腫瘍を治療するためのシアン化物生成系ともう1つの酸化的誘導系との間の相乗効果
本発明は、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞へ死を引き起こすことが可能な系に関し、その系は
I.単一組成物中に組み合わされて、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなるシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素による酸化活性を含んでなる酸化的ストレス誘導系、または
II.独立した組成物中に存在する、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなるシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素によってもたらされる酸化活性を含んでなる酸化的ストレス誘導系
を含んでなる。
I.単一組成物中に組み合わされて、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなるシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素による酸化活性を含んでなる酸化的ストレス誘導系、または
II.独立した組成物中に存在する、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなるシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素によってもたらされる酸化活性を含んでなる酸化的ストレス誘導系
を含んでなる。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、シアン化物生成系(cyanogenic system)と酸化的ストレス誘導系との間で確立された相乗活性を含む、腫瘍細胞を死滅させることができる組成物および方法に関する。
【0002】
先行技術水準
リナマラーゼ−リナマリン系は、無害のリナマリン基質(lin,2−ヒドロキシ−イソブチロニトリル−β−D−グルコピラノシド)を変換して、アセトンシアノヒドリンとグルコースを生成することができるβ−グルコシダーゼをコードする植物起源の遺伝子(リナマラーゼ,lis)の利用に基づいている(Cortes, et al., 1998, Hughes, et al 1992; Cortes, et al., 2002)。アセトンシアノヒドリンは、6を上回るpH、そして30℃より高い温度では不安定であり、自然にアセトンとシアン化物に変換される(Selmar, et al., 1987)。リナマラーゼ遺伝子は、レトロウイルスベクター、(例えば、ネズミ白血病ウイルス,MLV,誘導体)アデノウイルスベクター(例えば、Ad5誘導体)または非ウイルスベクター(プラスミドトランスフェクション)を用いて標的細胞に導入される。この遺伝子が哺乳類細胞で発現されるとリナマラーゼは細胞の外部に輸送され、そこでリナマラーゼがそのリナマリン基質と遭遇し、シアン化物が生成される(Cortes, et al., 2002)。シアン化物は、細胞膜を通って自由に拡散する能力を有し(Wisler, et al., 1991)、リナマラーゼを生成する細胞だけでなく周囲の細胞にも作用するため、この系は治療可能性を高める付随作用に関係している。シアン化物はシトクロムcオキシダーゼ酵素と結合し、不活性化する能力を有し、酸化的リン酸化の電子伝達系を遮断し、ミトコンドリア呼吸機能に悪影響を及ぼす。これはミトコンドリア内での活性酸素種(ROS)の生成を増加させ、同時に、酸化的リン酸化によるアデノシン三リン酸(ATP)形態でのエネルギー生産を遮断する。
【0003】
酸化的リン酸化の遮断によるATPの細胞内レベルの迅速な枯渇は壊死による細胞死を誘導する。しかしながら、この遮断によって起こる酸化的ストレスは限られているため、本発明では、この療法を、グルコースのグルコン酸への変換を触媒し、過酸化水素(H2O2)を発生させるグルコースオキシダーゼ(GO)を用いた局所治療を併用した。H2O2の増加によって活性酸素種(ROS)の発生が促進され、この活性酸素種の過剰が腫瘍細胞に悪影響を及ぼす。
【0004】
これまで遺伝子療法におけるリナマラーゼ/リナマリン系の使用を記載している様々な文献が報告されてきた。また、グルコースオキシダーゼの細胞傷害効果もすでに記載されており、一方の酵素がグルコースオキシダーゼであり、もう一方のものがペルオキシダーゼである酵素−抗体コンジュゲートに基づいた悪性腫瘍に対する治療的組合せもある。
【0005】
しかしながら、前の説明および知識に基づき、そして下記説明で明らかなように、本発明の技術は、lis/linとGOの両方の系の組合せについてはこれまでに記載されていないという事実に基づいている。前記相乗活性に基づき、リナマラーゼ/リナマリン系と組み合わせてグルコースオキシダーゼ系を使用すると、腫瘍細胞において得られる酸化的ストレスレベルが著しく高まるため、リナマラーゼ/リナマリン系の治療力は増強される。
【0006】
よって、本発明の一態様では、ベクターを使用して、腫瘍細胞内にリナマラーゼ遺伝子とグルコースオキシダーゼ酵素を導入する。こうすることで腫瘍細胞を取り囲む領域に2つの系、シアン化物生成系ともう1つの酸化的ストレス誘導系を作り出し、それらの系が相乗的に作用することによって、カスパーゼ非依存性アポトーシスの活性化による腫瘍細胞の早期死滅をもたらす。
【0007】
lis/linとGOの両方の系の組合せは、明確な相乗反応を起こし、一方では、シアン化物によって起こる酸化的リン酸化の遮断、もう一方では、グルコースオキシダーゼによってもたらされるH2O2、の結果としてROSを生成する。よって、酸化的ストレスが細胞死開始シグナルであることから、それを癌を治療するための戦略として用いる。
【0008】
この技術の重要性は、両方の系の組合せでは、両方の系が別々に作用した際の応答の単なる足し算で観察される効果を十分に上回り、酸化的ストレスの生成において顕著な相乗効果をもたらすという事実に基づいている。lis/lin系を用いるだけでまたはGOを添加するだけで処置したときに腫瘍細胞で観察される死に対し、両方の系を組み合わせることで、腫瘍細胞死の明らかな時間前進が生じる。
【0009】
この組合せは、さらに、AIFおよびPARP(ポリ[ADP−リボース]ポリメラーゼ)と無関係であるため、これまでに分かっているものとは異なる機構によって、死の種類を壊死からカスパーゼ非依存性アポトーシスへと切り替えもする。
【0010】
本発明はさらに、グルコースオキシダーゼ系を含めることに関していくつかの可能性を提供する。加えて、グルコースオキシダーゼ遺伝子は、ウイルスまたは非ウイルスベクターを通じて腫瘍細胞に導入することができた。もう1つの考えられる改善は、制御放出系を利用してまたは腫瘍抗原に対する抗体に結合された組換えタンパク質の使用によって精製酵素を接種することである。
【0011】
最も伝統的な療法、例えば化学療法および放射線療法が失敗に終わるのは、腫瘍細胞は、それらの腫瘍細胞を前記治療、特にカスパーゼ依存性アポトーシスにより死を促進する治療に対して抵抗性とする突然変異、例えば、カスパーゼ、p53などに対応する遺伝子における突然変異を蓄積するためである。そのため、腫瘍細胞が獲得する抵抗性に打ち勝つことができる新規療法、例えば本発明に記載のものなどのカスパーゼ非依存性死の一種を起こす系を開発する必要がある。細胞でのlis/lin/GO療法併用系によって酸化的ストレスの驚くべき増加が起こり、それが迅速なミトコンドリアの断片化を引き起こすことが可能な戦略であり、カスパーゼ非依存性アポトーシスプロセスによる細胞死の誘導の際に集中するプロアポトーシス因子の放出を促進する。この系は腫瘍細胞の死に対する抵抗性についての起こり得る既知機構を抑制する。さらに、本発明の態様の1つは、アデノウイルスの局所注射に基づいているため、本発明は、活発に分裂している腫瘍細胞だけでなく、静止している大部分のものにも感染させることを可能にする。また、これには、癌による主な死亡原因である、腫瘍イニシエーターであり、転移および再発に関与していると思われている腫瘍幹細胞を感染させることも含まれる。さらに、シアン化物および過酸化物の生成は主として細胞外で起こるという事実から、本発明はin vivo感染率の低さを補う。同様に、本発明は、リナマラーゼを産生する細胞とその周囲の細胞の両方に作用することによって、いかなる腫瘍細胞も療法から免れられないようにする。
【0012】
発明の説明
発明の簡単な説明
本発明の第1の態様は、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことが可能な系に関し、その系は
a)単一組成物中に組み合わされた(combined)、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含むシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素によってもたらされる酸化活性を含む酸化的ストレス誘導系(以下、単一組成物)、または
b)独立した組成物中に存在する、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含むシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素によってもたらされる酸化活性を含む酸化的ストレス誘導系(以下、本発明の組成物)
を含んでなる。
【0013】
本発明の範囲内では、単一組成物は、シアン化物生成系および酸化的ストレス系における少なくとも必須の要素を(複数のベクター、タンパク質またはその他の形態で)含み、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができる組成物として理解される。
【0014】
本発明の範囲内では、本発明の組成物は、少なくとも2種の組成物であって、それらのうちの少なくとも1種がシアン化物生成系における少なくとも1つの必須の要素を(1つのベクター、タンパク質またはその他の形態で)含み、もう1種のものが酸化的ストレス系の少なくとも1つの必須の要素を(1つのベクター、タンパク質またはその他の形態で)含み、それらの組合せがカスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こす少なくとも2種の組成物として理解される。
【0015】
本発明の範囲内では、単一組成物または本発明の組成物を区別せずに言及する場合には、本発明の組成物を指している。
【0016】
本発明の好ましい態様では、本発明の組成物のシアン化物生成系は、リナマラーゼ−リナマリン系、すなわちリナマラーゼによって、反応基質として作用するリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなる。
【0017】
本発明の別の態様では、本発明の組成物の酸化的ストレス誘導系は、グルコースオキシダーゼ酵素の活性、すなわちグルコースオキシダーゼ酵素によって、基質として作用するグルコースにもたらされる酸化活性を含んでなる。
【0018】
本発明の第2の態様では、本発明の組成物のシアン化物生成系は、リナマラーゼ−リナマリン系を含み、かつ本発明の組成物の酸化的ストレス誘導系は、グルコースオキシダーゼ酵素を含んでなる。
【0019】
本発明の第3の態様では、本発明の組成物は、単一のウイルスまたは非ウイルスベクター中に組み合わせてリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる。
【0020】
本発明の第4の態様では、本発明の組成物は、独立したウイルスまたは非ウイルスベクター中にリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる。
【0021】
本発明の第5の態様では、本発明の組成物は、ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたリナマラーゼ遺伝子と、精製グルコースオキシダーゼタンパク質または該タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる。
【0022】
好ましい態様では、本発明の組成物は、ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたグルコースオキシダーゼ遺伝子と、精製リナマラーゼタンパク質または該タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる。
本発明のより好ましい態様では、本発明の組成物は、グルコースオキシダーゼタンパク質およびリナマラーゼタンパク質、またはこれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、精製グルコースオキシダーゼタンパク質および/または精製リナマラーゼタンパク質、ならびにこれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体と、これらのタンパク質を放出するための制御放出系とを含んでなる。
【0024】
本発明のより好ましい実施形態では、本発明の組成物は、腫瘍抗原に対する抗体と結合された精製グルコースオキシダーゼ組換えタンパク質および/または精製リナマラーゼ組換えタンパク質、ならびにこれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体を含んでなる。
【0025】
本発明の第6の態様は、シアン化物生成系および酸化的ストレス誘導系を含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができるウイルスまたは非ウイルスベクターを含んでなる。
【0026】
本発明の好ましい態様は、単一ベクター中に、天然もしくは遺伝子工学によって、リナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子またはそれらの任意の修飾物の組合せを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができるウイルスまたは非ウイルスベクターを含んでなる。
【0027】
本発明のさらに別の態様では、独立したベクター中に、天然もしくは遺伝子工学によって、リナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子またはそれらの任意の修飾物を含んでなる少なくとも2つのウイルスまたは非ウイルスベクターを含んでなり、それらの組合せはカスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができる。
【0028】
