説明

腐食推定装置及び腐食推定方法

【課題】地下タンク及び地下配管における腐食の有無を高精度に推定する。
【解決手段】地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定装置であって、地下に埋設された鋼製の地下タンクと、前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極と、前記地下タンク及び前記地下配管と、前記接地電極との間の電気化学インピーダンスを測定する測定手段と、前記測定手段により得られる測定結果に基づいて、前記地下タンク又は前記地下配管の腐食の有無を推定するための制御手段を有することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腐食推定装置及び腐食推定方法に係り、特に地下タンク及び地下配管における腐食の有無を高精度に推定するための腐食推定装置及び腐食推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガソリン、灯油、軽油、重油等の燃料油等の貯蔵物を貯蔵するタンクや、タンク内に貯蔵物を導入したり、タンク内の貯蔵物を排出したり、タンク内を大気圧に保つように大気と内部とを連通するためにタンクに接続された配管は、主に給液所、燃料基地、重油・軽油ボイラーを有する工場、事業所、ビル等に設置されている。また、土壌等に埋設される地下タンクや地下配管の外側は、土壌等による腐食を防止するためにアスファルトやタールエポキシ、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等で覆われている。更に、地下タンクや地下配管の内側は、貯蔵物等により通常のタンク材質である鉄鋼板を腐食することはないため、特段に防食措置を施さずに、鉄鋼板が裸の状態となっている。
【0003】
さて、従来では、上述した地下タンクの腐食劣化診断手法が米国等で開発されている(例えば、非特許文献1参照。)。この手法は、地下タンクデータ(容量、埋設後の経過年数等)、設備の腐食環境データ(迷走流電流、土壌比抵抗、対地電位等)、土壌の化学的性質データ(塩化物濃度、硫化物濃度、pH等)と地下タンクの腐食進行量を多数測定し、各データと地下タンクの腐食進行量との関係を統計的に解析し、地下タンクの土壌の化学的性質データの予測プログラムを開発する手法である。この方法で開発された予測プログラムにより診断対象地下タンクの地下タンクデータ、設備の腐食環境データ、土壌の化学的性質データを採取し予測プログラムにあてはめると、当該地下タンクの腐食劣化量が予測できるという手法である。
【非特許文献1】ASTM規格G158−98、メソッドA
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した手法の問題点は、次の通りである。即ち、採取する現場のデータ設備は腐食環境データ、土壌の化学的性質データであるが、これは地下タンクが埋設されている環境に腐食性があるかどうかのデータである。しかしながら、仮に埋設されている環境に腐食性が有ったとしても、地下タンクの塗覆装が健全であれば、地下タンクに腐食は発生することはない。即ち、腐食環境データ、土壌の化学的性質データのみからは診断対象地下タンクに腐食が発生するか否かは判断できない。したがって、腐食環境データ、土壌の化学的性質データのみに基づく診断手法では予測の確度は低いと考えられる。
【0005】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、地下タンク及び地下配管における腐食の有無を高精度に推定するための腐食推定装置及び腐食推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本件発明は、以下の特徴を有する課題を解決するための手段を採用している。
【0007】
請求項1に記載された発明は、地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定装置であって、地下に埋設された鋼製の地下タンクと、前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極と、前記地下タンク及び前記地下配管と、前記接地電極との間の電気化学インピーダンスを測定する測定手段と、前記測定手段により得られる測定結果に基づいて、前記地下タンク又は前記地下配管の腐食の有無を推定するための制御手段を有することを特徴とする。
【0008】
請求項1記載の発明によれば、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。また、電気化学インピーダンス形状の変化のみを判断材料とするため、ユーザにインピーダンス解析の専門的な知識が無くても腐食の推定を行うことができる。
【0009】
