説明

腐食及びスケール防止用液体組成物ならびに腐食及びスケールの防止方法

【課題】鉄系金属と銅系金属が共存する水循環システムにおいて、鉄系金属と銅系金属の両方の金属の腐食及びスケールを同時に防止できる、安定かつ安全な、水性の腐食及びスケール防止用液体組成物を提供すること。
【解決手段】(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物ならびにそれを添加することを特徴とする水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系金属と銅系金属が共存する水系システムにおいて、鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを同時に防止できる水性の腐食及びスケール防止用液体組成物ならびにそれを用いた腐食の防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環冷却水系、循環冷温水系、循環加熱水系などの水系システムは、配管、弁、循環ポンプ、熱交換器などで構成されており、これらの材質として鉄系金属と銅系金属が混在する場合が多い。
【0003】
鉄系金属は安価なため水循環システムにおける配管、弁、循環ポンプ、熱交換器の伝熱管や胴体などの材質として広く使用されている。一方、純銅、リン脱酸銅、タフピッチ銅、黄銅、アルミニウム黄銅、アドミラルティ黄銅、ネーバル黄銅、青銅、キュプロニッケルなどの銅系金属は、熱伝導性が良く、耐食性も比較的良好なため、発電プラントの復水器や冷凍機コンデンサーなどの熱交換器の伝熱管材質や管板などに広く使用されている。
【0004】
このように、銅系金属は鉄系金属と比較して耐食性が良好であるが、水中における微生物障害を防止するために塩素系殺菌剤や臭素系殺菌剤を添加している場合、塩素系殺菌剤や臭素系殺菌剤は銅系金属に対する腐食性が高く、孔食や応力腐食割れが起こり易くなる。
【0005】
また鉄系金属と銅系金属が共存する水系では、銅系金属の腐食により溶出した銅イオンが鉄系金属表面上で析出することにより、鉄系金属の腐食が促進されるガルバニック腐食が起こり易い。
【0006】
以上の理由により、鉄系金属と銅系金属が共存する水系では、鉄系金属に対する腐食防止剤とともに銅系金属に対する腐食防止剤を併用することが好ましい。
【0007】
鉄系金属は水中における腐食性が高いため、一般には鉄系金属に対する腐食防止剤が添加されており、腐食防止効果が高いことから亜鉛塩を含有する腐食防止剤が使用されている(特許文献1参照)。
【0008】
銅系金属の腐食や銅イオンによる鉄系金属の腐食(ガルバニック腐食)の抑制には、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール(メチルベンゾトリアゾール)などのトリアゾール類が有効なことが従来技術として知られている(特許文献2参照)。
【0009】
従って、鉄系金属と銅系金属が共存する水系における腐食防止には、有機リン酸類や亜鉛塩とともにベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール(メチルベンゾトリアゾール)などのトリアゾール類を添加することが望ましく、例えば、有機ホスホン酸化合物、トリアゾール類を包含するアゾール化合物、亜鉛塩からなる腐食及びスケール防止用組成物が提案されており(特許文献3参照)、亜鉛塩として硫酸亜鉛、塩化亜鉛、アルカリ金属−リン酸亜鉛塩ガラス、結晶性のアリカリ金属−ポリリン酸亜鉛塩などが開示されている。しかしながら、有機ホスホン酸化合物ならびにアゾール化合物と上記の亜鉛塩は、相溶性が不良なため、安定な一液性組成物とすることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62−96683号公報
【特許文献2】特開平1−299699号公報
【特許文献3】特公昭44−28973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
水中における金属の腐食を恒常的に抑制するためには、水中に一定濃度以上の腐食防止剤を存在させる必要がある。そのためには腐食防止剤を水系に対して定量的に添加する必要があるが、固体のままでは水に対して定量的に添加することが困難であり、腐食防止剤を水に溶解して液体の形態として定量ポンプなどで添加するのが好ましい。
【0012】
鉄系金属と銅系金属が共存する水系では、亜鉛塩を含有する鉄系金属に対する腐食防止剤とともにトリアゾール類を含有する銅系金属に対する腐食防止剤を併用することが必要であり、亜鉛塩と、ベンゾトリアゾールやトリルトリアゾール(メチルベンゾトリアゾール)に代表されるベンゾトリアゾール類を共に含有する液体の形態の腐食防止剤が求められていた。
【0013】
しかしながら、塩化亜鉛、硫酸亜鉛などの亜鉛塩とベンゾトリアゾール類とは相溶性が極めて悪く、安定な液体組成物として調製することが困難であり、このため、亜鉛塩とベンゾトリアゾール類とはそれぞれ別々の水溶液として調製し、それぞれ別個の定量ポンプで添加する方法が取られてきたが、複数の注入設備が必要となるうえ、腐食防止剤の注入管理が煩雑となるなどの問題があった。
【0014】