本発明の別の実施形態は、リナマラーゼ遺伝子および/またはグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなるアデノウイルスおよび/またはレトロウイルスベクターを含んでなる。
【0029】
本発明の第7の態様では、それは腫瘍の治療を目的とする医薬組成物を製造するための本発明の1つのベクター/複数のベクターの使用を含んでなる。
【0030】
本発明の好ましい態様では、療法に用いるための本発明の組成物に関する。
【0031】
本発明のさらにより好ましい態様では、腫瘍を治療するための医薬組成物を製造するための本発明の組成物の使用に関する。
【0032】
本発明の別の実施形態では、上記医薬組成物のいずれかと薬学上許容される担体とに関する。
【0033】
本発明の第8の態様では、限定されるものではないが、乳癌、肺癌、頭頸部癌、膵臓癌、前立腺癌、結腸癌、黒色腫、骨肉腫、腺癌、白血病または膠芽腫の治療を目的とする医薬組成物を含んでなる。
【0034】
本発明の第9の態様は、2つの系:シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との組合せを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができるin vitroまたはin vivoにおける方法(以下、本発明の方法)を含んでなる。
【0035】
本発明の好ましい態様では、本発明の方法のシアン化物生成系はリナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる。
【0036】
より好ましい態様では、本発明の方法の酸化的ストレス誘導系はグルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる。
【0037】
本発明のさらにより好ましい態様では、本発明の方法の酸化的ストレス誘導系はグルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなり、かつ本発明の方法のシアン化物生成系はリナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる。
【0038】
本発明のさらに別の態様では、本発明の組成物はいずれも本発明の方法の実施形態において使用される。
【0039】
本発明の好ましい態様では、本発明の医薬組成物またはベクターはいずれも本発明の方法の実施形態のために使用される。
【0040】
本発明の範囲内では、リナマラーゼタンパク質またはグルコースオキシダーゼタンパク質の類似体、誘導体もしくは断片は、本発明において主張する相乗作用をもたらし得るものとして理解される。
【0041】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、単語「含んでなる」およびその変形は、説明に照らして当業者には明らかであろう本発明の他の態様を排除するものではない。
【0042】
実施形態、実施例および次の図面の詳細な説明は、例として示しており、本発明を限定するものではない。
【0043】
発明の詳細な説明
本発明は、いくつかある態様の中で特に、2つの系:シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との間で確立された相乗活性を含んでなる、腫瘍細胞の治療を目的とする組成物および方法に関する。
【0044】
前記シアン化物生成系は、リナマラーゼによって反応基質として作用するリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなる。前記酸化的ストレス誘導系は、グルコースオキシダーゼ酵素によって基質として作用するグルコースにもたらされる酸化活性を含んでなる。
【0045】
特許請求の範囲に記載する系の活性によって引き起こされる酸化的ストレスの結果として起こるミトコンドリア動態を研究するために、W&Wlis細胞を、輸送シグナルペプチドによってミトコンドリアへと運ばれる1つの赤色蛍光タンパク質の遺伝子を含むプラスミド pdsRed2−mito(Clontech)で安定にトランスフェクトした。こうすることでリナマリンおよびグルコースオキシダーゼで処理した細胞のミトコンドリアを蛍光顕微鏡検査法により観察することが可能になった。その結果、未処理の細胞は繊維状ミトコンドリアパターンを示した(図1A)が、リナマリンで処理した細胞では、このマトリックスはバラバラになり、点在パターンを得ている(図1Bおよび1C)ことが確認できた。この効果はリナマリンでの処理の48時間後から観察され始め(図1B)、72時間後により顕著になり、断片のわずかな膨張(図1C)が観察されている。グルコースオキシダーゼ単独での処理では、ミトコンドリアの大部分において構造的変化は起こらなかった(図1D)。しかしながら、リナマリン処理とグルコースオキシダーゼ処理の両方を組み合わせた場合には、24時間後に膨張したミトコンドリアの点在パターンが観察され(図1E)、高い割合の細胞がアポトーシスの特徴を示す断片化された核形態で観察される(図1F)。48時間後、基質に付着したままの少数の細胞はミトコンドリアの顕著な膨張を示した(図1G)。
【0046】
MTTによる細胞生存の解析(生存細胞によるテトラゾリウムからのホルマザン結晶の形成の評価に基づく)では、リナマリンでの処理において、48時間後に細胞の生存能力がリナマリン濃度に比例してわずかに低下し始めることを示した(図2A)。しかしながら、生存の大幅な減少は96時間の時点で初めて、高濃度のリナマリン(200〜500μg/ml)でのみ観察された。リナマリンとグルコースオキシダーゼとを用いる併用療法(combined therapy)を実施した場合には、高濃度のリナマリン(500μg/ml)では24時間後に細胞の生存能力が低下し始め、48時間後には生存細胞は実質上ゼロである(図2B)。併用療法は系の攻撃性を高めて死をおよそ48時間進め、こうしたことがより高い治療有効性をもたらすことになるということをこれは示している。
【0047】
リナマラーゼ/リナマリン/グルコースオキシダーゼ療法の成功は、両方の系の組合せが酸化的ストレスの生成において相乗効果をもたらすという事実による。この仮説を確認するために、培地中に強力な抗酸化剤である10mM N−アセチルシステイン(NAC)を添加すると療法における細胞の挙動が観察されるが、他の濃度でも同じ結果が見られた。MTTによる細胞生存能力アッセイでは、NACの添加はリナマラーゼ/リナマリン療法にいかなる影響も及ぼさなかった(図2C)が、lis/lin/GOの組合せの場合には死の顕著な阻害が起こる(図2D)ことが観察できる。アネキシンV−FITC/ヨウ化プロピジウムを用いて死に関して同様の結果を得た(図4、表3)。
【0048】
ATP形態の細胞内エネルギーレベルは、ミトコンドリア電子伝達系の遮断が起こると低下するが、それはミトコンドリア電子伝達系が細胞の獲得エネルギーの不可欠な供給源であるためである。細胞内ATPレベルを解析すると、グルコースオキシダーゼの添加によって6時間後にATPの中等度の一時的な低下を引き起こした(図3A)が、それは24時間後には完全に元に戻り、それ以降におけるそのレベルは対照細胞と一致することが観察される。この効果は、細胞が過酸化物を解毒する能力を有するために短時間でグルコースオキシダーゼによる最大H2O2生成が起こるという事実と、グルコースオキシダーゼが血清タンパク質により経時的に不活性化されるという事実による。リナマリンの添加では、生成されたシアン化物によるシトクロムcレベルでのミトコンドリア呼吸の遮断の結果としてATPの漸進的で迅速な枯渇が起こり、その枯渇は48時間後にほぼ完了となる。両方の処理の組合せでは、グルコースオキシダーゼによる過酸化物の生成によって6時間後にレベルの初期低下が起こり、12時間後にリナマリンでの処理と並行してATPレベルが下がり、そのレベルは両方の処理の相乗効果のために多少低くなっていることが観察された。これらの結果は、72〜96時間の間に起こるリナマリンによる死と、24〜48時間の間に起こるリナマリンとグルコースオキシダーゼとの組合せによる死との両方は、これらの時間間隔ではATPレベルは非常に低いことから、エネルギーとは無関係の機構により引き起こされるということを証明した。
【0049】
併用療法において細胞外で生成されるH2O2レベル(図3B)を本発明においてさらに研究した。そのために、0.5mg/mlのリナマリンでの処理において、5mEU/mlのグルコースオキシダーゼの存在下でまたは両方の処理の組合せにおいて48時間の時点におけるW&Wlis細胞の培養培地中に存在するH2O2の量を分析したが、他の濃度を用いても良好な結果が得られた。リナマリンまたはグルコースオキシダーゼでの処理では対照(およそ20μM)に対して細胞外H2O2濃度に大きな変化は起こらなかったが、両方の処理の組合せでは65.9μMの細胞外レベルで過酸化物の生成における相乗的な増加をもたらすことが観察された。このデータは、併用療法の成功は酸化的ストレスの生成における相乗効果によるものであるという仮説を裏付けている。
【0050】
さらに、併用lis/lin/GO系は予想外にシアン化物(lis/lin)の特徴を示す壊死による死のパターンをATP−非依存性アポトーシスへと変換し、さらにこのアポトーシスは細胞死を約48時間さらに早めるため、この療法はより効果的である。アポプトソーム形成などの大部分のアポトーシス機構はATP依存性であるため、本モデルにおける死に関与しているタンパク質を決定することが重要である。第一に、カスパーゼの関与について解析し、それを受けてアネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムで標識するフローサイトメトリーによる死の解析を汎カスパーゼ阻害剤 Z−VAD−fmk(100μM)の存在下で(表4および図4)実施した。カスパーゼ阻害は併用lis/lin/GO療法にいかなる影響も及ぼさないことが観察されたため、アポトーシスがカスパーゼ非依存性であるということが結論付けられる。紫外線(12.5J/m2)を照射した(これによりカスパーゼ依存性アポトーシスによる典型的な死が起こる)細胞を対照として用いた。Z−VAD−fmk(100μM)の添加により紫外線誘導アポトーシスの完全阻害が起こることがDNA含量の解析(表1)とアネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムでの標識とにより(図4)確認された。
【0051】
次に、併用系におけるPARP−1(ポリ[ADP−リボース]ポリメラーゼ)タンパク質の寄与を研究した。このタンパク質は、核内、そしてその活性化後に存在するDNAに対する損傷を感知し、そのタンパク質はミトコンドリアへと転移し、そこでそのタンパク質がAIFなどのアポトーシスタンパク質を活性化する(Hong, et al., 2004)。この経路は、ROSによって生じる可能性のあるアポトーシス機構の1つである。本発明の併用系におけるこのタンパク質の寄与を研究するために、特異的なPARP阻害剤、1,5−イソキノリンジオール(DIQ)(表5)を用いた。lis/lin/GOによって起こるアポトーシスは、DIQにより阻害されないことから、PARPに依存するAIFの活性化経路が介在しないことが観察された。
【0052】
しかしながら、AIFの活性化はPARP−1非依存性である機構によって起こり得た(Cregan, 2004)。AIFはミトコンドリア中に存在するタンパク質であり、活性化すると、AIFは核へと転移し、そこでAIFはアポトーシスを活性化する。AIFについての起こり得る転移を、療法で処理したW&Wlis細胞のAIFに対して特異的な抗体を用いる免疫蛍光により解析した。GOで処理した対照細胞は典型的にミトコンドリアのAIFパターンを示し(図5A)、それらをリナマリンおよびGOで処理する(図5B)と、ミトコンドリア繊維の断片化は起こるが、AIFはミトコンドリア中に残り、核へと転移しないことが観察された。これは、lis/lin/GO系がAIFによって媒介される死とは無関係のアポトーシスを引き起こすことを証明している。
【0053】
フローサイトメトリーによりアネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムアッセイを並行して実施した。48時間の時点で5mEU/mlのグルコースオキシダーゼと併用療法(5mEU/mlのGOおよび500μg/mlのリナマリン)を与えて系の死のパターンを解析し、続いて96時間の時点で未処理の細胞と500μg/mlのリナマリンとともにインキュベートした細胞の対照について行った。さらに、別の細胞群を、10mMのN−アセチルシステイン(NAC)を加えたことを除いて同じ条件に供した。次に、併用療法で処理した細胞を100μMのZ−VAD−fmkの不在および存在下での48時間の時点において調べ、続いて、同じ条件における紫外線での細胞の処理の対照について行った。最後に、300μMの1,5−イソキノリンジオール(DIQ)の不在および存在下での48時間の時点において併用療法で処理した細胞を示され、これによりPARP−1を阻害しても死のパターンは変化しないことが観察される(図4)。
【0054】
これらの結果に基づいて、併用lis/lin/GO療法によって引き起こされる死は、カスパーゼにもPARP−1にもAIFにも依存しないアポトーシスの機構によって生じるということが結論付けられた。
【0055】
患者における6つの膠芽腫(glioblastomas)から得られた外植片におけるリナマラーゼ/リナマリン系の適用性を評価して、患者における本発明の療法の使用可能性を研究した。第一に、リナマラーゼ遺伝子を運ぶアデノウイルス(adenolis)による感染に対するこれらの外植片の感受性を研究した。そこで、これらの培養物をadenolisに感染させ、リナマラーゼの発現を、リナマラーゼに対して特異的な抗体を用いた免疫蛍光により解析した(図6A〜F)。6つの外植片のうち5つがadenolisに有効に感染して、リナマリンの非常に活発な発現が起こり、それによって感染多重度(MOI)100で感染させた細胞の実質上100%において細胞で繊維状凝集体ももたらされることを確認された。1つの外植片だけ(GB−LP−5、図6E)はMOI:100で発現した細胞の5%未満であった。これは、これらの細胞がアデノウイルス受容体であるCAR(コクサッキー−アデノウイルス受容体)の低発現を示したことによる可能性がある。
【0056】
1つの外植片(GB−LP−1)におけるlis/lin療法の作用をさらに解析した。これらの細胞をadenolisに感染させ(MOI:0、1、12、100および500)、500μg/mlリナマリン添加後の生存およびシアン化物の生成(それぞれ、図6Gおよび6H)を研究した。これらの細胞はadenolisに有効に感染し、それによってそれらの細胞は、極めて低い感染多重度(MOI:1)においても、リナマリンでの処理に対する感受性が強くなった。また、極めて高い感染多重度(MOI:100および500)においても、ベクターによる毒性は検出されなかった。
