説明

腫瘍および感染部位に指向させるためのビオチン化合物

【課題】インビボで感染部位および腫瘍に治療用試薬およびイメージング試薬を指向させるために有用な化合物の提供。
【解決手段】インビボで患者に投与された際に標的部位に対して高特異性を有するビオチン化合物を特徴とする。好ましいビオチン化合物はビオチンアミドアナログであり、好ましい標的部位としては腫瘍、および細菌、ウイルスまたは菌類の感染部位が含まれる。特に好ましいビオチン化合物は、少なくとも5:1の標的部位対非標的部位の比率を示し、インビボで安定であって、投与後1時間以内に実質的に標的に局在するものである。特に好ましいビオチンアミドアナログは[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4d]イミダゾール-4-(N-3-(1-フルオロプロピル))ペンタンアミドである。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
政府の支援
本明細書に開示される発明は、エネルギー省交付番号DE-FG02-86ER60460(DOE grant DE-FG02-86ER60460)の下でエネルギー省から資金援助により一部支援を受けた。
【0002】
発明の背景
腫瘍の高コントラストイメージングは、放射標識されていない抗体を、局在化させ、プレ指向化させたその抗体と高親和性を有する放射標識された低分子を投与する前に循環系から排除することによって達成できる(Paganelli, G. et al., J. Nucl. Med. Comm. 12: 211-234 (1991)(非特許文献1);Green, NM Biochem. J. 89: 585-91 (1963)(非特許文献2);Hnatowich DJ et al., J. Nucl. Med. 28: 1294-1302 (1987)(非特許文献3)参照)。このような方法の一つは、卵白に含まれるカチオン性糖タンパク質であるアビジンの、天然ビタミンであるビオチンに対する高親和性を利用する。アビジンは、4個のビオチン分子と結合して非常に高い親和性(Kd=10-15M)のアビジン−ビオチン複合体を形成する能力がある。
【0003】
アビジン−ビオチン系を用いて腫瘍を標的とするために、二通りの方法が患者および動物で用いられている。第1の方法では、アビジン(またはストレプトアビジン)結合抗体を注入し、何日か後、抗体−腫瘍結合が最大に達した時点で放射性ビオチン誘導体を、その腫瘍に局所注入する。残念ながら、未結合の抗体が血液循環系から完全に排除されないために、この標的部位の可視化は不鮮明になってしまうことがある。第2の方法では、ビオチン化抗体を注入してから3日後に非放射性アビジンを注入することによって血液中のバックグラウンドを減少させる。その結果生じるビオチン化抗体−アビジン複合体が、肝臓によって血液から取り除かれる。次に放射性のビオチンを注入すると、そのビオチンは、すでに腫瘍に局在している抗体−ビオチン−アビジン複合体に結合する。しかしながら「プレ指向化(pretargetting)」段階を行なうため、腫瘍を標的とするためのいずれの方法においても、患者は数日間にわたって複数の処置を受けることができる状態になければならない。
【0004】
モレル(Morrel)らによる研究では、大腸菌を感染させたラットモデルにおけるIn-111で標識したIgGおよびヒト血清アルブミン(HSA)の取り込みについて報告した。これらの標識されたタンパク質の蓄積はいずれも、感染部位の鮮明なイメージを生じさせるために充分であることが判明した(Morrel, EM et al., J. Nucl. Med. 30: 1538-1545 (1989)(非特許文献4)参照)。
【0005】
治療用試薬またはイメージング試薬をインビボでより特異的に、腫瘍および感染部位に指向させるための簡便かつ迅速な方法が必要とされている。
【非特許文献1】Paganelli, G. et al., J. Nucl. Med. Comm. 12: 211-234 (1991)
【非特許文献2】Green, NM Biochem. J. 89: 585-91 (1963)
【非特許文献3】Hnatowich DJ et al., J. Nucl. Med. 28: 1294-1302 (1987)
【非特許文献4】Morrel, EM et al., J. Nucl. Med. 30: 1538-1545 (1989)
【発明の開示】
【0006】
発明の概要
一つの観点からすると本発明は、インビボで患者に投与された際に標的部位に対して高特異性を有するビオチン化合物を特徴とする。好ましいビオチン化合物はビオチンアミドアナログであり、好ましい標的部位としては腫瘍、および細菌、ウイルスまたは菌類の感染部位が含まれる。特に好ましいビオチン化合物は、少なくとも5:1の標的部位対非標的部位の比率を示し、インビボで安定であって、投与後1時間以内に実質的に標的に局在するものである。特に好ましいビオチンアミドアナログは[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4d]イミダゾール-4-(N-3-(1-フルオロプロピル))ペンタンアミドである。
【0007】
他の観点からすると本発明は、ビオチン化合物を含む薬学的組成物を特徴とする。好ましい薬学的組成物は、R6位に治療用試薬を結合したビオチンアミドアナログである。更に他の観点において本発明は、腫瘍または感染部位(例えば、病原性の細菌、ウイルス、または菌類による)の発生および生長を治療または抑制するためのビオチン化合物の新規な使用を特徴とする。
【0008】
更に他の観点からすると本発明は、イメージング試薬をさらに含むビオチン化合物、および被検者における腫瘍または感染部位を検出および/またはモニターするための該化合物の使用を特徴とする。一態様ではイメージング試薬であるビオチン化合物をインビボで投与して、その標識にとって適当な方法を用いてモニターする。インビボでイメージング試薬のビオチン化合物を検出および/またはモニターするための好ましい方法には、陽電子放射断層撮影法(PET)、単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)、または磁気共鳴イメージング(MRI)などがある。
【0009】
