説明

腎線維症処置剤

【課題】 腎線維症治療剤を提供する。
【解決手段】 レチノイドを標的化剤として含む、腎における細胞外マトリックス産生細胞用の物質送達担体、および同担体を利用した腎線維症処置剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎における細胞外マトリックス産生細胞を標的とする物質送達用担体、ならびにこれを利用した腎線維症処置用組成物および腎線維症の処置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活を中心とした生活習慣の大きな変化により、高血圧や糖尿病などの生活習慣病罹患率が増加し、それに伴って腎疾患、延いては腎不全のリスクが増大しつつある。
【0003】
腎臓は、老廃物の排泄や、体液・電解質・酸塩基平衡の調節などにより内部環境の恒常性を維持するのに重要な臓器である。腎臓は、水素、ナトリウム、カリウムおよびケイ素などの血液中の種々の化合物の濃度を制御し、老廃物を尿の形で排出する。腎機能の低下はいかなるものであれ、血液中から代謝産物を十分除去する身体能力を妨げる可能性があり、また身体の電解質平衡を破壊する可能性がある。腎機能の低下または不全は、その最も重篤な形では致死的でありうる。
【0004】
また、腎臓にはこのような働き以外に、細胞性免疫、内分泌、代謝といった機能がある。内分泌器官としての腎臓は、活性型ビタミンD3である1,25ジヒドロキシビタミンD3や赤血球産生を調節するエリスロポエチンの産生、血圧調節因子であるレニンの分泌やエリスロポエチンの分泌、キニン、カリクレイン、プロスタグランジンの分泌などを行なっている。
【0005】
慢性腎不全とは、これら腎機能が不可逆性に徐々に低下し、生体の恒常性が維持できなくなった状態である。慢性腎不全は、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、悪性腎硬化症、多発性嚢胞腎などを原因として生じることが知られている。全ての腎疾患が腎臓の線維化を伴い、最終的に末期腎不全に至る。特に、慢性的な腎機能の低下は腎臓の線維化の進行と深く関わっているため、線維化の進行阻害は、慢性腎不全の進行抑制につながると考えられている。
【0006】
一般的に、腎線維症は、内皮細胞の障害に起因する炎症反応を伴い、最終的に過剰に産生された細胞外マトリックスにより線維化が生じることで起こるものである。例えば、糸球体硬化症においては、糸球体内皮細胞の障害が起因となり、ケモカイン、増殖因子などのサイトカインが分泌され、単球やマクロファージが遊走することで炎症反応が進行する。次いで、メサンギウム細胞の活性化、増殖、形質転換が起こり、メサンギウム細胞などの細胞外マトリックス産生細胞から過剰量の細胞外マトリックスが産生され、線維化が生じることで糸球体硬化症に至る。
【0007】
特に、糖尿病性腎症は、慢性腎不全に至る最も大きな原因であり、糖尿病の深刻な合併症の一つである。糖尿病性腎症の特徴は糸球体メサンギウムの増生・拡大であり、これは主としてI型およびIV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン等のECMタンパク質の蓄積増加によるものである。
【0008】
いったん重度の慢性腎不全に陥ると回復は不可能となり、透析等の治療を受けないと尿毒症となる。慢性腎不全の治療法としては、まず、低タンパク食、塩分制限などの食事療法や、糸球体に負荷をかけないための降圧剤の投与などが行なわれる。
【0009】
また、慢性腎不全には、必要に応じて、腎臓の分泌する1,25ジヒドロキシビタミンD3やエリスロポエチンを補充する治療や腎臓の重要な機能である血圧調節を適切に保つ治療が行なわれる。
【0010】
化学療法としては、腎不全の進行を抑えるためにアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシンII受容体拮抗薬が用いられる。これらは、糸球体血圧を下げて腎不全の進行を抑える他に、それ自体に腎保護作用があると考えられている。ただし、糸球体血圧を下げすぎると今度は逆に糸球体血流量が低下して腎前性腎不全になるので、慎重に投与する必要がある。
【0011】
アンジオテンシン変換酵素阻害薬としては、カプトリル、エナラプリル、デラプリル、イミダプリル、キナプリル、テモカプリル、ペリンドプリルエルブミン、リシノプリルなどがあり、アンジオテンシンII受容体拮抗薬としては、ロサルタン、バルサルタン、カンデサルタンシレキセチル、テルミサルタン、オルメサルタン メドキソミル、イルベサルタンなどがある。
【0012】
その他には、尿毒症の症状を改善し、透析導入を少し遅らせるため、腸内の有害物質を吸着する吸着炭としてクレメジンが用いられる。また、血中カリウムの上昇による息切れ、手足のしびれ、不整脈などを防ぐために、腸内でカリウム分を吸着し便とともに排出させるイオン交換樹脂として、ポリスチレンスルホン酸カルシウムが用いられる。
【0013】
骨格筋由来の代謝産物であるクレアチニンの血清中濃度が5〜7mg/dl以上になると、腹膜透析、血液濾過、血液透析などの人工透析療法または腎臓移植が検討される。しかし、血液透析のためには週3回通院し、1回4〜5時間拘束されるなど生活上の負担が大きく、腎臓移植では腎臓のドナーが少ないために腎臓移植を受けることのできる患者は希望者うちのごくわずかである。さらに、透析開始後の腎不全患者の平均余命は、一般人口の約半分にとどまる。
【0014】
こうした状況を受けて、腎線維症治療剤の開発に多大な研究努力が注がれてきた。その結果、例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、AT1アンジオテンシンII受容体拮抗剤、アルドステロン拮抗剤、レニン阻害剤などのレニン−アンジオテンシン−アルドステロン系に作用する薬剤、エンドセリン受容体拮抗剤、α遮断薬、β遮断薬、免疫抑制剤、細胞外マトリックス代謝阻害剤、補体系阻害剤、ケモカイン阻害剤、ホスホジエステラーゼ5阻害剤などの一酸化窒素系に作用する薬剤、NFκB阻害剤、Rho阻害剤、p38 MAPK阻害剤、PI3Kγ阻害剤、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害剤、カリクレイン、リラキシン、インターロイキン1受容体拮抗剤、骨形成因子7(BMP−7)、抗腫瘍壊死因子α抗体(Anti-TNFα antibody)、抗血小板由来成長因子D抗体(Anti-PDGF-D antibody)などの薬剤が腎線維症モデル動物または臨床試験においてある程度の成果を収めたことが報告されている(非特許文献1)。
【0015】
また、多くの特許出願もなされており、例えば、アンジオテンシン変換酵素阻害剤(特許文献1)、アンジオテンシンII受容体拮抗剤(特許文献2)、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)阻害剤(特許文献3)、プラスミノーゲンアクチベータインヒビター1(PAI−1)産生抑制剤(特許文献4)、プロスタグランジン受容体4選択的アゴニスト(特許文献5)、I型コラーゲン合成阻害剤(特許文献6)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸転移酵素阻害剤(特許文献7)、ビタミンKエポキシド還元酵素阻害剤(特許文献8)、糖化最終産物形成阻害剤(特許文献9)、A2A アデノシンレセプター2Aアゴニスト(特許文献10)、エンドセリン受容体拮抗剤(特許文献11)、VEGF阻害剤(特許文献12)などが腎線維症治療薬として出願されている。しかしながら、いずれの薬剤も未だ満足できるものではなく、さらなる腎線維症治療剤の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第5238924号公報
【特許文献2】特開平07-002667号公報
【特許文献3】特開2004-043459号公報
【特許文献4】特開2009-007258号公報
