説明

腐食安定的クロマトグラフィーリガンド

【課題】標的分子を高い収率で、迅速且つ経済的に精製するアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用されるリガンド及びその製造方法を提供する。
【解決手段】2つ若しくはそれ以上のBドメイン又は2つ若しくはそれ以上のZドメインが、樹脂上の2以上の部位において、クロマトグラフィー樹脂に付着されている、ブドウ球菌プロテインA(SpA)2つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは2つ若しくはそれ以上のZドメイン又はその機能的断片若しくは変形物を含むアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2008年12月24日に出願された米国仮特許出願61/203,664号(これらの内容全体が、本明細書中に組み込まれる。)の優先権の利益を主張する。
【0002】
発明の分野
本発明は、改善された腐食安定性を有するクロマトグラフィーリガンド(例えば、ブドウ球菌プロテインAなどの免疫グロブリン結合タンパク質を基礎とするリガンド)及びこのようなリガンドを含むクロマトグラフィーマトリックスに関する。
【背景技術】
【0003】
アフィニティークロマトグラフィーにおいて使用されるリガンドは、通例、標的分子に対して高い選択性を付与し、これにより、標的分子を高い収率で、迅速且つ経済的に精製する。ブドウ球菌プロテインA(SpA)を基礎とする試薬及びクロマトグラフィーマトリックスは、抗原に対する免疫グロブリンの親和性に対して著しい影響を及ぼさずにIgGを結合する能力の故に、抗体の捕捉及び精製のためのアフィニティークロマトグラフィーの分野において並びに抗体検出方法の分野において広い用途を見出ししている。
【0004】
従って、例えば、ProSep(R)−vAHighCapacity、ProSep(R)−vAUltra及びProSep(R)UltraPlus(Millipore)及びプロテインASepharoseTM、MabSelectTM、MabSelectXtraTM及びMabSelectSuRe(R)(GEHealthcare)並びにPorosMabCaptureATM(Applied Biosystems)などの、プロテインAリガンドを含む様々な試薬及び溶媒が開発され、市販されている。
【0005】
例えば、SpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドを含む樹脂などのクロマトグラフィーリガンドの選択性及び結合能を維持するために、リガンドが結合された樹脂(クロマトグラフィーマトリックスと称される。)は、洗浄されなければならず、典型的には、例えば水酸化ナトリウムを用いて、アルカリ条件下で洗浄される。例えば、マトリックスを洗浄し、回復させるために使用される標準的な方法は、1MNaOH、pH14でのマトリックスの処理を通例伴う定置洗浄(CIP(cleaning−in−place))アルカリプロトコールである。しかしながら、このような厳しい処理は、とりわけ、リガンドがタンパク質又はタンパク質を基礎とする分子である場合には、しばしば望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、例えば、反復される定置洗浄(CIP)サイクルに耐えることができる、アルカリに対して安定的な、SpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドを提供する。より具体的には、本発明のリガンドは、長期間にわたって、旧来のアルカリ洗浄に耐えることができ、このため、本発明のリガンドは、特に、免疫グロブリンの費用対効果の高い大規模精製のための魅力的な候補となる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様において、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、SpAの2つ又はそれ以上のドメインを含む。例えば、この態様に係る幾つかの実施形態において、2つ若しくはそれ以上のBドメイン又は2つ若しくはそれ以上のZドメインが、樹脂上の2以上の部位において、クロマトグラフィー樹脂に付着されている、ブドウ球菌プロテインA(SpA)2つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは2つ若しくはそれ以上のZドメイン又はその機能的断片若しくは変形物を含むアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドが提供される。
【0008】
この態様に係る幾つかの実施形態において、リガンドは、SpAの3つ若しくはそれ以上のBドメイン又は3つ若しくはそれ以上のZドメイン又はこれらの機能的断片若しくは変形物を含み、3つ若しくはそれ以上のBドメイン又は3つ若しくはそれ以上のZドメインは、樹脂上の2以上の部位において、クロマトグラフィー樹脂に付着されている。幾つかの他の実施形態において、リガンドは、SpAの4つ若しくはそれ以上のBドメイン又は4つ若しくはそれ以上のZドメインを含み、前記4つ若しくはそれ以上のBドメイン又は4つ若しくはそれ以上のZドメインは、樹脂上の2以上の部位において、クロマトグラフィー樹脂に付着されている。さらに別の実施形態において、リガンドは、SpAの5つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは5つ若しくはそれ以上のZドメイン、又はSpAの6つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは6つ若しくはそれ以上のZドメインを含み、又はSpAの7つ若しくはそれ以上のBドメイン又は7つ若しくはそれ以上のZドメインを含み、前記5つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは5つ若しくはそれ以上のZドメイン又は6つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは6つ若しくはそれ以上のZドメイン又は7つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは7つ若しくはそれ以上のZドメインは、樹脂上の2以上の部位において、クロマトグラフィー樹脂に付着される。
【0009】
本発明の別の形態において、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、ブドウ球菌プロテインAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、システイン(C)、セリン(S)、アラニン(A)、グリシン(G)、アスパラギン(N)又はグルタミン(Q)を除く天然に存在するあらゆるアミノ酸へ変異された1つ又はそれ以上のアミノ酸残基を位置n+1に含む。幾つかの実施形態において、nは、単離されたSpAドメインの23位のアスパラギン残基を表す。単離されたSpAドメインの24位に変異を有する典型的なリガンド(nは、アスパラギンを表す。)が表1に示されている。
【0010】
【表1】

【0011】
【表2】

【0012】
天然に存在するアミノ酸に対する一文字コード及び各アミノ酸をコードする対応する三文字コドンが、表2に図示されている。一般に、コドンの縮重のために、2以上の三文字コドンが同じアミノ酸をコードし得る。
【0013】
【表3】

【0014】
例えば、少なくとも1つの不溶性担体などの固体支持体に結合された、本発明の1つ又はそれ以上の形態に係るリガンドを含むクロマトグラフィーマトリックスも、本発明によって包含される。
【0015】
さらに、本明細書中に記載されているリガンドを使用する方法も本明細書において提供される。従って、(a)1つ又はそれ以上の標的分子(例えば、免疫グロブリン)を含む試料を準備する工程、(b)前記1つ又はそれ以上の標的分子(例えば、免疫グロブリン)がマトリックスに結合する条件下で、前記試料を本発明のマトリックスと接触させる工程、及び(c)例えば、適切なpHなどの適切な条件下で溶出することによって、1つ又はそれ以上の結合された標的分子(例えば、免疫グロブリン)を回収する工程を含む、1つ又はそれ以上の標的分子(例えば、免疫グロブリン)を試料からアフィニティー精製する方法が提供される。
【0016】
幾つかの実施形態において、本発明のアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、0.5MNaOH中での温置の5時間後又は10時間後、15時間後又は20時間後又は25時間後又は30時間後に、その結合能の少なくとも95%を保持する。
【0017】
本明細書中に記載されている様々なリガンドによって結合され得る免疫グロブリンには、例えば、IgG、IgA及びIgM又は抗体及び抗体のあらゆる断片を含むあらゆる融合タンパク質が含まれる。
【0018】
本明細書中に記載されている様々なリガンドをコードする核酸分子及びこのような核酸分子を含む宿主細胞も本明細書において提供される。幾つかの実施形態において、宿主細胞は原核細胞である。他の実施形態において、宿主細胞は真核細胞である。
【0019】
さらに、本発明は、本明細書中に記載されている1つ又はそれ以上のリガンド並びにその機能的断片及び変形物を含むポリペプチドのライブラリーを包含する。さらに別の実施形態において、本発明は、本発明によって包含される1つ若しくはそれ以上のリガンドをコードし、又はその機能的断片及び変形物をコードする核酸分子のライブラリーを提供する。
【0020】
幾つかの実施形態において、本発明は、免疫グロブリンのFc部分を結合する能力を保持しながら、以前に公知のSpAリガンドと比べて、免疫グロブリンのFab部分へ変化した(増加した又は減少した)結合を示す、SpAを基礎とするリガンドを提供する。一実施形態において、本発明のSpAを基礎とするリガンドは、野生型SpAと比べて、免疫グロブリンのFab部分への減少した結合を示す。典型的な実施形態において、本発明のアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、アラニンで置換された29位のアミノ酸グリシンをさらに含む。別の実施形態において、本発明のアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換された29位のグリシンをさらに含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、配列番号1から5によって表される、SpAの野生型(wt)IgG結合ドメインに対する核酸配列を図示している。配列番号1は、wtEドメインに対する核酸配列を表す。配列番号2は、wtDドメインに対する核酸配列を表す。配列番号3は、wtAドメインに対する核酸配列を表す。配列番号4は、wtBドメインに対する核酸配列を表す。配列番号5は、wtCドメインに対する核酸配列を表す。
【図2】図2は、配列番号6によって表される、SpAのZドメインに対する核酸配列を図示する。
【図3】図3は、SpAの野生型(wt)IgG結合ドメイン(E、D、A、B及びC)のアミノ酸配列並置を図示する。配列番号7は、wtEドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号8は、wtDドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号9は、wtAドメインのアミノ酸配列を表し、配列番号10は、wtBドメインのアミノ酸配列を表し、及び配列番号11は、wtCドメインのアミノ酸配列を表す。
【図4】図4は、配列番号12によって表されるZドメインのアミノ酸配列を図示する。
【図5】図5は、プラスミドpJ56:8620の模式図を表す。