腫瘍または感染部位に治療用試薬またはイメージング試薬を指向させるための本発明のビオチン化合物およびインビボの方法では、プレ指向化の段階を最初に行う必要がない。また局在時間も一般的に1時間以下である。したがって治療またはイメージングを、一回の短時間の操作で達成することができる。さらにビオチン化合物は、インビボで急速に排出される体内に本来存在する低分子であるため、治療またはイメージングに必要なレベルでは毒性のある副反応を起こす可能性は低い。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および請求の範囲よりさらに明らかとなろう。
【0010】
発明の詳細な説明
本明細書で用いられているように、次の用語および熟語は下記に記載のような意味を持つ。
【0011】
「ビオチン化合物」とは、以下の二つの構造式のうちのいずれかを有する、イメージング試薬もしくは治療用試薬と結合した244ダルトンのビタミン「ビオチン」(ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4-d]-イミダゾリン-4-吉草酸(hexahydro-2-oxo-1H-thieno[3,4-d]-imidazoline-4-valeric acid))、または「ビオチンアミドアナログ」である。
【化1】

式中、
n= 2〜10;
R1〜R5= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、またはアルキニル基
R6= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または結合した治療用試薬もしくはイメージング試薬、かつ
X= C=O、S=O、またはC=NH-、
および
【化2】

式中、
n= 2〜10
R1〜R5= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、またはアルキニル基、
R6= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、もしくはアルキニル基、または結合した治療用試薬もしくはイメージング試薬、
X= C=O、S=O、またはC=NH-、かつ
2位、3位、または4位= O、S、またはN。
【0012】
ビオチンアミドアナログには、ラセミ化合物およびとりうるすべてのエナンチオマーが含まれる。R基を構成するアルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、およびアルキニル基(以下、炭化水素基と記載する)は、直鎖状であっても分岐状であってもよく、また飽和であっても不飽和であってもよい。不飽和置換基は一箇所だけの不飽和部位を有していてもよいし、または複数箇所に不飽和部位を有していてもよい。炭化水素基は、約10個までの炭素を有することが好ましく、約6個までの炭素を有すると更に好ましく、最も好ましいのは約3個までの炭素を有するものである。3個の炭素原子またはそれ以下の炭素原子を有する炭化水素基は、低級炭化水素基とされている。例えば3個の炭素原子またはそれ以下の炭素原子を有するアルキル基は低級アルキル基である。本発明で用いることのできる低級炭化水素基の例としては、メチル基、メチレン基、エチル基、エチレン基、エテニル基、エテニレン基、エチニル基、エチニレン基、プロピル基、プロピレン基、プロペニル基、プロペニレン基、プロピニル基、およびプロピニレン基がある。高級炭化水素基(4個〜約10個の炭素からなる基)の例としては、ブチル基、t-ブチル基、ブテニル基、ブテニレン基、およびブチニル基、ブチニレン基、ノニル基、ノニレン基、ノネニル基、ノネニレン基、ノニニル基、およびノニニレン基がある。
【0013】
アルキル基またはアルキレン基は、一個またはそれ以上の酸素原子、またはハロゲン原子で置換することによって、アルコキシ基、ハロアルキル基、アルコキシレン基、およびハロアルキレン基を形成してもよい。アルコキシ基およびハロアルキル基も直鎖状であっても分岐状であってもよく、好ましくは約10個までの原子(炭素原子、水素原子、またはハロゲン原子を含む)で構成されており、好ましくは6個までの原子で構成され、最も好ましくは約3個までの原子で構成されている。ハロゲンという用語は技術用語として認められており、塩素、フッ素、臭素、アスタチン(astatine)、およびヨウ素などを含む。本発明で用いられる置換型の炭化水素基の例は、一個または複数個の酸素、または一個または複数個のハロゲンをその炭化水素基の中に組み入れたことを除いては上記に列挙した炭化水素基と同じである。より親油性の高いビオチン化合物が得られるような置換を行うことは、脳および脊髄中の腫瘍および感染部位への指向化に好ましい。
【0014】
特に好ましいビオチン化合物は、インビボで投与した場合、非標的部位に対して高い割合で標的部位に存在するものである。好ましくはその比率は>5:1である。ビオチン化合物には、標的に対して特異的なレセプターによって認識され化合物の標的特異性をさらに増加させることができる糖(例えば、グルコース、フコース、ガラクトース、マンノース)が付加していてもよい。例えば、ビオチン化合物にマンノース残基を付加させ(例えば、遊離の窒素にC−グリコシド結合させ)、それによりマンノースレセプターを発現する腫瘍(例えば、膠芽腫および神経節細胞腫)およびマンノースレセプターを発現することが知られている細菌(Bertozzi, CR and MD Bednarski Carbohydrate Research 223: 243 (1992)、J. Am. Chem. Soc. 114: 2242, 5543 (1992)参照)に対して、さらにその他の感染源に対してもおそらく高親和性で結合することができるビオチン化合物を得ることができる。
【0015】
「結合した」とは、イオン結合でまたは共有結合(例えば架橋剤を介して)で結合していることを意味する。
【0016】
「イメージング試薬」とは、標的と結合して検出可能なイメージを生じることのできる組成物を意味し、陽電子放射断層撮影法(PET)および単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)のための放射性核種(例えば、In-111、Tc-99m、I-123、I-125 F-18、Ga-67、Ga-68)、不対スピン原子およびフリーラジカル(例えば、Fe、ランタイド類(lanthides)、およびGd)、ならびに磁気共鳴イメージング(MRI)のためのコントラスト試薬(例えば、キレート化した(DTPA)マンガン)を含む。
