説明

腫瘍抗原を特異的に結合するモノクローナル抗体

四量体の形態のα−葉酸受容体に特異的に結合しかつ単量体の形態を結合しないモノクローナル抗体が提供される。該抗体は、ある種の癌、とりわけ、卵巣癌のようなα葉酸受容体(「FR−α」)の増大した細胞表面発現を有する癌の処置で有用である。該モノクローナル抗体、キメラおよびヒト化モノクローナル抗体のような抗体誘導体、抗体フラグメントを発現するハイブリドーマ細胞、該モノクローナル抗体、誘導体およびフラグメントを発現する哺乳動物細胞、ならびに該抗体、誘導体およびフラグメントを使用する癌の検出および処置方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との関係
本出願は、2003年5月23日出願の米国仮出願第60/472,940号(その内容は引用することにより本明細書に組み込まれる)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、四量体の形態のα−葉酸受容体に特異的に結合しかつ単量体の形態を結合しない新規モノクローナル抗体に関する。該抗体は、ある種の癌、とりわけ、卵巣癌のようなα−葉酸受容体(「FR−α」)の増大した細胞表面発現を有する癌の処置において有用である。本発明はまた、該モノクローナル抗体、キメラおよびヒト化モノクローナル抗体のような抗体誘導体、抗体フラグメントを発現するハイブリドーマ細胞、該モノクローナル抗体、誘導体およびフラグメントを発現する哺乳動物細胞、ならびに該抗体、誘導体およびフラグメントを使用する癌の検出および処置方法にも関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト膜葉酸結合タンパク質の2種の主要なアイソフォームαおよびβが存在する。該2種のアイソフォームは約70%のアミノ酸配列相同性を有しかつ数種の葉酸に対するそれらの立体特異性が劇的に異なる。双方のアイソフォームは胎児および成体双方の組織で発現されるとは言え、正常組織は一般に低ないし中程度の量のFR−βを発現する。FR−αは、しかしながら正常上皮細胞中で発現され、そしてしばしば多様な癌腫中で著しく上昇している(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5;非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8。非特許文献9;および非特許文献10)。FR−αは卵巣癌の90%以上で過剰発現されている(非特許文献11)。
【0004】
葉酸結合タンパク質に対する抗体の投与が卵巣癌の処置のための一戦略として提案された。
【0005】
1987年に、Miottiらは、ヒト卵巣癌細胞上の抗原を認識した3種の新たなモノクローナル抗体を記述した(非特許文献9)。これらのうち1種はMOv18と称され、絨毛癌細胞の表面上の38kDaのタンパク質を認識する。MOv18はネズミのIgG1 κ抗体であり、そして卵巣癌細胞株IGROV1の特異的細胞溶解を媒介する。Albertiら(非特許文献12)は、MOv18により認識される抗原がGPI結合型タンパク質であったことを示した。これはその後、ヒト葉酸結合タンパク質と同定された(非特許文献4)。Tomassettiらは、MOv18がIGROV1細胞中で可溶性の形態およびGPIアンカー型の形態の葉酸結合タンパク質を認識することを示した(非特許文献13)。その後の研究はマウスMOv18の可変領域をヒトIgG1(κ)定常領域と組合せてキメラ化MOv18抗体を創製した。該キメラ化抗体は、10〜100倍より低い抗体濃度でIGROV1細胞のより多くかつより特異的な溶解を媒介した(非特許文献14)。該38kDaの抗原が単量体の形態のFR−αであるとみられる。
【0006】
特許文献1は38kDaのタンパク質(FR−α)に結合するヒト化抗体を記述している。該抗体は、抗原にちなんで同一名称によりLK26と命名された。元のマウスモノクローナル抗体は特許文献2(特許文献3として公開されかつ米国で特許文献4として交付された)により記述された。
【0007】
卵巣癌は婦人科の悪性疾患による死亡の主要原因である。化学療法が推奨される処置でありかつ若干の成功を享受しているとは言え、5年生存期間はなお40%未満である。
【0008】
癌における抗体治療の困難な一問題は、しばしば抗体の標的が正常組織ならびに癌性組織により発現されることである。従って、癌細胞を殺すのに使用される抗体は正常細胞に対する有害な影響もまた有する。癌組織中で優先的に発現される独特の標的(1種若しくは複数)を見出すことが多くの癌で困難と判明している。正常組織との反応性の問題を回避する卵巣および他のFR−αをもつ癌に対するより効果的な抗体治療が必要とされる。
【特許文献1】米国特許第5,952,484号明細書
【特許文献2】欧州特許出願第86104170.5号明細書
【特許文献3】欧州特許第EP0197435号明細書
【特許文献4】米国特許第4,851,332号明細書
【非特許文献1】Rossら(1994)Cancer 73(9):2432−2443
【非特許文献2】Rettingら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3110−3114
【非特許文献3】Campbellら(1991)Cancer Res.51:5329−5338
【非特許文献4】Coneyら(1991)Cancer Res.51(22):6125−6132
【非特許文献5】Weitmanら(1992)Cancer Res.52:3396−3401
【非特許文献6】Garin−Chesaら(1993)Am.J.Pathol.142:557−567
【非特許文献7】Holmら(1994)APMIS 102:413−419
【非特許文献8】Franklinら(1994)Int.J.Cancer 8(Suppl.):89−95
【非特許文献9】Miottiら(1987)Int.J.Cancer 39(3):297−303
【非特許文献10】Vegglanら(1989)Tumori 75:510−513
【非特許文献11】SudimackとLee(2000)Adv.Drug.Deliv.Rev.41(2):147−62
【非特許文献12】Albertiら(1990)Biochem.Biophys.Res.Commun.171(3):1051−1055
【非特許文献13】Tomassettiら(1993)FEBS Lett.317(1−2):143−146
【非特許文献14】Coneyら(1994)Cancer Res.54(9):2448−2455
【発明の開示】
【0009】
[発明の要約]
FR−αを過剰発現する腫瘍が四量体の形態のFR−αの形成に好都合である傾向があることが発見された。いずれかの特定の理論により束縛されることを意図するものではないが、四量体の形態のFR−αの形成が腫瘍細胞の表面上のより大量のFR−αの蓄積による質量効果により駆動されると考えられる。以前、他の研究者らは、それらの疎水性の尾部を介してTriton X−100ミセル中に挿入されたFR−αを表した、ゲル濾過アッセイでのより高分子量の種のFR−αを見出したのみであった(Holmら(1997)Biosci.Reports 17(4):415−427)。腫瘍の表面上の四量体の形態のFR−αは以前に記述されていない。
