説明

腫瘍およびがん組織を処置するための方法

哺乳動物被験体における腫瘍またはがん組織を処置するための方法であって、該方法は、該腫瘍またはがん組織を凍結切除に供して、腫瘍特異的抗原の遊離をもたらす工程;有効量の分化した抗原提示細胞を、該腫瘍またはがん組織内にまたはその近傍に送達することによって、該抗原提示細胞の少なくとも一部に、インビボで、該腫瘍特異的抗原の少なくとも一部を取り込ませる、工程;および該腫瘍またはがん組織に対する免疫応答を起こさせる工程を包含し、ここで、該抗原提示細胞が、該送達の前にはエキソビボ成熟工程に供されていない、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に免疫療法に関し、より詳細には、腫瘍抗原を遊離させるために腫瘍細胞を窮迫させ、そして遊離した抗原を利用し得る抗原提示細胞を腫瘍またはがん組織へと送達することによって腫瘍およびがん組織を処置するための治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
(がん免疫療法)
がんワクチン接種における興味は、William Coleyによる、Streptococcus pyogenes感染後のがんの後退の初期観察に基づいて生じた(非特許文献1)。Coleyは、皮膚の実験的連鎖球菌感染(丹毒)後のいくつかの肉腫病巣の劇的な後退に着目した。彼の時代の間は信用されなかったが、Coleyの観察は、がん免疫療法時代の始まりを最も確実に区切る。何十年も後に、がん免疫療法は、新生物性細胞の除去を担う免疫学的機構を解明することならびに可能ながんワクチンの抗原の構築に焦点を合わせ始めた。
【0003】
病原体または腫瘍細胞が指示されるか否かに限らず、抗原は、ワクチンの主な成分である。抗原は、免疫応答が生成される特異的標的である。理想的には、がんワクチン接種のための抗原は、ガン細胞において高発現であるが正常細胞においては発現されないタンパク質(がんまたは腫瘍特異的抗原)である。このような抗原についての研究は、免疫学および分子生物学の分野における多くの研究を活気付け、そして腫瘍関連抗原(TAA)の概念をもたらした(非特許文献2;非特許文献3)。
【0004】
次第に、腫瘍細胞上に独特に発現される抗原は比較的稀であることが解明されてきた。テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)は、大部分の正常組織には存在しないが、大部分のヒト腫瘍において活性化されるTAAの一例である(非特許文献4)。いくつかの場合には、正常なタンパク質の変異(例えば、以下における変異)に起因して腫瘍細胞に独特の抗原が存在する:p53(非特許文献5)およびCDK4タンパク質(非特許文献6)。しかし、大部分のTAAは、腫瘍細胞において発現が増強または変更される、良性細胞上に典型的に発現されるタンパク質である。例えば、がん胎児抗原(CEA)は、乳がん腫、結腸がん腫、肺がん腫およびすい臓がん腫において過剰発現されるが、MUC−1は、乳がん腫、肺がん腫、前立腺がん腫、結腸がん腫、卵巣がん腫およびすい臓がん腫によって過剰発現される(非特許文献7)。一部のTAAは、分化または組織特異的である(例えば、チロシナーゼ(非特許文献8))。MART−1/melan−A(非特許文献9)およびgp100(非特許文献10)は、正常メラノサイトおよびメラノーマにおいて発現され、そして前立腺特異的膜抗原(PSMA)(非特許文献11)および前立腺特異的抗原(PSA)(非特許文献12)は、前立腺上皮細胞ならびに前立腺がん腫によって発現される。
【0005】
免疫系の細胞媒介性(T細胞)アームは、腫瘍拒絶の主な免疫エフェクター機構であると同定されている。有効な腫瘍免疫応答が生じるためには、T細胞によるTAAの認識が必要とされる。このT細胞による抗原認識は、以下から構成される複合体の形成を必要とする:腫瘍組織適合遺伝子複合体(MHC);2)T細胞レセプター(TCR);およびMHC分子中に閉じ込められた、細胞内でプロセシングされた抗原の短いセグメント。
【0006】
このプロセスによって標的細胞と会合した抗原が認識されると、CDS T細胞(細胞傷害性Tリンパ球(CTL))は、腫瘍細胞を直接殺傷する能力を有する。CD4 T細胞(ヘルパーT細胞(TH))は、インターロイキン−2およびインターフェロン−γのような因子を分泌し、これらは、CTLおよび他の免疫エフェクター(例えば、ナチュラルキラー細胞、B細胞およびマクロファージ)の機能を補助および調節する。
【0007】
より最近では、T細胞応答の開始が、「抗原提示細胞」(APC)として公知の特化した細胞型を必要とすることが認識されてきた。APCは、MHC分子中に閉じ込められた膠原性ペプチドによるTCRの結合によってシグナルを伝えるだけでなく、一連の活性化を完了するために、第二の補助刺激シグナルをも伝える。第二のシグナルは、主にCD80/86:CD28を通して生じるか、またはCD40:CD40L経路を通して生じる(非特許文献13)。これらの補助刺激シグナルがなければ、活性化は終了し、そしてT細胞はアネルギー性となる。樹状細胞(DC)は、議論の余地があり、最も効率的な公知のAPCである(例えば、非特許文献14を参照のこと)。抗原とT細胞と免疫応答の誘導の間の重大な関連としてのそれらの役割において、DCは、いまや、がんワクチン接種の有効な細胞メディエーターへの集中的な研究の中心を占める。
【0008】
(樹状細胞)
樹状細胞(DC)は、30年前にリンパ様組織の免疫成分として最初に認識されて以来、それらの免疫刺激能力について集中的に研究された骨髄由来細胞である(非特許文献15)。これらの細胞は、非常に効率的なAPCとしての機能を補助するという細胞特徴を保有する。DCは、細胞全体またはタンパク質を取り込んで保有し得、リンパ節に移動し得、そしてT細胞活性化に必要とされる高レベルのMHCおよび補助刺激分子を発現し得る(非特許文献16)。抗原提示の状態での、樹状細胞によるMHCおよび補助刺激分子の発現は、T細胞免疫の保証および活性化に重大である。さらに、これらは、その表面にT細胞を独特に凝集させ得る。これはおそらく、大きな接触面積を提供するそれらの樹状形状、ならびにそれらでの接着分子およびインテグリンの高レベルの発現に起因する(非特許文献17;非特許文献18)。これらは、ナイーブT細胞における一次応答を誘導し得る唯一のAPCである(非特許文献14)。
【0009】
プロセシングされた外因性抗原は、一般に、MHCクラスII経路へと導かれ、そして細胞表面に輸送される(非特許文献19)。この時点で、DCは、CD4 T細胞と相互作用し得る。抗原性エピトープは、細胞傷害性CD8 T細胞に対して提示するためには、MHCクラスI分子と会合しなければならない(非特許文献20)。通常、外因性に合成された抗原(例えば、ウイルス感染の場合に生成される抗原)のみがMHCクラスI経路を解してプロセシングされる。しかし、MHCクラスI経路とMHCクラスII経路との間の漏れまたは交差プライミング(cross−priming)により、CDS T細胞への外因性抗原由来エピトープの提示が可能である(非特許文献21;非特許文献22)。例えば、特異的CD8+ T細胞の活性化は、DCによるアポトーシス細胞の取り込みおよびプロセシングの後に示されている(非特許文献21)。抗原取り込み後のDCの成熟は、増強されたT細胞刺激能力となる、接着分子および補助刺激分子の発現のアップレギュレーション、ならびにMHC分子の再分配によって特徴付けられる(非特許文献16)。
【0010】
(樹状細胞に基づくがんワクチン接種)
一般化された用語では、DCは、外来の、死んだ、さもなければ問題のある、細胞およびウイルスを飲み込み、これらを消化し、そして消化された細胞の独特の抗原性成分を、DC細胞表面を通し、腫瘍組織適合遺伝子複合体(MHC)に関連して、細胞媒介免疫(CMI)の他のメンバーに対して提示することによって作用する。このようにして、DCが免疫系の他の局面(例えば、マクロファージ、「ナチュラルキラー」細胞、CD8+細胞)を特定の標的抗原および抗原エピトープに対して接触可能で感作性にし、それにより、これらのタンパク質を保有する細胞体のクリアランスをもたらすということが一般に受け入れられている。
【0011】
従って、例えば、Tリンパ球(すなわち、T細胞)は、Bリンパ球(すなわち、B細胞)とは異なり、一般に、腫瘍組織適合遺伝子複合体(MHC)に関連して抗原が提示された場合には、標的抗原のみを認識する。Tヘルパー細胞および細胞傷害性T細胞を含めたT細胞に対して抗原を提示するためには、この抗原は、抗原提示細胞の表面上にMHC分子と関連して提示されなければならない。樹状細胞はおそらく、最良の抗原提示細胞(APC)であり、従って、がん免疫療法の領域において極めて興味深いものである。これに関して、非特許文献14は、樹状細胞が、骨髄から生じる稀な白血球であり、身体全体に分布して見出され得ることを教示する。非特許文献23は、樹状細胞がしばしば、腫瘍ワクチンにおいて生物学的アジュバントとして行動することを教示する。樹状細胞はまた、抗原IgC複合体(IC)のインターナリゼーションを媒介する、免疫グロブリンIgGのFc部分についてのいくつかのレセプターを発現することも公知である。この能力において、樹状細胞がT細胞に対して腫瘍抗原を提示するために用いられると一般に考えられている。
【0012】
がんを処置するための樹状細胞治療は、臨床科学コミュニティー内で興味を獲得し続けている。これまでのところ、例えば、非特許文献24にまとめられているように、ほぼ100のDCがんワクチン試験が報告されている。
【0013】
前立腺がん患者に関与する少なくとも7つのヒト試験が、同じ立場の者によって概説された論文において今日までに報告されている。これらの研究は、進行した前立腺がんを有する合計164人の患者を処置した。この進行した前立腺がんは、アンドロゲン非依存性がん、転移疾患および生化学的のみの再発を含む。この処置は、ワクチンの2〜6回の注射を静脈内経路、皮下経路、皮内経路およびリンパ内経路によって投与した。抗原成分の供給源は、ペプチド、組換えタンパク質およびmRNAを含んでいた。
【0014】
がん(例えば、前立腺がん)についての有効な処置としての最大の潜在的DCベースワクチン接種に続いたこれらの研究の結果および有望な第III相試験の出現にもかかわらず、さらなる改良の必要および余地がある。今日までに、DCワクチンの臨床試験には、進行性のアンドロゲン非依存性前立腺がん(AEPCa)を有する患者が主に参加し、これらの患者の大部分は予め激しく処置されていた。腫瘍量の多いこれらのしばしば非常に病状が悪く免疫無防備状態の患者は、ワクチンベースの免疫療法を試験するためには良好な候補ではない。
【0015】
さらに、単一の抗原は、腫瘍の有効なクリアランスには充分ではない。腫瘍は、ポリクローナルな細胞からなっており、全範囲の抗原を発現するかまたは失っている。それゆえ、樹状細胞を適切な抗原性プロフィールに曝露することが重要である。残念ながら、この目標が達成されたかを検証することはしばしば困難であり、重大な抗原性成分を除外して腫瘍処置の効力を危険にさらす危険性が存在する。例えば、非特許文献25を参照のこと。
【0016】
(一次前立腺がん処置としての寒冷療法)
前立腺がんの一次処置としての寒冷療法の実践者は、前立腺組織の凍結切除(cryoablation)が成功裏の前立腺がん腫処置をもたらし得ると考えている。この長年にわたる感情は、生存組織を凍結温度にすることよって誘導される実証された破壊に基づく。凍結温度への曝露後の細胞死のいくつかの機構が着目されており、そしてこれとしては、物理的現象(例えば、膨張性の細胞内氷結晶形成)、化学的現象(タンパク質変性)および細胞的減少(例えば、アポトーシス)が挙げられる。
【0017】
がん細胞が凍結誘導性の細胞外傷機構を回避し得ることを示唆する証拠はないので、がん腫の成功裏の除去が、前立腺の凍結切除後にもたらされるという考えが維持されている。
【0018】
凍結切除は、前立腺がんの処置としてほぼ40年間にわたって実践されている(非特許文献26)。近年では、肝臓がん(非特許文献27)、腎臓がん(非特許文献28)、肺がん(非特許文献29)、乳癌(非特許文献30)および軟組織肉腫(非特許文献31)を含めた他のがんについての一次治療としての凍結切除における興味もまた生じている。
【0019】
