説明

腫瘍細胞におけるアポトーシスのHsp70/Hsp70ペプチド依存性誘導物質としてのグランザイムBの使用

本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞のグランザイムBの発現を誘導または促進する方法に関する。本発明はまた、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患の治療のための薬学的組成物を調製するための前記NK細胞の使用に関する。さらに本発明は、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患の治療のためのグランザイムBの使用であって、腫瘍細胞または感染もしくは炎症にかかった細胞がその細胞表面上にHsp70を発現する、使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞中のグランザイムBの発現を誘導または促進する方法に関する。本発明はまた、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染または炎症性疾患の治療のための薬学的組成物を調製するための前記NK細胞の使用に関する。さらに本発明は、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患の治療のためのグランザイムBの使用であって、腫瘍細胞または感染もしくは炎症にかかった細胞がその細胞表面上にHsp70を発現する、使用に関する。
【0002】
本明細書を通して、種々の文献が引用されている。前記文献の開示内容を引用によって本明細書において援用する。
【0003】
ヒートショックタンパク質(Hsp70)の細胞質濃度の増加によって、腫瘍がプログラム細胞死から保護されることがわかっている(Nylandstedら、(2000)Ann. N.Y. Acad. Sci. 926、122)。Hsp70は、ヒートショックタンパク質ファミリー(HSP)の主要なストレス誘発形態であり、それは主に細胞質ゾルに認められる。近年、細胞外に位置し、かつ原形質膜に結合したHSPが、高度に免疫原性を示し、細胞を免疫攻撃にさらすということが証明されてきた(Schildら、(1999) Current Opinion in Immunology 11、109)。レセプター媒介性の取り込み(Arnold-Schildら、(1999) J. Immunol. 162、3757)および抗原提示細胞(APC)による再提示に続いて、HSPシャペロンペプチドが細胞毒性、CD8T細胞応答を引き出す(Sutoら、(1995) Science 269、1585)。CD91およびトール様レセプター2および4(TLR2/4)を含むいくつかのレセプターが、HSP90(gp96)、HSP70(Hsp70、Hsc70)およびHSP60ペプチド複合体とAPCとの相互作用を媒介することが明らかになった(Basuら、(2001)Immunity 14、303; Binderら、(2000) Nat. Immunol. 1、151; Sondermannら、(2000) Biol. Chem. 381、1165.; Ohashiら、(2000) J. Immunol. 164、558)。ペプチド非依存的「シャペロカイン(chaperokine)効果」で、HSP70グループのメンバーの説明がなされてきた。外因性HSP70の、CD14依存的経路中、TLR2/4を介しての単球への結合が、MyD88/IRAK/NFκ−B信号導入を介してのレセプタークラスタリングおよび炎症誘発性サイトカイン分泌を誘発する(Pfeifferら、(2001) Eur. J. Immunol. 31、3153; Aseaら、(2000) Nature Medicine、6、435; Aseaら、(2000) Cell Stress & Chaperones、5、425; Aseaら、(2002) J Biol Chem. 277(17)、15028)。
【0004】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、Hsp70のC末端に局在するエピトープと特異的に相互作用することがわかっており(Botzler ら、(1998) Cell Stress & Chaperones、3、6)、それは、腫瘍細胞の細胞膜上に提示される(Multhoffら、(1995) Int. J. Cancer、61、272; Multhoffら、(1997) J. Immunol. 158、4341)。腫瘍細胞上の膜結合Hsp70の量は、NK細胞が媒介する溶解に対する感受性と正の相関を示す。物理的(熱)ならびに化学的(細胞静止剤)ストレスが、腫瘍細胞上でのHsp70細胞表面発現を増加させ、それによってそれらをより良好にNK細胞の標的とすることができる(Multhoff (1997) Int. J. Hyperthermia 13、39; Botzler ら、(1999) Exp. Hematol. 27、470; Rabinovichら、(2000) J. Immunol. 165、2390; Fengら、(2001) Blood 97、3505)。精製NK細胞を組換えHsp70タンパク質とともにインキュベートすることによって、Hsp70膜陽性腫瘍細胞に対するそれらの細胞溶解性活性が増加する(Multhoffら、(1999) Exp. Hematology 27、1627)。TKD(TKDNNLLGRFELSG、aa450-463)と称される、Hsp70のC末端ドメイン由来の14アミノ酸ペプチドによっても同様の効果が得られる。この領域は、生存し得る腫瘍細胞の細胞外環境に曝露されたHsp70のドメインに対応する(Multhoffら、 (2001) Cell Stress & Chaperones 6、337)。細胞溶解性活性が増加するとともに、Hsp70タンパク質またはHsp70ペプチドTKDのいずれかと接触させた後は、C型レクチンレセプターCD94の活性化形態の細胞表面発現がNK細胞中で高められた。CD94に特異的な阻害抗体を用いたブロッキングアッセイから、NK細胞とHsp70膜陽性腫瘍細胞との相互作用にCD94が関与していることが明らかになった(Multhoff ら、(1999) Exp. Hematology 27、1627)。これらのデータは、古典的なHLA−アレルのHLA−E提示リーダーペプチドとは別に(Lanierら、(1998) Immunity 8、693; Braudら、(1998)Nature 391、795)、C末端局在化Hsp70ペプチド配列TKDが、いまだ明らかでない活性化CD94レセプター複合体の潜在的リガンドであると考えられ得ることを示している。これまでの観察から、Hsp70ペプチドがCD94陽性NK細胞の腫瘍選択的標的認識構造として機能することが示されている(Multhoffら、(1997) J. Immunol. 158、4341)ものの、NK細胞がHsp70陽性腫瘍標的細胞を溶解するメカニズムはいまだ解明されていない。さらに、NK細胞の腫瘍細胞に対する溶解活性を、これまで可能であったものより特異的に引き出すことが望ましい。これらすべての具体的目標は、疾患治療および特に腫瘍治療に対する、より有効かつより具体的なアプローチを導く手段を供給することである。
【0005】
Hsp70を含むヒートショックタンパク質の表面発現は、ウイルス感染後、またはストレスに応答して、起こることも報告されている。特に、膜Hsp70は、HIV感染リンパ球系細胞(Di Cesareら、(1992)、Immunology 76、341)およびHTLV I感染ウサギ細胞株(Chouchane ら、(1994)、J. Infect. Dis. 169、253)において発見された。同様に、細菌に感染した細胞または炎症にかかった細胞は、それらの細胞表面上にHsp70を発現すると考えられる。したがって、NK細胞またはグランザイムBの溶解活性は、ウイルスまたは細菌に感染した細胞ならびに炎症にかかった細胞に対して作用しうる。
【0006】
したがって、本発明の技術的課題は、疾患および特に、腫瘍、ウイルスおよび細菌感染および炎症性疾患の特異的治療のための手段および方法を提供することである。
【0007】
前記技術的課題は、請求の範囲において特徴を述べた態様を提供することによって達成される。
【0008】
したがって、本発明は、ナチュラルキラー(NK)細胞中のグランザイムBの発現を誘導または促進する方法であって、NK細胞を、
(a)Hsp70タンパク質;
(b)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(a)の(C末端)フラグメント;
(c)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(ポリ)ペプチド;または、
(d)(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ
に接触させることを含む、方法に関する。
【0009】
グランザイムBは、当該技術分野において公知のセリンプロテアーゼであり、アポトーシス/プログラム細胞死のプロセスに関与することが記載されている(Berke(1995) Cell、81(1)、9-12; Froelichら、(1998) Immunology Today、19(1)、30-26);Metkar Sら、Cytotoxic cell granule-mediated apopstosis: パーフォリンは、グランザイムBセルグリシン(serglycin)複合体を、原形質膜の孔の情報なしに、標的細胞内に送達する。Immunity 16(2002)、417-428。
