説明

腐食試験装置

【課題】 熱交換機用部材の耐食性を評価する腐食試験を自然環境に近い条件で迅速に行うことができ、かつ、コンパクトな腐食試験装置を提供する。
【解決手段】 本腐食試験装置は、腐食液に浸漬された試験片の表面に衝突噴流を与える腐食液噴射手段と、該腐食液噴射手段に腐食液を供給する腐食液供給手段と、腐食液の温度を制御する冷却・加熱手段と、試験片の温度を制御する冷却又は加熱手段を有し、前記腐食液供給手段は、試験片表面とノズル先端の間のすきまを調整するノズル調整機構を備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自然環境以上に腐食が促進される条件下で腐食試験を行う腐食試験装置に係り、特に制御された腐食液温度及び試験片温度において衝突噴流を利用して腐食試験を行う腐食試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金、銅合金等は熱伝導率が高く加工性に優れることから熱交換器用部材として広く使用されている。このような熱交換器用部材は熱交換を行う流動媒体と長期間接触しているため、流動媒体を介して生じる腐食による損傷が問題になる。
【0003】
このような腐食問題に対し自然環境に近い条件で、迅速に熱交換器用部材の耐食性を評価をすることができる腐食試験装置が求められている。例えば、特許文献1及び2に自動車のラジエータ材料を検討するためのアルカリ性側腐食試験機が提案されている。特許文献3には、自動車エンジンに用いられるウォーターポンプやサーモスタット等のアルミニウム合金材料の耐食性を評価するための腐食試験装置が提案されている。すなわち、腐食液中に金属試験片を浸漬して、金属表面の腐食状況を調査する金属表面腐食試験 装置において、腐食液を強制循環させるとともに、該腐食液を金属試験片表面に向けて流出させて金属試験片表面に動圧を与えることを特徴とする強制対流下金属表面腐食試験装置が提案されている。
【0004】
さらに、特許文献4には、液化天然ガスのベーパライザの熱交換器用部材に用いられるAl合金材料の耐食性を評価するための腐食試験装置として、熱交換器が実際に受ける環境を模した模擬環境下で腐食試験ができるよう所定の温度の人工海水に浸漬した試験片を高速回転させる腐食試験装置が提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平11-209838号公報
【特許文献2】特開2000-96169号公報
【特許文献3】特開2001-133389号公報
【特許文献4】特開平11-106889号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記で提案されたような腐食試験装置は、腐食試験になお時間がかかり迅速な腐食試験ができないという問題がある。また、腐食試験装置が大がかりになりやすく簡便に腐食試験ができないという問題がある。
【0007】
本発明は、そのような問題点に鑑み、熱交換器用部材の耐食性を評価する腐食試験を自然環境に近い条件で迅速に行うことができ、かつ、コンパクトな腐食試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、腐食による損傷は腐食皮膜の形成、その被膜の破壊・剥離が繰り返され次々に腐食が進行することによって生じるということに注目し、腐食液の衝突噴流を利用することにより腐食皮膜の形成及び剥離が促進され迅速な腐食試験ができるという知見を得て本発明を完成させた。
【0009】
本発明に係る腐食試験装置は、腐食液に浸漬された試験片の表面に衝突噴流を与える腐食液噴射手段と、該腐食液噴射手段に腐食液を供給する腐食液供給手段と、腐食液の温度を制御する冷却・加熱手段と、試験片の温度を制御する冷却又は加熱手段とを有し、前記腐食液供給手段は、試験片とノズルの間のすきまを調整するノズル調整機構を備えてなる。
【0010】
上記発明においてノズル調整機構は、試験片保持手段を備えるロアーベースから離間して設けられたアッパーベースに、試験片に向けて腐食液を噴射させるノズルをその試験片に正対するように保持するとともに該試験片方向に前後進させる手段と、前記試験片と前記ノズルの間のすきまを測定するすきま測定手段とを設けてなるのが好ましい。
【0011】
また、試験片の温度を制御する冷却手段はペルチェ素子を利用するのが好ましく、また、腐食液に浸漬された試験片と対極との間に所定の電流を流すことができる電源装置を設けるのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る腐食試験装置は、コンパクトな装置であり、熱交換器用部材の耐食性を評価する腐食試験を自然環境に近い条件で迅速に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る腐食試験装置の一実施例を図1及び2に基づいて説明する。図1は、本腐食試験装置のレイアウトを説明する模式図で、図2は、腐食試験装置の腐食液噴射手段部分の拡大断面図を示す。図1に示すように、本腐食試験装置は、腐食液噴射手段10、腐食液供給手段6、腐食液の冷却・加熱手段4及び試験片の冷却手段20若しくは加熱手段25を有しており、所定温度に保持された試験片60の表面に所定温度の腐食液の衝突噴流を利用した腐食試験をすることができる。
【0014】