−40℃という内部組織温度が組織の均質な壊死に必要とされることが実証されている(非特許文献32)。−20℃と−40℃との間の温度では、細胞は、(細胞からの水の回収をもたらす、細胞外氷形成に起因する)浸透圧窮迫、細胞膜破壊、および(低酸素をもたらす)微小血栓形成に遭遇し得る。非特許文献33を参照のこと。これらの事象のいずれもが、細胞に対する致死的な損傷(すなわち、壊死、アポトーシス)または致死以下の損傷(すなわち、細胞浸透性の上昇、細胞pHの変化)をもたらし得る。それゆえ、組織の凍結処置は、組織において、致死量未満の損傷から壊死までの広範囲の運命を誘導する。
【0020】
前立腺の凍結切除に関連した最も重大な合併症は、急性尿閉塞、前立腺の経尿道切開(TURP)を必要とする尿閉塞、尿道崩壊および他の尿結果に対して一次的または二次的のいずれかの失禁のままである。
【非特許文献1】Coley,W.B.,Clin.Orthop.1991(262):3−3−11(1893)
【非特許文献2】RobbmsおよびKawakami,Current Opin Immunol 8(5):628−636(1996)
【非特許文献3】UrbanおよびSchreiber,Ann Rev Immunol 10:617−644(1992)
【非特許文献4】Vonderheideら、Immunity 10(6):673−679(1999)
【非特許文献5】Theobaldら、Proc Natl Acad Sci USA 92(26):11993−11997(1995)
【非特許文献6】Wolfelら、Science 268(5228):1281−1294(1995)
【非特許文献7】Wolfelら,Science 269(5228):1281−1284(1995)
【非特許文献8】Brichardら,J Exp Med 178(2):489−495(1993)
【非特許文献9】Kawakamiら,Proc Natl Acad Sci USA 91(9):3515−3519(1994)
【非特許文献10】Kawakamiら,Natl Acad Sci USA 91(14):64(1994)
【非特許文献11】Fairら,Prostate 32(2):140−14S(1997)
【非特許文献12】Wangら,Prostate 2(1):89−96(1981)
【非特許文献13】Janeway,Cell 76(2):275−285(1994)
【非特許文献14】Steinman,Annu Rev Immunol 9:271−296(1991)
【非特許文献15】SteinmanおよびColin、J Exp Med 137(5):1142−1162(1973)
【非特許文献16】BanchereauおよびSteinman,Nature 392(6673):245−252(1998)
【非特許文献17】ZhouおよびTedder,J Immunol 154(8):3821−3835(1995)
【非特許文献18】FreudenthalおよびSteinman、Proc Natl Acad Sci USA 87(19):7698−7702(1990)
【非特許文献19】Tulpら,Nature 369(6476):120−126(1994)
【非特許文献20】Jondalら,Immunity 5(4):295−302(1996)
【非特許文献21】Albertら,J Exp Med 188(7):1359−1368(1998)
【非特許文献22】Bennettら,J Exp Med 186(1):65−70(1997)
【非特許文献23】Bjork,Clinical Immunology 92:119−127(1999)
【非特許文献24】Ridgway、Cancer Investigation 21(6):873−886(2003)
【非特許文献25】Meleroら、Gene Therapy 7:1167−1170(2000)
【非特許文献26】Soanes,J Amer Med Asn 196:Suppl.29(1966)
【非特許文献27】Leeら,Radiology 202:624−632(1997)
【非特許文献28】Kamら,Journal of Vascular & Interventional Radiology 15:753−758(2004)
【非特許文献29】Maiwandら,Technology in Cancer Research & Treatment 3:143−150(2004)
【非特許文献30】Sabelら,Annals of Surgical Oncology 11 :542−549(2004)
【非特許文献31】Powellら,Journal of Urology 158:146−149(1997)
【非特許文献32】Larsonら,Urology 55:547−552(2000)
【非特許文献33】Gageら,Cryobiology 37:171−186(1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従って、前立腺がんを含めたがんの処置の近年の進歩にもかかわらず、腫瘍およびがん組織を処置するための改善された治療についての必要性がある。本発明は、この必要性を満たし、そしてさらなる関連した利点を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0022】
(発明の要旨)
本発明は、腫瘍抗原を遊離し得る方法と抗原提示細胞(たとえば、樹状細胞)の送達との組合せが、優れた腫瘍処置をもたらすという認識に、少なくとも部分的に基づく。本発明はさらに、このような方法の一部として、DCがインビボで成熟され得、それゆえ、エキソビボでの別の成熟工程に供されていないDCが用いられ得るという知見に基づく。本発明はさらに、抗原提示細胞の投与が、投与が腫瘍特異的抗原のバイオアベイラビリティーがその最大であるときに一度に行われるような時機に合わされ得るという認識に基づく。本発明のこれらおよび他の局面は、本開示から明らかである。
【0023】
手短に述べると、本発明は、一般に、(例えば、凍結切除、加熱切除、超音波治療などを含めた切除技術によって)最初に細胞を窮迫させ(これは腫瘍抗原および炎症因子の遊離をもたらす)、次いでエキソビボでの成熟に供していない1以上の選択的用量の抗原提示細胞(例えば、DC)を腫瘍もしくはがん組織の腫瘍内にまたはその近傍に送達することによって腫瘍およびがん組織を処置するための治療方法に関する。
【0024】
従って、1つの局面では、本発明は、哺乳動物被験体における腫瘍またはがん組織を処置するための方法に関し、この方法は、
この腫瘍またはがん組織を凍結切除(または別の切除工程、例えば、加熱切除または超音波治療など)に供して、腫瘍特異的抗原の遊離をもたらす工程;
有効量の分化した抗原提示細胞を、該腫瘍またはがん組織内にまたはその近傍に送達することによって、この抗原提示細胞の少なくとも一部に、インビボで、該腫瘍特異的抗原の少なくとも一部を取り込ませる、工程;および
この腫瘍またはがん組織に対する免疫応答を起こさせる工程を包含し、
ここで、この抗原提示細胞が、この送達の前にはエキソビボ成熟工程に供されていない。
【0025】
1つの実施形態では、この切除処置(例えば、凍結切除)は、1以上の炎症因子(例えば、TNF−αおよび/またはIL−1βなど)の放出をもたらす。
【0026】
別の実施形態では、放出された炎症因子は、インビボでの抗原提示細胞の少なくとも部分的な成熟をもたらす。
【0027】
さらなる実施形態では、この抗原提示細胞は、腫瘍特異的抗原のバイオアベイラビリティーが最大に近似するときに一度に送達される。
【0028】
好ましい実施形態では、この哺乳動物被験体はヒト患者である。
【0029】
記載される方法は、全てのタイプの固形腫瘍を含めた任意の腫瘍の処置のために用いられ得るが、特定の実施形態では、この腫瘍は、前立腺がん、肝臓がん、腎臓がん、肺がん、乳がんまたは軟組織肉腫であり、特に前立腺がんである。
【0030】
凍結切除は、約−40℃または約−60℃の温度で代表的に実施される器官全体の凍結切除および約−40℃よりも高い温度で代表的に実施される部分的凍結切除を含め、当該分野で公知の任意の方法に従って実施され得る。
【0031】
処置される患者は、凍結切除の前に一次がん治療を受けていてもよい。
【0032】
1つの実施形態では、凍結切除は、腫瘍細胞の少なくとも部分的な壊死またはアポトーシスをもたらす。
【0033】
別の実施形態では、凍結切除は、腫瘍細胞の少なくとも一部に対して致死量未満の損傷を引き起こす。
【0034】
特定の実施形態では、さらなる成熟工程なしでエキソビボにおいて分化された抗原提示細胞は樹状細胞(DC)である。このDCとしては、処置されるべき哺乳動物(ヒト)の自己DCおよび同種異系DCが挙げられる。
【0035】
別の実施形態では、HLA一致(同系、自己)成分およびHLA不一致(異種異型)成分を有するDCが用いられる。このようなDCもまた、HLA一致同種異系DCとばれる。
【0036】
上記のように、本発明の方法は、組織凍結切除の結果として、1以上の炎症因子(例えば、TNF−αおよび/またはIL−1β)の放出を包含し、この炎症因子は、インビボでの抗原提示(樹状)細胞の少なくとも部分的な成熟に寄与する。
【0037】
特定の実施形態では、腫瘍内送達が、抗原提示細胞の腫瘍内注入によって行われる。
【0038】
別の実施形態では、腫瘍内送達が、この腫瘍の脈管系を通して行われる。
【0039】
さらなる実施形態では、この腫瘍は器官の一部である。この場合、腫瘍内送達は、器官の直接灌流を通して行われ得るがその必要はない。
【0040】
別の実施形態では、本発明は、DCをインビボで成熟させるための方法に関し、この方法は、
生存組織を凍結切除に供する工程;および
この組織に、成熟因子の非存在下で分化させたDCを投与する工程
を包含する。
【0041】
この組織は、例えば、腫瘍組織であり得る。
【0042】
1つの実施形態では、この方法は、このDCのインビボでの成熟をモニタリングする工程をさらに包含する。
【0043】
モニタリングは、当該分野で公知の任意の方法によって行われ得、例えば、腫瘍組織内で発現される少なくとも1つの抗原にDCが結合する能力をモニタリングすることによって行われ得る。
【0044】
本明細書中に開示される本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照することにより、さらに明らかになる。しかし、種々の変化、変更および置換が、本明細書中に開示される特定の実施形態の必須の趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書中に開示される特定の実施形態に対してなされ得ることが理解されるべきである。さらに、図面は本実施形態の例示的な実施形態の例示であってその象徴的な提示であること、および図示されていない他の実施形態もまた本発明の範囲内にあることがさらに理解されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
(発明の詳細な説明)
(I.定義)
特に定義しない限り、本明細書中で使用される技術用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって通常理解されるのと同じ意味を有する。Singletonら,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,第2版,J.Wiley & Sons(New York、NY 1994)は、本願において用いられる用語の多くに対する一般的なガイドを当業者に提供する。
【0046】
当業者は、本明細書中に記載される方法および材料と類似かまたは等価な多くの方法および材料が本発明の実施において用いられ得ることを認識する。実際、本発明は、記載された方法および材料には決して限定されない。本発明の目的のために、以下の用語を以下に定義する。
【0047】
用語「抗原提示細胞」(APC)は、最も広い意味で用いられ、そして、複合抗原を酵素消化によってより小さなフラグメントへとプロセシングし、そしてMHCによってコードされる分子と会合した状態でこれらをT細胞へと提示する、特化したタイプの白血球をいう。抗原提示細胞としては特に、DC、マクロファージ、およびB細胞が挙げられ、DCは本発明の方法において好ましい。
【0048】