【特許文献5】特開2001-233792号公報
【特許文献6】特表2004-534760号公報
【特許文献7】特開2009-292725号公報
【特許文献8】特開2010-077101号公報
【特許文献9】特開2009-029750号公報
【特許文献10】特表2007-536241号公報
【特許文献11】特表2006-519817号公報
【特許文献12】特開2007-099641号公報
【特許文献13】国際公開2006/068232号パンフレット
【特許文献14】特開2009-221164号公報
【特許文献15】特開2010-59124号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Nephrology, dialysis, transplantation 2007; 22(12): 3391-407
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、腎における細胞外マトリックス産生細胞に特異的に薬物等の物質を送達できる担体、これを利用した腎線維症処置剤および腎線維症の処置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、新たな腎線維症治療剤を探求する中で、レチノイドを標的化剤として含む担体に細胞外マトリックス産生阻害剤を担持させた組成物の投与により、腎線維症を効果的に処置できることを見出し、本発明を完成させた。
ビタミンAを含む担体が、ビタミンAを貯蔵する星細胞に薬物を送達すること(特許文献13)や、同担体にHSP47に対するsiRNAを担持させた組成物が肝線維症(特許文献13)、肺線維症(特許文献14)および骨髄線維症(特許文献15)を改善させることは知られていたが、腎線維症、腎の間質組織、メサンギウムとの関係についてはこれまで全く知られていなかった。
【0020】
すなわち、本発明は、以下に関する。
(1)レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として含む、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体。
(2)レチノイドがレチノールを含む、上記(1)の担体。
(3)リポソームの形態を有し、レチノイドと、リポソームに含まれる脂質とのモル比が8:1〜1:4である、上記(1)または(2)の担体。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかの担体と、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、腎線維症処置用医薬組成物。
(5)腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、PAI−1の活性または産生阻害剤、細胞活性抑制剤、増殖阻害剤、アポトーシス誘導剤、および、細胞外マトリックス構成分子または該細胞外マトリックス構成分子の産生もしくは分泌に関与する分子の少なくとも1つを標的とするRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドおよびこれらを発現するベクターからなる群から選択される、上記(4)の医薬組成物。
【0021】
(6)細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、HSP47の阻害剤である、上記(4)の医薬組成物。
(7)薬物と担体とを、医療の現場またはその近傍で混合してなる、上記(4)〜(6)のいずれかの医薬組成物。
(8)腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物、レチノイド、ならびに、必要に応じてレチノイド以外の担体構成物質を、単独でまたは組み合わせて含む1つまたはそれ以上の容器を含む、上記(4)〜(7)のいずれかの医薬組成物の調製キット。
(9)レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として配合する工程を含む、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体の製造方法。
(10)レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を有効成分としてそれぞれ配合する工程を含む、腎線維症処置用医薬組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の腎線維症処置用組成物の正確な作用機序は未だ完全には解明されていないが、レチノイドが、線維芽細胞や筋線維芽細胞などの腎における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として機能し、有効成分、例えば腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物等を同細胞に送達することにより、抗腎線維症効果を奏するものと考えられる。
したがって、本発明の担体により、有効成分を作用部位、さらには標的細胞に効率的に送達できるため、腎線維症、特にこれまで治療が困難であった糖尿病性腎炎などの治癒、進行の抑制または発症の予防が可能となり、ヒト医療および獣医療への貢献は極めて大きい。
また、本発明の担体は、任意の薬剤(例えば、既存の腎線維症治療薬)と組み合わせてその作用効率を高めることができるため、製剤的な応用範囲が広く、効果的な処置剤の製造を簡便に行うことができるという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、各群のマウスの腎皮質の切片のシリウス・レッド染色による糸球体の代表的な検鏡像である。油浸レンズを用いて倍率800倍で撮影した。
【図2】図2は、シリウス・レッド染色によって定量した、腎皮質の線維化領域の割合を示したグラフである。マウス1個体につき腎皮質領域20視野を無作為に撮影し、線維化領域の割合(Fibrosis area (%))を算出した(P<0.05、**P<0.01)。
【図3】図3は、マウス腎細胞外マトリックス産生細胞におけるsiRNA含有VA結合リポソームによる遺伝子ノックダウンを示したグラフである。マウス腎臓より回収した細胞外マトリックス産生細胞中のHSP47遺伝子発現量を、内部コントロール遺伝子のGAPDH発現量で補正し、No treatment(未処理)を100%とした際の割合(HSP47 gene expression (%))をグラフ化した。VA-lipはVA-liposome-siRNA Hsp47C、lipはliposome-siRNA Hsp47C、VA+siRNAはVA+siRNA Hsp47C、NTはNo treatmentを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明において、腎における細胞外マトリックス産生細胞は、腎に存在する細胞外マトリックス産生能を有する細胞であれば特に限定されずに、例えば、腎に存在するメサンギウム細胞、尿細管間質細胞、周皮細胞、線維芽細胞、線維芽細胞の前駆細胞であるフィブロサイトおよび筋線維芽細胞を含む。腎に存在するマトリックス産生細胞は、腎に存在する細胞に由来するものばかりでなく、循環血液中のフィブロサイトに由来するものや、内皮間葉分化転換により内皮細胞から転換されたものをも含み得る。筋線維芽細胞はαSMA(α平滑筋アクチン)の発現を特徴としている。本発明における筋線維芽細胞は、検出可能に標識された抗αSMA抗体を用いた免疫染色などによって同定されるものである。また、線維芽細胞は間葉系細胞に特徴的なビメンチンを発現するが、αSMAを発現していないため、ビメンチンとαSMAとの二重染色などにより同定することができる。腎における細胞外マトリックス産生細胞はまた、腎組織をコラゲナーゼおよびプロテアーゼで処理した後、これを密度勾配遠心法(例えば、終濃度8%のNycodenz(R)中)で分離することにより得ることができる。
