説明

腫瘍細胞のチロシンキナーゼ阻害剤への感受性の判定方法およびコンピュータプログラム

【課題】細胞培養を必要とせず、チロシンキナーゼのタンパク質および/または遺伝子の発現量に依存しない、EGFRおよびHER2の阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を判定する方法およびコンピュータプログラムを提供すること。
【解決手段】腫瘍細胞を含む生体試料から調製したチロシンキナーゼ活性測定用サンプルにおけるSrcの阻害剤の阻害能を評価することにより、EGFRおよび/またはHER2の阻害剤に対する該腫瘍細胞の感受性を判定する方法およびコンピュータプログラムにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍細胞のチロシンキナーゼ阻害剤への感受性を判定する方法およびコンピュータプログラムに関する。より詳細には、本発明は、腫瘍細胞を含む生体試料から調製したチロシンキナーゼ活性測定用サンプルにおける、チロシンキナーゼSrcの阻害剤の阻害能を評価することにより、Srcとは異なるチロシンキナーゼであるEGFRおよび/またはHER2の阻害剤に対する該腫瘍細胞の感受性を判定する方法およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
チロシンキナーゼは、細胞の分化や増殖などを調節するシグナル伝達に関与する分子である。このチロシンキナーゼの異常は、癌などの疾患を引き起こす原因であることが知られている。特に乳癌や大腸癌などの種々の癌の腫瘍細胞においては、チロシンキナーゼの発現量やその活性が過剰に亢進しており、これにより腫瘍細胞の増殖能などが活性化していることが知られている。そのため、チロシンキナーゼを標的として、その活性を阻害するための分子標的薬剤の研究および開発が進められてきた。
【0003】
そのような薬剤の標的分子としては、Epidermal Growth Factor Receptor(EGFR;「HER1」とも称される)およびHuman Epidermal growth factor Receptor 2(HER2)が挙げられる。EGFRは受容体型チロシンキナーゼであり、そのリガンドである上皮細胞増殖因子(EGF)がEGFRに結合すると、細胞の増殖および分化を制御するEGFのシグナルが伝達される。HER2はヒトEGFRに類似した受容体型チロシンキナーゼとしてクローニングされた分子であり、EGFRと同様に細胞の増殖および分化を調節する。
【0004】
上記のEGFRおよびHER2を標的分子とする阻害剤には、リン酸基供与体であるアデノシン三リン酸(ATP)と拮抗する阻害剤であるラパチニブなどがある。そのような阻害剤は、一般に低分子化合物であるので腫瘍細胞の細胞膜を通過して、細胞内のEGFRおよびHER2のATP結合部位に直接かつ可逆的に結合して、EGFRおよびHER2の自己リン酸化を阻害する。これにより、EGFRおよびHER2のチロシンキナーゼのシグナル伝達が阻害される。その結果、腫瘍細胞の増殖が抑制され、さらには該細胞のアポトーシスが誘導される。
現在、ラパチニブをはじめとするEGFRおよびHER2の阻害剤は、EGFRやHER2の発現が過剰である癌に対して有効性が確認されている。
【0005】
しかしながら、EGFRおよびHER2に対するATP拮抗阻害剤は、全ての癌に対して効果を示すとは限らない。例えば、ラパチニブの有効性はHER2陽性の乳癌に特異的に認められる。したがって、ある癌患者をEGFRおよびHER2の阻害剤により治療することを決定するためには、該阻害剤が該患者の癌に有効でありそうか否かを検査によって予測する必要がある。
【0006】
現在、そのような検査法には、患者から得た腫瘍細胞のEGFRおよびHER2タンパク質の発現量を調べる免疫組織化学染色法(IHC法)、EGFRおよびHER2遺伝子の増幅を調べる蛍光インサイチューハイブリダイゼーション法(FISH法)などがある。これらの検査の結果、EGFRおよびHER2タンパク質の発現量が多い、および/または遺伝子の増幅があると判断された場合に、該患者にEGFRおよびHER2の阻害剤が有効であると推測される。しかしながら、これらの検査では、使用する抗体およびプローブの特性、検査者の手技などによって、得られる結果にばらつきが生じ易く、正確な検査を行うことは困難である。
【0007】
EGFRおよびHER2の阻害剤の効果を推測する別の手段としては、Gottfried E. Konecnyらによる文献(非特許文献1)に記載の方法がある。この文献では、乳癌由来の細胞をラパチニブの存在下に培養し、該細胞に対する増殖阻害効果を検討することによりラパチニブの効果を評価する。しかしながら、この方法では細胞を培養する工程を伴うので、結果を得るまでに時間がかかる。また、患者から得た組織などの生体試料から腫瘍細胞を取り出して均等に培養するためには熟練した技術が必要であり、さらに、測定環境などによって、得られる結果にばらつきが生じ易いので正確な検査を行うことは困難である。
【0008】
なお、腫瘍細胞の悪性度を評価する方法について開示した特許文献1には、13種類の細胞株に対するSrc阻害剤によるチロシンキナーゼ活性への阻害効果の実験結果が示されている。ここで、特許文献1の実施例では、非特許文献1においてラパチニブ感受性株であることが示された2つ細胞株(BT-474およびSK-Br-3)では、Src阻害剤によるチロシンキナーゼ活性への阻害効果が高く、非特許文献1においてラパチニブ非感受性株であることが示された3つの細胞株(MDA-MB231、MCF7およびT47D)では、Src阻害剤によるチロシンキナーゼ活性への阻害効果が低かったことが示唆される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2009/119502号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Gottfried E. Konecnyら, Cancer Res, vol.66, p.1630-1639(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みて、細胞培養を必要とせず、チロシンキナーゼのタンパク質の発現量および/または遺伝子の増幅を調べる必要のない、EGFRおよびHER2の阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を判定する方法およびコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、驚くべきことに腫瘍細胞のEGFRおよびHER2の阻害剤への感受性と、該腫瘍細胞から調製したチロシンキナーゼ活性の測定用サンプルにおけるチロシンキナーゼSrcの阻害剤の阻害能との間に負の相関があることを見出した。すなわち、EGFRおよびHER2の阻害剤への感受性があることを予め確認した腫瘍細胞から調製した測定用サンプルにおいてはSrc阻害剤の阻害能が低く、反対にEGFRおよびHER2の阻害剤への感受性がないことを予め確認した腫瘍細胞から調製した測定用サンプルにおいてはSrc阻害剤の阻害能が高いことを予期せぬことに見出して、本発明を完成するに至った。
なお、Srcとは生体内に偏在する非受容体型チロシンキナーゼの一種であり、EGFRおよびHER2とは異なるチロシンキナーゼである。
【0013】
すなわち、本発明によれば、
腫瘍細胞を含む生体試料からチロシンキナーゼを含む細胞画分を調製することにより得られた測定用サンプルにおける、チロシンキナーゼSrcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価し、
阻害能が低いと評価された場合に、前記腫瘍細胞はチロシンキナーゼEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性があると判定し、および/または阻害能が高いと評価された場合に、前記腫瘍細胞は前記EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性がないと判定する、
腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性を判定する方法が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、コンピュータに、
チロシンキナーゼSrcに対するATP拮抗阻害剤の存在下における、腫瘍細胞を含む生体試料から得た測定用サンプル中のチロシンキナーゼの活性値を取得するステップと、
前記活性値に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値を算出するステップと、
前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値と閾値とを比較するステップと、
比較結果に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値が閾値より小さい場合に、前記腫瘍細胞はチロシンキナーゼEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性があると判定し、および/または前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値が閾値以上の場合に、前記腫瘍細胞は前記EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性がないと判定するステップと、
