腫瘍細胞に特異的なRNAデリバリー試薬
【課題】腫瘍細胞に特異的にRNAを送達することができるRNA導入剤を提供すること。
【解決手段】シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている上記結合体。
【解決手段】シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている上記結合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEG化葉酸で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体、該結合体からなる遺伝子導入剤、及び該結合体を用いて細胞に遺伝子を導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、shRNA発現DNAベクター、siRNA、デコイ核酸、アンチセンス核酸などの機能性核酸医薬は様々な病気の革新的治療薬になり得ることから、医薬品分野での期待は大きい。しかし、これらを医薬品化するためには、ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術が不可欠である。本発明者らは、これまでに、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体(CDE結合体)が、DNAやRNAのキャリアとして有用であることを明らかにしてきている(特許文献1及び2)。
【0003】
腫瘍細胞特異的に薬物、DNA又はRNAを送達するためのキャリアとしては、リポソーム、コレステリルプルラン、高分子ミセル、ポリエチレンイミンなどが知られているが、これらは調製が煩雑、キャリアの安定性が低い、細胞障害性を有する、エンドソーム透過促進効果を有さず、作用部位へのデリバリー効率が低いなどの欠点を有する。また、米国のME Davisらはシクロデキストリンを含有するポリマーとトランスフェリン修飾アダマンタン複合体を用いて癌細胞選択的にDNAやRNAをデリバリーできる技術を開発しているが、この複合体の構造は非常に複雑であり、体内環境が変化した場合に、その送達機能を維持できるか否か不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/093108号公報
【特許文献2】WO2005/007850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、腫瘍細胞に特異的にRNAを送達することができる遺伝子導入剤を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、調製が容易で、キャリアの安定性が高く、細胞障害性が低く、エンドソーム透過促進効果を示し、腫瘍部位へのデリバリー効率が高い遺伝子導入剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、癌細胞に特異的なデリバリーを目的として、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体(CDE結合体)にさらにPEG化葉酸を修飾した結合体(Fol-PaC 結合体)を調製した。Fol-PaC 結合体は、RNAとの複合体を形成し、葉酸レセプターを過剰発現する癌細胞に選択的かつ高効率で、shRNA発現ベクター、siRNA、又はmiRNAを導入できることから、副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めた治療効果を期待できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている上記結合体。
(2) シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである、(1)に記載の結合体。
(3) デンドリマーがジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、(1)又は(2)に記載の結合体。
(4) (1)から(3)の何れかに記載の結合体からなる、腫瘍細胞に特異的なRNA導入剤。
(5) RNAがsiRNAである、(4)に記載のRNA導入剤。
(6) 導入すべきRNAと、(1)から(3)の何れかに記載の結合体の存在下で細胞をインキュベーションする工程を含む、細胞にRNAを導入する方法。
(7) RNAがsiRNAである、(6)に記載の方法。
(8) 細胞が、葉酸レセプターを発現している細胞である、(6)又は(7)に記載の方法。
(9) 細胞が腫瘍細胞である、(6)から(8)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であってさらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸が修飾されている上記結合体は、溶液中においてRNAと攪拌するだけで容易に複合体を調製でき、その複合体は腫瘍細胞特異性を有する。また、細胞内導入後、シクロデキストリンの働きにより、細胞内バリアーとして働くエンドソーム膜からRNAの放出を促進し、RNAを効率よく細胞内の作用部位に送達させることができる特性を有する。さらに、本発明の結合体は、従来のキャリアに比べて、細胞障害性や赤血球溶血作用が極めて低いことが特徴である。その上、デンドリマーの種類を変更することにより、細胞タイプに適合したキャリアを構築でき、遊離の環状オリゴ糖(シクロデキストリンなど)の添加により、RNAの徐放性を付与できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果を示す。
【図2】図2は、ルシフェラーゼ安定発現細胞である KB-luc cells における Fol-PaC の遺伝子発現抑制効果に及ぼす siRNA 濃度の影響を示す。
【図3】図3は、遺伝子発現抑制効果に及ぼす FCS 添加時間の影響を示す。
【図4】図4は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響を示す。
【図5】図5は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響を示す。
【図6】図6は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響を示す。
【図7】図7は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす置換度の影響を示す。
【図8】図8は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす置換度の影響を示す。
【図9】図9は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響を示す。
【図10】図10は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響を示す。
【図11】図11は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響を示す。
【図12】図12は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図13】図13は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図14】図14は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図15】図15は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図16】図16は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図17】図17は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図18】図18は、Fol-PaC2000 と siRNA との相互作用 (電気泳動)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(1)シクロデキストリン・デンドリマー結合体
本発明の結合体は、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されていることを特徴とする。
シクロデキストリン・デンドリマー結合体は、デンドリマーとシクロデキストリンを溶媒中で加熱・混合することにより容易に製造することができる。
【0011】
(シクロデキストリン)
シクロデキストリン・デンドリマー結合体を構成するシクロデキストリンは、α-、β-、またはγ-シクロデキストリンである。これらα-、β-、またはγ-シクロデキストリンは、化学修飾型または非修飾型のシクロデキストリンであることもできる。これらα-、β-、またはγ-シクロデキストリンは市販品を容易に入手できる。本発明ではこれらのうちα-シクロデキストリンを用いることが、その導入剤としての効果が最も優れているため、好ましい。
【0012】
シクロデキストリンはその水酸基の一部もしくは全部がアセチル化されていてもよく、またはグルコース、マンノース、サッカロース等の糖で修飾されていてもよい。これらの修飾剤と、シクロデキストリンとの反応は、両者を例えば水溶液にし、加熱・攪拌することにより製造することができる。導入剤として用いる場合は、変性しない方が導入効率が高いため好ましい。
【0013】
(デンドリマー)
