説明

腐植酸含有活性剤

【課題】土壌中の重金属及び残留農薬等の無害化のみならず、植物の育成に適した土質改善に効果的で、さらには水産、畜産の分野にて飼育に適した水質の改善にも効果的な活性剤の提供を目的とする。
【解決手段】ケイ酸塩鉱物の粉末と腐植酸とを混合したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物育成に適した土壌改良、水産及び畜産の分野等における飼育環境の改善及びこれらの分野における有害物質の無害化、除去に好適な活性剤に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでに重金属汚染土壌を安定化処理するための汚染土壌処理剤が提案されている(特許文献1)。
しかし、同公報に開示する汚染土壌処理剤はフミン酸(腐植酸)化合物等の粉末キレート剤と酸化マグネシウム粉末を混合することで擬集コロイドを形成させるものであるために、還元作用や分解作用等の効果が期待されるものではなく、重金属の不溶化作用があっても、残留農薬の分解や土質の改善効果が不充分であった。
また、原材料が高価であった。
【0003】
特許文献2には、金属イオン、電磁波及び遠赤外線を放射する多孔質の活性体を用いた浄水方法を開示するが、その効果が出現するには長期間有するものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−114291号公報
【特許文献2】特開平10−146593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、土壌中の重金属及び残留農薬等の無害化のみならず、植物の育成に適した土質改善に効果的で、さらには水産、畜産の分野にて飼育に適した水質の改善にも効果的な活性剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る活性剤は、ケイ酸塩鉱物の粉末と腐植酸とを混合したことを特徴とする。
【0007】
ここで、腐植酸はフミン酸とも称される。
動植物の遺体等が土に埋もれ、土壌中の微生物の働きによって複雑に分解・重合を繰り返して生成した腐植質のうち、アルカリに溶け、酸に溶けない物質を腐植酸と総称し、特定の構造を持った単一物質ではなく、複雑な構造を持った複数の化合物の混合物であり、不定形の高分子物質である。
なお、アルカリに可溶、酸に可溶なものをフルボ酸という。
腐植酸は、弱電解質としての特性を有し、コロイド性、界面活性、キレート性、良分散性等を有していることは、これまでに知られているところである。
しかし、本発明者らの研究によれば、腐植酸のみでは重金属の還元作用や残留農薬等の有害有機化学物質の分解作用が不充分であった。
そこで本発明者らは、吸着作用、還元作用及び触媒作用等の多能な機能を有するケイ酸塩鉱物の粉末と混合することで本発明に至った。
【0008】
腐植酸は一般的に液体のものが入手しやすい。
その場合に、ケイ酸塩鉱物を300〜360メッシュ程度の粉末に粉砕し、パウダー状にしたものに液状の腐植酸を加えて混練し乾燥させると、その後の取扱いが容易になる。
また、ケイ酸塩鉱物を粉末に粉砕したままでは魚類等の飼育水等の水処理に用いた場合に水に、にごりが生じる場合がある。
そこで活性剤の用途によっては、ケイ酸塩鉱物の粉末を所定の大きさ、例えば、直径1mm〜30mmの略球状、あるいは、直径10mm〜20mmの略球状に800℃〜1000℃条件下で焼成したものに液状の腐植酸を含浸させ、その後に乾燥させて活性剤としてもよい。
ここで粉末状ケイ酸塩鉱物の焼成条件が800℃未満では焼成が不充分で1000℃を超えると、ケイ酸塩がガラス化し多孔性が失われるからである。
【0009】
ケイ酸塩鉱物は、鉱物学的にケイ素原子に配位子が付いたアニオン構造の相違により分類されている。
(1)単鎖状、2本鎖状のアニオン構造を有するものはイノケイ酸塩鉱物に分類され、ヒスイ輝石、角閃石類等が含まれる。
(2)層状のアニオン構造を有するものはフィロケイ酸鉱物に分類され、ろう石、白土、カオリナイト等が含まれる。
