説明

腐食防止剤のナノレザーバーを含む腐食防止顔料

本発明は、金属製品及び構造の有効な腐食保護のための腐食防止剤のナノスケールなレザーバー(ナノレザーバー)を含む腐食防止顔料であって、ナノレザーバーは、特定のトリガーに敏感に反応し、前記トリガーの作用後に前記防止剤を放出することのできるポリマー若しくは高分子電解質を含む腐食防止顔料を提供する。また、本発明によって、前記顔料を含む自己修復性耐腐食被覆、前記顔料の調製方法、特に、交互積層堆積法並びに前記顔料の使用方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
発明の背景
金属の腐食は、多大な経済的損失をもたらす金属構造の主要な破壊プロセスの一つである。通常ポリマー被覆系が金属表面上に適用され、腐食攻撃から金属構造を保護するために、腐食性の化学種のための稠密なバリヤを提供する。バリヤが損傷され、腐食剤が金属表面に浸透すると、被覆系は腐食プロセスを止めることはできない。金属の有効な保護のための耐腐食性被覆のためにこれまでに開発された最も有効な解決策は、クロム酸塩含有化成被覆を使用することである。しかしながら、六価クロム化学種は、DNA損傷や癌を含むいくつかの疾病の原因であり得、これが、欧州において2007年からCr6+含有耐腐食被覆を禁止する主要な理由である。
【0002】
金属表面上の薄い無機若しくはハイブリッド膜の堆積は、腐食化学種のための追加的バリヤを提供し、主にポリマー被覆系での金属間の接着を改善するための前処理として提案された。膜は、通常プラズマ重合技術若しくはゾルゲル法により堆積される。無機物(燐酸塩、バナジウム酸塩、硼酸塩、セリウム及びモリブデン化合物)若しくは有機物(フェニルホスホン酸、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール、トリアゾール)の何れかを含むゾルゲル由来の薄膜は、クロム酸塩を代替するために調査された。とりわけ、最も高活性のものは、0.2〜0.6重量%の範囲の臨界的濃度のセリウムドーパントを有するゾルゲル被覆に対して示される。しかしながら、ゾルゲルマトリックス中に封入された遊離防止剤の、保護膜の安定性に対する負の作用は、あらゆる型の防止剤に対して観察された(例えば、Ceのより高い濃度は、ゾルゲル膜での微小孔の形成をもたらす。)。この欠点を考慮して、レザーバー内部で遊離した形で腐食防止剤を提供し、そのゾルゲルマトリックスとの直接的相互作用を妨害するレザーバーの使用が考えられた。このようなレザーバーは、膜マトリクス中に均一に分配されるべきであるし、腐食欠陥を治癒するための制御され、腐食で励起される防止剤放出性を有さねばならない。
【0003】
混合酸化物ナノ粒子(例えば、ZrO2-CeO2;M.L.Zheludkevich, R. Serra, M.F. Montemor, M.G.S. Ferreira, Electrochem. Commun. 2005, 8, 836)、β-シクロデキストリン防止剤複合体(A.N. Khramov, N.N. Voevodin, V.N. Balbyshev, M.S. Donley, Thin Solid Films 2004, 447, 549)、中空ポリプロピレン繊維(C. M. Dry, M. J. T. Corsaw, Cement and Concrete Research 1998, 28, 1133)、導電性ポリアニリン(M. Kendig, M. Hon, L. Warren, Prog. Org. Coat. 2003, 47, 183)が、保護膜に組み込まれる腐食防止剤のための見込まれるレザーバーとして調査された。このようなレザーバーを基にしたアプローチの共通のメカニズムは、腐食プロセスによりトリガーされる防止剤の緩慢な放出である。イオン交換体が、腐食防止剤の「スマート」なレザーバーとして調査もさた。化学的に合成されたハイドロカルマイトは、亜硝酸抑制陰イオンを放出する腐食性塩化物イオンを吸収する陰イオン交換体として働く(H. Tatematsu, T. Sasaki, Cement & Concrete Composites 2003, 25, 123)。
【0004】
新たな複合耐腐食系の開発に没頭した多量の努力にもかかわらず、実際的にどのような単独の解決も、特に飛行機用途のために使用されるアルミニウム合金の場合に、被覆中のクロム酸塩を回避する、十分な腐食保護のための要請を達成することはできない。これまでに開発された防止剤化学種と被覆マトリックスとを結合するアプローチは、2つのかなりの欠陥を有する。比較的短期間の基板保護、その物理的及び機械的性質を劣化する被覆の膨れと層剥離、バリヤー層の破壊(しばしば、モリブデン酸塩及び硼酸塩で見られる)である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、特に、自己修復能力を有する、新規で有効で広く適用可能な、有効な腐食保護を提供するための手段を提供することである。
【0006】
前記課題は、特定のトリガーに敏感に反応し、前記トリガーの作用後に前記防止剤を放出することのできるポリマー若しくは高分子電解質シェルを含む腐食防止剤のナノスケールレザーバーを含む現在の請求項1乃至18による腐食防止顔料を提供することによって、本発明により解決される。本発明の関連する面は、請求項19乃至21による前記顔料を含む被覆、請求項22乃至26による前記顔料を調製するための方法及び請求項27及び28による前記顔料の適用方法である。
【0007】
発明の説明
本発明は、特に、基板表面上への、溶液からの反対に荷電した化学種(高分子電解質、ナノ粒子、酵素、デンドリマー)の交互積層(LbL)堆積の近年発展した技術(G. Decher, J.D. Hong, J. Schmitt, Thin Solid Films 1992, 210/211, 831, and G. Decher, Science 1997, 277, 1232)は、ナノメーター厚さの正確さで集積した、調節された貯蔵/放出性能を有する腐食防止剤レザーバーを調製するための非常に有効な方法に相当する、という驚くべき発見に基づいている。
