説明

腎障害のための薬草抽出物

本発明は、ネフローゼ症候群ならびに合併症のある、および合併症のない慢性再発性尿路感染などの腎障害の治療における標準化されたTinospora cordifolia抽出物の免疫アジュバントとしての使用に関する。本発明はまた、標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含む薬剤組成物に関する。本発明はさらに、標準化されたTinospora cordifolia抽出物を従来の療法と共に免疫アジュバントとして使用する、特に大腸菌、クレブシエラ、および他のグラム陰性感染が再発することによって起こる再発性尿路感染などの腎障害の治療方法、ならびにネフローゼ症候群の治療方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腎障害を治療するための方法および組成物に関する。より詳細には、本発明は、ネフローゼ症候群や、合併症のある、および合併症のない慢性再発性尿路感染などの腎障害の治療における方法および標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腎障害は、ヒトにおいて「生活習慣病」と「感染症」の重要な構成要素となっている。どちらのタイプの疾患も、慢性の腎臓損傷をもたらし、末期の腎疾患および慢性腎不全へと進行する恐れがある。合併症のある尿路感染およびネフローゼ症候群は、慢性腎不全の主要な原因となる障害のうちで最も一般的かつ重要な群である。
【0003】
末期の腎不全への罹患および進行を伴う重要な腎疾患は、腎臓の瘢痕化をもたらして慢性腎盂腎炎へと進行する恐れがある慢性再発性尿路感染である。慢性再発性尿路感染は、通常は抗菌剤を用いる治療によって処置される。しかし、発症するたびに抗菌剤耐性が増していく進化は、治癒せず、繰り返される感染によって免疫が弱まったために慢性状態へとゆっくりかつ着実に進行していく際にある重要な役割を果たす。
【0004】
尿路感染(UTI)は、今日の医療業務の中で遭遇する最も一般的な感染症の1つである。UTIは、尿路の様々な部分が関与する一定範囲の臨床病理学的病態を含む。症状は、症候性の細菌尿症から敗血症を伴う周辺膿傷までの範囲に及ぶ。それぞれが、それ自体に特有の疫学、自然史、および診断所見を有する。UTIに随伴する症状を区別することは、治療および予後にとって重要な意味を含んでいる。
【0005】
合併症のある尿路感染とは、尿生殖路の代謝的または構造的な機能異常を有する個体で起こる泌尿器感染を指す。これらの異常は、糖尿病の場合や腎不全の対象でそうであるように、尿の十分な排出に欠陥を生じさせ、または細菌をそこから根絶することができない病巣を築くことによって感染を助長する。
【0006】
再発性感染とは、治療前の感染生物体による感染が反復し、尿生殖路から生物体が根絶されなかったことが示唆される再発でもよいし、または新たな生物体が感染を確立する再感染でもよい。再発性UTIでは、宿主の弱まった防御、および尿管に並ぶ細胞壁に付着できる細菌の能力が、その反復においてある重要な役割を果たす。
【0007】
大腸菌は、UTI症例の大部分の原因であり、治療は一連の抗菌剤からなる。関与する他の生物体は、クレブシエラ属、プロテウス属、エンテロバクター属、シトロバクター属、セラチア属、およびシュードモナス属である。ナリジクス酸などの、キノロンクラスのより古いメンバーである合成抗菌剤が、UTIの治療に利用可能となっている。しかし、これらの薬物は、治療での効用が限られており、生物体は急速に耐性になる。
【0008】
シプロフロキサシン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、ロメフロキサシン、トリメトプリム−スルファメトキサゾールのようなフッ素化4−キノロンや、アモキシシリン、ニトロフラントイン、およびアンピシリンのような他の抗菌剤などのより新しい薬物も、UTIに対して同等に効き目がある。合併症のあるUTIは通常、様々な副作用を伴うより長い経過の抗菌剤治療を必要とする。
【0009】
ネフローゼ症候群は、非常に高い尿中タンパク質濃度;低い血中タンパク質濃度;特に眼、足、および手の辺りの腫脹;ならびに高コレステロールを徴候とする病態である。この症候群は、低アルブミン血症、脂肪尿、トリグリセリドおよび他の脂質が上昇した高脂血症、ならびに浮腫をもたらす。
【0010】
ネフローゼ症候群は、原発性糸球体腎炎によって引き起こされる腎疾患、糖尿病や血管炎のような全身性疾患を含む多くの疾患によって起こり得るが、一部の原因は不明である。ネフローゼ症候群の予防は、ステロイドおよび他の免疫抑制剤の使用を含む、抗タンパク尿作用のある薬剤の使用によるこれら疾患のコントロールおよび再発の防止に頼っている。
【0011】