【図6−1】図6は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメイン及びヒスチジンタグが付加された様々なn+1変異体に対するアミノ酸配列を図示する。配列番号13は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメインに対するアミノ酸配列を表し、配列番号14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25及び26は、それぞれ、n+1Bドメイン変異体E24M、E24I、E24F、E24T、E24P、E24W、E24R、E24V、E24L、E24Y、E24H、E24K及びE24Dに対するアミノ酸配列を表す。
【図6−2】図6は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメイン及びヒスチジンタグが付加された様々なn+1変異体に対するアミノ酸配列を図示する。配列番号13は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメインに対するアミノ酸配列を表し、配列番号14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25及び26は、それぞれ、n+1Bドメイン変異体E24M、E24I、E24F、E24T、E24P、E24W、E24R、E24V、E24L、E24Y、E24H、E24K及びE24Dに対するアミノ酸配列を表す。
【図7−1】図7は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメインに対する核酸配列及びヒスチジンタグが付加された様々なn+1変異体をコードする核酸配列を図示する。配列番号27は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメインをコードする核酸配列を表し、配列番号28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39及び40は、それぞれ、n+1Bドメイン変異体E24M、E24I、E24F、E24T、E24P、E24W、E24R、E24V、E24L、E24Y、E24H、E24K及びE24Dをコードする核酸配列を表す。
【図7−2】図7は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメインに対する核酸配列及びヒスチジンタグが付加された様々なn+1変異体をコードする核酸配列を図示する。配列番号27は、SpAのヒスチジンタグが付加されたwtBドメインをコードする核酸配列を表し、配列番号28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39及び40は、それぞれ、n+1Bドメイン変異体E24M、E24I、E24F、E24T、E24P、E24W、E24R、E24V、E24L、E24Y、E24H、E24K及びE24Dをコードする核酸配列を表す。
【図8】図8は、本明細書中に記載されている高情報量ELISAを基礎とするアッセイを用いて、ヒスチジンタグが付加された様々なn+1Bドメイン変異体中の(nは、23位のアスパラギンを表す。)残存IgG結合をアッセイする典型的実験の結果を要約する棒グラフを図示する。X軸は、24位に変異を有する様々なn+1Bドメイン変異体を表し、Y軸は、1NNaOHへの6時間の曝露後に残存する%IgG結合を表す。グラフ中に示されているように、嵩が大きい側鎖を含有するアミノ酸を24位に有するn+1Bドメイン変異体は、wtBドメインと比較して、増加した腐食性安定性を示す。
【図9】図9は、アガロース樹脂への多点付着後における、様々なSpAドメイン三量体(すなわち、EEE、DDD、AAA、BBB、CCC及びZZZ)の保持されたIgG結合能のパーセントをアッセイするための典型的実験の結果を図示する。nPrAは、wtSpAを表す。X軸は、腐食性曝露のサイクル数を表し、各サイクルは、0.5NNaOHへの15分の曝露からなる。Y軸は、付着されたSpAリガンドの保持されたIgG結合能を表す。図9中のグラフに示されているように、C又はZドメイン三量体を含むリガンドの腐食性安定性は概ね等しく、Bドメイン三量体を含むリガンドより腐食安定性が高く、Bドメイン三量体を含むリガンドはAドメイン三量体を含むリガンドより腐食安定性が高く、Aドメイン三量体を含むリガンドはE又はDドメイン三量体を含むリガンドより腐食安定性が高い。
【図10】図10は、多点付着を介してアガロース樹脂に付着された、3つ(B3)又は4つ(B4)又は5つ(B5)Bドメインを含有する本発明の付着されたリガンドの保持されたIgG結合能のパーセントをアッセイするための典型的な実験の結果を図示している。また、5つのBドメイン又は7つのBドメインを含有し、及びFab結合を低下させるための変異(G29A)をさらに含む付着されたリガンド(それぞれ、B5−NF及びB7−NFと称される。)が使用される。nPrAは、wtSpAを表す。X軸は、腐食性曝露のサイクル数を表し、各サイクルは、0.5NNaOHへの15分の曝露からなる。Y軸は、付着されたSpAリガンドの保持されたIgG結合能を表す。図10中のグラフに示されているように、腐食安定性のレベル又は程度は、リガンド中のBドメインの数に正比例し、Fab結合を減少させるためのG29A変異によって変化を受けない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、SpAを基礎とするアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド、特に、SpAの1つ又はそれ以上のドメインを基礎とするリガンドを提供する。以前に記載された典型的な、SpAを基礎とするアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドには、例えば、抗体のFab部分を結合することができ、及び末端のカップリング基を用いて、単一部位において、不溶性担体へ連結されるSpAのCドメインを基礎とするアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドを論述する国際PCT特許公開WO2008/039141号に記載されているもの並びに1つ又はそれ以上のアスパラギンアミノ酸残基が修飾されているSpAを基礎とするアルカリベースのクロマトグラフィーリガンドについて論述している米国特許第6,831,161号中に記載されているものが含まれる。
【0023】
本開示がより容易に理解され得るようにするために、まず、ある種の用語を定義する。さらなる定義は、詳細な説明を通じて記載されている。
【0024】
I.定義
本明細書において使用される「SpA」又は「スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)のプロテインA」という用語は、細菌スタフィロコッカス・オーレウスから単離される42kDaのマルチドメインタンパク質を表す。SpAは、そのカルボキシ末端細胞壁結合領域(Xドメインと称される。)を介して、細菌の細胞壁へ結合されている。SpAは、アミノ末端領域に、E、D、A、B及びCと称される5つの免疫グロブリン結合ドメインを含む(Sjodhal,Eur J Biochem.Sep;78(2):471−90(1977);Uhlen et al.,J Biol Chem.Feb10;259(3):1695−702(1984))。これらのドメインの各々は、約58アミノ酸残基を含有し、65から90%のアミノ酸配列同一性を有する。SpAのZドメインは、SpAのBドメインの加工された類縁体であり、29位のグリシン残基の代わりにアラニンを含む(Nilsson et al.,Protein Engineering,Vol.,No.2,107−113(1987))。SpAのE、D、A、B及びCドメインの各々は、異なるIg結合部位を有する。1つの部位はFcγ(IgのIgGクラスの定常領域)に対するものであり、他の部位はある種のIg分子のFab部分(抗原認識に必要とされるIgの部分)に対するものである。ドメインの各々がFab結合部位を含有することが報告されている。SpAの非Ig結合部分はC末端に位置しており、X領域又はXドメインと称される。
【0025】
SpAをコードする遺伝子のクローニングが、米国特許第5,151,350号(その内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)に記載されている。
【0026】
本発明は、SpAを基礎とするアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドを提供する。本発明の幾つかの形態において、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、SpAの単離されたwtB又はZドメインの2つ若しくはそれ以上又は3つ若しくはそれ以上又は4つ若しくはそれ以上又は5つ若しくはそれ以上又は6つ若しくはそれ以上又は7つ若しくはそれ以上を含む。本発明の他の形態において、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドは、SpAの1つ又はそれ以上の単離されたE、D、A、B、C又はZドメインを含み、前記1つ又はそれ以上の単離されたドメインは、トリプトファン、アルギニン、スレオニン、イソロイシン、バリン及びメチオニンからなる群から選択されるアミノ酸に変異された、1つ又はそれ以上のアミノ酸残基を位置n+1(nは、アスパラギンを表す。)に含む。
【0027】
特定の実施形態において、本発明は、樹脂上の2以上の部位に、クロマトグラフィー樹脂に付着されたSpAの2つ又はそれ以上のBドメインを含むクロマトグラフィーリガンドを提供する。別の実施形態において、本発明は、樹脂上の2以上の部位に、クロマトグラフィー樹脂に付着されたSpAの2つ又はそれ以上のZドメインを含むクロマトグラフィーリガンドを提供する。さらに別の実施形態において、クロマトグラフィーリガンドは、本樹脂上の2以上の部位に、クロマトグラフィー樹脂に付着されたSpAの2つ又はそれ以上のCドメインを含む。
【0028】
SpAのアミノ酸変形物も本発明によって包含され、該変形物は、該変形物が誘導された親アミノ酸配列とは、親アミノ酸配列内の任意の場所の1つ又はそれ以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入において異なり得、並びにアルカリ安定性である。幾つかの実施形態において、アミノ酸配列変形物は、親配列(すなわち、wtSpAドメイン又はZドメイン)と少なくとも約70%又は少なくとも約80%又は少なくとも約85%又は少なくとも約90%又は少なくとも約95%又は少なくとも約96%又は少なくとも約97%又は少なくとも約98%の同一性を有し、このような変形物は、アルカリ安定性である。特定の実施形態において、SpAの変形物は、そのアルカリ安定性を保持しながら、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸残基によって置換された29位のグリシンアミノ酸残基をさらに含む。
【0029】
本発明において、タンパク質の「機能的変形物」という用語は、機能(本発明に関して、アルカリ安定性として定義される。)が実質的に保持された変形物タンパク質を意味する。機能的変形物には、SpAの以上のドメインを含むSpA変形物、例えば、SpAの様々なドメインの二量体、三量体、多量体、並びに本明細書中に定義されているように、アルカリ安定性を保持しながら、SpAの1つ又はそれ以上の野生型ドメイン中に1つ又はそれ以上のアミノ酸の欠失、置換及び/又は付加を有するSpA変形物が含まれるが、これらに限定されない。
【0030】
本明細書において、「親分子」という用語は、本発明に従って修飾される前の形態又は本発明に従って変異が導入される前の形態の対応するタンパク質に対して使用される。
【0031】