【0010】
本発明は、(a)mAb LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか;(b)mAb LK26よりも大きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適性を有する、点においてmAb LK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合しかつ単量体の形態を結合しない抗体を提供する。
【0011】
本発明の抗体は、最低約1×10−7M、1×10−8M、1×10−9M、1×10−10M、1×10−11M若しくは1×10−12Mの親和性を有し、そしてジスルフィド依存性の1エピトープを認識する。
【0012】
本発明の抗体は、限定されるものでないが、ヒト−マウスキメラ抗体を挙げることができるキメラ抗体でありうる。本発明の抗体はまたヒト化抗体でもありうる。本発明はまた:本発明の抗体を発現するハイブリドーマ細胞;本発明の抗体をコードするポリヌクレオチド;本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含んでなるベクター;および本発明のベクターを含んでなる発現細胞も提供する。
【0013】
本発明はまた、(a)mAb LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか;(b)mAb LK26よりも大きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適性を有する、点においてmAb LK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合しかつ単量体の形態を結合しない抗体の製造方法も提供する。本発明の抗体を発現するハイブリドーマ細胞若しくは本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを含んでなる発現細胞を培養する段階を含んでなる方法。本発明の発現細胞は昆虫細胞、および動物細胞、好ましくは哺乳動物細胞でありうる。
【0014】
本発明はさらに、(a)LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか;(b)LK26よりも大きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適正を有する、点においてLK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合する抗体を含んでなる組成物を、異形成細胞(dysplastic cells)を伴う患者に投与することを含んでなる、FR−αの増大した発現と関連するこうした異形成細胞の増殖の阻害方法を提供する。該方法は、限定されるものでないが卵巣癌を挙げることができる多様な異形成状態に使用しうる。好ましい態様において、患者はヒト患者である。いくつかの態様において、該抗体は、限定されるものでないが放射性核種、毒素および化学療法剤を挙げることができる免疫毒性剤に結合される。
[発明の詳細な記述]
本明細書に引用されるGenBankデータベース配列への受託番号を包含する参照研究、特許、特許出願および学術論文は、当業者の知識を確立し、そして、これにより、それぞれが引用することにより組込まれることをとりわけおよび個々に示された場合と同一の程度までそっくりそのまま引用することにより組込まれる。本明細書で引用されるいずれかの参考文献と本明細の特定の教示との間のいかなる矛盾も後者に好都合に解決されるべきである。同様に、語若しくは句の技術に理解される定義と本明細でとりわけ教示されるところの該語若しくは句の定義との間のいかなる矛盾も後者に好都合に解決されるべきである。
【0015】
当業者に既知の組換えDNA技術の一般原理を示す標準的な参照研究は、Ausubelら、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、John Wiley & Sons、ニューヨーク(1998);Sambrookら MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク州プレインビュー(1989);Kaufmanら編、HANDBOOK OF MOLECULAR AND CELLULAR METHODS IN BIOLOGY AND MEDICINE、CRC Press、ボカレイトン(1995);McPherson編、DIRECTED MUTAGENESIS:A PRACTICAL APPROACH、IRL Press、オックスフォード(1991)を包含する。
【0016】
本発明は、四量体の形態の哺乳動物のFR−αに特異的に結合するモノクローナル抗体を使用する癌細胞の増殖および腫瘍性疾患の進行の低下方法を提供する。本発明の方法を使用して、ヒトを包含する哺乳動物における癌細胞の増殖および癌の進行を調節しうる。阻害されうる癌細胞は、正常ヒト組織に関してFR−αの増大した発現を有する全部の癌細胞、とりわけ卵巣癌細胞を包含する。
【0017】
いずれかの特定の操作理論により束縛されることを願うことなく、癌細胞中でのFR−αの増大した発現は、細胞の表面上で四量体の形態のFR−αを形成する単量体の形態のFR−αの増大した会合をもたらすと考えられる。従って、癌細胞は正常組織に関して四量体の形態のFR−αの増大した発現を有する。従って、四量体の形態のFR−αは癌における抗体治療のための理想的な標的である。
【0018】
本明細書で使用されるところの「エピトープ」という用語は、モノクローナル抗体が特異的に結合する抗原の部分を指す。
【0019】
本明細書で使用されるところの「コンホメーションエピトープ」という用語は、間断のない一連のアミノ酸以外の抗原のアミノ酸間の空間的関係により形成される不連続的なエピトープを指す。
【0020】
本明細書で使用されるところの「四量体の」という用語は、4個の同一の若しくはほぼ同一の単位の一群を指す。
【0021】
本明細書で使用されるところの「単量体の」という用語は、他の単位と群に集成する成熟タンパク質の単一の単位を指す。
【0022】
本明細書で使用されるところの「in vitroでの異形成細胞の増殖の阻害」という用語は、培養物中の腫瘍細胞の数の約5%、好ましくは10%、より好ましくは20%、より好ましくは30%、より好ましくは40%、より好ましくは50%、より好ましくは60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、および最も好ましくは100%の減少を意味している。腫瘍細胞の増殖のin vitroでの阻害はGEO細胞ソフトアガーアッセイのような当該技術分野で既知のアッセイにより測定しうる。