【0008】
LbL被覆は、フォトニクス(光学フィルター、ルミネセント被覆)、電子触媒(DNA転移用電極、酵素触媒酸化)において、メンブレン及び化学反応器として関心を呼んだが、腐食保護被覆の分野では使用されることはなかった。
【0009】
本発明者の研究は、ナノスケールのレザーバー(「ナノレザーバー」)即ち、例えば、上記参照のLbL堆積技術により製造される高分子電解質多重層からなるポリマー若しくは高分子電解質シェルを含む、1〜1000nmの範囲の平均寸法を有するレザーバーは、多くの利点を提供することを明らかにした。このようなレザーバーは、被覆の安定性に対する腐食防止剤の任意の負の作用を防止することができ、防止剤に関する被覆重合の影響を減少することができ、腐食防止剤のインテリジェントな放出を提供することができる。なぜならば、例えば、高分子電解質集積体を含む本発明のナノレザーバーの透過度は、pH、イオン強度、湿度、光、温度の変化のような外部刺激若しくはトリガーにそれらを暴露することにより、又は磁場或いは電磁場の適用により、調整することができる。pHの変化は、よく知られるように、腐食活性が、陰極及び陽極領域でのpHの局所的変化をもたらすことから、腐食保護系のためのトリガーとして好ましい。高分子電解質レザーバーを含む「スマート」な被覆は、腐食防止剤を生み出すための腐食反応を使用することもできる。
【0010】
本発明の腐食防止顔料のためのナノレザーバー或いはナノ容器は、特定のトリガーに敏感に反応し前記トリガーの作用の後前記防止剤を放出することができるポリマー若しくは高分子電解質シェルにより特徴付けられる。ポリマー(例えば、ゼラチン)若しくは高分子電解質(例えば、ポリ(アリルアミン)/ポリ(スチレンスルホナート))は、防止剤(例えば、キナルジン酸、メルカプトベンゾトリアゾール)が封入されるナノスケールのカプセルを形成することができるし、例えば、金属、金属酸化物ナノ粒子のようなナノ粒子、ナノチューブ、例えば、金属酸化物或いはカーボンナノチューブ、ハロイサイト(天然由来のアルミノ珪酸塩ナノチューブ)、のようなナノスケールの固体基体上に被覆を形成することができる。特定の具体例では、固体基体は、中空若しくは多孔、例えば、中空若しくは多孔ナノ粒子でありうるし、防止剤は、その空隙或いは孔に組み込まれ得る。しかしながら、本発明の好ましい具体例では、防止剤は、ポリマー若しくは高分子電解質のシェル自体に組み込まれる。このように、固体基体は、前記ポリマー若しくは高分子電解質シェルのための担体として単に使用されてもよい。
【0011】
それゆえ、固体基体は、前記ポリマー若しくは高分子電解質シェルにより被覆されることがき、通常使用される被覆組成物への組み込みのために適する任意の材料であり得る。
【0012】
限定するものではないが、適切な基体のための具体例は、SiO、ZrO、TiO、CeOのナノ粒子である。
【0013】
本発明の特定の具体例においては、ナノレザーバーは、ゾルゲル系耐腐食系(例えば、SiO/ZrO、CeO/TiO、ZrO/In、ZrO/Alのゾルゲル系)で使用されるべきである。この場合、それらは、マトリックスのゆがみを防止するためにゾルゲルマトリックス材料と適合性であらねばならないし、マトリックス中に添加される防止剤化学種を均一に分配するために適切なナノスケールサイズを有さねばならない。特に、LbLアプローチにより構築されるナノスケール構造は、非常に良好な仕方で、これら要請を満足することができる。
【0014】
本発明のナノレザーバーのポリマー若しくは高分子電解質シェルは、トリガーに敏感に反応し、前記トリガーの作用の後に防止剤化合物を放出することのできる任意の適切なポリマー若しくは高分子電解質の1以上の層を含み得る。更に、具体的には、ポリマー若しくは高分子電解質は、ポリ(アルキレンイミン)、例えば、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(スチレンスルホナート)、ポリ(アリルアミン)、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリスチレン、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルピリジン)並びにゼラチン、アガロース、セルロース、アルギン酸、デキストラン、カゼイン、ポリアルギニン、ポリグリシン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸のようなバイオポリマー及びポリアミノ酸から成る群より選択され得る。他の適切なポリマーは当業者には自明であろうし、例えば、上記ポリマー/高分子電解質を変性することにより、又は他のポリマー/高分子電解質に、当分野でよく知られた方法により特定の置換基をしかるべく導入することにより得ることができる。これら基は、ポリマー/高分子電解質に、規定された親水性、疎水性、荷電性、強度、特定のトリガーに対する感受性等のような特定の所望の性質を付与することができる。ポリマー/高分子電解質はまた、コポリマー若しくは上記ポリマー或いは高分子電解質のコポリマー或いはブレンドのような適切なポリマー/高分子電解質のコポリマー或いはブレンドをも含むことができる。本発明の特定の具体例では、高分子電解質シェルは、例えば、ポリ(エチレンイミン)のような正に荷電した高分子電解質及び例えば、ポリ(スチレンスルホナート)のような負に荷電した高分子電解質の交互の層を含む。
【0015】
ポリマー若しくは高分子電解質シェルは、好ましくは交互積層集積により調製されるが、表面重合(G. Sakellariou, M. Park, R. Advincula, J.W. Mays, N. Hadjichristidis, J. Polym. Sci. A 2006, 44, 769)、表面堆積(A. Balakumar, A.B. Lysenko, C. Carcel, V.L. Malinovskii et. al. J. Org. Chem. 2004, 69, 1435)若しくは自己集積技術(J.L. Turner, M.L. Becker, X.X. Li, J.S.A. Taylor, K.L. Wooley Soft Matter, 2005, 1, 69)のような先行技術の他の適切な技術により調製することもできる。
