説明

腫瘍画像化法および組成物

【課題】in vivoで組織を画像化するために用いられる診断薬の提供。
【解決手段】生体細胞の膜を、経膜輸送を高めた診断薬と、ビオチンまたはビオチンのビオチン受容体沖のEE結合性同族体、フォレートまたはフォレートのフォレート受容体結合性同族体、リボフラビンまたはリボフラビンのリボフラビン受容体結合性同族体から選択されるリガンドとの間に形成される複合体と接触させ、前記リガンド複合体の受容体依存性経膜輸送を開始させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は外因性分子の経膜輸送を高めるための方法に関するものである。より詳細に述べるならば、ビオチン−またはフォレート受容体を含める栄養受容体、およびこのような受容体と関連するそれぞれの関連受容体依存性エンドサイトーシスメカニズムを利用して診断的画像化剤の細胞内取り込み効率を高めることに関する。
【背景技術】
【0002】
栄養分子の経膜輸送は重要な細胞機能である。臨床医は薬剤治療および遺伝子伝達を含める医学および生物学科学の多くの領域における経膜輸送の重要性を認識しているから、膨大な研究的努力がこのようなプロセスの理解および応用に向けられてきた。例えば、核酸の経膜的デリバリーは蛋白質担体、抗体担体、リポソーム デリバリー システム、エレクトロポレーション、直接注入、細胞融合、ウィルス担体、浸透圧衝撃、および燐酸カルシウム依存性トランスフォーメーションの使用によって促進される。 しかしこれら技術の多くは経膜輸送が可能である細胞の種類、および外因性分子種を上首尾に経膜輸送するための使用条件の両方によって制限される。さらに、これらの公知の技術の多くは、生物学的活性の損失なく膜を経由して運搬し得る外因性分子の種類およびサイズによって制限される。
【0003】
広い用途を有する外因性分子の経膜的デリバリーの1方法は、受容体依存性エンドサイトーシス活性メカニズムに基づいている。多くの他の方法とは異なり、受容体依存性エンドサイトーシス活性は in vivo でも in vitro でも用いることができる。受容体依存性エンドサイトーシスは、膜受容体に結合したリガンド類が、膜の嵌入部を経て、膜に結合した領域内部へ移動することである。そのプロセスは受容体特異的領域がその受容体と結合することによって開始または活性化する。下記を識別する多くの受容体依存性エンドサイトーシス系が特徴づけられた:ガラクトース、マンノース、マンノース6−リン酸、トランスフェリン、アシアログリコプロテイン、トランスコバラミン(ビタミンB12)、−2マクログロブリン、インスリン、およびその他のペプチド成長因子、例えば上皮成長因子(EGF)など。
【0004】
受容体依存性エンドサイトーシス活性は例えば蛋白質および核酸などの外因性分子を細胞に供給するために利用される。概して、特異的リガンドは共有結合、イオン−または水素結合によって関心とする外因性分子(すなわち外因性分子)に化学的に結合して、標的受容体によってその結合体中にまだ識別される部分(リガンド部分)を有する結合体分子を形成する。この方法によって光毒性蛋白質ソラレンをインスリンに結合させ、インスリン受容体エンドサイトーシス経路によって細胞内に取り込ませた(internalized)(ガスパロ(Gasparro)、 Biochem. Biophys.Res.Comm.141巻(2)502−509ページ、1986年12月15日);ガラクトース末端アシアログリコプロテインのための肝細胞特異的受容体を利用して、DNAプラスミドに非共有結合したアシアロオロソムコイド−ポリ−L−リジンの肝細胞−特異的経膜的デリバリーを行った(ウ(Wu,G.Y.)J.Biol.Chem.,262巻(10)、4429−4432、1987);上皮成長因子のための細胞受容体を利用して、EGFに共有結合したポリヌクレオチド類を細胞内部に運搬した(マイヤーズ(Myers)、 1988年6月6日公表の欧州特許出願86810614.7);有機金属ビタミンB12−固有因子複合体のための腸の細胞受容体を用いて、ビタミンB12と結合し、経口投与によって腸に運ばれる薬剤、ホルモン、生物活性ペプチドまたは免疫原の、脊椎動物宿主の循環系への運搬を仲介した(ラッセル−ジョーンズ(Russeell-Jones)ら、 欧州特許出願86307849.9、1987年4月29日公表);マンノース−6− 燐酸受容体を用いて低密度リポプロテインを細胞に運んだ(ムレイ(Murray.G.T.)およびネヴィル(Neville,D.M.,Jr)J.Biol.Chem.,255巻(24)1194−11948ページ、1980);コレラ毒素結合サブユニット受容体を利用して、インスリンをインスリン受容体のない細胞に運んだ(ロス(Roth)およびマドクス(Maddox)、 J.Cell.Phys.115巻、151ページ、1983);ヒト絨毛性ゴナドトロピン受容体を用いて、HCGに結合したリシンa−鎖を、HCG受容体を十分有する細胞に運搬し、その細胞を殺した(エルトマン(Oeltmann)およびヒース(Heath)、 J.Biol.Chem. 254巻、1028ページ、(1979)。
【発明の開示】
【0005】
本発明の方法は、受容体結合種の経膜輸送を開始するビオチンまたはフォレート受容体を有する膜を経て行われる外因性分子の経膜輸送を高める。本発明の方法の利点は、(1)大部分の細胞の膜表面にはビオチンおよびフォレート受容体があり、しかも多数あること、そして(2)結合した受容体が経膜プロセスを仲介することである。本発明の方法の実施は、ビオチンまたはその他のビオチン受容体結合化合物、および/または葉酸またはその他のフォレート受容体結合化合物から選択したリガンドと、外因性分子との間に複合体を形成することを含む。ビオチン−またはフォレート受容体を担う細胞膜はこの複合体と接触し、それによってその複合体の受容体依存性経膜輸送が開始する。複合体は対応する受容体を担う膜表面に、その複合体の経膜輸送を開始し、実行させるのに十分な時間接触する。蛋白質およびポリヌクレオチドを含める外因性分子の経膜輸送は、植物、哺乳動物、および細菌細胞において促進されてきた。
【0006】
本発明の1実施態様において、本発明の方法の標的受容体はビオチン受容体である。ビオチンは細胞膜にあるビオチン受容体蛋白質と優先的に結合することが見いだされた。市販の試薬を用いてビオチンとポリヌクレオチド、蛋白質、またはその他の所望外因性分子との間に共有結合複合体を形成する。本発明の1好適実施態様により、ビオチン/外因性分子複合体と関連ビオチン受容体とが、その複合体のビオチン部分と膜の対応するビオチン受容体との結合が十分行われるだけの時間接触する。この結合が、複合体の経膜輸送をおこす細胞プロセスの開始をトリガーする。
【0007】
本発明の別の、だが同様な実施態様においては、フォレート受容体を標的として外因性分子の細胞内取り込みを高める。フォレート結合受容体は大部分の種類の細胞に見いだされ、それらは結合し、フォレートの細胞内インターナリゼーションをトリガーすることが証明された。こうして葉酸およびその他の当業者に公知のフォレート受容体結合性リガンドは、当業者に公知の結合技術を用いてポリヌクレオチド、蛋白質またはその他の所望外因性分子と化学的に結合し、 生体細胞内に容易に取り込まれるフォレート受容体結合性複合体を作ることができる。本発明のこの実施態様により、フォレート/外因性分子複合体と関連フォレート受容体を有する膜とを、複合体のフォレート部分と対応フォレート受容体とが結合するのに十分な時間接触させる。フォレート受容体の結合は、複合体の経膜輸送をおこす細胞プロセスの開始をトリガーする。
【0008】
本発明の方法は、通常は細胞インターナリゼーションに抵抗する外因性分子のインターナリゼーション効率(細胞内取り込み)を高めるために特に有用である。これまで細胞膜を介する移動が難しいことが確認されていた蛋白質およびポリヌクレオチドが、本発明の方法を利用すれば細胞内に取り込まれる。例えば蛋白質生成物を発現する標的細胞系の形質転換は、所望ポリヌクレオチドをビオチンまたはフォレートどちらかに結合し、上記細胞と生成した複合体とを、細胞インターナリゼーションを促進するのに十分な時間接触させることによって実現した。
【0009】
或る場合には、クロラムフェニコール アセチルトランスフェラーゼ(CAT)をコードする遺伝子配列を含むDNAプラスミドをビオチニル化し、ビオチン受容体依存性エンドサイトーシス経路を経て大腸菌(E.coli)内に運搬し、発現させた。形質転換またはトランスフェクションの同様な例が哺乳動物系、原核生物系、および植物においてビオチン−またはフォレート結合性核酸で認められた。ビオチンおよびフォレート複合体を用いて複合体化した外因性分子の細胞内取り込みを高められることは in vivo でも in vitro でも証明されている。
【0010】
本発明は米国科学基金によって認められた交付金89−45−DCB−88−11465および米国癌研究所によって認められた交付金R01−CA46909により政府の後援を受けた。政府は本発明に若干の権利を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の1実施態様により、生体細胞の膜を経る外因性分子の輸送を高める方法が提供される。本方法は、 ビオチン、ビオチンのビオチン受容体結合性同族体、およびその他のビオチン受容体結合性リガンドからなる群から選択されるリガンドと結合した外因性分子と上記膜とを、前記リガンド複合体の経膜輸送が可能になるのに十分な時間接触させる段階を含む。第2の実施態様では、生体細胞の膜を経る外因性分子の輸送を高める方法であって、葉酸、葉酸のフォレート受容体結合性同族体、およびその他のフォレート受容体結合性リガンドからなる群から選択されるリガンドと結合した外因性分子と上記膜とを、前記リガンド複合体の経膜輸送が可能になるのに十分な時間接触させる段階を含んでなる方法が提供される。
【0012】
本発明の方法は、 ビオチン−および/またはフォレート受容体を細胞膜に有するすべての生体細胞に有効である。上記膜は細胞の容量、例えば小胞体、またはその他の小器官、例えばミトコンドリアなどを決めることができ、或いは膜は細胞の境界を決めることができる。
【0013】
本発明の方法の標的となり得る生体細胞は原核生物、真核生物(酵母を含む)、植物細胞および動物細胞を含める。本発明の方法を用いて in vitro 生体細胞(すなわち培養細胞)または in vivo 生体細胞―ここでは細胞は植物組織または動物組織にそれらの部分として、またはその他の形で存在する―の細胞機能を変えることができる。こうして細胞は生長する植物の例えば根、茎または葉を形成することができ、本発明の方法は、このような植物細胞において、外因性分子/フォレートまたはビオチン複合体と必要な受容体を有する標的細胞との接触を促進するいかなる方法によっても行うことができる。これに代わって、標的細胞は動物組織の部分であってもよい。例えば標的細胞は例えば食事性管の内面となる細胞、例えば口および食道粘膜、小腸絨毛を形成する細胞、または大腸の内面となる細胞を含める。食事性管のこのような細胞は本発明により、フォレートまたはビオチンまたはそれらの受容体結合性同族体と結合した外因性分子を含む組成物の経口投与の標的となり得る。同様に、動物の呼吸器系(鼻腔/肺)の内面となる細胞は本発明の複合体の吸入による標的となり得る;膣およ直腸の皮膚/表皮細胞(1個または複数)は本発明の複合体の局所適用による標的となり得る;そして胎盤およびいわゆる血液/脳障壁の細胞を含める内臓細胞は、本発明の複合体の特に非経口投与による標的となり得る。本明細書に記載の葉酸およびビオチン複合体の有効量を含み、予想される投与経路に適した当業者には公知の賦形薬と混合して本発明により治療的に用いられる薬剤組成物は本発明の範囲内である。
【0014】
必ずしもすべての天然細胞膜が生物学的活性ビオチンまたはフォレート受容体を有するわけではないから、本発明の方法を in vitro で特定の細胞系で実施するためには先ず最初にその細胞系を変化させ、またはその細胞系にその他の改質を加えて生物学的活性ビオチンまたはフォレート受容体の存在を確実にすることができる。例えば、或る細胞系をビオチンまたはフォレート欠乏基質で増殖させてビオチンおよびフォレート受容体産生を促進することによって、またはビオチンまたはフォレート受容体に相当する蛋白質またはアポ蛋白質のための挿入異質(foreign)遺伝子の発現によって、 細胞膜上のビオチンまたはフォレート受容体の数を増やすことができる。
【0015】
本発明は、外因性分子、特に、細胞機能を調節し、またはその他のやり方で変えることのできる、薬物学的活性化合物、または診断薬を含める分子の細胞内取り込みを高めるために用いられる。適切な外因性分子は次のものを含めるが、これらに制限されるものではない:ペプチド、オリゴペプチド、蛋白質、アポ蛋白質、糖蛋白質、抗原およびそれに対する抗体、受容体およびその他の膜蛋白質類、retro-inverso オリゴペプチド類、ペプチド結合の代わりに少なくとも1つの非ペプチド結合がある蛋白質同族体、酵素、補酵素、酵素インヒビター類、アミノ酸およびそれらの誘導体、ホルモン、脂質、燐脂質、リポソーム;毒素、例えばアフラトキシン、ジゴキシン、キサントトキシン、ルブラトキシンなど;抗生物質、例えばセファロスポリン系、ペニシリンおよびエリスロマイシンなど;鎮痛剤、例えばアスピリン、イブプロフェン、およびアセタミノフェン、気管支拡張剤、例えばテオフィリンおよびアルブテロール;ベータ−遮断剤、例えばプロプラノロール、メトプロロール、アテノロール、ラベトロール、チモロール、ペンブトロール、およびピンドロール;抗菌剤、例えば上記のもの、およびシプロフロキサシン、シノキサシン、およびノルフロキサシン;高血圧薬、例えばクロニジン、メチルドパ、プラゾシン、ベラパミル、ニフェジピン、カプトプリル、およびエナラプリル;抗不整脈薬、心グリコシド、抗狭心症薬および血管拡張剤を含める心臓血管薬;興奮剤、向精神薬、抗躁薬、および抑制薬を含める中枢神経系薬;抗ウィルス薬;抗ヒスタミン剤、例えばクロルフェニラミンおよびブロムフェニラミン;化学療法剤を含める抗癌剤;トランキライザー、例えばジアゼパム、クロルジアゼポキシド、オキサゼパム、アルプラゾラム、およびトリアゾラム;抗うつ薬、例えばフルオキセチン、アミトリプチリン、ノルトリプチリンおよびイミプラミン;H2拮抗薬、例えばニザチジン、シメチジン、ファモチジン、およびラニチジン;抗けいれん薬;制吐薬;プロスタグランジン類;筋弛緩薬;消炎物質;刺激薬;喘息薬;抗パーキンソン病薬;去痰薬;鎮咳薬;ムコ多糖分解酵素;ビタミン類;そしてミネラルおよび栄養添加剤。その他の分子として含まれるのはヌクレオチド;オリゴヌクレオチド;ポリヌクレオチド;および当業者には公知の、生物学的に活性なこれらの同族体および誘導体、例えばホスフォロチオエート結合を有するメチル化ポリヌクレオチドおよびヌクレオチド同族体;プラスミド、コスミド、人工染色体、その他の核酸ベクター;アンチセンス ポリヌクレオチド、例えば少なくとも1つの内因性核酸に実質上相補的な、または選択されたウィルスまたはレトロウィルス ゲノムの少なくとも部分に対立するセンスをもつ配列を有するアンチセンス ポリヌクレオチド;プロモーター;エンハンサー;インヒビター;遺伝子転写および翻訳を調節するその他のリガンド;およびその他の生物学的活性分子であって、その外因性分子とビオチンまたはビオチン同族体またはフォレートまたはフォレート同族体との水素−、イオン−または共有結合による直接的結合によって、ビオチンまたはフォレートまたはそれらの同族体と複合体を形成できるあらゆる生物学的活性分子。また本発明により外因性分子とビオチンまたはフォレートまたはそれらの同族体との間接的結合手段を用いて、例えば中間的リンカー、スペーサーアーム、架橋分子、またはリポソーム包囲(liposome entrapment)―これらすべてはビオチンまたはビオチン同族体またはフォレートまたはフォレート同族体を、 関心とする外因性分子と結合させるように働く―による結合によって、液体複合体を形成する。リガンドと外因性分子とを結合する直接的および間接的手段は両方とも、本発明の方法が作動するために必要な、外因性分子と結合しているリガンドと細胞膜上のそれぞれのリガンド受容体との結合を妨害してはならない。
【0016】
概して、受容体依存性エンドサイトーシスをトリガーすることのできる、関心とする外因性分子とリガンドとの複合体を形成するいかなる方法も本発明によって用いることができる。これはリガンドと外因性分子との、直接的、またはリンキング基を介する間接的共有−、イオン−、または水素結合を含むことができる。複合体は典型的には受容体活性化部分と外因性分子との共有結合によって形成され、その途中には複合体のそれぞれの成分中にある酸、アルデヒド、ヒドロキシ、アミノまたはヒドラゾ基間にアミド、エステルまたはイミノ結合が形成される。当業者に公知の生物学的不安定共有結合、例えばイミノ結合(−C=N−)、および結合−COOCHまたは−COOCH(CH)Oを有するいわゆる“活性”エステルが好ましい;結合した外因性分子の官能性が低下していることがわかっている場合には特にそうである。例えば核酸の相補的ストランド間に生成する水素結合も複合体形成に用いられる。例えば本発明によって細胞に運ぶべき核酸の少なくとも1部に相補的なビオチニル化またはフォレート化オリゴヌクレオチドは上記核酸とハイブリダイズすることができ、そのハイブリッド(複合体)を本発明によって用いられ、 その核酸の細胞内へのデリバリーを促進することができる。