【0010】
この酵素は、プロパスカーゼを切断(cleavage)して活性型にすることによりDNAフラグメンテーションを促進し、それによって、Bcl−2阻害可能経路を介してのプログラム細胞死を誘発する。グランザイムBは、標的細胞の細胞質ゾルの存在下でアポトーシスのプロセスの誘発を開始する。
【0011】
「NK細胞」(「ナチュラルキラー細胞」)という用語は、表面にCD45を発現しており、かつ、前刺激なしでもキラー活性を有する大きな、顆粒リンパ球を含む。それらは、CD3またはT細胞レセプターα/β−もしくはγ/δを発現せず、およびインターロイキン−2により刺激されることにより特に特徴づけられる。
【0012】
本発明の方法によって刺激されるNK細胞は、更に下記の性質により特徴づけられる:
−それらは、10〜10,000単位の量、例えば、100IUのIL−2(IL−2はfirm Chironから購入することが可能である)の添加後、過渡的プラスチック接着性(transient plastic-adherent)を示す;
−この粘着性は、新たに単離されたPBL(単球により涸渇された末梢血リンパ球)にIL−2を添加後3〜18時間現われる;
−NK細胞は、CD16dim発現を示している(弱い平均蛍光値);
−NK細胞は、典型的なNKマーカーとしてCD56およびCD57を発現する;
−NK細胞は、CD94(C型レクチンキラー細胞レセプター)を発現する;
−NK細胞は、Hsp70およびサイトカインIFNガンマにより活性化された後、分泌する;
−NK細胞は、Hsp70、Hsp70フラグメントまたはHsp70ペプチド(精製タンパク質)の添加により刺激され得る(生育および細胞毒素活性);
−それらは、患者のMHC型に依存しない。
【0013】
本発明によれば、他のNK細胞集団を使用することもできる。前記集団を得るための更なる方法は、当該技術分野において公知であり、磁性ビーズを用いた単離や細胞選別があげられる。しかしこの場合、それらは、本発明によって使用されるHsp70または上記フラグメントもしくは(ポリ)ペプチドにより活性化することができることが前提である。本発明によれば、単離されたNK細胞を使用することができる。更に、NK細胞を含有する末梢血単核細胞(PBMC)のような細胞混合物を使用することもできる。
【0014】
本発明の方法の特に好ましい態様においては、末梢血単核細胞(PBMC)、またはNK細胞を含有するその画分は、生理的細胞懸濁液として使用される。
【0015】
適切な方法を用いることによって、NK細胞は、治療対象の患者から、または健康なドナーから採血によって取得することができる。好ましくは、他の手段によって取得された、NK細胞を含有するバフィーコートまたはリンパ球濃縮物が使用されることになる。
【0016】
バフィーコートまたはリンパ球濃縮物は、患者の静脈から、例えば、ヘパリンを添加して細胞の凝固を防ぎながら、採取される。ヘパリンが添加されたバフィーコートは、無菌レセプタクル(通常、無菌のプラスチックバッグ)中に採取され、次いで、フィコール密度遠心分離によって遠心分離にかけられ、その結果、血液細胞(=PBMC、末梢血単核細胞、例えば、リンパ球、単球、顆粒球など)が蓄積する。リンパ球濃縮物は、無菌培養バッグ中では、無菌状態が保たれる。
【0017】
末梢血単核細胞を含有するバフィーコートは、好ましくは、生理的細胞懸濁液の形状で、ヘパリンが添加された状態で使用される。ヘパリンは細胞の凝固を防ぐ。
【0018】
C末端フラグメントのHsp70タンパク質とともにインキュベートすることによってNK細胞を刺激する方法は、国際公開公報WO99/49881号に記載されている。驚くべきことに、Hsp70タンパク質、アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含むそのフラグメント、アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む(ポリ)ペプチド、または、好ましくはIL−2との組み合わせた、前記タンパク質/(ポリ)ペプチドの組み合わせに、細胞を接触させることによって、NK細胞中でグランザイムBの発現が、誘導または促進されることがわかった。上記の、および他の(好ましい)態様に関連する本発明のフラグメントは、Hsp70のカルボキシ末端(C末端)フラグメントであることが好ましい。
【0019】
本発明によれば、「Hsp70タンパク質」という用語は、真核生物のヒートショックタンパク質(HSP)に関する。該HSPの発現は、熱だけでなく、更に、多くの他の試薬、例えば、アミノ酸アナログ、重金属、イオノホアまたは細胞毒素により誘導することができ、誘導による発現増加ファクターは、構成性発現と比較した場合少なくとも5である。その完全なアミノ酸配列は、Milnerら、(1990) Immunogenetics 32(4)、242-251において公開されている。
【0020】
本発明によれば、Hsp70タンパク質の「フラグメント」という用語はまた、ヒトHsp70タンパク質のアミノ酸384−641領域のアミノ酸配列を有する(ポリ)ペプチドを含む。すべてのC末端(カルボキシ末端)フラグメントは、アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを少なくとも含む。対応する(ポリ)ペプチドを単離する方法は、当該技術分野において公知であり、後述の実施例1に詳しく記載されている。したがって当業者は、更に苦労することなく、組換え技術(この技術の標準方法は、 Sambrookら、 「Molecular Cloning、A Laboratory Manual」、2. edition 1989、CSH Press、Cold Spring Harbor、N. Y.に記載されている)により上記フラグメント384〜641からフラグメントを作製し、かつ、求められる活性化の性質についてそれらを試験することもできる。
【0021】
(ポリ)ペプチドという用語は、ペプチドならびにポリペプチド(タンパク質)を表す。従来の理解によれば、ペプチドは、最大30のアミノ酸を含み、一方、ポリペプチドは30より多くのアミノ酸を含む。この従来の理解を本発明においても採用する。さらに、本発明によれば、明細書を通してアミノ酸を、1つの文字記号(one letter code)で表す。
【0022】
アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む別の(ポリ)ペプチドは、前記アミノ酸配列および任意に更なるアミノ酸を含む(ポリ)ペプチドであり、Hsp70由来のN末端およびC末端まで延び、更なるランダムに選択された、または天然に存在するアミノ酸配列に融合する。したがって、本発明の方法は、14量体Hsp70ペプチドの配列を含む融合タンパク質によるNK細胞の刺激に関する。
【0023】
本発明の好ましい態様は、Hsp70タンパク質、その(C末端)フラグメント、アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む(ポリ)ペプチド、またはそれらの組み合わせが複合体形成されてない状態である方法に関する。
【0024】
HSPは、当該技術分野において、多くの異なる基質ペプチドとの複合体として発生することが知られている(Tamuraら、(1997) Science、278、117-223)。しかしながら、驚くべきことに、ヒートショックタンパク質、その(C末端)フラグメントまたはそれに由来する誘導体(上記参照)は、NK細胞の活性化によって、それらがペプチドとの複合体を形成しないときでさえ、免疫活性を誘導することがわかった。したがって、国際公開公報WO99/49881号に記載の方法によれば、当業者は、Hsp70タンパク質、または複合体形成されていない状態のアミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む(ポリ)ペプチドを用いて、NK細胞を刺激することができる。
【0025】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の方法は、in vivo法である。
【0026】
予見される処理は、Hsp70、Hsp70フラグメント、またはHsp70ペプチドを、NK細胞をin vivo刺激することによってグランザイムを作製するために、患者に注射することを含む。
【0027】
本発明の別の好ましい態様によれば、本発明の方法は、ex vivo法またはin vitro法である。
【0028】
この方法は、上記のように、NK細胞またはNK細胞を含む細胞集団を単離することを含み、NK細胞を含有する生理学的細胞懸濁液を、Hsp70タンパク質、そのC末端フラグメントもしくはその誘導体、またはアミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含むタンパク質/(ポリ)ペプチドと混合し、インキュベートしてNK細胞中のグランザイムBの発現を誘導または促進する。
【0029】
インキュベーションは、例えば、インキュベータ中で、生理学的温度(37℃)で、攪拌器(穏やかな攪拌)を用いて、5%COおよび>80%湿度雰囲気で、そうでなければNK細胞を生存させ得る生理的条件のままにして行うこともできる。
【0030】
本発明のさらに好ましい態様は、好ましくは、グランザイムB発現を誘導もしくは促進した、自家および/または同種異系NK細胞を哺乳動物に再注入することをさらに含む方法に関する。
【0031】