【0057】
グルコースオキシダーゼの毒性を、異なる量の精製酵素を腹腔内と静脈内に接種した体重約20gのSwissマウスにおいて評価した。動物の体重1g当たり1EUおよび0.5EUの用量では、投与後最初の24時間で致死効果を示した。しかしながら、体重1g当たり0.25〜0.1EU間の1日用量では、有害な影響は認められなかった。これによりこのタイプの動物における併用療法でのGOの最適用量範囲を定めることができた。
【0058】
さらに、リナマリンの用量範囲を、リナマラーゼを安定に発現するW&W腫瘍細胞(W&Wlis)を接種した体重20gの免疫不全(ヌード)マウスにおいて評価した。腫瘍がおよそ50mm3のサイズに達したときに、マウスを異なる濃度の腫瘍内リナマリン1日用量(動物の体重1g当たり0.5mg;0.35mg;0.25mgまたは0.10mg lin)で処理した。用量0.1mg lin/gでは治療効果は認められなかった(n=4)(図7A)が、0.25mg lin/gの場合には、処理第10日を過ぎて、未処理の腫瘍に対して、処理した腫瘍の増殖の有意な減少が成し遂げられた(p=0.05;n=6)(図7B)。リナマリン用量の増加は、治療結果を向上させるだけでなく、1日用量0.35mg lin/gの場合では処理第5日には4匹の動物のうち3匹に死をもたらし(図7C)、そして処理第4日〜第5日間には0.5mg lin/gで処理した動物の総てに死をもたらした。
【0059】
細胞培養物と同じように酸化的ストレスを高めることによってこれらの結果を改善する目的で、リナマリンでの処理とともに0.1EU/gのグルコースオキシダーゼを導入した。結果は総てのケースにおいて実質的に改善され(図7D〜7F)、高用量のリナマリン(0.35mg lin/g、図7F)では毒性も減少した。最良の治療結果は、1日の処理を0.25mg linと0.1EU GO/gとした場合に得られ、この場合には処理した腫瘍と未処理の腫瘍との差は処理第8日を過ぎて有意となった(図7E;p=0.05;n=6)。実際には、他の濃度のグルコースオキシダーゼでも薬理学的に陽性の結果は得られた。これらの結果により、前記相乗活性はリナマラーゼ/リナマリン系の治療力の増強を実現するため、より効果的な薬理学的系であるということの確認ができる。
【0060】
本発明によって行われる別のアプローチは、免疫不全マウスにおいて誘導されたW&W細胞腫瘍におけるリナマラーゼ遺伝子を運ぶアデノウイルス(adenolis)の使用である。106細胞をマウス(n=18)の両脇腹に皮下接種した。一部の動物(n=8)にはリナマラーゼを既に発現しているW&Wlis細胞を与え、一方、他のもの(n=10)にはW&W細胞を接種し、腫瘍が発生した場合にのみ、その腫瘍にadenolisを局所的に感染させた。W&Wlisを接種した動物に対して、処理開始時点において最大の腫瘍(およそ50mm3)に0.25mg linおよび0.1EU GO/gで毎日処理した(図7Gおよび7H)。W&W腫瘍を示している動物を109IUのadenolisでの感染サイクルで処理し、その後、0.25mg linおよび0.1EU GO/gでの2日間の処理を行った(図7Iおよび7J)。腫瘍の進行を2日おきに評価した。それらの結果は、リナマラーゼ遺伝子を既に発現している腫瘍の場合では処理第7日を過ぎて(図7G)、そしてadenolisでの感染の場合には処理第11日を過ぎて(図7I)処理した腫瘍と未処理の腫瘍との間に有意差がある(p=00.5)ことが示され、これによりアデノウイルスでの処理の有効性が証明された。
【0061】
免疫不全マウスの脇腹およびイヌにおいて誘導された膠芽腫においてその系をアッセイした。膠芽腫細胞を脳定位固定法によってイヌに移植し、それによって腫瘍を形成させ、それを特許請求の範囲に記載する方法で処理する。
【0062】
本発明においてリナマラーゼ植物遺伝子を腫瘍細胞内に導入する手段としてプラスミド、レトロウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターを使用した。一度、前記遺伝子が癌性細胞内に入ると、その遺伝子は発現され、リナマラーゼ酵素が合成された。リナマラーゼ酵素は細胞外部に自然に分泌され、そこでその酵素はそのリナマリン基質と遭遇し、注射によって動物に導入されたリナマリンがグルコースとアセトンシアノヒドリンへと分解される反応を触媒した。このアセトンシアノヒドリンは自然に2つの化合物、アセトンと、腫瘍細胞の死に関与するシアン化物を生成した。しかしながら、シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との組合せを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を実行する他の方法も本発明の範囲内に入るであろう。さらに、発明の詳細な説明および表において用いたLinとGOの用量は、例示目的にのみ、本発明の可能性や有効性を確認するために記載したものであり、他の治療上有効な用量も本発明の範囲の一部をなすであろう。
【実施例】
【0063】
発明の実施形態の例:
実施例1.本発明の一態様を実施するためにとられた主要なステップ
アデノウイルスベクターを用いてリナマラーゼ遺伝子を、そしてリナマリンを腫瘍内に導入している、in vitroで培養されたWodinsky & Waker細胞系における療法の有効性の検証。
【0064】
実施例2.リナマラーゼを安定に発現する細胞系の獲得
W&Wイヌ膠芽腫細胞(Wodinsky, et al., 1969)を、CMV(588bp)プロモーター、続いて、イントロンと、遺伝子epolis(ヒトエリスロポエチンの排出の細胞外シグナルを伝達するリナマラーゼ)(1625bp)をクローニングしたポリクローン領域、その後、IRES(568bp)および遺伝子pac(ピューロマイシン耐性)(602bp)およびSV40のポリアデニル化シグナルを有するプラスミド pILE(6.9Kb)でトランスフェクトした。
【0065】
トランスフェクションには陽イオン性脂質、Lipofectamine Plus(Invitrogene)を企業の指示に従って使用した。2μgのDNA、12μlのLipofectamineおよび8μlの試薬Plusを使用した。リナマラーゼの安定発現種を1μg/mlのピューロマイシンでの選択により得、それをW&Wlisと呼ぶことにし、残る試験に用いた。
【0066】
実施例3.DNA含量解析
2〜5x105W&Wlis細胞を25cm2フラスコに播種した。24時間後、それらをリナマリン(500μl/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理した。各アッセイに適応される時間が経過した後、細胞を回収し、PBSで2回洗浄した。その細胞沈殿物を4℃で300μlのPBSに再懸濁した。続いて、攪拌下、−20℃で700μlの無水エタノールをゆっくりと加えることによってそれらを固定した。さらに24時間後、1%ウシ血清アルブミンを補給したPBSで細胞を洗浄し、ヨウ化プロピジウムを終濃度20μg/mlに加え、それを室温で1時間インキュベートした。データ収集および解析を、Cell Questプログラムを備えたFACSCalibur(DB Bioscience)フローサイトメーターを用いて行った。
【0067】
実施例4.アデノウイルスでの感染
105細胞(W&Wおよび患者外植片)を、フラット面を備えたねじ式キャップ付き試験管(Nunc)に播種し、または5x104細胞を24−ウェルプレート中のカバースリップ上に播種し、それらを同時に、異なる感染多重度(MOI:0;0.2;1;10;100または500)においてadenolis(Crucell)に感染させた。試験管に播種した細胞では24時間後に培地を換え、必要に応じて0.5mg/mlのリナマリンを加えた。リナマリン添加後96時間の時点でMTTにより細胞生存能力アッセイを行った。カバースリップに播種した細胞は、感染の48時間後に、リナマラーゼを検出するための免疫蛍光を実施するために処理をした。
【0068】
実施例5.処理中のミトコンドリアの構造的変化の解析
療法中のミトコンドリアの構造的変化を研究するために、W&W細胞およびW&Wlis細胞を、ミトコンドリアでのみ発現される赤色蛍光タンパク質の遺伝子を含むプラスミド pDsRed2−mito(Clontech, BD Bioscience)でトランスフェクトした。前節と同じようにトランスフェクションを行い、ネオマイシン耐性によってクローンを選択した(それぞれ、0.75mg/mlおよび1.5mg/ml)。前記タンパク質の安定発現クローン由来の細胞をマルチウェルプレート中カバースリップ(2.5x104)上に播種し、リナマリン(50μg/ml、200μg/mlまたは500μg/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理した。各試験に適したインキュベーション時間(24時間、48時間または72時間)が経過した後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。核をTo−Pro−3(Molecular Probes)を用いて1/500希釈で30分間染色した。ミトコンドリアの構造的変化は、Axiovert S100 TV(Zeiss)倒立顕微鏡と連結したRadiance2000(BioRad)共焦点系を用いて観察し、赤色フィルターおよび青色フィルターで0.2μm離れた連続した3つの平面を撮影し、それらを組み合わせた。
【0069】
実施例6.MTTによる細胞生存能力解析
細胞生存能力の指標となるミトコンドリアの酵素活性を、テトラゾリウム塩を用いることによって判定した。このアッセイでは、1試験管(HCNが抜け出るのを防ぐ、フラット面を備えたねじ式キャップ付き培養試験管;Nunc)当たり105細胞またはパラフィルムで閉じた24−ウェルプレートの1ウェル当たり104細胞を播種した。インキュベーションの24時間後、各試験に必要な濃度のリナマリン(50〜500μg/mlの間)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)を補給した新鮮培養培地を加えた。それが適用されたアッセイでは、培地にN−アセチルシステイン(10mM)、1,5−イソキノリンジオール(300μM)またはZ−VAD−fmk(100μM)を補給した。各試験に定められた時間(12〜96時間の間)の後に、培養培地を除去し、200μg/mLのMTT(3−[4,5−ジメチルチアゾ−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を含む新鮮培地を加えた。インキュベーションの1.5時間後、培地を除去し、3ml(試験管の場合)または1ml(24−ウェルプレートの場合)のジメチルスルホキシドを加えて、ホルマザンを溶かした。10分間後、サンプルの540nmでの吸光度を測定した。MTTは水性媒体に溶解するテトラゾリウム塩(黄色)であるが、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼによって水性媒体に不溶性の化合物であるホルマザン(紫色)に変換される。
【0070】
実施例7.免疫蛍光
細胞を24−ウェルプレート中のカバースリップ上に播種し、各試験の要件に従って処理した。各アッセイに適したインキュベーション時間の後、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で30分間またはメタノールを用いて−20℃で10分間固定した。続いて、サンプルを、triton X−100または0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を補給したPBSで10分間透過処理し、0.1%triton X−100および1%ウシ血清アルブミンを含むPBSとともに、または0.01%SDSおよび10%ウシ胎児血清を含むPBSとともに30分間インキュベートすることにより遮断した。その後、それらを一次抗体とともに室温で45分間または4℃で一晩インキュベートした。使用した抗体は抗リナマラーゼ(1/200、Monica Hughesによる供給品)および抗AIF(1/50、Cell Signaling Technology)であった。使用した二次抗体はフルオレセイン結合抗ウサギIgG(1/50、Amersham Pharmacia Biotech)であった。続いて、To−Pro−3(Molecular Probes)の1/500希釈物とともに30分間インキュベートして、核を染色した。サンプルをPBSで2回、そして蒸留H2Oで1回洗浄し、Mowiol−DABCOまたはPolong Gold Antifade(Invitrogen)封入剤を用いて顕微鏡用スライドに封入した。
【0071】
実施例8.細胞外過酸化物濃度の測定
解析するサンプルを1mlの0.1Mリン酸バッファーpH7.4で希釈した。次いで、3.7EU/mlのペルオキシダーゼ(Sigma-Aldrich, St. Louis, USA)および0.1mg/mlのオルト−ジアニシジン(Sigma-Aldrich, St. Louis, USA)を加えた。サンプルを室温で30分間インキュベートし、436nmでの吸光度を測定した。H2O2濃度は、H2O2の漸増濃度を用いて実施した標準直線より得られるデータの補間により得た。
【0072】
実施例9.ATPの測定
105W&Wlis細胞を、フラット面を備えたねじ式キャップ付き試験管(Nunc)に播種した。24時間後、培地を換え、必要に応じてリナマリン(500μg/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)を加えた。4時間、8時間、12時間、24時間、48時間または72時間後、細胞を遠心分離し、Roche Applied Science社のATP Bioluminescence Assay Kit CLS IIの使用説明書に従って処理した。発光はMonolight 2010 luminometer(Analytical Luminescence Laboratory, San Diego)で解析し、相対発光量(RLU)で表した。
【0073】
実施例10.フローサイトメトリーによる死の種類の解析(アネキシンV−FITC/IP)