請求項2に記載された発明は、地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定装置であって、地下に埋設された鋼製の地下タンクと、前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極と、前記地下タンクあるいは前記地下配管に対して選択的に交流電流を印加する交流印加手段と、前記地下配管の近傍に埋設された電流検出センサーと、前記交流電流の印加により得られる前記電流検出センサーの起電力に基づいて、前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定するための制御手段とを有することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の発明によれば、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0011】
請求項3に記載された発明は、前記交流印加手段において、前記地下タンクから前記地下配管の順序、あるいは前記地下配管から前記地下タンクの順序で、選択的に交流電流を印加するための切換手段を有することを特徴とする。
【0012】
請求項3記載の発明によれば、地下タンクから地下配管の順序、あるいは地下配管から地下タンクの順序で選択的に交流電流を印加することで、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0013】
請求項4に記載された発明は、前記電流検出センサーをコイルとコンデンサとからなる同調回路により構成したことを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、腐食したことにより生じるコイルの逆起電力により、電磁誘導の起電力を検出することで、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0015】
請求項5に記載された発明は、前記電流検出センサーをコイルと可変コンデンサとからなる同調回路により構成したことを特徴とする。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、可変コンデンサを用いることで、所望の周波数域でピークを得るように設定することができる。
【0017】
請求項6に記載された発明は、前記電流検出センサーをコイルにより構成したことを特徴とする。
【0018】
請求項6記載の発明によれば、地下タンク又は地下配管のどちらに電流がより多く流れているかを簡易に把握することができる。
【0019】
請求項7に記載された発明は、前記制御手段は、周波数を変化させて印加される前記交流電流と、前記起電力とにより得られる周波数依存特性におけるピークの発生の有無により前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定することを特徴とする。
【0020】
請求項7記載の発明によれば、周波数依存特性におけるピークの発生の有無により、容易に地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定することができる。したがって、ユーザに専門的な知識が無くても腐食の推定を行うことができる。
【0021】
請求項8に記載された発明は、地下に埋設された鋼製の地下タンクと、前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極とにより、前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定方法であって、前記地下タンク及び前記地下配管と、接地電極との間のインピーダンスを測定する測定ステップと、前記地下タンク又は前記地下配管に対して選択的に交流電流を印加する交流印加ステップと、前記交流電流の印加により得られる前記地下配管の近傍に埋設された電流検出センサーの起電力に基づいて、前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定する推定ステップとを有することを特徴とする。
【0022】
請求項8記載の発明によれば、電気化学インピーダンス法及び電流検出法を用いることにより、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0023】
請求項9に記載された発明は、前記交流印加ステップは、前記地下タンクから前記地下配管の順序、あるいは前記地下配管から前記地下タンクの順序で選択的に交流電流を印加することを特徴とする。
【0024】
請求項9記載の発明によれば、地下タンク又は地下配管のそれぞれに交流電流を印加することで、それぞれの周波数依存特性を得ることができ、得られた結果から地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0025】
請求項10に記載された発明は、前記推定ステップは、周波数を変化させて印加される前記交流電流と、前記起電力とにより得られる周波数依存特性におけるピークの発生の有無により前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定することを特徴とする。
【0026】
請求項10記載の発明によれば、周波数依存特性におけるピークの発生の有無により、容易に地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定することができる。したがって、ユーザに専門的な知識が無くても腐食の推定を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