「樹状細胞」(DC)は、いくつかの方向において樹状細胞本体から伸びるラメリポディウムを含め、特徴的な形態を有する抗原提示細胞(APC)である。樹状細胞は、インビトロおよびインビボの両方において、一次抗原特異的T細胞応答を開始し得、そして末梢血白血球、脾細胞、B細胞および単球と比較して強い混合白血球反応(MLR)を指示し得る。DCは、多数の異なる造血前駆細胞から誘導され得る。樹状細胞の分化および成熟を含めたその一般的説明については、例えば、Steinman,Annu Rev Immunol.9:271−96(1991)、ならびにLotzeおよびThomson、Dendritic Cells、第2版、Academic Press、2001を参照のこと。用語「樹状細胞」は、特に、同系(自己)樹状細胞および同種異系樹状細胞、ならびにHLA一致成分およびHLA不一致成分を有する樹状細胞(HLA一致同種異系樹状細胞)を包含する。
【0049】
用語「がん特異的抗原」および「腫瘍特異的抗原」または手短に「がん抗原」および「腫瘍抗原」は、交換可能に使用され、そして正常細胞には存在しない(がん/腫瘍細胞において独特に発現される)か、またはがん/腫瘍細胞において正常細胞と比較して識別的に発現される抗原をいう。
【0050】
用語「識別的に発現される(抗原)」、「識別的(抗原)発現」およびそれらの同義語(これらは交換可能に使用される)は、その発現が、疾患(特にがん)に罹患している被験体において、正常被験体またはコントロール被験体におけるその発現と比較して、より高いかまたはより低いレベルに活性化される抗原をいう。識別的に発現される遺伝子が、拡散レベルまたはタンパク質レベルで活性化されるかまたは阻害されるかのいずれであってもよいか、あるいは、異なるポリペプチド産物をもたらすオルタナティブスプライシングに供されてもよいことが理解される。このような相違は、例えば、mRNAレベル、表面発現、ポリペプチドの分泌または他の分画の変化によって証明され得る。本発明の目的のために、「識別的遺伝子発現」は、正常細胞での所定の抗原の発現と腫瘍(がん)細胞での所定の抗原の発現との間に少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約4倍、より好ましくは少なくとも約6倍、最も好ましくは少なくとも約10倍の相違がある場合、存在すると考えられる。
【0051】
用語「腫瘍」は、本明細書中で用いられる場合、悪性であろうと良性であろうと、全ての新生物性細胞増殖および繁殖、ならびに全ての前がん性およびがん性の細胞および組織をいう。この用語は特に、がんおよびがん組織を包含する。
【0052】
用語「がん」および「がん性」とは、制御されていない細胞増殖によって代表的に特徴付けられる、哺乳動物における生理的状態をいうかまたは記載する。がんの例としては、前立腺がん、乳がん、結腸がん、肺がん、肝細胞がん、胃がん、膵臓がん、頸部がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、尿路がん、甲状腺がん、腎臓がん、がん腫、メラノーマ、頭部および頸部がん、ならびに脳のがんが挙げられるがこれらに限定されない。
【0053】
用語「凍結切除」、「寒冷療法」および「凍結手術」は、交換可能に用いられ、そして組織中の細胞を窮迫させるか、致死的に損傷を与えるかまたは致死量未満の傷害を加える試みにおいて、ある体積の腫瘍(例えば、ヒト腫瘍(がん)組織)の温度を凍結未満の温度まで低下させることをいう。
【0054】
用語「細胞の窮迫(cellular distress)」とは、腫瘍特異的抗原のバイオアベイラビリティー(遊離)を増加させる、任意の致死的または致死量未満の細胞傷害をいうために用いられる。細胞を窮迫させることは、腫瘍またはがん組織の少なくとも一部分に対して適用される、例えば、凍結切除、化学療法、放射線療法、超音波療法、またはこれらの任意の組合せを含めた種々の処置から生じ得る、壊死、アポトーシスおよび浸透圧細胞傷害を包含するがこれらに限定されない。
【0055】
用語「腫瘍特異的抗原」および「がん特異的抗原」は、交換可能に用いられ、そして最も一位意味では、特定のタイプの腫瘍において特異的に発現される抗原(これは稀である)、特定のタイプの腫瘍において識別的に発現される抗原、および変異抗原を包含するがこれらに限定されない。
【0056】
用語「炎症因子」は、本明細書中では最も広い意味で用いられ、そしてサイトカイン、ケモカイン、および炎症に関与する細菌産物、ならびに炎症に関与する因子の産生を開始もしくは増加させる他の分子(例えば、TNF−α、IL−1αおよびβ、IL−6、ならびにIL−12、マクロファージ炎症性タンパク質1αおよび1β、およびLPS)を包含するがこれらに限定されない。
【0057】
「化学療法剤」は、がんの処置において有用な化合物である。化学療法剤の例としては以下が挙げられる:アルキル化剤(例えば、チオテパおよびシクロホスファミド(cyclosphosphamide)(CYTOXANTM));アルキルスルホネート(例えば、ブスルファン、イムプロスルファンおよびピポスルファン);アジリジン(例えば、ベンゾドパ(benzodopa)、カルボコン、メツレドパ(meturedopa)およびウレドパ(uredopa));エチレンイミンおよびメチルメラミン(methylamelamine)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラミド(trietylenephosphoramide)、トリエチレンチオホスホルアミド(triethylenethiophosphaoramide)およびトリメチロールメラミン(trimethylolomelamine)を包含する);ナイトロジェンマスタード(例えば、クロラムブシル、クロルナファジン(chlornaphazine)、クロロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミン酸化物塩酸塩、メルファラン、ノベムビキン(novembichin)、フェネステリン(phenesterine)、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード);ニトロソウレア(nitrosurea)(例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン);抗生物質(例えば、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、アウスラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン(calicheamicin)、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン(carminomycin)、カルチノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6−ジアゾ−5−オキソ−L−ノルロイシン、ドキソルビシン、エピラビシン(epirabicin)、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン(marcellomycin)、マイトマイシン、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン(peplomycin)、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、プロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン(tubercidin)、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン);代謝拮抗物質(例えば、メトレキサートおよび5−フルオロウラシル(5−FU));葉酸類似体(例えば、デノプテリン(denopterin)、メトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート);プリン類似体(例えば、フルダラビン、6−メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン);ピリミジン類似体(例えば、アンシタビン、アザシチジン、6−アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5−FU);アンドロゲン(例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン);抗副腎物質(anti−adrenal)(例えば、アミノグルテチミド、ミトーテン、トリロスタン);葉酸補充物(folic acid replenisher)(例えば、フロリン酸(frolinic acid));アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド(aldophosphamide glycoside);アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビサントレン;エダトレキサート;デフォファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン(diaziquone);エルフォミチン(elfomithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド(etoglucid);硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトザントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメト(phenamet);ピラルビシン;ポドフィリン酸;2−エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標);ラゾキサン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”−トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara−C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキサン(例えば、パクリタキセル(TAXOL(登録商標),Bristol−Myers Squibb Oncology,Princeton,N.J.)およびドセタキセル(docetaxel)(TAXOTERE(登録商標),Rhone−Poulenc Rorer,Antony,France);クロラムブシル;ゲムシタビン;6−チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;プラチナ類似体(例えば、シスプラチンおよびカルボプラチン);ビンブラスチン;プラチナ;エトポシド(VP−16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトザントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン(navelbine);ノバントロン(novantrone);テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;キセロダ(xeloda);イバンドロネート(ibandronate);CPT−11;トポイソメラーゼインヒビターRFS 2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイン酸;エスペラミシン(esperamicin);カペシタビン(capecitabine);ならびに上記のいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸または誘導体。この定義に含まれるのはまた、腫瘍に対するホルモン作用を調節するかまたは阻害するように作用する抗ホルモン剤(例えば、抗エストロゲン(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害性4(5)−イミダゾール、4−ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン(keoxifene)、LY 117018、オナプリストンおよびトレミフェン(Fareston)が挙げられる))ならびに抗アンドロゲン(例えば、フルタミド、ニルタミド、ビカルタミド(bicalutamide)、ロイプロリドおよびゴセレリン);ならびに上記のいずれかの薬学的に受容可能な塩、酸または誘導体である。
【0058】
(II.詳細な説明)