105W&Wlis細胞を、フラット面を備えたねじ式キャップ付き試験管(Nunc)に播種した。24時間後、特定のケースにおいて、異なる量のリナマリン(50μg/ml、200μg/mlまたは500μg/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)を加えた。該当するアッセイでは、培地にN−アセチルシステイン(10mM)、1,5−イソキノリンジオール(300mμM)またはZ−VAD−fmk(100μM)を補給した。各アッセイに定められた時間(30時間、48時間、72時間または96時間)の後に、細胞を沈殿させ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、トリプシン処理した。それらを1200rpmで5分間遠心分離し、細胞沈殿物を最初にPBSで、その後結合バッファー(0.1M Hepes/NaOH pH7.4、1.4M NaClおよび25mM CaCl2)で洗浄した。それらの細胞を再び沈殿させ、5μlのアネキシンV−FITCおよび2.5μg/mlのヨウ化プロピジウムを補給した100μlの結合バッファーに再懸濁した。それらのサンプルを暗所で15分間インキュベートした。データ収集および解析を、Cell Questプログラムを備えたFACSCalibur フローサイトメーター(DB Bioscience)を用いて行った。初期アポトーシス細胞は、アネキシンV−FITCについてのみ陽性標識を示す細胞であると考えられ、アネキシン−V−FITCおよびヨウ化プロピジウムの両方について陽性染色を示す場合には後期アポトーシスまたは壊死と考えられた。
【0074】
実施例11.患者膠芽腫外植片の初代培養物の獲得
実験動物からの腫瘍生検は、それらに処理を行うまで、20%SFTを含むMEM培地中で4℃で維持した。それらのサンプルを無菌条件でおよそ1mm3サイズに切った。次いで、コラゲナーゼ(106EU/ml)、0.1M HEPESバッファーpH7.4、ファンギゾン(0.5μg/ml)およびDNアーゼ(0.02%)を補給した、20%SFTを含むMEMを加え、室温で16時間インキュベートした。その後、消化されていない大きな断片をデカンテーションにより除去し、細胞を遠心分離により回収した。培養物形成までそれらの細胞を、20%SFTを含むMEMに播種した。一度培養物が形成されたら、いくつかのステップの後にその培地を10%SFTを含むDMEMと取り換えた。
【0075】
実施例12.免疫不全マウス腫瘍細胞を有する異種移植モデルにおける療法
体重およそ20gの2ヶ月齢免疫不全(ヌード系統)無胸腺マウスを用いた。それらのマウスの両脇腹に1〜2x106細胞(W&WまたはW&Wlis)を、0.1%グルコースを含む完全PBS(カルシウムおよびマグネシウムイオンを補給した)中50μl量の注射により皮下接種した。腫瘍のサイズ(pi π/6x高さx幅x長さ)はカリブレーター(calibrator)で測定した。
【0076】
大群のマウス(n=8)に、上記のとおり1〜2x106W&Wlis細胞を接種した。腫瘍が平均サイズ30〜50mm3に達したら、片脇腹の腫瘍を動物の体重1g当たり0.25mgのリナマリンおよび0.1EUのグルコースオキシダーゼで毎日処理した。未処理の腫瘍が約2000mm3のサイズに達したら、動物を犠牲にし、処理の終了とした。データはスチューデントt検定により統計的に解析し、有意水準を5%とした。
【0077】
リナマラーゼ遺伝子を有するアデノウイルスを用いた処理の場合、W&W細胞を接種したマウス(n=10)の腫瘍が30〜50%のサイズに達したら、処理サイクルを一方の脇腹に施した。そのサイクルの初日に、109IUのadenolisを接種し、シリンジを用いて腫瘍全体に分布させた。24時間の時点において、0.25mg/gのリナマリンに0.1EU/gのグルコースオキシダーゼを追加して用いて2日間の処理を施した。未処理の腫瘍が約2000mm3のサイズに達するまでこのサイクルを繰り返した。動物を犠牲にし、処理の終了とした。データをスチューデントt検定により統計的に解析し、有意水準を5%とした。
【0078】
表1.ヨウ化プロピジウムで標識するフローサイトメトリーによるDNA含量についての研究
【表1】
【0079】
表2.系の死の種類の特徴付け
【表2】
【0080】
表3.抗酸化剤の添加による死の阻害についての研究
【表3】
【0081】
表4.カスパーゼ阻害による死のパターンについての研究
【表4】
【0082】
表5.PARP阻害による死のパターンについての研究
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】プラスミド pdsRed2−mitoのトランスフェクションによる赤色のミトコンドリアと、To−Pro−3を用いた染色による青色の核とを有する細胞の共焦点顕微鏡画像を示す図である。未処理の対照細胞(A)、処理開始後48時間(B)および72時間(C)の時点でリナマリン(500μg/ml)で処理した細胞、グルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理した細胞(D)ならびに処理後24時間(EおよびF)または48時間(G)の時点でグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)とリナマリン(500μg/ml)との併用療法で処理した細胞についてのミトコンドリアパターンを表す画像を示す。
【図2(A)】W&Wlis細胞のミトコンドリア活性による細胞生存/死の解析を示す図である。リナマリンで処理した細胞についての経時的生存率を示す。
【図2(B)】W&Wlis細胞のミトコンドリア活性による細胞生存/死の解析を示す図である。リナマリンおよび5mEU/mlのグルコースオキシダーゼで処理した細胞についての経時的生存率を示す。
【図2(C)】処理に抗酸化剤(10mM NAC)を加えたときの細胞生存を示す図である。
【図2(D)】処理に抗酸化剤(10mM NAC)を加えたときの細胞生存を示す図である。
【図3(A)】細胞内ATPレベルの低下についての研究を示す図である。リナマリン(500μg/ml)および/またはグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理したW&Wlis細胞において経時的に評価を行った。値は、各時点での2つの独立したサンプルについての、未処理の細胞から得られた値に対する相対発光量(RLU)百分率の平均±標準偏差を示す。
【図3(B)】細胞外での過酸化水素の生成を示す図である。
【図4】アネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムで標識するフローサイトメトリーによるW&Wlis細胞における系の死の種類の特徴付けを示す図である。
【図5】W&Wlis細胞における免疫蛍光によるAIF位置特定研究を示す図である。核はTo−Pro−3で標識されている。細胞を5mEU/mlのグルコースオキシダーゼ(A)で、またはグルコースオキシダーゼおよび500μg/mlのリナマリン(B)で処理した。
【図6】adenolisによる患者外植片細胞の感染についての研究を示す図である。adenolisに感染した患者の細胞 GB−LP−1(A)、GB−LP−2(B)、GB−LP−3(C)、GB−LP−4(D)、GB−LP−5(E)およびGB−RC−1(F)における免疫蛍光によるリナマラーゼの検出。500μg/mlのリナマリンの存在または不在下、異なる感染多重度(MOI)においてadenolisでの感染に対するGB−LP−1細胞のMTTによる生存率についての研究(G)。500μg/mlのリナマリンの存在下で異なるMOIにおいて感染させたGB−LP−1細胞におけるシアン化物の生成(μg/ml)(H)。グラフ(GおよびH)では3つの独立したサンプルの平均±標準偏差を示している。
【図7】免疫不全マウスにおける系の治療効果についての研究を示す図である。マウスにはW&Wlis細胞(A〜H)またはW&W細胞(IおよびJ)を両脇腹に接種し、各マウスを、0.1mg/gのリナマリン(A)、0.25mg/gのリナマリン(B)および0.35mg/gのリナマリン(C)で処理するか;または0.1mEU/mlのGOと、0.1mg/gのリナマリン(D)、0.25mg/gのリナマリン(E)および0.35mg/gのリナマリン(F)との併用療法で処理した。0.25mg/gのlinおよび0.1mEU/mlのGOを用いたW&Wlis腫瘍の治療の有効性についての研究(G)ならびに群のマウスの1つの代表的な画像(H)。0.25mg/gのlinおよび0.1mEU/mlのGOで処理した、W&W腫瘍を有するマウスにおけるadenolisを用いた併用療法についての研究(I)ならびに群のマウスの1つの代表的な画像(J)。グラフでは、経時的に、4匹のマウス(A、C、EおよびF)、6匹のマウス(BおよびD)、8匹のマウス(G)および10匹のマウス(I)のmm3で表される体積の平均±標準誤差を示している。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、シアン化物生成系(cyanogenic system)と酸化的ストレス誘導系との間で確立された相乗活性を含む、腫瘍細胞を死滅させることができる組成物および方法に関する。
【0002】
先行技術水準
リナマラーゼ−リナマリン系は、無害のリナマリン基質(lin,2−ヒドロキシ−イソブチロニトリル−β−D−グルコピラノシド)を変換して、アセトンシアノヒドリンとグルコースを生成することができるβ−グルコシダーゼをコードする植物起源の遺伝子(リナマラーゼ,lis)の利用に基づいている(Cortes, et al., 1998, Hughes, et al 1992; Cortes, et al., 2002)。アセトンシアノヒドリンは、6を上回るpH、そして30℃より高い温度では不安定であり、自然にアセトンとシアン化物に変換される(Selmar, et al., 1987)。リナマラーゼ遺伝子は、レトロウイルスベクター、(例えば、ネズミ白血病ウイルス,MLV,誘導体)アデノウイルスベクター(例えば、Ad5誘導体)または非ウイルスベクター(プラスミドトランスフェクション)を用いて標的細胞に導入される。この遺伝子が哺乳類細胞で発現されるとリナマラーゼは細胞の外部に輸送され、そこでリナマラーゼがそのリナマリン基質と遭遇し、シアン化物が生成される(Cortes, et al., 2002)。シアン化物は、細胞膜を通って自由に拡散する能力を有し(Wisler, et al., 1991)、リナマラーゼを生成する細胞だけでなく周囲の細胞にも作用するため、この系は治療可能性を高める付随作用に関係している。シアン化物はシトクロムcオキシダーゼ酵素と結合し、不活性化する能力を有し、酸化的リン酸化の電子伝達系を遮断し、ミトコンドリア呼吸機能に悪影響を及ぼす。これはミトコンドリア内での活性酸素種(ROS)の生成を増加させ、同時に、酸化的リン酸化によるアデノシン三リン酸(ATP)形態でのエネルギー生産を遮断する。
【0003】
酸化的リン酸化の遮断によるATPの細胞内レベルの迅速な枯渇は壊死による細胞死を誘導する。しかしながら、この遮断によって起こる酸化的ストレスは限られているため、本発明では、この療法を、グルコースのグルコン酸への変換を触媒し、過酸化水素(H2O2)を発生させるグルコースオキシダーゼ(GO)を用いた局所治療を併用した。H2O2の増加によって活性酸素種(ROS)の発生が促進され、この活性酸素種の過剰が腫瘍細胞に悪影響を及ぼす。
【0004】
これまで遺伝子療法におけるリナマラーゼ/リナマリン系の使用を記載している様々な文献が報告されてきた。また、グルコースオキシダーゼの細胞傷害効果もすでに記載されており、一方の酵素がグルコースオキシダーゼであり、もう一方のものがペルオキシダーゼである酵素−抗体コンジュゲートに基づいた悪性腫瘍に対する治療的組合せもある。
【0005】
しかしながら、前の説明および知識に基づき、そして下記説明で明らかなように、本発明の技術は、lis/linとGOの両方の系の組合せについてはこれまでに記載されていないという事実に基づいている。前記相乗活性に基づき、リナマラーゼ/リナマリン系と組み合わせてグルコースオキシダーゼ系を使用すると、腫瘍細胞において得られる酸化的ストレスレベルが著しく高まるため、リナマラーゼ/リナマリン系の治療力は増強される。
【0006】
よって、本発明の一態様では、ベクターを使用して、腫瘍細胞内にリナマラーゼ遺伝子とグルコースオキシダーゼ酵素を導入する。こうすることで腫瘍細胞を取り囲む領域に2つの系、シアン化物生成系ともう1つの酸化的ストレス誘導系を作り出し、それらの系が相乗的に作用することによって、カスパーゼ非依存性アポトーシスの活性化による腫瘍細胞の早期死滅をもたらす。
【0007】
lis/linとGOの両方の系の組合せは、明確な相乗反応を起こし、一方では、シアン化物によって起こる酸化的リン酸化の遮断、もう一方では、グルコースオキシダーゼによってもたらされるH2O2、の結果としてROSを生成する。よって、酸化的ストレスが細胞死開始シグナルであることから、それを癌を治療するための戦略として用いる。
【0008】
この技術の重要性は、両方の系の組合せでは、両方の系が別々に作用した際の応答の単なる足し算で観察される効果を十分に上回り、酸化的ストレスの生成において顕著な相乗効果をもたらすという事実に基づいている。lis/lin系を用いるだけでまたはGOを添加するだけで処置したときに腫瘍細胞で観察される死に対し、両方の系を組み合わせることで、腫瘍細胞死の明らかな時間前進が生じる。
【0009】
この組合せは、さらに、AIFおよびPARP(ポリ[ADP−リボース]ポリメラーゼ)と無関係であるため、これまでに分かっているものとは異なる機構によって、死の種類を壊死からカスパーゼ非依存性アポトーシスへと切り替えもする。
【0010】
本発明はさらに、グルコースオキシダーゼ系を含めることに関していくつかの可能性を提供する。加えて、グルコースオキシダーゼ遺伝子は、ウイルスまたは非ウイルスベクターを通じて腫瘍細胞に導入することができた。もう1つの考えられる改善は、制御放出系を利用してまたは腫瘍抗原に対する抗体に結合された組換えタンパク質の使用によって精製酵素を接種することである。
【0011】
最も伝統的な療法、例えば化学療法および放射線療法が失敗に終わるのは、腫瘍細胞は、それらの腫瘍細胞を前記治療、特にカスパーゼ依存性アポトーシスにより死を促進する治療に対して抵抗性とする突然変異、例えば、カスパーゼ、p53などに対応する遺伝子における突然変異を蓄積するためである。そのため、腫瘍細胞が獲得する抵抗性に打ち勝つことができる新規療法、例えば本発明に記載のものなどのカスパーゼ非依存性死の一種を起こす系を開発する必要がある。細胞でのlis/lin/GO療法併用系によって酸化的ストレスの驚くべき増加が起こり、それが迅速なミトコンドリアの断片化を引き起こすことが可能な戦略であり、カスパーゼ非依存性アポトーシスプロセスによる細胞死の誘導の際に集中するプロアポトーシス因子の放出を促進する。この系は腫瘍細胞の死に対する抵抗性についての起こり得る既知機構を抑制する。さらに、本発明の態様の1つは、アデノウイルスの局所注射に基づいているため、本発明は、活発に分裂している腫瘍細胞だけでなく、静止している大部分のものにも感染させることを可能にする。また、これには、癌による主な死亡原因である、腫瘍イニシエーターであり、転移および再発に関与していると思われている腫瘍幹細胞を感染させることも含まれる。さらに、シアン化物および過酸化物の生成は主として細胞外で起こるという事実から、本発明はin vivo感染率の低さを補う。同様に、本発明は、リナマラーゼを産生する細胞とその周囲の細胞の両方に作用することによって、いかなる腫瘍細胞も療法から免れられないようにする。