腐食液噴射手段10は、図1に示すように、ノズルの端部及び試験片60の表面部が腐食試験槽2内の腐食液に浸漬された状態に設置されている。そして図2に示すように、腐食液噴射手段10は、試験片60が保持されたロアーベース11と、ロアーベース11とねじ結合されロアーベース11から所定距離離間して設けられたアッパーベース12とを有し、ノズル15が試験片60に正対し、かつ、試験片60の方向に前後進可能なように構成されている。すわなち、ノズル15は、アッパーベース12に固定された調整ハンドル台13を介してアッパーベース12に回動自在に取り付けられた調整ハンドル14とねじ結合により連結されており、調整ハンドル14の回転によってノズル15は図2において上下に移動し、試験片60とノズル15の間のすきまを調整することができるように構成されている。なお、調整ハンドル14は、調整ハンドル台13とスナップリング35により回動自在に結合されている。
【0015】
試験片60とノズル15の間のすきまは、すきま測定手段18により測定される。すきま測定は、例えば、公知の変位計によりノズル15と一体に連結された配管17に固定された測定板181の図2において上下方向の移動量を測定して行う。このすきま測定手段18と上述のノズルのネジ調整とによるノズル調整機構により、試験片60とノズル15の間のすきまを高い精度、例えば0.1〜1mmの範囲で調整することができる。
【0016】
ノズル15は細孔151を有し、配管17を通じて供給される腐食液を試験片60の表面に噴射させることができる。細孔151の孔径は供給する腐食液の量、試験片60の腐食面の大きさ等に関係するが、1.0〜2.0mm程度が好ましい。
【0017】
配管17は、調整ハンドル14内を貫通しノズル15とねじ結合により結合され、配管17の先端部はノズル15の当接座面に密着固定されている。配管17とノズル15とのねじ結合部はシールテープを巻き付けるか、又はテーパネジにすることによりねじ部のシール性が確保されている。また、同様にノズル15とアッパーベース12間のシール性を確保するためオーリングシール33が設けられている。さらに、アッパーベース12と試験片60取付部間のシール性を確保するためガスケット31が設けられている。
【0018】
腐食液供給手段6は、図1に示すように、ポンプ41、流量調整弁42、流量計43及びそれらと腐食液が入れられた腐食試験槽2と恒温槽45とを連通する配管44からなる。ポンプ41、流量調整弁42、流量計43は公知のものを使用することができる。本腐食液供給手段6により、恒温槽45で所定の温度に制御された腐食液がポンプ41、流量調整弁42、流量計43を経て、所定流量腐食液噴射手段10に供給され、ノズル15により試験片60に噴射された後は腐食試験槽2を経て恒温槽45に戻り再循環に供される。
【0019】
腐食液の冷却・加熱手段4は、クーラー47及びヒーター46を備えるものがよい。これにより、試験片60の試験温度に関係なく恒温槽45内の腐食液を一定温度に保持することができる。しかしながら、腐食液の熱容量が大きく試験片60の熱容量が小さい場合等クーラー47又はヒーター46のみで腐食液の温度制御が可能な場合は、クーラー47又はヒーター46のいずれか一を備えるものでよい。クーラー47及びヒーター46は公知のものを使用することができる。
【0020】
試験片60の冷却手段20は、公知のものを使用することができる。しかしながら、冷却手段20としてペルチェ素子を用いると、コンパクトで温度制御が容易な試験片冷却手段20を構成することができる。図2にペルチェ素子を用いた実施例を示す。本例では、ペルチェ素子21はその上面を試験片60に密着させ、下面を水冷孔221を備えた冷却ブロック22に密着させ、ガスケット23及び押さえ蓋24を介しカバー16によりロアーベース11に取り付けられている。
【0021】
試験片60の加熱手段25は公知のものを使用することができる。例えば、公知のシースヒーターを組み込むことにより容易に加熱手段25を構成することができる。上記ペルチェ素子を利用することもできる。
【0022】
上述の構成により本腐食試験装置においては、ノズル15の細孔151の孔径を1.0〜2.0mm、試験片60とノズル15の間のすきまを0.1〜1mm、腐食液の流量を0.025〜1L/minとする条件下で、腐食液を試験片に噴射し衝突噴流による腐食試験を行うことができる。このような条件下では、衝突噴流による腐食皮膜の形成剥離の促進に加え、試験片60の中央部と外周部間にマクロセルが形成されるために、試験片60の中央部ではアノード反応が、外周部ではカソード反応が一層促進されるので迅速な腐食試験を行うことができる。なお、マクロセルは、腐食液が直接当たる試験片中央部と周辺部とで腐食液の流速が非常に異なることに起因して形成される。試験片60の中央部と周辺部との流速比は、例えば、試験片60の表面が直径16mmとすると約10倍になる。
【0023】
以上本腐食試験装置について説明したが、本発明は上記の実施例に限らない。例えば、
図1に示すように、ポテンショスタットのような電源装置50、対極51及び標準電極53を設けるのが好ましい。これにより、試験片60と対極51間に所定の電流を流して一層腐食を促進させることができるので迅速な腐食試験をすることができる。また、標準電極53及び試験片60の間の電位測定及び分極曲線の測定により試験片60の腐食状況を調査することができる。
【0024】
また、腐食液には空気を混入させるための手段を設けるのがよい。これにより自然環境により近い条件下で腐食試験を行うことができる。腐食液への空気混入は、例えば図1に示すように、コンプレッサーからの空気を空気供給管48を介して恒温槽45内の腐食液に供給することにより行うことができる。
