説明

腫瘍抗原ペプチド

本発明は、腫瘍抗原ペプチドとして有用な新規ペプチドに関する。より詳しくは、本発明は、HLA-A24拘束性の新規腫瘍抗原ペプチド、ならびにこれを利用したペプチドワクチン、DCワクチン、抗体、および細胞障害性T細胞に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍抗原ペプチドとして有用な新規ペプチドに関する。より詳しくは、本発明は、HLA-A24拘束性の新規腫瘍抗原ペプチド、ならびにこれを利用したペプチドワクチン、DCワクチン、抗体、および細胞障害性T細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
外科療法、化学療法、放射線療法に次ぐ癌の第4の治療法として、免疫療法がある。癌の免疫療法には、サイトカイン療法、抗体療法、細胞療法、ペプチドワクチン療法、遺伝子療法など様々な方法があるが、安全性や効果の問題から臨床応用に至っているものは少ない。
【0003】
ペプチドワクチン療法は、腫瘍抗原やそのエピトーブ部分をアジュバントとともに投与することにより、細胞性免疫と体液性免疫の両方を誘導するもので、簡便さと安全性から多くの国で臨床応用が進められている。Rosenbergらは、腫瘍関連抗原の構造に基づいてHLA-A2結合性を高めた合成ペプチドを作製し、これをメラノーマ患者に投与することで転移巣の退縮や消失がみられたことを報告している(Rosenberg SA. et al., “Immunologic and therapeutic evaluation of a synthetic peptide vaccine for the treatment of patients with metastatic melanoma.” Nature Medicine, (1998), 4(3):p321-7)。NCIのWeb siteには現在臨床試験が進められているペプチドワクチンのリストが掲載されているが、その対象は肉腫、白血病、メラノーマ、ミエローマ等多岐に渡る(Ribas A. et al., “Current developments in cancer vaccines and cellular immunotherapy.” J Clin Oncol. (2003), 21(12):p2415-32.)。
【0004】
免疫系による抗腫瘍作用には、MHC(ヒトの場合はHLAという)分子を介した、腫瘍抗原の提示が不可欠である。MHCは細胞表面に存在する主要組織適合性抗原複合体で、大きくClass IとClass IIに分類される。Class I分子はほとんど全ての細胞表面に存在し、CD8陽性T細胞に抗原を提示して細胞障害性T細胞へと活性化させ、Class II分子はマクロファージ、単球等の細胞表面に存在し、CD4陽性T細胞に抗原を提示してヘルパーT細胞へと活性化させる。内在性の腫瘍細胞は、抗原提示細胞に捕食、断片化(腫瘍抗原ペプチド)された後、MHC Class I分子と複合体を形成してT細胞に提示される。一方、外来性の腫瘍抗原ペプチドは細胞内プロセシングを受けることなくMHC分子に直接結合し、T細胞に提示される。MHCは遺伝的多型に富み、その個体差が免疫応答の個体差を規定する。
【0005】
現在、国内で開発が進められているペプチドワクチンの多くは解析が進んだHLA Class I A-2あるいはA-24に特異的な腫瘍抗原を利用したものであり(JP2003-000270、JP2001-245675、JP11-318455、WO00/32770、WO00/012701、WO00/002907、WO99/029715)、高度進行性の肺癌や大腸癌患者を対象として臨床試験も進められている。
【発明の開示】
【0006】
これまで多数の腫瘍抗原ペプチドが同定されているが、その免疫原性は患者のMHCタイプに拘束される。また、腫瘍細胞は均一な集団ではなく、癌の種類や個体間での相違に加えて、個体内でも腫瘍抗原に多様性がみられることがわかってきた。さらに、臨床適用では、他の外来抗原との交差反応を考慮する必要がある。したがって、安全で有効な新規腫瘍抗原ペプチドが常に求められており、本発明はそのような新規腫瘍抗原ペプチドを提供することを目的とする。
【0007】
本発明者らは、MHC Class I A24(HLA-A24)分子の結合モチーフと既知の腫瘍抗原のアミノ酸配列に基づき、種々のペプチドを合成した。そして、これらペプチドの免疫原性や安全性を確認することにより、腫瘍抗原ペプチドとして有用な新規ペプチドを同定した。
【0008】
すなわち、本発明は、配列番号4、14、15、18、19、23、24、25、27、28、29、30、34、37、38、39、40、41、および44から選ばれるいずれか1に記載のアミノ酸配列を含む腫瘍抗原ペプチドを提供する。
【0009】
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、適当なアジュバントとともにHLA-A24陽性癌患者に投与することで、抗腫瘍ペプチドワクチンとして利用することができる。また、HLA-A24陽性抗原提示細胞を本発明の腫瘍抗原ペプチドと培養して得られる、該腫瘍抗原ペプチドを提示した抗原提示細胞もまた、HLA-A24陽性癌患者の免疫療法に利用することができる。前記抗原提示細胞としては樹状細胞が好ましい。本発明はこのような、抗腫瘍ペプチドワクチンや抗原提示細胞をも提供する。
【0010】
本発明はまた、配列番号4、14、15、18、19、23、24、25、27、28、29、30、34、37、38、39、40、41、および44から選ばれるいずれか1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子を提供する。これら核酸分子は、DNAワクチンを含むHLA-A24陽性癌患者のための抗腫瘍剤として利用することができる。
【0011】
さらに本発明は、本発明の腫瘍抗原ペプチドに特異的に結合しうる抗体を提供する。前記抗体は、抗腫瘍剤として、あるいは抗腫瘍剤のスクリーニングや癌の検出・診断に利用することができる。
【0012】
さらにまた本発明は、HLA-A24陽性患者から単離した腫瘍組織浸潤リンパ球もしくは末梢血リンパ球を、本発明の腫瘍抗原ペプチドおよびIL-2とともに培養することにより、細胞障害性T細胞を誘導する方法を提供する。前記方法によって取得される細胞障害性T細胞もHLA-A24陽性癌患者のCTL療法に利用することができ、本発明はそのような細胞障害性T細胞を含む抗腫瘍剤も提供する。
【0013】
本発明によれば、腫瘍抗原ペプチドとして有用な新規ペプチドが提供される。これらのペプチドは、ペプチドワクチン、DCワクチンをはじめとするHLA-A24陽性癌患者(特に肝癌患者)の治療や診断、ならびに抗腫瘍剤スクリーニングに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、HLA結合およびCTL認識のための特異的モチーフを示した図である。
【図2】図2は、AFP由来ペプチド(表1:Peptide No.27〜36)のHLA-A24分子結合親和性試験の結果を示す。
【図3】図3は、AFP由来ペプチドの健常人由来PBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果を示す。