【0012】
発明の説明
発明の簡単な説明
本発明の第1の態様は、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことが可能な系に関し、その系は
a)単一組成物中に組み合わされた(combined)、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含むシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素によってもたらされる酸化活性を含む酸化的ストレス誘導系(以下、単一組成物)、または
b)独立した組成物中に存在する、リナマラーゼによってリナマリンにもたらされる酵素活性を含むシアン化物生成系、およびグルコースオキシダーゼ酵素によってもたらされる酸化活性を含む酸化的ストレス誘導系(以下、本発明の組成物)
を含んでなる。
【0013】
本発明の範囲内では、単一組成物は、シアン化物生成系および酸化的ストレス系における少なくとも必須の要素を(複数のベクター、タンパク質またはその他の形態で)含み、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができる組成物として理解される。
【0014】
本発明の範囲内では、本発明の組成物は、少なくとも2種の組成物であって、それらのうちの少なくとも1種がシアン化物生成系における少なくとも1つの必須の要素を(1つのベクター、タンパク質またはその他の形態で)含み、もう1種のものが酸化的ストレス系の少なくとも1つの必須の要素を(1つのベクター、タンパク質またはその他の形態で)含み、それらの組合せがカスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こす少なくとも2種の組成物として理解される。
【0015】
本発明の範囲内では、単一組成物または本発明の組成物を区別せずに言及する場合には、本発明の組成物を指している。
【0016】
本発明の好ましい態様では、本発明の組成物のシアン化物生成系は、リナマラーゼ−リナマリン系、すなわちリナマラーゼによって、反応基質として作用するリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなる。
【0017】
本発明の別の態様では、本発明の組成物の酸化的ストレス誘導系は、グルコースオキシダーゼ酵素の活性、すなわちグルコースオキシダーゼ酵素によって、基質として作用するグルコースにもたらされる酸化活性を含んでなる。
【0018】
本発明の第2の態様では、本発明の組成物のシアン化物生成系は、リナマラーゼ−リナマリン系を含み、かつ本発明の組成物の酸化的ストレス誘導系は、グルコースオキシダーゼ酵素を含んでなる。
【0019】
本発明の第3の態様では、本発明の組成物は、単一のウイルスまたは非ウイルスベクター中に組み合わせてリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる。
【0020】
本発明の第4の態様では、本発明の組成物は、独立したウイルスまたは非ウイルスベクター中にリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる。
【0021】
本発明の第5の態様では、本発明の組成物は、ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたリナマラーゼ遺伝子と、精製グルコースオキシダーゼタンパク質または該タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる。
【0022】
好ましい態様では、本発明の組成物は、ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたグルコースオキシダーゼ遺伝子と、精製リナマラーゼタンパク質または該タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる。
本発明のより好ましい態様では、本発明の組成物は、グルコースオキシダーゼタンパク質およびリナマラーゼタンパク質、またはこれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の組成物は、精製グルコースオキシダーゼタンパク質および/または精製リナマラーゼタンパク質、ならびにこれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体と、これらのタンパク質を放出するための制御放出系とを含んでなる。
【0024】
本発明のより好ましい実施形態では、本発明の組成物は、腫瘍抗原に対する抗体と結合された精製グルコースオキシダーゼ組換えタンパク質および/または精製リナマラーゼ組換えタンパク質、ならびにこれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体を含んでなる。
【0025】
本発明の第6の態様は、シアン化物生成系および酸化的ストレス誘導系を含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができるウイルスまたは非ウイルスベクターを含んでなる。
【0026】
本発明の好ましい態様は、単一ベクター中に、天然もしくは遺伝子工学によって、リナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子またはそれらの任意の修飾物の組合せを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができるウイルスまたは非ウイルスベクターを含んでなる。
【0027】
本発明のさらに別の態様では、独立したベクター中に、天然もしくは遺伝子工学によって、リナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子またはそれらの任意の修飾物を含んでなる少なくとも2つのウイルスまたは非ウイルスベクターを含んでなり、それらの組合せはカスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができる。
【0028】
本発明の別の実施形態は、リナマラーゼ遺伝子および/またはグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなるアデノウイルスおよび/またはレトロウイルスベクターを含んでなる。
【0029】
本発明の第7の態様では、それは腫瘍の治療を目的とする医薬組成物を製造するための本発明の1つのベクター/複数のベクターの使用を含んでなる。
【0030】
本発明の好ましい態様では、療法に用いるための本発明の組成物に関する。
【0031】
本発明のさらにより好ましい態様では、腫瘍を治療するための医薬組成物を製造するための本発明の組成物の使用に関する。
【0032】
本発明の別の実施形態では、上記医薬組成物のいずれかと薬学上許容される担体とに関する。
【0033】
本発明の第8の態様では、限定されるものではないが、乳癌、肺癌、頭頸部癌、膵臓癌、前立腺癌、結腸癌、黒色腫、骨肉腫、腺癌、白血病または膠芽腫の治療を目的とする医薬組成物を含んでなる。
【0034】
本発明の第9の態様は、2つの系:シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との組合せを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を引き起こすことができるin vitroまたはin vivoにおける方法(以下、本発明の方法)を含んでなる。
【0035】
本発明の好ましい態様では、本発明の方法のシアン化物生成系はリナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる。
【0036】
より好ましい態様では、本発明の方法の酸化的ストレス誘導系はグルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる。
【0037】
本発明のさらにより好ましい態様では、本発明の方法の酸化的ストレス誘導系はグルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなり、かつ本発明の方法のシアン化物生成系はリナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる。
【0038】
本発明のさらに別の態様では、本発明の組成物はいずれも本発明の方法の実施形態において使用される。
【0039】
本発明の好ましい態様では、本発明の医薬組成物またはベクターはいずれも本発明の方法の実施形態のために使用される。
【0040】
本発明の範囲内では、リナマラーゼタンパク質またはグルコースオキシダーゼタンパク質の類似体、誘導体もしくは断片は、本発明において主張する相乗作用をもたらし得るものとして理解される。
【0041】
本明細書の説明および特許請求の範囲を通じて、単語「含んでなる」およびその変形は、説明に照らして当業者には明らかであろう本発明の他の態様を排除するものではない。
【0042】
実施形態、実施例および次の図面の詳細な説明は、例として示しており、本発明を限定するものではない。
【0043】
発明の詳細な説明
本発明は、いくつかある態様の中で特に、2つの系:シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との間で確立された相乗活性を含んでなる、腫瘍細胞の治療を目的とする組成物および方法に関する。
【0044】
前記シアン化物生成系は、リナマラーゼによって反応基質として作用するリナマリンにもたらされる酵素活性を含んでなる。前記酸化的ストレス誘導系は、グルコースオキシダーゼ酵素によって基質として作用するグルコースにもたらされる酸化活性を含んでなる。
【0045】
特許請求の範囲に記載する系の活性によって引き起こされる酸化的ストレスの結果として起こるミトコンドリア動態を研究するために、W&Wlis細胞を、輸送シグナルペプチドによってミトコンドリアへと運ばれる1つの赤色蛍光タンパク質の遺伝子を含むプラスミド pdsRed2−mito(Clontech)で安定にトランスフェクトした。こうすることでリナマリンおよびグルコースオキシダーゼで処理した細胞のミトコンドリアを蛍光顕微鏡検査法により観察することが可能になった。その結果、未処理の細胞は繊維状ミトコンドリアパターンを示した(図1A)が、リナマリンで処理した細胞では、このマトリックスはバラバラになり、点在パターンを得ている(図1Bおよび1C)ことが確認できた。この効果はリナマリンでの処理の48時間後から観察され始め(図1B)、72時間後により顕著になり、断片のわずかな膨張(図1C)が観察されている。グルコースオキシダーゼ単独での処理では、ミトコンドリアの大部分において構造的変化は起こらなかった(図1D)。しかしながら、リナマリン処理とグルコースオキシダーゼ処理の両方を組み合わせた場合には、24時間後に膨張したミトコンドリアの点在パターンが観察され(図1E)、高い割合の細胞がアポトーシスの特徴を示す断片化された核形態で観察される(図1F)。48時間後、基質に付着したままの少数の細胞はミトコンドリアの顕著な膨張を示した(図1G)。
【0046】
MTTによる細胞生存の解析(生存細胞によるテトラゾリウムからのホルマザン結晶の形成の評価に基づく)では、リナマリンでの処理において、48時間後に細胞の生存能力がリナマリン濃度に比例してわずかに低下し始めることを示した(図2A)。しかしながら、生存の大幅な減少は96時間の時点で初めて、高濃度のリナマリン(200〜500μg/ml)でのみ観察された。リナマリンとグルコースオキシダーゼとを用いる併用療法(combined therapy)を実施した場合には、高濃度のリナマリン(500μg/ml)では24時間後に細胞の生存能力が低下し始め、48時間後には生存細胞は実質上ゼロである(図2B)。併用療法は系の攻撃性を高めて死をおよそ48時間進め、こうしたことがより高い治療有効性をもたらすことになるということをこれは示している。
【0047】
リナマラーゼ/リナマリン/グルコースオキシダーゼ療法の成功は、両方の系の組合せが酸化的ストレスの生成において相乗効果をもたらすという事実による。この仮説を確認するために、培地中に強力な抗酸化剤である10mM N−アセチルシステイン(NAC)を添加すると療法における細胞の挙動が観察されるが、他の濃度でも同じ結果が見られた。MTTによる細胞生存能力アッセイでは、NACの添加はリナマラーゼ/リナマリン療法にいかなる影響も及ぼさなかった(図2C)が、lis/lin/GOの組合せの場合には死の顕著な阻害が起こる(図2D)ことが観察できる。アネキシンV−FITC/ヨウ化プロピジウムを用いて死に関して同様の結果を得た(図4、表3)。
【0048】
ATP形態の細胞内エネルギーレベルは、ミトコンドリア電子伝達系の遮断が起こると低下するが、それはミトコンドリア電子伝達系が細胞の獲得エネルギーの不可欠な供給源であるためである。細胞内ATPレベルを解析すると、グルコースオキシダーゼの添加によって6時間後にATPの中等度の一時的な低下を引き起こした(図3A)が、それは24時間後には完全に元に戻り、それ以降におけるそのレベルは対照細胞と一致することが観察される。この効果は、細胞が過酸化物を解毒する能力を有するために短時間でグルコースオキシダーゼによる最大H2O2生成が起こるという事実と、グルコースオキシダーゼが血清タンパク質により経時的に不活性化されるという事実による。リナマリンの添加では、生成されたシアン化物によるシトクロムcレベルでのミトコンドリア呼吸の遮断の結果としてATPの漸進的で迅速な枯渇が起こり、その枯渇は48時間後にほぼ完了となる。両方の処理の組合せでは、グルコースオキシダーゼによる過酸化物の生成によって6時間後にレベルの初期低下が起こり、12時間後にリナマリンでの処理と並行してATPレベルが下がり、そのレベルは両方の処理の相乗効果のために多少低くなっていることが観察された。これらの結果は、72〜96時間の間に起こるリナマリンによる死と、24〜48時間の間に起こるリナマリンとグルコースオキシダーゼとの組合せによる死との両方は、これらの時間間隔ではATPレベルは非常に低いことから、エネルギーとは無関係の機構により引き起こされるということを証明した。
【0049】
併用療法において細胞外で生成されるH2O2レベル(図3B)を本発明においてさらに研究した。そのために、0.5mg/mlのリナマリンでの処理において、5mEU/mlのグルコースオキシダーゼの存在下でまたは両方の処理の組合せにおいて48時間の時点におけるW&Wlis細胞の培養培地中に存在するH2O2の量を分析したが、他の濃度を用いても良好な結果が得られた。リナマリンまたはグルコースオキシダーゼでの処理では対照(およそ20μM)に対して細胞外H2O2濃度に大きな変化は起こらなかったが、両方の処理の組合せでは65.9μMの細胞外レベルで過酸化物の生成における相乗的な増加をもたらすことが観察された。このデータは、併用療法の成功は酸化的ストレスの生成における相乗効果によるものであるという仮説を裏付けている。