免疫抑制剤は、ステロイド節約効果があるために、頻繁に再発するネフローゼ症候群で使用されることが多い。シクロホスファミドやクロランブシルのような薬物は、最初は寛解の延長に有効であると示されていたが、発癌性や不妊などの副作用の恐れがあることがその使用に制限を課している。
【0012】
したがって、現在の腎障害治療を分析し、上記腎疾患のための副作用のない有効な新しい薬物療法を開発することが求められている。
【0013】
インドではグドゥチ/アムルタ(Guduchi/amruta)としても知られているTinospora cordifoliaは、古代インドの医学体系[アーユルヴェーダ]の中で「Ekadravya Rasayana」、すなわち、宿主のためになるその免疫増強活性を得るために単一物として使用されると指摘されているラサーヤナの一種であり、「命の飲み物」と呼ばれている。これは、現代の逆症療法医学の著名な開業者によって免疫増強薬としての大規模な研究がなされている植物製品の1つである。
【0014】
Tinospora cordifoliaを成分のうちの1つとして含む、数多くの伝統的かつ専売の多薬草系製剤は、インドの市場だけでなく、輸出品として入手可能である。天然の免疫増強薬であるTinospora cordifoliaを単一の薬草成分として含むADBAC(商標)やIMMUMOD(商標)などの製品もインドで市販されている。これらの製品は、Tinospora cordifoliaの水性抽出物を含有することを謳っている。
【0015】
実験および臨床での鋭意研究の結果、Tinospora cordifoliaの免疫増強作用が示された。この作用は、マクロファージの活動の刺激を媒介とし、そのマクロファージが顆粒球−単球コロニー刺激因子(GM−CSF)の分泌を増加させることが確認されている。
【0016】
PCT特許出願WO9108750は、自然の植物Tinospora cordifoliaの部分の癌性疾患の治療への使用を記載している。
【0017】
米国特許第5529778号は、インフルエンザ、結核感染、AIDS、および他の免疫不全状態の予防および治療のための、Tinospora cordifoliaを成分のうちの1つとして含有する多薬草系組成物を記載している。しかし、この組成物中のTinospora cordifoliaの役割または利点は、その特許の中で報告されていない。
【0018】
米国特許第6136316号は、急性E型肝炎およびB型肝炎の治療のための、Tinospora cordifoliaを成分のうちの1つとして含む多薬草系組成物を記載している。
【0019】
米国特許第5886029号は、糖尿病治療のための、Tinosporaを含むエピカテキンおよびギムネム酸の組成物を開示している。インド国特許第183805号は、Tinosporaからの免疫調節薬の調製方法を記載し、活性成分としての多糖体の特許を請求している。
【0020】
PCT出願WO02053166は、Tinospora cordifoliaの標準薬草抽出物を免疫調節薬として含む製剤、Tinospora cordifolia抽出物を標準化する方法、および骨髄炎、癌、乳癌、糖尿病、気道感染、扁桃炎、慢性気管支炎、中耳炎、結核、肝炎、AIDS、火傷、小児疾患など、免疫の調節と関連する健康状態の治療法を開示している。
【0021】
様々な疾患におけるTinospora cordifoliaの使用に関して豊富なデータが利用可能であるにもかかわらず、発行されている文献には、合併症のある、および合併症のない慢性再発性尿路感染やネフローゼ症候群などの腎障害の治療においてTinospora cordifoliaを免疫アジュバントとして使用することに関する指摘はない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含有する薬剤組成物の投与を含む、合併症のある、および合併症のない慢性再発性尿路感染やネフローゼ症候群などの腎障害の治療法を対象とする。
【0023】
上記の本発明の概要は、論述される本発明の各実施形態を記載したものではない。それは、以下の詳細な記載の趣旨である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
合併症のある尿路感染およびネフローゼ症候群は、慢性腎不全の主要な原因となる障害のうちで最も一般的かつ重要な群である。
【0025】
尿路の機能上または構造上の異常という状況での泌尿器感染は、根底にある、感染を助長する異常を正さない限り有効に治療されず、このことは、合併症のあるUTIに罹患している個体が感染を繰り返し、幾度も処置を受ける傾向にあることを反映している。以前の抗菌療法および院内で微生物をもらう可能性の両方が、その後の感染の際により耐性のある微生物が出現する見込みを増大させる。