NK細胞は、グランザイムBの発現を誘導または促進するためのin vitroまたはex vivo処理が施された後、患者に再注入される。再注入は、標準的な医療機器を用いて行うことができる。例えば、NK細胞またはNK細胞を含有するPBMCの再注入は、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、皮下(s.c.)または腫瘍内注入で成される。
【0032】
本発明の更なる好ましい態様によれば、前記哺乳動物はヒトである。
【0033】
本発明の方法の別の好ましい態様においては、前記NK細胞と、Hsp70タンパク質、そのC末端フラグメントもしくはその誘導体、またはアミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含むタンパク質/(ポリ)ペプチドとの接触は、少なくとも12時間行う。さらに好ましい態様によれば、前記接触は、少なくとも4日間行う。
【0034】
別の好ましい態様において、本発明は、前記NK細胞は、前記接触の前に、骨髄細胞を1サイトカインあたり1ng/ml〜1000ng/mlの濃度のインターロイキン−15(IL−15)および幹細胞因子(SCF)とともに、少なくとも7日間、最大4ヶ月間インキュベートすることによって、骨髄から取得される方法に関する。
【0035】
この好ましい態様によれば、言及されたサイトカインを用いて骨髄細胞の刺激を行った後、NK細胞を新鮮に単離することができる。このようにして得られたNK細胞は、上記の典型的なNK細胞マーカーを表示する。サイトカインの好ましい濃度は、各サイトカインにつき100ng/mlの範囲である。サイトカインによる刺激、および表面上にCD94およびCD56を表示するNK細胞への分化後、これらの細胞の接触は、Hsp70タンパク質または(ポリ)ペプチドの上記フラグメントまたは本明細書において前述した上記組み合わせを用いて行ってもよい。
【0036】
本発明の別の態様は、
(a)Hsp70タンパク質;
(b)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(a)の(C末端)フラグメント;
(c)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(ポリ)ペプチド;または、
(d)(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ;
を用いて刺激した後、グランザイムBを作製する(即ち、発現する)NK細胞の使用であって、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患の治療のための薬学的組成物を調製するための使用に関する。
【0037】
本発明によれば、医薬品製剤は、人体上または人体内で使用される場合、病気、慢性的な軽症の病気、身体的障害または病理的不快の治癒、軽減、予防、または認識を目的とする物質および調製物として定義される。
【0038】
任意に、前記薬学的組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤またはアジュバントをさらに含む。
【0039】
薬剤学的に許容される(認容できる)好適な担体の例は、当業者に公知であり、例えば、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルジョンなどのエマルジョン、滅菌溶液等を含む。そのような担体を含有する薬剤学的組成物(医薬品製剤)は、一般的な方法により調製することができる。薬剤学的組成物は、各々の個体へ適当な投与量を投与することができる。投与方法としては、例えば、静脈内(i.v.)、腹腔内(i.p.)、腫瘍内、皮下(s.c.)、筋内(i.m.)、局所的または皮内投与がある。投与量は、多くの因子、例えば、患者の大きさ、性別、体重、年齢、ならびに、具体的に投与される組成物の種類、投与の種類等に依存する。該組成物は、局所的に投与することもできるし、全身投与することもできる。一般的に、投与は非経口的に行われる。したがって、本発明のHsp70タンパク質、そのC末端フラグメントもしくはその誘導体、またはアミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含むタンパク質/(ポリ)ペプチドによって処理されるNK細胞は、静脈内投与されることが好ましい。注射は、投与されるNK細胞の有効量を用いて腫瘍に対して直接行われることもある。公知の、他の種類の投与ももちろん可能である。投与されるNK細胞の使用可能な数は、リューカフェレセート(leukapheresate)の成分として、5×10〜2×10の範囲のNK細胞を含む。そのようなリューカフェレセートにおいて、NK細胞は通常、5%〜20%の量存在する。
【0040】
非経口投与のための調製剤としては、無菌水溶液もしくは非水性溶液、懸濁液およびエマルジョンが含まれる。非水性溶媒の例としては、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが含まれる。水性担体としては、水、水溶液、エマルジョン、または0.9%NaCl、リン酸緩衝X-vivo 20などの食塩水を含む懸濁液、および緩衝剤が含まれる。非経口賦形剤としては、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、またはラクトリンゲルが含まれる。静脈内賦形剤としては、流体および栄養補充液、電解質補充液(例えば、リンゲルデキストロースを基剤としたもの)などが含まれる。保存剤、および例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどといった他の添加物を含んでもよい。また、本発明の薬学的組成物は、薬学的組成物の使用目的によってはインターロイキンまたはインターフェロンなどの更なる物質を含むことができる。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染または炎症性疾患の治療のための薬学的組成物の調製に用いられる前記NK細胞は、本発明の方法によって刺激される。
【0042】
さらに、本発明の方法によれば、前記薬学的組成物によって治療される腫瘍は、本発明にしたがって、それらの膜上でHsp70を発現する腫瘍細胞を含む。また、前記感染または炎症にかかる細胞は、本発明にしたがって、膜上でHsp70を発現する腫瘍細胞を含む。
【0043】
Hsp70の表面発現を検出する方法は、当該技術分野において公知であり、例えば、組織学的方法、フローサイトメトリーなどを含む。
【0044】
より好ましくは、前記腫瘍は、胃、腸、結腸直腸、膵臓、乳房、肺、産婦人科系、頭頚部の癌、皮膚(例えば、メラノーマ)、ニューロン性腫瘍、白血病、リンパ腫からなる群から選択される。
【0045】
好ましくは、本発明によるウイルス感染は、HIVおよび肝炎ウイルスによる感染である。
【0046】
本発明はまた、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染または炎症性疾患のパーフォリン非依存治療のための薬学的組成物を調製するためのグランザイムBの使用に関する。
【0047】
本発明の最も重要な局面は、上記態様に反映される。従来技術の推定とは対照的に、グランザイムBは、パーフォリン経路とは無関係に腫瘍の治療に有効であることが本発明によって示された。これは、腫瘍の治療方法において、重要な用途を持つ。なぜなら、薬学的に活性な化合物の取り込みを、パーフォリン経路と独立させて考えることができるからである。グランザイムBは、腫瘍内、iv、皮下投与することができるであろう。
【0048】
好ましい態様において、本発明の使用は、グランザイムBは、前記薬学的組成物中の1つの薬学的に活性な化合物として使用される。
【0049】
また、本発明のこの好ましい態様は、癌治療に用いられる薬学的組成物の必要な成分の設計において重要な示唆をもつ。腫瘍を効果的に治療するため、および/または腫瘍を小さくするため、またはウイルスもしくは細菌感染または炎症性疾患を治療するために、さらなる薬学的に活性な成分を薬学的組成物に含む必要がないことが重要である。
【0050】
さらに、本発明は、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患を治療する方法であって、
(a)NK細胞を、表面にHsp70を持つ腫瘍細胞、または表面にHsp70を持つ前記感染もしくは炎症にかかった細胞に接触させること、
(b)腫瘍細胞表面上の前記Hsp70によって形成されたイオンチャネルを介して、グランザイムBを前記細胞に入れること、および
(c)グランザイムBの酵素活性の結果、前記細胞にアポトーシスを起こさせること、
を含む方法に関する。
【0051】
別の方法として、刺激されたNK細胞によって発現させるかわりに、グランザイムを直接的に投与してもよい。したがって、本発明は、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患を治療する方法であって、
(a)表面にHsp70を持つ腫瘍細胞、または、前記感染もしくは炎症にかかった、表面にHsp70を持つ腫瘍細胞に、グランザイムBを接触させること、
(b)腫瘍細胞表面上の前記Hsp70によって形成されたイオンチャネルを介して、グランザイムBを前記細胞に入れること、および
(c)グランザイムBの酵素活性の結果、前記細胞にアポトーシスを起こさせること、
を含む方法に関する。
【0052】
腫瘍細胞または前記感染もしくは炎症にかかった細胞の範囲およびグランザイムBの濃度、ならびにグランザイムBと腫瘍細胞または前記感染もしくは炎症にかかった細胞との接触時間の範囲を、当業者は、本発明の上記教示を研究することによって導き出すことができる。
【0053】
