説明

腐食試験装置

【課題】熱交換器用部材の耐食性を評価する腐食試験を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に行うことができるとともに、表面に犠牲防食金属層を有する部材について、犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果を評価する腐食試験を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に行うことができる腐食試験装置を提供する。
【解決手段】試験片Sを保持するロアーベース1と、腐食液噴射手段10を有するアッパーベース2と、腐食液噴射手段10に腐食液Wを供給する腐食液供給手段20と、腐食液Wを冷却および加熱する腐食液冷却加熱手段30と、腐食液流通隙間A2を形成する隙間調整手段40と、標準電極51を介して試験片Sの電位を測定する電位測定手段50と、を備え、電位測定手段50は、標準電極51が、開口溝部B1に沿って移動する移動手段Lを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に用いられるアルミニウム合金部材、特にアルミニウム合金表面に犠牲防食金属層を付与したアルミニウム合金部材の耐食性を評価する腐食試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アルミニウム合金、銅合金等は、熱伝導率が高く加工性が高いことから、熱交換器用部材として幅広く用いられている。このような熱交換器用部材は、熱交換を行う流動媒体(例えば海水や工業用水等)と長時間接触しているため、流動媒体を介して生じる腐食や流動による損傷が問題となっている。そこで、このような熱交換器用部材の耐食性を評価するため、従来から、種々の腐食試験装置が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ラジエータ材料等の自動車用熱交換器等に使用されるアルミニウム材料について、アルカリ環境中での耐食性を評価するためのアルカリ性エロージョン試験について提案されている。この試験では、アルカリ性腐食試験装置が用いられる。
【0004】
特許文献2には、自動車エンジンに用いられるウォーターポンプやサーモスタット等のアルミニウム合金材料の表面の耐食性を評価する強制対流下金属表面腐食試験装置について提案されている。この腐食試験装置は、腐食液中に金属試験片を浸漬して、腐食液を強制循環させるとともに、腐食液を金属試験片表面に向けて流出させて金属試験片表面に動圧を与えるものである。
【0005】
特許文献3には、熱交換器用部材の耐食性を迅速に評価できるコンパクトな腐食試験装置が提案されている。この腐食試験装置は、衝突噴流により水膜(腐食皮膜)の形成剥離を促進させることに加え、試験片の中央部と外周部間にマクロセルを形成させ、試験片表面の中央部でのアノード反応と、試験片の外周部でのカソード反応とを一層促進させることで、迅速な腐食試験を行うものである。
【0006】
特許文献4には、熱交換器の一種である液化天然ガスのベーパライザーに用いられるアルミニウム合金部材の耐食性を評価する腐食試験装置が提案されている。この腐食試験装置は、熱交換器が実際に受ける環境を模した模擬環境下での腐食試験ができるように、所定の温度の人工海水に浸漬した試験片を高速で回転させるものである。
【0007】
なお、特許文献5には、熱交換器用部材であるアルミニウム合金を基材(母材)とし、基材の耐食性向上の目的から、基材よりもイオン化傾向の高い犠牲防食金属(Al−Zn合金等)を溶射やクラッド等により基材表面層に形成させ、耐食性の向上を図る熱交換器用部材が記載されている。このような溶射による形成方法では、溶接接合部に溶射不足が生じたり、犠牲防食金属層の欠陥が生じたりすることで、その溶射不足や欠陥の部分が腐食損傷する可能性がある。また、クラッド材の場合、溶接時に犠牲防食金属を除去する必要があるため、その部位に別途防食処置を施すことが必要となる。
【特許文献1】特開平11−209838号公報
【特許文献2】特開2001−133389号公報
【特許文献3】特開2006−90712号公報
【特許文献4】特開平11−106889号公報
【特許文献5】特開平5−164496号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のアルミニウム合金部材の耐食性を評価する腐食試験装置では、以下に示す問題があった。
特許文献1に記載の腐食試験に用いる装置では、試験期間として1ヶ月を要するため、迅速に評価を行うことができないという問題があった。また、特許文献2に記載の腐食試験装置では、評価に168時間を要するため、迅速な評価を行うことができないという問題や、対流直下での腐食現象のみしか評価することができず、対流直下以外の部位における熱交換器用部材の腐食挙動の評価を行うことができないという問題があった。
【0009】
特許文献3に記載の腐食試験装置では、前記と同様に、対流直下での腐食現象のみしか評価することができず、対流直下以外の部位における熱交換器用部材の腐食挙動の評価を行うことができないという問題があった。また、特許文献4に記載の腐食試験装置では、前記と同様に、評価に1ヶ月を要するため、迅速な評価を行うことができないという問題があった。
【0010】
さらに、特許文献5に示すようなアルミニウム合金表面に犠牲防食金属層を付与した部材においては、溶接接合部等の犠牲防食金属欠陥部は、健全部よりも耐食性に劣ることが考えられる。しかし、特許文献5に記載の部材を用いて、従来の腐食試験装置で試験すると、犠牲防食金属がエロージョン、コロージョン等の現象により損耗や剥離を生じてアルミニウム合金基材が露出した場合、これらの部位における犠牲防食効果についての評価を行うことができないという問題があった。
【0011】
このように、前記提案されたような腐食試験装置では、一部の装置(特許文献3)を除き、腐食試験に多大な時間を要するため、迅速な評価を行うことができない。また、熱交換器用部材の耐食性を高めるために表面に犠牲防食金属層を有する部材について、犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果の評価を行える腐食試験装置はない。さらに、腐食試験装置によっては、腐食試験装置が大がかりになりやすく、簡便に試験を行うことができない場合があった。
【0012】