一方、硝酸亜鉛ならびに酸化亜鉛を硝酸に溶解した組成物は、ベンゾトリアゾール類との相溶性が比較的良好であるが、硝酸性窒素は富栄養化の原因となったり、人が硝酸性窒素を多量に摂取するとメトヘモグロビン血症になったり、胃の中で発ガン性のN−ニトロソ化合物を生成したりするなど、環境と人体に対して悪影響があるなどの課題があった。
【0015】
また、水と接触する金属にスケールが付着すると、熱交換器の伝熱を阻害し、水路を閉塞するだけでなく、金属のスケール付着部には酸素濃淡電池形成に伴う隙間腐食が発生し易いため、スケールの防止は腐食の防止の観点からも重要な課題である。
【0016】
従って、本発明が解決しようとする課題は、鉄系金属と銅系金属が共存する水循環システムにおいて、環境や人体に対する影響が大きい硝酸性窒素を含有せず、かつ亜鉛塩とベンゾトリアゾール類を同時に含有できる、安全かつ安定な、鉄系金属と銅系金属の両方の金属の腐食及びスケールを同時に防止できる液体組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の課題を解決するために本発明者は、鉄系金属と銅系金属の腐食を同時に防止する目的で、亜鉛とベンゾトリアゾール類を含有する安定な腐食及びスケール防止用液体組成物について鋭意検討した結果、亜鉛源として亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛などの本来は水に殆ど溶解しない亜鉛化合物を使用し、有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上とともに一定量の硫酸を水に加えることにより、亜鉛とベンゾトリアゾール類を含有する、安定な腐食及びスケール防止用液体組成物を得ることができることを見出し本発明に到達した。
【0018】
すなわち、請求項1に係る発明は、(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物である。
【0019】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の腐食及びスケール防止用液体組成物であり、亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸の当量比が0.7以上〜1.0未満であることを特徴とする。
【0020】
請求項3に係る発明は、(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整した腐食及びスケール防止用液体組成物を添加することを特徴とする水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止する方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物を添加することにより、鉄系金属と銅系金属が共存する水循環システムにおいて鉄系金属と銅系金属の両方の金属の腐食及びスケールを同時に防止する効果を奏する。また鉄系金属に対する腐食防止剤と銅系金属対する腐食防止剤を共に含んでおり、かつスケール防止効果も奏するため、それぞれを別々に添加した場合と比較して注入設備が一つで良く、注入管理も容易である。更には硝酸塩を使用していないため、人体や環境に対する悪影響が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例に使用した試験装置を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
本発明は、鉄系金属と銅系金属が共存する水系システムにおいて鉄系金属と銅系金属の腐食を同時に防止できる腐食及びスケール防止用液体組成物ならびに腐食及びスケールの防止方法に関する発明であり、(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物ならびにそれを用いた腐食及びスケールの防止方法である。
【0024】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物の最も好ましい例は、(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体から選択される一種以上ならびに(4)スルホン酸基含有ポリマーを含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物である。
【0025】
本発明で使用される亜鉛は、板状、塊状、粉状、棒状、線状などの形態の金属亜鉛であり、亜鉛や亜鉛末などの市販品がそのまま使用できる。本発明で使用される水酸化亜鉛は、水酸化亜鉛として市販されているものがそのまま使用できる。酸化亜鉛は、酸化亜鉛あるいは亜鉛華として市販されているものがそのまま使用できる。炭酸亜鉛は、重炭酸亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、炭酸水酸化亜鉛を含み、炭酸亜鉛として市販されているものがそのまま使用できる。リン酸亜鉛は、第一リン酸亜鉛Zn(HPO、第二リン酸亜鉛ZnHPO4、第三リン酸亜鉛Zn(POを含み、リン酸亜鉛として市販されているものがそのまま使用できる。
【0026】
これらの亜鉛化合物には不純物として微量の鉛が含まれるが、鉛は人体に有害であるだけでなく、組成物中に不溶性の硫酸鉛の沈殿が生じるため、亜鉛化合物中の鉛含量は0.1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.03%以下である。