本発明の態様の好ましい態様において、グランザイムBは、最終濃度1μg/ml〜500μg/mlで投与される。
【0054】
本発明の方法の別の好ましい態様において、グランザイムBは、最終濃度1ng/ml〜10ng/mlで投与される。グランザイムBは、最も好ましくは、最終濃度約6ng/mlで投与される。この点に関しては、投与形態は、これらの濃度のグランザイムBを腫瘍細胞または感染もしくは炎症にかかった細胞に直接送達することが最も好ましいということが重要である。
【0055】
本発明の使用または本発明の方法の別の好ましい態様においては、グランザイムBは、リポソーム中において送達/包装される。
【0056】
薬学的に活性な化合物のリポソーム中へのカプセル化は、当該技術分野において確立されている。
【実施例】
【0057】
下記の実施例によって本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を限定するものと解釈すべきでなく、本実施例は、例示の目的で含まれており、本発明は請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【0058】
実施例1:材料と方法
細胞
6mM L−グルタミンを補充した10%熱不活化ウシ胎児血清(FCS、Life Technologies、Eggenstein、Germany)および抗生物質(100 IU/mlペニシリンおよび100μg/mlストレプトマイシン; Life Technologies)を含有するRPMI−1640培地(Life Technologies、Eggenstein、Germany)1mlあたり0.1〜0.5×10個の細胞密度で、NK細胞株YTを培養した。過渡的プラスチック接着性(transient plastic adherent)NK細胞は、健康なヒトボランティアのバフィーコートに由来するものである。フィコール分離した末梢血単核細胞(PBMC)をrIL−2(100 IU/ml、Chiron、Frankfurt、Germany)中で12時間培養した。修正されたVujanovic(Vujanovic ら、(1993) Cell. Immunol. 151、133)の方法にしたがって、単球が枯渇した末梢血リンパ球の接着選択を行った後、細胞を、Hsp70ペプチドTKD(2μg/ml)を補充したRPMI−1640培地中で3日間培養した。
【0059】
前述したプロトコル(Multhoffら、(1997) J. Immunol. 158、4341)にしたがって、CX−2結腸(Hsp70陽性:60%)およびColo357膵臓(Hsp70 陽性:70%)カルシノーマ細胞株を、Hsp70特異的モノクローナル抗体C92F3B1を用いて細胞選別することによって、ヒト腫瘍サブラインCX+/CX−およびColo+/Colo−を得た。したがって、Colo+およびColo−と同様、CX+およびCX−は自家由来である。CX+(Hsp70 陽性:80%)およびColo+(Hsp70 陽性:85%)カルシノーマサブラインを安定に高発現するHsp70は、CX−(Hsp70 陽性:25%)およびColo−(Hsp70 陽性:35%)カルシノーマ細胞を安定に低発現するHsp70と有意に相違する。
【0060】
Hsp70の膜発現については相違するが、同じMHCクラスI発現を示すカルシノーマサブラインCX+/Colo+およびCX−/Colo−、ならびに白血病性非NK細胞株K562を、5%FCS(Life Technologies)、6mM L−グルタミンならびに抗生物質を補充したRPMI−1640培地において培養した。指数関数的に増加する腫瘍細胞(細胞通過後1日目)を、グランザイムB、カンプトテシン治療のために、かつ、細胞毒性アッセイの標的として使用した。
【0061】
全ての細胞株を定期的にスクリーニングして、マイコプラズマの混入がないかどうかを、酵素免疫検定法によって調べた。M. arginini、M. hyorhinis A. laidlawiiおよびM. orale(Roche、Mannheim、Germany)。マイコプラズマを含まない細胞株のみを用いた。
【0062】
アフィニティクロマトグラフィーおよび免疫沈降法
ウシ血清アルブミン(BSA、1 mg/ml、Sigma-Aldrich、Steinheim、Germany)、1mg/mlの凍結乾燥した(lyophylize)組換えヒトHsp70タンパク質(Stressgen、British Columbia、Canada)または2mg/mlのHsp70ペプチドTKD(TKDNNLLGRFELSG、aa450-463、Bachem、Bubendorf、Switzerland)を、均衡化したAminoLinkアガロースビーズ(Pierce、Rockford、USA)(2ml)、還元剤NaCNBH3とともに6時間インキュベートした。BSA、Hsp70タンパク質およびHsp70ペプチドTKDの結合能は、95%であった。未結合の物質をトリス緩衝液で集中的に洗浄することによって除去し、未反応基をクエンチングした後、細胞溶解物をBSA、Hsp70タンパク質およびHsp70ペプチドTKD結合カラムに1時間適用した。
【0063】
10カラム容量の20mMトリス緩衝液を用いて洗浄後、結合したタンパク質を20mMトリス緩衝液中、3M塩化ナトリウムを用いて5画分溶出した。それぞれの画分を10%SDS−PAGEにかけ、PVDF膜にブロットした。
【0064】
膜透過
膜の精製は、低調の、プロテアーゼインヒビターPMSFを含有するEDTAフリーの緩衝液中で、50×10個の細胞のダウンスホモジナイゼーションで行い、続いて1,000gで5分間および100,000gで4℃で60分間、連続的に遠心分離を行った。膜を含有するペレットを50mMトリス緩衝液(0.5%、NP40、pH7.6)中2mlの0.3M NaClに再懸濁した。
【0065】
ウェスタンブロット分析
脱脂乳(0.1%)中でのブロッキングおよびmAbを用いたグランザイムB 2C5(IgG2a、Becton Dickinson、Heidelberg、Germany)のインキュベーション(4℃、5時間)の後、ウェスタンブロットを洗浄し、二次マウス抗IgG HRP Ab(Dianova、Hamburg、Germany)とともに1時間インキュベートした。ECLキット(Amersham Bioscience)を用いて5秒間タンパク質の検出を行った。
【0066】
ペプチドマスフィンガープリンティング法によるタンパク質の同定
Hsp70タンパク質およびHsp70ペプチドTKDが沈降した32kDaタンパク質バンドをクーマシーブルー染色ゲルから切り出し、トリプシンで消化し、逆相ZIPチップ(Millipore、Eschborn、Germany)を用いて脱塩した。そのサンプルを4−ヒドロキシ−α―シアノけい皮酸中に包埋し、Perseptive Voyager DePro MALDI-TOF(Matrix Assisted Laser Desorption Ionisation?Time Of Flight)マススペクトロメーターを用いて、反射モードでペプチド質量を測定した。ピークリスト(peaklist)をm/zソフトウェア(Proteometrics)を用いて編集し、ピーク選択に用いた。得られたペプチドマスフィンガープリントについて、Profound検索エンジン(Proteometrics)を用いて重複していないNCBIタンパク質データペースを検索した。グランザイムBは、100%の確率、>95%の 信頼度で同定された。
【0067】
フローサイトメトリー
細胞(0.5×10)を10分間パラホルムアルデヒド中(PBS中1%PFA)に固定し、BSA(0.5%)、NaN(0.1%)およびサポニン(0.1%)を含有するPBS中、透過処理した。次いで、透過処理した細胞を、グランザイムB−フィコエリトリン結合モノクローナル抗体HC2−PE(IgG1;Holzel Diagnostika、Cologne、Germany)、またはアイソタイプが一致するIgG1対照抗体のいずれかとともに、4℃で1時間、暗所でインキュベートした。細胞を洗浄後、FACSCalibur機器(Becton Dickinson、Heidelberg、Germany)で分析した。
【0068】
処理
カンプトテシン(4mg/ml、Sigma、Munich、Germany)の貯蔵液をDMSOで希釈し、4℃で暗所にて保存した。グランザイムB(6ng/ml、Holzel Diagnostics、Cologne、Germany)溶液を使用直前に新鮮に調製した。指数関数的に成長する細胞(0.5〜1.5×10/ml)を最終濃度4μg/mlのカンプトテシンで、または、精製された、酵素的に活性なグランザイムB(10ng/ml、1μg/ml、2μg/ml、4μg/ml)(Shiら、(2000) Methods in Enzymology 322、125)を用いて、10分間および30分間、4℃または37℃でインキュベートした。RPMI−1640培地中で洗浄後、結合と取り込みを、透過していないおよび透過した腫瘍細胞中において、フローサイトメトリーおよび蛍光顕微鏡検査法を用いて、40倍対物レンズと標準フィルターの備え付けられているAxioscop 25走査顕微鏡(Zeiss、Jena、Germany)を用いて測定した。画像を、ソフトウェアAxiovison (Zeiss Vison、Jena、Germany)を用いて乗法的シェイディング補正によって処理した。HC2−PE抗体を用いることによってグランザイムBを赤で視覚化した。
【0069】
腫瘍細胞を6ng/mlグランザイムBとともに4時間、12時間および24時間、37℃でインキュベートし、以下に記載するように、異なるアポトーシスアッセイによってRPMI−1640培地で洗浄した後、アポトーシス細胞死を測定した。