【0017】
「治療用試薬」とは宿主に対して生物学的な効果を奏することのできる薬物を意味する。好ましい治療用試薬は、腫瘍もしくは感染が発生したり生長したり(全身性または局所性)するのを阻止することができるものである。治療用試薬の例には、薬物(例えば、抗生物質、抗ウイルス薬、抗真菌薬)、毒物(例えば、リシン)、放射性核種(例えば、I-131、Re-186、Re-188、Y-90、Bi-212、At-211、Sr-89、Ho-166、Sm-153、Cu-67、およびCu-64)、ホルモン拮抗剤(例えば、タモキシフェン)、重金属錯体(例えば、シスプラチン)、オリゴヌクレオチド(例えば、標的の核酸配列に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、mRNA配列))、化学療法用ヌクレオチド、ペプチド、非特異的(非抗体)タンパク質(例えば、糖オリゴマー)、ホウ素含有化合物(例えば、カルボラン)、光力学的試薬(ロダミン123)、エネジン(enediynes)(例えば、カリケアミシン(calicheamicins)、エスペラミシン(esperamicins)、ダイネミシン(dynemicin)、ネオカルジノスタチン(neocarzinostatin)発色団、およびケダルシジン(kedarcidine)発色団)、および転写に基づく薬剤などがある。腫瘍の発生または生長を治療または抑制するための好ましい態様において、この治療用試薬は放射性核種、毒物、ホルモン拮抗薬、重金属錯体、オリゴヌクレオチド、化学療法用ヌクレオチド、ペプチド、非特異的(非抗体)タンパク質、ホウ素化合物、またはエネジンである。細菌感染の発生または生長を治療または抑制するための好ましい態様において、この治療用試薬は抗生作用の放射性核種またはオリゴヌクレオチドである。真菌感染の発生または生長を治療または抑制するための好ましい態様において、この治療用試薬は抗真菌化合物の放射性核種またはオリゴヌクレオチドである。
【0018】
「標的」とは、インビボでビオチン化合物が結合する部位を意味する。好ましい標的は、腫瘍(例えば、脳、肺(小細胞および非小細胞)、卵巣、前立腺、乳房、および結腸の腫瘍、ならびにその他の癌および肉腫など)である。他の好ましい標的には、感染部位(例えば、細菌、ウイルス(例えば、HIV、ヘルペス、肝炎)による感染の部位、および病原菌(カンジダ種(Candida sp.)による感染部位)がある。特に好ましい標的となる感染生物は、薬物耐性の微生物である(例えば、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、エンテロコッカス(Enterococcus)、ヘマトフィラス・インフルエンザ(Haemophilus influenza)、ミコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)、ナイセリア(Neisseria)、ゴノロエ(gonorrhoeae)、プラスモディウム・ファルシパルム(Plasmodium falciparum)、シュードモナス・エルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)、シゲラ・ディセンテリエ(Shigella dysenteriae)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・ニューモニエ(Streptococcus pneumoniae))。感染部位におけるビオチンの局在化は、ビオチンが多くの細菌、ウイルス、および真菌の必須栄養素であるという事実に関連しているのであろう。
【0019】
「被検者」とは、ヒトまたは動物(例えば、ラット、マウス、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、サル、ネコ、イヌ、ヤギなど)を意味する。
【0020】
ビオチン化合物の作製法
プロテインA、カルボイイミド(carboiimide)、ジマレイミド(dimaleimide)、ジチオ-ビス-ニトロ安息香酸(dithio-bis-nitrobenzoic acid/DTNB)、N-サクシニミジル-S-アセチル-チオ酢酸(N-succinimidyl-S-acetyl-thioacetate/SATA)、およびN-サクシニミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオネート(N-succinimidyl-3-(2-pyridyldithio)propionate/SPDP)、6-ヒドラジノニコチマイド(6-hydrazinonicotimide/HYNIC)、N3S、およびN2S2などのさまざまなカップリング試薬または架橋試薬を、ビオチンアミドアナログ、またはビオチン化合物を合成する周知の手法において用いることができる。例えばビオチンは、「Hnatowich et al Int. J. Appl. Radiat. Isotop. 33: 327 (1982)」に記載された二環性無水物法を用い、DTPAを介して複合化することができる。
【0021】
スルホサクシニミジル6-(ビオチンアミド)ヘキサノエート(sulfosuccinimidyl 6-(biotinamido)hexanoate)(NHS-LC-ビオチン:Pierce Chemical Co. Rockford, ILより購入することができる)に加えて、「ビオシチン(biocytin)」、即ちビオチンのリジン複合体も、その一級アミンの利用可能性のためにビオチン化合物を作る際に有用である。さらに対応するビオチン酸塩化物または酸前駆体を、既知の方法によって治療用試薬のアミノ誘導体と結合させてもよい(例えば、実施例1および2に記載された方法を参照のこと)。
【0022】
合成したビオチン化合物およびビオチンアミドアナログは、高磁場NMRスペクトルの標準法、ならびにIR、MS、および旋光度を用いてその特性を明らかにすることができる。元素分析、TLC、および/またはHPLCを純度の測定のために用いることができる。98%以上の純度であると好ましい。TLCおよび/またはHPLCは、より親油性の高い化合物の特性を明らかにするためにも用いられる。