【0027】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物中における亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上の亜鉛化合物の配合量は、通常は1〜10%の範囲である。亜鉛化合物の配合量が1%未満では、防食に必要な液体組成物の添加量が過大となり、また10%を超えると安定な組成物を得ることができないため、いずれも好ましくない。
【0028】
本発明で使用されるベンゾトリアゾール類は、例えば下記一般式(1)で示される1,2,3−ベンゾトリアゾール類や下記一般式(2)で示されるアルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール類が挙げられる。
【化1】


(ここでRはカルボキシル基、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基を示す)

【化2】


(ここでR1は炭素数が1〜12のアルキル基、R2は水素、炭素数が1〜12のアルキル基、カルボキシル基、塩素、臭素、フッ素、ヨウ素、水酸基、ニトロ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基を示す)
【0029】
これらの1,2,3−ベンゾトリアゾール類、及び、アルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール類は単独で用いても良いし、混合して用いることもできる。好ましい1,2,3−ベンゾトリアゾール類としては、1,2,3−ベンゾトリアゾールが挙げられ、好ましいアルキル置換−1,2,3−ベンゾトリアゾール類としては、1,2,3−メチルベンゾトリアゾールが挙げられる。ここで、1,2,3−メチルベンゾトリアゾールは、トリルトリアゾールとして市販されているものが使用できる。
【0030】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物中におけるベンゾトリアゾール類の配合量は、通常は0.2〜10%の範囲である。ベンゾトリアゾール類の配合量が0.2%未満では、防食に必要な液体組成物の添加量が過大となり、また10%を超えると安定な組成物を得ることができないため、いずれも好ましくない。
【0031】
本発明で使用される有機ホスホン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基を有する有機化合物であり、具体的には1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸などが挙げられ、好ましくは1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸である。
【0032】
本発明で使用されるホスフィノポリカルボン酸は、分子中に1個以上のホスフィノ基と2個以上のカルボキシル基を有する化合物であり、具体的にはアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(2−カルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、マレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸を反応させて得られるポリ(2−カルボキシエチル)(1,2−ジカルボキシエチル)ホスフィン酸、イタコン酸と次亜リン酸を反応させて得られるビス−ポリ[2−カルボキシ−(2−カルボキシメチル)エチル]ホスフィン酸、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と次亜リン酸の反応物などが挙げられ、好ましくはマレイン酸とアクリル酸と次亜リン酸の反応物、イタコン酸とマレイン酸と次亜リン酸の反応物である。
【0033】
ホスフィノポリカルボン酸の調製は、通常、水性溶媒中で次亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより行なわれ、例えば特公昭54−29316号公報、特公平5−57992号公報、特公平6−47113号公報などに開示されている。また、ホスフィノポリカルボン酸は、バイオ・ラボ社よりBELCLENE500、BELSPERSE164、BELCLENE400などの商品名で市販されている。
【0034】
本発明で使用されるホスホノカルボン酸は、分子中に1個以上のホスホノ基と1個以上のカルボキシル基を有する有機化合物であり、具体的には2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ヒドロキシホスホノ酢酸、ホスホノポリマレイン酸、ホスホンコハク酸などが挙げられ、好ましくは2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、ホスホノポリマレイン酸である。ここで、ホスホノカルボン酸はローディア社からBRICORR288の商品名、またBWA社からBELCOR585の商品名で市販されている。
【0035】
