する結合レベルによって同定する。基板アレイは、例えば固体基板上、例えば参照として本明細書にその内容全体が組み入れられる米国特許第5,744,305号に記載される「チップ」上に存在しうる。
【0121】
アレイおよび複数性:
本発明にはまた、一つまたは複数の核酸の核酸基質アレイも含まれる。アレイ上の核酸は、RCC 1〜972で表される核酸配列の1つまたは複数に特異的に対応する。RCC 1〜972で表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上の発現レベルは、アレイに対する核酸結合を検出することによって同定されうる。
【0122】
本発明にはまた、単離された複数の核酸(すなわち、二つまたはそれ以上の核酸の混合物)が含まれる。核酸は、液相で存在してもよく、または、例えばニトロセルロースメンブレンのような固相支持体に固定された、固相で存在してもよい。この複数物には、RCC 1〜972で表される核酸の1つまたは複数が含まれる。様々な態様において、複数物には、RCC 1〜972で表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50種またはそれ以上が含まれる。
【0123】
腎細胞癌を阻害する方法:
本発明はさらに、RCC 1〜251の1つもしくは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を低下させることにより、またはRCC 252〜972の1つもしくは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を上昇させることにより、対象におけるRCCの症状を処置または緩和するための方法も提供する。RCCを有するまたはその発症リスクがある(または感受性がある)対象に対して、適切な治療化合物を予防的または治療的に投与することができる。標準的な臨床的方法を用いて、または、RCC 1〜972の1つもしくは複数の異常な発現レベル(または対応する遺伝子産物の異常な活性レベル)を検出することにより、そのような対象を同定することができる。適切な治療薬には、細胞周期調節、細胞増殖、およびタンパク質キナーゼ活性の阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
本発明の治療法は、RCC細胞が由来する同じ種類の組織の正常細胞と比較して、RCC細胞において発現が低下している遺伝子(「ダウンレギュレートされる」または「低発現される」遺伝子)の一つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を増大させる段階を含みうる。これらの方法において、被験者において過小発現されている遺伝子の一つまたは複数の量を増加させる化合物の有効量によって、被験者を処置する。投与は、全身投与または局所投与とすることができる。適した治療用化合物には、これらに限定されるわけではないが、低発現される遺伝子のポリペプチド産物、その生物活性断片、ならびに、低発現される遺伝子をコードしかつRCC細胞における発現を可能にする発現制御エレメントを有する核酸;例えば、RCC細胞にとって内因性であるこのような遺伝子の発現レベルを増大させる(すなわち、低発現される遺伝子の一つまたは複数の発現をアップレギュレートする)作用物質が含まれる。そのような化合物の投与は、対象の腎細胞において異常に低発現される1つまたは複数の遺伝子の影響に対抗し、かつ対象の臨床状態を改善する。
【0125】
または、本発明の治療法は、RCC細胞において発現が異常に増大している遺伝子(「アップレギュレートされる」または「過剰発現される」遺伝子)の一つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を減少させる段階を含みうる。発現は、当技術分野で公知のいくつかの方法のいずれかによって阻害することができる。例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を阻害するまたはそれに拮抗する核酸、例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することによって、発現を阻害することができる。
【0126】
アンチセンス核酸:
上記のように、RCC 1〜251のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸を、RCC 1〜251の発現レベルを低下させるために用いることができる。腎細胞癌においてアップレギュレートされるRCC 1〜251に対応するアンチセンス核酸は、腎細胞癌の処置のために有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、RCC 1〜251またはそれに対応するmRNAに結合して、それにより遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつ/またはRCC 1〜251にコードされるタンパク質の発現を阻害して、それによりタンパク質の機能を阻害することによって、作用しうる。本明細書において用いられる「アンチセンス核酸」という用語は、アンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズすることができる限り、標的配列と完全に相補的であるヌクレオチドおよび一つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの双方を含む。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、連続した少なくとも15ヌクレオチドの長さにわたって少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には、当技術分野において公知のアルゴリズムを使用することができる。
【0127】
本発明のアンチセンス核酸は、RCC関連マーカー遺伝子にコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、これらのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進して、タンパク質の発現を阻害することにより作用し、その結果、タンパク質の機能を阻害する。
【0128】
本発明のアンチセンス核酸は、該核酸に対して不活性の適切な基剤と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0129】
同じく、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、本発明のアンチセンス核酸を、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬、および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは以下の公知の方法によって調製することができる。
【0130】
本発明のアンチセンス核酸は、罹患部位に直接塗布することにより、または、それが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に投与することができる。アンチセンスを含む溶媒を使用することで、持続性および膜透過性を高めることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはそれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0131】
本発明のアンチセンス核酸の投与量は、患者の状態に従って適切に調整でき、かつ所望の量で用いることができる。例えば0.1 mg/kg〜100 mg/kg、好ましくは0.1 mg/kg〜50 mg/kgの用量範囲で投与することができる。
【0132】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害し、かつそのため、本発明のタンパク質の生物活性を抑制するのに有用である。さらに、発現阻害剤、例えば本発明のアンチセンス核酸は、それらが本発明のタンパク質の生物活性を阻害できるという点において有用である。
【0133】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、チオエート型オリゴヌクレオチドを用いて、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与してもよい。
【0134】
マーカー遺伝子に対するsiRNAを用いて、マーカー遺伝子の発現レベルを低減させることができる。本明細書において、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を防止する二本鎖RNA分子を指す。DNAが、そこからRNAが転写される鋳型となる技術を含む、細胞にsiRNAを導入する標準的な技術を用いる。siRNAには、センスRCC 1-251、たとえばC6700(RCC 81)、B7032N(RCC126)、もしくはB9320(RCC173)核酸配列、アンチセンスRCC 1-251、たとえば C6700、B7032N、もしくはB9320核酸配列、またはその双方が含まれる。siRNAは、二つの相補的分子で構成されてもよく、または単一の転写物が標的遺伝子からのセンス配列および相補的アンチセンス配列の双方を有する(たとえば、ヘアピン)ように、いくつかの態様において、マイクロRNA(miRNA)の産生に至るように構築してもよい。
【0135】
標的細胞におけるRCC 1〜251の一つに対応する転写物に対するsiRNAの結合によって、細胞によるタンパク質産生の低減が起こる。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然に存在する転写物と同じ長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、長さが75、50、25ヌクレオチド未満である。より好ましくは、オリゴヌクレオチドは、長さが19〜25ヌクレオチドである。
【0136】
本方法はまた、C6700、B7032N、またはB9320の発現が、たとえば細胞の悪性形質転換の結果としてアップレギュレートされている細胞における遺伝子発現を変更するためにも用いられる。標的細胞におけるC6700、B7032N、またはB9320転写物に対するsiRNAの結合により、細胞によるC6700、B7032N、またはB9320産生の低減が起こる。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも約10ヌクレオチドであり、天然に存在するC6700、B7032N、またはB9320転写物と同じ長さであってもよい。本発明において、siRNAの標的配列は、C6700V2のヌクレオチド配列から選択されてもよい。ヌクレオチド配列のほとんどはC6700の2つの変異体、すなわちV1およびV2のあいだで共有される。したがって、一つの変異体を抑制するための有効なsiRNAはまた、もう一つの変異体も抑制する可能性がある。このように、C6700V1およびC6700V2の双方を抑制するsiRNAは、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。あるいは、C6700V2特異的siRNAもまた、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。哺乳動物細胞においてC6700発現を阻害するC6700のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、標的配列、たとえばC6700V1およびC6700V2の双方を抑制する可能性があるSEQ ID NO:43、47、または81のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドが含まれる。本発明において、siRNAの標的配列は、B7032Nのヌクレオチド配列から選択されてもよい。たとえば、B7032Nに関する標的配列としてSEQ ID NO:106のヌクレオチドを含むsiRNAオリゴヌクレオチド。本発明において、siRNAの標的配列は、B9320V2のヌクレオチド配列から選択されてもよい。ヌクレオチド配列のほとんどはB9320の二つの変異体、すなわちV1およびV2において共有されている。したがって、一つの変異体を抑制するために有効なsiRNAはまた、もう一つの変異体も抑制する可能性がある。このように、B9320V1およびB9320V2の双方を抑制するsiRNAは、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。あるいは、B9320V2特異的siRNAもまた、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。哺乳動物細胞においてB9320発現を阻害するB9320のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、標的配列、たとえばB9320V2を抑制する可能性があるSEQ ID NO:110のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0137】
標的細胞における遺伝子発現を阻害する能力を有する適切な二本鎖RNAを設計する方法は周知である。(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第6,506,559号を参照のこと)。例えば、siRNAを設計するためのコンピュータープログラムを、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手することができる。Ambion, Inc.から入手可能なコンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0138】
siRNA標的部位の選択
1.転写物のAUG開始コドンから開始して、下流にあるAAジヌクレオチド配列をスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschlら(1999)、Genes Dev 13: 3191-7は、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域は、調節タンパク質結合部位が豊富である可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計することを推奨していない。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.潜在的な標的部位と適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)とを比較し、他のコード配列と有意な相同性を有する全ての標的配列を検討から除外する。BLAST(Altschul SF, et al., (1997) Nucleic Acids Res.;25:3389-402; (1990) J Mol Biol.;215:403-10)の使用が示唆されており、これは、NCBIサーバ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)において見出される。
3.合成に適した標的配列を選択する。遺伝子の長さに応じていくつかの標的配列を選択して評価することが典型的である。
【0139】
例えばSEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドなどの標的配列の核酸配列を含む単離された核酸分子、および、SEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドの核酸配列に相補的な核酸分子もまた、本発明に含まれる。本明細書で使用される「単離された核酸」という用語は、元々の環境(例えば、天然のものであれば自然環境)から取り出された核酸を指し、従ってこれは、その天然の状態から人工的に変化させられた核酸である。本発明において、単離された核酸は、DNA、RNA、およびそれらの誘導体を含む。単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合、ヌクレオチド配列内の塩基「t」は「u」に置換されなければならない。本明細書において使用される「相補的な」という用語は、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン-クリック型またはフーグスティーン型の塩基対形成を指し、「結合」という用語は、2つの核酸もしくは化合物の間の物理的もしくは化学的な相互作用、または会合した核酸もしくは化合物もしくはそれらの組み合わせを意味する。相補的な核酸配列は適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんどまたは全く含まない、安定した二重鎖を形成する。本発明の目的において、5またはそれ以下のミスマッチを含む2つの配列は相補的とみなされる。
【0140】
本発明の文脈において、本発明の単離ヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションにより二本鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成することができる。好ましい態様において、そのような二本鎖は、10個のマッチ毎にわずか1個のミスマッチを含むに過ぎない。二本鎖の鎖が完全に相補的である、特に好ましい態様において、そのような二本鎖はミスマッチを含まない。核酸分子は好ましくは、C6700に関して長さが4725もしくは4494ヌクレオチド未満、B7032Nに関して長さが3503ヌクレオチド未満、またはB9320に関して長さが2539もしくは3427ヌクレオチド未満である。たとえば、核酸分子は、長さが約500、約200、または約75ヌクレオチド未満である。また、本明細書に記述の核酸の一つまたは複数を含むベクター、およびベクターを含む細胞も本発明に含まれる。本発明の単離核酸は、C6700、B7032N、もしくはB9320に対するsiRNAにとって、またはsiRNAをコードするDNAにとって有用である。siRNAまたはそのコードDNAに関する核酸を用いる場合、センス鎖は好ましくは約19ヌクレオチドより長く、より好ましくは21ヌクレオチドより長い。
【0141】
本発明は、転写変異体C6700V2が、非癌性腎細胞と比較して腎細胞癌(RCC)において過剰発現されているという発見に部分的に基づいている。C6700は、異なる二つの転写変異体を有する。C6700V1またはV2のcDNAは長さが4725または4494ヌクレオチドである。C6700V1またはV2の核酸およびポリペプチド配列はそれぞれ、SEQ ID NO:63および64、または65および66において示される。配列データはまた、以下のアクセッション番号によって入手可能である。
C6700V1:AY358124
C6700V2:BC077726
【0142】
SEQ ID NO:43、47、または81のsiRNAのトランスフェクションにより、RCC細胞株の成長阻害が起こった。Semaドメイン、7個のトロンボスポンジンリピート(1型および1型様)、膜貫通ドメイン(TM)および短い細胞質ドメイン(セマフォリン5B)であるSEMA5Bを示すC6700は、染色体3p21.1上に存在した。SEMA5Bのようなセマフォリンタンパク質ファミリーメンバーは、神経発生の際の軸索誘導に関係している(Adams, et al., (1996) Mech. Dev. 57: 33-45)。C6700は、RT-PCRおよびノーザンブロット分析により、腎近位尿細管上皮細胞と比較して、RCC細胞株8個(ACHN、769-P、RXF-631L、TUHRl0TKB、Caki-1、Caki-2、786-O、およびA-498)の中でRCC細胞株3個(A704、OS-RC-2、およびTUHR14TKB)においてアップレギュレートされた(図2bおよび3、右のパネル)。C6700は、C6700V1およびC6700V2にそれぞれ対応するエキソン23個からなる異なる二つの転写変異体を有する(図8a)。本明細書において、V2変異体はRCC細胞において特異的に過剰発現されることが発見された(図8b)。
【0143】
本発明は、B7032Nが、非癌性細胞と比較して腎細胞癌(RCC)において過剰発現されているという発見に部分的に基づいている。B7032Nは、長さが3503ヌクレオチドである。B7032Nの核酸およびポリペプチド配列をSEQ ID NO:112および113に示す。配列データはまた、以下のアクセッション番号によって入手可能である。
NM_004567
【0144】
SEQ ID NO:106のsiRNAのトランスフェクションにより、RCC細胞株の成長阻害が起こった。PFKFB4(5-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ4)遺伝子を示すB7032Nは、半定量的RT-PCR分析により、RCC臨床症例(図2a)と共にRCC細胞株(データ非呈示)においてアップレギュレートされるが、その発現は、試験した正常な重要臓器のいずれにおいても検出不可能であった。次に行ったノーザンブロット分析により、約3.5 kb B7032N転写物が膀胱癌細胞株11例中2例においてアップレギュレートされるが、精巣および膵臓を除き正常臓器では発現されないことが確認された(図6)。
【0145】
本発明は、転写変異体B9320V2が非癌性腎細胞と比較して腎細胞癌(RCC)において過剰発現されるという発見に部分的に基づいている。B9320は、異なる二つの転写変異体を有する。B9320V1またはV2のcDNAは、長さが2539または3427ヌクレオチドである。B9320V1またはV2の核酸およびポリペプチド配列はそれぞれ、SEQ ID NO:115および116、または118および119において示される。配列データはまた、以下のアクセッション番号によって入手可能である。
B9320V1:BC034014
B9320V2:NM_153350
【0146】
SEQ ID NO:110のsiRNAのトランスフェクションにより、RCC細胞株の成長阻害が起こった。FBXL16(Fボックスロイシンリッチリピートタンパク質16)遺伝子を示すB9320は、半定量的RT-PCR分析により、RCC臨床症例(図2a)のみならずRCC細胞株(データ非呈示)においてアップレギュレートされるが、その発現は、試験した正常な重要臓器のいずれにおいても検出不可能であった。次に行ったノーザンブロット分析から、二つのB9320転写物のおよそB9320V1(2.4 kb)およびB9320V2(4 kb)が、膀胱癌細胞株4例中2例において有意にアップレギュレートされたことが確認された。B9320V1転写物は腎臓および甲状腺において発現されたが、B9320V2転写物は脳、精巣、脊髄、および膵臓を除き正常臓器では発現されなかった(図7)。
【0147】
siRNA組成物の構造:
本発明は、C6700、B7032N、またはB9320の発現を阻害することによって細胞成長、すなわち癌細胞成長を阻害することに関する。C6700、B7032N、またはB9320の発現は、たとえば、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子を特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって阻害される。C6700、B7032N、またはB9320標的には、たとえば、SEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチドが含まれる。
【0148】
非哺乳動物細胞において、二本鎖RNA(dsRNA)は、遺伝子発現に対して強力かつ特異的なサイレンシング効果を発揮することが示されており、これはRNA干渉(RNAi)と呼ばれている(Sharp PA. (1999) Genes Dev.;13:139-41)。dsRNAは、RNアーゼIIIモチーフを含む酵素によって低分子干渉RNA(siRNA)と呼ばれる20〜23ヌクレオチドのdsRNAにプロセシングされる。siRNAは、多成分ヌクレアーゼ複合体によって相補的mRNAを特異的に標的とする(Hammond SM, et al., (2000) Nature.;404:293-6;Hannon GJ. (2002) Nature.;418:244-51)。哺乳動物細胞において、相補的ヌクレオチド19個およびチミジンまたはウリジンの3'末端非相補性二量体を有する20または21量体dsRNAからなるsiRNAは、遺伝子発現において全体的な変化を誘導することなく、遺伝子特異的ノックダウン効果を有することが示されている(Elbashir SM, et al., (2001) Nature.;411:494-8)。さらに、低分子核RNA(snRNA)U6またはポリメラーゼIII H1-RNAプロモーターを含むプラスミドは、そのような低分子RNA動員III型クラスのRNAポリメラーゼIIIを有効に産生し、このようにその標的mRNAを構成的に抑制することができる。Miyagishi M and Taira K. (2002) Nat Biotechnol.;20:497-500.;Brummelkamp TR, et al., (2002) Science. 296:550-3)。
【0149】
本発明の文脈において、細胞の成長は、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAを含む組成物に細胞を接触させることによって阻害してもよい。細胞は、さらにトランスフェクション物質に接触させる。適したトランスフェクション物質は当技術分野において公知である。細胞成長の阻害は、細胞が、組成物に曝露されていない細胞と比較してより低い速度で増殖する、または生存率の減少を有することを意味する。細胞の成長は、MTT細胞増殖アッセイのような、当技術分野において公知の方法によって測定される。
【0150】
C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子配列の単一の標的に向けられる可能性がある。または、siRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子配列の複数の標的に向けられる可能性がある。たとえば、組成物は、C6700、B7032N、またはB9320の二つ、三つ、四つ、五つ、またはそれより多い標的配列に向けられるC6700、B7032N、またはB9320のsiRNAを含んでもよい。C6700、B7032N、またはB9320標的配列とは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子の一部と同一であるヌクレオチド配列を意味する。標的配列には、ヒトC6700、B7032N、またはB9320遺伝子の5'非翻訳(UT)領域、オープンリーディングフレーム(ORF)、または3'非翻訳領域が含まれうる。または、siRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子発現の上流または下流の調節物質と相補的な核酸配列である。上流および下流の調節物質の例には、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子プロモーターに結合する転写因子、C6700、B7032N、またはB9320ポリペプチドと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼ、C6700、B7032N、またはB9320プロモーターまたはエンハンサーが含まれる。標的mRNAとハイブリダイズするC6700、B7032N、またはB9320のsiRNAは、通常一本鎖のmRNA転写物と会合して、それによって翻訳を干渉して、このようにタンパク質の発現を干渉することによって、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子によってコードされるC6700、B7032N、またはB9320ポリペプチド産物の産生を減少または阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子に由来するmRNAまたはcDNAにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする能力によって定義され得る。本発明の目的において、「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」という用語は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」下でハイブリダイズする能力を指すために用いられる。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、核酸分子が、典型的には核酸の複合体混合物中にあるその標的配列とはハイブリダイズするが、他の配列とは検出し得る程度にはハイブリダイズしないと考えられる条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる環境では異なると考えられる。配列が長くなればなるほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen, (1993) Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays"において見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度pHでの特定の配列についての熱融解温度(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、平衡状態で標的に相補的なプローブの50%が標的配列にハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である(Tmにおいて標的配列が過剰に存在するので、プローブの50%が平衡状態に占められる)。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成されうる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的な、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は以下でありうる:50℃での0.2×SSCおよび0.1%SDSによる洗浄を伴う、50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でのインキュベーション。
【0151】
好ましくは、本発明のsiRNAは、約500ヌクレオチド長未満、約200ヌクレオチド長未満、約100ヌクレオチド長未満、約50ヌクレオチド長未満、または約25ヌクレオチド長未満である。好ましくは、siRNAは約19〜約25ヌクレオチド長である。C6700、B7032N、またはB9320 siRNAの作製のための核酸配列の例には、標的配列としてのSEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドの配列がそれぞれ含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を上昇させるために、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的には約2個から約10個であり、好ましくは約2個から約5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0152】
細胞は、C6700V2の転写変異体としてのC6700遺伝子、B7032N、またはB9320を発現するか過剰発現する、任意の細胞である。細胞は、腎細胞などの上皮細胞である。または、細胞は、癌腫、腺癌、芽腫、白血病、骨髄腫、または肉腫などの腫瘍細胞である。細胞は、腎細胞癌である。
【0153】
C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAは、mRNA転写物と結合できる形態で、細胞内に直接導入することができる。または、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAをコードするDNAを、ベクター中に含めてもよい。
【0154】
ベクターは、例えば、C6700、B7032N、またはB9320標的配列を、C6700、B7032N、またはB9320配列に隣接する機能的に連結された調節配列を有する発現ベクター中に、(DNA分子の転写により)両鎖の発現が可能になるような様式でクローニングすることによって作製される(Lee, N.S., et al., (2002) Nature Biotechnology 20 : 500-5)。C6700、B7032N、またはB9320 mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側のプロモーター配列)によって転写させ、C6700、B7032N、またはB9320 mRNAに対してセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側のプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖およびアンチセンス鎖をインビボでハイブリダイズさせて、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を作製する。あるいは、2つの構築物を利用してsiRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することができる。クローニングされたC6700、B7032N、またはB9320は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するような、例えばヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることができる。
【0155】
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列の間に配置してもよい。したがって、本発明はまた、一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有するsiRNAを提供し、式中、[A]は、C6700、B7032N、またはB9320由来のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、[A]は、SEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3個から23個のヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。
【0156】
領域[A]は[A']にハイブリダイズし、次いで、領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は、好ましくは、約3〜約23ヌクレオチド長でありうる。ループ配列は、例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque, JM., et al., (2002) Nature 418: 435-8)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, JM., et al., (2002) Nature, 418: 435-8
UUCG:Lee, NS., et al., (2002) Nature Biotechnology 20: 500-5. Fruscoloni, P., et al., (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 1639-44
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, DM., et al., (2003) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-67
【0157】
例えば、本発明のヘアピンループ構造を有する好ましいsiRNAを以下に示す。以下の構造では、ループ配列を、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ構造はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
CTACCTCTTCAGACTCAGC-[B]-GCTGAGTCTGAAGAGGTAG(SEQ ID NO: 43の標的配列に対して)
CCATGTGAGCACTTGGATG-[B]-CATCCAAGTGCTCACATGG(SEQ ID NO: 47の標的配列に対して)
GCAGCAACGTTGCAGCACA-[B]-TGTGCTGCAACGTTGCTGC(SEQ ID NO: 81の標的配列に対して)
GAGGACAATCCAGACGGCT-[B]-AGCCGTCTGGATTGTCCTC(SEQ ID NO: 106の標的配列に対して)
GGAGCTCTACAACGTGCTG-[B]-CAGCACGTTGTAGAGCTCC(SEQ ID NO: 110の標的配列に対して)
【0158】
C6700、B7032N、またはB9320配列に隣接する調節配列は、その発現が独立して調節される、または一時的もしくは空間的に調節されうるように、同じまたは異なりうる。siRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子鋳型を、たとえば低分子核RNA(snRNA)U6からのRNAポリメラーゼIII転写単位、またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクターにクローニングすることによって細胞内で転写されてもよい。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション増強物質を用いることができる。FuGENE(Roche Diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)は、トランスフェクション増強物質として有用である。
【0159】
オリゴヌクレオチド、およびC6700、B7032N、またはB9320 mRNAの様々な部分と相補的なオリゴヌクレオチドを、インビトロで、標準的な方法に従って腫瘍細胞(たとえば、腎細胞癌(RCC)細胞株のような腎細胞株を用いて)においてC6700、B7032N、またはB9320の産生をそれぞれ減少させる能力に関して試験した。候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較して候補siRNA組成物に接触させた細胞におけるC6700、B7032N、またはB9320遺伝子産物の低減は、C6700、B7032N、もしくはB9320の特異的抗体または他の検出戦略を用いて検出することができる。次に、インビトロ細胞ベースアッセイまたはインビトロ無細胞アッセイにおいてC6700、B7032N、またはB9320の産生を減少させる配列を、細胞成長に及ぼすその阻害効果に関して試験する。インビトロ細胞ベースアッセイにおいて細胞成長を阻害する配列をインビボでラットまたはマウスにおいて試験して、C6700、B7032N、またはB9320産生の減少および悪性新生物を有する動物における腫瘍細胞成長の減少を確認する。
【0160】
悪性腫瘍を処置する方法:
C6700、B7032N、またはB9320を過剰発現するという特徴を有する腫瘍を有する患者は、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAを投与することによって処置してもよい。siRNA治療は、たとえば腎細胞癌(RCC)に罹患しているかまたはその発症リスクを有する患者におけるC6700、B7032N、またはB9320の発現を阻害するために用いてもよい。そのような患者は、特定の腫瘍タイプに関する標準的な方法によって同定してもよい。腎細胞癌(RCC)は、たとえばCT、MRI、ERCP、MRCP、コンピューター断層撮影、または超音波によって診断してもよい。処置によって、アップレギュレートされた遺伝子の発現の低減、または対象における腫瘍の大きさ、広がり、もしくは転移能の減少のような臨床的利益が引き起こされれば、処置は有効であると見なされる。処置を予防的に適用する場合、「有効な」とは、処置が腫瘍の形成を遅らせるもしくは予防する、または腫瘍の臨床症状を予防もしくは軽減することを意味する。有効性は、特定の腫瘍タイプを診断または処置するための任意の公知の方法に関連して決定される。
【0161】
siRNA治療は、本発明のsiRNAをコードする標準的なベクター、および/または合成siRNA分子を送達することによるような遺伝子送達系によって、siRNAを患者に投与することによって行ってもよい。典型的に、合成siRNA分子は、インビボでヌクレアーゼ分解を予防するために化学的に安定化される。化学的に安定化されたRNA分子を調製する方法は、当技術分野において周知である。典型的に、そのような分子には、リボヌクレアーゼの作用を予防する改変骨格およびヌクレオチドが含まれる。その他の修飾も可能であり、例えば、コレステロールと結合させたsiRNAは、改良された薬理学的特性を示す(Song et al., (2003) Nature Med. 9:347-51)。適切な遺伝子送達システムとしては、リポソーム、受容体媒介送達システム、またはウイルスベクター(例えば、特に、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を挙げることができる。
【0162】
治療用核酸組成物は、薬学的に許容される担体中に製剤化されうる。治療用組成物は上述の遺伝子送達システムを含んでもよい。薬学的に許容される担体は、動物への投与に適した、生物学的に適合するビヒクル(例えば生理食塩水)である。化合物の治療的有効量とは、処置された動物における、アップレギュレートされる遺伝子産物の産生の減少、細胞成長(例えば増殖)の減少、または、腫瘍成長の減少などの、医学的に望ましい結果を生じることが可能な量である。
【0163】
静脈内、皮下、筋肉内、および腹腔内の送達経路を介する非経口投与を用いて、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNA組成物を送達してもよい。腎細胞癌の処置に関しては、腎動脈の直接注入が特に好ましい。
【0164】
任意の患者への投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与しようとする特定の核酸、性別、投与時間および経路、身体全体の健康、ならびに同時に投与されている他の薬物などの多くの要因に左右される。核酸の静脈内投与のための用量は、核酸分子約106〜1022コピーである。
【0165】
本発明のポリヌクレオチドは、筋肉または皮膚などの組織の間質腔への注射、循環または体腔への導入、または吸入もしくはガス注入などの、標準的な方法によって投与されうる。ポリヌクレオチドは一般に、注射されるか、またはさもなくば、薬学的に許容される液体担体(例えば、水溶性または部分的に水溶性の液体担体)と共に動物に送達される。ポリヌクレオチドはさらに、リポソーム(例えば、陽イオン性または陰イオン性のリポソーム)と結合させることができる。本発明のポリヌクレオチドは、プロモーターなどの、標的細胞による発現に必要な遺伝情報を含む。
【0166】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害し、かつしたがって、本発明のポリペプチドの生物活性を抑制するのに有用である。同様に、発現阻害剤、例えば本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、それらが本発明のポリペプチドの生物活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、腎細胞癌を処置するのに有用である。
【0167】
または、RCCにおいて過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物の機能は、該遺伝子産物に結合する化合物、またはさもなければ該遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害されうる。例えば、化合物は、過剰発現された遺伝子産物の1つまたは複数に結合する抗体であってもよい。
【0168】
本発明では、抗体、特にアップレギュレートされたマーカー遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の断片の使用に言及する。本明細書において用いられる「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわちアップレギュレートされたマーカー遺伝子の遺伝子産物)と、またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の一つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、または、HおよびL鎖由来のFv断片が適切なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston J. S. et al., (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-83)。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインやペプシンなどの酵素で処理することにより作製することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞内で発現させることができる(例えば、Co MS. et al., (1994) J. Immunol. 152:2968-76; Better M. and Horwitz AH. (1989) Methods Enzymol. 178:476-96; Pluckthun A. and Skerra A. (1989) Methods Enzymol. 178:497-515; Lamoyi E. (1986) Methods Enzymol. 121:652-63; Rousseaux J. et al., (1986) Methods Enzymol. 121:663-9; Bird RE. and Walker BW. (1991) Trends Biotechnol. 9:132-7を参照されたい)。
【0169】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0170】
または、抗体は、非ヒト抗体に由来する可変領域ならびにヒト抗体に由来する定常領域を有するキメラ抗体、または、非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)、および定常領域を有するヒト化抗体を含んでもよい。そのような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。
【0171】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を処置するためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F and Tortora G. (2001) Clin Cancer Res.;7:2958-70. Review.; Slamon DJ, et al., (2001) N Engl J Med.;344:783-92; Rehwald U, et al., (2003) Blood.;101:420-4; Fang G, et al., (2000) Blood, 96, 2246-53)。これらの薬物は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬剤は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的化された薬物は、それと共に使用した場合の標準的化学療法の効果を増大させる(Gianni L. (2002) Oncology, 63 Suppl 1, 47-56; Klejman A, et al., (2002) Oncogene, 21, 5868-76)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬剤を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の様々な特徴をねらった標的特異的薬剤と併用することを含むであろう。
【0172】
これらの調節法は、エクスビボもしくはインビトロで行うことができ(例えば、細胞を物質とともに培養することにより)、またはインビボで行うこともできる(例えば、物質を対象に投与することにより)。これらの方法は、差次的に発現する遺伝子の異常な発現またはそれら遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与する段階を含む。
【0173】