判定結果を出力するステップと
を実行させるためのコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
上記の判定方法にしたがって、腫瘍細胞を含む生体試料から得た測定用サンプルについてチロシンキナーゼ活性を測定し、該サンプルにおけるSrcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能の高低を評価することにより、腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性を高精度かつ簡便に判定できる。
また、上記のコンピュータプログラムによれば、上記の判定方法をコンピュータにより実現させることができる。
上記の判定方法で得られた判定結果に基づいて、臨床現場の医師などは、上記の生体試料を採取した癌患者にラパチニブのようなEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤を投与するか否かを決定する指標をより的確に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤の感受性判定システムのハードウエア構成を示すブロック図である。
【図2】CPU110aによる、EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への腫瘍細胞の感受性判定の処理を示すフローチャートである。
【図3】ラパチニブ感受性細胞株のグループおよび非感受性細胞株のグループにおける種々のキナーゼ阻害剤の阻害率のグラフである。
【図4】ウエスタンブロット法により得た、種々の乳癌細胞株のHER2タンパク質の発現を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性」とは、EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤の作用によって腫瘍細胞の生存および/または増殖が抑制または阻害される、腫瘍細胞が示す性質を意味する。
すなわち、EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性がある腫瘍細胞は、該阻害剤により生存および/または増殖が実質的に抑制または阻害される。反対に、そのような感受性がない腫瘍細胞は、該阻害剤によっても生存および/または増殖が実質的に抑制または阻害されない。なお、EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤の作用による腫瘍細胞の生存および/または増殖の抑制もしくは阻害には、アポトーシス、ネクローシスなどの細胞死が引き起こされることも含まれる。
【0018】
EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤(以下、「EGFR/HER2阻害剤」ともいう)は、EGFRおよび/またはHER2のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位に結合することにより、EGFRおよび/またはHER2の酵素活性を阻害する物質であれば特に限定されない。そのようなEGFR/HER2阻害剤としては、例えば以下の化合物が挙げられる;
・N-(3-クロロ-4-[[(3-フルオロフェニル)メチル]オキシ]フェニル)-6-[5-([[2-(メチルスルホニル)エチル]アミノ]メチル)-2-フラニル]-4-キナゾリンアミンビス(4-メチルベンゼンスルホネート)モノハイドレート(以下、「ラパチニブジトシレートハイドレート」という)、
・N-[3-クロロ-4-[(3-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]-6-[5-[(2-メチルスルホニルエチルアミノ)メチル]-2-フリル]キナゾリン-4-アミン(以下、「ラパチニブ」または「GW572016」という)、
・N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3S)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド(以下、「BIBW 2992」という)、
・6-[4-[(4-エチル-1-ピペラジニル)メチル]フェニル]-N-[(1S)-1-フェニルエチル]-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン(以下、「AEE788」という)、
・(2E)-N-[4-[[3-クロロ-4-(2-ピリジニルメトキシ)フェニル]アミノ]-3-シアノ-7-エトキシ-6-キノリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド(以下、「ネラチニブ」または「HKI-272」という)、
・[4-[[1-(3-フルオロフェニル)メチル]-1H-インダゾール-5-イルアミノ]-5-メチルピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-6-イル]カルバミン酸(3S)-3-モルフォリニルメチルエステル(以下、「BMS-599626」という)、
・N4-[3-クロロ-4-(チアゾール-2-イルメトキシ)フェニル]-N6-[(4R)-4-メチル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル]キナゾリン-4,6-ジアミン(以下、「バーリチニブ(varlitinib)」または「ARRY-334543」という)、
・4-(4-ベンジルオキシアニリノ)-6,7-ジメトキシキナゾリン(以下、「4557W」という)、
・N4-(1-ベンジル-1H-インダゾール-5-イル)-N6,N6-ジメチル-ピリド-[3,4-d]-ピリミジン-4,6-ジアミン(以下、「GW2974」という)、および
・N-[3-クロロ-4-[(3-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]-6-[2-[[[2-(メチルスルホニル)エチル]アミノ]メチル]-4-チアゾリル]-4-キナゾリンアミンジヒドロクロリド(以下、「GW583340」という)。
【0019】
本実施形態の腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性を判定する方法(以下、本実施形態の判定方法ともいう)は、上記の化合物の中でもラパチニブジトシレートハイドレートおよびラパチニブに対する腫瘍細胞の感受性の判定に好適である。なお、上記のEGFR/HER2阻害剤はいずれも公知であり、一般に入手可能である。各EGFR/HER2阻害剤のCAS番号を、表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
本実施形態の判定方法は、腫瘍細胞を含む生体試料からチロシンキナーゼを含む細胞画分を調製することにより、チロシンキナーゼ活性の測定用サンプルを得る。
【0022】
腫瘍細胞を含む生体試料は、生体からの検体に由来する試料であってもよいし、株化された腫瘍細胞を培養して得られる培養物に由来する試料であってもよい。生体からの検体としては、生体、例えばEGFR/HER2阻害剤による癌の治療が検討される患者から採取された腫瘍組織、臓器組織、リンパ節組織、血液、体腔洗浄液などが挙げられる。
上記の腫瘍細胞は、乳癌、肺癌、胃癌、大腸癌、腎臓癌、卵巣癌、前立腺癌、口腔癌、肝臓癌、皮膚癌、脳腫瘍など、EGFRおよび/またはHER2の異常が関与することが知られている癌の腫瘍細胞であれば特に限定されないが、好ましくは乳癌の腫瘍細胞である。
【0023】
チロシンキナーゼを含む細胞画分は、上記の腫瘍細胞を含む生体試料から、当該技術においてそれ自体公知の方法によって調製できる。そのような方法は、細胞内のチロシンキナーゼがその酵素活性を損なわない状態で含まれる細胞画分を得る方法であれば特に限定されないが、好ましくは上記の腫瘍細胞を含む生体試料から細胞質を分離する方法、すなわちチロシンキナーゼが結合した細胞膜画分を細胞質から分離する方法である。より好ましくは、上記の腫瘍細胞を含む生体試料を適切な緩衝液(以下、「ホモジナイズ試薬」という)中で破砕し、得られた破砕液から不溶性画分を取得し、該不溶性画分と界面活性剤を含む可溶化液とを混合し、得られた混合液から可溶性画分を得ることを含む方法である。
【0024】
上記のホモジナイズ試薬を用いる破砕により得られる破砕液は、例えば遠心分離などの適切な方法により、可溶性画分(例えば上清)と不溶性画分(例えば沈殿物)とに分けることができる。該可溶性画分には細胞質由来のタンパク質などが含まれ、該不溶性画分にはEGFR、HER2、Srcなどを含む種々のチロシンキナーゼを保持する細胞膜の断片が含まれる。
【0025】
上記の混合液は、例えば遠心分離などの適切な方法により可溶性画分(例えば上清)と不溶性画分(例えば沈殿物)とに分けることができる。該可溶性画分には種々のチロシンキナーゼを保持する細胞膜が界面活性剤により可溶化(ミセル化)されて含まれており、該不溶性画分には不溶性タンパク質、DNAなどが含まれる。
