説明

腫瘍を検出し、治療するための非ペプチド分子

悪性腫瘍の最も普遍的な特性の1つは、それらの酸性である。オンコ−ツールは、腫瘍の早期の検出及び破壊のためにこの酸性を活用するように設計されている小非ペプチド合成分子である。各オンコ−ツールは、pH7.4において陰イオンで、親水性であり、そのため正常組織における細胞の負に荷電した表面から反発される。オンコ−ツールが腫瘍中のような酸性環境に入るとき、オンコ−ツール分子の一部は腫瘍の酸性領域内の細胞のような細胞に侵入するように設計されているそれらの非イオン親油形に転換する。オンコ−ツールの使用の前に、選択される放射性同位体をオンコ−ツールに結合させる。当放射性同位体が体外で検出することができる放射線を放射する場合、オンコ−ツールは腫瘍を検出する役割を果たすことができる。当放射性同位体が細胞を殺滅するのに有効な放射線を放射する場合、オンコ−ツールは腫瘍を治療する役割を果たすことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍を検出し、治療する目的のために対象における腫瘍の酸性領域に選択的に捕捉されるのに有効な組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
酸性:腫瘍の利用できるほぼ普遍的な特性
1930年に著名な生理学者Otto Warburgは、悪性腫瘍の最も普遍的な特性の1つはそれらの酸性であると報告した。その後の研究により、そのような酸性は、腫瘍が直径約1mm以上に成長するためには新たな血管を誘発しなければならないために生ずることが示唆された。腫瘍誘発性血管は不十分な間隔で配置され、異常であるため、そのような毛細血管から数十ミクロンを超えて離れた腫瘍の領域は一般に低酸素(酸素不足)になる。腫瘍のそのような低酸素領域における細胞は、死滅するか、又はそれらの乳酸の排出をもたらす解糖代謝に転換する。腫瘍における循環が不十分であるため、排出された乳酸は、腫瘍の低酸素領域の細胞の間の間隙に蓄積する。これが、毛細血管から最も遠い領域の最低の6.0から毛細血管の近くの約7.0までのpHが生ずる原因となり得る。ちなみに、正常な組織における間隙のpHは、約7.3〜pH7.5に厳格に調節されている。
【0003】
腫瘍の酸性領域における休止細胞:癌治療における大きい未検討の課題
上述のように、腫瘍の酸性は、腫瘍毛細血管からの距離の増加とともに一般に増大する。毛細血管に近接するほぼ正常なpHの腫瘍細胞は高い代謝率及び速い細胞分裂を示すが、毛細血管からより離れた距離にあるより高い酸性の領域の腫瘍細胞はより低い代謝率を有し、緩やかに分裂するか、又はまったく分裂しない。迅速分裂腫瘍細胞と比較して、休止と呼ばれる緩徐分裂及び非分裂腫瘍細胞は、放射線及び有毒化学物質などの細胞障害作用因子に対して実質的により抵抗性である。
【0004】
従来の癌療法(放射線及び化学療法)は、ほとんどの正常組織に特有な緩徐分裂及び非分裂細胞を温存しながら、迅速分裂細胞を殺滅するそれらの能力のために主として選択されたので、そのような従来の癌療法は、毛細血管に近いほぼ正常なpHの迅速分裂腫瘍細胞を殺滅するのにかなり有効である。しかし驚くに当たらないことに、それらの同じ療法は、腫瘍のより酸性の領域における緩徐分裂及び非分裂休止細胞に対してむしろ無効である。したがって、従来の癌療法は、当該腫瘍の低酸素/酸性領域における休止細胞を温存しながら、十分に酸素化された迅速分裂腫瘍細胞を主として殺滅する。迅速分裂細胞のこの初期の殺滅は腫瘍を寛解に導き、一方、殺滅された細胞は身体の正常な浄化過程により処分される。しかし、この浄化過程中、大抵は、腫瘍の酸性領域における生存治療抵抗性休止細胞は、十分な酸素、栄養の取込み及び廃棄物処分を徐々に回復し、これが、それが高代謝率及び迅速細胞分裂に戻ることを可能にする。以前に休止していた腫瘍細胞のこの細胞新生は、癌によるほとんどの死亡の原因である案じられる再発につながる。
【0005】
治療のために腫瘍の低酸素/酸性領域を活用する従来の努力
腫瘍の低酸素/酸性特性は、75年間にわたり知られており、そのような特性が治療に活用することができる可能性があるということは長年にわたり推測されていた。しかし、最近まで、これらの特性を活用するほとんどの成功を収めた努力は低酸素に焦点が合わせられていた。具体的には、低酸素細胞においてかなりの細胞毒性を示すと同時に、酸素正常状態細胞において最小限の細胞毒性を示す物質が開発された。そのような1つの物質は、臨床試験段階に進んでいる。
【0006】
腫瘍における低酸素を活用することに比較して、腫瘍の酸性を活用することに焦点を合わせる努力ははるかに少なかった。1つの不成功のアプローチは、組織における酸性pHがそれらの細胞を熱損傷に対して敏感にするように作用するという所見に基づいていた。しかし、細胞のこの酸媒介性熱感受性を活用する努力は、期待はずれの結果をもたらした。
【0007】
腫瘍における酸性に関連する他のアプローチは、腫瘍における低pHが弱塩基性細胞毒性物質をイオン化し、それにより、それらを膜不透過性にし、ひいては、より正常なpHの領域における細胞中へのそのような物質の侵入と比較して腫瘍の酸性領域内への多数のそのような弱塩基性物質の侵入の選択的な減少をもたらすという事実に基づいている。これに関して、腫瘍における低pHを活用することを試みるのではなく、部分的に脱イオン化し、それにより、腫瘍の細胞中へのそのような弱塩基性細胞毒性物質の侵入を増大させるための手段として腫瘍におけるpHを上昇させることに努力を集中させた。そのような努力は、ある程度の成功を収めた。
【0008】
本発明により密接に関連する他のアプローチは、腫瘍の間隙における低pHが弱酸性細胞毒性物質であるクロラムブシル(Chlorambucil)の部分的脱イオン化を引き起こすという事実(図1に示す)に依拠している。腫瘍の酸性領域におけるこのよく知られている弱酸性細胞毒性薬のイオン化の程度がより低いことの結果として、それが腫瘍の酸性領域の細胞における侵入の増加とひいてはより大きい細胞毒性を示すはずであると期待されよう。この期待は、Kozinらにより検定され、彼らは確立された方法を用いて担腫瘍マウスにおける腫瘍をより酸性にした(非特許文献1参照)。彼らは、予測通り、腫瘍における約0.3pH単位の低下が、弱酸(pKa5.8)クロラムブシルによってもたらされた腫瘍成長遅延の1.7倍と大きくない改善と一致していたことを報告した。彼らの論文の結論において、彼らは「我々の知る限り、CHL(クロラムブシル)は、適切なpKa≦6.5を有する弱酸である唯一の臨床的治療薬である。したがって、本試験は、類似の弱酸特性を示す新規且つ強力な薬物の設計、及び細胞内取込みへの拡散の寄与の根拠を提供する。またここに示すように、そのような化合物と放射線及び/又はpH勾配の調節因子との併用は、治療反応を最大限に増大させるさらなる機会を提供する。」と書いた。
【0009】
前述の論文において、著者らは、既製の細胞毒性薬クロラムブシルの有効性の大きくない増大を示す彼らの結果は高い有効性を示すことのできる新たな弱酸細胞毒性抗癌薬の設計の根拠を提供したことに言及したが、そのような薬物の見込みのある分子構造に関する指針は示されず、弱酸機能と細胞毒性機能の両方を適切な薬物構造に組み込むのにどのように取りかかるのかに関する指針は示されず、どのような固有の特性が望ましいのかについての指針は示されず、そのような弱酸細胞毒性薬物の設計、製造又は試験にどのように取りかかるのかに関する指針は示されず、また、そのような細胞毒性薬の適用又は使用方法に関する指針も示されなかった。改善された有効性の新規な弱酸細胞毒性薬はクロラムブシルモデルに基づいて設計することができるという著者らの提案におけるより重大な制約は、そのような薬物が選択的に侵入するように設計されている腫瘍の酸性領域にある休止細胞が、それらの細胞が休止しているため、従来の細胞毒性薬に対して特に抵抗性であることである。したがって、クロラムブシルなどの従来の細胞毒性薬は、それらを使用することが提案された腫瘍の酸性領域における休止細胞を殺滅するのに不十分であるという強い事例を作ることができる。
【0010】
その代わりに、Summerton(オンコ−ツール(onco−tool)の発明者)は、腫瘍の酸性領域における休止細胞を効果的に破壊するのに必要なものは、それらの治療抵抗性休止腫瘍細胞を決定的に破壊するのに十分な細胞生存能に対する特に破壊的影響を及ぼす特別に設計された薬物であると強く主張する。細胞生存能に対する破壊的影響のこの要件と組み合わされるものは、そのような薬物が、正常組織における細胞から大部分排除されると同時に腫瘍の細胞内に効果的に送達されるという同時要件である。
【0011】
背景技術
腫瘍の酸性を活用するために従来の弱酸細胞毒性薬を使用するKozinらの提案と異なり、かなり前にオンコ−ツールの発明者であるDr.James Summertonは、広範囲の腫瘍のより安全且つより有効な療法を提供する目的で、正常組織と腫瘍の酸性領域とのpHの差を活用するために明確に設計された新規なペプチド組成物の開発を開始した。それらの大ペプチド組成物(一般に2000〜4000ダルトンの範囲の質量を有する)は、「エンベッダー及びトランスポーターペプチド」と呼ばれている。それらの構造及び腫瘍を検出し、治療するための使用の方法は、係属中の特許文献1及び2006年11月7日発行の特許文献2(両方の発明者Dr.James E.Summerton)に開示されている。そのようなエンベッダー及びトランスポーターペプチドは担腫瘍マウスにおける腫瘍にかなり選択的に侵入することが認められたが、それにもかかわらず、マウス試験からの実験結果は、そのようなペプチドは所望のものより低い特異性及び有効性を達成することを示唆している。それらはまた、腎臓における過度の再取込みを受けるように思われた。これは、診断適用において望ましくなく、治療適用において許容できない。
【0012】
エンベッダー及びトランスポーターペプチドの限界を考慮して、Summertonは、以前のエンベッダー及びトランスポーターペプチドと比較して相当に改善された特異性、有効性及び安全性を達成するという目的で、オンコ−ツールと呼ばれる全面的に新たなクラスの小非ペプチド薬物を案出するための探求にその後着手した。本発明を含むこれらの小非ペプチドオンコ−ツールは、本発明者であるDr.James E.Summertonによって2006年3月30日に出願した特許文献3、2006年6月7日に出願した特許文献4及び特許文献5においてのみ開示された。
【0013】
【特許文献1】米国特許出願第11/069,849号明細書
【特許文献2】米国特許第7,132,393号明細書
【特許文献3】米国特許出願第11/395,487号明細書
【特許文献4】米国特許出願第11/449,495号明細書
【特許文献5】米国特許出願第11/449,508号明細書
【非特許文献1】Cancer Research Vol. 61, pages 4740-4743 (2001)
【非特許文献2】Thibonnel, et al., Tetrahedron Letters, Vol. 39, page 4277 (1998)
【非特許文献3】Miyake & Yamamura, Chemistry Letters, pages 981-984 (1989)
【非特許文献4】Marshall & Bourbeau, Tetrahedron Letters, Vol. 44, pages 1087-1089 (2003)
【非特許文献5】Corriu, Geng, & Moreau, J. Org. Chem. Vol. 58, page 1443 (1993)
【非特許文献6】Zalutsky, page 96 of Chapter 4 titled: Radiohalogens for Radioimmunotherapy, in the book: Radioimmunotherapy of Cancer, Ed. by Abrams and Fritzberg, Pub. by Marcel Dekker, Inc. (2000)
【非特許文献7】Zalutsky et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, Vol. 86, Pages 7149-7153 (1989)
【非特許文献8】Vaidyanathan & Zalutsky, Nature Protocols, Vol. 1, Pages 1655-1661 (2006)
【非特許文献9】Goldman, Jacobsen, and Torssell, Synthesis in the Camphor Series. Alkylation of Quinones with Cycloalkyl Radicals. Attempted Synthesis of Lagopodin A and Desoxyhelicobasidin. Acta Chemica Scandinavica B 28 (1974) 492-500
【非特許文献10】Brian Thomas Connell, Synthesis and Evaluation of a New Camphor-Derived Lactam as a General Chiral Auxiliary for the Asymmetric Diels-Alder and Aldol Reaction. Thesis submitted to the Dept. of Chemistry, University of Rochester, Rochester, New York (1995)
【非特許文献11】Naeslund & Swenson (1953) Acta Obstet. Gyneocol. Scand. 32, 359-367)
【非特許文献12】Jahde et. al., (1992) Cancer Research 52, 6209-6215
【非特許文献13】Kuin et al., (1994) Cancer Research 54, 3785-3792)。
【非特許文献14】Adachi and Tannock (1999) Oncology Research 11, 179-185
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、酸性領域を含む腫瘍を検出し、治療するための非ペプチド組成物及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
腫瘍の早期検出及び破壊のための腫瘍の酸性を活用するオンコ−ツール
本発明のオンコ−ツールは、腫瘍を検出し、治療するために設計された新規なクラスの分子である。各オンコ−ツールは、より高pHにおける陰イオン親水性形とより低pHにおける非イオン親油性形とに容易に転換する2つ又はそれを超えるpH転換成分を含む。各オンコ−ツールはまた、オンコ−ツールの診断又は治療上の役割を果たすのに適する選択される放射性同位体に結合するのに有効な積荷成分を含む。オンコ−ツールは、一般に約300〜1500ダルトンの範囲にある(放射性同位体の質量を数えない)質量を有する比較的小さい非ペプチド合成分子からなる。
【0016】
正常組織の中性pHにおいて、オンコ−ツールは、細胞の負に荷電した表面から反発され、腎臓により容易に排泄されるように設計されているそれらの水溶性の負に荷電した形で存在する。逆に、オンコ−ツールが腫瘍の酸性領域に侵入するとき、オンコ−ツール分子の一部は、近くの細胞に速やかに侵入するように設計されているそれらの非イオン親油形に転換する。したがって、オンコ−ツールのある用量を人に注射したとき、その人が直径が約1mmを超える腫瘍を有する場合、注射量の一部は腫瘍の酸性領域の細胞内に速やかに侵入して留まり、残りの量は腎臓により排泄される。言い換えれば、オンコ−ツールは、a)正常組織における細胞から反発され、b)腫瘍の酸性領域内に捕捉されるという重要な特性を有するように設計され、c)腫瘍の酸性領域内に捕捉されないオンコ−ツールは腎臓を経て身体から速やかに除去されるように設計されている。
【0017】
オンコ−ツールの使用の前に、選択される放射性同位体をオンコ−ツールに結合させる。結合させた放射性同位体は、オンコ−ツールの診断又は治療上の役割を果たす。診断上の役割は、腫瘍内のオンコ−ツールの存在を体外の検出器に報告することである。治療上の役割は、腫瘍を破壊することである。
【0018】
診断用オンコ−ツール
腫瘍間の変動が大きいため、成功裏に治療することができる十分に早期(好ましくは転移し、顕性症状を示し、又は重篤な臓器損傷をもたらす前)の広範囲の腫瘍型のルーチンでの検出は、医学の未達成の目標であった。腫瘍のルーチンの早期検出における困難の多くは、ほとんど又はすべての腫瘍に共通であり、腫瘍のルーチン及び利用可能な早期検出のために効果的に利用することができるある種の特性を特定することにあった。現代の撮像技術と組み合わされた、体外で容易に検出できるシグナルを放射する適切な放射性同位体(例えば、ガンマ線又は陽電子放射体)を有するオンコ−ツールは、ほとんど又はすべての腫瘍型の非常に早期の検出を安全に行うことができるように設計されている。
【0019】
診断用オンコ−ツールは、顕微鏡的サイズより大きい本質的にすべての腫瘍の非常に早期の検出を可能にするためにルーチンの年1回の身体的検査に広く用いられるように設計されている。したがって、単一の診断用オンコ−ツールは、乳房マンモグラム、パパニコロー塗抹標本、前立腺検査及び大腸内視鏡検査などの広範囲の現行の腫瘍診断法の優れた包括的な代替としての役割を果たす可能性がある。さらに、多くの腫瘍型は、次に問題の根本原因を特定するために網羅的且つ非常に費用のかかる診断処置を必要とする、疼痛、臓器の機能不全、又は他のいくつかの一般的症状若しくは一連の症状により顕在化する発育のかなり後期に達するまで、現在のところ定法により検出することはできないことを理解すべきである。そのような腫瘍が検出される時までに、治療の成功(少なくとも現在承認されている療法による)を望むにはしばしばあまりにも進展している。これに関して、診断用オンコ−ツールは、そのような診断困難な腫瘍のルーチンの早期検出という全面的に新しい能力を有する見込みがある。
【0020】
治療用オンコ−ツール
治療用オンコ−ツールは、腫瘍の安全且つ効果的な破壊をもたらすために腫瘍の酸性特性を活用するように設計されている。最適な結果を得るために、2つのオンコ−ツール製剤の組合せを用いるべきである。1つの製剤は、腫瘍の酸性領域(図2参照)における隣接する放射線抵抗性休止細胞を殺滅するのに有効である超高エネルギーアルファ粒子などの短経路長高線型エネルギー転移放射線を放射する放射性同位体を有する。他の製剤は、毛細血管に近いより遠放射線感受性迅速分裂腫瘍細胞を殺滅するのに有効な中経路長中エネルギーベータ粒子を放射する放射性同位体を有する。併用する場合、これらの2つの製剤は、体内の他の細胞にほとんど又はまったく損傷を与えずに、腫瘍全体を効果的に殺滅するように設計されている。結果として、治療用オンコ−ツールは、ほとんど又はすべての腫瘍におけるすべての細胞型に対して有効であるように設計され、したがって、ほとんど又はまったく再発なしに、はるかに毒性が低く、はるかに有効な腫瘍の療法である見込みがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