(疾患または障害に罹患していない者と比較して)遺伝子および遺伝子産物の発現レベルまたは生物活性それぞれが上昇していることを特徴とする疾患および障害は、過剰発現される一つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、それを低下させるまたは阻害する)治療剤によって処置されうる。活性に拮抗する治療剤は、治療的または予防的に投与することができる。
【0174】
したがって、本発明の文脈において利用されうる治療剤には、例えば以下が含まれる:(i)RCC関連遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体;(ii)過剰発現される遺伝子または遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現されるまたは低発現される1つまたは複数の遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸、または「機能欠損」である核酸(すなわち、1つまたは複数の過剰発現される遺伝子の核酸内部への非相同的挿入のため);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、過剰発現/低発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させる、阻害物質、アゴニスト、アンタゴニスト)。機能不全アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために利用される(例えば、Capecchi, (1989) Science 244: 1288-92を参照されたい)。
【0175】
(疾患または障害を有さない者と比較して)レベルまたは生物活性それぞれが減少していることを特徴とする疾患および障害は、活性を増加させる(すなわち活性に対するアゴニストである)治療剤によって処置されうる。活性をアップレギュレートする治療剤は、治療的または予防的な様式で投与されうる。利用可能な治療剤には、ポリペプチド(またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体)、または、生物学的利用能を増加させるアゴニストが含まれるが、これらに限定されない。
【0176】
レベルの上昇または低下は、(例えば生検組織から)患者の組織試料を採取してこれをRNAまたはペプチドのレベル、発現されたペプチド(または発現が変化した遺伝子のmRNA)の構造および/または活性に関してインビトロでアッセイすることにより、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知の方法には、免疫学的分析(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するためのハイブリダイゼーション分析(例えば、ノーザン分析、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるが、これらに限定されない。
【0177】
予防的投与は、疾患または障害の出現が妨げられるかまたはその進行が遅れるように、疾患の明瞭な臨床症状が現れる前に行う。
【0178】
本発明の治療法は、細胞と、差次的に発現する遺伝子の遺伝子産物の活性のうち一つまたは複数を調節する作用物質とを接触させる段階を含んでもよい。タンパク質活性を調節する作用物質の例には、核酸もしくはタンパク質、これらのタンパク質の天然同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣物、またはその他の小分子が含まれるが、これらに限定されない。例えば、適切な作用物質は、差次的に低発現される一つまたは複数の遺伝子のタンパク質活性のうち一つまたは複数を刺激しうる。
【0179】
本発明はまた、対象における腎細胞癌を処置または予防する方法にも関し、該方法は、RCC 1〜251(すなわちアップレギュレートされるRCC遺伝子)からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、そのようなポリペプチドの免疫活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくは断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを該対象に投与する段階を含む。ポリペプチドの投与により、対象において抗腫瘍免疫が誘導される。抗腫瘍免疫を誘導するためには、それを必要とする対象に、RCC 1〜251からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、そのようなポリペプチドの免疫活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを投与する。ポリペプチドまたはその免疫活性断片はRCCに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態で、または、マクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態で投与することもできる。DCの抗原提示能力は強いため、APCの中でもDCの使用が最も好ましい。
【0180】
本発明において、RCCに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明によると、RCC 1〜251にコードされるポリペプチドまたはその断片は、RCC 1〜251を発現するRCC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導する可能性のあるHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープペプチドであることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般に、抗腫瘍免疫は以下のような免疫応答を含む:
-腫瘍に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
-腫瘍を認識する抗体の誘導、および
-抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0181】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、そのタンパク質に対する宿主における免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出できる。
【0182】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答するT細胞は、該抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後、増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによってペプチドをT細胞に提示し、CTLの誘導を検出することによって、評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。またCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞は抗腫瘍免疫性においても重要なので、これらの細胞の活性化効果を指標として用いることによって、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0183】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中で最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法において、被験ポリペプチドを最初にDCに接触させ、その後このDCにT細胞を接触させる。DCとの接触後に対象の細胞に対して細胞傷害作用を有するT細胞が検出されることは、該被験ポリペプチドが細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することを示す。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いることによって、検出できる。あるいは、3H-チミジンの取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)の放出を指標として用いることによって腫瘍細胞損傷の程度を評価する方法も周知である。
【0184】
DCのほかに、末梢血単核球(PBMC)をAPCとして使用することもできる。GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによってCTLの誘導が増大することが報告されている。同様に、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによってCTLが誘導されることも示されている。
【0185】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであると見なされる。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCも、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLも、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するそのような治療法は、細胞性免疫療法と呼ばれる。
【0186】
一般に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせてそれらをDCに接触させることによって、CTL誘導効率が上昇することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片で刺激する場合、複数種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0187】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することで確認できる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が該ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、該ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なされる。
【0188】
抗腫瘍免疫は、本発明のワクチンを投与することによって誘導され、かつ抗腫瘍免疫の誘導によりRCCの処置および予防が可能になる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。同様に、癌を有する個体の死亡率または疾病率の低下、血液中の腫瘍マーカーレベルの低下、癌に伴う検出可能な症状の軽減なども、癌の処置または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は、統計的に有意であることが好ましい。例えば、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えば、スチューデントt検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いることができる。
【0189】
免疫活性を有する上記のタンパク質または該タンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫活性を有するタンパク質と同時に(または連続的に)投与した場合、該タンパク質に対する免疫応答を増大させる化合物を意味する。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせることができる。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等が含まれるが、それらに限定されない。さらに、必要に応じて、ワクチンは、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身投与または局所投与され得る。ワクチン投与には、単回投与、または複数回の追加投与が含まれうる。
【0190】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、例えばエクスビボ法によって腫瘍を処置または予防することができる。より具体的には、処置または予防を受けている対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を該対象に投与してもよい。またAPCは、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する活性が高い細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、該細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0191】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖性疾患を処置または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0192】
RCCまたは悪性RCCを阻害するための薬学的組成物:
本発明の文脈において、適切な製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくはガス注入による投与に適した製剤が含まれる。静脈内投与が好ましい。製剤は任意で、個別の用量単位に包装される。
【0193】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれ所定量の活性成分を含む、カプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。適切な製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、ボーラス、舐剤、またはペーストとして投与されてもよい。経口投与のための錠剤およびカプセル剤は、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤および/または湿潤剤のような従来の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で1つもしくは複数の製剤成分を用いて、圧縮または成形により作製することができる。圧縮錠は、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、界面活性剤および/または分散剤と混合した活性成分を、適切な機械の内部で、粉剤または顆粒剤のような自由流動形状で圧縮することによって、調製されうる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を、適切な機械の内部で成形することによって、作製されうる。錠剤は、当技術分野で周知の方法にしたがって被覆することができる。経口液体調製物は、例えば水性もしくは油性の懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形態であってもよく、または、使用前に水もしくは他の適したビヒクルで構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含みうる)、および/または保存剤のような従来の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の遅延放出または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月1回服用されるべき1個の錠剤を含んでよい。
【0194】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤、および該製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含んでもよい水性および非水性の滅菌注射剤、ならびに、懸濁剤および/または濃化剤を含んでもよい水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量の容器中に、例えば密封されたアンプルおよびバイアル中に提供されてもよく、かつ、使用直前に滅菌液体担体(例えば生理食塩水や注射用水)を添加すればよいだけの凍結乾燥条件で貯蔵されてもよい。または、製剤を持続注入用に提供することができる。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に説明した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0195】
直腸投与に適した製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内、例えば口腔内または舌下への局所投与に適した製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、分散性の粉末、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤を含んでもよい水性または非水性の基剤と共に製剤化されうる。
【0196】
吸入投与の場合、吹入器、ネブライザー、加圧パック、または、エアロゾルスプレーを送達する他の従来の手段によって、本発明の化合物を都合よく送達することができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス、または他の適切なガスなどの適切な噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、一定量を送達するバルブを提供することで決定することができる。
【0197】
あるいは、吸入またはガス注入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば該化合物と乳糖またはデンプンのような適切な粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形で、例えば、吸入器または注入器によって粉末が投与され得るカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形状で、提供されてもよい。
【0198】
その他の製剤には、治療薬を放出する、移植可能な装置および粘着性パッチなどが含まれる。
【0199】
望ましい場合、活性成分が徐放性となるように適合化させた上記の製剤を使用することができる。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤および/または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0200】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において従来的な他の作用物質が含まれていてもよいと理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでいてもよい。
【0201】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用される、有効量またはその適切な一部の活性成分を含む製剤である。
【0202】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で、経口でまたは注射によって投与され得る。成人の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日であり、好ましくは約5 mg〜約10 g/日であり、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される錠剤または他の単位投与剤形は、便宜上、該投与量でまたはその複数回投与量として有効性を示すような量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常は約100 mg〜約500 mgを含む単位量を含む。
【0203】
使用される用量は、対象の年齢および性別、処置される正確な疾患、およびその重篤度を含む、いくつかの要因に左右される。投与経路もまた、条件およびその重篤度によって変動しうる。いずれにしても、適切で最適な投与量は、当業者により、上述の要因を考慮した上で慣行的に計算され得る。
【0204】
さらに本発明のいくつかの局面を以下の実施例に記載しているが、これらは、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定することを意図したものではない。以下の実施例は、RCC細胞において差次的に発現する遺伝子の同定および特徴決定についての説明である。
【0205】
レーザーマイクロダイセクションによって純粋に選択された明細胞RCC細胞および正常腎皮質細胞を用いた腎細胞癌の遺伝子発現プロファイルのゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイ分析:
腫瘍マーカーおよび治療的介入のための標的は、遺伝子27,648個を表すcDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現プロファイルを分析することによって同定した。腎細胞癌は、様々な細胞成分を含む固体の塊として存在する。したがって、癌細胞をレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)によって腎細胞癌15例から精製した。遺伝子発現プロファイルを調べて、正常な精製腎皮質細胞のプロファイルと比較した。これらの細胞集団は、これにより均一となった(95%より高く精製された細胞)。その結果、遺伝子251個が、腎細胞癌細胞において一般的にアップレギュレートされていると同定された。これらのアップレギュレートされた遺伝子の中には、RCCにおいて過剰発現されていると既に報告されていたCyclin-D1(CCND1)が含まれた(Hedberg Y., et al., (1999) Int. J. Cancer, 84: 268-72, 1999)この遺伝子は、本発明において、参考となるRCC症例15例中9例において過剰発現された。遺伝子721個は、腎細胞癌細胞において一般的にダウンレギュレートされていると同定された。
【0206】
本発明は、初期の方法の限界の多くを克服している。したがって、本発明の遺伝子発現プロファイルは、非常に正確な癌の基準を構成する。第一に、様々な細胞成分が正常組織のみならず癌組織に存在することから、臨床試料を用いるマイクロアレイ分析は、これまで難しいことが証明されている。特に、腎細胞癌は様々な細胞成分を含む固形塊として存在するという特徴を有する。したがって、腎細胞癌塊および正常腎皮質細胞を用いる遺伝子発現プロファイルの分析は、腎細胞癌に関係する遺伝子の有意な増加または減少を隠す可能性がある、試験される組織において混合された細胞によって有意に影響を受ける。したがって、本発明においては、LMMシステムを用いて、外科標本から癌および正常上皮細胞を非常に高い純度(95%またはそれ以上)まで精製した。LMMによって単一の細胞でさえも微小切除することが可能であるため、この技術は、腎細胞癌標本の正確なマイクロアレイ解析にとって重要である。
【0207】
癌細胞および正常腎皮質細胞を注意深く精製して、その後RNAを単離し、cDNAマイクロアレイ解析を行うことによって、その発現が共通してアップレギュレートされた遺伝子251個が得られた(50%を超える癌症例において発現データを得ることができかつその発現比(Cy5/Cy3強度比)が5.0を上回る遺伝子;症例の33〜50%において計算できかつ症例の全てにおいて5.0を上回る発現比を示した遺伝子も評価した)。
【0208】
本明細書において得られかつ記載されたプロファイルは、高度に精製された癌性細胞(腎細胞癌)の集団を解析し、最も関連する正常対照、すなわち正常腎皮質細胞の高度に精製された集団と比較することによって得られたので、初期のプロファイルと比較して改善を示す。初期の方法およびプロファイルは、初期のプロファイルの精度および信頼性を減少させる混入細胞の割合が高いことによって妨害された。本発明のプロファイルは、大規模な腎細胞癌に関する最初の正確なゲノム全体の遺伝子発現プロファイルである。これらのデータは、腎細胞癌を処置するための治療的調節のための分子標的、および癌または前癌状態の早期の正確な診断のための特異的新規腫瘍マーカーを同定する。
【0209】
特に定める場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載したのと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全文が参照により組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は説明のみを目的としており、制限を意図するものではない。
【0210】
実施例
材料および方法:
さらに本発明を以下の実施例において説明するが、これは、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0211】
患部組織から得た組織および正常組織を、発現に差のある遺伝子、または疾患状態、例えばRCCを同定するために評価した。アッセイ法は以下のように実施した。
【0212】
患者、組織試料および細胞株
全ての患者がインフォームドコンセントを受け、インフォームドコンセントを得た患者15人(男性9人および女性6人;pT1 10例、pT2 2例、およびpT3 3例を含む明細胞腎細胞癌;平均年齢61.3歳、範囲36〜75歳)から腎細胞癌を得た(表1)。カルテから臨床情報を得て、それぞれの腫瘍を、病理学者が組織病理学的サブタイプおよび悪性度に従って診断した。各患者の臨床病期を、日本泌尿器学会の腎細胞癌に関する臨床病理研究のための一般規則に従って判断した。試料は全て、直ちに凍結して-80℃で保存した。腎細胞癌(Caki-1、Caki-2、786-O、A498、ACHN、769-P、A704、RXF-631L、OS-RC-2、TUHR10TKB、およびTUHRl4TKB)細胞に由来する細胞株および腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)を、10%ウシ胎児血清および1%抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した適当な培地において単層で成長させ、5%CO2を含む空気中で37℃で維持した。
【0213】
(表1)RCC患者の臨床病理学的特色
【0214】
組織試料およびLMM
試料はTissueTek OCT媒質(Sakura)中に包埋し、使用時まで-80℃で保存した。凍結標本をクリオスタットで連続的に切片化して8μmの切片とし、解析する領域を規定するためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。癌細胞と非癌細胞の交差汚染を避けるために、EZ Cut LMM System(SL Microtest GmbH)を製造元のプロトコールにいくつかの修正を加えて用いることによって、これら2つの集団を調製した。貯蔵工程および組織採取の間の影響を最小化するために、癌組織を同じ手順によって慎重に取り扱った。RNAの質を調べるために、各症例の残りの組織から抽出した全RNAを変性アガロースゲル中で電気泳動し、リボソームRNAバンドの存在によってそれらの質を確認した。
【0215】
RNA抽出およびT7に基づくRNA増幅
レーザーで捕捉した細胞の各集団から全RNAを抽出し、350μlのRLT可溶化緩衝液(QIAGEN)に入れた。抽出したRNAを、30単位のDNase I(QIAGEN)により室温で30分間処理した。70℃において10分間失活させた後に、製造元の推奨に従ってRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用い、RNAを精製した。DNase Iで処理したRNAの全てを、Ampliscribe T7 Transcription Kit (Epicentre Technologies)を用いた、T7に基づく増幅に供した。2回の増幅により、各試料に関して41.5〜163.4μgの増幅RNA(aRNA)が得られたが、一方、本発明者らが11例の腎臓癌患者由来の正常腎皮質からRNAを増幅した場合には、合計477.0μgが得られた。癌性細胞および正常腎皮質細胞にそれぞれ由来するaRNAの2.5μgアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences)の存在下で逆転写させた。
【0216】
cDNAマイクロアレイ
スライドガラス上にスポットするためのcDNAを得るために、本発明者らは、以前に記載された通り、各遺伝子に対してRT-PCRを行った(Kitahara O, et al., (2001) Cancer Res;61:3544-9)。高密度Microarray Spotter Lucidea(GE Healthcare, Amersham Biosciences)を用いてPCR産物をタイプVIIスライドガラス(GE Healthcare, Amersham Biosciences, Buckinghamshire UK)上にスポットした;9,216遺伝子を1枚のスライドガラス上に2通りスポットした。3種類の異なるスライドセット(計27,648遺伝子のスポット)を調製した;そのそれぞれに、同じ52種類のハウスキーピング遺伝子および2種類の陰性対照遺伝子も含めた。cDNAプローブは、以前に記載された様式でaRNAから調製した(Okabe H, et al., (2001) Cancer Res;61:2129-37)。ハイブリダイゼーション実験のために、各癌組織からおよび対照から増幅したRNA(aRNA)7.5μgを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(GE Healthcare, Amersham Biosciences)の存在下で逆転写させた。ハイブリダイゼーション、洗浄、及びシグナルの検出は、以前に記載された様式で実施した(Okabe H, et al., (2001) Cancer Res;61:2129-37)。
【0217】
ハイブリダイゼーションおよびデータの収集
全てのプロセスを自動スライドプロセッサ(Amersham Biosciences)で実施したことを除き、ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、以前に記述されたプロトコールに従って行った(Ono K., et al., (2000) Cancer Res, 60: 5007-11)。
【0218】
スポット27,648個からのCy3およびCy5のシグナル強度を定量して、ArrayVisionソフトウェア(Imaging Research, Inc., St. Catharines, Ontario, Canada)を用いてバックグラウンドを差し引くことによって解析した。続いて、各標的スポットに関するCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を、アレイ上の52個のハウスキーピング遺伝子の平均Cy3/Cy5比が1と等しくなるように調整した。低シグナル強度に由来するデータの信頼性は低いため、本発明者らは、以前記載されたように(Ono, K., et al., (2000) Cancer Res, 60: 5007-11)各スライドに対してカットオフ値を規定し、Cy3色素およびCy5色素の両方でカットオフ値よりも低いシグナル強度が得られた場合、その遺伝子を以降の分析から除外した。他の遺伝子に関して、本発明者らは、各試料の生データを用いてCy5/Cy3比を算出した。
【0219】
RCCにおいて共通してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子の同定
各遺伝子の相対的発現比(Cy5/Cy3強度比)を、4つのカテゴリーのいずれかに分類した:(A)アップレギュレートされた(発現比が>5.0);(B)ダウンレギュレートされた(発現比が<0.2);(C)変化なし(発現比が0.2〜5.0の間);および(D)発現されず(またはわずかな発現はあるが検出用カットオフレベル未満)。これらのカテゴリーを用いて、試料間で発現比の変化が共通している遺伝子のセットを検出した。各群において共通してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされる候補遺伝子を検出するために、27,648遺伝子の全体的な発現パターンをまずスクリーニングして、分類された群の50%超に存在しかつ発現比が>5.0または<0.2である遺伝子を選択した。
【0220】
半定量RT-PCR
19のアップレギュレートされた遺伝子を選択し、半定量的RT-PCR実験を適用することによってそれらの発現レベルを調べた。各試料からのaRNAの1μgのアリコートを、ランダムプライマーおよびSuperscript II(Life Technologies, Inc.)を用いて一本鎖cDNAへと逆転写した。各cDNA混合物を、表2に示したプライマーセットを用いた次のPCR増幅のために希釈した。本マイクロアレイデータにおけるCy5/Cy3の変動が最も小さかったので、各遺伝子の発現を標準化するために、52種類のハウスキーピング遺伝子の中から、ファルネシル-ジホスフェートファルネシルトランスフェラーゼ1(FDFT1)を内部対照として選択した。産物の強度が確実に増幅の直線相(linear phase)に入るように、PCR反応のサイクル数を最適化した。
【0221】
(表2)半定量的RT-PCRのためのプライマー配列
【0222】
C6700は2つの異なる転写産物を有するので、以下のプライマーを用いて半定量的RT-PCRを実施して、どちらの変異体がRCC細胞内で過剰発現しているかを確認した:
C6700FV1 5'-GTCCCCACTGCTTTGAGATG-3' (SEQ ID NO: 37)、
C6700RV1 5'-GTGTGTGTTCCTGAACAGATGAA-3' (SEQ ID NO: 12);
C6700FV2 5'-GACTGTGCAGGGTTCAATCTC-3' (SEQ ID NO: 38)、
C6700RV2 5'-GTGTGTGTTCCTGAACAGATGAA-3' (SEQ ID NO: 12);
内部対照用のβ2-ミクログロブリン(β2MG)
5'-TTAGCTGTGCTCGCGCTACT-3' (SEQ ID NO: 39)、
5'-TCACATGGTTCACACGGCAG-3' (SEQ ID NO: 40) 。
【0223】
RCC細胞(786-O、A704、OS-RC-2、およびTUHR14TKB)におけるC6700V1およびC6700V2の発現レベルを調べるために、以下のプライマーセットを用いてRT-PCT実験を実施した:
5'-CTGGAAACAGCAGCCAGAG-3' (SEQ ID NO: 83) および5'-CAGTGCTGGCAAGACAGGTA-3' (SEQ ID NO: 84)。
産物の強度が確実に増幅の対数期内に入るように、PCR反応をサイクル数について最適化した。
【0224】
B9320変異体の転写産物の発現レベルをRT-PCRによって更に確認するために、以下のプライマーセットを使用した:
変異体1: 5'-GGAGTGGGAACCGCAGAAC-3' (SEQ ID NO: 90) および
5'-GACCCCCACCTTCAAATCAC-3' (SEQ ID NO: 91);
変異体2: 5'-GCTCGTGCTCGACAGGTGTGTA-3' (SEQ ID NO: 92) および
5'-CAGGTCATGGCCGGGTTC-3' (SEQ ID NO: 93)。
産物の強度が確実に増幅の対数期内に入るように、PCR反応をサイクル数について最適化した。
【0225】
ノーザンブロット分析
Micro-FastTrack(Invitrogen)を用いて腎細胞癌細胞株4例およびRPTEC細胞から単離した各mRNA、およびヒト正常組織ポリA(+)RNA(Clontech, Palo Alto, California)、心臓、肝臓、肺、腎臓、脳、および精巣の1μgのアリコットを1%変性アガロースゲルにおいて分離して、ナイロンメンブレンに転写した。このノーザンブロットおよびヒト多組織ノーザンブロット(Clontech, Palo Alto, CA)をまた、RT-PCRによって候補遺伝子の[α32P]-dCTP標識増幅産物とハイブリダイズさせた。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は、供給元の推奨に従って実施した。ブロットを強化スクリーンによって-80℃で14日間オートラジオグラフを行った。特異的プローブは、表3に示される特異的プライマーセットを用いてPCRによって調製した。
【0226】
(表3)ノーザンプローブのためのプライマーの配列
【0227】
発現ベクターの構築
B7032NおよびB9320のオープンリーディングフレームの配列を、以下のプライマーによってKOD-Plus DNAポリメラーゼ(Toyobo, Osaka, Japan)を用いたPCRによって得た:B7032N-フォワード5'-AACGAATTCATGGCGTCCCCACGGGA-3'(SEQ ID NO: 97)(下線部はEcoRI制限酵素部位を示す)、および5'-CAACTCGAGCTGGTGAGCAGGCACCGTG-3'(SEQ ID NO: 98)(下線部はXhoI制限酵素部位を示す)、ならびにB9320-フォワード5'- CAAGAATTCATGTCGAGCCCGGGCATC-3'(SEQ ID NO:99)、および5'- GCTGAATTCACCTCAATGACGAGGCAGCGG-3'(SEQ ID NO, 100)(下線部はEcoR I制限酵素部位を示す)。B7032NのPCR産物を、pCAGGSsnH3F発現ベクターのEcoR IおよびXhoI部位に挿入した。B9320のPCR産物をpCAGGSsnH3F発現ベクターのEcoRI部位に挿入した。これらの構築物のDNA配列をDNAシークエンシングによって確認した。
【0228】
免疫細胞化学分析
外因性の発現に関して、COS7細胞を5×104個/ウェルで播種した。24時間後および48時間後、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて製造元の説明書に従って、細胞を、pCAGGS-HA-B7032NまたはpCAGGS- HA-B9320 1 mgでCOS7細胞に一過性にトランスフェクトした。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)によって4℃で15分間固定して、0.1%トリトンX-100を含むPBSによって4℃で2.5分間透過性にした。次に、細胞を3%BSAのPBS(-)溶液で4℃で12時間覆って、非特異的ハイブリダイゼーションをブロックした。次に、B7032N-HAトランスフェクトCOS7細胞およびB9320-HAトランスフェクトCOS7細胞を、1:1000倍希釈のラット抗-HA抗体(SANTA CRUZ)と共にインキュベートした。PBS(-)によって洗浄後、トランスフェクト細胞を、1:3000倍希釈のAlexaFluro 488共役抗ラット二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。核を4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI)によって対比染色した。TCS SP2 AOBS顕微鏡(Leica, Tokyo, Japan)において蛍光画像を得た。
【0229】
ウェスタンブロット分析
B7032Nタンパク質およびB9320タンパク質を先に記述したようにそれぞれ、pCAGGS-nHA発現ベクターを用いてCOS7細胞へのトランスフェクションによって外因性に発現させた。全細胞溶解物をトランスフェクションのそれぞれ、24時間後および48時間後に回収した。トランスフェクトした細胞を溶解緩衝液(50 mmol/Lトリス(pH 7.5)、150 mmol/L NaCl、10 mmol/L CHAPS、および0.1%プロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII(Calbiochem)において溶解した。ホモジナイゼーションの後、細胞溶解物を氷上で30分インキュベートして14,000 rpmで15分間遠心して、上清のみを細胞片から分離した。総タンパク質の量をタンパク質アッセイキット(Bio-Rad, Hercules, CA)によって推定した後、タンパク質をSDS-試料緩衝液と共に混合して、沸騰させてから10%SDS-PAGEゲルにローディングした。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロースメンブレン(GE Healthcare)にブロットした。タンパク質を含むメンブレンをブロッキング溶液によってブロックして、外因性のB7032Nタンパク質およびB9320タンパク質を検出するために、ラット抗HAモノクローナル抗体(SANTA CRUZ)と共にインキュベートした。最後に、メンブレンをHRP共役ラット二次抗体と共にインキュベートして、タンパク質バンドをECL検出試薬(GE Healthcare)によって可視化した。
【0230】
PFKFB4を安定に発現するNIH3T3細胞の確立
B7032N発現ベクター、B9320発現ベクター、または偽ベクターを上記のようにFUGENE6を用いてNIH3T3細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を0.9 mg/mlゲネチシン(G418)(Invitrogen)を含む培養培地においてインキュベートした。クローンNIH3T3細胞を限界希釈によってサブクローニングした。HA-タグB7032NまたはHA-タグB9320の発現を、抗HAモノクローナル抗体を用いるウェスタンブロット分析によって査定した。最終的にいくつかのクローンを確立してB7032N-NIH3T3またはB9320-NIH3T3と命名した。B7032NまたはB9320の成長促進効果を調べるために、独立した四つのB7032N-NIH3T3細胞(B7032N-A、-B、-C、および-D)および独立した三つの偽-NIH3T3細胞(Mock-A、-B、および-C)、または独立した四つのB9320-NIH3T3細胞(B9320-1、-2、-3)、独立した三つのMock-NIH3T3細胞(Mock-1、-2、および-3)各5×103個を播種して、細胞の数を、Cell counting kit-8(同仁化学研究所、熊本、日本)によって、製造元の説明書に従って5日間毎日計数した。これらの実験は3度ずつ行った。
【0231】
psiU6X3.0を用いたC6700、B7032N、およびB9320特異的siRNA発現ベクターの構築
ベクターに基づくRNAiシステムを、先の報告(WO2004076623;Shimokawa T, et al. Cancer Res. 2003;63:6116-20)に従って、C6700に関してpsiU6BX siRNA発現ベクターを用いて、ならびにB7032NおよびB9320に関してPsiH1BX siRNA発現ベクターを用いて確立した。C6700、B7032N、およびB9320に対するsiRNA発現ベクター(psiU6BX-C6700、psiHlBX-B7032N、またはpsiHlBX-B9320)を、表6における二本鎖オリゴヌクレオチドの、psiU6BXベクターのBbsI部位へのクローニングによって調製した。対照プラスミドpsiU6BX-Mock、Luc、Scramble、およびEGFPは、psiU6BX 3.0ベクターのBbsI部位に二本鎖オリゴヌクレオチドをクローニングすることによって調製した。
【0232】
C6700、B7032N、およびB9320の遺伝子サイレンシング効果
C6700に関してヒトRCC細胞株OS-RC-2、B7032Nに関してRXF-631LおよびA498、B9320に関してCaki-2およびA498を、10 cm培養皿(1×106個/皿)に播種して、FuGENE6試薬(Roche)を用いてLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、供給元の推奨に従って、陰性対照としてのpsiU6BX-Mock、Luc、Scramble、およびEGFP、psiU6BX-C6700、psiU6BX-B7032N、ならびにpsiU6BX-B9320をトランスフェクトした。各構築物のトランスフェクション後10日目に細胞から総RNAを抽出した後、siRNAのノックダウン効果を、先に記述したようにC6700の共通領域に関する特異的プライマーを用いる半定量的RT-PCRによって確認した。トランスフェクトしたOS-RC-2細胞を、0.7 mg/mlネオマイシン(ゲネチシン;Gibco BRL Carlsbad, CA)を含む培地において選択した。次に、ゲネチシン選択の5日後に総RNAを細胞から抽出した後、以下の特異的プライマーセットを用いる半定量的RT-PCRによってsiRNAのノックダウン効果を試験した。
内部対照としての、フォワード 5'-AACTTAGAGGTGGGGAGCAG-3'(SEQ ID NO:85)及び
リバース 5'-CACAACCATGCCTTACTTTATC-3'(SEQ ID NO:86)、ならびに、
C6700に対する、5'-TGACCTGTGCTTAGAAGTCCTTT-3'(SEQ ID NO:11)及び
5'-GTGTGTGTTCCTGAACAGATGAA-3'(SEQ ID NO:12);
B7032Nに対する、フォワード 5'-CGGTGGTCTCTCATCCTTGT-3'(SEQ ID NO:101)及び
リバース 5'-GCAACTCCTAACTCCCCTCTGTA-3'(SEQ ID NO:87);
B9320に対するフォワード 5'-GCCTCGAGGTTATGCTTGAA-3'(SEQ ID NO:102)及び
リバース 5'-ATGCAGTCACTCACGCTCAG-3'(SEQ ID NO:103)
3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにおいて、供給元のプロトコールに従って、トランスフェクションの7または14日後にCell-counting kit-8(同仁化学研究所、熊本、日本)を用いて細胞生存率を評価した。21日間インキュベートした後、これらの細胞を4%パラホルムアルデヒドによって固定して、コロニー形成アッセイのためにギムザ溶液によって染色した。
【0233】
結果
RCCにおいて一般的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子の同定
周囲の非癌性細胞、または非正常細胞の混入を防止するために、レーザーマイクロビームマイクロダイセクションを行って、腫瘍塊における癌細胞のみ、および正常腎皮質細胞に由来する細胞のみを選択した。図1において示すように、RCCの代表的な例を各臨床標本から顕微解剖した。これによって、本発明者らはその後の遺伝子発現プロファイルをより正確に得ることができる。
【0234】