アポトーシスアッセイ
アネキシンV−FITC染色:簡単に、細胞を、5mM CaClを含有するHepes緩衝液で2回洗浄し、アネキシンV−FlTC(Roche)を用いて室温で10分間インキュベートした。アネキシンV−FITC陽性染色細胞を、FACSCaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson、Heidelberg、Germany)で測定した。
【0070】
DAPI染色:メタノール/アセトン固定化細胞(0.1×10個/100μl)を、PBS/グリセロール(3:1)中0.5μg/μlの4,6−ジアミノ−2−フェニルインドール(DAPI)とともに、15分間暗所でインキュベートした。PBSで洗浄後、その細胞をFluorescent Mounting Medium(Dako、Glostrup、Denmark)に載せ、40倍対物レンズと標準フィルターの備え付けられているZeiss model Axioscop 2走査顕微鏡(Zeiss Jena、Germany)を用いて蛍光を分析した。50個ずつの細胞についてDAPI染色によってアポトーシスを視覚化した。画像を、ソフトウェアAxiovison(Zeiss Vison、Jena、Germany)を用いて乗法的シェイディング補正によって処理した。
【0071】
チトクロームc放出:定量イムノアッセイ(DCDCO、R&D Systems、Wiesbaden、Germany)を用いてチトクロームc放出を測定した。簡単に、未処理の、またはカンプトテシン(4μg/ml)もしくはグランザイムB(6ng/ml)処理したCX+およびCX−細胞(1.5×10/ml)をPBSで洗浄し、溶解緩衝液で1時間、室温で処理した。1,000gで15分間遠心分離して上清を除去し、200μlの1:100、1:250および1:500希釈液を用いてサンドイッチELISA法を行った。基質溶液を用いて30分間暗所でインキュベートした後、反応を止めた。ELISAリーダーで各ウェルの光学的密度を450nmで測定した。チトクロームc の量は、検量線を用いて測定した。
【0072】
グランザイムB ELISPOT
腫瘍細胞株CX+/CX−およびColo+/Colo−を用いて、20:1〜2:1の間の異なるエフェクタ:標的細胞比(E:T)で、4時間コインキュベートした後、非刺激NK細胞(NK d0)とTKD刺激NK細胞(NK d3)とでグランザイムBの放出を比較した。検出には、グランザイムB ELISPOTキット(#552572、BD、Heidelberg、Germany)を用いた。簡単に、96ウェルELISPOTプレート(MAIPN45、Millipore)に4℃で一晩、捕捉抗体を塗布し、10%FCSを含有するRPMI−1640培養培地でブロックし、前記のようにして、腫瘍細胞とエフェクタ細胞を用いて37℃で4時間インキュベートした。脱イオン水および洗浄緩衝液AおよびBで洗浄後、ビオチン化抗グランザイムB抗体を2時間添加した(2μg/ml)。別の2つの洗浄ステップ後、新鮮に調製されたアビジン−西洋ワサビペルオキシダーゼ(2h)および基質溶液(インキュベート時間:25分)を添加することによって、グランザイムBを視覚化した。ImmunoSpot Series I Analyzerを用いて、スポットを自動的に計数した。
【0073】
51Cr放出アッセイおよび阻害アッセイ
NK細胞媒介性細胞毒性を、12時間の51Cr放射性同位体アッセイによって測定した。標的細胞として、結腸カルシノーマサブラインCX+およびCX−を用いた。ブロッキング研究には、最終濃度5μg/1×10細胞で、mAb C92F3B1およびアイソタイプが一致する対照抗体(IgG1)を用いた。抗体とともに4℃で30分、CX+およびCX−標的細胞をインキュベートした後、細胞を51Crで標識し、MacDonald (MacDonaldら、(1974) J. Exp. Med. 140,718)に記載のようにして、細胞毒性アッセイを行った。特異的溶解のパーセンテージは、[(実験的放出−自発的放出)/(最大放出−自発的放出)]×100から計算した。
【0074】
実施例2:グランザイムBは、全長ヒートショックタンパク質(Hsp70)およびHsp70ペプチドTKDの相互作用パートナーである。
パートナータンパク質を、固定化されたヒトHsp70タンパク質(1mg)上で、または、NK細胞との相互作用を媒介することがわかっているHsp70の細胞外エピトープを含有する、14アミノ酸ペプチド、造られた(coined)TKD(TKDNNLLGRFELSG、aa450-463、2 mg)上で、アフィニティクロマトグラフィーによって同定した。このペプチドは、Hsp70特異的抗体(Welch and Suhan (1986) J. Cell. Biol. 103、2035)のエピトープ (Reinekeら、(1996) Immunobiol. 196、96)として予め同定されており、生育可能な腫瘍細胞上の膜結合Hsp70を特異的に検出するものである(Multhoffら、(1995) Int. J. Cancer 61,272; Multhoff ら、(1995) Blood 86, 1374)。NK細胞株YTの細胞溶解物(Drexlerら、(2000) Leukemia 14,777)を、固定化Hsp70またはTKDペプチドカラム上にて分画した。カラムに結合した材料を、3M塩化ナトリウムで5つの画分内に溶出した。対照として、YT細胞溶解物を担体またはBSA結合カラムに塗布した。さらに、非NK細胞株(K562)の溶解物をTKD結合アフィニティカラム上に分画した。溶出した画分をSDS−PAGE(10%)によって分離し、銀染色によって視覚化した。見かけの分子量が32kDaの、強いタンパク質バンドが、Hsp70タンパク質(Hsp70)およびHsp70ペプチド(TKD)カラム(図1A、YT)に由来するYT細胞溶出物の画分2(F2)および3(F3)に観察された。このバンドは、未結合セファローズカラム(データは示さず)やBSA結合カラムの溶出物には観察されず、また、K562細胞溶解物が載ったTKDアフィニティカラムからの溶出物にも観察されなかった(図1A)。Hsp70タンパク質カラムによっても同じ結果が得られた(データは示さず)。並行して、画分3(F3)に由来するHsp70ペプチドTKDおよびHsp70タンパク質の溶出物をSDS−PAGEによって分離し、クーマシーブルーで染色した。Hsp70ペプチドカラムのF3に由来する32kDaタンパク質バンドを切り出し、トリプシンで消化した(図1B)。得られたペプチドをMALDI-TOFペプチドマスフィンガープリンティング法で分析した。トリプシンペプチドの配列は、グランザイムBと100%のホモロジーを示し、推定Z値は1.89であり、グランザイムBについて95%を超える確率を示すものであった(図1B)。グランザイムBと32kDaタンパク質バンドとの同一性を、グランザイムB特異的抗体2C5(IgG2a)を用いたウェスタンブロット分析によってさらに確認した。Hsp70タンパク質(Hsp70)およびHsp70ペプチド(TKD)カラムから得られたYT細胞溶出物の両方には、強い32kDaグランザイムBタンパク質バンドが現れた(図1C)。グランザイムBは、Hsp70またはK562溶解物が載ったTKDアフィニティカラムに溶出した画分には検出されなかった(図1C)。グランザイムBに対するフィコエリトリン(PE)結合グランザイムB抗体(IgG1)を用いたフローサイトメトリーによって、YT細胞中においては、細胞質のグランザイムBの陽性染色が示されたが、K562では示されなかった(図1D)。これらの所見は、我々のこれまでの結果を裏付けるものである。要約すれば、これらのデータは、グランザイムBがHsp70の潜在的なパートナータンパク質であることを示している。グランザイムBは、TKDと名づけたHsp70のC末端領域と相互作用する可能性がある。
【0075】
実施例3:Hsp70膜陽性腫瘍細胞におけるグランザイムBの特異的結合および相互作用
上記所見は、膜結合Hsp70によってグランザイムBが細胞質ゾルに特異的に結合し、またそこに入ることを可能とするかどうかという問題を提起している。したがって、パーフォリンを含まない、精製グランザイムBを、差異的(differential)Hsp70膜発現を示す腫瘍サブラインCX+/CX−およびColo+/Colo−とともにコインキュベートした。未処理のCX+およびColo+細胞(対照)の光学顕微鏡検査法(light microscopy)による分析を4℃と37℃で行い、各パネルの上の列に示している(図2A)。4℃と37℃で行った、細胞の対応する免疫蛍光顕微鏡検査法を、下に示している(対照)。最初、どの細胞においても、細胞表面上でも、細胞質内でも、グランザイムB染色は認められなかった。しかしながら、該細胞を精製グランザイムB(grB)とともに4℃で15分間インキュベートした後、典型的な膜表面染色を示すリング状の蛍光発光が、HsP70膜陽性CX+およびColo+腫瘍サブラインにおいて検出された(図2A,左のパネル)。CX+およびColo+腫瘍サブライン中の細胞質の染色パターンによって測定されるように、30分間のインキュベート中、4℃から37℃へ温度シフトを行った結果、グランザイムBの取り込みが認められた(図2A、右のパネル)。対照的に、Hsp70膜陰性対応物CX−およびColo−は、4℃でのグランザイムB細胞表面結合も、または37℃での取り込みも認められなかった(データは示さず)。透過した細胞のフローサイトメトリー分析から、細胞を1μg/mlグランザイムBとともに37℃で30分間コインキュベートした場合、Hsp70膜陽性CX+およびColo+において選択的に、グランザイムBのピークがかすかに右にシフトするが、CX−/Colo−腫瘍サブラインにおいてはしないことが明らかになった(図2B、上のグラフ)。2μg/mlおよび4μg/mlのグランザイムBを用いたコインキュベーション後、Hsp70の膜陽性腫瘍細胞(CX+/Colo+)中において、グランザイムB取り込みの用量依存的増加が検出された(図2B、下のグラフ)。しかしながら、最も高い濃度である4μg/mlにおいても、グランザイムBは、Hsp−70陰性腫瘍細胞(CX−/Colo−)と比較して、Hsp70膜陽性によってより顕著に内面化した。Hsp70によって形成された潜在的イオンチャネルは、Hsp70膜陽性腫瘍細胞における、グランザイムBの選択的取り込みのメカニズムにおいて役割を果たすかもしれない。実際に、Hsp70膜陽性(CX+)腫瘍サブラインの精製リン脂質に由来する小胞の取り込み後、特定のイオン電導経路(ion conductance pathway)が観察された。これは、Hsp70膜陰性(CX−)腫瘍から得られた細胞小胞においては認められなかった(データは示さず)。これらの結果に基づいて、グランザイムBのHsp70膜陽性腫瘍細胞への選択的取り込みを容易にするイオンチャネル活性について推定することができるかもしれない。