用語の定義
本明細書で用いる用語は、特に断らない限り、以下の特定の意味を有する。
【0022】
「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(containing)」及び「含む(including)」という語並びにその他の形は、意味が同等であり、これらの語のいずれか1つの次にくる1つの項目又は複数の項目がそのような1つの項目又は複数の項目の網羅的な列挙であることを意味しない、或いは列挙された1つの項目又は複数の項目のみに限定されることを意味しないという点で、限定範囲が定められていないことを意図する。
【0023】
「で構成される」、「からなる」という語並びにその他の形は、意味が同等であり、これらの語のいずれか1つの次にくる1つの項目又は複数の項目がそのような1つの項目又は複数の項目の網羅的な列挙であり、列挙された1つの項目又は複数の項目のみに限定されることを意味するという点で、限定範囲が定められていることを意図する。
【0024】
pHスイッチ成分−より高いpHでの陰イオン親水性形とより低いpHでの非イオン親油性形との間のpH媒介性転移を受けることができるオンコ−ツールの構造成分。
【0025】
高度pHスイッチ成分−内部酸特異的水素結合を形成するように設計されたpHスイッチ成分。高度pHスイッチは、以下の特性を有する。
【0026】
a)4員環、5員環及び6員環からなる群から選択される脂肪族環構造を含み、
b)脂肪族環構造に直接結合したカルボン酸部分を含み、
c)カルボン酸部分が、結合した電子求引基から少なくとも2個の炭素によって分離されており、
d)i)脂肪族環構造の一部、
ii)脂肪族環構造に直接結合したもの、
iii)脂肪族環構造に1個の原子を介して結合したもの
からなる群から選択されるH結合アクセプター部分を含み、
e)H結合アクセプター部分が、その非イオン形において、H結合ドナー部分としての役割を果たさない構造を有し、
f)カルボン酸部分及び前記H結合アクセプター部分が、近接して位置決めされ、内部酸特異的H結合の形成に適合するように適切に位置決めされ、配向されている。
【0027】
積荷成分−オンコ−ツールの存在を報告するのに有効である、或いは細胞を殺滅するのに有効である放射性同位体に結合する役割を果たすオンコ−ツールの構造成分。積荷成分は、放射性同位体に結合する準備が整った前駆体形又は放射性同位体を含む最終形として存在することができる。
【0028】
前駆体形の積荷成分−選択される放射性同位体に容易に結合することができる構造を有するが、未だ放射性同位体に結合していない積荷成分。この前駆体形の積荷成分を有するオンコ−ツールは、長期保存に適している。
【0029】
最終形の積荷成分−少なくとも1つの結合放射性同位体を含む積荷成分。この最終形の積荷成分を有するオンコ−ツールは、酸性領域を含む腫瘍を検出し、且つ/又は殺滅する目的のための対象への送達に適している。
【0030】
オンコ−ツール−少なくとも2つのpHスイッチ成分及び少なくとも1つの積荷成分を含む非ペプチド組成物。
【0031】
診断用オンコ−ツール−腫瘍内のオンコ−ツールの存在を診断処置を受ける対象の体外の検出器に報告するのに有効な放射性同位体を含むオンコ−ツール。
【0032】
治療用オンコ−ツール−細胞を殺滅するのに有効な放射性同位体を含むオンコ−ツール。
【0033】
二重放射性同位体オンコ−ツール治療戦略−少なくとも2種のオンコ−ツールを用いて腫瘍を治療する治療戦略で、1つのオンコ−ツールが高線型転移エネルギー放射線を放射し、他のオンコ−ツールがベータ線放射性の放射性同位体を含むもの。
【0034】
間隙(interstitial space)−血管床の外側及び細胞の外側にある組織又は腫瘍の領域。
【0035】
腫瘍の酸性領域−間隙が7.0未満のpHを有する腫瘍の領域。
【0036】
生理学的条件−20℃〜40℃の範囲の温度及び約0.13M〜0.17Mの塩化ナトリウム濃度を有する水溶液。
【0037】
かなりの部分−約1%を超える。
【0038】
陰イオン親水性形−少なくとも1つの負電荷を有し、1未満のオクタノール/水分配係数を有する形。
【0039】
非イオン親油性形−イオン性電荷を有さず、1を超えるオクタノール/水分配係数を有する形。
【0040】
有効性係数−pH6.4でそれらの非イオン形であるオンコ−ツール分子の割合。
【0041】
特異性係数−(pH6.4で非イオン形のオンコ−ツール分子の割合)を(pH7.4で非イオン形のオンコ−ツール分子の割合)で割った比。
【0042】
存在を報告するのに有効−ガンマ線又は陽電子などの放射が対象の体外で容易に検出できるシグナルを発生する放射性同位体。
【0043】
pT−物質の親水性形と該物質の親油性形との間の転移の中間点におけるpH値であり、2つの形の間の転移は生理食塩水(又はある種の緩衝剤を含むほぼ同等物)中に5ミリモルで存在する該物質を用いて測定される。pT値は物質のpKa値と類似しているが、pT値は、物質のpKaと物質の親油性の両方による影響を受ける点が異なっている。pT値は、非イオン形が著しく親油性であり、したがって、滴定中に水溶液から脱落することがあるか、又は分配試験中に無極性相中に分配することがある、カルボキシル含有物質を説明するのに有用である。さらに、pT値は、ほぼ生理的濃度の食塩の存在下で測定され、したがって、in vivo環境中の被験物質の特性をよりよく反映する。
【0044】
高線型エネルギー転移放射線を放射する放射性同位体−アルファ粒子を放射するか、或いはオーガー(Augar)及び/又はコスター−クロニク(Coster−Kronig)電子を放射する放射性同位体。
【0045】
発明者−James E.Summerton,Ph.D.
【0046】
開示の概要
A.オンコ−ツールの分子設計
1.pHスイッチ成分
a)pHスイッチの親油性を調節する
b)新規な酸特異的内部H結合をpHスイッチに組み込む
c)多pHスイッチ成分をオンコ−ツールに組み込む
2.積荷成分
a)構造要件
b)前駆体及び最終形
c)放射性同位体積荷の選択
i)腫瘍の検出のため
ii)腫瘍の治療のため
3.オンコ−ツールの構造
a)構造要件
b)2pHスイッチを含むオンコ−ツール
c)3pHスイッチを含むオンコ−ツール
d)4pHスイッチを含むオンコ−ツール
B.成分及びオンコ−ツールの合成、試験及び最適化
1.代表的なpHスイッチを含む構造の調製
a)単純pHスイッチ
b)高度pHスイッチ
c)低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチ
2.pHスイッチの試験
3.代表的なオンコ−ツールの調製及び最終形への変換
a)単純pHスイッチを含むオンコ−ツール
b)高度pHスイッチを含むオンコ−ツール
c)低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチ有するオンコ−ツール
4.オンコ−ツールの試験及び最適化
a)反復最適化過程:培養細胞における合成及び試験
i)親油性が異なるオンコ−ツールの組を調製する
ii)pH6.4とpH7.4で培養細胞への侵入を評価する
iii)必要に応じて上のステップを繰り返す
b)正常マウスにおける体内運命を評価する
c)担腫瘍マウスにおける体内運命を評価する
d)前臨床及び臨床試験
C.オンコ−ツールを使用する方法
1.診断方法
2.治療方法
a)単一放射性同位体方法
b)二重放射性同位体方法
3.腫瘍を検出し、治療するための包括的方法
4.微小転移巣に対処するための戦略
5.有効性及び特異性の増大のために腫瘍におけるpHを低下させるために処置する
6.有効性及び特異性を高めるためにpKaが異なる複数のオンコ−ツールを使用する
7.腎臓の損傷を防ぐために尿中pHを上昇させるために処置する
8.安全性の増大のために膀胱をモニターし、洗浄する
【0047】
発明を実施するための態様
A.オンコ−ツールの分子設計
本発明を構成するオンコ−ツールは、腫瘍の検出及び治療のために設計された新規なクラスの分子である。各オンコ−ツールは、より高いpHでの陰イオン親水性形とより低いpHでの非イオン親油性形との間のpH媒介性転移を容易に受ける2つ又はそれを超えるpHスイッチ成分を含む。各オンコ−ツールはまた、オンコ−ツールの診断又は治療上の役割を果たすのに適する選択される放射性同位体に結合するのに有効な積荷成分を含む。
【0048】
1.pHスイッチ成分
オンコ−ツールが腫瘍の酸性領域に対する十分な特異性を達成するためであるならば、オンコ−ツールは、pH7.4の水溶液中でオンコ−ツール分子のほぼすべてが細胞膜の負に荷電した表面に対する親和性を欠く負に荷電した形(陰イオン形)で存在するような構造を有さなければならない。逆に、腫瘍の酸性領域に存在するpHにおいて十分な有効性を達成するために、オンコ−ツール分子のかなりの部分(1%を超える)は、細胞膜に容易に侵入する非イオン親油性形に転換すべきである。オンコ−ツールを設計するに際しての主要な課題は、オンコ−ツール分子の十分な部分が正常組織と腫瘍の酸性領域との間の利用可能な非常に限られたpH差の範囲内で陰イオン親水性形と非イオン親油性形との間の転移を受ける構造を案出することである。このpHの差は一般に約0.5〜0.7pH単位にすぎないが、正常組織と腫瘍の酸性領域との間のこのpHの差を実質的に増加させるための単純なステップ(本明細書における後のC項で述べる)を容易に実行することができることを理解すべきである。そのようなステップにより、正常組織と腫瘍の酸性領域との間のpHの差を一般に1.0pH単位以上に増加させることができる。
【0049】
腫瘍における酸性の活用に固有の非常に要求の厳しい分子設計上の課題に対処するために、それぞれがpH7.4で負電荷を有する弱酸部分(一般にカルボン酸)を含むpHスイッチ構造を案出した。次に、この必須の弱酸部分はその非イオン遊離酸形において実質的な親水性を示すので、十分な有効性を達成するために、オンコ−ツールが腫瘍における酸性領域に侵入するときに、迅速な膜侵入のための十分な親油性をもたらすために2つの分子設計戦略を用いた。単独又は組み合わせて用いられるこれらの2つの設計戦略は、第3の設計戦略と組み合わせるとき、腫瘍の酸性領域に対するオンコ−ツールの特異性を劇的に増大させるうえで重要な役割を果たすこともできる。これらの3つの分子設計戦略の物理的及び数学的基礎(そのうちの2つはオンコ−ツールに特有であると考えられる)は、下で述べる。
【0050】
a)遊離酸部分の固有の親水性を部分的に無効にするために複数の親油性部分を組み込むことによりpHスイッチの親油性を調節する。これに関して、pHスイッチの非イオン遊離酸形の親油性の増大がその分配特性にどのように影響を及ぼすのか(すなわち、それが水相とオクタノール又は細胞膜などの親油相とにどのように分配するのか)という定量的な評価を得ることが第一に有用である。そのためには、数学的モデリングを行って、高pHにおいて陰イオン水溶性形[A−]で存在し、より低いpHにおいて、ある程度の水溶性を有し[HAsol]、水溶液からの析出若しくは油分離(oiling)により、又はオクタノール又は細胞膜などの親油相中への分配により、[HAinsol]によって表される水不溶性/脂溶性にもなることができる非イオン親油性形に転換する弱酸物質の形の間のpH依存性転移を計算した。これらの3つの形の相互転換、並びに数学的モデリングに用いた重要な式を図3に示す。
【0051】
図4に示す当モデリングからの結果は、陰イオン形[A−]と非イオン形[HAsolプラスHAinsol]との間の転移の中間点のpHは非イオン性遊離酸形のオクタノール/水分配係数Pが増加するにつれて漸進的に上昇することを示している。しかし、転移のpHのそのような上昇は、遊離酸形が析出若しくは油分離を開始するのに有効な親油性閾値に達した後、又は分配を可能にする無極性相が存在する場合にのみ当てはまる。実施例1では、陰イオン形と非イオン形との間のpH依存性転移に対する酸形の親油性のこの数学的に予測された影響を例示する滴定実験を述べる。
【0052】
しかし、非イオン形の親油性の増大のための唯一の手段として過剰な親油性部分を組み込むことは逆効果であり得ることに注意すべきである。これは、非常に高い親油性が過大な数の親油性部分の組込みだけによって発生するとき、pHスイッチの陰イオン形でさえも細胞表面に対する親和性を有し始めることができ、これが正常組織並びに腫瘍中のオンコ−ツールの捕捉をもたらすためである。親油性部分が1つの大きい表面を形成し、親水性部分がこの親油性表面から十分に離れている場合に、これが特別の問題となり得る。オンコ−ツールが正常組織中にも捕捉される場合、オンコ−ツールは、診断適用において高いバックグラウンドを、また治療適用において著しい毒性を引き起こすこととなる。
【0053】
b)新規な酸特異的内部H結合をpHスイッチに組み込んで、親水性形と親油性形との溶解度の差を拡大する。
【0054】
前項において、オンコ−ツールの腫瘍の酸性領域における細胞への侵入を改善し、それにより、有効性を増大させるためのむしろ従来の戦略を述べた。当戦略は、親油性基をpHスイッチ成分に組み込むことである。この単純な戦略は、「合理的薬物設計」と呼ばれるものに一般に用いられる。これは、癌化学療法薬の有効性及び特異性を改善するための試みに広く適用されている。しかし、正常組織と腫瘍の酸性領域との間にpH値のかなり小さい差があるにすぎないので、発明者は、酸性領域へのオンコ−ツールの侵入を増大させるためのさらなる戦略を案出することを企てた。これは、腫瘍に対するオンコ−ツールの特異性も増大させることができると期待された。このために、発明者は、pH依存性内部酸特異的水素結合を形成するのに有効な構造を発明することによって、pHスイッチの陰イオン形の親水性と非イオン形の親油性を実質的に増大させることができると仮定した。発明者はさらに、そのような内部H結合は、pHスイッチがその陰イオン形とその非イオン形との間に転移するpHを上昇させ、それにより、腫瘍の酸性領域における細胞への侵入のためにより多くのオンコ−ツールを非イオン形で利用可能にすると仮定した。
【0055】
非イオン形の親油性のその予測されるH結合媒介性の増大と陰イオン形の親水性の付随する増大は、水性環境ではそのような内部H結合は遊離酸形のいくつか(おそらく2つ)の結合水を置換するという予想に基づいている。例示するために、図5のa)に陰イオン形及び非イオン性遊離酸形の標準的カルボキシルに直接H結合した予想される水和水を示す。図5のb)に所望の内部酸特異的H結合を形成するのに有効な構造の陰イオン形及び非イオン性遊離酸形に直接H結合した対応する予想される水和水を示す。明らかに、標準的カルボキシル及び内部H結合を形成するのに有効なカルボキシルは、陰イオン形から非イオン性遊離酸形に移行する際にそれらの対イオンを失う。しかし、標準的カルボキシルは陰イオン形と非イオン性遊離酸形に対して直接H結合した同じ数(おそらく4つ)の水を有すると予想されるが、発明者は、内部H結合を形成することができるカルボキシルについては、陰イオン形(おそらく5つのH結合した水)から非イオン性遊離酸形に移行するときに、いくつか(おそらく2つ)の直接H結合した水の正味の喪失があり、いくつかのH結合した水のこの喪失が2つの形の間の親水性/親油性の差を実質的に拡大するであろうと考える。発明者は、そのような内部酸特異的H結合を水性環境中で形成させることができるならば、いくつかの水和水の結果として生ずる喪失が腫瘍の酸性領域における細胞に迅速に侵入するオンコ−ツールの能力を著しく増大させ、一方、正常組織における細胞によるオンコ−ツールの拒絶も著しく増大させると予測した。要約すると、そのような内部酸特異的H結合の組込みは、その成分であるpHスイッチの2つの形のそれぞれに結合する水分子の数を差別的に変化させることにより、オンコ−ツールの特異性と有効性の両方を増大させると予測された。
【0056】
発明者はまた、pHスイッチ成分における内部酸特異的H結合の形成は、pHスイッチ成分のカルボキシル部分のその遊離酸形への転移に有利であり、そのカルボン酸部分のpKa値の著しい上昇をもたらすはずであることを予測した(そして今や実証した)。次の項で詳述するように、カルボキシル部分のpKaのそのような上昇は、2つ又はそれを超えるpHスイッチを当オンコ−ツールに組み込むことにより腫瘍に対するオンコ−ツールの特異性を劇的に増大させる戦略に関連して望ましい。
【0057】
水性環境において内部H結合を形成することができるpHスイッチ構造の設計に関して、水素結合に関する専門家における従来の見識は、単独水素結合は、H結合アクセプター部位(110モル)及びH結合ドナー部位(110モル)における莫大な濃度の水との競合のため、水性環境において安定でないことを一般に支持する。それよりむしろ、水溶液中の安定な非共有結合性相互作用は、H結合、疎水性相互作用及び静電相互作用から選択される相互作用の多様性を必要とすると一般に考えられている。
【0058】
非共有結合性結合の多様性に関するこの要件は分子間相互作用について十分に確立されているように思われるが、発明者は、従来の見識に反して、H結合が2つの形の間の親水性/親油性の差を増大させ、陰イオン形に比べて遊離酸形に著しく有利になるように作用する(すなわち、pKaを上昇させる)、水溶液中で単一の比較的安定なpH依存性分子内H結合を形成するコンパクトな構造を発明することが可能であろうと仮定した。その時の重大な疑問は、水溶液中でそのような内部H結合を形成するような実際のpHスイッチ構造を発明することができるであろうかであった。
【0059】
相当な実験の後に、所望の単一のpH依存性内部H結合を形成することが実証され、本発明のオンコ−ツールに組み込むのに適する新規な構造が今回発明された。発明者が最初に予測したように、そのような内部H結合は、pHスイッチがその陰イオン形からその非イオン形に移行するとき、親水性/親油性の差を著しく増大させるように思われる。そのようないくつかの内部酸特異的H結合は、構造がその陰イオン親水性形からその非イオン親油性形に転換するpHを、類似の単純カルボキシル部分がこの転移を受けるpHと比べて著しく上昇させることも実証された。
【0060】
内部酸特異的H結合を形成するように設計された構造を有するpHスイッチは、「高度pHスイッチ」と呼ぶ。分子モデリング及び広範な実験的研究からの結果は、高度pHスイッチが水溶液中で許容できるほどに安定な内部酸特異的H結合を形成するために、以下の3つの特性が必須であることを示唆している。
【0061】
i)酸特異的H結合