「配列同一性」という用語は、初期設定ギャップウエイトを使用して、プログラムGAP又はBESTFITなどによって、最適に並置されたときに、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列が少なくとも70%の配列同一性又は少なくとも80%の配列同一性又は少なくとも85%の配列同一性又は少なくとも90%の配列同一性又は少なくとも95%の配列同一性又はそれ以上を有することを意味する。配列比較のために、典型的には、1つの配列が参照配列(例えば、親配列)として作用し、これに対して、検査配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、検査及び参照配列がコンピュータに入力され、必要であれば、サブシーケンス座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメータに基づいて、参照配列と比較した検査配列に対する%配列同一性を計算する。
【0032】
比較のための配列の最適な並置は、例えば、「Smith&Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)」の局所的相同性アルゴリズムによって、「Needleman&Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)」の相同性並置アルゴリズムによって、「Pearson&Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA85:2444(1988)」の類似検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575Science Dr.,Madison,Wis.中のGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA)のコンピュータ化された実装によって、又は視覚的検査(全般的には、Ausubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology)によって行うことができる。%配列同一性及び配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの一例は、「Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403(1990)」に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)を通じて、公に入手可能(国立衛生研究所NCBIインターネットサーバを通じて公にアクセス可能)である。典型的には、配列比較を実施するために、初期設定プログラムパラメータを使用することができるが、特別設計されたパラメータを使用することもできる。アミノ酸配列に対して、BLASTPプログラムは、3のワード長さ(W)、10の期待値(E)及びBLOSUM62スコアリングマトリックスを初期設定として使用する(Henikoff & Henikoff,Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:10915(1989)参照)を使用する。
【0033】
本明細書において互換的に使用される、「Eドメイン」、「SpAのEドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのEドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号7に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号1に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Eドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる51アミノ酸のポリペプチドである。「Eドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabを結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のEドメインは、配列番号7に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0034】
本明細書において互換的に使用される、「Dドメイン」、「SpAのDドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのDドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号8に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号2に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Dドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる61アミノ酸のポリペプチドである。「Dドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabを結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のDドメインは、配列番号8に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0035】
本明細書において互換的に使用される、「Aドメイン」、「SpAのAドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのAドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号3に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号9に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Aドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Aドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のAドメインは、配列番号3に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0036】
本明細書において互換的に使用される、「Bドメイン」、「SpAのBドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのBドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号10に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号4に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Bドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Bドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のBドメインは、配列番号10に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0037】
本明細書において互換的に使用される、「Cドメイン」、「SpAのCドメイン」及び「ブドウ球菌プロテインAのCドメイン」という用語は、そのアミノ酸配列が配列番号11に記載されているポリペプチド又は例えば、配列番号5に記載されているヌクレオチド配列によってコードされるポリペプチドを表す。「Cドメイン」は、三らせん束構造へ折り畳まれる58アミノ酸のポリペプチドである。「Cドメイン」は、ヘリックス1及び2の表面上の残基を介してFcを結合することが可能であり、又はヘリックス2及び3の表面上の残基を介してFabへ結合することができる。幾つかの実施形態において、本発明のCドメインは、配列番号11に記載されているアミノ酸配列と、配列において、少なくとも70%同一、又は少なくとも80%同一、又は少なくとも90%同一又は少なくとも95%又はそれ以上同一である。
【0038】
本明細書において互換的に使用される、「Zドメイン」、「SpAのZドメイン」及び「プロテインAのZドメイン」という用語は、プロテインAのBドメインの変形物である、三らせんの59アミノ酸のポリペプチドを表す。Zドメインのアミノ酸配列は、配列番号12に記載されている。典型的なZドメインは、「Nilsson et al.,Protein Engng.,1:107−113(1997)」(その内容全体が、参照により、本明細書中に組み込まれる。)に記載されている。
【0039】
本明細書において使用される「アルカリ安定的」、「アルカリ安定性」、「腐食性安定的」又は「腐食性安定性」という用語は、単独での又はクロマトグラフィー樹脂上に固定化された場合の本発明のクロマトグラフィーリガンドが、その結合能を失わずに、アルカリ洗浄を用いた反復定置洗浄(CIP)サイクルに耐える能力を一般に表す。一般的に、本発明のリガンドがその上に固定化されている樹脂は、単独では、最大30時間の0.5MNaOH中に浸された後の安定性における5%未満の変化に寄与すると仮定される。例えば、幾つかの実施形態において、本発明のクロマトグラフィーリガンドは、長期間にわたる旧来のアルカリ洗浄に耐えることができ、特に、免疫グロブリンの費用対効果に優れた大規模精製のための魅力的な候補となる。幾つかの実施形態において、本発明のリガンドは、アルカリ環境(例えば、約10超など、又は最大約13若しくは14の増加したpH値を有するものとして定義され得る。)中での改良された化学的安定性を示す。あるいは、アルカリ環境は、塩基、例えば、約1.0MNaOH又は約0.7MNaOH又は約0.5MNaOHの濃度によって定義され得る。一実施形態において、アルカリ安定性は、0.5MNaOH中での温置の5時間後又は10時間後、15時間後又は20時間後又は25時間後又は30時間後に、本発明のアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドがその結合能の少なくとも80%又は少なくとも85%又は少なくとも90%又は少なくとも95%を保持する能力を表す。別の実施形態において、アルカリ安定性は、5時間又は7.5時間又は10時間又は15時間又は20時間又は25時間又は30時間の0.5MNaOHでの処理後でさえ、リガンドの結合能が70%未満又は60%未満又は50%未満又は30%未満減少することを表す。
【0040】
幾つかの実施形態において、本発明のSpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドは、野生型SpAと比較して、増加した又は改善したアルカリ安定性を示す。
【0041】
アルカリ安定性は、定型的な実験操作を用いて及び/又は本明細書に記載されているように、当業者によって容易に測定することができる。
【0042】
本明細書中において使用される「クロマトグラフィー」という用語は、目的の分析物(例えば、免疫グロブリン)を混合物中の他の分子から分離し、分析物の単離を可能とする動的分離技術を表す。典型的には、クロマトグラフィー法において、移動相(液体又は気体)が、固定相(通常、固体)媒体を横切って又は通じて、目的の分析物を含有する試料を輸送する。固定相に対する分配又は親和性の差が異なる分析物を分離するのに対して、移動相は、異なる時間で、異なる分析物を搬出する。
【0043】
本明細書において使用される「アフィニティークロマトグラフィー」という用語は、分離されるべき分析物が、分析物と特異的に相互作用する分子(例えば、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド)とのその相互作用によって単離されるクロマトグラフィーの様式を表す。一実施形態において、アフィニティークロマトグラフィーは、標的分析物(例えば、免疫グロブリン)を含有する試料を、本明細書中に記載されているようにその上にアルカリ安定的クロマトグラフィーを担持する固体支持体へ付加することを含む。
【0044】