【0017】
ペプチド、蛋白質、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、脂質、燐脂質、炭水化物、リポソームまたはその他の脂質ビヒクル、低分子治療薬、生物活性化合物、および治療薬の担体と共に用いるのに適したビオチニル化試薬およびビオチニル化法は容易に使用できるため、ビオチンはこの発明の実施に使用するための好適な複合体形成性リガンドである。概してビオチン/外因性分子複合体は、ビオチンまたはビオチン誘導体を、関心とする外因性分子に共有結合することによって形成される。ビオチン/ビオチン受容体経路を経る経膜輸送も好ましい、なぜならばビオチンは種々様々の細胞にとって必須の栄養であり、エンドサイトーシス活性を仲介するビオチン受容体は哺乳動物、植物および細菌細胞に確認されているからである。
【0018】
ビオチンと関心とする外因性分子との間の複合体の形成は容易に行われる。ビオチンおよびその同族体は、ビオチンのカルボキシル基を活性化し、それを蛋白質の遊離アミノ基と反応させ、共有アミド結合基を形成することによって、蛋白質に容易に結合できる。 ビオチニル化試薬、例えばD−ビオチン−N−ヒドロキシ−コハク酸エステルまたはビオチニル−p−ニトロフェニルエステルを用いることができる。活性化エステルは緩和な条件下でアミノ基と反応し、ビオチン残基を所望分子に挿入する。D−ビオチン−N−ヒドロキシ−コハク酸エステルを用いて巨大分子をビオチニル化するために行われる方法は当業者には公知である(ホフマン(Hofmann)ら、J.Am.Chem.Soc.100巻、3585−3590ページ(1978))。ビオチニル化試薬としてビオチニル−p−ニトロフェニルエステルを用いて外因性分子をビオチニル化するのに適した方法も当業者には公知である(ボダンズク(Bodanszk)ら、 J.Am.Chem.Soc.99巻、235ページ(1977))。その他の試薬、例えばD−ビオチニル− −アミノカプロン酸N−ヒドロキシ−コハク酸イミドエステル(この化合物では−アミノカプロン酸がスペーサーリンクとして働き、立体障害を減少させる)も本発明の目的に使用することができる。
【0019】
オリゴヌクレオチドおよびポリヌクレオチドも間接的および直接的方法を用いてビオチニル化することができる。間接的方法としては、ポリヌクレオチドのビオチニル化ヌクレオチドによる末端標識化、またはビオチニル化ヌクレオチドを組み込むニックトランスレーションがある。DNAのニックトランスレーションまたは末端標識化はマニアチス(Maniatis)らの分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)、109−116ページ、Cold SpringHarbor Press(1982)に記載されている方法を用いて実現できる。直接的方法は、ビオチニル化試薬を用いてビオチンを標的ポリヌクレオチドに直接付着させる方法である。光活性化試薬、例えばN−(4−アチド−2−ニトロフェニル)−N−(3−ビオチニルアミノプロピル)−N−メチル−1、3−プロパンジアミンの酢酸塩(フォトビオチン)などを用いてフォルスター(Forster)らの方法(Nuc.Acids Res., 13巻、745−761ページ)によりDNAをビオチニル化することができる。別法は、ライスフェルド(Reisfeld)らの記載した方法(B.B.R.C.142巻519−526ページ(1988))により、例えばシチジンなどのヌクレオチド塩基のアミノ基転移をすることができる重亜硫酸塩触媒反応においてビオチン ヒドラチッド試薬を用いる。この方法は 1M重亜硫酸塩を含む酢酸緩衝液、pH4.5、中で10mg/mlのビオチン ヒドラチッドとDNAまたはRNAとを24時間インキュベーションするでけでよい。ビオチン ヒドラチッドを用いて遊離アルデヒドを含む炭水化物またはその他の外因性分子をビオチニル化することもできる。
【0020】
ビオチン同族体、例えばビオシチン、ビオチンスルフォキシド、オキシビオチンなど、およびその他のビオチン受容体結合性化合物は液体であり、これも本発明による外因性分子の経膜輸送を促進するために適した複合化剤として用いることができる。ビオチン受容体に結合して複合体の受容体依存性エンドサイトーシス輸送を開始することができるその他の化合物も予想される。そのようなものとしては、その他の受容体結合性リガンド、例えばビオチン受容体に対する抗イディオタイプ抗体などがある。ビオチン受容体に対する抗イディオタイプ抗体と複合体化する外因性分子を用いて本発明による複合体の経膜輸送をトリガーすることができる。
【0021】
エンドサイトーシス活性を仲介するフォレート受容体がこれまでに細菌細胞で確認された(クマー(Kumar)ら、J.Biol.Chem., 262巻、7171−79ページ(1987))。葉酸、ホリン酸、プテロポリグルタミン酸、およフォレート受容体結合性プテリジン類、例えばテトラヒドロプテリン類、およびそれらのデアザおよびジデアザ同族体が本発明の第2の実施態様によって用いられる好適複合体形成性リガンドである。用語“デアザ”および“ジデアザ”同族体とは、天然に生成する葉酸構造の1個または2個の窒素原子を置換した炭素原子を有する当業者には公知の同族体である。例えばデアザ同族体には、1−デアザ、3−デアザ、5−デアザ、8−デアザ、および10−デアザ同族体が含まれる。ジデアザ同族体は例えば1、5−ジデアザ、5、10−ジデアザ、8、10−ジデアザ、および5、8−ジデアザ同族体を含める。上記の葉酸誘導体は一般的に、それらのフォレート受容体との結合能力を反映して“フォレート”と呼ばれ、そのようなリガンドは外因性分子と複合体を形成するとき経膜輸送を効果的に高める。本発明のための複合体形成リガンドとして有用なその他のフォレートは、フォレート受容体結合性同族体アミノプテリン、アメトプテリン(メトトレキセート)、N10−メチルフォレート、2−デアミノ−ヒドロキシフォレート、デアザ同族体、例えば1−デアザメトプテリンまたは3−デアザメトプテリン、および3'、5’−ジクロロ−4−アミノ−4−デオキシ−N10−メチルプテロイルグルタミン酸(ジクロロメトトレキセート)などである。フォレート受容体に結合でき、複合体の受容体依存性エンドサイトーシス輸送を開始するその他の適したリガンドにはフォレート受容体に対する抗イディオタイプ抗体類が含まれる。フォレート受容体に対する抗イディオタイプ抗体と複合体化する外因性分子を用いて本発明による複合体の経膜輸送をトリガーする。
【0022】
フォレート化リガンドを、ビオチニル化リガンド複合体について前に引用したものと同じまたは極めて類似した、当業者には公知の共有結合技術を用いて、前に定義した外因性分子と複合体化することができる。例えば、フォレート部分または外因性部分のカルボン酸を例えばカルボジイミダゾールまたは標準カルボジイミド結合試薬、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)などを用いて活性化し、その後、最低1つの求核基、すなわちヒドロキシ、アミノ、ヒドラゾ、またはチオールを有する複合体のその他の成分と反応させて、エステル、アミド、またはチオエステル結合によって結合したそれぞれの複合体を形成することができうる。こうしてフォレート リガンドと、ペプチド、蛋白質、核酸(RNAもDNAも含む)、核酸のホスフォロジチオエート同族体、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、脂質および脂質ビヒクル、燐脂質、炭水化物および細胞機能を改善するその他の外因性分子との間で複合体が容易に形成できる。リガンド複合体は、細胞機能改善部分を細胞膜を通して細胞内に速やかに、効率的に運ぶことができる。
【0023】
フォレートおよびビオチニル化受容体結合リガンドの両方を組合わせて用い、外因性分子を細胞膜を介して好都合に運ぶことができると予想される。例えば、外因性分子をフォレートおよびビオチニル化リガンド両方に重複して結合させ、それぞれの細胞膜受容体に結合する機会を増やすことができる。或いは、或る量の外因性化合物の独立的部分(複数)をそれぞれビオチニル化およびフォレート結合し、生成した両複合体部分をその後合一して、細胞機能改善のためのリガンド複合体の混合物を提供することができる。
【0024】
ビオチニル化またはフォレート誘導体化ポリヌクレオチドの受容体依存性細胞内取り込みは細胞の形質転換のための便利な効率的メカニズムである。この方法が細胞形質転換にとって特に貴重であるのは、通常は標準的形質転換技術に抵抗する植物細胞のような種類の細胞にでも応用できるからである。異種遺伝子の細胞質への運搬は本発明を用いて非常に効率的に行われる。ひとたび細胞膜を経て細胞内部に運ばれたならば、異種遺伝子は発現して所望蛋白質を生産することができる。その上、その他の核酸、例えば、内因性メッセンジャーRNAとの結合妨害をすることができるアンチセンス−RNA配列などを導入することができる。
【0025】
人工的に生成した燐脂質ビヒクルが、膜不透過性物質を細胞内へ導入するための担体として、完全無傷細胞の膜の脂質組成を変えるための道具として、そして細胞融合の誘導因子として用いられた。リポソーム/細胞膜相互作用は本発明の方法の一つの応用にしたがい、細胞膜と、外因性分子を含み、その膜接触表面上にリガンドを担うリポソームとを接触させることによって増強する。例えば、リポソーム形成燐脂質は、例えばヒドロキシおよびアミノ基のような主要群の官能基を介してビオチニル化またはフォレート結合することができる。生成した燐脂質/リガンド複合体をその後それだけで、または未変化の燐脂質と組み合わせて用いて、細胞機能を調節またはその他のやり方で改善することができる外因性分子を含むリポソームを形成する。生成したリポソーム―ここでも全体または一部が燐脂質/ビオチンまたはフォレート複合体からなる―は細胞表面結合性ビオチンまたはフォレート受容体結合基を有し、それは受容体依存性エンドサイトーシスメカニズムをトリガーし、それによってリポソームに含まれる物質の細胞内へのデリバリーを促進する。上記の方法によって用いることができる1つの使用しやすい燐脂質はホスファチジルエタノールアミンである。その燐脂質は当業者には公知の方法を用いてビオチン、ビオチン同族体、またはフォレート受容体結合リガンドと好都合に複合体化し、燐脂質/リガンド複合体を形成することができる。その受容体結合性複合体をその他の燐脂質、例えばホスファチジルコリンなどと組み合わせることができ、その混合物を用いて生物学的活性物質を含むリポソームを形成し、これらの生物学的活性物質を細胞に運ぶことができる。
【0026】
本発明により、その他の栄養―その栄養のための受容体が存在し、それに関連した受容体依存性エンドサイトーシス取り込みが行われる―が外因性分子と複合体を形成するためのリガンドとして役立ち、それらの細胞内取り込みを高めることができることも考えられる。受容体依存性エンドサイトーシスをトリガーし、ここに開示した方法によって使用できると考えられる栄養のなかにはカルニチン、イノシトール、リポ酸、ナイアシン、パントテン酸、リボフラビン、チアミン、ピリドキサール、およびアスコルビン酸、および脂溶性ビタミンA、D、EおよびKがある。これらの非有機金属性栄養、およびそれらの同族体およびそれらの誘導体は、前にビオチンおよびフォレートについて説明した方法と同じ方法により、外因性分子と結合して、細胞膜と接触するためのリガンド複合体を形成することができるリガンド類を構成する。これら上記の栄養は概して哺乳動物細胞に必要な栄養である。上記の非有機金属性栄養と結合した外因性分子を用いて既述のような治療薬または薬物学的活性物質の有効量を、非経口または経口投与経路によりヒトまたは動物宿主に運ぶことができる。
【0027】
本発明の1実施態様により、外因性分子として診断薬を含める;それはリガンドと複合体を形成し、生体細胞の膜を通過する診断薬輸送を高める。リガンドはビオチンまたはビオチンのビオチン受容体結合同族体、フォレート、フォレートのフォレート受容体結合同族体、リボフラビンまたはリボフラビンのリボフラビン受容体結合同族体、およびチアミンまたチアミンのチアミン受容体結合同族体からなる群から選択される。ビタミンリガンドを診断薬との複合体化により、動物に投与したとき、その診断薬はビタミンリガンドのための膜結合受容体を有する組織を標的とすることができる。この結果、診断薬の標的組織における濃化がおこり、非標的組織からはその診断薬は速やかに排除される。
【0028】
本発明における使用に適した診断薬は、多細胞有機体に投与した後 in vivo で検出できるいかなる化合物でもよい。好適化合物は高電子密度物質、磁気共鳴イメージング剤および放射性医薬品を含める。
【0029】
リガンドは共有結合、イオンまたは水素結合によって、直接または結合基を介して間接的に診断薬に結合することができる。1実施態様において、診断薬はリポソームに含まれ、ここでリポソームはリポソーム形成燐脂質を含んでなり、その少なくとも1部はそれらの主要基によってリガンドに共有結合する。
【0030】
1実施態様において、ビオチンまたはビオチンのビオチン受容体結合同族体、フォレート、フォレートのフォレート受容体結合同族体、リボフラビンまたはリボフラビンのリボフラビン受容体結合同族体、およびチアミンまたチアミンのチアミン受容体結合同族体からなる群から選択されたリガンドは、放射性核種に結合して複合体を生成し、診断的画像化に用いられる。診断的画像化に適する放射性核種は、同位元素 111In、99mTc、64Cu、67Gaまたは 68Gaなどの、ガリウム、インジウム、銅、テクネチウムおよびレニウムの放射性同位元素を含める。これらの放射性核種はキレート結合基によってビタミンリガンドに結合することができる。キレート剤の化学構造は、それが放射性核種カチオンに対する必要な親和性をもつ限り、重要でない。本発明による使用に適したキレート剤は図1に示すキレート剤、並びにテトラアザシクロテトラデカンテトラアセテート(TETA)である。
【0031】
本発明の1実施態様において、リガンド−放射性医薬品複合体を用いて腫瘍細胞を画像化する。特に葉酸−放射性核種複合体を用いて腫瘍細胞を画像化する。葉酸は、 すべての真核細胞がDNA合成および炭素代謝のために必要とする必須食事性ビタミンである。葉酸は主として膜輸送蛋白質によって助長された輸送によって細胞内に入る(葉酸ではKm=1.5×10−6M)が、若干の細胞は膜に結合した、フォレート結合性蛋白質受容体(FBP)をも有し、これが二次的に受容体依存性エンドサイトーシスによるフォレート取り込みを行う(フォレートではKa=5×10−10M)。フォレートが直接的にまたは結合基によって間接的に、そのガンマ−カルボキシレートにより診断薬に共有結合するとき、フォレート フラグメントは助長された輸送系によっては識別されなくなるが、FBP受容体によってはまだ識別することができる。こうしてこのようなフォレート複合体は膜FBP受容体をあらわす細胞によって選択的に濃化される。
多数の腫瘍細胞型(例えば乳癌、卵巣癌、頸部癌、結腸直腸癌、腎臓癌および鼻咽頭癌)がFBP受容体を過剰に発現することが知られている。放射性医薬品のような診断薬とフォレートのガンマ−カルボキシレートとの結合は、これら複合体の腫瘍細胞による選択的取り込みを高め、より速い、より感度の高い腫瘍画像化を可能とする。
【0032】
125I標識リボヌクレアーゼ−フォレートを用いて、フォレート欠乏食で飼育した(血清フォレート濃度を正常ヒト血清に見いだされるレベルに近づけるように調節するため)無胸腺マウスにおいて腫瘍細胞への放射性トレーサーのデリバリーを調べた。無胸腺マウスの肩に2×10ヒトKB細胞を皮下注射することによって、そのマウスに腫瘍細胞を移植した。ヒトKB細胞の皮下投与の20日後に、そのマウスに 125I標識リボヌクレアーゼ−フォレート複合体を大腿静脈から静脈内注射した。対照として、腫瘍をもった無胸腺マウスに 125I標識リボヌクレアーゼ(フォレートがない)を注射した。各薬の生体内分布を、組織1gあたりの注射線量のパーセントとして計算して、表1(125I標識リボヌクレアーゼ−フォレート)および表2(125I標識リボヌクレアーゼ)に示す。125I標識リボヌクレアーゼ−フォレートおよび 125I標識リボヌクレアーゼの腫瘍取り込みおよび腫瘍/血液 比の比較に基づいて、若干の腫瘍選択性が見られる。しかしこの水準の選択性は、腫瘍と他の非標的組織とのコントラストが良くないため、臨床的に利用するには不十分である。
【0033】
〔表1〕
雄無胸腺マウス(フォレート欠乏食)にKB腫瘍を静脈内注射した後の125I−RNase−フォレート複合体の生体内分布

