腐食測定方法、及び腐食環境ゲージ
【課題】定量的に、かつ簡易に、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を測定する方法、及び当該方法に好適な腐食環境ゲージを提供すること。
【解決手段】本発明の腐食測定方法は、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後、前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする。
【解決手段】本発明の腐食測定方法は、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後、前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定環境中の腐食性や構造物の腐食状態を測定する腐食測定方法、及び該方法の実施に好適な腐食環境ゲージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、環境中の腐食性や、当該環境中に設置される構造物の腐食状態を測定する方法が種々開示されている。例えば、特許文献1や2には、構造物を構成する鋼材の外部表面の色の明度、彩度、及び色相から、鋼材の腐食状態や劣化状態を判定する方法が開示されている。また、特許文献3には、鋼構造物の腐食の進行程度を初期段階で把握するために、鋼構造物の腐食に関与する大気中の劣化因子により変色する複数種類の犠牲金属の薄膜を非腐食性、非導電性の基板に配列してなる腐食環境センサを用い、薄膜の変色から鋼構造物の腐食の程度を評価する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、膜厚を段階的または連続的に変化させて形成した金属薄膜の色の変化により環境中の腐食性を評価する方法が開示されている。
【0003】
あるいは、特許文献5には、交流インピーダンス法を用いた腐食速度の測定方法が開示されている。また、特許文献6には、電気的絶縁部材で被覆された面と外部に露出された面とを有し腐食の進行により電気抵抗値が増加する金属導電部材の電気抵抗値を測定して、構造物の腐食量を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−4525号公報
【特許文献2】特開平11−132962号公報
【特許文献3】特開2005−121510号公報
【特許文献4】特開平10−90165号公報
【特許文献5】特開2002−71616号公報
【特許文献6】特開2007−292747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に開示されている方法では、色の変化という指標を用いており、定量的に環境中の腐食性や構造物の腐食状態を評価することが困難であった。また、特許文献5及び6に開示されている方法では、測定器具や配線等の準備が必要であり、簡易に構造物の腐食状態を測定することができなかった。
【0006】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、定量的に、かつ簡易に、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を測定する方法、及び当該方法の実施に好適な腐食環境ゲージを提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得た本発明の腐食測定方法は、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後の前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記所定個所が前記金属板の最小厚み個所であることや、前記金属板がくさび形であり、傾斜面全体が凹部形状であることや、前記金属板が溝状の穴を有しており、更に前記金属板の穴は、厚み方向を横から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有すること、前記金属板の厚み方向の投影図が円形であること、前記金属板が耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されていることは好ましい実施態様である。
【0009】
また、本発明には、厚みが段階的または連続的に変化する金属板が、耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されていることを特徴とする腐食環境ゲージが包含される。
【0010】
上記腐食環境ゲージにおいて、前記金属板がくさび形であることや、前記金属板の厚み方向の投影図が円形であること、前記金属板の表面がブラスト処理されていることや、前記耐食性樹脂体がポリエステル系樹脂体またはアクリル系樹脂体であること、前記耐食性樹脂体が導電剤を含有することは好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の腐食測定方法は、厚みが変化する金属板を測定環境中に放置して、所定時間経過後の金属板について、所定個所(好ましくは、最小厚み個所)の後退長さを測定することにより、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を評価するものであり、定量的に腐食性等を測定することができる。
【0012】
また、本発明の腐食測定方法は、上記の通り、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を長さという指標で評価するため、簡易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で用いる金属板の一実施態様の正面図(a)と側面図(b)である。