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、熱交換器用部材の耐食性を評価する腐食試験を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に行うことができるとともに、他の目的は、表面に犠牲防食金属層を有する部材について、犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果を評価する腐食試験を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に行うことができる腐食試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、熱交換器用部材の腐食による損傷は、水膜(腐食皮膜)の形成と、水膜の破壊・剥離とが繰り返されて生じるという腐食機構に着目し、特に、腐食液の噴射による衝突噴流により、水膜の形成および剥離が促進されることに着目した。さらに、可動式の標準電極を備えることにより、犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果について評価することができることを見出し、本発明を成すに至った。
【0014】
すなわち、本発明に係る腐食試験装置は、試験片の表面の一側に衝突噴流により与えられた腐食液が、前記試験片の表面の他側に向かって流通し、再び前記一側に衝突噴流により与えられるように循環する循環流路を介して、前記試験片の腐食試験を行う腐食試験装置であって、前記試験片を保持するロアーベースと、前記試験片の表面に衝突噴流を与える腐食液噴射手段を有するとともに、前記試験片の上方に対面する位置に所定幅で開口する開口溝部を形成したアッパーベースと、前記腐食液の循環流路中に設けられ、前記腐食液噴射手段に腐食液を供給する腐食液供給手段と、前記腐食液の循環流路中に設けられ、前記腐食液を冷却および加熱する腐食液冷却加熱手段と、前記ロアーベースとアッパーベースのどちらか一方を可動手段により上下方向に可動させ、前記ロアーベースとアッパーベースとを離間して、前記試験片の長手方向に沿って表面に腐食液を流通させる腐食液流通隙間を形成する隙間調整手段と、前記アッパーベースの開口溝部から、電位を測定するために電位が与えられる部位である標準電極を介して前記試験片の電位を測定する電位測定手段と、を備え、前記電位測定手段は、前記標準電極が、前記開口溝部に沿って移動する移動手段を有する構成とした。
【0015】
このような腐食試験装置によれば、腐食液冷却加熱手段により冷却および加熱された腐食液が、腐食液供給手段により、腐食液噴射手段に供給される。そして、この腐食液噴射手段により、試験片の表面に腐食液による衝突噴流が与えられた後、この腐食液が隙間調整手段により形成された腐食液流通隙間を流通し、再び腐食液冷却加熱手段に供給されることで腐食液が循環する。これにより、実機での腐食状態が再現される。そして、電位測定手段の標準電極により、試験片の所定位置に開口溝部に沿って移動して試験片の電位を測定できる。したがって、実機での腐食状態が再現された試験片の表面の電位が測定される。
【0016】
また、腐食試験装置は、前記試験片の温度を制御する試験片温度制御手段を備え、前記試験片温度制御手段は、前記ロアーベースにおいて前記試験片の裏面に対面する位置に、前記試験片の長さおよび幅より小さな所定幅で開口するベース開口溝部を介して、前記試験片に当接する第1試験片温度制御手段および第2試験片温度制御手段を有し、前記第1試験片温度制御手段は、前記腐食液が衝突噴流により与えられる前記試験片の裏面部位に当接して、前記裏面部位の温度を制御する第1冷却手段または第1加熱手段と、この第1冷却手段または第1加熱手段を支持する第1支持手段と、を備え、前記第2試験片温度制御手段は、前記標準電極を用いて電位を測定する前記試験片の他の裏面部位に当接して、前記他の裏面部位の温度を制御する第2冷却手段または第2加熱手段と、この第2冷却手段または第2加熱手段を支持する第2支持手段と、を備える構成とした。
【0017】
このような腐食試験装置によれば、第1冷却手段または第1加熱手段により、腐食液が衝突噴流により与えられる試験片の裏面部位が冷却または加熱され、第2冷却手段または第2加熱手段により、標準電極を用いて電位を測定する試験片の他の裏面部位が冷却または加熱される。これにより、試験片の部位の間に温度の差が発生し、実機における熱交換器用部材の温度差を再現することができる。
【0018】
また、前記試験片温度制御手段は、前記第2試験片温度制御手段を、前記ベース開口溝部に沿って移動させる制御移動手段を備えることが好ましい。そして、前記制御移動手段は、前記第2支持手段を前記ベース開口溝部に沿って直線方向に案内する案内部と、この案内部に案内される第2支持手段を前記直線方向に移動させる直線移動手段と、を有する構成とした。
【0019】
このような腐食試験装置によれば、制御移動手段により、第2支持手段が案内部の直線方向に沿って移動することで、第2試験片温度制御手段がベース開口溝部に沿って移動する。これにより、試験片の他の裏面部位の任意の部位を冷却または加熱することができ、実機における犠牲防食金属部と犠牲防食金属欠陥部における温度差を再現することができる。
【0020】
そして、試験片温度制御手段において、前記第1冷却手段および第2冷却手段は、ペルチェ素子であり、前記第1加熱手段および第2加熱手段は、シースヒーターであることが好ましい。
ペルチェ素子やシースヒーターを用いることで、試験片温度制御手段がコンパクトとなり、また、温度調整が容易となる。
【0021】
さらに、腐食試験装置は、前記ロアーベースを載置する載置台と、この載置台に設けられ、前記ロアーベースの載置された角度を調整して、前記試験片の表面を流通する前記腐食液の流速を制御する角度調整手段と、を備えることが好ましい。そして、前記角度調整手段は、前記腐食液流通隙間に直交する方向に軸線を配置して、前記載置台に設けられた支軸部と、この支軸部を支持する軸支持部と、前記支軸部を所定角度回転させて前記載置台を所定位置で固定する角度固定手段と、を有する。
【0022】
このような腐食試験装置によれば、角度調整手段は、載置台に設けられた支軸部を所定角度回転させることで、載置台を傾斜させる。そして、その傾斜させた状態で、角度固定手段により支軸部を固定して、ロアーベースを所定角度傾斜させた状態に固定する。これにより、ロアーベースの載置された角度が調整され、試験片の表面を流通する腐食液の流速が制御される。
【0023】
また、前記腐食液噴射手段は、前記試験片に向けて腐食液を噴射させるノズルを前記試験片に対向するように保持するとともに、前記試験片方向に対して上下動させるノズル保持手段を有する構成とした。