構造は、H結合の形成のためにH結合アクセプター部分に適切に近接して位置決めされているカルボキシル部分を含めなければならない。カルボキシル部分がその遊離酸形であるとき、それはH結合ドナーとしての役割を果たさなければならず、近位のH結合アクセプター部分は、その非イオン形においてH結合アクセプターとしての役割のみを果たすことができ、H結合ドナーとしての役割を果たすことができないようでなければならない。発明者は、そのような構造によって形成されるH結合を「内部酸特異的H結合」と呼んでいる。図6のa)に、内部酸特異的H結合のみを形成することができる代表的なpHスイッチ構造を示す。逆に、図6のb)に、類似しているが、カルボキシルがその陰イオン形にあるとき内部H結合を、またカルボキシルがその非イオン形にあるとき内部H結合を形成することができる容認できない構造を示す。発明者は、この二重H結合能力を「内部非酸特異的H結合」と呼んでおり、発明者の実験結果は、そのような非酸特異的H結合は、酸形の親油性の所望の増大をもたらさず、構造がその陰イオン親水形からその非イオン親油形に転換するpHを上昇させないので、容認できないことを示している。実施例2には、水とメタノールの1対1混合物中で図6のa)における構造がわずかに酸性条件下で内部酸特異的H結合を形成することを記載する−陰イオン形と遊離酸形との間の転移のpHの有意な上昇(すなわち、カルボキシル部分のpKa値の増加)によって明らかにされた。逆に、この同じ実施例に非酸特異的H結合を形成するように設計された図6のb)における非常に類似した構造がこれらの条件下で陰イオン形と非イオン形との間の転移のpHを上昇させないことも示す。
【0062】
ii)H結合部分間の最小限の立体配座自由度
H結合アクセプター部分とH結合ドナー部分としての役割を果たすカルボキシルは、最小限の立体配座自由度を有する構造によって互いに近接した状態に保持されるべきである。この限られた立体配座自由度は、適切な環構造を用いて達成することができる。分子モデリング及び実験的研究は、4員、5員及び6員脂肪族環がこの目的のために好ましいことを示唆している。図7のa)に、H結合ドナー(カルボン酸のOH)と適切に位置決めされたH結合アクセプター部分との間の限られた立体配座自由度のみを可能にする代表的な4員、5員及び6員脂肪族環構造を示す。逆に、図7のb)に、その非環式構造がH結合ドナー部分とH結合アクセプター部分との間の過剰の立体配座自由度を可能にするために容認できないいくぶん類似した構造を示す。実施例3にメタノールと水の1:1混合物中でH結合部分間の最小限の立体配座自由度を有する構造がカルボキシル部分のpKa値の有意な増加をもたらすことができるが、H結合部分間の実質的により大きい回転自由度を有する類似した構造はカルボキシル部分のpKa値の対応する増加をもたらさず、したがって、これらの条件下では安定な内部酸特異的H結合をおそらく形成することができないことを述べる。
【0063】
iii)電子求引基の誘起効果から絶縁されたカルボキシル
H結合ドナー部分としての役割を果たすべきカルボン酸は、少なくとも2個、好ましくは3個以上の炭素により、あらゆる結合した電子求引基から分離すべきである。これにより、電子求引基による誘起効果に起因するそのカルボキシルのpKa値の過度の低下が避けられる。図8のa)に示す分子構造及びそれらの対応するpKa値は、脂肪族炭素の数の増加がフェニル基のpKa低下効果からカルボキシルをいかに漸進的に絶縁することができるかを示している。図8のb)に、近接したアミド部分による誘引効果がカルボン酸部分のpKaの過度の低下を明らかに引き起こす構造を示す。実施例4ではH結合ドナーとアクセプター部分との間の最小限の立体配座自由度を有するときさえも、誘引効果からのカルボキシルの不十分な絶縁が存在するならば、陰イオン形と遊離酸形との間の転移のpHはあまりにも低くてpHスイッチに有用でないことを述べる。
【0064】
上の3つの必須の特性に加えて、以下の2つの特性から選択される少なくとも1つの追加の特性は、水溶液中の内部H結合の形成を達成するために望ましいと思われる。
【0065】
iv)H結合部位を部分的に遮蔽する親油性基
水性環境中で単独H結合を形成するうえでの主な課題は、周囲の水を含む莫大な濃度の競合性H結合ドナー及びH結合アクセプターの存在下で当H結合を優先的に形成することである。酵素触媒部位の生化学的研究及び発明者の広範な分子モデリングに基づいて、発明者は、H結合部位が親油性基の存在によりバルク水から部分的に遮蔽されていたならば、所望の分子内H結合はより有利であろうと想定した。溶媒からの部分的遮蔽に関連して、図9に2つの関連構造を示す。図9のa)において、H結合部位は溶媒に対してまったく開放されている。逆に、図9のb)における対応するH結合部位は、1つの側の隣接するメチルにより、また他の側の隣接するメチレンにより、溶媒から部分的に遮蔽されている。実施例5で詳述する合成及び滴定試験では、溶媒からのH結合部位のそのような部分的遮蔽が所望の分子内H結合に有利であることを示唆する結果が得られている。
【0066】
v)低バリアH結合
「低バリアH結合」という用語は、H結合ドナー部分とH結合アクセプター部分との間に形成される非共有結合性結合で、2つの孤立した部分のpKa値が互いの約2pH単位以内にあることを意味するために本明細書で用いる。この定義は、水素がドナー部分に対するよりもアクセプター部分に近い内部塩として解釈することもできるものを含むことを注意すべきである。そのような低バリアH結合は、一般に例外的に強いことが認められ、したがって、pHスイッチにおける所望の分子内H結合にかなり有利であり得る。図10のa)及び図10のb)に、pHスイッチにおける低バリアH結合を形成するのに適切な様々なH結合部分を示す。図10のc)に、低バリアタイプのH結合を形成するために設計されたいくつかの代表的なpHスイッチ構造を示す。実施例6では、2つの代表的なpHスイッチ(図10のb)における構造i及びiii)の合成及び試験、並びに水溶液中の所望の低バリアH結合の形成の実験的証拠を述べる。
【0067】
下記は内部酸特異的水素結合を形成するように設計されている高度pHスイッチ成分に適することがわかった特性の要約である。
【0068】
a)4員環、5員環及び6員環からなる群から選択される脂肪族環構造を含む、
b)脂肪族環構造に直接結合しているカルボン酸部分を含む、
c)カルボン酸部分が少なくとも2個の炭素により結合電子求引基から分離されている、
d)以下からなる群から選択されるH結合アクセプター部分を含む、
i)脂肪族環構造の一部
ii)脂肪族環構造に直接結合している、及び
iii)脂肪族環構造に1個の原子を介して結合している
e)H結合アクセプター部分が、その非イオン形においてH結合ドナー部分としての役割を果たさない構造を有する、並びに
f)カルボン酸部分及びH結合アクセプター部分が、互いに近接して位置決めされ、それらが内部酸特異的H結合の形成に適合するように適切に位置決めされ、配向されている。
【0069】
c)オンコ−ツールの有効性の過度の低下をもたらすことなく、腫瘍に対するオンコ−ツールの特異性を劇的に増大させるための新規な戦略として、複数のpHスイッチ成分を各オンコ−ツールに組み込む。
単独又は組み合わせて用いる、先の2つの項で述べた2つの設計戦略は、腫瘍の酸性領域に存在するpHで細胞膜に侵入するのに有効であり、したがって、十分な有効性をもたらすpHスイッチ構造を発生させるという要求を満たす。しかし、そのような設計戦略は、クロラムブシルなどの従来の癌療法と比べてわずかな特異性の優位性をもたらすにすぎない。これに関して、現在用いられているほとんどの癌療法について、患者に治療の多くの失敗の一般に基礎をなすものはそれらの不十分な特異性であることを理解すべきである。すなわち、現在の癌療法は、約2〜8程度の特異性を有すると推定される。これは、それらが一般に正常組織に対するより癌に対して約2〜8倍程度の損傷を与えることを意味する。発明者は、腫瘍に対する特異性を実質的に増大させるために何らかの効果的な戦略を考案することができない限り、同様な限られた特異性のレベルと対応する低い奏功率がオンコ−ツール療法を悩ませるであろうということを深刻に認識していた。したがって、発明者は数年前にオンコ−ツールの特異性を実質的に増大させる何らかの方法を案出するための探求に着手した。その探求が下で述べる第3及び最も本質的なオンコ−ツール設計戦略につながった。
【0070】
酸のpKaは、酸分子の半分が陰イオンで、半分が非イオン性である酸の水溶液のpHである。酸のpKa及びその水溶液のpHを知っている場合、次のヘンダーソン−ハッセルバルク(Henderson−Hasselbalch)式を用いて、当溶液中に存在する陰イオン形[H−]と非イオン形[HA]との比を計算することができる:(pH=pKa+log[A−]/[HA])。
【0071】
ヘンダーソン−ハッセルバルク式の単純な適用により、正常組織中の間隙におけるpHと腫瘍の酸性領域におけるpHとがわずか1.0pH単位異なっている(すなわち、腫瘍において達成可能な約pH6.4及び正常組織に存在するpH7.4)場合、カルボキシル含有薬物が腫瘍の酸性領域に対して示すことができる、正常組織と比較した、理論的な最大の特異性は10以下であるように思われることが示唆される。換言すると、正常組織と腫瘍との間のわずか1.0のpHの差がある場合、ヘンダーソン−ハッセルバルク式の単純な適用により、腫瘍の酸性領域における細胞への従来の弱酸含有薬物の侵入の割合は正常組織中の細胞への当薬物の侵入の割合より約10倍以下であり得ることが示唆されるように思われる。
【0072】
約10倍のこの上限がオンコ−ツールの特異性に当てはまるならば、診断適用において、この不十分な特異性レベルは、特にその検出が患者の最良の予後をもたらすような非常に小さい早期腫瘍の症例について検出することを試みていた腫瘍からのシグナルの大部分又はすべてを圧倒するような正常組織からの大きいバックグラウンドシグナルを発生させる可能性がある。同様に、治療適用において、そのような不十分な特異性レベルは、おそらく患者を死亡させる程度までの患者におけるかなりの毒性をもたらす可能性がある(これは、同様な不十分な特異性レベルも有する現行の化学療法で一般に発生する)。
【0073】
特異性が限られているという問題を克服するために、発明者は、正常組織と腫瘍組織との間の小さいpHの差によってもたらされると思われる見かけの理論的最大値10を超えてオンコ−ツールの特異性を劇的に増大させるための新規な設計戦略を案出した。本質において、該戦略は、2つ又はそれを超えるpHスイッチを単一オンコ−ツールに組み込むことであり、各pHスイッチのカルボキシルが、1つのカルボキシルのイオン化がその隣接するカルボキシルのイオン化に有意に影響を及ぼさないほど十分にその隣接するpHスイッチのカルボキシルから離れている(おそらく約5オングストロームを超える距離離れた)。逆に、多pHスイッチオンコ−ツールのpHスイッチのすべては、当オンコ−ツールが腫瘍の酸性領域に捕捉されるために要求される、その親油性の内部に侵入するために当オンコ−ツールが接近し、次に細胞膜の負に荷電した外表面を破って通る前に、成分pHスイッチのすべてがそれらの非イオン形でなければならないほど十分に接近しているべきである。多pHスイッチオンコ−ツールのすべてのカルボキシルは、この後者の要件を十分に満たすために互いから約15〜20オングストローム以下の距離にあるべきであると推定される。
【0074】
図11のa)に、抽象的な形で2pHスイッチ成分を含むオンコ−ツールの様々な陰イオン及び非イオン形を示し、図11のb)に、同様に3つのpHスイッチ成分を含むオンコ−ツールの様々な陰イオン及び非イオン形を示す。適切に設計されているとき、効率よく接触し、細胞膜に侵入することができるのはオンコ−ツールのこの非イオン形のみであり、少なくとも1つの陰イオン部分を含む他の形のすべてが静電的力により陰イオン細胞表面から反発を受けるので、特に関心が払われるのは非イオン形の濃度であることを理解すべきである。
【0075】
この多pHスイッチ設計戦略を用いるとき、当オンコ−ツールに用いるpHスイッチのカルボキシル部分のpKa値、当オンコ−ツールにおけるそれらのpHスイッチの数を用いて所定のオンコ−ツールの期待される有効性及び特異性係数を計算することができる。これらの計算において、有効性係数は、pH6.4で非イオン形であるオンコ−ツール分子の%である。この係数は、オンコ−ツールが腫瘍の酸性領域における細胞にどの程度効率よく侵入するかに関する尺度を与える。特異性係数は、(pH6.4における非イオン形の%)を(pH7.4における非イオン形の%)で割った比である。この係数は、正常組織(pH7.4の)中の細胞へのオンコ−ツールの侵入の割合に対する腫瘍の酸性領域(pH6.4の)における細胞へのオンコ−ツールの侵入の相対的割合に関する尺度を与える。これらの計算のために、最初にヘンダーソン−ハッセルバルク式を用いて選択されるpHスイッチについて、何%がpH6.4(腫瘍の酸性領域で達成できる)及びpH7.4(正常組織に存在する)で非イオン形であるかを計算する。次いで、二項展開を用いて、非イオン形のそれらの成分pHスイッチのすべてを有するオンコ−ツール分子の%を計算する。
【0076】
図12にa)1pHスイッチを含む組成物、b)2pHスイッチを含むオンコ−ツール、c)3pHスイッチを含むオンコ−ツール及びd)4pHスイッチを含むオンコ−ツールのそれらの成分pHスイッチのpKa値の関数としての計算有効性及び特異性係数のプロットを示す。これらの計算有効性及び特異性係数は、クロラムブシルなどの単一カルボキシル部分を含む組成物が腫瘍の酸性領域の細胞への選択的侵入のかなり不十分な特異性(特異性係数が常に10未満)を本質的に有することを示している。しかし、2つ又はそれを超えるpHスイッチを単一オンコ−ツールに組み込むことにより、計算上、実際的な有効性係数(pH6.4において非イオン形のオンコ−ツールの約5%以上)及びpKa値の適切な調節(内部酸特異的H結合に関する前の項を参照)により、オンコ−ツールの特異性係数を、単一カルボキシル組成物で可能なものと比べて多数倍増加させることができることが示唆される。特に、適切なpKa値により、特異性係数を2pHスイッチを含むオンコ−ツールについては50以上、3pHスイッチを含むオンコ−ツールについては200以上、4pHスイッチを含むオンコ−ツールについては900以上にすることができる。
【0077】
図12からわかるように、有効性係数と特異性係数の間に逆の関係がある。したがって、pHスイッチのpKaが増加するにつれて、有効性係数増加するが、特異性係数は減少する。妥当な有効性及び高い特異性の両方が癌療法で望ましいので、どのようなpKa値が有効性と特異性との妥当に最適なバランスをもたらす可能性があるかを考慮することは有用である。図12のb)における計算値に基づいて、5.9のpKaを有するpHスイッチは、2pHスイッチを含むオンコ−ツールに有効性(6%)と特異性(60)との望ましいバランスをもたらすと思われる。さらに、図12のc)における計算値は、6.2のpKaを有するpHスイッチが3pHスイッチを含むオンコ−ツールに有効性(5.8%)と特異性(277)との望ましいバランスをもたらすことを示唆する。またさらに、図12のd)における計算値は、6.4のpKaを有するpHスイッチが4pHスイッチを含むオンコ−ツールに有効性(6.3%)と特異性(915)との望ましいバランスをもたらすことを示唆する。
【0078】
これに関連して、前の項で述べたように、pHスイッチに内部酸特異的H結合を組み込むことは、これらの多pHスイッチオンコ−ツールにおけるそのような劇的に改善された特異性を得るために適切な範囲にpHスイッチのpKa値を調節する適切な手段を提供することを理解すべきである。
【0079】
前述の考察及び計算は、有効性と特異性との望ましいバランスを達成するための手段としてのオンコ−ツールのpHスイッチのpKa値を最適化すること(内部酸特異的H結合の組込みによる)に焦点を合わせたものであった(図11及び12)。しかし、オンコ−ツールの分配係数(すなわち、親油性)を増大させることは多pHスイッチオンコ−ツールの有効性と特異性とのバランスに対して同様な効果があることも理解すべきである。これは、図4に示すように、親油性のそのような増大もオンコ−ツールが細胞膜などの親油相に侵入することができるpHを上昇させる役割を果たすためである。したがって、腫瘍に対するオンコ−ツールの特異性を増大させるためのこの多pHスイッチ戦略において、オンコ−ツールの親油性を調節することにより、又はpHスイッチのpKaを調節すること(内部酸特異的H結合の組込みによる)により、又はオンコ−ツールの親油性の調節とpHスイッチ成分のpKaの調節の組合せにより、有効性と特異性とのバランスを調節することができる。
【0080】
この時点では、多pHスイッチオンコ−ツールのこれらの計算された特異性の値は、腫瘍の酸性領域において達成できるpH(pH6.4)において親油相(オクタノール又は細胞膜など)に選択的に入るが、正常組織のpH(pH7.4)においてそのような親油相に入ることを十分に避けるそのオンコ−ツールの能力を実際に反映するのかと問うことは適切である。
【0081】
この疑問に対応するために、図13のa)に示す2つのpHスイッチ成分を含む代表的な組成物を合成した。合成後、この組成物をpH5.6〜pH8.0の範囲のn−オクタノールと水性緩衝液とに分配させた。この分配実験の結果を図13のb)にプロットする。これらの結果は、pH6.4(腫瘍において達成できる)ではこの組成物の半分がオクタノール相中に分配したが、pH7.0では約2%のみがオクタノール相中に分配し、pH7.2では組成物のいずれもオクタノール相中に検出されなかったことを示している。
【0082】
図12にプロットした計算値によって示唆されるように、これらの分配結果も、2つのpHスイッチ成分を含む組成物の大部分は腫瘍の酸性領域に存在するpHにおいてその非イオン形(すなわち、オクタノール可溶形)で存在することができ、そして当組成物は正常組織に存在するpHにおいてその陰イオン形(すなわち、緩衝液可溶性)にほぼ完全に転換することができることを同様に示唆している。これは、腫瘍の酸性領域に対するオンコ−ツールの特異性を劇的に増大させるための手段として複数のpHスイッチ成分をオンコ−ツールに組み込むという新規な戦略の有用性に関する実験的裏づけを与える。
【0083】
様々な代表的な多pHスイッチオンコ−ツール構造を本明細書のA.3項で示す。
【0084】
2.積荷成分
a)構造要件
積荷成分は、その放射がオンコ−ツールの存在を報告するのに有効又は細胞を死滅させるのに有効である放射性同位体を組み込む役割を果たすオンコ−ツールの構造成分である。積荷成分は、以下の3つの設計要件を満たすべきである。
【0085】
i)その前駆体形の積荷成分は、最小限の操作により、その選択される放射性同位体を容易且つ効率よく組み込むのに有効であるべきである。
【0086】
ii)その最終形の積荷成分に結合している放射性同位体は、診断処置中、又は放射性同位体からの放射が腫瘍の細胞を殺滅している治療過程を通して、そのように結合したままであるべきである。