【0026】
再発性感染は、根底にある泌尿生殖器の異常を正すことができず、または代謝異常を管理することはできるが治癒し得ない、合併症のあるUTIに罹患した個体に関する基準であることが認められている。感染の症状は、感染を引き起こす細菌が完全に除去される前に静まることが多く、したがって、長期間の治療計画が必要である。
【0027】
再発性UTIの場合では、従来の抗菌療法とは、トリメトプリム、トリメトプリム−スルファメトキサゾール合剤、アンピシリン、セファロチン、ニトロフラントイン、ゲンタマイシン、およびフルオロキノリン(たとえば、シプロフロキサシン、ホルフロキサシン)から選択される抗菌剤の使用を意味する。ネフローゼ症候群の場合では、従来のステロイド療法とは、プレドニソロンおよびメチルプレドニソロンの使用を意味する。
【0028】
尿中のタンパク質レベルが高いことは、腎糸球体の損傷によって起こる、慢性腎不全の主要な原因であるネフローゼ症候群の病態の指標である。糸球体は、血液から老廃物および過剰の水をこし取り、それらを尿として膀胱に送る細かい血管を含む。
【0029】
ネフローゼ症候群は、糸球体基底膜、すなわち腎臓の主要な濾過単位に生じた損傷を原因とする相当なタンパク尿を特徴とする。その損傷は、主として、腎臓による一次的な免疫関与、または免疫が介在する全身障害による二次的な関与の結果として起こる炎症と関連している。
【0030】
ネフローゼ症候群は、膜性増殖性糸球体腎炎/メサンギウム毛細管性糸球体腎炎(MPGN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、巣状増殖性糸球体腎炎(FPGN)、および微小変化ネフローゼ症候群(MCNS)のような原発性糸球体腎炎によって引き起こされる様々な腎疾患によって生じる。これらは、免疫複合体を媒介とし、または細胞性免疫応答であるかもしれない。
【0031】
ネフローゼ症候群の患者は、根底にある原因がわかる場合には、それが治療されたならば、寛解に達するはずである。微小変化疾患によって引き起こされるネフローゼ症候群症例の80パーセントは、プレドニソンなどのステロイドでうまく治療することができる。しかし、免疫複合体によって特徴付けられるものなど、ある種類の糸球体疾患を根底にある原因とするネフローゼ症候群は、容易に治癒し得ない。これらの症例では、腎臓が、老廃物および過剰の水を血液から濾過することが次第にできなくなる恐れがある。腎不全が起これば、患者は透析または腎臓移植が必要になる。
【0032】
大部分のステロイドは、体重増加、体液貯留および血圧上昇、頭痛、血糖値上昇、動脈および静脈の血栓症、一部の患者では骨の菲薄化である骨粗鬆症、皮膚菲薄化および傷つきやすさ、ならびに腹膜炎、全身性敗血症肺炎、蜂巣炎、およびUTIのような重症の感染のリスクなど、副作用の可能性を秘めている。ステロイドは、患者をステロイド依存性にし、患者にステロイド毒性、すなわち頻繁な感染および他の合併症を発症させる恐れがある。
【0033】
本発明者らは、慢性再発性尿路感染やネフローゼ症候群などの腎疾患を治療するための免疫アジュバント療法を開発した。
【0034】
一実施形態では、本発明は、ネフローゼ症候群や、合併症のある、および合併症のない慢性再発性尿路感染などの腎障害の治療における標準化されたTinospora cordifolia抽出物の免疫アジュバントとしての新規な使用に関する。
【0035】
別の実施形態では、本発明は、従来の抗菌療法と共に有効な免疫アジュバント療法を提供することによる、大腸菌、クレブシエラ、プロテウス、エンテロバクター、シトロバクター、セラチア、およびシュードモナスに繰り返し感染することによって起こる再発性尿路感染などの腎障害の治療方法に関する。
【0036】
一実施形態では、本発明は、ネフローゼ症候群の再発の治療および予防のために、従来のステロイド療法と共に有効な免疫アジュバント療法を提供する。
【0037】
別の実施形態では、本発明は、膜性増殖性糸球体腎炎/メサンギウム毛細管性糸球体腎炎(MPGN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、巣状増殖性糸球体腎炎(FPGN)、および微小変化ネフローゼ症候群(MCNS)のような原発性糸球体腎炎によって引き起こされる様々な腎疾患によって生じるネフローゼ症候群などの腎障害の治療方法に関する。
【0038】
別の実施形態では、本発明は、標準化されたTinospora cordifolia抽出物と共に他の薬剤用担体を含む薬剤組成物を提供する。
【0039】
一実施形態では、本発明は、標準化されたTinospora cordifolia抽出物を少なくとも1種の他の薬草成分と組み合わせて含む薬剤組成物を提供する。
【0040】