本発明で用いられるシクロデキストリン・デンドリマー結合体のひとつの構成成分であるデンドリマー (Dendrimer)は、アンモニアあるいはエチレンジアミンをコア分子とし、その分子にマイケル付加反応でアクリル酸メチルおよびエチレンジアミンを付加し、この反応を繰り返すこと (Generation) により得られる高度に枝分かれした樹枝状構造を特徴とし、その末端に多数の一級アミノ基を有した新しいタイプの合成ポリマーである。本発明で用いるデンドリマーとしては、ポリアミドアミン型であることが好ましい。
【0014】
ポリアミドアミン型デンドリマーは、アンモニアにアクリル酸メチルとエチレンジアミンとを反応させて(アンモニア:アクリル酸メチル:エチレンジアミン=1:3:3(モル比))、ジェネレーション0(G0)と呼ばれる中心核を合成する。ジェネレーション0はアンモニアに由来する窒素の周りに、アクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が3つ結合した形を有する。ジェネレーション0(G0)のアミドアミンの末端にエチレンジアミンの一方のアミノ基が存在する。そこで、この中心核(ジェネレーション0(G0))にアクリル酸メチル:エチレンジアミン=3:3(モル比)を反応させることで、上記アミドアミンの末端のアミノ基に2つのアクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が結合する。このようにG0のアミノ基由来の窒素に2つのアクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が結合したものは、ジェネレーション1(G1)と呼ばれる。このようにして順次、アクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体を結合させていくことで、ジェネレーション2、3、4、5、6(G2、G3、G4、G5、G6)が得られる。この状態を下記の反応スキームに示す。
【0015】
【化1】
【0016】
ポリアミドアミン型デンドリマーは、市販さており、市販品を容易に入手できる。本発明の結合体に用いるデンドリマーは、ポリアミドアミン型デンドリマーであれば特に制限はないが、例えば、G2又はG3に属するものであることができる。
【0017】
デンドリマー・シクロデキストリン結合体は、デンドリマーとシクロデキストリンとを混合し、水性媒体の存在下で加熱攪拌するというわずか2段階の反応で合成できることから、市販のRNA導入剤に比べコスト的に有利であると考えられる。
【0018】
本発明で用いるシクロデキストリン・デンドリマー結合体におけるシクロデキストリンとデンドリマーとのモル比は通常1:1〜5:1、好ましくは1:1〜4:1程度であることが好ましい。
【0019】
シクロデキストリン・デンドリマー結合体は、後述の実施例で示すように、トシル化シクロデキストリンとデンドリマーとを加温条件下で数時間反応させることで合成できる。トシル化(トルエンスルホニル化)シクロデキストリンは、p−トルエンスルホニルクロライドとシクロデキストリンとをピリジン中で反応させることで得られる。
【0020】
本発明の結合体は、上記のようにして得られたシクロデキストリン・デンドリマー結合体を、さらに、ポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾することによって製造することができる。修飾のために使用する、ポリエチレングリコールの分子量は特に限定されないが、一般的には200から50,000程度のものを使用することができる。また、Fol-PaC 結合体におけるデンドリマーとPEG化葉酸とのモル比はデンドリマーのジェネレーション数が高くなると上昇するため、一概に規定できないが、例えばG3の場合、通常1:1〜10:1、好ましくは1:1〜1:5程度であることが好ましい。
【0021】
シクロデキストリン・デンドリマー結合体を、ポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾するためには、ポリエチレングリコール修飾葉酸をEDC およびNHS を含むホウ酸緩衝液に溶解し、ポリエチレングリコールのカルボキシ基を活性化させた後、シクロデキストリン・デンドリマー結合体を含む溶液に添加し、室温で反応させればよい。
【0022】
(2)RNA導入剤及びRNA導入方法
上記した、シクロデキストリンとデンドリマーから成り、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている本発明の結合体は、細胞に遺伝子を効率的に導入するためのRNA導入剤として用いることができる。
【0023】
本発明による遺伝子の導入方法は、導入すべきRNAと本発明の結合体とを細胞とともにインキュベーションすることによって行うことができる。導入すべき遺伝子には制限はない。例えば、遺伝子治療に有用な遺伝子や、植物及び動物の品種改良に有用な遺伝子等を挙げることができる。遺伝子導入の条件は、例えば、遺伝子を導入すべき細胞を含有する培地0.5ml(細胞量約2×105個)に、導入すべき遺伝子を含有する溶液と本発明の結合体を含有する溶液とを添加する。導入すべき遺伝子を含有する溶液は、例えば、遺伝子量が0.1〜10μg/μlとなるように添加し、シクロデキストリン・デンドリマー結合体を含有する溶液は、例えば、シクロデキストリン・デンドリマー結合体が約0.8nM〜75μMとなるように添加することができる。添加後、所定の時間だけインキュベートすることにより、細胞に上記遺伝子をトランスフェクションすることができる。遺伝子を導入すべき細胞を含有する培地の種類や量は、使用する細胞に応じて適宜決定することができ、また、遺伝子及びシクロデキストリン・デンドリマー結合体の添加量やインキュベーション時間も適宜変化させることができる。特に、本発明の遺伝子導入剤を用いて遺伝子導入を行う場合には、培地に血清が含まれている状態でも、高い遺伝子導入効率を維持して遺伝子を導入することができる。これは、従来の遺伝子導入剤の問題を解消したものであり、特に実用上の有用性が高い。
【0024】
本発明の結合体は、特に、腫瘍細胞に対して、RNAを導入する働きを有する。本発明の結合体は、特にsiRNAの導入剤として有効である。siRNA(small interfering RNA)とは、重合度が20前後(例えば、18〜23塩基程度)の低重合度のRNAで、そのRNAを導入することによりRNAの発現を阻害する働きを有するRNAである。siRNAは通常、二本鎖からなっている。なお、siRNAは、哺乳動物細胞系でも細胞毒性を示さずにRNAiを誘導できることが実証されている(Elbashir SM et al:Nature(2001)411:494-498)。
【0025】
核酸医薬としてのpDNA と siRNA は同じヌクレオチドポリマーであるものの,分子量は100倍以上異なり,3 次元構造 (スーパーコイル構造の有無)、pDNA および RNA 二本鎖の熱力学的安定性,酵素耐性など物理化学的性質は大きく異なる。さらにこれらの違いにより、細胞内取込み、エンドソームエスケープ能、キャリアからのDNAまたはRNAの放出速度にも相違が生じる。さらに重要なことに、細胞内における標的部位は、pDNAは核内であるのに対し、siRNAは細胞質内に存在するRNA-induced Silencing Complex (RISC)であり、キャリア開発においては細胞内動態の制御も重要となる。このように、核酸医薬キャリアの開発においては、pDNAおよびsiRNAで同一のキャリアを用いるのではなく、それぞれの分子に対して最適なキャリアを用いる必要があると強く指摘されている。
【0026】
本発明のRNA導入方法では、導入すべきRNAと、本発明のシクロデキストリン・デンドリマー・ポリエチレングリコールで修飾した葉酸の結合体の存在下で細胞をインキュベーションする。例えば、RNAを導入すべき細胞を含有する培地0.5〜1ml(細胞量約2×105個)に、導入すべきRNAを含有する溶液と上記結合体を含有する溶液を添加する。導入すべきRNAを含有する溶液は、例えば、RNA量が1〜2μg/μlとなるように添加し、上記結合体含有溶液は、例えば、上記結合体が1mMとなるように添加する。添加後、約24時間インキュベートすることにより、トランスフェクションすることができる。RNAを導入すべき細胞を含有する培地の種類や量は、使用する細胞に応じて適宜決定することができ、また、RNA及びシクロデキストリン・デンドリマー結合体の添加量やインキュベーション時間も適宜変化させることができる。
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【実施例】
【0028】
(使用材料)
(1)pGL3はプロメガ(株)製を用いた。
【0029】
(2)siRNA
siGL2はB-Bridge International, Inc.製を使用した。
sense : 5'-CGUACGCGGAAUACUUCGA dTdT -3'(配列番号1)
antisense :5'-dTdT GCAUGCGCCUUAUGAAGCU -3' (配列番号2)
siGL3はB-Bridge International, Inc. 製を使用した。
sense : 5'-CUUACGCUGAGUACUUCGA dTdT -3' (配列番号3)
antisense :5'-dTdT GAAUGCGACUCAUGAAGCU -3' (配列番号4)
【0030】
(3)α-CDE (DS 2.0)