【0087】
iii)結合した放射性同位体を含むその最終形の積荷成分は、十分に小さく、オンコ−ツールのpH依存性親水性/親油性特性に過度の影響を及ぼさないような成分であるべきである。換言すれば、積荷成分の最終形が過度の親水性に寄与している場合、それは、腫瘍の酸性領域における細胞へのオンコ−ツールの非イオン形の侵入を抑制し、それにより、有効性を低下させることがある。逆に、積荷成分の最終形が過度の親油性に寄与している場合、それは、正常組織中の過度の捕捉を引き起こし、それにより、特異性を低下させることがある。
【0088】
積荷成分に関するこれらの要件に基づいて、F、Br、I及びAtから選択される放射性ハロゲンが最善の放射性同位体型であり、ビニル基又は単不飽和環又は単芳香環が放射性ハロゲンを結合させる最善の役割を果たすと思われる。図14に、選択される前駆体形及び診断又は治療上の使用の準備が整った最終放射性同位体含有形の多くの期待される積荷成分を示す。
【0089】
b)前駆体及び最終形
オンコ−ツールに結合させるべき選択される放射性同位体が短い半減期を有する場合、その前駆体形のオンコ−ツールを製造し、輸送し、保存し、次いで、診断又は治療すべき対象にオンコ−ツールを送達する直前に放射性同位体積荷を加えることがしばしば望ましい。様々な放射性同位体を結合させるのに適する多数の異なる構造が核医学分野で報告されているが、そのような多くの構造は、オンコ−ツールに使用するのに不適切である。図14にオンコ−ツールにおける使用の固有の要件を満たす、それらの前駆体形及びそれらの最終形のいくつかの選択される積荷成分を示す。図15に前駆体形のそのような2つの積荷成分を製造するための合成スキームを示す。これらの合成は、既に記載されているトリアルキルスズ部分を付加するための重要な反応を用いる(例えば、非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4及び非特許文献5参照)。図15に、以前に記載された(非特許文献6参照)前駆体形をそれらの最終放射性同位体含有形に変換する簡単な手順も示す。他の適切な積荷成分を製造し、放射性同位体を組み込んで、最終形を得るための手順が他所に記載されている(例えば、非特許文献7及び非特許文献8参照)。
【0090】
c)放射性同位体積荷の選択
オンコ−ツールの適用を決定するのはオンコ−ツールの結合放射性同位体であることに注意すべきである。結合放射性同位体が体外で容易に検出できるシグナルを放射するならば、当オンコ−ツールは、酸性領域を含む腫瘍を検出する機能を果たすことができる。逆に、放射性同位体が細胞を殺滅するのに有効な放射物を有するならば、当オンコ−ツールは、酸性領域を含む腫瘍の治療のために機能を果たすことができる。さらに、オンコ−ツールが、体外で容易に検出できるシグナル(例えば、ガンマ線)を放射し、細胞を殺滅するのに有効な放射物(例えば、ベータ粒子)を有するヨウ素131などの放射性同位体を含むならば、当オンコ−ツールは、酸性領域を含む腫瘍の診断及び治療のために機能を果たすことができる。
【0091】
i)腫瘍の検出用
腫瘍を検出するために用いるオンコ−ツールにおいて、対象の体外での検出に適するシグナルを発生する放射性同位体を選択するに際してかなりの許容範囲がある。診断適用に有利な特性を有する以下のような数種の放射性同位体が挙げられる。
放射性同位体 半減期
フッ素18 1.8時間
臭素75 1.7時間
臭素76 16時間
臭素77 2.4日
ヨウ素123 13時間
ヨウ素124 4日
ヨウ素125 60日
ヨウ素126 13日
ヨウ素131 8日
【0092】
ii)腫瘍の治療用
腫瘍の成功裏での治療は、2つの課題に直面する。1つの課題は、腫瘍毛細血管に近いほぼ正常なpHのすべての治療感受性迅速分裂腫瘍細胞を完全に殺滅することである。他のより近づき難い課題は、腫瘍の酸性領域における治療抵抗性休止腫瘍細胞のすべてを完全に殺滅することである。治療用オンコ−ツールは、腫瘍の酸性領域における治療抵抗性休止細胞を殺滅するための手段としてのみ最初に考案された。これは、オンコ−ツールが腫瘍の酸性領域にのみ捕捉されるように設計されており、したがって、そのようなオンコ−ツールは放射線若しくは化学療法などのより多くの従来の癌療法と併用しなければならず、従来の療法は毛細血管により近い腫瘍のより中性の領域における治療感受性迅速分裂腫瘍細胞を殺滅する役割を果たす(そのような領域にはオンコ−ツールがほとんどないため)であろうと想定されたためである。
【0093】
より最近、発明者は、オンコ−ツールのみを用いて腫瘍全体を破壊し、それにより、毒性がより高く、特異性がより低い従来の癌療法との併用治療の必要を回避することができる二重放射性同位体戦略を考案した。この二重放射性同位体戦略は、細胞を殺滅するのに有効な少なくとも2つのオンコ−ツール製剤を用いることを必要とする。
【0094】
治療抵抗性休止腫瘍細胞を殺滅するために用いるオンコ−ツール製剤は、放射性同位体を含む治療用オンコ−ツールが置かれている、又は近傍の放射線抵抗性休止腫瘍細胞のすべてを殺滅するために高線型エネルギー転移放射線を放射する放射性同位体を含むべきである。
【0095】
この要求の厳しい要件を達成するための1つの選択肢は、放出されるエネルギーがほとんどの放射線に対して高度に抵抗性である細胞でさえも殺滅するのに高度に有効であるような非常に短い距離(数細胞径)にわたって大量なエネルギーを放出するアルファ粒子を放射する放射性同位体を用いることである。この目的のための最善の放射性同位体は、放射性ハロゲンであるアスタチン211であると思われる。この放射性同位体は、アルファ粒子ビームを装着した中エネルギーサイクロトロンにおける天然ビスマス209から発生される。アスタチン211は、7.2時間の半減期を有し、放射されたアルファ粒子の約50〜80ミクロン経路長(数細胞径)以内の細胞を破壊することが示された5.87及び7.45百万電子ボルトのエネルギーを有する2つのアルファ粒子を放射する。単に数個のそのようなアルファ放射物が最も放射線抵抗性休止腫瘍細胞さえも殺滅することができる。
【0096】
高線型エネルギー転移放射線を放射する他のクラスの放射性同位体は、オーガー及び/又はコスター−クロニク電子を放射するものである。そのような放射性同位体は、殺滅すべき細胞内に置かれた場合、細胞のDNAの破壊的損傷を引き起こすことができ、したがって、細胞核に近接して局在化したとき、極度の細胞毒性を示す。治療用オンコ−ツールに特に適しているこの種の放射性同位体は、臭素77(半減期57時間)及びヨウ素123(半減期13時間)などである。
【0097】
毛細血管により近い治療感受性迅速分裂腫瘍細胞を殺滅するために用いるオンコ−ツール製剤は、治療感受性迅速分裂腫瘍細胞を殺滅するのに十分なエネルギーをそれらの経路に沿って放出する粒子を放射する1つ又は複数の放射性同位体を含むべきである。より重要なことに、粒子を放射するものは、それらが、オンコ−ツールが捕捉されている酸性領域から数百ミクロンまで及び得る腫瘍のより中性の領域における治療感受性迅速分裂腫瘍細胞を殺滅することを可能にする、オンコ−ツールが捕捉されている場所から数百ミクロンまでの細胞に対して有効である十分に長い経路長を有さなければならない。ベータ放射放射性同位体は、この要件を最もよく満たしている。この二重同位体療法戦略に用いることができる多くのベータ放射放射性同位体は存在するが、以下の放射性ハロゲンは、600ミクロンを超える平均経路長を含む、この適用に対して有利な特性を有する。
放射性同位体 半減期
臭素82 36時間
臭素83 2.4時間
ヨウ素126 13日
ヨウ素130 12時間
ヨウ素131 8日
ヨウ素132 2.3時間
ヨウ素133 21時間
ヨウ素135 7時間
【0098】
オンコ−ツールを腫瘍の酸性領域における休止細胞を殺滅するためにのみ用い、より高いpHを有する腫瘍の他の領域における迅速分裂腫瘍細胞を殺滅するのに有効な従来の癌療法と併用する治療法と比べて、オンコ−ツールのみを腫瘍全体を殺滅するために用いる、この新たな二重放射性同位体オンコ−ツール療法戦略は、より簡単で、より費用がかからず、はるかに毒性が低く、はるかに有効な治療を提供するであろう。
【0099】
3.オンコ−ツールの構造
a)構造要件
各オンコ−ツールは、2つ又はそれを超えるpHスイッチ成分を含まなければならない。現行の癌療法(特異性は一般に約2〜8の範囲にあると推定される)によって一般にもたらされるより実質的に大きい(少なくとも20以上、好ましくは40以上)特異性を達成するためには、この「2つ又はそれを超える」要件は必須である。さらに、各オンコ−ツールは、pH7.4でほぼ完全に陰イオン親水形で存在するが、pH6.4ではかなりの部分(好ましくは1%又はそれを超える)が腫瘍の酸性領域に捕捉されるのに有効な非イオン親油形に転移するような構造を有さなければならない。各オンコ−ツールはまた、放射性同位体に結合するのに有効である、或いはオンコ−ツールの存在を報告するのに適し、且つ/又は細胞を殺滅するのに適する放射性同位体を含む積荷成分を含まなければならない。
【0100】
以下の3つの項で、2つ、3つ及び4つのpHスイッチを含むオンコ−ツールについて述べる。そのようなオンコ−ツール構造については、成分の選択される組合せには、十分な有効性及び有効性と特異性との望ましいバランスを達成するために、一般にR基の最適化を必要とする。R基のそのような最適化の手順は、本明細書における後のB項並びに当項に関連する図及び実施例で述べる。
【0101】
b)2pHスイッチを含むオンコ−ツール
これらのオンコ−ツールは、最も単純な構造を有し、一般に合成するのが最も容易である。それらは、一般に潜在的に約20〜約80の範囲にある特異性係数を有する。図16にオンコ−ツールの重要な構造要件を満たす様々な代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す。図16aに2つの単純pHスイッチを含むオンコ−ツールを示す。図16bに2つの高度pHスイッチを含むオンコ−ツールを示す。図16cに低バリアH結合を形成するように設計された2つの高度pHスイッチを含むオンコ−ツールを示す。
【0102】
c)3pHスイッチを含むオンコ−ツール
3pHスイッチを含むオンコ−ツールは、上述の2pHスイッチオンコ−ツールより複雑であり、一般に合成するのにより困難である。しかし、3pHスイッチオンコ−ツールは、潜在的に約100〜約500の範囲にあるかなりより高い特異性係数をもたらすという利点を有する。図17にオンコ−ツールの重要な構造要件を満たす様々な代表的な3pHスイッチオンコ−ツールを示す。図17のa)に3つの高度pHスイッチを含むオンコ−ツールを示し、図17のb)に低バリアH結合を形成するように設計された3つの高度pHスイッチを含むオンコ−ツールを示す。
【0103】
d)4pHスイッチを含むオンコ−ツール
4pHスイッチを含むオンコ−ツールは、上述の3pHスイッチオンコ−ツールよりさらに複雑であり、一般に合成するのにより困難である。しかし、4pHスイッチオンコ−ツールは、潜在的に約400〜約2500の範囲にあるより高い特異性係数の可能性を有する。図18にオンコ−ツールの重要な構造要件を満たし、低バリアH結合を形成するように設計された4つの高度pHスイッチを含む2つの代表的なオンコ−ツールを示す。
【0104】
B.成分及びオンコ−ツールの合成、試験及び最適化
1.代表的なpHスイッチを含む構造の調製
新たなオンコ−ツール型の開発を始める前に、最初に様々なpHスイッチ型、並びにR基の変形形態が広範囲の親油性を構造に付与する役割を果たす、型内の変形形態を調製し、その特性を評価することが一般に望ましい。
【0105】
a)単純pHスイッチ
図19にR基を変化させることにより調整された親油性を有する単純pHスイッチを含むオンコ−ツール構造の代表的な合成経路を示す。
【0106】
b)高度pHスイッチ
図20にR1基を変化させることにより調整された親油性を有する高度pHスイッチ型を含む構造の合成経路を示す。
【0107】
c)低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチ
図21及び22に低バリアH結合を形成するように設計された多くの高度pHスイッチ型を含む構造の合成経路を示す。
【0108】
図21にpHスイッチの調製及びオンコ−ツールの調製のための有用なアミンエステル及びケトンエステル中間体を示す。そのような中間体の重要な中核成分の調製のための合成手順は既に報告されている(例えば、非特許文献9及び非特許文献10参照)。
【0109】
図22にそのようないくつかの中間体を、内部酸特異的低バリアH結合を形成するように設計された様々なpHスイッチに変換するための代表的な合成経路を示す。
【0110】
2.pHスイッチの試験
単純滴定試験は、pHスイッチ構造のpH依存性溶解特性並びにそれらのpKa値に関する有用な情報を提供する。実施例7でpHスイッチ成分を試験するのに用いた滴定手順を述べる。図23に様々な過去の滴定の代表的な結果を示す。
【0111】
図23aに単純カルボン酸(酪酸)及び高度pHスイッチ(ショウノウ酸の酸アミド誘導体)についてメタノール/水(1:1容積比)中で滴定を行った通常の滴定曲線を示す。片方のプロットには、同じ滴定結果をより多くの情報を与える一次導関数の形でプロットする。
【0112】
図23bに滴定を水中で行い、各化学種が33ミリモル濃度で存在していた場合の通常の滴定曲線を示す。滴定結果は、R基のみが異なっている3つの関連2pHスイッチオンコ−ツール(しかし放射性ヨウ素の代わりに安定ヨウ素を含む)について示す。滴定結果は、R基がメチルである関連3pHスイッチ構造についても示す。
【0113】
図23cに低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチについて一次導関数としてプロットした滴定曲線を示す。この滴定は水中で行い、ショウノウ酸から誘導されたN−オキシド/酸構造を含むpHスイッチが5ミリモル濃度で存在していた。
【0114】
図24にショウノウ酸から誘導されたアミド/酸高度pHスイッチ、イソニポコチン酸から誘導された低バリアH結合を形成するように設計されたN−オキシド/酸高度pHスイッチ、及びショウノウ酸から誘導された低バリアH結合を形成するように設計されたN−オキシド/酸高度pHスイッチ(図10のc)の構造i及び図23cに示す構造としても示す)を含む3つのpHスイッチ構造の実験的に決定したpKa値を示す。
【0115】
3.代表的なオンコ−ツールの調製及び最終形への変換
a)単純pHスイッチを含むオンコ−ツール
図19に単純pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールを調製するための合成経路を示す。
【0116】
b)高度pHスイッチを含むオンコ−ツール
図25に高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す。図25aにその2つのpHスイッチがジアシルヒドラジド構造により接合されているオンコ−ツールを示す。図25bにその2つのpHスイッチがジアミド構造により接合されているオンコ−ツールを示す。
【0117】
c)低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含むオンコ−ツール
図26に低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す。
【0118】
図26aに単一N−オキシド部分が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプター部分としての役割を果たす2pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す。図26bにヒドラジン部分の窒素の両方が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプター部分としての役割を果たす2pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す。図26cにシアノメチルアミン部分がカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプター部分としての役割を果たす2pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す。図26dに各N−オキシド部分が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプター部分としての役割を果たす4pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す。
【0119】
低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含むオンコ−ツールの前述の合成において、図21の構造b、d及びfのようなケトン/エステル中間体を用いて、アミン部分が図21の構造a、c及びeのようなエステル部分に対してシスであるアミン/エステルを還元的にアルキル化するとき、得られる2pHスイッチ生成物が一般に2つの異性体を含み、1つはpHスイッチ成分の両方がアミン及びエステルに対してシスであり、他の生成物はpHスイッチ成分の1つがアミン及びエステル部分に対してシスであり、pHスイッチ成分の1つがトランスであることに注意すべきである。そのような場合、所望のシス/シス生成物を精製し、シス/トランス生成物を捨てることが望ましい。これを遂行する1つの方法は、トランスpHスイッチ成分は内部酸特異的低バリアH結合を形成することができないという事実を活用することである。その結果として、そのpKaは水溶液中で一般に約5.0となる。これに対して、シスpHスイッチ成分は一般に所望の内部酸特異的低バリアH結合を形成することができ、これにより、含まれるカルボキシル部分のpKaは約6.0以上に上昇する。その結果として、エステル部分を開裂させてカルボキシル部分を得た後に、テトラヒドロフラン、t−ブチルメチルエーテル又はジクロロメタンなどの有機相と約6.0に緩衝された水相とに分配することにより、所望のシス/シス形が望ましくないシス/トランス形から一般に容易に分離されるはずである。そのような分配システムにおいて、所望のシス/シス形は、一般に有機相中に優先的に分配されるが、望ましくないシス/トランス形は水性緩衝相中に優先的に分配されるはずである。
【0120】
同じ基本的分離戦略を用いて、少なくとも1つのトランスpHスイッチを含む複数の形から図26dの4pHスイッチオンコ−ツールの所望の全シス形を分離することもできる。
【0121】
4.オンコ−ツールの試験及び最適化