【0016】
本発明の腐食防止顔料のナノレザーバーに貯蔵されるべき腐食防止剤は、意図する目的のために適する先行技術で知られる任意の腐食防止剤であってよい。防止剤の選択は、保護されるべき特定の金属製品及び構造並びに腐食保護製品の環境条件と操業条件及び当業者に自明であろうファクターに依存するだろう。
【0017】
更に具体的には、腐食防止剤は、例えば、1以上のアミノ基を含む有機化合物、アゾール誘導体化合物、1以上のカルボキシル基或いはカルボン酸塩を含む有機化合物、1以上のピリジニウム或いはピラジン基を含む有機化合物及び1以上のシッフ塩基を含む化合物から成る群より選択される有機化合物を含むことができる。
【0018】
好ましい具体例では、腐食防止剤は、ベンゾトリアゾール或いはその誘導体である。
【0019】
また、防止剤は、ピロ燐酸イオン(P2−)、亜硝酸イオン(NO)、珪酸イオン(SO2−)、モリブデン酸イオン(MoO2−)、硼酸イオン(BO3−)、ヨード酸イオン(IO)、過マンガン酸イオン(MnO)、タングステン酸イオン(WO2−)及びバナジウム酸イオン(VO)を含む群より選択される1以上の陰イオンを含むことができる。
【0020】
防止剤は、ランタニド、マグネシウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、クロム及び銀を含む群より選択される1以上の金属の陽イオンを含むこともできる。
【0021】
防止剤は、上記特定されたクラスの防止剤から選択される2以上の化合物を含むこともできる。
【0022】
既に言及したように、ポリマー若しくは高分子電解質シェルに封入或いは組み込まれた防止剤の放出を引き起こさせる特定のトリガー若しくは刺激は、特定のポリマー若しくは高分子電解質シェルが反応を示すことが知られているいくつかの刺激の任意の1つであってよい。典型的なトリガーは、pH、イオン強度、温度、湿気或いは水分、光、機械的応力若しくは磁場或いは電磁場の変化である。好ましいトリガーは、pH変化である。
【0023】
本発明の腐食防止剤顔料は、特に粉末若しくは懸濁液の形での、前処理物(金属表面上の当初結合層)、プライマー、ポリマー被覆処方、粉末被覆、塗料及びコンクリートへ添加されることができる。
【0024】
本発明の顔料の追加的耐腐食性用途は、当業者には自明であろうし、同様に本発明に包含される。
【0025】
例1
本発明の具体例において、モデル金属基板としてのアルミニウム合金AA2024上に堆積された、ハイブリッドエポキシ官能化ZrO/SiOゾルゲル被覆中に閉じ込められた交互積層集積ナノレザーバーの耐腐食及び自己修復作用が、調査された。ポリ(エチレンイミン)/ポリ(スチレンスルホナート)(PEI/PSS)層で被覆された70nmのSiO粒子が、ナノレザーバーとして使用された。腐食防止剤ベンゾトリアゾールが、LbL集積工程で高分子電解質多重層内に取り込まれ、その放出は、アルミニウム合金の腐食中のpH変化により開始されることができる。
【0026】
SiOナノ粒子は、その構造を保存するハイブリッドシリカ系ゾルゲルマトリックス内部に組み込まれるその能力のせいで、ベンゾトリアゾールのための支持母体として選ばれた。防止剤添加高分子電解質シュルを製造するために、大きな高分子電解質分子と小さなベンゾトリアゾール分子の双方のための交互積層堆積方法が引き続き行われた。SiOナノ粒子は、負に荷電しており、正のPEIの吸着が第1工程でなされた(20mlの15重量%のSiOコロイド溶液と3mlの2mg/mlのPEI溶液の混合と、15分間の熟成)(図1)。得られた複合ナノ粒子の洗浄が、各吸着工程後、蒸留水によりなされた。その後、第2の負の層の吸着が0.5MのNaCl中の2mg/mlのPSS溶液中から実行された。ベンゾトリアゾールは、中性pHで僅かに水に可溶性であり、第3の防止剤層の吸着は、pH=3の10mg/ml溶液で酸性媒体溶液から成し遂げられた。PSS/ベンゾトリアゾール吸着は、LbL構造中の防止剤の添加を増加するために繰り返された。最終のナノレザーバーは、SiO/PEI/PSS/ベンゾトリアゾール/PSS/ベンゾトリアゾール層構造を有した(図1)。2つの吸着工程後での上澄み溶液中に残された防止剤の量を考慮すると、得られたSiO系ナノレザーバー中のベンゾトリアゾールの含有量は、1gのSiOナノ粒子につき約95mgと見積もられる。
【0027】
当初のSiOナノ粒子のζ電位は、負である(図2a)。電気泳動測定は、各添加層上への吸着された高分子電解質若しくは防止剤層で被覆されたナノ粒子の荷電を示している。図2aは、第1のPEI層の堆積後の劇的な表面電荷の増加(+65mV)と引き続く次工程のPSS吸着後の同様の減少(−68mV)を示している。ベンゾトリアゾール堆積は、表面の完全な再荷電なしで、より正のζ電位(−5mV)をもたらす。ナノ粒子とPSS若しくはベンゾトリアゾール最外層との間のζ電位の相違は、第2のPSS/ベンゾトリアゾール2分子層の堆積を更に減少する。これは、層成分の相異なる分子量とサイズに起因する。PEI若しくはPSSの大きな多重荷電された鎖は、より強い静電気力を有し、表面を再荷電するに十分な量で吸着されることができるが、一方、単荷電されたベンゾトリアゾールの小さな分子は、僅かに酸性の媒体に不溶性のPSS/ベンゾトリアゾール錯体を形成する過剰な負電荷を補償するだけである。
【0028】