【0034】
〔表2〕
雄無胸腺マウス(フォレート欠乏食)にKB腫瘍を静脈内注射した後の125I−RNase(対照)の生体内分布

【0035】
驚くべきことに、低分子診断薬は、フォレートに結合させ、動物に投与したとき、腫瘍 対 正常組織の十分に高い生体内分布比をもたらすことがわかった。フォレート複合体の取り込みは受容体依存性エンドサイトーシスメカニズムによって仲介され、これらのメカニズムは概して大きい巨大分子を細胞内に取り込むことができるから、低分子フォレート複合体が高分子フォレート複合体より有効であるとは予想できない。特に、キレート剤によりフォレートに結合した放射性核種はFBP受容体に高い親和性を示し、したがって診断的画像化にはすぐれた化合物である。本発明によると、下記の一般式であらわされる放射性核種フォレート結合物であって、
V−Y・M
上記式中、V=フォレートまたはフォレートのフォレート受容体結合性同族体;
Y=Vに共有結合したキレート剤;
M=Yとキレート結合した放射性核種;
である放射性核種フォレート複合体を用いて in vivo 腫瘍細胞を画像化する。
【0036】
特に、ガリウム標識フォレート複合体をマウスに in vivo で用い、腫瘍を画像化する。これらの複合体は腫瘍細胞に対して特に高い親和性を示す。数ミリグラム程の小さい腫瘍塊の位置が容易に可視化されるはずであり、その後の転移が起きる前にそれらを除去することができる。
【0037】
In vivo におけるFBP受容体の標的化を評価するのに適した動物モデルを作るために、無胸腺マウスにヒトKB系の細胞約4×10を皮下に移植した。通常のマウス食は高濃度の葉酸(6mg/kg食物)を含むから、腫瘍標的化研究に用いる動物は概してフォレート欠乏食で飼育し、血清フォレート濃度を正常ヒト血清の4−6μg/Lの範囲に近づけるように調節した。図2は測定マウスの血清フォレート濃度と、フォレート欠乏食開始後の経過時間との関係を示す。
【0038】
In vivo における金属標識放射性医薬品の腫瘍細胞内選択的取り込みを試験するために、〜180μCiの 67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体(図3参照)を2匹の腫瘍担持無胸腺マウスに投与した。熟練せる当業者には公知の方法によってマウスの背側領域にヒトKB細胞を皮下注入することによって無胸腺マウスに腫瘍を生成させた。マウスに腫瘍を確立した後、〜180μCiの 67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体を静脈内注射した。注射の約45時間後に、ガンマ画像をとった、そして 67Gaの組織分布を定量した。解剖で、これら2匹の動物からの腫瘍はそれぞれ29.6および8mgの重さであることがわかった、一方これら動物の全身体重は19.3および22.6gであった。これら腫瘍が腎臓に対して小さいサイズで、最適下の位置であるにもかかわらず、29.6mgの腫瘍はガンマシンチグラフィーによって容易に検出された。殺したとき、29.6mg腫瘍は腫瘍1gあたり注入線量の3.3%を含むことが判明した。
【0039】
67Ga−DF−フォレートが in vivo 腫瘍細胞を標的化する能力をより良く明確化するために、そして複合体の腫瘍内取り込みを決定する場合のFBP受容体の役割を確認するために、17匹の付加的無胸腺、腫瘍担持マウスの系列を例26に記載のように研究した。67Ga−DF−フォレート複合体をそれらマウスに静脈注射した。生成したガリウム−デフェロキサミン−フォレート複合体の組織分布を表3に示す。相対的に低い分子量の 67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体は画像化剤の顕著に高い絶対的腫瘍内取り込みを示し、125I標識リボヌクレアーゼ−フォレート複合体で得られたものと比べて、はるかに良い腫瘍−対−組織コントラストを有する。注射後1時間で、67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体の腫瘍内取り込みはグラムあたり注入線量の5.2±1.5%であり、一方125I−リボヌクレアーゼ−フォレートはグラムあたり注入線量の2.7±0.5%に過ぎなかった。対応する腫瘍/血液比は 67Ga−デフェロキサミン−フォレートでは409±195で、125I−リボヌクレアーゼ−フォレートでは1.2±0.2であった。対応する腫瘍/筋肉比は 67Ga−デフェロキサミン−フォレートでは124±47で、125I−リボヌクレアーゼ−フォレートでは3.4±1.6であった。ガンマカメラの使用により、8mmの腫瘍が67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体を用いて in vivo で容易に画像化された。
【0040】
その他の低分子放射性医薬品はフォレートのガンマ−カルボキシレートと結合して腫瘍細胞を画像化できると予想される。1実施態様において、放射性標識ペプチドをフォレートに結合することができる。フォレート−ペプチド複合体のペプチド部分は、腫瘍関連性受容体に結合するペプチド/蛋白質フラグメントから選択することができる。腫瘍関連性受容体に親和性を有するペプチドはこれまでに報告され、熟練せる当業者には公知である。このようなペプチドとフォレートとの直接的またはリンカーによる間接的結合は、画像化剤に付加的腫瘍親和性を与え、そのため画像化複合体の腫瘍細胞に対する選択性をさらに高める。
【0041】
下記の例は本発明の方法をさらに説明するためのものである。
【実施例】
【0042】
<例1 ビオチン結合インスリンのラット好クローム性細胞腫細胞内取り込み:>
ラット好クローム性細胞腫(PC−12)細胞を米国培養コレクションから入手し、プラスチック性フラスコに付着させ、1%ストレプトマイシン−ペニシリンを含む85%RMPI1640、10v/v%加熱不活性化ウマ血清、および5%ウシ胎児血清の培地中で、融合するまで2ないし3週間増殖させた(37℃、加湿空気中5%CO)。
【0043】
ビオチンおよびフルオレッセイン標識インスリンを作った。燐酸緩衝食塩液中インスリン蛋白質1mg/ml溶液1mlに、ジメチルホルムアミド(DMF)中フルオレッセイン イソシアネート(FITC)1mg/ml溶液100lと、ジメチルスルフォキシド(DMSO)中N−ヒドロキシスクシンイミド ビオチンの1mg/ml溶液100lを同時に加えた。2つの標識試薬を室温で4時間反応させ、その後未反応試薬の反応を10lエタノールアミンで停止した。その後停止した反応混合物を2回蒸留した水に対して、未反応フルオレッセインがもはや水中に透析されなくなるまで透析した。ビオチンおよびフルオレッセインの所望蛋白質への共有結合は、ドデシル硫酸ナトリウムゲル電気泳動およびウエスターンブロット分析によって確認した。
【0044】
対照として非ビオチニル化フルオレッセイン標識インスリンを作った。1mg/mlインスリン溶液1mlをジメチルホルムアミド(DMF)中フルオレッセインイソシアネート(FITC)1mg/ml溶液0.5mlに加えた。反応は暗所で室温で4時間行われた。4時間後エタノールアミン10lで反応を停止し、標識インスリン溶液を2回蒸留した水に対して、未反応のFITCがもはや溶液にあらわれなくなるまで透析した。
【0045】
ラットPC12細胞を改良RMPI1640培地中で培養フラスコの底に単層として増殖させた。細胞を取り出す前にその単層を新鮮ロック溶液20ml部分で洗った。その後細胞をロック溶液流でおだやかに撹拌することによってロック溶液20ml中に移した。懸濁細胞を10,000×gで10秒間遠心分離することによってペレットとし、別のポリカルボネート管(40ml/管)中のロック溶液に最終密度1.14×106細胞/mlになるように再懸濁した後、次の量の蛋白質類をその細胞懸濁液に加えた:40gフルオレッセイン標識インスリンを第1の管に加え、対照管にはフルオレッセインで標識したビオチン結合インスリン40gを加えた。管を37℃でインキュベートした。5、15、および33分の間隔で、各細胞懸濁液0.5mlを除去し、10,000×gで10秒間遠心分離してペレットとした。その細胞ペレットを洗い、1mlロック溶液中で2回再ペレット化し、それから燐酸緩衝食塩液中2%ホルマリン溶液200lを添加して固定した。固定した細胞懸濁液13マイクロリットルを顕微鏡のスライド上に置き、蛍光顕微鏡で観察し、細胞内に取り込まれた蛋白質を検査した。対照としてはたらくフルオレッセイン標識インスリンではインターナリゼーションの証拠は認められなかった。
【0046】
フルオレッセイン標識ビオチニル化インスリンでは細胞インターナリゼーションが示され、細胞内に取り込まれる量は時間と共に増加した。
【0047】
<例2-ビオチン結合ヘモグロビンのラット好クローム性細胞腫細胞内取り込み:>
例1に示した同じ一般的方法にしたがい、ヘモグロビンをビオチニル化した。ビオチニル化型は非ビオチニル化ヘモグロビンに比較してラット好クローム細胞腫細胞により多く取り込まれることが判明した。
【0048】
<例3−ウシ血清アルブミンの大豆細胞内取り込み:>
Glysin max Merr Var Kent の大豆細胞懸濁液培養物は、7日毎に細胞を新鮮W−38増殖培地に移すことによって維持された。
【0049】
大豆細胞懸濁培養物20mlにフルオレッセイン標識(対照)またはフルオレッセインおよびビオチン標識ウシ血清アルブミンのどちらかを10g加えた。それら細胞を6時間までインキュベートした。種々の時間間隔で、細胞懸濁液1mlを濾過して増殖培地を除去し、新鮮増殖培地50mlで洗い、同じ培地20mlに再懸濁した。細胞懸濁液を蛍光顕微鏡で観察し、標識ウシ血清アルブミンの細胞インターナリゼーションが起きたかどうかを調べた。細胞インターナリゼーションはビオチニル化ウシ血清アルブミンだけに示された。
【0050】
<例4−インスリンの大豆細胞内取り込み:>
例3に示した同じ一般的方法にしたがい、インスリンをビオチニル化した。ビオチニル化型インスリンは非ビオチニル化インスリンに比較して大豆細胞により多く取り込まれることが判明した。
【0051】
<例5−ヘモグロビンの大豆細胞内取り込み:>
例3に示した同じ一般的方法にしたがいヘモグロビンをビオチニル化した。ビオチニル化型ヘモグロビンは非ビオチニル化ヘモグロビンに比較して大豆細胞により多く取り込まれることが判明した。
【0052】
<例6−ウシ血清アルブミンのニンジン細胞内取り込み:>
野生型ニンジン細胞を確立し、0.1mg/L 2、4−ジクロロフェノキシ酢酸を補充したMS増殖培地中に維持した。ウシ血清アルブミンをフルオレッセインのみで標識化して対照とし、或いは例3に詳細に説明した方法でフルオレッセインおよびビオチンで標識化した。ニンジン細胞をその後それぞれの標識ウシ血清アルブミンの存在下で7時間インキュベートした。その他のすべての条件は例3に説明した通りであった。細胞インターナリゼーションはビオチン標識ウシ血清アルブミンと接触した細胞にのみ見いだされた。
【0053】
<例7−インスリンのニンジン細胞内取り込み:>
例6に記載の方法と同じ一般的方法にしたがい、インスリンをビオチニル化した。ビオチニル化型は非ビオチニル化インスリンに比較してニンジン細胞によってより多く取り込まれることが判明した。
【0054】
<例8−ヘモグロビンのニンジン細胞内取り込み:>
例6に記載の方法と同じ一般的方法にしたがい、ヘモグロビンをビオチニル化した。ビオチニル化型は非ビオチニル化ヘモグロビンに比較してニンジン細胞によってより多く取り込まれることが判明した。
【0055】
<例9−ヘモグロビンの大豆細胞内分解:>
ヘモグロビンが経膜輸送による細胞インターナリゼーション後速やかに分解したかどうかを確かめるために、大豆細胞に例5に記載した条件下で8時間ビオチニル化ヘモグロビンをインターナリゼーションし、代謝させ、その後大豆細胞を速やかにドデシル硫酸ナトリウム溶液でホモジナイズし、すべての蛋白質物質をばらばらに分離し、変性させた。可溶化ポリペプチド類はポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分離し、それからニトロセルロース ペーパー上にエレクトロブロットした。ビオチン標識ペプチドの位置をニトロセルロースブロット上でホースラディッシュパーオキシダーゼ結合アビジンおよび着色基質、p−クロロナフトールで染色することによって可視化した。ビオチン結合物質のすべてはヘモグロビンの親グロビン鎖の分子量と大体同じ16,000ダルトンの見かけ分子量で移動することがわかった;これは8時間のインキュベーション時間内に親グロビン鎖が分解しなかったことを示すものである。
【0056】
<例10−大豆トリプシン インヒビターのマウスへの in vivo デリバリー:>
大豆トリプシン インヒビター(SBTI)(6mg)を1mL緩衝液中で8ヨードビーズ(Bio Rad)を用いて放射性 125Iで標識し、 その後それを透析して未反応125Iを除去した。2つの等しいフラクションに分けた後、1つのフラクションをN−ヒドロキシスクシンイミジル ビオチンでビオチニル化し、他のフラクションは未改質のまま対照とした。その後マウス(25g)の尾静脈に25ゲージ針を付けた皮下注射器を挿入することによって、そのマウスにビオチニル化SBTI、または対照SBTIを注射した。15分後、各マウスを殺し、それから直接心流入および流出法によってヘパリン含有等張生理食塩液で潅流する。種々の組織が無血液になったとき、潅流をやめ、各組織/器官を除去し、秤量し、ガンマカウンターで125I−SBTIを計数した。非ビオチニル化 125I−SBTIを投与したマウスにおいて若干の放射能が検出されたが、ビオチニル化SBTI投与マウスでは4ないし100倍の 125I−SBTIが検出され、ネズミ細胞内組織に上首尾に in vivo デリバリーが行われたことを示した。
【0057】
分/グラム湿重量 あたりのカウント数
組織 対照SBTI ビオチンSBTI
肝臓 535 1967
肺 107 2941
腎臓 5152 8697