以下の情報源は、有効且つ特異的なオンコ−ツールを設計し、開発するための出発点として役立つ。図12における有効性及び特異性プロットは、選択されるオンコ−ツールに含まれるpHスイッチ成分の数の関数としてのpHスイッチ成分の望ましいpKa値に関する指針を提供する。図4は、pHスイッチ成分のR基の親油性を変化させることにより分配係数を一般に調節するという、オンコ−ツールの非イオン形の分配係数の変化の影響に関する指針を提供する。さらに、上のB.1.項及びB.2.項で述べたそれらのpHスイッチの後の滴定試験で述べたような様々な期待されるpHスイッチ型及びそれらのR基変異体の合成は、期待されるオンコ−ツールの適切なpHスイッチ成分を選択するための有用な情報を提供する。最後に、図14にオンコ−ツールへの組込みに適する多くの積荷成分を示す。
【0122】
成分部分に関する前述の情報は有効且つ特異的なオンコ−ツールの設計及び開発のための有用な基礎を提供するが、それにもかかわらず、それらの成分部分が放射性同位体を含む形の期待されるオンコ−ツールに組み込まれたならば、十分な有効性及び有効性と特異性との望ましいバランスを達成するために、当オンコ−ツール構造を最適化することが一般に必要である。
【0123】
a)反復最適化工程:培養細胞中の合成及び試験。好ましい最適化工程は、以下を必要とする。
【0124】
i)親油性が異なる一組のオンコ−ツールを調製する
最適化工程は、該組のオンコ−ツールが異なるR1及びR2基を含むため広範囲の親油性を示す、選択される成分を組み込んだ一組の期待されるオンコ−ツール構造を調製することによって開始する。該組の各オンコ−ツールは、生物学的系における容易な検出及び定量を可能にするヨウ素131などの適切な放射性同位体も含むべきである。
【0125】
ii)pH6.4及びpH7.4における培養細胞への侵入を評価する
それらの期待されるオンコ−ツール構造のそれぞれを、期待されるオンコ−ツールを生存対象において遭遇する主要な生物学的環境及び構造に曝露させる、比較的単純な生物学的系内での試験に供するべきである。実施例8で述べるように、そのような最初の試験用の好ましい生物学的系は、正常組織を模倣するためにpH7.4で緩衝し、また腫瘍の酸性領域を模倣するためにpH6.4で緩衝した血清含有培地中で培養した哺乳動物細胞を含む。その概要を述べると、培養細胞の2つの異なるウェルを所定のオンコ−ツールに1時間曝露させる。1つの培養ウェルにおいてはオンコ−ツールをpH6.4の培地中に入れる。他の培養ウェルにおいてはオンコ−ツールをpH7.4の培地中に入れる。37℃で1時間インキュベートした後、オンコ−ツールを含む培地を除去し、細胞を同じpHの培地で徹底的に洗浄し、次いで、細胞により保持された放射性同位体を計数して、2つのpH条件のそれぞれのもとで捕捉されたオンコ−ツールの相対量の尺度とする。
【0126】
好ましいオンコ−ツール構造は、pH6.4において細胞により最大限に捕捉されるが、pH7.4において細胞により最小限に捕捉されるものである。
【0127】
上の2つの最適化ステップの最初の適用は、容認できる有効性(pH6.4で捕捉される量に関連する)及び特異性(pH6.4で捕捉される量/pH7.4で捕捉される量の比に関連する)の値を与える合理的に狭い範囲のオンコ−ツールの親油性を特定するのに一般に役立つはずである。或いは、そのような最初の試験はそれよりもむしろ、選択されるオンコ−ツール成分は不十分であり、異なるpHスイッチ成分及び/又は異なる積荷成分をその期待されるオンコ−ツール構造に用いるべきであることを示すのに役立つ可能性がある。
【0128】
iii)必要に応じて上のステップを繰り返す
漸進的により狭い構造範囲内でのさらなる最適化サイクルは、さらにより良好なオンコ−ツール活性につながる可能性がある。
【0129】
b)正常マウスにおける体内運命を評価する
上の細胞培養試験は、比較的迅速で、簡単であり、定量的な結果をもたらすので、かなり多くの期待されるオンコ−ツール構造の最初の試験に適用できる。しかし、この最初の細胞培養スクリーニングシステムは生存対象の実際の複雑さを完全に模擬するものでないことを認識すべきである。したがって、次に妥当な数の最も有望なオンコ−ツール構造を選択し、上の反復最適化工程で特定し、それらを生存哺乳動物において試験することが望ましい。そのような動物試験における最初のステップとして、実施例9で述べるように、これらの有望なオンコ−ツール構造を正常マウス(それらの尿がわずかに塩基性であることを保証するために前処置した、下のC.7.項参照)において試験することが有用である。正常マウスにおけるそのような試験は、正常組織に対する過度の親和性を示すことが認められるオンコ−ツールを捨てることを可能にする。
【0130】
c)担腫瘍マウスにおける体内運命を評価する
正常無腫瘍マウスにおける上の比較的簡単な試験は正常組織に対する過度の親和性を有するオンコ−ツールを捨てることを可能にするが、期待されるオンコ−ツール構造のより決定的な試験は、実施例10で述べるように、担腫瘍マウスにおいてそれを試験することである。概要を述べると、これは、ヨウ素131を含むオンコ−ツールのそれぞれを数匹の担腫瘍マウスに注射(好ましくは静脈内)し、次いで、マウスの組織及び/又は腫瘍中に捕捉されない投与量の一部の腎臓による正常な排泄を可能にするために適切な期間(5〜24時間程度)待つ。次いで、マウスを屠殺し、主要臓器及び明らかな腫瘍を摘出した後、摘出した臓器、腫瘍及び残りの死体部分からの放射線の放射を定量する。
【0131】
オンコ−ツールは、2つの補助的な方法を用いるときに最善の機能を示す。そのような1つの方法は、腎臓の近位尿細管の内層の細胞へのオンコ−ツールの再取込みを防止するためにマウスを前処置することを必要とする。この再取込みは、下のC.7.項で述べるように、尿をわずかに塩基性にすることにより阻止される。他の方法は、腫瘍の低酸素/酸性領域における酸性度をさらに増大させる(pHを低下させる)ためにマウスを前処置することを必要とする。この目的のための3つの前処理は、本明細書における後のC.5.項で述べる。有効且つ特異的オンコ−ツール活性に最もよく適合するように腫瘍の微小環境を調節するために、少なくとも1つ、また好ましくは2つ又は3つのそのような前処置の組合せを用いるべきである。
【0132】
d)前臨床及び臨床試験
ヒトを含む生存動物における放射性同位体含有物質を試験する手順は、核医学分野及び特に放射免疫療法の下位分野においてよく知られている。そのような既知の方法は、下のC.項で述べるオンコ−ツールを用いる方法を組み込むことによってオンコ−ツールの試験に容易に適応させることができる。
【0133】
C.オンコ−ツールを用いる方法
1.診断方法
オンコ−ツールは腫瘍のほぼ普遍的な特性である酸性を活用するので、オンコ−ツールは、ほぼ顕微鏡的サイズから非常に大きいサイズにまで及ぶサイズのほとんど又はすべての種類の腫瘍を検出するのに有効であるはずである。腫瘍を検出するためにオンコ−ツールを用いる以下の方法は、多くの研究適用並びに獣医学及びヒト医療に適している。診断方法は、一般に以下のステップを含むが、それらに限定されない。
【0134】
ステップ1.オンコ−ツールの前駆体形を腫瘍内のその存在を生存対象の体外の検出器に報告するのに有効である適切な放射性同位体と接触させることにより、又はそのような放射性同位体を既に含む診断用オンコ−ツールの最終形を供給業者から直接入手することにより、その最終形の診断用オンコ−ツールを準備する。
【0135】
ステップ2.診断用オンコ−ツールを一般に静脈内注射により対象体内に投与する。
【0136】
ステップ3.オンコ−ツールが存在する可能性がある腫瘍の酸性領域に捕捉されるための適切な期間(例えば、約10分から約50分)待つ。腫瘍の酸性領域に捕捉されなかったオンコ−ツール投与量のその部分の大部分の腎臓を経ての排泄のためにさらなる時間(数時間)待つことによって、かなり増大した感度を得ることができる。このさらなる時間待つことは、正常組織からのバックグラウンドシグナルを著しく低下させるのに役立ち、かなり小さい腫瘍の検出を可能にする。これについて、数時間にわたってオンコ−ツールの注射量の大部分が腎臓により排泄され、1つ又は複数の腫瘍が存在する場合、オンコ−ツールの有意な保持のみが起る。一般に腫瘍を有さない被験者において、オンコ−ツールの大部分は24時間未満、またおそらく約4時間未満に排泄されるであろうことが予想される。非捕捉オンコ−ツールの排泄の速度は、特に液体が利尿薬を含む場合、被験者の液体摂取を増加させることによって増大させることができる。
【0137】
ステップ4.診断方法における最終ステップは、有意なオンコ−ツールが1つ又は複数の腫瘍に捕捉されたかどうかを評価するために、オンコ−ツールの放射性同位体成分からの放射を検出するのに適する装置により被験者をスキャンすることである。ガンマ線スキャナ及びPETスキャナなどの現代の撮像装置により、腫瘍は、各腫瘍の部位の明らかな放射性同位体ホットスポットとして見える。
【0138】
2.治療方法
オンコ−ツールは腫瘍のほぼ普遍的な特性である酸性を活用するので、オンコ−ツールは、ほぼ顕微鏡的サイズから非常に大きいサイズにまで及ぶサイズのほとんど又はすべての種類の腫瘍を治療するのに有効であるはずである。腫瘍を治療するためにオンコ−ツールを用いる以下の方法は、多くの研究適用分野並びに獣医学及びヒト医療に適している。治療方法は、一般に以下のステップを含むが、それらに限定されない。
【0139】
a)単一放射性同位体法
対象が1つ又は複数の腫瘍を有することが認められた場合、それらの腫瘍は、細胞を殺滅するのに有効な放射性同位体を含む単一治療用オンコ−ツールを用いて治療することができる。該治療方法は概ね、以下の2つのステップを含むが、それらに限定されない。
【0140】
ステップ1.細胞を殺滅するのに有効な放射性同位体を含むその最終形の治療用オンコ−ツールを準備する。これは、オンコ−ツールの前駆体形を適切な放射性同位体と接触させることにより、又はそのような放射性同位体を既に含む治療用オンコ−ツールの最終形を供給業者から直接入手することにより、行うことができる。
【0141】
ステップ2.治療用オンコ−ツールを対象に一般に静脈内注射により投与する。
【0142】
この治療法において、細胞を殺滅するのに有効な放射性同位体は、その放射物がアルファ粒子などの高線型エネルギー転移を有するものか、又はベータ粒子を放射するものであり得る。アルファ放射放射性同位体アスタチン211などの高線型エネルギー転移放射物を有する放射性同位体を用いることの特別の利点は、腫瘍の酸性領域における休止細胞を殺滅することに関してベータ放射放射性同位体よりかなり有効であることである。しかし、そのような放射性同位体を含むオンコ−ツールを用いることについては、それらの放射物は一般にかなり短い経路長(例えば、80ミクロン以下)を有する。したがって、毛細血管に近いより正常なpHの領域における迅速分裂腫瘍細胞の破壊も保証するために、そのようなオンコ−ツールを従来の癌療法と併用することが必要であると思われる。さらに、好ましいアルファ放射体であるAt−211は短い半減期(7時間)を有し、したがって、この放射性同位体又はこの放射性同位体を含むオンコ−ツールを発生場所からかなりの距離を輸送することは、問題になり得る。さらに、At−211はアルファビーム可能出力を有するハイエンドサイクロトロンで発生させなければならず、現在のところ、そのような装置が利用可能な比較的少数の施設が存在するにすぎない。
【0143】
別の単一放射性同位体法は、ベータ放射放射性同位体を含む治療用オンコ−ツールを準備することを必要とする。ベータ放射は腫瘍の酸性領域における休止細胞を殺滅することに関してアルファ放射より著しく有効性が低いが、ベータ放射のこのより低い有効性は、はるかに大きい線量を用いて補償することができる。このはるかに大きい線量は、特異性をいくぶん損なうが、それにもかかわらず、オンコ−ツールにより達成可能な腫瘍に対する例外的に高いレベルの特異性のため、容認できる治療結果をもたらす可能性を有する。これについて、ベータ放射体であるヨウ素131は、次のいくつかの有用な特性を有する。すなわち、適度な価格で大量に入手可能であり、半減期が比較的長い(8日)ため、使用前に輸送し、妥当な期間保存することができ、中程度の平均経路長(約900ミクロン)を有するにすぎないが、捕捉されたオンコ−ツールが比較的欠けている毛細血管の近くの中性pHにより近い領域における迅速分裂腫瘍細胞を含む、腫瘍全体の細胞を殺滅するのに十分である。
【0144】
b)二重放射性同位体法
本明細書において先に述べたように、高線型エネルギー転移放射物を有する放射性同位体は、腫瘍の酸性領域における放射線抵抗性休止細胞を殺滅するのに最適であるが、そのような放射物の短い経路長が、pHが中性により近い毛細血管に近い腫瘍の遠位領域における迅速分裂細胞を殺滅することに関してそのような放射性同位体を含むオンコ−ツールを逆に無効にしている。その理由は、そのような領域は捕捉されたオンコ−ツールが比較的欠けているからである。
【0145】
逆に、ベータ放射放射性同位体を含むオンコ−ツールは、腫瘍の放射線抵抗性休止細胞に対して比較的無効であるが、オンコ−ツールが腫瘍の酸性領域にのみ存在するときでさえ、pHが中性により近い腫瘍の領域における放射線感受性迅速分裂細胞を殺滅するのにかなり有効であり得る。これは、ベータ粒子のより大きい経路長がそれらを、より感受性の高い腫瘍細胞に到達させ、殺滅させるためである。
【0146】
したがって、腫瘍を治療する好ましい方法は、2つの治療用オンコ−ツールを組み合わせて用いることであり、1つのオンコ−ツールは、腫瘍の酸性領域における近位放射線抵抗性休止細胞を殺滅するための高線型エネルギー転移放射物を有する放射性同位体(好ましくはアスタチン211、臭素77及びヨウ素123から選択される)を含み、もう1つのオンコ−ツールは、捕捉されたオンコ−ツールが比較的欠けている毛細血管の近くのより高いpHの領域における遠位の放射線感受性迅速分裂腫瘍細胞を殺滅するためのベータ放射放射性同位体を含む。
【0147】
3.腫瘍を検出し、治療する包括的方法
オンコ−ツールは、ほとんど又はすべての種類及びほぼ顕微鏡的サイズから非常に大きいサイズにまで及ぶサイズの腫瘍を検出し、治療することができるという非常に望ましい特性がある。診断用及び治療用オンコ−ツールは本質的には同じであり得る(一般に含まれる放射性同位体のみが異なるが)ので、一般に所定のオンコ−ツール構造が腫瘍を検出するのに有効であるならば、その同じオンコ−ツール構造(一般に含まれる放射性同位体のみが異なるが)が同じ腫瘍を治療するのに有効であるはずである。オンコ−ツールのこれらの特殊な特性は、生存対象における腫瘍を検出し、続いて、そのように検出された腫瘍を治療する包括的な方法を容易にする。この包括的な方法は、獣医学及びヒト医療の両方に適している。それは、以下を含むが、それらに限定されない。
【0148】
a)腫瘍の検出
ステップ1.最初のステップは、腫瘍内のオンコ−ツールの存在を生存対象の体外の検出器に報告するのに有効な放射性同位体を含む最終形の診断用オンコ−ツールを準備することである。
【0149】
ステップ2.次のステップは、診断用オンコ−ツールを一般に静脈内注射により対象に投与することである。
【0150】
ステップ3.その後のステップは、オンコ−ツールが存在する可能性があるあらゆる腫瘍の酸性領域に捕捉されるために適切な期間待つことである。このステップは、腫瘍の酸性領域に捕捉されなかったオンコ−ツールの用量のほとんどが腎臓を経て排泄されるためにさらなる時間待つことも含む可能性がある。この期間中に、対象に、腫瘍の酸性領域に捕捉されなかったオンコ−ツールの用量のその部分の排泄を増大させるために、液体、特に利尿薬を含む液体を与えてもよい。
【0151】
ステップ4.検出過程における最後のステップは、有意なオンコ−ツールが1つ又は複数の腫瘍に捕捉されたかどうかを評価するために、オンコ−ツールの放射性同位体の放射を検出するのに適した装置で対象をスキャンすることである。ガンマ線スキャナ及びPETスキャナなどの現代の撮像装置により、腫瘍は、各腫瘍の部位の明らかな放射性同位体ホットスポットとして見えるはずである。
【0152】
ステップ4で1つ又は複数の腫瘍が検出された場合、検出された腫瘍を治療することに移る。
【0153】
b)検出された腫瘍の治療
ステップ5.検出された腫瘍を治療するために、1つ又は複数の治療用オンコ−ツールを準備する。これはベータ放射放射性同位体を含む単一オンコ−ツールであってよいが、1つは高線型エネルギー転移放射線を放射する放射性同位体を含み、他はベータ放射放射性同位体を含む、2つ又はそれを超えるオンコ−ツールを準備することが一般に好ましい。
【0154】
ステップ6.1つ又は複数の準備されたオンコ−ツールを一般に静脈内注射により対象に投与する。
【0155】
4.微小転移巣に対処するための戦略
腫瘍が実質的なサイズ(1cm以上など)に達したとき、腫瘍は、単一腫瘍細胞又は腫瘍細胞の非常に小さい凝集体が親腫瘍から放出され、それらの放出された細胞が体内の遠隔部位でコロニー形成することができるという転移を一般に始める。微小転移巣と呼ばれるこれらの細胞のコロニーは、新たな子孫腫瘍に成長することができる。これがオンコ−ツール治療方法に対してもたらす困難は、微小転移巣の形成の時点とそのような微小転移巣がそれら自体の酸性領域を発生するのに十分なサイズ(直径が約1mm)に成長するまでの時間との間の期間においては、それらのミリメートル未満の子孫腫瘍は、一般にオンコ−ツールによって検出又は殺滅することができない。したがって、酸性領域を含む親腫瘍はオンコ−ツールによって検出し、破壊することができるが、直径が約1mm未満の子孫微小転移巣は、オンコ−ツール治療で残存し、最終的に再発をもたらす(そのような再発は最初のオンコ−ツール療法後数年間は起らない可能性があるが)。
【0156】
この微小転移巣の問題を解決するための戦略は、存在し、最初の治療で残存する可能性のあるような微小転移巣が酸性領域を発生するサイズ(一般に直径が約1mm)に成長するのに十分な最初のオンコ−ツール療法(上の第3項におけるステップ5及び6)の後の期間待つことである。逆に、それらの子孫微小転移巣は、それらも転移を始めるはるかに大きいサイズ(おそらく直径が1cm程度)に成長させるべきでない。最初のオンコ−ツール療法を免れた可能性のある微小転移巣がこの適切なサイズ範囲(酸性領域を含むのに十分に大きいが、転移を始めるほど大きくない)に入ったならば、オンコ−ツール検出及び治療過程(上の第3項のステップ1〜6の繰返し)を再び行う。
【0157】
上の戦略における複雑化の要因は、腫瘍が広範囲の成長速度を示すことであり、したがって、最初の療法を免れた可能性のある微小転移巣が酸性領域を含むサイズに達するのにどれほどの時間を要するのかを予測することが困難である。したがって、賢明な針路は、微小転移巣が最初のオンコ−ツール療法における破壊を免れ、次に、そのような微小転移巣が酸性領域を発生するのに十分なサイズに成長し、その後の反復診断処置(上のステップ1〜4の繰返し)の1つにおいて検出されるかどうかを実際的に確認するために十分な期間(おそらく4〜6年間)にわたり継続して上の診断ステップ1〜4を適切な間隔(おそらく1年に1回)で繰り返すことである。反復診断処置の1つが1つ又は複数の腫瘍を検出する場合、患者を上のステップ5及び6により再び治療する。そのような第2の治療は、最初のオンコ−ツール治療中に微小転移巣の形で免れた可能性があるあらゆる子孫腫瘍を完全に破壊し、それにより、最初の腫瘍とそのすべての子孫を患者から完全に除去する高い可能性があることはあり得ると思われる。