図2bに見られるように、光散乱測定から得られるナノレザーバーの平均直径は、層の数と共に増加している。第1のPEI及びPSSの単分子層に対しては、増加分は、層毎に約8nmである。ベンゾトリアゾール層はナノレザーバーのサイズをより小さい〜4nm刻みで増加し、高分子電解質と比べてベンゾトリアゾールのより低い吸着効率に関する電気泳動度データを確信させる。ナノレザーバーの平均直径の成長は、SiOナノ粒子の表面上の高分子電解質と防止剤のLbL集積を明瞭に証明している。得られたSiO/PEI/PSS/ベンゾトリアゾール/PSS/ベンゾトリアゾールナノレザーバーの透過型顕微鏡画像が、図3に示される(透過型電子顕微鏡には、ツアイスEM912オメガ機が使用された。被覆銅グリッドが試料を支持するために使用された。)。サイズと電気泳動度測定は、Malvern Zetaizer 4機を使用してなされた。ナノレザーバーは、〜100nm直径の分離した個々の粒子である。シリカ上に堆積されたPSS/ベンゾトリアゾール2分子層の最適な数は2である。1つの2分子層は、保護被覆の自己修復作用を示すには十分ではなく、一方、3以上の2分子層は、ナノレザーバーの凝集を劇的に増加し、保護被覆と防止剤分布の統合に負に作用する。
【0029】
最終工程で、ベンゾトリアゾール添加ナノレザーバーの懸濁液は、ZrOとオルガノシロキサンゾルと混合され、以下に詳述されるゾルゲルプロトコルに従って、浸漬被覆方法によりアルミニウム合金AA2024上に堆積された。図1は、防止剤ナノレシーバーを有するハイブリッドゾルゲル膜の表面トポグラフィーを示す。ベンゾトリアゾール添加ナノレザーバーを含むゾルゲル膜の形態学は、ナノスコープIII制御機を装備した原子力間力顕微鏡(Nanoscope Digital Instruments)により評価された。
【0030】
均一に分配されたナノ粒子は、アルミニウム基板上に堆積されたゾルゲル膜に充満されている。ゾルゲルマトリックス中のこれら粒子は、約100nmの直径を有する。AFMは、ナノレザーバーの凝集の如何なる兆候も示さず、ハイブリッドゾルゲル膜をドープするために使用されたレザーバー懸濁液の高い安定性を確証している。SEMにより測定された膜の厚さは、約1600〜2000nmである。
【0031】
ゾルゲル膜の調製。ベンゾトリアゾール添加ナノレザーバーでドープされたハイブリッド膜は、2つの異なるゾルを混合する制御可能なゾルゲル法を使用して調製された。第1のゾルは、エチルアセトアセテートと混合されたプロパノール(1:1の体積比)中の70%TPOZ前駆体を加水分解して合成された。混合物は、前駆体の錯化を得るために、室温で20分間超音波撹拌下撹拌された。次いで、ベンゾトリアゾール添加ナノレザーバーの水系懸濁液若しくは1:3のモル比(Zr:HO)の酸性水が、1滴づつ混合物に滴下され、1時間撹拌された。第2のオルガノシロキサンゾルは、1:3:2のモル比(GPTMS:2-プロパノール:水)の酸性水の添加により、2-プロパノール中の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)を加水分解して調製された。ジルコニア系ゾルは、オルガノシロキサンゾルと1:2の体積比で混合された。最終ゾルゲル混合物は、60分間超音波撹拌下撹拌され、次いで室温で1時間熟成された。ゾルゲル系は、均一で、黄色光に対して透明であり、粘度測定(データは示されない)に示されるように時間的に安定である。
【0032】
アルミニウム合金AA2024は、60g/lのTURCO(登録商標)4215を含むアルカリ水溶液中で、60℃で15分間前処理され、引き続き15分間20%硝酸中に浸漬された。このような処理は、AA2024のために工業的に使用され、金属間粒子の部分的溶解をもたらす。ゾルゲル膜は、18cm/minの速度での制御された引き抜きに続かれる100秒間の最終ゾルゲル混合物中での前処理基板を浸漬する浸漬被覆法により製造された。被覆後、試料は130℃で1時間養生された。
【0033】
3つの対照被覆が、ナノレザーバーでドープされたハイブリッド膜の耐腐食性能の比較評価を得るために調製された。1つの被覆は、TPOZ溶液にナノレザーバーを導入しないで、上記のように調製された。他の2つは、遊離の取り込まれないベンゾトリアゾールの2つの異なる量(ベンゾトリアゾールの最終濃度は、0.13及び0.63重量%であった。)をTPOZ溶液に直接添加して合成された。
【0034】
材料。ナトリウムポリ(スチレンスルホナート)(PSS、MW〜70000)、ポリ(エチレンイミン)(PEI、MW〜2000)、ベンゾトリアゾール、HCl、NaCl、ジルコニウムn-プロポキサイド(TPOZ)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTMS)、プロパノール、エチルアセトアセテート、HNOは、Aldrichから購入された。LUDOX(登録商標)HSコロイダルシリカ(40%水中懸濁液)(デュポン、フランス)が、シリカナノ粒子の供給源として使用された。アルミニウム合金AA2024は、モデル金属基板として使用された。腐食試験前に、アルミニウム合金の表面は、界面活性剤の組み合わせと混合された四硼酸ナトリウムとトリポリ燐酸ナトリウムを含むアルカリ洗浄剤TURCO(登録商標)4215(TURCO S.A,スペインから)で前処理された。全ての実験で使用された水は、3段階Millipore Milli-Q Plus 185清浄化システムで調製され、18MΩ・cmより高い抵抗を有した。
【0035】
例2
腐食試験の間被覆された基板に関する物理化学的プロセスの数値評価を提供することができる、電気化学的インピーダンス測定が、ハイブリッドゾルゲル膜の腐食保護性能を評価するためになされた。電気化学的インピーダンス分光分析法のために、飽和カロメル参照電極、対電極としての白金箔及び作用電極としての露出試料(3.4cm)から成るファラデーケージ中の3電極配置が、使用された。インピーダンス測定は、PCI4Controllerを有するGamry FAS2 Femtostatにより、デケードあたり10ステップで100KHz〜10mHz周波数範囲の10mV正弦波摂動適用での開回路電位でなされた。インピーダンスプロットは、腐食プロセスの間のアルミニウム合金電極の状態をシミュレートするために、互換性のある等価回路に適合された。