このような腐食試験装置によれば、ノズルを試験片方向に対して上下動させることで、試験片とノズルとの隙間が調整される。これにより、試験片に対する衝突噴流の圧力が調整される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の請求項1に係る腐食試験装置によれば、熱交換器用部材の耐食性を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に評価することができる。また、犠牲防食金属層を形成した熱交換器用部材の犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に評価することができる。さらに、腐食試験装置を大がかりにする必要がないため、腐食試験を簡便に行うことができ、また、コストの低減を図ることができる。
【0025】
本発明の請求項2に係る腐食試験装置によれば、腐食液が衝突噴流により与えられる試験片の裏面部位と、試験片の他の裏面部位との間に温度の差を発生させることができる。これにより、実機における試験片の温度差を再現することができる。そのため、より実際の環境に近い条件で、熱交換器用部材の耐食性を、迅速・簡便に評価することができる。
【0026】
本発明の請求項3に係る腐食試験装置によれば、前記第2試験片温度制御手段を移動させることができ、試験片の任意の部位の温度を制御することができる。これにより、犠牲防食金属層を形成した熱交換器用部材を用いた実機において、犠牲防食金属部と犠牲防食金属欠陥部における温度差を再現することができる。そのため、より実際の環境に近い条件で、犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果を評価することができる。
【0027】
本発明の請求項4に係る腐食試験装置によれば、試験片温度制御手段をコンパクトに構成することができ、また、試験片の温度の調整を容易に行うことができる。
【0028】
本発明の請求項5に係る腐食試験装置によれば、試験片の表面における腐食液の流れを制御することができるため、試験片の水膜厚さを制御することができる。さらに、試験片の表面における腐食液の流れを制御することができるため、不要な対流を防止することができる。これにより、腐食液が衝突噴流により与えられる試験片の部位(以下、適宜、噴流直下という)と、各電位測定部位との間で電位の勾配を起こすことができ、より実際の環境に近い条件で腐食試験を行うことができる。
【0029】
本発明の請求項6に係る腐食試験装置によれば、試験片とノズルとの隙間を調整することで、試験片に対する衝突噴流の圧力を調整することができる。これにより、実機における海水の散布量の違い(多い、少ない)を再現することができ、より実際の環境に近い条件で腐食試験を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、図面を参照して本発明に係る腐食試験装置ついて詳細に説明する。なお、参照する図面において、図1は、腐食試験装置を構成する主要部を一部切欠いて模式的に示す斜視図、図2は、腐食試験装置の構成の概略を示す模式図、図3は、腐食試験装置を構成する主要部を模式的に示す断面図、図4は、腐食試験装置を構成する主要部を上方から見た際の、標準電極の動作を説明するための模式図、図5は、試験片温度制御手段の構成を模式的に示す斜視図、図6(a)、(b)は、角度調整手段による動作を説明するための模式図である。
【0031】
図1〜3に示すように、腐食試験装置100は、腐食液Wが循環する循環流路を介して、試験片Sの腐食試験を行うものであり、ロアーベース1と、腐食液噴射手段10を有するアッパーベース2と、腐食液供給手段20と、腐食液冷却加熱手段30と、隙間調整手段40と、電位測定手段50と、を主に備える。また、腐食試験装置100は、ここでは、試験片温度制御手段60、角度調整手段70を備えている。ただし、図1では、試験片温度制御手段60を備えない構成のものを示している。
以下、各構成について説明する。
【0032】
<ロアーベース、アッパーベース>
図1〜3に示すように、ロアーベース1は、試験片Sを保持するものであり、大きさは、長さが100〜1000mm程度、幅が50〜150mm程度、厚さが5〜30mm程度であり、この範囲で、適宜大きさを決定すればよい。また、ロアーベース1は、その縁を所定の長さ立ち上げており、この立ち上がりにより、ロアーベース1の縁の内側に、アッパーベース2を嵌め込む構成となっている。後記するように、ロアーベース1とアッパーベース2の間は、シール部材11をはめ込むことで、ロアーベースに載置した厚み分となる隙間を塞ぎ、腐食液Wが試験片Sの周囲から漏れないようにしている。なお、ロアーベース1は、縁の立ち上がりにより、腐食液Wの漏れの防止効果をさらに向上させることができる。
【0033】
アッパーベース2は、腐食液噴射手段10を有するとともに、試験片Sの上方に対面する位置に所定幅で開口する開口溝部B1を形成しており、大きさは、長さが100〜1000mm程度、幅が50〜150mm程度、厚さが5〜30mm程度であり、この範囲で、適宜大きさを決定すればよい。開口溝部B1は、後記するように、試験片Sの表面の電位を測定するために標準電極51を挿入するためのものであり、標準電極51が移動できるように、大きさは、長さが50〜900mm程度、幅が1〜10mm程度、厚さが5〜30mm程度であり、この範囲で、適宜大きさを決定すればよい。そして、ロアーベース1と、アッパーベース2は、後記するように、隙間調整手段40を介して結合されており、アッパーベース2は、隙間調整手段40により上下方向に可動し、ロアーベース1との間に後記する所定の隙間を形成する位置に設けることができる構成となっている。
なお、腐食試験装置100は、同様の機構を持つものであれば、適宜大きさを調整してもよい。
【0034】
<腐食液噴射手段>
腐食液噴射手段10は、試験片Sの表面に衝突噴流を与える手段である。
図3に示すように、腐食液噴射手段10は、試験片Sに向けて腐食液W(図2参照)を噴射させるノズル3を、試験片Sに対向するように保持するとともに、試験片S方向に対して上下動させるノズル保持手段を有している。すなわち、ノズル3は、アッパーベース2に固定された調整ねじ台4を介してアッパーベース2に回動自由に取りつけられた調整ねじ5と、ねじ結合により連結されている。そして、調整ねじ5の回転によってノズル3は上下に移動し、試験片Sとノズル3間の隙間であるノズル隙間A1を調整することができるように構成されている。
【0035】
このように構成することで、試験片Sに対してノズル3を上下させ、試験片Sに対する衝突噴流の圧力を調整することができる。圧力を調整することにより、実機における海水の散布量の違い(多い、少ない)を再現することができる。
【0036】