本明細書において使用される「プロテインAアフィニティークロマトグラフィー」という用語は、SpA又はプロテインAリガンドが、例えば、固体支持体上に固定化されている、本明細書中に記載されているようなプロテインA又はSpAリガンドを用いた物質の分離又は単離を表す。本分野において公知のプロテインAアフィニティークロマトグラフィー媒体/樹脂の例には、制御化多孔性ガラス骨格上に固定化されたプロテインAを有するもの、例えば、PROSEP ATM及びPROSEP vATM媒体/樹脂(Millipore);ポリスチレン固相上に固定化されたプロテインAを有するもの、例えば、POROS50ATM及びPoros MabCaptureATM媒体/樹脂(Applied Biosystems,Inc.)、並びにアガロース固体支持体上に固定化されたプロテインAを有するもの、例えば、rPROTEIN A SEPHAROSE FASTFLOWTM又はMABSELECTTMカラム(AmershamBiosciences)が含まれる。
【0045】
「免疫グロブリン」、「Ig」又は「抗体」(本明細書において互換的に使用される。)という用語は、2つの重鎖及び2つの軽鎖からなる基本的な4ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質(前記鎖は、例えば、抗原を特異的に結合する能力を有する鎖間ジスルフィド結合によって安定化されている。)を表す。「一本鎖免疫グロブリン」又は「一本鎖抗体」(本明細書において互換的に使用される。)という用語は、1つの重鎖及び1つの軽鎖からなる2ポリペプチド鎖構造を有するタンパク質(前記鎖は、例えば、抗原を特異的に結合する能力を有する鎖間ペプチドリンカーによって安定化されている。)を表す。「ドメイン」という用語は、例えば、β−プリーツシート及び/又は鎖内ジスルフィド結合によって安定化されたペプチドループを含む(例えば、3から4のペプチドループを含む)1つの重鎖及び1つの軽鎖ポリペプチドの球状領域を表す。本明細書において、「定常」ドメインの場合における様々なクラスメンバーのドメイン内での配列変動の相対的欠如又は「可変」ドメインの場合における様々なクラスメンバーのドメイン内での著しい変動に基づいて、ドメインは、さらに、「定常」又は「可変」と称される。本分野において、抗体又はポリペプチド「ドメイン」は、しばしば、抗体又はポリペプチド「領域」と互換的に表記される。抗体軽鎖の「定常」ドメインは、「軽鎖定常領域」、「軽鎖定常ドメイン」、「CL」領域又は「CL」ドメインと互換的に表記される。抗体重鎖の「定常」ドメインは、「重鎖定常領域」、「重鎖定常ドメイン」、「CH」領域又は「CH」ドメインと互換的に表記される。抗体軽鎖の「可変」ドメインは、「軽鎖可変領域」、「軽鎖可変ドメイン」、「VL」領域又は「VL」ドメインと互換的に表記される。抗体重鎖の「可変」ドメインは、「重鎖可変領域」、「重鎖可変ドメイン」、「VH」領域又は「VH」ドメインと互換的に表記される。
【0046】
免疫グロブリン又は抗体はモノクローナル又はポリクローナルであり得、単量体又は多量体の形態(例えば、五量体形態で存在するIgM抗体及び/又は単量体、二量体又は多量体形態で存在するIgA抗体)で存在し得る。「断片」という用語は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖より少ないアミノ酸残基を含む抗体又は抗体鎖の一部又は部分を表す。断片は、無傷の又は完全な抗体又は抗体鎖の化学的又は酵素的処置を介して得ることができる。断片は、組換え手段によって取得することも可能である。典型的な断片には、Fab、Fab’、F(ab’)、Fc及び/又はFv断片が含まれる。
【0047】
「抗原結合タンパク質」という用語は、抗原を結合する又は抗原結合(すなわち、特異的結合)に関して無傷の抗体と(すなわち、抗原結合タンパク質が誘導された無傷の抗体と)競合する、免疫グロブリン又は抗体のポリペプチドの一部を表す。結合断片は、組換えDNA技術によって、又は無傷の免疫グロブリンの酵素的若しくは化学的切断によって作製することができる。結合断片には、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、一本鎖及び一本鎖抗体が含まれる。
【0048】
その一部として、抗体又はその断片を含む融合タンパク質も包含される。
【0049】
本明細書において互換的に使用される「ポリヌクレオチド」及び「核酸分子」という用語は、あらゆる長さのヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドの何れか)のポリマー形態を表す。これらの用語には、一本鎖、二本鎖若しくは三本鎖DNA、ゲノムDNA、cDNA、RNA、DNA−RNAハイブリッド又はプリン及びピリミジン塩基又は他の天然の、化学的に若しくは生化学的に修飾された、非天然の若しくは誘導体化されたヌクレオチド塩基を含むポリマーが含まれる。ポリヌクレオチドの骨格は、(RNA又はDNA中に、典型的に見出され得るような)糖及びホスファート基又は修飾された若しくは置換された糖若しくはホスファート基を含むことができる。さらに、二本鎖ポリヌクレオチドは、相補鎖を合成し、適切な条件下で鎖を徐冷することによって、又は適切なプライマーとともにDNAポリメラーゼを使用して、新規に相補鎖を合成することによって、化学的合成の一本鎖ポリヌクレオチド産物から得ることができる。核酸分子は、多くの異なる形態(例えば、遺伝子又は遺伝子断片、1つ又はそれ以上のエキソン、1つ又はそれ以上のイントロン、mRNA、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐したポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離されたDNA、あらゆる配列の単離されたRNA、核酸プローブ及びプライマー)を採ることができる。ポリヌクレオチドは、メチル化されたヌクレオチド及びヌクレオチド類縁体、ウラシル、フルオロリボース及びチオアートなどの他の糖及び連結基並びにヌクレオチド分岐などの修飾されたヌクレオチドを含み得る。本明細書において使用される「DNA」又は「ヌクレオチド配列」には、塩基A、T、C及びGが含まれるのみならず、メチル化されたヌクレオチド、帯電していない連結及びチオアートなどのヌクレオチド間修飾、糖類縁体の使用並びにポリアミドなどの修飾された及び/又は代替的骨格構造など、これらの塩基の類縁体又は修飾された形態の何れもが含まれる。特定の実施形態において、核酸分子は、SpAの変形物をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0050】
「Fc結合」、「Fc部分へ結合する」又は「Fc部分への結合」という用語は、抗体の結晶化可能部分(Fc)へ結合する、本明細書中に記載されているアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドの能力を表す。幾つかの実施形態において、本発明のリガンドは、少なくとも10−7M又は少なくとも10−8M又は少なくとも10−9Mの親和性で抗体(例えば、ヒトIgG1、IgG2又はIgG4)Fc部分を結合する。
【0051】
本明細書において使用される「Fab結合」又は「Fab部分への結合」は、本明細書中に記載されているアルカリ安定的クロマトグラフィーグランドが抗体又は免疫グロブリン分子のFab領域へ結合する能力を表す。「Fab部分への低下した結合」という用語は、wtSpAと比較した、本発明のSpAを基礎とするリガンド(リガンドは、1つ又はそれ以上のアミノ酸中に変異をさらに含む。)による免疫グロブリン分子のFab(又はF(ab))部分への結合のあらゆる減少を表す。典型的な実施形態において、本発明のリガンドは、アラニンで置換されたグリシン残基を29位にさらに含む。別の実施形態において、本発明のリガンドは、アラニン又はトリプトファン以外のアミノ酸で置換されたグリシンを29位にさらに含む。一実施形態において、免疫グロブリン分子のFab部分への結合は、本分野における旧来の技術及び本明細書中に記載されている技術を用いて検出することができない。免疫グロブリン分子への結合は、本明細書中に記載されている技術など、並びに例えば、アフィニティークロマトグラフィー及び表面プラズモン共鳴分析など(但し、これらに限定されない。)周知の技術を用いて検出することができる。幾つかの実施形態において、本発明によって包含される免疫グロブリン結合タンパク質は、少なくとも10−10Mの親和性で免疫グロブリン分子を結合する。
【0052】
II.クロマトグラフィーリガンドとして使用するためのSpAを基礎とする分子の作製
本発明に包含されるSpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドは、本分野において公知のあらゆる適切な方法を用いて作製することができる。
【0053】
例えば、最初の工程として、本明細書中に記載されているSpAリガンド分子を発現する核酸の作製のために、標準的な遺伝子工学技術、例えば、Sambrook、Fritsch及びManiatisによる「Molecular Cloning」という表題の実験室マニュアルに記載されている技術を使用し得る。
【0054】
幾つかの実施形態において、1つ又はそれ以上のSpAのドメイン又はその一部をコードする核酸分子は、適切な宿主細胞中で発現するために、適切なベクター中にクローニングすることができる。適切な発現ベクターは本分野において周知であり、変形物SpAコード配列の転写及び翻訳のために必要な要素を通例含む。
【0055】
本明細書に記載されているSpA分子は、Boc(tert−ブチルオキシカルボニル)又はFmoc(9−フルオレニルメチルオキシカルボニル)アプローチなどの固相ペプチド合成法(例えば、米国特許第6,060,596号;米国特許第4,879,378号;米国特許第5,198,531号;米国特許第5,240,680号参照)などの本分野において周知の方法を用いて、断片に対するアミノ酸前駆体から化学的に合成することもできる。
【0056】
本明細書中に記載されているSpA分子の発現は、酵母、昆虫若しくは哺乳動物などの真核生物宿主由来の細胞中で、又は原核生物宿主細胞(例えば、イー・コリなどの細菌)中で達成することができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、各ファージがファージ表面上に提示された各SpA分子をコードするDNA配列を含有するように、SpA分子又はその断片及び変形物は、バクテリオファージの表面上に発現され得る。免疫グロブリンに対するSpA分子の親和性は、本分野において標準的な技術及び本明細書中に記載されている技術、例えば、ELISA及びBiacoreTM2000標準セットアップ(BiacoreAB、Uppsala Sweden)を用いて、容易にアッセイすることができる。免疫グロブリンへの本発明のSpA分子の結合親和性は親分子の結合親和性と少なくとも同等であることが望ましい。さらに、SpA分子のアルカリ安定性は、親分子のアルカリ安定性より一般に改善されていることが望ましい。
【0058】
III.SpA分子のアルカリ安定性のアッセイ
本明細書中に記載されているように、適切なSpAリガンド分子の作製及び精製に続いて、分子のアルカリ安定性は、本分野において標準的な技術及び本明細書中に記載されている技術を用いてアッセイすることができる。例えば、本発明のSpA分子のアルカリ安定性は、例えば下記の実験の部に記載されているように、約0.5Mの濃度でのNaOHでの定型的処理を用いてアッセイすることが可能である。
【0059】
幾つかの実施形態において、アルカリ安定的SpA分子は、「増加した」又は「改善された」アルカリ安定性を示し、野生型SpAと比較して、この分子が、長期間にわたって、アルカリ条件下で安定であることを意味する。以前に、SpAの野生型Cドメインを基礎とするSpA分子又は1つ若しくはそれ以上のアスパラギン残基の変異を有するSpA分子は改善された化学的安定性を与え、従って、pHが約10より大きい(最大約13又は14など)環境中で減少した分解速度を与えることが報告されている。
【0060】