【0050】
さらに、併用lis/lin/GO系は予想外にシアン化物(lis/lin)の特徴を示す壊死による死のパターンをATP−非依存性アポトーシスへと変換し、さらにこのアポトーシスは細胞死を約48時間さらに早めるため、この療法はより効果的である。アポプトソーム形成などの大部分のアポトーシス機構はATP依存性であるため、本モデルにおける死に関与しているタンパク質を決定することが重要である。第一に、カスパーゼの関与について解析し、それを受けてアネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムで標識するフローサイトメトリーによる死の解析を汎カスパーゼ阻害剤 Z−VAD−fmk(100μM)の存在下で(表4および図4)実施した。カスパーゼ阻害は併用lis/lin/GO療法にいかなる影響も及ぼさないことが観察されたため、アポトーシスがカスパーゼ非依存性であるということが結論付けられる。紫外線(12.5J/m2)を照射した(これによりカスパーゼ依存性アポトーシスによる典型的な死が起こる)細胞を対照として用いた。Z−VAD−fmk(100μM)の添加により紫外線誘導アポトーシスの完全阻害が起こることがDNA含量の解析(表1)とアネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムでの標識とにより(図4)確認された。
【0051】
次に、併用系におけるPARP−1(ポリ[ADP−リボース]ポリメラーゼ)タンパク質の寄与を研究した。このタンパク質は、核内、そしてその活性化後に存在するDNAに対する損傷を感知し、そのタンパク質はミトコンドリアへと転移し、そこでそのタンパク質がAIFなどのアポトーシスタンパク質を活性化する(Hong, et al., 2004)。この経路は、ROSによって生じる可能性のあるアポトーシス機構の1つである。本発明の併用系におけるこのタンパク質の寄与を研究するために、特異的なPARP阻害剤、1,5−イソキノリンジオール(DIQ)(表5)を用いた。lis/lin/GOによって起こるアポトーシスは、DIQにより阻害されないことから、PARPに依存するAIFの活性化経路が介在しないことが観察された。
【0052】
しかしながら、AIFの活性化はPARP−1非依存性である機構によって起こり得た(Cregan, 2004)。AIFはミトコンドリア中に存在するタンパク質であり、活性化すると、AIFは核へと転移し、そこでAIFはアポトーシスを活性化する。AIFについての起こり得る転移を、療法で処理したW&Wlis細胞のAIFに対して特異的な抗体を用いる免疫蛍光により解析した。GOで処理した対照細胞は典型的にミトコンドリアのAIFパターンを示し(図5A)、それらをリナマリンおよびGOで処理する(図5B)と、ミトコンドリア繊維の断片化は起こるが、AIFはミトコンドリア中に残り、核へと転移しないことが観察された。これは、lis/lin/GO系がAIFによって媒介される死とは無関係のアポトーシスを引き起こすことを証明している。
【0053】
フローサイトメトリーによりアネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムアッセイを並行して実施した。48時間の時点で5mEU/mlのグルコースオキシダーゼと併用療法(5mEU/mlのGOおよび500μg/mlのリナマリン)を与えて系の死のパターンを解析し、続いて96時間の時点で未処理の細胞と500μg/mlのリナマリンとともにインキュベートした細胞の対照について行った。さらに、別の細胞群を、10mMのN−アセチルシステイン(NAC)を加えたことを除いて同じ条件に供した。次に、併用療法で処理した細胞を100μMのZ−VAD−fmkの不在および存在下での48時間の時点において調べ、続いて、同じ条件における紫外線での細胞の処理の対照について行った。最後に、300μMの1,5−イソキノリンジオール(DIQ)の不在および存在下での48時間の時点において併用療法で処理した細胞を示され、これによりPARP−1を阻害しても死のパターンは変化しないことが観察される(図4)。
【0054】
これらの結果に基づいて、併用lis/lin/GO療法によって引き起こされる死は、カスパーゼにもPARP−1にもAIFにも依存しないアポトーシスの機構によって生じるということが結論付けられた。
【0055】
患者における6つの膠芽腫(glioblastomas)から得られた外植片におけるリナマラーゼ/リナマリン系の適用性を評価して、患者における本発明の療法の使用可能性を研究した。第一に、リナマラーゼ遺伝子を運ぶアデノウイルス(adenolis)による感染に対するこれらの外植片の感受性を研究した。そこで、これらの培養物をadenolisに感染させ、リナマラーゼの発現を、リナマラーゼに対して特異的な抗体を用いた免疫蛍光により解析した(図6A〜F)。6つの外植片のうち5つがadenolisに有効に感染して、リナマリンの非常に活発な発現が起こり、それによって感染多重度(MOI)100で感染させた細胞の実質上100%において細胞で繊維状凝集体ももたらされることを確認された。1つの外植片だけ(GB−LP−5、図6E)はMOI:100で発現した細胞の5%未満であった。これは、これらの細胞がアデノウイルス受容体であるCAR(コクサッキー−アデノウイルス受容体)の低発現を示したことによる可能性がある。
【0056】
1つの外植片(GB−LP−1)におけるlis/lin療法の作用をさらに解析した。これらの細胞をadenolisに感染させ(MOI:0、1、12、100および500)、500μg/mlリナマリン添加後の生存およびシアン化物の生成(それぞれ、図6Gおよび6H)を研究した。これらの細胞はadenolisに有効に感染し、それによってそれらの細胞は、極めて低い感染多重度(MOI:1)においても、リナマリンでの処理に対する感受性が強くなった。また、極めて高い感染多重度(MOI:100および500)においても、ベクターによる毒性は検出されなかった。
【0057】
グルコースオキシダーゼの毒性を、異なる量の精製酵素を腹腔内と静脈内に接種した体重約20gのSwissマウスにおいて評価した。動物の体重1g当たり1EUおよび0.5EUの用量では、投与後最初の24時間で致死効果を示した。しかしながら、体重1g当たり0.25〜0.1EU間の1日用量では、有害な影響は認められなかった。これによりこのタイプの動物における併用療法でのGOの最適用量範囲を定めることができた。
【0058】
さらに、リナマリンの用量範囲を、リナマラーゼを安定に発現するW&W腫瘍細胞(W&Wlis)を接種した体重20gの免疫不全(ヌード)マウスにおいて評価した。腫瘍がおよそ50mm3のサイズに達したときに、マウスを異なる濃度の腫瘍内リナマリン1日用量(動物の体重1g当たり0.5mg;0.35mg;0.25mgまたは0.10mg lin)で処理した。用量0.1mg lin/gでは治療効果は認められなかった(n=4)(図7A)が、0.25mg lin/gの場合には、処理第10日を過ぎて、未処理の腫瘍に対して、処理した腫瘍の増殖の有意な減少が成し遂げられた(p=0.05;n=6)(図7B)。リナマリン用量の増加は、治療結果を向上させるだけでなく、1日用量0.35mg lin/gの場合では処理第5日には4匹の動物のうち3匹に死をもたらし(図7C)、そして処理第4日〜第5日間には0.5mg lin/gで処理した動物の総てに死をもたらした。
【0059】
細胞培養物と同じように酸化的ストレスを高めることによってこれらの結果を改善する目的で、リナマリンでの処理とともに0.1EU/gのグルコースオキシダーゼを導入した。結果は総てのケースにおいて実質的に改善され(図7D〜7F)、高用量のリナマリン(0.35mg lin/g、図7F)では毒性も減少した。最良の治療結果は、1日の処理を0.25mg linと0.1EU GO/gとした場合に得られ、この場合には処理した腫瘍と未処理の腫瘍との差は処理第8日を過ぎて有意となった(図7E;p=0.05;n=6)。実際には、他の濃度のグルコースオキシダーゼでも薬理学的に陽性の結果は得られた。これらの結果により、前記相乗活性はリナマラーゼ/リナマリン系の治療力の増強を実現するため、より効果的な薬理学的系であるということの確認ができる。
【0060】
本発明によって行われる別のアプローチは、免疫不全マウスにおいて誘導されたW&W細胞腫瘍におけるリナマラーゼ遺伝子を運ぶアデノウイルス(adenolis)の使用である。106細胞をマウス(n=18)の両脇腹に皮下接種した。一部の動物(n=8)にはリナマラーゼを既に発現しているW&Wlis細胞を与え、一方、他のもの(n=10)にはW&W細胞を接種し、腫瘍が発生した場合にのみ、その腫瘍にadenolisを局所的に感染させた。W&Wlisを接種した動物に対して、処理開始時点において最大の腫瘍(およそ50mm3)に0.25mg linおよび0.1EU GO/gで毎日処理した(図7Gおよび7H)。W&W腫瘍を示している動物を109IUのadenolisでの感染サイクルで処理し、その後、0.25mg linおよび0.1EU GO/gでの2日間の処理を行った(図7Iおよび7J)。腫瘍の進行を2日おきに評価した。それらの結果は、リナマラーゼ遺伝子を既に発現している腫瘍の場合では処理第7日を過ぎて(図7G)、そしてadenolisでの感染の場合には処理第11日を過ぎて(図7I)処理した腫瘍と未処理の腫瘍との間に有意差がある(p=00.5)ことが示され、これによりアデノウイルスでの処理の有効性が証明された。
【0061】
免疫不全マウスの脇腹およびイヌにおいて誘導された膠芽腫においてその系をアッセイした。膠芽腫細胞を脳定位固定法によってイヌに移植し、それによって腫瘍を形成させ、それを特許請求の範囲に記載する方法で処理する。
【0062】
本発明においてリナマラーゼ植物遺伝子を腫瘍細胞内に導入する手段としてプラスミド、レトロウイルスベクターおよびアデノウイルスベクターを使用した。一度、前記遺伝子が癌性細胞内に入ると、その遺伝子は発現され、リナマラーゼ酵素が合成された。リナマラーゼ酵素は細胞外部に自然に分泌され、そこでその酵素はそのリナマリン基質と遭遇し、注射によって動物に導入されたリナマリンがグルコースとアセトンシアノヒドリンへと分解される反応を触媒した。このアセトンシアノヒドリンは自然に2つの化合物、アセトンと、腫瘍細胞の死に関与するシアン化物を生成した。しかしながら、シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との組合せを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することによって腫瘍細胞の死を実行する他の方法も本発明の範囲内に入るであろう。さらに、発明の詳細な説明および表において用いたLinとGOの用量は、例示目的にのみ、本発明の可能性や有効性を確認するために記載したものであり、他の治療上有効な用量も本発明の範囲の一部をなすであろう。
【実施例】
【0063】
発明の実施形態の例:
実施例1.本発明の一態様を実施するためにとられた主要なステップ
アデノウイルスベクターを用いてリナマラーゼ遺伝子を、そしてリナマリンを腫瘍内に導入している、in vitroで培養されたWodinsky & Waker細胞系における療法の有効性の検証。
【0064】
実施例2.リナマラーゼを安定に発現する細胞系の獲得
W&Wイヌ膠芽腫細胞(Wodinsky, et al., 1969)を、CMV(588bp)プロモーター、続いて、イントロンと、遺伝子epolis(ヒトエリスロポエチンの排出の細胞外シグナルを伝達するリナマラーゼ)(1625bp)をクローニングしたポリクローン領域、その後、IRES(568bp)および遺伝子pac(ピューロマイシン耐性)(602bp)およびSV40のポリアデニル化シグナルを有するプラスミド pILE(6.9Kb)でトランスフェクトした。
【0065】
トランスフェクションには陽イオン性脂質、Lipofectamine Plus(Invitrogene)を企業の指示に従って使用した。2μgのDNA、12μlのLipofectamineおよび8μlの試薬Plusを使用した。リナマラーゼの安定発現種を1μg/mlのピューロマイシンでの選択により得、それをW&Wlisと呼ぶことにし、残る試験に用いた。
【0066】
実施例3.DNA含量解析
2〜5x105W&Wlis細胞を25cm2フラスコに播種した。24時間後、それらをリナマリン(500μl/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理した。各アッセイに適応される時間が経過した後、細胞を回収し、PBSで2回洗浄した。その細胞沈殿物を4℃で300μlのPBSに再懸濁した。続いて、攪拌下、−20℃で700μlの無水エタノールをゆっくりと加えることによってそれらを固定した。さらに24時間後、1%ウシ血清アルブミンを補給したPBSで細胞を洗浄し、ヨウ化プロピジウムを終濃度20μg/mlに加え、それを室温で1時間インキュベートした。データ収集および解析を、Cell Questプログラムを備えたFACSCalibur(DB Bioscience)フローサイトメーターを用いて行った。
【0067】
実施例4.アデノウイルスでの感染
105細胞(W&Wおよび患者外植片)を、フラット面を備えたねじ式キャップ付き試験管(Nunc)に播種し、または5x104細胞を24−ウェルプレート中のカバースリップ上に播種し、それらを同時に、異なる感染多重度(MOI:0;0.2;1;10;100または500)においてadenolis(Crucell)に感染させた。試験管に播種した細胞では24時間後に培地を換え、必要に応じて0.5mg/mlのリナマリンを加えた。リナマリン添加後96時間の時点でMTTにより細胞生存能力アッセイを行った。カバースリップに播種した細胞は、感染の48時間後に、リナマラーゼを検出するための免疫蛍光を実施するために処理をした。
【0068】
実施例5.処理中のミトコンドリアの構造的変化の解析