【0036】
ゾルゲル膜は、完全な被覆ではなく、前処理としてのみ使用されることから、低濃度の塩化物イオンが、腐食プロセスの速度を減少させるために使用された。腐食の減少した速度は、初期段階でのより正確なプロセスの評価を可能とする。0.5Mと0.005Mの電解質で製造された複合膜の挙動は、全く類似する。しかしながら、以下に示すように、このような濃度の塩素は、未処理のAA2024-T3基板に劇的な腐食効果を引き起こすのに完全に十分である。図4は、種々のハイブリッド膜(ナノレザーバーでドープされたZrO/SiO膜、ドープされないZrO/SiO膜、膜マトリックス中に遊離の防止剤を含むZrO/SiO膜)で被覆されたアルミニウム合金の典型的ボードプロットを示す。インピーダンススペクトルは、塩化ナトリウム溶液中で48時間浸漬後に得られた。特定のプロセスに対するインピーダンススペクトルの成分の原因は、非常に複雑な事項であり、特別にそのような複雑なシステムが使用される他の制限された技術によるサポートなしではなされることはできない。したがって、他で証明されたモデル(H. Schmidt, S. Langenfeld, R. Nass, Mater. Des. 1997, 18, 309, and M.L. Zheludkevich, R. Serra, M.F. Montemor, K.A. Yasakau, I.M. Miranda Salvado, M.G.S. Ferreira, Electrochim. Acta 2005, 51, 208)が、インピーダンススペクトル解釈のために使用された。10〜10Hzで観察された第1の高周波最大値は、ゾルゲル膜の容量に特有である。他の時間依存性プロセスは、ハイブリッド膜に依存して、0.1〜10Hz間の中間周波数で現れる。この時定数は、元々のAl層とAl-O-Si化学結合の双方により形成される中間酸化物膜の容量に明らかに起因し得る。第3の緩和プロセスの第1の明確な兆候は、ハイブリッドマトリックス中に直接導入されたベンゾトリアゾールを有するゾルゲル膜(ベンゾトリアゾール濃度0.13及び0.63重量%)に対する約0.01Hzでの低周波数でのインピーダンススペクトルに現れている。この低周波数時定数は、被覆された基板の表面上に発する腐食プロセ
スに基づいて現れる。ドープされないハイブリッド膜とナノレザーバーを添加された膜に対しては、インピーダンススペクトルに腐食の兆候は全く見出されず、腐食化学種に対する有効なバリヤ性を示した。直接導入されたベンゾトリアゾールを有するゾルゲル膜により保護された合金表面に関する活性な腐食プロセスは、水溶液に添加された遊離ベンゾトリアゾールが、AA2024アルミニウム合金上の腐食プロセスの非常に有効な防止剤として知られるという事実にもかかわらず、任意の防止作用の不在を示している。
【0037】
10〜10Hzでの抵抗プラトーは、ハイブリッドゾルゲル膜の空孔抵抗を表している(図4)。ドープされないゾルゲル被覆の抵抗とナノレザーバーを含む膜の抵抗は、約10ohm/cmという高い値を示している。反対に、ゾルゲルマトリックス中に直接導入されたベンゾトリアゾールを有する被覆は、充分により低い抵抗を示す(夫々ベンゾトリアゾールの0.13%及び0.63%の場合に1桁及び2桁の規模)。遊離ベンゾトリアゾール濃度の増加に伴うゾルゲル膜の抵抗減少は、ゾルゲルマトリックスの気候安定性に関する防止剤の強い逆の作用を明らかに示している。
【0038】
別の抵抗部分は、ナノレザーバーでドープされたものを除いて、全スペクトルにおいて低周波数(10−1〜10−3Hz)で観察された(図4)。インピーダンススペクトルのこの部分は、Al酸化物層の空孔抵抗を特徴付けている。2日間の浸漬後、ナノレザーバーを有するゾルゲル膜により被覆されたアルミニウム試料は、保護膜が損なわれていないことを確信させる純粋な容量挙動をなお示している。しかしながら、他の被覆を有する試料は、Al酸化物層の腐食欠陥の故に低周波数での混合容量/抵抗挙動を示す。ナノレザーバーでドープされたゾルゲル膜に対する、インピーダンス測定に由来するAl酸化物層抵抗の時間依存性漸進的変化は、研究中のその他の系と比較すると、最高値を示す(図5a)。この抵抗は、腐食試験開始時に僅かに減少し、次いで、非常に高い腐食保護を示す一定値を維持する。ドープされないゾルゲル膜で被覆された試料は、ナノレザーバーを含む試料の低周波抵抗と比べると1桁より低い規模の低周波抵抗を有する。ゾルゲルマトリックス中に直接含浸されたベンゾトリアゾールを有するハイブリッド膜は、充分により低い腐食保護を与え、特にゾルゲルマトリックス中のより高い防止剤含有量で中間酸化物層の急速な分解を示す。
【0039】
ベンゾトリアゾール含浸ハイブリッド膜に対して観察されるバリヤ特性の急速な崩壊は、被覆調製中の加水分解/重合プロセスに関するベンゾトリアゾールの強力な作用で説明することができる。ドープされないゾルゲル膜の容量は、20時間中約1桁の規模で増加し、次いで、安定な挙動を示す。逆に、0.13%のベンゾトリアゾールを含むゾルゲル膜は、容量で4桁の規模の増加を示す。このような大きな容量変化は、水分の摂取のみによっては説明することができず、ハイブリッド膜の誘電特性の変化をもたらすゾルゲルマトリックスの加水分解を明らかに示す。この事実は、ゾルゲル被覆のバリヤ特性に関する遊離ベンゾトリアゾールの強力な負の作用を再度確信させる。
【0040】
例3