ホスホノカルボン酸は、例えば、中性〜アルカリ性の水性溶媒中で亜リン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸とを遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができる(例えば特開平4−334392号公報)。また、ホスホノカルボン酸は、次亜リン酸とカルボニル化合物やイミン化合物との反応物を反応開始剤の存在下で不飽和カルボン酸と反応させることにより得ることができる(特許第3284318号公報)。
【0036】
本発明で使用されるリン酸は、リン酸として市販されているものをそのまま用いることができる。リン酸の替わりに、本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物の安定性に影響を及ぼさない範囲内で、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸一カリウム、リン酸二カリウム等のアルカリ金属のリン酸塩を用いてもよい。
【0037】
本発明で使用されるマレイン酸系重合体は、ホモマレイン酸重合体およびマレイン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0038】
本本発明で使用されるイタコン酸系重合体は、ホモイタコン酸重合体およびイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0039】
ここで、マレイン酸やイタコン酸と共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、フマル酸;(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N−アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2〜8のオレフィンであるエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなど;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0040】
マレイン酸系重合体ならびにイタコン酸系重合体の分子量は、重量平均分子量として300〜20,000が好ましいが、より好ましくは400〜1,000である。
【0041】
マレイン酸系重合体の製造方法は、有機溶媒中ないし水性溶媒中で無水マレイン酸又はマレイン酸を遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができ、例えば特許2964154号公報、特公平7−49450号公報、特開平6−298874号公報などで開示されている。
【0042】
イタコン酸系重合体の製造方法は、水性溶媒中でイタコン酸を遊離ラジカル開始剤の存在下で加熱することにより製造することができ、例えば、特開平5−86129号公報などで開示されている。
【0043】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、モノエチレン性不飽和スルホン酸の重合体であり、モノエチレン性不飽和スルホン酸として、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸、ブタジエンスルホン酸やイソプレンスルホン酸等の共役ジエンスルホン化物、スチレンスルホン酸、スルホアルキル(メタ)アクリレートエステル、スルホアルキル(メタ)アリルエーテル、スルホフェノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリルスルホン酸などの1種以上が用いられる。
【0044】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、好ましくはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸の共重合体、あるいはモノエチレン性不飽和スルホン酸とモノエチレン性不飽和カルボン酸と他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体との共重合体である。
【0045】
ここで、モノエチレン性不飽和カルボン酸として、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸などの1種以上が用いられる。他の共重合可能なモノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシルアルキルエステル;(メタ)アクリルアミド、N‐アルキル置換(メタ)アクリルアミド;炭素数2〜8のオレフィンであるエチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ヘキセン、2−エチルヘキセン、ペンテン、イソペンテン、オクテン、イソオクテンなど;ビニルアルキルエーテルのビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル;マレイン酸アルキルエステルなどがあげられ、その1種または2種以上が用いられる。
【0046】