本発明の実施は、特に示さない限り、分子生物学、微生物学、細胞生物学および生化学の従来の技術を用い、これは、当該分野の技術範囲内にある。このような技術は、例えば以下のような文献において充分に説明されている:Cryosurgery for Prostate Cancer Following Radiation Therapy,Erlichman,M.ら編,Rockville、Md.:(Springfield,VA:U.S. Dept.of Health and Human Services,Public Health Service,Agency for Health Care Policy and Research;National Technical Information Service,distributor,1999);Basics of Cryosurgery,Korpanら編,Springer−Verlag,Vienna,2001;Dendritic Cells:Biology and Clinical Applications,LotzeおよびThomson編、San Diego,Academic Press,2001;Dendritic Cell Protocols,RobinsonおよびStagg編,Humana Press,2005;ならびにCancer Vaccines and Immunotherapy,Stern,Peterら,Cambridge University Press,2000。
【0059】
本発明は、前立腺がんの局所処置後に転移性疾患の初期に報告された寛解において観察されたものが、実際に、がん抗原バイオアベイラビリティーの作製とその後の全身性細胞媒介性応答とに少なくとも部分的に起因したという認識に少なくとも部分的に基づく。
【0060】
本発明は、がんのための種々の非外科的処置(特に放射線療法だが、寒冷療法、科学療法および超音波療法も)が、これらの処置が標的とする多くの腫瘍細胞の死をもたらすが、処置後のがんの最終的な「クリアランス」は免疫系の役割によるという認識にさらに基づく。この認識は、がんの「全身的な」見解に主に基づく;すなわち、そのガン細胞は、転移している、すなわち、がんの診断がされる時点までに、原発性がんから身体の他の部分へと広がっている。この見解は、がんを特定の器官へと制限しながらも診断し得るというがんの「古典的な」見解が、細胞レベルでの隠れた悪性腫瘍の巣を想像できないかさもなければ検出できないことのみに基づくということを支持する。
【0061】
実際に、「全身的な」見解は、生じた器官に局在化されると考えられる腫瘍(主としてTiがんおよびT2がんとして公知)からの細胞が、診断時までに実際にどこかに移動したという証拠が積みあがったので、より主流になっている。例えば、近年の報告は、前立腺がん細胞が、「局在した」前立腺がんの50%において骨髄から単離され得ることを実証する。Ellis WJ,Pfitzenmaier J,Cclii J,Arfman E,Lange PH,Vessella RI,Journal of Urology 61(2):277−281(2003)。顕著な数の「局在した」がんが診断時までにそれらの生じた場所を越えて実際に移動したならば、局在した疾患のための局所に対する処置後に見られる高いコントロール率(前立腺がんのための近接照射療法または焦点照射5年後に約90%)は、一次局所処置によっておそらく補助される、免疫系によるこれらの細胞のクリアランスに起因し得る。この仮説は、前立腺がんの近接照射療法後に近年観察された現象(以下に考察する)と一貫している。
【0062】
前立腺がんの診断における、ならびに処置の効力および潜在的ながん再発のモニタリングにおける重要なツールは、前立腺特異性抗原(PSA)であり、これは、ヒト前立腺の腺構成要素によって独占的に生成される33kDaのヒトカリクレインファミリーのセリンプロテアーゼである。若い男性における血清レベルは一般に検出不能である;しかし、歳をとるにつれて、男性は、良性では0.5ng/mlと4.0ng/mlとの間の循環レベルを有することが見出されるが、4.0ng/mlよりも高いと、前立腺がんを保有する危険性がより高いことが見出されている。重要なことには、PSAは、生殖年齢の男性において生成されるが、前立腺細胞、および前立腺を尿道前立腺部へと接続する管に制限される。酵素PSAは、前立腺の推定の主な役割である射精の液化において役割を果たすと考えられる。上記のように、血清PSAは、充分に上昇した場合には前立腺がんについてのマーカーとして、および前立腺のがん腫の確定的処置後の治療の成功を追跡する手段としての両方の価値を有する。成功裏の治癒的治療後、血清PSAは、非検出可能レベルに近づくはずである。
【0063】
前立腺がんのための一般的な処置である近接照射療法では、放射性各種でコーティングした米粒大のチタンペレットが、腫瘍殺傷線量の放射線を前立腺自体を超えた場所に放射線を送達しないように前立腺に送達するために、前立腺に移植される。前立腺がんの成功裏の近接照射療法後の経時的な血清PSAの代表的なプロットを図1に図示する。図1の28ヶ月において観察されるPSAの「スパイク」は、PSA「戻り」と称されているものの代表的なものである。Merrick CS,Butler WM,Wallner KE,Galbreath RW,Anderson RL,Journal of Radiation Oncology,Biology,Physics 54(2):450−456(2002);Cavanagh W,Blask JC,Grimm PD,Sylvester IF,Seminars in Urologic Oncology 18(2):160−165(2000)。この観察を説明する確定的な説明は現在ないが、照射後、インタクトな野生型p53を有する細胞が、電離放射線後に長期間にわたってG(2)静止周期を維持し得ることが公知である。Scott SL,Earler JD,Gumerlock PH,Cancer Research 63(21):7190−7196(2003)。しかし、長いこの周期は、電離放射線による重篤なDNA損傷の存在下で維持され得るが、最終的にはこの細胞はM期に入らなければならない。その時点で、がん性およびそうでない特定の数の細胞が、照射によって受けた重篤なDNA損傷(二本鎖切断)に対して二次的に、主にアポトーシス経路によって死ぬ。おそらく、このようなクローン原性死亡は、一次的な様式で血清PSAの増加をもたらす。
【0064】
血清PSA戻りの原因としてこの基礎となる機構を受け入れるか否かにかかわらず、これが、放射線で処置した前立腺がん患者のうちの大きな割合において、代表的には18ヶ月と36ヶ月との間に観察されることが明らかである。
【0065】
任意の特定の理論によって束縛されないが、証拠の全体をながめると、放射線処置後のある時点での細胞内容物の放出ががん特意的抗原/タンパク質のバイオアベイラビリティーを可能にしている、およびDCまたは細胞媒介免疫の他の局面によるこの物質の取り込みが全身免疫応答能を提供すると結論することが合理的である。
【0066】
PSAはピーク抗原アベイラビリティーを測定するために用いられるが、PSAは、この事象についての指数としてのみ作用する。実際、未知の数のさらなる別個のタンパク質実体が同時に放出される。これらの実体は、がん特異的抗原であり得るか、がん細胞によって過剰発現されるタンパク質であり得るか、または良性細胞およびがん細胞の両方によって発現され得る。これらの3つの事象のうちのいずれかにおいて、これらの推定タンパク質実体のアベイラビリティーは、DCのような細胞によってプロセシングされる場合、全身抗転移免疫応答をもたらし得る。
【0067】
2つの近年の動物研究は、この時点で言及に値する:第1に、Teitz Tennenbaumら,Cancer Research 63:8466−8475(2003)は、DC治療および放射線を用いる、2つの異なる腫瘍株を用いたネズミモデルにおける抗腫瘍効力の統計学的に有意な改善について報告する。最も顕著なことには、抗腫瘍効果は、両方の療法を一緒に使用することにより相乗効果が得られた。すなわち、組合せ処置群における効果は、自己DCのみおよび放射線のみによるそれぞれの処置において示された相加効果よりも大きかった。第二に、3つの報告は、全身化学療法の投与、その後のDCの腫瘍内注射後のマウスモデルにおける移植された腫瘍の消失を記載する(Tongら,Cancer Research 61:7530−7535(2001);Shinら,Histology & Histopathology 18:435−447(2003)およびYuら,Clinical Cancer Research 9:285−294(2003))。興味深いことに、腫瘍を右腹および左腹の両方に移植し、片側のみにDCを注射した場合、反対側の腫瘍が後退することが示された。両方の研究とも、放射線または化学療法、続いてDCの局所導入による腫瘍内の細胞に対する損傷が、期待された、腫瘍のより有効なクリアランスをもたらすことを示唆し、このことはさらに、全身性の免疫媒介効果を示唆する。従って、原発腫瘍の処置に基づく、がんに対する全身免疫応答の考えを支持する証拠が存在し、そしてこれを仮定するための基礎が原発腫瘍のいくつかのタイプの損傷または崩壊およびその後のがん関連抗原のバイオアベイラビリティーにあると仮定すると、本発明者らは、切除治療後の場合のように、抗原提示細胞に対して最大のバイオアベイラビリティーのために抗原を遊離する、より最適な手段が存在し得ると結論し得る。
【0068】
図2は、成功裏の寒冷療法後の代表的PSAパターンを図示する:処置の数時間/数日以内の大きな大きさのスパイク(前立腺体積の大規模な壊死の結果として)、続いてその少し後の非検出可能な血清レベル。Wieder J、Schmidt JD,Casola G,vanSonnenberg E,Stainken BF,Parsons CL,Journal of Urology 154(2 Pt 1):435−441(1985)。上記のように、免疫プロセシングおよび免疫応答についての抗原の大きなアベイラビリティーの指標または指数として血清PSAを使用しようとする場合、寒冷療法後、この指数は、放射線処置と比較して、(1)大きさが大きなものであり、(2)タイミングおよび持続時間の分散が小さいものであると結論付けられ得る。さらに、一次処置(この場合、凍結処置)とDC処置との間のタイミングおよび間隔のさらにより最適化された特異的なプログラムが存在することが提唱される。
【0069】
従って、そしてより一般的に、任意の手段(例えば、腫瘍またはがん組織の少なくとも一部分に対して適用される、凍結切除、化学療法、放射線療法、超音波両方、またはこれらの任意の組合せ)によって細胞窮迫を最初に誘導する工程(致死的および致死量未満の細胞損傷(例えば、壊死、アポトーシス、浸透圧性細胞損傷など)を含む)、次いで、1以上の選択的用量の抗原提示細胞(例えば、自己DC)を、腫瘍またはがん組織の腫瘍内にまたはその近傍に送達する工程を含めた治療方法は、腫瘍/がん処置に対する新たで進歩したアプローチを提供する。
【0070】
本発明の方法では、エキソビボでの成熟工程に供されていないDCが腫瘍またはがん組織に送達され、未成熟のDCが取り込まれ、そして処理される(腫瘍抗原が、細胞窮迫(例えば、寒冷療法)によって利用可能にされる)。未成熟のDCの既知の欠点は、リンパ節に移動する能力およびT細胞を活性化する能力においてこれらが成熟DCよりも効率が低いことである。驚くべきことに、本発明の方法は、T細胞活性化の効率を損なうことなく、未成熟DCの使用を可能にする。任意の理論によって束縛されないが、この結果のありそうな説明は、細胞窮迫(例えば、寒冷療法)をもたらす処置によって放出される炎症因子の存在によってDCが送達後に成熟するということである。本発明はまた、この現象を利用したDCのインビボ成熟のための方法を提供する。
【0071】
特定の実施形態では、抗原提示細胞は、最大値またはその付近にある細胞窮迫から生じる(必要とされる場合、選択された期間にわたってモニタリングされる)遊離したがん特異的抗原のバイオアベイラビリティーに充分な選択された期間の後に送達される。しかし、以下においてより詳細に考察するように、腫瘍抗原のバイオアベイラビリティーをモニタリングすることまたは抗原提示細胞の送達を遅らせることは常に必要なわけではない。
【0072】