本発明の別の実施形態は、Tinospora cordifolia抽出物と担体もしくは希釈剤とを混合することによる、腎障害の治療に有用な組成物の製造方法を対象とする。
【0041】
理論に拘泥するものではないが、Tinospora cordifoliaの免疫増強作用は、マクロファージの活性の刺激を媒介とし、顆粒球−単球コロニー刺激因子[GM−CSF]の分泌を増加させると考えられる。その結果、IL2およびIFN−γが増加してナチュラルキラー細胞の活性を増大させ、最後に抗炎症作用をもたらす。
【0042】
Tinospora cordifoliaは、市販品として入手できる。例として、Tinospora cordifoliaは、Kisalaya Herbals Limited、インド国インドールから市販品として入手できる。Tinospora cordifolia抽出物は、調製してもよい。例として、Tinospora cordifolia抽出物の1つの調製法は、1)乾燥したTinospora cordifoliaの茎を粉末にした後、それを水で処理するステップと、2)それを熱水で抽出するステップと、3)ステップ2で得た抽出物を濾過するステップと、4)真空中で濾液を一部濃縮するステップと、5)ステップ4で得た材料を噴霧乾燥して、抽出物を細粉として得るステップとを含む。
【0043】
Tinospora cordifolia抽出物は、抽出物の免疫調節の素質を評価する、多形核白血球(PMNL)を使用する食作用測定技術によって標準化することができる(Indian drugs、1998年、第35巻(7)、427〜433ページ)。抽出物の生理活性は、実施例に記載するように、PMNL白血球を使用して、基底値に対する食作用パーセンテージを求めることで測定する。Tinospora cordifoliaの活性抽出物はすべて、食作用パーセンテージが基底値の少なくとも30%増である。
【0044】
標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含む組成物は、薬剤として許容される担体と混合し、錠剤、カプセル剤、経口液剤、点鼻スプレー、クリーム、無菌注射製剤、坐剤などの治療用剤形に製剤することができる。組成物は、従来の薬剤として許容される非毒性の担体または賦形剤を含有する投与単位製剤にして、経口、非経口(皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内、または注入法を含む)、吸入スプレー、局所、粘膜を通す吸収、または直腸などの既知の技術によって投与することができる。Tinospora cordifolia抽出物は、組成物中に入れられるとき、液体、粉末などでよい。
【0045】
本明細書では、薬剤として許容される担体という用語は、任意の型の非毒性の不活性な固体、半固体、または液体の充填剤、希釈剤、カプセル化材料、または製剤佐剤を意味する。薬剤として許容される担体として働き得る材料の一部の例は、ラクトース、グルコース、スクロースなどの糖;コーンスターチやジャガイモデンプンなどのデンプン;セルロース、およびカルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、酢酸セルロースなどのその誘導体;粉末トラガカント;麦芽;ゼラチン;タルク;カカオ脂や坐剤ワックスなどの賦形剤;ラッカセイ油、綿実油、サフラワー油、ゴマ油、オリーブ油、コーン油、ダイズ油などの油;プロピレングリコールなどのグリコール;オレイン酸エチルやラウリン酸エチルなどのエステル;寒天;水酸化マグネシウムや水酸化アルミニウムなどの緩衝剤;アルギン酸;発熱物質を含まない水;等張性生理食塩水;リンゲル液;エチルアルコール;およびリン酸緩衝液に加え、ラウリル硫酸ナトリウムやステアリン酸マグネシウムなどの適合する他の非毒性の滑沢剤、ならびに着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、および着香剤であり、製剤担当者の判断に従って、保存剤および抗酸化剤が組成物中に存在してもよい。
【0046】
本発明の組成物は、組成物の種々の成分を従来の方法を使用して混合することで調製できる。本発明の好ましい組成物は、本明細書で表2に示す成分範囲に従って調製することができる。
【0047】
一実施形態では、標準化された抽出物の用量は、体重1kgあたり1日20〜80mgの間で様々である。特定の一実施形態では、用量は、体重1kgあたり20〜25mgの間で様々であり、それを1日2回または1日3回に等分して投与する。別の実施形態では、用量は、小児において体重1kgあたり25〜30mgの間で様々であり、それを1日2回または1日3回に等分して投与する。一実施形態では、標準化された抽出物の合計用量は、1日400mg〜4000mgの間で様々である。