【0025】
さらに、本腐食試験装置は、腐食液を腐食液噴射手段10の流路152からノズル15の細孔151、配管17に至る方向に逆循環させて腐食試験を行うように使用することができる。これにより、試験片60の中央部に渦が発生し、渦下での腐食試験を行うことができる。
【0026】
本腐食試験装置は腐食試験層2と恒温槽45を一体に設けることもでき、試験片60の交換を容易にするために腐食液噴射手段10の流路152内に図2に示すような切換弁19を設けることもできる。また、腐食液噴射手段10において、試験片60とノズル15の間のすきま調整を試験片60の方を前後進させる構造にすることもできる。しかし、一般には試験片側には試験片60に接触させて加熱・冷却手段4が設けられ複雑な構造になるので、上述のようにノズル15を前後進させる構造にする方が好ましい。
【0027】
なお、本腐食試験装置は、アルミニウム合金、銅合金等の熱交換器用部材の腐食試験用に限らず種々の材料の腐食試験にも使用することができる。例えば、鉄鋼材料の腐食試験に使用することもできる。
【実施例1】
【0028】
海水を利用して液化天然ガスを気化させるオープンラックベーパーライザーの熱交換器部分のアルミニウム合金の耐食性を評価する腐食試験を行った。腐食試験は実際の熱交換器部分の環境を模した条件で行った。すなわち、腐食試験装置は図1及び図2の構造のものを使用し、ノズルの細孔151の孔径は1.6mm、試験片60とノズル15の間のすきまは0.4mmとした。試験片60は、Al-Mg系A5083合金製の図1及び2に示すような段付き円柱形状とし、その腐食側表面の直径は16mm、全重量は約5gのものを用いた。腐食液は溶存酸素量6.9ppm(20℃において、DDK社製DOMETER DOL-10により測定した。)の人工海水(株式会社ヤシマ製金属腐食試験用アクアマリン、20L)を使用した。人工海水の流量は0.4L/minとし、温度は30℃、pHは8.2に保持した。試験片60はペルチェ素子表面部の温度で7℃(ペルチェ素子が試験片60に接する部分の表面温度を熱電対で測定した)に保持した。腐食試験時間は20hであった。なお、比較例として、特開平11-106889号公報に提案された装置と同様な腐食試験装置を用いて腐食試験を行った。
【0029】
耐食性の評価は、試験片60の質量損失の測定及び浸食深さの測定により行った。質量測定は、測定精度0.01gのMettler社製AE163を用い、浸食深さ測定は、東京精密株式会社製 表面粗さ形状測定機サーコム200Bを用いて行った。上記腐食試験の結果、本腐食試験装置によると質量欠損が1.01mgあり、試料表面の最大浸食深さは6μmであった。比較例による腐食試験装置では、質量欠損及び表面粗さの変化は測定できなかった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る腐食試験装置のレイアウトを説明する模式図である。
【図2】図1の腐食液噴射手段部分の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0031】
2 腐食試験槽
4 冷却・加熱手段
6 腐食液供給手段
10 腐食液噴射手段
11 ロアーベース
12 アッパーベース
13 調整ハンドル台
14 調整ハンドル
15 ノズル
151 細孔
16 カバー
17 配管
18 すきま測定手段
181 測定板
19 切換弁
20 冷却手段
21 ペルチェ素子
22 冷却ブロック
221 水冷孔
23 ガスケット
24 押さえ蓋
25 加熱手段
31 ガスケット
33 オーリングシール
35 スナップリング
41 ポンプ
42 流量調整弁
43 流量計
44 配管
45 恒温槽
46 ヒーター
47 クーラー
48 空気供給管
50 電源装置
51 対極
53 標準電極
60 試験片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食液に浸漬された試験片の表面に衝突噴流を与える腐食液噴射手段と、該腐食液噴射手段に腐食液を供給する腐食液供給手段と、腐食液の温度を制御する冷却・加熱手段と、試験片の温度を制御する冷却又は加熱手段とを有し、
前記腐食液供給手段は、試験片とノズルの間のすきまを調整するノズル調整機構を備えてなる腐食試験装置。
【請求項2】
ノズル調整機構は、
試験片保持手段を備えるロアーベースから離間して設けられたアッパーベースに、
試験片に向けて腐食液を噴射させるノズルをその試験片に正対するように保持するとともに該試験片方向に前後進させる手段と、
前記試験片と前記ノズルの間のすきまを測定するすきま測定手段とを設けてなる請求項1に記載の腐食試験装置。
【請求項3】
試験片の温度を制御する冷却手段はペルチェ素子を利用したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の腐食試験装置。
【請求項4】
腐食液に浸漬された試験片と対極との間に所定の電流を流すことができる電源装置を設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の腐食試験装置。

【図1】
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【図2】
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