上記のように、本発明は一般に、免疫療法に関し、より詳細には、エキソビボにおいて成熟因子に曝露されていない抗原提示細胞(例えば、DCなど)を(好ましくは、がん特異的抗原のバイオアベイラビリティーが最大値であるかまたは最大値付近であるとき)腫瘍またはがん組織の腫瘍内にまたはその近傍に送達することによって、腫瘍およびがん組織を処置するための方法に関する。従って、本発明は、腫瘍およびがんの処置に対する新しいタイプのAPCベースのアプローチを提供する。がん抗原のインサイチュアベイラビリティーは、いくつかの方法のうちのいずれか1つにおいて、例えば、凍結切除、化学療法、放射線療法、超音波療法、またはこれらの任意の組合せを、当該分野で公知のように腫瘍またはがん組織に対して選択的に適用することによって達成され得る。
【0073】
公知のがん処置(例えば、放射線療法、化学療法、超音波療法および凍結切除療法が挙げられる)は、腫瘍細胞における致死的または致死量未満の損傷をもたらし、代表的には大部分の壊死細胞またはアポトーシス細胞および最小限の残った生存新生物性細胞を腫瘍組織内に残し、がん抗原の遊離をもたらす。本発明の基礎となる重要な認識は、これらの効果が、これらの標準的な治療後のAPC(例えば、DC)の注入を用いた有効な免疫療法ストラテジーについての機会の大きな余地を開けるということである。このアプローチのために特に適切であるのは、凍結切除とAPCベースの免疫療法との組合せである。前立腺がんのようながんのための他の従来の治療法とは異なり、凍結切除は、抗原の即座の遊離をもたらし、免疫系を損なわず、そして過度の毒性のおそれなしで繰り返され得る。さらに、凍結切除によって誘導される抗原遊離は、即座であるだけでなく、より集中している、すなわち、より狭い時間枠において生じる。これらの理由全てにより、凍結切除は、APCベースの免疫療法に先立つ、最も興味をそそる選り抜きの一次処置を表すが、APC(例えば、DC)の注入が後で行われる他の一次がん処置もまた本発明の一部である。
【0074】
付随の合併症を伴う器官全体の凍結切除は、この組合せ療法のために必要とされない。がん性器官(例えば、前立腺)の「部分(sub−total)」凍結切除は、腫瘍関連抗原を遊離させるために充分であると考えられ、そして注入されたAPC(例えば、DC)によって取り込まれるためのアポトーシス細胞/壊死細胞を提供する。部分的凍結切除は、以下のいずれかであると定義され得る:1)器官(例えば、前立腺)の100%未満の切除、または2)凍結切除温度よりも高い(すなわち、−40℃よりも高い)温度への組織の凍結処理。定義1)では、この部分的という記述語(descriptor)は、容積測定に関していい、一方、定義2)が用いられる場合、「部分」は、温度に関して参照される。いずれにしろ、この凍結切除は、全体の切除ではなく、これは、全体として組織または器官の均質かつコンフルエントな壊死を誘導するに充分な凍結処置と定義され得る。全体の凍結切除は、組織または器官の体積全体を、3分間にわたって−40℃まで、または1分間にわたって−60℃まで凍結させることによって代表的に達成される(Larsonら,Urology 55(4):547−552(2000))。
【0075】
特に、本発明は、富化した自己DCに対する標的抗原のエキソビボ負荷の代替ストラテジーを提供する。富化した自己DCに対する標的抗原のエキソビボ負荷に関連した問題は、DCが適切な抗原性プロファイルに曝露されたか否かの確実性の欠如に関する。上記で考察したように、DCが全ての重大な抗原性成分に曝露されたことを確実にして検証することはしばしば困難であり、このことは、腫瘍処置の成功を損ない得る。
【0076】
本発明によれば、1以上のがん抗原がインビボで遊離され、続いて大容量のDCが、遊離した抗原の位置にまたはその位置の近傍に直接適用される。このようにして、DEは、がん細胞から遊離された可溶性タンパク質の微小飲細胞運動(micropinocytosis)を引き起こすか、またはいくつかの場合にはエンドサイトーシスを引き起こし、そして死んだ細胞/死につつある細胞の残骸(これらの細胞の細胞膜を含む)を貪食し、次いでリンパ節へと移動させて免疫細胞媒介性局面および体液性局面と接触させることによって、がんに対する全身応答をもたらすと考えられる。
【0077】
本発明の1つの実施形態では、(例えば、凍結切除による)標的抗原の遊離の後には、事前のエキソビボ成熟工程に供されていない、負荷されていないDCの直接的腫瘍内(IT)注入が続く。注入されると、DCは腫瘍床内のアポトーシスまたは壊死した腫瘍細胞からの抗原を取り込む。腫瘍細胞はインビボにおける抗原の供給源であるので、IT注入は、選択、GIMP条件下でのコストのかかる製造、およびインビトロでの腫瘍抗原負荷の必要性をなくす。腫瘍細胞の凍結切除または他の処置はまた特定の炎症因子(例えば、TNF−αおよびIL−1β)を放出させるので、DCはインビボでの成熟を受け、このことは、それらがリンパ節へと移動する能力を増強し、そしてリンパ節における腫瘍特異的T細胞を活性化する。その結果、本発明の方法は、がんの免疫療法における顕著な進歩を表す。
【0078】
腫瘍内APC注入と組み合わせた凍結切除は、利用可能な診断法を用いて腫瘍またはがん組織が検出または画像化され得る任意のがん患者にとって有用であり得る。利用可能な診断法によって可視の腫瘍が検出できないかまたは画像化できない患者(一次治療を受けた後に推定的腫瘍再発を経験する患者を含む)については、「部分」凍結切除(上記のとおり)とPACの直接注入との組合せは、このようにして処置される領域が、腫瘍の以前の場所に近いかまたはがん性であることが予め既知である器官もしくは組織内にある場合、依然として適切であり得る。
【0079】
このストラテジーの原理は以下のとおりである:
a)残ったがん細胞または前悪性細胞が器官(例えば、前立腺)内に存在して、注入されたDCにとっての抗原供給源として作用し得る場合、
b)種々の組織特異的抗原(例えば、前立腺についてはPSA、PSMA、PAPなど)が、罹患組織または罹患器官のがん細胞および正常細胞の両方によって発現される場合;
抗腫瘍免疫応答は、これらの共有される抗原に対する手順によって誘導され得る。正常組織に対する交差反応性が予想され、そしてこのシナリオにおいては、受容可能な影響とみなされる。
【0080】
局所免疫応答および全身免疫応答は両方とも、理論的に、この手順を用いて生じ、従って器官または組織(例えば、前立腺)内のがん細胞だけでなく、身体の他の部分における転移性病巣をも除去することを可能にする。
【0081】
一次処置(例えば、放射線療法、化学療法および凍結切除)は、既知のプロトコルに従って行われる。前立腺がんの処置の一部としての凍結切除についての特定のプロトコルは、以下の実施例に提供される。従って、凍結切除は、例えば、市販のEndocare Cryocare CS(登録商標)システム(Endocare,Inc.)を用いて実施され得る。このCSシステムは、凍結剤として圧縮アルゴンガスを使用し、加温剤(warming agent)として圧縮ヘリウムガスを使用する。熱電対のフィードバックを通して、このシステムは、医師の裁量によってか、またはコンピュータ媒介システムの使用によって自動的に、標的とされる体積の組織の制御された凍結およびこの体積の「能動的な」融解を可能にする。さらに、Cryocare CS(登録商標)システムは、組み込まれた超音波を用い、これは、オペレーターが、1つの装置における超音波によって計画、プローブ配置および凍結事象の進行の全ての局面をモニタリングすることを可能にする。
【0082】
本発明の方法において使用するためのDCの生成および試験もまた。当該分野で公知の技術に従って実施され得る。既知の特異的細胞マーカーがないので、DCは、例えば、抗体および磁気ビーズ、パンニングまたはセルソーターを用いることにより、他の規定された細胞集団(例えば、Tリンパ球およびBリンパ球、ナチュラルキラー細胞および単球)の除去によって精製され得る(BanchereauおよびSteinman,Nature 392:245(1998);FreundenthalおよびSteinman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA S7:7698(1990);Steinman,Annu.Rev.Immunol.9:271(1991))。しかし、DCは、血液のような利用しやすい生物学的サンプル中には少量しか存在しないことが公知である。DCをその前駆体から識別する方法の発見は、他のリンパ球成分の除去の結果として、ずっと大きな収率を可能にする。
【0083】
単球(これは、血中の最も豊富なDC前駆体である)は、サイトカインの組合せ(最も頻繁には、1以上のさらなるサイトカイン(例えば、インターロイキン−4(IL−4)、インターロイキン−7(IL−7)、インターロイキン−13(IL−13)およびIFN−αのうちの1つ以上)と組み合わせた顆粒球マクロファージ−コロニー刺激因子(GM−CSF))を用いてインビトロで分化させてDCになり得る。GM−CSF、IL−4およびTNF−αを含む培地中でのDCへの単球のインビトロ分化のための方法は、米国特許第5,849,589号に記載される。単球分化およびDC成熟を誘導するためのIL−7の使用は、例えば、FryおよびMackall,Blood 99:3892−3904(2002);Liら,Scand.J.Immunol.51 :361−371(2000)、およびTakahashiら,Human Immunol.55:103−116(1997)によって記載されている。米国特許第6,524,855号および同第6,607,722号によれば、単球分化は、細胞成分と共に光添加物を形成し得る光活性化可能な薬剤に曝露し、次いで曝露させた細胞に、この薬剤を活性化するために適切な放射線(代表的には紫外光または可視光)を照射することによって単球をフォトフェレーシスに供することにより開始される。
【0084】
特定の実施形態では、分化は、GM−CSFおよびEFN−αの存在下で行われる。GM−CSFおよびEFN−α中で培養した推定の機能的利点については文献においてへだたりが存在するが、この系はいくつかの利点を提供すると考えられている。このような利点は、短期間の培養、抗原提示に関与する分子のより高い発現、(さらなる成熟因子の添加なしで)細胞のかなりの割合での少なくとも部分的に成熟した表現型の出現、ならびに免疫応答の体液性アームおよび細胞性アームの効率的な刺激を包含し得る(例えば、Santiniら,Stem Cells 21:357−362(2003)を参照のこと)。
【0085】
DC前駆体は、当該分野で公知の種々の方法によって単離され得、このような方法としては、プレーティング、磁気ビーズ(例えば、Dynabeads(登録商標),Dynal Biotech,Oslo,Norway)での分離、接線ゲル濾過、またはElutra Cell Separation System(Gambro BCT,Lakewood,CO,USA)の使用が挙げられる。単球からのインビトロDC生成のための当該分野で公知の特定の方法は、組織培養プラスチックへのこれらのDC前駆体の接着、続いて非接着細胞の除去、および適切なサイトカインの存在下での一定期間の培養を含む。このプロセスは労働集約的であり、開放培養系に起因して夾雑の可能性があるので、単球単離およびDC培養はまた、閉鎖系(例えば、細胞工場または培養バッグなど)中で行われ得る(Begerら,J.Immunol Methods 268:131(2002);Guyreら,J.Immunol.Methods 262:85(2002))。当該分野で公知の改善された方法および市販の機器を用いて、約80%までの未成熟DCを含む細胞集団が作製され得る。
【0086】
大部分の方法は、CD34前駆細胞または血液単球からのDC様細胞のインビトロでの発達に依存する(例えば、Cauxら,Nature 360:258(1992);Romaniら,J.Exp.Med.180:83(1994);Sallustoら,J.Exp.Med.179:1109(1994)を参照のこと)。これらの方法によれば、単球は通常、GM−CSFおよびIL−4を用いて5〜7日間培養されて未成熟のDCが作製され、この未成熟のDCが続いて活性化されて、完全なT刺激能力を有する成熟DCが得られる。タイプIインターフェロンもまた、DCへの単球の迅速な分化を誘導することについて記載されている(Santiniら,J.Exp.Med.191:1777−1788(2000))。
【0087】
インビトロ(エキソビボ)でDCを成熟させることが見出された種々の因子としては、必要に応じてプロスタグランジン−E2(PGE2)、血管作動性腸管ポリペプチド、ポリ−dIdC、ならびにマイコバクテリア細胞壁成分のような他の因子と組み合わせた、単球馴化培地(MCM)、TNF−αおよび/または他の成熟因子(例えば、LPS、IL1−β、およびカルメット−ゲラン杆菌(BCG))が挙げられる。