【図4】図4は、AFP由来ペプチドの肝癌患者由来PBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果を示す。
【図5】図5は、Peptide No.27〜30のCTLアッセイの結果を示す。
【図6】図6は、Peptide No.27と30の細胞障害性がHAL-A24拘束性かつAFP特異的であること、およびこれらのペプチドで誘導されたCTLが肝癌細胞を障害することを確認するための、種々の肝癌細胞株に対するCTLアッセイの結果を示す。
【図7−1】図7−1は、Peptide No.30の細胞障害性がCD8およびHLA-A24拘束性であることを確認するための、種々の肝癌細胞株に対するCTLアッセイの結果を示す。
【図7−2】図7−2は、Peptide No.27、29および30を用いた肝癌治療前後における肝癌患者の免疫反応の検討結果を示す。
【図8】図8は、Peptide No.27および30をペプチドワクチンとしてHLA-A24トランスジェニックマウスに投与した際のT細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)の結果を示す。
【図9】図9は、AFPのDNAワクチンを投与したHLA-A24トランスジェニックマウスにおける各ペプチドに対するT細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)の結果を示す。
【図10】図10は、Peptide No.30あるいはAFPのDNAワクチンで免疫したHLA-A24トランスジェニックマウス脾細胞を用いたCTLアッセイの結果を示す。
【図11】図11は、表2および表3記載のペプチドの健常人由来PBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果を示す。
【図12】図12は、表3記載のペプチドの肝癌患者由来PBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果を示す。
【図13】図13は、表3記載のペプチドのCTLアッセイの結果を示す。グラフ中のCTL XXはPeptide No.XXの刺激で誘導されたCTLを示す。
【図14】図14は、治療前後におけるT細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)の違いを示す。
【図15】図15は、hTERT由来ペプチド(表2:Peptide No.37〜46)のHLA-A24分子結合親和性試験の結果を示す。
【図16】図16は、hTERT由来ペプチドの健常人および肝癌患者由来PBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果を示す。
【図17】図17は、hTERT由来ペプチドの患者末梢血リンパ球を用いたCTLアッセイの結果を示す。
【図18】図18は、hTERT由来ペプチドの肝癌培養細胞株を用いたCTLアッセイの結果を示す。
【図19】図19は、肝癌治療前後におけるT細胞応答の変化をhTERT由来ペプチドを用いたERISPOTアッセイで検討した結果を示す。
【図20】図20は、hTERT DNAワクチンを投与したHLA-A24トランスジェニックマウスにおけるhTERT由来ペプチドに対するT細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)の結果を示す。
【0015】
本明細書は、本願の優先権の基礎である特願2004−56865号の明細書に記載された内容を包含する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明にかかる新規ペプチドの取得と利用方法について詳細に説明する。
【0017】
1.ペプチドの合成
1.1 コンピュータープログラムによるペプチドデザイン
MHC分子には抗原ペプチドが結合するための溝があり、腫瘍抗原ペプチドにはこの溝に結合するための特定の構造モチーフがある(Bjorkman, PJ, et al., Nature, 1987, 329, p506-512; Bjorkman, PJ, et al., Nature, 1987, 329, p512-518; Falk, K, et al., Nature, 1991, 351, p290-296; Rammensee, HG, et al., Curr Opin Immunol, 1993, 5, p35-44; Rammensee, HG, Curr Opin Immunol 1995, 7, p85-96; Rammensee, HG, et al., Immunogenetics 1995, 41, p178-228)。抗原ペプチドは、MHC分子への結合を決定するアンカー部位と、細胞障害性T細胞(CTL)に認識されるエピトープ部位を有することで、抗原提示細胞を介したCTL活性化を引き起こす(図1参照)。
【0018】
本発明にかかる腫瘍抗原ペプチドは、既知のMHC結合モチーフと腫瘍関連抗原のアミノ酸配列等に基づき、コンピュータープログラム(例えば、BIMAS等)を用いて設計することができる。最近では、MHCに結合する13000以上のペプチドシーケンスデータを納めたデーターベースMHCPEP(http://wehih.wehi.edu.au/mhcpep/)も公開されており、こうした情報も腫瘍抗原ペプチドの探索に利用できる。
【0019】
MHC(HLA) Class 1 分子は多型性に富み、そのタイプに応じて結合モチーフも異なるため、腫瘍抗原ペプチドの設計ではまずターゲットとするHLAのタイプを特定する必要がある。本発明では日本人の60%に発現しているHLA-A24をターゲットとし、このHLA-A24結合モチーフを有する9〜15アミノ酸程度のペプチドを腫瘍抗原ペプチド候補として設計する。
【0020】
1.2 ペプチドの合成
上記方法によって設計されたペプチドは、Fmoc法あるいはBoc法による固相・液相合成等、周知の方法により容易に化学合成でき、またHPLC等の周知の手法により所望の純度で取得することができる。必要であれば、ペプチドには適当な修飾を施してもよい。ペプチドはまた、これをコードするDNAを適当なベクターに組み込み、宿主細胞中で発現させて、遺伝子工学的に調製することもできる。
【0021】
2.免疫原性スクリーニング
合成されたペプチドは、種々のアッセイ系を利用した免疫原性スクリーニングにより、腫瘍抗原ペプチドとしての有用性を評価する。評価は、MHC分子への結合親和性、T細胞活性化、ペプチド特異的細胞障害活性の3つの段階で評価することができる。
【0022】
2.1 MHC Class I分子への結合親和性
合成ペプチドの細胞表面上に発現しているMHC Class I分子(HLA-A24)への実際の結合親和性をin vitroで評価する。細胞表面HLA-A24への結合親和性は、標的とするHLA-A24分子を発現している細胞に被験ペプチドを加えて培養し、ペプチドが結合していないHLAを分解した後、細胞上に残ったHLA-A24の発現量を測定すればよい。例えば、細胞上のHLA-A24の発現量は、抗MHCモノクローナル抗体と二次抗体(例えば、FITCでラベルした抗マウスimmunoglobulin抗体:DAKO製等)を用いて、FACS(登録商標)により測定することができる。測定されたHLA-A24発現量は、ペプチドを加えていない細胞やコントロールペプチド(陰性、陽性対照群)を加えた細胞のHLA-A24発現量と比較することで、半定量的に評価することができる。