【図2】板厚方向の投影図(正面図)が円形の金属板を用いた際の、所定個所における後退長さの測定方法を説明する図である。
【図3】金属板がくさび形であり、傾斜面全体が凹部形状を有する本発明の腐食環境ゲージの一実施態様を説明する図である。
【図4】金属板が溝状の穴を有しており、更に該金属板の穴は、厚み方向を横から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有する本発明の腐食環境ゲージの一実施態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の腐食測定方法は、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後の前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする。以下、本発明の腐食測定方法について、詳細に説明する。
【0015】
(金属板)
本発明で用いる金属板は、その厚みが段階的または連続的に変化する個所を有するものである。本発明で用いる金属板は、減肉により金属板の所定個所(好ましくは、最小厚み個所)の後退が起るものであればよく、上記厚みが変化する個所は金属板の一部に設けられても、金属板の全体に亘って設けられてもよいが、所定時間における所定個所の後退長さを長くするために、当該個所は金属板の全体に亘って設けられるのが好ましい。なお、厚みが変化する個所が金属板の一部に設けられる場合には、当該個所は金属板に複数個あってもよい。また、本発明で用いる金属板には、傾斜面に沿って、凹部形状、例えば、U字状やV字状の溝を設けることにより、厚みの変化率(傾斜角)が異なる傾斜面を複数形成してもよい(後述する図3)。かかる構成により、後退長さの測定を、測定環境に応じて最適な個所で行うことができる。
【0016】
本発明で用いる金属板の形状の具体的態様としては、例えば、図1に示すようなくさび形や、板厚方向の投影図が円形である金属板(例えば、円錐形)の他、正面が矩形(または円形)で側面が円弧状のもの等、厚みが金属板全体に亘って連続的に変化するとともに、金属板の少なくとも一つの端部に向かって厚みが減少する態様が挙げられる。また、正面が矩形(あるいは円形)で側面がV字状のもの等、厚みが金属板全体に亘って連続的に変化するとともに、金属板の略中央に向かって厚みが減少する態様や、正面が矩形(あるいは円形)で側面が階段状のもの等、厚みが金属板全体に亘って段階的に変化するとともに、金属板の少なくとも一方の端部に向けて厚みが減少する態様等も挙げられる。正面(もしくは板厚方向の投影図)が円形の金属板を用いることにより、減肉する方向から腐食環境の方向性(腐食劣化の度合いの方向性)を読み取ることができる。あるいは、金属板に溝状の穴、例えば、厚み方向を横から見た場合、台形である穴をあけ、略均一な割合で傾斜面を有するようにし、この金属板の裏面を大気曝露面とすれば、金属板の厚みが小さい方から大きい方向に向かって減少する態様が挙げられる。
【0017】
本発明では、厚みが連続的に変化する個所を有する金属板を用いることが好ましく、金属板の加工のし易さから、くさび形の金属板や円錐形の金属板を用いることがより好ましい。また、厚み方向を横から見た場合、台形である溝状の穴をあけた金属板を用いることもより好ましい。かかる形状の金属板であれば、金属板の減肉に伴う最小厚み個所の後退が連続的に生じることから、測定精度を上げることができる。
【0018】
本発明で用いる金属板の材質は、水分や塩化物イオン、硫化物イオン、窒素酸化物イオン等の腐食因子を含む測定環境中で、金属板が減肉するものであれば特に限定されず、例えば、腐食電位列が低電位側にある金属が挙げられる。具体的には、Mg、Al、Cd等の金属、Al−Mg合金、Al−Mn−Mg合金、Al−Zn合金、Al−Mn合金等のAl基合金、機械構造用鋼や工具鋼等の特殊鋼、あるいは普通鋼等が挙げられる。
【0019】
本発明の腐食測定方法は、上記材質から構成される単一種の金属板を用いて行ってもよいが、材質の異なる金属板を2種以上組み合わせて行ってもよい。
【0020】
本発明で用いる金属板の厚みは、所定時間における所定個所の後退が進みやすいように設定するのが好ましい。具体的な厚みについては、金属板の材質によって適宜設計され得る。例えば、鋼板を用いる場合には、金属板の最小厚み部分を0.05mm以下(より好ましくは0.03mm以下)とし、金属板の最大厚み部分を0.1mm以上(より好ましくは0.15mm以上)とするのが好ましい。金属板の最大厚み部分が0.1mm未満では、測定開始から短期間で金属板が全て消失して、本発明の方法を長期間に亘って実施できない場合がある。なお、金属板の最大厚み部分の厚みの上限は、特に限定されるものではないが、例えば、水経路中に金属板を設置して本発明の方法を実施する場合に、金属板が水の流れを変えることのないようにするのが好ましい。
【0021】
本発明で用いる金属板の大きさは特に限定されず、金属板の材質によって適宜設計され得るものである。例えば、正面が矩形の鋼板を用いる場合には、当該鋼板を正面から見た場合に、長さ方向と直交する方向(幅方向)の長さは、3cm以上(より好ましくは5cm以上)とするのが好ましい。幅方向の長さが3cm未満では腐食面積が小さいため、所定個所の後退長さのバラツキが大きくなり、腐食性を正確に測定できない場合がある。また、幅方向からの腐食進展が生じてしまい、腐食長さを正確に測定できない場合がある。
【0022】
(腐食測定方法)