RCCの癌発生の基礎となるメカニズムを解明するために、RCCにおいて一般的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子をまず調べた。RCC 15例における遺伝子発現プロファイルにより、共通に変化した発現を有する遺伝子972個が同定され;参考となる症例の50%より多くにおいて発現比>5.0が明らかになった遺伝子251個(材料および方法を参照されたい)(表4)が同定され、一方、正常腎皮質細胞と比較してRCC細胞においてその発現が0.2未満まで低減された遺伝子は721個であった(表5)。これらのアップレギュレートされた遺伝子の中に、RCCにおいて過剰発現されていると既に報告されているCyclin-D1(CCND1)(Hedberg Y., et al, (1999) Int. J. Cancer, 84: 268-72)が含まれた。この遺伝子は、本発明において参考となるRCC症例15例中9例において過剰発現された。これらのアップレギュレートされた遺伝子の中で、遺伝子182個の生物学的機能は、既にある程度公知であった。それらの中で、HIG2(Hypoxia inducible gene 2)、NNMT(Nicotinamide N-methyltransferase)、IGFBP3(Insulin-like growth factor binding protein 3)、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、およびVWF(Von Willebrand factor)は既に、腎腫瘍形成に関係する遺伝子であると報告されており(Togashi A, et al, (2005)Cancer Res.;65:4817-26;Yao M, et al, (2005) J Pathol.;205:377-87;Cheung CW, et al., (2004) Kidney Int.;65:1272-9;Staehler M, et al., (2005) Curr Drug Targets.;6:835-46;Braybrooke JP, et al., (2000) Clin Cancer Res.;6:4697-704)、本発明者らのマイクロアレイデータの品質が高いことを支持している。アップレギュレートされた遺伝子は、シグナル伝達経路に関連する遺伝子(ADORA3、EDA2R)、または様々な代謝経路に関係する遺伝子(SCD、ENPP3)、輸送系に関係する遺伝子(SLC1A3、ABCG1)、血管新生に関係する遺伝子(VEGF)、アポトーシスに関係する遺伝子(FTS)、および細胞接着に関係する遺伝子(CDH2)を含む、多様な機能を表した。特に、アップレギュレートされた遺伝子の92個は、正常皮質細胞より10倍より高いレベルで発現され、たとえばADORA3(アデノシンA3受容体)、SLC1A3(溶質キャリア ファミリー1 メンバー3)、およびSTC2(スタニオカルシン2)は、参考となる症例の90%より多くにおいて10倍より高くアップレギュレートされた。これらのダウンレギュレートされた遺伝子の中で、遺伝子532個は、ある程度機能的に特徴付けられている。それらには、WT1(ウィルムス腫瘍1)、CDKNIC(サイクリン依存キナーゼインヒビター1C)、およびGAS1(増殖停止特異的1)が含まれ、これらは、成長抑制またはアポトーシスにおけるその役割を意味する(Niu Z, et al., (2005) J Urol;174:1460-2;Kikuchi T, et al., (2002) Oncogene. ;21:2741-9;Watanabe H, et al., (1998) Proc Natl Acad Sci U S A.;95:1392-7; Evdokiou A & Cowled PA. (1998) Int J Cancer.;75 :568-77)。特に、WT1およびCDKN1Cは、RCC症例15例全てにおいて有意にダウンレギュレートされ、GAS1もまた、15例中14例において有意にダウンレギュレートされ、それらの遺伝子のダウンレギュレーションがRCC腫瘍発生に関連する可能性があることを示している。
【0235】
(表4)RCCにおいてアップレギュレートされた遺伝子
【0236】
(表5)RCCにおいてダウンレギュレートされた遺伝子
【0237】
半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析による選択された遺伝子の確認
cDNAマイクロアレイ分析によって得られた発現データの信頼性を確認するために、明細胞RCCを有する参考となる症例において有意にアップレギュレートされた遺伝子21個(アクセッション番号NM_018092、AA632745、NM_007250、W86513、BC077726、AA156409、W57613、CR749811、AW972553、AL832896、AK021778、AK026403、AK025204、NM_000677、AF070609、AI290343、AA442590、NM_000552、BC000234、BC034014、およびNM_004567)について半定量的RT-PCR実験を行った。これらの遺伝子の中で、遺伝子13個(アクセッション番号NM_018092、AA632745、NM_007250、W86513、BC077726、AA156409、W57613、CR749811、AW972553、AL832896、AK021778、AK026403、またはAK025204)は、正常対照としての腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)と比較して、四つのRCC細胞株Caki-1、Caki-2、786-O、およびA498においてアップレギュレートされることが確認された。それらの中で遺伝子8個は、RCC細胞株においてもアップレギュレートされた(図2a)。これらの結果は、試験した症例の大多数においてマイクロアレイ分析の結果と非常に一致した。特に、C6700は、RPTECと比較して8個の細胞株ACHN、769-P、RXF-631L、TUHR10TKB、Caki-1、Caki-2、786-O、およびA-498の中で3個、すなわちA704、OS-RC-2、およびTUHR14TKBにおいてアップレギュレートされることが確認された(図2b)。
【0238】
これらの候補遺伝子の発現パターンをさらに試験するために、複数のヒト組織およびRCC細胞株について、それぞれのcDNA断片をプローブとして用いてノーザンブロット分析を行った(材料および方法を参照されたい)。候補遺伝子の中で、セマフォリン5B、SEMA5Bに対して設計されたC6700(Genbankアクセッション番号:BC077726)は、胎児脳および胎児腎臓を除く正常ヒト組織に限って発現された(図3左のパネル)。さらに、C6700のcDNA断片をプローブとして用いてRCC細胞株についてノーザンブロット分析を行った(材料および方法を参照されたい)。C6700の発現は、RCC細胞株11例中3例においてアップレギュレートされた(図3、右のパネル)。次に、USCSデータベースにより、ABI遺伝子ファミリー メンバー3(NESH)結合タンパク質(ABI3BP)に対して設計されたF5749(Genbankアクセッション:AK025204)が、染色体3q12に存在し、かつエキソン11個からなる3545塩基の転写物およびエキソン35個からなる4533塩基の転写物を有することが明らかとなった。多重ノーザンブロット分析により、3545塩基の転写物が特異的プローブを用いてもいかなる種の正常ヒト組織においても発現されなかったが(図4a)、約2.0、4.5、および7.5 kb転写物は、3545塩基および4533塩基転写物の共通の配列をプローブとして用いて、正常ヒト組織において広く発現されることが観察された(図4b)。理論的タンパク質MGC38937と類似のLOC339977に対して設計されたC8919(Genbankアクセッション番号:CR749811)は、染色体4q11に転写物と共に存在し、エキソン4個からなる長さが3348塩基である。約3.4 kbの転写物は、多重ノーザンブロット分析によって骨格筋に限って非常に弱く発現された(図5)。PFKFB4(6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ4)遺伝子(Genbankアクセッション番号NM_004567)に対して設計されたB7032Nは、その約3.5 kbのPFKFB4転写物が膀胱癌細胞株11例中2例においてアップレギュレートされたが、精巣および膵臓を除き正常臓器では発現されなかった(図6)。FBXLl6(Fボックスロイシンリッチリピートタンパク質16)遺伝子(V1に関してGenbankアクセッション番号BC034014、およびV2に関してNM_153350)に対して設計されたB9320は、二つのFBXL16転写物の約4 kb(V1)および2.4 kb(V2)が、膀胱癌細胞株4例中2例において有意にアップレギュレートされた。2.4 kb転写物は腎臓および甲状腺において発現されたが、4 kb転写物は、脳、精巣、脊髄および膵臓を除き正常臓器では発現されなかった(図7)。
【0239】
B7032Nの特徴をさらに試験するために、B7032Nの発現およびB7032N遺伝子産物の細胞内局在を哺乳動物細胞において試験した。最初に、B7032Nタンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-B7032N-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトして、ウェスタンブロット分析を行ったところ、外因性のB7032Nがトランスフェクションの24時間後および48時間後の双方において予想される大きさのバンドとして発現された(図10a)。さらに、免疫細胞化学染色により、トランスフェクトした細胞の全てにおいて細胞質に外因性に局在することが示された(図10b)。
【0240】
B9320の特徴をさらに調べるために、B9320の発現およびB9320遺伝子産物の細胞内局在を哺乳動物細胞において調べた。最初にB9320タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-B9320-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトして、ウェスタンブロット分析により、外因性のB9320がトランスフェクションの24時間後および48時間後の双方において単一のバンドとして発現されることが明らかとなった(図13a)。さらに、免疫細胞化学染色により、トランスフェクト細胞の全てにおいて細胞質に外因性に局在することが示された(図13b)。
【0241】
C6700のゲノム構造
C6700の全cDNA配列を得るために、RCC細胞株、すなわちOS-RC-2またはC704を鋳型として用いてRT-PCRを行った。セマフォリン5B、SEMA5Bに対して設計されたC6700は、染色体3p21.1に存在した。
【0242】
C6700は、C6700V1およびC6700V2にそれぞれ対応するエキソン23個からなる異なる二つの転写変異体を有する(図8a)。V2のエキソン1、16、および20には代わりの変異が存在し、他の残りのエキソンは双方の変異体に対して共通であり、V2では最後のエキソン内に新規の終始コドンを生成したが、V1の終始コドンはエキソン22内である。V2変異体のエキソン1として32 bpからなる新規エキソンを生成した。V2のエキソン16は、3'末端でV1のそれより3 bp長く、V2のエキソン20もまた、5'末端でV1のそれより3 bp長かった。さらに、エキソン21は、3'末端でV2のそれより131 bp短かった。C6700V1およびC6700V2変異体の完全長のcDNA配列はそれぞれ、4725および4494ヌクレオチドからなる。これらの変異体のORFはそれぞれのエキソン1内で始まる。最終的にV1およびV2の転写物はそれぞれ、アミノ酸1093個および1152個をコードする。RCC細胞株におけるそれぞれの変異体の発現パターンをさらに確認するために、各変異体に対して認識されるプライマーセットを用いて半定量的RT-PCRを行った(図8bを参照されたい)。その結果、V2変異体は、RCC細胞において特異的に過剰発現されることが発見された(図8b)。したがって、C6700V2に関してさらなる機能的分析を行った。
【0243】
C6700、B7032N、およびB9320の発現を低減させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の成長阻害効果
C6700、B7032N、およびB9320の成長促進役割を査定するために、内因性のC6700、B7032N、およびB9320の発現を、C6700に関して、C6700の過剰発現を示した細胞を含むRCC細胞株OS-RC-2、B7032Nに関して、B7032Nの過剰発現を示したRXF-631LおよびA498、ならびにB9320に関してB9320の過剰発現を示したCaki-2およびA498において、哺乳動物のベクターに基づくRNA干渉(RNAi)技術によってノックダウンした(材料および方法を参照されたい)。C6700、B7032N、およびB9320の発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。
【0244】
図9aに示すように、C6700特異的siRNA(si1、si6、およびsi-#2)は、四つの対照siRNA構築物(psiU6BX-Luciferase、Scramble、EGFP、およびMock)と比較してC6700の発現を抑制した。試験したsiRNA構築物において、si-#2は、対照siRNA(si-Scrambleおよびsi-Mock)と比較してSEMA5B mRNAの発現を有効に低減させた(図9a)。si-#2を処置した細胞に関して、コロニー数(図9c)およびMTTアッセイによって測定した生存細胞数の有意な減少が観察された(図9b)。SEMA5B-siRNA(si-#2)による標的以外の効果の可能性を除外するために、3-bp置換を有するsiRNAの二つの型を生成した。いずれも、OS-RC-2細胞におけるSEMA5B発現を抑制しないことが発見された(データ非呈示)。これらの知見は、C6700が、RCCの細胞生存および/または成長において有意な機能を有することを示唆する。
【0245】
図11に示すように、B7032N(-si#4)は、対照siRNA構築物(si-Scramble)と比較してこの遺伝子の発現を抑制した(図11a、11b)。これらのsiRNA構築物を用いるコロニー形成およびMTTアッセイから、PFKFB4-si#4の導入がRXF-631L(図11a)およびA498(図11b)細胞の成長を抑制することが示された。B7032Nの成長促進効果をさらに確認するために、外因性のB7032Nを安定に発現するNIH3T3-由来細胞(B7032N-A、-B、-C、および-D細胞)を確立した。ウェスタンブロット分析により、四つの誘導クローンにおいて外因性のB7032Nタンパク質が高レベルであることが示された(図12a)。その後のMTTアッセイから、四つの誘導細胞株、すなわちB7032N-A、-B、-C、および-D細胞が、偽プラスミドをトランスフェクトした細胞(Mock-A、-B、および-C細胞)よりかなり速く成長することが示され(図12b)、B7032N発現が細胞成長を促進する可能性があることを示した。これらの知見は、RCCの発症に関するB7032Nの腫瘍発生的役割を暗示する。
【0246】
図14に示すように、B9320(si#2)は、対照si-RNA構築物(si-Scramble)と比較してこの遺伝子の発現を有意に抑制した(図14)。これらのsiRNA構築物を用いたコロニー形成およびMTTアッセイは、FBXL16-特異的siRNAの導入がCaki-2(図14a)およびA498(図14b)細胞の成長を抑制することを示した。B9320の成長促進効果をさらに確認するために、外因性のB9320を安定に発現するNIH3T3由来細胞(FBXL 16-1、-2、-3、および-4細胞)を確立した。ウェスタンブロット分析により、四つの誘導クローンにおいて外因性のB9320タンパク質が高レベルであることが示された(図15a)。その後のMTTアッセイから、四つの誘導細胞株、すなわちFBXL16-1、-2、-3、および-4細胞が、偽プラスミドをトランスフェクトした細胞(Mock-1、-2、および-3細胞)よりかなり速く成長することが示され(図15b)、B9320発現が細胞成長を増強する可能性があることを示している。これらの知見は、RCCの発症に関するB9320の腫瘍発生的役割を暗示している。
【0247】
(表6)C6700、B7032N、および9320に対する低分子干渉RNAのオリゴヌクレオチド配列
【0248】
考察
分子生物学の最近の進歩により、広範なヒト新生物の発生に関する本発明者らの理解は改善された。RCCにおいて、いくつかの研究グループがマイクロアレイに基づく分子プロファイリングを報告している(Yao M, et al., (2005) J Pathol.;205:377-87;Liou LS, et al., (2004) BMC Urol.;4:9;Takahashi M, et al., (2001) Proc Natl Acad Sci U S A.;98:9754-9;Boer JM, et al., (2001) Genome Res.;l1:1861-70;Young AN, et al., (2001) Am J Pathol.;158:1639-51;Higgins JP, et al., (2003) Am J Pathol.;162:925-32;Skubitz KM and Skubitz AP. (2002) J Lab Clin Med.;140:52-64)。それらの研究は、診断マーカーとして有用となる可能性がある候補遺伝子に重点を置いてきたが、腫瘍塊から単離されたmRNAの発現に基づくデータは、腫瘍塊が一般的に、癌細胞のほかに炎症細胞、間質細胞、および線維芽細胞のような様々な細胞集団の混合物であること、ならびにそれぞれの細胞タイプの比率が人によって有意に異なることから、腎臓癌発生の過程の際の変化を正確に反映していない可能性がある。さらに、RCCは、腎皮質における腎近位尿細管上皮細胞に由来すると考えられている。したがって、これまでに公表されたマイクロアレイデータは、対照調製物における細胞の不均一性によって有意に影響を受けている可能性がある。本発明において、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)を行って、対照正常腎皮質細胞のみならず腎臓癌細胞の純粋な集団を得た。マイクロアレイによる塊腫瘍組織からのRNAを用いる明細胞RCC(ccRCC)の一つの代表的な発現プロファイルデータ(Takahashi M, et al., (2003) Oncogene.;22:6810-8)と比較すると、本発明のデータにおいて参考となるccRCC症例の75%より多くにおいて共通にアップレギュレートされた遺伝子(表4)の中で、塊発現プロファイルデータ(Takahashi M, et al., (2003) Oncogene.;22:6810-8)と重なり合ったのは、85個中4個(5%)に過ぎなかった。これらの相違は、RCC細胞が組織病理学的に不均一であるという事実に帰因し、塊組織からの発現プロファイルは、非癌性細胞の混入によって有意に影響を受けうる。意外にも、本発明者らの遺伝子リスト(表4)において最も有意にアップレギュレートされた遺伝子の上位24個はいずれも、塊組織からのccRCC発現プロファイルのこれまでの結果(Yao M, et al., (2005) J Pathol.;205:377-87;Takahashi M, et al., (2003) Oncogene.;22:6810-8)に含まれなかった。この証拠は、本発明のマイクロアレイデータが他のデータよりかなり信頼性が高いことを示唆している。この相違は、塊細胞からのこれまでの発現プロファイルが、対照として用いた正常腎組織における腎髄質の混入によって有意に影響を受けうるという事実に帰因する可能性がある。たとえば、腎髄質において高度に発現されるが、腎皮質の腎近位尿細管上皮細胞では発現されない遺伝子は、塊組織からの発現プロファイルにおいてダウンレギュレートされたまたは不変である遺伝子として選択される可能性がある。これらの点を考慮に入れると、外科的検体から得た癌性上皮細胞および正常上皮細胞の集団を可能な限り精製するために、LMMシステムを行うことが肝要である。
【0249】
ccRCCのほとんどにおいて発現が変化した遺伝子は、分子診断マーカーもしくはRCC治療標的の候補作用物質として役立つ可能性がある、または腎臓癌発生において原因的役割を果たす可能性がある。アップレギュレートされた遺伝子において、NNMT(ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ)、IGFBP3(インスリン様成長因子結合タンパク質3)、ENPP3(エクトヌクレオチド ピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ3)、VEGF(血管内皮成長因子)、およびVWF(フォンウィルブランド因子)は、他のものと同様に本出願に含まれた。NNMTは、他のタイプのRCCよりccRCCにおいて頻繁に増加しており、RCCにおける良好な予後と相関していると報告されている(Yao M, et al., (2005) J Pathol.;205:377-87)。IGFBP3は、免疫組織化学染色によって、IGFBP-3がccRCCにおいてIGF軸の調節異常を引き起こすことが示された(Takahashi M, et al., (2005) Int J Oncol.;26:923-31;Cheung CW, et al., (2004) Kidney Int. ;65: 1272-9)。IGFP-3はまた、RCC細胞増殖の調節においてオートクラインによって何らかの役割を果たすことが示された(Takahashi M, et al., (2005) Int J Oncol.;26:923-31;Cheung CW, et al., (2004) Kidney Int.;65:1272-9)。エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ-I酵素(E-NPP)は、様々な基質のホスホジエステルおよびホスホスルフェート結合を切断する。哺乳動物のE-NPPは、三つの近縁タンパク質のファミリーである:E-NPP1、E-NPP2、およびE-NPP3。ENPP3の機能は不明であるが、ENPP3の発現は、周囲の組織より腫瘍組織において高く、ENPP3タンパク質の特異的型は、胆管癌(BDC)を有する患者の血清中に検出されること、およびENPP3が細胞遊走を増強することが報告された。したがって、ENPP3は、新生物BDCの浸潤性に関連する可能性があり、腫瘍マーカーとして応用可能となりうる(Yano Y, et al., (2004) Cancer Lett.;207:139-47)。血清VEGFおよびvWFレベルは、インターロイキン2およびIFN-αを含む免疫調節物質の予測マーカーであることが示されており;VEGFおよびvWFのより高いレベルを有する患者は、これらの二つのタンパク質のより低い血清レベルを示す患者と比較してこれらの処置に対する反応が不良であることを明らかにした(Braybrooke JP, et al., (2000) Clin Cancer Res.;6:4697-704)。さらに、ABCG1(ATP結合カセット サブファミリーG (WHITE) メンバー1)、およびSTC2(スタニオカルシン2)ABCGlは、一般的にコレステロールの輸送を媒介する。Hernanらは、ABCG1が、マイクロアレイ分析およびディファレンシャルディスプレイによって頭頚部扁平上皮癌においてアップレギュレートされることが知られていることを報告した(Yano Y, et al., (2004) Cancer Lett.;207: 139-47)。
【0250】
一方、ダウンレギュレートされた遺伝子において、WT1(ウィルムス腫瘍1)、CDKNlC(サイクリン依存キナーゼインヒビター1C)、およびGASl(増殖停止特異的1)は、成長抑制またはアポトーシスにおけるその役割が暗示される(Niu Z, et al.,(2005)J Urol.;174:1460-2;Kikuchi T, et al., (2002) Oncogene.;21:2741-9;Watanabe H, et al., (1998) Proc Natl Acad Sci U S A.;95:1392-7;Evdokiou A & Cowled PA. (1998) Int J Cancer.;75:568-77)。Niu Z.らは、WT1の発現が、対応する正常腎組織と比較してRCC腫瘍において有意にダウンレギュレートされることを報告した(Niu Z, et al., (2005) J Urol.;174:1460-2)が、mRNAレベルとRCCの臨床病理学的特色とのあいだに有意な相関を認めなかった。CDKN1Cは、サイクリン依存キナーゼの活性を阻害することによって、細胞周期停止を誘導することが知られている。この遺伝子の後成的サイレンシングは、結腸直腸癌、胃癌、肝細胞癌、および膵臓癌のような固形腫瘍において報告されており(Kikuchi T, et al., (2002) Oncogene.;21:2741-9)、CDKN1Cが腫瘍抑制遺伝子として機能することを示唆している。GAS1はまた、本発明において15例中14例において有意にダウンレギュレートされた。GAS1の誘導は、細胞増殖を抑制する、および/またはニューロン細胞においてアポトーシスを引き起こすことが報告されており、GAS1の発現はグリアの増殖を減少させた(Evdokiou A & Cowled PA. (1998) Int J Cancer.;75:568-77)。
【0251】
本発明者らのリストにおけるアップレギュレートされた遺伝子において、本発明は、RCCにおける頻繁な転写活性化および本発明者らが調べた任意の正常ヒト成人組織における発現のその検出不能なレベルにより、RCC治療に関する可能性がある分子標的としてセマフォリン5B(SEMA 5B)に焦点を当てた。本発明の文脈において、siRNAによるその発現レベルのノックダウンにより、RCC細胞成長の特異的に有意な抑制が起こることが証明され、それが細胞成長の増強において重要な役割であることを示唆している。SEMA5Bは、成長誘導の役割(cue)をコードする遺伝子の多様な群に属する細胞表面および分泌型糖タンパク質ファミリーである(Kolodkin AL, et al., (1993) Cell.;75:1389-99)。セマフォリンおよびその受容体であるプレキシンは、当初神経系において同定され、神経系では正確なニューロンネットワークを確立するためにそれらが必要である。それらのレパートリーは、心臓および骨格の発達、免疫応答、ならびに上皮形態形成を含むいくつかの非神経プロセスに拡大されている。より最近、セマフォリンは腫瘍の成長および転移におけるその役割に関係している(Tamagnone L & Comoglio PM. (2004) EMBO Rep.;5:356-61)。本明細書において、SEMA5BはRCC細胞株のみならずRCCの明細胞型において頻繁に発現されることが証明され、SEMA5Bに対するターゲティングは、新規治療薬を開発するための有望なアプローチとなる可能性があることを暗示している。
【0252】
本報告において、膀胱癌の正確な発現プロファイルであるが、B7032NおよびB9320は、RCC細胞において有意に過剰発現されたと同定された。複数の正常ヒト組織およびRCC細胞株によるノーザンブロット分析により、B7032Nの発現は、精巣および膵臓を除く正常ヒト組織においてほとんど検出不可能であること、およびB9320の発現が、試験した正常なヒト重要組織においてほとんど検出不可能であることが示された。これらの結果は、これらの遺伝子が、RCCに関する抗癌剤を開発するための有益な標的として役立つはずであることを示した。さらに、内因性のB7032NおよびB9320のノックダウンにより、RCC細胞における細胞成長の抑制が起こることが証明された。結論すると、B7032NおよびB9320が哺乳動物細胞における成長促進活性を示すこと、およびsiRNAによるその発現のノックダウンが、膀胱癌細胞の成長を抑制することが報告された。B7032NおよびB9320の機能に拮抗する薬物の開発は、癌治療の合理的戦略となる可能性がある。B7032NおよびB9320の機能に関するさらなる分析が必要であるが、提供されるデータはRCC癌発生のより深い理解およびRCCの新規治療の開発に貢献するはずである。
【0253】
併せて考慮すると、本発明の正確なRCC発現プロファイルを通して同定されたアップレギュレートされた遺伝子は、腎臓癌発生のよりよい理解に光を与えて、RCC処置およびまた診断腫瘍マーカーを開発するための可能性がある新規分子標的を発見するための有用な情報を提供するはずである。
【0254】
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャーダイセクションとゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイとの組み合わせによって得られた、本明細書記載の腎細胞癌の遺伝子発現解析により、癌の予防および治療の標的としての特異的遺伝子が同定された。これらの差次的に発現される遺伝子のサブセットの発現に基づき、本発明は、腎細胞癌を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0255】
本明細書記載の方法はまた、腎細胞癌の予防、診断、および処置のためのさらなる分子標的の同定に有用である。本明細書において報告されたデータは、腎細胞癌の包括的な理解を補足し、新規診断戦略の開発を促進し、治療薬および予防薬のための分子標的を同定する手がかりを提供する。そのような情報は、腎細胞癌の形成に関するより深い理解に貢献し、かつ、腎細胞癌を診断、処置、および最終的に予防するための新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0256】
本明細書において示されたように、細胞増殖は、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子を特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって抑制されうる。従って新規siRNAは、抗癌剤を開発するための有用な標的である。例えば、C6700、B7032N、もしくはB9320の発現を阻止する作用物質、またはその活性を阻害する作用物質には、抗癌剤、特に腎細胞癌などの腎臓癌処置用の抗癌剤としての治療的有用性を見出すことができる。
【0257】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。さらに、本発明を、その特定の態様に言及しながら詳細に説明してきたが、前記の記載は例示的および説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を例示することを意図していることが理解されねばならない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、慣行的な実験によって様々な変更および修正をそれに加えうることを容易に認識するであろう。したがって、本発明は、上述の記載によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびその等価物によって規定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0258】
【図1】明細胞RCC(左のパネル)および正常腎皮質細胞(右のパネル)の、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)を用いて、先に顕微解剖を行った細胞の写真画像(レーンa)、後で顕微解剖を行った細胞の写真画像(レーンb)、および顕微解剖を行った細胞の写真画像(レーンc)を表す。
【図2】図2(a)は、高度に発現された遺伝子の半定量的RT-PCRバリデーションアッセイの結果を描写する。遺伝子21個(アクセッション番号NM_018092、AA632745、NM_007250、W86513、BC077726、AA156409、W57613、CR749811、AW972553、AL832896、AK021778、AK026403、AK025204、NM_000677、AF070609、AI290343、AA442590、NM_000552、BC000234、BC034014、およびNM_004567)ならびにFDFTl(内部対照)の発現を、半定量的RT-PCR実験によって試験した。マイクロアレイのシグナルは、半定量的RT-PCR実験の結果に対応した。正常腎皮質を、このマイクロアレイにおいて用いたRCC患者11人から調製した。RPTECは、腎近位尿細管上皮細胞を意味する。図2(b)は、半定量的RT-PCRによって測定したRCC細胞株11例におけるC6700の発現を描写する。
【図3】腎細胞癌細胞株および正常ヒト組織におけるC6700の発現パターンのノーザンブロット分析の結果を描写する。
【図4】特異的プローブを用いた様々な正常ヒト組織における3545塩基転写物の多重ノーザンブロット分析の結果(上のパネル)、プローブとして3545塩基転写物および4533塩基転写物の共通の配列を用いた正常ヒト組織におけるF5749の発現(下のパネル)を描写する。
【図5】様々なヒト組織におけるC8919転写物のノーザンブロット分析の結果を描写する。
【図6】様々なヒト組織におけるB7032N転写物のノーザンブロット分析の結果(左のパネル)、およびRCC細胞株(Caki-1、Caki-2、786-O、A498、ACHN、769-P、A704、RXF-631L、OS-RC-2、TUHRlOTKB、およびTUHR14TKB)、RPTEC(腎近位尿細管上皮細胞)、および正常ヒト臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、精巣、および脳)におけるB7032N転写物のノーザンブロット分析の結果(右のパネル)を描写する。
【図7】様々なヒト組織におけるB9320転写物のノーザンブロット分析の結果(左のパネル)およびRCC細胞株(Caki-1、Caki-2、786-O、およびA498)、RPTEC(腎近位尿細管上皮細胞)、および正常ヒト臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳、および精巣)におけるB9320転写物のノーザンブロット分析の結果(右のパネル)を描写する。
【図8】C6700のゲノム構造を描写する。C6700は、V1およびV2と呼ばれる異なる2つの変異体を有する。図8(a)は、ゲノム構造を描写し、ここで、白三角は、インフレームでの終始コドンの存在を示し、黒三角は、第一のメチオニンを示す。図8(b)は、四つのRCC細胞株(786-O、A704、OS-RC-2、およびTUHR14TKB)から調製されたRNAおよび胎児脳ポリA(+)RNAを用いたSEMA5Bの半定量的RT-PCR分析の結果を描写する。
【図9】RCC細胞におけるC6700の発現を低減させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の成長阻害効果を描写する。図9(a)は、RCC細胞株OC-RC-2におけるC6700の内因性の発現の抑制を証明する半定量的RT-PCRの結果を描写する。β2-MGを内部対照として用いた。si-#2ベクターは、ノックダウン効果を明らかにし、si-Scrambleおよびsi-Mockは、C6700転写物のレベルにいかなる効果も示すことができなかった。si-#2ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleおよびsi-Mockをトランスフェクトした細胞と比較してコロニー数の低減(図9(c))および生存細胞数の低減(図9(b))が起こった(それぞれ、p<0.05およびp<0.001;対応のないt検定)。
【図10】COS7細胞における外因性のB7032Nタンパク質の発現および細胞内局在を描写する。図10(a)は、トランスフェクションの24時間後および48時間後のウェスタンブロットによるB7032Nタンパク質の外因性の発現を描写し、図10(b)はCOS7細胞における外因性のB7032タンパク質の細胞内局在を描写する。
【図11】RCC細胞成長および細胞生存率に及ぼすB7032NのsiRNAノックダウン効果を描写する。図11(a)は、半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析した、si-B7032N(#4)または対照siRNA(si-Scramble)に対するRXF-631L細胞の効果を描写する。siRNAによって処置した細胞におけるB7032N転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量対照であった。si B7032N-#4ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-ScrambleはB7032N転写物レベルに対していかなる効果も示さなかった。B7032N-#4ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。(b)半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析した、si-B7032N(#4)または対照siRNA(si-Scramble)に対するA498細胞の効果。siRNAによって処置した細胞におけるB7032N転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量対照であった。si B7032N-#4ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-ScrambleはB7032N転写物レベルに対していかなる効果も示さなかった。si-B7032N-#4ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。
【図12】NIH3T3細胞における外因性のB7032Nの成長促進効果を描写する。図12(a)は、高レベルで外因性のB7032Nを発現する細胞、または偽ベクターをトランスフェクトした細胞のウェスタンブロット分析の結果を描写する。B7032N発現の外因性の導入は、抗HAタグモノクローナル抗体によって確認した。β-アクチンはローディング対照とした。図11(b)は、NIH3T3-B7032N細胞のインビトロ成長を描写する。MTTアッセイによって測定したB7032N(B7032N-A、-B、-C、-D)および偽(Mock-A、-B、-C)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞。
【図13】COS7細胞における外因性のB9320タンパク質の発現および細胞内局在を描写する。図12(a)は、トランスフェクションの24時間後および48時間後でのウェスタンブロットによって証明されるように、B9320タンパク質の外因性の発現を描写し、図13(b)は、COS7細胞における外因性のB9320タンパク質の細胞内局在を描写する。
【図14】RCC細胞成長および細胞生存率に及ぼすB9320のsiRNAノックダウン効果を描写する。図14(a)は、半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析したsi-B9320(#2)または対照siRNA(si-Scramble)に対するCaki-2細胞の効果を描写する。siRNAによって処置した細胞におけるB9320転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量的対照であった。si-B9320-#2ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-Scrambleは、B9320転写物レベルにいかなる効果も示すことができなかった。si-B9320-#2ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減、および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。図14(b)は、半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析したsi-B9320-#2または対照siRNA(si-Scramble)に対するA498細胞の効果を描写する。siRNAによって処置した細胞におけるB9320転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量的対照であった。si-B9320-#2ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-Scrambleは、B9320転写物レベルにいかなる効果も示すことができなかった。si-B9320-#2ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減、および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。
【図15】NIH3T3細胞における外因性のB9320の成長促進効果を描写する。図15(a)は、高レベルで外因性のB9320を発現する細胞または偽ベクターをトランスフェクトした細胞のウェスタンブロット分析の結果を描写する。B9320発現の外因性の誘導は、抗HAタグモノクローナル抗体によって確認した。β-アクチンはローディング対照とした。図15(b)は、NIH3T3-B9320細胞のインビトロ成長を描写する。MTTアッセイによって測定したB9320(B9320-1、-2、-3)および偽(Mock-1、-2、-3)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞。
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、腎細胞癌を診断および処置する方法に関する。なお本出願は、その内容が参照により全体として本明細書に組み入れられる、2005年7月28日に提出された米国特許仮出願第60/703,640号、および2006年5月11日に提出された第60/799,960号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
腎細胞癌(RCC)は、尿生殖器系の3番目に多い悪性疾患であり、全てのヒト悪性疾患の2〜3%を占める。現在のところ、限局したRCC腫瘍に関しては外科的切除が最も有効な処置であるが、進行期RCCを有する患者に関しては満足のゆく処置は得られていない。RCCに関するいくつかの治療は、約20%の効奏率を達成したが、重度の有害反応がしばしば起こり、患者の予後は全体的に改善されていないように思われる(Ljungberg B, et al., (1999) B J U Int. 84: 405-11; Levy DA, et al. (1998) J Urol 159: 1163-7)。腫瘍の病期は最も参考となる予後因子であると考えられているが、腎臓癌発生の基礎となる分子メカニズムに関してはほとんどわかっていない。
【0003】
RCC腫瘍は、明細胞(80%)、乳頭(約10%)、嫌色素性(<5%)、または顆粒状、紡錘状、もしくは嚢胞関連癌(5〜15%)といった組織学的特色に基づいて特徴付けられる。これらの組織学的サブタイプはそれぞれ、独自の臨床挙動を示し、明細胞および顆粒型は、より激しい臨床表現型を示す傾向がある。本研究では、最も主要な型である明細胞癌を選択した。具体的には、本発明者らは、そのような腫瘍における大規模な遺伝子発現プロファイル分析を行った。他のグループによって報告された類似の研究から、予後的目的のために、またはRCCの分類のために有用となる可能性があるいくつかの遺伝子が既に同定されている(Takahashi M, et al. (2001) Proc Natl Acad Sci USA 98: 9754-9;Young AN, et al. (2001) Am J Pathol. 158: 1639-51;Skubitz KM & Skubitz AP. (2002) J Lab Clin Med 140: 52-64;Takahashi M, et al. (2003) Oncogene 22: 6810-8;Higgins JP, et al. (2003) Am J Pathol 162: 925-32)。腎臓癌の遺伝子発現プロファイルに関するいくつかの研究により、診断マーカーまたは予後プロファイルとしての候補となる可能性がある遺伝子が発見された。しかし、腫瘍塊に由来するこれらのデータは、RCC細胞が様々な細胞成分を含む固体の塊として存在することから、腎臓癌発生の際に生じる発現の変化を適切に反映することができない。したがって、これまでに公表されたRCCの発現プロファイルは、不均一なプロファイルを反映する可能性がある。
【0004】
cDNAマイクロアレイ技術により、正常細胞および悪性細胞における包括的な遺伝子発現プロファイルを発見すること、ならびに悪性細胞における遺伝子発現を対応する正常細胞と比較することが可能になった(Okabe et al., (2001) Cancer Res 61:2129-37;Kitahara et al., (2001) Cancer Res 61 : 3544-9;Lin et al., (2002) Oncogene 21 :4120-8;Hasegawa et al., (2002) Cancer Res 62:7012-7)。このアプローチは、癌細胞の複雑な性質の解明、および発癌機構の理解を可能にする。腫瘍において脱制御される遺伝子を同定することによって、個々の癌のより精密で正確な診断を得ることができ、新規治療標的を開発することができる(Bienz and Clevers, (2000) Cell 103:311-20)。ゲノム全体での観点から腫瘍の基礎となるメカニズムを明らかにするため、そして新規治療薬の開発や診断のための標的分子を発見するために、本発明者らは、遺伝子23040個のcDNAマイクロアレイを用いていくつかの腫瘍細胞の発現プロファイルを解析した(Okabe et al., (2001) Cancer Res 61:2129-37; Kitahara et al., (2001) Cancer Res 61:3544-9; Lin et al., (2002) Oncogene 21:4120-8; Hasegawa et al., (2002) Cancer Res 62:7012-7)。
【0005】
発癌メカニズムを解明するように計画された研究により、ある種の抗腫瘍薬の分子標的の同定が既に促進されている。例えば、その活性化が翻訳後ファルネシル化に依存するRasに関連した増殖シグナル伝達経路を阻害するように当初開発された、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)は、動物モデルにおいてRas依存性腫瘍の処置に有効であることが実証されている(Sun J., et al., (1998) Oncogene.;16:1467-73)。抗癌剤と、癌原遺伝子受容体HER2/neuに拮抗することを目的とした抗HER2モノクローナル抗体、トラスツズマブを併用したヒト臨床試験では、乳癌患者の臨床応答および総生存率の改善が達成されている(Molina MA., et al., (2001) Cancer Res. ;61:4744-9)。bcr-abl融合タンパク質を選択的に不活化するチロシンキナーゼ阻害剤STI-571は、bcr-ablチロシンキナーゼの構成的活性化が白血球の形質転換において重要な役割を果たしている慢性骨髄性白血病を処置するためにようやく開発されてきている。これらの種類の薬剤は、特定の遺伝子産物の発癌活性を抑制するように設計されている(O'Dwyer ME & Druker BJ. (2000) Curr Opin Oncol.;12:594-7)。したがって、癌細胞において一般にアップレギュレートされる遺伝子産物が、新規抗癌剤を開発するための有力な標的となり得ることは明白である。
【0006】
CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)が、MHCクラスI分子上に提示された腫瘍関連抗原(TAA)に由来するエピトープペプチドを認識して、腫瘍細胞を溶解することがさらに実証されている。TAAの最初の例としてMAGEファミリーが発見されて以来、免疫学的アプローチを用いて他の多くのTAAが発見されている(Boon. (1993) Int J Cancer 54: 177-80; Boon and van der Bruggen. (1996) J Exp Med 183: 725-9; van der Bruggen et al., (1991) Science 254: 1643-7; Brichard et al., (1993) J Exp Med 178: 489-95; Kawakami et al., (1994) J Exp Med 180: 347-52)。新たに発見されたTAAのいくつかについては、現在、免疫療法の標的として臨床開発が行われている。これまでに発見されたTAAには、MAGE((van der Bruggen et al., (1991) Science 254: 1643-7)、gp100(Kawakami et al., (1994) J Exp Med 180: 347-52)、SART(Shichijo et al., (1998) J Exp Med 187: 277-88)、およびNY-ESO-1(Chen et al., (1997) Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8)が含まれる。一方、腫瘍細胞において特異的に過剰発現されることが実証されている遺伝子産物は、細胞性免疫応答を誘導する標的として認識されることが示されている。そのような遺伝子産物には、p53(Umano et al., (2001) Brit J Cancer 84: 1052-7)、HER2/neu(Tanaka et al., (2001) Brit J Cancer 84: 94-9)、CEA(Nukaya et al., (1999) Int J Cancer 80: 92-7)などが含まれる。
【0007】