ノズル隙間A1は、ノズル高測定板6によって測定される。隙間測定の方法は、例えば、公知の変位計により、ノズル3と一体に連結された、配管7に固定されたノズル高測定板6の上下方向の移動量を測定すればよい。このノズル高測定板6とノズル3のねじ調整機構4、5により、ノズル隙間A1を高精度の範囲(例えば0.1〜1mm)で調整することができる。
【0037】
ノズル3の先端には細管8を有し、配管7を通して供給される腐食液Wを試験片Sの表面に噴射することができる。細管8の孔径は供給する腐食液Wの量、試験片Sの大きさにもよるが、1.0〜2.0mm程度が好ましい。
配管7は調整ねじ5内を貫通してノズル3とねじ結合により連結されており、配管7の先端はノズル3の当接座面に密着固定されている。配管7とノズル3のねじ結合部はシールテープを巻き付けるか、またはテーパーねじにすることにより、ねじ部のシール性が確保されている。また同様にノズル3とアッパーベース2との密着性を確保するためOリングシール9が設けられている。
【0038】
<腐食液供給手段>
図2に示すように、腐食液供給手段20は、腐食液Wの循環流路中に設けられ、腐食液噴射手段10に腐食液Wを供給する手段である。
腐食液供給手段20は、ポンプ21、流量調節バルブ22、流量計23、および、これらと腐食液Wが入れられた恒温槽24と、それらを連通する配管25a、25b、25cと、を主に有している。なお、ポンプ21、流量調節バルブ22、流量計23は公知のものを利用することができる。
【0039】
次に、循環流路を介した腐食液Wの循環について説明する。
腐食液供給手段20から供給された腐食液Wの試験片Sへの噴射においては、まず、腐食液供給手段20により、恒温槽24で所定の温度に調整された腐食液Wが、配管25a、ポンプ21、流量調節バルブ22、流量計23、配管25bを経て、所定流量が腐食液噴射手段10のノズル3(図3参照)に供給される。供給された腐食液Wは、配管7(図3参照)を通して、ノズル3から試験片Sに噴射される。この試験片Sに対する腐食液Wの噴射により、試験片Sの表面の一側に衝突噴流が与えられる。そして、試験片Sに噴射された後の腐食液Wは、試験片Sの表面の他側に向かって流通し、排水孔12(図3参照)から排出されて配管25cを経て、恒温槽24に戻る。この腐食液Wは再循環され、再び試験片Sの表面の一側に衝突噴流が与えられる。なお、腐食液Wの流量は、0.025〜1L/min程度が好ましい。このような機構により、試験片Sの表面は、腐食液Wに浸漬されている状態となっている。
【0040】
ここで、腐食液Wとしては、市販の人工海水を使用すればよく、例えば、20℃における溶存酸素量7.1ppmの人工海水等が挙げられる。また、NaCl溶液、NaCl+CaCl・2HO(pH3.0)等を用いることもできる。
【0041】
また、腐食液Wに気体を混入させるための手段を設けることが好ましい。例えば、ガス供給管26を備えることにより、恒温槽24中の腐食液Wに酸素や窒素、空気等を混入させることで、腐食液W中の気体成分が電位分布に与える影響についても併せて検討することができる。ガスの供給方法は通常の方法を用いればよい。例えば、酸素や窒素等を供給する場合は、これらガスが充填されたボンベ(図示省略)とガス供給管26を連結すればよく、また空気を供給する場合は、ガス供給管26に、例えばコンプレッサー(図示省略)等から供給される空気を通せばよい。
【0042】
<腐食液冷却加熱手段>
腐食液冷却加熱手段30は、腐食液Wの循環流路中に設けられ、腐食液Wを冷却および加熱する手段である。
腐食液Wを冷却および加熱する方法は、特に限定されるものではないが、図2に示すように、クーラー31およびヒーター32を用いることが好ましい。例えば、クーラー31およびヒーター32の伝熱線等を、恒温槽24を介して腐食液Wに接触させることで、腐食液Wの冷却および加熱を行えばよい。
【0043】
しかしながら、腐食液Wの熱容量が大きく、試験片Sの熱容量が小さい場合等、クーラー31またはヒーター32のみで腐食液Wの温度調整が可能な場合は、クーラー31またはヒーター32のいずれかを備えるものでもよい。なお、クーラー31およびヒーター32は、公知のものを利用することができる。これにより、試験片Sの温度に関係なく、恒温槽24内の腐食液Wを一定温度に保持することができる。
【0044】
<隙間調整手段>
図3に示すように、隙間調整手段40は、ロアーベース1とアッパーベース2のどちらか一方を可動手段により上下方向に可動させ、ロアーベース1とアッパーベース2とを離間して、試験片Sの長手方向に沿って表面に腐食液を流通させる腐食液流通隙間A2を形成する手段である。
【0045】
隙間調整手段40の上部突起41は、アッパーベース2に、隙間調整手段40の下部突起42は、ロアーベース1にそれぞれ取り付けられており、これら上部突起41、下部突起42同士は、ボルトとナットを用いた連結機構によって連結されて、可動手段を構成している。また、隙間調整手段40は、ロアーベース1およびアッパーベース2の左右に取り付けられている。そして、この可動手段(連結機構)を調整することで、アッパーベース2を可動させ、ロアーベース1とアッパーベース2とを所定距離離間して、ロアーベース1と、アッパーベース2との間に生じる隙間(試験片Sと、アッパーベース2との隙間である腐食液流通隙間A2)を調整する。生成した腐食液流通隙間A2の測定方法はノズル3の場合と同様に、公知の変位計を用いて、隙間調整手段40の上部突起41と、下部突起42の間の距離を測定すればよい。これにより、腐食液流通隙間A2を均一に調整することができる。
【0046】
なお、生成させる腐食液流通隙間A2の間隔は、0.1〜1.0mm程度が好ましい。なお、ロアーベース1と、アッパーベース2との間に生じる隙間において、試験片Sの表面上の腐食液流通隙間A2以外の部分は、腐食液Wが漏れないように、ロアーベース1と、アッパーベース2との間に生じる隙間分の厚さのシール部材(シールできる材質(ゴム等))11(図1参照)を嵌め込む。
【0047】
この腐食液流通隙間A2を腐食液Wが流通することにより、試験片Sの表面に水膜(腐食皮膜)が形成される。ここで、腐食液流通隙間A2を大きくすると、試験片Sの表面の腐食液Wの量が増えるため、試験片Sの表面の水膜が厚くなる。一方、腐食液流通隙間A2を小さくすると、試験片Sの表面の腐食液Wの量が減るため、試験片Sの表面の水膜が薄くなる。腐食液噴射手段10により、腐食液Wを試験片Sに噴射することで、衝突噴流により、水膜の形成・剥離が促進されるが、このように、腐食液流通隙間A2を調整することにより、試験片Sの表面に生成する水膜の厚さを制御することができる。そのため、実際の熱交換器部分の環境を種々想定し、当該環境を模した条件を再現することができる。
【0048】