(3)四面体の単体、2量体のアニオン構造を主に有するものはネソケイ酸塩鉱物、ソロケイ酸塩鉱物に分類され、ケイ素原子の一部がアルミニウム原子等他の原子に置換された3次元構造を有するものはテクトケイ酸塩鉱物に分類される。
この(3)の分類に属する鉱物は火山岩の一種である流紋岩や深成岩の一種である花崗岩に多く含まれている。
【0010】
新潟県糸魚川市姫川流域には、ヒスイ輝石、酸性白土等、活性に優れた多くの鉱物が産出され、本発明者らの研究ではイノケイ酸塩鉱物には遷移元素が多く含まれることから触媒活性に優れ、フィロケイ酸塩鉱物には還元活性に優れていることが明らかになった。
【0011】
そこで、それぞれの特有の性質を組み合せるのがよく、前記ケイ酸塩鉱物の粉末は、イノケイ酸塩鉱物4〜20質量%、フィロケイ酸塩鉱物16〜40質量%及び残部がその他のケイ酸塩鉱物からなる混合粉末であるのが好ましい。
また、腐植酸の効果をより発揮し、微生物の活動を活発にさせるには多孔性に優れた流紋岩を用いるのが好ましく、前記イノケイ酸塩鉱物はヒスイ輝石であり、前記フィロケイ酸塩鉱物はろう石、白土及びカオリナイトのうちいずれか1種以上であり、前記その他のケイ酸塩鉱物は流紋岩であるのがさらに好ましい。
【0012】
この場合にも、各種用途に応用するのに取扱いやすい観点からは、ケイ酸塩鉱物の混合粉末に対してさらに粘土20〜40質量%を加え、焼成した多孔質セラミックスに腐植酸が含有されているものであってもよい。
この場合に粘土は焼成時のバインダーとして作用し、所定の大きさの球径に製造しやすくなる。
腐植酸は焼成後に含浸させ、乾燥するとよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る活性剤は、重金属類や残留農薬等の有害化合物を吸着し、還元作用及び触媒作用に優れるケイ酸塩鉱物の粉末あるいは、これを焼成した粒状のセラミックスとキレート活性、界面活性、微生物育生効果等に優れる腐植酸とを結合させたことにより、次のような活性を有する。
まず第1に、土壌中に加えた場合に重金属類を取り込み無害化し、残留農薬を分解無害化する。
第2に、土壌中の微生物の活動を活性化し、土質の改善が促進される。
第3に、魚類等を飼育する水槽に投入すると有害物が水中から取り除かれ微生物の活性により水質が浄化する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】試験品の吸着試験結果を示す。
【図2】菊芋の育生に対する本発明に係る活性剤の影響調査結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る活性剤の効果を確認すべく、比較実験を実施したので以下説明する。
<試験品>の調整
各ケイ酸塩鉱物を300〜360メッシュ程度の粉末にし、粉砕したものを所定の割合に混合し、これに腐植酸1〜5%を加えた後に乾燥し、試験項目として六価クロム、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、プロピザミド(除草剤)を添加した。
A:田んぼの土のみに試験係る標準物質を混合したもの。
B:質量比で流紋岩:ヒスイ輝石:白土を10:5:10の割合で混合した粉末に腐植酸を含浸乾燥したもの。
C:質量比で流紋岩:ヒスイ輝石:白土を20:1:4の割合で混合した粉末に腐植酸を含浸乾燥させたもの。
上記のとおり調整し、約24時間放置後に環境庁告示第46号(平成3年8月23日)に準拠し、試験品A,B,Cと重量体積比10%の溶媒(pH5.8〜6.3)と混合し、6時間連続振とうする。
静置後、遠心分離した上澄み液を濾過し、分析した。
その結果を図1の表に示す。
表中、初期濃度は標準物質を水のみで6時間振とうし、分析した値である。
また、表中吸着率は初期濃度100%に対する比率である。
この結果、Aの田んぼの土のみの場合でも六価クロム:43%,プロピザミド(除草剤):50%吸着が認められた。