TAAに関する基礎および臨床研究における著しい進歩にも関わらず(Rosenberg et al., (1998) Nature Med 4: 321-7; Mukherji et al., (1995) Proc Natl Acad Sci USA 92: 8078-82; Hu et al., (1996) Cancer Res 56: 2479-83)、例えば結腸直腸癌などの腺癌の処置に現在利用できるのは、ごく限られた数の候補TAAのみである。癌細胞において大量に発現され、さらにその発現が癌細胞に限定されるTAAは、免疫療法の標的として有望な候補となると考えられる。さらに、強力で特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導する新規TAAが同定されれば、様々なタイプの癌におけるペプチドワクチン法の臨床応用を促進すると期待される(Boon and van der Bruggen, (1996) J Exp Med 183: 725-9; van der Bruggen et al., (1991) Science 254: 1643-7; Brichard et al., (1993) J Exp Med 178: 489-95; Kawakami et al., (1994) J Exp Med 180: 347-52; Shichijo et al., (1998) J Exp Med 187: 277-88; Chen et al., (1997) Proc Natl Acad Sci USA 94: 1914-8; Harris, (1996) J Natl Cancer Inst 88: 1442-55; Butterfield et al., (1999) Cancer Res 59: 3134-42; Vissers et al., (1999) Cancer Res 59: 5554-9; van der Burg et al., (1996) J Immunol 156: 3308-14; Tanaka et al., (1997) Cancer Res 57: 4465-8; Fujie et al., (1999) Int J Cancer 80: 169-72; Kikuchi et al., (1999) Int J Cancer 81: 459-66; Oiso et al., (1999) Int J Cancer 81: 387-94)。
【0008】
特定の健常ドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)がペプチド刺激を受けると、ペプチドに反応して著しいレベルのIFN-γを産生するが、51Cr放出アッセイによるとHLA-A24またはHLA-A0201拘束的な様式で腫瘍細胞に対して細胞障害性を及ぼすことはほとんどないと繰り返し報告されている(Kawano et al., (2000) Cancer Res 60: 3550-8; Nishizaka et al., (2000) Cancer Res 60: 4830-7; Tamura et al., (2001) Jpn J Cancer Res 92: 762-7 (2001))。しかしながら、HLA-A24およびHLA-A0201はいずれも、白人集団と同様に日本人集団においても一般的なHLA対立遺伝子である(Date et al., (1996) Tissue Antigens 47: 93-101; Kondo et al., (1995) J Immunol 155: 4307-12; Kubo et al., (1994) J Immunol 152: 3913-24; Imanishi et al., (1992) Proceeding of the eleventh International Histocompatibility Workshop and Conference Oxford University Press, Oxford, 1065; Williams et al., (1997) Tissue Antigen 49: 129-33)。したがって、これらのHLAによって提示された癌の抗原ペプチドは、日本人および白人の癌の処置に特に有用な可能性がある。さらに、インビトロでの低親和性CTLの誘導は通常は高濃度でのペプチドの使用に起因することが公知であり、これにより抗原提示細胞(APC)上で高レベルの特異的ペプチド/MHC複合体が生成され、これらのCTLが効率的に活性化されることになる(Alexander-Miller et al., (1996) Proc Natl Acad Sci USA 93: 4102-7)。
【0009】
このため、癌に関係する発癌機構の解明、および新規抗癌剤を開発するための可能性のある標的の同定を目的とした取り組みとして、腎癌細胞の精製集団における遺伝子発現パターンの大規模解析を、27,436種の遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて行った。より具体的には、cDNAマイクロアレイおよびレーザービームマイクロダイセクションの組み合わせを用いて、腎細胞癌の外科的検体15例の正確なゲノム全域にわたる発現プロファイルを調べた。本明細書で詳細に考察する所見から、これらの同定された遺伝子が腫瘍細胞の成長増殖に重要な役割を果たしている可能性があり、したがってこれらが抗癌薬の開発のための有望な標的であることが示唆される。
【発明の開示】
【0010】
発明の概要
本発明は、腎細胞癌(RCC)と相関する遺伝子発現のパターンの発見に関する。腎細胞癌で差次的に発現される遺伝子は本明細書で、「RCC核酸」または「RCCポリヌクレオチド」と集合的に呼ばれ、また対応する、コードされたポリペプチドは「RCCポリペプチド」または「RCCタンパク質」と呼ばれる。
【0011】
腎臓癌発生に関係する分子メカニズムの特徴付けのために、本発明者らは、ヒト遺伝子27,436個を表すcDNAマイクロアレイと、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)とを組み合わせて用いることにより、正常腎皮質と比較して腎細胞癌(RCC)の外科的検体15例のゲノム全域にわたる遺伝子発現プロファイルを分析した。本発明者らは、腎細胞癌において一般的にアップレギュレートされた遺伝子251個および腎細胞癌においてダウンレギュレートされた遺伝子721個を同定した。アップレギュレートされた遺伝子の中で、その機能が現在わかっていない遺伝子は74個であったが、一方で、機能がわかっていない189個の遺伝子は、腎細胞癌において一般的にダウンレギュレートされていると同定された。代表的な候補遺伝子19個による半定量的RT-PCR実験の結果は、本発明者らのマイクロアレイ分析が信頼できることを支持した。これらのデータは、その産物がRCCの処置に関する分子標的として役立つ可能性がある候補遺伝子を発見するために有用な情報を提供するはずである。
【0012】
したがって、本発明は、組織試料のような患者に由来する生体試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定することによって、対象における腎細胞癌を診断または腎細胞癌に対する素因を決定する方法を提供する。本明細書において、「RCC関連遺伝子」という用語は、正常細胞と比較してRCC細胞において異なる発現レベルを特徴とする遺伝子を指す。正常細胞とは、正常腎組織から得られる細胞である。本発明の文脈において、RCC関連遺伝子は、RCC 1〜972と番号がつけられた遺伝子の一つまたは複数である。遺伝子の正常対照レベルと比較して遺伝子発現レベルが変化(たとえば、増加または減少)すれば、対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。
【0013】
本発明の文脈において、「対照レベル」という語句は、対照試料において検出されるタンパク質発現レベルを指し、正常対照レベルおよびRCC対照レベルの両方を含む。対照レベルは、単一の参照集団に由来する単一の発現パターンであってもよく、複数の発現パターンに由来する単一の発現パターンであってもよい。例えば対照レベルは、過去に試験された細胞に由来する発現パターンのデータベースの場合がある。「正常対照レベル」とは、正常な健常個体において、またはRCCに罹患していないことが判明している個体の集団において検出される遺伝子の発現レベルを指す。正常個体とは、腎細胞癌の臨床症状を有さない個体のことである。これに対して、「RCC対照レベル」とは、RCCに罹患した集団で見出されるRCC関連遺伝子の発現プロファイルを指す。
【0014】
正常対照レベルと比較して、被験試料中で検出されるRCC 1〜251と番号付けされた遺伝子のうち1つ又は複数の発現レベルが増加していることにより、(試料を採取した)対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。一方、被験試料中に検出されるRCC 252〜972と番号付けされた遺伝子のうち1つ又は複数の発現レベルが正常対照レベルと比較して低下していることにより、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。
【0015】
または、試料における一群のRCC関連遺伝子の発現を、同じ一群の遺伝子のRCC対照レベルと比較することができる。試料における発現とRCC対照における発現との間の類似性により、(試料を採取した)対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。
【0016】
本発明によれば、対照レベルと比較して遺伝子発現が10%、25%、または50%上昇または低下している場合に、遺伝子発現レベルは「変化している」とみなされる。または同様に、対照レベルと比較して、1倍、2倍、5倍またはそれ以上増加または減少した場合に、遺伝子発現は変化しているとみなされうる。例えばアレイ上で、RCC関連遺伝子プローブと患者由来の組織試料の遺伝子転写物とのハイブリダイゼーションを検出することによって、発現が判定される。
【0017】
本発明の文脈において、患者由来の組織試料とは、被験対象から、例えば、RCCを有することが判明しているかその疑いがある患者から得られる任意の組織である。例えば、組織は上皮細胞を含み得る。より具体的には、組織は、腎細胞癌(RCC)由来の上皮細胞であり得る。
【0018】
本発明はまた、二つまたはそれより多いRCC 1〜972の遺伝子発現レベルで構成されるRCC参照発現プロファイルを提供する。またはRCC参照発現プロファイルは、二つまたはそれより多いRCC 1〜251またはRCC 252〜972で構成されてもよい。
【0019】
本発明はさらに、RCC関連遺伝子を発現する被験細胞を被験作用物質に接触させる段階、およびRCC関連遺伝子の発現レベルもしくは活性、またはその遺伝子産物の活性を決定する段階によって、RCC関連遺伝子、たとえばRCC 1〜972の発現または活性を阻害または増強する作用物質を同定する方法を提供する。被験細胞は、腎細胞癌から得られた上皮細胞のような上皮細胞であってもよい。遺伝子の対照レベルと比較して、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 1〜251)の発現レベル、またはその遺伝子産物の活性が減少すれば、被験作用物質が、RCC関連遺伝子の阻害剤であること、およびRCCの症状を軽減させるために用いられる可能性があることが示される。または、遺伝子の対照レベルと比較してダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 252〜972)の発現レベルもしくは活性、またはその遺伝子産物の活性が増加すれば、該被験作用物質が、RCC関連遺伝子の発現または機能の増強物質であり、RCCの症状を軽減させるために用いられる可能性があることが示される。
【0020】
本発明はまた、一つまたは複数のRCC核酸またはRCCポリペプチドに結合する検出試薬を含むキットを提供する。一つまたは複数のRCC核酸に結合する核酸のアレイも同様に提供される。
【0021】
本発明の治療法には、対象にアンチセンス組成物を投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法が含まれる。本発明の文脈において、アンチセンス組成物は特異的標的遺伝子の発現を低減させる。たとえば、アンチセンス組成物は、RCC 1〜251からなる群より選択されるアップレギュレートされたRCC関連遺伝子配列と相補的なヌクレオチドを含んでもよい。または、本発明には、低分子干渉RNA(siRNA)組成物を対象に投与する段階が含まれてもよい。本発明の文脈において、siRNA組成物は、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子、たとえばRCC 1〜251からなる群より選択される核酸、特にC6700V2 (RCC 81)、B7032N (RCC 126)、およびB9320 (RCC173)の発現を低減させる。
【0022】
なおもう一つの方法において、対象における腎細胞癌の処置または予防は、リボザイム組成物を該対象に投与することによって行ってもよい。したがって、本発明は、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 1〜251)の発現を低減させる核酸特異的リボザイム組成物を含む。本発明の他の治療法には、本明細書において開示されたダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子(たとえば、RCC 252〜972)の一つもしくは複数の発現、またはこれらの遺伝子の一つもしくは複数によってコードされるポリペプチドの活性を増加させる化合物を対象に投与する方法が含まれる。
【0023】
本発明はまた、ワクチンおよびワクチン接種方法も含む。例えば、対象におけるRCCを処置または予防する方法は、RCC1〜251からなる群より選択されるRCC核酸にコードされるRCCポリペプチド、またはそのようなポリペプチドの免疫活性断片を含むワクチンを対象に投与する段階を含んでもよい。本発明の文脈において、免疫活性断片とは、完全長の天然タンパク質よりも長さは短いものの、完全長タンパク質によって誘導される免疫応答に類似した免疫応答を誘導する、ポリペプチドである。例えば、免疫活性断片とは、少なくとも8残基長であり、かつT細胞またはB細胞のような免疫細胞を刺激し得ることが好ましい。免疫細胞の刺激は、細胞増殖、サイトカイン(例えば、IL-2)の生成、または抗体の産生を検出することによって測定可能である。
【0024】
本発明はまた、C6700、B7032N、またはB9320の発現の阻害が、腎細胞癌に関係する細胞成長を含む、様々な癌細胞の細胞成長を阻害するために有効であるという驚くべき発見にも基づいている。本出願において記述される本発明は、部分的にこの発見に基づいている。
【0025】
本発明はまた、細胞成長を阻害する方法も提供する。本方法において、C6700、B7032N、またはB9320の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物に細胞を接触させる段階を含む方法が提供される。本発明はまた、対象における腫瘍細胞成長を阻害するための方法も提供する。そのような方法には、C6700、B7032N、およびB9320から選択される配列と特異的にハイブリダイズする低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を対象に投与する段階が含まれる。もう一つの局面において、本発明は、生物試料の細胞におけるC6700、B7032N、およびB9320遺伝子の一つまたは複数の発現を阻害するための方法を提供する。遺伝子の発現は、関心対象遺伝子(たとえば、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子)の発現を阻害するために十分な量の二本鎖リボ核酸(RNA)分子を細胞に導入することによって阻害される可能性がある。
【0026】
本発明のもう一つの局面は、核酸配列およびベクターを含む産物と共に、たとえば本発明の方法を実行するために有効なそれらを含む組成物に関する。該産物において、標的遺伝子を発現する細胞に導入した場合に、C6700、B7032N、およびB9320遺伝子の一つまたは複数の発現を阻害するsiRNA分子が提供される。そのような分子において、C6700、B7032N、またはB9320標的配列に対応するリボヌクレオチド配列であるセンス鎖と、センス鎖に対して相補的であるリボヌクレオチド配列であるアンチセンス鎖とで構成される分子である。分子のセンス鎖とアンチセンス鎖とは、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する。
【0027】
本発明はまた、細胞成長を阻害する方法を提供する。細胞成長は、C6700、B7032N、またはB9320の低分子干渉RNA(siRNA)の組成物に細胞を接触させることによって阻害される可能性がある。細胞はさらに、トランスフェクション増強物質に接触させてもよい。細胞は、インビトロ、インビボ、またはエクスビボで提供されてもよい。対象は好ましくは哺乳動物、たとえばヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシである。細胞は、腎細胞のような尿生殖器系であってもよい。または、細胞は、癌腫細胞または腺癌細胞のような腫瘍細胞(すなわち、癌細胞)であってもよい。たとえば、細胞は、腎細胞癌であってもよく、より詳しくは明細胞であってもよい。本発明の文脈において、「細胞成長を阻害する」という句は、処置細胞が、無処置細胞と比較してより低い速度で増殖する、または生存率の減少を有することを意味する。細胞成長は、当技術分野で公知の増殖アッセイによって測定されうる。
【0028】
本発明はさらに、腎細胞癌の候補診断マーカーとして役立つのみならず、診断のための新しい戦略および有効な抗癌剤を開発するための可能性がある有望な標的として役立つ新規転写変異体C6700V2を提供する。好ましい態様において、C6700V2ポリペプチドには、SEQ ID NO:65のオープンリーディングフレームによってコードされるアミノ酸1151個(SEQ ID NO:66)のタンパク質が含まれる。
【0029】
特に定める場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載したのと同様または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験に用いることはできるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全文が参照により組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は説明のためのものであり、制限を意図するものではない。
【0030】
本明細書に記載された方法の一つの長所は、腎細胞癌の明白な臨床症状を検出する前に疾患が同定されることである。本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなるだろう。
【0031】
発明の詳細な説明
本明細書で用いる「1つの」、「ある」および「その」という用語は、特記する場合を除き、「少なくとも1つの」を意味する。
【0032】
通常、RCC細胞は様々な細胞成分を含む固形塊として存在するために、正常腎細胞と比較した、腫瘍塊を利用することによるRCCの遺伝子発現解析は、ゆがめられる。このように、結果には「ノイズデータ(noisy data)」が含まれる。したがって、純粋な細胞集団を単離する方法である、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション法(LCM)、またはレーザーマイクロビームマイクロダイセクション法(LMM)を用いて、特定の癌細胞と正常上皮細胞とを得た(Kitahara et al., (2001) Cancer Res, 61: 3544-9; Gjerdrum et al., (2001) J Mol Diagn, 3: 105-10)。
【0033】
本発明は、RCC患者から得た上皮細胞と腎細胞との間で多数の核酸の発現パターンが変化しているという発見に、部分的に基づく。遺伝子発現の差異は統合型cDNAマイクロアレイシステムによって同定された。
【0034】
15例のRCCからの癌細胞の遺伝子発現プロファイルを、レーザーマイクロダイセクション法とともに、27,648遺伝子を提示するcDNAマイクロアレイを用いて解析した。レーザーマイクロダイセクション法によって純粋に選択した、診断された患者由来の癌細胞と正常腎細胞との発現パターンを比較することによって、251遺伝子が、RCC細胞において共通してアップレギュレートされていると同定され、721遺伝子が、RCC細胞において共通してダウンレギュレートされていると同定された。さらに、患者の血清中または尿中の癌関連タンパク質を検出する能力を有する候補分子マーカーの選別を行い、ヒトRCCにおけるシグナル抑制戦略の開発のための標的となる可能性のあるものがいくつか発見された。
【0035】
本明細書において同定された、差次的に発現される遺伝子には、RCCマーカーおよびRCC遺伝子標的としての診断上の有用性が見出され、その発現は、RCC症状の処置または軽減のために改変されうる。
【0036】
RCC患者において発現レベルが変化した(すなわち、上昇または低下した)遺伝子は、表4〜5にまとめられており、本明細書において「RCC関連遺伝子」、「RCC核酸」、または「RCCポリヌクレオチド」と総称され、対応するコードされるポリペプチドは「RCCポリペプチド」または「RCCタンパク質」と呼ばれる。特記されない限り、「RCC」とは、本明細書に開示した任意の配列を指す。(例えばRCC 1〜972)。以前に記載された遺伝子は、データベースのアクセッション番号とともに示す。
【0037】
細胞の試料における種々の遺伝子の発現を測定することにより、RCCを診断することができる。同様に、種々の物質に応答したこれらの遺伝子の発現を測定することにより、RCCを処置するための物質を同定することができる。
【0038】
本発明は、表4〜5に列挙したRCC配列の少なくとも一つの発現を、最大で全発現を決定する(例えば、測定する)段階を含む。公知の配列に関するGenBank(商標)データベースの項目によって提供される配列情報を使用し、当業者に周知の技術を用いて、RCC関連遺伝子の検出および測定を行うことができる。例えば、RCC配列に対応する配列データベース登録情報中の配列を用いて、例えばノーザンブロットハイブリダイゼーション分析においてRCC関連遺伝子に対応するRNA配列を検出するためのプローブを構築することができる。典型的に、プローブには、参照配列の少なくとも10、20、50、100、または200ヌクレオチドが含まれる。別の例としては、配列を用いて、例えば、逆転写に基づくポリメラーゼ連鎖反応などの、増幅に基づいた検出法におけるRCC核酸を特異的に増幅するためのプライマーを構築することができる。
【0039】
次いで、被験細胞集団、例えば患者由来の組織試料における、1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベルを、参照集団における同じ遺伝子の発現レベルと比較する。参照細胞集団は、比較するパラメータが既知である1つまたは複数の細胞、すなわち腎細胞癌細胞(例えば、RCC細胞)または正常腎皮質細胞(例えば、非RCC細胞)を含む。
【0040】
被験細胞集団における遺伝子発現のパターンが、参照細胞集団と比較してRCCまたはそれに対する素因を示すか否かは、参照細胞集団の組成に依存する。例えば、参照細胞集団が非RCC細胞から構成されている場合には、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現パターンに類似性があることにより、被験細胞集団が非RCCであると示される。反対に、参照細胞集団がRCC細胞から構成される場合、被験細胞集団と参照細胞集団との間で遺伝子発現プロファイルに類似性があることにより、被験細胞集団がRCC細胞を含むことが示される。
【0041】
被験細胞集団におけるRCCマーカー遺伝子の発現レベルは、それと参照細胞集団における対応するRCCマーカー遺伝子の発現レベルとの相違が、1.0倍、1.5倍、2.0倍、5.0倍、10.0倍、またはそれ以上を上回って変動する場合、「変化した」とみなされる。
【0042】
被験細胞集団と参照細胞集団との間の差次的な遺伝子発現は、対照核酸、例えばハウスキーピング遺伝子に対して標準化することができる。例えば、対照核酸は、細胞の癌状態または非癌状態に応じて差がないことが知られている核酸である。対照核酸の発現レベルは、被験集団および参照集団におけるシグナルレベルを標準化するのに用いることができる。対照遺伝子の例には、例えば、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が非制限的に含まれる。
【0043】
被験細胞集団を、複数の参照細胞集団と比較することができる。複数の参照集団のそれぞれは、公知のパラメータが異なってもよい。したがって、例えばRCC細胞を含むことが判明している第1の参照細胞集団、および、例えば非RCC細胞(正常細胞)を含むことが判明している第2の参照集団と、被験細胞集団を比較してもよい。被験細胞は、RCC細胞を含むことが判明しているか、またはそれが疑われる対象由来の組織型もしくは細胞試料中に含まれてもよい。
【0044】
被験細胞は、体組織または体液、例えば、生体液(例えば、血液、痰、または尿など)から得られる。例えば、被験細胞を腎組織から精製してもよい。好ましくは、被験細胞集団は上皮細胞を含む。好ましくは、上皮細胞は、腎細胞癌であることが判明しているか、またはそれが疑われる組織由来である。
【0045】
参照細胞集団における細胞は、被験細胞の組織型と類似した組織型に由来すべきである。任意で、参照細胞集団は、細胞株、例えば、RCC細胞株(すなわち、陽性対照)または正常非RCC細胞株(すなわち、陰性対照)である。または、対照細胞集団は、アッセイされるパラメータまたは条件に関して公知である細胞由来の分子情報のデータベースに由来してもよい。
【0046】
対象は好ましくは哺乳類である。例示的な哺乳類には、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、またはウシが含まれるが、それらに限定されない。
【0047】
本明細書に開示された遺伝子の発現は、当技術分野で公知の方法を用いて、タンパク質または核酸のレベルで決定できる。例えば、これらの核酸配列の一つまたは複数を特異的に認識するプローブを用いるノーザンハイブリダイゼーション解析を用いて、遺伝子発現を決定することができる。または、遺伝子発現は、例えば、差次的に発現される遺伝子配列に特異的なプライマーを用いて、逆転写に基づくPCRアッセイ法により測定することもできる。発現はまた、タンパク質レベルで、すなわち本明細書に記載の遺伝子によってコードされるポリペプチドのレベルで測定することによって、またはその生物活性を測定することによって、決定してもよい。このような方法は当技術分野で周知であり、例えば、遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体を利用するイムノアッセイ法が非制限的に含まれる。遺伝子にコードされるタンパク質の生物活性は一般に周知である。
【0048】
本明細書で使用する「生物」という用語は、少なくとも1つの細胞からなる任意の生き物を意味する。生物は、例えば、真核単細胞のような単純なものでもよく、または例えば、ヒトを含む哺乳動物のような複雑なものでもよい。
【0049】
本明細書で使用する「生物試料」という用語は、生物全体、またはその組織、細胞、もしくは構成部分のサブセット(例えば、体液(血液、粘液、リンパ液、滑液、脳脊髄液、唾液、羊水、臍帯血(amniotic cord blood)、尿、膣液、および精液が挙げられるが、これに限定されない))を意味する。「生物試料」という用語は、さらに、生物全体またはその細胞、組織、もしくは構成部分のサブセットから調製されたホモジネート、溶解産物、抽出物、細胞培養物、または組織培養物、あるいはその画分または一部を意味する。最後に、「生物試料」という用語は、同様に、タンパク質または核酸分子などの細胞成分を含む、生物を増殖させる栄養培地またはゲルなどの培地を意味しうる。
【0050】
腎細胞癌の診断
本発明の文脈において、RCCは、被験細胞集団(すなわち、患者由来の生物試料)からの一つまたは複数のRCC核酸配列の発現レベルを測定することによって診断される。好ましくは、被験細胞集団は、上皮細胞、例えば腎組織から得られる細胞を含む。遺伝子発現を、血液または、尿などの他の体液から測定することもできる。タンパク質レベルを測定するために、他の生物試料を使用することも可能である。例えば、診断するべき対象由来の血液または血清中のタンパク質レベルを、イムノアッセイ法または他の従来の生物学的アッセイ法により測定することができる。
【0051】
1つまたは複数のRCC関連遺伝子、例えばRCC 1〜972の発現を、被験細胞試料または生物試料において測定し、アッセイした1つまたは複数の特定のRCC関連遺伝子に関連する正常対照発現レベルと比較する。正常対照レベルとは、RCCに罹患していないことが判明している集団において典型的に見出されるRCC関連遺伝子の発現プロファイルである。患者由来の組織試料における一つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベルに変化(すなわち上昇または低下)があることにより、対象がRCCに罹患しているかその発症リスクを有することが示される。例えば、被験集団における1つまたは複数のアップレギュレートされたRCC遺伝子すなわちRCC 1〜251の発現が、正常対照レベルと比較して増加していることにより、その対象がRCCに罹患しているか、またはその発症リスクを有することが示される。逆に、1つまたは複数のダウンレギュレートされた遺伝子すなわちRCC 252〜972の被験集団における発現が、正常対照レベルと比較して減少していることにより、その対象がRCCに罹患しているかまたはそのリスクを有することが示される。
【0052】
正常対照レベルと比較して、被験集団におけるRCC関連遺伝子の一つまたは複数が変化すれば、対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することが示される。たとえば、RCC関連遺伝子(RCC 1〜251、RCC 252〜972、またはRCC 1〜972)のパネルの少なくとも1%、5%、25%、50%、60%、80%、90%またはそれより多くの変化は、対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示している。
【0053】
生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルは、RCC関連遺伝子によってコードされるタンパク質に対応するmRNAを定量することによって推定することができる。mRNAの定量法は当業者に公知である。たとえば、RCC関連遺伝子に対応するmRNAレベルは、ノーザンブロッティングまたはRT-PCRによって推定することができる。RCC関連遺伝子のヌクレオチド配列は公知であることから、いかなる当業者も、RCC関連遺伝子を定量するためのプローブまたはプライマーを設計することができる。たとえば、例示的なC6700V2特異的プライマーセットは、SEQ ID NO:38および12のヌクレオチド配列に記載される。または、C6700V1およびC6700V2の双方を、共通のヌクレオチド配列にアニールするプライマーセットを用いて増幅してもよい。そのようなプライマーセットの増幅産物に変異体特異的領域(すなわち、エキソン21の欠失)が含まれる場合、増幅産物は配列の長さに基づいて互いに異なる可能性がある。たとえば、SEQ ID NO:83および84のヌクレオチド配列のプライマーを、双方の変異体に関するプライマーセットとして用いてもよい。さらに、増幅産物はまた、変異体特異的プローブを用いて検出してもよい。
【0054】
さらに、RCC関連遺伝子の発現レベルは、遺伝子によってコードされるタンパク質の活性または量に基づいて分析することができる。RCC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の量を決定するための方法を以下に記述する。たとえば、イムノアッセイ法を用いて生物材料におけるそのようなタンパク質の存在を決定してもよい。先に言及したように、マーカー遺伝子(すなわち、RCC関連遺伝子)が腎臓癌患者の試料において発現される限り、任意の生物材料を、タンパク質またはその活性を決定するための生物試料として用いることができる。たとえば、腎尿細管は適した生物試料の例である。しかし、血液および尿のような体液もまた分析してもよい。一方、分析されるタンパク質の活性に従ってRCC関連遺伝子によってコードされるタンパク質の活性を決定するために適した方法を選択することができる。
【0055】
生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを推定して、正常試料(たとえば、非疾患対象に由来する試料)におけるレベルと比較してもよい。そのような比較により、遺伝子の発現レベルが正常試料のレベルより高い(表4において示されるRCC関連遺伝子、すなわち1〜251)または低い(表5において示されるRCC関連遺伝子、すなわち252〜972)ことが示される場合、対象はRCCに罹患していると判断される。正常対象および診断される対象からの生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルは、同時に決定してもよい。または、発現レベルの正常範囲は、対照群から予め採取した試料における遺伝子の発現レベルを分析することによって得られた結果に基づいて、統計学的方法によって決定することができる。対象の試料を比較することによって得られた結果を正常範囲と比較する;結果が正常範囲内に入らない場合、対象はRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有すると判断される。
【0056】
本発明の文脈において、RCCのような細胞増殖性疾患を診断するための診断物質もまた提供される。本発明の診断物質の例には、RCC関連遺伝子のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに結合する化合物が含まれる。好ましくは、RCC関連遺伝子のポリヌクレオチドにハイブリダイズするオリゴヌクレオチド、またはRCC関連遺伝子によってコードされるポリペプチドに結合する抗体を、そのような化合物として用いる。RCCを診断する本発明の方法はまた、対象におけるRCCの処置の有効性を査定するために用いてもよい。本方法に従って、被験細胞集団のような生物試料は、RCCに関する処置を受けている対象から得られる。査定法は、RCCを診断する従来の方法に従って行うことができる。
【0057】
望ましいならば、生物試料は、処置前、処置中、および/または処置後の様々な時点で対象から得られる。次に、生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定し、例えば、そのRCCの状態が判明している細胞(すなわち、癌細胞または非癌細胞)を含む参照細胞集団に由来する対照レベルと比較する。対照レベルは、処置に供されなかった生物試料を対象に決定される。
【0058】
対照レベルが癌細胞を含まない生物試料に由来する場合には、対象由来の生物試料において発現レベルと対照レベルとの間に類似性があることによって、関心対象の処置が有効であることが示される。しかし、対象に由来する生物試料中のRCC関連遺伝子の発現レベルと対照レベルとの差異によって、臨床転帰または予後がそれほど望ましくないことが示される。
【0059】
RCC関連遺伝子発現を阻害または増強する作用物質の同定
RCC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する作用物質は、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子を発現する被験細胞集団と被験作用物質とを接触させ、その後、RCC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって、同定することができる。作用物質の存在下において、対照レベルと比較して(または該被験作用物質の非存在下における発現レベルもしくは活性レベルと比較して)RCC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが低下していることにより、該作用物質が、アップレギュレートされたRCC関連遺伝子の阻害物質であって、かつしたがってこれがRCCの発症又は進行を阻害するのに有用であると証明されうることが、示される。
【0060】
または、ダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増強する作用物質を、RCC関連遺伝子を発現する被験細胞集団を被験作用物質と接触させ、その後ダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子の発現レベルまたは活性を決定することによって、同定することができる。RCC関連遺伝子の対照発現レベルまたは活性と比較して(または該被験作用物質の非存在下におけるレベルと比較して)RCC関連遺伝子の発現レベルまたはその遺伝子産物の活性レベルが上昇していることにより、該被験作用物質が、ダウンレギュレートされたRCC関連遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を増大させることが、示される。
【0061】
被験細胞集団は、RCC関連遺伝子を発現する任意の細胞であってよい。例えば、被験細胞集団は、腎組織由来の細胞などの上皮細胞を含み得る。さらに、被験細胞は腺癌細胞由来の不死化細胞株であってもよい。または、被験細胞は、RCC関連遺伝子をトランスフェクトされた細胞、またはレポーター遺伝子と機能的に結合したRCC関連遺伝子由来の調節配列(例えば、プロモーター配列)をトランスフェクトされた細胞であってもよい。
【0062】
対象におけるRCC処置の有効性の評価:
本明細書で同定された、差次的に発現されるRCC関連遺伝子は、RCC処置の経過のモニタリングも可能にする。本方法において、RCCに対する処置を受ける対象から被験細胞集団が提供される。望ましいならば、処置前、処置中、および/または処置後の様々な時点で、被験細胞集団を対象から入手する。続いて、細胞集団における1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現を決定し、RCCの状態が判明している細胞を含む参照細胞集団と比較する。本発明の文脈において、参照細胞は、その処置を受けるべきではない。
【0063】
参照細胞集団がRCC細胞を含まない場合、被験細胞集団と参照細胞集団におけるRCC関連遺伝子の発現が類似することは、関心対象の処置が有効であることを示す。しかし、被験集団と正常対照参照細胞集団においてRCC関連遺伝子の発現に違いがあることは、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことを示す。同様に、参照細胞集団がRCC細胞を含む場合には、被験細胞集団と参照細胞集団におけるRCC関連遺伝子の発現に差があることにより、関心対象の処置が有効であることが示されるが、一方で、被験集団および正常対照参照細胞集団におけるRCC関連遺伝子の発現が類似することは、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことを示す。
【0064】
さらに、処置後に得られた対象由来の生物試料において測定された1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、処置後レベル)を、処置開始前に得られた対象由来の生物試料において測定された1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現レベル(すなわち、処置前レベル)と比較することもできる。RCC関連遺伝子がアップレギュレートされる遺伝子である場合、処置後試料において発現レベルが低下していることによって関心対象の処置が有効であることが示されており、一方、処置後試料において発現レベルが上昇しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示されている。反対に、RCC関連遺伝子がダウンレギュレートされる遺伝子である場合、処置後試料において発現レベルが上昇していることによって関心対象の処置が有効であることが示されうり、一方、処置後試料において発現レベルが上昇しているまたは維持されていることにより、臨床的な成果または予後がそれほど好ましくないことが示されうる。本明細書で使用される「有効な」という用語は、処置が、対象における、病理学的にアップレギュレートされる遺伝子の発現低下、病理学的にダウンレギュレートされる遺伝子の発現上昇、または、対象における腎細胞癌の大きさ、罹患率、もしくは転移能の低下をもたらすことを指す。関心対象の処置を予防的に適用する場合、「有効である」とは、該処置が腎細胞癌の形成を遅らせるかもしくは予防すること、または、臨床的なRCCの症状を遅らせるか、予防するか、もしくは軽減することを意味する。腎細胞癌の評価は、標準的な臨床プロトコールを用いて行われ得る。
【0065】
有効性は、RCCを診断または処置するための任意の既知の方法に関連して決定されうる。例えば、症候性の異常、例えば、体重減少、腹痛、背部痛、食欲不振、悪心、嘔吐、および全身倦怠感、衰弱、ならびに黄疸を特定することによって、RCCを診断することができる。
【0066】
特定の個体におけるRCC処置のための治療剤の選択:
個体の遺伝子構成における違いは、様々な薬物を代謝するそれらの相対的能力における違いをもたらしうる。対象において代謝され抗RCC剤として作用する作用物質は、対象の細胞において、癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンから非癌状態に特徴的な遺伝子発現パターンへの変化を誘導することによって顕在化しうる。したがって、本明細書に開示された差次的に発現するRCC関連遺伝子によって、選択された対象由来の被験細胞集団において、治療効果があるまたは予防効果があると推定されるRCC阻害物質を試験し、作用物質が対象において適したRCC阻害物質であるか否かを決定することが可能になる。
【0067】
特定の対象に適したRCC阻害物質を同定するために、該対象由来の被験細胞集団を治療薬に曝露し、1つまたは複数のRCC 1〜972遺伝子の発現を測定する。
【0068】
本発明の文脈において、被験細胞集団は、RCC関連遺伝子を発現するRCC細胞を含みうる。好ましくは、被験細胞は上皮細胞である。例えば、被験細胞集団を候補作用物質の存在下でインキュベートすることができ、被験試料の遺伝子発現パターンを測定して、一つまたは複数の参照プロファイル、例えばRCC参照発現プロファイルまたは非RCC参照発現プロファイルと比較することができる。
【0069】
RCCを含む参照細胞集団と比較して、被験細胞集団において、アップレギュレートされたRCC遺伝子すなわちRCC 1〜251の一つもしくは複数の発現が減少するか、または、ダウンレギュレートされたRCC遺伝子すなわちRCC 252〜972の一つもしくは複数の発現が増加することは、作用物質が治療効果のあることを示している。
【0070】
本発明の文脈において、被験作用物質は任意の化合物または組成物であってよい。本発明の文脈における使用に適した例示的な被験作用物質には、免疫調節物質が含まれるがこれに限定されない。
【0071】
治療剤を同定するためのスクリーニングアッセイ法:
本明細書に開示された、差次的に発現するRCC関連遺伝子を、RCCを処置するための候補治療薬を同定するために用いることもできる。本発明の方法は、候補治療薬が、RCC状態に特徴的なRCC 1〜972などの1つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現プロファイルを、RCC状態に特徴的な遺伝子発現パターンへと変換できるか否かを判定するために、候補治療薬をスクリーニングする段階を含む。
【0072】
本発明において、RCC 1〜972はRCCの処置または予防のための治療薬のスクリーニングに有用である。
【0073】
本方法において、細胞を1つまたは複数の被験作用物質に(逐次的にまたは組み合わせて)曝露し、細胞におけるRCC 1〜972の1つまたは複数の発現を測定する。被験集団においてアッセイしたRCC関連遺伝子の発現プロファイルを、被験作用物質に曝露されていない参照細胞集団における同じRCC関連遺伝子の発現レベルと比較する。
【0074】
低発現される(under-expressed)遺伝子の発現を刺激し得るか、または過剰発現される遺伝子の発現を抑制し得る作用物質は、臨床的に有益な可能性を有する。このような作用物質はさらに、動物または被験対象においてRCCの発症及び進行を予防する能力に関して試験され得る。
【0075】
さらなる態様において、本発明は、RCCの処置において有望な標的である候補作用物質をスクリーニングする方法を提供する。以上で詳述したように、マーカー遺伝子の発現レベルまたはそれらの遺伝子産物の活性を制御することにより、RCCの発症および進行を制御することができる。このため、RCCの処置において有望な標的となる候補作用物質を、そのような発現レベルおよびその活性を癌状態または非癌状態の指標として用いるスクリーニング方法によって同定することができる。本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a) 被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c) ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【0076】
スクリーニングに用いるマーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドは、組換えポリペプチドでも天然のタンパク質でもよく、またはそれらの部分ペプチドでもよい。被験化合物と接触させるポリペプチドは、例えば、精製ポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質でありうる。
【0077】
例えばマーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合するタンパク質のスクリーニング法として、当業者に既知の多数の方法を使用することができる。そのようなスクリーニングを、例えば免疫沈降法によって、具体的には以下の様式で実施することができる。マーカー遺伝子は、外来遺伝子のための発現ベクターに遺伝子を挿入することによって、宿主(たとえば動物)細胞等において発現され、その例には、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGSおよびpCD8が含まれるがこれらに限定されるわけではない。発現のために用いられるプロモーターは、たとえばSV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), (1982) Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141)、EF-αプロモーター(Kim et al., (1990) Gene 91: 217-23)、CAG プロモーター(Niwa et al., (1991) Gene 108: 193-9)、RSV LTRプロモーター(Cullen, (1987) Methods in Enzymology 152: 684-704)、SRαプロモーター(Takebe et al., (1988) Mol Cell Biol 8: 466-72)、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, (1987) Proc Natl Acad Sci USA 84: 3365-9)、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, (1982) J Mol Appl Genet 1 : 385-94)、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., (1989)Mol Cell Biol 9: 946-58)、HSV TKプロモーター等が含まれる、一般的に用いることができる任意のプロモーターであってもよい。発現される外来遺伝子の宿主細胞への導入は、たとえば電気穿孔法(Chu et al., (1987) Nucleic Acids Res 15: 1311-26)、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, (1987) Mol Cell Biol 7: 2745-52)、DEAEデキストラン法(Lopata et al., (1984) Nucleic Acids Res 12: 5707-17;Sussman and Milman, (1984) Mol Cell Biol 4: 1641-3)、リポフェクション法(Derijard B, (1994) Cell 76: 1025-37;Lamb et al., (1993) Nature Genetics 5: 22-30;Rabindran et al., (1993) Science 259: 230-4)等の任意の方法に従って行うことができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドは、その特異性が明らかにされているモノクローナル抗体のエピトープを該ポリペプチドのN末端またはC末端に導入することによって、該モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として発現されうる。市販のエピトープ-抗体系を用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。マルチクローニングサイトを利用して、例えばβ-ガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)などとの融合タンパク質を発現可能なベクターが市販されている。