本発明の方法を用いて測定環境中の腐食性を測定するには、例えば、図1を参照して、以下のように行えばよい。すなわち、所定の腐食因子を所定量含む環境中に、本発明にかかる金属板を所定時間放置する(放置後に減肉した金属板を破線で示す)。次いで、金属板の任意の個所Aから金属板の所定個所(例えば、最小厚み個所B)に向けて、厚み方向と直交する仮想線を設け、当該仮想線にそれぞれ垂線を下ろして、その交点間距離1を求める。続いて、当該仮想線の延長線上に、測定前の金属板の端部から垂線を下ろして得られる交点と、上記個所Aから仮想線に垂線を下ろして得られる交点との交点間距離2を求め、二つの交点間距離の差(交点間距離2−交点間距離1)を算出して、最小厚み個所の後退長さを得、当該後退長さから、上記所定環境に対する検量線を作成する。その後、所望の環境中で上記と同様の方法で金属板の後退長さを求め、上記検量線から当該環境中の腐食性等を評価する。
【0023】
その際、所定個所(例えば、最小厚み個所B)が金属板中に複数ある場合には、任意に一つの個所を選択すればよいが、後退長さが長い個所を選択して、測定感度を上げることが好ましい。
【0024】
また、板厚方向の投影図が円形である金属板(例えば、円錐形の金属板)を用いる場合には、例えば、図2に示すように、その中心(最大厚み個所)からの最小厚み個所(例えば、12点)の長さの平均値を半径とする等価円を作成して、減肉量を算出すればよい。
【0025】
金属板の最小厚み個所が金属板内にある場合には、交点間距離1は上記と同様の方法で求めると共に、仮想線の延長線上にあって、かつ測定前に最も厚みの小さい個所から上記仮想線に垂線を下ろして得られる交点と、上記個所Aから仮想線に垂線を下ろして得られる交点とから交点間距離2を求め、交点間距離の差(交点間距離2−交点間距離1)を算出すればよい。
【0026】
本発明による被測定物(構造物)の腐食状態の測定は、本発明の金属板を被測定物上に所定時間設置して、上記と同様の方法で所定個所の後退長さを求めて評価すればよい。この際、金属板と被測定物の材質は同一でも異なっていてもよいが、被測定物と同一の材質で金属板を構成すると、被測定物の腐食状態を直接的に測定できるため好ましい。被測定物としては、特に限定されず、鉄塔や煙突、橋梁等の鋼構造物が挙げられる。
【0027】
金属板を被測定物上に載置して被測定物の腐食状態を測定する場合には、金属板は絶縁性の板状部材(例えば、ガラス板や後述する耐食性樹脂製の板など)を介して構造物上に載置されることが好ましい。金属板と被測定物とが異なる材質で構成される場合には、金属板を被測定物上に直接載置すると、金属板と測定物の腐食電位の違いにより、金属板が被測定物の影響を受けて腐食する場合がある。
【0028】
(腐食環境ゲージ)
本発明の腐食測定方法は、以下に説明する腐食環境ゲージを用いることによって好適に行うことができる。以下、本発明の腐食環境ゲージについて詳細に説明する。
【0029】
本発明の腐食環境ゲージは、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板が、該金属板の一方面を露出しつつ耐食性樹脂体中に埋没されて構成されることを特徴とする。当該腐食環境ゲージの一実施態様を図3に示す。
【0030】
あるいは、本発明の腐食環境ゲージは、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板が、溝状の穴を有しており、更に金属板の穴は厚み方向を横から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有するように構成されることを特徴とする。当該腐食環境ゲージの一実施態様を図4に示す。
【0031】
図3に示す腐食環境ゲージを用いて、本発明の腐食測定方法を行えば、耐食性樹脂体10から露出している金属板20の一方面のみが測定環境に曝露されることから、概ね金属板20の厚み方向に金属板20の減肉が進むこととなる。その結果、後退長さを求める個所を最小厚み個所にすれば、当該個所の後退は厚さの小さい側の端部からのみ起ることとなる。
【0032】
このため、最小厚み個所が後退する方向に沿って、金属板の長さ目盛りを、当該金属板20の厚みの小さい側の端部付近を始点とし、厚みの大きい側の端部付近を終点として、耐食性樹脂体10の表面(例えば、耐食性樹脂体の正面、側面、裏面)に設けることにより、測定環境中の腐食性等の評価をより簡易に行うことが可能になる。
【0033】
図4に示す腐食環境ゲージを用いて、本発明の腐食測定方法を行えば、金属板30の裏面のみが測定環境に曝露されることから、概ね金属板30の厚み方向に減肉が進むことになる。その結果、後退長さを求める個所を最小厚み個所にすれば、当該個所の後退は厚さの小さい側の溝端部からのみ起こることとなる。
【0034】
このため、最小厚み個所が後退する方向に沿って、金属板の長さ目盛りを、当該金属板30の厚みの小さい側の溝端部付近を始点とし、厚みの大きい側の溝端部付近を終点として、金属板30の裏面に設けることにより、測定環境中の腐食性等の評価をより簡易に行うことが可能になる。
【0035】
本発明の腐食環境ゲージで用いる耐食性樹脂としては、使用環境中で劣化しないものであれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐食性樹脂としてポリエステル系樹脂やアクリル系樹脂のような透明性の樹脂を用いた場合には、耐食性樹脂体の表面に設けた検量線を、耐食性樹脂体の裏面から読むことも可能になる。また、耐食性樹脂に導電性フィラーを添加して、耐食性樹脂の導電性を高め、腐食状態を測定する被処理物(構造物)との熱容量の差を極力小さくしてもよい。
【0036】
本発明の腐食環境ゲージの形状は特に限定されず、直方形や円形であってよいが、少なくとも一方の側面(好ましくは、全ての側面)にテーパーが設けられていることが好ましい。かかる構成により、本発明の腐食環境ゲージを水たまり個所や水流れ経路に設置しても、水が腐食環境ゲージ(金属板の一方面上)に集まりやすくなる。
【0037】
また、本発明の腐食環境ゲージを用いて、本発明の腐食測定方法を用いる場合には、極力、金属板の一方面が重力方向に沿うように設置することが好ましい。かかる態様により、金属板が減肉した個所に水が溜まることを防ぐことができる。
【0038】
(金属板、及び腐食環境ゲージの製造方法)