【0023】
本明細書で使用されるところの「in vivoでの異形成細胞の増殖の阻害」という用語は、動物中の腫瘍細胞の数の約5%、好ましくは10%、より好ましくは20%、より好ましくは30%、より好ましくは40%、より好ましくは50%、より好ましくは60%、より好ましくは70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、および最も好ましくは100%の減少を意味している。腫瘍細胞の増殖のin vivoでの調節は当該技術分野で既知のアッセイにより測定しうる。
【0024】
本明細書で使用されるところの「異形成細胞」は異常な増殖を表す細胞を指す。異形成細胞は、限定されるものでないが腫瘍、過形成などを挙げることができる。
【0025】
「予防すること」という用語は、生物体が異常な状態と接触またはそれを発生する確率を低下させることを指す。
【0026】
「処置すること」という用語は、生物体において治療効果を有することおよび異常な状態を少なくとも部分的に軽減若しくは阻止することを指す。処置することは、阻害された腫瘍増殖の維持および寛解の誘導を包含する。
【0027】
「治療効果」という用語は異常な状態の阻害を指す。治療効果は異常な状態の症状の1種若しくはそれ以上をなんらかの程度まで緩和する。異常な状態の処置に関して、治療効果は以下、すなわち(a)細胞の増殖、成長および/若しくは分化の増大若しくは減少;(b)in vivoでの腫瘍細胞の増殖の阻害(すなわち減速若しくは停止);(c)細胞死の促進;(d)変性の阻害;(e)異常な状態と関連する症状の1種若しくはそれ以上のなんらかの程度までの緩和;ならびに(f)細胞の集団の機能を高めることの1種もしくはそれ以上を指すことができる。本明細書に記述されるモノクローナル抗体およびそれらの誘導体は、単独でまたは本発明の組成物の複合物若しくは付加的な成分とともに治療効果を達成する。
【0028】
本明細書で使用されるところの「癌の進行を阻害する」という用語は、未処置の癌細胞の末期疾患への調節に関して腫瘍性疾患の末期癌への調節を遅らせる処置の活性を指す。
【0029】
本明細書で使用されるところの「約」という用語は、許容できる範囲内の述べられた値の近似値を指す。好ましくは、該範囲は述べられた値の+/−5%である。
【0030】
本明細書で使用されるところの「腫瘍性疾患」という用語は組織の細胞の異常な増殖により示される状態を指す。
抗体
本発明の抗体は四量体の形態のFR−αを特異的に結合しかつ単量体の形態のFR−αを結合しない。いくつかの態様において、該抗体はLK26と同一のエピトープに結合する。他の態様において、該抗体はLK26により結合されるもの以外のエピトープに結合する。
【0031】
好ましい抗体、および本発明の方法での使用に適する抗体は、例えば、完全にヒトの抗体、ヒト抗体ホモログ、ヒト化抗体ホモログ、キメラ抗体ホモログ、Fab、Fab’、F(ab’)およびF(v)抗体フラグメント、一本鎖抗体、ならびに抗体H若しくはL鎖の単量体若しくは二量体またはそれらの混合物を包含する。
【0032】
本発明の抗体は、タイプIgA、IgG、IgE、IgD、IgM(ならびにそれらのサブタイプ)を包含するいかなるアイソタイプの無傷の免疫グロブリンも包含しうる。免疫グロブリンのL鎖はκ若しくはλでありうる。
【0033】
本発明の抗体は、抗原結合特異性を保持する無傷の抗体の部分、例えばFabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(v)フラグメント、H鎖単量体若しくは二量体、L鎖単量体若しくは二量体、1本のH鎖および1本のL鎖よりなる二量体などを包含する。従って、上述される抗体由来の抗原結合フラグメントならびに完全長の二量体若しくは三量体ポリペプチドはそれら自体有用である。
【0034】
本発明の発現細胞は、例えばスポドプテラ フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)細胞のような既知のいかなる昆虫発現細胞株も包含する。発現細胞株はまた例えばビール酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)および分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)細胞のような酵母細胞株でもありうる。発現細胞はまた、例えばチャイニーズハムスター卵巣、ベビーハムスター腎細胞、ヒト胎児腎株293、正常イヌ腎細胞株、正常ネコ腎細胞株、サル腎細
胞、アフリカミドリザル腎細胞、COS細胞、ならびに非腫瘍原性マウス筋芽細胞G8細胞、線維芽細胞株、骨髄腫細胞株、マウスNIH/3T3細胞、LMTK31細胞、マウスセルトリ細胞、ヒト子宮頚癌細胞、バッファロー系ラット肝細胞、ヒト肺細胞、ヒト肝細胞、マウス乳腺癌細胞、TRI細胞、MRC 5細胞およびFS4細胞のような哺乳動物細胞でもありうる。
【0035】
「キメラ抗体」は、免疫グロブリンのL鎖、H鎖若しくは双方のヒンジおよび定常領域の全部若しくは一部が別の動物の免疫グロブリンL鎖若しくはH鎖からの対応する領域の代わりに用いられている組換えDNA技術により製造される抗体である。こうして、親モノクローナル抗体の抗原結合部分が別の種の抗体のバックボーンにグラフトされる。Winterらへの欧州特許第EP 0239400号明細書に記述される一アプローチは、ヒトHおよびL鎖免疫グロブリン可変領域ドメインからの相補性決定領域(CDR)をマウス可変領域ドメインからのCDRで置換することのような、1種のCDRでの他の種のものの代用を記述している。これらの変えられた抗体をその後、ヒト免疫グロブリン定常領域と組合せて、該抗原に特異的である置換されたネズミのCDR以外ヒトである抗体を形成しうる。抗体のCDR領域のグラフト方法は、例えばRiechmannら(1988)Nature 332:323−327およびVerhoeyenら(1988)Science 239:1534−1536に見出しうる。
【0036】
キメラ抗体は、キメラ抗体がより少ないネズミのアミノ酸配列を含有するよりも、ヒトにおいて免疫応答を導き出すという問題を回避すると考えられた。ヒト治療薬としてのげっ歯類MAbの直接使用が、げっ歯類由来抗体で処置した患者のかなりの数で発生したヒト抗げっ歯類抗体(「HARA」)応答につながったことが見出された(Khazaeliら(1994)Immunother.15:42−52)。
【0037】
制限しない一例として、CDRグラフトの一実施方法は、標的抗原(例えばFR−α)に結合する目的の抗体のマウスHおよびL鎖を配列決定すること、ならびにCDR DNA配列を遺伝子的に工作しかつこれらのアミノ酸配列を部位特異的突然変異誘発により対応するヒトV領域に置くことにより実施しうる。所望のアイソタイプのヒト定常領域遺伝子セグメントが付加され、そして「ヒト化」HおよびL鎖遺伝子が哺乳動物細胞中で共発現されて可溶性ヒト化抗体を産生する。典型的な発現細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。キメラ抗体の適する創製方法は例えばJonesら(1986)Nature 321:522−525;Riechmann(1988)Nature