α-シクロデキストリンは日本食品化工(株)から恵与されたものを使用した。デンドリマーはSigma-Aldrich Chemical, Inc. 製のStarburst(登録商標) (PAMAM)dendrimerを使用した。メタノールで水分を共沸除去した乾燥α−シクロデキストリン8 gを無水ピリジン500 mL に溶解後、冷却、攪拌しながらp−トルエンスルホニルクロライド6 gを加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液に水を注ぎ込み反応を停止させた後、減圧濃縮し、アセトン1 L を添加して析出した沈殿物濾取し、吸着クロマトグラフィーを用いて分離、精製し、トシル化α-シクロデキストリンを得た。(多孔質ポリスチレン樹脂 (MITSUBISHI CHEMICAL 製 DIAION(登録商標)HP-20); 溶離液:メタノール/水=0/100 → 100/0)。得られたトシル化α−シクロデキストリン 26 mg およびDMSO 0.5 mL を減圧下でメタノールを除去したデンドリマー 0.5 mL に添加し、窒素置換後、60℃で24時間攪拌した。反応物をTOYOPERL HW−55S を用いてゲルろ過した。α−CDE を含むフラクションを濃縮後、濃縮液を 0.5 mL の水に再溶解し、エタノール 10 mL を加えて十分に白濁するまで混和した。沈殿物を含む溶液を 10,000 rpm (9,840 x g) 、30 分間遠心後、上清のエタノールを取り除き、再びエタノール 10 mL を添加してよく混和した。同様に遠心分離し、上清を取り除いた後、水に再溶解させ、凍結乾燥し、α−CDE を得た。
【0031】
(4)Carrier
葉酸はナカライテスク製、ポリエチレングリコール(ω-amino-α-carboxyl polyethylene glycol)は日本油脂(株)製を用いた。葉酸を N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含むDMSO 溶液に溶解し、室温で30分間反応させることにより葉酸のγ-カルボキシ基を活性化した。そこにポリエチレングリコールとピリジンを添加し、室温で2時間反応させた。その後、大量の水を添加して未反応の葉酸を析出させ、10,000 rpm (9,840 x g)で30分間遠心分離後、上清を回収した。回収液を水中で透析 (透析膜;MWCO=1,000)して溶媒を水に置換し、エバポレーターで濃縮後、TPYOPEARL HW-55S (溶出液:0.1 M ammonium Hydroxycarbonate)を用いてゲルろ過し、凍結乾燥後、ポリエチレングリコール修飾葉酸を得た。得られたポリエチレングリコール修飾葉酸をEDC、NHSを含む0.2 M ホウ酸緩衝液に溶解し、室温で2時間反応させることにより、ポリエチレングリコールのカルボキシ基を活性化した。その後、α-CDE を添加し、室温で48時間反応させた後、水中で透析 (透析膜;MWCO=8000)し、凍結乾燥にて Fol-PaCを得た。なお、ポリエチレングリコール修飾葉酸の置換度の異なる Fol-PaC は、ポリエチレングリコール修飾葉酸の添加量を調節することにより調製した。各種 Fol-PaC の置換度は1H-NMRスペクトルの葉酸のベンゼン環由来のプロトン(約6.7 および7.8、8.6 ppm 付近)の積分値とα-シクロデキストリン中のグルコースの1位のプロトン(約 5 ppm)の積分値を用いて算出した。以下のFol-PaCを調製した。
Fol-PaC2000(DSF 3.7)
Fol-PaC3400(DSF 5.1)
Fol-PaC (DSF 2.0)
Fol-PaC (DSF 3.8)
Fol-PaC (DSF 4.5)
Fol-PaC (DSF 5.8)
【0032】
実施例1:一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果
(方法)
24 well plate に 1.5 x 105 cells/well で KB cells を播種し、6時間インキュベーションした。α-CDE (DS 2.0)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。Carrier/siRNA Complex 270 μL をトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg)し、2時間インキュベーションした。FCS 30 μL 添加 (最終濃度 FCS 10%)し、21時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で 洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。−80℃で凍結融解を3回行った、遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activityを 測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0033】
(結果)
結果を図1に示す。各値は3回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
Fol-PaC2000 (DSF 3.7) および Fol-PaC3400 (DSF 5.1) どちらにおいても遺伝子発現抑制効果がみられた。その抑制効果には有意な差は認めらなかった。
【0034】
実施例2:KB-luc cells における Fol-PaC の遺伝子発現抑制効果に及ぼす siRNA 濃度の影響
(方法)
24 well plate に 1.5 x 105 cells/well で KB-luc cells を播種し、6時間インキュベーションした。無血清培地で 洗浄した。Carrier/siRNA Complex 270 μL をトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 100 or 150 nM)し、1時間インキュベーションした。FCS 30 μLを 添加 (最終濃度 FCS 10%)し、23時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer)200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。−80℃で凍結融解を3回行った。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0035】
(結果)
結果を図2に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
siRNA の最終濃度の違いによる遺伝子発現抑制効果を検討したところ、150 nM において siGL3 のみならず siGL2 でもルシフェラーゼ活性が低下し、非特異的な遺伝子発現抑制効果が観察された。これはオフターゲット効果によるものと考えられる。一方、siRNA の最終濃度が 100 nM ではsiGL3 特異的な遺伝子発現抑制効果が観察された。
【0036】
実施例3:遺伝子発現抑制効果に及ぼす FCS 添加時間の影響
(方法)
24 well plate に 1 x 105cells/well で KB cells を播種し、6時間インキュベーションした。α-CDE (DS 2.0)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。無血清培地で洗浄し、Carrier/siRNA Complex 270 μLをトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg)し、1時間又は3時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、22時間又は21時間インキュベーションした。PBS (-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。−80℃で凍結融解を3回行った。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0037】
(結果)
結果を図3に示す。各値は3回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
Carrier/siRNA Complexes をトランスフェクション後、1h 後に FCS を添加しても、2h 後に添加しても遺伝子発現抑制効果には有意な差はみられなかった。
【0038】
実施例4:一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響
(方法)
24 well plate に 5 x 104 cells/well、1 x 105 cells/well 又は2 x 105 cells/wellで KB cells を播種し、6時間インキュベーションした。Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。無血清培地で 洗浄し、Carrier/siRNA Complex 270 μLをトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg)し、2時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、21時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。-80℃で凍結融解を3回行った。ピペッティングして細胞をはがし、エッペンに添加した。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清 100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activityを測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0039】