本発明は、Cドメイン以外のドメインを基礎としている場合でさえ、又はアスパラギン以外のアミノ酸中に変異を有する場合でさえ、増加したアルカリ安定性を示す新規SpA分子の驚くべき、予想できない発見に基づいている。例えば、本発明は、B又はZドメインを基礎とするアルカリ安定的SpA分子及び位置n+1のアミノ酸(nはアスパラギン(例えば、23位のアスパラギン)を表す。)中に変異を有するSpA分子を提供する。
【0061】
幾つかの実施形態において、本発明のSpAリガンドの作製に続いて、リガンドのアルカリ安定性は、下記の実施例中にさらに詳しく記載されている、新規高情報量免疫学的アッセイを用いて評価される。アッセイは、長期の腐食性曝露に応答したSpAの分解は、IgG結合の喪失又は低下として反映されるという仮定に基づいている。簡潔に述べれば、SpAを基礎とする可溶性リガンドが、水又は1.0MNaOHで約6時間処理される。ELISAプレート(例えば、96ウェルプレート)の形態の固体支持体へ、中和された候補リガンドのμg量を付着させるために、疎水性相互作用が使用される。次いで、1.0MNaOHへの曝露前及び曝露後に、各候補リガンドに対して、IgG結合が評価される。腐食性曝露後における、リガンドへの残存IgG結合の量が、リガンドが誘導された野生型SpA又は親SpAを超える場合に、増強された腐食安定性が示唆される。
【0062】
IV.クロマトグラフィーマトリックスを調製するために使用される支持体
幾つかの実施形態において、例えば、免疫グロブリンなどの生物分子の分離に適したクロマトグラフィーマトリックスを作製するために、本発明によって包含されるアルカリ安定的SpAリガンドは、支持体、例えば、固体支持体又は可溶性支持体に付着される。
【0063】
幾つかの実施形態において、本発明のリガンドは、固体支持体に付着される。理論に拘泥することを望むものではないが、本発明のリガンドの付着のために、あらゆる適切な固体支持体を使用し得ることが想定される。例えば、固体支持体マトリックスには、制御化多孔性ガラス、シリカ、酸化ジルコニウム、アガロース、ポリメタクリラート、ポリアクリラート、ポリアクリルアミド及びポリスチレンが含まれるが、これらに限定されない。
【0064】
0.5MNaOH中での約30時間の浸漬後に、付着されたリガンドのアルカリ安定性の5%未満の変化に寄与するあらゆる多孔性材料を固体支持体として使用し得ることが想定される。
【0065】
固体支持体として使用される多孔性材料は、親水性化合物、疎水性化合物、疎油性化合物、親油性化合物又はこれらのあらゆる化合物から構成され得る。多孔性材料は、ポリマー又はコポリマーから構成され得る。適切な多孔性材料の例には、ポリエーテルスルホン、ポリアミド(例えば、ナイロン)、例えば、アガロース及びセルロースなどの多糖、ポリアクリラート、ポリメタクリラート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエステル、ポリビニリデンフルオリド、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリカーボナート、フッ化炭素(例えば、ポリ(テトラフルオロエチレン−コ−ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)))、ガラス、シリカ、ジルコニア、チタニア、セラミック及び金属が含まれるが、これらに限定されない。
【0066】
多孔性材料は、有機若しくは無機分子又は有機及び無機分子の組み合わせから構成され得、反応させるのに適した、例えば、タンパク質へ共有的に結合させるために、さらなる化学的修飾用の共有結合を形成させるのに適した1つ又はそれ以上の官能基(例えば、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基、カルボニル基又はカルボン酸基)から構成され得る。別の実施形態において、多孔性材料は、官能基を有さなくてもよいが、ヒドロキシル基、チオール基、アミノ基、カルボニル基又はカルボン酸基などの官能基を有する材料の層で被覆することができる。
【0067】
幾つかの実施形態において、例えば、使用されている水性溶媒に親水性表面を曝露する(すなわち、ポリマーの外部表面上に、及び存在する場合には内部表面上に、ヒドロキシ(−OH)、カルボキシ(−COOH)、カルボニル(−CHO又はRCO−R’)、カルボキサミド(−CONH、おそらくN置換された形態)を露出する)、アミノ(−NH2、おそらく置換された形態)、オリゴ又はポリエチレンオキシ基)ポリマーを基礎とする、有機性の旧来のアフィニティー分離マトリックスが使用される。一実施形態において、ポリマーは、例えば、デキストラン、デンプン、セルロース、プルラン、アガロースなどの多糖を基礎とし得、多糖は、例えば、適切な多孔性と剛直性を与えるために、ビスエポキシド、エピハロヒドリン、1,2,3−トリハロ置換された低級炭化水素で有利に架橋されている。別の実施形態において、固体支持体は、多孔性アガロースビーズを含む。本発明において使用される様々な支持体は、例えば、例えば「Hjerten,Biochim Biophys Acta79(2),393−398(1964)」中に記載されている逆懸濁ゲル化など、本分野において公知の標準的な方法に従って容易に調製することができる。あるいは、基礎マトリックスは、SepharoseTMFastFlow(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)などの市販の製品であり得る。大規模な分離に対して特に有利な幾つかの実施形態において、その剛直性を増加させるために支持体は改変され、これにより、マトリックスは高い流速により適するようになる。
【0068】
あるいは、固体支持体は、ポリビニルアルコール、ポリヒドロキシアルキルアクリラート、ポリヒドロキシアルキルメタクリラート、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミドなどの合成ポリマーを基礎とし得る。ジビニル及びモノビニル置換されたベンゼンを基礎とするマトリックスなどの疎水性ポリマーの場合には、周囲の水性液体に対して上で定義されているような親水性基を露出させるために、マトリックスの表面は、しばしば親水性化される。このようなポリマーは、標準的な方法に従って容易に製造することができる。例えば、「Arshady,Chimica e L’Industria70(9),70−75(1988)」を参照されたい。あるいは、SourceTM(GE Healthcare,Uppsala,Sweden)及びPoros(Applied BioSystems,Foster City,CA)などの市販の製品を使用し得る。
【0069】
さらに別の実施形態において、固体支持体は、無機性の支持体(例えば、シリカ、酸化ジルコニウムなど)を含む。無機マトリックスの表面は、SpA及びその変形物へのさらなる反応のために、適切な反応性の基を含むようにしばしば修飾される。例には、CM Zirconia(Ciphergen−BioSepra(CergyPontoise,France)及びCPG(R)(Millipore)が含まれる。
【0070】
幾つかの実施形態において、ポリマーは、例えば、ジルコニア又はシリカ又は制御化多孔性ガラスを基礎とし得、これらは、リガンドへ結合させるために、反応性の基を含有するように、及び/又は腐食性浸漬を維持するように修飾され得る。
【0071】
典型的な固体支持体の形式には、ビーズ、ゲル、膜、カセット、カラム、チップ、スライド、プレート又はモノリスが含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
マトリックスの形式に関して、一実施形態において、多孔性モノリスの形態である。別の実施形態において、マトリックスは、多孔性又は非多孔性であり得るビーズ化された形態又は粒子形態である。ビーズ化された形態又は粒子形態のマトリックスは、充填された床として又は懸濁された形態で使用することができる。懸濁された形態には、粒子又はビーズがその中で自由に移動する伸長された床及び純粋な懸濁液として公知の形態が含まれる。モノリス、充填された床及び伸長された床の場合には、分離操作は、濃度勾配を有する旧来のクロマトグラフィーに一般に従う。純粋な懸濁液の場合には、バッチ式モードが使用される。また、表面、チップ、毛細管又はフィルターなどの形態の固体支持体が使用され得る。
【0073】
マトリックスは、カートリッジ中の膜の形態でもあり得る。膜は、平坦なシート、らせん状又は中空繊維形式であり得る。
【0074】
別の実施形態において、本発明のリガンドは、可溶性支持体、例えば、可溶性ポリマーに付着される。典型的な可溶性支持体には、例えば、タンパク質又は核酸などの生物ポリマーが含まれるが、これに限定されない。幾つかの実施形態において、ビオチンは、例えば、米国特許公開20080108053号に記載されているような可溶性ポリマーとして使用され得る。例えば、ビオチンは、リガンド(例えば、本発明に係るSpAを基礎とする腐食安定性リガンド)に結合され得、リガンドに結合された後に、例えば、未精製混合物中に存在する目的のタンパク質(例えば、抗体又はその断片)を単離するために使用することができ、目的のタンパク質は、可逆的な又は非可逆的な様式の何れかで、ビオチン−リガンド−タンパク質ポリマー複合体の沈殿を介して、単離又は分離することができる。ポリマーは、合成可溶性ポリマー(例えば、負に帯電した基(カルボン酸又はスルホン酸)、正に帯電した基(四級アミン、三級アミン、二級または一級基)、疎水性基(フェニル又はブチル基)、親水性基(ヒドロキシル又はアミノ基)又は上記の組み合わせを含有するポリマーなど(但し、これらに限定されない。)の合成可溶性ポリマーでもあり得る。典型的な合成可溶性ポリマーは、国際特許公開WO2008091740号及び米国特許公開US20080255027号に見出すことができ、これらの各々の教示全体は、参照により、本明細書中に組み込まれる。pH、伝導度又は温度などの1つ又はそれ以上の条件の特異的な物理的変化に際して、可逆性又は非可逆性様式で、沈殿を介して、目的のタンパク質を精製するために、これらのポリマーを使用することができる。合成可溶性ポリマーは、単独で使用し、又は本発明の腐食安定性リガンドと結合することができ、可逆的又は非可逆的な様式での沈殿を介して、目的のタンパク質(例えば、抗体又はその断片など)の捕捉/精製のために使用され得る。
【0075】
V.支持体へリガンドを付着させるための方法
支持体(例えば、本分野において周知のもの及び本明細書に記載されているものを含む固体支持体)へリガンドを付着させるために、あらゆる適切な技術を使用し得る。例えば、幾つかの実施形態において、例えば、リガンド中に存在するアミノ及び/又はカルボキシ基を用いた慣用の結合技術を介して、リガンドを支持体に付着させ得る。例えば、ビスエポキシド、エピクロロヒドリン、CNBr、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などが周知のカップリング試薬である。幾つかの実施形態において、支持体とリガンドの間にスペーサーが導入され、スペーサーはリガンドの利用可能性を向上させ、支持体へのリガンドの化学的結合を促進する。あるいは、リガンドは、物理的吸着又は二重特異的吸着などの非共有結合によって支持体に付着させ得る。
【0076】
本発明によって包含される様々な実施形態において、例えば、2以上の部位に、例えばクロマトグラフィー樹脂などの固体支持体へ、リガンドが付着され、これにより、クロマトグラフィーマトリックスがもたらされる。
【0077】
SpAを基礎とするアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドの固体支持体への付着は、多くの異なる公知の方法(その多くは、本分野において周知である。)及び本明細書中に記載されている公知の方法を介して達成することが可能である。例えば、「Hermanson et al.,Immobilized Affinity Ligand Techniques,Academic Press,pp.51−136(1992)」を参照されたい。