本発明で用いる金属板の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、金属板をグラインダーで研磨したり、エッチングしたりして、所定形状に加工する方法が挙げられる。更に、一般的なエンドミル加工により一定の傾きを保持したまま、加工する方法などが挙げられる。
【0039】
また、本発明で用いる腐食環境ゲージの製造方法も特に限定されるものではなく、例えば、型枠の略中央に、金属板をその一方面を下側にして載置し、次いで上記耐食性樹脂の加熱溶融物をその上から流し込んだ後、冷却して硬化させたり、あるいは、上記耐食性樹脂が常温で液状である場合には、型枠に耐食性樹脂を流し込んだ後、硬化剤によって硬化させたりして製造する方法が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
1.金属板の作製
長さ50mm、幅40mm、厚み0.2mmの炭素工具鋼材を用い、表面を機械研磨して、くさび形の金属板を作製した(図1)。なお、くさび形の傾斜面には、最大幅40mm、最大深さ0.15mmのV字状の溝を形成した(図3)。
【0042】
また、長さ50mm、幅50mm、厚み0.2mmの炭素工具鋼材を用い、表面を機械研磨して、底面の直径50mm、高さ0.2mmの円錐形の金属板を作製した。
【0043】
さらに、長さ70mm、幅20mm、厚み3mmの炭素工具鋼材を用い、表面を直径5mmのドリルで加工して、厚み方向を横から見た場合、台形である溝状の穴(底面として略均一な割合で傾斜面を有する穴であり、穴部分における金属板の厚みは0.05mmから0.20mm)を有する金属板を作製した(図4)。
【0044】
2.腐食環境ゲージの作製
図1に示すくさび形の金属板を、機械研磨した側の面を上側にして型枠の略中央に載置し、次いで加熱溶融したポリエステル系樹脂(丸本ストルアス製、冷間押込樹脂No.105)を流し込み、冷却して硬化させた。その後、ポリエステル系樹脂板を所定の形状に加工して、図3に示す腐食環境ゲージを作製した。また、同様にして、円錐形の金属板がポリエステル系樹脂中に埋没されつつ底面は露出されている腐食環境ゲージを作製した。図4に示す金属板は、そのまま、裏面を大気曝露面とする腐食環境ゲージとして用いた。
【0045】
3.検量線の作製
図3に示す腐食環境ゲージの表面と裏面とに、金属板の長手方向(最小厚み個所後退方向)に沿って、金属板の長さの目盛りを設けた。また、図4に示す腐食環境ゲージの裏面に、同様にして、金属板の長さの目盛りを設けた。
【0046】
4.腐食測定
図3に示す腐食環境ゲージを、表1に示す環境中に1ヶ月放置した後、最小厚み個所の後退長さを測定した。また、傾斜率(厚み/長さ)と上記後退長さとから減肉速度を算出して、文献値と比較した。その結果を表1に示す。なお、表1中、覆い外とは腐食環境ゲージに雨がかかる環境を意味し、覆い内とは雨がかからない環境を意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、減肉速度の測定値は文献値と近いことから、本発明の測定方法によって腐食環境を精度よく行えることが分かる。
【0049】
なお、円錐形の金属板がポリエステル系樹脂中に埋没されつつ一方面は露出されている腐食環境ゲージや、図4に示す溝状の穴を有する金属板からなる腐食環境ゲージについても、くさび形鋼板で作製した図3に示す腐食環境ゲージと同様の効果を発揮すると考えられる。
【符号の説明】
【0050】
10:耐食性樹脂体
20、30:金属板
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定環境中の腐食性や構造物の腐食状態を測定する腐食測定方法、及び該方法の実施に好適な腐食環境ゲージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、環境中の腐食性や、当該環境中に設置される構造物の腐食状態を測定する方法が種々開示されている。例えば、特許文献1や2には、構造物を構成する鋼材の外部表面の色の明度、彩度、及び色相から、鋼材の腐食状態や劣化状態を判定する方法が開示されている。また、特許文献3には、鋼構造物の腐食の進行程度を初期段階で把握するために、鋼構造物の腐食に関与する大気中の劣化因子により変色する複数種類の犠牲金属の薄膜を非腐食性、非導電性の基板に配列してなる腐食環境センサを用い、薄膜の変色から鋼構造物の腐食の程度を評価する方法が開示されている。さらに、特許文献4には、膜厚を段階的または連続的に変化させて形成した金属薄膜の色の変化により環境中の腐食性を評価する方法が開示されている。
【0003】
あるいは、特許文献5には、交流インピーダンス法を用いた腐食速度の測定方法が開示されている。また、特許文献6には、電気的絶縁部材で被覆された面と外部に露出された面とを有し腐食の進行により電気抵抗値が増加する金属導電部材の電気抵抗値を測定して、構造物の腐食量を測定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−4525号公報
【特許文献2】特開平11−132962号公報
【特許文献3】特開2005−121510号公報
【特許文献4】特開平10−90165号公報
【特許文献5】特開2002−71616号公報
【特許文献6】特開2007−292747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜4に開示されている方法では、色の変化という指標を用いており、定量的に環境中の腐食性や構造物の腐食状態を評価することが困難であった。また、特許文献5及び6に開示されている方法では、測定器具や配線等の準備が必要であり、簡易に構造物の腐食状態を測定することができなかった。
【0006】