本発明で使用されるスルホン酸基含有ポリマーは、より好ましくは2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、3−アリロキシ−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホン酸と(メタ)アクリル酸の共重合体、共役ジエンスルホン化物と(メタ)アクリル酸の共重合体である。スルホン酸基含有ポリマーの分子量は、重量平均分子量として1,000〜100,000が好ましいが、より好ましくは4,000〜20,000である。
【0047】
本発明で使用される有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体ならびにスルホン酸基含有ポリマーは、未中和の酸の形態で用いるのが好ましいが、本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物の安定性に影響を及ぼさない範囲内で、アルカリ金属水酸化物で部分中和されていてもよい。このような部分中和物は、マレイン酸系重合体やイタコン酸系重合体などの重合触媒としてアルカリ金属水酸化物を用いる場合にみられる。
【0048】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物中における有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーの合計量は、通常は1〜20%の範囲である。合計量が1%未満では、防食とスケール防止に必要な液体組成物の添加量が過大となり、また20%を超えると安定な組成物を得ることができないため、いずれも好ましくない。
【0049】
本発明で使用される硫酸は、市販されているものがそのまま使用できる。使用する硫酸の濃度に制限はなく、濃硫酸、希硫酸、発煙硫酸のいずれも使用できるが、作業時の安全性の面から硫酸濃度が90重量%未満の希硫酸を使用するのが好ましい。
【0050】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物のpHは0.5〜2.5の範囲であるが、より好ましくはpH1.0〜2.0の範囲になるように硫酸の配合量を調整するのが好ましい。pHがこの範囲を外れると、安定な組成物を得ることができない。また、硫酸の配合量が10%を超えると、硫酸塩等の沈殿が生じ易くなり好ましくない。
【0051】
亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸の当量比は0.5以上〜1.2未満の範囲であることが好ましいが、より好ましくは0.7以上〜1.0未満の範囲である。当量比がこの範囲を外れると、安定な組成物を得ることができない。
【0052】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物は、水に対して各化合物を任意の順序で投入して撹拌混合ないし溶解することにより製造することができる。その際、ベンゾトリアゾール類や亜鉛化合物等の固形物の溶解を促進させるため、必要により加温や冷却をしても良い。
【0053】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物の好ましい製造方法は、先ず水に有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を加え、次いで硫酸を加え、次いでベンゾトリアゾール類を加えて完全に溶解するまで撹拌し、次いで亜鉛化合物を加えて完全に溶解するまで撹拌し、最後に必要により硫酸により組成物のpHを調整する方法である。
【0054】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物は、その添加濃度に特に制限はなく、通常は水系に対して5〜10,000mg/Lの濃度になるように定量ポンプ等で添加されるが、好ましくは20〜500mg/Lである。
【0055】
水系の運転開始時には、本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物とともに縮合リン酸塩を併用するのが好ましい。縮合リン酸塩は縮合度2以上のリン酸塩であるが、ピロリン酸塩(縮合度2)、トリポリリン酸塩(縮合度3)、テトラポリリン酸塩(縮合度4)、ヘキサメタリン酸塩などが使用できる。ここで一般に、ヘキサメタリン酸ナトリウムの商品名で市販されているのは、平均縮合度が10以上の鎖状縮合リン酸塩であるが、より好ましい縮合リン酸塩は、平均縮合度が30〜100の鎖状縮合リン酸塩である。水系の運転開始時における縮合リン酸塩の添加量は通常3〜200mg/Lであるが、好ましくは5〜100mg/Lである。
【0056】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物が適用される被処理水の水質は特に限定されないが、通常はpH6.0〜9.5、電気伝導率は5000μS/cm以下、Ca硬度ないしMg硬度は0〜1000mgCaCO/L、Mアルカリ度は0〜500mgCaCO/L、シリカは0〜250mg/L、塩化物イオンは0〜3000mg/L、硫酸イオンは0〜3000mg/L、全鉄は10ppm以下であり好ましくは3ppm以下、アルミニウムは3mg/L以下、濁度(ないし懸濁物質濃度)は100度以下(100ppm以下)であり好ましくは20度以下(20ppm以下)、リツナーの安定度指数は3.0以上、ランゲリアの飽和指数は3.0以下の範囲である。