【0023】
2.2 T細胞活性化(サイトカインアッセイ)
合成ペプチドの免疫原性は、当該ペプチドによって活性化されたCD8陽性T細胞のサイトカイン(インターフェロンγ)産生能により評価することができる。例えば、ELISA(Enzyme-Linked Immunosorvent Assay)やELISPOT(Enzyme-Linked Immunospot Assay)等の周知のアッセイ法により、T細胞が分泌するサイトカイン量を測定すればよい。ELISAやELISPOTには種々のキット(MABTECH製等)が販売されており、本発明ではこうした市販のキットを好適に利用することができる。
【0024】
ELISPOTアッセイとは、ELISA の原理を応用した固相化酵素抗体法によるサイトカイン分泌細胞および抗体産生細胞の高感度定量法である。ELISPOTアッセイでは、予め抗原や抗体を固相化したプレート上で免疫細胞を培養することにより、分泌される抗体やサイトカインをその場で捉え、二次抗体と基質による発色スポット数から定量を行う。ELISPOTは、ELISAに比べて感度が高く(ELISAの20〜200倍程度)、操作が簡便かつ再現性に優れ、多検体処理が可能であるという利点を有する。
【0025】
2.3 ペプチド特異的細胞障害活性
活性化CTLによる特異的細胞障害活性は、以下の方法により評価することができる。
【0026】
(1)51Cr(クロミウム)放出アッセイ
51Crラベルした標的細胞から放出される放射活性を測定する特異的細胞障害活性を測定する方法である。被験ペプチドで刺激した標的細胞(例えば、A24陽性細胞や癌細胞株)を51Crでラベルした後、ペプチド特異的T細胞(被験ペプチドによって誘導されたT細胞)を加え、障害された標的細胞から放出される放射活性を測定する。ペプチド特異的細胞障害活性の程度はペプチドで刺激した標的細胞に対する障害活性の強さからペプチドで刺激していない標的細胞に対する障害活性の程度を差し引いて計算できる。それぞれの標的細胞に対するT細胞の細胞障害活性は、一定の十分数の標的細胞から放出される放射活性と比較することにより定量的に比較することができる。
【0027】
(2)グランザイムB ELISPOTアッセイ
従来の51Cr放出アッセイはRI(放射性同位元素)を使用しなければならないという問題があったが、これに代る方法として最近グランザイムB ElISPOTアッセイが開発され、そのためのキットも市販されている(Euroclone製等)。CTLにより放出される顆粒には、グランザイムBとパーフォリンがあり、グランザイムBはパーフォリンによって孔を開けられた標的細胞に侵入し、アポトーシスを誘導して細胞障害活性を現す。ELISPOTアッセイは微量なCTLから分泌されるグランザイムBを高感度で定量することにより、ペプチド特異的細胞障害活性を評価できる。
【0028】
3. 薬理活性評価
3.1 HLA抗原発現トランスジェニックマウスによる評価
in vitroでの免疫原性が確認された合成ペプチドは、目的とするヒトHLA抗原を発現させたトランスジェニックマウスを用いてin vivo での薬理活性や安全性を評価する。ヒトHLA抗原発現トランスジェニックマウスは、例えば、内因性のMHC領域を破壊したマウスと、所望のHLAコード領域を公知の遺伝子導入法によって導入したマウスを交配することにより作製することができる。このようなHLA抗原発現トランスジェニックマウスについては既にいくつかの報告( Arnold, B., et al., 1991, Annu. Rev. Immunol. 9, p297-322; Dill, O., et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85, p5664-5668等)があり、当業者はこれらの記載に基づいて当該マウスを作製することができる。例えば、HLA-A24トランスジェニックマウスはGotohらの報告(Gotoh M, et al., Int J Cancer. 2002 Aug 10;100(5), p565-70)に基づいて作製することができる。
【0029】
被験ペプチドは適当なアジュバントとともにエマルジョン化して、マウスに投与(例えば皮下投与)する。被験ペプチドを投与されたマウスは、前述した手法にしたがってサイトカイン産生や細胞障害性を試験する。また、マウスに被験ペプチドやその由来抗原、あるいはこれらを発現させるためのDNAワクチンを投与することにより、被験ペプチドの免疫原性を試験することもできる。
【0030】
3.2 臨床試験
動物試験によって安全性と薬効が確認されたペプチドは、臨床試験によってさらに安全性と有効性や有用性を確認する。
【0031】
4.本発明の腫瘍抗原ペプチド
本発明者らは、免疫原性スクリーニングおよびHLA-A24抗原発現トランスジェニックマウスを用いた薬理効果試験の結果、HLA-A24拘束性の腫瘍抗原ペプチドとして有用な新規ペプチドを同定した。これらのペプチドは、配列表の配列番号4、14、15、18、19、23、24、25、27、28、29、30、34、37、38、39、40、41、および44に示されるアミノ酸配列を有する。
【0032】
前記ペプチドは、その用途に応じて、また本発明の目的を損なわない範囲において、適当な修飾を施されていてもよい。例えば、試験や診断に用いる場合、本発明の腫瘍抗原ペプチドを適当な放射性物質、蛍光物質、蛋白等でラベルしたり、プレートやキャピラリーに固相化してもよい。また、ペプチドを構成するアミノ酸は天然のアミノ酸に限定されず、適当な誘導体であってもよい。例えば、本発明の腫瘍抗原ペプチドに対する抗体を作製する場合、当該腫瘍抗原ペプチドに任意のアミノ酸配列や担体(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン)を付加して用いる。そのような修飾されたペプチドや誘導体も、本発明の範囲に含まれる。
【0033】
5.本発明の腫瘍抗原ペプチドの利用方法
5.1 ペプチドワクチン
本発明の腫瘍抗原ペプチドは、適当なアジュバントとともにエマルジョン化することにより、HLA-A24陽性癌患者(特に肝癌患者)に対するペプチドワクチンとして利用できる。用いられるアジュバントは特に限定されず、フロイントの完全あるいは不完全アジュバントをはじめ、細菌およびその菌体成分、マイコバクテリウム、グラム陰性菌および菌体成分、グラム陽性菌および菌体成分、非細菌性物質、植物や真菌の多糖体、核酸、脂溶性ビタミン類、ミネラルオイル等、当該分野で周知のアジュバントを用いることができる。ワクチンはまた、製薬上許容されるその他の担体を適宜含んでいてもよい。
【0034】
5.2 樹状細胞(DC)ワクチン
本発明の腫瘍抗原ペプチドを提示させた抗原提示もまた、HLA-A24陽性癌患者(特に肝癌患者)のための抗腫瘍ワクチンとして利用することができる。すなわち、患者から単離したHLA-A24陽性抗原提示細胞を本発明の腫瘍抗原ペプチドとともに培養し、腫瘍抗原ペプチドを抗原提示細胞に取り込ませ、あるいは細胞表面のHLA-A24上に直接結合させて提示させる。そして、この腫瘍抗原ペプチドと抗原提示細胞との複合体(腫瘍抗原提示細胞)を、同一患者の生体内に戻す。用いる抗原提示細胞はHLA-A24陽性であれば特に限定されないが、抗原提示能力が強い樹状細胞が好ましい。本発明の腫瘍抗原ペプチドを提示した抗原提示細胞あるいは腫瘍抗原ペプチド提示樹状細胞を含む抗腫瘍ワクチンは、必要に応じて、適当なアジュバントや製薬上許容される担体を含んでいてもよい。