本発明は上記の様な事情に鑑みてなされたものであり、本発明者らは、定量的に、かつ簡易に、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を測定する方法、及び当該方法の実施に好適な腐食環境ゲージを提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得た本発明の腐食測定方法は、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後の前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする。
【0008】
本発明において、前記所定個所が前記金属板の最小厚み個所であることや、前記金属板がくさび形であり、傾斜面全体が凹部形状であることや、前記金属板が溝状の穴を有しており、更に前記金属板の穴は、厚み方向を横から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有すること、前記金属板の厚み方向の投影図が円形であること、前記金属板が耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されていることは好ましい実施態様である。
【0009】
また、本発明には、厚みが段階的または連続的に変化する金属板が、耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されていることを特徴とする腐食環境ゲージが包含される。
【0010】
上記腐食環境ゲージにおいて、前記金属板がくさび形であることや、前記金属板の厚み方向の投影図が円形であること、前記金属板の表面がブラスト処理されていることや、前記耐食性樹脂体がポリエステル系樹脂体またはアクリル系樹脂体であること、前記耐食性樹脂体が導電剤を含有することは好ましい実施態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の腐食測定方法は、厚みが変化する金属板を測定環境中に放置して、所定時間経過後の金属板について、所定個所(好ましくは、最小厚み個所)の後退長さを測定することにより、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を評価するものであり、定量的に腐食性等を測定することができる。
【0012】
また、本発明の腐食測定方法は、上記の通り、環境中の腐食性や被測定物の腐食状態を長さという指標で評価するため、簡易に実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明で用いる金属板の一実施態様の正面図(a)と側面図(b)である。
【図2】板厚方向の投影図(正面図)が円形の金属板を用いた際の、所定個所における後退長さの測定方法を説明する図である。
【図3】金属板がくさび形であり、傾斜面全体が凹部形状を有する本発明の腐食環境ゲージの一実施態様を説明する図である。
【図4】金属板が溝状の穴を有しており、更に該金属板の穴は、厚み方向を横から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有する本発明の腐食環境ゲージの一実施態様を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の腐食測定方法は、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後の前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする。以下、本発明の腐食測定方法について、詳細に説明する。
【0015】
(金属板)
本発明で用いる金属板は、その厚みが段階的または連続的に変化する個所を有するものである。本発明で用いる金属板は、減肉により金属板の所定個所(好ましくは、最小厚み個所)の後退が起るものであればよく、上記厚みが変化する個所は金属板の一部に設けられても、金属板の全体に亘って設けられてもよいが、所定時間における所定個所の後退長さを長くするために、当該個所は金属板の全体に亘って設けられるのが好ましい。なお、厚みが変化する個所が金属板の一部に設けられる場合には、当該個所は金属板に複数個あってもよい。また、本発明で用いる金属板には、傾斜面に沿って、凹部形状、例えば、U字状やV字状の溝を設けることにより、厚みの変化率(傾斜角)が異なる傾斜面を複数形成してもよい(後述する図3)。かかる構成により、後退長さの測定を、測定環境に応じて最適な個所で行うことができる。
【0016】
本発明で用いる金属板の形状の具体的態様としては、例えば、図1に示すようなくさび形や、板厚方向の投影図が円形である金属板(例えば、円錐形)の他、正面が矩形(または円形)で側面が円弧状のもの等、厚みが金属板全体に亘って連続的に変化するとともに、金属板の少なくとも一つの端部に向かって厚みが減少する態様が挙げられる。また、正面が矩形(あるいは円形)で側面がV字状のもの等、厚みが金属板全体に亘って連続的に変化するとともに、金属板の略中央に向かって厚みが減少する態様や、正面が矩形(あるいは円形)で側面が階段状のもの等、厚みが金属板全体に亘って段階的に変化するとともに、金属板の少なくとも一方の端部に向けて厚みが減少する態様等も挙げられる。正面(もしくは板厚方向の投影図)が円形の金属板を用いることにより、減肉する方向から腐食環境の方向性(腐食劣化の度合いの方向性)を読み取ることができる。あるいは、金属板に溝状の穴、例えば、厚み方向を横から見た場合、台形である穴をあけ、略均一な割合で傾斜面を有するようにし、この金属板の裏面を大気曝露面とすれば、金属板の厚みが小さい方から大きい方向に向かって減少する態様が挙げられる。
【0017】
本発明では、厚みが連続的に変化する個所を有する金属板を用いることが好ましく、金属板の加工のし易さから、くさび形の金属板や円錐形の金属板を用いることがより好ましい。また、厚み方向を横から見た場合、台形である溝状の穴をあけた金属板を用いることもより好ましい。かかる形状の金属板であれば、金属板の減肉に伴う最小厚み個所の後退が連続的に生じることから、測定精度を上げることができる。