【0023】
合成後、候補となるビオチン誘導体を、アビジン結合能について(例えば後述の実施例3に記載されているように)、インビボでの感染部位への結合性について(例えば実施例4に記載されているように)、またはインビトロもしくはインビボでの腫瘍への結合性についてスクリーニングすることができる。さらに、被検者にその化合物を投与し、種々の時間が経過した時点(例えば、30分、1時間、24時間経過後)で血液試料を採取し、その血液試料をビオチン化合物および/または代謝物について分析することによって、安定性を試験することもできる。
【0024】
二つの18Fビオチン誘導体、即ちアミド基を含む誘導体(ビオチン1)およびアルキル基を含む誘導体(ビオチン2)を、実施例1および2に記載されているように調製した。ビオチン1は、硫酸エステルから高収率で高い特異的活性で容易に合成することができた。ビオチン1は、ビオチンの基本的構造を保持している。ビオチン2は、ビオチンがアビジンおよび感染部位に結合する際の側鎖の役割を解明するために調製した。
【0025】
二つのビオチン誘導体を、実施例3に記載されているように、種々の濃度の非標識d-ビオチンの存在下でアビジンへの結合性について評価した。ビオチン1はアビジンに結合することが判明し、非放射性のd-ビオチンと置換することができた。スカッチャードトランスフォーメーション置換曲線(scatchard transformation displacement curve)は、Bmaxが5.57×10-16Mで3.12×10-14MのKdを示した。これに対して化合物2は、アビジンに対して特異的な結合性を示さなかった。
【0026】
続いて両方の化合物を、実施例4に記載したように、大腸菌を感染させたラットの感染部位における局在性について評価した。感染させたラットのうちの半数は、18F標識したビオチンアナログを静脈内注入する24時間前に、アビジンで処理した。アビジンの前処理を行わない場合、ビオチン1は、注入後60分後に、正常の筋肉に比べて感染した筋肉に高い選択性(6.08±1.12)を示した。18F標識したビオチン1を注入する24時間前にアビジンを投与することによって、その比率はほんのわずかに増加した(6.39±0.96)。
【0027】
これとは対照的にビオチン2の生体内分布は、感染した筋肉/正常の筋肉の比率が0.58±0.07であって、正常の筋肉の方により多い結合を示した。このような選択性の欠如は、感染部位への局在化に側鎖のアミド基が重要であることを示している。ビオチン1およびビオチン2の両方で、ある程度の脱フッ素がインビボで起こった。このことは、60分後に、それぞれ2.94±0.37および1.17±0.21%(IG/g±標準偏差)18Fの骨取り込みが増加したことから明らかである。
【0028】
治療用試薬としてのビオチン化合物の使用
治療で用いる際には、有効量の適当なビオチン化合物を、その化合物が適当な標的で取り込まれことができるような態様で被検者に投与すればよい。好ましい投与経路は、経口投与および経皮投与(例えば貼着剤による)である。この他の投与経路の例としては、注入(筋肉内注入、静脈注入、非経口投与、腹膜内注入、包膜内注入など)が挙げられる。注入は一度に行ってもよいし、または点滴で行ってもよい。投与経路によっては、治療用試薬であるビオチン化合物を、目的とする機能を発揮する能力に決定的な影響を与える自然状態からその化合物を保護するため、インビボでの利用度を増加させるため、または特異的な器官における取り込みを増加させるために選ばれた材料(例えば、正または負の電荷を帯びたリポソームなど)で被覆するか、またはその材料中に配合すればよい。
【0029】
治療用試薬のビオチン化合物は単独で投与してもよいし、または薬剤学的に許容される担体を用いて複合剤の状態で投与してもよい。本明細書で用いられているように「薬剤学的に許容される担体」という語句は、化合物がその目的とする作用を発揮できるようにする、ビオチン化合物治療用試薬とともに投与することのできる物質を含む。このような担体の例としては、溶液、溶媒、分散媒体、遅延剤、乳化剤などが挙げられる。薬学的に活性な物質に対してこのような媒体を用いることは、当業者には周知である。ビオチン化合物を使用する際に好適な従来より知られたこの他の担体も、本発明の請求の範囲に含まれる。
【0030】
ビオチン化合物治療用試薬の「有効量」という用語は、感染、腫瘍、またはその他の標的を減少させたり抑制したり維持(例えば、蔓延の抑制)したりするために必要な量、または充分な量のことをいう。有効量は、治療されるべき疾患もしくは症状、投与されている特定のビオチン化合物、被検者の体重、または疾患もしくは症状の重度などの要因に依存して変化しうる。当業者の常法の一つにより、過度の実験を要することなく、特定の化合物の有効量を経験的に決定することができる。
【0031】
腫瘍または感染部位を治療したり抑制したりするための好適な用量は5μg〜100mgの範囲内である。しかしながら正確な用量は、投与される治療用試薬の毒性に大きく依存する。例えば被検者は、1ミリグラム以上の用量のブレオマイシンには耐えることができない。さらに、ある種の化学療法ペプチドは、マイクログラム単位の量を被検者に投与した場合、血友病および他の血液疾患を引き起こす。しかしながら、本発明のビオチン化合物による治療用試薬の選択的な指向化は、他の方法を用いた場合の正常な体細胞に対する毒性作用を減少させる。
【0032】
イメージング試薬としてのビオチン化合物の使用
ビオチン化合物はさまざまなイメージング試薬で標識することができる。このイメージング試薬は当業者にとって既知であり、インビボもしくはインビトロでその化合物を検出またはモニターするために用いられる手段にある程度依存する。陽電子放射断層撮影法(PET)および単一光子放射コンピュータ断層撮影法(SPECT)を行うための好ましいイメージング試薬には、F-18、Tc-99m、およびI-123が含まれる。磁気共鳴イメージング(MRI)を行う際に好ましい試薬は、不対のスピン電子、即ちフリーラジカルを有する適当な原子を含む。イメージング試薬は、当業者に周知のさまざまな方法によって、ビオチン化合物と複合化することができる。好ましい態様において、このイメージング試薬は、HYNIC、DTPA、または他のキレート試薬とアミン基を介して結合している。
【0033】