【0035】
抗原提示細胞(樹状細胞)を利用した抗腫瘍ワクチンの調製や使用については既報(Nestle, F. O. et al., Nat Med 4, 328-32 (1998); Holtl, L. et al., Lancet 352, 1358 (1998); Geiger, J. et al., Lancet 356, 1163-5 (2000); Morse, M. A. et al., Clin Cancer Res 5, 1331-8 (1999); Murphy, G. P. et al., Prostate 39, 54-9 (1999))を参考にすることができ、その内容の全てを参照として本明細書中に組み入れる。
【0036】
5.3 抗体
本発明の腫瘍抗原ペプチドはエピトーブ部位を含み、したがって当該ペプチドに対する抗体はHLA-A24陽性癌患者(特に肝癌患者)に対する抗腫瘍剤として、あるいは腫瘍の検出や診断に利用できる。
【0037】
本発明の抗体は、常法により(例えば、新生化学実験講座1、タンパク質1、p.389-397、1992)、検出すべきタンパク、あるいはそのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを用いて動物を免疫し、該動物生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein, Nature 256, 495-497, 1975、Kennet, R. ed., Monoclonal Antibody p.365-367, 1980, Prenum Press, N.Y.)にしたがって、目的とする抗体を産生する抗体産生細胞をミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを樹立し、このハイブリドーマから得られるモノクローナル抗体を用いてもよい。
【0038】
抗体作製にあたっては、本発明の腫瘍抗原ペプチドに任意のアミノ酸配列や担体を付加した誘導体を用いることができる。特に、検出すべきタンパクのN末端に、キーホールリンペットヘモシアニンを担体として結合させたものが好ましい。
【0039】
得られた抗体は、単独、あるいは該抗体を一次抗体として、これを特異的に認識する(抗体を作製した動物由来の抗体を認識する)標識二次抗体と組み合わせて検出に用いられる。標識の種類として好ましいものは、酵素(アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)またはビオチン等であるが、これらに限定されない。標識二次抗体としては、予め標識された抗体が各種市販されている。検出すべきタンパクの発現量は、ウエスタンブロット法やドット/スロットブロット法、あるいはELISA法により測定することができる。RIAによる検出では、抗体を放射性同位元素で標識し、液体シンチレーションカウンター等で測定する。
【0040】
5.4 遺伝子療法
本発明は、本発明の腫瘍抗原ペプチドのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子を提供する。前記核酸分子には、例えば、本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸(DNA、cDNA、RNA、cRNA)に加えて、該核酸を含むベクターが含まれ、HLA-A24陽性癌患者(特に肝癌患者)の遺伝子療法に好適に利用することができる。本発明の核酸分子は、HLA-A24陽性癌患者に直接投与してもよいし、あるいは該患者から単離された樹状細胞に導入してこれを患者に戻してもよい。なお、核酸分子はDNAであってもRNAであってもよく、また1本鎖であっても2本鎖であってもよい。
【0041】
本発明の腫瘍抗原ペプチドをコードする核酸は、当該分野で周知の方法にしたがって合成することができる。本発明の腫瘍抗原ペプチドを発現させるためのベクターは、発現させようとする配列の上流に、プロモーター、スプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列等を適宜連結させて作製される。ベクターの種類は特に限定されないが、安全性と形質転換効率からアデノウイルスベクターあるいはレトロウイルスベクターが好ましい。こうしたベクターの作製方法は既に当該技術分野で周知である。
【0042】
5.5 CTL(TIL)療法
本発明は、本発明の腫瘍抗原ペプチドを利用したCTL(TIL)療法のためのin vivo における細胞障害性T細胞誘導方法を提供する。腫瘍塊、癌性腹水または胸水など癌の局所に浸潤しているリンパ球は腫瘍細胞に対して特異性を有するリンパ球で、腫瘍組織浸潤リンパ球(tumor-infiltrating lymphocytes:TIL)と呼ばれている。CTL療法では、TILもしくは末梢血リンパ球(PBMC)を腫瘍抗原とIL-2の存在下で培養して、細胞障害性を有するCTLを誘導し、これを患者体内に戻すことにより癌を破壊する。本発明では、HLA-A24陽性癌患者から採取したTILやPBMCを、本発明の腫瘍抗原ペプチドとIL-2の存在下で培養することにより、細胞障害活性を有するCTLを誘導する。誘導されたCTLは適宜培養・増殖して患者体内に投与されるが、その際製薬上許容される担体とともに投与してもよい。
【0043】
5.6 その他
本発明の腫瘍抗原ペプチドは腫瘍細胞に特異的に発現される抗原のエピトーブを含む。したがって、本発明の腫瘍抗原ペプチドや該ペプチドに対する抗体は、抗腫瘍剤のスクリーニングや癌の検出・診断に利用できる。例えば、本発明の腫瘍抗原ペプチドの発現レベルを被験物質の投与前と投与後で比較することにより、当該被験物質の抗腫瘍剤としての効果を評価することができる。腫瘍抗原ペプチドの発現レベルの測定には、前述した本発明の抗体を利用することができる。また、検体中の腫瘍抗原ペプチドの発現レベルを指標として、癌の診断を行うこともできる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0045】
〔実施例1〕 ペプチドの合成
GenBankに登録されているヒトAFP(αフェトプロテイン)のアミノ酸配列をもとにコンピューターソフトBIMAS(MD, USA)を用いてHLA-A24結合モチーフをもつ9個のアミノ酸配列を決定した。これらのアミノ酸配列のうちHLA-A24分子への結合親和性が高いと予想される上位10個の配列をもつペプチドをMIMOTOPE社(MIMOTOPE, VIC, Australia)にて80%以上の純度で作製した(表1)。また、同様の方法にてヒトtelomerase reverse transcriptase (hTERT)由来の10個のペプチドを作製した(表2)。
【表1】

【表2】

【0046】
さらに、これまでに報告されている腫瘍抗原もしくは腫瘍関連抗原由来のペプチド26種類を作製した(表3)。
【表3】

【0047】