<本発明の概要>
本発明は、地下タンク又は地下配管の表面を電気化学インピーダンス法により測定し、その測定結果から地下タンク又は配管の腐食状態を推定する。ここで、電気化学インピーダンス法とは、1組の電極又はブローブ(アース)間のインピーダンスを決定し、電極間に存在する媒体の特性を知る方法である。電気化学インピーダンス法では、交流電気信号を用いることで、対象物を非破壊で検査することができる。したがって、電気化学インピーダンス法をガソリンスタンド等の地下タンク及び地下配管の腐食等のモニタリングに適用し、その結果から腐食の推定を行うことができる。
【0029】
更に、本発明では、同調回路等を用いた電流検出法により、地下タンク又は地下タンクに接続された配管のそれぞれの腐食の有無を推定する。
【0030】
<実施の形態>
以下に、本発明における腐食推定装置及び腐食推定方法を好適に実施した形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0031】
<第1の実施形態:インピーダンス測定>
図1は、第1の実施形態における腐食推定装置の概略構成の一例を示す図である。なお、図1に示す腐食推定装置の実施形態は、腐食推定対象物のインピーダンス測定装置の概略構成の一例を示すものである。
【0032】
図1に示す腐食推定装置10は、接地電極であるアース(プローブ)11と、測定手段12と、制御手段13とを有するよう構成されている。ここで、図1では、一例として地下タンク1及び地下タンク1に接続された地下配管2は、地下である土壌3に埋設されている。なお、地下タンク1及び地下配管2は鋼製とし、それぞれの外面には、所定の塗覆装1a、2aが全体を覆い尽くすように設けられている。
【0033】
この塗覆装1aは、例えば酸化しない所定の被覆材料で覆い、その上にエポキシ樹脂を塗装して一定以上の厚みの被覆層を構成したものであり、地下タンク1及び地下配管2の外面と土壌3との間を電気的に絶縁し、鋼製の地下タンク1及び地下配管2の外面保護を行うものである。なお、地下タンク1及び地下配管2を被覆する被覆手段は、必ずしも塗覆装である必要はなく、地下タンク1及び地下配管2の外面と土壌3との間を電気的に絶縁するものであれば、他の被覆手段であってもよい。
【0034】
アース11は、地下タンク1と所定の距離を隔てて離れた場所に埋設されている。また、測定手段12は、物体間の電気化学インピーダンス(以下、電気化学インピーダンスを単にインピーダンスと略称する。)を測定する。また、測定手段12は、測定結果を制御手段13に出力する。
【0035】
ここで、測定手段12は、「−」のカレント端子Lcとポテンション端子Lp、及び他のカレント端子Hcとポテンション端子Hpを有する。なお、Hc及びLcは電流端子、Hp及びLpは電圧端子を示している。また、測定手段12は、Lp及びLcを地下配管2が接続されている地下タンク1に接続し、Hp及びHcをアース11に接続している。
【0036】
具体的には、地下配管2が接続された地下タンク1は、配線21を介してカレント端子Lc及びポテンション端子Lpと電気的に接続する。一方、接地電極であるアース11は、配線22を介してカレント端子Hc及びポテンション端子Hpと電気的に接続している。
【0037】
また、測定手段12は、制御手段13からの制御信号によりLpとHpとの間に交流電圧を印加し、LcとHc間に流れる電流を測定する。また、各周波数において交流電圧と交流電流の比を計測することで、地下タンク1とアース12間のインピーダンスを決定している。なお、測定手段13におけるインピーダンス測定では、例えば日置電機(株)製LCRハイテスタ3532−50,3522−50等を用いることができる。
【0038】
制御手段13は、測定手段12によりインピーダンス測定を実行させ、測定手段12からの測定結果を入力して、地下タンク1又は地下配管2の表面に腐食等が発生しているか否か等を推定する。
【0039】
なお、制御手段13は、汎用のパーソナルコンピュータやサーバ等を用いて実現することができる。この場合、制御手段13には、ユーザからの入力、指示情報を受け付ける入力手段や、実行経過や診断結果を表示や音声で出力する出力手段、測定手段12により得られる測定結果を用いた演算や、推定処理全般を制御するためのCPU(Central Processing Unit)、各種データの蓄積を行う蓄積手段等を有し、腐食推定装置10全般の制御を行う。
【0040】
また、制御手段13は、測定手段12による測定結果に基づいて後述するナイキスト線図等の各種グラフを生成し、出力手段により表示させてユーザに腐食推定させることもできる。
【0041】
<インピーダンス測定>
次に、本実施形態における地下配管2が接続された地下タンク1とアース11との間のインピーダンスの測定方法について説明する。測定手段12は、制御手段13からの制御により地下配管2が接続された地下タンク1とアース11との間に、高から低に周波数を変化させて交流電流を印加してインピーダンスを測定する。また、測定結果から地下タンク1及び地下タンク1に接続された地下配管2の腐食の推定を行う。
【0042】