332:323−327;Queenら(1989)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:10029;およびOrlandiら(1989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:3833に見出しうる。
【0038】
HARA応答の問題を回避するための抗体のさらなる改良は「ヒト化抗体」の開発に至った。ヒト化抗体は組換えDNA技術により製造され、ここでは抗原結合に必要とされないヒト免疫グロブリンL若しくはH鎖のアミノ酸の少なくとも1個が、ヒト以外の哺乳動物の免疫グロブリンL若しくはH鎖からの対応するアミノ酸の代わりに用いられている。例えば、免疫グロブリンがマウスモノクローナル抗体である場合、抗原結合に必要とされない最低1個のアミノ酸を、対応するヒト抗体上でその位置に存在するアミノ酸を使用して置換する。いずれかの特定の操作理論により束縛されることを願うことなく、モノクローナル抗体の「ヒト化」は外来の免疫グロブリン分子に対するヒトの免疫学的反応を阻害すると考えられる。
【0039】
Queenら(1989)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 86:10029−10033および第WO 90/07861号明細書はヒト化抗体の製造法を記述している。ヒトおよびマウスの可変枠組み領域を至適のタンパク質配列相同性のため選んだ。マウスの可変領域の三次構造をコンピュータモデル化し、そしてアミノ酸残基のマウスCDRとの至適の相互作用を示すように相同なヒト枠組みに重ね合わせた。これは抗原に対する改良された結合親和性(CDRグラフトキメラ抗体の作成に際して典型的には低下する)をもつ抗体の開発につながった。ヒト化抗体の作成への代替のアプローチは当該技術分野で既知であり、かつ、例えばTempest(1991)Biotechnology 9:266−271に記述されている。
【0040】
「一本鎖抗体」は、免疫グロブリンHおよびL鎖フラグメントが工作されたアミノ酸スパンを介してF領域に結合されている、組換えDNA技術により形成される抗体を指す。米国特許第4,694,778号明細書;Bird(1988)Science 242:423−442;Hustonら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879−5883;Wardら(1989)Nature 334:54454;Skerraら(1988)Science 242:1038−1041に記述されるものを包含する多様な一本鎖抗体生成方法が既知である。
【0041】
本発明の抗体は、単独で若しくは細胞傷害剤との免疫複合物として使用しうる。いくつかの態様において、細胞傷害剤は、限定されるものでないが鉛−212、ビスマス−212、アスタチン−211、ヨウ素−131、スカンジウム−47、レニウム−186、レニウム−188、イットリウム−90、ヨウ素−123、ヨウ素−125、臭素−77、インジウム−111、およびホウ素−10若しくはアクチニドのような分裂性核種を挙げることができる放射性同位元素である。他の態様において、細胞傷害剤は、限定されるものでないがリシン、修飾シュードモナス属(Pseudomonas)腸毒素A、カリチェアミシン、アドリアマイシンおよび5−フルオロウラシルなどを挙げることができる公知の毒素および細胞傷害性の薬物である。こうした細胞傷害剤への抗体および抗体フラグメントの結合は文献中で公知である。
【0042】
本発明の抗体は、例えば抗体がそのエピトープに結合することを共有結合が予防しないような、抗体へのいずれかの型の分子の共有結合により改変されている誘導体を包含する。適する誘導体の例は、限定されるものでないが、グリコシル化された抗体およびフラグメント、アセチル化された抗体およびフラグメント、ペギル化された抗体およびフラグメント、リン酸化された抗体およびフラグメント、ならびにアミド化された抗体およびフラグメントを挙げることができる。本発明の抗体およびそれらの誘導体は、既知の保護/封鎖基、タンパク質分解性切断、細胞リガンド若しくは他のタンパク質への結合などによりそれら自身が誘導体化されうる。さらに、本発明の抗体およびそれらの誘導体は、1個若しくはそれ以上の非古典的アミノ酸を含有しうる。
【0043】
本発明はまた、卵巣癌患者の末梢血単核細胞由来のもののような完全にヒトの抗体も包含する。こうした細胞を例えば骨髄腫細胞に融合してFR−αに対する完全にヒトの抗体を産生するハイブリドーマ細胞を生じうる。
【0044】
いずれかの特定の操作理論により束縛されることを願うことなく、本発明の抗体は、該抗体の双方の「腕」(Fabフラグメント)が、四量体を構成する個別のFR−α分子に結合するため、該抗体の増大した親和性により四量体の形態のFR−αを結合するのにとりわけ有用であると考えられる。これは、該抗体の解離(K)の減少および観察される親和性(K)の全体的な増大につながる。本発明の抗体は正常組織よりも腫瘍組織により強固に結合することができるため、これは、腫瘍に標的を定めるためのとりわけ良好な特徴である。
FR−αに対する抗体の製造方法
動物の免疫
本発明はまた、四量体の形態のFR−αに特異的に結合するモノクローナル抗体の製造
方法も提供する。四量体のFR−αは、タンパク質を単離および精製するための多様な公知の技術を使用して細胞若しくは組換え系から精製しうる。例えば、しかし制限としてでなく、四量体のFR−αは、SDS−PAGEゲル上でタンパク質を泳動すること、および該タンパク質をメンブレンにブロッティングすることにより、タンパク質の見かけの分子量に基づいて単離しうる。その後、四量体の形態のFR−αに対応するおよその大きさのバンドをメンブレンから切断し、そして動物で免疫原として直接、若しくはメンブレンからタンパク質を最初に抽出若しくは溶出することにより使用しうる。別法の一例として、該タンパク質は、単独若しくは他の単離および精製手段とともにサイズ排除クロマトグラフィーにより単離しうる。他の精製手段は、Zola、MONOCLONAL ANTIBODIES:PREPARATION AND USE OF MONOCLONAL ANTIBODIES AND ENGINEEREDANTIBODY DERIVATIVES(BASICS:FROM BACKGROUND TO BENCH)Springer−Verlag Ltd.、ニューヨーク、2000;BASIC METHODS IN ANTIBODY PRODUCTION AND CHARACTERIZATION、第11章、“Antibody Purification Methods”、HowardとBethell編、CRC Press、2000;ANTIBODY ENGINEERING(SPRINGER LAB MANUAL)、KontermannとDubel編、Springer−Verlag、2001のような標準的参照教科書で入手可能である。