各アッセイ法のコントロールとして、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、Epstain-Barr ウイルス(EBV)、サイトメガロウイルス(CMV)由来で、これまでにHLA-A24分子への結合親和性が高いことが報告されているペプチドを作製した(表4)。
【表4】

【0048】
[実施例2]
1.試験方法
(1)患者背景
2001年10月より2003年12月までの間に金沢大学医学部附属病院消化器内科へ入院した患者のうち、血液検査における腫瘍マーカー(alpha-fetoprotein;AFP、PIVKA-II)の測定、腹部超音波検査、腹部CTスキャン、腹部MRI、腹部血管造影検査により肝細胞癌と診断され、かつHLA-A24陽性の38人の肝細胞癌患者を対象とした。また、コントロールとして11人の健康成人(非担癌者)の免疫反応を解析し、癌患者との比較検討を行った。各患者および健康成人の臨床背景を表5−1および2に示す。これらの患者はCase 5を除いて全例、 表に表記されている治療を受けた。
【表5−1】

【表5−2】

(2)末梢血単核球(PBMC)の分離
患者の静脈血50mlを加ヘパリン採血管(TERUMO, Tokyo, Japan)に採取し、PBS(GibcoBRL, Tokyo, Japan)にて2倍希釈したのち、リンパ球分離チューブ(AXIS-SHIELD PoC AS, Oslo, Norway)を用いて2200rpmの回転速度で 22分遠心した。遠心後、チューブのPBMC層から10mlピペットを用いてPBMCを採取し、PBSを加えて 1800rpm、10分遠心した。遠心後のチューブから上清を捨てた後、さらにPBS を加えて1400rpm、10分遠心した。遠心後のチューブから上清を捨て、10%FCS (GibcoBRL, Tokyo, Japan)、100 U/ml penicillin(GibcoBRL, Tokyo, Japan)、100μg/ml streptomycin (GibcoBRL, Tokyo, Japan)を含むRPMI medium(GibcoBRL, Tokyo, Japan)にてPBMCを浮遊させ、細胞数を計測した。一部の細胞を細胞障害試験に使用し、残りの細胞は凍結保存した。
【0049】
(3)T細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)
96穴プレート(MILLIPORE, Tokyo, Japan)を抗ヒトインターフェロン‐ガンマ抗体(MABTECH, Nacka, Sweden)を用いて4℃、12時間コーティングした。1 wellあたり200μlのPBSで無菌的に4回洗浄後、10%FCS RPMI mediumを用いて25℃で1時間ブロッキングを行った。凍結保存してあるPBMCを解凍し、PBSで2回洗浄後、10%FCS RPMI medium に浮遊させ、1 wellあたり3x105個をペプチド(最終濃度10μg/ml)とともに30時間、37℃で培養した。培養後、プレートをPBSで4回、1%Tween-PBSで4回洗浄し、ビオチンでラベルした抗ヒトインターフェロン‐ガンマ抗体(MABTECH, Nacka, Sweden)を用いて4℃、12時間インキュベートした。その後プレートを1%Tween-PBSで4回洗浄し、streptoavidin-AP(MABTECH, Nacka, Sweden)を加えて2時間インキュベートした。プレートをPBSで4回洗浄後、NBT/BCIP(nitroblue tetrazolium-5-bromo-4-chloro-3-indolylphosphate)液(Bio-Rad, Tokyo, Japan)にて発色させ、水による洗浄で発色反応を停止させた。プレートを乾燥後、スポットを計測した。
【0050】
ペプチドに特異的なスポット数はペプチドを加えたwellのスポット数からペプチドを加えていないwellのスポット数を差し引くことで計算した。アッセイのコントロールとしてPMA (SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)、Ionomycin (SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)を加えたwellでPBMCを培養し、そのスポット数が50以上のものをデータとして集計した。各ペプチドに対する反応は2 wellを使用し、その平均値をデータとして使用した。健常成人11人の各ペプチドに対する特異的スポット数を計測し、その平均+2SDがいずれも10スポット以下であったことから、患者におけるアッセイでは10スポット以上でかつペプチドを加えていない場合のスポット数の2倍以上を示したものを陽性と判定した。
【0051】
マウスのELISPOT アッセイ(MABTECH, Nacka, Sweden)では抗体をマウス用のものに変え、新鮮な脾細胞を用いてヒトの場合と同様に行った。
【0052】
(4)HLA-A24分子への結合親和性試験
96穴丸底プレート(BD, NJ, USA) 1 wellあたり1x105個のT2-A24細胞を使用した。10%FCS RPMI mediumを用いて25℃で10時間培養し、各濃度になるようにペプチドを投与した後、さらに2時間培養した。ペプチドと結合していないHLA-A24分子を分解させるため、37℃で2時間培養を継続した。培養終了後、1700rpmで5分遠心し、上清を捨てた後、PBSにて洗浄した。洗浄後、抗HLA-A23,24モノクローナル抗体(三光純薬, Tokyo, Japan)とFITCでラベルした抗マウスimmunoglobulin抗体(DAKO, Denmark)を用いて4℃で30分染色し、PBS で2回洗浄後、1%FCS PBS 200μlに浮遊させFACSチューブに移し、FACSにてHLA-A24分子の発現レベルを測定した。また、ネガティブコントロールとして、HLA-A2拘束性のペプチド(PLFQVPEPV:配列番号50)を作製した。HLA-A24分子の発現レベルは% mean FI increase もしくはmean FIを用いて表示し、前記コントロールペプチドと目的のペプチドとの値を比較検討した。
【0053】
(5)ペプチド特異的細胞障害活性(CTLアッセイ)
10μg/mlのペプチドで12時間刺激したC1RA24細胞(HLA-A24陽性C1R細胞:熊本大学エイズ学研究センター・ウィルス制御分野滝口雅文教授より供与)を25μCiの51Cr (Amersham-Phamacia, Tokyo, Japan) で1時間ラベルし、PBSで洗浄後、ペプチド特異的T細胞と種々の細胞比で混合し、4時間の細胞障害性試験を行った。また癌細胞に対する細胞障害活性を測定するために、HepG2細胞、Huh7細胞、HLE細胞、K562細胞を同様に25μCiの51Crでラベルし標的細胞とした。各アッセイにおいて1 wellあたり12x104個の51Cr非ラベルK562細胞を加え非特異的細胞障害活性を抑制する工夫を行った。それぞれの標的に対するT細胞の細胞障害活性の強さは次の計算式により決定した。100 x [(experimental release - spontaneous release) / (maximum release - spontaneous release)]。このうちmaximum releaseは10% Triton X-100を用いて51Crでラベルした3000個の標的細胞を融解した際の培養液中の放射活性を測定することにより決定した。ペプチド特異的細胞障害活性の程度はペプチドで刺激した標的細胞に対する障害活性の強さからペプチドで刺激していない標的細胞に対する障害活性の程度を差し引いて計算した。マウスの細胞障害試験ではヒト白血病細胞由来のJurkat細胞にHLA-A24/Kb cDNAを遺伝子導入したJurkat-A2402/ Kb細胞を標的細胞として使用した。