腸 0 700
筋肉 0 1065
心臓 0 739
脳 0 267
【0058】
<例11−サーモン精子DNAの大豆細胞内取り込み:>
高度に重合した形(≧50,000の塩基対長さ)か、または切った形(≦500の塩基対長さ)の無蛋白質−サーモン精子DNAをシトシン残基のところでアミノ基転移を行った。アミノ基転移したDNA(1mg)を、ジメチルスルフォキシド(DMSO)中0.5mgフルオレッセイン イソチオシアネート(FITC)の添加によってフルオレッセインで標識化した。生成反応混合物を2部分に分け、1部分ではエタノールアミン10Lの添加によって標識化反応を停止した。この停止部分を非ビオチニル化対照とした。残るDNAをその後DMSO中N−ヒドロキシスクシンイミジル ビオチン0.5mgとの反応によってビオチンで共有結合標識化した。精製後、2種類の誘導体(1g/ml)を別々に大豆懸濁培養細胞と共に室温で6時間インキュベートし、それから細胞を50ml新鮮増殖培地で洗い、蛍光顕微鏡で観察した。ビオチニル化DNAのみが大豆細胞に入った。
【0059】
<例12−大腸菌(E.Coli)の形質転換およびアンピシリン耐性遺伝子の発現:>
プラスミドDNA(pUC8)を市販のニックトランスレーション キット(Bethesda Research Laboratories)を用い、 ビオチン−14−dATPの存在のもとでニックトランスレーションによってビオチニル化した。ビオチニルDNAおよび未改質DNA(1g)を、マニアチスらの方法(分子クローニング:実験マニュアル、250−251ページ、Cold Harbor Press(1987))によりMgCl2およびCaCl2で処理してコンピテントにした大腸菌Cu1230菌株に加えた。形質転換後、細胞を50g/mlアンピシリンを含むLB培地に培養し、37℃で一晩インキュベートすることによって、うまくできたトランスフォーマントを選択した。アンピシリンに耐えて生き残ったコロニーを数え、形質転換効率を決定した。生き残った大腸菌コロニーの数は、ビオチニル化プラスミドで形質転換した大腸菌では少なくとも100倍多かった。
【0060】
<例13−大豆細胞へのビオチニル化蛋白質デリバリーを、非結合ビオチンとの競合により阻止:>
インスリン、リボヌクレアーゼ(RNase)およびウシ血清アルブミン(BAS)を前記例1に示す同じ一般的方法によって個々にビオチニル化した。各ビオチニル化蛋白質のサンプルおよび同じ蛋白質の未改質サンプル(対照蛋白質)を次のようなプロトコルによって放射性ヨウ素標識した。3個のヨードビーズ(Pierce Chemical Co.)を含む200mMの燐酸緩衝液、pH7.0、に0.2mCi[125I]−NaI(1nNaOH中、無担体、Amersham)を加え、 供給会社の使用説明書にしたがってその混合物を5分間インキュベートして、活性ヨウ素種を遊離させる。活性化後、所望ビオチニル化−または対照−蛋白質1mgを0.5mLヨウ素化緩衝液に加えた。ヨウ素化は撹拌下で20分間行われた。ヨウ素化が完了した後、生成物をビオゲルPH−10カラム上でゲル濾過することによって分離した。リボヌクレアーゼA(シグマ ケミカル社)の典型的ヨウ素化により2×10cpm/gを放射する生成物が生成した。
【0061】
125I−標識蛋白質の、初期指数的増殖期の大豆懸濁培養細胞による取り込みを次のようにして分析した。各培養物に十分量の125I−標識−巨大分子を加え、最終濃度10g/mLとし、その懸濁液を23゜で所望時間だけインキュベートした。所望インキュベーション時間後、細胞を、15mMグリシルグリシンでpH8に再緩衝した増殖培地で5分間洗い、表面結合リガンドを除去した。細胞懸濁液をその後濾過し、200容量の増殖培地で洗い、計数用バイアルに入れた。
【0062】
ビオチン結合RNaseの取り込みは速く、最初の3時間に細胞あたり6×106 分子が細胞内に取り込まれた。対照的に、未改質RNaseは細胞内に取り込まれず、ビオチン付加物の重要性が証明された。RNaseのデリバリーを仲介するビオチンの役割をさらに確認するために、細胞懸濁液を、ビオチン誘導体化RNaseの添加直前に1mM遊離ビオチンで処理した。遊離ビオチンは結合蛋白質の大豆細胞内へのデリバリーを競合的にブロックした。そのためインターナリゼーションプロセスは植物細胞表面にある限られた数の受容体によって認識されると結論づけることができる。
【0063】
ビオチン標識化BSAおよび−インスリンに関する同様な研究は実質上同じ結果を与えた。
【0064】
<例14−ウシ血清アルブミンの培養大豆細胞によるインターナリゼーション後における部分的精製>
放射標識したビオチニル化ウシ血清アルブミンを、例13に示す方法と同じ一般的方法にしたがって培養大豆細胞に結合させ、その細胞内に入れた。その後それら細胞を徹底的に洗い、ホモジナイズし、抽出して、 細胞質可溶性蛋白質を除去した。この細胞質蛋白質抽出物をセガデックスG−25ゲル濾過カラム上の標準的クロマトグラフィー法を用いて分離し、同時デリバリー(co-delibery) プロセス中に小分子量フラグメントが発生するかどうかを調べた。細胞抽出物から分離した 125I標識物質の溶出プロフィールを未改質 125I-血清アルブミンのプロフィールと比較すると、細胞内に取り込まれた蛋白質の大部分はインターナリゼーション研究の2時間を通じて完全無傷のままであることが示された。
【0065】
<例15−ヒポキサンチン−グアニン ホスフォリボシル トランスフェラーゼ(HGPRT)欠乏培養細胞において、ビオチニル化HGPRTの添加による増殖の回復>
HGPRT欠乏細胞(すなわちレッシュ・ナイハン症候群)は、プリン類を補充したヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジン(HAT)を含む細胞増殖培地においてのみ増殖することができる。しかしビオチン結合HGPRTがビオチン仲介性エンドサイトーシス経路を経てインターナリゼーションした後に、これら同じ細胞がHAT培地で正常に増殖することが判明した。HGPRTは、ヒポキサンチンとホスフォリボシル ピロ燐酸(活性部位を保護するため)の存在のもとで、N−ヒドロキシスクシンイミド ビオチンでビオチニル化した。この架橋酵素は元の活性の55%を保持し、SDS PAGE分析とその後のトランスブロッティングおよアビジン−パーオキシダーゼ結合は、HGPRT1分子あたり1−4個のビオチンが付着していることを示した。ビオチニル化HGPRT(4.6×10単位/細胞)と共にインキュベートしたHGPRT欠乏繊維芽細胞(GM 00152)は、少なくとも24時間はプリン補充細胞に匹敵する速度で増殖した。適した対照インキュベーションは、HGPRT、ビオチン、ホスフォリボシル、およびイノシン−一燐酸を補充したHAT培地では増殖しなかった。
【0066】
<例16−ビオチン デリバリー システムを用いる、 培養大豆細胞のカナマイシン耐性遺伝子による形質転換:>
細菌カナマイシン耐性遺伝子を含む発現ベクターpGA642−643をEcoR1でニックし、スティッキー末端を、例12に示したと同じ一般的方法にしたがい、ビオチニル化ATPとT4ポリメラーゼ基礎ニックトランスレーションキットを用いて埋める。同じ対照プラスミドは未改質のままにした。それから大豆細胞懸濁液40mlにビオチニル化プラスミドまたは対照(非ビオチニル化)プラスミドを加えた。10時間インキュベーション後、各フラスコからの細胞を100g/mlカナマイシンを含む新鮮増殖培地に移し、通常条件下で増殖させた。各フラスコも3日ごとに100g/mlカナマイシン含有新鮮培地に移された。10日までに、ビオチニル化プラスミドを投与したフラスコでは細胞量が6倍に増え、一方対照プラスミドを投与したフラスコは明らかな増殖を示さなかった。
【0067】
<例17−リボヌクレアーゼを培養ヒト細胞に運搬するために葉酸結合の使用:>
1mg葉酸および3.8等量の1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)を0.5mlのジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解することによって活性化葉酸を作った。その溶液を2.5時間放置した。ウシリボヌクレアーゼを34倍モル過剰のEDC活性化フォレートで処理することによって、フォレート標識ウシ リボヌクレアーゼのサンプルを作った。生成した誘導体化RNaseは蛋白質分子あたり12−14個の、 共有結合したフォレートを含んでいた。リボヌクレアーゼの第2のサンプルは未改質のままとし、対照として用いた。フォレート標識サンプルおよび対照サンプルは、例13に示した方法と同じ一般的方法によって放射性ヨウ素化した。徹底的透析後、2つの 125I標識サンプルをKB細胞(ヒト鼻咽頭細胞系)に加え、30分後に125I−RNaseの取り込みを試験した。RNase対照サンプルでは蛋白質の取り込みは認められなかったが、フォレートで標識したRNase(RNase−フォレート)によって細胞あたり107の分子が細胞内に取り込まれた。この取り込みが実際にフォレート依存性であることを確かめるために、KB細胞を、対照RNaseで、または100倍モル過剰の非結合フォレート(100X)の存在下でフォレート標識RNaseで処理した。対照RNaseはこの場合もインターナリゼーションを示さなかった;RNase−フォレート複合体の取り込みは競合的阻害によって7分の1に低下した。ヒトHeLa細胞を用いて同様な研究を行い、同等の結果を得た。
【0068】
<例18−大豆トリプシン インヒビター(SBTI)を培養ヒト細胞内に運搬するために葉酸結合の使用:>
例17に示した一般的方法を用い、リボヌクレアーゼの代わりに大豆トリプシンを用いて行った実験は、実質上同一の結果を与えた。ここでもフォレート結合がKB細胞によるSBTI取り込みのために必須であることが証明された。
【0069】
<例19−共焦顕微鏡を用いる、KB細胞によるリボヌクレアーゼ エンドサイトーシスの可視化:>
例1に示す方法と同じ一般的方法を用いてウシ リボヌクレアーゼ(RNase)をフルオレッセイン イソチオシアネートで標識化し、それから例17に示す方法と同じ一般的方法を用いてフォレートでさらに標識化した。フルオレッセインのみで標識化したRNaseを対照として用いた。増殖培地に対して長時間透析を行った後、対照サンプルおよびフォレート標識RNaseサンプルを別々のKB細胞培養液に加えた。60分間のインキュベーション後、細胞を徹底的に洗い、取り込みを試験した。共焦顕微鏡(Bio Rad)下でレーザー励起下で見たとき、 フォレート標識サンプルのみが内部蛍光を示した。さらに、各培養細胞の単一水平面に焦点を合わせる共焦性能力を利用して、蛍光標識、フォレート結合リボヌクレアーゼによって満たされた小胞が、細胞表面のすべての領域に形成され、エンドサイトーシスによって細胞内に摘み取られ、細胞質に入っていくのが容易に見られた。直径0.8ないし1.0mのその小胞は容易に増大し、蛋白質およびDNAプラスミドのような大きい生物分子に合うようになった。
【0070】
<例20−フォレートと複合体化したリボヌクレアーゼの白血球による取り込み:>
例19に示す方法と同じ一般的方法を用いてフルオレッセイン標識RNaseをフォレートと結合させ、または未改質のまま(対照)とした。その後フォレート結合−および対照サンプルを採取したてのヒト全血に加え、37℃で2時間インキュベートし、徹底的に洗い、蛍光顕微鏡下で検査した。RNase/フォレート/フルオレッセイン複合体と接触したフォレート受容体担持細胞は蛍光を発するのが認められた。対照細胞では蛍光を示した細胞はなかった。
【0071】
<例21−静脈注射後、生きているマウスの組織中へのリボヌクレアーゼの in vivo デリバリー:>
リボヌクレアーゼを例13に示す方法と同じ一般的方法にしたがって 125Iで標識し、それから例17に示す同じ一般的方法によりフォレートとさらに結合させる、または改質せずに対照として用いた。生きているマウスにフォレート結合サンプルまたは対照サンプルを注射した;その場合27ゲージ針をマウスの尾静脈に刺し込み、生理食塩液に溶解した適切なサンプル0.2mlを注射した。1時間後マウスを麻酔し、例10に示す方法と同じ一般的方法により食塩液で潅流し、解剖して各器官の比放射能を測定した。種々の被検組織の比放射能の相対的比較によって取り込みを測定した(比較した単位は組織の分/グラムあたりのカウント数を注射3分後に採取した血液サンプルの比放射能によって割ったものである;すなわち注射量の変動を標準化するためにこれが行われた)。フォレート結合は肝臓および肺による取り込みを著しく高め、一方、好ましくない蛋白質のクリアランスの役割を担う腎臓には未改質RNaseが豊富であった。
【0072】
注射後18時間生きさせたマウスでも同様な結果が得られ、やはりフォレート結合RNaseのより多い取り込みが腸、心臓、筋肉および脳に認められた。
【0073】
<例22−腹腔内注射後、生きているマウスの組織中へのリボヌクレアーゼの in vivoデリバリー:>
フォレート誘導体化−および対照RNase(125I−標識化)を例21のように作り、体重30gのマウス類の腹腔内に27ゲージ針と注射器を用いて注射した。17時間後、それらマウスを麻酔し、潅流し、解剖して種々の体組織を取り出した。各組織を秤量し、放射能を計数した。対照およびフォレート結合RNaseの特異的取り込みを例21に示す同じ方法により比較した。静脈内投与に比較して、腹腔内注射は腎臓以外のすべての組織へのフォレート誘導体化RNaseのデリバリーを高めた。脳組織にフォレート標識蛋白質がより多く取り込まれたため、血液/脳障壁を通過する経膜デリバリーが証明された。前述の方法をさらに2回反復したが、同様な結果が得られた。
【0074】
<例23−フォレートに結合したアンチセンスの投与でsrc−トランスフォームド繊維芽細胞の分化状態への復帰:>
ラウス肉腫src 癌遺伝子の起始コドンに広がり、遊離3’アミノ基を含む配列に相補的な、下記の式であらわされるペンタデカメリック オリゴヌクレオチドDNAプローブ