【0048】
一実施形態では、標準化された抽出物を、UTIに罹患している患者に1カ月〜3カ月の間連続的に、さらに18カ月まで断続的に投与する。一実施形態では、標準化された抽出物を、ネフローゼ症候群の患者に4〜6週間から最高で12カ月までの間連続的または断続的に投与する。標準化された抽出物の投与期間は、疾患の重症度および患者の応答に応じて様々となり得る。
【0049】
例証的な実施形態では、標準化されたTinospora cordifolia抽出物の組成物をカプセルの形で調製して、慢性再発性尿路感染、ネフローゼ症候群、および他の腎障害の治療での患者におけるTinospora cordifolia薬草抽出物の免疫アジュバントとしての効果を調査した。
【0050】
臨床研究の際、ロメフロキサシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、シプロフロキサシンなどのような抗菌剤治療を受けている慢性UTI患者群では、尿培養物中のコロニー数が約10個を超えていたことが観察された。Tinospora cordifoliaを含む薬剤組成物で治療した後、増殖はなく、または尿培養物中のカウントは約10個未満である。
【0051】
これは、症状の発現が判明している再発性尿路感染に罹患している症例を、約15カ月を超える期間にわたりTinospora cordifolia薬草抽出物を含む薬剤組成物で約20回超治療すると、それ以上の尿路感染の症状の発現が止み、尿培養物がその先に陰性になり得ることを示している。このことは、標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含む薬剤組成物が、系から生物体を除去することによって尿路感染の再発の根本原因に作用し得ることを示唆している。
【0052】
ネフローゼ症候群では、標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含む薬剤組成物の有効性を、原発性ネフローゼ症候群に罹患している患者で評価した。患者の年齢は、約5〜約70才の間の範囲である。
【0053】
以下の実施例は、単に本発明をさらに詳細に例示するものにすぎず、決して本発明の範囲を制限すると解釈すべきでない。
【実施例1】
【0054】
Tinospora cordifoliaの標準化アッセイ
Tinospora cordifolia extract抽出物は、Kisalaya Herbals Limited、インド国インドールから入手した。抽出物は褐色であり、苦い味のする易流動性の細粉であった。かさ密度(軽く叩いて)、pH、アルコール可溶性抽出画分、水溶性抽出画分などの分析試験による抽出物の特徴付けを行った。得られた結果は、バルク密度(軽く叩いて):0.55〜0.65/ml、pH(水中1%w/v):5〜6.8、アルコール可溶性抽出画分:乾燥物で8〜15%w/w、および水溶性抽出画分:乾燥物で95%w/w以上であった。
【0055】
ヒトの血液(2〜3滴)を滅菌ガラススライド上に集めた。スライドを、滅菌ペトリ皿に敷いた綿の上に保持した。次いで、これを37℃で25分間インキュベートし、血餅を除去し、スライドを生理食塩水(0.9%のNaCl水溶液)で洗浄した。スライドを顕微鏡で観察して、PMNL(多形核白血球)の存在を確認した。次いで、PMNLを、異なる濃度のTinospora cordifolia抽出物または対象と共に37℃で35〜40分間インキュベートした。
【0056】
40分後、スライドの水気を切り、次いでカンジダアルビカンス培養物をかぶせ、37℃で1時間インキュベートした。
【0057】
次いで、スライドを水で洗浄し、メタノールで固定し、ギームザ染色によって染色し、油浸顕微鏡で観察した。形態学的な判断基準を使用して、スライド上の貪食化した細胞の平均数を100個の顆粒球について測定した。
【0058】
対照およびTinospora cordifoliaについて食作用パーセンテージを算出したので、それを以下の表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
食作用パーセンテージの値は、免疫系の活動レベルの指標である。食作用パーセンテージが高いほど、免疫系の活動が強化されたことが示される。したがって、このデータは、Tinospora cordifoliaが対照よりも免疫系を活性化したことを示している。
【実施例2】
【0061】
標準化されたTinospora cordifolia抽出物を含む組成物
標準化されたTinospora cordifolia抽出物をコロイド二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムと合わせて、以下の表2に示す量で組成物を生成した。次いで、この組成物をカプセルの形にした。