追加的な実験が、被覆に添加されたナノレシーバーの自己修復作用の証拠を提供するためになされた。人工欠陥(各試料ごとに50μmサイズの5つの欠陥)が、合金表面への腐食媒体の直接的進入を与えるために、0.005M NaCl中での浸漬後に微小針によりゾルゲル膜中に形成された。欠陥試料の浸漬開始後すぐのインピーダンススペクトルは、インピーダンスの減少と、損傷されたゾーンでの活性プロセスに由来する低周波数でのデータの散乱を示す。ドープされないゾルゲル膜の場合には、欠陥の形成は、長期間のデータの散乱を引き起こし、それゆえ、欠陥は、0.005Mの電解質中でただ1日後にこの膜で形成された。複合膜は、浸漬の14日後に人工的に離脱された。中間酸化物層の抵抗は、インピーダンススペクトルの低周波数部分から計算された。図5bは、0.05M NaCl中での欠陥形成後の酸化物膜の抵抗の漸進的変化を示す。ドープされない被覆の初期抵抗は、欠陥形成前のより短い浸漬期間に基づいてより高い。酸化物抵抗の急速な減少は、欠陥が導入されるとすぐに生起する。続く抵抗の漸進的低下は、腐食保護性能の劣化を示す。酸化物の抵抗も、ナノレザーバーで充填されたハイブリッド膜の欠陥形成後すぐに減少する。しかしながら、インピーダンスの初期の低下後に、酸化物膜抵抗の非常に重要な回復が更なる60時間の浸漬中に生起する。抵抗の増加は、ナノレザーバードープゾルゲル被覆中の欠陥の自己修復を明らかに示す。このような自己修復作用は、ドープされないゾルゲル膜で被覆されたAA2024の場合に明らかでなかった。したがって、自己修復効果は、損傷領域でナノ容器から放出されたベンゾトリアゾールに最大限由来する可能性がある。
【0041】
例4
応用電子(Applicable Electoronics)装置を使用する振動電極走査技術(SVET)が、ナノ複合材料の前処理の自己修復能力を証明するために使用された。この方法は、表面に沿った陰極及び陽極電流の分布をマッピングする局所的な腐食活性を示すことができる。直径約200ミクロンの欠陥が、図6a、bに示されるゾルゲル前処理されたAA2024表面に形成された。高い陰極電流密度は、非ドープ被覆が0.05M NaCl中に浸漬されると、欠陥を起点に即座に出現し、明確な腐食活性を示す。欠陥は、全ての試験中で活性なままである(図6c、e、g)。ナノ容器でドープされたハイブッド膜で被覆された試料は、完全に異なる挙動をする。最初の10時間には、欠陥ゾーンには、顕著な電流は全く存在しない(図6d)。約24時間後にのみ、陰極電流が出現する。しかしながら、活性開始後2時間、腐食の効果的な抑制がおこり、局所電流密度の減少が生起する。欠陥位置の陰極活性は、連続的な48時間の浸漬後に再度殆ど見えなくなる(図6h)。被覆系中に形成される相対的に大きな人工欠陥での腐食活性の効果的な抑制は、ナノ容器でドープされたハイブッド前処理の自己修復能力を明らかに証明している。
【0042】
モデル基板として使用されたアルミニウム合金AA2024は、腐食攻撃の最初の目標であるAlCuMg金属間化合物を含む。腐食媒体は、Alバリヤ層浸透後金属間化合物表面に接触し、アルミニウム及びマグネシウムと水との化学反応を引き起こす。
【0043】
2Al+6HO→2Al3++6OH+3H↑、
Mg+2HO→Mg2++2OH+H↑。
【0044】
また、水素の電子化学的発生は、周囲の合金マトリックスに関する陰極電位に基づきこれら金属間化合物粒子に関して可能である。
【0045】
2HO+2e→2OH+H↑。
【0046】
アルミニウム合金の水による酸化は、酸素の還元に随伴され、以下の式により起こる。
【0047】
+2HO+4e→4OH
【0048】
同時に、マグネシウムとアルミニウムの酸化が、腐食欠陥の陽極ゾーンで起こる。
【0049】
Al→Al3++3e
Mg→Mg2++2e
【0050】
知られているように、水素発生と酸素の還元プロセスは、両方ともにミクロンスケールの欠陥でのpH値の局所的な増加をもたらす。ナノレザーバーは、ハイブリッドゾルゲル膜で均一で稠密充填の分布(図1でのAMF画像から見てとれるように、膜の1μmあたり、約40〜50個のナノレザーバー。)を有することから、このミクロンスケールの領域で見出すこともできる。ナノレザーバーの周囲媒体でのpH値の増加は、高分子電解質層構造の歪みとPSS/ベンゾトリアゾール錯体の分解をもたらし、形成された欠陥周囲のナノ容器からのベンゾトリアゾールの放出を引き起こす。放出されたベンゾトリアゾールは、損傷した金属表面に薄い吸着層を形成し、陽極及び陰極腐食プロセスを十分に妨害し、損傷したAl膜を置き代えることにより合金を不動態化する。このように、ハイブリッドマトリックスに組み込まれたLbL集積ナノレザーバーは、要求に応じて防止剤を放出し、被覆中の欠陥を修復し、直接的フィードバックにより有効な腐食保護を提供する。
【0051】
例5
ポリ(アリルアミン)/ポリ(アクリル酸)(PAH/PAA)層で被覆された150nmのZrO粒子が、ナノレザーバーとして使用された。腐食防止剤キノリノールが、LbL集積工程で高分子電解質多重層内に閉じ込められた。その放出は、鋼合金腐食中のpH変化により開始することができる。
【0052】
ZrOナノ粒子が、その構造を保存するハイブリッドシリカ/ジルコニアマトリクス内に組み込まれるその能力に基づいて、キノリノールのための支持ホストとして選ばれた。当初ZrOナノ粒子は負に帯電しており、正のPAHの吸着が、第1段階での0.5M NaCl中の2mg/mlのPAH溶液からなされた。得られた複合ナノ粒子の洗浄が各吸着工程後に、蒸留水によりなされた。次いで、第2の負のPAA層の吸着が、0.5M NaCl中の2mg/mlのPAA溶液から実行された。第3の防止剤層の吸着が、中性媒体から遂行された。PAA/キノリノール吸着は、LbL構造中での防止剤添加を増加するために繰り返された。最終ナノレザーバーは、SiO/PAH/PAA/キノリノール/PAA/キノリノール層構造を有した。
【0053】
最終工程で、キノリノール添加ナノレザーバーは、ゾルゲルプロトコールに従ってZrO/SiOゾルと混合され、浸漬被覆法によって鋼上に堆積された。
【0054】