【0078】
融合によってポリペプチドの特性を変化させないように、数個から1ダースのアミノ酸からなる小型エピトープだけを導入することによって調製された融合タンパク質も、本明細書において意図されている。ポリヒスチジン(Hisタグ)、インフルエンザ凝集素HA、ヒトc-myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSVタグ)、Eタグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープ、およびそれらを認識するモノクローナル抗体を、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのためのエピトープ-抗体系として用いることができる(Experimental Medicine 13: 85-90 (1995))。
【0079】
免疫沈降においては、適切な界面活性剤を用いて調製した細胞可溶化物にこれらの抗体を添加することにより、免疫複合体を形成させる。免疫複合体は、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチド、ポリペプチドとの結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。上記のエピトープに対する抗体に加えて、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに対する抗体を用いて免疫沈降を行うこともでき、これらの抗体は任意で上記のように調製される。
【0080】
例えば、抗体がマウスのIgG抗体の場合は、プロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースによって、免疫複合体を沈殿させることができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドを、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製するならば、これらのエピトープに特異的に結合する物質(グルタチオン-セファロース4Bなど)を用いて、ポリペプチドに対する抗体の使用と同じ様式で免疫複合体を形成させることができる。
【0081】
免疫沈降は、例えば、文献中に記載された方法に倣ってまたは従って行うことができる(Harlow and Lane, (1988) Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York)。
【0082】
SDS-PAGEは一般的に、免疫沈降タンパク質の解析に使用されており、結合状態のタンパク質を、適切な濃度のゲルを用いて、タンパク質の分子量によって解析することができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと結合したタンパク質をクーマシー染色または銀染色などの一般的な染色法によって検出することは困難であるため、タンパク質に関する検出感度は、放射性同位体である35S-メチオニンまたは35S-システインを含む培地中で細胞を培養し、細胞内のタンパク質を標識して、その後タンパク質を検出することによって、改善することができる。タンパク質の分子量が明らかであれば、標的タンパク質をSDS-ポリアクリルアミドゲルから直接精製することが可能であり、その配列を決定することができる。
【0083】
マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと結合するタンパク質のスクリーニングのための方法として、例えば、ウエスト-ウエスタンブロット分析(Skolnik et al., (1991) Cell 65: 83-90)を用いることができる。具体的には、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合するタンパク質は、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合するタンパク質を発現することが予想される細胞、組織、器官(例えば精巣および卵巣などの組織)、または培養細胞(例えばCaki-1、Caki-2、786-O、A704、OS-RC-2、TUHR14TKB、およびA498)に由来するcDNAライブラリーをファージベクター(例えばZAP)を用いて調製し、タンパク質をLBアガロース上で発現させ、発現したタンパク質をフィルター上に固定し、精製および標識されたポリペプチドを上記フィルターと反応させ、該マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドに結合したタンパク質を発現するプラークを、標識に従って検出することによって、得ることができる。マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの結合を利用することにより、または、該マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくは該マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドと融合したペプチドやポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識されうる。放射性同位元素または蛍光などを用いる方法を使用することもできる。
【0084】
または、本発明のスクリーニング法の別の態様において、細胞を利用する2-ハイブリッド系を用いることもできる(「MATCHMAKER 2-ハイブリッド系」「哺乳動物MATCHMAKER 2-ハイブリッドアッセイキット」「MATCHMAKER 1-ハイブリッド系」(Clontech);「HybriZAP 2-ハイブリッドベクター系」(Stratagene);参考文献 “Dalton and Treisman, (1992) Cell 68: 597-612.", “Fields and Sternglanz, (1994) Trends Genet 10: 286-92.")。
【0085】
2-ハイブリッド系では、本発明のポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域と融合させて、酵母細胞で発現させる。ライブラリーが発現した場合にVP16またはGAL4転写活性化領域と融合されるように、本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を発現すると予想される細胞から、cDNAライブラリーを調製する。続いてcDNAライブラリーを上記の酵母細胞に導入し、検出された陽性クローンからライブラリーに由来するcDNAを単離する(本発明のポリペプチドと結合するタンパク質を酵母細胞で発現させる場合には、この2つの結合によってレポーター遺伝子が活性化され、陽性クローンが検出されるようになる)。cDNAにコードされるタンパク質は、上記のように単離されたcDNAを大腸菌(E. coli)に導入し、該タンパク質を発現させることで調製できる。
【0086】
レポーター遺伝子の例としては、これらに限定されるわけではないが、HIS3遺伝子のほかに、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子などが挙げられる。
【0087】
また、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドに結合する化合物を、アフィニティークロマトグラフィーを用いてスクリーニングすることもできる。例えば、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドをアフィニティーカラムの担体上に固定化してもよく、その後、該マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドと結合できるタンパク質を含む被験化合物をカラムに対して適用する。本明細書における被験化合物には例えば、細胞抽出物や細胞溶解物などがある。被験化合物をロードした後にカラムを洗浄し、ポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。
【0088】
被験化合物がタンパク質の場合は、得られたタンパク質のアミノ酸配列を解析し、この配列を元にオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプローブとして用いてcDNAライブラリーをスクリーニングして、該タンパク質をコードするDNAを得る。
【0089】
表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、本発明における結合状態の化合物を検出または定量する手段として使用することができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識を行うことなく、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、本発明のポリペプチドと被験化合物との相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、ファルマシア)。このため、BIAcoreなどのバイオセンサーを用いて、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドと被験化合物との結合を評価することが可能である。
【0090】
マーカー遺伝子によってコードされる固定されたポリペプチドを、合成化学化合物、または天然物バンクもしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリに曝露した場合に結合する分子をスクリーニングする方法、およびタンパク質のみならず、タンパク質(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)に結合する化学化合物を単離するために、コンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットを用いるスクリーニング法(Wrighton et al., (1996) Science 273: 458-64; Verdine, (1996) Nature 384: 11-13)は、当業者に周知である。
【0091】
または、本発明は、以下の段階を含む、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドを用いてRCCを処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法を提供する:
(a) 被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) 段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c) RCC 1〜251からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して抑制する化合物、または、RCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される生物活性と比較して高める化合物を選択する段階。
【0092】
本発明のスクリーニング法に用いるためのポリペプチドは、マーカー遺伝子のヌクレオチド配列を用いて組換えタンパク質として得ることができる。マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドの生物活性を保持する限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに用いることができる。マーカー遺伝子およびそれによってコードされるタンパク質に関する情報に基づいて、当業者は、該ポリペプチドの任意の生物活性をスクリーニングのための指標として選択でき、選択した生物活性を分析するために任意の適切な測定法を選択することができる。
【0093】
本スクリーニング法によって単離される化合物は、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドのアゴニストまたはアンタゴニストの候補である。「アゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによってその機能を活性化する分子を意味する。同様に、「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することによってその機能を阻害する分子を意味する。さらに、本スクリーニング法によって単離される化合物は、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用の阻害物質または刺激物質の候補である。
【0094】
本方法において検出されるべき生物活性が細胞増殖である場合には、実施例に記載したように、例えば、マーカー遺伝子によってコードされるポリペプチドを発現する細胞を調製し、細胞を被験化合物の存在下で培養して、細胞増殖の速度を決定し、細胞周期などを測定することにより、さらにはコロニー形成活性を測定することにより、検出することができる。
【0095】
さらなる態様において、本発明は、RCCの処置または予防のための化合物のスクリーニング法を提供する。先に詳細に考察したように、マーカー遺伝子の発現レベルを制御することによって、RCCの発症および進行を制御することができる。このため、RCCの処置または予防に用いられうる化合物を、マーカー遺伝子の発現レベルを指標として用いるスクリーニングによって同定することができる。本発明の文脈において、そのようなスクリーニングは、例えば以下の段階を含み得る:
(a) 候補化合物を1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がRCC 1〜972からなる群より選択される段階;および
(b) RCC 1〜251からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる候補化合物、またはRCC 252〜972からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【0096】
マーカー遺伝子を発現する細胞には、たとえばRCCから確立された細胞株が含まれ;そのような細胞は本発明の上記のスクリーニングのために用いることができる(たとえば、Caki-1、Caki-2、786-O、A704、OS-RC-2、TUHRl4TKBおよびA498)。発現レベルは、当業者に周知の方法によって推定することができる。スクリーニング法において、一つまたは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低減または増強する化合物は、RCCの処置または予防において用いるための候補作用物質である。
【0097】
または、本発明のスクリーニング法は以下の段階を含み得る:
(a) RCC 1〜972からなる群より選択される1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 被験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、該マーカー遺伝子がRCC 1〜251からなる群より選択されるアップレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを低下させる候補化合物を、または、該マーカー遺伝子がRCC 252〜972からなる群より選択されるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現レベルを高める化合物を、選択する段階。
【0098】
適切なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野において周知である。本発明のスクリーニング法に適したレポーター構築物は、マーカー遺伝子の転写調節領域を用いることによって調製されうる。マーカー遺伝子の転写調節領域が当業者に既知の場合は、以前の配列情報を用いることによって、レポーター構築物を調製できる。マーカー遺伝子の転写調節領域がまだ同定されていない場合、該マーカー遺伝子のヌクレオチド配列情報に基づいて、転写調節領域を含むヌクレオチドセグメントをゲノムライブラリから単離することができる。
【0099】
タンパク質を結合させるために用いうる支持体の例には、アガロース、セルロース、およびデキストランなどの不溶性多糖類、ならびにポリアクリルアミド、ポリスチレン、およびシリコンなどの合成樹脂が含まれる;上記の材料から作製された市販のビーズおよびプレート(例えば、マルチウェルプレート、バイオセンサーチップなど)を用いることが好ましい。ビーズを使用する場合は、ビーズをカラムに詰めてもよい。
【0100】
タンパク質の支持体への結合は、化学結合や物理吸着などの常用の方法によって実施することができる。または、タンパク質を特異的に認識する抗体を介して、タンパク質を支持体に結合させてもよい。さらに、アビジンおよびビオチンを利用して、タンパク質を支持体に結合させることもできる。
【0101】
タンパク質間の結合は緩衝液中で行うことが好ましく、緩衝液の例にはリン酸緩衝液及びTris緩衝液が含まれるがこれらに限定されるわけではない。しかしながら、タンパク質間の結合を阻害しない任意の緩衝液が適切である。
【0102】
本発明において、表面プラズモン共鳴現象を利用するバイオセンサーを、結合したタンパク質の検出または定量のための手段として用いることができる。このようなバイオセンサーを用いると、標識を行うことなく、ごく微量のポリペプチドのみを用いて、タンパク質間の相互作用を表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。
【0103】
または、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドを標識してもよく、結合したタンパク質の標識を用いて、結合したタンパク質の検出または測定を行うことができる。具体的には、タンパク質の一方をあらかじめ標識した後に、標識したタンパク質を被験化合物の存在下でもう一方のタンパク質と接触させ、洗浄後、結合したタンパク質を標識によって検出または測定する。
【0104】
本方法におけるタンパク質の標識のために、放射性同位体(例えば、3H、14C、32P、33P、35S、125I、131I)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、およびβ-グルコシダーゼ)、蛍光物質(例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン)、およびビオチン/アビジンなどの標識物質を用いることができる。タンパク質を放射性同位体で標識する場合には、検出または測定を液体シンチレーションによって行うことができる。または、酵素で標識したタンパク質は、呈色などの基質の酵素的変化を検出するために酵素基質を添加して、吸光光度計で検出または測定することもできる。さらに、標識として蛍光物質を使用する場合は、結合状態のタンパク質を蛍光光度計を用いて検出または測定することができる。
【0105】
本スクリーニング法の文脈において抗体を使用する場合、上述の標識物質の1つを用いて抗体を標識し、該標識物質に基づいて検出または測定することが好ましい。または、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドまたはアクチンに対する抗体を、標識物質で標識した二次抗体によって検出されるべき一次抗体として用いてもよい。さらに、本発明のスクリーニングにおいてタンパク質と結合した抗体は、プロテインGカラムまたはプロテインAカラムを用いて検出または測定することもできる。
【0106】
任意の被験化合物(例えば細胞抽出物、細胞培養物上清、発酵微生物の産物、海洋生物の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質もしくは未精製タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物、および天然化合物)を、本発明のスクリーニング法に使用することができる。本発明の文脈において、被験化合物は、(1)生物学的ライブラリー、(2)空間的に位置指定可能な(spatially addressable)平行固相もしくは液相ライブラリー、(3)逆重畳積分を必要とする合成ライブラリー法、(4)「1ビーズ-1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、および(5)アフィニティークロマトグラフィー選択を利用した合成ライブラリー法を含む、当技術分野で既知のコンビナトリアルライブラリー法における数多くのアプローチのいずれを用いても得られる。アフィニティークロマトグラフィー選択を用いる生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、他の4種類のアプローチは、化合物のペプチドライブラリー、非ペプチドオリゴマーライブラリー、または小分子ライブラリーに適用可能である(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成法の例は当技術分野において見出すことができる(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37:1233-51)。化合物のライブラリーは、溶液中に(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照されたい)、またはビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、および同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)、もしくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)に提示されうる。
【0107】
本発明のスクリーニング法によって単離された化合物は、それに起因する疾患、例えば、RCCなどの細胞増殖性疾患の処置または予防を目的として、マーカー遺伝子にコードされるポリペプチドの活性を阻害または刺激する薬剤開発のための候補である。本発明のスクリーニング法によって得られる化合物の構造の一部が付加、欠失および/または置換によって変換された化合物は、本発明のスクリーニング法によって得られる化合物として含まれる。
【0108】
RCCを処置または予防するための薬学的組成物:
本発明は、本発明の上述のスクリーニング法によって選択される任意の化合物を含む、腎細胞癌の処置または予防のための組成物を提供する。
【0109】
本発明の方法によって単離された化合物をヒト、ならびにマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ブタ、ウシ、サル、ヒヒ、およびチンパンジーのような他の哺乳類のための薬剤として投与する場合、単離された化合物を直接投与してもよく、または既知の薬学的調製法を用いて投与剤形に調製してもよい。例えば、必要に応じて、薬物を、糖衣錠、カプセル剤、エリキシル剤、およびマイクロカプセルとして経口摂取するか、または水もしくは任意の他の薬学的に許容される液体との滅菌溶液もしくは懸濁液の注射剤形で非経口摂取することができる。例えば、化合物を、薬学的に許容される担体または媒体と共に、具体的には滅菌水、生理食塩液、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定化剤、着香料、賦形剤、ビヒクル、保存剤、結合剤などと共に、一般的に許容される投薬実施に必要な単位投与剤形で混合することができる。このような調製物に含まれる活性成分の量によって、指示範囲内の適した用量を得ることができる。
【0110】
錠剤およびカプセル剤に混合することができる添加剤の例には、ゼラチン、コーンスターチ、トラガカントゴム、およびアラビアゴムのような結合剤;結晶セルロースのような賦形剤;コーンスターチ、ゼラチンおよびアルギン酸のような膨張剤;ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤;ショ糖、乳糖、またはサッカリンのような甘味料;ならびにペパーミント、アカモノ油、およびチェリーのような着香料が含まれるがそれらに限定されない。単位投与剤形がカプセル剤である場合、油などの液体担体が上記の成分にさらに含まれ得る。注射用滅菌組成物は、注射に適した蒸留水などのビヒクルを用いる通常の薬物の実施に従って製剤化することができる。
【0111】
生理食塩水、グルコース、ならびに、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、および塩化ナトリウム等のアジュバントを含むその他の等張液を、注射用の水溶液として用いることができる。これらは、例えば、エタノールのようなアルコール;プロピレングリコールおよびポリエチレングリコールのような多価アルコール;ならびにポリソルベート80(商標)およびHCO-50のような非イオン性界面活性剤などの、適切な溶解剤と共に用いることができる。
【0112】
ゴマ油または大豆油は、油脂性液体として用いることができ、溶解剤としての安息香酸ベンジルまたはベンジルアルコールと共に用いてもよく、かつ、リン酸緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液のような緩衝液;塩酸プロカインのような鎮痛剤;ベンジルアルコールおよびフェノールのような安定化剤、ならびに/または抗酸化剤と共に製剤化してもよい。調製された注射剤を適切なアンプルに充填してもよい。
【0113】
当業者に周知の方法を用いて、本発明の薬学的組成物を、例えば動脈内、静脈内、もしくは経皮注射として、または、鼻腔内、筋肉内、もしくは経口投与として患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重および年齢ならびに投与法に応じて変動するが、当業者は、適切な投与法を日常的に選択することができる。化合物がDNAにコードされ得る場合、DNAを遺伝子治療用ベクターに挿入し、次に、治療を行うためにベクターを患者に投与することができる。投与の用量および方法は、患者の体重、年齢、および症状に応じて変動するが、当業者はそれらを適切に選択することができる。
【0114】
例えば、本発明のタンパク質に結合してその活性を調節する化合物の用量は、症状に依存するが、一般的に、正常な成人(体重60 kg)に経口投与する場合、1日あたり約0.1 mg〜約100 mg、好ましくは1日あたり約1.0 mg〜約50 mg、より好ましくは1日あたり約1.0 mg〜約20 mgである。
【0115】
正常な成人(体重60 kg)に注射剤形で化合物を非経口投与する場合、患者、標的臓器、症状および投与法によって多少の差があるが、1日あたり約0.01 mg〜約30 mg、好ましくは1日あたり約0.1〜約20 mg、およびより好ましくは1日あたり約0.1〜約10 mgの用量を静脈内注射することが都合がよい。他の動物の場合にも、適切な投与量は、体重60 kgに変換して日常的に算出され得る。
【0116】
腎細胞癌を有する対象の予後評価:
本発明はまた、RCCを有する対象の予後を評価する方法も提供し、該方法は、被験細胞集団における一つまたは複数のRCC関連遺伝子の発現を、全疾患病期にわたる患者から得られた参照細胞集団における同じRCC関連遺伝子の発現と比較する段階を含む。被験細胞集団と参照細胞集団における一つもしくは複数のRCC関連遺伝子の遺伝子発現を比較することによって、または対象に由来する被験細胞集団における経時的な遺伝子発現パターンを比較することによって、対象の予後を評価することができる。
【0117】
例えば、RCC 252〜972などのダウンレギュレートされるRCC関連遺伝子の一つもしくは複数の発現が正常対照と比較して減少すること、またはRCC 1〜251などのアップレギュレートされるRCC関連遺伝子のうち一つもしくは複数の発現が正常対照と比較して増大することは、予後がそれほど好ましくないことを意味する。反対に、RCC関連遺伝子(例えばRCC 1〜972)のうちの一つまたは複数の発現が正常対照と類似していることは、対象の予後が比較的好ましいことを意味する。好ましくは、被験者の予後は、RCC 1〜972の発現プロファイルを比較することによって評価することができる。
【0118】
キット:
本発明はまた、RCC検出用試薬、例えば、1つもしくは複数のRCC核酸と特異的に結合するかそれらを識別する核酸(RCC核酸の一部に対して相補的なオリゴヌクレオチド配列など)、または、RCC核酸によってコードされるタンパク質と結合する抗体も含む。検出用試薬は、キットの形態で共に包装され得る。例えば、検出用試薬、例えば核酸または抗体(固体マトリクスに結合されるか、またはそれらをマトリクスに結合させるための試薬とは個別に包装される)、対照試薬(陽性および/または陰性)、および/または検出可能な標識は、個別の容器に包装され得る。アッセイを行うための説明書(例えば、書面、テープ、VCR、CD-ROMなど)もまた、キットに含まれ得る。キットのアッセイ形式は、当技術分野においていずれも既知であるノーザンハイブリダイゼーションまたはサンドイッチELISAであってもよい。
【0119】
例えば、少なくとも1つのRCC検出部位を形成するために、RCC検出用試薬を多孔性ストリップなどの固体マトリクス上に固定化できる。多孔性ストリップの測定領域または検出領域は、それぞれが1つの核酸を含む複数の部位を含んでもよい。検査ストリップは、陰性対照および/または陽性対照に対する部位を含む場合もある。または、対照部位を検査ストリップとは別のストリップ上に配置してもよい。任意で、異なる検出部位が異なる量の固定化核酸を含んでもよく、すなわち、第1の検出部位ではより多い量で、以後の部位ではより少ない量で含んでもよい。被験試料を添加すると、検出可能なシグナルを呈する部位の数により、試料中に存在するRCC量の定量的指標が得られる。検出部位は、任意の適した検出可能な形態として構成されうり、典型的には検査ストリップの幅全体にわたる棒状またはドット状の形態である。
【0120】
または、キットは、一つまたは複数の核酸の核酸基質アレイを含みうる。アレイ上の核酸は、RCC 1〜972で表される1つまたは複数の核酸配列を特異的に識別する。RCC 1〜972で表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上の発現を、アレイ検査ストリップまたはチップに対する結合レベルによって同定する。基板アレイは、例えば固体基板上、例えば参照として本明細書にその内容全体が組み入れられる米国特許第5,744,305号に記載される「チップ」上に存在しうる。
【0121】
アレイおよび複数性:
本発明にはまた、一つまたは複数の核酸の核酸基質アレイも含まれる。アレイ上の核酸は、RCC 1〜972で表される核酸配列の1つまたは複数に特異的に対応する。RCC 1〜972で表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40もしくは50種またはそれ以上の発現レベルは、アレイに対する核酸結合を検出することによって同定されうる。
【0122】
本発明にはまた、単離された複数の核酸(すなわち、二つまたはそれ以上の核酸の混合物)が含まれる。核酸は、液相で存在してもよく、または、例えばニトロセルロースメンブレンのような固相支持体に固定された、固相で存在してもよい。この複数物には、RCC 1〜972で表される核酸の1つまたは複数が含まれる。様々な態様において、複数物には、RCC 1〜972で表される核酸の2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、40、または50種またはそれ以上が含まれる。
【0123】
腎細胞癌を阻害する方法:
本発明はさらに、RCC 1〜251の1つもしくは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を低下させることにより、またはRCC 252〜972の1つもしくは複数の発現(またはその遺伝子産物の活性)を上昇させることにより、対象におけるRCCの症状を処置または緩和するための方法も提供する。RCCを有するまたはその発症リスクがある(または感受性がある)対象に対して、適切な治療化合物を予防的または治療的に投与することができる。標準的な臨床的方法を用いて、または、RCC 1〜972の1つもしくは複数の異常な発現レベル(または対応する遺伝子産物の異常な活性レベル)を検出することにより、そのような対象を同定することができる。適切な治療薬には、細胞周期調節、細胞増殖、およびタンパク質キナーゼ活性の阻害剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0124】
本発明の治療法は、RCC細胞が由来する同じ種類の組織の正常細胞と比較して、RCC細胞において発現が低下している遺伝子(「ダウンレギュレートされる」または「低発現される」遺伝子)の一つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を増大させる段階を含みうる。これらの方法において、被験者において過小発現されている遺伝子の一つまたは複数の量を増加させる化合物の有効量によって、被験者を処置する。投与は、全身投与または局所投与とすることができる。適した治療用化合物には、これらに限定されるわけではないが、低発現される遺伝子のポリペプチド産物、その生物活性断片、ならびに、低発現される遺伝子をコードしかつRCC細胞における発現を可能にする発現制御エレメントを有する核酸;例えば、RCC細胞にとって内因性であるこのような遺伝子の発現レベルを増大させる(すなわち、低発現される遺伝子の一つまたは複数の発現をアップレギュレートする)作用物質が含まれる。そのような化合物の投与は、対象の腎細胞において異常に低発現される1つまたは複数の遺伝子の影響に対抗し、かつ対象の臨床状態を改善する。
【0125】
または、本発明の治療法は、RCC細胞において発現が異常に増大している遺伝子(「アップレギュレートされる」または「過剰発現される」遺伝子)の一つまたは複数の遺伝子産物の発現、機能、またはその両方を減少させる段階を含みうる。発現は、当技術分野で公知のいくつかの方法のいずれかによって阻害することができる。例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を阻害するまたはそれに拮抗する核酸、例えば、過剰発現される1つまたは複数の遺伝子の発現を妨害するアンチセンスオリゴヌクレオチドまたは低分子干渉RNAを、対象に投与することによって、発現を阻害することができる。
【0126】
アンチセンス核酸:
上記のように、RCC 1〜251のヌクレオチド配列に対応するアンチセンス核酸を、RCC 1〜251の発現レベルを低下させるために用いることができる。腎細胞癌においてアップレギュレートされるRCC 1〜251に対応するアンチセンス核酸は、腎細胞癌の処置のために有用である。具体的には、本発明のアンチセンス核酸は、RCC 1〜251またはそれに対応するmRNAに結合して、それにより遺伝子の転写もしくは翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進し、かつ/またはRCC 1〜251にコードされるタンパク質の発現を阻害して、それによりタンパク質の機能を阻害することによって、作用しうる。本明細書において用いられる「アンチセンス核酸」という用語は、アンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズすることができる限り、標的配列と完全に相補的であるヌクレオチドおよび一つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの双方を含む。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、連続した少なくとも15ヌクレオチドの長さにわたって少なくとも70%またはそれ以上、好ましくは80%またはそれ以上、より好ましくは90%またはそれ以上、さらにより好ましくは95%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には、当技術分野において公知のアルゴリズムを使用することができる。
【0127】
本発明のアンチセンス核酸は、RCC関連マーカー遺伝子にコードされるタンパク質を産生する細胞に対して、これらのタンパク質をコードするDNAまたはmRNAと結合し、その転写または翻訳を阻害し、mRNAの分解を促進して、タンパク質の発現を阻害することにより作用し、その結果、タンパク質の機能を阻害する。
【0128】
本発明のアンチセンス核酸は、該核酸に対して不活性の適切な基剤と混合することにより、リニメント剤または湿布剤などの外用製剤の形にすることができる。
【0129】
同じく、必要に応じて、賦形剤、等張剤、溶解補助剤、安定剤、保存料、鎮痛薬などを添加することにより、本発明のアンチセンス核酸を、錠剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、リポソームカプセル剤、注射剤、液剤、点鼻薬、および凍結乾燥製剤として製剤化することもできる。これらは以下の公知の方法によって調製することができる。
【0130】
本発明のアンチセンス核酸は、罹患部位に直接塗布することにより、または、それが罹患部位に到達するように血管内に注入することにより、患者に投与することができる。アンチセンスを含む溶媒を使用することで、持続性および膜透過性を高めることもできる。その例には、リポソーム、ポリ-L-リジン、脂質、コレステロール、リポフェクチンまたはそれらの誘導体が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0131】
本発明のアンチセンス核酸の投与量は、患者の状態に従って適切に調整でき、かつ所望の量で用いることができる。例えば0.1 mg/kg〜100 mg/kg、好ましくは0.1 mg/kg〜50 mg/kgの用量範囲で投与することができる。
【0132】
本発明のアンチセンス核酸は、本発明のタンパク質の発現を阻害し、かつそのため、本発明のタンパク質の生物活性を抑制するのに有用である。さらに、発現阻害剤、例えば本発明のアンチセンス核酸は、それらが本発明のタンパク質の生物活性を阻害できるという点において有用である。
【0133】
本発明のアンチセンス核酸には、修飾オリゴヌクレオチドが含まれる。例えば、チオエート型オリゴヌクレオチドを用いて、オリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を付与してもよい。
【0134】
マーカー遺伝子に対するsiRNAを用いて、マーカー遺伝子の発現レベルを低減させることができる。本明細書において、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を防止する二本鎖RNA分子を指す。DNAが、そこからRNAが転写される鋳型となる技術を含む、細胞にsiRNAを導入する標準的な技術を用いる。siRNAには、センスRCC 1-251、たとえばC6700(RCC 81)、B7032N(RCC126)、もしくはB9320(RCC173)核酸配列、アンチセンスRCC 1-251、たとえば C6700、B7032N、もしくはB9320核酸配列、またはその双方が含まれる。siRNAは、二つの相補的分子で構成されてもよく、または単一の転写物が標的遺伝子からのセンス配列および相補的アンチセンス配列の双方を有する(たとえば、ヘアピン)ように、いくつかの態様において、マイクロRNA(miRNA)の産生に至るように構築してもよい。
【0135】
標的細胞におけるRCC 1〜251の一つに対応する転写物に対するsiRNAの結合によって、細胞によるタンパク質産生の低減が起こる。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも10ヌクレオチドであり、天然に存在する転写物と同じ長さであってもよい。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、長さが75、50、25ヌクレオチド未満である。より好ましくは、オリゴヌクレオチドは、長さが19〜25ヌクレオチドである。
【0136】
本方法はまた、C6700、B7032N、またはB9320の発現が、たとえば細胞の悪性形質転換の結果としてアップレギュレートされている細胞における遺伝子発現を変更するためにも用いられる。標的細胞におけるC6700、B7032N、またはB9320転写物に対するsiRNAの結合により、細胞によるC6700、B7032N、またはB9320産生の低減が起こる。オリゴヌクレオチドの長さは少なくとも約10ヌクレオチドであり、天然に存在するC6700、B7032N、またはB9320転写物と同じ長さであってもよい。本発明において、siRNAの標的配列は、C6700V2のヌクレオチド配列から選択されてもよい。ヌクレオチド配列のほとんどはC6700の2つの変異体、すなわちV1およびV2のあいだで共有される。したがって、一つの変異体を抑制するための有効なsiRNAはまた、もう一つの変異体も抑制する可能性がある。このように、C6700V1およびC6700V2の双方を抑制するsiRNAは、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。あるいは、C6700V2特異的siRNAもまた、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。哺乳動物細胞においてC6700発現を阻害するC6700のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、標的配列、たとえばC6700V1およびC6700V2の双方を抑制する可能性があるSEQ ID NO:43、47、または81のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドが含まれる。本発明において、siRNAの標的配列は、B7032Nのヌクレオチド配列から選択されてもよい。たとえば、B7032Nに関する標的配列としてSEQ ID NO:106のヌクレオチドを含むsiRNAオリゴヌクレオチド。本発明において、siRNAの標的配列は、B9320V2のヌクレオチド配列から選択されてもよい。ヌクレオチド配列のほとんどはB9320の二つの変異体、すなわちV1およびV2において共有されている。したがって、一つの変異体を抑制するために有効なsiRNAはまた、もう一つの変異体も抑制する可能性がある。このように、B9320V1およびB9320V2の双方を抑制するsiRNAは、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。あるいは、B9320V2特異的siRNAもまた、癌を処置または予防するために用いられる可能性がある。哺乳動物細胞においてB9320発現を阻害するB9320のsiRNAオリゴヌクレオチドの例には、標的配列、たとえばB9320V2を抑制する可能性があるSEQ ID NO:110のヌクレオチドを含むオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0137】
標的細胞における遺伝子発現を阻害する能力を有する適切な二本鎖RNAを設計する方法は周知である。(例えば、全体が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第6,506,559号を参照のこと)。例えば、siRNAを設計するためのコンピュータープログラムを、Ambionのウェブサイト(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)から入手することができる。Ambion, Inc.から入手可能なコンピュータープログラムは、以下のプロトコールに基づいてsiRNA合成のためのヌクレオチド配列を選択する。
【0138】
siRNA標的部位の選択
1.転写物のAUG開始コドンから開始して、下流にあるAAジヌクレオチド配列をスキャンする。潜在的なsiRNA標的部位として、個々のAAおよび3'側に隣接する19ヌクレオチドの出現を記録する。Tuschlら(1999)、Genes Dev 13: 3191-7は、5'および3'非翻訳領域(UTR)および開始コドン近傍(75塩基以内)の領域は、調節タンパク質結合部位が豊富である可能性があることから、これらに対してsiRNAを設計することを推奨していない。UTR-結合タンパク質および/または翻訳開始複合体は、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合を妨害し得る。
2.潜在的な標的部位と適切なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラットなど)とを比較し、他のコード配列と有意な相同性を有する全ての標的配列を検討から除外する。BLAST(Altschul SF, et al., (1997) Nucleic Acids Res.;25:3389-402; (1990) J Mol Biol.;215:403-10)の使用が示唆されており、これは、NCBIサーバ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)において見出される。
3.合成に適した標的配列を選択する。遺伝子の長さに応じていくつかの標的配列を選択して評価することが典型的である。
【0139】
例えばSEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドなどの標的配列の核酸配列を含む単離された核酸分子、および、SEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドの核酸配列に相補的な核酸分子もまた、本発明に含まれる。本明細書で使用される「単離された核酸」という用語は、元々の環境(例えば、天然のものであれば自然環境)から取り出された核酸を指し、従ってこれは、その天然の状態から人工的に変化させられた核酸である。本発明において、単離された核酸は、DNA、RNA、およびそれらの誘導体を含む。単離された核酸がRNAまたはその誘導体である場合、ヌクレオチド配列内の塩基「t」は「u」に置換されなければならない。本明細書において使用される「相補的な」という用語は、核酸分子のヌクレオチド単位間のワトソン-クリック型またはフーグスティーン型の塩基対形成を指し、「結合」という用語は、2つの核酸もしくは化合物の間の物理的もしくは化学的な相互作用、または会合した核酸もしくは化合物もしくはそれらの組み合わせを意味する。相補的な核酸配列は適切な条件下でハイブリダイズして、ミスマッチをほとんどまたは全く含まない、安定した二重鎖を形成する。本発明の目的において、5またはそれ以下のミスマッチを含む2つの配列は相補的とみなされる。
【0140】
本発明の文脈において、本発明の単離ヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションにより二本鎖ヌクレオチドまたはヘアピンループ構造を形成することができる。好ましい態様において、そのような二本鎖は、10個のマッチ毎にわずか1個のミスマッチを含むに過ぎない。二本鎖の鎖が完全に相補的である、特に好ましい態様において、そのような二本鎖はミスマッチを含まない。核酸分子は好ましくは、C6700に関して長さが4725もしくは4494ヌクレオチド未満、B7032Nに関して長さが3503ヌクレオチド未満、またはB9320に関して長さが2539もしくは3427ヌクレオチド未満である。たとえば、核酸分子は、長さが約500、約200、または約75ヌクレオチド未満である。また、本明細書に記述の核酸の一つまたは複数を含むベクター、およびベクターを含む細胞も本発明に含まれる。本発明の単離核酸は、C6700、B7032N、もしくはB9320に対するsiRNAにとって、またはsiRNAをコードするDNAにとって有用である。siRNAまたはそのコードDNAに関する核酸を用いる場合、センス鎖は好ましくは約19ヌクレオチドより長く、より好ましくは21ヌクレオチドより長い。
【0141】
本発明は、転写変異体C6700V2が、非癌性腎細胞と比較して腎細胞癌(RCC)において過剰発現されているという発見に部分的に基づいている。C6700は、異なる二つの転写変異体を有する。C6700V1またはV2のcDNAは長さが4725または4494ヌクレオチドである。C6700V1またはV2の核酸およびポリペプチド配列はそれぞれ、SEQ ID NO:63および64、または65および66において示される。配列データはまた、以下のアクセッション番号によって入手可能である。
