説明

腐食試験方法

【課題】実環境における腐食状態を再現でき、腐食を加速させて効率的に腐食試験を行うことができ、しかも特殊な試験装置を必要としない安価な腐食試験方法を提供する。
【解決手段】デシケータ等の密閉容器1内の下方に腐食性液体3を入れ、その腐食性液体3の液面より上の気中に試料4を配置し、この状態で密閉容器1を恒温槽2に収容し、ヒートサイクルを行う。恒温槽内の温度が上昇するときは、腐食性液体が蒸発して、気中に腐食性ガスが充満する。恒温槽の温度が下降するときは、気中の温度は比較的短時間で低下するが、液体の温度はすぐには低下しないため、試料の表面に、腐食性ガスの結露が発生し、腐食が効率よく進行する。試料表面の結露は、恒温槽内の温度が上昇ときに、乾燥し消失する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架空送電線などの金属試料の腐食試験方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属試料の腐食試験方法、特に架空送電線の腐食試験方法としては、JIS Z 2371に規定される塩水噴霧試験が一般的である。
【0003】
また、産業廃棄物処理場などの工場煤煙中には酸性物質が含まれている場合があり、このような酸性環境を模擬した腐食試験方法も考案されている。その一つは酸性液体を試料に噴霧する方法であり、もう一つは塩酸から蒸発した塩化水素ガス中に試料を暴露する方法である(特許文献1参照)。特に、塩化水素ガス中に試料を暴露する方法は、工場煤煙中における電線の耐食性を適切に評価することが可能である。
【0004】
【特許文献1】特開2001−147191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、産業廃棄物処理場などの工場煤煙にさらされた架空送電線が異常な早さで腐食し、断線に至る事故が報告されている。塩水噴霧試験はもともと臨海地域の海塩による腐食を模擬するために考案された腐食試験方法であり、上記のような酸性環境下における電線の耐食性を評価するには不適当である。
【0006】
また、酸性溶液を試料に直接噴霧する方法では、腐食によって発生した腐食生成物まで溶解してしまい、実環境を適切に再現することができない。
【0007】
塩化水素ガス中に試料を暴露する方法は、腐食形態の再現性はよいものの、湿度が低すぎて腐食速度が遅く、効率的に加速試験を行うことができない。
【0008】
特許文献1に開示されている方法は、実環境の再現性がよく、腐食速度も速いので、試験方法としては適当であるが、特殊な試験容器と2系統の湿度調節装置を必要とし、試験装置が特殊かつ高価であるという難点がある。
【0009】
そこで本発明の目的は、実環境における腐食状態を再現でき、腐食を加速させて効率的に腐食試験を行うことができ、しかも特殊な試験装置を必要としない安価な腐食試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る腐食試験方法は、密閉容器内の下方に腐食性液体を入れ、その腐食性液体の液面より上の気中に試料を配置し、この状態で密閉容器を恒温槽に収容し、ヒートサイクルを行うことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の試験方法において、腐食性液体と気中の最大温度差は5℃以上とすることが好ましい。
【0012】
また、本発明の試験方法において、気中の温度は5℃以上、90℃以下とすることが好ましい。
【0013】
また、本発明の試験方法においては、腐食性液体として、塩酸、硫酸又は苛性ソーダを用いることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、密閉容器内の下方に腐食性液体を入れ、その腐食性液体の液面より上の気中に試料を配置するため、恒温槽内の温度が低温から高温に移行するときは、腐食性液体の温度が上昇し、腐食性液体が少しずつ蒸発して、気中に腐食性ガスが充満する。その後、恒温槽の温度が高温から低温に移行するときは、気体よりも液体の方が熱容量が大きいことから、気中の温度は比較的短時間で低下するが、液体の温度はすぐには低下しない。その結果、気中では試料の表面に、腐食性ガスの結露が発生し、腐食が効率よく進行する。試料表面の結露は、その後、恒温槽内の温度が低温から高温に移行するときに、乾燥し消失する。
【0015】
このように本発明においては、腐食性液体を直接噴霧するのではなく、湿度の高い気中で腐食させるため、腐食生成物が溶液に洗い流されてしまうことがなく、実環境における腐食状態を再現できる。
【0016】
また、十分に湿度の高い状態をつくり出せるため、効率よく腐食させることができ、腐食速度を加速できる。
【0017】