【0026】
上記の細胞の破砕は、細胞膜を断片化する方法により行うことができる。例えば、ピペットによる吸引排出、凍結融解による細胞破砕、ボルテックスミキサーによる撹拌、ブレンダーによる破砕、ペッスルによる加圧、超音波処理装置による破砕などの当該技術において公知の方法が挙げられる。
【0027】
上記のホモジナイズ試薬は、細胞を破砕する際にチロシンキナーゼが変性するのを防ぐために用いることができる。ホモジナイズ試薬のpHは、チロシンキナーゼを変性および失活させることなく、安定した状態で回収できる範囲であれば特に限定されない。ホモジナイズ試薬のpHは、好ましくはpH 4.0〜9.0、より好ましくはpH 4.5〜8.5、さらに好ましくはpH 5.0〜8.0である。
ホモジナイズ試薬は緩衝剤を含むことが好ましい。緩衝剤としては、例えばリン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、MOPS(3-モルホリノプロパンスルホン酸)、HEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸)、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)、トリシン(N-[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン)などが挙げられる。
【0028】
上記の可溶化液に含まれる界面活性剤は、断片化した細胞膜をミセル化でき、細胞膜に含まれるチロシンキナーゼを分解および変性しない界面活性剤であれば特に限定されない。電荷を有する界面活性剤はチロシンキナーゼに結合してその立体構造を変化させる可能性があるので、チロシンキナーゼに実質的に結合しない非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。そのような非イオン性界面活性剤としては、例えばドデシルエーテル、セチルエーテル、ステアリルエーテル、p-t-オクチルフェニルエーテルなどを基本構造として有する界面活性剤が挙げられる。具体的には、非イオン界面活性剤として、ノニデットP-40(NP-40:Shell International Petroleum Company Limitedの登録商標)、Triton-X(Union Carbide Chemicals and Plastics Inc.の登録商標)、Tween(ICI Americas Inc.の登録商標)、Brij(ICI Americas Inc.の登録商標)、Emulgen(株式会社花王の登録商標)などが挙げられる。可溶化液中の界面活性剤の濃度は、通常0.05〜5%、好ましくは0.1〜3%、より好ましくは0.1〜1%である。
【0029】
上記の可溶化液は、ホモジナイズ試薬に用いられる緩衝剤と同様の緩衝剤を含むことが好ましい。また、該可溶化液は、ホモジナイズ試薬と同程度のpHを有することが好ましい。
【0030】
なお、上記のホモジナイズ試薬および可溶化液は、プロテアーゼ阻害剤、脱リン酸化酵素阻害剤、メルカプト基(SH基)の酸化を防ぐための試薬(以下、「SH基安定剤」という)などを含有してもよい。
【0031】
プロテアーゼ阻害剤は、チロシンキナーゼが細胞中のプロテアーゼによって分解されることを防ぐために用いることができる。プロテアーゼ阻害剤としては、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(EGTA)などのメタロプロテアーゼ阻害剤、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、トリプシン阻害剤、キモトリプシンなどのセリンプロテアーゼ阻害剤、ヨードアセトアミド、E-64などのシステインプロテアーゼ阻害剤などが挙げられる。これらのプロテアーゼ阻害剤は単独で用いてもよいし、複数の阻害剤を混合して用いてもよい。
また、プロテアーゼ阻害剤カクテル(シグマ社)のような、あらかじめ複数のプロテアーゼ阻害剤が混合された市販品を用いることもできる。
【0032】
脱リン酸化酵素阻害剤は、チロシンキナーゼ活性が細胞の脱リン酸化酵素によって低下することを防ぐために用いることができる。脱リン酸化酵素阻害剤としては、例えばオルトバナジン酸ナトリウム(Na3VO4)、フッ化ナトリウム(NaF)、オカダ酸などが挙げられる。脱リン酸化阻害剤は単独で用いてもよいし、複数の阻害剤を混合して用いてもよい。
【0033】
SH基安定剤は、チロシンキナーゼの失活を防ぐために用いることができる。酵素が有するSH基は、酸化されてより安定なジスルフィドを形成しやすい。ジスルフィドの形成は、酵素の立体構造を変化させるので、酵素の失活の原因となることがある。このようなSH基の酸化を防ぐためのSH基安定化剤としては、SH基を含有する試薬が挙げられる。SH基安定化剤としては、例えばジチオスレイトール(DTT)、2-メルカプトエタノール、グルタチオン、システイン、ホモシステイン、補酵素A、ジヒドロリポ酸などが挙げられる。
上記のホモジナイズ試薬および/または可溶化液中のSH基安定化剤の濃度は、例えばDTTであれば、通常0.05〜2mM、好ましくは0.07〜1.7 mM、より好ましくは0.1〜1.5 mMである。また、例えば2-メルカプトエタノールであれば、通常0.1〜15 mM、好ましくは0.3〜13 mM、より好ましくは0.5〜12 mMである。
【0034】
調製されたチロシンキナーゼを含む細胞画分は、受容体型チロシンキナーゼがホモ2量体およびヘテロ2量体のような多量体を形成でき、且つSrcが該多量体と複合体を形成できる程度に立体構造を保った状態および/またはSrcが有する脂質化されるドメインに付加された脂質鎖によりSrcが細胞膜にアンカーされた状態で細胞膜に保持されているチロシンキナーゼを含むことができる。該細胞画分においては、キナーゼ活性を保持した受容体型チロシンキナーゼ、Srcキナーゼを含むことが好ましい。
本実施形態の判定方法では、上記のようにして調製されたチロシンキナーゼを含む細胞画分を、腫瘍細胞が有する種々のチロシンキナーゼの酵素活性を測定するためのサンプルとして用いることができる。
【0035】
本実施形態の判定方法は、上記の測定用サンプルにおける、チロシンキナーゼSrcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価する。
本明細書において、「Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能」とは、後述する測定用サンプルに含まれるチロシンキナーゼの酵素活性が該阻害剤によって阻害される度合いを意味する。
Srcに対するATP拮抗阻害剤(以下、「Src阻害剤」ともいう)は、SrcのATP結合部位に結合することによりSrcの酵素活性を阻害する物質であれば特に限定されない。そのようなSrc阻害剤としては、例えば以下の化合物が挙げられる;
・4-(4'-フェノキシアニリノ)-6,7-ジメトキシキナゾリン(以下、「Srcキナーゼインヒビター1」という)、
・1-(1,1-ジメチルエチル)-1-(4-メチルフェニル)-1H-ピラゾロ[3, 4-d]ピリミジン-4-アミン(以下、「PP1」という)、
・4-アミノ-1-tert-ブチル-3-(1'-ナフチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(以下、「PP1アナログ」という)、
・4-アミノ-5-(4-クロロフェニル)-7-(t-ブチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(以下、「PP2」または「AG1879」という)、
・2-オキソ-3-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-インドール-2-イルメチレン)-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-5-スルホン酸ジメチルアミド(以下、「SU6656」という)、および
・下記の構造式(I)で示される化合物(以下、「Srcキナーゼインヒビター2」という)。
【0036】
構造式(I)
【化1】

【0037】
本実施形態の判定方法では、Src阻害剤は単独で用いてもよいし、複数の阻害剤を混合して用いてもよいが、好ましくは特定のSrc阻害剤を単独で用いる。また、上記のSrc阻害剤の中でもSrcキナーゼインヒビター1を用いることが好ましい。なお、これらのSrc阻害剤はいずれも市販されており、一般に入手可能である。各Src阻害剤の製造業者およびCAS番号を、表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
測定用サンプルにおけるSrc阻害剤の阻害能は、具体的には、該Src阻害剤の存在下において測定用サンプル中のチロシンキナーゼの活性値を測定し、測定された活性値に基づいて評価される。好ましくは、Src阻害剤の阻害能は、該阻害剤の非存在下における測定用サンプル中のチロシンキナーゼの活性値もさらに測定し、該阻害剤の存在下および非存在下でそれぞれ測定された活性値に基づいて評価される。この場合、Src阻害剤の阻害能は、上記の調製で得られた測定用サンプルについて、Src阻害剤の存在下で測定されたチロシンキナーゼ活性値(以下、「第1活性値」ともいう)と該Src阻害剤の非存在下で測定されたチロシンキナーゼ活性値(以下、「第2活性値」ともいう)との差または比の値に基づいて評価されることが好ましい。