(結果)
結果を図4〜6に示す。各値は4回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
播種する細胞数の違いによる遺伝子発現抑制効果に及ぼす影響を検討したところ、細胞数の違いにより同じキャリアでも遺伝子発現抑制効果が異なることが示唆された。細胞数が多くなると、遺伝子発現抑制効果が見られにくいことが示唆された。
【0040】
実施例5:一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす置換度の影響
(方法)
以下の条件を用いて、実施例6と同様に行った、
pDNA : pGL3 (2.0 μg)
siRNA : siGL2, siGL3 (0.4 μg, 最終濃度 100 nM)
Charge ratio (Dendrimer (G3)/pGL3) : 30
Chareg ratio (Fol-PaC/siRNA) : 20
Cell : KB
【0041】
(結果)
結果を図7及び図8に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
Fol-PaC2000 の置換度の影響を検討したところ、置換度 2.0, 3.8, 4.5, 5.8 の 4 種の中では、置換度 3.8 のものが最も遺伝子発現抑制効果が高いことが示唆された。
【0042】
実施例6:一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響
(方法)
24 well plate に 5 x 104 cells/well で HeLa または KB cells を播種し、24時間 インキュベーションした。Dendrimer(G3)/pGL3 Complex (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg) を 200 μL をトランスフェクションし、1時間インキュベーションした。無血清培地で洗浄し、1時間インキュベーションした。siRNA(siGL2, siGL3 ) をトランスフェクション (siRNA 0.4 μg)(最終濃度 100 nM)し、1時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、21時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。-80℃で凍結融解を3回行い、ピペッティングして細胞をはがし、エッペンに添加した。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清 100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0043】
(結果)
結果を図9〜11に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
一過性遺伝子発現細胞であるため、ばらつきが大きい結果となったが、チャージ比 50 以上では siGL2 による非特異的な抑制効果が見られているため、チャージ比 20 以下がよいと考えられる。以前の α-CDE (G3, DS 2.4) の結果も含めて考えて、チャージ比 20 がよいと考えられる。
【0044】
実施例7:一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響
(方法)
24 well plate に 1.5 x 105 cells/well で細胞を播種し、6時間インキュベーションした。α-CDE (DS 2.0)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。FA free RPMI1640 または FA 1 mM 含有培地で 洗浄し、Carrier/siRNA Complex 270 μL をトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg, FA free or FA 1 mM or 2 mM)し、1時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、22時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤 (Reporter Lysis Buffer)200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。-80℃で凍結融解を3回行い、遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清 100 μLを 採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0045】
(結果)
結果を図12〜17に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL3と1mMFAに対して)(図12、図15)
† p>0.05(siGL2に対して)(図13、図14、図16、図17)、
葉酸レセプター (FR) の発現が中程度である RAW264.7 細胞では、1mM の葉酸 (FA) 添加により、競合阻害がみられた。このことから Fol-PaC/siRNA 複合体は FR を介して取り込まれている可能性が示唆された。一方、FR 高発現細胞である KB 細胞および HeLa 細胞では、1 mM および 2 mM の FA を添加しても競合阻害はみられなかった。FR 低発現細胞である A549 細胞では 1 mM の FA を添加しても競合阻害はみられなかった。
【0046】
実施例8:Fol-PaC2000 と siRNA との相互作用 (電気泳動)
(方法)
3% アガロースゲルを作製 (Agarose21 0.6 g に TBE buffer 20 mL 添加)した。HBSS に溶解した Fol-PaC2170 (DSF 3.6) ( 0〜2.6 mg/mL)10 μL を添加し、RNase free water に溶解した siRNA (20 μM) 1.9 μL を添加した。インキュベーション (15 min, 室温)し、ローリングダイ 2 μL を添加し、ピペッティングした。サンプルをウェルに 10 μL アプライsした。100 V の低圧条件下で約 30分間泳動した。ゲルを容器に移し、EtBr 2 μLを 添加した。インキュベーション (30分間)し、トランスイルミネーションを用いてバンドを検出した。
【0047】
(結果)
結果を図18に示す。Fol-PaC2000 (DSF 3.7) と siRNA はチャージ比 5 以上で複合体を形成することが示唆された。
【0048】
実施例9:Fol-PaC/siRNA 複合体の粒子径および ζ-電位
(方法)
Tris HCl Buffer (pH 7.4) 800 mL に siRNA (20 mM) 3 mL を添加した。Fol-PaC2000 (DSF 3.8) を添加し、軽くピペッティングした。15分間インキュベーションし、粒子径およびζ-電位を、Zetarsizer nano (Malvern)で測定した。
【0049】
(結果)
結果を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
各値は3回の実験の平均±S.E.を示す。
Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siRNA 複合体はチャージ比 20 において粒子径 104 nm, ζ-電位 2.2 mV であった。FR を介した取り込みの上限が 150 nm であることや、EPR 効果を考えると、Fol-PaC/siRNA 複合体はアクティブターゲティングおよびパッシブターゲティングにおいても有利な物性を示すことが示唆された。
【技術分野】
【0001】
本発明は、PEG化葉酸で修飾したシクロデキストリン・デンドリマー結合体、該結合体からなる遺伝子導入剤、及び該結合体を用いて細胞に遺伝子を導入する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、shRNA発現DNAベクター、siRNA、デコイ核酸、アンチセンス核酸などの機能性核酸医薬は様々な病気の革新的治療薬になり得ることから、医薬品分野での期待は大きい。しかし、これらを医薬品化するためには、ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術が不可欠である。本発明者らは、これまでに、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体(CDE結合体)が、DNAやRNAのキャリアとして有用であることを明らかにしてきている(特許文献1及び2)。
【0003】
腫瘍細胞特異的に薬物、DNA又はRNAを送達するためのキャリアとしては、リポソーム、コレステリルプルラン、高分子ミセル、ポリエチレンイミンなどが知られているが、これらは調製が煩雑、キャリアの安定性が低い、細胞障害性を有する、エンドソーム透過促進効果を有さず、作用部位へのデリバリー効率が低いなどの欠点を有する。また、米国のME Davisらはシクロデキストリンを含有するポリマーとトランスフェリン修飾アダマンタン複合体を用いて癌細胞選択的にDNAやRNAをデリバリーできる技術を開発しているが、この複合体の構造は非常に複雑であり、体内環境が変化した場合に、その送達機能を維持できるか否か不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2006/093108号公報