【0078】
例えば、タンパク質リガンドは、固体支持体又はタンパク質リガンドの何れかの表面上の活性基(例えば、ヒドロキシル、チオール、エポキシド、アミノ、カルボニル、エポキシド又はカルボン酸基など)を介して固体支持体に連結させることができる。臭化シアン(CNBr)、N−ヒドロキシルスクシンイミドエステル、エポキシ(ビスオキシラン)活性化及び還元的アミノ化の使用など(但し、これらに限定されない。)、公知の化学を用いて、付着を達成することが可能である。
【0079】
例えば、チオールによって誘導されるタンパク質連結が、文献に記載されている。例えば、「Ljungquist,et al.Eur.J.Biochem.Vol186,pp.558−661(1989)」を参照されたい。この技術は、SpAを固体支持体へ連結するために、以前に適用されてきた。野生型SpAはチオール基を含有していないので、SpAのC末端にチオール含有システインを組換え的に挿入することによって、付着が達成される。例えば、米国特許第6,399,750号を参照されたい。MabSelectTM、MabSelectTMXtra及びMabSelectTMSuReなどの幾つかの市販の製品が、この機序を介して作製される。この末端のシステインは固体表面上のエポキシド基のみと反応することによって、SpAの固体支持体への一点付着をもたらすと報告されている。例えば、「Process Scale Bioseparations for the Biopharmaceutical Industry,CRC Press,2006,page473」を参照されたい。
【0080】
本発明の場合には、ある種の実施形態において、SpAの2つ又はそれ以上のドメインを含むSpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドは、無差別的な多点付着を介して、2以上の部位において固体支持体に付着される。一般に、SpAは、各ドメイン中の多くのリジンに由来する多数の遊離アミノ基を含有する。固体支持体(例えば、エポキシド又はアルデヒド基を有するクロマトグラフィー樹脂)上の2以上の部位へのSpAドメインの付着は、それぞれ、エポキシド開環又は還元的アミノ化を介して、SpA上のリジンのアミノ基を反応させることによって達成され得る。ある種の実施形態において、多点付着は、例えば、セリン及びチロシンなどの遊離のヒドロキシル基を有するSpA上の1つ又はそれ以上の天然に存在するアミノ酸を、開環反応を介して、エポキシド基を含有する支持体と反応させることによって達成することができる。あるいは、多点付着は、例えば、アスパラギン酸及びグルタミン酸などの遊離のカルボン酸基を有するSpA上の天然に存在するアミノ酸を、例えば、N,N’−カルボニルジイミダゾールを介して、アミノ基を含有する支持体と反応させることによって達成することができる。支持体へのリガンドの多点付着は、上記機序の全ての組み合わせによっても達成することができる。
【0081】
B及びZドメインの多量体を用いて腐食安定性を達成するために、本発明は、一点付着をもたらす単一のシステイン変異を除外する。
【0082】
SpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドは、会合的な機序を介して、固体支持体へ付着させることもできる。例えば、会合性の基は、イオン性、疎水性相互作用又は相互作用の組み合わせを介して、非共有的に、目的のリガンドと相互作用することにより、目的のリガンドを固体表面上に付着させ得る。例えば、米国特許公開20070207500A1中に記載されているように、これは、固体マトリックスへのリガンドの高効率連結を促進することにより、会合性の基を持たないものより高いリガンド密度をもたらす。本発明における使用に適した会合性の基には、イオン性の種などの帯電した種及び疎水性の種などの帯電していない種が含まれる。会合性の基は、例えば、固体支持体と直接共有結合することによって、固体支持体を修飾させ得る。イオン性の種の適切な例には、四級アミン、三級アミン、二級アミン、一級アミン、スルホン基、カルボン酸又はこれらのあらゆる組み合わせが含まれ得る。疎水性の種の適切な例には、フェニル基、ブチル基、プロピル基又はこれらのあらゆる組み合わせが含まれ得る。混合モードの種が使用され得ることも想定される。会合性の基は、タンパク質リガンドとも相互作用し得る。従って、会合性の基とタンパク質リガンドの間の相互作用は、相互作用の混合(例えば、イオン性の種と疎水性の種)から構成され得る。
【0083】
会合性の基は、固体支持体上の官能基を会合性の基上の官能基と反応させることによって、固相支持体へ共有結合させ得る。適切な官能基には、アミン、ヒドロキシル、スルフヒドリル、カルボキシル、イミン、アルデヒド、ケトン、アルケン、アルキン、アゾ、ニトリル、エポキシド、シアン及び活性化されたカルボン酸基が含まれるが、これらに限定されない。一例として、アガロースビーズは、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリドなどの正に帯電された会合性の基のエポキシド官能性と反応し得るヒドロキシル基を含有する。当業者は、少なくとも1つの二官能性の会合性の基が使用されれば、複数の会合性の基を固体支持体へ連結し得ることを理解する。従って、会合性の基は、固体支持体へ直列に連結することができ、又は固体支持体へ個別に直接連結することができる。
【0084】
幾つかの実施形態において、本発明は、介在するリンカーを介して固体支持体へ連結され得る会合性の基及び/又はタンパク質リガンドを提供する。リンカーは、連結部分に連結された少なくとも1つの官能基を含み得る。連結部分は、官能基に結合され得るあらゆる分子を含み得る。例えば、連結部分は、アルキル、アルケニル又はアルキニル基の何れをも含み得る。連結部分は、1から30個の範囲の炭素原子の炭素鎖を含み得る。幾つかの実施形態において、リンカーは、30を超える炭素原子から構成され得る。連結部分は、窒素、酸素及び硫黄などの少なくとも1つのヘテロ原子を含み得る。連結部分は、分岐鎖、非分岐鎖又は環状鎖から構成され得る。連結部分は、2つ又はそれ以上の官能基で置換され得る。
【0085】
固体支持体へタンパク質リガンドを連結させるための適切な緩衝液条件を選択することは、当業者の能力の範囲に十分含まれる。適切な緩衝液には、カルボナート、バイカルボナート、ホスファート及びアセタート緩衝液などのあらゆるアミン非含有緩衝液が含まれる。会合性化学が使用される場合、緩衝液の塩濃度は、使用される会合性の基に依存する。例えば、塩濃度は、5nMから100mMの範囲であり得る。帯電された種が使用される場合、塩濃度は、少なくとも5nM、但し、0.1M未満、少なくとも5nM、但し、0.01M未満、少なくとも5nM、但し、0.001M未満であり得る。ある種の実施形態において、塩濃度は、0.01Mであり得る。疎水性の種が使用される場合には、高い塩濃度が通常望ましい。従って、塩濃度は、0.001M超、0.01M超、又は0.1M超であり得る。
【0086】
幾つかの実施形態において、会合性の化学が使用される場合に、反応は、0℃から99℃の範囲の温度で実施される。ある種の実施形態において、反応法は、60℃未満、40℃未満、20℃未満又は10℃未満の温度で実施される。幾つかの実施形態において、本発明の方法は、約4℃の温度で実施される。他の実施形態において、本発明の方法は、20℃の温度で実施される。
【0087】
VI.付着されたリガンドのアルカリ安定性をアッセイする方法
支持体への付着後におけるリガンドの増加したアルカリ安定性は、本分野において周知の技術及び本明細書中に記載されている技術によってアッセイすることができる。例えば、幾つかの実施形態において、本明細書中に記載されているような、樹脂に付着されたSpAドメイン(例えば、クロマトグラフィー樹脂に付着されたSpAのB及びZドメイン)の多量体のアルカリ安定性は、樹脂を0.5MNaOHで処理することによって確認することができる。増加した安定性とは、野生型SpA分子によって達成可能なものより、より長期間、初期のIgG結合能が保持されることを意味することを理解すべきである。例えば、本発明の場合には、0.5NNaOHでの15分の処理を各々含む100サイクル後に、SpAリガンド(例えば、複数のB又はZドメインを含むもの)の保持された能力のパーセントは、野生型SpAのものより少なくとも1.5倍超、2.0倍超、2.5倍超又は3倍超である。一実施形態において、経時的なIgG結合能の保持によってアッセイされる結合されたリガンドのアルカリ安定性は、以下のように測定される。当初のIgG濃度の50%のUV280nmになるように搭載されたIgGの容量を取得することによって、Qd50%と表される結合能が測定される。まず、カラム中に充填された当初の未使用樹脂のQd50%を測定する。次いで、0.8mL/分で、0.5NNaOHの15分の曝露の約10サイクルへ樹脂が曝露する。Qd50%を再度測定する。0.5NNaOHの合計約100サイクルに樹脂が曝露されるまで、この過程を反復する。最後に一回、Qd50%を測定し、異なるリガンドから作製された樹脂から得られた結果を野生型SpAと比較する。
【0088】
別のアッセイにおいて、樹脂の腐食安定性又はアルカリ安定性は、目的の樹脂の静的浸漬によって測定される。穏やかに回転しながら25時間、0.5NNaOH中に、樹脂の測定された量を浸漬し、NaOH浸漬前及び浸漬後のIgG結合能を測定することによって、樹脂の結合能の保持によってアルカリ安定性を測定することができる。
【0089】
VII.本発明のクロマトグラフィーリガンドを用いて、標的分子を精製する方法
幾つかの実施形態において、本発明は、本明細書中に記載されているアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドを用いて、標的分子を混合物から精製する方法を提供する。標的分子は、本明細書中に提供されるアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドによって認識されるあらゆる分子であり得、リガンドは固体支持体へ連結される。標的分子の例には、免疫グロブリンが含まれる。免疫グロブリンは、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体又はこれらの機能的断片であり得る。機能的断片には、固体支持体に結合されたタンパク質リガンドへ特異的に結合する能力を同時に保持しながら、その抗原へ特異的になお結合する可変領域を含む免疫グロブリンのあらゆる断片が含まれる。
【0090】
幾つかの実施形態において、本明細書中に記載されているアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドを用いて目的の標的分子を単離する方法は、(a)標的分子がリガンドへ特異的に結合するような条件下で、SpAを基礎とする付着されたアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンドを含む固体支持体を、目的の分子を含む混合物と接触させる工程、及び(b)標的分子がリガンドへもはや結合されないように条件を変化させることによって、標的分子を単離する工程を含む。
【0091】
幾つかの実施形態において、変化させる工程は、標的分子がもはやリガンドへ結合されないように、pHを変化させることを含む。特定の実施形態において、工程(a)中のpH条件より酸性であるような様式で、pHが変化される。例えば、一実施形態において、中性pH、すなわち、約6から約8の範囲のpHで、工程(a)が実施され得、酸性pH、例えば、約1から約5の範囲のpHで、工程(b)が実施され得る。
【0092】
別の実施形態において、工程(b)は、標的分子がもはやリガンドへ結合されないように、使用されている緩衝液の塩濃度を変化させることを含む。例えば、一実施形態において、高い塩濃度(例えば、>0.1M)が工程(a)において使用され得、より低い塩濃度(例えば、<0.1M)が工程(b)において使用され得る。逆に、幾つかの実施形態において、低い塩濃度(例えば、<0.1M)が工程(a)において使用され得、高い塩濃度が工程(b)において使用され得る。さらに別の実施形態において、緩衝液のpH及び塩濃度の両方が、工程(a)と工程(b)の間で変化され得る。