【0158】
5.有効性及び特異性の増大のために腫瘍におけるpHを低下させるために処置する
腫瘍の酸性領域に対するオンコ−ツールの有効性及び特異性は、腫瘍の酸性領域と正常組織とのpHの差の強い関数である。したがって、正常組織におけるpHの付随する低下なしに、自然の条件で認められるよりも腫瘍の酸性領域におけるpHを選択的に低下させることができるならば、これは、オンコ−ツールの診断適用におけるより大きい感度並びに治療適用におけるより大きい有効性及び特異性をもたらすこととなる。
【0159】
過去半世紀にわたり、多くの処置が腫瘍におけるpHを変化させる(あるものはpHを上昇させ、あるものはpHを低下させる)ことが報告された。診断用及び治療用オンコ−ツールの場合には、問題となる正常組織におけるpHの付随する低下なしに、腫瘍におけるpHを選択的に低下させることが処置である。以下は、腫瘍におけるpHを選択的に低下させることが報告されたそのような3つの処置である。
【0160】
a)担腫瘍動物へのグルコースの導入は、正常組織における間隙のpHにほとんど又はまったく影響を及ぼさずに、一般に約2〜3時間の期間中、腫瘍の低酸素領域における間隙のpHを低下させるように作用することが長年知られている(例えば、非特許文献11参照)。グルコースのさらなる経口摂取により、腫瘍におけるpHがそのように低下した状態に留まる時間を著しく延長させることができる。
【0161】
b)腫瘍の酸性領域におけるpHは、ミトコンドリア阻害剤であるメタヨードベンジルグアニジンの投与によって、再び明らかに正常組織におけるpHに不適切な影響を与えることなく、さらに低下させることもできる(例えば、非特許文献12参照)。
【0162】
腫瘍の酸性領域におけるpHをグルコースとメタヨードベンジルグアニジンとの併用によって0.7pH単位と大きくさらに低下させることができることも報告された(例えば、非特許文献13参照)。
【0163】
c)さらに、腫瘍の酸性領域におけるpHは、高血圧を有する人を治療するのにルーチンに用いられている血管拡張薬によってさらに低下させることができる(例えば、非特許文献14参照)。腫瘍の異常な血管系は一般に血管収縮筋細胞及びそれらの神経線維を欠いているので、そのような薬剤はおそらく有効であると考えられる。したがって、対象に血管拡張薬を投与するとき、血流に対する抵抗は、腫瘍においては変化しないが、正常組織では低下する。血管拡張薬のこれらの異なる影響は、正常組織を通しての著しくより大きい血流量及び腫瘍を通しての血流量の付随する低下をもたらす。ひいては、腫瘍を通してのこの低い血流量は、腫瘍の低酸素領域における腫瘍細胞によって産生された乳酸のウォッシュアウトをおそらく減少させ、腫瘍の酸性領域における観察される血管拡張薬媒介性のpHの低下をもたらすと考えられる。
【0164】
腫瘍の酸性領域におけるpHをさらに低下させるためのそのような処置、好ましくは2つ又はそれを超えるそのような処置の組合せは、腫瘍の今やより酸性の領域におけるオンコ−ツールの捕捉を増加し、また、オンコ−ツールを捕捉するのに十分に酸性である腫瘍の領域の増加をもたらすはずである。これらの効果の両方が、オンコ−ツールの有効性及び特異性を増大させる役割を果たす。
【0165】
腫瘍をより酸性にすることは、より低いpKa(オンコ−ツールの特異性の著しい増大をもたらし得る)を有するpHスイッチを含むオンコ−ツールを使用することも可能にする。
【0166】
6.有効性及び特異性を高めるためにpKaが異なる複数のオンコ−ツールを使用する
腫瘍における酸性度の報告された実験的測定は、腫瘍毛細血管に近い約7.0からの範囲のpHの勾配及び腫瘍毛細血管からの距離の増加に伴う低下を示し、約6.0と低い値が腫瘍毛細血管から最も遠い領域について報告された。広い範囲のpH値を有する腫瘍については、あまりにも高いpKaを有する治療用オンコ−ツールは、腫瘍毛細血管から最も遠い腫瘍の最低pH領域に到達するのに不十分なオンコ−ツールが残存するような程度まで、腫瘍毛細血管に近いわずかに酸性の領域における細胞に速やかに侵入するという可能性がある。或いは、あまりにも低いpKaを有する治療用オンコ−ツールは、腫瘍における毛細血管により近いわずかに酸性の領域にあまりにも不十分に捕捉され、それにより、そのような領域の不十分な治療につながる可能性がある。腫瘍内の広いpH範囲に対処するための1つの戦略は、2つ又はそれを超えるオンコ−ツールの組合せを用いることであり、より高いpKaを有する1つのオンコ−ツールは毛細血管により近い腫瘍のより高いpH領域において最大限に有効であり、より低いpKaを有する他のオンコ−ツールは毛細血管からより遠い腫瘍のより低いpH領域において最大限に有効であるというものである。オンコ−ツールのそのような組合せを用いる根拠は、より高いpKaを有するオンコ−ツールが毛細血管に近い領域に主として捕捉されることができ、毛細血管からより遠いより低いpHの領域への到達のために利用可能なものがほとんど残存していないということである。逆に、より低いpKaを有するオンコ−ツールは、毛細血管に近いより高いpHの領域に不十分に捕捉され、したがって、それらを効果的に捕捉させることができる毛細血管からより遠いより低いpHの領域への拡散に利用可能な状態に留まる。したがって、合わせて考えると、低pKa及び高pKaオンコ−ツールのそのような組合せは、腫瘍の完全な破壊をよりよく達成するはずである。
【0167】
7.腎臓の損傷を防ぐために尿中pHを上昇させるために処置する
腎臓の機能の1つは、体内のpHを7.4に非常に近い値に維持することである。この機能を果たすために、腎臓は、適度に塩基性からかなり酸性までの尿を排泄することができる。この過程において、物質は腎臓の糸球体において血液からろ過され、その後、当物質(尿に溶解した)は近位尿細管を通り、そこで、糸球体において排泄された重要な成分は近位尿細管の内層表面の細胞により再吸収される。尿がこの箇所において酸性である場合、この酸性環境中のオンコ−ツールは、オンコ−ツールが酸性細胞外環境から腫瘍細胞に侵入するように、腎臓の近位尿細管の内層表面の細胞に結合し、侵入する能力を有する。換言すれば、排泄される尿が十分に酸性である場合、オンコ−ツールは、その非イオン性親油形に転換する。親油形へのその転換が、腎臓の近位尿細管の内層表面の細胞の場合のように、尿が細胞膜と直接接触している領域で起る場合、オンコ−ツールはそのような細胞に侵入することができる。診断用オンコ−ツールの場合、近位尿細管の内層表面の細胞へのオンコ−ツールのこのような侵入は、腎臓の近く又は腎臓における腫瘍を不明瞭にする可能性がある、腎臓から発する過剰なシグナルの原因となり得る。治療用オンコ−ツールの場合、近位尿細管の内層表面の細胞へのオンコ−ツールのこのような侵入は、近位尿細管の内層表面の細胞を殺滅するとなり得る(これにより腎臓が実質的に無機能になる)。
【0168】
幸運にも、対象の尿のpHをオンコ−ツールによる診断又は治療を行うのに十分な時間にわたり上昇させるための医療技術分野においてよく知られている方法が存在する。非捕捉オンコ−ツールの大部分が腎臓により排泄されている期間中に尿をわずかに塩基性のpHに維持するための適切な薬物を用いることにより、尿中に排泄される当オンコ−ツールは、その陰イオン親水形に留まり、排尿により身体から安全に排出される。尿を塩基性にするための1つの安全且つ有効な物質は、炭酸脱水酵素阻害薬であるアセタゾラミドである。したがって、オンコ−ツールによるあらゆる診断又は治療における賢明な針路は、オンコ−ツールを対象に投与する約1から2時間前に最初に対象にこの薬物、又は尿のpHを上昇させ、約7.4以上のpHに維持するのに有効な他の物質を投与することである。
【0169】
8.安全性の増大のために膀胱をモニターし、洗浄する
腎臓が酸性尿を排泄している場合、治療用オンコ−ツールによる腎臓への潜在的害のため、カテーテルの末端の微小pHプローブを用いることによって膀胱に入る尿のpHを継続的にモニターすることも望ましいことがある。そのようなモニタリングの好ましい期間は、オンコ−ツールの注射直前から腫瘍の酸性領域に捕捉されなかったオンコ−ツールの大部分が腎臓により排泄されたような時間までである(一般に約3から6時間)。そのようなモニタリングは、新たに排泄される尿が約pH7.4未満に低下し始める場合に緊急介入(アセタゾラミドの追加の用量を注射することなど)を可能にする。
【0170】
数時間にわたり、オンコ−ツールの注射量の多くが腎臓により排泄され、排尿により排泄されるまで、対象の膀胱中に貯蔵される。オンコ−ツール診断適用の場合については、膀胱中の放射性オンコ−ツールのこの蓄積は、膀胱に近接する腫瘍の存在を不明瞭にすることがあり得る。治療用オンコ−ツールの場合については、患者の膀胱中の放射性オンコ−ツールの蓄積は、膀胱に損傷を与える可能性がある。膀胱中の放射性オンコ−ツールの蓄積が重大な問題であることが証明される場合、オンコ−ツールの注射時から注射量の大部分が患者の身体から除去されるような時点まで、流入/流出カテーテルを用いて膀胱を洗浄することによって実質的に減少させることができる。
【0171】
オンコ−ツール用量の大部分が腎臓により排泄されている期間中の膀胱の洗浄は、膀胱から運ばれる溶液を、放射性同位体が安全レベル(一般に放射性同位体の10半減期)まで壊変するまで、含めることができる遮蔽保存容器中に通すことができるという追加の目的に役立つ。これは、対象に付き添う医療従事者の安全を保証するのに役立ち、また対象により排泄される放射性オンコ−ツールによる手洗所及び他の区域の不注意による汚染を大部分防止する。
【実施例】
【0172】
(実施例1)
イオン形と非イオン形との間の転移のpHに対する親油性の影響
水に溶解した33mMの濃度のプロピオン酸(親水性カルボン酸)及びオクタン酸(親油性カルボン酸)のナトリウム塩を5M HClで滴定した。塩と酸との間の転移の中点(pKa値)は、プロピオン酸については予測された4.83であったが、オクタン酸については驚くほど高い5.5であることがわかった。滴定曲線の一次導関数は、プロピオン酸については対称であったが、オクタン酸については高度に非対称であった。さらに、オクタン酸滴定中にオクタン酸の小滴が溶液から油分離した。
【0173】
これと対照的に、これらの同じ2つの酸の塩を半水性媒体:メタノール/水(1:1体積比)中で滴定したとき、それらの転移の中点は実際上同じであり、それらの滴定曲線の一次導関数は、今度は両方とも対称であった。最後に、半水性媒体であるメタノール/水中での滴定において、オクタン酸は溶液から油分離しなかった。
【0174】
これらの結果は、水溶液中のオクタン酸について認められた滴定の驚くほど高い中点は図3及び4に示した溶解度の影響に単に起因していたことを示唆している。結果はさらに、半水性溶液メタノール/水(1:1体積比)中で滴定することにより滴定曲線に対するこれらの溶解度の影響が避けられることを示している。
【0175】
(実施例2)
イオン形と非イオン形との間の転移のpHに関する酸特異的及び非酸特異的内部H結合の比較
図6のa)(酸特異的内部H結合を形成するように設計された)及び図6のb)(非酸特異的H結合を形成するように設計された)に示す化合物のナトリウム塩の30mM溶液を水溶液中で5M HClで滴定した。図6のb)における化合物の滴定曲線の一次導関数は、対称であり、4.82の予測されたpKa値(単純カルボン酸に典型的)を示し、滴定中に発生した明らかな不溶性物質は存在しなかった。これと著しく対照的に、図6のa)における化合物の滴定曲線の一次導関数は、非常にゆがんでおり、pH5.8という驚くほど高い値で最小値を示し、滴定のおおよその中点はpH5.6であった。さらに、pHが5.8未満に低下したときから、HClの添加のたびに生成した大量の沈殿が存在した。
【0176】
ほぼ同じ構造の化合物の間の滴定特性のこれらの劇的な差は、図6のa)における構造は予測された内部酸特異的H結合を形成しており、H結合がイオン形と非イオン形との間の転移のpHを上昇させるように作用するという推論を裏づけている。逆に、図6のb)における構造は内部H結合を形成している可能性があるが、H結合はカルボン酸塩形又はカルボン酸形と形成することができるので、そのようなH結合は、イオン形と比べて非イオン形に著しく有利でなく、したがって、プロピオン酸などの単純カルボン酸について認められることと比較して、2つの形の間の転移のpHを著しく変化させない。
【0177】
(実施例3)
イオン形と非イオン形との間の転移のpHに対する低立体配座自由度H結合の影響
図7のb)の非環式構造の水溶液中での滴定は、4.95の予測された転移のpH値(単純カルボン酸に典型的)を示し、酸形の沈殿はなかった。これと対照的に、図7のa)の5員環構造の滴定は、陰イオン形と非イオン形との間の転移のpHの5.6という予測できないほど高値を示した。当環構造の滴定は、pHが約5.8未満に低下したとき大量の沈殿も伴っており、滴定曲線の形状は高度に非対称であった。
【0178】
しかし、これらの2つの化合物を代わりに半水性媒体メタノール/水(1:1体積比)中で滴定したとき、不溶性の徴候はなく、滴定曲線の一次導関数のプロットは今度は対称であった。図7のb)に示す非環式化合物については、滴定の中点のpHは5.8であったが、図7のa)の環構造については滴定の中点は実質的により高い6.45であった。
【0179】
したがって、親油性酸形の沈殿に起因する滴定曲線のゆがみがない場合でさえ、半水性滴定実験において、図7のa)における環式化合物については滴定曲線の中点の実質的な0.65pH単位の上昇が認められる。これに対する最も妥当な説明は、この半水溶液中では内部酸特異的H結合は環構造の場合にのみ形成し、当H結合は平衡を酸形に有利に移動させているということであると思われる。
【0180】
(実施例4)
結合基の電子求引効果からカルボキシルを絶縁することの重要性
構造8bの分子モデリングにより、内部H結合は、前記H結合のほぼ完全な形状及びH結合ドナー部分とH結合アクセプター部分との間の非常に限られた立体配座自由度によって著しく有利であることが示唆される。これらの因子が内部酸特異的H結合の形成に有利であるにもかかわらず、図8のb)における構造の塩を調製し、水溶液中でHClで滴定したとき、滴定曲線は3.0未満のpKa値を示した。
【0181】
この結果から、アミドによる誘起効果(前記効果が介在二重結合を介して容易に伝播する)がおそらくカルボキシルのpKaの大きい低下を引き起こし、その負の誘起効果が、内部酸特異的H結合がカルボキシルのpKa上昇に対して及ぼす可能性のある正の効果をはるかに超えていると推測される。
【0182】
(実施例5)
水性溶媒からH結合部位を部分的に遮蔽する利点
図9における2つの化合物を調製し、半水性溶媒メタノール/水(1:1体積比)中で滴定した。この半水性溶媒は、不溶性効果が滴定結果に影響を与えることを防ぐために、これらの滴定に用いた。これらの実験では、滴定プロットの一次導関数は対称であり、沈殿の目に見える徴候はなかった。したがって、不溶性効果を避ける目的は満たされた。
【0183】
認められたことは、図9の構造(a)は5.6のpHで滴定曲線の中点を示したが、図9の構造(b)はpH6.14で滴定の著しい高い中点を示したことである。
【0184】
再び、これらの滴定における構造(b)の著しく高い転移のpH値の考えられる説明は、この半水性溶液中では構造(b)は平衡を酸形に有利に移動させるように作用している内部酸特異的H結合を形成しているが、密接に関連する構造(a)はそのような内部酸特異的H結合を形成しないということである。構造(b)におけるH結合部位の適度の遮蔽が構造(b)におけるH結合の形成に有利な因子であり、一方、構造(a)におけるH結合部位のそのような遮蔽の欠如が構造(a)における内部H結合の明らかな欠如の有力な原因であると思われる。
【0185】
(実施例6)
内部酸特異的低バリアH結合を形成するように設計された2pHスイッチ構造の調製及び滴定
イソニポコチン酸のメチルエステルを3−ペンタノンを用いて還元的にアルキル化し、次いで、得られた第三級アミンをメタクロロベンゾイルペルオキシドを用いてN−オキシドに変換した。最後に、エステルを水酸化ナトリウム水溶液で開裂させて、図10のb)における構造iiiを得た。カルボン酸ナトリウム形のこの生成物を水中で滴定した。その滴定プロットの一次導関数は、pH3.8(N−オキシド部分について予測されたおおよその値)における1つと、N−オキシド部分又はカルボン酸部分について予測されるより実質的に高いpH6.0における他の最小値との2つの最小値を示している。しかし、本明細書における以前の実施例における結果に照らして、最も可能性高い説明は、このpKa6.0の値はカルボキシルH結合ドナーとN−オキシドH結合アクセプターとの間の内部低バリアH結合の形成に起因し、内部H結合が平衡を酸形の方に移動させる、すなわち、pKaを上昇させるように作用することである。
【0186】
ショウノウ酸のシス(3−アミン−1−酸)誘導体を過剰のアセトアルデヒドを用いて還元的にアルキル化し、得られた第三級アミン生成物をメタクロロベンゾイルペルオキシドを用いてN−オキシドに変換して、図10のb)における構造iを得た。カルボン酸ナトリウム形のこの生成物を水中で滴定した。その滴定プロットの一次導関数は、pH4.2(N−オキシド部分について予測されたおおよその値)における1つと、N−オキシド部分又はカルボン酸部分について予測されるより実質的に高いpH6.5における他の最小値との、2つの最小値を示している。再び、本明細書における以前の実施例からの結果に照らして、6.5というこの例外的に高いpKa値の最も可能性高い説明は、内部低バリアH結合はカルボキシルH結合ドナーとN−オキシドH結合アクセプターとの間に形成されており、内部H結合が平衡を酸形の方に強く移動させ、それによりpKa値を上昇させるように作用することである。
【0187】
上の内部H結合イソニポコチン酸誘導体は、いくぶん類似した内部H結合ショウノウ酸誘導体よりかなり低いpKa値(6.0)を有する(H結合ドナー部分とH結合アクセプター部分が両構造において事実上同じであるにもかかわらず)ことは注目に値する。pKa値の間のこのかなりの差の最も可能性高い説明は、上のイソニポコチン構造のような6員脂肪族環の最低エネルギー配座は一般にいす形配座であり、そのいす形配座を次の最も安定な配座であるねじれ舟形に変換するのに約5Kcalを一般に必要とするということである。発明者の分子モデリングはイソニポコチン誘導体のねじれ舟形配座のみが内部酸特異的H結合を形成することを示したので、当H結合の強さはいす形配座からねじれ舟形配座への変換のエネルギーコストにより減弱されることはあり得ることである。