振動電極走査技術が、被覆に添加されたナノレザーバーの自己修復効果の証明を提供するために適用された。人工欠陥(各試料ごとに50μmサイズの5つの欠陥)が、鋼表面への腐食媒体の直接的進入を与えるために、0.005M NaCl中での浸漬後に、ゾルゲル膜中に微小針により形成された。複合膜は、14日間浸漬後に人工的に剥離された。ドープされない被覆の初期抵抗は、欠陥形成前のより短い浸漬期間に基づいてより高い。酸化物膜の抵抗は、ナノレザーバーで充填されたハイブリッド膜の欠陥形成後すぐに減少する。しかしながら、インピーダンスの初期低下後、酸化物膜抵抗の非常に重要な回復が更なる日数の浸漬中に生起する。抵抗の増加は、ナノレザーバードープゾルゲル被覆中での欠陥の自己修復を明らかに示す。このような自己修復作用は、ドープされないゾルゲル膜で被覆された鋼の場合には明らかでなかった。したがって、自己修復効果は、損傷領域でナノ容器から放出されたキノリノールに最大限由来する可能性がある。
【0055】
例6
50nm直径の天然起源中空アルミノ珪酸塩(ハロイサイト)が、ナノレレザ−バーの別のタイプとして使用された。腐食防止剤メルカプトベンゾトリアゾールが、真空ポンプ下、10mg/mlのエタノール溶液から環状空隙内部に閉じ込められた。空隙を防止剤で完全に満たすために、閉じ込め手順が4度繰り返された。次いで、ハロイサイト粒子の外部表面はpHに規制される閉じ込められたメルカプトベンゾトリアゾールの徐々の放出を達成するために、高分子電解質多重層で被覆された(正のPAH吸着が、第1段階での0.5M NaCl中の2mg/mlのPAHからなされた。得られたハロイサイトの洗浄が各吸着工程後に、蒸留水によりなされた。次いで、負のPAA層の吸着が、0.5M NaCl中の2mg/mlのPAAから実行された。PAA/PSS吸着が、2度繰り返された。)。
【0056】
最終工程でメルカプトベンゾトリアゾール添加ハロイサイトの懸濁液は、ゾルゲルプロトコールに従ってSiOCeOゾルと混合され、浸漬被覆法によってアルミニウム表面上に堆積された。
【0057】
振動電極走査技術が、被覆に添加された添加ハロイサイトの自己修復効果の証明を提供するために適用された。人工欠陥(以前の例と同じ手順、各試料ごとに50μmサイズの5つの欠陥)が、アルミニウム表面への腐食媒体の直接的進入を与えるために、0.005M NaCl中での浸漬後にゾルゲル膜での微小針により形成された。酸化物の抵抗は、ナノレザーバーで充填されたハイブリッド膜の欠陥形成後すぐに減少する。しかしながら、インピーダンスの初期低下後、酸化物膜抵抗の非常に重要な回復が更なる日数の浸漬中に生起する。抵抗の増加は、ハロイサイトドープゾルゲル被覆中の欠陥の自己修復を明らかに示す。このような自己修復作用は、ドープされないゾルゲル膜で被覆されたアルミニウムの場合には明らかではなかった。したがって、自己修復効果は、損傷領域でナノ容器から放出されたメルカプトベンゾトリアゾールに最大限由来する可能性がある。
【0058】
結論として、我々は、ハイブリッドゾルゲル保護被覆中に組み込まれた腐食防止剤(ベンゾトリアゾール)のためのナノレザーバーとして働く高分子電解質分子で交互積層被覆されたシリカナノ粒子に基づく「スマート」な自己修復性耐腐食被覆の形成のための新規なアプローチを示した。これらナノレザーバーは、被覆されたアルミニウム基板の長期の腐食保護を増加し、自己修復能力を持つ有効な腐食保護を与える、損傷ゾーンでの「オン デマンドな」防止剤の効果的貯蔵と長期化した放出を提供する。耐腐食被覆でのLbL高分子電解質層の使用は、腐食欠陥の有効な自己修復を有する腐食プロセスに対する有効なフィードバックを有する、簡単に作成され、費用節約的な「インテリジェントな」腐食保護システムを生み出す新鮮な機会を開く。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】左は、ベンゾトリアゾールレザーバーを添加された複合材料ZrO/SiO被覆の製造の図解であり、右は、ナノレザーバーを含む得られたゾルゲル被覆のAFM走査トポグラフィーである。
【図2】(a)は、LbL集積中の水中でのナノレザーバーの電気泳動度測定(0層番号-当初SiO、1層番号-SiO/PEI、2層番号-SiO/PEI/PSS、3層番号-SiO/PEI/PSS/ベンゾトリアゾール、4層番号-SiO/PEI/PSS/ベンゾトリアゾール/PSS、5層番号-SiO/PEI/PSS/ベンゾトリアゾール/PSS/ベンゾトリアゾール)であり、(b)は、ナノレザーバー集積中の粒子サイズの成長である。
【図3】水懸濁液中での最終SiO/PEI/PSS/ベンゾトリアゾール/PSS/ベンゾトリアゾールナノレザーバーのTEM画像。
【図4】0.005M NaCl溶液中で48時間浸漬後の異なるゾルゲル膜で被覆されたAA2024アルミニウム合金のボードプロット
【図5】a)は、0.005M NaCl中での浸漬時間に対するゾルゲル被覆合金の酸化物層抵抗の漸進的変化であり、b)は、0.05M NaCl中での酸化物層抵抗の漸進的変化である。欠陥は、レザーバーで含浸された膜の場合には、005M NaCl中で14日間の試料浸漬後に形成され、非ドープハイブリッド膜の場合には、1日間で形成される。
【図6】欠陥のある表面(a,b)、非ドープゾルゲル前処理で被覆されたAA2024及びそのナノレザーバーで含浸されたもの(d、f、h)上で測定されたイオン電流のSVETマップ。マップは、欠陥形成後5時間(c、d)、24時間(e、f)、48時間(g、h)後に得られた。測定単位:μAcm−2。走査領域:2mm×2mm。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品及び構造の有効な腐食保護のための腐食防止剤のナノスケールのレザーバー(ナノレザーバー)を含む腐食防止顔料であって、1〜1000nmの範囲の平均寸法を有するナノレザーバーは、特定のトリガーに敏感に反応し、前記トリガーの作用後に前記防止剤を放出することのできるポリマー若しくは高分子電解質シェルを含む、腐食防止顔料。
【請求項2】
トリガーが、pH、イオン強度、温度、水分、機械的応力、磁場或いは電磁場の変化である、請求項1記載の顔料。
【請求項3】
防止剤が、1以上のアミノ基を含む有機化合物、アゾール誘導体化合物、1以上のカルボキシル基或いはカルボン酸塩を含む有機化合物及び1以上のピリジニウム或いはピラジン基を含む有機化合物から成る群より選択される有機化合物を含む、請求項1または2記載の顔料。
【請求項4】