をカルボジイミドの化学を用いてフォレートで誘導体化した。第2のサンプルは未改質のままとし、対照とした。両サンプルを燐酸緩衝食塩液に溶解し、ラウス肉腫ウィルス(XC細胞)によって形質転換した繊維芽細胞を含む培養皿に、最終オリゴヌクレオチド濃度8×10−6Mとなるように入れた。24時間後、培養細胞を顕微鏡下で観察した。結果から、フォレート/アンチセンス オリゴヌクレオチド複合体で処理した細胞の40%が正常の繊維芽細胞様形態に戻り、対照では10%だけが同じ非トランスフォームド表現型を示すことがわかった。両培養皿の残る細胞は新生物形成状態に特徴的な、それらの高度に丸い形を保持した。
【0075】
<例24−リボフラビンにより増強された巨大分子の取り込み:>
===リボフラビンを巨大分子に結合する方法===
リボフラビンを蛋白質に共有結合させるために3種類の方法を用いた。3種類共、BSA(Mr−68,000)、モモルディン(Mr−22,000)およびリボヌクレアーゼ(Mr−13,700)のような異なる付加蛋白質を非破壊的に生体細胞内にデリバリーし得ることがわかっている(下記参照)。第1の方法はリボフラビンの側鎖を先ず最初に過酸化ヨウ素で、その後さらに過マンガン酸塩で酸化し、その後生成したカルボキシレートをN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)にカルボジイミド仲介性カップリングすることを含んでなる。改質リボフラビンのNHSエステルをその後第1または第2アミン、例えばBSAの表面にあるリジン側鎖と反応させることができる。
【0076】
NHS−リボフラビンはシステアミンと反応して、ショート スペーサーの末端に遊離スルフヒドリルを有するリボフラビン誘導体を生成することができる。このスペーサーをその後、スルフヒドリルとマレイニジルベンゾイルNHSとの反応によって延長する。生成したリボフラビンのNHS誘導体は第1アミンに対して同様に反応性を有し、ビタミンだけが結合蛋白質から12原子スペーサーによって分離される。
【0077】
異なる反応スキームを用いて、次に記すようにリボフラビンを蛋白質またはその他の巨大分子に結合することができる。未改質リボフラビンを先ず最初にコハク酸無水物と反応させ、第1ヒドロキシルの位置でこのビタミンを延ばす。その後遊離カルボキシレートを上記のようにカルボジイミドの存在下でNHSで活性化する。生成した誘導体はリボフラビンを5原子スペーサーによってあらゆるアミン含有分子に結合することができる。
【0078】
===BHK細胞によるリボヌクレアーゼ−リボフラビン取り込みの定量分析===
リボヌクレアーゼをレモン(Leamon)およびロウ(Low)(1991)が報告した方法で(Proc.Natl.Sci.USA 88巻、5572−5576ページ) 125Iで標識し、それからさらにリボフラビンで誘導体化するか、または未改質のままにした。サンプル(10μg/ml)をそれからBHK細胞の50%融合単層に加え、種々の時間インキュベートした。図4の横軸に示される種々の時間後に細胞を食塩液で5回洗い、取り出し、ガンマカウンターで計数した。蛋白質あたり6個のリボフラビンで誘導体化したリボヌクレアーゼサンプル(RNase A−Rf(6))は、最高割合の取り込みをもたらし、それに続いて多い割合で、 たった1個のリボフラビンに結合したサンプル(RNase−A−Rf(1))が取り込まれた。リボフラビンのない2サンプル(RNase−対照(6)およびRNase−対照(1))は 125I−リボヌクレアーゼをほとんど、または全く細胞内にエンドサイトーシスしなかった(図4参照)。
【0079】
===生きているラットの種々の組織によるリボフラビン仲介性蛋白質取り込みの分析===
さらにリボフラビンで誘導体化した(2.3moles/mole BSA)、または未改質のままにした 125I−BSA(40μg)をウィスター種白色雌ラットの尾静脈に注射し、1時間運動させた。ラットをその後麻酔し、心臓の左心室に10U/mlヘパリンを含む燐酸緩衝食塩液を、左心室から流れ出る液が澄明になり、心臓が青白く見えるようになるまで潅流させ、その後ラットを解剖した。各器官の比放射能を測定した[図5参照、斜線の棒は125I−BSA−リボフラビン複合体サンプルを投与したラットからの組織のBSA含量をあらわし、白い棒は対照(125I−BSA)をあらわす]。明らかに、リボフラビンとの結合は生きているラットの組織内貯留/取り込みを数倍高める。
【0080】
<例25−チアミンにより増強された巨大分子の取り込み:>
===チアミン結合のプロトコル:===
チアミンを95℃で4時間乾燥した。氷浴中で200mg乾燥チアミンに320μl塩化チオニルを撹拌しながら10分間で加え、それから40μlピリジンを同じ方法で加えた。混合物を0℃で10分間撹拌し、それから50℃の油浴に移し、さらに60分間反応させた。白色チアミンをエーテルで4回洗い、その後30分間吸引により乾燥した。乾燥生成物を4℃で保存した。
【0081】
活性チアミンの少量部分10mgを、10mg/mlウシ血清アルブミン/PBS溶液 1mlに加えた。混合物のpHを8に保持した。10分間撹拌後、溶液は深緑色に変わった。混合物を4℃で5000gで20分間遠心分離した。標識BSAを含む液体相をとり、精製した。
【0082】
標識BSAをpH7.4でG−75−120ゲル濾過クロマトグラフィーによって2回精製した。速く移動する緑色バンドがBSA−チアミンであった。BSAに結合したチアミンの量は、結合チアミンを酸化してチオクロムにし、励起波長365nmおよび照射波長445nmで蛍光レベルを測定することによって推定した。結合チアミンの酸化は次のように行われた;20μlBSAチアミン溶液をdH2Oで2mlに希釈した。20μl 2%KFe(CN)および20μl 1MNaOHを上記溶液に加えた。混合物を10秒間渦巻状に撹拌し、10分間放置し、それから蛍光レベルを測定した。BSA濃度はビシンコニニン酸(BCA)法によって推定した。
【0083】
0.5mgフルオレッセイン イソチオシアネート/100μlジメチルホルムアミドを2mgBSA−チアミン/ml溶液 1mlに加えた。混合物のpHを8に保持し、反応液を室温で3時間撹拌した。FITC−BSA−チアミンを2回のG−75−120ゲル濾過クロマトグラフィーによって遊離FITCから分離した。BSAに結合したFITC分子の平均数を、495nmにおける吸収測定によって推定した。
【0084】
===細胞培養および取り込みプロトコル:===
KB細胞を10%ウシ胎児血清(加熱変性したもの)、100単位/mlペニシリン、100μl/mlストレプトマイシン、2μl/mlアンフォテリシンBおよび2mMグルタミンからなるチアミン欠乏イーグル最小必須培地で継代培養を2代以上行った。KB細胞を6cm培養皿に移し、37℃で2日間(約90%融合するまで)培養した。各皿の培地を2mlの新しいチアミン欠乏MEMに交換し、細胞をBSA−チアミンと共に所望通りインキュベートした。
【0085】
処理細胞を37℃で3時間培養した。培養皿をそれからPBSで4回洗い、各皿の細胞をこすりとり、1ml遠心管に集めた。管中の細胞をPBSで4回洗い、スピンダウンし、1mlの1%トリトン−X100で溶解した。
【0086】
溶解溶液(lysis solution)の蛍光を励起波長495nm、照射波長520nmで測定し、蛋白質含量をビシンコニニン酸(BCA)法によって推定した。蛍光から、各皿のKB細胞に取り込まれたBSA分子の総数を計算でき、蛋白質含量から各皿の細胞数を計算できる。2測定値の比が細胞あたり取り込まれたBSA−チアミン分子の数を与える。
【0087】
<例26−A549細胞によるチアミン&リボフラビン取り込み>
===チアミン&リボフラビン仲介性蛋白質取り込みの蛍光顕微鏡による観察===
ウシ血清アルブミンをフルオレッセイン イソチオシアネート(FITC)で標識化し、任意にチアミンまたはリボフラビンとさらに結合した。A549細胞を上記の方法によってFITC−BSA、FITC−BSA−チアミンまたはFITC−BSA−リボフラビンと共にインキュベートした。データが示すように、BSAがFITCのみと結合している場合に比較して、BSAがチアミンまたはリボフラビンと結合している場合にはBSAの取り込みは増加した。出願人は血清がチアミンの細胞受容体と競合する結合蛋白質を含むことも発見した。細胞をチアミン結合BSAとともにインキュベートする前に血清を除去すると結合BSA複合体の取り込みはさらに高まる。
【0088】
===BSAおよびBSA−チアミンのKB細胞による取り込みの時間依存性===
チアミン−BSA−FITC複合体のKB細胞による時間依存的取り込みを測定した(図7参照)。黒丸はFITC−BSA複合体をあらわし、黒い四角形および三角形はチアミン−BSA−FITC複合体をあらわす。この場合黒四角形はBSA分子あたりチアミン平均1.8分子をあらわし、黒三角形はBSA分子あたりチアミン3.9分子をあらわす。データからわかるように、両チアミン−BSA−FITC複合体はBSA−FITC複合体よりはるかに大巾に取り込まれる。
【0089】
<例27−フォレート−デフェロキサミン複合体の作成および精製>
材料。葉酸、デフェロキサミン(DF)メシレート、およびDEAE−トリスアクリル−アニオン交換樹脂はシグマ社(St.Louis, MO)から購入した。ビシンコニニン酸(BCA)蛋白質アッセイキットはピアス社(Rockford, IL)から入手した。アセトニトリル(HPLC級)およびジクロロヘキシルカルボジイミド(DCC)はアルドリッヒ社(Milwaukee,WI)から購入した。ガリウム−67塩化物はマリンクロット・メディカル社(Mallinckrodt Medical, Inc)(St.Louis, MO)から購入した。組織培養生成物はGIBCO(Grand Island, NY)から入手し、培養細胞はパードュ癌センター(West Lafayette, IN)からギフトとして受け取った。
【0090】
100mgDFメシレートを200μLピリジンを含む3mLジメチルスルフォキシドに溶解した。10倍過剰量の葉酸(672mg)を15mL温(〜40℃)ジメチルスルフォキシドに溶解し、それから5モル等量のDCC(157mg)を加えた。反応混合物を40℃で暗所で撹拌し、その間ニンヒドリン アッセイおよび薄層クロマトグラフィーを用いて反応プロセスを辿った。結合が完了した後、DF−フォレート複合体と過剰の葉酸を200mL冷アセトンで沈殿させ、遠心分離によってペレットとした。そのペレットを冷アセトンで1回洗い、真空下で乾燥し、それから5mL電離水に再溶解した。溶液のpHを8.0に調節し、固体の溶解を容易にした。
【0091】
粗生成物はフォレート−デフェロキサミン複合体(フォレートはそのα−カルボキシルまたはγ−カルボキシル基を介してDFに結合している)並びに未反応葉酸を含んでいた。DF−フォレートの2異性体を分離し、弱アニオン交換樹脂カラムで精製した。つまり、生成物混合物をあらかじめ10mM NHHCO緩衝液(pH7.9)で平衡化した1.5cm×1.5cmDEAE−トリスアクリル カラム上に置いた。カラムを50mLの10mM NHHCOで洗い、それから80−180mM 勾配のNHHCO 500mLで、その後500mM NHHCO 150mLで溶出した。363nmのUV吸収によって検出すると、3つのフォレート含有ピークが得られた。各ピークを集め、凍結乾燥し、電離水に再溶解した。各成分の純度は、10mm×250mmリクロソーブ(Licrosorb)RP−18カラム(Altech,Deerfield,IL)を用いる逆相高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって確認され、複合体の分子量の評価は fast-atom bombardment 質量分析(FAB−MS)によって確認された。2つのDF−フォレート異性体の特異的pKa値はpH/イオン分析器(Corning,Corning, NY)で滴定によって得た。
【0092】
最初の2つのピークはDF−フォレート複合体であることが確認された;両方共FAB−MSスペクトルでは分子量984.0を与え、葉酸とDFとの比が期待されるように1:1であることを示した。第3のピークは遊離葉酸と同じ分子量を示した。DF−フォレート複合体の2つのイソ型は遊離γ−カルボキシルか、遊離α−カルボキシルかどちらかを有するから、それらは、 滴定によって明らかにされた特異的pKa値によって互いに、そして未反応葉酸から区別できる。DF−フォレート(α)複合体(pKa=2.5、総DF−フォレートの〜20%を構成する)は140−260mLフラクションに溶出し(ピーク1)、DF−フォレート(γ)複合体(pKa=4.5、総DF−複合体の〜80%を構成する)は340mLから420mLまでのフラクション(ピーク2)に溶出し、遊離葉酸(pKa1=2.5、pKa2=4.5)は580mLから680mLの間に溶出した(ピーク3)。