【特許文献2】WO2005/007850号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、腫瘍細胞に特異的にRNAを送達することができる遺伝子導入剤を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、調製が容易で、キャリアの安定性が高く、細胞障害性が低く、エンドソーム透過促進効果を示し、腫瘍部位へのデリバリー効率が高い遺伝子導入剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、癌細胞に特異的なデリバリーを目的として、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体(CDE結合体)にさらにPEG化葉酸を修飾した結合体(Fol-PaC 結合体)を調製した。Fol-PaC 結合体は、RNAとの複合体を形成し、葉酸レセプターを過剰発現する癌細胞に選択的かつ高効率で、shRNA発現ベクター、siRNA、又はmiRNAを導入できることから、副作用を軽減し、抗腫瘍効果を高めた治療効果を期待できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1) シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている上記結合体。
(2) シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである、(1)に記載の結合体。
(3) デンドリマーがジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、(1)又は(2)に記載の結合体。
(4) (1)から(3)の何れかに記載の結合体からなる、腫瘍細胞に特異的なRNA導入剤。
(5) RNAがsiRNAである、(4)に記載のRNA導入剤。
(6) 導入すべきRNAと、(1)から(3)の何れかに記載の結合体の存在下で細胞をインキュベーションする工程を含む、細胞にRNAを導入する方法。
(7) RNAがsiRNAである、(6)に記載の方法。
(8) 細胞が、葉酸レセプターを発現している細胞である、(6)又は(7)に記載の方法。
(9) 細胞が腫瘍細胞である、(6)から(8)の何れかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であってさらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸が修飾されている上記結合体は、溶液中においてRNAと攪拌するだけで容易に複合体を調製でき、その複合体は腫瘍細胞特異性を有する。また、細胞内導入後、シクロデキストリンの働きにより、細胞内バリアーとして働くエンドソーム膜からRNAの放出を促進し、RNAを効率よく細胞内の作用部位に送達させることができる特性を有する。さらに、本発明の結合体は、従来のキャリアに比べて、細胞障害性や赤血球溶血作用が極めて低いことが特徴である。その上、デンドリマーの種類を変更することにより、細胞タイプに適合したキャリアを構築でき、遊離の環状オリゴ糖(シクロデキストリンなど)の添加により、RNAの徐放性を付与できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果を示す。
【図2】図2は、ルシフェラーゼ安定発現細胞である KB-luc cells における Fol-PaC の遺伝子発現抑制効果に及ぼす siRNA 濃度の影響を示す。
【図3】図3は、遺伝子発現抑制効果に及ぼす FCS 添加時間の影響を示す。
【図4】図4は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響を示す。
【図5】図5は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響を示す。
【図6】図6は、一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響を示す。
【図7】図7は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす置換度の影響を示す。
【図8】図8は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす置換度の影響を示す。
【図9】図9は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響を示す。
【図10】図10は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響を示す。
【図11】図11は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響を示す。
【図12】図12は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図13】図13は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図14】図14は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図15】図15は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図16】図16は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図17】図17は、一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響を示す。
【図18】図18は、Fol-PaC2000 と siRNA との相互作用 (電気泳動)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
(1)シクロデキストリン・デンドリマー結合体
本発明の結合体は、シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されていることを特徴とする。
シクロデキストリン・デンドリマー結合体は、デンドリマーとシクロデキストリンを溶媒中で加熱・混合することにより容易に製造することができる。
【0011】
(シクロデキストリン)
シクロデキストリン・デンドリマー結合体を構成するシクロデキストリンは、α-、β-、またはγ-シクロデキストリンである。これらα-、β-、またはγ-シクロデキストリンは、化学修飾型または非修飾型のシクロデキストリンであることもできる。これらα-、β-、またはγ-シクロデキストリンは市販品を容易に入手できる。本発明ではこれらのうちα-シクロデキストリンを用いることが、その導入剤としての効果が最も優れているため、好ましい。
【0012】
シクロデキストリンはその水酸基の一部もしくは全部がアセチル化されていてもよく、またはグルコース、マンノース、サッカロース等の糖で修飾されていてもよい。これらの修飾剤と、シクロデキストリンとの反応は、両者を例えば水溶液にし、加熱・攪拌することにより製造することができる。導入剤として用いる場合は、変性しない方が導入効率が高いため好ましい。
【0013】
(デンドリマー)
本発明で用いられるシクロデキストリン・デンドリマー結合体のひとつの構成成分であるデンドリマー (Dendrimer)は、アンモニアあるいはエチレンジアミンをコア分子とし、その分子にマイケル付加反応でアクリル酸メチルおよびエチレンジアミンを付加し、この反応を繰り返すこと (Generation) により得られる高度に枝分かれした樹枝状構造を特徴とし、その末端に多数の一級アミノ基を有した新しいタイプの合成ポリマーである。本発明で用いるデンドリマーとしては、ポリアミドアミン型であることが好ましい。
【0014】
ポリアミドアミン型デンドリマーは、アンモニアにアクリル酸メチルとエチレンジアミンとを反応させて(アンモニア:アクリル酸メチル:エチレンジアミン=1:3:3(モル比))、ジェネレーション0(G0)と呼ばれる中心核を合成する。ジェネレーション0はアンモニアに由来する窒素の周りに、アクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が3つ結合した形を有する。ジェネレーション0(G0)のアミドアミンの末端にエチレンジアミンの一方のアミノ基が存在する。そこで、この中心核(ジェネレーション0(G0))にアクリル酸メチル:エチレンジアミン=3:3(モル比)を反応させることで、上記アミドアミンの末端のアミノ基に2つのアクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が結合する。このようにG0のアミノ基由来の窒素に2つのアクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体(アミドアミン)が結合したものは、ジェネレーション1(G1)と呼ばれる。このようにして順次、アクリル酸メチルとエチレンジアミンの縮合体を結合させていくことで、ジェネレーション2、3、4、5、6(G2、G3、G4、G5、G6)が得られる。この状態を下記の反応スキームに示す。
【0015】