【0025】
本発明におけるレチノイドは、腎における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤(ターゲティング剤)として機能し、かかる細胞への特異的な物質送達を促進するものである。レチノイドによる物質送達促進の機構は未だ完全には解明されていないが、例えば、RBP(retinol binding protein)と特異的に結合したレチノイドが、腎における細胞外マトリックス産生細胞の細胞表面上に位置するある種のレセプターを介して同細胞に取り込まれることが考えられる。
【0026】
レチノイドは、4個のイソプレノイド単位がヘッド−トゥー−テイル式に連結した骨格を持つ化合物の群の1員であり(G. P. Moss, “Biochemical Nomenclature and Related Documents,” 2nd Ed. Portland Press, pp. 247-251 (1992)を参照)、ビタミンAは、レチノールの生物学的活性を定性的に示すレチノイドの一般的な記述子である。本発明において用いることができるレチノイドとしては、特に限定されず、例えばレチノール(オールトランスレチノールを含む)、レチナール、レチノイン酸(トレチノインを含む)、レチノールと脂肪酸とのエステル、脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル、エトレチナート、イソトレチノイン、アダパレン、アシトレチン、タザロテン、パルミチン酸レチノールなどのレチノイド誘導体、およびフェンレチニド(4−HPR)、ベキサロテンなどのビタミンAアナログを挙げることができる。
【0027】
これらのうち、レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノールと脂肪酸とのエステル(例えばレチニルアセテート、レチニルパルミテート、レチニルステアレート、およびレチニルラウレートなど)および脂肪族アルコールとレチノイン酸とのエステル(例えばエチルレチノエートなど)は、腎における細胞外マトリックス産生細胞への特異的な物質の送達の効率の点で好ましい。
レチノイドのシス−トランスを含む異性体全ては、本発明の範囲内に入る。レチノイドはまた、1または2以上の置換基で置換されることもある。本発明におけるレチノイドは、単離された状態のものはもちろんのこと、これを溶解または保持することができる媒体に溶解または混合した状態のレチノイドをも含む。
【0028】
本発明の担体は、これらのレチノイド自体で構成してもよいし、レチノイドを、これとは別の担体構成成分に結合または包含させることにより構成してもよい。したがって、本発明の担体は、レチノイド以外の担体構成成分を含んでいてもよい。かかる成分としては、特に限定されずに、医薬および薬学の分野で知られる任意のものを用いることができるが、レチノイドを包含し得るか、または、これと結合し得るものが好ましい。
【0029】
このような成分としては、脂質、例えば、グリセロリン脂質などのリン脂質、スフィンゴミエリンなどのスフィンゴ脂質、コレステロールなどのステロール、大豆油、ケシ油などの植物油、鉱油、卵黄レシチンなどのレシチン類、ポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。このうち、リポソームを構成し得るもの、例えば、レシチンなどの天然リン脂質、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)などの半合成リン脂質、ジオレイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、コレステロールなどが好ましい。
【0030】
特に好ましい成分としては、細網内皮系による捕捉を回避し得る成分、例えば、N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)−ジドデシル−D−グルタメートクロリド(TMAG)、N,N’,N’’,N’’’−テトラメチル−N,N’,N’’,N’’’−テトラパルミチルスペルミン(TMTPS)、2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキサミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロアセテート(DOSPA)、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロリド(DOTMA)、ジオクタデシルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ジドデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1,2−ジオレイルオキシ−3−トリメチルアンモニオプロパン(DOTAP)、3β−[N−(N’,N’−ジメチルアミノエタン)カルバモイル]コレステロール(DC−Chol)、1,2−ジミリストイルオキシプロピル−3−ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、O,O’−ジテトラデカノイル−N−(α−トリメチルアンモニオアセチル)ジエタノールアミンクロリド(DC−6−14)などのカチオン性脂質が挙げられる。
本発明における担体は、特定の3次元構造を有してもよい。かかる構造としては、限定されずに、直鎖状または分枝状の線状構造、フィルム状構造、球状構造などが挙げられる。したがって、担体は、限定されずに、ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などの任意の3次元形態を有してもよい。
【0031】
本発明の担体へのレチノイドの結合または包含は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドを担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることによっても可能となる。または、本発明の担体へのレチノイドの結合または包含は、該担体の作製時に、レチノイドと、それ以外の担体構成成分とを混合することによっても可能となる。本発明の担体におけるレチノイドの量は、例えば、0.01〜1000nmol/μl、好ましくは0.1〜100nmol/μlとすることが可能である。担体へのレチノイドの結合または包含は、該担体に薬物等を担持させる前に行ってもよいし、担体、レチノイドおよび薬物等を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、薬物等を既に担持した状態の担体と、レチノイドとを混合することなどによって行ってもよい。したがって、本発明はまた、既存の任意の薬物結合担体や薬物封入担体、例えば、DaunoXome(R)、Doxil、Caelyx(R)、Myocet(R)などのリポソーム製剤にレチノイドを結合させる工程を含む、腎における細胞外マトリックス産生細胞に特異的な製剤の製造方法にも関する。
【0032】
本発明の担体の形態は、所望の物質や物体を、標的とする腎における細胞外マトリックス産生細胞に運搬できればいずれの形態でもよく、例えば、限定するものではないが、高分子ミセル、リポソーム、エマルジョン、微小球、ナノ小球などのうちいずれの形態をとることもできる。本発明においては、送達効率の高さ、送達できる物質の選択肢の広さや製剤の容易性等の観点から、これらのうちリポソームの形態が好ましく、中でもカチオン性脂質を含むカチオン性リポソームが特に好ましい。担体がリポソームの形態である場合、レチノイドと、これ以外のリポソーム構成脂質とのモル比は、レチノイドの担体への結合または包含の効率性を考慮すると、好ましくは8:1〜1:4、より好ましくは4:1〜1:2である。
【0033】