【0057】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物が適用される被処理水の温度は特に限定されないが、通常は0〜80℃の範囲である。また、本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物が適用される被処理水系の流速は特に限定されないが、通常は0.1〜5.0m/sの範囲である。
【0058】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物が適用される被処理水系の半減時間は特に限定されないが、通常は300時間以下である。ここで半減時間は次式:
半減時間〔h〕=(被処理水系の保有水量〔m〕/ブローダウン水量〔m/h〕)
×0.693で示される。
【0059】
本発明の組成物とともに,腐食抑制剤として公知の別の種類の化合物やスケール抑制剤、微生物障害抑制剤、消泡剤として公知の化合物を併用しても良い。腐食やスケールとともに微生物障害は水系における主要な障害であるが、本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物では微生物の障害は防止できないので、微生物障害抑制剤を併用することが特に好ましい。
【0060】
本発明の組成物と併用される微生物障害抑制剤の例として、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カルシウム、液化塩素、塩化臭素、次亜塩素酸塩と臭化物の反応物、クロロイソシアヌル酸類、クロロジメチルヒダントイン酸類、ブロモジメチルヒダントイン酸類、クロロブロモジメチルヒダントイン酸類等の水に溶解して次亜塩素酸及び/または次亜臭素酸を生成する化合物;ヒドラジン;2−メチルイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−5−クロロイソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4,5−ジクロロイソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾリン等のイソチアゾリン化合物;2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、2−ブロモ−2−ニトロプロパン−1,3−ジオール、2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド等の有機ブロム化合物;メチレンビスチオシアネート、ビス−(1,4−ジブロムアセトキシ)−2−ブテン、ベンジルブロムアセテート、ソジウムブロマイド、α−ブロモシンナムアルデヒド、2−ピリジンチオール−1−オキシドナトリウム、ビス(2−ピリジンチオール−1−オキシド)亜鉛、2−(4−チアゾリル)ベンツイミダゾール、 ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス−(2−ヒドロキシエチル)−S−トリアジン、ビス(トリクロルメチル)スルホン、ジチオカーバメート、3,5−ジメチルテトラヒドロ−1,3,5,2H−チアジアジン−2−チオン、ブロム酢酸エチルチオフェニルエステル、α−クロルベンゾアルドキシムアセテート、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン、3−ヨード−2−プロペニルブチルカルバメート、サリチル酸、サリチル酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル及びp−クロル−m−キシレノール等が挙げられる。
【0061】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物と併用するのが好ましい微生物障害抑制剤は、次亜塩素酸及び/または次亜臭素酸を生成する化合物であるが、その添加量は遊離ハロゲン濃度(遊離塩素と遊離臭素の合計)として通常0.05〜2mg/L(Cl換算)である。
【0062】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物ならびに腐食及びスケールの防止方法では、対象となる腐食の形態は特に限定されないが、全面腐食、孔食、隙間腐食、酸素濃淡電池腐食、応力腐食割れ、ガルバニック腐食、微生物腐食、流れ誘起局部腐食、エロージョンコロージョン、キャビテーションコロージョン、脱成分腐食、脱亜鉛腐食などが含まれる。
【0063】
本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物ならびに腐食及びスケールの防止方法では、対象となるスケールの種類は特に限定されないが、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの炭酸塩スケール;硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどの硫酸塩スケール;リン酸カルシウム、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウムなどのリン酸塩スケール;ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸鉄、ケイ酸亜鉛などのケイ酸塩スケール;無定形シリカスケール;水酸化マグネシウム;水酸化アルミニウム;酸化鉄や水酸化鉄などが含まれる。