【化1】
【0016】
ポリアミドアミン型デンドリマーは、市販さており、市販品を容易に入手できる。本発明の結合体に用いるデンドリマーは、ポリアミドアミン型デンドリマーであれば特に制限はないが、例えば、G2又はG3に属するものであることができる。
【0017】
デンドリマー・シクロデキストリン結合体は、デンドリマーとシクロデキストリンとを混合し、水性媒体の存在下で加熱攪拌するというわずか2段階の反応で合成できることから、市販のRNA導入剤に比べコスト的に有利であると考えられる。
【0018】
本発明で用いるシクロデキストリン・デンドリマー結合体におけるシクロデキストリンとデンドリマーとのモル比は通常1:1〜5:1、好ましくは1:1〜4:1程度であることが好ましい。
【0019】
シクロデキストリン・デンドリマー結合体は、後述の実施例で示すように、トシル化シクロデキストリンとデンドリマーとを加温条件下で数時間反応させることで合成できる。トシル化(トルエンスルホニル化)シクロデキストリンは、p−トルエンスルホニルクロライドとシクロデキストリンとをピリジン中で反応させることで得られる。
【0020】
本発明の結合体は、上記のようにして得られたシクロデキストリン・デンドリマー結合体を、さらに、ポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾することによって製造することができる。修飾のために使用する、ポリエチレングリコールの分子量は特に限定されないが、一般的には200から50,000程度のものを使用することができる。また、Fol-PaC 結合体におけるデンドリマーとPEG化葉酸とのモル比はデンドリマーのジェネレーション数が高くなると上昇するため、一概に規定できないが、例えばG3の場合、通常1:1〜10:1、好ましくは1:1〜1:5程度であることが好ましい。
【0021】
シクロデキストリン・デンドリマー結合体を、ポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾するためには、ポリエチレングリコール修飾葉酸をEDC およびNHS を含むホウ酸緩衝液に溶解し、ポリエチレングリコールのカルボキシ基を活性化させた後、シクロデキストリン・デンドリマー結合体を含む溶液に添加し、室温で反応させればよい。
【0022】
(2)RNA導入剤及びRNA導入方法
上記した、シクロデキストリンとデンドリマーから成り、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている本発明の結合体は、細胞に遺伝子を効率的に導入するためのRNA導入剤として用いることができる。
【0023】
本発明による遺伝子の導入方法は、導入すべきRNAと本発明の結合体とを細胞とともにインキュベーションすることによって行うことができる。導入すべき遺伝子には制限はない。例えば、遺伝子治療に有用な遺伝子や、植物及び動物の品種改良に有用な遺伝子等を挙げることができる。遺伝子導入の条件は、例えば、遺伝子を導入すべき細胞を含有する培地0.5ml(細胞量約2×105個)に、導入すべき遺伝子を含有する溶液と本発明の結合体を含有する溶液とを添加する。導入すべき遺伝子を含有する溶液は、例えば、遺伝子量が0.1〜10μg/μlとなるように添加し、シクロデキストリン・デンドリマー結合体を含有する溶液は、例えば、シクロデキストリン・デンドリマー結合体が約0.8nM〜75μMとなるように添加することができる。添加後、所定の時間だけインキュベートすることにより、細胞に上記遺伝子をトランスフェクションすることができる。遺伝子を導入すべき細胞を含有する培地の種類や量は、使用する細胞に応じて適宜決定することができ、また、遺伝子及びシクロデキストリン・デンドリマー結合体の添加量やインキュベーション時間も適宜変化させることができる。特に、本発明の遺伝子導入剤を用いて遺伝子導入を行う場合には、培地に血清が含まれている状態でも、高い遺伝子導入効率を維持して遺伝子を導入することができる。これは、従来の遺伝子導入剤の問題を解消したものであり、特に実用上の有用性が高い。
【0024】
本発明の結合体は、特に、腫瘍細胞に対して、RNAを導入する働きを有する。本発明の結合体は、特にsiRNAの導入剤として有効である。siRNA(small interfering RNA)とは、重合度が20前後(例えば、18〜23塩基程度)の低重合度のRNAで、そのRNAを導入することによりRNAの発現を阻害する働きを有するRNAである。siRNAは通常、二本鎖からなっている。なお、siRNAは、哺乳動物細胞系でも細胞毒性を示さずにRNAiを誘導できることが実証されている(Elbashir SM et al:Nature(2001)411:494-498)。
【0025】
核酸医薬としてのpDNA と siRNA は同じヌクレオチドポリマーであるものの,分子量は100倍以上異なり,3 次元構造 (スーパーコイル構造の有無)、pDNA および RNA 二本鎖の熱力学的安定性,酵素耐性など物理化学的性質は大きく異なる。さらにこれらの違いにより、細胞内取込み、エンドソームエスケープ能、キャリアからのDNAまたはRNAの放出速度にも相違が生じる。さらに重要なことに、細胞内における標的部位は、pDNAは核内であるのに対し、siRNAは細胞質内に存在するRNA-induced Silencing Complex (RISC)であり、キャリア開発においては細胞内動態の制御も重要となる。このように、核酸医薬キャリアの開発においては、pDNAおよびsiRNAで同一のキャリアを用いるのではなく、それぞれの分子に対して最適なキャリアを用いる必要があると強く指摘されている。
【0026】
本発明のRNA導入方法では、導入すべきRNAと、本発明のシクロデキストリン・デンドリマー・ポリエチレングリコールで修飾した葉酸の結合体の存在下で細胞をインキュベーションする。例えば、RNAを導入すべき細胞を含有する培地0.5〜1ml(細胞量約2×105個)に、導入すべきRNAを含有する溶液と上記結合体を含有する溶液を添加する。導入すべきRNAを含有する溶液は、例えば、RNA量が1〜2μg/μlとなるように添加し、上記結合体含有溶液は、例えば、上記結合体が1mMとなるように添加する。添加後、約24時間インキュベートすることにより、トランスフェクションすることができる。RNAを導入すべき細胞を含有する培地の種類や量は、使用する細胞に応じて適宜決定することができ、また、RNA及びシクロデキストリン・デンドリマー結合体の添加量やインキュベーション時間も適宜変化させることができる。
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明につき更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら制約されるものではない。
【実施例】
【0028】
(使用材料)
(1)pGL3はプロメガ(株)製を用いた。
【0029】
(2)siRNA
siGL2はB-Bridge International, Inc.製を使用した。
sense : 5'-CGUACGCGGAAUACUUCGA dTdT -3'(配列番号1)
antisense :5'-dTdT GCAUGCGCCUUAUGAAGCU -3' (配列番号2)
siGL3はB-Bridge International, Inc. 製を使用した。
sense : 5'-CUUACGCUGAGUACUUCGA dTdT -3' (配列番号3)
antisense :5'-dTdT GAAUGCGACUCAUGAAGCU -3' (配列番号4)
【0030】
(3)α-CDE (DS 2.0)
α-シクロデキストリンは日本食品化工(株)から恵与されたものを使用した。デンドリマーはSigma-Aldrich Chemical, Inc. 製のStarburst(登録商標) (PAMAM)dendrimerを使用した。メタノールで水分を共沸除去した乾燥α−シクロデキストリン8 gを無水ピリジン500 mL に溶解後、冷却、攪拌しながらp−トルエンスルホニルクロライド6 gを加え、室温で2時間攪拌した。反応溶液に水を注ぎ込み反応を停止させた後、減圧濃縮し、アセトン1 L を添加して析出した沈殿物濾取し、吸着クロマトグラフィーを用いて分離、精製し、トシル化α-シクロデキストリンを得た。(多孔質ポリスチレン樹脂 (MITSUBISHI CHEMICAL 製 DIAION(登録商標)HP-20); 溶離液:メタノール/水=0/100 → 100/0)。得られたトシル化α−シクロデキストリン 26 mg およびDMSO 0.5 mL を減圧下でメタノールを除去したデンドリマー 0.5 mL に添加し、窒素置換後、60℃で24時間攪拌した。反応物をTOYOPERL HW−55S を用いてゲルろ過した。α−CDE を含むフラクションを濃縮後、濃縮液を 0.5 mL の水に再溶解し、エタノール 10 mL を加えて十分に白濁するまで混和した。沈殿物を含む溶液を 10,000 rpm (9,840 x g) 、30 分間遠心後、上清のエタノールを取り除き、再びエタノール 10 mL を添加してよく混和した。同様に遠心分離し、上清を取り除いた後、水に再溶解させ、凍結乾燥し、α−CDE を得た。
【0031】
(4)Carrier