なお、ここでは、アッパーベース2を可動式としているが、腐食液流通隙間A2の調整においては、ロアーベース1とアッパーベース2のどちらか一方を可動式とすればよい。すなわち、ロアーベース1を固定し、アッパーベース2を上下に移動させる構成としてもよく、また、アッパーベース2を固定し、ロアーベース1を上下に移動させる構成としてもよく、さらに、ロアーベース1、アッパーベース2の両者を、上下に移動させる構成としてもよい。
【0049】
<電位測定手段>
図2、4に示すように、電位測定手段50は、アッパーベース2の開口溝部B1から、電位を測定するために電位が与えられる部位である標準電極51を介して試験片Sの電位を測定する手段である。
【0050】
前記したように、腐食液噴射手段10により、腐食液Wを試験片Sに噴射することで、衝突噴流により、水膜の形成・剥離が促進される。また、これに加え、試験片Sの噴流直下とそれ以外の部分でマクロセルが形成され、噴流直下ではアノード反応が、他の部位ではカソード反応が一層促進される。また、犠牲防食金属層を形成した部材では、犠牲防食金属部ではアノード反応が、それ以外の犠牲防食金属欠陥部ではカソード反応が一層促進される。標準電極51により、このようにして生じた試験片Sの表面の電位分布を測定することができる。
【0051】
アッパーベース2の試験片Sの上方に対面する位置には、標準電極51の先端が挿入できるように、所定幅で開口した開口溝部B1が形成されている。この開口溝部B1に標準電極51を挿入し、標準電極51の先端の塩橋を水膜に近づけることで、試験片Sの表面の電位を測定する。なお、塩橋は、水膜および試験片Sには、接触させない。また、電位の測定に際しては、ポテンショスタットのような電源装置52を用いる。
【0052】
具体的には、図2に示すように、腐食液流通隙間A2内には、試験片Sに接触しないように、試験片Sの長手方向に沿って、対極54が配置されている。対極54の材質は、白金が好ましく、形状は、線状のものでよく、線を折り曲げたものでもよい。また、対極55の形状は、板状としてもよいが、後記するように、標準電極51の移動の妨げとならないように配置する。そして、電源装置52は、電極ボックス53、対極54および試験片Sに接続されており、電極ボックス53に連結された標準電極51により、試験片Sの表面の電位分布を測定する。なお、図1、3では、便宜上、対極54の記載は省略している。また、電位測定時には、水膜(腐食皮膜)は、除去せずにそのまま測定する。そして、標準電極51の本体は、例えば、針金をビニール樹脂で覆うことで折り曲げ可能とし、測定位置を微調整できるものとしてもよい。
【0053】
ここで、標準電極51は、開口溝部B1に沿って移動する移動手段を有する。この、移動手段により、標準電極51が、試験片Sの表面に沿って移動することができる。
図4に示すように、アッパーベース2における長手方向の側部の所定位置離れた場所には、移動手段としてのレールLが敷かれている。このレールL上には、標準電極51が連結された電極ボックス53が載置され、この電極ボックス53を移動させることで、標準電極51が、開口溝部B1に沿って移動する。なお、レールL上の移動は、手動で行う構成とすればよいが、電動式としてもよい。また、移動手段は、レールLを用いたものに限定されず、標準電極51が、開口溝部B1に沿って移動することができる構成のものであれば、どのようなものでもよく、例えば、ワイヤ等を用いたものでもよい。
【0054】
このようにして、試験片Sの表面に標準電極51を接近させ、標準電極51を開口溝部B1に沿って移動させることで、試験片Sの表面の電位分布を測定する。そして、標準電極51の移動により、試験片Sの任意の部位において、電位を測定することができる。また、表面に犠牲防食金属層を有する部材については、犠牲防食金属欠陥部における電位を測定することができ、犠牲防食金属により防食性を向上させた熱交換器用部材の犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果を評価することができる。
【0055】
そして、この電位を測定することにより、熱交換器用部材の耐食性を評価することができる。すなわち、噴流直下と、噴流直下から離れた部位の電位差から耐食性の評価を行う。例えば、表面に犠牲防食金属層を有する部材については、犠牲防食金属が存在する部位は、Al基材露出部(犠牲防食金属欠陥部)よりも電位が卑である。そのため、犠牲防食金属が存在する噴流直下の電位がAl基材露出部の電位よりも卑であれば、犠牲防食金属が正しく作用し、耐食性は良好であるといえる。なお、ここでの噴流直下の部位とは、試験片Sにおいて、腐食液噴射手段10により衝突噴流が与えられる側の標準電極51が移動できる最端の部位を含む範囲である。すなわち、衝突噴流が与えられる試験片Sの表面の部位から、約10mm離れた部位までの範囲をいう。
【0056】
<試験片温度制御手段>
図3、5に示すように、試験片温度制御手段60は、試験片Sの温度を制御する手段である。
試験片温度制御手段60は、ロアーベース1において試験片Sの裏面に対面する位置に、試験片Sの長さおよび幅より小さな所定幅で開口するベース開口溝部B2を介して、試験片Sに当接する第1試験片温度制御手段61aおよび第2試験片温度制御手段61bを有している。
【0057】
第1試験片温度制御手段61aは、第1冷却手段E1または第1加熱手段E1と、第1支持手段F1と、を備えている。第1冷却手段E1または第1加熱手段E1は、腐食液Wが衝突噴流により与えられる試験片Sの裏面部位に当接して、裏面部位の温度を制御するものであり、第1支持手段F1は、第1冷却手段E1または第1加熱手段E1を支持するものである。すなわち、第1支持手段F1内に、第1冷却手段E1または第1加熱手段E1が収納される構成となっている。
【0058】
第2試験片温度制御手段61bは、第2冷却手段E2または第2加熱手段E2と、第2支持手段F2と、を備えている。第2冷却手段E2または第2加熱手段E2は、標準電極51を用いて電位を測定する試験片Sの他の裏面部位に当接して、他の裏面部位の温度を制御するものであり、第2支持手段F2は、第2冷却手段E2または第2加熱手段E2を支持するものである。すなわち、第2支持手段F2内に第2冷却手段E2または第2加熱手段E2が収納される構成となっている。
【0059】
第1冷却手段E1および第2冷却手段E2により、試験片Sの裏面部位を冷却することができ、第1加熱手段E1および第2加熱手段E2により、試験片Sの裏面部位を加熱することができる。そのため、当該部位における試験片Sの表面部位も冷却または加熱され、温度が制御される。これにより、これらの部位に温度差を生じさせることができる。
【0060】