【0054】
(6)各種培養細胞の培養条件
HepG2細胞、Huh7細胞、HLE細胞は10%FCS D-MEM medium(GibcoBRL, Tokyo, Japan)を用いて培養した。K562細胞は10%FCS RPMI mediumを用いて培養した。C1RA24細胞は 0.5mg/ml Hyglomycin (SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)を加えた10%FCS RPMI mediumを用いて培養した。T2-A24細胞は800μg/ml G418 (GibcoBRL, Tokyo, Japan)を加えた10%FCS IMDM mediumを用いて培養した。Jurkat-A2402/ Kb細胞は0.5mg/ml G418を加えた10%FCS RPMI mediumを用いて培養した。いずれのmediumにも100 U/ml penicillinと100μg/ml streptomycinを加え5% CO2下、37℃で培養を行った。
【0055】
(7)ペプチドによるPBMCの刺激
ペプチドによるヒトPBMCからのペプチド特異的T細胞の誘導は96穴丸底プレートを用いて行った。1 wellあたり4x105個のPBMCを用い、10μg/mlのペプチド、rIL-7(10ng/ml) (SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)、rIL-12(100pg/ml) (SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)と一緒に10%AB血清(SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)を加えた RPMI mediumを用い培養した。培養開始後第7、第14日目にマイトマイシン(SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)処理をした同一患者のPBMCと10μg/mlのペプチド、rIL-2(10U/ml) (SIGMA-ALDRICH, Tokyo, Japan)を加え刺激した。また培養開始後第3、10、18日目にrIL-2(10U/ml)を加えた100μlの10%AB RPMI mediumを加えた。マウスの脾細胞からのペプチド特異的T細胞の誘導は24穴プレートを用い、10%ラットT-STIM culture supplement(BD, MA, USA)と10%FCSを加えたRPMI mediumを用い7日間培養した。
【0056】
(8)HLA-A24トランスジェニックマウスを用いたペプチドワクチン試験
ヒトのHLA-A24のα1とα2ドメイン、マウスのH-2Kbのα3ドメインをもつHLA-A24/Kbトランスジェニックマウス(住友製薬, Tokyo, Japan: Gotoh M, et al., Int J Cancer. 2002 Aug 10;100(5), p565-70)を用いてペプチドワクチンの安全性と免疫誘導能の検討を行った。生後6-8週の雄性マウスを実験に使用した。マウスの皮下にIFA(Wako, Osaka, Japan)でエマルジョン化した200μgのペプチドと100μgのtetanus toxoid由来のヘルパーペプチド(947-967, FNNFTVSFWLRVPKVSASHLE:配列番号51)を投与した。投与1週間後に、脾臓を摘出し、10%FBS RPMI mediumを用いて脾細胞を抽出し、上記のELISPOT アッセイと細胞障害性試験を行った。またCMVプロモーター下でヒトAFP蛋白を発現するベクター(MGC-34639, ATCC, VA,USA)を大腸菌にトランスフェクションし、増幅後、QIAGEN社(Hilden, Germany)製のプラスミド精製キットを用いて精製し、生理食塩水に1μg/mlの濃度で溶解したものを、DNAワクチンとしてHLA-A24トランスジェニックマウスに投与し、AFP由来のペプチドの免疫原性の強さを検討した。具体的には、Cardiotoxin (Latoxan, Rosans, France)50μlずつをマウスの両側前脛骨筋部に筋肉注射し、その5日後にベクター溶液(1μg/ml)を50μlずつ同部に筋肉注射した。コントロールとしてAFP蛋白のかわりにβ-galを発現するベクター(Invitrogen, Tokyo, Japan)を同様に投与し、免疫反応を比較検討した。同様にhTERTの全長を発現するベクターをDNAワクチンとしてHLA-24トランスジェニックマウスに投与し、それぞれのhTERT由来ペプチドの免疫原性の強さを検討した。
【0057】
2.試験結果
2.1 AFP由来ペプチド(Peptide No.27〜36)
(1)HLA-A24結合親和性試験
AFP由来ペプチドのHLA-A24分子への結合実験の結果を示す。Peptide No.27,28,29,30,31,32,34は比較的強い結合親和性を示した。陽性コントロールの49は強い結合を、陰性コントロールのNo.50は結合を示さなかった。Peptide No.27,29,30について各種濃度での結合実験を行ったが、いずれのペプチドも濃度依存性に高い結合力を示し、今回のアッセイの特異性が示された。(図2)。
【0058】
(2)T細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)
図3および図4に、健常人および肝癌患者由来のPBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果をそれぞれ示す。健常人由来のPBMCではいずれのAFP由来ペプチドにも陽性応答が見られないが、肝癌患者の由来のPBMCでは、10ペプチドのうちPeptide No.27,28,29,30,31,32,34で陽性応答が見られた。特にPeptide No.27、29および30においては高い頻度で応答が見られたが、EBV(No.47)およびCMV(No.48)に比較すると低いものだった。また、EBV,CMV由来ペプチドに対する反応は健常人および肝癌患者で陽性頻度に差が認められず、HIV由来ペプチドに対する反応は健常人および肝癌患者とも認められなかった。
【0059】
以上の結果より、AFP由来ペプチドに対し反応するリンパ球の存在は肝癌患者に特異的であり、これらのペプチドはAFP由来HLA-A24拘束性CTLエピトープを含んでいる可能性が示唆された。
【0060】
(3)ペプチド特異的細胞障害活性(CTLアッセイ)
10種類のAFP由来ペプチドを用いて肝癌患者のリンパ球を刺激し、AFP特異的CTLの誘導を試みた。Peptide No.27,28,29,30,34ではAFP特異的CTLの誘導が可能であった(図5)。興味深いことに、Peptide No.30は健常人でも強い免疫原性を示した。