【0045】
FR−αに対する抗体の一生成戦略は、四量体の形態のFR−αで動物を免疫することを必要とする。そのように免疫された動物は該タンパク質に対する抗体を産生することができる。限定されるものでないが、ハイブリドーマ技術(KohlerとMilstein(1975)Nature 256:495−497を参照されたい);トリオーマ技術;ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kozborら(1983)Immunol.Today 4:72を参照されたい)およびヒトモノクローナル抗体を産生させるためのEBVハイブリドーマ技術(Coleら MONOCLONAL ANTIBODIES AND CANCER THERAPY、Alan R.Liss,Inc.、1985中、pp.77−96を参照されたい)を挙げることができる、モノクローナル抗体の標準的創製方法が既知である。
抗体特異性についてのスクリーニング
四量体の形態のFR−αに特異的に結合する抗体のスクリーニングは、マイクロタイタープレートを四量体の形態のFR−αで被覆する酵素結合免疫測定法(ELISA)を使用して達成しうる。陽性に反応するクローンからの抗体を、単量体の形態のFR−αで被覆したマイクロタイタープレートを使用する単量体の形態のFR−αに対するELISAに基づくアッセイにおける反応性についてさらにスクリーニングし得る。単量体の形態のFR−αに対し反応性である抗体を産生するクローンを除外し、そして四量体の形態に対してのみ反応性である抗体を産生するクローンをさらなる拡張および開発のため選択する。
【0046】
四量体の形態のFR−αに対する抗体の反応性の確認は、例えば、卵巣癌細胞からのタンパク質ならびに精製した四量体および単量体のFR−αを還元および非還元条件下でSDS−PAGEゲル上で泳動し、そしてその後メンブレンにブロッティングするウエスタンブロットを使用して達成しうる。メンブレンをその後推定の抗四量体FR−α抗体でプロービングしうる。非還元条件下での152kDaの形態のFR−αとの反応性および38kDaの形態のFR−αと反応しないこと(還元若しくは非還元条件下で)は、四量体の形態のFR−αに対する反応性の特異性を確認する。
【0047】
本発明の抗体およびそれらの誘導体は、1×10−2M未満の解離定数(K)を包含する結合親和性を有する。いくつかの態様において、Kは1×10−3未満である。他
の態様において、Kは1×10−4未満である。いくつかの態様において、Kは1×10−5未満である。なお他の態様において、Kは1×10−6未満である。他の態様において、Kは1×10−7未満である。他の態様において、Kは1×10−8未満である。他の態様において、Kは1×10−9未満である。他の態様において、Kは1×10−10未満である。なお他の態様において、Kは1×10−11未満である。いくつかの態様において、Kは1×10−12未満である。他の態様において、Kは1×10−13未満である。他の態様において、Kは1×10−14未満である。なお他の態様において、Kは1×10−15未満である。
抗体の製造
本発明の抗体はin vivoでもin vitroでも製造しうる。in vivo抗体製造のためには、動物を一般にFR−αの免疫原性の部分(好ましくは四量体のFR−α)で免疫する。抗原は一般に、免疫原性を促進するためにアジュバントと組み合わせる。アジュバントは免疫化に使用する種に従って変動する。アジュバントの例は、限定されるものでないが:フロイントの完全アジュバント(「FCA」)、フロイントの不完全アジュバント(「FIA」)、鉱物ゲル(例えば水酸化アルミニウム)、表面活性物質(例えばリソレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン)、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン(「KLH」)、ジニトロフェノール(「DNP」)、ならびにカルメット−ゲラン桿菌(「BCG」)および?瘡菌(corynebacterium parvum)のような潜在的に有用なヒトアジュバントを挙げることができる。こうしたアジュバントもまた当該技術分野で公知である。
【0048】
免疫化は公知の手順を使用して達成しうる。用量および免疫化レジメンは、免疫される哺乳動物の種、その免疫状態、体重および/若しくは計算された表面積などに依存することができる。典型的には、免疫した哺乳動物から血清をサンプリングし、そして例えば下述されるところの適切なスクリーニングアッセイを使用して抗FR−α抗体についてアッセイする。
【0049】
免疫した動物からの脾細胞は、(抗体産生B細胞を含有する)脾細胞を骨髄腫株のような不死細胞系と融合することにより不死化しうる。典型的には、骨髄腫細胞株は脾細胞ドナーと同一種からである。一態様において、不死細胞株は、ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含有する培地(「HAT培地」)に感受性である。いくつかの態様において、骨髄腫細胞はエプスタイン−バーウイルス(EBV)感染について陰性である。好ましい態様において、骨髄腫細胞はHAT感受性、EBV陰性かつIg発現陰性である。いかなる適する骨髄腫も使用しうる。マウス骨髄腫細胞株(例えばP3−NS1/1−Ag4−1、P3−x63−Ag8.653若しくはSp2/O−Ag14骨髄腫株)を使用してマウスハイブリドーマを生成させうる。これらマウス骨髄腫株はATCCから入手可能である。これらの骨髄腫細胞を、ドナー脾細胞ポリエチレングリコール(「PEG」)、好ましくは1500の分子量のポリエチレングリコール(「PEG1500」)に融合する。該融合から生じるハイブリドーマ細胞をHAT培地(未融合および非生産的に融合した骨髄腫細胞を殺す)中で選択する。未融合の脾細胞は培養物中で短時間で死ぬ。いくつかの態様において、骨髄腫細胞は免疫グロブリン遺伝子を発現しない。
【0050】
下述されるもののようなスクリーニングアッセイにより検出される所望の抗体を産生するハイブリドーマを、培養物若しくは動物中で抗体を産生するのに使用しうる。例えば、ハイブリドーマ細胞を、該ハイブリドーマ細胞にモノクローナル抗体を培地中に分泌させるのに十分な条件下かつ時間の間、栄養培地中で培養しうる。これらの技術および培地は当業者により公知である。あるいは、ハイブリドーマ細胞を未免疫の動物の腹腔に注入しうる。細胞が腹腔中で増殖しそして抗体を分泌し、抗体は腹水として蓄積する。腹水を、モノクローナル抗体の豊富な供給源として、シリンジで腹腔から抜き出しうる。
【0051】