【0018】
本発明で用いる金属板の材質は、水分や塩化物イオン、硫化物イオン、窒素酸化物イオン等の腐食因子を含む測定環境中で、金属板が減肉するものであれば特に限定されず、例えば、腐食電位列が低電位側にある金属が挙げられる。具体的には、Mg、Al、Cd等の金属、Al−Mg合金、Al−Mn−Mg合金、Al−Zn合金、Al−Mn合金等のAl基合金、機械構造用鋼や工具鋼等の特殊鋼、あるいは普通鋼等が挙げられる。
【0019】
本発明の腐食測定方法は、上記材質から構成される単一種の金属板を用いて行ってもよいが、材質の異なる金属板を2種以上組み合わせて行ってもよい。
【0020】
本発明で用いる金属板の厚みは、所定時間における所定個所の後退が進みやすいように設定するのが好ましい。具体的な厚みについては、金属板の材質によって適宜設計され得る。例えば、鋼板を用いる場合には、金属板の最小厚み部分を0.05mm以下(より好ましくは0.03mm以下)とし、金属板の最大厚み部分を0.1mm以上(より好ましくは0.15mm以上)とするのが好ましい。金属板の最大厚み部分が0.1mm未満では、測定開始から短期間で金属板が全て消失して、本発明の方法を長期間に亘って実施できない場合がある。なお、金属板の最大厚み部分の厚みの上限は、特に限定されるものではないが、例えば、水経路中に金属板を設置して本発明の方法を実施する場合に、金属板が水の流れを変えることのないようにするのが好ましい。
【0021】
本発明で用いる金属板の大きさは特に限定されず、金属板の材質によって適宜設計され得るものである。例えば、正面が矩形の鋼板を用いる場合には、当該鋼板を正面から見た場合に、長さ方向と直交する方向(幅方向)の長さは、3cm以上(より好ましくは5cm以上)とするのが好ましい。幅方向の長さが3cm未満では腐食面積が小さいため、所定個所の後退長さのバラツキが大きくなり、腐食性を正確に測定できない場合がある。また、幅方向からの腐食進展が生じてしまい、腐食長さを正確に測定できない場合がある。
【0022】
(腐食測定方法)
本発明の方法を用いて測定環境中の腐食性を測定するには、例えば、図1を参照して、以下のように行えばよい。すなわち、所定の腐食因子を所定量含む環境中に、本発明にかかる金属板を所定時間放置する(放置後に減肉した金属板を破線で示す)。次いで、金属板の任意の個所Aから金属板の所定個所(例えば、最小厚み個所B)に向けて、厚み方向と直交する仮想線を設け、当該仮想線にそれぞれ垂線を下ろして、その交点間距離1を求める。続いて、当該仮想線の延長線上に、測定前の金属板の端部から垂線を下ろして得られる交点と、上記個所Aから仮想線に垂線を下ろして得られる交点との交点間距離2を求め、二つの交点間距離の差(交点間距離2−交点間距離1)を算出して、最小厚み個所の後退長さを得、当該後退長さから、上記所定環境に対する検量線を作成する。その後、所望の環境中で上記と同様の方法で金属板の後退長さを求め、上記検量線から当該環境中の腐食性等を評価する。
【0023】
その際、所定個所(例えば、最小厚み個所B)が金属板中に複数ある場合には、任意に一つの個所を選択すればよいが、後退長さが長い個所を選択して、測定感度を上げることが好ましい。
【0024】
また、板厚方向の投影図が円形である金属板(例えば、円錐形の金属板)を用いる場合には、例えば、図2に示すように、その中心(最大厚み個所)からの最小厚み個所(例えば、12点)の長さの平均値を半径とする等価円を作成して、減肉量を算出すればよい。
【0025】
金属板の最小厚み個所が金属板内にある場合には、交点間距離1は上記と同様の方法で求めると共に、仮想線の延長線上にあって、かつ測定前に最も厚みの小さい個所から上記仮想線に垂線を下ろして得られる交点と、上記個所Aから仮想線に垂線を下ろして得られる交点とから交点間距離2を求め、交点間距離の差(交点間距離2−交点間距離1)を算出すればよい。
【0026】
本発明による被測定物(構造物)の腐食状態の測定は、本発明の金属板を被測定物上に所定時間設置して、上記と同様の方法で所定個所の後退長さを求めて評価すればよい。この際、金属板と被測定物の材質は同一でも異なっていてもよいが、被測定物と同一の材質で金属板を構成すると、被測定物の腐食状態を直接的に測定できるため好ましい。被測定物としては、特に限定されず、鉄塔や煙突、橋梁等の鋼構造物が挙げられる。
【0027】
金属板を被測定物上に載置して被測定物の腐食状態を測定する場合には、金属板は絶縁性の板状部材(例えば、ガラス板や後述する耐食性樹脂製の板など)を介して構造物上に載置されることが好ましい。金属板と被測定物とが異なる材質で構成される場合には、金属板を被測定物上に直接載置すると、金属板と測定物の腐食電位の違いにより、金属板が被測定物の影響を受けて腐食する場合がある。
【0028】
(腐食環境ゲージ)
本発明の腐食測定方法は、以下に説明する腐食環境ゲージを用いることによって好適に行うことができる。以下、本発明の腐食環境ゲージについて詳細に説明する。
【0029】
本発明の腐食環境ゲージは、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板が、該金属板の一方面を露出しつつ耐食性樹脂体中に埋没されて構成されることを特徴とする。当該腐食環境ゲージの一実施態様を図3に示す。
【0030】
あるいは、本発明の腐食環境ゲージは、厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板が、溝状の穴を有しており、更に金属板の穴は厚み方向を横から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有するように構成されることを特徴とする。当該腐食環境ゲージの一実施態様を図4に示す。