【0040】
第1活性値と第2活性値との差の値としては、例えば「(第1活性値)−(第2活性値)」および「(第2活性値)−(第1活性値)」の値が挙げられる。第1活性値と第2活性値との比の値としては、例えば「(第1活性値)/(第2活性値)」および「(第2活性値)/(第1活性値)」の値が挙げられる。また、第1活性値と第2活性値との比の値は、「(第1活性値)/(第2活性値)」の値を用いて算出される阻害率、すなわち「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値(%)であってもよい。
【0041】
なお、チロシンキナーゼの活性値の測定は、公知の方法であれば特に制限されない。チロシンキナーゼの活性値の測定としては、例えば、チロシンキナーゼの自己リン酸化を検出する方法が挙げられる。具体的には、細胞をインキュベートした後に、この培養細胞の細胞膜からチロシンキナーゼを回収し、放射性物質で標識したリン酸化チロシン認識抗体を用いて自己リン酸化を検出する。あるいは、上記の方法を実施するための市販のキットを用いることにより、チロシンキナーゼの活性値を測定してもよい。
【0042】
上記の第1活性値は、例えば、次のようにして測定される。まず、上記のように調製して得られた測定用サンプルとSrcに対するATP拮抗阻害剤とを接触させる。この接触は通常、測定用サンプルの溶液中で行われる。そして、該阻害剤と接触させた測定用サンプルとチロシンキナーゼの基質とを接触させ、リン酸化された基質を検出することにより第1活性値を測定する。
なお、測定用サンプルとの接触時のSrc阻害剤の終濃度は、該阻害剤の種類、チロシンキナーゼの基質の濃度、後述するリン酸基供与体(例えばATP)の濃度などにより適宜設定できるが、例えばリン酸基供与体としてのATPの終濃度に対して0.1〜10倍程度に設定できる。
【0043】
上記の第2活性値は、測定用サンプルと上記のSrc阻害剤とを接触させないことを除いて、第1活性値と同様にして測定できる。
【0044】
第1活性値および第2活性値の測定は、測定用サンプル、上記の基質およびリン酸基供与体を混合し、チロシンキナーゼの活性によりリン酸化された基質を検出することにより行われることが好ましい。このチロシンキナーゼが介する反応によってリン酸基供与体のリン酸基が基質に取り込まれるので、リン酸化された基質を検出することによりチロシンキナーゼの活性を測定できる。
【0045】
チロシンキナーゼの基質としては、チロシンキナーゼの種類に対して特異性の低い基質(以下、「ユニバーサル基質」という)、および特定のチロシンキナーゼに対して特異性の高い基質が挙げられる。
特定のチロシンキナーゼに対して特異性の高い基質は、例えばEGFRに対して特異性の高い基質としてGrb2、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ヒストンH2B(HH2B)、ホスホリパーゼCガンマなどが挙げられる。また、GST-EGFR substrate(ストラタジーン社)のような市販の基質をEGFRに対して特異性の高い基質として用いることもできる。このGST-EGFR substrateは、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)と、EGFRの酵素活性によってリン酸化されるように合成された基質との融合タンパク質である。
【0046】
上記のユニバーサル基質はチロシンキナーゼの種類に対する特異性が低いので、多種類のチロシンキナーゼに対する基質として使用可能である。したがって、ユニバーサル基質としては、チロシンキナーゼの種類に対する特異性が低くなるように合成された公知の合成ペプチドが好ましい。そのような合成ペプチドは、具体的には、グルタミン酸残基およびチロシン残基を含むアミノ酸配列からなるペプチドが好ましい。該合成ペプチドとしては、例えばPoly-Glu4-Tyrビオチンコンジュゲート(Upstate社)のような市販されている合成ペプチドが挙げられる。また、合成ペプチドとしては、例えばNorio Sasakiら, The Journal of Biological Chemistry, vol.260, p.9793〜9804 (1985)、Sergei Braunら, The Journal of Biological Chemistry, vol.259, p.2051〜2054 (1984)およびM. Abdel-Ghanyら, Proceeding of The National Academy of Science, vol.87, p.7061〜7065 (1990)などの文献において、チロシンキナーゼの基質として記載される合成ペプチドが挙げられる。これら文献に記載される合成ペプチドは、グルタミン酸残基(Glu)およびチロシン残基(Tyr)を含むアミノ酸配列からなり、Tyrが2種類以上のチロシンキナーゼによってリン酸化されるように設計されている。
【0047】
上記の合成ペプチドのアミノ酸配列は、具体的には以下の配列が例示できる;
・4つのGluと1つのTyrからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列a」という)、
・1つのGluと1つのTyrからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列b」という)、
・6つのGluと1つのTyrと3つのアラニン残基(Ala)からなる配列が2回以上繰り返さ
れたアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列c」という)、
・1つのGluと1つのTyrと1つのAlaからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列
(以下、「アミノ酸配列d」という)、および
・2つのGluと1つのTyrと6つのAlaと5つのリジン残基(Lys)からなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列e」という)。
なお、Tony Hunter, The Journal of Biological Chemistry, vol.257, p.4843〜4848 (1982)の文献において、チロシンキナーゼによるTyrのリン酸化には酸性アミノ酸残基が重要であるという報告がある。それゆえ、上記の基質としては、酸性アミノ酸残基のGluを多く含有するアミノ酸配列aやアミノ酸配列cが特に好ましい。
【0048】
上記のリン酸基供与体としては、例えばアデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン5'-O-(3-チオトリホスフェート)(ATP-γS)、32P標識したアデノシン5'-O-(3-トリホスフェート)(γ-〔32P〕-ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)などが挙げられる。
【0049】
上記のリン酸化された基質の検出は、リン酸化された基質を他のタンパク質から分離し、該基質を検出することにより行われることが好ましい。
リン酸化された基質を他のタンパク質から分離するために、チロシンキナーゼの基質はアフィニティータグを有することができる。アフィニティータグを有する基質と該アフィニティータグと結合可能な物質(以下、「結合物質」という)を有する固相とを用いることにより、リン酸化された基質を他のタンパク質から分離して回収することが容易になる。具体的には、リン酸化された基質と上記固相との複合体を回収し、該複合体におけるアフィニティータグと固相が有する結合物質との結合を解離させることにより、リン酸化された基質を回収できる。
【0050】
上記のアフィニティータグは、対応する結合物質が存在し、かつ基質とチロシンキナーゼとの結合および基質のリン酸化を妨げない物質であれば特に限定されない。アフィニティータグとしては、例えばポリペプチド、ハプテンなどを用いることができる。具体的には、GST、ヒスチジン、マルトース結合タンパク質、FLAGペプチド(シグマ社)、Mycタグ、ヘマグルチニン(HA)タグ、Strepタグ(IBA GmbH社)、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジンなどを用いることができる。
【0051】
上記のアフィニティータグを有する基質は、上記のアフィニティータグと上記の基質とを化学的に結合させることにより得られるものであってよい。あるいは、アフィニティータグがポリペプチドである場合は、アフィニティータグと基質との融合タンパク質をコードする組み換え遺伝子を含むベクターを宿主に導入し、宿主が産生した融合タンパク質を回収することにより得られるものを用いることもできる。
【0052】
上記のアフィニティータグに対応する結合物質は、アフィニティータグと可逆的に結合できる物質であれば、特に限定されない。結合物質としては、例えば、グルタチオン、ニッケル、アミロース、抗FLAG抗体(シグマ社)、抗Myc抗体、抗HA抗体、Strep-Tactin(IBA GmbH社)などが挙げられる。