ここで、試験片温度制御手段60は、第2試験片温度制御手段61bを、ベース開口溝部B2に沿って移動させる制御移動手段G、Hを備えてもよい。
図5に示すように、制御移動手段G、Hは、ロアーベース1の底部に形成された案内部Gと、直線移動手段Hと、を有する構成となっている。また、ロアーベース1の側部には、側部開口部B3が形成されており、この側部開口部B3を介して、例えば、スティックのような直線移動手段Hが第2支持手段F2に連結されている。
【0061】
この直線移動手段Hを側部開口部B3に沿って直線方向に移動させると、案内部Gに嵌め込まれた第2支持手段F2が、案内部Gによりベース開口溝部B2に沿って直線方向に案内されて移動する。すなわち、第2支持手段F2が案内部Gに沿って移動する。この動作により、第2試験片温度制御手段61bがベース開口溝部B2に沿って移動する。
【0062】
なお、制御移動手段Hとしては、前記のようなスティックを用いた手動によるものの他、例えば、第2支持手段F2にモーターを接続して、電動により第2試験片温度制御手段61bを移動させる構成としてもよい。
【0063】
ここで、第1冷却手段E1および第2冷却手段E2、第1加熱手段E1および第2加熱手段E2としては、公知のものを使用することができるが、その中でも、例えば、第1冷却手段E1および第2冷却手段E2は、ペルチェ素子62a、62bであり、第1加熱手段E1および第2加熱手段E2は、シースヒーターであることが好ましい。
【0064】
試験片Sの温度冷却時の第1冷却手段E1および第2冷却手段E2として、ペルチェ素子62a、62bを、試験片Sの温度加熱時の第1加熱手段E1および第2加熱手段E2として、公知のシースヒーター等を用いると、コンパクトで温度調整が容易な試験片温度制御手段60を構成することができる。
【0065】
次に、図3を参照し、試験片温度制御手段60において、ペルチェ素子62a、62bを用いた場合について説明する。図3に示すように、ペルチェ素子62a、62bはその上面を試験片Sに当接させて密着させ、下面を、水冷孔63a、63bを備えた冷却ブロック64a、64bに密着させている。そして、冷却ブロック64a、64bの下部には、ガスケット65a、65b、および、押さえ蓋66a、66bが備えられており、これらは、第1支持手段F1、第2支持手段F2にそれぞれ収納されている。そして、試験片Sに密着したペルチェ素子62a、62bにより、試験片Sの当接部位が冷却される。なお、使用するペルチェ素子62a、62bとしては、特に限定されるものではなく、通常、コンピュータのCPU冷却、小型冷温庫、医療用冷却装置等に使用される構成のものを用いればよい。シースヒーターについても、通常、加熱に使用されるシースヒーターを用いればよい。
【0066】
このように、腐食液Wが衝突噴流により与えられる試験片Sの裏面部位に第1試験片温度制御手段61aを配置し、標準電極51を用いて電位を測定する試験片Sの他の裏面部位に第2試験片温度制御手段61bを配置することにより、これらの部位の間に温度の差を発生させることができる。これにより、実機における試験片Sの温度差を再現することができる。さらに、第2試験片温度制御手段61bを移動させることで、試験片Sの任意の部位の温度を制御することができ、実機における犠牲防食金属部と犠牲防食金属欠陥部における温度差を再現することができる。
【0067】
<角度調整手段>
図1、図6(a)、(b)に示すように、角度調整手段70は、ロアーベース1を載置する載置台Dに設けられ、ロアーベース1の載置された角度を調整して、試験片Sの表面を流通する腐食液W(図2参照)の流速を制御する手段である。
【0068】
腐食試験装置100には、載置台Dが備えられ、角度調整手段70は、この載置台Dに設けられた支軸部71と、軸支持部72と、角度固定手段73、74と、を有する。支軸部71は、腐食液流通隙間A2に直交する方向に軸線を配置して、載置台Dに設けられており、軸支持部72により支持されている。また、角度固定手段73、74は、角度調整つまみ73と、角度固定ねじ74と、からなり、支軸部71を所定角度回転させて載置台D(d2)を所定位置で固定する。
【0069】
角度調整手段70は、載置台D(d1、d2)に連結されている。なお、ここでは、載置台Dは、ロアーベース1が載置された載置台d2が、これらを支える載置台d1の内部に嵌め込まれた構成となっている。ロアーベース1の角度の調整は、まず、角度固定手段の角度調整つまみ73を0〜90°の任意の角度(α)に回転させ、支軸部71を所定角度回転させる。これにより、載置台d2が同角度(α)で傾斜する。すなわち、載置台d2上のロアーベース1が、αの角度だけ傾斜する。次に、角度固定手段の角度固定ねじ74を締めることにより、載置台D(d2)を傾斜した位置で固定する。なお、支軸部71を所定角度回転させて載置台D(d2)を所定位置で固定する角度固定手段73、74の機構としては、公知の構成のものを用いればよい。
【0070】
ロアーベース1の角度(傾斜角度)を調整することにより、ロアーベース1に保持された試験片Sの表面を流通する腐食液Wの流速を制御することができる。傾斜角度を大きくすると、その分だけ、腐食液Wの流れ(循環)が速くなり、試験片Sの表面に形成する水膜厚さが薄くなる。このようにして、試験片Sの水膜厚さを制御することができる。また、試験片Sの表面における腐食液Wの流速を制御することができるため、例えば、傾斜角度を10°以上とすることにより、腐食液Wの不要な対流を防止することができる。
【0071】
次に、腐食試験装置100の動作について、図1〜6を参照して説明する。
まず、試験片Sをロアーベース1に載置し、その上にアッパーベース2を配置する。その際、隙間調整手段40により、上部突起41と、下部突起42の間の距離を変位計で測定しながらアッパーベース2を上下方向に可動させ、腐食液流通隙間A2を所定の間隔に調整する。なお、腐食液流通隙間A2以外に生じる隙間の部分には、シール部材11を嵌め込む。
【0072】
次に、腐食液供給手段20の恒温槽24中で、腐食液冷却加熱手段30により予め所定の温度に調整した腐食液Wを、ポンプ21により、腐食液噴射手段10のノズル3に供給し、ノズル3により試験片Sの表面の一側(噴流直下)に衝突噴流を与える。なお、この際、流量調節バルブ22により、腐食液Wの流量を調整する。また、ノズル高測定板6の上下方向の移動量を変位計で測定して、ノズル隙間A1を調整し、衝突噴流の圧力を調整する。そして、この腐食液Wは、試験片Sの表面の他側に向かって流通し、排水孔12から排出されて恒温槽24に戻る。この腐食液Wは再循環して、再びノズル3に供給される。この腐食液Wの循環により、試験片Sの表面の水膜の形成および剥離が促進され、実機での腐食状態が再現される。
【0073】