ヒト抗体の別の制限しない製造方法は、それら自身の内因性の免疫グロブリン遺伝子が不活性化されている、別の種(例えばヒト)の抗体を産生するトランスジェニック哺乳動物を記述する米国特許第5,789,650号明細書に記述されている。異種抗体の遺伝子はヒト免疫グロブリン遺伝子によりコードされる。再配列されていない免疫グロブリンをコードする領域を含有する導入遺伝子をヒト以外の動物に導入する。生じるトランスジェニック動物は、導入遺伝子の免疫グロブリン配列を機能的に再配列しかつヒト免疫グロブリン遺伝子によりコードされる多様なアイソタイプの抗体のレパートリーを産生することが可能である。その後、トランスジェニック動物からのB細胞を、不死化細胞株(例えば骨髄腫細胞)との融合を包含する多様な方法のいずれかにより不死化する。
【0052】
FR−αに対する抗体は、当該技術分野で既知の多様な技術を使用してin vitroでもまた製造しうる。例えば、しかし制限としてでなく、FR−αに対する完全にヒトのモノクローナル抗体を、in vitroでプライミングしたヒト脾細胞を使用することにより製造しうる(Boernerら(1991)J.Immunol.147:86−95)。
【0053】
あるいは、例えば、本発明の抗体は「レパートリークローニング」(Perssonら(1991)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 88:2432−2436;およびHuangとStollar(1991)J.Immunol.Methods
141:227−236)により製造しうる。さらに、米国特許第5,789,230号明細書は、エプスタイン−バーウイルス核抗原2(EBNA2)を発現する、エプスタイン−バーウイルスへの感染により不死化されているヒトB抗体産生B細胞からのヒトモノクローナル抗体の製造を記述している。不死化に必要とされるEBNA2をその後不活性化して、増大した抗体力価をもたらす。
【0054】
別の態様において、FR−αに対する抗体を末梢血単核細胞(「PBMC」)のin vitro免疫化により生じさせる。これは、例えば文献(Zafiropoulosら(1997)J.Immunological Methods200:181−190)に記述される方法を使用するような、当該技術分野で既知のいずれかの手段により達成しうる。
【0055】
本発明の一態様において、in vitro免疫化のための手順は、PMS1、PMS2、PMS2−134、PMSR2、PMSR3、MLH1、MLH2、MLH3、MLH4、MLH5、MLH6、PMSL9、MHS1およびMSH2のようなミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブなアレルが脾細胞の融合後にハイブリドーマ細胞に若しくは融合前に骨髄腫細胞に導入されるハイブリドーマ細胞の定方向進化で補足される。ドミナントネガティブな変異体を含有する細胞は超可変となりかつトランスフェクトされていない対照細胞よりも高率で突然変異を蓄積することができる。変異細胞のプールを、より高親和性の抗体を産生する、またはより高力価の抗体を産生する、またはある条件下で単純により速く若しくはより良好に増殖するクローンについてスクリーニングしうる。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブなアレルを使用する超可変細胞の生成技術は、2000年11月14日交付の米国特許第6,146,894号明細書に記述されている。あるいは、2002年7月18日公開の第WO 02/054856号明細書、“Chemical Inhibitors of Mismatch Repair”(ミスマッチ修復の化学的阻害剤)においてNicolaidesらにより記述されるミスマッチ修復の化学的阻害剤を使用して、ミスマッチ修復を阻害しうる。ミスマッチ修復遺伝子のドミナントネガティブなアレル若しくはミスマッチ修復の化学的阻害剤を使用する抗体の増強方法を、クローン化した免疫グロブリン遺伝子を発現する哺乳動物発現細胞に同様に適用しうる。ドミナントネガティブなアレルを発現する細胞は、該細胞がもう一度遺伝的に安定になりかつもはや異常な高速で突然変異を蓄積しないような、該ドミナントネガティブなアレルのスイッチが切られ得る、誘導可能な場合は細胞から排除され得るなどの点において「治癒」され得る。
腫瘍細胞の増殖の低下方法
本発明の方法は、FR−αの増大した発現と関連する腫瘍性状態を有すると同定されたヒトおよびヒト以外の動物での使用に適する。本発明から利益を得るヒト以外の動物は、愛玩動物、外来種(例えば動物園の動物)および家畜を包含する。好ましくは、ヒト以外の動物は哺乳動物である。
【0056】
本発明は、正常細胞に関して新生物中でのFR−αの増大した発現により示される異形成障害を有すると同定されるヒト若しくは動物患者での使用に適する。こうした状態のための処置が必要とこうした患者が一旦同定されれば、本発明の方法を適用して該状態の処置を遂げうる。処置されうる腫瘍は、限定されるものでないが卵巣腫瘍、腎腫瘍、肺腫瘍、ファローピウス管腫瘍、子宮腫瘍およびある種の白血病細胞を挙げることができる。
【0057】
本発明での使用のための抗体およびそれらの誘導体は、カプセル剤、錠剤、水性懸濁剤、溶液などのようないずれの許容できる投薬形態物でも経口投与しうる。該抗体およびそれらの誘導体はまた非経口でも投与しうる。それは以下の投与経路、すなわち皮下、静脈内、筋肉内、動脈内、滑液包内、胸骨内、鼻内、局所で、硬膜下腔内、肝内、病変内および頭蓋内注入(injection)若しくは注入(infusion)技術を介する。一般に、該抗体および誘導体は筋肉内若しくは静脈内注入として提供することができる。
【0058】
本発明の抗体および誘導体は、単独で、若しくは許容できる補助物質、ベヒクルおよび賦形剤を包含する製薬学的に許容できる担体とともに投与しうる。
【0059】
有効投薬量は多様な因子に依存することができ、また、体重、処置の最終目標、最高耐量、使用される特定の製剤、投与経路などのような多様なパラメータに従って所定の患者について投薬量を調節することは熟練した医師の権限の範囲内に十分にある。一般に、1日あたり約0.001と約100mg/kg体重の間の抗体若しくはその誘導体の投薬量レベルが適する。いくつかの態様において、用量は1日あたり約0.1ないし約50mg/kg体重の抗体若しくはその誘導体であることができる。他の態様において、用量は約0.1mg/kg体重/日ないし約20mg/kg体重/日であることができる。なお他の態様において、用量は約0.1mg/kg体重/日ないし約10mg/kg体重/日であることができる。投与はボーラスとしてでも注入としてでもよい。投薬量は1日1回若しくは1日に複数回与えてよい。さらに、投薬量は複数回のある時間与えてもよい。いくつかの態様において、用量は1〜14日ごとに与える。いくつかの態様において、抗体若しくはそれらの誘導体は約.3ないし1mg/kg i.p.の用量として与える。他の態様において、抗体若しくはそれらの誘導体は約5ないし約12.5mg/kg i.v.で提供する。なお他の態様において、最低1μg/mlの血漿レベルが維持されるような抗体若しくはそれらの誘導体が提供される。
【0060】