【0062】
【表2】

【実施例3】
【0063】
再発性尿路感染の患者におけるTinospora cordifoliaの免疫アジュバントとしての効果
再発性尿路感染の患者に実施例2のTinospora cordifolia組成物を経口投与した。患者を2群に分けた。I群は、十分な抗菌療法にもかかわらず3カ月間にわたり再発性感染に罹患し続け、解剖学的または生理学的[たとえば、妊娠に関連した]異常などの根底にある原因が見られなかった若い男女の患者からなるものであった。II群は、閉塞のような治療できる原因または根底にある泌尿生殖器結核が治されて久しいにもかかわらず、慢性再発性尿路感染が3カ月より長く、かつ最高で18カ月続いていた中高年の集団の患者からなるものであった。
【0064】
I群の対象は、Tinospora cordifolia組成物を体重1kgあたり20〜25mgの投与量で1カ月間、すなわちロメフロキサシン、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、シプロフロキサシンなどの相応しい抗菌剤を始める前の約10日間およびその後20日間与えられた4人の患者からなるものであった。Tinospora cordifoliaの投与期間は、常用尿検査、培養物、および抗菌剤感受性試験結果に応じて20〜24日に短縮してもよい。
【0065】
II群の対象には、Tinospora cordifolia組成物を同じ投与量で投与したが、3カ月というより長い期間与えた。II群の1人の患者には、9カ月間にわたって2クールのTinospora cordifoliaを与えた。その患者は、再発性UTIに罹患しており、Tinospora cordifoliaを投与する前に尿培養によって18カ月間で21回の症状の発現が判明していた。
【0066】
Tinospora cordifoliaの投与前後に尿培養物のコロニー数を算出した。結果を以下の表3に示す。
【0067】
【表3】

【0068】
さらに、治療を施したすべての患者は、1年間の観察期間を通して完全な消散を実現し、それ以上のUTIの症状の発現はなく、尿培養物は陰性になり、観察期間の間そのままであった。
【実施例4】
【0069】
ネフローゼ症候群の患者におけるTinospora cordifoliaの免疫アジュバントとしての効果
原発性ネフローゼ症候群の患者において、Tinospora cordifoliaの有効性を無作為化二重盲検偽薬対照並行群間試験で評価した。患者を、5才〜60才の年齢集団20人からなる2群に分けた。第一群の患者にはプレドニソロンやメチルプレドニソロンなどのステロイドと偽薬を与えたのに対し、第二群の患者は前記のステロイドとTinospora cordifoliaで治療した。実施例2のTinospora cordifolia組成物は、ステロイドに対するアジュバント療法として、体重1kgあたり25〜35mgの投与量を数回に分け12カ月間経口投与した。
【0070】
尿サンプルの反復定常尿分析値、スポット尿タンパク/クレアチニン比を規則的な時間間隔を挟んだ後に調べた。ヘマトクリット、タンパク尿比、WBC(合計および個別)、BUN、血清クレアチニン、ビリルビン、SGOT、SGPT、アルカリホスファターゼ、アルブミンおよびグロブリンを含む血清タンパク質、血清脂質、ならびに血清コレステロールを調査した。
【0071】
Tinospora cordifoliaの有効性は、応答までの時間、寛解期間、再発率、再発症例の観察など、臨床的および生化学的判断基準に基づき評価した。タンパク尿比およびタンパク質/クレアチニン比は、治療前、治療中、および治療後に得た。
【0072】
臨床検査および生化学検査の結果は改善を示しており、すなわちすべてのタイプの感染症状の発現が減少し、それによって多くの症例で再発が減少した。第二群の患者で得られた結果では、ニキビ様ステロイド副作用、(顎の下の)野牛肩、皮膚割線、および他のステロイド副作用がかなり最小限に抑えられた。
【実施例5】
【0073】
原発性ネフローゼ症候群の患者におけるTinospora cordifoliaの免疫アジュバントとしての効果
膜性増殖性糸球体腎炎/メサンギウム毛細管性糸球体腎炎(MPGN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、巣状増殖性糸球体腎炎(FPGN)、および微小変化ネフローゼ症候群(MCNS)によって引き起こされた原発性ネフローゼ症候群の患者において、Tinospora cordifoliaの有効性を無作為化偽薬対照並行群間試験で評価した。
【0074】