なお、試験片温度制御手段60を用いる場合には、第1試験片温度制御手段61aの第1冷却手段E1または第1加熱手段E1により、試験片Sの噴流直下の裏面部位を冷却または加熱する。また、第2支持手段F2に連結されたスティックにより第2試験片温度制御手段61bを移動させ、第2冷却手段E2または第2加熱手段E2により、試験片Sの他の裏面部位を冷却または加熱する。このようにして、これらの部位に温度差を生じさせる。これにより、より実際の環境に近い条件で腐食状態が再現される。
【0074】
さらに、角度調整手段70を用いる場合には、まず、角度調整つまみ73を任意の角度(α)に回転させ、支軸部71を所定角度回転させて、載置台d2上のロアーベース1を、αの角度だけ傾斜させる。次に、角度固定ねじ74を締め、載置台d2を傾斜した位置で固定する。このようにして、ロアーベース1の載置された角度を調整して、試験片Sの表面を流通する腐食液Wの流速を制御する。これにより、より実際の環境に近い条件で腐食状態が再現される。
【0075】
このようにして、実機での腐食状態が再現された試験片Sの表面の電位を、電位測定手段50により測定する。電位の測定は、まず、試験片Sの噴流直下の電位を測定し、ポテンショスタット52により数値を確認する。次に、レールL上に載置された電極ボックス53を移動させることで、電極ボックス53に連結された標準電極51を開口溝部B1に沿って移動させ、試験片Sの他の部位の電位を測定する。この際、他の部位の電位の測定は、腐食試験の目的に合わせ、数箇所行ってもよい。このようにして、試験のデータを採取する。
【0076】
そして、採取したデータをもとに、噴流直下と、噴流直下から離れた部位の電位差を計算して電位勾配を調べ、試験片Sの耐食性の評価を行う。
このようにして腐食試験を行うことにより、熱交換器用部材の耐食性を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に評価することができる。
【0077】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。
例えば、本発明に係る腐食試験装置100は、アルミニウム合金、銅合金等の熱交換器用部材の腐食試験用に限らず、種々の材料の腐食試験にも使用することができる。例えば、鉄鋼材、ステンレス鋼材、炭素鋼材等の腐食試験にも使用することができる。
【実施例】
【0078】
次に、本発明に係る腐食試験装置について、実施例、比較例を挙げて具体的に説明する。
本実施例では、海水を利用して、液化天然ガスを気化させるオープンラックベーパライザーの熱交換器部分について、アルミニウム合金表面に犠牲防食金属(Al−2質量%Zn合金)を有する部材について、犠牲防食金属における犠牲防食金属欠陥部に与える影響について評価する腐食試験を行った。
【0079】
腐食試験は、実際の熱交換器部分の環境を模した条件で行った。すなわち、実施例として、腐食試験装置は、図1〜6の構成のものを使用し、ノズルの細管の孔径は1.6mm、試験片とノズルのすきまは0.4mm、腐食液流通隙間の間隔を0.2mmとした。また、角度調整手段により、アッパーベースの傾斜角度を0°、30°、60°とした。試験片はAl-Mg系A5083合金製の、長さ100mm×幅30mm×厚さ5mmのものを用い、試験片の端部から10mmまで(噴流直下に当たる部分)には犠牲防食金属(Al−2質量%Zn合金)を付与した。
【0080】
腐食液は、20℃における溶存酸素量7.1ppm(DDK社製 DOMETER DOL−10により測定した)の人工海水(ヤシマ社製 金属腐食試験用アクアマリン、20L)を使用した。人工海水の流量は0.4L/minとし、温度は30℃、pH8.2に保持した。試験片はペルチェ素子で冷却し、噴流直下(腐食液噴射手段により衝突噴流が与えられる側の標準電極が移動できる最端の部位)をペルチェ素子表面温度で−20℃、噴流直下から40mm、80mm離れた部位をペルチェ素子表面温度で10℃(それぞれペルチェ素子が試験片に接する部分の表面温度を熱電対で測定した)に保持した。
【0081】
比較例として、前記した特許文献3に提案されている装置と同様な腐食試験装置(従来装置)を用いて腐食試験を行った。なお、比較例に用いた試験片は、腐食面表面(試験片表面)の直径が16mmの円板を用い、中央部直径10mmに犠牲防食金属(Al−2質量%Zn合金)を付与した。
【0082】
試験片表面の電位の測定は、標準電極として飽和カロメル電極を用い、試験片表面の水膜(腐食膜)に塩橋を近づけ(試験片には接触させない)、試験片における噴流直下(腐食液噴射手段により衝突噴流が与えられる側の標準電極が移動できる最端の部位)と、噴流直下から40mm、および、80mm離れた部位の電位を測定した。なお、比較例の場合は試験装置、ならびに試験片形状の制約から、この装置での衝突噴流が与えられる部位から5mm離れた部位の電位を測定した。
【0083】
評価方法・基準は、噴流直下と、噴流直下から40mm、および、80mm離れた部位のそれぞれに電位差が見られ、かつ、電位勾配が見られたものを、犠牲防食金属欠陥部に与える影響について、流水下における犠牲防食金属の作用を正しく再現しているものとして、本実施例での評価が優良(◎)、噴流直下と、噴流直下から40mm、および、80mm離れた部位において、電位差が見られたものの、噴流直下から40mm離れた部位と、80mm離れた部位との間で、電位差が見られなかったものを、流水下における犠牲防食金属の作用を正しく再現しているものとして、本実施例での評価が良好(○)、1箇所の部位の電位しか測定することができず、電位分布を測定できなかったものを、本実施例での評価が不良(×)と判断した。
これらの結果を表1に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
表1に示すように、試験No.1〜3は、噴流直下と、その他の部位で電位差が見られ、流水下における犠牲防食金属の作用を正しく再現しているものとして、本実施例での評価が優良(◎)または良好(○)であった。なお、アッパロア傾斜手段により傾斜をかけた場合は、不要な対流の影響が出ず、電位の勾配が見られ、噴流直下から離れるにつれて電位差が大きかった。一方、試験No.4における試験装置の場合、1箇所の部位の電位しか測定することができず、電位の分布は測定できなかった。そのため、本実施例での評価が不良(×)であった。すなわち、従来装置では、表面に犠牲防食金属層を有する部材について、犠牲防食金属欠陥部と健全部との電位差に基づいて犠牲防食効果を評価する腐食試験を行うことはできない。
なお、本試験では、腐食試験を、約5時間で終了することができた。
【0086】