防止剤が、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、キナルジン酸若しくはキノリノールである、請求項3記載の顔料。
【請求項5】
防止剤が、1以上のシッフ塩基を含む、請求項1乃至3何れか1項記載の顔料。
【請求項6】
防止剤が、ピロ燐酸イオン(P2−)、亜硝酸イオン(NO)、珪酸イオン(SO2−)、モリブデン酸イオン(MoO2−)、硼酸イオン(BO3−)、ヨード酸イオン(IO)、過マンガン酸イオン(MnO)、タングステン酸イオン(WO2−)及びバナジウム酸イオン(VO)を含む群より選択される1以上の陰イオンを含む、請求項1又は2記載の顔料。
【請求項7】
防止剤が、ランタンニド、マグネシウム、カルシウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、クロム及び銀を含む群より選択される1以上の金属陽イオンを含む、請求項1又は2記載の顔料。
【請求項8】
防止剤が、請求項3乃至7何れか1項で特定される2以上の化合物を含む、請求項1又は2記載の顔料。
【請求項9】
ナノレザーバーが、高分子電解質及び/又はポリマーカプセルを含む、請求項1乃至8何れか1項記載の顔料。
【請求項10】
ナノレザーバーが、ポリマー若しくは高分子電解質シェルで被覆されたナノスケール固体基体を含む、請求項1乃至8何れか1項記載の顔料。
【請求項11】
ナノレザーバーが、高分子電解質若しくはポリマーシェルで被覆されたナノ粒子、ナノチューブ若しくはハロイサイトを含む、請求項10記載の顔料。
【請求項12】
ナノレザーバーが、中空若しくは多孔ナノ粒子を含む、請求項11記載の顔料。
【請求項13】
ナノ粒子が、SiO、ZrO、TiO若しくはCeOのナノ粒子である、請求項11又は12記載の顔料。
【請求項14】
ポリマー若しくは高分子電解質シェルは、防止剤が点在するものである、請求項1乃至13何れか1項記載の顔料。
【請求項15】
ナノレザーバーが、防止剤が点在する交互積層高分子電解質シェルで被覆されたナノ粒子を含む、請求項14記載の顔料。
【請求項16】
ポリマー若しくは高分子電解質シェルが、ポリ(アルキレンイミン)、例えば、ポリ(エチレンイミン)、ポリ(スチレンスルホナート)、ポリ(アリルアミン)、ポリビニルアルコール、ポリ(ヒドロキシ酪酸)、ポリスチレン、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリアルキレングリコール、例えば、ポリエチレングリコール、ポリ(ビニルピリジン)並びにゼラチン、アガロース、セルロース、アルギン酸、デキストラン、カゼイン、ポリアルギニン、ポリグリシン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸のようなバイオポリマー及びポリアミノ酸並びにそれらの誘導体、コポリマー若しくは混合物から成る群より選択される1以上のポリマー若しくは高分子電解質を含む、請求項1乃至13何れか1項記載の顔料。
【請求項17】
ポリマー若しくは高分子電解質シェルが、正に荷電した高分子電解質、例えば、ポリ(エチレンイミン)と負に荷電した高分子電解質、例えば、ポリ(スチレンスルホナート)の交互の層を含む、請求項14記載の顔料。
【請求項18】
1以上の前記高分子電解質層上に堆積され、少なくとも1つの前記高分子電解質層により被覆された1以上の防止剤の層を更に含む、請求項16又は17記載の顔料。
【請求項19】
自己修復性を有し、請求項1乃至18何れか1項記載の顔料を含む、耐腐食被覆。
【請求項20】
ゾルゲル膜を更に含む、請求項19記載の耐腐食被覆。
【請求項21】
ゾルゲル膜が、ハイブリッドSiO-ZrO膜である、請求項20記載の耐腐食被覆。
【請求項22】
特定のトリガーに敏感に反応し、前記トリガーの作用後に前記防止剤を放出することのできる1〜1000nmの範囲の平均寸法を有するポリマー若しくは高分子電解質シェルを含むナノスケールのレザーバー中に腐食防止剤に組み込むことを含む、請求項1乃至18何れか1項記載の腐食防止剤顔料を調製する方法。
【請求項23】
ポリマー若しくは高分子電解質シェルは、表面重合、表面堆積、交互積層集積若しくは自己集積技術により形成される、請求項22記載の方法。
【請求項24】
ナノスケール固体基体が、前記ポリマー若しくは高分子電解質シェルにより被覆される、請求項23記載の方法。
【請求項25】
ナノ粒子が、交互積層高分子電解質シェルにより被覆される、請求項23記載の方法。
【請求項26】
交互積層高分子電解質シェルは、防止剤が点在するものである、請求項23記載の方法。
【請求項27】
水、イオン強度、pH、温度、機械的応力、磁場或いは電磁場の変化のような特定のトリガーに前記顔料を暴露し、ポリマー若しくは高分子電解質シェルに前記腐食防止剤を放出させることを含む、請求項1乃至18何れか1項記載の顔料から腐食防止剤の制御可能な放出を提供する方法。
【請求項28】
請求項1乃至18何れか1項記載の顔料の、前処理物、プライマー、ポリマー被覆処方、粉末被覆、塗料及びコンクリートへの、特に粉末若しくは懸濁液の形での組み込みを含む金属製品若しくは構造の腐食を妨害若しくは防止する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−529583(P2009−529583A)
【公表日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−557661(P2008−557661)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001971
【国際公開番号】WO2007/104457
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(594056568)マツクス−プランク−ゲゼルシャフト ツール フエルデルング デル ヴイツセンシャフテン エー フアウ (13)
【Fターム(参考)】