つまり、地下タンク1及び地下配管2とアースとの間におけるインピーダンスを測定し、そのインピーダンス特性が予め設定された正常時(劣化のない状態)のインピーダンス特性であるか否かを判断する。ここで、地下タンク1又は地下配管2に腐食等による劣化部が存在する場合、つまり正常なインピーダンス特性でない場合には、ナイキスト線図には2つの容量性半円の軌跡が表れるため、この軌跡により地下タンク1又は地下配管2に異常(腐食等による劣化)があると判断することができる。
【0043】
このように、上述したインピーダンス特性により健全状態又は劣化状態におけるインピーダンスの相違を明確に確認することができる。
【0044】
ここで、図2は、地下配管が接続された地下タンク、アース、及び土壌の関係を等価回路で置き換えた一例を示す図である。また、図3は、腐食等による劣化の有無におけるインピーダンス特性の違いを説明するための図である。なお、図3に示すグラフの横軸はインピーダンスの実数成分(Z’)を示し、縦軸はインピーダンスの虚数成分(Z’’)を示している。
【0045】
ここで、図2に示す等価回路30は、アース11の表面近傍の土壌3の抵抗要素Rctpと、アース11の表面近傍のコンデンサ要素Cdlpと、アース11と地下タンク1との間の土壌3の抵抗値要素Rsol1と、地下タンク1及び地下配管2の外面が塗覆装1a,2aにより健全な状態で保護されている状態(地下タンク1及び地下配管2と土壌3とが電気的に絶縁状態)にある場合における地下タンク1及び配管2を大きな容積を持つコンデンサとしたときのコンデンサ要素Cpとからなる。
【0046】
ここで、地下タンク1又は地下配管2の塗覆装1a,2aが劣化し、地下タンク1又は地下配管2の外部表面が部分的に土壌3と電気的に接している状況である場合、図2(a)に示す等価回路30は、図2(b)のように表すことができる。つまり、地下タンク1又は配管2の一部が土壌3と電気的に接触することにより、その接触部分の抵抗要素Rsol2+Rct2とコンデンサ要素Cdl2とが追加されることになる(図2(b)に示す点線31)。
【0047】
このような状態の場合、図3に示すように、インピーダンスの一般に低周波数域での軌跡にアース/土壌界面のインピーダンスに相当する容量性半円がみられる。ここで、その容量性半円の直径がアース/土壌界面の電荷移動抵抗Rctpになり、高周波数極限での収束点が地下タンク1及び地下配管2とアース11との間の土壌抵抗Rsol1となる。また、低周波数域でのインピーダンスは、虚数軸と平行の軌跡となる。これは、健全状態の地下タンク/土壌界面のコンデンサ成分によるものである。
【0048】
ここで、地下タンク1及び地下配管2に対する塗覆装1a、2aに異常がない状態、即ち完全に外面の被覆状態が保たれている場合(健全状態)のインピーダンス特性(ナイキスト線図)は図3(A)で示すように所定の周波数で略垂直に立ち上がる(虚数軸と平行の軌跡となる)傾向を示す。また、腐食による劣化等があり正常なインピーダンス特性でない場合には、ナイキスト線図は図3(B)に示すように所定の周波数を境にして2つの容量性半円の軌跡が表れる。
【0049】
したがって、上述したようにインピーダンス特性の軌跡により、腐食による劣化の有無を把握することができる。なお、制御手段13は、図3に示すようなナイキスト線図を生成して制御手段13が有する出力手段を用いて表示することができる。また、制御手段13は、異常時にその旨を出力手段を用いてユーザに表示又は音声により通知することもできる。これにより、インピーダンス形状の変化のみを判断材料とするため、ユーザにインピーダンス解析の専門的な知識が無くても腐食の推定を行うことができる。
【0050】
このように、上述した第1の実施形態によれば、地下タンク又は地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0051】
<第2の実施形態:電流検出>
ここで、上述した第1の実施形態であるインピーダンス測定では、地下タンク1と地下配管2とが接続したままのインピーダンス測定により、腐食は推定できても劣化箇所までは推定することができない。そこで、本発明では、電流検出法を用いることにより、地下タンク1と配管2の何れか、又は両方に劣化箇所があるか否かを推定することができ、欠陥モニタリングを実現することができる。ここで、上述した内容を本発明における腐食推定装置の第2の実施形態として以下に説明する。
【0052】
図4は、第2の実施形態における腐食推定装置の概略構成の一例を示す図である。なお、図4に示す腐食推定装置の実施形態は、腐食推定対象物の電流検出装置の概略構成の一例を示すものである。なお、図1と同様の構成部については、同一の番号を付するものとし、ここでの説明は省略する。
【0053】
図4に示す腐食推定装置40は、接地電極であるアース(プローブ)11と、測定手段41と、制御手段42と、切換手段43と、電流検出センサー44とを有するように構成されている。
【0054】
測定手段41は、制御手段42からの制御信号により、地下タンク1又は地下配管2に対して選択的に交流電流を印加し、電流検出センサー44により得られる起電力を測定する。また、測定手段41は、測定結果を制御手段42に出力する。なお、測定手段41は、上述した第1の実施形態におけるインピーダンスも測定することができる。