適当なイメージング試薬で標識されたビオチン化合物を、特定の治療用試薬としての候補であるビオチン化合物の結合親和性を試験するために、特定の腫瘍細胞系もしくは細菌、ウイルス、または真菌が感染した組織の培養物に添加することができる。
【0034】
また標識されたビオチン化合物を適当な被検者(例えばサル、イヌ、ブタ、ウシ)に注入し、例えば後述の実施例4で記載したように、インビボで腫瘍または感染部位との結合性をモニターすることもできる。
【0035】
本発明は以下に記載した実施例によって更に例示されるが、実施例は決して本発明を限定するためのものではない。本願において引用された全ての引用文献(論文、発行された特許、公開された特許出願、および同時係属中の特許出願を含む)の内容は、参照文献として明らかに本明細書に組み入れられる。
【0036】
実施例1:二種のF18標識されたビオチンアナログの合成
炭素および水素についての元素分析は、ガルブレイス・ラボラトリーズ(Galbraith Laboratories)(Knoxville, TN)によって行われた。融点はフィッシャー・ジョンズ(Fisher-Johns)装置を用いて測定したが、補正は行わなかった。プロトンNMRスペクトル(溶媒はd6-DMSO)はブルーカーAM500(Bruker AM 500)装置で測定し、その化学シフトはテトラメチルシランから低磁場へのミリオン(デルタ)あたりの割合で記録した。全ての試薬は、アルドリッチ・ケミカル社(Aldrich Chemical Co)(Milwaukee, WI)から購入し、更に精製することなく用いた。アセトニトリルは、ピアース社(Pierce)(Rockford, IL)から購入し、溶剤として用いた。
【0037】
薄層クロマトグラフィーはシリカゲルGf250プレート(Analtech, Inc., Newark, DE)上で行った。放射性標識が施された化合物のクロマトグラフィーは、バイオスキャン・システム200(Bioscan System 200)(Washington, D. C.)を用いてカウントした。高圧液相クロマトグラフィーは、リゾルベックスC18(Resolvex C18)カラム(4.6mm×25cm、Fisher Scientific Co.)上で、水/アセトニトリル(60:40)の溶媒系を用いて、1ml/分の流速で行った。分離は紫外線検出器(λ=185nm)およびNaI(Tl)放射活性測定器を用いてモニターした。
【0038】
[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4d]イミダゾール-4-(N-3-(1-フルオロプロピル))ペンタンアミド(ビオチン1)の合成
(+)ビオチン(1g、4.09mmol)を、攪拌した塩化チオニルおよびベンゼンの50/50混合溶液20mlに添加し、その混合液をN2の気流下で2時間還流した。過剰量の塩化チオニルを蒸留によって除去し、その残渣をN2の気流下で室温にまで冷却してから乾燥THF(10ml)に溶解し、それをTHF(20ml)に入れた3-アミノ-1-プロパノール(1g)の攪拌溶液に25℃で添加した。この溶媒を輪転エバポレーションによって除去し、続いて過剰量のアミノプロパノールを120℃で減圧(1torr)にして除去した。この粗製物質を、シリカゲルカラム(30g)上でクロマトグラフィーを行い、CH2Cl2/MeOH/HCO2H(20:80:0.5)を用いて溶出することによって精製した。MeOHから再結晶を行うことで0.80g(65%)の生成物が得られた。この生成物は、CH2Cl2/MeOH/HCO2H(20:80:0.5)を用いたTLCで単一のスポット(Rf=0.45)を示した。融点=130〜132℃であった。1H NMR(d6-DMSO) d 2.05 (t, J=6.2 Hz, 2H, CH2-O), 3.2-3.5 (m, 6H, N-CH2-), 6.35 (s, 1H, O=CNH-環), 6.40 (s, 1H, O=CNH-環), 7.75 (t, J=5.6 Hz, 1H, O=C)。C13H22N3O2Sに対する計算値: C,51.80、H,7.70。実測値: C,51.69、H,7.51。
【0039】
この生成物(100mg、0.33mmol)を、加熱しかつN2気流下で攪拌しながら3mlの無水ピリジンに溶解させた。この溶液を室温にまで冷却し、メタンスルホニルクロライドの0.87MのCH2Cl2溶液、0.7mLを添加した。30分経過後、その混合液についてアセトン/アセトニトリル(90:10)を用いてシリカゲル上でクロマトグラフィーを行った。生成物(86mg, 69%)は、MeOH/CH2Cl2/HCO2H(10:90:0.5)を用いたTLCで、単一のスポット(Rf=0.49)を示した。なおそのスポットはMoO3・H3PO4を用いて可視化した。
【0040】
KF(48mg)、クリプトフィックス(Kryptofix)(300mg)、ビオチンメシレート(200mg)、および7mlのアセトニトリルを含む10mlの反応混合物を110℃で30分間加熱した。溶媒を輪転エバポレーションにより除去し、その残渣をCH2Cl2/MeOH/HCO2H(85:15:0.5)を用いてシリカゲル上でクロマトグラフィーを行った。この生成物、即ち[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4d]イミダゾール-4-(N-3-(1-フルオロプロピル))ペンタンアミド(ビオチン1)は同じ溶媒を用いたTLCで、単一のスポット(Rf=0.38)を示した。1H NMR(d6-DMSO) d 3.2-3.5 (m, 6H, N-CH2-), 4.4 (dt, J=52, 6.5 Hz, 2H, CH2-F), 6.35 (s, 1H, O=CNH-環), 6.40 (s, 1H, O=CNH-環), 7.75 (t, J=5.6 Hz, 1H, O=CNH)。C13H22N3O2SFに対する計算値: C,54.90、H,7.80。実測値: C,52.19、H,8.13。
【0041】
[3aS-(3aα,4β,6aα)]-テトラハイドロ-4-(5-(1-[18F]フルオロ-ペンチル)-1H-チエノ-[3,4-d]イミダゾール-2(3H)-オン(ビオチン2)の合成