有効な処置は多様な方法で評価しうる。一態様において、有効な処置は腫瘍増殖の減速された進行により決定する。他の態様において、有効な処置は腫瘍の縮小(すなわち腫瘍の大きさの減少)により示される。他の態様において、有効な処置は腫瘍の転移の阻害により示される。なお他の態様において、有効な治療は、体重増加、回復した強さ、減少した苦痛、生育、およびより良好な健康状態という患者からの主観的表示のような兆候を包含する患者の増大した満足のいく状態により評価する。
【0061】
以下の実施例は本発明を具体的に説明するために提供され、そしてそれを制限すると解釈されるべきでない。
実施例
【実施例1】
【0062】
四量体の形態のFR−αへのモノクローナル抗体の結合をウエスタンブロットにより示した。簡潔には、SK−Ov−3およびIGROV腫瘍細胞をヌードマウス中で増殖させそして摘出した。腫瘍組織を、2ml Dounce組織ホモジェナイザー中15〜20ストロークでRIPA緩衝液中で溶解した。不溶性物質を遠心分離により除去し、そしてBioRadタンパク質アッセイを使用して上清の総タンパク質を測定した。異なる実験で、5μg若しくは20μgいずれかのタンパク質を非還元条件下で4〜12%ビス−トリスゲル(MES)上で泳動した。電気泳動したタンパク質をPVDFメンブレンに転写した。該メンブレンをBlotto(5%乳、0.05%TBS−T)中でブロッキングした。LK26ハイブリドーマ細胞からの培養上清の100倍希釈および総濃度0.1%のNaNをBlottoブロッキング溶液に一次抗体として直接添加し、そしてメンブレンを一夜インキュベートした。メンブレンを0.05%TBS−T中で洗浄し、そしてBlottoブロッキング溶液中の二次抗体(ワサビペルオキシダーゼ標識ヤギα−マウスIgG(HおよびL鎖))を添加した。メンブレンを、Super Signal West Pico ECL試薬を使用して発色させた。結果を図1に示す(レーン1、SK−Ov−3;レーン2、IGROV)。該結果は、FR−αを過剰発現するある種の腫瘍は単量体のFR−αよりも四量体のFR−αの産生のほうを好むことを示す。この知見は、正常組織(一般に単量体の形態のFR−αを発現する)を無傷のままにしつつ腫瘍組織の破壊のため四量体の形態のFR−αを特異的に認識するモノクローナル抗体により活用し得る。
【実施例2】
【0063】
FR−αの発現を大腸菌(Escherichia coli)でもまた評価した。簡潔には、ヒスチジン標識とともにFR−αのコーディング配列を含有するプラスミド(pBAD−His−hFR−α)を大腸菌(E.coli)細胞にトランスフェクトした。プラスミドpBAD−His−h FR−αを含有する大腸菌(E.coli)の培養物をOD600=1.0まで増殖させた。その後、アラビノースを0.2%の最終濃度まで添加し、そして図2に示される時点でサンプルを採取した。25mlの4×LDSサンプル緩衝液を65mlの培養物に添加することにより大腸菌(E.coli)ライセートを調製した。10%FBS、L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸およびペニシリン/ストレプトマイシンを含有するRPMI1640培地中でJAR細胞を繁殖させた。培地を細胞から除去し、そしてRIPA緩衝液を培養プレートに直接添加して、JAR細胞抽出物対照のため細胞を溶解した。サンプルを4〜12%NuPAGEゲル(MES)上で分離し、そしてPVDFメンブレンに転写した。TBST+5%乳中で一夜ブロッキング後に、メンブレンを、mAb LK26の1000倍希釈で1時間、次いで二次抗体(ワサビペルオキシダーゼに結合したヤギα−マウスIg)の10000倍希釈で1時間プロービングした。抗体の検出は、5分の露光後にPierce Super Signal femtoを用いて実施した。結果を図2に示す(レーン1、大腸菌(E.coli)+pBAD−His−hFRa、180分誘導;レーン2、大腸菌(E.coli)+pBAD−His−hFRa、90分誘導;レーン3、大腸菌(E.coli)+pBAD−His−hFRa、60分誘導;レーン4、大腸菌(E.coli)+pBAD−His−hFRa、30分誘導;レーン5、大腸菌(E.coli)+pBAD−His−hFRa、15分誘導;レーン6、大腸菌(E.coli)+pBAD−His−hFRa、未誘導;レーン7、JAR細胞抽出物)。結果は、大腸菌(E.coli)細胞が単量体の形態のFR−αのみを産生しかつ四量体の形態のFR−αを産生しないことを示す。
【実施例3】
【0064】
四量体のFR−αがHolmら(1997)Biosci.Reports 17(4
):415−427により記述されるところのTriton X−100ミセル中での凝集のアーチファクトでなかったことを示すために、腫瘍の抽出物を1×RIPA(1%Triton X−100、0.1%SDS、180mM NaCl、20mMリン酸カリウム、pH=7.2)若しくは1×PBS(150mM NaCl、20mMリン酸カリウム、pH=7.2)のいずれかで希釈した。全サンプルについて、1μg/μlのストックIGROV抽出物を使用した。希釈後、4×LDSサンプル緩衝液を1×の最終濃度まで各サンプルに添加した。サンプルをMES泳動緩衝液中で4〜12%ビス−トリスゲルに負荷した。電気泳動後、タンパク質をPVDFメンブレンに転写した。転写されたタンパク質を含有するメンブレンをBlotto(5%脱脂乳、1×TBS、0.05%Tween−20)中室温で48時間ブロッキングした。一次抗体(1μg/ml LK26抗体)とともにメンブレンをインキュベートすること、次いで洗浄、その後二次抗体(Blotto中HRP結合ヤギα−マウスIgG)とのインキュベーションによりメンブレンを発色させた。もう1回の洗浄段階後に、Super Signal West Pico ECL試薬を使用してメンブレンを発色させ、そして1分間露光させた。結果を図3に示す(レーン1、PBS中100倍希釈;レーン2、PBS中50倍希釈;レーン3、PBS中25倍希釈;レーン4、PBS中10倍希釈;レーン5、RIPA中100倍希釈;レーン6、RIPA中25倍希釈;レーン7、RIPA中10倍希釈;M、分子量マーカー、レーン8、RIPA中1:1希釈)。矢印は単量体(1×)および四量体(4×)を示す。いずれの処理も四量体の形態のFR−αを破壊しなかった。該結果は、FR−αを過剰発現するある種の腫瘍が、ゲル濾過サンプル調製物のアーチファクトとしてのみ以前に示されていた四量体の形態のFR−αを発現することを示す。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】四量体および単量体の形態のFR−αを示す腫瘍細胞のウエスタンブロットを示す。
【図2】大腸菌(Escherichia coli)が発現したFR−αのウエスタンブロットを示す。