【0055】
また、制御手段42は、測定手段41により電流検出を実行させ、測定手段41からの測定結果を入力して、地下タンク1又は地下配管2の表面に腐食等が発生しているか否か等を推定する。なお、制御手段42は、切換手段43による配線の切り換えを行うことで、地下タンク1又は地下配管2に選択的に交流電流を印加することができる。
【0056】
なお、制御手段42は、上述したように汎用のパーソナルコンピュータやサーバ等を用いて実現することができる。この場合、制御手段42には、ユーザからの入力、指示情報を受け付ける入力手段や、実行経過や診断結果を表示や音声で出力する出力手段、測定手段41により得られる測定結果を用いた演算や、推定処理全般を制御するためのCPU、各種データの蓄積を行う蓄積手段等を有し、腐食推定装置40全般の制御を行う。
【0057】
また、制御手段42は、測定手段41による測定結果に基づいてナイキスト線図や後述する周波数依存特定等の各種グラフを生成し、出力手段により表示させてユーザに腐食推定させることもできる。
【0058】
切換手段43は、制御手段42からの制御信号により、地下タンク1への接続用の端子51aと地下配管2への接続用の端子51bとの接続を、スイッチ52により選択的に切り換える。
【0059】
ここで、地下タンク1と端子51aとは、配線53を介して接続されている。一方、地下配管2と端子51bとは、配線54を介して接続されている。そして、スイッチ52は、配線55を介して測定装置12のカレント端子Lcに接続されている。アース11は、配線56を介してカレント端子Hcに接続されている。
【0060】
電流検出センサー44は、地下配管2の近傍に埋設される。ここで、電流検出センサー44について説明する。図5は、電流検出センサーの一例を示す図である。図5に示すように、電流検出センサー44は、コイル61とコンデンサ62とからなる同調回路63で構成されている。なお、同調回路63は、共振周波数を500kHzとしている。
【0061】
また、電流検出センサー44の両端子は、一方は配線57を介してポテンション端子Hpに接続され、もう一方は配線58を介してポテンション端子Lpに接続される。これにより、測定手段41は、周波数を変化させて交流電流を印加し、電流検出センサー44の起電力を測定する。なお、本測定では、一例として印加する交流電流の振幅を10.00mAに設定している。
【0062】
ここで、上述した第2の実施形態では、電流が生ずる磁界の共振回路による検出を行う。具体的に説明すると、一般に直線状の導線に電流が流れる場合に電流と垂直な方向に右回りの磁界が生じる。この電流の周りに発生する磁界に垂直に交わるようなコイルを配置すると、コイルに逆起電力が発生する。したがって、このような電磁誘導の起電力を検出することで、地下タンク1又は地下配管2に流れる電流を検出する。
【0063】
制御手段42は、切換手段43により地下タンク1から配管2の順序、あるいは配管2から地下タンク1の順序で選択的に接続し、交流を印加して測定手段41により測定される測定結果に基づいて腐食(劣化)状態が地下タンク側と地下配管側のどちらか又は両方にあるか否かを推定する。
【0064】
ここで、図6は、電流検出センサーの周波数依存特性の関係を示す図である。なお、図6では、横軸に周波数f(Hz)を示し、縦軸に電流検出センサー32の起電力を測定し、印加電流で割った値を|Z|(Ω)として示している。なお、図6(A)は、カレント端子Lcに地下タンク1を接続した場合(図6におけるシンボルマーク「◆」)の応答を示し、図6(B)は、カレント端子Lcに地下配管2を接続した場合(図6におけるシンボルマーク「■」)の応答を示している。なお、測定周波数は、100kHz〜1MHzとし、100kHz毎に測定したものである。
【0065】
図6に示されているように、カレント端子Lcが地下配管2に接続した場合には、共振周波数500kHzにおいて、鋭いピークが発生している。したがって、図6に示される測定結果から劣化個所(腐食)が地下タンク1側にあると推定することができる。
【0066】
つまり、地下タンク1の劣化部とアース11との間に交流電流が流れており、Hc端子を地下配管2に接続した場合には、地下タンクの劣化部から地下タンク1に流れ込んだ電流が地下配管2との接続部を通過して配管2に流れることによる。
【0067】
したがって、上述した周波数依存特性のピークの発生の有無により劣化箇所の有無を把握することができる。なお、制御手段42は、図6に示すような周波数依存特性のグラフを生成して制御手段42が有する出力手段を用いて表示することができる。また、制御手段42は、異常時にその旨を出力手段を用いてユーザに表示又は音声により通知することもできる。これにより、周波数依存特性におけるピークの発生の有無により、容易に地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定することができる。したがって、ユーザに専門的な知識が無くても腐食の推定を行うことができる。
【0068】
これにより、上述した地下タンク1と配管2とが接続したままの電気化学インピーダンス測定においては、構造物の腐食を検出した場合でも劣化箇所の推定は行えなかったが、電流検出法を用いることにより、より高精度に劣化モニタリングを実現することができる。