本発明の担体は、これに含まれるレチノイドが、標的化剤として機能する態様で存在していれば、運搬物を内部に含んでも、運搬物の外部に付着して存在しても、また、運搬物と混合されていてもよい。ここで、標的化剤として機能するとは、レチノイドを含む担体が、これを含まない担体よりも迅速かつ/または大量に、標的細胞である腎における細胞外マトリックス産生細胞に到達し、かつ/または取り込まれることを意味し、これは、例えば、標識を付した、または標識を含む担体を標的細胞の培養物に添加し、所定時間後に標識の存在部位を分析することにより容易に確認することができる。構造的には、例えば、レチノイドが、遅くとも標的細胞に到達するまでに、担体を含む製剤の外部に少なくとも部分的に露出していれば、上記要件を充足し得る。ここで、「製剤」とは、後述の本発明の組成物を含み、さらに形態をも有する概念である。レチノイドが、製剤の外部に露出しているか否かは、製剤をレチノイドと特異的に結合する物質、例えば、レチノール結合タンパク質(RBP)などと接触させ、製剤への結合を調査することにより評価することができる。
【0034】
レチノイドを、遅くとも標的細胞に到達するまでに、製剤の外部に少なくとも部分的に露出させることは、例えば、レチノイドと、レチノイド以外の担体構成成分との配合比率を調節することなどにより達成することができる。また、担体がリポソームなどの脂質構造体の形態を有する場合には、例えば、レチノイド以外の担体構成成分とレチノイドとを複合体化する際に、最初にレチノイド以外の担体構成成分からなる脂質構造体を水性溶液中に希釈し、次いでこれを、レチノイドと接触、混合するなどの手法を用いることができる。この場合、レチノイドは、溶剤、例えば、DMSOなどの有機溶剤に溶解した状態であってもよい。ここで、脂質構造体とは、任意の3次元構造、例えば、線状、フィルム状、球状などの形状を有する、脂質を構成成分として含む構造体を意味し、限定されずに、リポソーム、ミセル、脂質微小球、脂質ナノ小球、脂質エマルジョンなどを包含する。リポソームを標的化したのと同じ標的化剤を他の薬物担体にも適用できることは、例えばZhao and Lee, Adv Drug Deliv Rev. 2004;56(8):1193-204、Temming et al., Drug Resist Updat. 2005;8(6):381-402などに記載されている。
【0035】
脂質構造体は、例えば、塩や、ショ糖、ブドウ糖、マルトース等の糖類、グリセリン、プロピレングリコールなどの多価アルコールなど、好ましくはショ糖やブドウ糖などの浸透圧調整剤を用いて浸透圧を調整することで、安定化させることができる。また、適度の塩や緩衝液などのpH調整剤を加える事によりpHを調整してもよい。したがって、脂質構造体の製造、保存などを、これらの物質を含む媒体中で行うことができる。この場合、浸透圧調整剤の濃度は、血液と等張になるように調整することが好ましい。例えば、ショ糖の場合、媒体中の濃度は、限定されずに、3〜15重量%、好ましくは5〜12重量%、より好ましくは8〜10重量%、特に9重量%であってもよく、ブドウ糖の場合は、媒体中の濃度は、限定されずに、1〜10重量%、好ましくは3〜8重量%、より好ましくは4〜6重量%、特に5重量%であってもよい。
【0036】
本発明はまた、レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として配合する工程を含む、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体の製造方法に関する。レチノイドの配合手法は、レチノイドが、配合された担体において腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として機能できれば特に限定されないが、例えば、本明細書に記載の種々の手法を用いることができる。したがって、レチノイドの配合は、化学的および/または物理的な方法によってレチノイドを担体の他の構成成分に結合させるかまたは包含させることや、担体の作製時に、レチノイドとそれ以外の担体構成成分とを混合することなどによって行うことができる。レチノイドの配合量等は、本発明の担体について既に述べたとおりである。
【0037】
本担体が送達する物質や物体は特に制限されないが、投与部位から標的細胞が存在する病変部位へ、生物の体内を物理的に移動できるような大きさであることが好ましい。したがって、本発明の担体は、原子、分子、化合物、タンパク質、核酸等の物質はもとより、ベクター、ウイルス粒子、細胞、1以上の要素で構成された薬物放出システム、マイクロマシン等の物体をも運搬することができる。前記物質または物体は、好ましくは標的細胞に何らかの影響を与える性質を有し、例えば、標的細胞を標識するものや、標的細胞の活性または増殖を制御する(例えば、これを増強または抑制する)ものを含む。
【0038】
したがって、本発明の一態様においては、担体が送達する物は「腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」である。ここで、腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性とは、腎における細胞外マトリックス産生細胞が示す分泌、取り込み、遊走等の種々の活性を指すが、本発明においては、典型的に、これらのうち特に腎線維症の発症、進行および/または再発などに関与する活性を意味する。かかる活性としては、例えば、限定することなく、PAI−1等の生理活性物質、コラーゲン、プロテオグリカン、テネイシン、フィブロネクチン、トロンボスポンジン、オステオポンチン、オステオネクチン、エラスチン等の細胞外マトリックス成分などの産生・分泌、および、これらの細胞外マトリックス成分の分解活性の抑制などが挙げられる。
【0039】
したがって、本明細書において、腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とは、腎線維症の発症、進行および/または再発に関係する同細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等を直接または間接に抑制する何れの薬物であってもよく、限定されずに、上記生理活性物質の活性もしくは産生を阻害する薬物、および前記生理活性物質を中和する抗体および抗体断片、前記生理活性物質の発現を抑制するRNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクター、上記細胞外マトリックス成分などの産生・分泌を阻害する薬物、例えば、細胞外マトリックス成分の発現を抑制する、RNAi分子(例えば、siRNA、shRNA、ddRNA、miRNA、piRNA、rasiRNAなど)、リボザイム、アンチセンス核酸(RNA、DNA、PNA、またはこれらの複合物を含む)などの物質、もしくはドミナントネガティブ変異体等のドミナントネガティブ効果を有する物質、またはこれらを発現するベクター、ナトリウムチャンネル阻害剤などの細胞活性抑制剤、アルキル化剤(例えば、イホスファミド、ニムスチン、シクロホスファミド、ダカルバジン、メルファラン、ラニムスチン等)、抗腫瘍性抗生物質(例えば、イダルビシン、エピルビシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、ピラルビシン、ブレオマイシン、ペプロマイシン、ミトキサントロン、マイトマイシンC等)、代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン、エノシタビン、シタラビン、テガフール・ウラシル、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤、ドキシフルリジン、ヒドロキシカルバミド、フルオロウラシル、メトトレキサート、メルカプトプリン等)、エトポシド、イリノテカン、ビノレルビン、ドセタキセル、パクリタキセル、ビンクリスチン、ビンデシン、ビンブラスチン等のアルカロイド、およびカルボプラチン、シスプラチン、ネダプラチン等の白金錯体などの細胞増殖抑制剤、ならびにシクロスポリンなどのアポトーシス誘導剤を包含する。