【0053】
上記の固相は、上記の結合物質と結合できる担体であれば特に限定されない。固相の材質としては、例えば、多糖類、プラスチック、ガラスなどが挙げられる。固相の形状としては、例えば、ビーズ、ゲルなどが挙げられる。固相の具体例としては、セファロースビーズ、アガロースビーズ、磁性ビーズ、ガラスビーズ、シリコーンゲルなどが挙げられる。これらの固相は、カラムに充填して用いることもできる。
【0054】
アフィニティータグと結合物質を有する固相との組み合わせとしては、以下のような例が挙げられる。
アフィニティータグとしてGSTを選択した場合、固相として、例えばグルタチオンセフ
ァロースビーズ(以下、「グルタチオンビーズ」という)を用いることができる。この組み合わせの場合における、具体的なチロシンキナーゼ活性の測定は、例えば次のようにして行うことができる。チロシンキナーゼ活性阻害剤と接触させた細胞膜画分を、GSTが結合した基質と接触させ、ここにグルタチオンビーズを加えることにより、リン酸化された基質が結合したグルタチオンビーズを得る。そして、このグルタチオンビーズを回収した後、還元型グルタチオンを添加して、GSTとグルタチオンビーズとの結合を解離させ、基質を回収する。
あるいは、GSTが結合した基質をまずグルタチオンビーズと接触させて、該基質とグル
タチオンビーズとの複合体を得る。次いで、チロシンキナーゼ活性阻害剤と接触させた細胞膜画分を該複合体に接触させ、これを回収する。これに還元型グルタチオンを添加し、GSTとグルタチオンビーズとの結合を解離させ、基質を回収することもできる。
【0055】
アフィニティータグとしてヒスチジンを用いる場合、結合物質を有する固相として、例えばニッケルアガロースビーズを用いることができる。ヒスチジンとニッケルとの結合は、例えばグリシン-HClなどの酸またはイミダゾールを用いて解離させることができる。
アフィニティータグとしてマルトース結合タンパク質を用いる場合、結合物質を有する固相として、例えばアミロース磁性ビーズを用いることができる。マルトース結合タンパク質とアミロースとの結合は、例えば遊離アミロースを用いて解離させることができる。
アフィニティータグとしてFLAGペプチドを用いる場合、結合物質を有する固相として、例えばFLAGアフィニティーゲル(シグマ社)を用いることができる。FLAGペプチドとFLAGアフィニティーゲルとの結合は、例えばグリシン-HClなどの酸または3×FLAGペプチド(シグマ社)を用いて解離させることができる。
【0056】
アフィニティータグとしてMycタグを用いる場合、結合物質を有する固相として、例え
ば抗Myc抗体を結合したアガロースビーズを用いることができる。
アフィニティータグとしてHAタグを用いる場合、結合物質を有する固相として、例えば抗HA抗体を結合したアガロースビーズを用いることができる。
Mycタグと抗Myc抗体との結合、HAタグと抗HA抗体との結合はどちらも、例えば酸またはアルカリを加えてタンパク質を変性させることにより解離させることができる。この場合、変性したタンパク質を元の状態に戻すことのできる酸またはアルカリを選択することが好ましい。具体的には、酸としては塩酸など、アルカリとしては水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0057】
アフィニティータグとしてStrepタグを選択した場合、結合物質を有する固相として、例えばStrep-Tactin固相化ゲルカラム(IBA GmbH社)を用いることができる。StrepタグとStrep-Tactinとの結合は、例えばストレプトアビジンと可逆的に反応するデスチオビオチンを用いて解離させることができる。
【0058】
チロシンキナーゼと上記の基質とを接触させた後であって、リン酸化された基質を回収する前に、加熱、冷却またはEDTAなどの酵素阻害剤の添加などの処理により酵素反応を停止させてもよい。このように酵素反応を停止すれば、基質を回収する間に酵素反応がさらに進むことによる、試料ごとの測定結果のばらつきの発生を回避できる。
【0059】
上記のようにして固相から分離されたリン酸化された基質に標識物質を結合させ、該標識物質を検出することにより、リン酸化された基質を測定することが好ましい。標識物質としては、例えば蛍光物質、酵素、放射性同位元素などが挙げられるが、これらに限定されない。蛍光物質としては、例えばフルオレセイン、クマリン、エオシン、フェナントロリン、ピレン、ローダミン、Cy3、Cy5、FITC、Alexa Fluor(登録商標)などが挙げられる。酵素としては例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。放射性同位元素としては例えば、32P、33P、131I、125I、3H、14C、35Sなどが挙げられる。
標識物質として酵素を用いる場合、上記検出は、これらの酵素に対する基質との反応に由来する発色を検出することにより行うことができる。酵素がアルカリホスファターゼである場合、基質としてはニトロテトラゾリウムブルークロライド(NBT)および5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルホスフェイト(BCIP)の混合物が挙げられる。酵素がペルオキシダーゼである場合、基質としてはジアミノベンジジン(DAB)が挙げられる。
【0060】
リン酸化された基質と標識物質との結合は、当該技術において公知の様式により行うことができる。例えば、標識物質を有する、リン酸化された基質に特異的に結合できる抗体(以下、「リン酸化基質認識抗体」という)を用いることにより、リン酸化された基質に標識物質を結合させることができる。
リン酸化された基質と標識物質との結合はまた、リン酸化基質認識抗体と、該リン酸化基質認識抗体に結合可能であり且つ標識物質を有する抗体(以下、「二次抗体」という)とを用いることにより行うこともできる。この場合、リン酸化基質認識抗体と二次抗体とを介して、標識物質をリン酸化された基質に実質的に結合させることができる。
リン酸化された基質と標識物質との結合はまた、リン酸化基質認識抗体と、ビオチンを有する二次抗体と、標識物質を有するアビジンとを用いることにより行うことができる。この場合、リン酸化基質認識抗体と二次抗体とビオチンとアビジンとを介して、標識物質をリン酸化された基質に実質的に結合させることができる。なお、二次抗体がアビジンを有し、ビオチンが標識物質を有していてもよい。
リン酸化された基質と標識物質との結合はまた、ビオチンを有するリン酸化基質認識抗体と、標識物質を有するアビジンとを用いるか、またはアビジンを有するリン酸化基質認識抗体と、標識物質を有するビオチンとを用いることにより行うこともできる。
このように標識物質を用いることにより、該標識物質が発生するシグナルを検出して、リン酸化された基質を検出でき、これによりチロシンキナーゼの活性を測定できる。
【0061】
上記のリン酸化基質認識抗体および二次抗体は、従来公知の方法により得られる抗体であってよい。抗体を得る方法としては、抗原で免疫した動物の血液から得る方法、遺伝子組み換えにより得る方法などが挙げられる。該抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれであってもよく、抗体のフラグメントおよびその誘導体であってもよい。また、これらの抗体を2種類以上混合したものを用いることもできる。抗体のフラグメントおよびその誘導体としては、Fabフラグメント、F(ab')フラグメント、F(ab)2フラグメント、sFvフラグメントなど(Blazarら, Journal of Immunology, vol.159, p.5821〜5833 (1997)およびBirdら, Science, vol.242 p.423〜426 (1988))が挙げられる。抗体のクラスはIgG、IgMなどのいずれであってもよい。
【0062】
リン酸化された基質を検出する方法は、標識物質の種類により適宜選択できる。例えば、標識物質が蛍光物質または酵素である場合、ウエスタンブロッティングによってリン酸化された基質を検出できる。SDS-PAGEなどの電気泳動により分離したリン酸化された基質をメンブレンにブロッティングし、リン酸化基質認識抗体を含む緩衝液中で該メンブレンをインキュベートして該抗体とリン酸化された基質とを結合させ、さらに標識物質を有する二次抗体をリン酸化基質認識抗体に結合させ、この標識物質を検出することによりリン酸化された基質を測定できる。リン酸化された基質が上記のアフィニティータグを有する場合は、該アフィニティータグを用いてリン酸化された基質を分離し、ウエスタンブロッティングの代わりにスロットブロットを行うことにより、ウエスタンブロッティングの場合と同様にしてリン酸化された基質を測定できる。
【0063】
リン酸化された基質の検出は、標識物質が蛍光物質である場合、リン酸化された基質を含む溶液をチューブに収容し、ここに該蛍光物質を有するリン酸化基質認識抗体を加えてリン酸化された基質と結合させ、蛍光強度を測定することにより行うこともできる。
【0064】
標識物質が酵素である場合、リン酸化された基質の検出は酵素結合免疫吸着法(ELISA法)により行うことができる。ELISA法には直接吸着法とサンドイッチ法とが含まれる。