【0093】
当業者は、標的分子をリガンドへ結合させるのに適した条件を容易に決定することが可能であり、これにより、リガンドへの分子の結合を破壊させるために条件を変化させることができる。
【0094】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、以下の実施例は限定的なものと解釈すべきでない。本願を通じて引用されている全ての参考文献、特許及び公開された特許出願の内容並びに図面は、参照により、本明細書に組み込まれる。
【0095】
実施例
【実施例1】
【0096】
n+1変異(nは、アスパラギンを表す。)を有するSpABドメイン変形物の作製
典型的な実験では、プロテインAの「Bドメイン」をコードする合成遺伝子をDNA2.0(Menlo Park,CA)から入手する。遺伝子の5’末端は、開始メチオニンに対するコドンを含み、遺伝子の3’末端に6つのヒスチジンコドンを含む。DNA2.0由来のベクターpJ56;8620中に遺伝子を与える。親ベクターpJ56は、アンピシリン、カナマイシン、クロラムフェニコール及びゲンタマイシンに対する耐性を付与する。発現ベクター中へ遺伝子をその後クローニングするための適切な制限酵素部位を、遺伝子の5’及び3’末端の両方に導入する。ベクターのプラスミド地図が、図5に示されている。
【0097】
続いて、Phusion High−FidelityDNAポリメラーゼ(New England Biolabs,Ipswich,MA)を使用するPCRを基礎とした方法により、システイン(C)、セリン(S)、アラニン(A)、グリシン(g)、アスパラギン(N)及びグルタミン(Q)を除く、天然に存在する他の全てのアミノ酸へ、24位のグルタミン酸を変異させるために、飽和突然変異導入を使用する。プライマーは、TrisEDTA緩衝液中の100μM溶液として、IDTDNA(Coralville,IA)から購入する。突然変異導入プライマーは、配列CTGCCGAACCTGAACNNSGAACAACGCAACGG(配列番号41)(NNSは、24位のアミノ酸をコードする3つの塩基を表す。)を有する。dNTP(各0.2mM)、各プライマー125ng、テンプレートプラスミド50ng及びPhusion酵素1Uを含有する反応50μL中でPCRを行う。PCRは、表IIIに概要が記載されているスキームに従って実施される。
【0098】
【表4】

【0099】
野生型のバックグラウンドを低下させるために、制限酵素DpnI(New England Biolabs,Ipswich,MA)でPCR反応を処理する。各PCR反応50μLに、DpnI酵素約1μLを添加し、37℃で約1時間、試料を温置する。
【0100】
DpnI処理されたPCR反応物2μLで、イー・コリNEB5α形質転換受容性細胞(New England Biolabs,Ipswich,MA)を形質転換する。氷上で細胞を溶かし、細胞25μLに、PCR反応2μLを添加する。氷上で約30分間温置した後、約42℃で30秒間、細胞に熱ショックを与える。氷上で約5分間、細胞を回復させ、次いで、SOC溶媒(New England Biolabs)125μLを添加する。37℃で約1時間、細胞を温置し、次いで、100μg/mLのアンピシリンを含有するLBプレート(Northeast Laboratory Services,Winslow,ME)上に100μLを播種し、約37℃で一晩増殖させる。SDSPAGEを用いて、全細胞可溶化液中でのタンパク質の発現を検査することによって、陽性クローンを同定する。精製されたDNAを得るために、100μg/mLアンピシリンを含有するLB中で一晩培養するために、各コロニーを摘み出す。Qiagen(Valencia,CA)のスピンミニプレップキットを用いて、DNAを精製する。
【0101】
各クローンの正体を確認するために、ミニプレップ調製されたDNAの配列を決定する(MWG Biotech,Huntsville AL)。上記イー・コリNEB5α形質転換受容性細胞を形質転換するために、得られたプラスミドを使用する。
【0102】
陽性クローンの同定後、100μg/mLアンピシリンを加えたTerrificBroth中で、一晩培養物35mLを増殖させ、13,500gでの10分間の遠心によって、細胞を沈降させる。PBS(リン酸緩衝化生理的食塩水)中の20mMイミダゾール10mL中に沈降物を再懸濁し、音波処理によって溶解し、不溶性の破砕物を沈降させるために、13,500gで30分間遠心する。続いて、PBS中の20mMイミダゾールの10カラム容量で予め平衡化されたNi−NTA樹脂750μLに、可溶化液をかける。PBS中の20mMイミダゾールの20カラム容積での洗浄後、PBS中の200mMイミダゾールを用いて、樹脂から試料を溶出する。Pierce Slide−A−Lyzer3.5MWCO透析カセットを用いて、精製されたタンパク質をPBSに対して一晩透析する。透析後、Pierce MicroBCAアッセイを用いて、全タンパク質の定量を行い、試料を−30℃で保存する。
【0103】
ヒスチジン付加された野生型Bドメイン及び様々なn+1変異体に対するアミノ酸及び核酸配列が、図6及び7に図示されている。
【実施例2】
【0104】
アルカリ安定性に関して、発現されたタンパク質をアッセイする
実施例1に記載されている、アフィニティー精製された野生型及び変異体のSpAヒスチジンタグ付加された構築物を、1Nの最終濃度になるように、MilliQ水又はNaOHで希釈し、室温で6時間温置する。各試料50μLをPBS中に中和し、緩衝液交換するために、Biorad Micro Biospin6ゲルろ過カラムを使用する。PierceMicroBCAアッセイを用いて、全タンパク質の定量を達成し、ELISAプレート上へ搭載するために、10μg/mLになるように、試料をPBS中に希釈する。処理されたPrAの約200μL(2μg)を、37℃で2から24時間、ELISAプレートのウェルへ吸着させる。室温で約2時間、PBS中のPierce Superbock Blocking Buffer(Superblock−PBS)中でプレートのブロッキングを行う。Superblock−PBS(10μg)中に、0.05mg/mLになるように希釈されたSigmaのヒトγグロブリン約200μLをプレートの各ウェルへ添加し、室温で約1時間、結合を進行させる。約0.05%Tween20を含有するPBS(PBS−T)で3回洗浄した後、ヒトIgGに対して産生されたニワトリIgY−HRP連結物の1:10,000希釈物200μLとともに、室温で約1時間、プレートを温置する。PBS−Tでの最後の3回の洗浄後、室温で30分間、Pierce1−Step Slow TMB ELISA100μLを用いてプレートを展開する。1NHCl100μLの添加により、反応を停止させ、450nmで読み取られた吸光度として、一次IgG結合を定量する。全ての試料は3つ組みでアッセイされ、データは、腐食性処理前と処理後における一次IgG結合の変化として分析する。
【0105】
様々なn+1Bドメイン変異体のアルカリ安定性をアッセイする典型的な実験の結果は、図8の棒グラフ中に要約されている。様々な構築物がX軸上に図示されており、1MNaOHへの6時間後の曝露後に残存するIgG結合の対応するパーセントがY軸上にプロットされている。図8中の棒グラフに図示されているように、Bドメインの24位に嵩が大きなアミノ酸を有するn+1変異体の幾つかは、増強された腐食安定性を示す。
【0106】
別の実験では、SpAの2つ若しくはそれ以上のBドメイン又は2つ若しくはそれ以上のZドメインを有するSpAリガンドが、上記アッセイを用いて、アルカリ安定性に関してアッセイされている。さらに別の実験では、3つのBドメイン(B3)、4つのBドメイン(B4)、5つのBドメイン(B5)、6つのBドメイン(B6)又は7つのBドメイン(B7)を有するSpAリガンドが、上記アッセイを用いて、アルカリ安定性に関してアッセイされている。
【0107】
典型的な実験において、本明細書に記載されているELISAを基礎とする方法を用いてアッセイされた、リガンドB3、B4及びB5の残存するIgG結合能のパーセントは以下のとおりである。B3リガンドは、1MNaOHへの6時間の曝露後に、その残存IgG結合能の約79%を保持し、B4リガンドは、1MNaOHへの6時間の曝露後に、その残存IgG結合能の約86%を保持し、B5リガンドは、1MNaOHへの6時間の曝露後に、その残存IgG結合能の約83%を保持する。wtSpAリガンド(nPrA)は、1MNaOHへの6時間の曝露後に、その残存IgG結合能の約49%を保持するに過ぎない。
【実施例3】
【0108】
固体支持体への野生型SpA及びSpA変形物の付着
様々なSpA変形物の作製並びに本分野において公知の及び実施例2に記載されている1つ又はそれ以上のアッセイを用いた、腐食安定的であるSpA変形物の同定に続いて、SpA変形物を支持体(例えば、固体支持体)へ付着させる。典型的な実験では、以前に記載された方法(Porath and Fornstedt,J.Chromatography,51:479(1979))に従い、エピクロロヒドリンを用いて、アガロースビーズ(Sepharose4B)(GE Healthcare,PiscatawayNJ)を架橋する。以下の方法に従って、正に帯電した会合性の基(例えば、陽イオン)とアガロースビーズを反応させる。75重量%グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMAC)40g、Milli−Q(R)水10mL(MilliporeCorp.,Billerica,MA)及び50重量%水酸化ナトリウム1.67gに、ビーズ50mLを添加する。室温で一晩、回転式振盪機上で反応を激しく(>100rpm)振盪させる。次いで、ビーズをろ過し、Milli−Q(R)水(MilliporeCorp.,Billerica,MA)の100mL容量で3回洗浄する。
【0109】
4.6MNaOH15mLを含有するジャーに、ビーズ(50mL、ろ過されたケーキ)を添加する。混合物をスラリー状にし、次いで、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BUDGE)19.5mLを添加する。35℃で約2時間、この混合物を振盪させる。次いで、Milli−Q(R)水750mL(MilliporeCorp.,Billerica,MA)で、ビーズを洗浄し、10mMNaHCOの250mLで平衡化する。
【0110】
BUDGE活性化工程の直後に、ろ過されたビーズケーキ10mLを、野生型SpA又は本発明のSpAリガンドの15g/L濃度を含有する10mMNaHCOの溶液10mLに添加する。ガラスバイアル中で混合物に蓋をし、37℃で約2時間、混合機中でバイアルを回転させる。2時間後、Milli−Q(R)水30mLMilliporeCorp.,Billerica,MA)でビーズを洗浄する。チオグリセロール1mL並びに0.2MNaHCO及び0.5MNaClを加えた緩衝溶液9mLから構成される溶液10mLを含有するジャーに、ろ過されたビーズケーキ(10mL)を添加する。混合物をスラリー状にし、室温で一晩回転させる。次いで、以下の緩衝液30mLで、ビーズを洗浄する。0.1MTris緩衝液(pH8)、0.15MNaClを加えた0.1MTris緩衝液(pH8)、50mM酢酸(pH4.5)、0.002%アジ化ナトリウムを加えたPBS(pH7.4)。
【0111】
異なるSpA変形物が結合された樹脂試料を、以下のように表記する。野生型SpAに対してnPrA、3つのZドメインを含有するSpAリガンドに対してZ3、3つのEドメインを含有するSpAリガンドに対してE3、3つのDドメインを含有するSpAリガンドに対してD3、3つのAドメインを含有するSpAリガンドに対してA3、3つのCドメインを含有するSpAリガンドに対してC3、3つのBドメインを含有するSpAリガンドに対してB3、4つのBドメインを含有するSpAリガンドに対してB4、5つのBドメインを含有するSpAリガンドに対してB5、それぞれ、5及び7つのBドメインを含有し、並びに29位にG29A変異をさらに含有するB5NF及びB7NF。樹脂への付着後、様々なSpA変形物をアルカリ安定性に関してアッセイする。