また、トリクロロエチエレン,テトラクロロエチレンは田んぼの土だけでは殆ど吸着されなかった。
これに対して、試験品B(実施例1)では六価クロム:83%,トリクロロエチレン:27%,テトラクロロエチレン:56%,プロピザミド:83%までそれぞれ吸着率が上昇した。
また、試験品C(実施例2)で上記吸着率は六価クロム:80%,トリクロロエチレン:15%,テトラクロロエチレン:43%,プロピザミド:83%といずれもAの土のみよりも高い吸着率を示した。
なお、六価クロムは無害とされる三価クロムに還元されて吸着されていることも明らかになった。
よって、本発明に係る活性剤は重金属類、化学物質、農薬等の吸着に優れていることが明らかになった。
【0016】
次に、上記試験品B,Cに用いたケイ酸塩鉱物の粉末を800〜1000℃にて焼成し、約直径10〜20mmのセラミックスボールを製造し、このセラミックスボールを腐植酸水溶液に浸漬後、取り出して自然乾燥させた。
このようにして得られた活性剤が菊芋の育生にどのような効果があるか確認した。
5月11日に種付けし、図2に示した支柱の左側手前の部分はそのままにし、反対の右側奥は根元に上記セラミックスボールを数粒ずつ撒いた。
図2の写真は約5ヶ月経過した10月の状態を示す。
左側手前の部分の菊芋の背丈は約90〜100cmであったのに対して、本発明に係る活性剤を撒いた部分は2m以上の背丈になっていた。
従って、本発明に係る活性剤は植物の育生促進効果を有することが明らかになった。
【0017】
腐植酸は、複雑な構造を持った複数の化合物の混合物であり、高いキレート性を有する。
本発明者らが凍結乾燥したフミン酸試料について、赤外吸収スペクトル及びNMRスペクトル解析をした結果、分子量が約10万以下のものは、芳香族系のCOOH基及びOH基が支配的な官能基であったが、分子量がそれ以上のものは脂肪族系のCOOH基及びOH基が支配的な官能基であったことから、卓越した錯形成能力を有する。
よって、イオン強度、酸化還元環境により価数が変化するアクチニド元素、例えばウラン、プルトニウム、トリウムやアメリシウム、ネプツニウム等の放射性元素(放射性核種)を錯体として取り込むことができる。
よって、本発明に係る多孔質セラミックスに腐植酸を固定化した活性剤を用いれば、汚染土壌、汚染水等に含有する放射性核種を選択的に吸着回収することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ酸塩鉱物の粉末と腐植酸とを混合したことを特徴とする活性剤。
【請求項2】
ケイ酸塩鉱物の粉末を所定の大きさに焼成した多孔質セラミックスに腐植酸が含有されていることを特徴とする活性剤。
【請求項3】
前記ケイ酸塩鉱物の粉末は、イノケイ酸塩鉱物4〜20質量%、フィロケイ酸塩鉱物16〜40質量%及び残部がその他のケイ酸塩鉱物からなる混合粉末であることを特徴とする請求項1又は2記載の活性剤。
【請求項4】
前記イノケイ酸塩鉱物はヒスイ輝石であり、
前記フィロケイ酸塩鉱物はろう石、白土及びカオリナイトのうちいずれか1種以上であり、
前記その他のケイ酸塩鉱物は流紋岩であることを特徴とする請求項3記載の活性剤。
【請求項5】
ケイ酸塩鉱物の混合粉末に対してさらに粘土20〜40質量%を加え、焼成した多孔質セラミックスに腐植酸が含有されていることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の活性剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−110883(P2012−110883A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104761(P2011−104761)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(510290256)
【出願人】(510290267)
【出願人】(510290278)株式会社三共セラミックス (2)
【Fターム(参考)】