【0040】
細胞外マトリックス成分の産生・分泌を阻害する薬物としては、限定されずに、例えば、様々なタイプのコラーゲンの合成過程で共通する細胞内輸送および分子成熟化に必須のコラーゲン特異的分子シャペロンであるHSP47などが挙げられる。
また、本発明における「腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物」は、腎線維症の発症、進行および/または再発の抑制に直接または間接に関係する腎における細胞外マトリックス産生細胞の物理的、化学的および/または生理的な作用等、例えば、MMP(MMP1、MMP2などを含む)、プラスミノーゲンアクチベーター(PA)などの産生・分泌を直接または間接に促進する何れの薬物であってもよい。かかる薬物としては、限定することなく、例えば、これらの物質の活性化剤や発現増強剤などが挙げられる。本発明の担体は、上記薬物の1種または2種以上を送達することができる。
【0041】
本発明に用いることのできるsiRNA(small interfering RNA)には、狭義のsiRNAの他に、miRNA(micro RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、piRNA(Piwi-interacting RNA)、rasiRNA(repeat associated siRNA)などの二重鎖RNAおよびこれらの改変体も含まれる。広義の機能性小分子RNAとしてのsiRNAおよびsiRNAを発現するベクターは、例えば一般的なテキスト(実験医学別冊 改訂RNAi実験プロトコール 2004年 羊土社、RNAi実験なるほどQ&A 2006年 羊土社)の教示に従って使用することができる。
これらのsiRNA設計は、当業者であれば、標的とする遺伝子のメッセンジャーRNA配列および既知のsiRNAの配列を参照することにより、一般的なテキスト(実験医学別冊 改訂RNAi実験プロトコール 2004年 羊土社、RNAi実験なるほどQ&A 2006年 羊土社)の教示に従って適宜行なうことができる。
【0042】
本発明の担体の送達物としてはまた、限定されずに、腎線維症の発症、進行および/または再発を抑制する上記以外の薬物、例えば、限定することなく、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、AT1アンジオテンシンII受容体拮抗剤、アルドステロン拮抗剤、エンドセリン受容体拮抗剤、α遮断薬、β遮断薬、免疫抑制剤、細胞外マトリックス代謝阻害剤、補体系阻害剤、ケモカイン阻害剤、TGF−β阻害剤、ホスホジエステラーゼ5阻害剤などの一酸化窒素系に作用する薬剤、NFκB阻害剤、Rho阻害剤、p38 MAPK阻害剤、PI3Kγ阻害剤、カリクレイン、インターロイキン1受容体拮抗剤、BMP−7、抗腫瘍壊死因子α抗体、抗血小板由来成長因子D抗体、プラスミノーゲンアクチベータインヒビター−1産生抑制剤、プロスタグランジン受容体4選択的アゴニスト、I型コラーゲン合成阻害剤、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン硫酸転移酵素阻害剤、ビタミンKエポキシド還元酵素阻害剤、糖化最終産物形成阻害剤、A2A アデノシンレセプター2Aアゴニスト、エンドセリン受容体拮抗剤、VEGF阻害剤、ADAM(a disintegrin and metalloprotease domain)プロテアーゼの活性化剤もしくは発現増強剤、ADAMTS(a disintegrin and metalloprotease with thrombospondin motifs)プロテアーゼの活性化剤もしくは発現増強剤、リラキシンもしくはその発現増強剤などを挙げることができる。本明細書において、発現増強剤は、限定されずに、例えば、発現増強の対象となるタンパク質をコードする核酸を含むベクターなどの遺伝子治療剤などを含む。これらの薬物はまた、後述の本発明の組成物と併用することもできる。ここで、「併用」とは、本発明の組成物と、上記薬物を実質的に同時に投与すること、および、同じ処置期間内で時間的に間隔を空けて投与することを含む。後者の場合、本発明の組成物は上記薬物の前に投与しても後に投与してもよい。
【0043】
本発明の一態様において、腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物としては、HSP47の阻害剤、例えば、これらのそれぞれに対するsiRNAなどが挙げられる。
【0044】
本発明の担体が送達する物質や物体は、標識されていてもいなくてもよい。標識化により、標的細胞への送達の成否や、標的細胞の増減などをモニタリングすることが可能となり、特に試験・研究レベルのみならず、臨床レベルにおいても有用である。標識は、当業者に公知な任意のもの、例えば、任意の放射性同位体、磁性体、標識化物質に結合する物質(例えば抗体など)、蛍光物質、フルオロフォア、化学発光物質、および酵素などから選択することができる。標識はまた、担体構成成分に付してもよいし、独立した送達物として担体に担持させてもよい。
【0045】
本発明において「腎における細胞外マトリックス産生細胞用」または「腎における細胞外マトリックス産生細胞送達用」とは、腎における細胞外マトリックス産生細胞を標的細胞として使用するのに適することを意味し、これは例えば、同細胞に、他の細胞、例えば正常細胞よりも迅速、高効率かつ/または大量に物質を送達できることを含む。例えば、本発明の担体は、腎における細胞外マトリックス産生細胞に、他の細胞に比べ、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.5倍以上、2倍以上、さらには3倍以上の速度および/または効率で物質を送達することができる。
【0046】
本発明はまた、前記担体と、前記腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御するための、または腎線維症を処置するための組成物、ならびに、前記担体の、これらの組成物の製造への使用に関する。
本発明における腎線維症は、任意の間質性腎炎、例えば、レンサ球菌腎炎、ブドウ球菌腎炎、肺炎球菌腎炎、水痘、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどに伴うウイルス性腎炎、マラリアなどの寄生虫感染による腎炎、真菌性腎炎、マイコプラズマ腎炎などに伴う感染性間質性腎炎、全身性エリテマトーデス(ループス腎炎)、全身性強皮症(膠原病腎)、シェーグレン症候群などの膠原病に伴う間質性腎炎、紫斑病性腎炎、多発性動脈炎、急速進行性糸球体腎炎などの血管の免疫疾患に伴う腎炎、放射線被曝に伴う間質性腎炎、金製剤、NSAIDs、ペニシラミン、ブレオマイシンなどの抗癌剤、抗生物質、パラコートなどによる薬剤性間質性腎炎、昆虫の刺し傷、花粉、ウルシ科の植物などによるアレルギー性腎炎、アミロイドーシス腎炎、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、悪性腎硬化症、多発性嚢胞腎症などに伴う腎炎、尿細管間質性腎炎、妊娠中毒症や癌に伴う腎炎、膜性増殖性糸球体腎炎、IgA腎症、混合型クリオグロブリン血症腎炎、グッドパスチャー症候群腎炎、ヴェーゲナー肉芽腫症腎炎、急性間質性腎炎などの特発性間質性腎炎などに起因し得、したがって、これらの間質性腎炎が慢性化したものを含む。本発明における腎線維症は、好ましくは糖尿病性腎炎、薬剤性間質性腎炎および特発性間質性腎炎が慢性化したものを含む。
【0047】