以上の結果から、本発明に係る腐食試験装置は、熱交換器用部材の耐食性を評価する腐食試験を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に行うことができるものであるといえる。また、表面に犠牲防食金属層を有する部材について、犠牲防食金属欠陥部における犠牲防食効果を評価する腐食試験を、実際の環境に近い条件で、迅速・簡便に行うことができるものであるといえる。
【0087】
以上、本発明に係る腐食試験装置について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて広く解釈しなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る腐食試験装置を構成する主要部を一部切欠いて模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明に係る腐食試験装置の構成の概略を示す模式図である。
【図3】本発明に係る腐食試験装置を構成する主要部を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る腐食試験装置を構成する主要部を上方から見た際の、標準電極の動作を説明するための模式図である。
【図5】本発明に係る腐食試験装置における試験片温度制御手段の構成を模式的に示す斜視図である。
【図6】(a)、(b)は、本発明に係る腐食試験装置における角度調整手段による動作を説明するための模式図である。
【符号の説明】
【0089】
1 ロアーベース
2 アッパーベース
10 腐食液噴射手段
20 腐食液供給手段
30 腐食液冷却加熱手段
40 隙間調整手段
41 上部突起(可動手段)
42 下部突起(可動手段)
50 電位測定手段
51 標準電極
52 電源装置(ポテンショスタット)
53 電極ボックス
54 対極
60 試験片温度制御手段
61a 第1試験片温度制御手段
61b 第2試験片温度制御手段
70 角度調整手段
71 支軸部
72 軸支持部
73 角度調整つまみ(角度固定手段)
74 角度固定ねじ(角度固定手段)
100 腐食試験装置
A1 ノズル隙間
A2 腐食液流通隙間
B1 開口溝部
B2 ベース開口溝部
B3 側部開口部
D、d1、d2 載置台
E1 第1冷却手段または第1加熱手段
E2 第2冷却手段または第2加熱手段
F1 第1支持手段
F2 第2支持手段
G 案内部(制御移動手段)
H 直線移動手段(制御移動手段)
L レール(移動手段)
S 試験片
W 腐食液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片の表面の一側に衝突噴流により与えられた腐食液が、前記試験片の表面の他側に向かって流通し、再び前記一側に衝突噴流により与えられるように循環する循環流路を介して、前記試験片の腐食試験を行う腐食試験装置であって、
前記試験片を保持するロアーベースと、
前記試験片の表面に衝突噴流を与える腐食液噴射手段を有するとともに、前記試験片の上方に対面する位置に所定幅で開口する開口溝部を形成したアッパーベースと、
前記腐食液の循環流路中に設けられ、前記腐食液噴射手段に腐食液を供給する腐食液供給手段と、
前記腐食液の循環流路中に設けられ、前記腐食液を冷却および加熱する腐食液冷却加熱手段と、
前記ロアーベースとアッパーベースのどちらか一方を可動手段により上下方向に可動させ、前記ロアーベースとアッパーベースとを離間して、前記試験片の長手方向に沿って表面に腐食液を流通させる腐食液流通隙間を形成する隙間調整手段と、
前記アッパーベースの開口溝部から、電位を測定するために電位が与えられる部位である標準電極を介して前記試験片の電位を測定する電位測定手段と、を備え、
前記電位測定手段は、前記標準電極が、前記開口溝部に沿って移動する移動手段を有することを特徴とする腐食試験装置。
【請求項2】
前記試験片の温度を制御する試験片温度制御手段を備え、
前記試験片温度制御手段は、前記ロアーベースにおいて前記試験片の裏面に対面する位置に、前記試験片の長さおよび幅より小さな所定幅で開口するベース開口溝部を介して、前記試験片に当接する第1試験片温度制御手段および第2試験片温度制御手段を有し、
前記第1試験片温度制御手段は、前記腐食液が衝突噴流により与えられる前記試験片の裏面部位に当接して、前記裏面部位の温度を制御する第1冷却手段または第1加熱手段と、この第1冷却手段または第1加熱手段を支持する第1支持手段と、を備え、
前記第2試験片温度制御手段は、前記標準電極を用いて電位を測定する前記試験片の他の裏面部位に当接して、前記他の裏面部位の温度を制御する第2冷却手段または第2加熱手段と、この第2冷却手段または第2加熱手段を支持する第2支持手段と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の腐食試験装置。
【請求項3】
前記試験片温度制御手段は、前記第2試験片温度制御手段を、前記ベース開口溝部に沿って移動させる制御移動手段を備え、
前記制御移動手段は、前記第2支持手段を前記ベース開口溝部に沿って直線方向に案内する案内部と、この案内部に案内される第2支持手段を前記直線方向に移動させる直線移動手段と、を有することを特徴とする請求項2に記載の腐食試験装置。
【請求項4】
前記第1冷却手段および第2冷却手段は、ペルチェ素子であり、前記第1加熱手段および第2加熱手段は、シースヒーターであることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の腐食試験装置。
【請求項5】
前記ロアーベースを載置する載置台と、この載置台に設けられ、前記ロアーベースの載置された角度を調整して、前記試験片の表面を流通する前記腐食液の流速を制御する角度調整手段と、を備え、
前記角度調整手段は、前記腐食液流通隙間に直交する方向に軸線を配置して、前記載置台に設けられた支軸部と、この支軸部を支持する軸支持部と、前記支軸部を所定角度回転させて前記載置台を所定位置で固定する角度固定手段と、を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の腐食試験装置。
【請求項6】
前記腐食液噴射手段は、前記試験片に向けて腐食液を噴射させるノズルを前記試験片に対向するように保持するとともに、前記試験片方向に対して上下動させるノズル保持手段を有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の腐食試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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