療法中のミトコンドリアの構造的変化を研究するために、W&W細胞およびW&Wlis細胞を、ミトコンドリアでのみ発現される赤色蛍光タンパク質の遺伝子を含むプラスミド pDsRed2−mito(Clontech, BD Bioscience)でトランスフェクトした。前節と同じようにトランスフェクションを行い、ネオマイシン耐性によってクローンを選択した(それぞれ、0.75mg/mlおよび1.5mg/ml)。前記タンパク質の安定発現クローン由来の細胞をマルチウェルプレート中カバースリップ(2.5x104)上に播種し、リナマリン(50μg/ml、200μg/mlまたは500μg/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理した。各試験に適したインキュベーション時間(24時間、48時間または72時間)が経過した後、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した。核をTo−Pro−3(Molecular Probes)を用いて1/500希釈で30分間染色した。ミトコンドリアの構造的変化は、Axiovert S100 TV(Zeiss)倒立顕微鏡と連結したRadiance2000(BioRad)共焦点系を用いて観察し、赤色フィルターおよび青色フィルターで0.2μm離れた連続した3つの平面を撮影し、それらを組み合わせた。
【0069】
実施例6.MTTによる細胞生存能力解析
細胞生存能力の指標となるミトコンドリアの酵素活性を、テトラゾリウム塩を用いることによって判定した。このアッセイでは、1試験管(HCNが抜け出るのを防ぐ、フラット面を備えたねじ式キャップ付き培養試験管;Nunc)当たり105細胞またはパラフィルムで閉じた24−ウェルプレートの1ウェル当たり104細胞を播種した。インキュベーションの24時間後、各試験に必要な濃度のリナマリン(50〜500μg/mlの間)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)を補給した新鮮培養培地を加えた。それが適用されたアッセイでは、培地にN−アセチルシステイン(10mM)、1,5−イソキノリンジオール(300μM)またはZ−VAD−fmk(100μM)を補給した。各試験に定められた時間(12〜96時間の間)の後に、培養培地を除去し、200μg/mLのMTT(3−[4,5−ジメチルチアゾ−2−イル]−2,5−ジフェニルテトラゾリウムブロミド)を含む新鮮培地を加えた。インキュベーションの1.5時間後、培地を除去し、3ml(試験管の場合)または1ml(24−ウェルプレートの場合)のジメチルスルホキシドを加えて、ホルマザンを溶かした。10分間後、サンプルの540nmでの吸光度を測定した。MTTは水性媒体に溶解するテトラゾリウム塩(黄色)であるが、ミトコンドリアデヒドロゲナーゼによって水性媒体に不溶性の化合物であるホルマザン(紫色)に変換される。
【0070】
実施例7.免疫蛍光
細胞を24−ウェルプレート中のカバースリップ上に播種し、各試験の要件に従って処理した。各アッセイに適したインキュベーション時間の後、細胞を4%パラホルムアルデヒドを用いて室温で30分間またはメタノールを用いて−20℃で10分間固定した。続いて、サンプルを、triton X−100または0.1%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を補給したPBSで10分間透過処理し、0.1%triton X−100および1%ウシ血清アルブミンを含むPBSとともに、または0.01%SDSおよび10%ウシ胎児血清を含むPBSとともに30分間インキュベートすることにより遮断した。その後、それらを一次抗体とともに室温で45分間または4℃で一晩インキュベートした。使用した抗体は抗リナマラーゼ(1/200、Monica Hughesによる供給品)および抗AIF(1/50、Cell Signaling Technology)であった。使用した二次抗体はフルオレセイン結合抗ウサギIgG(1/50、Amersham Pharmacia Biotech)であった。続いて、To−Pro−3(Molecular Probes)の1/500希釈物とともに30分間インキュベートして、核を染色した。サンプルをPBSで2回、そして蒸留H2Oで1回洗浄し、Mowiol−DABCOまたはPolong Gold Antifade(Invitrogen)封入剤を用いて顕微鏡用スライドに封入した。
【0071】
実施例8.細胞外過酸化物濃度の測定
解析するサンプルを1mlの0.1Mリン酸バッファーpH7.4で希釈した。次いで、3.7EU/mlのペルオキシダーゼ(Sigma-Aldrich, St. Louis, USA)および0.1mg/mlのオルト−ジアニシジン(Sigma-Aldrich, St. Louis, USA)を加えた。サンプルを室温で30分間インキュベートし、436nmでの吸光度を測定した。H2O2濃度は、H2O2の漸増濃度を用いて実施した標準直線より得られるデータの補間により得た。
【0072】
実施例9.ATPの測定
105W&Wlis細胞を、フラット面を備えたねじ式キャップ付き試験管(Nunc)に播種した。24時間後、培地を換え、必要に応じてリナマリン(500μg/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)を加えた。4時間、8時間、12時間、24時間、48時間または72時間後、細胞を遠心分離し、Roche Applied Science社のATP Bioluminescence Assay Kit CLS IIの使用説明書に従って処理した。発光はMonolight 2010 luminometer(Analytical Luminescence Laboratory, San Diego)で解析し、相対発光量(RLU)で表した。
【0073】
実施例10.フローサイトメトリーによる死の種類の解析(アネキシンV−FITC/IP)
105W&Wlis細胞を、フラット面を備えたねじ式キャップ付き試験管(Nunc)に播種した。24時間後、特定のケースにおいて、異なる量のリナマリン(50μg/ml、200μg/mlまたは500μg/ml)およびグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)を加えた。該当するアッセイでは、培地にN−アセチルシステイン(10mM)、1,5−イソキノリンジオール(300mμM)またはZ−VAD−fmk(100μM)を補給した。各アッセイに定められた時間(30時間、48時間、72時間または96時間)の後に、細胞を沈殿させ、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、トリプシン処理した。それらを1200rpmで5分間遠心分離し、細胞沈殿物を最初にPBSで、その後結合バッファー(0.1M Hepes/NaOH pH7.4、1.4M NaClおよび25mM CaCl2)で洗浄した。それらの細胞を再び沈殿させ、5μlのアネキシンV−FITCおよび2.5μg/mlのヨウ化プロピジウムを補給した100μlの結合バッファーに再懸濁した。それらのサンプルを暗所で15分間インキュベートした。データ収集および解析を、Cell Questプログラムを備えたFACSCalibur フローサイトメーター(DB Bioscience)を用いて行った。初期アポトーシス細胞は、アネキシンV−FITCについてのみ陽性標識を示す細胞であると考えられ、アネキシン−V−FITCおよびヨウ化プロピジウムの両方について陽性染色を示す場合には後期アポトーシスまたは壊死と考えられた。
【0074】
実施例11.患者膠芽腫外植片の初代培養物の獲得
実験動物からの腫瘍生検は、それらに処理を行うまで、20%SFTを含むMEM培地中で4℃で維持した。それらのサンプルを無菌条件でおよそ1mm3サイズに切った。次いで、コラゲナーゼ(106EU/ml)、0.1M HEPESバッファーpH7.4、ファンギゾン(0.5μg/ml)およびDNアーゼ(0.02%)を補給した、20%SFTを含むMEMを加え、室温で16時間インキュベートした。その後、消化されていない大きな断片をデカンテーションにより除去し、細胞を遠心分離により回収した。培養物形成までそれらの細胞を、20%SFTを含むMEMに播種した。一度培養物が形成されたら、いくつかのステップの後にその培地を10%SFTを含むDMEMと取り換えた。
【0075】
実施例12.免疫不全マウス腫瘍細胞を有する異種移植モデルにおける療法
体重およそ20gの2ヶ月齢免疫不全(ヌード系統)無胸腺マウスを用いた。それらのマウスの両脇腹に1〜2x106細胞(W&WまたはW&Wlis)を、0.1%グルコースを含む完全PBS(カルシウムおよびマグネシウムイオンを補給した)中50μl量の注射により皮下接種した。腫瘍のサイズ(pi π/6x高さx幅x長さ)はカリブレーター(calibrator)で測定した。
【0076】
大群のマウス(n=8)に、上記のとおり1〜2x106W&Wlis細胞を接種した。腫瘍が平均サイズ30〜50mm3に達したら、片脇腹の腫瘍を動物の体重1g当たり0.25mgのリナマリンおよび0.1EUのグルコースオキシダーゼで毎日処理した。未処理の腫瘍が約2000mm3のサイズに達したら、動物を犠牲にし、処理の終了とした。データはスチューデントt検定により統計的に解析し、有意水準を5%とした。
【0077】
リナマラーゼ遺伝子を有するアデノウイルスを用いた処理の場合、W&W細胞を接種したマウス(n=10)の腫瘍が30〜50%のサイズに達したら、処理サイクルを一方の脇腹に施した。そのサイクルの初日に、109IUのadenolisを接種し、シリンジを用いて腫瘍全体に分布させた。24時間の時点において、0.25mg/gのリナマリンに0.1EU/gのグルコースオキシダーゼを追加して用いて2日間の処理を施した。未処理の腫瘍が約2000mm3のサイズに達するまでこのサイクルを繰り返した。動物を犠牲にし、処理の終了とした。データをスチューデントt検定により統計的に解析し、有意水準を5%とした。
【0078】
表1.ヨウ化プロピジウムで標識するフローサイトメトリーによるDNA含量についての研究
【表1】
【0079】
表2.系の死の種類の特徴付け
【表2】
【0080】
表3.抗酸化剤の添加による死の阻害についての研究
【表3】
【0081】
表4.カスパーゼ阻害による死のパターンについての研究
【表4】
【0082】
表5.PARP阻害による死のパターンについての研究
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】プラスミド pdsRed2−mitoのトランスフェクションによる赤色のミトコンドリアと、To−Pro−3を用いた染色による青色の核とを有する細胞の共焦点顕微鏡画像を示す図である。未処理の対照細胞(A)、処理開始後48時間(B)および72時間(C)の時点でリナマリン(500μg/ml)で処理した細胞、グルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理した細胞(D)ならびに処理後24時間(EおよびF)または48時間(G)の時点でグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)とリナマリン(500μg/ml)との併用療法で処理した細胞についてのミトコンドリアパターンを表す画像を示す。
【図2(A)】W&Wlis細胞のミトコンドリア活性による細胞生存/死の解析を示す図である。リナマリンで処理した細胞についての経時的生存率を示す。
【図2(B)】W&Wlis細胞のミトコンドリア活性による細胞生存/死の解析を示す図である。リナマリンおよび5mEU/mlのグルコースオキシダーゼで処理した細胞についての経時的生存率を示す。
【図2(C)】処理に抗酸化剤(10mM NAC)を加えたときの細胞生存を示す図である。
【図2(D)】処理に抗酸化剤(10mM NAC)を加えたときの細胞生存を示す図である。
【図3(A)】細胞内ATPレベルの低下についての研究を示す図である。リナマリン(500μg/ml)および/またはグルコースオキシダーゼ(5mEU/ml)で処理したW&Wlis細胞において経時的に評価を行った。値は、各時点での2つの独立したサンプルについての、未処理の細胞から得られた値に対する相対発光量(RLU)百分率の平均±標準偏差を示す。
【図3(B)】細胞外での過酸化水素の生成を示す図である。
【図4】アネキシンV−FITCおよびヨウ化プロピジウムで標識するフローサイトメトリーによるW&Wlis細胞における系の死の種類の特徴付けを示す図である。
【図5】W&Wlis細胞における免疫蛍光によるAIF位置特定研究を示す図である。核はTo−Pro−3で標識されている。細胞を5mEU/mlのグルコースオキシダーゼ(A)で、またはグルコースオキシダーゼおよび500μg/mlのリナマリン(B)で処理した。
【図6】adenolisによる患者外植片細胞の感染についての研究を示す図である。adenolisに感染した患者の細胞 GB−LP−1(A)、GB−LP−2(B)、GB−LP−3(C)、GB−LP−4(D)、GB−LP−5(E)およびGB−RC−1(F)における免疫蛍光によるリナマラーゼの検出。500μg/mlのリナマリンの存在または不在下、異なる感染多重度(MOI)においてadenolisでの感染に対するGB−LP−1細胞のMTTによる生存率についての研究(G)。500μg/mlのリナマリンの存在下で異なるMOIにおいて感染させたGB−LP−1細胞におけるシアン化物の生成(μg/ml)(H)。グラフ(GおよびH)では3つの独立したサンプルの平均±標準偏差を示している。
【図7】免疫不全マウスにおける系の治療効果についての研究を示す図である。マウスにはW&Wlis細胞(A〜H)またはW&W細胞(IおよびJ)を両脇腹に接種し、各マウスを、0.1mg/gのリナマリン(A)、0.25mg/gのリナマリン(B)および0.35mg/gのリナマリン(C)で処理するか;または0.1mEU/mlのGOと、0.1mg/gのリナマリン(D)、0.25mg/gのリナマリン(E)および0.35mg/gのリナマリン(F)との併用療法で処理した。0.25mg/gのlinおよび0.1mEU/mlのGOを用いたW&Wlis腫瘍の治療の有効性についての研究(G)ならびに群のマウスの1つの代表的な画像(H)。0.25mg/gのlinおよび0.1mEU/mlのGOで処理した、W&W腫瘍を有するマウスにおけるadenolisを用いた併用療法についての研究(I)ならびに群のマウスの1つの代表的な画像(J)。グラフでは、経時的に、4匹のマウス(A、C、EおよびF)、6匹のマウス(BおよびD)、8匹のマウス(G)および10匹のマウス(I)のmm3で表される体積の平均±標準誤差を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系とを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することにより腫瘍細胞の死を引き起こすことが可能な系。
【請求項2】
請求項1に記載のカスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することにより腫瘍細胞の死を引き起こすことが可能な系が、
a.単一組成物中に組み合わされたシアン化物生成系および酸化的ストレス誘導系、または
b.独立した組成物中に存在するシアン化物生成系および酸化的ストレス誘導系
を含んでなる系。