【0076】
実施例4:in vitroで提供されるグランザイムBは、Hsp70膜陽性腫瘍細胞において選択的にアポトーシスを誘発する
上記所見は、精製グランザイムBは、細胞表面にHsp70を提示する腫瘍細胞のアポトーシスを誘発することができるかどうかという問題を提起している。同一のMHCクラスI発現(Multhoffら、(1997) J. Immunol. 158,4341)を示す、Hsp70膜陽性(CX+/Colo+)および膜陰性(CX−/Colo−)結腸カルシノーマ細胞を、単離された、酵素的に活性なグランザイムB(6ng/ml)とともに4時間、12時間および24時間インキュベートした(Shiら、(2000) Methods in Enzymology 322、125)。アポトーシスの陽性対照として、全ての細胞タイプをトポイソメラーゼインヒビターカンプトテシンとともに、4μg/mlの濃度でインキュベートした。FACS(FACSCalibur、Becton Dickinson、Heidelberg、Germany)、DAPI染色およびミトコンドリア性チトクロームc放出によって測定される、アネキシンV−FITC染色によってアポトーシスを測定した。カンプトテシン(cam)またはグランザイムB(grB)とともに4時間インキュベートしたCX+およびCX−細胞においては、アポトーシスは検出されなかった(図3A)。カンプトテシンとともにインキュベートしたCX+およびColo+ならびにCX−およびColo−を、カンプトテシンとともに12時間および24時間インキュベートした後、アポトーシスを起こさせた。結腸カルシノーマサブラインCX+/CX−は、膵臓カルシノーマサブラインColo+/Colo−と比較して、カンプトテシン媒介性の細胞死からより保護さていれた。
【0077】
図3Aに示されているように、12時間後、アネキシンV−FITC陽性染色CX+細胞の量は、16.6%から28.0%に増加し(1.7倍)、24時間後、18%から39%に増加した(2.1倍)。CX−細胞においては、アネキシンV−FITC陽性染色細胞の量は、同様に12時間後、12.1%から19.8%に増加し(1.6倍)、24時間後11.9%から25.1%に増加した(2.1倍)。対照的に、アポトーシスは、グランザイムBを用いて12時間および24時間インキュベートした、Hsp70膜陽性Cx+細胞において選択的に、それぞれ16.6%から20.9%(1.3倍)および18%から30.2%(1.8倍)の増加が観察された。アネキシンV−FITC陽性染色Colo+細胞の量については、12時間後および24時間後のそれぞれにおいて、1.3倍および2.4倍の増加が認められた。CX−およびColo−細胞においては、グランザイムBを用いた処理の12時間も24時間もアポトーシスは誘発されなかった。グランザイムBで24時間処理したCX+およびCX−細胞のアネキシンV−FITC染色パターンの比較を図3Bに示す。未処理の対照細胞(18%)と比較して、アネキシンV−FITC陽性染色CX+細胞およびヨウ化プロピジウム(PI)陰性染色CX+細胞の量は、グランザイムBでの処理後、1.7倍(30%)に増加した。しかしながら、アポトーシスCX−細胞は、グランザイムBでの同じ処理の前後で変化はなかった。CX+細胞に加えて、グランザイムBは、Hsp70膜陽性白血病細胞株K562においてもアポトーシスを誘発する(データは示さず)。アネキシンV−FITC陽性染色K562細胞の量は、8.7%から最大16%まで増加した(1.8倍)。
【0078】
アノイキスによって開始するアポトーシスを除外するため、未処理(対照)、カンプトテシン(cam)およびグランザイムB(grB)処理したCX+/CX−およびColo+/Colo−腫瘍細胞の光顕微鏡分析を行った。図3Cに示すように、グランザイムBでの24時間の処理で、Hsp70膜陽性腫瘍細胞株も膜陰性腫瘍細胞株も、プラスチック接着(plastic adherence)においていかなる損失の徴候をも示さなかった。これらの所見に関して、我々は、アノイキスがHsp70膜陽性腫瘍サブラインにおいて、アポトーシス細胞死の誘発の可能なメカニズムかもしれないという可能性を除外した。全てのアポトーシスアッセイは、接着性細胞集団内において短時間の(1分以内)トリプシン処理の後に測定を行った。
【0079】
アネキシンV−FITC染色パターンからの結果と一致して、全ての細胞型、CX+/CX−、Colo+/Colo−で、核フラグメンテーションが認めらた(図3D、cam)。これは、カンプトテシン(4μg/ml)での24時間の処理後の核DNAのDAPI染色によって検出されるように、後の段階での典型的なアポトーシスの徴候である。しかしながら、DNAフラグメンテーションは、グランザイムB(6ng/ml)での処理の24時間後のHsp70膜陽性CX+およびColo+腫瘍細胞においてのみ検出され、Hsp70膜陰性CX−およびColo−細胞においては、DNAフラグメンテーションは観察されなかった(図3D、grB)。
【0080】
アポトーシス細胞死についての更なる試験として、CX+およびCX−細胞をグランザイムBとともに24時間インキュベートした後、チトクロームc放出を測定した。表1にまとめたように、グランザイムB(6ng/ml)での24時間のインキュベート後、チトクロームcの濃度は、Cx+細胞においては、0.382mg/mlから0.690mg/mlに上昇した(1.8倍)。しかしながら、CX−細胞においては、グランザイムBでの処理後、チトクロームcの増加は認められなかった(0.452mg/ml対0.425mg/ml)。対照的に、カンプトテシン(4μg/ml)での24時間の処理後は、両方の細胞タイプにおいてチトクロームc濃度は類似の1.5倍に増加した。これらの結果は、単離されたグランザイムBは、Hsp70を細胞表面上に提示する腫瘍細胞において選択的にアポトーシス細胞死を誘発することを示している。グランザイムBによるアポトーシスの誘発は、細胞外に露出されたHsp70エピトープTKDに媒介されることが示唆される。
【0081】
表1
未処理(対照)、またはカンプトテシン(4μg/ml)もしくはグランザイムB(6ng/ml)で24時間処理した後のCX+およびCX−腫瘍細胞中のヒトチトクロームcの定量的測定。データは、4つの独立した実験における中間値±標準偏差で表している。対照とは有意に異なる値(p<0.05)に*を付している。
【表1】

【0082】
実施例5:NK細胞のHsp70ペプチドTKDによる刺激がグランザイムBの産生を誘発し、Hsp70膜陽性腫瘍標的細胞の殺滅を増加させる。
我々の所見の生理学的役割を、未処置およびHsp70で刺激したヒトNK細胞を用いた機能的アッセイにおいて試験した。以前からNK細胞を10〜50μg/mlの濃度のHsp70タンパク質とともに、または等価のHsp70ペプチド濃度(0.2〜2.0μg/ml)とともにインキュベートすることによって、NK細胞のHsp70膜陽性腫瘍標的細胞に対する細胞溶解活性が増加することがわかっていた。同時に、C型レクチンレセプターCD94を活性化するキラー細胞の発現はアップレギュレートされた(Multhoffら、(1999) Exp. Hematology 27,1627; Grossら、(2002) submitted)。Hsp70は、抗体ブロッキング研究によって結論付けられているように(Multhoffら、(1997) J. Immunol. 158,4341; Multhoffら、(1995) Blood 86,1374)、NK細胞の腫瘍選択的認識構造として機能するにもかかわらず、NK細胞毒性のメカニズムは、依然として不明である。可能なメカニズムを解明するために、NK細胞をHsp70ペプチドTKD(2μg/ml)とともに3日間インキュベートした。3つの独立した実験において証明されたように、有意に上昇した細胞内グランザイムB発現が観察された。対照的に、グランザイムB発現は、Hsp70ペプチドTKDで処理したCD3陽性T細胞においては増加しなかった。Hsp70膜陽性CX+およびHsp70膜陰性CX−とともにコインキュベートしたHsp70ペプチド活性化NK細胞の光顕微鏡検査による分析を図4Aに示す。Hsp70膜陽性CX+およびHsp70膜陰性CX−腫瘍細胞(0.1×10個/ml)を24ウェルプレートにて2日間、複製培養した。両腫瘍細胞株の増殖率は、同じ細胞数(0.3×10個/ml)であることが測定されているように類似していた。上のパネルのCX+およびCX−腫瘍細胞は、NK細胞不存在下で培養し、下のパネルの腫瘍細胞は、Hsp70ペプチドTKD(2μg/ml、3日)で刺激されたNK細胞とともに12時間共培養した。CX+細胞コロニーのほぼ100%がNK細胞を有するクラスター中で認められ、CX+腫瘍細胞の生存能力は減少していると思われる。対照的に、CX−腫瘍細胞およびNK細胞はクラスターには認められなかった。Hsp70膜陰性CX−腫瘍細胞は、NK細胞を引き付けなかった。NK細胞との接触後、CX−腫瘍細胞の細胞生存能力は、CX+腫瘍細胞と比較して、あまり影響を受けなかった。各グラフの右下の角の挿入図は、1つの代表的な細胞コロニーを倍率2.5倍で示した図である。