【図3】Triton X−100の存在若しくは非存在下で可溶化したFR−αのウエスタンブロットを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)mAb LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか;(b)mAb LK26よりも大きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適性を有する、においてmAb LK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合する抗体。
【請求項2】
前記抗体の親和性が最低約1×10−7Mである、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体の親和性が最低約1×10−8Mである、請求項1に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体の親和性が最低約1×10−9Mである、請求項1に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体の親和性が最低約1×10−10Mである、請求項1に記載の抗体。
【請求項6】
前記エピトープがジスルフィド依存性の1エピトープである、請求項1に記載の抗体。
【請求項7】
前記抗体がキメラ抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項8】
前記キメラ抗体がヒト−マウスキメラ抗体である、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
前記抗体がヒト化抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項10】
前記抗体が完全にヒトの抗体である、請求項1に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1に記載の抗体を発現するハイブリドーマ細胞。
【請求項12】
請求項1に記載の抗体をコードするポリヌクレオチド。
【請求項13】
請求項12に記載のポリヌクレオチドを含んでなるベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを含んでなる発現細胞。
【請求項15】
請求項11に記載のハイブリドーマを培養する段階を含んでなる、(a)mAb LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか;(b)mAb LK26よりも大きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適性を有する、点においてmAb LK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合する抗体の製造方法。
【請求項16】
請求項14に記載の発現細胞を培養する段階を含んでなる、(a)mAb LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか;(b)mAb LK26よりも大きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適性を有する、点においてmAb LK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合する抗体の製造方法。
【請求項17】
前記細胞が哺乳動物細胞である、請求項14に記載の発現細胞。
【請求項18】
前記発現細胞が哺乳動物細胞である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
(a)LK26のエピトープ以外のエピトープに結合するか、(b)LK26よりも大
きい親和性で結合するか;若しくは(c)四量体の形態のFR−αへの結合についてmAb LK26より優れた適性を有する、点においてLK26と識別される、四量体の形態のFR−αに特異的に結合する抗体を含んでなる組成物を、異形成細胞を伴う患者に投与することを含んでなる、FR−αの増大した発現と関連するこうした異形成細胞の増殖の阻害方法。
【請求項20】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記異形成細胞が卵巣癌細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記患者がヒト患者である、請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記抗体が化学療法剤とコンジュゲートしている、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記化学療法剤が放射性核種である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記放射性核種が、鉛−212、ビスマス−212、アスタチン−211、ヨウ素−131、スカンジウム−47、レニウム−186、レニウム−188、イットリウム−90、ヨウ素−123、ヨウ素−125、臭素−77、インジウム−111、ホウ素−10およびアクチニドよりなる群から選択される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記化学療法剤が、リシン、改変シュードモナス属(Pseudomonas)腸毒素A、カリチェアミシン、アドリアマイシンおよび5−フルオロウラシルよりなる群から選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
抗体が化学療法剤に結合されている、請求項1に記載の抗体。
【請求項28】
前記化学療法剤が放射性核種である、請求項27に記載の抗体。
【請求項29】
前記放射性核種が、鉛−212、ビスマス−212、アスタチン−211、ヨウ素−131、スカンジウム−47、レニウム−186、レニウム−188、イットリウム−90、ヨウ素−123、ヨウ素−125、臭素−77、インジウム−111、ホウ素−10およびアクチニドよりなる群から選択される、請求項28に記載の抗体。
【請求項30】
前記化学療法剤が、リシン、改変シュードモナス属(Pseudomonas)腸毒素A、カリチェアミシン、アドリアマイシンおよび5−フルオロウラシルよりなる群から選択される、請求項27に記載の抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−537709(P2007−537709A)
【公表日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533301(P2006−533301)
【出願日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2004/016057
【国際公開番号】WO2004/113388
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(503166643)モーフオテク・インコーポレーテツド (4)
【Fターム(参考)】