無水エーテル(125ml)中にリチウムアルミニウムハイドライド(LAH)(1.0g, 25.8mmol)を入れて攪拌した懸濁液に、(+)ビオチン(1.0g, 4.01mmol)の加熱ピリジン(25ml)溶液を滴下して添加した。添加し終わったところでその反応混合液を室温で30分間攪拌した。続いて、水を注意深く滴下することによって、過剰量のLAHを分解した。水および有機溶媒を輪転エバポレーションによって除去した。その残渣を6N HClを用いて酸性(pH2)にし、水を輪転エバポレーションによって除去した。得られた残渣をクロロホルム(5×20mL)で抽出し、クロロホルム層を減圧下でエバポレーションすることによって白色の固体を得た。メタノールから再結晶をすることで0.44g(50%)の還元型生成物が得られた。融点 164〜167℃(参照11、融点164〜169℃)。1H NMR(d6-DMSO) d 4.35 (t, J=6 Hz. 2H, O-CH2-), 6.35 (s, 1H, O=CNH-環), 6.40 (s, 1H, O=CNH-環)。
【0042】
(+)ビオチン(100mg, 0.43mmol)のピリジン(3ml)溶液に、CH2Cl2に入れた塩化チオニルの0.87M溶液、0.6mLを添加した。その混合物を30分間攪拌し、続いてアセトン/アセトニトリル90:10を用いたシリカゲル上でクロマトグラフィーを行った。生成物(96mg, 75%)は、EtOAc/CH2Cl2/アセトン/HCO2H(10:80:10:0.5)を用いたTLCで、MoO3・H3PO4を用いて可視化したところ、単一のスポット(Rf=0.42)を示した。
【0043】
ビオチン2は、上述した[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4d]イミダゾール-4-(N-3-(1-フルオロプロピル))ペンタンアミドについて記載したのと同様の方法でビオチノールメシレートから合成した。[3aS-(3aα,4β,6aα)]-テトラハイドロ-4-(5-(1-[18F]フルオロ-ペンチル)-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-2(3H)-オンは、EtOAc/CH2Cl2/アセトン/HCO2H(10:80:10:0.5)(Rf=0.48)を用いたシリカゲル上で精製した:融点110〜120℃。1H NMR(d6-DMSO) d 4.6 (dt, J=55, 6.5 Hz, F-CH2-), 6.35 (s, 1H, O=CNH-環), 6.40 (s, 1H, O=CNH-環)。C10H16N2OSFに対する計算値: C,56.31、H,7.57。 実測値: C,56.59、H,7.79。
【0044】
18F標識したビオチン1およびビオチン2の調製
18F標識したビオチン1 [18F]フロライドは、サイクロトロンを用いて核反応18O(p,n)18Fを、17MeVで20mA-時間、銀プレートの標的に入れた18O-高濃度水で行うことで製造した(Scanditronix, Sweden, MC17F)(Kilbourn MR, Jerabek PA, Welch MJ. 改良型の[18F]フロライド製造用[18O]水標的(improved [18O] water target for [18F] fluoride production)、Int J Appl Radiat Isot 36: 327-328 (1985)参照)。
【0045】
18FのH218O溶液(50mCi,1mL)、クリプトフィックス(Kryptofix)(3mg)、K2CO3(1mg)を含む5mlの反応混合物を、N2気流下、100℃で乾燥するまでエバポレーションした。この内容物を、N2気流下で110℃で加熱しつつアセトニトリル(4×2mL)を添加することによって乾燥した。アセトニトリル(1mL)中のビオチンメシレート(2mg)を添加して、その容器を密封した後110℃で10分間加熱した。溶媒を除去してから標識された生成物を、シリカゲル(10g)の短いカラム上でMeOH/CH2Cl2/HCO2H(20:80:0.5)を用いてクロマトグラフィーすることによって精製した。この合成および精製に要する時間は90分(衝撃を終えてから)であり、その放射化学的な収率は3.4〜5.9mCi(12〜21%、EOS)であった。最終的な生成物のHPLC分析では、維持時間(Rt)が2.8分のところで[18F]フルオロ-ビオチンのピークに対応する一つの放射活性ピークを示した。[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-4-(nnN-3-(1-[18F]フルオロプロピル))ペンタンアミドの化学的純度は、>8%であった。
【0046】
18F標識したビオチン2 18F標識したビオチン2は、18F-標識したビオチン1と同様の方法で合成した。18F標識したビオチン2は、シリカゲル(10g)上でEtOAc/CH2Cl2/アセトン/HCO2H(10:80:10:0.5)を用いて精製した。この放射化学的な収率は5.6mCi(20%、EOS)であり、放射化学的な純度は98%以上であることが検出された。[3aS-(3aα,4β,6aα)]-テトラハイドロ-4-(5-(1-[18F]フルオロペンチル)-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-2(3H)-オンの化学的純度は、HPLCで>98%であった。
【0047】
実施例2:アビジン対d-ビオチンに対するF-18で標識されたビオチン1および ビオチン2の競合的結合
ビオチンのフルオロアナログの結合特性について予備的な測定を行った。これらの新規なF-18標識されたビオチンアナログのアビジンへの結合性は、種々の濃度の非標識d-ビオチンの存在下でF-18標識されたビオチンアナログがアビジンに結合する結合度を測定することによって評価した。d-ビオチンは、リン酸緩衝食塩水pH7.4(PBS)で段階希釈した。担体を加えていない固定量のF-18で標識されたビオチン1または2(10〜100μCi)を、それぞれのd-ビオチン希釈液と混合して、非放射性ビオチンの濃度の範囲が3次元以上大きくかつアビジンの濃度(10-16M)よりも小さくなるようにした。F-18ビオチン/非放射性ビオチン溶液の200μlのアリコートを、200μlのアビジンのPBS溶液に添加した。この溶液を攪拌して1時間インキュベートした後、その溶液の5μlのアリコートを0.1M酢酸緩衝液、pH6.0を用いて簡易の薄層クロマトグラフィー(Gelman ILTC-SG)によって分析した。このクロマトグラフィー系では、アビジンに結合したF-18ビオチンアナログは移動しないが、これに対して未結合のF-18ビオチンアナログは溶媒の先端に移動する。F-18ビオチンアナログの結合率は[(当初のカウント数/全体のカウント数)100]として計算した。それぞれのF-18-ビオチンアナログについて、初めに潜在的に残っていた不純物を検出し、結合性の結果をそれに従って補正した。