直接吸着法は、固相にリン酸化された基質が直接吸着することを含む方法であり、例えば、リン酸化された基質を固相の表面に吸着させ、酵素を有するリン酸化基質認識抗体をリン酸化された基質と結合させ、リン酸化基質認識抗体が有する酵素を該酵素に対する基質を用いて発色させ、該発色を検出することを含む方法である。
サンドイッチ法は、リン酸化された基質の異なる部位を認識する2種類のリン酸化基質認識抗体を用いてリン酸化された基質を検出する方法である。この方法は、例えば、固相にリン酸化基質認識抗体を結合させ(以下、「固相抗体」という)、リン酸化された基質を固相抗体と結合させ、酵素を有するリン酸化基質認識抗体(以下、「標識抗体」という)を、該リン酸化された基質と結合させ、該標識抗体が有する酵素と該酵素に対する基質との反応に由来する発色を検出することにより行うことができる。
【0065】
標識物質が放射性同位元素である場合、リン酸化された基質の検出は放射線免疫検定法(RIA)によって行うことができる。具体的には、放射性同位元素を有するリン酸化基質認識抗体をリン酸化された基質に結合させ、その放射線をシンチレーションカウンターなどにより測定する。
【0066】
上記のとおり、第1活性値はSrc阻害剤の存在下で測定されたキナーゼ活性値であり、第2活性値は該阻害剤の非存在下で測定されたキナーゼ活性値であるので、第1活性値は通常、第2活性値よりも小さいと予測されるが、第1活性値が第2活性値と同じ値であるか、または第2活性値よりも大きい場合もある。
したがって、上記のSrc阻害剤の阻害能の評価では、第1活性値と第2活性値との差の値として、例えば「(第2活性値)−(第1活性値)」の値を用いる場合、該差の値が小さい(0および負の値を含む)ときにSrc阻害剤の阻害能は低いと評価できる。反対に、「(第2活性値)−(第1活性値)」の値が大きいときに該阻害能は高いと評価できる。
また、第1活性値と第2活性値との比の値として、例えば「(第1活性値)/(第2活性値)」の値を用いてSrc阻害剤の阻害能を評価する場合、該比の値が大きいときに該阻害能は低いと評価できる。反対に、「(第1活性値)/(第2活性値)」の値が小さいときに該阻害能は高いと評価できる。さらに、測定サンプルにおけるSrc阻害剤の阻害率、すなわち「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値を用いて該阻害剤の阻害能を評価する場合、該値が小さい(0および負の値を含む)ときに該阻害能は低いと評価できる。反対に、阻害率が大きいときに該阻害能は高いと評価できる。
【0067】
上記のSrc阻害剤の阻害能の評価は、EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤に感受性および非感受性の腫瘍細胞についての第1活性値および第2活性値のデータの蓄積により経験的に行うことができるが、より高精度に評価する観点から、測定用サンプルにおけるSrc阻害剤の阻害能は、第1活性値と第2活性値との差または比の値と後述する閾値とを比較し、比較結果に基づいて評価されることが好ましい。
すなわち、上記の評価では、第1活性値と第2活性値との差の値として、例えば「(第2活性値)−(第1活性値)」の値を用いる場合、該差の値と閾値とを比較し、該差の値が閾値より小さいときにSrc阻害剤の阻害能は低いと評価できる。反対に、「(第2活性値)−(第1活性値)」の値と閾値とを比較し、該差の値が閾値以上であるときに該阻害能は高いと評価できる。
また、第1活性値と第2活性値との比の値として、例えば「(第1活性値)/(第2活性値)」の値を用いてSrc阻害剤の阻害能を評価する場合、該比の値と閾値とを比較し、該比の値が閾値より大きいときに該阻害能は低いと評価できる。反対に、「(第1活性値)/(第2活性値)」の値と閾値とを比較し、該比の値が閾値以下であるときに該阻害能は高いと評価できる。さらに、測定サンプルにおけるSrc阻害剤の阻害率、すなわち「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値を用いて該阻害剤の阻害能を評価する場合、該阻害率と閾値とを比較し、該阻害率が閾値より小さいときに該阻害能は低いと評価できる。反対に、阻害率と閾値とを比較して、該阻害率が閾値以上であるときに該阻害能は高いと評価できる。
【0068】
上記の閾値は、Src阻害剤の種類および腫瘍細胞の種類に応じて適宜設定できる値である。閾値は、例えばEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性が既知の腫瘍細胞と特定のSrc阻害剤とを用いて、上述したチロシンキナーゼ活性の測定と同様にして第1活性値および第2活性値を取得し、これらに基づいて設定できる。閾値を、例えばSrc阻害剤による阻害率として算出した場合、閾値は通常0〜80%、好ましくは10〜70%、より好ましくは20〜50%の範囲内で設定できる。
【0069】
本実施形態の判定方法は、上記の評価において、Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能が低いと評価された場合に、生体試料中の腫瘍細胞はEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性があると判定し、および/または該Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能が高いと評価された場合に、上記の腫瘍細胞は該EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性がないと判定する。
【0070】
本実施形態における感受性の判定方法は、上記の記載に限定されるものではない。本実施形態における感受性の判定方法としては、例えば、Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能が低いと評価された場合に、生体試料中の腫瘍細胞はEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性が高いと判定し、および/または該Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能が高いと評価された場合に、上記の腫瘍細胞は該EGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性が低いと判定してもよい。
なお、本明細書において、上記の判定結果における、腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性の高低は、該阻害剤への感受性の有無と同じ意味であってもよい。
【0071】
本実施形態のコンピュータプログラムについて、以下に説明する。
本実施形態のコンピュータプログラムは、EGFRおよびHER2の阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を判定するための判定方法をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラムである。本実施形態のプログラムを実行する判定装置100と測定用サンプルのキナーゼ活性測定装置200とを含む、EGFR/HER2阻害剤の感受性判定システムのハードウエア構成を示すブロック図を、図1に示す。
感受性判定システムは、判定装置100と、キナーゼ活性値の測定装置200とを有し、これらはケーブル300で接続されている。測定装置200で測定されたキナーゼ活性の測定値などのデータは、ケーブル300を介して判定装置100に送られる。判定装置100は、測定装置200から出力されたデータを解析してEGFR/HER2阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性を判定し、判定結果を出力するための装置である。なお、判定装置100と測定装置200とは一体の装置として構成されてもよい。
【0072】
判定装置100は本体110と、表示部120と、入力デバイス130とから主として構成される。本体110において、CPU110aと、ROM110bと、RAM110cと、ハードディスク110dと、読出装置110eと、入出力インターフェース110fと、画像出力インターフェース110gとは、バス110hによって互いにデータ通信可能に接続されている。
【0073】
CPU110aは、ROM110bに記憶されているコンピュータプログラムおよびRAM110cにロードされたコンピュータプログラムを実行することが可能である。ROM110bは、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成され、CPU110aにより実行されるコンピュータプログラムおよびこれに用いるデータが記録されている。
RAM110cは、SRAMまたはDRAMなどによって構成される。RAM110cは、ROM110bおよびハードディスク110dに記録されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM110cは、CPU110aがこれらのコンピュータプログラムを実行するときの作業領域として利用される。
【0074】