【0088】
DCの成熟程度が、有効ながんのワクチンの作製において重要な考慮事項であることが一般に受け入れられている(Onaitisら,Swg.Oncol.Clin N.Am.11(3):645−660(2002))。未成熟のDCの蓄積に起因した不完全な樹状細胞機能は、がんにおける免疫抑制の機構と関連付けられている(Almandら,J.Immunol.166(1):678−698(2001))。成熟中のDCは、表面上の抗原密度を増大させるので、T細胞を活性化する能力ならびに補助刺激分子を通したT細胞活性化シグナルの大きさを増大させる変化を受ける(ZhouおよびTedder,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93(6):25S8−2592(1996))。さらに、成熟中のDCは、リンパ節へと移動する能力を発達させ、リンパ節においてT細胞活性化が一般に生じる(BanchereauおよびSteinman,Nature 392(6673):245−252(1998))。
【0089】
しかし、成熟DCはまた、抗原を取り込んでプロセシングする能力を失う。そのため、本発明によれば、DCは、成熟因子の存在下での分離成熟工程に供されない。言い換えれば、本発明の方法は、単球由来のDCを使用する。単球由来のDCは、成熟因子(例えば、単球馴化培地、LPS、TNF−α、IL1−βおよびカルメット−ゲラン杆菌(BCG))の存在下でさらにインキュベーションすることなく、分化因子の存在下で単球を培養することにより得られる。どのような特定の理論にも機構にも束縛されないが、分離成熟工程に供されていないDCは、本発明の方法において成功裏に用いられ得ると考えられる。なぜなら、寒冷療法が炎症因子の放出をもたらし、この炎症因子がインビボでDCの成熟を直接的または間接的に誘導するからである。
【0090】
別の重要なDCの特徴は、DCが未刺激T細胞の活性化のプロセスにある場合、生物学的に活性なIL−12を分泌する能力である。IL−12は、Th1型応答を誘導するサイトカインである(Kennedyら,Eur.J.Immun 24(10):2271−2279(1994))。このタイプのT細胞応答は、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)の誘導および分化をもたらす。CTLは、腫瘍増殖と戦う際に最も有効な免疫系のエフェクターアームを構成する。IL−12はまた、ナチュラルキラー(NK)細胞の増殖を誘導し(Kobayashiら,Exp.Med 170(3):827−845(19S9))、そして抗脈管形成活性を有する(Voestら,J.Natl、Cancer Inst.87(8):581−586(1995))。これらは両方とも、有効な抗腫瘍武器である。それゆえ、理論的に、IL−12を産生するDCの使用は、Dcベースのがん治療における使用に最適に適している。
【0091】
Snijdersらは、インターフェロン−γ(EFN−γ)に対する曝露が、CD40−CD40リガンド相互作用を通してのT細胞との係合中のDCのIL−12分泌能に必須であることを報告した最初のグループであった(Snijdersら,Int.Immunol.10(11):1593−1598(1998))。この同じグループはまた、DC成熟プロセスの前、このプロセス中またはその少し後でのEFN−γへの曝露がDCのIL−12生成能に重要であることを報告した(Vieiraら,J.Immunol.184:4507−4512(2000))。IL−12産生能の意味深い調節とは対照的に、EFN−γは、成熟DcマーカーCD83、補助刺激分子CD40、CD80およびCD86、ならびにクラスII MHC Ag提示分子HLA−DRの発現を上昇させることも阻害することもなく、成熟関連の表現型変化に対して影響を示さなかった(Vieiraら,J.Immunol.184:4507−4512(2000))。IFN−γの有益な特性を利用するために、好ましい実施形態では、本発明の分化したDCは、培養後にEFN−γに曝露される。
【0092】
本発明によるDC調製の特定のプロトコルは、以下の工程を包含する:(1)患者の白血球搬出、(2)DC前駆体(単球)の単離、(3)別個の成熟工程なしでのDCの培養および分化(必要に応じてEFN−γ処理が続く)、ならびに(4)DCの収集および凍結保存。これらの工程を行うための特定のプロトコルは、以下の実施例において提供されるが、当該分野で公知の他のプロトコル(特定の作業に対する改変および適応を包含する)もまた、本発明の方法を行うために適切であり、本発明の範囲内にある。
【0093】
白血球搬出は、白血球を分離して、赤血球(RBC)、多形核(PMN)細胞、単核細胞、および血小板の豊富な血漿にすることに始まる。その後、単核細胞が収集され、PMNおよびRBCが血小板の豊富な血漿と混合されて患者に戻される。この後、市販の器具(例えば、ELUTRATM細胞分離システム(Gambro))を用いてDC前駆体(単球)が単離され、DCが培養および分化され、そして未成熟DCが収集および提示される。
【0094】
特定の実施形態では、DCは、処置されるべき患者の自己DCである。しかし、これは必要事項ではない。処置はまた、同種異系DC、またはHLAが一致した(同系の、自己の)成分およびHLAが不一致の(同種異系)成分を有するDCを用いて行われ得る。後者のタイプのDCの利点は、HLAが一致した同種異系DCと手短に言われるHLAが一致した(同系の、自己の)成分が、放出される腫瘍抗原の捕捉を可能にし、そして腫瘍に対する宿主のT細胞応答の活性化を促進することである。HLAが一致した(同種異系の)成分が、宿主のT細胞によって異物として認識され、宿主対同種異系DC応答(同種異系応答)(移植片拒絶としても公知)が生成される。このような強力な同種異系応答は代表的に、顕著なレベルの種々の炎症性サイトカイン(インターロイキン−2(IL−2)、インターフェロン−γ(EFN−γ)、インターロイキン−12(IL−12)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)およびインターロイキン−1β(IL−1β)が挙げられる)の一時的な分泌をもたらす。これらの炎症促進性(pro−inflammatory)サイトカインの利用可能性は、DC成熟を誘導し、T細胞の活性化および機能を補助し、そして腫瘍免疫抑制機構を破壊することによって抗腫瘍免疫応答の作製をさらに支持すると予想される。
【0095】
本発明によれば、ワクチン接種の目的でDCに腫瘍関連抗原(TAA)のインビトロ負荷の代わりに、負荷されていないCDの直接的腫瘍内(IT)注入が用いられる。注入されると、DCは、腫瘍床内のアポトーシス性腫瘍細胞または壊死性腫瘍細胞から抗原を理論的に取り込む。腫瘍細胞は、インビボにおける抗原の供給源であるので、IT注入は、分泌、GMP条件下でのコストのかかる製造、および腫瘍抗原のインビトロでの負荷の必要性をなくす。DCの腫瘍内注入は、ヒト臨床試験において試験されている;1つの研究は、転移性メラノーマを有する7人の患者のうちの4人、および乳癌腫を有する3人の患者のうちの2人における腫瘍後退を実証した(Triozziら,Cancer 89(12):2646−2654(2000))。後退する病巣の生検は、浸潤するT細胞を実証した。このことは、注入されたDCが、腫瘍細胞に対する免疫応答を実際に活性化したことを示唆する。DCのIT注入についての特定のプロトコルは、以下の実施例において記載される。
【0096】
いくつかの実施形態では、直接的腫瘍内注入が好適であり得るが、腫瘍内送達の他の方法もまた公知であり、本発明を実施するために適切である。このような方法としては、例えば、腫瘍の脈管系を通した抗原提示細胞の送達が挙げられるがこれに限定されない。あるいは、がん組織は、抗原提示細胞(例えば、DC)を含む溶液において灌流され得る。これらおよび類似の実施形態は全て、具体的に本発明の範囲内にある。
【0097】
本発明の特定の局面のうちの重要な局面は、DC投与のタイミングである。例えば、寒冷療法、化学療法、放射線療法、超音波療法またはそれらの組合せによって壊死またはアポトーシスを誘導した後、DCは、腫瘍抗原の遊離に充分な時間を経た後で投与される。有効量の選択された抗原提示細胞(例えば、DC)は、血流中のがん特異的抗原のバイオアベイラビリティーがほぼ最大値付近になったときに、腫瘍またはがん組織に腫瘍内にまたはその近傍へと送達され、その結果、抗原提示細胞(例えば、DC)の少なくとも一部が、インビボで、がん特異的抗原の少なくとも一部に取り込まれる。
【0098】
必要な場合、抗原のバイオアベイラビリティーは、特定の腫瘍関連抗原または一群の抗原を検出するために適切な任意のアッセイ様式を用いてモニタリングされ得る。抗原検出の適切な方法としては、ELISA形式であり得る免疫アッセイ、抗体ベースの化学発光アッセイ、および腫瘍抗原の生物活性を測定するアッセイが挙げられるがこれらに限定されない。PSAレベルを検出するための方法は、試験サンプル中のPSAを捕捉するための抗体でコーティングしたビーズおよび化学発光により読み取られるシグナルを生成するための酵素標識抗体を用いる免疫測定(immunometric)アッセイを含め、当該分野で周知である。いくつかのPSAアッセイは市販されており、例えば、IMMULITEおよびIMMULITE 2000 Third Generation PSA Assays(Diagnostic Products Corp.,DPC);Tandem−E PSA/Tandem−R free PSAアッセイ(Hybritech)などである。
【0099】
他の公知の前立腺腫瘍抗原としては、類似のアッセイを用いて検出され得る、前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)および前立腺特異的膜抗原(PSMA)が挙げられる。がん胎児抗原(CEA)は、胃腸管のがんと関連することが公知である。乳がん、肺がんおよび他の固形がんもまた、既知のマーカーがあるかまたは遺伝子発現もしくはプロテオミクス分析の標準的な方法によって容易に同定され得るマーカーを有する。血流中を循環するこのようなマーカーの検出は、上記で考察した方法のような、当該分野で公知の方法によって行われ得る。実際、凍結切除は、正常では循環しないさらなる腫瘍抗原を系に放出して、このようなマーカーの数を増加させ得る。従って、実質的に任意の腫瘍抗原または腫瘍抗原の任意の組合せが、本発明の一部としてこのようなモニタリングが必要とされる場合、抗原の遊離をモニタリングするために用いられ得る。
【0100】
本発明のさらなる詳細は、以下の非限定的な実施例によって例示される。
【実施例】
【0101】
(実施例1:自己樹状細胞の産生および試験)
図3は、自己樹状細胞(DC)の調製および試験の工程を図示する流れ図である。
【0102】
自己DCの産生プロセスは、4つの工程に分けられ得る:(1)患者の白血球搬出、(2)Gambro ELUTRATMシステムを用いたDC(単球)の単離、(3)ガス透過性バック中でのDCの培養および成熟、(4)自己DCの収穫および凍結保存。これらの工程の各々を以下に記載する。
【0103】
(1.患者の白血球搬出)
一段階白血球(WBC)チャネル(またはチャンバ)を用いて単球細胞を収集する。抗凝固処理した全血は、入り口チュービングを通してチャンバに入る。それが流れてチャネル内に入るにつれて、それは3つの血液成分(赤血球(RBC)、WBC、および血小板が豊富な血漿)に分けられる。これらの3つ全ての成分の分離は、血液成分間の比重の相違、ならびにチュービングを通る流れの圧力、密度および粘度によって制御される。個々の成分は、専用チュービングを通して分離チャンバから引き出され、そしてそれぞれの受け取りバッグ中に集められる。さらに、白血球搬出はまた、単球細胞から大多数の多形核好中球(PMN)を分離する。最後に、単核細胞が収集され、一方、RBCは、血小板が豊富な血漿と混合されて患者に戻される。
【0104】
処理の間、分離および収集は、多数の光学センサおよび超音波センサによってモニタリングされる。これらのセンサは、低い抗凝固レベル、入り口空気、重要な位置でのRBCの検出、血小板濃度などのような条件を検出し得る。
【0105】
(2.Gambro ELUTRATMシステムを用いたDC前駆体(単球)の単離)