患者を、それぞれ5才〜30才の年齢集団5人からなる2群に分けた。第一群の患者(5人)には、年齢に応じて体表面積あたり60mg/mまたは体重あたり1mg/kgの投与量のプレドニソロンと偽薬を経口的に与えたのに対し、第二群の患者(4人)はプレドニソロンとTinospora cordifoliaで治療した。実施例2のTinospora cordifolia組成物は、ステロイドに対するアジュバント療法として、体重1kgあたり20〜30mgの投与量を2回または3回に分けて12カ月間経口投与した。
【0075】
基線時点および追跡調査で、尿サンプルの反復定常尿分析値、スポット尿タンパク/クレアチニン比を、規則的な時間間隔を挟んだ後に一定のプロトコルにより調べた。ヘモグロビン、ヘマトクリット、タンパク尿比、WBC(合計および個別)、BUN、血清クレアチニン、ビリルビン、SGOT、SGPT、アルカリホスファターゼ、アルブミンおよびグロブリンを含む血清タンパク質、血清脂質、ならびに血清コレステロールを同様のパターンで調査した。
【0076】
Tinospora cordifoliaの有効性は、応答までの時間、寛解期間、再発率、再発症例の観察、感染を含むステロイド療法の副作用など、臨床的および生化学的判断基準に基づき評価した。タンパク尿比およびタンパク質/クレアチニン比は、治療前、治療中、および治療後に得た。
【0077】
ステロイドは、年齢に応じて体表面積あたり60mg/mまたは体重あたり1mg/kgの投与量で1カ月間与えた。1カ月後、両方の群において、臨床的および生化学的判断基準に基づきステロイドの用量をゆっくりと減らした。臨床試験および生化学試験の結果は、表4a、4b、5a、および5bに示すとおりである。追跡調査は、9件の症例で完了した(症例番号5および症例番号7では追跡調査なし)。寛解にかかる時間および再発回数は、尿タンパク質/クレアチニン比に基づいて算出した。
【0078】
第一群の患者で得られた結果では、寛解にかかる時間がはるかに長く、程度の一定でないステロイド副作用があり、感染症状が発現し、ステロイド療法にもかかわらず応答が弱い。一部の症例では、患者は良好な初期応答を示した。しかし、そうした患者は、いくつかの重症な副作用と共に重い再発を起こした。
【0079】
表4aおよび4bは、症例番号2および8の応答がなかったことを示している。症例番号2では、いくらかの初期応答があった。しかし、6.5カ月目で重症のステロイド副作用を伴う重い再発を起こした。症例番号8も、1カ月目で良好な初期応答を示し、3.5カ月目に重症の副作用を伴う再発を起こした。他の3症例−1、3、および4−も、程度の一定でないステロイド副作用を示し、治療にもかかわらず応答が弱い。
【0080】
第二群の患者で得られた結果は、12カ月目の追跡試験で寛解に達したことである。Tinospora cordifoliaは、再発の比率および重症度を低減し、これらの再発は、どんな用量のステロイドが与えられていても、Tinospora cordifoliaを続けると応答する。症例のほとんどで、クッシング様症状、ニキビ、(顎の下の)野牛肩、および皮膚割線のようなステロイド副作用はなかった。
【0081】
表5aおよび5bは、Tinospora cordifoliaの4件、すなわち症例番号6、9、10、および11が、12カ月目の追跡調査で寛解に達したことを示している。これらの結果は、特に症例6、10、および11では、患者らが罹患している糸球体疾患の種類がFPGN、MPGN、およびFSGSであったことを考えると非常に意義深い。症例番号6では、6カ月の追跡調査の終わりに、ステロイドの用量を減らすと再発があったことが観察された。しかし、追加薬物としてのTinospora cordifoliaと共に同じステロイド用量を続けると、12カ月の終わりに寛解に達した。この結果も、さもなければ非常に治療が難しいMPGNの症例であったので意義深い。
【0082】
【表4】

【0083】
【表5】

【0084】
【表6】

【0085】
【表7】

【0086】
結果は、MPGN、FPGN、FSGS、MCNSなど、組織像の様々な原発性糸球体腎炎によって起こるネフローゼ症候群が、Tinospora cordifoliaを免疫アジュバントとして加えることで治療できることを示している。Tinospora cordifoliaは、免疫応答を打ち消し、ステロイド療法の副作用を低減し、再発率および感染症状の発現を減少させ得るので、これによってステロイドの安全な長期使用が可能になる。
【0087】
本発明をいくつかの特定の実施形態に即して説明してきたが、当業者ならば、本発明の意図および範囲から逸脱することなく、それに対して多くの変更を行ってもよいことを承知されよう。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腎障害の治療方法であって、哺乳動物に、免疫アジュバントとしての治療有効量の標準化されたTinospora cordifolia抽出物を従来の療法と共に投与することを含む方法。