C6700V1:AY358124
C6700V2:BC077726
【0142】
SEQ ID NO:43、47、または81のsiRNAのトランスフェクションにより、RCC細胞株の成長阻害が起こった。Semaドメイン、7個のトロンボスポンジンリピート(1型および1型様)、膜貫通ドメイン(TM)および短い細胞質ドメイン(セマフォリン5B)であるSEMA5Bを示すC6700は、染色体3p21.1上に存在した。SEMA5Bのようなセマフォリンタンパク質ファミリーメンバーは、神経発生の際の軸索誘導に関係している(Adams, et al., (1996) Mech. Dev. 57: 33-45)。C6700は、RT-PCRおよびノーザンブロット分析により、腎近位尿細管上皮細胞と比較して、RCC細胞株8個(ACHN、769-P、RXF-631L、TUHRl0TKB、Caki-1、Caki-2、786-O、およびA-498)の中でRCC細胞株3個(A704、OS-RC-2、およびTUHR14TKB)においてアップレギュレートされた(図2bおよび3、右のパネル)。C6700は、C6700V1およびC6700V2にそれぞれ対応するエキソン23個からなる異なる二つの転写変異体を有する(図8a)。本明細書において、V2変異体はRCC細胞において特異的に過剰発現されることが発見された(図8b)。
【0143】
本発明は、B7032Nが、非癌性細胞と比較して腎細胞癌(RCC)において過剰発現されているという発見に部分的に基づいている。B7032Nは、長さが3503ヌクレオチドである。B7032Nの核酸およびポリペプチド配列をSEQ ID NO:112および113に示す。配列データはまた、以下のアクセッション番号によって入手可能である。
NM_004567
【0144】
SEQ ID NO:106のsiRNAのトランスフェクションにより、RCC細胞株の成長阻害が起こった。PFKFB4(5-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ4)遺伝子を示すB7032Nは、半定量的RT-PCR分析により、RCC臨床症例(図2a)と共にRCC細胞株(データ非呈示)においてアップレギュレートされるが、その発現は、試験した正常な重要臓器のいずれにおいても検出不可能であった。次に行ったノーザンブロット分析により、約3.5 kb B7032N転写物が膀胱癌細胞株11例中2例においてアップレギュレートされるが、精巣および膵臓を除き正常臓器では発現されないことが確認された(図6)。
【0145】
本発明は、転写変異体B9320V2が非癌性腎細胞と比較して腎細胞癌(RCC)において過剰発現されるという発見に部分的に基づいている。B9320は、異なる二つの転写変異体を有する。B9320V1またはV2のcDNAは、長さが2539または3427ヌクレオチドである。B9320V1またはV2の核酸およびポリペプチド配列はそれぞれ、SEQ ID NO:115および116、または118および119において示される。配列データはまた、以下のアクセッション番号によって入手可能である。
B9320V1:BC034014
B9320V2:NM_153350
【0146】
SEQ ID NO:110のsiRNAのトランスフェクションにより、RCC細胞株の成長阻害が起こった。FBXL16(Fボックスロイシンリッチリピートタンパク質16)遺伝子を示すB9320は、半定量的RT-PCR分析により、RCC臨床症例(図2a)のみならずRCC細胞株(データ非呈示)においてアップレギュレートされるが、その発現は、試験した正常な重要臓器のいずれにおいても検出不可能であった。次に行ったノーザンブロット分析から、二つのB9320転写物のおよそB9320V1(2.4 kb)およびB9320V2(4 kb)が、膀胱癌細胞株4例中2例において有意にアップレギュレートされたことが確認された。B9320V1転写物は腎臓および甲状腺において発現されたが、B9320V2転写物は脳、精巣、脊髄、および膵臓を除き正常臓器では発現されなかった(図7)。
【0147】
siRNA組成物の構造:
本発明は、C6700、B7032N、またはB9320の発現を阻害することによって細胞成長、すなわち癌細胞成長を阻害することに関する。C6700、B7032N、またはB9320の発現は、たとえば、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子を特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって阻害される。C6700、B7032N、またはB9320標的には、たとえば、SEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチドが含まれる。
【0148】
非哺乳動物細胞において、二本鎖RNA(dsRNA)は、遺伝子発現に対して強力かつ特異的なサイレンシング効果を発揮することが示されており、これはRNA干渉(RNAi)と呼ばれている(Sharp PA. (1999) Genes Dev.;13:139-41)。dsRNAは、RNアーゼIIIモチーフを含む酵素によって低分子干渉RNA(siRNA)と呼ばれる20〜23ヌクレオチドのdsRNAにプロセシングされる。siRNAは、多成分ヌクレアーゼ複合体によって相補的mRNAを特異的に標的とする(Hammond SM, et al., (2000) Nature.;404:293-6;Hannon GJ. (2002) Nature.;418:244-51)。哺乳動物細胞において、相補的ヌクレオチド19個およびチミジンまたはウリジンの3'末端非相補性二量体を有する20または21量体dsRNAからなるsiRNAは、遺伝子発現において全体的な変化を誘導することなく、遺伝子特異的ノックダウン効果を有することが示されている(Elbashir SM, et al., (2001) Nature.;411:494-8)。さらに、低分子核RNA(snRNA)U6またはポリメラーゼIII H1-RNAプロモーターを含むプラスミドは、そのような低分子RNA動員III型クラスのRNAポリメラーゼIIIを有効に産生し、このようにその標的mRNAを構成的に抑制することができる。Miyagishi M and Taira K. (2002) Nat Biotechnol.;20:497-500.;Brummelkamp TR, et al., (2002) Science. 296:550-3)。
【0149】
本発明の文脈において、細胞の成長は、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAを含む組成物に細胞を接触させることによって阻害してもよい。細胞は、さらにトランスフェクション物質に接触させる。適したトランスフェクション物質は当技術分野において公知である。細胞成長の阻害は、細胞が、組成物に曝露されていない細胞と比較してより低い速度で増殖する、または生存率の減少を有することを意味する。細胞の成長は、MTT細胞増殖アッセイのような、当技術分野において公知の方法によって測定される。
【0150】
C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子配列の単一の標的に向けられる可能性がある。または、siRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子配列の複数の標的に向けられる可能性がある。たとえば、組成物は、C6700、B7032N、またはB9320の二つ、三つ、四つ、五つ、またはそれより多い標的配列に向けられるC6700、B7032N、またはB9320のsiRNAを含んでもよい。C6700、B7032N、またはB9320標的配列とは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子の一部と同一であるヌクレオチド配列を意味する。標的配列には、ヒトC6700、B7032N、またはB9320遺伝子の5'非翻訳(UT)領域、オープンリーディングフレーム(ORF)、または3'非翻訳領域が含まれうる。または、siRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子発現の上流または下流の調節物質と相補的な核酸配列である。上流および下流の調節物質の例には、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子プロモーターに結合する転写因子、C6700、B7032N、またはB9320ポリペプチドと相互作用するキナーゼまたはホスファターゼ、C6700、B7032N、またはB9320プロモーターまたはエンハンサーが含まれる。標的mRNAとハイブリダイズするC6700、B7032N、またはB9320のsiRNAは、通常一本鎖のmRNA転写物と会合して、それによって翻訳を干渉して、このようにタンパク質の発現を干渉することによって、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子によってコードされるC6700、B7032N、またはB9320ポリペプチド産物の産生を減少または阻害する。したがって、本発明のsiRNA分子は、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子に由来するmRNAまたはcDNAにストリンジェントな条件下で特異的にハイブリダイズする能力によって定義され得る。本発明の目的において、「ハイブリダイズする」または「特異的にハイブリダイズする」という用語は、2つの核酸分子が「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」下でハイブリダイズする能力を指すために用いられる。「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」という語句は、核酸分子が、典型的には核酸の複合体混合物中にあるその標的配列とはハイブリダイズするが、他の配列とは検出し得る程度にはハイブリダイズしないと考えられる条件を指す。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる環境では異なると考えられる。配列が長くなればなるほど、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範な手引きは、Tijssen, (1993) Techniques in Biochemistry and Molecular Biology--Hybridization with Nucleic Probes, “Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays"において見出される。一般に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度pHでの特定の配列についての熱融解温度(Tm)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。Tmは、平衡状態で標的に相補的なプローブの50%が標的配列にハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である(Tmにおいて標的配列が過剰に存在するので、プローブの50%が平衡状態に占められる)。ストリンジェントな条件はまた、ホルムアミドのような不安定化剤の添加によって達成されうる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションの場合、陽性シグナルはバックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくはバックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的な、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件は以下でありうる:50℃での0.2×SSCおよび0.1%SDSによる洗浄を伴う、50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5×SSC、1%SDS、65℃でのインキュベーション。
【0151】
好ましくは、本発明のsiRNAは、約500ヌクレオチド長未満、約200ヌクレオチド長未満、約100ヌクレオチド長未満、約50ヌクレオチド長未満、または約25ヌクレオチド長未満である。好ましくは、siRNAは約19〜約25ヌクレオチド長である。C6700、B7032N、またはB9320 siRNAの作製のための核酸配列の例には、標的配列としてのSEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドの配列がそれぞれ含まれる。さらに、siRNAの阻害活性を上昇させるために、標的配列のアンチセンス鎖の3'末端にヌクレオチド「u」を付加することができる。付加される「u」の数は少なくとも約2個であり、一般的には約2個から約10個であり、好ましくは約2個から約5個である。付加された「u」は、siRNAのアンチセンス鎖の3'末端で一本鎖を形成する。
【0152】
細胞は、C6700V2の転写変異体としてのC6700遺伝子、B7032N、またはB9320を発現するか過剰発現する、任意の細胞である。細胞は、腎細胞などの上皮細胞である。または、細胞は、癌腫、腺癌、芽腫、白血病、骨髄腫、または肉腫などの腫瘍細胞である。細胞は、腎細胞癌である。
【0153】
C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAは、mRNA転写物と結合できる形態で、細胞内に直接導入することができる。または、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAをコードするDNAを、ベクター中に含めてもよい。
【0154】
ベクターは、例えば、C6700、B7032N、またはB9320標的配列を、C6700、B7032N、またはB9320配列に隣接する機能的に連結された調節配列を有する発現ベクター中に、(DNA分子の転写により)両鎖の発現が可能になるような様式でクローニングすることによって作製される(Lee, N.S., et al., (2002) Nature Biotechnology 20 : 500-5)。C6700、B7032N、またはB9320 mRNAに対してアンチセンスであるRNA分子を第1のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの3'側のプロモーター配列)によって転写させ、C6700、B7032N、またはB9320 mRNAに対してセンス鎖であるRNA分子を第2のプロモーター(例えば、クローニングされたDNAの5'側のプロモーター配列)によって転写させる。センス鎖およびアンチセンス鎖をインビボでハイブリダイズさせて、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子のサイレンシングのためのsiRNA構築物を作製する。あるいは、2つの構築物を利用してsiRNA構築物のセンス鎖およびアンチセンス鎖を作製することができる。クローニングされたC6700、B7032N、またはB9320は、単一の転写物が標的遺伝子由来のセンス配列および相補的アンチセンス配列の両方を有するような、例えばヘアピンなどの二次構造を有する構築物をコードすることができる。
【0155】
ヘアピンループ構造を形成するために、任意のヌクレオチド配列からなるループ配列をセンス配列とアンチセンス配列の間に配置してもよい。したがって、本発明はまた、一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有するsiRNAを提供し、式中、[A]は、C6700、B7032N、またはB9320由来のmRNAまたはcDNAに特異的にハイブリダイズする配列に対応するリボヌクレオチド配列である。好ましい態様において、[A]は、SEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、
[B]は、3個から23個のヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり、
[A']は、[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である。
【0156】
領域[A]は[A']にハイブリダイズし、次いで、領域[B]からなるループが形成される。ループ配列は、好ましくは、約3〜約23ヌクレオチド長でありうる。ループ配列は、例えば、以下の配列からなる群より選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列もまた、活性siRNAを提供する(Jacque, JM., et al., (2002) Nature 418: 435-8)。
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque, JM., et al., (2002) Nature, 418: 435-8
UUCG:Lee, NS., et al., (2002) Nature Biotechnology 20: 500-5. Fruscoloni, P., et al., (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100: 1639-44
UUCAAGAGA:Dykxhoorn, DM., et al., (2003) Nature Reviews Molecular Cell Biology 4: 457-67
【0157】
例えば、本発明のヘアピンループ構造を有する好ましいsiRNAを以下に示す。以下の構造では、ループ配列を、CCC、UUCG、CCACC、CCACACC、およびUUCAAGAGAからなる群より選択することができる。好ましいループ構造はUUCAAGAGA(DNAでは「ttcaagaga」)である。
CTACCTCTTCAGACTCAGC-[B]-GCTGAGTCTGAAGAGGTAG(SEQ ID NO: 43の標的配列に対して)
CCATGTGAGCACTTGGATG-[B]-CATCCAAGTGCTCACATGG(SEQ ID NO: 47の標的配列に対して)
GCAGCAACGTTGCAGCACA-[B]-TGTGCTGCAACGTTGCTGC(SEQ ID NO: 81の標的配列に対して)
GAGGACAATCCAGACGGCT-[B]-AGCCGTCTGGATTGTCCTC(SEQ ID NO: 106の標的配列に対して)
GGAGCTCTACAACGTGCTG-[B]-CAGCACGTTGTAGAGCTCC(SEQ ID NO: 110の標的配列に対して)
【0158】
C6700、B7032N、またはB9320配列に隣接する調節配列は、その発現が独立して調節される、または一時的もしくは空間的に調節されうるように、同じまたは異なりうる。siRNAは、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子鋳型を、たとえば低分子核RNA(snRNA)U6からのRNAポリメラーゼIII転写単位、またはヒトH1 RNAプロモーターを含むベクターにクローニングすることによって細胞内で転写されてもよい。ベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション増強物質を用いることができる。FuGENE(Roche Diagnostics)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)は、トランスフェクション増強物質として有用である。
【0159】
オリゴヌクレオチド、およびC6700、B7032N、またはB9320 mRNAの様々な部分と相補的なオリゴヌクレオチドを、インビトロで、標準的な方法に従って腫瘍細胞(たとえば、腎細胞癌(RCC)細胞株のような腎細胞株を用いて)においてC6700、B7032N、またはB9320の産生をそれぞれ減少させる能力に関して試験した。候補組成物の非存在下で培養した細胞と比較して候補siRNA組成物に接触させた細胞におけるC6700、B7032N、またはB9320遺伝子産物の低減は、C6700、B7032N、もしくはB9320の特異的抗体または他の検出戦略を用いて検出することができる。次に、インビトロ細胞ベースアッセイまたはインビトロ無細胞アッセイにおいてC6700、B7032N、またはB9320の産生を減少させる配列を、細胞成長に及ぼすその阻害効果に関して試験する。インビトロ細胞ベースアッセイにおいて細胞成長を阻害する配列をインビボでラットまたはマウスにおいて試験して、C6700、B7032N、またはB9320産生の減少および悪性新生物を有する動物における腫瘍細胞成長の減少を確認する。
【0160】
悪性腫瘍を処置する方法:
C6700、B7032N、またはB9320を過剰発現するという特徴を有する腫瘍を有する患者は、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNAを投与することによって処置してもよい。siRNA治療は、たとえば腎細胞癌(RCC)に罹患しているかまたはその発症リスクを有する患者におけるC6700、B7032N、またはB9320の発現を阻害するために用いてもよい。そのような患者は、特定の腫瘍タイプに関する標準的な方法によって同定してもよい。腎細胞癌(RCC)は、たとえばCT、MRI、ERCP、MRCP、コンピューター断層撮影、または超音波によって診断してもよい。処置によって、アップレギュレートされた遺伝子の発現の低減、または対象における腫瘍の大きさ、広がり、もしくは転移能の減少のような臨床的利益が引き起こされれば、処置は有効であると見なされる。処置を予防的に適用する場合、「有効な」とは、処置が腫瘍の形成を遅らせるもしくは予防する、または腫瘍の臨床症状を予防もしくは軽減することを意味する。有効性は、特定の腫瘍タイプを診断または処置するための任意の公知の方法に関連して決定される。
【0161】
siRNA治療は、本発明のsiRNAをコードする標準的なベクター、および/または合成siRNA分子を送達することによるような遺伝子送達系によって、siRNAを患者に投与することによって行ってもよい。典型的に、合成siRNA分子は、インビボでヌクレアーゼ分解を予防するために化学的に安定化される。化学的に安定化されたRNA分子を調製する方法は、当技術分野において周知である。典型的に、そのような分子には、リボヌクレアーゼの作用を予防する改変骨格およびヌクレオチドが含まれる。その他の修飾も可能であり、例えば、コレステロールと結合させたsiRNAは、改良された薬理学的特性を示す(Song et al., (2003) Nature Med. 9:347-51)。適切な遺伝子送達システムとしては、リポソーム、受容体媒介送達システム、またはウイルスベクター(例えば、特に、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、およびアデノ随伴ウイルス)を挙げることができる。
【0162】
治療用核酸組成物は、薬学的に許容される担体中に製剤化されうる。治療用組成物は上述の遺伝子送達システムを含んでもよい。薬学的に許容される担体は、動物への投与に適した、生物学的に適合するビヒクル(例えば生理食塩水)である。化合物の治療的有効量とは、処置された動物における、アップレギュレートされる遺伝子産物の産生の減少、細胞成長(例えば増殖)の減少、または、腫瘍成長の減少などの、医学的に望ましい結果を生じることが可能な量である。
【0163】
静脈内、皮下、筋肉内、および腹腔内の送達経路を介する非経口投与を用いて、C6700、B7032N、またはB9320のsiRNA組成物を送達してもよい。腎細胞癌の処置に関しては、腎動脈の直接注入が特に好ましい。
【0164】
任意の患者への投与量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与しようとする特定の核酸、性別、投与時間および経路、身体全体の健康、ならびに同時に投与されている他の薬物などの多くの要因に左右される。核酸の静脈内投与のための用量は、核酸分子約106〜1022コピーである。
【0165】
本発明のポリヌクレオチドは、筋肉または皮膚などの組織の間質腔への注射、循環または体腔への導入、または吸入もしくはガス注入などの、標準的な方法によって投与されうる。ポリヌクレオチドは一般に、注射されるか、またはさもなくば、薬学的に許容される液体担体(例えば、水溶性または部分的に水溶性の液体担体)と共に動物に送達される。ポリヌクレオチドはさらに、リポソーム(例えば、陽イオン性または陰イオン性のリポソーム)と結合させることができる。本発明のポリヌクレオチドは、プロモーターなどの、標的細胞による発現に必要な遺伝情報を含む。
【0166】
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、本発明のポリペプチドの発現を阻害し、かつしたがって、本発明のポリペプチドの生物活性を抑制するのに有用である。同様に、発現阻害剤、例えば本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAは、それらが本発明のポリペプチドの生物活性を阻害できるという点において有用である。したがって、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはsiRNAを含む組成物は、腎細胞癌を処置するのに有用である。
【0167】
または、RCCにおいて過剰発現された遺伝子の一つまたは複数の遺伝子産物の機能は、該遺伝子産物に結合する化合物、またはさもなければ該遺伝子産物の機能を阻害する化合物を投与することによって阻害されうる。例えば、化合物は、過剰発現された遺伝子産物の1つまたは複数に結合する抗体であってもよい。
【0168】
本発明では、抗体、特にアップレギュレートされたマーカー遺伝子にコードされるタンパク質に対する抗体、またはそのような抗体の断片の使用に言及する。本明細書において用いられる「抗体」という用語は、抗体を合成するために用いられる抗原(すなわちアップレギュレートされたマーカー遺伝子の遺伝子産物)と、またはそれに近縁の抗原のみと相互作用する(すなわち結合する)、特異的構造を有する免疫グロブリン分子を指す。さらに抗体は、それがマーカー遺伝子にコードされるタンパク質の一つまたは複数に結合する限り、抗体断片または修飾抗体であってもよい。例えば、抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv、または、HおよびL鎖由来のFv断片が適切なリンカーによって連結されている一本鎖Fv(scFv)であってもよい(Huston J. S. et al., (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:5879-83)。より具体的には、抗体断片は、抗体をパパインやペプシンなどの酵素で処理することにより作製することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を構築し、発現ベクターに挿入し、適切な宿主細胞内で発現させることができる(例えば、Co MS. et al., (1994) J. Immunol. 152:2968-76; Better M. and Horwitz AH. (1989) Methods Enzymol. 178:476-96; Pluckthun A. and Skerra A. (1989) Methods Enzymol. 178:497-515; Lamoyi E. (1986) Methods Enzymol. 121:652-63; Rousseaux J. et al., (1986) Methods Enzymol. 121:663-9; Bird RE. and Walker BW. (1991) Trends Biotechnol. 9:132-7を参照されたい)。
【0169】
抗体は、ポリエチレングリコール(PEG)などの様々な分子との結合によって修飾することができる。本発明は、そのような修飾抗体を提供する。修飾抗体は、抗体を化学的に修飾することにより得られる。これらの修飾法は、当技術分野で慣例的である。
【0170】
または、抗体は、非ヒト抗体に由来する可変領域ならびにヒト抗体に由来する定常領域を有するキメラ抗体、または、非ヒト抗体に由来する相補性決定領域(CDR)、ヒト抗体に由来するフレームワーク領域(FR)、および定常領域を有するヒト化抗体を含んでもよい。そのような抗体は、公知の技術を用いて調製することができる。
【0171】
癌細胞において起こる特異的な分子変化に対する癌治療は、進行乳癌を処置するためのトラスツズマブ(ハーセプチン)、慢性骨髄性白血病のためのイマチニブメチレート(グリーベック)、非小細胞肺癌(NSCLC)のためのゲフィチニブ(イレッサ)、ならびにB細胞リンパ腫およびマントル細胞リンパ腫のためのリツキシマブ(抗CD20 mAb)のような抗癌剤の臨床開発および規制認可によって確認されている(Ciardiello F and Tortora G. (2001) Clin Cancer Res.;7:2958-70. Review.; Slamon DJ, et al., (2001) N Engl J Med.;344:783-92; Rehwald U, et al., (2003) Blood.;101:420-4; Fang G, et al., (2000) Blood, 96, 2246-53)。これらの薬物は、形質転換した細胞のみを標的とすることから、臨床的に有効であり、従来の抗癌剤より許容性が良好である。したがって、そのような薬剤は、癌患者の生存および生活の質を改善するのみならず、分子標的癌治療の考え方が正当であることを証明している。さらに、標的化された薬物は、それと共に使用した場合の標準的化学療法の効果を増大させる(Gianni L. (2002) Oncology, 63 Suppl 1, 47-56; Klejman A, et al., (2002) Oncogene, 21, 5868-76)。したがって、将来の癌治療はおそらく、従来の薬剤を血管新生および浸潤性のような腫瘍細胞の様々な特徴をねらった標的特異的薬剤と併用することを含むであろう。
【0172】
これらの調節法は、エクスビボもしくはインビトロで行うことができ(例えば、細胞を物質とともに培養することにより)、またはインビボで行うこともできる(例えば、物質を対象に投与することにより)。これらの方法は、差次的に発現する遺伝子の異常な発現またはそれら遺伝子産物の異常な活性を相殺する治療として、タンパク質もしくはタンパク質の組み合わせ、または核酸分子もしくは核酸分子の組み合わせを投与する段階を含む。
【0173】
(疾患または障害に罹患していない者と比較して)遺伝子および遺伝子産物の発現レベルまたは生物活性それぞれが上昇していることを特徴とする疾患および障害は、過剰発現される一つまたは複数の遺伝子の活性に拮抗する(すなわち、それを低下させるまたは阻害する)治療剤によって処置されうる。活性に拮抗する治療剤は、治療的または予防的に投与することができる。
【0174】
したがって、本発明の文脈において利用されうる治療剤には、例えば以下が含まれる:(i)RCC関連遺伝子のポリペプチド、またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体;(ii)過剰発現される遺伝子または遺伝子産物に対する抗体;(iii)過剰発現されるまたは低発現される1つまたは複数の遺伝子をコードする核酸;(iv)アンチセンス核酸、または「機能欠損」である核酸(すなわち、1つまたは複数の過剰発現される遺伝子の核酸内部への非相同的挿入のため);(v)低分子干渉RNA(siRNA);または(vi)調節物質(すなわち、過剰発現/低発現されるポリペプチドとその結合パートナーとの間の相互作用を変化させる、阻害物質、アゴニスト、アンタゴニスト)。機能不全アンチセンス分子は、相同組換えによってポリペプチドの内因性機能を「ノックアウト」するために利用される(例えば、Capecchi, (1989) Science 244: 1288-92を参照されたい)。
【0175】
(疾患または障害を有さない者と比較して)レベルまたは生物活性それぞれが減少していることを特徴とする疾患および障害は、活性を増加させる(すなわち活性に対するアゴニストである)治療剤によって処置されうる。活性をアップレギュレートする治療剤は、治療的または予防的な様式で投与されうる。利用可能な治療剤には、ポリペプチド(またはその類似体、誘導体、断片もしくは相同体)、または、生物学的利用能を増加させるアゴニストが含まれるが、これらに限定されない。
【0176】
レベルの上昇または低下は、(例えば生検組織から)患者の組織試料を採取してこれをRNAまたはペプチドのレベル、発現されたペプチド(または発現が変化した遺伝子のmRNA)の構造および/または活性に関してインビトロでアッセイすることにより、ペプチドおよび/またはRNAを定量することによって、容易に検出することができる。当技術分野において周知の方法には、免疫学的分析(例えば、ウェスタンブロット解析、免疫沈降後のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動、免疫細胞化学等)、および/またはmRNAの発現を検出するためのハイブリダイゼーション分析(例えば、ノーザン分析、ドットブロット、インサイチューハイブリダイゼーション等)が含まれるが、これらに限定されない。
【0177】
予防的投与は、疾患または障害の出現が妨げられるかまたはその進行が遅れるように、疾患の明瞭な臨床症状が現れる前に行う。
【0178】
本発明の治療法は、細胞と、差次的に発現する遺伝子の遺伝子産物の活性のうち一つまたは複数を調節する作用物質とを接触させる段階を含んでもよい。タンパク質活性を調節する作用物質の例には、核酸もしくはタンパク質、これらのタンパク質の天然同族リガンド、ペプチド、ペプチド模倣物、またはその他の小分子が含まれるが、これらに限定されない。例えば、適切な作用物質は、差次的に低発現される一つまたは複数の遺伝子のタンパク質活性のうち一つまたは複数を刺激しうる。
【0179】
本発明はまた、対象における腎細胞癌を処置または予防する方法にも関し、該方法は、RCC 1〜251(すなわちアップレギュレートされるRCC遺伝子)からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、そのようなポリペプチドの免疫活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくは断片をコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを該対象に投与する段階を含む。ポリペプチドの投与により、対象において抗腫瘍免疫が誘導される。抗腫瘍免疫を誘導するためには、それを必要とする対象に、RCC 1〜251からなる群より選択される核酸にコードされるポリペプチド、そのようなポリペプチドの免疫活性断片、またはそのようなポリペプチドもしくはその断片をコードするポリヌクレオチドを投与する。ポリペプチドまたはその免疫活性断片はRCCに対するワクチンとして有用である。場合によっては、タンパク質またはその断片を、T細胞受容体(TCR)と結合した形態で、または、マクロファージ、樹状細胞(DC)もしくはB細胞などの抗原提示細胞(APC)によって提示された形態で投与することもできる。DCの抗原提示能力は強いため、APCの中でもDCの使用が最も好ましい。
【0180】
本発明において、RCCに対するワクチンとは、動物に接種すると抗腫瘍免疫を誘導する能力を有する物質を指す。本発明によると、RCC 1〜251にコードされるポリペプチドまたはその断片は、RCC 1〜251を発現するRCC細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導する可能性のあるHLA-A24またはHLA-A*0201拘束性エピトープペプチドであることが示唆された。このように、本発明はまた、ポリペプチドを用いて抗腫瘍免疫を誘導する方法も含む。一般に、抗腫瘍免疫は以下のような免疫応答を含む:
-腫瘍に対する細胞傷害性リンパ球の誘導、
-腫瘍を認識する抗体の誘導、および
-抗腫瘍サイトカイン産生の誘導。
【0181】
したがって、あるタンパク質が、動物への接種時にこれらの免疫応答のいずれか一つを誘導する場合、そのタンパク質は、抗腫瘍免疫誘導効果を有すると判定される。タンパク質による抗腫瘍免疫の誘導は、そのタンパク質に対する宿主における免疫系の応答をインビボまたはインビトロで観察することによって検出できる。
【0182】
例えば、細胞傷害性Tリンパ球の誘導を検出する方法は周知である。特に、生体内に入る外来物質は、抗原提示細胞(APC)の作用によってT細胞およびB細胞に提示される。APCによって提示された抗原に対して抗原特異的な様式で応答するT細胞は、該抗原による刺激によって細胞障害性T細胞(または細胞障害性Tリンパ球;CTL)に分化した後、増殖する(これはT細胞の活性化と呼ばれる)。したがって、あるペプチドによるCTL誘導は、APCによってペプチドをT細胞に提示し、CTLの誘導を検出することによって、評価することができる。さらに、APCは、CD4+ T細胞、CD8+ T細胞、マクロファージ、好酸球、およびNK細胞を活性化する効果を有する。またCD4+ T細胞およびCD8+ T細胞は抗腫瘍免疫性においても重要なので、これらの細胞の活性化効果を指標として用いることによって、ペプチドの抗腫瘍免疫誘導作用を評価することができる。
【0183】
樹状細胞(DC)をAPCとして用いてCTLの誘導作用を評価する方法は、当技術分野で周知である。DCは、APCの中で最も強いCTL誘導作用を有する代表的なAPCである。この方法において、被験ポリペプチドを最初にDCに接触させ、その後このDCにT細胞を接触させる。DCとの接触後に対象の細胞に対して細胞傷害作用を有するT細胞が検出されることは、該被験ポリペプチドが細胞傷害性T細胞を誘導する活性を有することを示す。腫瘍に対するCTLの活性は、例えば51Cr標識腫瘍細胞の溶解を指標として用いることによって、検出できる。あるいは、3H-チミジンの取り込み活性またはLDH(ラクトースデヒドロゲナーゼ)の放出を指標として用いることによって腫瘍細胞損傷の程度を評価する方法も周知である。
【0184】
DCのほかに、末梢血単核球(PBMC)をAPCとして使用することもできる。GM-CSFおよびIL-4の存在下でPBMCを培養することによってCTLの誘導が増大することが報告されている。同様に、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびIL-7の存在下でPBMCを培養することによってCTLが誘導されることも示されている。
【0185】
これらの方法によってCTL誘導活性を有することが確認された被験ポリペプチドは、DC活性化効果およびその後のCTL誘導活性を有するポリペプチドであると見なされる。したがって、腫瘍細胞に対してCTLを誘導するポリペプチドは、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、ポリペプチドとの接触によって腫瘍に対するCTLの誘導能を獲得したAPCも、腫瘍に対するワクチンとして有用である。さらに、APCによるポリペプチド抗原の提示によって細胞障害性を獲得したCTLも、腫瘍に対するワクチンとして用いることができる。APCおよびCTLによる抗腫瘍免疫を用いた、腫瘍に対するそのような治療法は、細胞性免疫療法と呼ばれる。
【0186】
一般に、細胞免疫療法のためにポリペプチドを用いる場合、異なる構造を有する複数のポリペプチドを組み合わせてそれらをDCに接触させることによって、CTL誘導効率が上昇することが知られている。したがって、DCをタンパク質断片で刺激する場合、複数種類の断片の混合物を用いることが有利である。
【0187】
または、ポリペプチドによる抗腫瘍免疫の誘導は、腫瘍に対する抗体産生の誘導を観察することで確認できる。例えば、ポリペプチドに対する抗体が該ポリペプチドで免疫した実験動物において誘導される場合、および腫瘍細胞の増殖がそれらの抗体によって抑制される場合、該ポリペプチドは、抗腫瘍免疫の誘導能を有すると見なされる。
【0188】
抗腫瘍免疫は、本発明のワクチンを投与することによって誘導され、かつ抗腫瘍免疫の誘導によりRCCの処置および予防が可能になる。癌の治療または癌の発症の予防には、癌性細胞の増殖の阻害、癌の退縮、および癌の発生抑制のような段階のいずれかが含まれる。同様に、癌を有する個体の死亡率または疾病率の低下、血液中の腫瘍マーカーレベルの低下、癌に伴う検出可能な症状の軽減なども、癌の処置または予防に含まれる。このような治療効果および予防効果は、統計的に有意であることが好ましい。例えば、細胞増殖性疾患に対するワクチンの治療効果または予防効果をワクチン投与を行わない対照と比較する観察において、5%またはそれ未満は有意水準である。例えば、スチューデントt検定、マン-ホイットニーのU検定、またはANOVAを統計解析に用いることができる。
【0189】
免疫活性を有する上記のタンパク質または該タンパク質をコードするベクターを、アジュバントと併用してもよい。アジュバントとは、免疫活性を有するタンパク質と同時に(または連続的に)投与した場合、該タンパク質に対する免疫応答を増大させる化合物を意味する。アジュバントの例には、コレラ毒素、サルモネラ毒素、ミョウバン等が含まれるがこれらに限定されない。さらに、本発明のワクチンは、薬学的に許容される担体と適切に組み合わせることができる。そのような担体の例には、滅菌水、生理食塩液、リン酸緩衝液、培養液等が含まれるが、それらに限定されない。さらに、必要に応じて、ワクチンは、安定化剤、懸濁剤、保存剤、界面活性剤等を含んでもよい。ワクチンは、全身投与または局所投与され得る。ワクチン投与には、単回投与、または複数回の追加投与が含まれうる。
【0190】
本発明のワクチンとしてAPCまたはCTLを用いる場合、例えばエクスビボ法によって腫瘍を処置または予防することができる。より具体的には、処置または予防を受けている対象のPBMCを採取し、細胞をエクスビボでポリペプチドに接触させ、APCまたはCTLの誘導後に、細胞を該対象に投与してもよい。またAPCは、ポリペプチドをコードするベクターをエクスビボでPBMCに導入することによって誘導することもできる。インビトロで誘導されたAPCまたはCTLは、投与前にクローニングすることができる。標的細胞を障害する活性が高い細胞をクローニングして増殖させることによって、細胞免疫療法を、より効果的に実施することができる。さらに、このようにして単離されたAPCおよびCTLを、該細胞が由来する個体に対してのみならず、他の個体由来の類似のタイプの腫瘍に対する細胞免疫療法のために用いてもよい。
【0191】
さらに、本発明のポリペプチドの薬学的有効量を含む、癌のような細胞増殖性疾患を処置または予防するための薬学的組成物が提供される。薬学的組成物は、抗腫瘍免疫を惹起するために用いてもよい。
【0192】
RCCまたは悪性RCCを阻害するための薬学的組成物:
本発明の文脈において、適切な製剤には、経口、直腸内、鼻腔内、局所(口腔内および舌下を含む)、膣内、もしくは非経口(筋肉内、皮下、および静脈内を含む)投与に適した製剤、または吸入もしくはガス注入による投与に適した製剤が含まれる。静脈内投与が好ましい。製剤は任意で、個別の用量単位に包装される。
【0193】
経口投与に適した薬学的製剤には、それぞれ所定量の活性成分を含む、カプセル剤、カシェ剤、または錠剤が含まれる。適切な製剤にはまた、粉剤、顆粒剤、溶液、懸濁液、および乳液が含まれる。活性成分は、ボーラス、舐剤、またはペーストとして投与されてもよい。経口投与のための錠剤およびカプセル剤は、結合剤、増量剤、潤滑剤、崩壊剤および/または湿潤剤のような従来の賦形剤を含んでもよい。錠剤は、任意で1つもしくは複数の製剤成分を用いて、圧縮または成形により作製することができる。圧縮錠は、任意で結合剤、潤滑剤、不活性希釈剤、潤滑剤、界面活性剤および/または分散剤と混合した活性成分を、適切な機械の内部で、粉剤または顆粒剤のような自由流動形状で圧縮することによって、調製されうる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿らせた粉末化合物の混合物を、適切な機械の内部で成形することによって、作製されうる。錠剤は、当技術分野で周知の方法にしたがって被覆することができる。経口液体調製物は、例えば水性もしくは油性の懸濁液、溶液、乳液、シロップ剤、もしくはエリキシル剤の形態であってもよく、または、使用前に水もしくは他の適したビヒクルで構成するための乾燥製品として提供してもよい。そのような液体調製物は、懸濁剤、乳化剤、非水性ビヒクル(食用油を含みうる)、および/または保存剤のような従来の添加剤を含んでもよい。錠剤は任意で、活性成分の遅延放出または制御放出を提供するように調製してもよい。錠剤の包装は、毎月1回服用されるべき1個の錠剤を含んでよい。
【0194】
非経口投与に適した製剤には、抗酸化剤、緩衝剤、制菌剤、および該製剤を意図されるレシピエントの血液と等張にする溶質を含んでもよい水性および非水性の滅菌注射剤、ならびに、懸濁剤および/または濃化剤を含んでもよい水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。製剤は、単位用量または複数回用量の容器中に、例えば密封されたアンプルおよびバイアル中に提供されてもよく、かつ、使用直前に滅菌液体担体(例えば生理食塩水や注射用水)を添加すればよいだけの凍結乾燥条件で貯蔵されてもよい。または、製剤を持続注入用に提供することができる。即時調合注射溶液および懸濁液は、既に説明した種類の滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製することができる。
【0195】
直腸投与に適した製剤には、カカオバターまたはポリエチレングリコールのような標準的な担体を含む坐剤が含まれる。口内、例えば口腔内または舌下への局所投与に適した製剤には、ショ糖およびアカシアまたはトラガカントのような着香基剤に活性成分を含むトローチ剤、ならびにゼラチンとグリセリンまたはショ糖とアカシアのような基剤に活性成分を含む香錠が含まれる。鼻腔内投与の場合、本発明の化合物を液体スプレー、分散性の粉末、または点鼻剤の形態で用いてもよい。点鼻剤は、一つまたは複数の分散剤、溶解剤、および/または懸濁剤を含んでもよい水性または非水性の基剤と共に製剤化されうる。
【0196】
吸入投与の場合、吹入器、ネブライザー、加圧パック、または、エアロゾルスプレーを送達する他の従来の手段によって、本発明の化合物を都合よく送達することができる。加圧パックは、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、炭酸ガス、または他の適切なガスなどの適切な噴射剤を含んでもよい。加圧エアロゾルの場合、投与単位は、一定量を送達するバルブを提供することで決定することができる。
【0197】
あるいは、吸入またはガス注入による投与の場合、化合物は、乾燥粉末組成物、例えば該化合物と乳糖またはデンプンのような適切な粉末基剤との粉末混合物の形状をとってもよい。粉末組成物は、単位投与剤形で、例えば、吸入器または注入器によって粉末が投与され得るカプセル剤、カートリッジ、ゼラチンまたはブリスターパックの形状で、提供されてもよい。
【0198】
その他の製剤には、治療薬を放出する、移植可能な装置および粘着性パッチなどが含まれる。
【0199】
望ましい場合、活性成分が徐放性となるように適合化させた上記の製剤を使用することができる。薬学的組成物はまた、抗菌剤、免疫抑制剤および/または保存剤のような他の活性成分を含んでもよい。
【0200】
上記で特に言及した成分の他に、本発明の製剤には、当該製剤のタイプに関して当技術分野において従来的な他の作用物質が含まれていてもよいと理解すべきである。例えば経口投与に適した製剤は着香料を含んでいてもよい。
【0201】
好ましい単位投与製剤は、下記に引用される、有効量またはその適切な一部の活性成分を含む製剤である。
【0202】
上記の条件のそれぞれに関して、組成物、例えばポリペプチドおよび有機化合物は、約0.1〜約250 mg/kg/日の用量範囲で、経口でまたは注射によって投与され得る。成人の用量範囲は一般に、約5 mg〜約17.5 g/日であり、好ましくは約5 mg〜約10 g/日であり、最も好ましくは約100 mg〜約3 g/日である。個別の単位で提供される錠剤または他の単位投与剤形は、便宜上、該投与量でまたはその複数回投与量として有効性を示すような量、例えば約5 mg〜約500 mg、通常は約100 mg〜約500 mgを含む単位量を含む。
【0203】
使用される用量は、対象の年齢および性別、処置される正確な疾患、およびその重篤度を含む、いくつかの要因に左右される。投与経路もまた、条件およびその重篤度によって変動しうる。いずれにしても、適切で最適な投与量は、当業者により、上述の要因を考慮した上で慣行的に計算され得る。
【0204】
さらに本発明のいくつかの局面を以下の実施例に記載しているが、これらは、添付の特許請求の範囲に記載された本発明の範囲を限定することを意図したものではない。以下の実施例は、RCC細胞において差次的に発現する遺伝子の同定および特徴決定についての説明である。
【0205】