【0083】
新鮮に単離された、未刺激(NK d0)またはHsp70ペプチドTKD刺激されたNK細胞(NK d3)と接触後のCX+/CX−およびColo+/Colo−腫瘍細胞の細胞殺滅を、12時間の51Crアッセイにおいて定量した(図4B)。光顕微鏡において観察されたもの(図4A)と一致して、CX+標的細胞(左)に対するTKD刺激NK細胞(NK d3)の細胞溶解活性は、CX−標的細胞(右)と比較して有意に増強した。Hsp70−ペプチドTKDで3日間刺激した後の増加したグランザイムB濃度と同時に、Hsp70膜陽性CX+およびColo+細胞に対する細胞溶解性応答は、有意に上昇した。すなわち、E:T比2:1〜20:1において、1.5倍(CX+)および2.0倍(Colo+)であった。Hsp70膜陰性CX−およびColo−細胞に対するものは上昇しなかった。CX+およびCX−腫瘍細胞は、Hsp膜発現についてのみ異なり、MHCクラスI発現パターンは同じであったので、キラー細胞阻害レセプター(KIR)に媒介される阻害作用は除外することができるであろう。Hsp70膜陰性CX−腫瘍細胞(右)に対するものではなく、Hsp70膜陽性CX+腫瘍細胞(左)に対する細胞溶解活性の増加は、生存可能な腫瘍細胞上の膜結合Hsp70ペプチドTKDを検出するものとして知られる、Hsp70ペプチド特異的モノクローナル抗体を用いた標的細胞のプレインキュベーションによって完全に阻害され得るだろう(Multhoff ら、(1995) Int. J. Cancer 61、272)。対照的に、Hsp70膜陰性腫瘍細胞のより低い溶解性は、Hsp70抗体を用いたインキュベーション後も影響を受けないままであった。技術的に、NK細胞から腫瘍細胞へ、細胞間接触によって移動するグランザイムBの絶対量を定量することはできない。しかしながら、グランザイムB放出の相対値は、ELISPOT分析によって測定可能であろう。したがって、CX+/CX−およびColo+/Colo−腫瘍細胞に対する、新鮮に単離された、未刺激の(NK d0)およびTKD刺激されたNK細胞(NK d3)の細胞応答の比較を、グランザイムBの放出と同時に行った。腫瘍細胞株およびE:T細胞比とは無関係に、未刺激の腫瘍細胞(NK d0)を用いてコインキュベートすると、通常非常に低いグランザイムB放出が起こり、スポットの数は通常20未満であった。3日間のTKDでの刺激(NK d3)後、腫瘍細胞とともに4時間コインキュベートすると、グランザイムBは有意にアップレギュレートした。E:T比が5:1のとき、3つの独立した実験において測定されたように、グランザイムBスポットの数は、下記のとおりとなった。CX+:260±20、CX−:165±6;Colo+:137±55;Colo−:66±8。同時に、Hsp70膜陽性腫瘍標的細胞(CX+/Colo+)は、それらの陰性対応物(CX−/Colo−)と比較して、有意に良好に溶解した。これらのデータは、TKD活性化NK細胞によるHsp70膜陽性腫瘍細胞の溶解は、グランザイムB放出と関連していることを強く示唆する。グランザイムBと膜結合Hsp70ペプチドTKDとの相互作用は、腫瘍細胞取り込みおよびアポトーシス誘発にとって重要であるとの仮説がたてられる。PBSで洗浄することによってNK細胞を除去し、腫瘍細胞をDAPIで染色した。Hsp70膜陽性CX+細胞は、DNAフラグメンテーションを示したが、NK細胞でコインキュベーション後、Hsp70膜陰性CX−細胞はそれを示さなかった。アネキシンV−FITC染色によっても同じ結果が得られた(データは示さず)。これらの観察は、TKD活性化NK細胞は、アポトーシスを誘発することによって、Hsp70膜陽性CX+細胞を殺滅すること、そしてそれはまたグランザイムBの濃度を上昇させていたことを強く示唆している。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】図1は、Hsp70タンパク質およびHsp70ペプチドTKDの相互作用のパートナーとしてのグランザイムBの同定を示す図である。図1A:Hsp70タンパク質(Hsp70)、ウシ血清アルブミン(BSA)およびHsp70ペプチド(TKD)カラムを、NK細胞株YTの細胞溶解物または非NK細胞株K562とともにインキュベートした。結合したタンパク質を5つの画分(F1〜F5)のカラムから溶出し、SDS−PAGE上に溶解した。銀染色後、Hsp70およびTKDカラムから得られたYT細胞の溶出物は、画分2(F2)および3(F3)に、強い32kDaのタンパク質バンドが現れた。BSAカラムから得られたYT溶出物およびTKDカラムから得られたK562溶出物中には32kDaタンパク質バンドは検出できなかった。32kDaバンドの位置を矢印にて示す。 図1B:TKDカラムから得られた、クーマシーブルー染色された32kDaバンドの画分3(F3)のトリプシンペプチドは、ヒトグランザイムBに対応する。同一性の確率は100%であり、推定Zスコアは、>95%の信頼度に該当する1.89であった。 図1C:Hsp70タンパク質(Hsp70)およびHsp70ペプチド(TKD)カラムを用いたインキュベーション後の、YTおよびK562細胞溶出物(F3)の対応するウェスタンブロット分析。該ブロットを、オートラジオグラフ解析し、グランザイムBの局在性をグランザイムB特異的mAb 2C5を用いて免疫染色することによって視覚化した。YT細胞(左)の溶出物には、32kDaグランザイムBタンパク質バンドが明らかに認められたが、K562細胞(右)には認められなかった。 図1D:アイソタイプが一致する陰性対照抗体(破線)との比較における、フィコエリトリン(PE)結合グランザイムB特異的モノクローナル抗体HC2−PE(実線)を用いた、透過YT細胞(左)およびK562細胞(右)の細胞内フローサイトメトリー。YT細胞のみが細胞質グランザイムBを含有しており、K562細胞は含有していない。
【図2】図2は、Hsp70膜陽性腫瘍細胞による、グランザイムB(grB)の特異的細胞表面結合および取り込みを示す図である。図2A:4℃でのグランザイムB(2μg/ml)のCX+/Cx−およびColo+/Colo−腫瘍細胞の細胞表面への結合の比較、ならびに37℃への温度シフト後30分間の、フィコエリトリン(PE)結合グランザイムB特異的モノクローナル抗体HC2−PEを用いた、細胞質ゾルへの取り込みの比較示す。第1の列は、光顕微鏡検査、第2の列は、グランザイムB無しの細胞の免疫蛍光法(対照)、第3の列は、明記されているように(grB)グランザイムBの添加後の免疫蛍光法を示す。同じ結果を示した3つのうち、1つの代表的な蛍光顕微鏡検査を示している。倍率40倍。 図2B:37℃で30分間、1μg/ml、2μg/ml、4μg/mlのグランザイムBを用いた腫瘍細胞のインキュベートを行う前(破線)と後(実線)のグランザイムB特異的モノクローナル抗体HC2−PEを用いた透過CX+/CX−(n=2)およびColo+/Colo−(n=4)腫瘍の細胞内フローサイトメトリーを示す。細胞外のグランザイムBの取り込みを示すグランザイムBのピークの用量依存的な右へのシフトがCX+およびColo+細胞のみに示され、CX−およびColo−には示されていなかった。
【図3】図3は、Hsp70膜陽性腫瘍細胞中の単離されたグランザイムB(grB)によってアポトーシスが選択的に誘導される実験を示す図である。 図3A:未処理(黒いバー)またはカンプトテシン(4μg/ml;明るい灰色のバー)もしくはグランザイムB(6ng/ml;濃い灰色のバー)で4時間、12時間および24時間インキュベートを行った後の、アネキシンV−FITC陽性ならびにヨウ化プロピジウム(PI)陰性CX+/Colo+(左)およびCX−/Colo−(右)細胞のパーセンテージ。データは、3〜4の独立した実験における中間値±標準偏差で表している。対照とは有意に異なる値(p<0.05)に*を付している。 図3B:未処理(対照)またはグランザイムB(grB)を用いて24時間インキュベートを行った後の、アネキシンV−FITC陽性ならびにヨウ化プロピジウム(PI)陰性CX+およびCX−細胞の代表的なフローサイトメトリー分析を示す。アネキシンV−FITC陽性染色細胞のパーセンテージを各グラフの右下の角にパーセンテージで示している。 図3C:未処理(対照)またはカンプトテシン(cam、4μg/ml)もしくはグランザイムB(grB、10ng/ml)で24時間処理した後の、接着成長(adherent growning)CX+/CX−およびColo+/Colo−腫瘍細胞クラスターの光顕微鏡分析を示す。スケールバーは100μmを示す。 図3D:並行して、未処理(対照)、またはカンプトテシン(cam)もしくはグランザイムB(grB)で処理したCX+/CX−およびColo+/Colo−(24時間)をDAPIで染色した。かなりの核DNAフラグメンテーションがカンプトテシン(中間パネル)を用いてインキュベートした後の、すべての腫瘍サブラインにおいて観察された。グランザイムBを用いてインキュベートした後は、CX+およびColo+細胞のみに核DNAフラグメンテーションが認められた(下のパネル、左)。グランザイムBを用いたインキュベーションの後のCX−およびColo−細胞においてアポトーシスの徴候は認められなかった(下のパネル、右)。スケールバーは10μmを表す。