【請求項3】
前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項4】
前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項5】
前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなり、かつ前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項6】
単一のウイルスまたは非ウイルスベクター中に組み合わされたリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項7】
独立したウイルスまたは非ウイルスベクター中にリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項8】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたリナマラーゼ遺伝子と、精製グルコースオキシダーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.aに記載の組成物。
【請求項9】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたリナマラーゼ遺伝子と、精製グルコースオキシダーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.bに記載の組成物。
【請求項10】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたグルコースオキシダーゼ遺伝子と、精製リナマラーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.aに記載の組成物。
【請求項11】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたグルコースオキシダーゼ遺伝子と、精製リナマラーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.bに記載の組成物。
【請求項12】
精製グルコースオキシダーゼタンパク質および精製リナマラーゼタンパク質またはそれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体を含んでなる、請求項2.aに記載の組成物。
【請求項13】
精製グルコースオキシダーゼタンパク質および精製リナマラーゼタンパク質またはそれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体を含んでなる、請求項2.bに記載の組成物。
【請求項14】
療法に用いるための、請求項2〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
腫瘍の治療に用いられる医薬組成物を製造するための、請求項2〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
請求項14または15に記載の医薬組成物、および薬学上許容される担体。
【請求項17】
制御放出系をさらに含んでなる、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記タンパク質のいずれかまたは両方が腫瘍抗原に対する抗体に結合されている、請求項8〜13のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる医薬組成物。
【請求項19】
乳癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
肺癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
頭頸部癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
膵臓癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前立腺癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
結腸癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
黒色腫の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
骨肉腫の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
腺癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
白血病の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
膠芽腫の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との組合せを含んでなり、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することにより腫瘍細胞の死を引き起こすためのin vitroにおける方法。
【請求項31】
前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなり、かつ前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
リナマラーゼおよび/またはグルコースオキシダーゼ酵素遺伝子を含んでなる1つのベクター/複数のベクターが使用される、請求項29〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
精製リナマラーゼおよび/またはグルコースオキシダーゼタンパク質またはそれらのタンパク質の誘導体、類似体もしくは断片のいずれかが使用される、請求項29〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記タンパク質のいずれかまたは両方のタンパク質が、制御放出系に挿入されている、請求項1〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記タンパク質のいずれかまたは両方のタンパク質が、腫瘍抗原に対して特異的な抗体に結合されている、請求項34または35に記載の方法。
【請求項1】
シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系とを含んでなる、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することにより腫瘍細胞の死を引き起こすことが可能な系。
【請求項2】
請求項1に記載のカスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することにより腫瘍細胞の死を引き起こすことが可能な系が、
a.単一組成物中に組み合わされたシアン化物生成系および酸化的ストレス誘導系、または
b.独立した組成物中に存在するシアン化物生成系および酸化的ストレス誘導系
を含んでなる系。
【請求項3】
前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項4】
前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項5】
前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなり、かつ前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項6】
単一のウイルスまたは非ウイルスベクター中に組み合わされたリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項7】
独立したウイルスまたは非ウイルスベクター中にリナマラーゼ遺伝子およびグルコースオキシダーゼ遺伝子を含んでなる、請求項2に記載の系。
【請求項8】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたリナマラーゼ遺伝子と、精製グルコースオキシダーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.aに記載の組成物。
【請求項9】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたリナマラーゼ遺伝子と、精製グルコースオキシダーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.bに記載の組成物。
【請求項10】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたグルコースオキシダーゼ遺伝子と、精製リナマラーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.aに記載の組成物。
【請求項11】
ウイルスまたは非ウイルスベクター中に導入されたグルコースオキシダーゼ遺伝子と、精製リナマラーゼタンパク質または前記タンパク質の類似体、断片もしくは誘導体とを含んでなる、請求項2.bに記載の組成物。
【請求項12】
精製グルコースオキシダーゼタンパク質および精製リナマラーゼタンパク質またはそれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体を含んでなる、請求項2.aに記載の組成物。
【請求項13】
精製グルコースオキシダーゼタンパク質および精製リナマラーゼタンパク質またはそれらのタンパク質の類似体、断片もしくは誘導体を含んでなる、請求項2.bに記載の組成物。
【請求項14】
療法に用いるための、請求項2〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
腫瘍の治療に用いられる医薬組成物を製造するための、請求項2〜13のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項16】
請求項14または15に記載の医薬組成物、および薬学上許容される担体。
【請求項17】
制御放出系をさらに含んでなる、請求項14または15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記タンパク質のいずれかまたは両方が腫瘍抗原に対する抗体に結合されている、請求項8〜13のいずれか一項に記載の組成物を含んでなる医薬組成物。
【請求項19】
乳癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
肺癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
頭頸部癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
膵臓癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前立腺癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
結腸癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
黒色腫の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
骨肉腫の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
腺癌の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
白血病の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項29】
膠芽腫の治療を目的とする、請求項16〜18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記シアン化物生成系と酸化的ストレス誘導系との組合せを含んでなり、カスパーゼ非依存性アポトーシスを活性化することにより腫瘍細胞の死を引き起こすためのin vitroにおける方法。
【請求項31】
前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記酸化的ストレス誘導系が、グルコースオキシダーゼ酵素の活性を含んでなり、かつ前記シアン化物生成系が、リナマラーゼ−リナマリン系を含んでなる、請求項29に記載の方法。
【請求項34】
リナマラーゼおよび/またはグルコースオキシダーゼ酵素遺伝子を含んでなる1つのベクター/複数のベクターが使用される、請求項29〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
精製リナマラーゼおよび/またはグルコースオキシダーゼタンパク質またはそれらのタンパク質の誘導体、類似体もしくは断片のいずれかが使用される、請求項29〜32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記タンパク質のいずれかまたは両方のタンパク質が、制御放出系に挿入されている、請求項1〜35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記タンパク質のいずれかまたは両方のタンパク質が、腫瘍抗原に対して特異的な抗体に結合されている、請求項34または35に記載の方法。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公表番号】特表2009−520773(P2009−520773A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546495(P2008−546495)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000702
【国際公開番号】WO2007/074191
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(504434051)ウニベルシダッド・アウトノマ・デ・マドリッド (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【国際出願番号】PCT/ES2006/000702
【国際公開番号】WO2007/074191
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(504434051)ウニベルシダッド・アウトノマ・デ・マドリッド (7)
【Fターム(参考)】
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