【0031】
図3に示す腐食環境ゲージを用いて、本発明の腐食測定方法を行えば、耐食性樹脂体10から露出している金属板20の一方面のみが測定環境に曝露されることから、概ね金属板20の厚み方向に金属板20の減肉が進むこととなる。その結果、後退長さを求める個所を最小厚み個所にすれば、当該個所の後退は厚さの小さい側の端部からのみ起ることとなる。
【0032】
このため、最小厚み個所が後退する方向に沿って、金属板の長さ目盛りを、当該金属板20の厚みの小さい側の端部付近を始点とし、厚みの大きい側の端部付近を終点として、耐食性樹脂体10の表面(例えば、耐食性樹脂体の正面、側面、裏面)に設けることにより、測定環境中の腐食性等の評価をより簡易に行うことが可能になる。
【0033】
図4に示す腐食環境ゲージを用いて、本発明の腐食測定方法を行えば、金属板30の裏面のみが測定環境に曝露されることから、概ね金属板30の厚み方向に減肉が進むことになる。その結果、後退長さを求める個所を最小厚み個所にすれば、当該個所の後退は厚さの小さい側の溝端部からのみ起こることとなる。
【0034】
このため、最小厚み個所が後退する方向に沿って、金属板の長さ目盛りを、当該金属板30の厚みの小さい側の溝端部付近を始点とし、厚みの大きい側の溝端部付近を終点として、金属板30の裏面に設けることにより、測定環境中の腐食性等の評価をより簡易に行うことが可能になる。
【0035】
本発明の腐食環境ゲージで用いる耐食性樹脂としては、使用環境中で劣化しないものであれば、その種類は特に限定されるものではなく、例えば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂が挙げられる。これらの樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。耐食性樹脂としてポリエステル系樹脂やアクリル系樹脂のような透明性の樹脂を用いた場合には、耐食性樹脂体の表面に設けた検量線を、耐食性樹脂体の裏面から読むことも可能になる。また、耐食性樹脂に導電性フィラーを添加して、耐食性樹脂の導電性を高め、腐食状態を測定する被処理物(構造物)との熱容量の差を極力小さくしてもよい。
【0036】
本発明の腐食環境ゲージの形状は特に限定されず、直方形や円形であってよいが、少なくとも一方の側面(好ましくは、全ての側面)にテーパーが設けられていることが好ましい。かかる構成により、本発明の腐食環境ゲージを水たまり個所や水流れ経路に設置しても、水が腐食環境ゲージ(金属板の一方面上)に集まりやすくなる。
【0037】
また、本発明の腐食環境ゲージを用いて、本発明の腐食測定方法を用いる場合には、極力、金属板の一方面が重力方向に沿うように設置することが好ましい。かかる態様により、金属板が減肉した個所に水が溜まることを防ぐことができる。
【0038】
(金属板、及び腐食環境ゲージの製造方法)
本発明で用いる金属板の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、金属板をグラインダーで研磨したり、エッチングしたりして、所定形状に加工する方法が挙げられる。更に、一般的なエンドミル加工により一定の傾きを保持したまま、加工する方法などが挙げられる。
【0039】
また、本発明で用いる腐食環境ゲージの製造方法も特に限定されるものではなく、例えば、型枠の略中央に、金属板をその一方面を下側にして載置し、次いで上記耐食性樹脂の加熱溶融物をその上から流し込んだ後、冷却して硬化させたり、あるいは、上記耐食性樹脂が常温で液状である場合には、型枠に耐食性樹脂を流し込んだ後、硬化剤によって硬化させたりして製造する方法が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は本発明を制限するものではなく、前・後記の趣旨を逸脱しない範囲で変更実施をすることは全て本発明の技術的範囲に包含される。
【0041】
1.金属板の作製
長さ50mm、幅40mm、厚み0.2mmの炭素工具鋼材を用い、表面を機械研磨して、くさび形の金属板を作製した(図1)。なお、くさび形の傾斜面には、最大幅40mm、最大深さ0.15mmのV字状の溝を形成した(図3)。
【0042】
また、長さ50mm、幅50mm、厚み0.2mmの炭素工具鋼材を用い、表面を機械研磨して、底面の直径50mm、高さ0.2mmの円錐形の金属板を作製した。
【0043】
さらに、長さ70mm、幅20mm、厚み3mmの炭素工具鋼材を用い、表面を直径5mmのドリルで加工して、厚み方向を横から見た場合、台形である溝状の穴(底面として略均一な割合で傾斜面を有する穴であり、穴部分における金属板の厚みは0.05mmから0.20mm)を有する金属板を作製した(図4)。
【0044】
2.腐食環境ゲージの作製
図1に示すくさび形の金属板を、機械研磨した側の面を上側にして型枠の略中央に載置し、次いで加熱溶融したポリエステル系樹脂(丸本ストルアス製、冷間押込樹脂No.105)を流し込み、冷却して硬化させた。その後、ポリエステル系樹脂板を所定の形状に加工して、図3に示す腐食環境ゲージを作製した。また、同様にして、円錐形の金属板がポリエステル系樹脂中に埋没されつつ底面は露出されている腐食環境ゲージを作製した。図4に示す金属板は、そのまま、裏面を大気曝露面とする腐食環境ゲージとして用いた。
【0045】
3.検量線の作製
図3に示す腐食環境ゲージの表面と裏面とに、金属板の長手方向(最小厚み個所後退方向)に沿って、金属板の長さの目盛りを設けた。また、図4に示す腐食環境ゲージの裏面に、同様にして、金属板の長さの目盛りを設けた。
【0046】
4.腐食測定
図3に示す腐食環境ゲージを、表1に示す環境中に1ヶ月放置した後、最小厚み個所の後退長さを測定した。また、傾斜率(厚み/長さ)と上記後退長さとから減肉速度を算出して、文献値と比較した。その結果を表1に示す。なお、表1中、覆い外とは腐食環境ゲージに雨がかかる環境を意味し、覆い内とは雨がかからない環境を意味する。