【0048】
実施例3:ラットにおける生体内分布の研究
臨床的な大腸菌単離物は、20%のグリセロールおよび80%のデキストロースリン酸を含む凍結培地中で使用するまで-70度で貯蔵した。細菌のアリコートを解凍し、BBLブルセラ(BBL Brucella)寒天プレート上で一晩生育させた段階希釈物についてコロニーを計数した。コロニーの計数に基づいて新しく解凍した細菌懸濁液を洗浄し、最終的な濃度が8×1010個の細菌/mlになるように食塩水で希釈した。細菌懸濁液(8×109 個の細菌/ml)のアリコート(0.1ml)を、48匹の雄のスプラーグ・ダウレイラット(Sprague-Dawley rats)(125〜150g、Charles River Breeding Laboratories, Burlington, MD)の右腿部の筋肉内に注入した。24匹のラットを、標識したビオチン化合物それぞれについて使用した。注入後24時間経過したとき右腿部には腫脹部が容易に観察され、24匹のラットそれぞれに尻尾の静脈から1.67mgのアビジンを含む食塩水を注入した。細菌を接種してから48時間経過した時点で80〜150mCiの18F-ビオチン1および2を投与した。注入から5分後および60分後に、それぞれ6匹づつのラットを屠殺した。心臓を穿刺して血液試料を採取した。注射器の重さを注入する前と後とで計量し、供給した容積を測定した。1単位容積当りの活性を標準より求めた。全部で11の異なる組織を摘出し、計量してカウントした。これらの組織は、血液、骨、肺、肝臓、副腎、脾臓、腎臓、心臓、筋肉(腿部)、精巣、および感染した筋肉(腿部)である。摘出した組織をブロットし、重さを計ってから適当なシンチレーションウェルカウンターで計数した。生のカウント数を崩壊補正した。得られた結果は、1グラムあたりに注入した用量のパーセント、および正常な筋肉に対する感染した筋肉の比率(平均値±標準偏差)として表した。生体内分布の結果は、分散(一方向ANOVA)を分析することによって評価した。生体内分布に対するアビジン前処理の効果は、スチューデントt検定によって評価した。
【0049】
表1は、アビジンで前処理(24時間前)したラットとしていないラットに、注入を行った後5分および60分経過した時点での18F標識ビオチン1の生体内分布を示している。分散の分析は、5分後および60分後に、ビオチン1の蓄積に対する臓器の有意な主作用(P<0.001)を示した。5分後では腎臓におけるビオチン1の蓄積量は、他のすべての臓器よりも多かった(血液よりも4.5倍の大きさである)(P<0.001)。肝臓および脾臓におけるビオチン1の蓄積量は、正常の筋肉(P<0.02)よりも多かった。放射能の充分な排出は、骨(P<0.001)を除く他の全ての感染に関与した臓器において60分以内に起こった。60分後では、正常の筋肉に比較して感染した筋肉における選択性が6.08±1.12であり(表2参照)、感染した筋肉における蓄積量は腎臓(P<0.05)、血液(P<0.01)、脾臓(P<0.01)、肝臓(P<0.001)、および正常な筋肉(P<0.001)よりも多い。全ての臓器における、ビオチン1の分布は、5分後ではアビジン前処理による有意な変化はなかった。前処理後60分では、骨における蓄積(P<0.01)がアビジン前処理をしていないものよりも小さかった。処理をしていないラットと比較すると、アビジン処理したラットにおけるビオチン1の蓄積は、腎臓(P<0.02)、血液(P<0.05)、および正常な筋肉(P<0.002)において、より大きかった。
【表1】

【表2】

【0050】
ラットの組織におけるビオチン2の生体内分布が表3に示されている。アビジンの前処理を行っていない場合の注入の5分後では、肝臓、腎臓、および副腎でのビオチン2の蓄積量が血液(P<0.001)、心臓(P<0.001)、脾臓(P<0.001)、筋肉(P<0.001)、および骨(P<0.001)よりも多かった。60分後では骨におけるビオチン2の蓄積量が全ての他の臓器(P<0.001)よりも多く、そして副腎および肺における蓄積量が腎臓(P<0.05)、肝臓(P<0.02)、正常の筋肉(P<0.001)、および血液(P<0.001)よりも多かった。感染した組織/正常な組織の比率は0.58±0.07であり、これは正常の筋肉への結合性が感染した組織に対する結合性よりも大きいことを示している(表4参照)。アビジンで前処理を行った場合の5分後では、副腎(P<0.01)、腎臓(P<0.001)、脾臓(P<0.001)、および心臓(P<0.05)におけるビオチン2の蓄積量が処理を行わなかったラットに比較して減少した。60分後では、処理を行わなかったラットに比較して血液(P<0.05)、心臓(P<0.05)、脾臓(P<0.001)、腎臓(P<0.01)、および正常の筋肉(P<0.05)における蓄積量が多かった。アビジンの前処理により、感染した組織/正常の組織の比率は変化しなかった。
【表3】

【表4】

【表5】

*「Rusckowski M, Fritz B, Hnatowich DJ. 非特異的なポリクローナル免疫グロブリンの代わりにストレプトアビジンおよびビオチンを用いた感染の局在化(Localization of infection using streptoavidine and biotin: an alternative to nonspecific polyclonal immunoglobulin) J. Nucl. Med. 33: 1810-1815 (1992)」参照。
【表6】

全ての値は、右の腿部の大腸菌感染に関するものである。
TNT=抗核抗体
1 Hnatowich DJ et al., (1992) J. Nucl. Med. 33: 934-935参照。
2 Rusckowski, M et al., (1992) J. Nucl. Med. 33: 1810-1815参照。