また、試験に必要な機材は密閉容器と恒温槽のみであり、汎用品を使用できることから、試験を容易に安価に行うことができる。
【0018】
また、腐食性液体として酸性溶液を用いることができるので、海塩ではなく工場煤煙を模擬した腐食試験が可能である。
【0019】
また、架空送電線の試験の場合、実際の送電線における日中と夜間の温度差を再現することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の一実施形態を示す。この腐食試験方法では、デシケータなどの密閉容器1と、これを収容する恒温槽2を使用する。密閉容器1内の下方に腐食性液体3を入れ、この腐食性液体3の液面より上の気中に試料4を配置する。この状態で密閉容器1全体を恒温槽2に収容して、ヒートサイクルを行う。
【0021】
実施例では、腐食性液体3として6mol/lの塩酸溶液を使用し、塩化水素ガス腐食試験を行った。試料4はACSR160mm2である。恒温槽の設定温度を15℃×3時間←→40℃×3時間のサイクルで変化させたときの、塩酸溶液の温度(液相温度)と、液面より上の気中の温度(気相温度)を測定した結果を図2に示す。気相温度と液相温度を比較すると、熱容量の違いから、昇温時と降温時に最大8℃程度の温度差が生じている。この温度差により、昇温時には試料4が乾燥し、降温時には試料4に結露が発生する。
【0022】
図3は図2の条件でACSR160mm2を腐食させたときの孔食深さの測定結果を示す。なお、比較のため、液相と気相の最大温度差を3℃とした場合と、ヒートサイクルを行わずに温度差なしの場合の試験結果も併記した。また、図3と同じデータを、液相と気相の最大温度差に対する孔食深さの関係で表すと図4のようになる。これらの結果によれば、液相と気相の最大温度差が3℃の条件及び温度差なしの条件では腐食がほとんど進行しないのに対し、温度差5℃位から腐食の進行速度が速くなり、温度差8℃の条件では試料が十分に湿潤し、効率よく腐食が進行することが分かる。したがってヒートサイクルの温度及び周期は液相と気相の最大温度差が5℃以上となるように設定することが好ましい。
【0023】
また、腐食サンプルの断面を調査した結果では、実環境における腐食電線の断面と似ており、実際の腐食をよく再現していることを確認できた。
【0024】
上記の実施例では、産業廃棄物処理場からの煤煙を模擬して酸性溶液に塩酸を用いたが、実環境に合わせ、酸性雨模擬では硫酸溶液を用いてもよく、火山性ガスによる腐食を再現する場合には苛性ソーダ溶液を用いてもよい。溶液濃度は実環境を考慮して選定すればよい。
【0025】
ヒートサイクルにおける気中の温度は実環境に合わせればよいが、0℃以下では腐食性液体が凍結するおそれがあるため、5℃以上とすることが望ましい。また、高温側については試料の種類に応じて決めればよいが、ACSRを試料とする場合は、ACSRの連続耐熱温度である90℃以下にすることが妥当である。
【0026】
なお、ヒートサイクルの周期は、短すぎると気相の温度が追従できず、長すぎると気相と液相の温度差が生じにくいため、2〜4時間が適当である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る腐食試験方法の一実施形態を示す説明図。
【図2】図1の試験方法で、ヒートサイクルを加えたときの密閉容器内の液相温度と気相温度の測定結果を示すグラフ。
【図3】図2の温度条件で塩化水素ガス腐食試験を行ったときの腐食の進行度合を示すグラフ。
【図4】図3のデータを、液相と気相の最大温度差に対する孔食深さの関係で表したグラフ。
【符号の説明】
【0028】
1:密閉容器
2:恒温槽
3:腐食性液体
4:試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密閉容器内の下方に腐食性液体を入れ、その腐食性液体の液面より上の気中に試料を配置し、この状態で密閉容器を恒温槽に収容し、ヒートサイクルを行うことを特徴とする腐食試験方法。
【請求項2】
腐食性液体と気中の最大温度差を5℃以上とすることを特徴とする請求項1記載の腐食試験方法。
【請求項3】
気中の温度を5℃以上、90℃以下とすることを特徴とする請求項2記載の腐食試験方法。
【請求項4】
腐食性液体として、塩酸、硫酸又は苛性ソーダを用いることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の腐食試験方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−128763(P2008−128763A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312687(P2006−312687)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】