【0064】
ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属は、スケール付着部における隙間腐食を起因とした孔食や応力腐食割れが発生し易いが、本発明の腐食及びスケール防止用液体組成物ならびに腐食及びスケールの防止方法では、スケール付着を防止することにより、ステンレス鋼やチタン等の不動態化皮膜を形成する金属の腐食を間接的に防止することができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【0066】
[腐食及びスケール防止用液体組成物の調製]
(組成物の調製に使用する化合物)
1.HEDP:1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(有機ホスホン酸)
活性分含量60%、Na含量 0.1%以下
2.ホスフィノポリカルボン酸(1):アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチル
プロパンスルホン酸と次亜リン酸(モル比16:2:1)
共重合体、BWA社製BELCLENE400
(商品名)、活性分含量50%、Na含量0.7%
3.ホスフィノポリカルボン酸(2):アクリル酸−マレイン酸−次亜リン酸
(2:1:1)共重合体、活性分含量34.8%、
Na含量21.3%
4.ホスホノカルボン酸(1):2−ホスホノブタン−1、2、4−トリカルボン酸、
活性分含量50%、Na含量 0.1%以下
5.ホスホノカルボン酸(2):ホスホノポリマレイン酸(平均重合度1.5)、
ローディア社製BRICORR288(商品名)、
活性分含量30%、Na含量 10.0%
6.リン酸:活性分含量75%、Na含量 検出されず
7.ポリマレイン酸:ホモマレイン酸重合体(平均分子量500)、BWA社製
BELCLENE200LA(商品名)、
活性分含量50%、Na含量 0.1%以下
8.ポリイタコン酸:ホモイタコン酸重合体(平均分子量1,000)、
活性分含量23%、Na含量2.3%以下
9.スルホン酸基含有ポリマー(1):アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチル
プロパンスルホン酸の共重合体〔共重合比(重量)60:
40、重量平均分子量10,000〕、活性分含量
40%、Na含量 0.1%以下
10.スルホン酸基含有ポリマー(2):アクリル酸と3−アリロキシ−2−ヒドロキシ
−1−プロパンスルホン酸の共重合体、
〔共重合比(重量)50:50、重量平均分子量
5,000〕、活性分含量40%、Na含量 0.1%
以下
11.スルホン酸基含有ポリマー(3):アクリル酸とイソプロピルスルホン酸の共重合
体〔共重合比(重量)50:50、重量平均分子量
10,000〕、活性分含量40%、Na含量0.1%以下
12.亜鉛末:純度99.2%、鉛0.02%、平均粒径4μm
13.酸化亜鉛:純分99.5%以上、鉛0.03%以下、カドミウム0.01%以下
(JIS K1410:酸化亜鉛2種合格品)
14.塩基性炭酸亜鉛:亜鉛含量57.0〜60.0%、鉛10ppm以下
15.第三リン酸亜鉛4水和物:亜鉛含量42.7%、リン酸含量41.4%
(PO換算)、鉛0.01%以下
16.硫酸亜鉛・7水和物:純分99.5%以上、亜鉛含量22.6%
17.硫酸亜鉛・1水和物:純分98%以上、亜鉛含量35.7%
18.塩化亜鉛:純分99%以上、亜鉛含量48.0%
19.ポリアクリル酸:ホモアクリル酸重合体(平均分子量2,200)、
活性分含量40%、Na含量 0.1%以下
【0067】
(No.1組成物の調製)
表1に示すNo.1組成物の配合に従って、水にホスホノカルボン酸(1)とスルホン酸基含有ポリマー(1)を加え、次いで、pH調整分の硫酸を除いた残りの硫酸を加え、更に1,2,3−ベンゾトリアゾールを加えて完全に溶解する。次いで亜鉛末を加えて完全に溶解するまで撹拌し、最後に硫酸により組成物のpHを調整し、No.1組成物を得た。
【0068】
(No.2〜No.11組成物の調製)
表1に示すNo.2〜No.11組成物の配合に従って、No.1組成物と同様の方法により、No.2〜No.11組成物を得た。
【0069】
(No.12組成物の調製)
表2に示すNo.12組成物の配合に従って、水にホスホノカルボン酸(1)とスルホン酸基含有ポリマー(1)を加え、次いで、硫酸亜鉛・7水和物と1,2,3−ベンゾトリアゾールを加えて完全に溶解し、No.12組成物を得た。
【0070】
(No.13〜No.22組成物の調製)
表2に示すNo.13〜No.22組成物の配合に従って、No.12組成物と同様の方法により、No.13〜No.22組成物を得た。
【0071】
上記組成物No.1〜No.11は本発明の実施例であり、組成物No.12〜No.22は比較例である。
【0072】
[液体組成物の分離安定性の評価]
各組成物のpHと亜鉛含量を測定後、各組成物の100mLを125mLガラス瓶に入れ蓋をして、−5℃、25℃、50℃の各温度の恒温器中に静置し、1箇月後の分離安定性を調べた。結果を表1と表2に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
【表2】

【0075】