葉酸はナカライテスク製、ポリエチレングリコール(ω-amino-α-carboxyl polyethylene glycol)は日本油脂(株)製を用いた。葉酸を N,N-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)および N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を含むDMSO 溶液に溶解し、室温で30分間反応させることにより葉酸のγ-カルボキシ基を活性化した。そこにポリエチレングリコールとピリジンを添加し、室温で2時間反応させた。その後、大量の水を添加して未反応の葉酸を析出させ、10,000 rpm (9,840 x g)で30分間遠心分離後、上清を回収した。回収液を水中で透析 (透析膜;MWCO=1,000)して溶媒を水に置換し、エバポレーターで濃縮後、TPYOPEARL HW-55S (溶出液:0.1 M ammonium Hydroxycarbonate)を用いてゲルろ過し、凍結乾燥後、ポリエチレングリコール修飾葉酸を得た。得られたポリエチレングリコール修飾葉酸をEDC、NHSを含む0.2 M ホウ酸緩衝液に溶解し、室温で2時間反応させることにより、ポリエチレングリコールのカルボキシ基を活性化した。その後、α-CDE を添加し、室温で48時間反応させた後、水中で透析 (透析膜;MWCO=8000)し、凍結乾燥にて Fol-PaCを得た。なお、ポリエチレングリコール修飾葉酸の置換度の異なる Fol-PaC は、ポリエチレングリコール修飾葉酸の添加量を調節することにより調製した。各種 Fol-PaC の置換度は1H-NMRスペクトルの葉酸のベンゼン環由来のプロトン(約6.7 および7.8、8.6 ppm 付近)の積分値とα-シクロデキストリン中のグルコースの1位のプロトン(約 5 ppm)の積分値を用いて算出した。以下のFol-PaCを調製した。
Fol-PaC2000(DSF 3.7)
Fol-PaC3400(DSF 5.1)
Fol-PaC (DSF 2.0)
Fol-PaC (DSF 3.8)
Fol-PaC (DSF 4.5)
Fol-PaC (DSF 5.8)
【0032】
実施例1:一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果
(方法)
24 well plate に 1.5 x 105 cells/well で KB cells を播種し、6時間インキュベーションした。α-CDE (DS 2.0)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。Carrier/siRNA Complex 270 μL をトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg)し、2時間インキュベーションした。FCS 30 μL 添加 (最終濃度 FCS 10%)し、21時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で 洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。−80℃で凍結融解を3回行った、遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activityを 測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0033】
(結果)
結果を図1に示す。各値は3回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
Fol-PaC2000 (DSF 3.7) および Fol-PaC3400 (DSF 5.1) どちらにおいても遺伝子発現抑制効果がみられた。その抑制効果には有意な差は認めらなかった。
【0034】
実施例2:KB-luc cells における Fol-PaC の遺伝子発現抑制効果に及ぼす siRNA 濃度の影響
(方法)
24 well plate に 1.5 x 105 cells/well で KB-luc cells を播種し、6時間インキュベーションした。無血清培地で 洗浄した。Carrier/siRNA Complex 270 μL をトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 100 or 150 nM)し、1時間インキュベーションした。FCS 30 μLを 添加 (最終濃度 FCS 10%)し、23時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer)200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。−80℃で凍結融解を3回行った。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0035】
(結果)
結果を図2に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
siRNA の最終濃度の違いによる遺伝子発現抑制効果を検討したところ、150 nM において siGL3 のみならず siGL2 でもルシフェラーゼ活性が低下し、非特異的な遺伝子発現抑制効果が観察された。これはオフターゲット効果によるものと考えられる。一方、siRNA の最終濃度が 100 nM ではsiGL3 特異的な遺伝子発現抑制効果が観察された。
【0036】
実施例3:遺伝子発現抑制効果に及ぼす FCS 添加時間の影響
(方法)
24 well plate に 1 x 105cells/well で KB cells を播種し、6時間インキュベーションした。α-CDE (DS 2.0)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。無血清培地で洗浄し、Carrier/siRNA Complex 270 μLをトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg)し、1時間又は3時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、22時間又は21時間インキュベーションした。PBS (-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。−80℃で凍結融解を3回行った。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0037】
(結果)
結果を図3に示す。各値は3回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
Carrier/siRNA Complexes をトランスフェクション後、1h 後に FCS を添加しても、2h 後に添加しても遺伝子発現抑制効果には有意な差はみられなかった。
【0038】
実施例4:一過性遺伝子発現細胞における Carrier/siRNA 複合体の遺伝子発現抑制効果及ぼす細胞数の影響
(方法)
24 well plate に 5 x 104 cells/well、1 x 105 cells/well 又は2 x 105 cells/wellで KB cells を播種し、6時間インキュベーションした。Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。無血清培地で 洗浄し、Carrier/siRNA Complex 270 μLをトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg)し、2時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、21時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。-80℃で凍結融解を3回行った。ピペッティングして細胞をはがし、エッペンに添加した。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清 100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activityを測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0039】
(結果)
結果を図4〜6に示す。各値は4回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL2に対して)
播種する細胞数の違いによる遺伝子発現抑制効果に及ぼす影響を検討したところ、細胞数の違いにより同じキャリアでも遺伝子発現抑制効果が異なることが示唆された。細胞数が多くなると、遺伝子発現抑制効果が見られにくいことが示唆された。
【0040】
実施例5:一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす置換度の影響
(方法)
以下の条件を用いて、実施例6と同様に行った、
pDNA : pGL3 (2.0 μg)
siRNA : siGL2, siGL3 (0.4 μg, 最終濃度 100 nM)
Charge ratio (Dendrimer (G3)/pGL3) : 30
Chareg ratio (Fol-PaC/siRNA) : 20
Cell : KB
【0041】
(結果)
結果を図7及び図8に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
Fol-PaC2000 の置換度の影響を検討したところ、置換度 2.0, 3.8, 4.5, 5.8 の 4 種の中では、置換度 3.8 のものが最も遺伝子発現抑制効果が高いことが示唆された。
【0042】