白血球搬出材料は、Gambro ELUTRATMシステムを用いた樹状細胞前駆体(単球)の単離のために処理される。このELUTRATMシステムは、細胞のサイズおよび比重に基づいて細胞産物(例えば、白血球搬出産物)を分離して複数の画分にするために向流溶出技術を用いる、半自動の遠心分離機ベースの実験室装置である。これは、無菌の使い捨てセットを利用し、このセットは、分離チャンバおよび産物収集バグを備える。従って、従来の溶出システムと異なり、ELUTRATMは、各運転後に分離チャンバおよびロータの分解および滅菌を必要としない、閉鎖された細胞分離システムである。
【0106】
このシステムは、単球富化のための予めプログラムされたプロフィールを含め、9つの溶出プロフィールを行う。Rouardら(Transfusion 43(4):481−487(2003))は、単球単離のためのELUTRATMシステムの発明に至る予備研究を以前に報告した。このシステムは、80%より多くの単球純度の産物および代表的な白血球搬出産物からの1時間での60%より多くの単球回収率を再現性よく提供する。
【0107】
単球富化プロセスを開始する前に、5mLの白血球搬出材料がサンプリングされ、そして血液学的分析のために送られる。白血球搬出材料中の赤血球(RBC)濃度および白血球(WBC)濃度についての情報は、ELUTRATMシステムの開始プロセスに必須である。白血球搬出材料が過剰のRBCを含む場合、このシステムは、適切な単球富化を保証するための必要に応じたRBC減量工程を提供する。
【0108】
このシステムに入れる前に、使い捨てのチュービングセットが、滅菌接続デバイスを用いて、媒体および収集バッグに接続される。ELUTRATMシステムの前部パネルは、操作者が使い捨てチュービングセットを入れるのを補助するために、システムの流路を示す。チュービングセットが入れられた後、このシステムにポンプを入れ、流体漏出の検出を行い、そして中の空気を溶出媒体(Hanks Balance Salt Solution Cambrex,Walkersville,MD)および1%ヒト血清アルブミン(HSA;Plasbumin(登録商標),BayerAG,Leverkusen,Germany)によって置き換えることによってチュービングセットを開始する。
【0109】
RBC減量工程が推奨される場合、このシステムは、出発細胞産物バッグから分離チャンバへと細胞を入れ、そして細胞を沈降させる。RBCが分離チャンバの底部から取り出される。この工程は、約1時間かかる。減量が完了した後、このシステムは媒体を細胞床へとくみ上げ、そして流量および/または遠心分離の速度が調整され、そして溶出工程が進められる。この工程もまた約1時間かかり、合計5つの細胞画分を収集する。溶出工程の最後において、このシステムは操作者が全ての収集バッグを密封してこれらをチュービングセットから切り離すように促し、続いて溶出チャンバを取り出し、ポンプをはずして、廃棄のために残りのチュービングセットを取り外すことをさらに促す。
【0110】
最初の4つの画分は、主に血小板、RBCおよびリンパ球を含む。これらの画分を廃棄する。5番目の画分は、DC産生のための前駆細胞として使用される、富化された単球集団を含む。この画分については、DC培養に適合性の培地(2% HSA(Plasbumin(登録商標),BayerAG,Leverkusen,Germany)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Cambrex,Walkersville,MD))を用いて細胞を収集する。RBC減量が推奨されない場合、このシステムは、記載されるとおりに溶出工程に直ちに進む。
【0111】
(3.単球の培養)
単球を、上記の方法のような、当該分野で公知の任意の方法によって培養および分化させる。このような方法もまた、標準的な教科書(例えば、Dendritic Cell Protocols,RobinsonおよびStagg編,Humana Press,2005)に開示される。代表的なプロトコルでは、単球は、成熟因子(例えば、LPS、TNF−α、IL1−βなど)の存在下でのさらなるインキュベーションを伴わない、1以上のさらなるサイトカイン(例えば、IL−4、IL−7、IL−13および/またはIFN−α)の存在下での、GM−CSFの存在下での培養物である。特定の実施形態では、ELLTTRATMシステムからの単球画分を含む収集バッグをガス透過性培養ギャブ(例えば、PermalifeTM,Origen Biomedical,Austin,TX)に接続し、ここで、細胞懸濁物が、重力により、培養バッグに移動する。GM−CSFおよびIFN−αを培養バッグに添加し、この培養バッグを次いで、代表的には37℃で3% COの存在下にて3〜4日間インキュベートする。収集の前に、IFN−γを培養物に添加して、DCがT細胞と相互作用する間のIL−12生合成を促進させ得る。
【0112】
(4.自己DCの収穫および凍結保存)
細胞懸濁物を250mLの遠心チューブに移し、そして10分間、1200rpmにて遠心分離する。培養上清を除去し、そして各細胞ペレットを10m PBS中に再懸濁する。細胞懸濁物をプールして、50mLのコニカル遠心管(それぞれ、2×10mL)に入れる。4本の250mL遠心チューブを10mL PBSでリンスする;このリンスをDC懸濁物とともにプールする。2本の50mLチューブを10分間、1200rpmにて遠心分離する(洗浄1)。上清を除去し、そして各細胞ペレットを10mL PBS中に再懸濁する。30mLのPBSを各チューブに添加し、その後、別の遠心分離を10分間、1200rpmにて行う(洗浄2)。上清を除去し、そして各細胞ペレットを10mL PBS中に再懸濁する。細胞懸濁物をプールし、そして容積を40mLに調整する。細胞の計数を、血球計算板を用いて行う。トリパンブルーを用いて、死んだ細胞を可視化する。生存DCの数を、大きなトリパンブルー陰性細胞の数を用いて概算する。50mLチューブ中の細胞懸濁物を、10分間、1200rpmにて遠心分離する(洗浄3)。上清を除去し、そして細胞ペレットを、適切な体積の凍結保存培地(6% Pentastarch,Baxter,Deerfield,IL)、4% USPヒト血清アルブミン(Plasbumin(登録商標),BayerAG,Leverkusen,Germany)、5%ジメチルスルホキシド(DMSO,Sigma,St.Louis,MO))中に再懸濁して、14〜20×10生存DC/mLという濃度を達成する。2分の1mLの細胞懸濁物を各凍結バイアルに移す。これは、7〜10×10個のDC/バイアルを表す。各バイアルに、産物番号、ロット番号、収集の日付および有効期限日(expiration date)のラベルをする。これらのバイアルを−8O℃のフリーザーに直ちに移す。12時間後、これらのバイアルを液体窒素フリーザー中に移す。少なくとも10本のバイアルを凍結保存する。4本のバイアルを注入のために取り分けておき、4本を品質管理試験のために取り分けておき、そして残りのバイアルを産物保持のために保持する。
【0113】
次いで、DCを、当該分野で公知の品質試験(例えば、無菌性試験(真菌、グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌)、内毒素試験およびグラム染色試験、マイコプラズマ試験およびDCの特徴付け(細胞数、生存率および純度)など)に供する。
【0114】
(実施例2:凍結切除および前立腺内DC注入)
このプロトコルの原理は、凍結切除事象によって生じる腫瘍関連抗原または前立腺関連抗原の遊離が、局所的に注入された自己樹状細胞が抗原を取り込み、リンパ系へ移動し、そして前立腺から遠く離れた腫瘍細胞に対する全身免疫応答に対して影響を及ぼすのを可能にするという認識に基づく。前立腺の(全体の凍結切除ではなく)部分凍結切除を行って、他の非前立腺構造体(例えば、神経血管束、前方の直腸壁、および他の関与しない張)を凍結させる可能性を最小にしながらも、早期壊死前立腺組織の作製を可能にする。
【0115】
凍結切除手順の直前に、患者の培養された樹状細胞を含む4本の凍結保存されたバイアルを室温まで融解させる。細胞調製物は、注入前の合計約60分間以内に融解されるべきである。凍結保存された細胞調製物は代表的に、室温まで融解するのに約15分間〜約30分間を必要とする。凍結切除手順が進行する間に、実験技術者は、10cm〜15cmの18ゲージの皮下針を取り付けた1.0ccのシリンジを用いて0.5mlの無菌生理食塩水を融解した各バイアルに注入する。次いで、4本のバイアルの各々の内容物をやさしく抜き出して4本のシリンジそれぞれに入れ、そして凍結切除手順が完了するまで室温で保存する。
【0116】
凍結切除手順について、最新の作製Endocare Cryocare CS(登録商標)システムが用いられる。このCSシステムは、圧縮アルゴンガスを凍結剤として用い、そして圧縮ヘリウムを加温剤として用いる。熱電対フィードバックを通して、このシステムは、医師の裁量によってかまたはコンピュータ媒介システムの使用によって自動的に、標的とされる体積の前立腺組織の制御された凍結およびこの体積の「能動的な」融解を可能にする。さらに、Cryocare CSシステムは、組み込まれた超音波を用い、このことは、操作者が、1つの装置における超音波によって計画、プローブ配置および凍結事象の進行の全ての局面をモニタリングすることを可能にする。
【0117】
患者を背側砕石位に配置し、会陰部をBetadine(登録商標)溶液で洗浄し、そして接着ドレープで覆う。予防的なシプロフロキサシンを静脈内投与する。経会陰(transperineal)近接照射療法式グリッドを前立腺上の会陰部に配置し、そして経会陰超音波プローブを直腸に挿入する。脊髄麻酔の誘導後、手術者は、超音波トランスデューサーの矢状モードを使用して上方(基部)および下方(先端)の前立腺の位置を確立し、次いでプローブを横断図の真ん中の腺の方向に向ける。
【0118】
グリッドおよび超音波プローブを成功裏に配置した後、3mmの凍結プローブおよび熱電対の配置を開始する。部分的凍結切除を生じるために、CSシステムからの4本の凍結プローブを、横断していると考えられるように前立腺の四分円部分の各々に一つずつ、超音波で誘導しながら前立腺内に導入する。横断超音波モードを用いて、各横断四分円部分において凍結プローブの配置を確立する;矢状モードを用いて、前立腺−膀胱界面における凍結プローブのチップの配置を確立する。
【0119】
一旦凍結プローブが配置されたら、操作者は、5本の熱電対を超音波で誘導しながら配置する。3本の熱電対を後ろに配置する:2本を神経血管束の推定位置付近の腺の後方側面に配置し(右側および左側にそれぞれ1本)、そして1本を、正中線の直腸壁のすぐ前面の前立腺実質に配置する。残りの2本の熱電対を、1本は左、1本は右で、腺の前方側面に配置する。凍結プローブおよび熱電対の配置後、適切な配置が操作者によって再度確認される。確認されたら、凍結プロセスを進行させ得る。
【0120】
Cryocare CSシステムに搭載された制御パネルを用いて、操作者は組織凍結を開始する。取り付けられたシステムのビデオモニターは、各プローブおよび熱電対における温度を模式的な前立腺横断面図上に表示する。取り付けられた超音波モニターにおいて、「アイスボール」の発生の証拠が、エコーのない(黒色の)サークルから外側に至る高エコーエッジとして出現する。
【0121】
全ての熱電対の温度を−10℃より低く保つように注意を払わなければならない。システムビデオモニターにおける熱電対および凍結プローブの温度の出力によって確認およびモニタリングされ得るように、高エコーアイスボール縁部によって判断した凍結前立腺体積が充分になり、そして全ての熱電対の温度が−10℃より低くなったら、Cryocare CSシステムの融解機能が開始され、その結果、ヘリウムがプローブを通って流れて組織を温める。超音波では、4本の融解ゾーンを通した超音波シグナルによって非エコーアイスを置き換える。
【0122】
一旦、全てのシステム構成要素が体温(37℃)を示したら、凍結プロセスおよび融解プロセスを繰り返し、これにより、二重能動融解をともなう二重凍結が達成される。一旦、予め凍結された領域において体温が再度確立されたら、凍結プローブおよび熱電対を、会陰テンプレートを通して除去して廃棄する。超音波プローブおよびテンプレートを適所に保持する。
【0123】
凍結切除手順前に調製された4本のシリンジの各々について、このシリンジを操作者が保持し、そして予め凍結された部分の各々と相関する座標において会陰テンプレートを通して針を導入する。凍結プローブまたは熱電対のいずれかによって作製された穿刺創傷を使用しないように注意を払わなければならない。なぜなら、これらの創傷は、樹状細胞注入産物の喪失を許容し得るからである。