【0069】
このように、上述した測定結果に基づいて、地下タンク1及び地下配管2のどちらが腐食しているかを推定することができる。
【0070】
また、上述において、地下タンク1及び配管2の両方に劣化箇所が存在する場合には、両方の周波数依存特性のグラフにピークが存在することになるため、両方が腐食状態である場合も容易に推定することができる。
【0071】
また、上述した第2の実施形態においては、地下タンク1に接続される配線53及び地下配管2に接続される配線54の数を増やし、それぞれの配線を所定の間隔で接続し、それぞれの配線を切り換えて上述した周波数依存特性を測定することで、劣化箇所の場所を詳細に把握することができる。
【0072】
なお、腐食推定結果は、その旨を制御手段42が有する出力手段を用いて表示又は音声によりユーザに通知することができる。
【0073】
<電流検出センサーの他の構成>
ここで、上述した実施形態における電流検出センサーは、図5に示す同調回路63により構成したが、他の回路構成を用いてもよい。図7は、電流検出センサーの他の例を示す図である。例えば、図7(a)に示すように、コイル71と可変コンデンサ72とからなる同調回路73を構成することができる。これにより、所望の周波数域でピークを得るように設定することができる。また、地下タンク1又は地下配管2のどちらに電流がより多く流れているかを簡易に把握したい場合には、図7(b)に示すように同調回路ではなく、単にコイル74のみを用いた簡易な回路75を構成してもよい。
【0074】
上述の第2の実施形態により地下タンク1及び地下配管2のどちらか又は両方に腐食があるか否か、即ち地下タンク1及び地下配管2におけるそれぞれの腐食の有無を高精度に推定することができる。
【0075】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、例えば上述した第1及び第2の実施形態を組み合わせることで、より効率的に高精度な腐食推定を行うことができる。ここで、第1及び第2の実施形態を組み合わせた本発明における腐食推定処理についてフローチャートを用いて説明する。図8は、本発明における腐食推定手順の一例を示すフローチャートである。
【0076】
図8において、まず地下タンク及び地下配管とアースとの間におけるインピーダンス特性を測定する(S01)。次に、測定結果から得られるインピーダンス特性が上述したような異常(腐食等による劣化)時のインピーダンス特性であるか否かを判断する(S02)。ここで、異常時のインピーダンス特性である場合(S02において、YES)、地下タンクから地下配管の接続順序、あるいは地下配管から地下タンクの接続順序で選択的に交流電流を印加して、電流検出センサーの起電力を測定する(S03)。なお、電流検出センサーは、例えば上述した同調回路等を用いることができる。また、測定結果から上述した周波数依存特性におけるピークの発生の有無により地下タンク又は地下配管のどちらか又は両方にある腐食箇所を推定する(S04)。
【0077】
また、S02において、異常時のインピーダンス特性でなかった場合(S02において、NO)、正常と判断し(S05)、処理を終了する。上述したように、第1及び第2の実施形態を組み合わせることで、インピーダンス法を用いることにより地下タンク1又は地下配管2における腐食の有無を検出することができ、また同調回路による電流検出法を用いることにより、地下タンク1と配管2のどちらに劣化箇所があるかを推定することができる。
【0078】
なお、本発明において、地下タンク及び地下配管は単数ではなく、複数の地下タンクや地下配管が埋設されている場合には、それぞれに対応させて電流検出センサーを埋設し、それぞれに対応する配線を設けて上述の切換手段により順次切り換えを行って接続するように構成することで本発明を適用することができる。また、地下タンク内が幾つかの部屋に分かれてそれぞれが異なる燃料等を貯蔵する場合であっても、それを1つの地下タンクと見なすことで本発明を適用することができる。更に、地下タンクと注油管を連結する地下配管、地下タンクと通気管を連結する地下配管、地下タンクと給油装置との管を連結する地下配管が設けられている。具体的にどの系統に異常が発生したかを検出したい場合には、それぞれの個所に電流検出センサーを埋設すれば対応できる。
【0079】
上述したように、本発明によれば、地下タンク及び地下配管における腐食の有無を高精度に推定することができる。具体的には、電気化学インピーダンスや同調回路を用いた電流検出、又はその組み合わせにより、より効率的で高精度に腐食推定を行うことができる。また、本発明では、インピーダンス形状の変化や周波数依存特性のピークの有無のみを判断材料とするため、ユーザに専門的な知識が無くても腐食推定を行うことができる。
【0080】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】第1の実施形態における腐食推定装置の概略構成の一例を示す図である。
【図2】地下配管が接続された地下タンク、アース、及び土壌の関係を等価回路で置き換えた一例を示す図である。