【0051】
実施例4:マラリアおよび結核を治療するためのビオチン化合物
生長に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えばアスパルテートセミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(aspartate semialdehyde dehydrogenase)(asu)またはアスパルタキナーゼ(aspartakinase)(ask))、またはミコバクテリウム・ツベルクローシス(Mycobacterium tuberculosis)およびプラスモディウム・ファルシパラム(Plasmodium falciparum)の細胞壁またはミコール酸(mycolic acid)合成に関与する遺伝子に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを、上述したビオチン化合物に結合させ、結核またはマラリアを予防または治療するために被検者に投与することができる。
【0052】
均等物
当業者は、本明細書に開示された発明の特定の態様の均等物を、理解し、または通常の実験のみを用いて確認することができるであろう。該均等物は以下の請求の範囲に包含されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造式を有するビオチンアミドアナログ化合物。
【化1】

式中、
n= 2〜10;
R1〜R5= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、またはアルキニル基、
R6= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基、もしくはアルキニル基;または結合した治療用試薬もしくは診断用試薬;かつ
X= C=O、S=O、またはC=NH
【請求項2】
ビオチンアミドアナログが、[3aS-(3aα,4β,6aα)]-ヘキサヒドロ-2-オキソ-1H-チエノ[3,4d]イミダゾール4-(N-3-(1-フルオロプロピル))ペンタンアミド([3aS-(3aα,4β,6aα)]-hexahydro-2-oxo-1H-thieno[3,4d]imidazole 4-(N-3-(1-fluoropropyl))pentanamido)である、請求の範囲1の組成物。
【請求項3】
R6が、結合した治療用試薬、または治療用試薬に結合したビオチンの組成物である、請求の範囲1の組成物。
【請求項4】
請求の範囲3の組成物と薬剤学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項5】
治療用試薬が、薬物、毒物、放射性核種、ホルモン拮抗薬、重金属錯体、オリゴヌクレオチド、化学療法用ヌクレオチド、ペプチド、非特異的(非抗体)タンパク質、ホウ素含有化合物およびエネジン(enediynes)からなる群より選択されたものである、請求の範囲4の薬学的組成物。
【請求項6】
有効量の請求の範囲5の組成物を被検者に投与することを含む、被検者における腫瘍または感染部位の発生または生長を治療または抑制する方法。
【請求項7】
感染が細菌感染である、請求の範囲6の方法。
【請求項8】
細菌感染が大腸菌感染である、請求の範囲7の方法。
【請求項9】
R6が結合したイメージング試薬である、請求の範囲1の組成物。
【請求項10】
イメージング試薬が、In-111、Tc-99m、I-123、I-125、F-18、Ga-67、Ga-68、常磁性原子、およびコントラスト試薬からなる群より選択されたものである、請求の範囲9の組成物。
【請求項11】
請求の範囲9の組成物を被検者に投与し、適当な手段を用いて該組成物を検出またはモニターすることを含む、被検者における腫瘍または感染部位をイメージングする方法。
【請求項12】
以下の構造式を有するビオチン化合物。
【化2】

式中、
n= 2〜10
R1〜R5= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基またはアルキニル基、
R6= H、アシル基、アルキル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アルケニル基もしくはアルキニル基;または結合した治療用試薬もしくは診断用試薬、
X= C=O、S=O、またはCNH、かつ
2、3、もしくは4位= O、S、またはN
【請求項13】
R6が結合した治療用試薬である、請求の範囲12の組成物。
【請求項14】
請求の範囲13の組成物と薬剤学的に許容される担体とを含む、薬学的組成物。
【請求項15】
治療用試薬が、薬物、毒物、放射性核種、ホルモン拮抗薬、重金属錯体、オリゴヌクレオチド、化学療法のヌクレオチド、ペプチド、非特異的(非抗体)タンパク質、ホウ素含有化合物、およびエネジン(enediyne)からなる群より選択されたものである、請求の範囲14の薬学的組成物。
【請求項16】
有効量の請求の範囲15の組成物を被検者に投与することを含む、被検者における腫瘍または感染部位の発生または生長を治療または抑制する方法。
【請求項17】
感染が、細菌、ウイルス、真菌、または原生動物の感染からなる群より選択されたものである、請求の範囲16の方法。
【請求項18】
R6が結合したイメージング試薬である、請求の範囲12の組成物。
【請求項19】
イメージング試薬が、In-111、Tc-99m、I-123、I-125 F-18、Ga-67、Ga-68、常磁性原子、およびコントラスト試薬からなる群より選択されたものである、請求の範囲9の組成物。
【請求項20】
請求の範囲17の組成物を被検者に投与し、適当な手段を用いてその組成物を検出またはモニターすることを含む、被検者における腫瘍または感染部位をイメージングするための方法。

【公開番号】特開2007−302686(P2007−302686A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−183924(P2007−183924)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【分割の表示】特願平8−501283の分割
【原出願日】平成7年6月5日(1995.6.5)
【出願人】(507203423)
【Fターム(参考)】