表1に示された本発明の実施例である液体組成物の分離安定性は、表2に示された比較例に比べて、沈殿分離が無く、本発明の液体組成物が、亜鉛塩とベンゾトリアゾール類とは相溶性が極めて悪く安定な液体組成物として調製することが困難であるといった課題を解決し、亜鉛塩とベンゾトリアゾール類を安定的に配合できることを示した。
【0076】
[液体組成物の腐食防止効果及びスケール防止効果の評価]
組成物No.2、No.5、No.6、No.7、No.9、No.12、及びNo.15について腐食防止効果及びスケール防止効果を評価した。
【0077】
(試験装置)
本発明の方法を評価するために用いた試験装置ならびに試験方法はJIS G0593−2002『水処理剤の腐食及びスケール防止評価試験方法』のオンサイト試験法に準拠した。試験装置の概略を図1に示す。試験用伝熱管として外径12.7mm、長さ510mmの炭素鋼鋼管STKM11A(JIS G3445)と 銅合金としてアルミニウム黄銅C6871(JIS H3300 )を用いた。水槽2及び配管を含む系全体の水容量は62Lとし、水槽の水温は35℃になるように水温制御装置9で制御した。試験用伝熱管評価部の線流速0.3m/sに相当する流量210L/hとなるように流量調整バルブ5で制御しながら循環ポンプ3で通水し、熱交換器7の熱流束は70kW/mとした。冷却塔1は冷却能力1.8冷却トンの誘引通風向流接触型のものを使用した。冷却塔入口・出口の循環水の温度差は15℃であった。蒸発水量は4.4L/h、補給水量は5.5L/h、ブローダウン水量は1.1L/h、濃縮度は5倍であった。循環水の電気伝導率を電気伝導率測定セル4で連続的に測定され、電気伝導率の入力信号より電気伝導率制御装置11を用いて濃縮度5倍に相当する電気伝導率になるようにブローダウンポンプ10を制御した。
【0078】
(試験方法)
補給水12として四日市市水を使用した。四日市市水の水質はpH:7、電気伝導率:13mS/m、Ca硬度:38mg−CaCO3/L、Mg硬度:8mg−CaCO3/L、Mアルカリ度:40mg−CaCO3/L、 塩化物イオン:10mg/L、硫酸イオン:11mg/L、シリカ:12mg/Lであった。
初期処理として水槽に四日市市水を張り、被試験用組成物200mg/Lとヘキサメタリン酸ソーダ(平均縮合度40)を12.5mg/L添加して、常温で48時間循環した。その後、熱負荷を開始し、熱負荷開始3日後に濃縮度が5倍に達したので、直ちにブローダウンを開始して濃縮度を5倍に維持した。ブローダウン開始と同時にブローダウン量に対して80mg/Lの被試験用組成物を水処理剤注入装置13により添加した。試験期間は1ヶ月間とした。試験終了後、試験用伝熱管を取り外して、腐食速度、最大腐食深さ、付着速度を測定した。結果を表3に示す。
【0079】
【表3】

【0080】
本発明の実施例である液体組成物No.2、No.5、No.6、No.7、及びNo.9の腐食防止効果及びスケール防止効果は、比較例である液体組成物No.12、No.15の効果よりも炭素鋼、銅合金ともに優れており、本発明の液体組成物が、鉄系金属と銅系金属が共存する水循環システムにおいて鉄系金属と銅系金属の両方の金属の腐食及びスケールを同時に効果的に防止できる腐食及びスケール防止用液体組成物であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、開放循環式冷却水系、密閉循環式冷却水系処理剤、一過式冷却水系、循環冷温水系、循環加熱水系などの水系における鉄系金属と銅系金属の両方の金属の腐食防止及びスケール防止に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 冷却塔
2 水槽
3 循環ポンプ
4 電気伝導率測定セル
5 流量調整バルブ
6 流量計
7 熱交換器
8 試験片保持器
9 水温制御装置
10 ブローダウンポンプ
11 電気伝導率制御装置
12 補給水
13 水処理剤注入装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整することを特徴とする腐食及びスケール防止用液体組成物。
【請求項2】
亜鉛とアルカリ金属の合計量に対する硫酸の当量比が0.7以上〜1.0未満であることを特徴とする請求項1記載の腐食及びスケール防止用液体組成物。
【請求項3】
(1)亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛、炭酸亜鉛、リン酸亜鉛から選択される一種以上、(2)ベンゾトリアゾール類、(3)有機ホスホン酸、ホスフィノポリカルボン酸、ホスホノカルボン酸、リン酸、マレイン酸系重合体、イタコン酸系重合体、スルホン酸基含有ポリマーから選択される一種以上を含有する水性混合物に硫酸を加えてpHを0.5から2.5に調整した腐食及びスケール防止用液体組成物を添加することを特徴とする水系における鉄系金属と銅系金属の腐食及びスケールを防止する方法。


【図1】
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【公開番号】特開2010−202893(P2010−202893A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−46513(P2009−46513)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000234166)伯東株式会社 (135)
【Fターム(参考)】