レーザーマイクロダイセクションによって純粋に選択された明細胞RCC細胞および正常腎皮質細胞を用いた腎細胞癌の遺伝子発現プロファイルのゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイ分析:
腫瘍マーカーおよび治療的介入のための標的は、遺伝子27,648個を表すcDNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現プロファイルを分析することによって同定した。腎細胞癌は、様々な細胞成分を含む固体の塊として存在する。したがって、癌細胞をレーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)によって腎細胞癌15例から精製した。遺伝子発現プロファイルを調べて、正常な精製腎皮質細胞のプロファイルと比較した。これらの細胞集団は、これにより均一となった(95%より高く精製された細胞)。その結果、遺伝子251個が、腎細胞癌細胞において一般的にアップレギュレートされていると同定された。これらのアップレギュレートされた遺伝子の中には、RCCにおいて過剰発現されていると既に報告されていたCyclin-D1(CCND1)が含まれた(Hedberg Y., et al., (1999) Int. J. Cancer, 84: 268-72, 1999)この遺伝子は、本発明において、参考となるRCC症例15例中9例において過剰発現された。遺伝子721個は、腎細胞癌細胞において一般的にダウンレギュレートされていると同定された。
【0206】
本発明は、初期の方法の限界の多くを克服している。したがって、本発明の遺伝子発現プロファイルは、非常に正確な癌の基準を構成する。第一に、様々な細胞成分が正常組織のみならず癌組織に存在することから、臨床試料を用いるマイクロアレイ分析は、これまで難しいことが証明されている。特に、腎細胞癌は様々な細胞成分を含む固形塊として存在するという特徴を有する。したがって、腎細胞癌塊および正常腎皮質細胞を用いる遺伝子発現プロファイルの分析は、腎細胞癌に関係する遺伝子の有意な増加または減少を隠す可能性がある、試験される組織において混合された細胞によって有意に影響を受ける。したがって、本発明においては、LMMシステムを用いて、外科標本から癌および正常上皮細胞を非常に高い純度(95%またはそれ以上)まで精製した。LMMによって単一の細胞でさえも微小切除することが可能であるため、この技術は、腎細胞癌標本の正確なマイクロアレイ解析にとって重要である。
【0207】
癌細胞および正常腎皮質細胞を注意深く精製して、その後RNAを単離し、cDNAマイクロアレイ解析を行うことによって、その発現が共通してアップレギュレートされた遺伝子251個が得られた(50%を超える癌症例において発現データを得ることができかつその発現比(Cy5/Cy3強度比)が5.0を上回る遺伝子;症例の33〜50%において計算できかつ症例の全てにおいて5.0を上回る発現比を示した遺伝子も評価した)。
【0208】
本明細書において得られかつ記載されたプロファイルは、高度に精製された癌性細胞(腎細胞癌)の集団を解析し、最も関連する正常対照、すなわち正常腎皮質細胞の高度に精製された集団と比較することによって得られたので、初期のプロファイルと比較して改善を示す。初期の方法およびプロファイルは、初期のプロファイルの精度および信頼性を減少させる混入細胞の割合が高いことによって妨害された。本発明のプロファイルは、大規模な腎細胞癌に関する最初の正確なゲノム全体の遺伝子発現プロファイルである。これらのデータは、腎細胞癌を処置するための治療的調節のための分子標的、および癌または前癌状態の早期の正確な診断のための特異的新規腫瘍マーカーを同定する。
【0209】
特に定める場合を除き、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般に理解されているのと同じ意味を有する。本明細書に記載したのと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に用いることができるが、適切な方法および材料は以下に記載するものである。本明細書で言及されたすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、その全文が参照により組み入れられる。矛盾が生じる場合は、定義を含め本明細書が優先する。さらに、材料、方法、および実施例は説明のみを目的としており、制限を意図するものではない。
【0210】
実施例
材料および方法:
さらに本発明を以下の実施例において説明するが、これは、添付の特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を制限するものではない。
【0211】
患部組織から得た組織および正常組織を、発現に差のある遺伝子、または疾患状態、例えばRCCを同定するために評価した。アッセイ法は以下のように実施した。
【0212】
患者、組織試料および細胞株
全ての患者がインフォームドコンセントを受け、インフォームドコンセントを得た患者15人(男性9人および女性6人;pT1 10例、pT2 2例、およびpT3 3例を含む明細胞腎細胞癌;平均年齢61.3歳、範囲36〜75歳)から腎細胞癌を得た(表1)。カルテから臨床情報を得て、それぞれの腫瘍を、病理学者が組織病理学的サブタイプおよび悪性度に従って診断した。各患者の臨床病期を、日本泌尿器学会の腎細胞癌に関する臨床病理研究のための一般規則に従って判断した。試料は全て、直ちに凍結して-80℃で保存した。腎細胞癌(Caki-1、Caki-2、786-O、A498、ACHN、769-P、A704、RXF-631L、OS-RC-2、TUHR10TKB、およびTUHRl4TKB)細胞に由来する細胞株および腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)を、10%ウシ胎児血清および1%抗生物質/抗真菌剤溶液を添加した適当な培地において単層で成長させ、5%CO2を含む空気中で37℃で維持した。
【0213】
(表1)RCC患者の臨床病理学的特色
【0214】
組織試料およびLMM
試料はTissueTek OCT媒質(Sakura)中に包埋し、使用時まで-80℃で保存した。凍結標本をクリオスタットで連続的に切片化して8μmの切片とし、解析する領域を規定するためにヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。癌細胞と非癌細胞の交差汚染を避けるために、EZ Cut LMM System(SL Microtest GmbH)を製造元のプロトコールにいくつかの修正を加えて用いることによって、これら2つの集団を調製した。貯蔵工程および組織採取の間の影響を最小化するために、癌組織を同じ手順によって慎重に取り扱った。RNAの質を調べるために、各症例の残りの組織から抽出した全RNAを変性アガロースゲル中で電気泳動し、リボソームRNAバンドの存在によってそれらの質を確認した。
【0215】
RNA抽出およびT7に基づくRNA増幅
レーザーで捕捉した細胞の各集団から全RNAを抽出し、350μlのRLT可溶化緩衝液(QIAGEN)に入れた。抽出したRNAを、30単位のDNase I(QIAGEN)により室温で30分間処理した。70℃において10分間失活させた後に、製造元の推奨に従ってRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用い、RNAを精製した。DNase Iで処理したRNAの全てを、Ampliscribe T7 Transcription Kit (Epicentre Technologies)を用いた、T7に基づく増幅に供した。2回の増幅により、各試料に関して41.5〜163.4μgの増幅RNA(aRNA)が得られたが、一方、本発明者らが11例の腎臓癌患者由来の正常腎皮質からRNAを増幅した場合には、合計477.0μgが得られた。癌性細胞および正常腎皮質細胞にそれぞれ由来するaRNAの2.5μgアリコートを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(Amersham Biosciences)の存在下で逆転写させた。
【0216】
cDNAマイクロアレイ
スライドガラス上にスポットするためのcDNAを得るために、本発明者らは、以前に記載された通り、各遺伝子に対してRT-PCRを行った(Kitahara O, et al., (2001) Cancer Res;61:3544-9)。高密度Microarray Spotter Lucidea(GE Healthcare, Amersham Biosciences)を用いてPCR産物をタイプVIIスライドガラス(GE Healthcare, Amersham Biosciences, Buckinghamshire UK)上にスポットした;9,216遺伝子を1枚のスライドガラス上に2通りスポットした。3種類の異なるスライドセット(計27,648遺伝子のスポット)を調製した;そのそれぞれに、同じ52種類のハウスキーピング遺伝子および2種類の陰性対照遺伝子も含めた。cDNAプローブは、以前に記載された様式でaRNAから調製した(Okabe H, et al., (2001) Cancer Res;61:2129-37)。ハイブリダイゼーション実験のために、各癌組織からおよび対照から増幅したRNA(aRNA)7.5μgを、それぞれCy5-dCTPおよびCy3-dCTP(GE Healthcare, Amersham Biosciences)の存在下で逆転写させた。ハイブリダイゼーション、洗浄、及びシグナルの検出は、以前に記載された様式で実施した(Okabe H, et al., (2001) Cancer Res;61:2129-37)。
【0217】
ハイブリダイゼーションおよびデータの収集
全てのプロセスを自動スライドプロセッサ(Amersham Biosciences)で実施したことを除き、ハイブリダイゼーションおよび洗浄は、以前に記述されたプロトコールに従って行った(Ono K., et al., (2000) Cancer Res, 60: 5007-11)。
【0218】
スポット27,648個からのCy3およびCy5のシグナル強度を定量して、ArrayVisionソフトウェア(Imaging Research, Inc., St. Catharines, Ontario, Canada)を用いてバックグラウンドを差し引くことによって解析した。続いて、各標的スポットに関するCy5(腫瘍)およびCy3(対照)の蛍光強度を、アレイ上の52個のハウスキーピング遺伝子の平均Cy3/Cy5比が1と等しくなるように調整した。低シグナル強度に由来するデータの信頼性は低いため、本発明者らは、以前記載されたように(Ono, K., et al., (2000) Cancer Res, 60: 5007-11)各スライドに対してカットオフ値を規定し、Cy3色素およびCy5色素の両方でカットオフ値よりも低いシグナル強度が得られた場合、その遺伝子を以降の分析から除外した。他の遺伝子に関して、本発明者らは、各試料の生データを用いてCy5/Cy3比を算出した。
【0219】
RCCにおいて共通してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子の同定
各遺伝子の相対的発現比(Cy5/Cy3強度比)を、4つのカテゴリーのいずれかに分類した:(A)アップレギュレートされた(発現比が>5.0);(B)ダウンレギュレートされた(発現比が<0.2);(C)変化なし(発現比が0.2〜5.0の間);および(D)発現されず(またはわずかな発現はあるが検出用カットオフレベル未満)。これらのカテゴリーを用いて、試料間で発現比の変化が共通している遺伝子のセットを検出した。各群において共通してアップレギュレートまたはダウンレギュレートされる候補遺伝子を検出するために、27,648遺伝子の全体的な発現パターンをまずスクリーニングして、分類された群の50%超に存在しかつ発現比が>5.0または<0.2である遺伝子を選択した。
【0220】
半定量RT-PCR
19のアップレギュレートされた遺伝子を選択し、半定量的RT-PCR実験を適用することによってそれらの発現レベルを調べた。各試料からのaRNAの1μgのアリコートを、ランダムプライマーおよびSuperscript II(Life Technologies, Inc.)を用いて一本鎖cDNAへと逆転写した。各cDNA混合物を、表2に示したプライマーセットを用いた次のPCR増幅のために希釈した。本マイクロアレイデータにおけるCy5/Cy3の変動が最も小さかったので、各遺伝子の発現を標準化するために、52種類のハウスキーピング遺伝子の中から、ファルネシル-ジホスフェートファルネシルトランスフェラーゼ1(FDFT1)を内部対照として選択した。産物の強度が確実に増幅の直線相(linear phase)に入るように、PCR反応のサイクル数を最適化した。
【0221】
(表2)半定量的RT-PCRのためのプライマー配列
【0222】
C6700は2つの異なる転写産物を有するので、以下のプライマーを用いて半定量的RT-PCRを実施して、どちらの変異体がRCC細胞内で過剰発現しているかを確認した:
C6700FV1 5'-GTCCCCACTGCTTTGAGATG-3' (SEQ ID NO: 37)、
C6700RV1 5'-GTGTGTGTTCCTGAACAGATGAA-3' (SEQ ID NO: 12);
C6700FV2 5'-GACTGTGCAGGGTTCAATCTC-3' (SEQ ID NO: 38)、
C6700RV2 5'-GTGTGTGTTCCTGAACAGATGAA-3' (SEQ ID NO: 12);
内部対照用のβ2-ミクログロブリン(β2MG)
5'-TTAGCTGTGCTCGCGCTACT-3' (SEQ ID NO: 39)、
5'-TCACATGGTTCACACGGCAG-3' (SEQ ID NO: 40) 。
【0223】
RCC細胞(786-O、A704、OS-RC-2、およびTUHR14TKB)におけるC6700V1およびC6700V2の発現レベルを調べるために、以下のプライマーセットを用いてRT-PCT実験を実施した:
5'-CTGGAAACAGCAGCCAGAG-3' (SEQ ID NO: 83) および5'-CAGTGCTGGCAAGACAGGTA-3' (SEQ ID NO: 84)。
産物の強度が確実に増幅の対数期内に入るように、PCR反応をサイクル数について最適化した。
【0224】
B9320変異体の転写産物の発現レベルをRT-PCRによって更に確認するために、以下のプライマーセットを使用した:
変異体1: 5'-GGAGTGGGAACCGCAGAAC-3' (SEQ ID NO: 90) および
5'-GACCCCCACCTTCAAATCAC-3' (SEQ ID NO: 91);
変異体2: 5'-GCTCGTGCTCGACAGGTGTGTA-3' (SEQ ID NO: 92) および
5'-CAGGTCATGGCCGGGTTC-3' (SEQ ID NO: 93)。
産物の強度が確実に増幅の対数期内に入るように、PCR反応をサイクル数について最適化した。
【0225】
ノーザンブロット分析
Micro-FastTrack(Invitrogen)を用いて腎細胞癌細胞株4例およびRPTEC細胞から単離した各mRNA、およびヒト正常組織ポリA(+)RNA(Clontech, Palo Alto, California)、心臓、肝臓、肺、腎臓、脳、および精巣の1μgのアリコットを1%変性アガロースゲルにおいて分離して、ナイロンメンブレンに転写した。このノーザンブロットおよびヒト多組織ノーザンブロット(Clontech, Palo Alto, CA)をまた、RT-PCRによって候補遺伝子の[α32P]-dCTP標識増幅産物とハイブリダイズさせた。プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーション、および洗浄は、供給元の推奨に従って実施した。ブロットを強化スクリーンによって-80℃で14日間オートラジオグラフを行った。特異的プローブは、表3に示される特異的プライマーセットを用いてPCRによって調製した。
【0226】
(表3)ノーザンプローブのためのプライマーの配列
【0227】
発現ベクターの構築
B7032NおよびB9320のオープンリーディングフレームの配列を、以下のプライマーによってKOD-Plus DNAポリメラーゼ(Toyobo, Osaka, Japan)を用いたPCRによって得た:B7032N-フォワード5'-AACGAATTCATGGCGTCCCCACGGGA-3'(SEQ ID NO: 97)(下線部はEcoRI制限酵素部位を示す)、および5'-CAACTCGAGCTGGTGAGCAGGCACCGTG-3'(SEQ ID NO: 98)(下線部はXhoI制限酵素部位を示す)、ならびにB9320-フォワード5'- CAAGAATTCATGTCGAGCCCGGGCATC-3'(SEQ ID NO:99)、および5'- GCTGAATTCACCTCAATGACGAGGCAGCGG-3'(SEQ ID NO, 100)(下線部はEcoR I制限酵素部位を示す)。B7032NのPCR産物を、pCAGGSsnH3F発現ベクターのEcoR IおよびXhoI部位に挿入した。B9320のPCR産物をpCAGGSsnH3F発現ベクターのEcoRI部位に挿入した。これらの構築物のDNA配列をDNAシークエンシングによって確認した。
【0228】
免疫細胞化学分析
外因性の発現に関して、COS7細胞を5×104個/ウェルで播種した。24時間後および48時間後、FuGENE 6トランスフェクション試薬(Roche)を用いて製造元の説明書に従って、細胞を、pCAGGS-HA-B7032NまたはpCAGGS- HA-B9320 1 mgでCOS7細胞に一過性にトランスフェクトした。次に、細胞を4%パラホルムアルデヒドを含むPBS(-)によって4℃で15分間固定して、0.1%トリトンX-100を含むPBSによって4℃で2.5分間透過性にした。次に、細胞を3%BSAのPBS(-)溶液で4℃で12時間覆って、非特異的ハイブリダイゼーションをブロックした。次に、B7032N-HAトランスフェクトCOS7細胞およびB9320-HAトランスフェクトCOS7細胞を、1:1000倍希釈のラット抗-HA抗体(SANTA CRUZ)と共にインキュベートした。PBS(-)によって洗浄後、トランスフェクト細胞を、1:3000倍希釈のAlexaFluro 488共役抗ラット二次抗体(Molecular Probe)によって染色した。核を4',6'-ジアミジン-2'-フェニルインドールジヒドロクロリド(DAPI)によって対比染色した。TCS SP2 AOBS顕微鏡(Leica, Tokyo, Japan)において蛍光画像を得た。
【0229】
ウェスタンブロット分析
B7032Nタンパク質およびB9320タンパク質を先に記述したようにそれぞれ、pCAGGS-nHA発現ベクターを用いてCOS7細胞へのトランスフェクションによって外因性に発現させた。全細胞溶解物をトランスフェクションのそれぞれ、24時間後および48時間後に回収した。トランスフェクトした細胞を溶解緩衝液(50 mmol/Lトリス(pH 7.5)、150 mmol/L NaCl、10 mmol/L CHAPS、および0.1%プロテアーゼ阻害剤カクテルセットIII(Calbiochem)において溶解した。ホモジナイゼーションの後、細胞溶解物を氷上で30分インキュベートして14,000 rpmで15分間遠心して、上清のみを細胞片から分離した。総タンパク質の量をタンパク質アッセイキット(Bio-Rad, Hercules, CA)によって推定した後、タンパク質をSDS-試料緩衝液と共に混合して、沸騰させてから10%SDS-PAGEゲルにローディングした。電気泳動後、タンパク質をニトロセルロースメンブレン(GE Healthcare)にブロットした。タンパク質を含むメンブレンをブロッキング溶液によってブロックして、外因性のB7032Nタンパク質およびB9320タンパク質を検出するために、ラット抗HAモノクローナル抗体(SANTA CRUZ)と共にインキュベートした。最後に、メンブレンをHRP共役ラット二次抗体と共にインキュベートして、タンパク質バンドをECL検出試薬(GE Healthcare)によって可視化した。
【0230】
PFKFB4を安定に発現するNIH3T3細胞の確立
B7032N発現ベクター、B9320発現ベクター、または偽ベクターを上記のようにFUGENE6を用いてNIH3T3細胞にトランスフェクトした。トランスフェクトした細胞を0.9 mg/mlゲネチシン(G418)(Invitrogen)を含む培養培地においてインキュベートした。クローンNIH3T3細胞を限界希釈によってサブクローニングした。HA-タグB7032NまたはHA-タグB9320の発現を、抗HAモノクローナル抗体を用いるウェスタンブロット分析によって査定した。最終的にいくつかのクローンを確立してB7032N-NIH3T3またはB9320-NIH3T3と命名した。B7032NまたはB9320の成長促進効果を調べるために、独立した四つのB7032N-NIH3T3細胞(B7032N-A、-B、-C、および-D)および独立した三つの偽-NIH3T3細胞(Mock-A、-B、および-C)、または独立した四つのB9320-NIH3T3細胞(B9320-1、-2、-3)、独立した三つのMock-NIH3T3細胞(Mock-1、-2、および-3)各5×103個を播種して、細胞の数を、Cell counting kit-8(同仁化学研究所、熊本、日本)によって、製造元の説明書に従って5日間毎日計数した。これらの実験は3度ずつ行った。
【0231】
psiU6X3.0を用いたC6700、B7032N、およびB9320特異的siRNA発現ベクターの構築
ベクターに基づくRNAiシステムを、先の報告(WO2004076623;Shimokawa T, et al. Cancer Res. 2003;63:6116-20)に従って、C6700に関してpsiU6BX siRNA発現ベクターを用いて、ならびにB7032NおよびB9320に関してPsiH1BX siRNA発現ベクターを用いて確立した。C6700、B7032N、およびB9320に対するsiRNA発現ベクター(psiU6BX-C6700、psiHlBX-B7032N、またはpsiHlBX-B9320)を、表6における二本鎖オリゴヌクレオチドの、psiU6BXベクターのBbsI部位へのクローニングによって調製した。対照プラスミドpsiU6BX-Mock、Luc、Scramble、およびEGFPは、psiU6BX 3.0ベクターのBbsI部位に二本鎖オリゴヌクレオチドをクローニングすることによって調製した。
【0232】
C6700、B7032N、およびB9320の遺伝子サイレンシング効果
C6700に関してヒトRCC細胞株OS-RC-2、B7032Nに関してRXF-631LおよびA498、B9320に関してCaki-2およびA498を、10 cm培養皿(1×106個/皿)に播種して、FuGENE6試薬(Roche)を用いてLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、供給元の推奨に従って、陰性対照としてのpsiU6BX-Mock、Luc、Scramble、およびEGFP、psiU6BX-C6700、psiU6BX-B7032N、ならびにpsiU6BX-B9320をトランスフェクトした。各構築物のトランスフェクション後10日目に細胞から総RNAを抽出した後、siRNAのノックダウン効果を、先に記述したようにC6700の共通領域に関する特異的プライマーを用いる半定量的RT-PCRによって確認した。トランスフェクトしたOS-RC-2細胞を、0.7 mg/mlネオマイシン(ゲネチシン;Gibco BRL Carlsbad, CA)を含む培地において選択した。次に、ゲネチシン選択の5日後に総RNAを細胞から抽出した後、以下の特異的プライマーセットを用いる半定量的RT-PCRによってsiRNAのノックダウン効果を試験した。
内部対照としての、フォワード 5'-AACTTAGAGGTGGGGAGCAG-3'(SEQ ID NO:85)及び
リバース 5'-CACAACCATGCCTTACTTTATC-3'(SEQ ID NO:86)、ならびに、
C6700に対する、5'-TGACCTGTGCTTAGAAGTCCTTT-3'(SEQ ID NO:11)及び
5'-GTGTGTGTTCCTGAACAGATGAA-3'(SEQ ID NO:12);
B7032Nに対する、フォワード 5'-CGGTGGTCTCTCATCCTTGT-3'(SEQ ID NO:101)及び
リバース 5'-GCAACTCCTAACTCCCCTCTGTA-3'(SEQ ID NO:87);
B9320に対するフォワード 5'-GCCTCGAGGTTATGCTTGAA-3'(SEQ ID NO:102)及び
リバース 5'-ATGCAGTCACTCACGCTCAG-3'(SEQ ID NO:103)
3-(4,5-ジメチルチアゾル-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(MTT)アッセイにおいて、供給元のプロトコールに従って、トランスフェクションの7または14日後にCell-counting kit-8(同仁化学研究所、熊本、日本)を用いて細胞生存率を評価した。21日間インキュベートした後、これらの細胞を4%パラホルムアルデヒドによって固定して、コロニー形成アッセイのためにギムザ溶液によって染色した。
【0233】
結果
RCCにおいて一般的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子の同定
周囲の非癌性細胞、または非正常細胞の混入を防止するために、レーザーマイクロビームマイクロダイセクションを行って、腫瘍塊における癌細胞のみ、および正常腎皮質細胞に由来する細胞のみを選択した。図1において示すように、RCCの代表的な例を各臨床標本から顕微解剖した。これによって、本発明者らはその後の遺伝子発現プロファイルをより正確に得ることができる。
【0234】
RCCの癌発生の基礎となるメカニズムを解明するために、RCCにおいて一般的にアップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子をまず調べた。RCC 15例における遺伝子発現プロファイルにより、共通に変化した発現を有する遺伝子972個が同定され;参考となる症例の50%より多くにおいて発現比>5.0が明らかになった遺伝子251個(材料および方法を参照されたい)(表4)が同定され、一方、正常腎皮質細胞と比較してRCC細胞においてその発現が0.2未満まで低減された遺伝子は721個であった(表5)。これらのアップレギュレートされた遺伝子の中に、RCCにおいて過剰発現されていると既に報告されているCyclin-D1(CCND1)(Hedberg Y., et al, (1999) Int. J. Cancer, 84: 268-72)が含まれた。この遺伝子は、本発明において参考となるRCC症例15例中9例において過剰発現された。これらのアップレギュレートされた遺伝子の中で、遺伝子182個の生物学的機能は、既にある程度公知であった。それらの中で、HIG2(Hypoxia inducible gene 2)、NNMT(Nicotinamide N-methyltransferase)、IGFBP3(Insulin-like growth factor binding protein 3)、VEGF(Vascular endothelial growth factor)、およびVWF(Von Willebrand factor)は既に、腎腫瘍形成に関係する遺伝子であると報告されており(Togashi A, et al, (2005)Cancer Res.;65:4817-26;Yao M, et al, (2005) J Pathol.;205:377-87;Cheung CW, et al., (2004) Kidney Int.;65:1272-9;Staehler M, et al., (2005) Curr Drug Targets.;6:835-46;Braybrooke JP, et al., (2000) Clin Cancer Res.;6:4697-704)、本発明者らのマイクロアレイデータの品質が高いことを支持している。アップレギュレートされた遺伝子は、シグナル伝達経路に関連する遺伝子(ADORA3、EDA2R)、または様々な代謝経路に関係する遺伝子(SCD、ENPP3)、輸送系に関係する遺伝子(SLC1A3、ABCG1)、血管新生に関係する遺伝子(VEGF)、アポトーシスに関係する遺伝子(FTS)、および細胞接着に関係する遺伝子(CDH2)を含む、多様な機能を表した。特に、アップレギュレートされた遺伝子の92個は、正常皮質細胞より10倍より高いレベルで発現され、たとえばADORA3(アデノシンA3受容体)、SLC1A3(溶質キャリア ファミリー1 メンバー3)、およびSTC2(スタニオカルシン2)は、参考となる症例の90%より多くにおいて10倍より高くアップレギュレートされた。これらのダウンレギュレートされた遺伝子の中で、遺伝子532個は、ある程度機能的に特徴付けられている。それらには、WT1(ウィルムス腫瘍1)、CDKNIC(サイクリン依存キナーゼインヒビター1C)、およびGAS1(増殖停止特異的1)が含まれ、これらは、成長抑制またはアポトーシスにおけるその役割を意味する(Niu Z, et al., (2005) J Urol;174:1460-2;Kikuchi T, et al., (2002) Oncogene. ;21:2741-9;Watanabe H, et al., (1998) Proc Natl Acad Sci U S A.;95:1392-7; Evdokiou A & Cowled PA. (1998) Int J Cancer.;75 :568-77)。特に、WT1およびCDKN1Cは、RCC症例15例全てにおいて有意にダウンレギュレートされ、GAS1もまた、15例中14例において有意にダウンレギュレートされ、それらの遺伝子のダウンレギュレーションがRCC腫瘍発生に関連する可能性があることを示している。
【0235】
(表4)RCCにおいてアップレギュレートされた遺伝子
【0236】
(表5)RCCにおいてダウンレギュレートされた遺伝子
【0237】
半定量的RT-PCRおよびノーザンブロット分析による選択された遺伝子の確認
cDNAマイクロアレイ分析によって得られた発現データの信頼性を確認するために、明細胞RCCを有する参考となる症例において有意にアップレギュレートされた遺伝子21個(アクセッション番号NM_018092、AA632745、NM_007250、W86513、BC077726、AA156409、W57613、CR749811、AW972553、AL832896、AK021778、AK026403、AK025204、NM_000677、AF070609、AI290343、AA442590、NM_000552、BC000234、BC034014、およびNM_004567)について半定量的RT-PCR実験を行った。これらの遺伝子の中で、遺伝子13個(アクセッション番号NM_018092、AA632745、NM_007250、W86513、BC077726、AA156409、W57613、CR749811、AW972553、AL832896、AK021778、AK026403、またはAK025204)は、正常対照としての腎近位尿細管上皮細胞(RPTEC)と比較して、四つのRCC細胞株Caki-1、Caki-2、786-O、およびA498においてアップレギュレートされることが確認された。それらの中で遺伝子8個は、RCC細胞株においてもアップレギュレートされた(図2a)。これらの結果は、試験した症例の大多数においてマイクロアレイ分析の結果と非常に一致した。特に、C6700は、RPTECと比較して8個の細胞株ACHN、769-P、RXF-631L、TUHR10TKB、Caki-1、Caki-2、786-O、およびA-498の中で3個、すなわちA704、OS-RC-2、およびTUHR14TKBにおいてアップレギュレートされることが確認された(図2b)。
【0238】
これらの候補遺伝子の発現パターンをさらに試験するために、複数のヒト組織およびRCC細胞株について、それぞれのcDNA断片をプローブとして用いてノーザンブロット分析を行った(材料および方法を参照されたい)。候補遺伝子の中で、セマフォリン5B、SEMA5Bに対して設計されたC6700(Genbankアクセッション番号:BC077726)は、胎児脳および胎児腎臓を除く正常ヒト組織に限って発現された(図3左のパネル)。さらに、C6700のcDNA断片をプローブとして用いてRCC細胞株についてノーザンブロット分析を行った(材料および方法を参照されたい)。C6700の発現は、RCC細胞株11例中3例においてアップレギュレートされた(図3、右のパネル)。次に、USCSデータベースにより、ABI遺伝子ファミリー メンバー3(NESH)結合タンパク質(ABI3BP)に対して設計されたF5749(Genbankアクセッション:AK025204)が、染色体3q12に存在し、かつエキソン11個からなる3545塩基の転写物およびエキソン35個からなる4533塩基の転写物を有することが明らかとなった。多重ノーザンブロット分析により、3545塩基の転写物が特異的プローブを用いてもいかなる種の正常ヒト組織においても発現されなかったが(図4a)、約2.0、4.5、および7.5 kb転写物は、3545塩基および4533塩基転写物の共通の配列をプローブとして用いて、正常ヒト組織において広く発現されることが観察された(図4b)。理論的タンパク質MGC38937と類似のLOC339977に対して設計されたC8919(Genbankアクセッション番号:CR749811)は、染色体4q11に転写物と共に存在し、エキソン4個からなる長さが3348塩基である。約3.4 kbの転写物は、多重ノーザンブロット分析によって骨格筋に限って非常に弱く発現された(図5)。PFKFB4(6-ホスホフルクト-2-キナーゼ/フルクトース-2,6-ビスホスファターゼ4)遺伝子(Genbankアクセッション番号NM_004567)に対して設計されたB7032Nは、その約3.5 kbのPFKFB4転写物が膀胱癌細胞株11例中2例においてアップレギュレートされたが、精巣および膵臓を除き正常臓器では発現されなかった(図6)。FBXLl6(Fボックスロイシンリッチリピートタンパク質16)遺伝子(V1に関してGenbankアクセッション番号BC034014、およびV2に関してNM_153350)に対して設計されたB9320は、二つのFBXL16転写物の約4 kb(V1)および2.4 kb(V2)が、膀胱癌細胞株4例中2例において有意にアップレギュレートされた。2.4 kb転写物は腎臓および甲状腺において発現されたが、4 kb転写物は、脳、精巣、脊髄および膵臓を除き正常臓器では発現されなかった(図7)。
【0239】
B7032Nの特徴をさらに試験するために、B7032Nの発現およびB7032N遺伝子産物の細胞内局在を哺乳動物細胞において試験した。最初に、B7032Nタンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-B7032N-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトして、ウェスタンブロット分析を行ったところ、外因性のB7032Nがトランスフェクションの24時間後および48時間後の双方において予想される大きさのバンドとして発現された(図10a)。さらに、免疫細胞化学染色により、トランスフェクトした細胞の全てにおいて細胞質に外因性に局在することが示された(図10b)。
【0240】
B9320の特徴をさらに調べるために、B9320の発現およびB9320遺伝子産物の細胞内局在を哺乳動物細胞において調べた。最初にB9320タンパク質を発現するプラスミド(pCAGGS-B9320-HA)をCOS7細胞に一過性にトランスフェクトして、ウェスタンブロット分析により、外因性のB9320がトランスフェクションの24時間後および48時間後の双方において単一のバンドとして発現されることが明らかとなった(図13a)。さらに、免疫細胞化学染色により、トランスフェクト細胞の全てにおいて細胞質に外因性に局在することが示された(図13b)。
【0241】
C6700のゲノム構造
C6700の全cDNA配列を得るために、RCC細胞株、すなわちOS-RC-2またはC704を鋳型として用いてRT-PCRを行った。セマフォリン5B、SEMA5Bに対して設計されたC6700は、染色体3p21.1に存在した。
【0242】
C6700は、C6700V1およびC6700V2にそれぞれ対応するエキソン23個からなる異なる二つの転写変異体を有する(図8a)。V2のエキソン1、16、および20には代わりの変異が存在し、他の残りのエキソンは双方の変異体に対して共通であり、V2では最後のエキソン内に新規の終始コドンを生成したが、V1の終始コドンはエキソン22内である。V2変異体のエキソン1として32 bpからなる新規エキソンを生成した。V2のエキソン16は、3'末端でV1のそれより3 bp長く、V2のエキソン20もまた、5'末端でV1のそれより3 bp長かった。さらに、エキソン21は、3'末端でV2のそれより131 bp短かった。C6700V1およびC6700V2変異体の完全長のcDNA配列はそれぞれ、4725および4494ヌクレオチドからなる。これらの変異体のORFはそれぞれのエキソン1内で始まる。最終的にV1およびV2の転写物はそれぞれ、アミノ酸1093個および1152個をコードする。RCC細胞株におけるそれぞれの変異体の発現パターンをさらに確認するために、各変異体に対して認識されるプライマーセットを用いて半定量的RT-PCRを行った(図8bを参照されたい)。その結果、V2変異体は、RCC細胞において特異的に過剰発現されることが発見された(図8b)。したがって、C6700V2に関してさらなる機能的分析を行った。
【0243】
C6700、B7032N、およびB9320の発現を低減させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の成長阻害効果
C6700、B7032N、およびB9320の成長促進役割を査定するために、内因性のC6700、B7032N、およびB9320の発現を、C6700に関して、C6700の過剰発現を示した細胞を含むRCC細胞株OS-RC-2、B7032Nに関して、B7032Nの過剰発現を示したRXF-631LおよびA498、ならびにB9320に関してB9320の過剰発現を示したCaki-2およびA498において、哺乳動物のベクターに基づくRNA干渉(RNAi)技術によってノックダウンした(材料および方法を参照されたい)。C6700、B7032N、およびB9320の発現レベルを半定量的RT-PCR実験によって調べた。
【0244】
図9aに示すように、C6700特異的siRNA(si1、si6、およびsi-#2)は、四つの対照siRNA構築物(psiU6BX-Luciferase、Scramble、EGFP、およびMock)と比較してC6700の発現を抑制した。試験したsiRNA構築物において、si-#2は、対照siRNA(si-Scrambleおよびsi-Mock)と比較してSEMA5B mRNAの発現を有効に低減させた(図9a)。si-#2を処置した細胞に関して、コロニー数(図9c)およびMTTアッセイによって測定した生存細胞数の有意な減少が観察された(図9b)。SEMA5B-siRNA(si-#2)による標的以外の効果の可能性を除外するために、3-bp置換を有するsiRNAの二つの型を生成した。いずれも、OS-RC-2細胞におけるSEMA5B発現を抑制しないことが発見された(データ非呈示)。これらの知見は、C6700が、RCCの細胞生存および/または成長において有意な機能を有することを示唆する。
【0245】
図11に示すように、B7032N(-si#4)は、対照siRNA構築物(si-Scramble)と比較してこの遺伝子の発現を抑制した(図11a、11b)。これらのsiRNA構築物を用いるコロニー形成およびMTTアッセイから、PFKFB4-si#4の導入がRXF-631L(図11a)およびA498(図11b)細胞の成長を抑制することが示された。B7032Nの成長促進効果をさらに確認するために、外因性のB7032Nを安定に発現するNIH3T3-由来細胞(B7032N-A、-B、-C、および-D細胞)を確立した。ウェスタンブロット分析により、四つの誘導クローンにおいて外因性のB7032Nタンパク質が高レベルであることが示された(図12a)。その後のMTTアッセイから、四つの誘導細胞株、すなわちB7032N-A、-B、-C、および-D細胞が、偽プラスミドをトランスフェクトした細胞(Mock-A、-B、および-C細胞)よりかなり速く成長することが示され(図12b)、B7032N発現が細胞成長を促進する可能性があることを示した。これらの知見は、RCCの発症に関するB7032Nの腫瘍発生的役割を暗示する。
【0246】
図14に示すように、B9320(si#2)は、対照si-RNA構築物(si-Scramble)と比較してこの遺伝子の発現を有意に抑制した(図14)。これらのsiRNA構築物を用いたコロニー形成およびMTTアッセイは、FBXL16-特異的siRNAの導入がCaki-2(図14a)およびA498(図14b)細胞の成長を抑制することを示した。B9320の成長促進効果をさらに確認するために、外因性のB9320を安定に発現するNIH3T3由来細胞(FBXL 16-1、-2、-3、および-4細胞)を確立した。ウェスタンブロット分析により、四つの誘導クローンにおいて外因性のB9320タンパク質が高レベルであることが示された(図15a)。その後のMTTアッセイから、四つの誘導細胞株、すなわちFBXL16-1、-2、-3、および-4細胞が、偽プラスミドをトランスフェクトした細胞(Mock-1、-2、および-3細胞)よりかなり速く成長することが示され(図15b)、B9320発現が細胞成長を増強する可能性があることを示している。これらの知見は、RCCの発症に関するB9320の腫瘍発生的役割を暗示している。
【0247】
(表6)C6700、B7032N、および9320に対する低分子干渉RNAのオリゴヌクレオチド配列
【0248】
考察
分子生物学の最近の進歩により、広範なヒト新生物の発生に関する本発明者らの理解は改善された。RCCにおいて、いくつかの研究グループがマイクロアレイに基づく分子プロファイリングを報告している(Yao M, et al., (2005) J Pathol.;205:377-87;Liou LS, et al., (2004) BMC Urol.;4:9;Takahashi M, et al., (2001) Proc Natl Acad Sci U S A.;98:9754-9;Boer JM, et al., (2001) Genome Res.;l1:1861-70;Young AN, et al., (2001) Am J Pathol.;158:1639-51;Higgins JP, et al., (2003) Am J Pathol.;162:925-32;Skubitz KM and Skubitz AP. (2002) J Lab Clin Med.;140:52-64)。それらの研究は、診断マーカーとして有用となる可能性がある候補遺伝子に重点を置いてきたが、腫瘍塊から単離されたmRNAの発現に基づくデータは、腫瘍塊が一般的に、癌細胞のほかに炎症細胞、間質細胞、および線維芽細胞のような様々な細胞集団の混合物であること、ならびにそれぞれの細胞タイプの比率が人によって有意に異なることから、腎臓癌発生の過程の際の変化を正確に反映していない可能性がある。さらに、RCCは、腎皮質における腎近位尿細管上皮細胞に由来すると考えられている。したがって、これまでに公表されたマイクロアレイデータは、対照調製物における細胞の不均一性によって有意に影響を受けている可能性がある。本発明において、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)を行って、対照正常腎皮質細胞のみならず腎臓癌細胞の純粋な集団を得た。マイクロアレイによる塊腫瘍組織からのRNAを用いる明細胞RCC(ccRCC)の一つの代表的な発現プロファイルデータ(Takahashi M, et al., (2003) Oncogene.;22:6810-8)と比較すると、本発明のデータにおいて参考となるccRCC症例の75%より多くにおいて共通にアップレギュレートされた遺伝子(表4)の中で、塊発現プロファイルデータ(Takahashi M, et al., (2003) Oncogene.;22:6810-8)と重なり合ったのは、85個中4個(5%)に過ぎなかった。これらの相違は、RCC細胞が組織病理学的に不均一であるという事実に帰因し、塊組織からの発現プロファイルは、非癌性細胞の混入によって有意に影響を受けうる。意外にも、本発明者らの遺伝子リスト(表4)において最も有意にアップレギュレートされた遺伝子の上位24個はいずれも、塊組織からのccRCC発現プロファイルのこれまでの結果(Yao M, et al., (2005) J Pathol.;205:377-87;Takahashi M, et al., (2003) Oncogene.;22:6810-8)に含まれなかった。この証拠は、本発明のマイクロアレイデータが他のデータよりかなり信頼性が高いことを示唆している。この相違は、塊細胞からのこれまでの発現プロファイルが、対照として用いた正常腎組織における腎髄質の混入によって有意に影響を受けうるという事実に帰因する可能性がある。たとえば、腎髄質において高度に発現されるが、腎皮質の腎近位尿細管上皮細胞では発現されない遺伝子は、塊組織からの発現プロファイルにおいてダウンレギュレートされたまたは不変である遺伝子として選択される可能性がある。これらの点を考慮に入れると、外科的検体から得た癌性上皮細胞および正常上皮細胞の集団を可能な限り精製するために、LMMシステムを行うことが肝要である。
【0249】
ccRCCのほとんどにおいて発現が変化した遺伝子は、分子診断マーカーもしくはRCC治療標的の候補作用物質として役立つ可能性がある、または腎臓癌発生において原因的役割を果たす可能性がある。アップレギュレートされた遺伝子において、NNMT(ニコチンアミドN-メチルトランスフェラーゼ)、IGFBP3(インスリン様成長因子結合タンパク質3)、ENPP3(エクトヌクレオチド ピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ3)、VEGF(血管内皮成長因子)、およびVWF(フォンウィルブランド因子)は、他のものと同様に本出願に含まれた。NNMTは、他のタイプのRCCよりccRCCにおいて頻繁に増加しており、RCCにおける良好な予後と相関していると報告されている(Yao M, et al., (2005) J Pathol.;205:377-87)。IGFBP3は、免疫組織化学染色によって、IGFBP-3がccRCCにおいてIGF軸の調節異常を引き起こすことが示された(Takahashi M, et al., (2005) Int J Oncol.;26:923-31;Cheung CW, et al., (2004) Kidney Int. ;65: 1272-9)。IGFP-3はまた、RCC細胞増殖の調節においてオートクラインによって何らかの役割を果たすことが示された(Takahashi M, et al., (2005) Int J Oncol.;26:923-31;Cheung CW, et al., (2004) Kidney Int.;65:1272-9)。エクトヌクレオチドピロホスファターゼ/ホスホジエステラーゼ-I酵素(E-NPP)は、様々な基質のホスホジエステルおよびホスホスルフェート結合を切断する。哺乳動物のE-NPPは、三つの近縁タンパク質のファミリーである:E-NPP1、E-NPP2、およびE-NPP3。ENPP3の機能は不明であるが、ENPP3の発現は、周囲の組織より腫瘍組織において高く、ENPP3タンパク質の特異的型は、胆管癌(BDC)を有する患者の血清中に検出されること、およびENPP3が細胞遊走を増強することが報告された。したがって、ENPP3は、新生物BDCの浸潤性に関連する可能性があり、腫瘍マーカーとして応用可能となりうる(Yano Y, et al., (2004) Cancer Lett.;207:139-47)。血清VEGFおよびvWFレベルは、インターロイキン2およびIFN-αを含む免疫調節物質の予測マーカーであることが示されており;VEGFおよびvWFのより高いレベルを有する患者は、これらの二つのタンパク質のより低い血清レベルを示す患者と比較してこれらの処置に対する反応が不良であることを明らかにした(Braybrooke JP, et al., (2000) Clin Cancer Res.;6:4697-704)。さらに、ABCG1(ATP結合カセット サブファミリーG (WHITE) メンバー1)、およびSTC2(スタニオカルシン2)ABCGlは、一般的にコレステロールの輸送を媒介する。Hernanらは、ABCG1が、マイクロアレイ分析およびディファレンシャルディスプレイによって頭頚部扁平上皮癌においてアップレギュレートされることが知られていることを報告した(Yano Y, et al., (2004) Cancer Lett.;207: 139-47)。