【図4】図4は、Hsp70膜陽性腫瘍細胞の殺滅を証明する実験を示す図である。グランザイムB陽性NK細胞によって媒介されたアポトーシスは、Hsp70特異的mAbによって遮断可能である。 図4A:未処理(対照)またはHspペプチドTKD刺激NK細胞(+NK)を用いて12時間コインキュベートした、Hsp70膜陽性CX+およびHsp70膜陰性CX−細胞コロニーのの光顕微鏡検査(倍率20倍)を示す。エフェクタ対標的細胞の比率(E:T)は20:1であった。スケールバーは、200μmを示しており、各グラフの右下角の挿入図は、1つの代表的な細胞コロニーの例を示す。倍率2.5倍。 図4B:未処理(NK d0)およびHsp70ペプチドTKD刺激NK細胞(NK d3)によるCX+/Colo+(左パネル)およびCX−/Colo−(右パネル)腫瘍標的細胞の細胞殺滅を51Cr放出アッセイによって定量化した。未処理NK細胞(NK d0)対TKD刺激NK細胞(NK d3)における細胞内グランザイムBレベルは、1.4倍増加し、同時に、CX+細胞の溶解は、1.5倍増加した。Colo+細胞のそれは、異なるエフェクタ対標的比率において2.0倍であった。CX−およびColo−腫瘍細胞の溶解は、影響を受けなかった。 また、CX+およびColo+細胞に対する、TKD刺激NK細胞(NK d3、Hsp70 mAb)の細胞溶解性活性の増加は、Hsp70特異的抗体によって、Hsp70膜陰性腫瘍細胞の溶解のレベル(1.7倍阻害、点線)まで完全に阻害された。2:1〜20:1の範囲のE:T比率で、細胞毒性を決定した。各標的細胞の自発的放出は、10%以下であった。データは、3つの独立した実験の中間値±標準偏差で表している。
【図1A−1B】

【図1C−1D】

【図2A】

【図2B】

【図3A】

【図3B】

【図3C−3D】

【図4A】

【図4B】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナチュラルキラー(NK)細胞中のグランザイムBの発現を誘導または促進する方法であって、NK細胞を、
(a)Hsp70タンパク質;
(b)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(a)の(C末端)フラグメント;
(c)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(ポリ)ペプチド;または、
(d)(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ
に接触させることを含む、方法。
【請求項2】
Hsp70タンパク質、その(C末端)フラグメント、アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む(ポリ)ペプチド、またはそれらの組み合わせは、複合体形成されていない状態である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
in vivo法である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ex vivo法である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
in vitro法である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
グランザイムBの発現が誘導または促進されたNK細胞を哺乳動物に再注入することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記再注入されたNK細胞は、自家および/または同種異系のNK細胞である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記哺乳動物がヒトである、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記接触は、少なくとも12時間行われる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記接触は、少なくとも4週間行われる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記NK細胞は、前記接触の前に、骨髄細胞を1サイトカインあたり1ng/ml〜1000ng/mlの濃度のインターロイキン−15(IL−15)および幹細胞因子(SCF)とともに、少なくとも7日間、最大4ヶ月間インキュベートすることによって、骨髄から取得される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
(a)Hsp70タンパク質;
(b)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(a)の(C末端)フラグメント;
(c)アミノ酸配列TKDNNLLGRFELSGを含む、(ポリ)ペプチド;または、
(d)(a)、(b)および/または(c)の組み合わせ;
を用いて刺激した後、グランザイムBを作製するNK細胞の使用であって、腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患の治療のための薬学的組成物を調製するための、使用。
【請求項13】
前記NK細胞は、請求項1〜11のいずれかに記載の方法によって刺激される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患の、パーフォリン非依存治療のための薬学的組成物を調製するための、グランザイムBの使用。
【請求項15】
グランザイムBは、前記薬学的組成物中の1つの薬学的に活性な化合物として使用される、請求項14に記載の使用。
【請求項16】
腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患を治療する方法であって、
(a)NK細胞を、表面にHsp70を持つ腫瘍細胞、または表面にHsp70を持つ前記感染もしくは炎症にかかった細胞に接触させること、
(b)腫瘍細胞表面上の前記Hsp70によって形成されたイオンチャネルを介して、グランザイムBを前記細胞に入れること、および
(c)グランザイムBの酵素活性の結果、前記細胞にアポトーシスを起こさせること、
を含む、方法。
【請求項17】
腫瘍、ウイルスもしくは細菌感染、または炎症性疾患を治療する方法であって、
(a)表面にHsp70を持つ腫瘍細胞、または、前記感染もしくは炎症にかかった、表面にHsp70を持つ腫瘍細胞に、グランザイムBを接触させること、
a.腫瘍細胞表面上の前記Hsp70によって形成されたイオンチャネルを介して、グランザイムBを前記細胞に入れること、および
b.グランザイムBの酵素活性の結果、前記細胞にアポトーシスを起こさせること、
を含む、方法。
【請求項18】
グランザイムBを、最終濃度1μg/ml〜500μg/mlで投与する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
グランザイムBを、最終濃度1ng/ml〜10ng/mlで投与する、請求項16または17に記載の方法。
【請求項20】
グランザイムBを、最終濃度約6ngで投与する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
グランザイムBをリポソーム中にパッケージする、請求項14または15に記載の使用または請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記腫瘍細胞は、その膜表面にHsp70を発現する腫瘍細胞を含み、または感染もしくは炎症にかかった細胞は、その膜表面にHsp70を発現する、請求項12〜15または21のいずれか1項に記載の使用。
【請求項23】
前記腫瘍細胞は、胃、腸、結腸直腸、肺、膵臓、乳房、産婦人科系、頭頚部の腫瘍、皮膚の腫瘍(例えば、メラノーマ)、ニューロン性腫瘍、白血病およびリンパ腫からなる群から選択される、請求項12〜15、21もしくは22のいずれか1項に記載の使用、または請求項16〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルス感染は、HIVまたは肝炎ウイルスによる感染である、請求項12〜15、21または22に記載の使用、または請求項16〜22のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−507810(P2006−507810A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−530248(P2004−530248)
【出願日】平成15年8月22日(2003.8.22)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009341
【国際公開番号】WO2004/018002
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(505063359)
【氏名又は名称原語表記】MULTHOFF, Gabriele
【住所又は居所原語表記】Kirchenstrasse 17c, 81675 Munchen (DE)
【Fターム(参考)】