【実施例4】
【0112】
腐食サイクル前及び後における樹脂IgG結合能(Qd50%)試験
典型的な実験において、支持体への付着後、IgG結合能力に関して、本発明の様々なSpA構築物をアッセイする。1つの典型的な実験において、市販のポリクローナルIgGを使用して樹脂/媒体動的能力を検査するための標準的な方法が使用される。要約すれば、本発明のSpAリガンドが結合された樹脂を、PBS、pH7.4中のOmnifitカラム(6.6mm×70mm)中に充填し、流速を300cm/時間に設定する。10カラム容積(CV)に対するPBSで、充填されたカラムを平衡化する。UV280nmが最初のIgG濃度の50%超に達するまで、ポリクローナルIgG(Sigma−Aldrich、PBS中の2mg/mL、pH7.4)をカラム上に搭載する。平衡化緩衝液での洗浄後、0.1Mクエン酸、p3.0でIgGを溶出する。各実行後、6M塩酸グアニジニンを用いて、媒体を消毒する。UV280nmが最初のIgG濃度の50%に達した時点で搭載されたIgGの量に基づいて、Qd50%を計算する。
【0113】
当初の動的能力測定後、15分、0.5NNaOH(流速100cm/時間)の10サイクルに媒体を曝露した後、さらにIgG動的能力を測定する。続いて、15分、0.5NNaOH曝露のさらに10サイクルと媒体を接触させた後、さらに動的結合能測定を行った。15分、0.5NNaOHの100サイクルに各サイクルを曝露した後に、動的能力の測定を実施する。
【0114】
図9に結果が図示されている典型的な実験において、天然のBドメインリンカーを含有するE、D、A、B、C及びZドメインの三量体をアガロース樹脂に付着させ、腐食的曝露の100サイクル(各サイクルは、0.5NなNaOHへの15分の曝露を含む。)にわたる動的結合能によって、これらの腐食安定性を測定する。図9中のグラフに要約されているように、サイクルの数をX軸上にプロットし、IgG結合能をY軸上にプロットする。C及びZドメイン三量体は、腐食安定性の概ね同じレベルを示す。Bドメイン三量体は、Aドメイン三量体より腐食安定的であり、Aドメイン三量体は、E及びドメイン三量体より腐食安定的である。従って、腐食安定性の順序は、以下のよう要約することができる。C及びZ>B>A>E及びD。
【0115】
別の典型的な実験において、腐食的曝露の100サイクル(各サイクルは、0.5NNaOHへの15分の曝露を含む。)にわたってIgG動的結合能をアッセイするために、上記アッセイを用いて、Bドメイン変形物:BBB(B3)、BBBB(B4)、BBBBB(B5)、BBBBB−NF(B5−NF)及びBBBBBBB−NF(B7−NF)が結合されたアガロース樹脂を野生型SpA(nPrA)と比較する。図10のグラフに要約されているように、腐食安定性の程度は、ドメインの数に正比例し、さらに、Fab結合を低下させるためのG29A変異は腐食安定性に影響を及ぼさない。
【0116】
本明細書は、参照により本明細書中に組み込まれる、本明細書中に引用されている参考文献の教示に照らして最も完全に理解される。本明細書中の実施形態は、本発明における実施形態の例示を与えるものであり、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。多くの他の実施形態が本発明によって包含されることが、当業者に容易に認識される。全ての公報及び発明の全体が、参照により組み込まれる。参照によって組み込まれた資料が本明細書と矛盾し又は不一致である程度まで、本明細書はかかる一切の資料に優先する。本明細書中でのあらゆる参考文献の引用は、かかる参考文献が本発明に対して従来技術であることを認めたものではない。
【0117】
別段の記載がなければ、特許請求の範囲を含む本明細書中において使用される、成分の量、細胞培養、処理条件などを表す全ての数字は、全ての事例で、「約」という用語によって修飾されているものと理解すべきである。従って、別段の記載がなければ、数的パラメータは近似であり、本発明によって得られることが求められる所望の特性に応じて変動し得る。別段の記載がなければ、要素の系列に先行する「少なくとも」という用語は、その系列中のあらゆる要素を表すものと理解される。当業者は、本明細書中に記載されている本発明の具体的実施形態に対する多くの均等物を認識し、定型的な実験操作のみを用いて多くの均等物を確認することができる。このような均等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるものとする。
【0118】
当業者に自明であるように、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明の多くの修飾及び変形を施すことが可能である。本明細書に記載されている具体的な実施形態は例として与えられているものに過ぎず、いかなる意味においても、限定を意味するものではない。本明細書及び実施例は例示に過ぎないと考えられることが意図され、本発明の真の範囲及び精神は、以下の特許請求の範囲によって示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ球菌プロテインA(SpA)の2つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは2つ若しくはそれ以上のZドメイン又はこれらの機能的断片若しくは変形物を含むアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項2】
2つ若しくはそれ以上のBドメイン又は2つ若しくはそれ以上のZドメインが樹脂上の2以上の部位においてクロマトグラフィー樹脂に付着されている、ブドウ球菌プロテインA(SpA)の2つ若しくはそれ以上のBドメイン若しくは2つ若しくはそれ以上のZドメイン又はその機能的断片若しくは変形物を含むアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項3】
リガンドがSpAの3つ若しくはそれ以上のBドメイン又は3つ若しくはそれ以上のZドメインを含む、請求項1又は請求項2アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項4】
リガンドがSpAの4つ若しくはそれ以上のBドメイン又は4つ若しくはそれ以上のZドメインを含む、請求項1又は請求項2アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項5】
リガンドがSpAの5つ若しくはそれ以上のBドメイン又は5つ若しくはそれ以上のZドメインを含む、請求項1又は請求項2アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項6】
リガンドがSpAの6つ若しくはそれ以上のBドメイン又は6つ若しくはそれ以上のZドメインを含む、請求項1又は請求項2アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項7】
リガンドがSpAの7つ若しくはそれ以上のBドメイン又は7つ若しくはそれ以上のZドメインを含む、請求項1又は請求項2アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項8】
Fab結合を変化させるための少なくとも1つのアミノ酸変異をさらに含む、請求項1から7の何れかアルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項9】
変異が29位のグリシンのアラニンでの置換を含む、請求項8アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項10】
請求項1から9の何れか一項リガンドを含むクロマトグラフィーマトリックス。
【請求項11】
(a)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを含む試料を準備する工程;
(b)1つ又はそれ以上の免疫グロブリンがマトリックスへ結合するような条件下で、請求項10マトリックスと前記試料を接触させる工程;及び
(c)適切な条件下で溶出することによって、1つ又はそれ以上の結合された免疫グロブリンを回収する工程;
を含む、1つ又はそれ以上の免疫グロブリンを試料からアフィニティー精製する方法。
【請求項12】
リガンドが、0.5MNaOH中での5時間又は10時間又は15時間又は20時間の温置後に、その結合能の少なくとも95%を保持する、請求項1から9の何れか一項リガンド。
【請求項13】
リガンドが、wtSpAと比べて、少なくとも1.5倍又は2倍又は3倍又はそれ以上のIgGを結合することができる、請求項1から9の何れか一項リガンド。
【請求項14】
1つ又はそれ以上の単離されたブドウ球菌プロテインAのE、D、A、B、C又はZドメインを含み、1つ又はそれ以上の単離されたドメインがシステイン(C)、セリン(S)、アラニン(A)、グリシン(G)、アスパラギン(N)又はグルタミン(Q)以外の天然に存在するあらゆるアミノ酸へ変異された1つ又はそれ以上のアミノ酸残基を位置n+1(nは、アスパラギンを表す。)に含む、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項15】
1つ又はそれ以上の単離されたブドウ球菌プロテインAのE、D、A、B、C又はZドメインを含み、1つ又はそれ以上の単離されたドメインがアルギニン(R)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リジン(K)、メチオニン(M)、フェニルアラニン(F)、プロリン(P)、スレオニン(T)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)及びバリン(V)(nは、アスパラギンを表す。)からなる群から選択されたアミノ酸に変異された1つ又はそれ以上のアミノ酸残基をn+1位に含む、アルカリ安定的クロマトグラフィーリガンド。
【請求項16】
nが23位のアスパラギンである、請求項14又は15リガンド。
【請求項17】
多点付着を介して、固体支持体に付着されたSpAの3つ若しくはそれ以上又は4つ若しくはそれ以上又は5つ若しくはそれ以上又は6つ若しくはそれ以上又は7つ若しくはそれ以上のSpAのB又はZドメインを含む腐食安定的アフィニティークロマトグラフィーマトリックス。
【請求項18】
(a)SpAを基礎とするリガンドを腐食物で処理する工程;
(b)腐食処理されたSpAリガンドを多ウェルプレートへ添加する工程;
(c)第一の免疫グロブリンがリガンドへ結合するように、SpAを基礎とするリガンドを第一の免疫グロブリンの飽和量と接触させる工程;
(d)第一の免疫グロブリンを結合することができる分子と、結合された第一の免疫グロブリンを接触させる工程(前記分子には、検出可能な因子が連結されている。);及び
(e)前記因子からのシグナルの量を検出する工程(シグナルの量はリガンドの腐食安定性に比例し、これにより、SpAを基礎とするリガンドを腐食安定的であると同定する。);
を含む、腐食安定的であるSpAを基礎とするクロマトグラフィーリガンドを同定するための方法。
【請求項19】
分子が第二の免疫グロブリンである、請求項18方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−229212(P2012−229212A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−116704(P2012−116704)
【出願日】平成24年5月22日(2012.5.22)
【分割の表示】特願2009−286006(P2009−286006)の分割
【原出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(504115013)イー・エム・デイー・ミリポア・コーポレイシヨン (33)
【Fターム(参考)】