【0061】
AFPペプチドを用いたHLA-24結合親和性試験、ELISPOTアッセイ、およびCTLアッセイの結果から、Peptide No. 27,28,29,30,34がHLA-24拘束性CTLエピトープを含んでいると考えられた。
【0062】
さらに、Peptide No.27と30について、種々の肝癌細胞株に対するペプチド特異的細胞障害活性をみた(図6)。Peptide No.27と30はHepG2細胞株にのみ特異的細胞障害活性を示す一方、HLA-A24やAFPを発現していない他の細胞株に対しては細胞障害活性を示さなかった。したがって、Peptide No.27および30の細胞障害活性はHLA-A24拘束性かつAFP特異的であることが確認された。
【0063】
こうして誘導したAFP特異的CTLの拘束性を確認するために、各種抗体を用いてCTLアッセイを行った(図7-1)。その結果、CD8, HLA-A24抗体で処理したアッセイではCTLの細胞障害活性 が抑制された。すなわち、本ペプチドで誘導したCTLはCD8、HLA-A24拘束性であることが証明された。またHLAを発現していないK562細胞に対しては障害活性を示さず、本細胞障害活性は特異的反応であることが明らかになった。
【0064】
今回同定したAFPエピトープペプチドを含むPeptide No.27,28,29,30,34を用いて肝癌患者のAFPに対応する免疫反応の解析を行った。表6に、ELISPOTアッセイにてAFP由来ペプチドに対し免疫反応を認めた患者と認めなかった患者においてその臨床背景を比較した結果を示す。免疫反応陽性群では肝癌の進行度(TNM factorのT因子、TNM stage)が進んでいる患者の割合が有意に高かった。このように今回同定した新規AFPエピトープを用いて肝癌患者の抗腫瘍免疫の特徴を明らかにすることが可能であった。
【表6】

【0065】
さらに今回同定したAFP由来エピトープを用い、ELISPOTアッセイにて肝癌患者の治療前後における免疫反応の変化を検討した(図7−2)。7人の患者において治療後には末梢血におけるAFP特異的CTLの数が増加していた。一方HIV由来エピトープ特異的CTLについては治療前後で変化はなく、CMV由来エピトープ特異的CTLは1人においてのみ増加を認めた。このことはAFP特異的CTLの変化は肝癌治療に特異的であることを示している。今回同定したエピトープはこうした癌患者の治療前後における免疫反応の解析に有用であると考えられた。
【0066】
(4)HLA-A24トランスジェニックマウスを用いたペプチドワクチン試験
図8にPeptide No.27および30を接種したHLA-A24トランスジェニックマウスのT細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)の結果を示す。Peptide No.27または30で免疫されたマウスでは、陰性対照であるPeptide No.47で免疫されたマウスに比較して、顕著なCTL誘導がみられた。ペプチドによる免疫に対して、全てのマウスにおいて有害な反応はみられず、これらペプチドの安全性が確認された。
【0067】
図9に、DNAワクチン投与による免疫原性試験の結果を示す。その結果、Peptide No.30について、強い免疫原性が確認された。図10にPeptide No.30あるいはそのDNAワクチンで免疫したマウスの脾臓細胞を用いたCTLアッセイの結果を示す。図10から明らかなように、ペプチドワクチンとDNAワクチンを用いた場合でも、Peptide No.30に特異的なCTLを誘導できることが確認された。
【0068】
2.2 表3記載の腫瘍(関連)抗原ペプチド(Peptide No.1〜26)
(1)T細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)
図11および図12に、健常人および肝癌患者由来のPBMCを用いたIFN-γ ELISPOT アッセイの結果をそれぞれ示す。健常人由来のPBMCではいずれの腫瘍関連抗原由来ペプチドにも陽性応答が見られないが、肝癌患者の由来のPBMCでは、各種抗原由来ペプチドに反応するT細胞が( )内に示した頻度で認められた。SART2由来のPeptide No.14、SART3由来のPeptide No.15およびMRP3由来のPeptide No.23の3つのペプチドで特に高い頻度で陽性応答が見られた。
【0069】
(2)ペプチド特異的細胞障害活性(CTLアッセイ)
それぞれのペプチドについて特異的細胞障害活性を評価した。その結果、Peptide No.14,15,23を含むいくつかのペプチドについて高い細胞障害活性が確認された(図13)。
【0070】
(3)治療前後におけるT細胞応答
Peptide No.1〜26について、化学療法およびカテーテルを用いた免疫療法による治療前後におけるT細胞応答の違いをELISPOTアッセイにより評価した。図14に2例の患者における結果(右:表5-1のcase 8、左:同case 31)を示す。これらの患者ではPeptide No.9,10,17,18,20,22,25,26に対し治療後でT細胞応答が増強されていることが確認された。
【0071】
以上より、26の種々の腫瘍抗原由来ペプチドのうち24種のペプチドが癌患者のT細胞によって認識され、7種のペプチドが肝癌患者でCTLを誘導した。またペプチドに対するT細胞応答(IFN-γ産生)は治療前後で劇的に変化することが確認された。
【0072】
2.3 hTERT由来ペプチド(Peptide No.37〜46)
(1)HLA-A24結合親和性試験
hTERT由来ペプチドのHLA-A24分子への結合親和性を検討した(図15)。陰性コントロールのペプチド50の結合親和性と比べて高い結合を示したペプチドはPeptide No.37,38,39,40,41,44,46であった。
【0073】
(2)T細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)
これらのhTERT由来ペプチドの免疫原性を検討するために、72人の肝癌患者の末梢血リンパ球を用いてELISPOTアッセイおよびCTLアッセイ(次項参照)を行った。またコントロールとして11人の健常者のリンパ球を用いた検討も行った。対象者の臨床背景を下表7に示す。
【表7】

【0074】
ELISPOTアッセイではPeptide No.37,38,39,40,41,44に対してIFN-γを産生するリンパ球が検出された(図16)。一方、健常者ではこれらのペプチドに反応するリンパ球は検出されなかった。またHIV由来ペプチドに反応するリンパ球は両者とも検出されず、CMV由来ペプチドに対する陽性頻度は同等であった。以上の結果よりhTERT由来ペプチドに反応するリンパ球は肝癌患者の末梢血中に特異的に存在すると考えられ、本ペプチドがhTERTのA24拘束性エピトープを含んでいることが示唆された。
【0075】
(3)ペプチド特異的細胞障害活性(CTLアッセイ)
これらのペプチドがhTERT由来HLA-A24拘束性CTLエピトープを含んでいることを確認するために、患者末梢血リンパ球をペプチドで刺激し、CTLが誘導できるかどうかを検討した(図17)。その結果、10個のペプチドのうちペプチド37,38,39,40,41,44の6つではCTLの誘導が可能であった。
【0076】