【0188】
これと対照的に、ショウノウ酸誘導体の5員脂肪族環は、容易に且つ低いエネルギーコストで異なるパッカー配座の間を移動することができ、したがって、内部酸特異的H結合を形成するのに適する配座を選ぶためのエネルギーコストはほとんどない。結果として、当H結合の実質的に全エネルギーが、塩形より酸形を優位にし、ひいてはpKaを6.5の例外的に高い値に上昇させるために利用可能である。
【0189】
上のことの意義は、有効性と特異性との望ましいバランスを達成するために(その重要性は図12に示されている)、pHスイッチのpKa値をかなり精密に調節するのに微妙な構造特性を活用できることを示すことである。
【0190】
(実施例7)
pHスイッチ構造を試験するための滴定手順
a)水性滴定
一般に高度pHスイッチ成分として適している可能性がある新たな構造は、それらのpT値、すなわち、陰イオン形と非イオン形との間のそれらの転移の中点におけるpH値について最初に評価する。これは、当構造のナトリウム塩形を調製し、それを50mlの0.15M NaCl(炭酸含量を最小限にするために脱気した)に5mMの濃度で溶解することを必要とする。小磁気撹拌棒を加え、少量の1M NaOHで溶液のpHを約9に調整する。撹拌しながら、5μlずつの1M HClを加え、各HClの部分を加えてから1分後にpHを記録する。滴定中にpHスイッチの沈殿又は油分離が起らなかった場合、pH対添加HCl容積のプロットにより、通常の滴定曲線が得られる。しかし、pKa値のかなり正確な尺度を得ることを可能にする、滴定結果のはるかにより有用な表示は、この滴定曲線の一次導関数を代わりにプロットすることによって得られる。これは、X軸上に(pHn+pHn+1)/2の値をプロットし、Y軸上に(pHn−pHn+1)の値をプロットすることを必要とする。
【0191】
b)半水性滴定
pHスイッチが滴定中に沈殿又は油分離する場合、滴定曲線は一般に著しくゆがむ。そのような場合には、pHスイッチの陰イオン形と非イオン形との間の転移の中点に対する溶解度効果とpKa効果を区別することは困難である。そのような場合には、pHスイッチの塩及び酸形の両方が完全に溶解性である半水性溶媒中で滴定することによって、溶解度効果を避けることができる。メタノールと水との1:1混合物は、一般にこの目的にかなう。この溶媒中では滴定曲線の一次導関数は再び対称になる。オクタン酸などの安定な内部H結合を形成することができない物質の場合、滴定プロットは、プロピオン酸のような完全に水溶性の単純カルボン酸について認められるのと非常に類似した古典的なpKa値を示す。しかし、上の実施例で述べた高度pH構造のような安定な内部酸特異的H結合を形成するように設計された物質の場合、滴定プロットはメタノール/水中で対称になるが、それにもかかわらず、滴定プロットは、内部酸特異的H結合を形成することができない非常に類似した構造と比べて実質的に高いpKa値を示すことができ、またこの高いpKa値は、滴定の条件下で形成する内部酸特異的H結合を示唆している。
【0192】
したがって、生理食塩水中の滴定において、滴定曲線の非対称を伴う転移の見かけのpHの総上昇は、内部酸特異的H結合効果と溶解度効果の組合せに起因する可能性がある。しかし、滴定をその代わりにメタノール/水などの半水性溶媒中で行う場合、内部酸特異的H結合を形成することができない非常に類似した物質のpKaと比較した、内部酸特異的H結合を形成するように設計された物質のpKa値の実質的な上昇は、主として内部H結合だけに起因するものであって、その内部H結合の結果である可能性がある酸部分の親油性の増大に起因しない。しかし、ある程度まで、極性がより低いメタノール/水溶媒は内部H結合の形成に本質的に有利であり、したがって、ともかく起り得る場合、新たなpHスイッチ構造型を試験するとき、完全に水性の溶液中で滴定することによって内部酸特異的H結合の形成を確認することが望ましいことも理解すべきである。
【0193】
(実施例8)
オンコ−ツール用細胞培養試験系
最初に見込みのある各オンコ−ツール構造を比較的単純な生物学的系において試験することが推奨され、この場合、オンコ−ツールが生存対象体内で遭遇する主な生物学的環境及び構造(血液及び正常組織を模倣するための、pH7.4で緩衝し、また腫瘍の酸性領域を模倣するための、pH6.4で緩衝した血清含有培地に曝露させた哺乳動物細胞を特に含む)にオンコ−ツールを曝露させる。
【0194】
そのような適切な試験系は、等張性培地の2つの調製物を調製することを必要とする。1つは、10%血清を含み、50mMヘペス緩衝液(pKa7.5)でpH7.4に強力に緩衝すべきである。他は、10%血清アルブミンを含み、50mMビストリス緩衝液(pKa6.5)に強力に緩衝すべきである。ヨウ素131を含むオンコ−ツールを各培地に等濃度で加えるべきである。
【0195】
実験の前に、ヒーラ(Hela)細胞を12ウェル培養プレートで融合まで増殖させるべきである。次に、細胞の4ウェルから培地を除去し、pH7.4で緩衝したオンコ−ツール含有培地と交換する。さらに、細胞の他の4ウェルから培地を除去し、pH6.4で緩衝したオンコ−ツール含有培地と交換する。次いで、プレートを37℃で1時間インキュベートする。インキュベーション後、オンコ−ツール含有培地を除去し、同じpHのオンコ−ツール不含有培地と交換し、短時間旋回し、除去する。この洗浄処置を合計4回繰り返す。次に、細胞を1mlの洗剤溶液で溶解し、溶解物溶液を除去し、シンチレーション又はガンマカウンタで計数して、2つのpH条件のそれぞれのもとで捕捉されたオンコ−ツールの相対量の尺度を得る。
【0196】
好ましいオンコ−ツール構造は、pH6.4の細胞により最大限に捕捉されるが、pH7.4の細胞により最小限に捕捉されるのみである。
【0197】
(実施例9)
正常マウスにおけるオンコ−ツールの試験
上のオンコ−ツール用の細胞培養試験系は、実質的な数の見込みのあるオンコ−ツールの確度の高い有効性及び特異性特性の最初の迅速且つ定量的な評価を可能にする。しかし、この最初の評価は、次に最も有望なオンコ−ツール構造について生存マウスにおける試験により追跡すべきである。マウスにアセタゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬を最初に前投与して、マウスの尿が長時間にわたり塩基性に維持されるようにすることが推奨される。次に、適切な量のリン酸緩衝生理食塩水中ヨウ素131含有オンコ−ツールを、好ましくは尾静脈内などの静脈内に注射すべきである。その後、マウスを約24時間までの期間にわたり一定の間隔をおいてモニターし(適切なガンマカウンタ又はガンマカメラの下に短時間置くなどにより)、標識オンコ−ツールの排泄の率を測定する。
【0198】
正常マウスにおけるこの試験の主な目的は、過度の親油性におそらく起因する、或いは正常組織又はある種の特定の臓器等に対する予期されない親和性を有する何らかの構造要素におそらく起因する、正常組織における過度に捕捉されるオンコ−ツールを特定することである。正常マウスから速やか且つ完全に排泄され、したがって、この予備的動物試験に合格するオンコ−ツールは、次の実施例で述べる担腫瘍マウスにおいて次に試験すべきである。
【0199】
(実施例10)
担腫瘍マウスにおけるオンコ−ツールの試験
腫瘍のない正常マウスにおける上の比較的簡単な試験は正常組織に対する過度の親和性を有するオンコ−ツールを捨てることを可能にするが、見込みのあるオンコ−ツール構造のより決定的な試験は、担腫瘍マウスにおいてそれを試験するものである。
【0200】
そのような実験において、a)尿のpHを上昇させるためにアセタゾラミドなどの炭酸脱水酵素阻害薬、及びb)腫瘍におけるpHを選択的に低下させるのに有効な物質の1つ又は組合せをマウスに最初に前投与することが推奨される。そのような物質としては、i)グルコース(例えば、非特許文献11参照)、ii)ミトコンドリア阻害剤メタヨードベンジルグアニジン(例えば、非特許文献12参照)、及びiii)高血圧を有する人を治療するのにルーチンに用いられている血管拡張薬(例えば、非特許文献14参照)などがある。
【0201】
そのような前投与の後の適切な期間の後に、担腫瘍マウスにヨウ素131含有オンコ−ツールを(好ましくは静脈内)注射する。マウスの組織及び/又は腫瘍中に捕捉されない投与量の一部の腎臓による正常な排泄を可能にするための適切な期間(5から24時間程度)の後に、マウスを屠殺し、主要臓器及び明らかな腫瘍を摘出する。各臓器及び腫瘍並びに残りの死体部分をガンマカウンタで計数する。
【0202】
マウスの前処置については、両タイプの前処置を用いる場合にオンコ−ツールが最善の作用を示すことを強調すべきであり、1つのタイプは腎臓の近位尿細管の内層表面の細胞へのオンコ−ツールの再取込みを防止するのに役立つものである。この再取込みは、尿をわずかに塩基性にすることによって阻止される。他のタイプは、腫瘍の低酸素/酸性領域における酸性度をさらに増加させる(pHを低下させる)のに役立つ。有効且つ特異的オンコ−ツール活性に最もよく適合するように腫瘍の微小環境を調節するために、好ましくは腫瘍におけるpHを選択的に低下させるための2つ又は3つのそのような前処置の組合せを用いるべきである。
【0203】
上に、本発明の組成物及び方法について予測される最良の態様、並びに当業者が組成物及び方法を製造及び使用することを可能にするような完全、明瞭、簡明且つ正確な用語でそのような組成物及び方法を製造及び使用する手法及び方法の記述を示す。しかし、これらの組成物及び方法は、完全に同等である上述の実例となる実施形態からの変更形態及び代替構成を許容する。したがって、開示した組成物及び方法を開示した特定の実施形態に限定することを意図しない。これに反して、意図は、開示する組成物及び方法の主題を詳細に示し、明瞭に請求する特許請求の範囲により一般に表明されている組成物及び方法の精神及び範囲に入るすべての変更形態及び代替構成を含めることである。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】陰イオン及び非イオン形の両方における弱酸細胞毒性化学療法薬クロラムブシルを示す図である。
【図2】腫瘍における酸性度の分布を示す図である。
【図3】形の間のpH媒介性及び溶解度媒介性転移を示す図である。
【図4】非イオン性酸形の親油性の関数としての計算滴定曲線を示す図である。
【図5】a)は、その陰イオン及び非イオン形の通常のカルボン酸にH結合した水分子を示す、予想される水和水を示す図であり、b)は、その陰イオン形及びその内部でH結合した非イオン形のカルボン酸含有構造にH結合された水分子を示す、予想される水和水を示す図である。
【図6】a)は、その非イオン形のみの内部酸特異的H結合を形成する構造における酸特異的H結合を示す図であり、b)は、その陰イオン形及びその非イオン形の両方における非酸特異的H結合を形成する構造を示す図である。
【図7】a)は、4員環構造、5員環構造及び6員環構造を含む、高度pHスイッチに適する代表的環構造を示す図であり、b)は、非環式構造を有するために高度pHスイッチとして使用するのに許容できない構造を示す図である。
【図8】a)は、電子求引基からカルボキシルを分離する炭素の数の増加による誘起効果からのカルボキシル部分の絶縁を示す図であり、b)は、誘起効果からのそのカルボキシルの不十分な絶縁を有する構造を示す図である。
【図9】a)は、そのH結合部位が溶媒に対して開放されている構造を示す図であり、b)は、そのH結合部位が溶媒から部分的に遮蔽されている構造を示す図である。
【図10】低バリアH結合の成分を示す図であり、a)は、約3.0〜6.5の範囲のpKa値を有する独立形のH結合アクセプター部分とともに低バリアH結合を形成するのに適するカルボン酸を含むH結合ドナーを示す図であり、b)は、カルボン酸ドナーとともに低バリアH結合を形成するのに適する代表的なH結合アクセプター部分を示す図であり、c)は、内部酸特異的低バリアH結合を形成するように設計された代表的な高度pHスイッチを示す図である。
【図11】多pHスイッチオンコ−ツールの特異性の増大の統計的基礎を示す図であり、a)は、2pHスイッチを含むオンコ−ツールの非捕捉陰イオン及び腫瘍捕捉非イオン形を示す図であり、b)は、3pHスイッチを含むオンコ−ツールの非捕捉陰イオン及び腫瘍捕捉非イオン形を示す図である。
【図12】多pHスイッチオンコ−ツールの計算有効性及び特異性係数を示す図であり、a)は、1pHスイッチを含む構造のpKa値の関数としての計算有効性及び特異性係数を示す図であり、b)は、2pHスイッチを含むオンコ−ツールのpKa値の関数としての計算有効性及び特異性係数を示す図であり、c)3pHスイッチを含むオンコ−ツールのpKa値の関数としての計算有効性及び特異性係数を示す図であり、d)4pHスイッチを含むオンコ−ツールのpKa値の関数としての計算有効性及び特異性係数を示す図である。
【図13】2高度pHスイッチを含む組成物を示す図であり、a)は、この組成物の構造を示す図であり、b)は、pHの関数としてのこの2pHスイッチ組成物のn−オクタノール/緩衝液分配のプロットを示す図である。
【図14】それらの前駆体及び最終形の代表的な積荷成分を示す図である。
【図15】選択される前駆体形をそれらの最終形に変換する単純な手順を含む、代表的な積荷成分の2つの合成経路を示す図である。
【図16a】代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、単純pHスイッチを含む2つの代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す図である。
【図16b】代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、高度pHスイッチを含む5つの代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す図である。
【図16c】代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む10個の代表的な2pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、構造1及び2は、pHスイッチのH結合アクセプター部分がN−オキシド部分であり、各N−オキシド部分が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプターとしての役割を果たしている2つのオンコ−ツールを示す図である。
【図17】代表的な3pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、a)は、高度pHスイッチを含む2つの代表的な3pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、b)は、低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む2つの代表的な3pHスイッチオンコ−ツールを示す図である。
【図18】代表的な4pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、a)は、pHスイッチのH結合アクセプター部分がアルコキシアミン部分である4pHスイッチオンコ−ツールを示す図であり、b)は、pHスイッチのH結合アクセプター部分がN−オキシド部分であり、各N−オキシド部分が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプターとしての役割を果たしている4pHスイッチオンコ−ツールを示す図である。
【図19】R基を変化させることにより親油性を調節することができる、単純pHスイッチを含むオンコ−ツールの合成を示す図である。
【図20】R基を変化させることにより親油性を調節することができる、高度pHスイッチについての合成スキームを示す図である。
【図21】オンコ−ツール合成に有用なアミンエステル及びケトンエステル中間体を示す図である。
【図22】内部酸特異的低バリアH結合を形成するように設計されたpHスイッチの代表的な合成を示す図であり、a)は、H結合アクセプターがシアノメチルアミン部分であるpHスイッチの合成を示す図であり、b)は、H結合アクセプターがN−オキシド部分であるpHスイッチの合成を示す図であり、c)は、H結合アクセプターがトリフルオロエチルアミン部分であるpHスイッチの合成を示す図である。
【図23a】様々なpHスイッチ構造の滴定結果を示す図であり、単純カルボン酸(酪酸)及び高度pHスイッチ(ショウノウ酸の酸アミド誘導体)について1:1の容積比のメタノール/水中で滴定を行った場合の通常の滴定曲線並びにより多くの情報を与える一次導関数の形の同じデータのプロットを示す図である。
【図23b】様々なpHスイッチ構造の滴定結果を示す図であり、R基が異なる2pHスイッチオンコ−ツール(放射性ヨウ素の代わりに安定ヨウ素を含む)及び関連3pHスイッチ構造について水中で滴定を行い、各化学種が33ミリモル濃度で存在した場合の通常の滴定曲線を示す図である。
【図23c】様々なpHスイッチ構造の滴定結果を示す図であり、低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチの一次導関数としてプロットした滴定曲線(この滴定は、水中で行い、ショウノウ酸から誘導されたN−オキシド/酸構造を含むpHスイッチは、5ミリモル濃度で存在する)を示す図である。
【図24】図23aに示すショウノウ酸から誘導されたアミド/酸高度pHスイッチ、イソニポコチン酸から誘導された低バリアH結合を形成するように設計されたN−オキシド/酸高度pHスイッチ、及び図23cに示すショウノウ酸から誘導された低バリアH結合を形成するように設計されたN−オキシド/酸高度pHスイッチを含む3つのpHスイッチ構造の実験的に決定したpKa値を示す図である。
【図25a】高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す図であり、その2つのpHスイッチがジアシルヒドラジド構造により結合されているオンコ−ツールを示す図である。
【図25b】高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す図であり、その2つのpHスイッチがジアミド構造により結合されているオンコ−ツールを示す図である。
【図26a】低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す図であり、単一N−オキシド部分が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合レセプター部分としての役割を果たす2pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す図である。