本発明の組成物においては、担体に含まれるレチノイドが標的化剤として機能する態様で存在する限り、担体は、送達物をその内部に含んでも、送達物の外部に付着して存在しても、また、送達物と混合されていてもよい。したがって、投与経路や薬物放出様式などに応じて、上記組成物を、適切な材料、例えば、腸溶性のコーティングや、時限崩壊性の材料で被覆してもよく、また、適切な薬物放出システムに組み込んでもよい。さらに、本発明の組成物は、レチノイドが結合したリポソームと有効成分との複合体、すなわちリポプレックスの形態をとってもよい。また、担体がレチノイドのみで構成される場合には、本発明の組成物は、腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とレチノイドとの複合体の形態をとってもよい。
【0048】
本発明の組成物は医薬として使用することができ(すなわち医薬組成物)、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、限定することなく、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路で投与してもよく、各投与経路に適した剤形に製剤してもよい。かかる剤形および製剤方法は任意の公知のものを適宜採用することができる(例えば、標準薬剤学、渡辺喜照ら編、南江堂、2003年などを参照)。
例えば、経口投与に適した剤形としては、限定することなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゲル剤、シロップ剤などが挙げられ、また非経口投与に適した剤形としては、溶液性注射剤、懸濁性注射剤、乳濁性注射剤、用時調製型注射剤などの注射剤が挙げられる。非経口投与用製剤は、水性または非水性の等張性無菌溶液または懸濁液の形態であることができる。
【0049】
本発明はまた、レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を有効成分としてそれぞれ配合する工程を含む、腎線維症処置用医薬組成物の製造方法に関する。レチノイドの配合手法は、配合された組成物においてレチノイドが腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として機能できれば特に限定されないが、例えば、本明細書に記載の種々の手法を用いることができる。また、有効成分の配合手法も、有効成分が所定の効果を奏することができれば特に限定されず、任意の公知の手法を用いることができる。有効成分の配合は、レチノイドと同時に行ってもよいし、レチノイドを配合する前、または配合した後に行ってもよい。例えば、組成物がレチノイド以外の担体構成成分を含む場合、有効成分の配合は、レチノイドが標的化剤として既に配合された担体と有効成分とを混合することなどによって行ってもよいし、レチノイド、レチノイド以外の担体構成成分および有効成分を同時に混合することなどによって行ってもよいし、または、有効成分をレチノイド以外の担体構成成分に配合した後に、これとレチノイドとを混合することなどによって行ってもよい。
【0050】
レチノイドの配合量等は、本発明の担体について既に述べたとおりである。また、有効成分の配合量は、組成物として投与された場合に、腎線維症の発症や再発を抑制し、病態を改善し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止し得る量、好ましくは、腎線維症の発症および再発を予防し、またはこれを治癒し得る量であってもよい。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は公知であるか、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。腎線維症のモデル動物としては、例えば、特開2009-178143に記載のものが挙げられる。有効成分の配合量は、組成物の投薬態様によって変化し得る。例えば、1回の投与に複数の単位の組成物を用いる場合、組成物1単位に配合する有効成分の量は、1回の投与に必要な有効成分の量の複数分の1とすることができる。かかる配合量の調整は当業者が適宜行うことができる。
【0051】
本発明の担体または組成物は、いずれの形態で供給されてもよいが、保存安定性の観点から、好ましくは用時調製可能な形態、例えば、医療の現場あるいはその近傍において、医師および/または薬剤師、看護士、もしくはその他のパラメディカルなどによって調製され得る形態で提供することができる。この場合、本発明の担体または組成物は、これらに必須の構成要素の少なくとも1つを含む1個または2個以上の容器として提供され、使用の前、例えば、24時間前以内、好ましくは3時間前以内、そしてより好ましくは使用の直前に調製される。調製に際しては、調製する場所において通常入手可能な試薬、溶媒、調剤器具などを適宜使用することができる。
【0052】
したがって、本発明はまた、レチノイド、および/または送達物、および/またはレチノイド以外の担体構成物質を、単独でもしくは組み合わせて含む1個または2個以上の容器を含む担体もしくは組成物の調製キット、ならびに、そのようなキットの形で提供される担体または組成物の必要構成要素にも関する。本発明のキットは、上記のほか、本発明の担体および組成物の調製方法や投与方法などに関する指示、例えば説明書や、CD、DVD等の電子記録媒体などを含んでいてもよい。また、本発明のキットは、本発明の担体または組成物を完成するための構成要素の全てを含んでいてもよいが、必ずしも全ての構成要素を含んでいなくてもよい。したがって、本発明のキットは、医療現場や、実験施設などで通常入手可能な試薬や溶媒、例えば、無菌水や、生理食塩水、ブドウ糖溶液などを含んでいなくてもよい。
【0053】
本発明はさらに、前記組成物の有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御するための、または腎線維症を処置するための方法に関する。ここで、有効量とは、例えば、後者については、腎線維症の発症や再発を抑制し、病態を改善し、症状を軽減し、または進行を遅延もしくは停止する量であり、好ましくは、腎線維症の発症および再発を予防し、またはこれを治癒する量である。また、投与による利益を超える悪影響が生じない量が好ましい。かかる量は、培養細胞などを用いたin vitro試験や、マウス、ラット、イヌまたはブタなどのモデル動物における試験により適宜決定することができ、このような試験法は当業者によく知られている。また、担体に含まれるレチノイド、および本発明の方法に用いる薬物の用量は当業者に公知であるか、または、上記の試験等により適宜決定することができる。腎線維症のモデル動物としては、例えば、特開2009-178143に記載のものが挙げられる。
【0054】
本発明の方法において投与する組成物の具体的な用量は、処置を要する対象に関する種々の条件、例えば、症状の重篤度、対象の一般健康状態、年齢、体重、対象の性別、食事、投与経路、投与の時期および頻度、併用している医薬、治療への反応性、および治療に対するコンプライアンスなどを考慮して決定され得る。
投与経路としては、経口および非経口の両方を包含する種々の経路、例えば、経口、静脈内、筋肉内、皮下、局所、肺内、気道内、気管内、気管支内、経鼻、直腸内、動脈内、門脈内、心室内、骨髄内、リンパ節内、リンパ管内、脳内、髄液腔内、脳室内、経粘膜、経皮、鼻内、腹腔内および子宮内等の経路が含まれる。
投与頻度は、用いる組成物の性状や、上記のような対象の条件によって異なるが、例えば、1日多数回(すなわち1日2、3、4回または5回以上)、1日1回、数日毎(すなわち2、3、4、5、6、7日毎など)、1週間に数回(例えば、1週間に2、3、4回など)、1週間毎、数週間毎(すなわち2、3、4週間毎など)であってもよい。
【0055】
本発明の方法において、用語「対象」は、任意の生物個体を意味し、好ましくは動物、さらに好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトの個体である。本発明において、対象は健常であっても、何らかの疾患に罹患していてもよいものとするが、腎線維症の処置が企図される場合には、典型的には糖尿病性腎炎または腎線維症に罹患しているか、罹患するリスクを有する対象を意味する。例えば、腎線維症の予防が意図される場合は、限定することなく、糖尿病性腎炎、特にII型糖尿病による糖尿病性腎炎に罹患した対象が典型例となる。