ハードディスク110dには、オペレーティングシステムおよびアプリケーションシステムプログラムなどの、CPU110aに実行させるための種々のコンピュータプログラムおよびコンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。後述する本実施形態の判定方法を判定装置100に実現させるためのコンピュータプログラム140aおよびSrc阻害剤の阻害能の評価で用いられる閾値も、ハードディスク110dにインストールされている。
【0075】
読出装置110eは、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、またはDVD−ROMドライブなどによって構成されている。読出装置110eは、可搬型記憶媒体140に記録されたコンピュータプログラムまたはデータを読み出すことができる。また、可搬型記憶媒体140には、コンピュータがオペレーションを実行するためのアプリケーションプログラム140aが格納されている。CPU110aが可搬型記憶媒体140から当該アプリケーションプログラム140aを読み出し、アプリケーションプログラム140aをハードディスク110dにインストールすることも可能である。
【0076】
ハードディスク110dには、例えば米国マイクロソフト社が製造販売するWindows(登録商標)などのグラフィカルユーザインターフェース環境を提供するオペレーションシステムがインストールされている。
以下の説明において、EGFR/HER2阻害剤の感受性の判定に係るコンピュータプログラム140aは、該オペレーティングシステム上で動作するものとする。
【0077】
入出力インターフェース110fは、例えばUSB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェース、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェース、およびD/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェースなどから構成される。入出力インターフェース110fには、キーボードおよびマウスからなる入力デバイス130が接続されている。そのため、ユーザーが該入力デバイス130を使用することにより、コンピュータ本体110に測定用サンプルの測定により得られたチロシンキナーゼ活性値(第1活性値および第2活性値)のデータを入力できる。また、入出力インターフェース110fに、測定用サンプルにおけるチロシンキナーゼ活性の測定が可能な測定装置200を接続することもできる。この場合、測定装置200からコンピュータ本体110に上記の第1活性値および第2活性値のデータを入力できる。
【0078】
画像出力インターフェース110hは、LCDまたはCRTなどで構成される表示部120に接続されており、CPU110aから与えられる画像データに応じて映像信号を表示部120に出力する。表示部120は、入力された映像信号にしたがって、画像データを出力する。また、表示部120は、後述するCPU110aから与えられた判定結果を出力する。
【0079】
図2は、CPU110aによる、EGFR/HER2阻害剤に対する腫瘍細胞の感受性判定の処理を示すフローチャートである。
【0080】
腫瘍細胞を含む生体試料から調製した測定用サンプルと基質とをSrc阻害剤の存在下および非存在下に接触させ、該基質と接触させた測定用サンプル中のリン酸化された基質から発せられるシグナルを測定装置200によって検出して、第1活性値および第2活性値を測定する。
判定装置100のCPU110aは、第1活性値および第2活性値を測定装置200から入出力インターフェース110fを介して取得し(ステップS11)、取得した第1活性値および第2活性値をRAM110cに記憶させる。
【0081】
CPU110aは、RAM110cに記憶させた第1活性値および第2活性値を読み出し、Src阻害剤の阻害能を示す値を算出し(ステップS12)、この値をRAM110cに記憶させる。
なお、Src阻害剤の阻害能を示す値は、チロシンキナーゼSrcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価できる値であれば、特に制限されない。例えば、上記の第1活性値と第2活性値との差の値、第1活性値と第2活性値との比の値およびSrc阻害剤の阻害率などが挙げられる。第1活性値と第2活性値との差としては、例えば、「(第2活性値)−(第1活性値)」の値や、「(第1活性値)−(第2活性値)」の値などが挙げられる。第1活性値と第2活性値との比の値としては、「(第1活性値)/(第2活性値)」の値や、「(第2活性値)/(第1活性値)」の値などが挙げられる。Src阻害剤の阻害率としては、「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値(%)が挙げられる。
本実施形態では、Src阻害剤の阻害能を示す値として、「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値(%)を算出した。
【0082】
CPU110aは、ハードディスク110dに予め記憶させていた閾値を読み出して、該閾値とSrc阻害剤の阻害能を示す値とを比較する(ステップS13)。ここで、閾値は、Src阻害剤の阻害能を示す値に応じて、設定すればよく、特に制限されない。本実施形態では「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値(%)の閾値を43.4%に設定した。
【0083】
なお、ここでは、閾値はハードディスク110dに予め記憶されていたが、これに限られない。例えば、CPU110aは、入力デバイスから入力された閾値のデータを、入出力インターフェース110fを介して受信することもできる。また、CPU110aは、外部記憶装置に記憶された閾値のデータを、インターネットに接続された入出力インターフェース110fを介して受信することもできる。さらに、CPU110aは、可搬型記憶媒体140に記録された閾値のデータを読出装置で読み出すことで、これらを受付けることもできる。
【0084】
CPU110aは、Src阻害剤の阻害能を示す値が閾値以上であれば、上記の腫瘍細胞がEGFR/HER2阻害剤への感受性がないと判定する(ステップS14)。また、CPU110aは、Src阻害剤の阻害能を示す値が閾値より小さければ、該腫瘍細胞がEGFR/HER2阻害剤への感受性があると判定する(ステップS15)。ここで、Src阻害剤の阻害能を示す値としては、「(第2活性値)−(第1活性値)」の値、「(第2活性値)/(第1活性値)」の値、または「100−{(第1活性値)/(第2活性値)}×100」の値(%)が挙げられる。
【0085】
なお、ステップS14における判定は、Src阻害剤の阻害能を示す値に応じて適宜変更すればよく、上記の記載に限定されるものではない。例えば、Src阻害剤の阻害能を示す値が「(第1活性値)−(第2活性値)」の値、「(第1活性値)/(第2活性値)」の値、または「100−{(第2活性値)/(第1活性値)}×100」の値である場合、CPU110aは、Src阻害剤の阻害能を示す値が閾値より小さければ、上述の腫瘍細胞はEGFR/HER2阻害剤への感受性がないと判定することができる。また、CPU110aは、Src阻害剤の阻害能を示す値が閾値以上であれば、上記の腫瘍細胞はEGFR/HER2阻害剤への感受性があると判定することができる。
【0086】
CPU110aは、上記の判定結果をハードディスク110dに記憶させるとともに、画像出力インターフェース110gを介して表示部120に出力する(ステップS16)。
なお、ここでは、CPU110aは判定結果のみを出力したが、腫瘍細胞を含む生体試料を採取した癌患者に対してEGFR/HER2阻害剤による治療を行うか否かの指示をさらに出力してもよい。すなわち、CPU110aが、腫瘍細胞がEGFR/HER2阻害剤への感受性がないと判定した場合には、判定結果と共にEGFR/HER2阻害剤による治療を行わない指示を表示部120に出力する。反対に、CPU110aが、腫瘍細胞がEGFR/HER2阻害剤への感受性があると判定した場合には、判定結果と共にEGFR/HER2阻害剤による治療を行う指示を表示部120に出力してもよい。
【0087】
以下に、実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0088】
本実施例において用いた乳癌細胞株およびそれらの培養条件などを、表3に示した。前記培養条件に示される全ての培地には、ペニシリン 100 units/ml、ストレプトマイシン 100μg/ml、アムホテリシンB 0.25μg/mlが含まれている。なお、これらの細胞株はいずれもAmerican Type Culture Collection(ATCC)から購入できる。また、各細胞株の培養に用いられる基本培地、ウシ胎仔血清(FBS)、ウシインスリン、グルタチオンおよびヒトEGFも市販されており、一般に入手可能である。
【0089】
【表3】

【0090】
(参考例1)
表3に示される各乳癌細胞株をEGFR/HER2阻害剤の存在下に培養し、各細胞株に対する増殖阻害効果を検討することにより、細胞株のEGFR/HER2阻害剤への感受性を検討した。