実施例6:一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼすチャージ比の影響
(方法)
24 well plate に 5 x 104 cells/well で HeLa または KB cells を播種し、24時間 インキュベーションした。Dendrimer(G3)/pGL3 Complex (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg) を 200 μL をトランスフェクションし、1時間インキュベーションした。無血清培地で洗浄し、1時間インキュベーションした。siRNA(siGL2, siGL3 ) をトランスフェクション (siRNA 0.4 μg)(最終濃度 100 nM)し、1時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、21時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤(Reporter Lysis Buffer) 200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。-80℃で凍結融解を3回行い、ピペッティングして細胞をはがし、エッペンに添加した。遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清 100 μLを採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0043】
(結果)
結果を図9〜11に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
一過性遺伝子発現細胞であるため、ばらつきが大きい結果となったが、チャージ比 50 以上では siGL2 による非特異的な抑制効果が見られているため、チャージ比 20 以下がよいと考えられる。以前の α-CDE (G3, DS 2.4) の結果も含めて考えて、チャージ比 20 がよいと考えられる。
【0044】
実施例7:一過性遺伝子発現細胞における Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siGL3 複合体の遺伝子発現抑制効果に及ぼす競合阻害剤 (FA) の影響
(方法)
24 well plate に 1.5 x 105 cells/well で細胞を播種し、6時間インキュベーションした。α-CDE (DS 2.0)/pGL3 Complex 200 μL をトランスフェクション (チャージ比 50, pGL3 2.0 μg)し、1時間インキュベーションした。FA free RPMI1640 または FA 1 mM 含有培地で 洗浄し、Carrier/siRNA Complex 270 μL をトランスフェクション (チャージ比 20, siRNA 0.7 μg, FA free or FA 1 mM or 2 mM)し、1時間インキュベーションした。FCS 30 μLを添加 (最終濃度 FCS 10%)し、22時間インキュベーションした。PBS(-) 300 μL で洗浄し、5 倍希釈した細胞溶解剤 (Reporter Lysis Buffer)200 μLを添加し、15分間インキュベーション (室温)した。-80℃で凍結融解を3回行い、遠心 (10000 rpm, 5 min)し、上清 100 μLを 採取し、エッペンに添加し、Luciferase activity を測定し、タンパク補正 (BCA protein assay)を行った。
【0045】
(結果)
結果を図12〜17に示す。各値は3〜4回の実験の平均±S.E.を示す。
* p>0.05(コントロールに対して)
† p>0.05(siGL3と1mMFAに対して)(図12、図15)
† p>0.05(siGL2に対して)(図13、図14、図16、図17)、
葉酸レセプター (FR) の発現が中程度である RAW264.7 細胞では、1mM の葉酸 (FA) 添加により、競合阻害がみられた。このことから Fol-PaC/siRNA 複合体は FR を介して取り込まれている可能性が示唆された。一方、FR 高発現細胞である KB 細胞および HeLa 細胞では、1 mM および 2 mM の FA を添加しても競合阻害はみられなかった。FR 低発現細胞である A549 細胞では 1 mM の FA を添加しても競合阻害はみられなかった。
【0046】
実施例8:Fol-PaC2000 と siRNA との相互作用 (電気泳動)
(方法)
3% アガロースゲルを作製 (Agarose21 0.6 g に TBE buffer 20 mL 添加)した。HBSS に溶解した Fol-PaC2170 (DSF 3.6) ( 0〜2.6 mg/mL)10 μL を添加し、RNase free water に溶解した siRNA (20 μM) 1.9 μL を添加した。インキュベーション (15 min, 室温)し、ローリングダイ 2 μL を添加し、ピペッティングした。サンプルをウェルに 10 μL アプライsした。100 V の低圧条件下で約 30分間泳動した。ゲルを容器に移し、EtBr 2 μLを 添加した。インキュベーション (30分間)し、トランスイルミネーションを用いてバンドを検出した。
【0047】
(結果)
結果を図18に示す。Fol-PaC2000 (DSF 3.7) と siRNA はチャージ比 5 以上で複合体を形成することが示唆された。
【0048】
実施例9:Fol-PaC/siRNA 複合体の粒子径および ζ-電位
(方法)
Tris HCl Buffer (pH 7.4) 800 mL に siRNA (20 mM) 3 mL を添加した。Fol-PaC2000 (DSF 3.8) を添加し、軽くピペッティングした。15分間インキュベーションし、粒子径およびζ-電位を、Zetarsizer nano (Malvern)で測定した。
【0049】
(結果)
結果を以下の表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
各値は3回の実験の平均±S.E.を示す。
Fol-PaC2000 (DSF 3.7)/siRNA 複合体はチャージ比 20 において粒子径 104 nm, ζ-電位 2.2 mV であった。FR を介した取り込みの上限が 150 nm であることや、EPR 効果を考えると、Fol-PaC/siRNA 複合体はアクティブターゲティングおよびパッシブターゲティングにおいても有利な物性を示すことが示唆された。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている上記結合体。
【請求項2】
シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
デンドリマーがジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、請求項1又は2に記載の結合体。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の結合体からなる、腫瘍細胞に特異的なRNA導入剤。
【請求項5】
RNAがsiRNAである、請求項4に記載のRNA導入剤。
【請求項6】
導入すべきRNAと、請求項1から3の何れかに記載の結合体の存在下で細胞をインキュベーションする工程を含む、細胞にRNAを導入する方法。
【請求項7】
RNAがsiRNAである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞が、葉酸レセプターを発現している細胞である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
細胞が腫瘍細胞である、請求項6から8の何れかに記載の方法。
【請求項1】
シクロデキストリンとデンドリマーとの結合体であって、さらにポリエチレングリコールで修飾した葉酸で修飾されている上記結合体。
【請求項2】
シクロデキストリンが、α−シクロデキストリンである、請求項1に記載の結合体。
【請求項3】
デンドリマーがジェネレーション3のデンドリマー(G3)である、請求項1又は2に記載の結合体。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の結合体からなる、腫瘍細胞に特異的なRNA導入剤。
【請求項5】
RNAがsiRNAである、請求項4に記載のRNA導入剤。
【請求項6】
導入すべきRNAと、請求項1から3の何れかに記載の結合体の存在下で細胞をインキュベーションする工程を含む、細胞にRNAを導入する方法。
【請求項7】
RNAがsiRNAである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
細胞が、葉酸レセプターを発現している細胞である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
細胞が腫瘍細胞である、請求項6から8の何れかに記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−98959(P2011−98959A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228330(P2010−228330)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】
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