また、用語「処置」は、疾患の治癒、一時的寛解または予防などを目的とする医学的に許容される全ての種類の予防的および/または治療的介入を包含するものとする。例えば、「処置」の用語は、腎線維症の進行の遅延または停止、病変の退縮または消失、腎線維症発症の予防または再発の防止などを含む、種々の目的の医学的に許容される介入を包含する。
【0056】
本発明はまた、上記担体を利用した、腎における細胞外マトリックス産生細胞への薬物送達方法に関する。この方法は、限定されずに、例えば、上記担体に送達物を担持させる工程と、送達物を担持した担体を腎における細胞外マトリックス産生細胞を含む生物や媒体、例えば培養培地などに投与または添加する工程とを含む。これらの工程は、公知の任意の方法や、本明細書中に記載された方法などに従って適宜達成することができる。上記送達方法はまた、別の送達方法、例えば、腎を標的とする他の送達方法などと組み合わせることもできる。また、上記方法は、in vitroでなされる態様も、体内の腎における細胞外マトリックス産生細胞を標的とする態様も含む。
【実施例】
【0057】
本発明を以下の例でさらに詳細に説明するが、これらは例示に過ぎず、本発明を決して限定するものではない。
例1 siRNA含有VA結合リポソームの作製
siRNAとして、以下の配列を有するものを用いた。
配列名:Hsp47-C
5'-GGACAGGCCUGUACAACUA-dTdT-3'(センス、配列番号1)
5'-UAGUUGUACAGGCCUGUCC-dTdT-3'(アンチセンス、配列番号2)
【0058】
混合前溶液として、10mMのビタミンA(レチノール、Sigma。以下VAとも記す。ジメチルスルホキシドに溶解)、1mMのLipotrust SR(北海道システム・サイエンス株式会社。以下、リポソームまたはリポソーム構成脂質とも記す。ヌクレアーゼフリー水に溶解)および10μg/μlのsiRNA(Hsp47-Cをヌクレアーゼフリー水に溶解)を準備した。次いで、上記で調製したヌクレアーゼフリー水中のLipotrust SRに、ジメチルスルホキシドに溶解したVAを1:1(mol/mol)の割合で添加し、vortexにて15秒間攪拌後、遮光状態で5分間室温放置し複合体を形成させた。この複合体にsiRNAを添加して混合し、投与液VA Liposome-siRNA Hsp47Cを得た。この投与液は100μlあたり、75nmolのVA、75nmolのリポソーム構成脂質、siRNA 112.5μgを含み、これは3.00μmol/kg体重のVA、3.00μmol/kg体重のリポソーム構成脂質、siRNA 4.5mg/kg体重のsiRNAに相当する。なお、VAはリポソーム表面に露出していた。
【0059】
例2 腎線維症モデルマウスにおける治療効果の検討
(1)腎線維症モデル動物の作製
腎線維症モデルマウスを株式会社ステリック再生医科学研究所に依頼して作製した。具体的には、出生後2日齢のC57BL6J/JcLマウス雄(日本クレア社)にN−アセチル−β−D−グルコサミニダーゼ阻害剤を与え、4週齢まで飼料CE−2(日本クレア社製)および滅菌水を与えて飼育し、満4週齢で離乳後、粗脂肪含量が通常食よりも高いHigh Fat Diet32(日本クレア社)および滅菌水を与え、12週齢まで飼育し、STAMマウスを作製した。本モデルマウスは、糖尿病性腎炎を発症することが知られており(特開2009-178143参照)、糖尿病性腎炎による腎線維症を観察することができる。
上記モデルマウスを、12週3日齢時に10匹ずつ以下の4群に振り分けた。
(第1群)No treatment-STAM マウス、処置前対照群(以下、 NT-STAM (Pre) 群)
(第2群)No treatment-STAM マウス群(以下、 NT-STAM群)
(第3群)5%グルコース投与群(以下、Vehicle群)
(第4群)VA Liposome-siRNA Hsp47C投与群(以下、VL-Hsp47C群)
【0060】
(2)投与液の投与
NT-STAM (Pre)群については、群分け後の治療開始前にマウスを安楽死させ、病態確認を行った。NT-STAM群を除く上記2群に対し、対応する以下の投与液を、12週5日齢時から1日おきに合計10回の尾静脈注射による投与を行った。
(第3群)溶媒対照として、ヌクレアーゼフリー水 0.75ml/kg体重と5%グルコース(大塚製薬株式会社)3.250ml/kg体重とを混合した投与液(5%グルコースまたはVehicle)を用いた。
(第4群)投与液100μlあたり、VAを75nmol、リポソーム構成脂質を75nmol、siRNAを112.5μgとなるよう混合し、5%グルコースで最終調整を行った投与液(VA Liposome-siRNA Hsp47CまたはVL-Hsp47C)を用いた。
各投与液は、投与開始日の体重を基準体重とし、投与日の体重変化率が基準体重の20%以内の場合、4ml/kg体重を尾静脈より投与した。20%を超えた場合は、以降その体重を新たな基準体重として投与量を再設定した。
【0061】
(3)腎線維症に対する改善効果の検討
最終投与終了後2日目(15週4日齢時)にジエチルエーテル麻酔下で心臓より採血し、マウスを安楽死させてから腎臓を摘出した。
摘出した腎臓は、4%パラホルムアルデヒド−リン酸緩衝液にて固定後、パラフィン包埋して薄切標本を作製した。腎線維症に対する治療効果を検討するため、シリウス・レッド染色(コラーゲンを特異的に赤染する線維染色)を行い、オールインワン蛍光顕微鏡BZ−9000(株式会社キーエンス)を用いて、80倍にて撮影した。解析は、腎皮質領域から無作為に20視野を撮影して、BZ−9000付属の解析ソフトを用いて定量化した。
【0062】
図1に、各投与群における腎皮質領域の代表的な糸球体の検鏡像を示した。シリウス・レッド染色は、コラーゲン特異的な線維染色であり、線維化部位は赤〜ピンクに染まる。検鏡の結果、糸球体基底膜の肥厚は全群に差を認めないが、メサンギウム領域(間質)および尿細管細胞周囲の線維化は、VL-Hsp47C投与群において他の3群よりも線維化の程度が軽度にとどまり、腎線維化の改善が認められた(メサンギウム領域の増大部分は、矢印にて示した)。また、マウス1個体につき腎皮質領域の20視野を無作為に撮影し、線維化領域の割合を算出した。図2に示す結果から、VL-Hsp47C投与群において、NT-STAMおよびVehicleの2群よりもシリウス・レッド陽性領域の割合が有意に低く、腎線維化の改善が認められた。なお、統計学的有意差異の評価にはt検定を用いた。
以上の結果から、VL-Hsp47C投与群において線維化の改善傾向が認められた。siRNAが基本的に細胞質内で作用することを考慮すれば、この結果は、レチノイドが腎における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として機能し、同細胞に効率的に薬物を送達することにより、腎線維症の進行を抑制できることを示すものである。
【0063】
例3 siRNA含有VA結合リポソームによる、腎細胞外マトリックス産生細胞における遺伝子ノックダウン
(1)細胞の分離・回収
肝星細胞に類似した性状を示す腎における細胞外マトリックス産生細胞を、以下のようにして分離・回収した。
まず、事前に以下の5種の溶液の調製を行った。すべての溶液は4℃にて保存した。
・EGTA液:HBSS (Invitrogen 14170)500mlに対し、HEPES1.19gと EGTA0.1gを加え混合した。
・0.02% Collagenase液:HBSS (Invitrogen 24020)500mlに対し、 HEPES1.19g、CaCl2 2H2O 0.235gとCollagenase(Yakult YK-102) 0.1gを加え混合した。
・0.02% Collagenase+0.1% Protease 液:0.02% Collagenase 40mlに対し、Protease(Sigma P6911-1G)40mgを加え混合した。