【請求項2】
腎障害が、ネフローゼ症候群ならびに合併症のある、および合併症のない慢性再発性尿路感染である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
慢性再発性尿路感染が、再発する細菌感染を原因とするものである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
慢性再発性尿路感染が、再発する大腸菌およびクレブシエラ感染を原因とするものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ネフローゼ症候群が、原発性糸球体腎炎によって引き起こされる様々な腎疾患によって起こるものである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
原発性糸球体腎炎によって引き起こされる腎疾患が、膜性増殖性糸球体腎炎/メサンギウム毛細管性糸球体腎炎(MPGN)、巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)、巣状増殖性糸球体腎炎(FPGN)、および微小変化ネフローゼ症候群(MCNS)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
標準化されたTinospora cordifolia抽出物が、従来の抗菌療法と共に、慢性再発性尿路感染の治療において免疫アジュバントとして働く、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
再発性尿路感染のための前記従来の療法が、シプロフロキサシン、オフロキサシン、ノルフロキサシン、トリメトプリム−スルファメトキサゾール、アモキシリン、ニトロフラントイン、アンプシリン、およびロメフロキサシンから選択される少なくとも1種の抗菌剤の使用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
標準化されたTinospora cordifolia抽出物が、従来のステロイド療法と共に、ネフローゼ症候群の再発を低減する際に免疫アジュバントとして働く、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
標準化されたTinospora cordifolia抽出物が、従来のステロイド療法の副作用を軽減し、再発率を低下させる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステロイドが、プレドニソロンおよびメチルプレドニソロンからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
Tinospora cordifolia抽出物が生物検定によって標準化されたものである、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
生物検定が、基底値に対する食作用パーセンテージを求めて生理活性を評価することを含み、その食作用パーセンテージが基底値の少なくとも30%増である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
治療有効量の標準化されたTinospora cordifolia抽出物と、薬剤として許容される担体とを含む薬剤組成物。
【請求項15】
哺乳動物における腎障害の治療方法であって、前記哺乳動物に治療有効量の請求項14の薬剤組成物を投与することを含む方法。
【請求項16】
治療有効量の標準化されたTinospora cordifolia抽出物を少なくとも1種の他の薬草成分と組み合わせて含む薬剤組成物。
【請求項17】
腎障害の治療薬の有効性を向上させる方法であって、腎障害の治療薬による治療を受けている哺乳動物に、有効量の標準化されたTinospora cordifolia抽出物を投与することを含む方法。

【公表番号】特表2007−532527(P2007−532527A)
【公表日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506899(P2007−506899)
【出願日】平成17年4月4日(2005.4.4)
【国際出願番号】PCT/IB2005/051103
【国際公開番号】WO2005/097149
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(502435661)ニコラス・ピラマル・インディア・リミテッド (15)
【氏名又は名称原語表記】NICHOLAS PIRAMAL INDIA LIMITED
【Fターム(参考)】