さらにこうして誘導されたCTLが癌細胞に対して細胞障害活性を示すかどうかを肝癌培養細胞株を用いて検討した(図18)。Peptide No.39,40で誘導したCTLはHLA-A24とhTERTを発現する癌細胞であるHepG2細胞に対し強い細胞障害活性を示した。一方、hTERTを発現しているが、 HLA-A24を持たない癌細胞であるHuH7細胞に対しては細胞障害活性を示さなかった。さらにHLAの発現がないK562細胞に対しても強い細胞障害活性は示さなかった。以上の結果より、ペプチドで誘導したCTLがHLA-A24拘束性にhTERTを発現している癌細胞を特異的に障害すること、さらに同ペプチドがhTERTのエピトープを含んでいることが明らかになった。
【0077】
(4)治療前後におけるT細胞応答
Peptide No. 37,39,40,41について、治療前後におけるT細胞応答の違いをELISPOTアッセイにより評価した(図19)。その結果、Peptide No. 37,39,40,41に対して、治療後ではT細胞応答が増強されていることが確認された。
【0078】
(5)HLA-A24トランスジェニックマウスを用いたペプチドワクチン試験
図20にHLA-A24トランスジェニックマウスのT細胞応答(IFN-γ ELISPOTアッセイ)の結果を示す。なお、コントロールにはhTERT DNAが挿入されていないベクターを用いた。hTERT DNAで免疫したマウスではそれぞれペプチド37,38,39,40,41,44に反応してIFN-γを産生するリンパ球が少なくとも3匹中1匹において検出された。一方、コントロールで免疫したマウスではhTERT特異的リンパ球は検出されなかった。この結果から、ペプチド37,38,39,40,41,44はhTERTのHLA-A24拘束性エピトープを含んでいることが示唆された。
【0079】
以上より、10種のhTERT由来ペプチドのうち6種のペプチドが肝癌患者のT細胞によって認識され、6種のペプチドが肝癌患者でCTLを誘導した。またペプチドに対するT細胞応答(IFN-γ産生)は治療前後で劇的に変化することが確認された。
【0080】
3.結論
10種のAFP由来および36種の種々のHLA-A24結合モチーフをもつ腫瘍関連抗原由来ペプチドを合成し、その免疫原性をIFN-γ ELISPOTアッセイ、HLA-A24結合親和性試験、CTLアッセイにより確認した。さらにHLA-A24トランスジェニックマウスを用いてin vivoでの免疫原性(細胞障害性T細胞の誘導)と安全性を確認した。以上の結果、Peptide No. 4, 14, 15, 18, 19, 23, 24, 25, 27, 28, 29, 30, 34, 37, 38, 39, 40, 41および44のペプチドやこれをコードするDNAが抗腫瘍ペプチドワクチンやDNAワクチン等として有用であることが確認された。
【0081】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【産業上の利用の可能性】
【0082】
本発明の腫瘍抗原ペプチドや該ペプチドをコードするDNAは、HLA-A24陽性癌患者(特に肝癌患者)に対する、ペプチドワクチン、DCワクチン、DNAワクチン、CTL療法に利用できる。また、本発明の腫瘍抗原ペプチドや該ペプチドに対する抗体は、抗腫瘍剤のスクリーニングや癌の診断に利用できる。
【配列表フリーテキスト】
【0083】
配列番号1−人工配列の説明:ART1由来合成ペプチド
配列番号2、3−人工配列の説明:ART4由来合成ペプチド
配列番号4、5−人工配列の説明:Cyp-B由来合成ペプチド
配列番号6〜8−人工配列の説明:Lck由来合成ペプチド
配列番号9−人工配列の説明:MAGE1由来合成ペプチド
配列番号10−人工配列の説明:MAGE3由来合成ペプチド
配列番号11−人工配列の説明:SART1由来合成ペプチド
配列番号12〜14−人工配列の説明:SART2由来合成ペプチド
配列番号15、16−人工配列の説明:SART3由来合成ペプチド
配列番号17−人工配列の説明:Her-2/neu合成ペプチド
配列番号18〜22−人工配列の説明:p53由来合成ペプチド
配列番号23〜26−人工配列の説明:MRP3由来合成ペプチド
配列番号27〜36−人工配列の説明:AFP由来合成ペプチド
配列番号37〜46−人工配列の説明:hTERT由来合成ペプチド
配列番号47−人工配列の説明:HIV由来合成ペプチド
配列番号48−人工配列の説明:EMV由来合成ペプチド
配列番号49−人工配列の説明:CMV由来合成ペプチド
配列番号50−人工配列の説明:HLA-A2拘束性合成ペプチド
配列番号51−人工配列の説明:tetanus toxoid由来ヘルパーペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号4、14、15、18、19、23、24、25、27、28、29、30、34、37、38、39、40、41、および44から選ばれるいずれか1に記載のアミノ酸配列を含む腫瘍抗原ペプチド。
【請求項2】
配列番号4、14、15、18、19、23、24、25、27、28、29、30、34、37、38、39、40、41、および44から選ばれるいずれか1に記載のアミノ酸配列からなる腫瘍抗原ペプチド。
【請求項3】
請求項1または2記載の腫瘍抗原ペプチドを含む、抗腫瘍ペプチドワクチン。
【請求項4】
HLA-A24陽性抗原提示細胞を請求項1または2記載の腫瘍抗原ペプチドと培養して得られる、該腫瘍抗原ペプチドを提示した抗原提示細胞。
【請求項5】
抗原提示細胞が樹状細胞である、請求項4記載の抗原提示細胞。
【請求項6】
配列番号4、14、15、18、19、23、24、25、27、28、29、30、34、37、38、39、40、41、および44から選ばれるいずれか1に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む核酸分子。
【請求項7】
請求項6記載の核酸分子を含む、抗腫瘍剤。
【請求項8】
請求項1または2記載の腫瘍抗原ペプチドに特異的に結合しうる抗体。
【請求項9】
HLA-A24陽性患者から単離した腫瘍組織浸潤リンパ球もしくは末梢血リンパ球を、請求項1または2記載の腫瘍抗原ペプチドおよびIL-2とともに培養することにより、細胞障害性T細胞を誘導する方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法によって取得される細胞障害性T細胞を含む抗腫瘍剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7−1】
image rotate

【図7−2】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/083074
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510525(P2006−510525)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003399
【国際出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【出願人】(803000023)有限会社金沢大学ティ・エル・オー (6)
【Fターム(参考)】