・Hanks液:HBSS (Invitrogen 24020)500mlに対し、MgSO40.05gを加え混合した。
・10% Nycodenz(R)液(Axis-Shield Prod. No 1114542-1):蒸留水500mlに対し、50g Nycodenz(R)を加え混合溶解した。
【0064】
マウス(Male C57BL6/J、20〜30g、6〜8週齢)に麻酔をかけ、腹部を剃毛後、正中線にそって開腹し、腎臓を取り出した。取り出した腎臓を30mlのEGTA液で3回ほど洗い血抜きを行った。5mlのEGTA液に腎臓を入れ、はさみで細かく切り刻んだ。切り刻んだ腎臓にEGTA液を加え全量を30mlとし、1300rpmにて5分間遠心した。遠心後上清を取り除き、0.02%Collagenase+0.1% Protease液30mlを加え、三角フラスコに移し37℃にて20分間撹拌した。Cell Strainer(Falcon 352360)で撹拌液をろ過し、ろ液を1300rpmで5分間、遠心を行った。沈殿をHanks液に溶かし、Hanks液に終濃度8% Nycodenz(R)となるよう10% Nycodenz(R)液を混合した。混合液を1400×gにて、20分間遠心した。上清を回収し、さらに1300rpmにて5分間遠心した。上清を取り除き、10% FBS DMEM(Sigma D6546)に再懸濁し、T-75フラスコ(BD 353136)に播種した。
【0065】
(2)遺伝子抑制実験
1.siRNA含有VA結合liposomeの作製
siRNAとして、以下の配列を有するものを用いた。
配列名:Hsp47-C
5'-GGACAGGCCUGUACAACUA-dTdT-3'(センス、配列番号1)
5'-UAGUUGUACAGGCCUGUCC-dTdT-3'(アンチセンス、配列番号2)
【0066】
混合前溶液として、10mMのビタミンA(レチノール、Sigma R7632、以下VAと略記。ジメチルスルホキシドに溶解)、1mMのLipotrust SR(北海道システム・サイエンス株式会社 N301。以下、リポソームまたはリポソーム構成脂質とも記す。ヌクレアーゼフリー水にて溶解)および10mg/mlのsiRNA(Hsp47-Cをヌクレアーゼフリー水に溶解)を準備した。次いで、上記で調製したヌクレアーゼフリー水中のLipotrust SRに、ジメチルスルホキシドに溶解したVAを1:1(mol:mol)の割合にて添加後、vortexにて15秒間攪拌し、遮光状態で5分間室温放置し複合体を形成させた。この複合体に10mg/mlのsiRNAを添加して混合し、VA Liposome-siRNA Hsp47Cを得た。VAなしの場合には、VAの代わりにジメチルスルホキシドを等量加えた。細胞へのトランスフェクション時に終濃度lipotrust SR/VA 7.7μM、siRNAを869nMとなるよう調製を行った。
【0067】
2.トランスフェクション実験
事前に実験用の細胞として、上述の回収方法にてマウス腎臓より回収した細胞外マトリックス産生細胞を、細胞数0.2×10個/ウェルにて6ウェルプレートに播種し、2日間、37℃、10% FBS DMEMにて培養した。
培養2日後、トランスフェクション前に各ウェルの10% FBS DMEMをすべて取り除き、900μlのフレッシュな10% FBS DMEMを加え、15分程度37℃で培養した。
【0068】
上記「1.」にて作製したVA Liposome-siRNA Hsp47CまたはLiposome-siRNA Hsp47C 100μlを各ウェルにゆるやかに加え、30分間、37℃にてインキュベートした後、各ウェルの培養上清をすべて取り除き、フレッシュな10% FBS DMEM 2mlを加え2日間37℃にて培養した。2日後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN 74104)を用いて細胞よりRNAを単離し、High Capacity RNA-to-cDNA Master Mix(Applied Biosystems 4390779)にてRT−PCRを行いcDNAを得た。得られたcDNAを用い、Power SYBR(R) Green PCR Master Mix(Applied Biosystems 4368708)にて定量PCRを行い、遺伝子抑制の効果を検証した。その結果を図3に示す。
以上の結果は、例2で用いたHSP47遺伝子に対するsiRNAが、腎の細胞外マトリックス産生細胞においてHSP47遺伝子の発現を抑制することを示すものであり、本発明の治療剤に含まれるsiRNAが、腎の細胞外マトリックス産生細胞特異的に取り込まれ、同細胞内で標的遺伝子の発現を抑制することによって、腎線維症の進行の抑制をもたらしたことを示唆するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として含む、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体。
【請求項2】
レチノイドがレチノールを含む、請求項1に記載の担体。
【請求項3】
リポソームの形態を有し、レチノイドと、リポソームに含まれる脂質とのモル比が8:1〜1:4である、請求項1または2に記載の担体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の担体と、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物とを含む、腎線維症処置用医薬組成物。
【請求項5】
腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、PAI−1の活性または産生阻害剤、細胞活性抑制剤、増殖阻害剤、アポトーシス誘導剤、および、細胞外マトリックス構成分子または該細胞外マトリックス構成分子の産生もしくは分泌に関与する分子の少なくとも1つを標的とするRNAi分子、リボザイム、アンチセンス核酸、DNA/RNAキメラポリヌクレオチドおよびこれらを発現するベクターからなる群から選択される、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物が、HSP47の阻害剤である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
薬物と担体とを、医療の現場またはその近傍で混合してなる、請求項4〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
腎における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物、レチノイド、ならびに、必要に応じてレチノイド以外の担体構成物質を、単独でまたは組み合わせて含む1つまたはそれ以上の容器を含む、請求項4〜7のいずれか一項に記載の医薬組成物の調製キット。
【請求項9】
レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として配合する工程を含む、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への物質送達用担体の製造方法。
【請求項10】
レチノイドを腎臓における細胞外マトリックス産生細胞への標的化剤として、腎臓における細胞外マトリックス産生細胞の活性または増殖を制御する薬物を有効成分としてそれぞれ配合する工程を含む、腎線維症処置用医薬組成物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−20995(P2012−20995A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134708(P2011−134708)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】