【0093】
<例28−67Ga−放射性トレーサーの作成:>
67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体、67Ga−クエン酸、および67Ga−デフェロキサミンを担体を付加しない 67Ga−ガリウム(III)塩化物(マリンクロット・メディアル社、ST.Louis, MO)から作成した。67Ga- デフェロキサミン−フォレート複合体は次のように作られた:67Ga3+ の希HCl溶液をN2気流下で加熱して蒸発乾固し、トレーサーを、0.002%アセチルアセトン(acac)を含む300μLエタノールで薄めて溶液にした。エタノール性 67Ga(acac) 溶液(3.2mCi)を等容量のトリス緩衝食塩液(pH7.4)で希釈、その後2.25×10−6 モルのDF−フォレート(γ)複合体水溶液を添加した。標識化は、室温に18−24時間放置後、完了した。
【0094】
67Ga(III)−クエン酸は、67Ga−塩化物溶液を蒸発乾固し、0.1mLの3%クエン酸ナトリウム(pH7.4)で再溶解することによって作った。生成した67Ga−クエン酸溶液(50μL)の一部を0.1mgデフェロキサミンと混ぜ合わせて、67Ga−デフェロキサミン(67Ga−DF)を得た。
【0095】
67Ga−トレーサーの放射化学的純度は、C18逆相シリカゲル プレート上薄層クロマトグラフィーおよびその後のメタノール溶出によって確認し、すべての場合に98%以上であることがわかった。放射クロマトグラムをベルトルド(Berthold)(Wildbad,ドイツ)のトレースマスター20自動TLC線型分析器を用いて評価した。67Ga−DF−フォレート(γ);67Ga(acac)67Ga−DF;および67Ga−クエン酸でそれぞれ0.93;0.0;0.1;および0.74のRf値が得られた。67Ga−DF−フォレート(γ)トレーサーを用いるすべての実験は作成後1−3日以内に行われた。
【0096】
<例29−2つのDF−フォレート異性体の細胞表面フォレート受容体に対する親和性の測定:>
細胞培養。フォレート結合蛋白質を著しく過剰に発現するヒト鼻咽頭上皮癌細胞であるKB細胞を、ペニシリン(50単位/mL)、ストレプトマイシン(50μg/mL)、および2mM L−グルタミンを含むフォレート欠乏改良イーグル培地(FDMEM)(10%(v/v)の加熱不活性化ウシ胎児血清を唯一のフォレート ソースとして補充した無フォレート改良イーグル培地)中で、5%COを含む加湿空気中で37℃で単層として連続的に培養した。完全FDMEM中の最終フォレート濃度は生理学的範囲(〜2nM)である。各実験の48時間前に35mm培養皿に1皿につき5×105 細胞を移し、〜80%融合まで増殖させた。
【0097】
DF−フォレート(α)複合体およびDF−フォレート(γ)複合体のKB細胞に対する親和性を[H]葉酸を受容体リガンドとして用いる競合的結合試験で評価した。つまり、燐酸緩衝食塩液(PBS)に溶解した100pmolesの[H]葉酸および100pmolesのDF−フォレート(α)またはDF−フォレート(γ)を、35mm培養皿で1mlFDMEM中で〜80%融合まで増殖させたKB細胞に加えた。4℃で30分間インキュベートした後それら細胞を冷PBSで3回洗った。その後細胞に結合した[H]葉酸を液体シンチレーションカウンティングによって測定し、細胞蛋白質含量をBCA蛋白質分析試験によって評価した。
【0098】
細胞の蛋白質含量を 〜2×10−7gと仮定すると、4.85×10−6フォレート受容体が各細胞で放射性標識リガンドで占められていた。等モル量のDF−フォレート(γ)複合体の存在下では結合[H]葉酸の50%の減少が認められ、他方DF−フォレート(α)複合体は放射性標識ビタミンと競合する能力を示さなかった。DF−複合体(γ)による競合は未標識葉酸による拮抗に近く、DFが葉酸のγ−カルボキシルと共有結合しても、後者の膜関連性フォレート結合蛋白質に対する高親和性は阻害されないことを示した。
【0099】
<例30−67Ga−DF−フォレート複合体の培養KB細胞による取り込み:>
フォレートおよびその複合体は4℃で細胞表面受容体に結合し、それより高い温度でのみエンドサイトーシスが可能であるから、2種類の温度におけるフォレート複合体取り込み速度を測定することによってフォレートのインターナリゼーションの結合動態を評価することができる。67Ga−DF−フォレート(γ)の1/2最大結合に達するには4℃で〜3分かかり、複合体と占領されていない受容体との速やかな結合を示唆する。30分のインキュベーションの終わりまでに結合は飽和に達し、最初の放射能の〜18%が細胞表面に結合して見いだされた。
【0100】
結合もエンドサイトーシスも可能な温度である37℃でインキュベートすると、同様な速度論的結果が得られたが、最大取り込みは、加えた総複合体の32%に達した。多分、2本の細胞取り込み曲線の大きさの差はフォレート受容体が複合体を細胞内に取り込み、それから占領されていない形の細胞表面に再循環させ得ることを反映するものである。対照としての、フォレート基のない 67Ga−DFはKB細胞による顕著な取り込みを示さず、67Ga−DF−フォレート(α)複合体もこれを示さなかった。この後者の結果は、α−複合体が細胞表面受容体に対して遊離フォレートと競合できないことと一致する。67Ga−クエン酸を培養培地に加え、37℃で30分間インキュベートしたとき、細胞結合−67Ga放射能は 67Ga−DF−フォレート(γ)で観察されたものの106分の1まで低くなった。
【0101】
67Ga−DF−フォレート(γ)の取り込みの仲介に細胞表面フォレート受容体が関係していることを証明するために、複合体の結合およびインターナリゼーションを複合体濃度の関数として調べた。67Ga−DF−フォレート(γ)の細胞内取り込みは4℃でも37℃でも濃度依存的で、添加総放射能のそれぞれ20%および35%の水準で飽和した。67Ga−DF−フォレート(γ)と未標識葉酸との間の競合を分析した結果、細胞内取り込みは特異的結合によるフォレート受容体仲介性であることが証明された、なぜならば100倍モル過剰の遊離フォレートの存在下では最初の細胞内取り込みの0.5%が保持されたに過ぎなかったからである。等モル量の67Ga−DF−フォレート(γ)/DF−フォレート(γ)と未標識葉酸を混合し、それから細胞培養物に加えたときも取り込みの50%減少が認められた。これはその放射標識複合体の膜結合フォレート受容体に対する親和性が無金属複合体のそれに匹敵することを示唆している。全体としてこれらの結果は、67Ga−DF−フォレート(γ)が遊離葉酸とほとんど同じ仕方で細胞のフォレート受容体と結合することを示唆している。
【0102】
<例31−67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体による画像化:>
In vivo におけり金属標識放射性医薬品の腫瘍細胞−選択的取り込みを実現するための経路としてのFBP受容体の可能性を試験するために、2匹の腫瘍担持無胸腺マウスに、4×106ヒトKB細胞の皮下注射の9日後に 〜180μCiの 67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体を大腿静脈から静脈注射した。注射後約45時間目にガンマ画像をとり、動物を殺して解剖し、トレーサーの組織分布をガンマカウンティングによって定量した(適切な 67Gaカウントにまで崩壊させるために、秤量組織サンプルを保存した後)。2匹の動物の腫瘍はそれぞれ29.6および8mgの重量で、2匹の動物の体重はそれぞれ19.3および22.6gであった。これら腫瘍がサイズが小さく、位置が腎臓に対して最適位置ではなかったとはいえ、29.6mgの腫瘍はガンマシンチグラフィーによって容易に見いだされた。殺したときに29.6mg腫瘍は腫瘍1グラムにつき注射量の3.3%を含むことがわかった。一方8mg腫瘍は腫瘍1グラムにつき注射量の2.8% を含んでいた。腫瘍 対 血液比は各マウスでそれぞれ1500およ1185で、腫瘍 対 筋肉比はそれぞれ170および280であった。
【0103】
<例32−67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体の画像化および放射性トレーサーの生体内分布研究:>
In vivo において 67Ga−デフェロキサミン−フォレートが腫瘍細胞を標的化する能力をより明確にし、複合体の腫瘍内取り込みの決定におけるFBP受容体の役割を確認するために、17匹の無胸腺マウスを用いて付加的研究を行った。雄無胸腺マウス(Nu/Nu;齢21−28日)を無菌状態で飼育し、特に記載がない限り、受入れ日からフォレート欠乏食で飼育した。フォレート欠乏齧歯動物食はICNビオケミカルズ社から入手し、使用前にオートクレーヴで処理した。動物をケタミン(40mg/kg、i.p.)およびキシラジン(4mg/kg、i.p.)で麻酔し、放射性医薬品を注射し、ガンマ画像化試験を行い、殺す前に再度麻酔した。放射性トレーサー注射のために用いた注射器を注射前と注射後に分析秤で秤量し、各動物が受けた用量を測定した。
【0104】
67Gaを適切に分析試験するためにキャピンテック(Capintec)CRC12R放射性核種量キャリブレーターを用いた;67Gaの正確な定量が必要なサンプルは3インチの large-bore NAI(T1)結晶を有するパッカード(Packard)5500自動ガンマシンチレーションカウンターで計数した。完全無傷動物のガンマ画像は、300KeV parallel hole コリメーターとフィットさせ、 ジーメンズ(Siemens) MicroDELTAコンピューターに連結したザール(Searle)37GPガンマシンチレーションカメラを用いて得た。
【0105】
4×10 ヒトKB細胞をマウス肩に皮下注射した後15日目に、各動物に67Ga−DF−フォレート(11匹動物;第1−4群)、67Ga−DF(3匹動物;第5群)、または 67Ga−クエン酸(3匹動物;第6群)のいずれかを125−150μCi、 大腿静脈に静脈注射した。注射容量は動物あたり10%エタノール−食塩液、約130μLであった。2匹を除く全動物にフォレート欠乏食を3週間与え、その後に放射性トレーサーを投与した;残る2匹の動物は通常の齧歯動物食で飼育し、67Ga−DF−フォレート投与動物群(第2群)に含めた。腫瘍のフォレート受容体を競合的にブロックするために、3匹の動物には67Ga−DF−フォレート投与の 〜5分前に2.4±1.0mgのフォレートを静脈注射した(第3群)。67Ga−DF−フォレートを投与した別の3匹の動物にも殺す約1時間前に3.5±0.9mgのフォレートを投与した(第4群)。トレーサーの組織分布をガンマシンチグラフィーで定期的にモニターし、トレーサーの腫瘍内取り込みと、腫瘍のバックグラウンド コントラストを定性的に評価した。腫瘍内取り込みは注射1時間後には明らかであった。 注射後3−4時間までには、最初は肝臓にあったトレーサーは実質上なくなり、腸に入った。67Ga−放射性医薬品の投与後4−4.5時間目に麻酔動物を断頭によって殺し、腫瘍および主な器官を取り出し、秤量し、67Gaが計数に適したレベルに崩壊するまで保存した。各サンプル中のトレーサーの生体内分布を、器官あたりの注射量のパーセントとして、および組織1g(湿重量)あたりの注射量のパーセントとして計算した。この場合秤量し、オリジナル注射物をおおまかに希釈したサンプルからのカウントを標準として用いた。
【0106】
67Ga−標識デフェロキサミン−フォレート複合体、67Ga−DFおよび 67Ga−クエン酸−比較トレーサーの生体内分布の概要を表3および4に示す。データは図8および9に棒グラフの形でも示される。図8は腫瘍1グラムあたりの、注射67Ga−放射性トレーサー量のパーセントを示す。図9は注射後4ないし4.5時間後の血液と比較した腫瘍組織中の67Ga放射性トレーサー濃度(湿重量1グラムあたりの注射線量の%)の比を示す。図8および9両方において、各棒は1匹の動物からのデータを示す。第1群は67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与した;第2群は高フォレート食で飼育したマウスに67Ga−デフェロキサミン−フォレートを与えた;第3群は67Ga−デフェロキサミン−フォレート投与前に葉酸(約2.4mg)を与えた;第4群には67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与し、殺す1時間前に追加量のフォレートを投与した;第5群には 67Ga−デフェロキサミンを投与した;第6群には67Ga−クエン酸を投与した。
【0107】
〔表3〕
皮下KB細胞腫瘍を担う無胸腺マウスにおける 67Ga−放射性トレーサーの生体内分布