【図26b】低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す図であり、ヒドラジン部分の窒素の両方が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合レセプター部分としての役割を果たす2pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す図である。
【図26c】低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す図であり、シアノメチルアミン部分がカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合アクセプター部分としての役割を果たす2pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す図である。
【図26d】低バリアH結合を形成するように設計された高度pHスイッチを含む代表的なオンコ−ツールの合成スキームを示す図であり、各N−オキシド部分が2つのカルボン酸H結合ドナー部分に対するH結合レセプター部分としての役割を果たす4pHスイッチオンコ−ツールの合成スキームを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存対象における腫瘍中に存在する可能性がある、酸性領域において優先的に捕捉される組成物に容易に変換することができる前駆体構造であって、組成物が(i)pH7.4の水溶液中で主として負に荷電した水溶性の形態で存在するが、pH7.0未満の酸性領域では、組成物の分子のかなりの部分が、細胞膜であってもよい親油性相に入るのに有効な非イオン形に転換するという特性を有し、(ii)光子、ガンマ線(高エネルギー光子)又は陽電子を放射することによってその存在を報告することができ、且つ/又はそれが捕捉されている領域における細胞の損傷を引き起こすことができる積荷成分を含み、改善が、
放射性ハロゲンの添加により、酸性領域における特異性の改善により優先的に捕捉されている改善された組成物に変換させることができ、
(a)少なくとも2つの酸部分、
(b)酸部分の少なくとも1つが以下のi)からiii)の特性を有する内部にHを結合できる成分に組み込まれており、
i)酸部分が環構造に直接結合しているカルボン酸部分であり、
ii)環構造が非芳香族であり、4員環、5員環及び6員環からなる群から選択され、
iii)環構造に、7未満のpKaを有し、その非イオン形においてH結合ドナー部分としての役割を果たすことができない構造を有するH結合アクセプター部分も結合しており、H結合におけるアクセプターとしての役割を果たす原子が環構造に直接結合したもの及び環構造に1つの原子を介して結合したものからなる群から選択され、
カルボン酸部分及びH結合アクセプター部分は、それらが内部H結合の形成に適合するように位置決めされ、配向されており、
(c)放射性ハロゲンに容易且つ安定に結合するのに有効な前駆体形における少なくとも1つの積荷成分
を含み、
(d)スルホンアミド部分(R1SO2NR23
を欠く
改善された前駆体構造を含むことを特徴とする、酸性領域において優先的に捕捉される組成物に容易に変換することができる前駆体構造。
【請求項2】
前駆体形における少なくとも1つの積荷成分はトリアルキルスズ部分を含むことを特徴とする、請求項1に記載の改善された前駆体構造。
【請求項3】
最良態様構造は、
【化1】

であることを特徴とする、請求項2に記載の改善された前駆体構造。
【請求項4】
生存対象における腫瘍中に存在する可能性がある酸性領域において優先的に捕捉される組成物であって、(i)pH7.4の水溶液中で主として負に荷電した水溶性の形態で存在するが、pH7.0未満の酸性領域では、組成物の分子のかなりの部分が、細胞膜であってもよい親油性相に入るのに有効な非イオン形に転換するという特性を有し、(ii)光子、ガンマ線(高エネルギー光子)又は陽電子を放射することによってその存在を報告することができ、且つ/又はそれが捕捉されている領域における細胞の損傷を引き起こすことができる積荷成分を含み、改善が、
酸性領域における特異性の改善により優先的に捕捉されており、
(a)少なくとも2つの酸部分、
(b)酸部分の少なくとも1つが以下のi)からiii)の特性を有する内部にHを結合できる成分に組み込まれており、
i)酸部分が環構造に直接結合しているカルボン酸部分であり、
ii)環構造が非芳香族であり、4員環、5員環及び6員環からなる群から選択され、
iii)環構造に、7未満のpKaを有し、その非イオン形においてH結合ドナー部分としての役割を果たすことができない構造を有するH結合アクセプター部分も結合しており、H結合におけるアクセプターとしての役割を果たす原子が環構造に直接結合したもの及び環構造に1つの原子を介して結合したものからなる群から選択され、
カルボン酸部分及びH結合アクセプター部分は、それらが内部H結合の形成に適合するように位置決めされ、配向されており、
(c)放射性ハロゲンを含む少なくとも1つの積荷成分
を含む改善された組成物を含むことを特徴とする、酸性領域において優先的に捕捉される組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの積荷成分はフッ素、臭素、ヨウ素及びアスタチンからなるハロゲン形の群から選択される放射性ハロゲンを含むことを特徴とする、請求項4に記載の改善された組成物。
【請求項6】
少なくとも1つの内部にHを結合できる成分におけるH結合アクセプター部分は、
(a)アミド、
(b)トリフルオロエチルアミン、
(c)シアノメチルアミン、
(d)アルコキシアミン、
(e)N−オキシド、
(f)イミダゾール、
(g)アニリン、
(h)ホスホルアミド、及び
(i)尿素
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項5に記載の改善された組成物。
【請求項7】
少なくとも1つの内部にHを結合できる成分は、
【化2】

からなる群から選択される構造を有することを特徴とする、請求項6に記載の改善された組成物。
【請求項8】
分子構造は、
【化3】

からなる群から選択されることを特徴とする、請求項7に記載の改善された組成物。
【請求項9】
最良態様構造は、
【化4】

であることを特徴とする、請求項8に記載の改善された組成物。
【請求項10】
生存対象における腫瘍中に存在する可能性がある酸性領域の存在を検出するための組成物であって、(i)pH7.4の水溶液中で主として負に荷電した水溶性の形態で存在するが、pH7.0未満の酸性領域では、組成物の分子のかなりの部分が、生物学的組織における細胞膜であってもよい親油性相に入るのに有効な非イオン形に転換するという特性を有し、(ii)それが捕捉されている領域から光子、ガンマ線(高エネルギー光子)又は陽電子を放射することによってその存在を報告することができる積荷成分を含み、改善が、
(a)少なくとも2つの酸部分、
(b)酸部分の少なくとも1つが以下のi)からiii)の特性を有する内部にHを結合できる成分に組み込まれており、
i)酸部分が環構造に直接結合しているカルボン酸部分であり、
ii)環構造が非芳香族であり、4員環、5員環及び6員環からなる群から選択され、
iii)環構造に、7未満のpKaを有し、その非イオン形においてH結合ドナー部分としての役割を果たすことができない構造を有するH結合アクセプター部分も結合しており、H結合におけるアクセプターとしての役割を果たす原子が環構造に直接結合したもの及び環構造に1つの原子を介して結合したものからなる群から選択され、
カルボン酸部分及びH結合アクセプター部分は、それらが内部H結合の形成に適合するように位置決めされ、配向されている、
及び
(c)i)ガンマ線、
ii)陽電子、並びに
iii)陽電子及びガンマ線
からなる群から選択される種類の放射線を放射する放射性ハロゲンを含む少なくとも1つの積荷成分
を含む酸性領域の存在を改善された特異性により検出するための改善された組成物を含むことを特徴とする、酸性領域の存在を検出するための組成物。
【請求項11】
放射性ハロゲンは、臭素76、臭素77、ヨウ素123、ヨウ素124及びヨウ素131からなる群から選択されることを特徴とする、請求項10に記載の改善された組成物。
【請求項12】
最良態様の構造は、
【化5】

であることを特徴とする、請求項11に記載の改善された組成物。
【請求項13】
(a)(i)pH7.4の水溶液中で主として負に荷電した水溶性の形態で存在するが、pH7.0未満の酸性領域では、組成物の分子のかなりの部分が、生物学的組織における細胞膜であってもよい親油性相に入るのに有効な非イオン形に転換するという特性を有し、
(ii)それが捕捉されている領域から光子、ガンマ線(高エネルギー光子)又は陽電子を放射することによってその存在を報告することができる積荷成分を含む
組成物を準備するステップと、
(b)準備した組成物を対象に導入するステップと、
(c)10分間から48時間までの範囲の期間待つステップと、
(d)準備した組成物の積荷成分からの放射を検出するのに有効な装置により対象を評価するステップと
により、酸性領域が腫瘍に存在する可能性がある、対象における酸性領域を検出する方法であって、
改善が、改善された特異性により対象における酸性領域を検出する改善された方法を含み、準備した組成物が請求項10に記載の組成物であり、ガンマ線を検出するのに有効な装置により対象を評価することを特徴とする、対象における酸性領域を検出する方法。
【請求項14】
改善された方法は、酸性領域を含む腫瘍の存在について生存対象を評価するのに用いられることを特徴とする、請求項13に記載の改善された方法。
【請求項15】
(a)対象の尿のpHを増加させるのに有効な少なくとも1つの物質、及び
(b)腫瘍におけるpHを低下させるのに有効な少なくとも1つの物質
により対象を最初に治療することをさらに含むことを特徴とする、請求項13に記載の改善された方法。
【請求項16】
対象の尿のpHを上昇させるのに有効な少なくとも1つの物質は、
(a)炭酸脱水酵素阻害剤アセタゾールアミド、及び
(b)緩衝剤重炭酸ナトリウム
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項15に記載の改善された方法。
【請求項17】
腫瘍におけるpHを低下させるのに有効な少なくとも1つの物質は、
(a)グルコース、
(b)ミトコンドリア阻害剤メタヨードベンジルグアニジン、及び
(c)血管拡張剤カプトプリル
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項15に記載の改善された方法。
【請求項18】
生存対象における腫瘍中に存在する可能性がある、酸性領域を治療するための組成物であって、(i)pH7.4の水溶液中で主として負に荷電した水溶性の形態で存在するが、pH7.0未満の酸性領域では、組成物の分子のかなりの部分が、生物学的組織における細胞膜であってもよい親油性相に入るのに有効な非イオン形に転換するという特性を有し、(ii)それが捕捉されている領域における細胞の損傷を引き起こすことができる積荷成分を含み、改善が、
(a)少なくとも2つの酸部分、
(b)酸部分の少なくとも1つが以下のi)からiii)の特性を有する内部にHを結合できる成分に組み込まれており、
i)酸部分が環構造に直接結合しているカルボン酸部分であり、
ii)環構造が非芳香族であり、4員環、5員環及び6員環からなる群から選択され、
iii)環構造に、7未満のpKaを有し、その非イオン形においてH結合ドナー部分としての役割を果たすことができない構造を有するH結合アクセプター部分も結合しており、H結合におけるアクセプターとしての役割を果たす原子が環構造に直接結合したもの及び環構造に1つの原子を介して結合したものからなる群から選択され、
カルボン酸部分及びH結合アクセプター部分は、それらが内部H結合の形成に適合するように位置決めされ、配向されており、
(c)i)アルファ粒子、及び
ii)ベータ粒子
からなる群から選択される種類の放射線を放射する放射性ハロゲンを含む少なくとも1つの積荷成分
を含む改善された特異性により酸性領域を治療するための改善された組成物を含むことを特徴とする、酸性領域を治療するための組成物。
【請求項19】
放射性ハロゲンはアルファ粒子を放射し、アスタチン211であることを特徴とする、請求項18に記載の改善された組成物。
【請求項20】
最良態様構造は、
【化6】

であることを特徴とする、請求項19に記載の改善された組成物。
【請求項21】
放射性ハロゲンは、ベータ粒子を放射し、臭素82、臭素83、ヨウ素130、ヨウ素131、ヨウ素132、ヨウ素133及びヨウ素135からなる群から選択されることを特徴とする、請求項18に記載の改善された組成物。
【請求項22】
(a)(i)pH7.4の水溶液中で主として負に荷電した水溶性の形態で存在するが、pH7.0未満の酸性領域では、組成物の分子のかなりの部分が、生物学的組織における細胞膜であってもよい親油性相に入るのに有効な非イオン形に転換するという特性を有し、
(ii)それが捕捉されている領域における細胞の損傷を引き起こすことができる積荷成分を含む
組成物を準備するステップと、
(b)準備した組成物を対象に導入するステップと
による、対象における酸性領域を治療する方法であって、酸性領域は腫瘍中にある可能性があり、
改善が、改善された特異性により対象における酸性領域を治療する改善された方法を含み、準備した組成物が請求項18に記載の組成物であることを特徴とする、対象における酸性領域を治療する方法。
【請求項23】
酸性領域を含む1つ又は複数の腫瘍を有する生存対象を治療するのに用いられることを特徴とする、請求項22に記載の改善された方法。
【請求項24】
(a)対象の尿のpHを上昇させるのに有効な少なくとも1つの物質、及び
(b)腫瘍におけるpHを低下させるのに有効な少なくとも1つの物質
により対象を最初に治療することをさらに含むことを特徴とする、請求項22に記載の改善された方法。
【請求項25】
対象の尿のpHを上昇させるのに有効な少なくとも1つの物質は、
(a)炭酸脱水酵素阻害剤アセタゾールアミド、及び
(b)緩衝剤重炭酸ナトリウム
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項24に記載の改善された方法。
【請求項26】
腫瘍におけるpHを低下させるのに有効な少なくとも1つの物質は、
(a)グルコース、
(b)ミトコンドリア阻害剤メタヨードベンジルグアニジン、及び
(c)血管拡張剤カプトプリル
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項24に記載の改善された方法。
【請求項27】
請求項18に記載の少なくとも2つの組成物を準備し、対象に導入する請求項22に記載の改善された方法であって、請求項18に記載の1つの準備した組成物のが放射性ハロゲンアスタチン211を含み、請求項18に記載の第2の準備した組成物がベータ粒子を放射する放射性ハロゲンを含むことを特徴とする、該方法。
【請求項28】
最良態様の準備した組成物は、
【化7】

であることを特徴とする、請求項27に記載の改善された方法。
【請求項29】
酸性領域を含む1つ又は複数の腫瘍を有する生存対象を治療するのに用いられることを特徴とする、請求項27に記載の改善された方法。
【請求項30】
(a)対象の尿のpHを上昇させるのに有効な少なくとも1つの物質、及び
(b)腫瘍におけるpHを低下させるのに有効な少なくとも1つの物質
により対象を最初に治療することをさらに含むことを特徴とする、請求項27に記載の改善された方法。
【請求項31】
対象の尿のpHを上昇させるのに有効な少なくとも1つの物質は、
(a)炭酸脱水酵素阻害剤アセタゾールアミド、及び
(b)緩衝剤重炭酸ナトリウム
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項30に記載の改善された方法。
【請求項32】
腫瘍におけるpHを低下させるのに有効な少なくとも1つの物質は、
(a)グルコース、
(b)ミトコンドリア阻害剤メタヨードベンジルグアニジン、及び
(c)血管拡張剤カプトプリル
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項30に記載の改善された方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16a】
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【図16b】
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【図16c】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23a】
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【図23b】
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【図23c】
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【図24】
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【図25a】
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【図25b】
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【図26a】
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【図26b】
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【図26c】
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【図26d】
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【公表番号】特表2009−536152(P2009−536152A)
【公表日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503073(P2009−503073)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2007/008215
【国際公開番号】WO2007/117398
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(508293656)
【Fターム(参考)】