【0047】
【表1】
【0048】
表1から、減肉速度の測定値は文献値と近いことから、本発明の測定方法によって腐食環境を精度よく行えることが分かる。
【0049】
なお、円錐形の金属板がポリエステル系樹脂中に埋没されつつ一方面は露出されている腐食環境ゲージや、図4に示す溝状の穴を有する金属板からなる腐食環境ゲージについても、くさび形鋼板で作製した図3に示す腐食環境ゲージと同様の効果を発揮すると考えられる。
【符号の説明】
【0050】
10:耐食性樹脂体
20、30:金属板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後の前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする腐食測定方法。
【請求項2】
前記所定個所が、前記金属板の最小厚み個所である請求項1に記載の腐食測定方法。
【請求項3】
前記金属板がくさび形であり、傾斜面全体が凹部形状を有する請求項1または2に記載の腐食測定方法。
【請求項4】
前記金属板が溝状の穴を有しており、更に該金属板の穴は、厚み方向から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有する請求項1または2に記載の腐食測定方法。
【請求項5】
前記金属板は、該金属板の厚み方向の投影図が円形である請求項1または2に記載の腐食測定方法。
【請求項6】
前記金属板が、耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されている請求項1から4のいずれか一項に記載の腐食測定方法。
【請求項7】
厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板が、耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されていることを特徴とする腐食環境ゲージ。
【請求項8】
前記金属板がくさび形である請求項7に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項9】
前記金属板は、該金属板の厚み方向の投影図が円形である請求項7または8に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項10】
前記金属板は、該金属板の表面がブラスト処理されている請求項7から9のいずれか一項に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項11】
前記耐食性樹脂体がポリエステル系樹脂体またはアクリル系樹脂体である請求項7から10のいずれか一項に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項12】
前記耐食性樹脂体が導電剤を含有する請求項7から11のいずれか一項に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項1】
厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板を測定環境中に置き、所定時間経過後の前記金属板の所定個所の後退長さを測定することを特徴とする腐食測定方法。
【請求項2】
前記所定個所が、前記金属板の最小厚み個所である請求項1に記載の腐食測定方法。
【請求項3】
前記金属板がくさび形であり、傾斜面全体が凹部形状を有する請求項1または2に記載の腐食測定方法。
【請求項4】
前記金属板が溝状の穴を有しており、更に該金属板の穴は、厚み方向から見た場合、台形であり、略均一な割合で傾斜面を有する請求項1または2に記載の腐食測定方法。
【請求項5】
前記金属板は、該金属板の厚み方向の投影図が円形である請求項1または2に記載の腐食測定方法。
【請求項6】
前記金属板が、耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されている請求項1から4のいずれか一項に記載の腐食測定方法。
【請求項7】
厚みが段階的または連続的に変化する個所を有する金属板が、耐食性樹脂体中に埋没されつつ一方面は露出されていることを特徴とする腐食環境ゲージ。
【請求項8】
前記金属板がくさび形である請求項7に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項9】
前記金属板は、該金属板の厚み方向の投影図が円形である請求項7または8に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項10】
前記金属板は、該金属板の表面がブラスト処理されている請求項7から9のいずれか一項に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項11】
前記耐食性樹脂体がポリエステル系樹脂体またはアクリル系樹脂体である請求項7から10のいずれか一項に記載の腐食環境ゲージ。
【請求項12】
前記耐食性樹脂体が導電剤を含有する請求項7から11のいずれか一項に記載の腐食環境ゲージ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2012−163554(P2012−163554A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−3387(P2012−3387)
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年1月11日(2012.1.11)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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