【0108】
〔表4〕
無胸腺マウスモデルにおいて67Ga−放射性トレーサーで得られた腫瘍 対 バックグラウンド組織 コントラスト

【0109】
<例33−67Ga−デフェロキサミン−フォレート複合体用量漸増研究>
67Ga標識デフェロキサミン−フォレート複合体(DF−フォレート)用量漸増研究を、皮下フォレート受容体陽性ヒトKB細胞腫瘍を担う無胸腺マウスを用いて行った。各動物には通常1−10μCiの67Ga−標識放射性トレーサーを大腿静脈へ静脈注射した;その間動物をジエチルエーテルの吸入によって一時的に麻酔した。注射容量は〜100μL/動物であった。放射性医薬品溶液の投与量は、溶液の注射前および後に、注射器を目盛りつき電子分析秤で秤量して(0.0001gまで)測定した。腫瘍担持無胸腺マウスは放射性トレーサー投与前約3週間はフォレート欠乏食で飼育して、血清フォレート濃度をヒト血清の正常範囲近くまで下げた。ラットをこれらの研究に用いたときには、普通の齧歯動物食で飼育した。67Ga−放射性医薬品の投与後特定時間に、麻酔動物を断頭によって殺し、腫瘍および選択した組織を取り出し、秤量し、自動ガンマカウンターで計数し、67Ga−放射能を測定した。各サンプルの放射性トレーサーの量を、器官あたりの注射量のパーセントとして(%ID/器官)、および組織湿重量1グラムあたりの注射量のパーセントとして(%ID/g)計算した。オリジナル注射物の、 測定腫瘍の測定部分(1/100)から同時に得られたカウントを比較のために用いた。腫瘍/非標的組織 比を、 対応する%ID/g値から計算した。
【0110】
雄無胸腺マウス(Harlan、Nu Nu 種)において、 動物あたり2.8×10KB細胞を肩甲骨間領域内に皮下移植する8日前からフォレート欠乏食を開始した。腫瘍細胞の移植後約3週間後に67Ga標識DF−フォレートを、DF−フォレート量133(A群)、27(B群)、2.8(C群)、0.29(D群)、および0.030(E群)mg/kg体重の量を大腿静脈から投与した。全動物を、トレーサー注射の4時間後に殺し、67Ga−生体内分布を定量した。
【0111】
無胸腺マウスの各々における 67Ga−デフェロキサミン−フォレートの生体内分布の蓄積データを表5A、5Bおよび5Cに示す。表5Aおよび5Bはそれぞれ器官およびグラムあたりに保有される注射放射性同位元素のパーセントをまとめたものである。表5Cは無胸腺マウスにおいて67Ga−放射性トレーサーで得られた腫瘍 対 バックグラウンド組織 コントラストをまとめたものである。示した数値は4匹の動物からのデータの平均値±標準偏差をあらわす(E群ではn=3)。
【0112】
0.29mg/kg以上の用量では 67Ga−DF−フォレートの腫瘍内取り込みは減少し、0.29mg/kg量における8.5±0.4%ID/g腫瘍から、133mg/kg量におけるたったの0.96±0.17%ID/g腫瘍へと低下した(表5B);これは多分、未標識の過剰DFフォレートによる競合的受容体結合によるものであろう。腫瘍/血液、腫瘍/肝臓、および腫瘍/腎臓 比は、中間の2.8mg/kgの場合が最も高く、それぞれ290±60、24±7および0.8±0.2であった(表5C)。すべての用量で、トレーサーの20%以上が腸に排出され、そのためその後の胃腸通過速度が、腹部腫瘍の画像化が行える時間枠の決定に重要な要因となった。
【0113】
〔表5A〕

〔表5B〕

〔表5C〕

【0114】
<例34−111In−DTPA−フォレート複合体の合成>
DTPA−フォレート複合体(図10)を2段階で合成した。第1段階では、フォレートの活性化エステルとエチレンジアミンとの反応によってフォレート−エチレンジアミンを、α−結合およびγ−結合異性体として合成した。第2段階では、フォレート−エチレンジアミンとDTPA無水物との反応によってDTPA−フォレートを合成した。“活性”γ−結合異性体をそれから分取HPLCによって精製した。
【0115】
結合の化学。葉酸(USP級)を撹拌しながら温DMSO(40℃)に溶解した。(すべての反応容器はアルミニウムホイルで包み、遮光した)。その後、3モル等量のN−ヒドロキシスクシンイミド(HHS)および1.5モル等量のジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の添加によって、 葉酸の活性化エステルであるN−ヒドロキシスクシニミル フォレート(NHS−フォレート)が作られた。反応混合物を40℃で4時間撹拌した。その後遠心分離によって不溶性副産物、ジシクロヘキシルウレア、を除去した。5モル等量のエチレンジアミンを加え、反応混合物を40℃で4時間撹拌した。生成物、フォレート−エチレンジアミン、を5容量の冷アセトン/ジエチルエーテル(2:3)で沈殿させ、冷アセトンで3回洗った。ペレットを少量の0.1N HClに溶解した。未反応葉酸は低pHでは不溶性であり、遠心分離によって除去した。
【0116】
1M 炭酸ナトリウムを用いて溶液のpHを8.2に調節し、2.5モル等量のDTPA無水物を加えた。反応混合物を室温で10分間インキュベートし、それからpHを10に調節してからさらに5分間置き、DTPA無水物の完全加水分解を確実にした。DTPA−フォレート生成物をその後10容量の冷アセトンで沈殿させた。0.1%トリフルオロ酢酸を含む水で行う分取逆相C−18HPLCによる分離によって、過剰のDTPAを除去した。その後4%アセトニトリルを含む10mM 炭酸水素アンモニウム緩衝液で行う別の分取逆相C−18HPLCでγ−結合異性体をα−結合異性体から分離した。
【0117】
111In−標識DTPA−フォレート複合体は、次のように 111In−クエン酸からリガンド交換によって高収率で得られた。0.30mgDTPA−フォレートを水(0.15mL)に溶解し、水酸化ナトリウム水溶液の添加によってpH7に調節した。111In−塩化物水溶液(54μL希HCl中5.4mCi;マリンクロット・メディカル、St.Lous、 MO)を0.20mL3%(w/v)クエン酸ナトリウムpH7.4と混合した。生成した111In−クエン酸溶液をその後DTPA−フォレート水溶液に加え、室温で混合した。111In−DTPA−フォレートの放射化学的純度をC−18上の薄層クロマトグラフィーおよびメタノールによる溶出によって測定し、室温で30分間インキュベーション後には概ね98%以上であることがわかった(111In−DTPA−フォレート Rf=0.8;111In−クエン酸 Rf=0.0)。
【0118】
<例35−111In−DTPA−フォレート複合体の生体内分布>
正常ラットを用いる生体内分布研究を例33に記載のように行った。各ラットに大腿静脈から0.268±0.021mg/ml111In-DTPA−フォレートを注射した。この研究の結果は、静脈注射した111In−DTPA−フォレートは速やかに尿に排泄され、注射後4時間目には投与量の3.7±1.4%だけが腸に保有されることを示している。表6Aおよび6Bはそれぞれ器官あたり、および器官組織1gあたりに保有される注射放射性同位元素のパーセンテージをまとめたものである。示された数値は各々約188±7g体重の動物3匹からのデータの平均値±標準偏差をあらわす。
【0119】
〔表6A〕