【0250】
一方、ダウンレギュレートされた遺伝子において、WT1(ウィルムス腫瘍1)、CDKNlC(サイクリン依存キナーゼインヒビター1C)、およびGASl(増殖停止特異的1)は、成長抑制またはアポトーシスにおけるその役割が暗示される(Niu Z, et al.,(2005)J Urol.;174:1460-2;Kikuchi T, et al., (2002) Oncogene.;21:2741-9;Watanabe H, et al., (1998) Proc Natl Acad Sci U S A.;95:1392-7;Evdokiou A & Cowled PA. (1998) Int J Cancer.;75:568-77)。Niu Z.らは、WT1の発現が、対応する正常腎組織と比較してRCC腫瘍において有意にダウンレギュレートされることを報告した(Niu Z, et al., (2005) J Urol.;174:1460-2)が、mRNAレベルとRCCの臨床病理学的特色とのあいだに有意な相関を認めなかった。CDKN1Cは、サイクリン依存キナーゼの活性を阻害することによって、細胞周期停止を誘導することが知られている。この遺伝子の後成的サイレンシングは、結腸直腸癌、胃癌、肝細胞癌、および膵臓癌のような固形腫瘍において報告されており(Kikuchi T, et al., (2002) Oncogene.;21:2741-9)、CDKN1Cが腫瘍抑制遺伝子として機能することを示唆している。GAS1はまた、本発明において15例中14例において有意にダウンレギュレートされた。GAS1の誘導は、細胞増殖を抑制する、および/またはニューロン細胞においてアポトーシスを引き起こすことが報告されており、GAS1の発現はグリアの増殖を減少させた(Evdokiou A & Cowled PA. (1998) Int J Cancer.;75:568-77)。
【0251】
本発明者らのリストにおけるアップレギュレートされた遺伝子において、本発明は、RCCにおける頻繁な転写活性化および本発明者らが調べた任意の正常ヒト成人組織における発現のその検出不能なレベルにより、RCC治療に関する可能性がある分子標的としてセマフォリン5B(SEMA 5B)に焦点を当てた。本発明の文脈において、siRNAによるその発現レベルのノックダウンにより、RCC細胞成長の特異的に有意な抑制が起こることが証明され、それが細胞成長の増強において重要な役割であることを示唆している。SEMA5Bは、成長誘導の役割(cue)をコードする遺伝子の多様な群に属する細胞表面および分泌型糖タンパク質ファミリーである(Kolodkin AL, et al., (1993) Cell.;75:1389-99)。セマフォリンおよびその受容体であるプレキシンは、当初神経系において同定され、神経系では正確なニューロンネットワークを確立するためにそれらが必要である。それらのレパートリーは、心臓および骨格の発達、免疫応答、ならびに上皮形態形成を含むいくつかの非神経プロセスに拡大されている。より最近、セマフォリンは腫瘍の成長および転移におけるその役割に関係している(Tamagnone L & Comoglio PM. (2004) EMBO Rep.;5:356-61)。本明細書において、SEMA5BはRCC細胞株のみならずRCCの明細胞型において頻繁に発現されることが証明され、SEMA5Bに対するターゲティングは、新規治療薬を開発するための有望なアプローチとなる可能性があることを暗示している。
【0252】
本報告において、膀胱癌の正確な発現プロファイルであるが、B7032NおよびB9320は、RCC細胞において有意に過剰発現されたと同定された。複数の正常ヒト組織およびRCC細胞株によるノーザンブロット分析により、B7032Nの発現は、精巣および膵臓を除く正常ヒト組織においてほとんど検出不可能であること、およびB9320の発現が、試験した正常なヒト重要組織においてほとんど検出不可能であることが示された。これらの結果は、これらの遺伝子が、RCCに関する抗癌剤を開発するための有益な標的として役立つはずであることを示した。さらに、内因性のB7032NおよびB9320のノックダウンにより、RCC細胞における細胞成長の抑制が起こることが証明された。結論すると、B7032NおよびB9320が哺乳動物細胞における成長促進活性を示すこと、およびsiRNAによるその発現のノックダウンが、膀胱癌細胞の成長を抑制することが報告された。B7032NおよびB9320の機能に拮抗する薬物の開発は、癌治療の合理的戦略となる可能性がある。B7032NおよびB9320の機能に関するさらなる分析が必要であるが、提供されるデータはRCC癌発生のより深い理解およびRCCの新規治療の開発に貢献するはずである。
【0253】
併せて考慮すると、本発明の正確なRCC発現プロファイルを通して同定されたアップレギュレートされた遺伝子は、腎臓癌発生のよりよい理解に光を与えて、RCC処置およびまた診断腫瘍マーカーを開発するための可能性がある新規分子標的を発見するための有用な情報を提供するはずである。
【0254】
産業上の利用可能性
レーザーキャプチャーダイセクションとゲノム全域にわたるcDNAマイクロアレイとの組み合わせによって得られた、本明細書記載の腎細胞癌の遺伝子発現解析により、癌の予防および治療の標的としての特異的遺伝子が同定された。これらの差次的に発現される遺伝子のサブセットの発現に基づき、本発明は、腎細胞癌を同定または検出するための分子診断マーカーを提供する。
【0255】
本明細書記載の方法はまた、腎細胞癌の予防、診断、および処置のためのさらなる分子標的の同定に有用である。本明細書において報告されたデータは、腎細胞癌の包括的な理解を補足し、新規診断戦略の開発を促進し、治療薬および予防薬のための分子標的を同定する手がかりを提供する。そのような情報は、腎細胞癌の形成に関するより深い理解に貢献し、かつ、腎細胞癌を診断、処置、および最終的に予防するための新規戦略を開発するための指標を提供する。
【0256】
本明細書において示されたように、細胞増殖は、C6700、B7032N、またはB9320遺伝子を特異的に標的とする低分子干渉RNA(siRNA)によって抑制されうる。従って新規siRNAは、抗癌剤を開発するための有用な標的である。例えば、C6700、B7032N、もしくはB9320の発現を阻止する作用物質、またはその活性を阻害する作用物質には、抗癌剤、特に腎細胞癌などの腎臓癌処置用の抗癌剤としての治療的有用性を見出すことができる。
【0257】
本明細書で引用した全ての特許、特許出願、および刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み入れられる。さらに、本発明を、その特定の態様に言及しながら詳細に説明してきたが、前記の記載は例示的および説明的な性質のものであって、本発明およびその好ましい態様を例示することを意図していることが理解されねばならない。当業者は、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、慣行的な実験によって様々な変更および修正をそれに加えうることを容易に認識するであろう。したがって、本発明は、上述の記載によって規定されるのではなく、添付の特許請求の範囲およびその等価物によって規定されることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0258】
【図1】明細胞RCC(左のパネル)および正常腎皮質細胞(右のパネル)の、レーザーマイクロビームマイクロダイセクション(LMM)を用いて、先に顕微解剖を行った細胞の写真画像(レーンa)、後で顕微解剖を行った細胞の写真画像(レーンb)、および顕微解剖を行った細胞の写真画像(レーンc)を表す。
【図2】図2(a)は、高度に発現された遺伝子の半定量的RT-PCRバリデーションアッセイの結果を描写する。遺伝子21個(アクセッション番号NM_018092、AA632745、NM_007250、W86513、BC077726、AA156409、W57613、CR749811、AW972553、AL832896、AK021778、AK026403、AK025204、NM_000677、AF070609、AI290343、AA442590、NM_000552、BC000234、BC034014、およびNM_004567)ならびにFDFTl(内部対照)の発現を、半定量的RT-PCR実験によって試験した。マイクロアレイのシグナルは、半定量的RT-PCR実験の結果に対応した。正常腎皮質を、このマイクロアレイにおいて用いたRCC患者11人から調製した。RPTECは、腎近位尿細管上皮細胞を意味する。図2(b)は、半定量的RT-PCRによって測定したRCC細胞株11例におけるC6700の発現を描写する。
【図3】腎細胞癌細胞株および正常ヒト組織におけるC6700の発現パターンのノーザンブロット分析の結果を描写する。
【図4】特異的プローブを用いた様々な正常ヒト組織における3545塩基転写物の多重ノーザンブロット分析の結果(上のパネル)、プローブとして3545塩基転写物および4533塩基転写物の共通の配列を用いた正常ヒト組織におけるF5749の発現(下のパネル)を描写する。
【図5】様々なヒト組織におけるC8919転写物のノーザンブロット分析の結果を描写する。
【図6】様々なヒト組織におけるB7032N転写物のノーザンブロット分析の結果(左のパネル)、およびRCC細胞株(Caki-1、Caki-2、786-O、A498、ACHN、769-P、A704、RXF-631L、OS-RC-2、TUHRlOTKB、およびTUHR14TKB)、RPTEC(腎近位尿細管上皮細胞)、および正常ヒト臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、精巣、および脳)におけるB7032N転写物のノーザンブロット分析の結果(右のパネル)を描写する。
【図7】様々なヒト組織におけるB9320転写物のノーザンブロット分析の結果(左のパネル)およびRCC細胞株(Caki-1、Caki-2、786-O、およびA498)、RPTEC(腎近位尿細管上皮細胞)、および正常ヒト臓器(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳、および精巣)におけるB9320転写物のノーザンブロット分析の結果(右のパネル)を描写する。
【図8】C6700のゲノム構造を描写する。C6700は、V1およびV2と呼ばれる異なる2つの変異体を有する。図8(a)は、ゲノム構造を描写し、ここで、白三角は、インフレームでの終始コドンの存在を示し、黒三角は、第一のメチオニンを示す。図8(b)は、四つのRCC細胞株(786-O、A704、OS-RC-2、およびTUHR14TKB)から調製されたRNAおよび胎児脳ポリA(+)RNAを用いたSEMA5Bの半定量的RT-PCR分析の結果を描写する。
【図9】RCC細胞におけるC6700の発現を低減させるように設計された低分子干渉RNA(siRNA)の成長阻害効果を描写する。図9(a)は、RCC細胞株OC-RC-2におけるC6700の内因性の発現の抑制を証明する半定量的RT-PCRの結果を描写する。β2-MGを内部対照として用いた。si-#2ベクターは、ノックダウン効果を明らかにし、si-Scrambleおよびsi-Mockは、C6700転写物のレベルにいかなる効果も示すことができなかった。si-#2ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleおよびsi-Mockをトランスフェクトした細胞と比較してコロニー数の低減(図9(c))および生存細胞数の低減(図9(b))が起こった(それぞれ、p<0.05およびp<0.001;対応のないt検定)。
【図10】COS7細胞における外因性のB7032Nタンパク質の発現および細胞内局在を描写する。図10(a)は、トランスフェクションの24時間後および48時間後のウェスタンブロットによるB7032Nタンパク質の外因性の発現を描写し、図10(b)はCOS7細胞における外因性のB7032タンパク質の細胞内局在を描写する。
【図11】RCC細胞成長および細胞生存率に及ぼすB7032NのsiRNAノックダウン効果を描写する。図11(a)は、半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析した、si-B7032N(#4)または対照siRNA(si-Scramble)に対するRXF-631L細胞の効果を描写する。siRNAによって処置した細胞におけるB7032N転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量対照であった。si B7032N-#4ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-ScrambleはB7032N転写物レベルに対していかなる効果も示さなかった。B7032N-#4ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。(b)半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析した、si-B7032N(#4)または対照siRNA(si-Scramble)に対するA498細胞の効果。siRNAによって処置した細胞におけるB7032N転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量対照であった。si B7032N-#4ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-ScrambleはB7032N転写物レベルに対していかなる効果も示さなかった。si-B7032N-#4ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。
【図12】NIH3T3細胞における外因性のB7032Nの成長促進効果を描写する。図12(a)は、高レベルで外因性のB7032Nを発現する細胞、または偽ベクターをトランスフェクトした細胞のウェスタンブロット分析の結果を描写する。B7032N発現の外因性の導入は、抗HAタグモノクローナル抗体によって確認した。β-アクチンはローディング対照とした。図11(b)は、NIH3T3-B7032N細胞のインビトロ成長を描写する。MTTアッセイによって測定したB7032N(B7032N-A、-B、-C、-D)および偽(Mock-A、-B、-C)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞。
【図13】COS7細胞における外因性のB9320タンパク質の発現および細胞内局在を描写する。図12(a)は、トランスフェクションの24時間後および48時間後でのウェスタンブロットによって証明されるように、B9320タンパク質の外因性の発現を描写し、図13(b)は、COS7細胞における外因性のB9320タンパク質の細胞内局在を描写する。
【図14】RCC細胞成長および細胞生存率に及ぼすB9320のsiRNAノックダウン効果を描写する。図14(a)は、半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析したsi-B9320(#2)または対照siRNA(si-Scramble)に対するCaki-2細胞の効果を描写する。siRNAによって処置した細胞におけるB9320転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量的対照であった。si-B9320-#2ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-Scrambleは、B9320転写物レベルにいかなる効果も示すことができなかった。si-B9320-#2ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減、および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。図14(b)は、半定量的RT-PCR(左上)、コロニー形成アッセイ(左下)、およびMTTアッセイ(右)によって分析したsi-B9320-#2または対照siRNA(si-Scramble)に対するA498細胞の効果を描写する。siRNAによって処置した細胞におけるB9320転写物レベルを調べるためのRT-PCR実験。β2-MG発現レベルは定量的対照であった。si-B9320-#2ベクターはノックダウン効果を明らかにし、si-Scrambleは、B9320転写物レベルにいかなる効果も示すことができなかった。si-B9320-#2ベクターによるトランスフェクションにより、si-Scrambleをトランスフェクトした細胞と比較して、コロニー数の低減、および生存細胞数の低減が起こった(p<0.0001;対応のないt検定)。
【図15】NIH3T3細胞における外因性のB9320の成長促進効果を描写する。図15(a)は、高レベルで外因性のB9320を発現する細胞または偽ベクターをトランスフェクトした細胞のウェスタンブロット分析の結果を描写する。B9320発現の外因性の誘導は、抗HAタグモノクローナル抗体によって確認した。β-アクチンはローディング対照とした。図15(b)は、NIH3T3-B9320細胞のインビトロ成長を描写する。MTTアッセイによって測定したB9320(B9320-1、-2、-3)および偽(Mock-1、-2、-3)をトランスフェクトしたNIH3T3細胞。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者由来の生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、対象におけるRCCまたはRCC発症の素因を診断する方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較した該試料の発現レベルの上昇または低下が、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示す、方法。
【請求項2】
該RCC関連遺伝子がRCC 1〜251からなる群より選択され、正常対照レベルと比較した該試料の発現レベルの上昇が、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該試料の発現レベルが該正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該RCC関連遺伝子がRCC 252〜972からなる群より選択され、正常対照レベルと比較した該試料の発現レベルの低下が、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項5】
該試料の発現レベルが該正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
複数のRCC関連遺伝子の該発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
遺伝子発現レベルが以下からなる群より選択される方法で決定される、請求項1記載の方法:
(a) RCC関連遺伝子のmRNAの検出;
(b) RCC関連遺伝子にコードされるタンパク質の検出;および
(c) RCC関連遺伝子にコードされるタンパク質の生物活性の検出。
【請求項8】
該ハイブリダイゼーション段階をDNAアレイ上で行う、請求項1記載の方法。
【請求項9】
該患者由来の生物試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
該患者由来の生物試料が腎細胞癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
該患者由来の生物試料が腎細胞癌由来の上皮細胞を含む、請求項7記載の方法。
【請求項12】
RCC 1〜972からなる群より選択される2個以上のRCC関連遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、RCC参照発現プロファイル。
【請求項13】
RCC 1〜251からなる群より選択される2個以上のRCC関連遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、RCC参照発現プロファイル。
【請求項14】
RCC 252〜972からなる群より選択される2個以上のRCC関連遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、RCC参照発現プロファイル。
【請求項15】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c) ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【請求項16】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 候補化合物を1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がRCC 1〜972からなる群より選択される段階;および
(b) 対照と比較して、RCC 1〜251からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる候補化合物、またはRCC 252〜972からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【請求項17】
該細胞が腎細胞癌細胞を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c)RCC 1〜251からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して抑制する化合物、またはRCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出されたポリペプチドの生物活性と比較して増強する被験化合物を選択する段階。
【請求項19】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がRCC 1〜972からなる群より選択される、段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 被験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、該マーカー遺伝子がRCC 1〜251からなる群より選択されるアップレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現もしくは活性のレベルを低下させる候補化合物、または、該マーカー遺伝子がRCC 252〜972からなる群より選択されるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現もしくは活性のレベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【請求項20】
(a) RCC 1〜972からなる群より選択される2つもしくはそれ以上の核酸配列、または(b) それによりコードされるポリペプチドに結合する検出試薬を含む、キット。
【請求項21】
RCC 1〜972からなる群より選択される1つまたは複数の核酸配列に結合する2つまたはそれ以上の核酸を含む、アレイ。
【請求項22】
アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、該アンチセンス組成物が、RCC 1〜251からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、方法。
【請求項23】
siRNA組成物を対象に投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、該siRNA組成物が、RCC 1〜251からなる群より選択される核酸配列の発現を減少させる、方法。
【請求項24】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、RCC 1〜251からなる群より選択される遺伝子のいずれか1つによってコードされるタンパク質と結合する抗体またはその免疫活性断片の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項25】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、(a) RCC 1〜251からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b) 該ポリペプチドの免疫活性断片、または(c) そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項26】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、RCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現、またはそれにコードされるポリペプチドの活性を増大させる化合物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項27】
請求項15〜21のいずれか一項記載の方法によって得られた化合物を投与する段階を含む、対象における腎細胞癌を処置または予防する方法。
【請求項28】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、(a) RCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b) それによってコードされるポリペプチドを含む作用物質の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項29】
RCC 1〜251からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、腎細胞癌を処置または予防するための組成物。
【請求項30】
RCC 1〜251からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、腎細胞癌を処置または予防するための組成物。
【請求項31】
活性成分として請求項15〜19のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、腎細胞癌を処置または予防するための組成物。
【請求項32】
C6700V2、B7032N、またはB9320V2の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を対象に投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法。
【請求項33】
siRNAが、センス核酸配列と、C6700V2、B7032N、またはB9320V2由来の配列と特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸配列とを含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
腎臓癌が腎細胞癌(RCC)である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
siRNAが、標的配列としてSEQ ID NO:43、47、81、106、または110からなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列を含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】
該siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]はSEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、かつ[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
該組成物がトランスフェクション促進剤を含む、請求項32記載の方法。
【請求項38】
センス鎖がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110からなる群より選択される標的配列に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖が、センス鎖と相補的であるリボヌクレオチド配列を含み、センス鎖およびアンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成し、該二本鎖分子が、C6700V2、B7032N、またはB9320 V2遺伝子を発現する細胞に導入された場合に、該遺伝子の発現を阻害する、センス鎖とアンチセンス鎖とを含む二本鎖分子。
【請求項39】
標的配列が、SEQ ID NO:65、112、または118の群から選択されるヌクレオチド配列からの少なくとも約10の連続するヌクレオチドを含む、請求項38記載の二本鎖分子。
【請求項40】
標的配列が、SEQ ID NO:65、112、または118の群から選択されるヌクレオチド配列からの約19〜約25の連続するヌクレオチドを含む、請求項39記載の二本鎖分子。
【請求項41】
一本鎖リボヌクレオチド配列によって結合されたセンス鎖とアンチセンス鎖とを含む単一のリボヌクレオチド転写物である、請求項40記載の二本鎖分子。
【請求項42】
約100ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項39記載の二本鎖分子。
【請求項43】
約75ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項42記載の二本鎖分子。
【請求項44】
約50ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項43記載の二本鎖分子。
【請求項45】
約25ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項44記載の二本鎖分子。
【請求項46】
約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項45記載の二本鎖分子。
【請求項47】
請求項39記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項48】
二次構造を有しかつセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む転写物をコードする、請求項47記載のベクター。
【請求項49】
転写物が、該センス鎖および該アンチセンス鎖に結合する一本鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項48記載のベクター。
【請求項50】
センス鎖核酸がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖核酸がセンス鎖と相補的な配列からなる、センス鎖核酸とアンチセンス鎖核酸との組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項51】
ポリヌクレオチドが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチド配列であり;[B]が、3〜23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;および[A']が、[A]と相補的なヌクレオチド配列である、請求項49記載のベクター。
【請求項52】
活性成分としてC6700V2、B7032N、またはB9320V2の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)の薬学的有効量および薬学的に許容される担体を含む、腎細胞癌を処置または予防するための薬学的組成物。
【請求項53】
siRNAが、標的配列としてSEQ ID NO:43、47、81、106、または110からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項51記載の薬学的組成物。
【請求項54】
siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり;[B]が、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり;および[A']が、[A]と相補的なリボヌクレオチド配列である、請求項52記載の組成物。
【請求項1】
患者由来の生物試料におけるRCC関連遺伝子の発現レベルを決定する段階を含む、対象におけるRCCまたはRCC発症の素因を診断する方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較した該試料の発現レベルの上昇または低下が、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示す、方法。
【請求項2】
該RCC関連遺伝子がRCC 1〜251からなる群より選択され、正常対照レベルと比較した該試料の発現レベルの上昇が、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項3】
該試料の発現レベルが該正常対照レベルより少なくとも10%高い、請求項1記載の方法。
【請求項4】
該RCC関連遺伝子がRCC 252〜972からなる群より選択され、正常対照レベルと比較した該試料の発現レベルの低下が、該対象がRCCに罹患しているかまたはその発症リスクを有することを示す、請求項1記載の方法。
【請求項5】
該試料の発現レベルが該正常対照レベルより少なくとも10%低い、請求項4記載の方法。
【請求項6】
複数のRCC関連遺伝子の該発現レベルを決定する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
遺伝子発現レベルが以下からなる群より選択される方法で決定される、請求項1記載の方法:
(a) RCC関連遺伝子のmRNAの検出;
(b) RCC関連遺伝子にコードされるタンパク質の検出;および
(c) RCC関連遺伝子にコードされるタンパク質の生物活性の検出。
【請求項8】
該ハイブリダイゼーション段階をDNAアレイ上で行う、請求項1記載の方法。
【請求項9】
該患者由来の生物試料が上皮細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
該患者由来の生物試料が腎細胞癌細胞を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
該患者由来の生物試料が腎細胞癌由来の上皮細胞を含む、請求項7記載の方法。
【請求項12】
RCC 1〜972からなる群より選択される2個以上のRCC関連遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、RCC参照発現プロファイル。
【請求項13】
RCC 1〜251からなる群より選択される2個以上のRCC関連遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、RCC参照発現プロファイル。
【請求項14】
RCC 252〜972からなる群より選択される2個以上のRCC関連遺伝子の遺伝子発現パターンを含む、RCC参照発現プロファイル。
【請求項15】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b) ポリペプチドと被験化合物との結合活性を検出する段階;および
(c) ポリペプチドに結合する被験化合物を選択する段階。
【請求項16】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 候補化合物を1つまたは複数のマーカー遺伝子を発現する細胞と接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がRCC 1〜972からなる群より選択される段階;および
(b) 対照と比較して、RCC 1〜251からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを低下させる候補化合物、またはRCC 252〜972からなる群より選択される1つもしくは複数のマーカー遺伝子の発現レベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【請求項17】
該細胞が腎細胞癌細胞を含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a)被験化合物を、RCC 1〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドと接触させる段階;
(b)段階(a)のポリペプチドの生物活性を検出する段階;および
(c)RCC 1〜251からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出される該ポリペプチドの生物活性と比較して抑制する化合物、またはRCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドの生物活性を、被験化合物の非存在下で検出されたポリペプチドの生物活性と比較して増強する被験化合物を選択する段階。
【請求項19】
以下の段階を含む、腎細胞癌を処置または予防するための化合物をスクリーニングする方法:
(a) 1つまたは複数のマーカー遺伝子の転写調節領域と該転写調節領域の制御下で発現するレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞と候補化合物を接触させる段階であって、該1つまたは複数のマーカー遺伝子がRCC 1〜972からなる群より選択される、段階;
(b) 該レポーター遺伝子の発現または活性を測定する段階;ならびに
(c) 被験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、該マーカー遺伝子がRCC 1〜251からなる群より選択されるアップレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現もしくは活性のレベルを低下させる候補化合物、または、該マーカー遺伝子がRCC 252〜972からなる群より選択されるダウンレギュレートされたマーカー遺伝子である場合には該レポーター遺伝子の発現もしくは活性のレベルを上昇させる候補化合物を選択する段階。
【請求項20】
(a) RCC 1〜972からなる群より選択される2つもしくはそれ以上の核酸配列、または(b) それによりコードされるポリペプチドに結合する検出試薬を含む、キット。
【請求項21】
RCC 1〜972からなる群より選択される1つまたは複数の核酸配列に結合する2つまたはそれ以上の核酸を含む、アレイ。
【請求項22】
アンチセンス組成物を対象に投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、該アンチセンス組成物が、RCC 1〜251からなる群より選択されるコード配列に相補的なヌクレオチド配列を含む、方法。
【請求項23】
siRNA組成物を対象に投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、該siRNA組成物が、RCC 1〜251からなる群より選択される核酸配列の発現を減少させる、方法。
【請求項24】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、RCC 1〜251からなる群より選択される遺伝子のいずれか1つによってコードされるタンパク質と結合する抗体またはその免疫活性断片の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項25】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、(a) RCC 1〜251からなる群より選択される核酸によってコードされるポリペプチド、(b) 該ポリペプチドの免疫活性断片、または(c) そのポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むワクチンを該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項26】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、RCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチドの発現、またはそれにコードされるポリペプチドの活性を増大させる化合物を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項27】
請求項15〜21のいずれか一項記載の方法によって得られた化合物を投与する段階を含む、対象における腎細胞癌を処置または予防する方法。
【請求項28】
対象における腎細胞癌を処置または予防する方法であって、(a) RCC 252〜972からなる群より選択されるポリヌクレオチド、または(b) それによってコードされるポリペプチドを含む作用物質の薬学的有効量を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項29】
RCC 1〜251からなる群より選択されるポリヌクレオチドに対するアンチセンスポリヌクレオチドまたは低分子干渉RNAの薬学的有効量を含む、腎細胞癌を処置または予防するための組成物。
【請求項30】
RCC 1〜251からなる群より選択される遺伝子によってコードされるタンパク質に結合する抗体またはその断片の薬学的有効量を含む、腎細胞癌を処置または予防するための組成物。
【請求項31】
活性成分として請求項15〜19のいずれか一項記載の方法によって選択される化合物の薬学的有効量、および薬学的に許容される担体を含む、腎細胞癌を処置または予防するための組成物。
【請求項32】
C6700V2、B7032N、またはB9320V2の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)を含む組成物を対象に投与する段階を含む、該対象における腎細胞癌を処置または予防する方法。
【請求項33】
siRNAが、センス核酸配列と、C6700V2、B7032N、またはB9320V2由来の配列と特異的にハイブリダイズするアンチセンス核酸配列とを含む、請求項32記載の方法。
【請求項34】
腎臓癌が腎細胞癌(RCC)である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
siRNAが、標的配列としてSEQ ID NO:43、47、81、106、または110からなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列を含む、請求項33記載の方法。
【請求項36】
該siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]はSEQ ID NO: 43、47、81、106、または110のヌクレオチドからなる群より選択される配列に対応するリボヌクレオチド配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチドループ配列であり、かつ[A']は[A]の相補配列からなるリボヌクレオチド配列である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
該組成物がトランスフェクション促進剤を含む、請求項32記載の方法。
【請求項38】
センス鎖がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110からなる群より選択される標的配列に対応するリボヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖が、センス鎖と相補的であるリボヌクレオチド配列を含み、センス鎖およびアンチセンス鎖が互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成し、該二本鎖分子が、C6700V2、B7032N、またはB9320 V2遺伝子を発現する細胞に導入された場合に、該遺伝子の発現を阻害する、センス鎖とアンチセンス鎖とを含む二本鎖分子。
【請求項39】
標的配列が、SEQ ID NO:65、112、または118の群から選択されるヌクレオチド配列からの少なくとも約10の連続するヌクレオチドを含む、請求項38記載の二本鎖分子。
【請求項40】
標的配列が、SEQ ID NO:65、112、または118の群から選択されるヌクレオチド配列からの約19〜約25の連続するヌクレオチドを含む、請求項39記載の二本鎖分子。
【請求項41】
一本鎖リボヌクレオチド配列によって結合されたセンス鎖とアンチセンス鎖とを含む単一のリボヌクレオチド転写物である、請求項40記載の二本鎖分子。
【請求項42】
約100ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項39記載の二本鎖分子。
【請求項43】
約75ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項42記載の二本鎖分子。
【請求項44】
約50ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項43記載の二本鎖分子。
【請求項45】
約25ヌクレオチド長未満のオリゴヌクレオチドである、請求項44記載の二本鎖分子。
【請求項46】
約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項45記載の二本鎖分子。
【請求項47】
請求項39記載の二本鎖分子をコードするベクター。
【請求項48】
二次構造を有しかつセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む転写物をコードする、請求項47記載のベクター。
【請求項49】
転写物が、該センス鎖および該アンチセンス鎖に結合する一本鎖リボヌクレオチド配列をさらに含む、請求項48記載のベクター。
【請求項50】
センス鎖核酸がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチド配列を含み、アンチセンス鎖核酸がセンス鎖と相補的な配列からなる、センス鎖核酸とアンチセンス鎖核酸との組み合わせを含むポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項51】
ポリヌクレオチドが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチド配列であり;[B]が、3〜23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;および[A']が、[A]と相補的なヌクレオチド配列である、請求項49記載のベクター。
【請求項52】
活性成分としてC6700V2、B7032N、またはB9320V2の発現を阻害する低分子干渉RNA(siRNA)の薬学的有効量および薬学的に許容される担体を含む、腎細胞癌を処置または予防するための薬学的組成物。
【請求項53】
siRNAが、標的配列としてSEQ ID NO:43、47、81、106、または110からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む、請求項51記載の薬学的組成物。
【請求項54】
siRNAが一般式
5'-[A]-[B]-[A']-3'
を有し、式中、[A]がSEQ ID NO:43、47、81、106、または110のヌクレオチド配列に対応するリボヌクレオチド配列であり;[B]が、3〜23ヌクレオチドからなるリボヌクレオチド配列であり;および[A']が、[A]と相補的なリボヌクレオチド配列である、請求項52記載の組成物。
【図1】
【図2a−1】
【図2a−2】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2a−1】
【図2a−2】
【図2b】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2009−502112(P2009−502112A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503300(P2008−503300)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314946
【国際公開番号】WO2007/013575
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【国際出願番号】PCT/JP2006/314946
【国際公開番号】WO2007/013575
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】
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