【0124】
融解した組織は、超音波モニターにおいて依然として可視であるはずである。なぜなら、超音波は、これらの領域を周囲の非凍結組織とは異なって反映するからである。矢状モードを用いて、操作者は、ほぼ前立腺−膀胱接合部(しかし接合部ではない)の前立腺を通して針を配置する。プランジャーを押し、シリンジを引くことにより、操作者は、凍結切除手順によって作製された、予め凍結された部分にシリンジの内容物を置く。
【0125】
一旦4つ全ての樹状細胞調製物を4つ全ての凍結組織部分に導入したら、会陰テンプレートを除去し、超音波プローブを除去し、そして会陰部に包帯を巻く。次いで、患者を回復のために麻酔後治療室に移す。
【0126】
(実施例3:放射線療法およびDCの腫瘍内注入による、ヒト悪性メラノーマの処置)
ヒト悪性メラノーマは、しばしば転移性が高く、放射線抵抗性である(Weichselbaumら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:4732−4735(1985);Rubin,P.(1993)Clinical Oncology:A Multidisciplinary Approach for Physicians and Students,第7版,Vol.306,72 W.B.Saunders Philadelphia)が、電子放射線は、治療効果があることが示されている。電離放射線は、組織を貫通して透過し得る高エネルギー電磁放射線スペクトルの一部である。メラノーマ患者を、標準的プロトコルに従って電子放射線処置に供する。照射後、Melan−A/MART−1、MAGE、NY−ESO−1を含めたメラノーマ抗原のレベルをモニタリングする。さらにまたは代替的にモニタリングされ得る腫瘍抗原のさらに詳細なリストに関しては、例えば、UrbanおよびSchreiber、Annu Rev.Immunol.10:617−44(1992)、ならびにRenkvistら,Cancer Immmunol.Immunother.50(1):3−15(2001)などを参照のこと。次いで、メラノーマ特異的抗原のレベルが最大値または最大値近傍になった時点で、上記のとおりに調製した樹状細胞調製物を腫瘍内に導入し、そして処置の効力をモニタリングする。
【0127】
(実施例4:化学療法および腫瘍内DC注入による乳がんの処置)
ホルモン感受性の節陽性早期乳がんを有する患者を、標準的化学療法(シクロホスファミド、メトトレキサートおよび5−フルオロウラシル(CMF))によって処置する。化学療法中およびその後、がん胎児抗原、NY−BR−1、NY−ESO−1、MAGE−1、MAGE−3、BAGE、GAGE、SCP−1、SSX−1、SSX−2、SSX−4、CT−7、Her2/neu、NY−Br−62、NY−Br−85および腫瘍タンパク質D52のうちの1以上を含めた腫瘍特異的抗原のレベルをモニタリングする。次いで、腫瘍特異的抗原のレベルが最大値または最大値付近になった時点で、上記のとおりに調製した樹状細胞調製物をがんに腫瘍内またはその近傍に導入し、そして処置の効力をモニタリングする。
【0128】
本明細書中に引用された特許および科学刊行物は、当業者の一般的レベルを反映し、そして全ての目的で、かつあたかも各々が特異的かつ個々に参考として援用されると示されたのと同じ程度まで、それらの全体が本明細書中に参考として援用される。引用文献と本明細書との間でなんらかの矛盾がある場合には、本明細書が優先するものとする。
【0129】
本発明は本明細書において例示および記載された実施形態に関連して記載されているが、本発明は、他の特定の方法または他の特定の形態で、本発明の趣旨および必須の特徴から逸脱することなく、実現され得る。それゆえ、記載された実施形態は、全ての曲名において、例示であって限定ではないと考えられるべきである。それゆえ、本発明の範囲は、上記の説明によってではなく、添付の特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲に均等物の意味および範囲に入る全ての変更は、それらの範囲内に包含されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0130】
【図1】図1は、前立腺がんの成功裏の近接照射療法後の経時的な血清PSAの代表的なプロットである。
【図2】図2は、前立腺がんの成功裏の寒冷療法後の血清PSAの代表的なプロットである。腫瘍内DC投与の最適なウィンドウを示す。
【図3】図3は、腫瘍内注射のための自己DCの調製および試験に関与する工程を図示する図である。これらの工程についての時間軸を図の左側に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物被験体における腫瘍またはがん組織を処置するための方法であって、該方法は、
該腫瘍またはがん組織を凍結切除に供して、腫瘍特異的抗原の遊離をもたらす工程;
有効量の分化した抗原提示細胞を、該腫瘍またはがん組織内にまたはその近傍に送達することによって、該抗原提示細胞の少なくとも一部に、インビボで、該腫瘍特異的抗原の少なくとも一部を取り込ませる、工程;および
該腫瘍またはがん組織に対する免疫応答を起こさせる工程
を包含し、ここで、該抗原提示細胞が、該送達の前にはエキソビボ成熟工程に供されていない、方法。
【請求項2】
前記腫瘍特異的抗原のバイオアベイラビリティーの変化が、ある期間にわたって血流中でモニタリングされる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記腫瘍特異的抗原のバイオアベイラビリティーがほぼ最大に近似するときに、前記抗原提示細胞が送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記凍結切除が、1以上の炎症因子の放出をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炎症因子が、インターロイキン−2(IL−2)、インターフェロン−γ(EFN−γ)、インターロイキン−12(IL−12)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、およびインターロイキン−1β(IL−1β)からなる群より選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記炎症因子が、TNF−αおよびIL−1βのうちの少なくとも1つを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記放出された炎症因子が、インビボで、前記抗原提示細胞の少なくとも部分的な成熟をもたらす、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記哺乳動物被験体がヒト患者である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記腫瘍が、前立腺がん、肝臓がん、腎臓がん、肺がん、乳がん、および軟組織肉腫からなる群より選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記腫瘍が前立腺がんである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記凍結切除が器官全体の凍結切除である、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記凍結切除が約−40℃の温度で行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記凍結切除が約−60℃の温度で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記凍結切除が部分的凍結切除である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
前記部分的凍結切除が、−40℃よりも高い温度で行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ヒト患者が、凍結切除の前に一次がん治療を受けた、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記凍結切除が、前記腫瘍細胞の少なくとも一部の壊死またはアポトーシスをもたらす、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記凍結切除が、前記腫瘍細胞の少なくとも一部に対して致死量未満の損傷を引き起こす、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記樹状細胞が、前記哺乳動物被験体の自己樹状細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記樹状細胞が同種異系樹状細胞である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記樹状細胞が、部分的にHLA一致であり、部分的にHLA不一致である成分を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記HLA不一致である成分が、炎症促進性サイトカインの一時的分泌をもたらす、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記炎症促進性サイトカインが、インターロイキン−2(IL−2)、インターフェロン−γ(IFN−γ)、インターロイキン−12(IL−12)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、およびインターロイキン−1β(IL−1β)からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記炎症性サイトカインが、TNF−αおよびIL−1βのうちの少なくとも1つを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
腫瘍内送達が、前記抗原提示細胞の腫瘍内注入によって行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
腫瘍内送達が、前記腫瘍の脈管系を通して行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
前記腫瘍が、器官の一部である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
腫瘍内送達が、前記器官の直接灌流を通して行われる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
樹状細胞をインビボで成熟させるための方法であって、
生存組織を凍結切除に供する工程;および
該組織に、成熟因子の非存在下で分化させた樹状細胞を投与する工程
を包含する、方法。
【請求項31】
前記組織が腫瘍組織である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記樹状細胞のインビボでの成熟をモニタリングする工程をさらに包含する、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記インビボでの成熟が、前記腫瘍組織内で発現される少なくとも1つの抗原に前記樹状細胞が結合する能力のモニタリングによってモニタリングされる、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−537936(P2008−537936A)
【公表日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−503079(P2008−503079)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/010119
【国際公開番号】WO2006/102272
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(507316033)サングレテック バイオメディカル エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】