〔表6B〕

【0120】
<例36−ヒトKB細胞腫瘍を担う無胸腺マウスにおける 111In−DTPA−フォレートの生体内分布>
111In−DTPA−フォレートの生体内分布を皮下移植ヒトKB細胞腫瘍を担う無胸腺マウスで調べた(表7Aおよび7B)。4匹づつの動物からなる3群に次のように111In−DTPA−フォレート複合体を投与した:第1群には放射性同位元素複合体のみを投与した;第2群には放射性同位元素複合体と葉酸の同時静脈注射を行った(205±18μmol/kgフォレートを 111In−DTPA−フォレートと同時に注射し、フォレート受容体を競合的にブロックした);第3群には111In−DTPA−フォレート投与3時間後に葉酸を静脈内に追加投与した(111In−DTPA−フォレート投与後188±10分に203±24μmol/kgのフォレートを静脈注射によって投与した)。3匹マウスからなる第4群は 111In−DTPAの静脈注射を受けた(すなわち放射性同位元素の標的化にフォレートはなかった)、そしてもう一つの対照実験として、第5群の4匹の動物が111In−クエン酸の静脈注射を受けた。
【0121】
雄無胸腺マウス(Nu Nu 種)に肩甲骨間領域に動物あたり1.8×106KB腫瘍細胞を例33に記載したように皮下注射した。マウスはKB細胞の移植の6日前にフォレート欠乏食を始めていた。そして腫瘍細胞移植の2週間後に放射性同位元素を注射された。111In−DTPA−フォレート トレーサーはKB腫瘍に顕著に集まっているのが見いだされ、注射4時間後には注射量の1.0±0.5%(グラムあたり3.1±0.6%ID)の腫瘍内取り込みがあった。表7Aおよび7Bはそれぞれ器官あたりおよび器官組織1グラムあたりの注射放射性同位元素のパーセンテージをまとめたものである。示される数値は4匹の動物(111In−DTPAではn=3)からのデータの平均値±標準偏差をあらわす。血液は総体重の5.5%を占めると仮定した。
【0122】
111In−DTPA−フォレートでは、例外的な腫瘍/腸 コントラストが得られた;これは111In−トレーサーの十分な尿中クリアランスと、これに対応して肝胆道系を経て腸に排出される111Inフラクションが減少したことによる。拮抗量の葉酸を同時に投与したマウスにおいて111In−DTPA−フォレートの腫瘍蓄積が減少したことによって、111In−DTPA-フォレートの腫瘍内取り込みの仲介にフォレート受容体が特異的にかかわっていることが証明された。殺す1時間前に“追加”量のフォレートの静脈注射を受けた4匹のマウスでは111In−DTPA−フォレートの腫瘍内蓄積がほんのわずか減少した。この結果は、腫瘍に局在する111In−DTPA−フォレート トレーサーがこの追加量を投与したときには腫瘍細胞によってほとんど取り込まれていたことを示す。
【0123】
対照実験からは、予想通り、複合体化していない111In−DTPAは腫瘍に親和性を示さないことが明らかにされた(表7Aおよび7B参照)。これは、腫瘍親和性は若干示すが、腫瘍/バックグラウンド組織 コントラストはほとんど示さない111In−クエン酸投与とは対照的である(表7A及び7B)。
【0124】
〔表7A〕

〔表7B〕

【0125】
<例37−ヒトKB細胞腫瘍を有する無胸腺マウスにおける用量漸増/競合的結合研究>
用量漸増研究を皮下フォレート−受容体陽性ヒトKB細胞腫瘍を担う無胸腺マウスを用いて行った。111In−DTPA−フォレート放射性医薬品を、DTPA−フォレート量として約45nmol/kg体重を大腿静脈から投与した。そして遊離葉酸 約0.0(A群)、0.3(B群)、3(C群)、30(D群)、または300(E群)μmol/kgを同時に注射した(表8Aおよび8B)。全動物を放射性トレーサー注射の4時間後に殺した。示した数値は4匹の動物のデータの平均値±標準偏差である。血液は全体重の5.5%と仮定した。腫瘍/バックグラウンド組織 比はそれぞれのグラムあたりの注射量の%に基づくものである。
【0126】
雄無胸腺マウス(Nu Nu 種)に、動物あたり1.8×10 KB細胞を移植する7日前にフォレート欠乏食を開始した。KB細胞の注射の約2週間後に各マウスに、等量の111In−DTPA−フォレートを注射し、111In−DTPA−フォレート投与の約4時間後に動物を殺した。
【0127】
111In−DTPA−フォレートの組織内取り込みは(注射量のパーセントとして、または組織グラムあたりの注射量のパーセントとして計算した)0.3μmol/kgより多い葉酸量の場合は減少した、これは多分未標識遊離葉酸による競合的受容体結合によるものであろう。111In−DTPA−フォレートの取り込みは葉酸投与量0.0および0.3μmol/kgでそれぞれ6.9±1.7および5.1±0.3%ID/gであったが、葉酸投与量3、30および300μmol/kgではそれぞれたった1.7±0.2、0.8±0.3及び1.1±0.2%ID/g腫瘍 に過ぎなかった(表8B)。腫瘍/血液、腫瘍/肝臓、腫瘍/筋肉 コントラストは中間量の葉酸投与量、0.3μmol/kgのときに最高であった;ここでは腫瘍/非標的組織 比 210±32(腫瘍/血液)、33±4(腫瘍/肝臓)、および36±5(腫瘍/筋肉)が認められた(表8B)。
【0128】
腫瘍/腎臓 コントラストは3μmol/kg葉酸量の場合に最高であった;ここでは0.68±0.13の腫瘍/腎臓 比が認められた(表8B)。111In−DTPA−フォレート放射性トレーサーの腎臓内取り込みは、注射物に葉酸が含まれない場合の82±9%ID/gから、0.3および3μmol/kgの葉酸を投与したときの16±1および2.6±0.2%ID/gに低下した;これは、腎臓の遠位尿細管に存在することが知られている低レベルのフォレート受容体に投与葉酸および111In−DTPA−フォレートが競合的に結合したことを示すものである(表8B)。葉酸量を3μmol/kgから30および300μmol/kgに高めたときに認められた腎臓のインジウム−111濃度の増加は、尿酸が尿中で濃縮、酸化されたときに起きる葉酸の沈殿(腎臓から暴行への尿流の機械的閉塞をおこす)に起因すると考えられる。すべての投与量において放射性トレーサーの2%以下が腸に排出され、腹部腫瘍の画像化可能性に対する胃腸放射能の影響は最小である。
【0129】
〔表8A〕

〔表8B〕

【0130】
<例38−ヒトKB細胞腫瘍を担う無胸腺マウスにおける111In−DTPA−フォレート複合体の生体内分布>
111In−DTPA−フォレートの生体内分布研究を、ヒトKB細胞腫瘍を皮下注射した無胸腺マウスを用いて行った。111In−DTPA−フォレート放射性医薬品を大腿静脈注射によって投与した。この場合約30μg/kg量のDTPA−フォレートと、約170μg/kg量の葉酸二水加物を含む処方を用いた。4群のマウスを、注射後1分、5分、30分、1時間、2時間、4時間、24時間、または48時間に殺し、放射性トレーサーの生体内分布を定量した(表9Aおよび9B)。111Inの腫瘍内取り込みは注射後30分までにピークに達し、その後はかなり一定にとどまった。腫瘍放射性トレーサーレベル(111In線量/g)と経過時間との関係を次に示す:

腫瘍%ID/g 時間(注射後)
3.9±2.0 1分
3.9±0.8 5分
6.3±1.7 30分
5.8±1.3 1時間
6.9±0.9 2時間
7.3±1.8 4時間
5.8±1.9 24時間
3.9±0.5 48時間

注射後30分までに、腫瘍/非標的組織 比は十分高まり、良い腫瘍/バックグラウンド コントラストで腫瘍を画像化することができるようにみえる(表9Aおよび9B)。
【0131】
〔表9A〕(3のうちの第1部)

〔表9A〕(3のうちの第2部)

〔表9A〕(3のうちの第3部)

【0132】
〔表9B〕(3のうちの第1部)

〔表9B〕(3のうちの第2部)

〔表9B〕(3のうちの第3部)

【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】図1は、本発明のフォレート−放射性核種複合体の生成に有用なキレート剤の構造を示す。〜〜〜〜 は、飽和または不飽和炭化水素であり、多分その他のヘテロ原子(例えばO、N、またはS)を組み込んだ有機“スペーサー”をあらわす。置換基(1個または複数)“X”は芳香族環上の1つ以上の官能基をあらわし、それらはアルキル、アルコキシ、アルキルエーテル、アミン、アミド、エステル、カルボキシレート、またはアルコール側鎖類;付加的置換または未置換芳香族環;ハロゲン置換基;またはハロゲン原子を含める。置換基“R”は水素原子、アルキル基、および/または置換または未置換芳香族環である。
【図2】図2は、マウス血清中フォレート濃度測定値と、フォレート欠乏食開始後の経過時間との関係を示す。
【図3】図3は、67Gaで放射性標識化することのできるデフェロキサミン−葉酸複合体の構造式である。
【図4】図4は、125I標識リボヌクレアーゼ/リボフラビン複合体のBHK細胞による細胞内取り込みをあらわすグラフである。種々の時点に細胞を生理食塩液で5回洗い、ガンマ カウンターで計数した。
【図5】図5は、ウィスター種雌ラットに投与した後の 125I−BSA−リボフラビン複合体の生体内分布を示す。斜線を引いた棒は 125I−BSA−リボフラビン複合体サンプルを投与したラットから採取した組織のウシ血清アルブミン(BSA)含量を示し、白棒は125I−BSAを投与したラットからの組織のウシ血清アルブミン(BSA)含量を示す。
【図6】図6は、チアミン−BSAおよびリボフラビン−BSA複合体の、培養A549細胞による細胞インターナリゼーションを示す。
【図7】図7は、BSAおよびBSA−チアミン複合体の、KB細胞による時間依存性取り込みをあらわすグラフである。
【図8】図8は、腫瘍1gあたりの67Ga−放射性トレーサー(67Ga−クエン酸、67Ga−デフェロキサミン、および67Ga−デフェロキサミン−葉酸)の注入量のパーセントを示す。各棒は1匹の動物からのデータを示す。第1群には 67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与した;第2群には高フォレート食で飼育したマウスに67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与した;第3群には 67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与する前に葉酸(約2.4mg)を投与した;第4群には 67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与し、殺す1時間前に追加量のフォレートを投与した;第5群には、67Ga−デフェロキサミンを投与した;第6群には 67Ga−クエン酸を投与した。
【図9】図9は、注射後4−4.5時間目の 67Ga−放射性トレーサー(67Ga−クエン酸、67Ga−デフェロキサミン、および67Ga−デフェロキサミン−フォレート)の腫瘍 対 血液 比(湿重量1gあたりの注射量のパーセント)を示す。 第1群には67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与した;第2群には高フォレート食で飼育したマウスに 67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与した;第3群には67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与する前に葉酸(約2.4mg)を投与した;第4群には 67Ga−デフェロキサミン−フォレートを投与し、殺す1時間前にフォレートの追加量を投与した;第5群には67Ga−デフェロキサミンを投与した;第6群には67Ga−クエン酸を投与した。
【図10】図10は 111Inで放射性標識できるDTPA−フォレート複合体を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト以外の脊椎動物に腫瘍を見つけるための方法であって、
フォレートまたはフォレート受容体結合性リガンドからなる群から選択されるリガンドと複合体化した診断薬を薬物学的に容認される但体、賦形剤、または希釈剤中に含む組成物を、前記脊椎動物に投与して、前記リガンドを前記腫瘍と十分な時間をかけて結合させる工程と、
前記複合体の生体内分布をモニターする工程
を含み、
前記診断薬は放射性核種を含有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記複合体が、前記リガンドと前記診断薬との直接的、または結合基を介する間接的な共有−、イオン−または水素結合によって形成される請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記診断薬が前記フォレートのガンマ−カルボキシレートに結合する請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記放射性核種がガリウム、インジウム、銅、テクネチウム、またはレニウムの同位元素からなる群から選択される請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記組成物が静脈注射によって投与される請求項1記載の方法。
【請求項6】
放射性核種を含有し、in vivo で検出できる化合物を投与することによってヒト以外の脊椎動物の腫瘍を画像化する方法であって、
前記化合物を、フォレートまたはフォレート受容体結合性リガンドからなる群から選択されるリガンドと複合体化させる工程と、
前記リガンドを前記腫瘍と十分な時間をかけて結合させる工程
を含む方法。
【請求項7】
In vivo 腫瘍細胞を画像化するための複合体であって、
前記複合体はフォレート分子またはフォレート受容体結合性リガンド;
前記フォレート分子またはフォレート受容体結合性リガンドに共有結合したデフェロキサミン分子;および
前記デフェロキサミン分子にキレート化した放射性核種
を含んでなる複合体。
【請求項8】
前記複合体がフォレート分子を含み、前記放射性核種が前記フォレート分子のガンマ−カルボキシレートに結合する請求項7記載の複合体。
【請求項9】
前記放射性核種がガリウム、インジウム、銅、テクネチウム、またはレニウムの同位元素からなる群から選択される請求項7記載の複合体。
【請求項10】
In vivo 腫瘍細胞を画像化するための複合体であって、
前記複合体はフォレート分子;
前記フォレート分子または前記フォレート受容体結合性リガンドに共有結合したジエチレントリアミン五酢酸分子;および
前記ジエチレントリアミン五酢酸分子にキレート化した放射性核種
を含んでなる複合体。
【請求項11】
前記複合体がフォレート分子を含み、前記放射性核種がフォレート分子のγ−カルボキシレートに結合する請求項10記載の複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−195715(P2008−195715A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−14236(P2008−14236)
【出願日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【分割の表示】特願平8−535034の分割
【原出願日】平成8年5月16日(1996.5.16)
【出願人】(598063203)パーデュー・リサーチ・ファウンデーション (59)
【氏名又は名称原語表記】PURDUE RESEARCH FOUNDATION
【Fターム(参考)】