【図3】腐食等による劣化の有無におけるインピーダンス特性の違いを説明するための図である。
【図4】第2の実施形態における腐食推定装置の概略構成の一例を示す図である。
【図5】電流検出センサーの一例を示す図である。
【図6】電流検出センサーの周波数依存特性の関係を示す図である。
【図7】電流検出センサーの他の例を示す図である。
【図8】本発明における腐食推定手順の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0082】
1 地下タンク
2 配管
10,40 腐食推定装置
11 アース
12,41 測定手段
13,42 制御手段
21,22,53,54,55,56,57,58 配線
30 等価回路
31 点線
43 切換手段
44 電流検出センサー
51 端子
52 スイッチ
61,71,74 コイル
62 コンデンサ
63,73 同調回路
72 可変コンデンサ
75 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定装置であって、
地下に埋設された鋼製の地下タンクと、
前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、
前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極と、
前記地下タンク及び前記地下配管と、前記接地電極との間の電気化学インピーダンスを測定する測定手段と、
前記測定手段により得られる測定結果に基づいて、前記地下タンク又は前記地下配管の腐食の有無を推定するための制御手段を有することを特徴とする腐食推定装置。
【請求項2】
地下タンク及び地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定装置であって、
地下に埋設された鋼製の地下タンクと、
前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、
前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極と、
前記地下タンクあるいは前記地下配管に対して選択的に交流電流を印加する交流印加手段と、
前記地下配管の近傍に埋設された電流検出センサーと、
前記交流電流の印加により得られる前記電流検出センサーの起電力に基づいて、前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定するための制御手段とを有することを特徴とする腐食推定装置。
【請求項3】
前記交流印加手段において、前記地下タンクから前記地下配管の順序、あるいは前記地下配管から前記地下タンクの順序で、選択的に交流電流を印加するための切換手段を有することを特徴とする請求項2に記載の腐食推定装置。
【請求項4】
前記電流検出センサーをコイルとコンデンサとからなる同調回路により構成したことを特徴とする請求項2又は3に記載の腐食推定装置。
【請求項5】
前記電流検出センサーをコイルと可変コンデンサとからなる同調回路により構成したことを特徴とする請求項2又は3に記載の腐食推定装置。
【請求項6】
前記電流検出センサーをコイルにより構成したことを特徴とする請求項2又は3に記載の腐食推定装置。
【請求項7】
前記制御手段は、
周波数を変化させて印加される前記交流電流と、前記起電力とにより得られる周波数依存特性におけるピークの発生の有無により前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定することを特徴とする請求項2乃至6の何れか1項に記載の腐食推定装置。
【請求項8】
地下に埋設された鋼製の地下タンクと、前記地下タンクに接続された鋼製の地下配管と、前記地下タンクから離れた位置に埋設された接地電極とにより、前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定する腐食推定方法であって、
前記地下タンク及び前記地下配管と、接地電極との間の電気化学インピーダンスを測定する測定ステップと、
前記地下タンク又は前記地下配管に対して選択的に交流電流を印加する交流印加ステップと、
前記交流電流の印加により得られる前記地下配管の近傍に埋設された電流検出センサーの起電力に基づいて、前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定する推定ステップとを有することを特徴とする腐食推定方法。
【請求項9】
前記交流印加ステップは、
前記地下タンクから前記地下配管の順序、あるいは前記地下配管から前記地下タンクの順序で選択的に交流電流を印加することを特徴とする請求項8に記載の腐食推定方法。
【請求項10】
前記推定ステップは、
周波数を変化させて印加される前記交流電流と、前記起電力とにより得られる周波数依存特性におけるピークの発生の有無により前記地下タンク及び前記地下配管の腐食の有無を推定することを特徴とする請求項8又は9に記載の腐食推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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