表3に示される各乳癌細胞株を96ウェルアッセイプレート(#3917:Costar社)に4,000個/ウェルで播種し、37℃で培養した。24時間後、種々の濃度のラパチニブジトシレートハイドレート(以下、単にラパチニブともいう;#L-4804:LC Laboratories社)のDMSO溶液を含む培地に交換して、さらに72時間培養した。培地中のラパチニブ濃度は、0(コントロール)、0.1、1、10、30、100、300、1,000、3,000および10,000 nMとした。なお、培地中のDMSO濃度はいずれのウェルにおいても一定(0.1(v/v)%)である。培地の交換後0時間および72時間における各ウェルの細胞数をCellTiter-Glo Luminescent Cell Viability Assay(#G7571:Promega社)を用いて測定した。ロジスティック曲線を用いたフィッティングにより、72時間後にコントロールの半分の細胞数を与えるラパチニブ濃度を求め、該濃度をIC50とした。得られたIC50が1μM未満の細胞株を「感受性株」とし、1μM以上の細胞株を「非感受性株」とした。結果を表4および5に示す。
【0091】
【表4】

【0092】
【表5】

【0093】
(実施例1)
(1)細胞培養
表3に示される各乳癌細胞株を150 mmディッシュに80%コンフルエント程度まで培養した後、PBSおよびスクレイパーを用いて細胞を回収し、遠心操作(900×g、5分間、4℃)により細胞ペレットを得た。該ペレットを液体窒素で凍結し、測定用サンプルを調製するまで-80℃で保存した。
【0094】
(2)チロシンキナーゼ活性の測定用サンプルの調製
細胞ペレットに対し500μlのNP40(-)可溶化バッファー(20 mM HEPES(pH 7.4)、10 (w/v)%グリセロール、0.2%プロテアーゼインヒビターカクテル(#P8340:Sigma-Aldrich社(製品組成:104 mM AEBSF、80μMアプロチニン、4mMベスタチン、1.4 mM E-64、2mMロイペプチン、1.5 mMペプスタチンA))、50 mM NaFおよび200μM Na3VO4)を加え、ボルテックスミキサーを用いて2秒間の撹拌を3回行った。10分間静置した後、遠心操作(20000×g、30分間、4℃)により可溶性画分を除去した。得られたペレットを500μlのNP40(-)可溶化バッファーに再懸濁した後、遠心操作(20000×g、20分間、4℃)により可溶性の画分を再び除去し、ペレットを洗浄した。該ペレットに500μlのNP40(+)可溶化バッファー(NP40(-)可溶化バッファーにNP-40を終濃度1%で添加したバッファー)を加えてピペッティング操作を50回行い、2秒間、3回のボルテックス操作により再懸濁した。10分間静置した後、遠心操作(20000×g、40分間、4℃)により膜タンパク質を含む細胞膜画分を得た。該画分のタンパク質濃度をDC protein assay(#500-0116JA:Bio-Rad社)により測定し、該画分をキナーゼ活性測定用サンプルとした。該サンプルを液体窒素で凍結し、以下のキナーゼ活性測定に用いるまで-80℃で保存した。
【0095】
(3)測定用サンプルにおける、Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能の評価
NeutrAvidin Coated Plates (HBC)(96ウェルの白色プレート;#15509:Pierce社)を300μlのTBS-T(20 mM Tris-HCl(pH 7.4)、150 mM NaCl、0.1% tween)で3回洗浄した後、TBS(20 mM Tris-HCl(pH 7.4)、150 mM NaCl)で1μg/mlに希釈したPoly-Glu4-Tyrビオチンコンジュゲート(#12440:Upstate社)を各ウェルに100μlずつ添加した。37℃、400 rpmで90分間振盪した後、各ウェルを300μlのTBS-Tで3回洗浄して、測定用プレートを得た。
【0096】
上記の測定用サンプルを、キナーゼバッファー(20 mM HEPES(pH 7.4)、25 mM MgCl2、1.25 mM MnCl2, 250μM Na3VO4、12.5 (w/v)%グリセロール)で希釈し、タンパク質濃度6.25μg/mlに調整した。この希釈した測定用サンプルを96ウェルVボトムプレートの各ウェルに移した。表6に示される阻害剤1〜10のチロシンキナーゼ阻害剤を1種類ずつ含むDMSO溶液(阻害剤濃度:5mM)を、希釈した測定用サンプルの溶液に対して1:160の割合で各ウェルに添加して混合した。また、コントロールとして、希釈した測定用サンプルにDMSOを阻害剤の溶液と同じ割合で添加した。なお、使用したチロシンキナーゼ阻害剤を阻害剤1〜10として表6に示す。
【0097】
【表6】

【0098】
各阻害剤の添加後、上記の測定用サンプルと該阻害剤との混合溶液を室温で10分間静置した。該混合溶液の40μlを上記の測定用プレートの各ウェルに移し、リン酸基供与体としてATP溶液(20 mM HEPES(pH 7.4)、125 mM ATP)を各ウェルに10μlずつ添加した。なお、ウェル中の溶液の組成は次のとおりである:タンパク質濃度5μg/ml、20 mM HEPES(pH 7.4)、20 mM MgCl2、1mM MnCl2、200μM Na3VO4、10 (w/v)%グリセロール、25μM ATP、25μM キナーゼ阻害剤。
測定用プレートを37℃、400 rpmで60分間振盪した後、測定用プレートから溶液を除き、300μlのTBS-Tで各ウェルを3回洗浄した。ブロッキング液としてStarting Block T20 (TBS)(#37543:Pierce社)を各ウェルに100μlずつ添加して37℃、400 rpmで10分間ブロッキングした。測定用プレートからブロッキング液を除き、Starting Block T20 (TBS)で1:1000の割合で希釈したHRP標識抗リン酸化チロシン抗体(#sc-508HRP:Santa Cruz社)の溶液を各ウェルに100μlずつ添加して37℃、400 rpmで90分間振盪した。そして、300μlのTBS-Tで各ウェルを5回洗浄した。基質としてSuperSignal ELISA Pico Chemiluminescent Substrate(#37070:Pierce社)を各ウェルに100μlずつ添加し、室温で1分間振盪を行なった後、各ウェルからの発光をGENiosマイクロプレートリーダ(Tecan社製)で測定した。測定用サンプルにおける各キナーゼ阻害剤の阻害能は、各阻害剤の存在下でのチロシンキナーゼ活性の測定値とコントロール(阻害剤の非存在下)での測定値との比の値に基づいて算出した阻害率(「100−{(阻害剤の存在下での活性測定値)/(阻害剤の非存在下での活性測定値)}×100」の値)で評価した。算出した阻害率を表7に示す。また、算出した阻害率に基づいて、上記の参考例1で分類したラパチニブ感受性細胞株グループおよび非感受性細胞株のグループにおける各チロシンキナーゼ阻害剤の阻害率のグラフを作成した。該グラフを図3に示す。なお、図3においてpは有意確率を示す。
【0099】
【表7】

【0100】
ラパチニブはEGFR/HER2阻害剤であるので、参考例1において分類されたラパチニブ感受性株ではEGFR阻害剤およびEGFR/HER2阻害剤によるチロシンキナーゼの阻害効果が高くなることが当初予想された。しかし、図3においてはそのような傾向は見られなかった。
一方、Src阻害剤である阻害剤10では、ラパチニブ感受性株と非感受性株との間で阻害率に差が見られる。すなわち、ラパチニブ感受性株ではSrc阻害剤によるキナーゼ活性の阻害効果が低く、ラパチニブ非感受性株では該阻害効果が高いことが明らかになった。
また、阻害剤10によるチロシンキナーゼ活性の阻害能を指標として腫瘍細胞のラパチニブ感受性を判定した場合のROC解析を行い、AUCを得た。AUCとは、その値が1に近いほど精度の高い判定ができることを示す指標である。ROC解析により得られたAUCを表8に示す。さらに、ROC解析から最適な閾値(阻害率としての閾値(%))を求め、阻害剤10による阻害率と該閾値とを比較して、該阻害率が該閾値よりも小さい場合をラパチニブ感受性であると判定し、該阻害率が該閾値以上である場合をラパチニブに非感受性であると判定した場合の判定の感度、特異度、陽性的中率(PPV)および陰性的中率(NPV)も表8に示す。
【0101】
【表8】

【0102】
表8より、阻害剤10を用いた本実施形態の判定方法のAUCは0.806と非常に良好な値であり、感度、特異度、PPVおよびNPVも高い値であった。したがって、本実施形態の判定方法により腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性を高精度に判定できることがわかった。
【0103】
なお、腫瘍細胞の悪性度を評価する方法について開示した特許文献1および腫瘍細胞へのラパチニブの効果について開示した非特許文献1を参酌すると、上記の実施例1とは反対の実験結果として、Src阻害剤による阻害能が高いと評価された場合に、腫瘍細胞はラパチニブに対する感受性があり、Src阻害剤による阻害能が低いと評価された場合に、腫瘍細胞はラパチニブ対する感受性がないことが示唆される。より具体的には、特許文献1には、13種類の細胞株に対するSrc阻害剤によるチロシンキナーゼ活性への阻害効果の実験結果が示されている。ここで、特許文献1の実施例には、非特許文献1においてラパチニブ感受性株であることが示された2つ細胞株(BT-474およびSK-Br-3)では、Src阻害剤によるチロシンキナーゼ活性への阻害効果が高く、非特許文献1においてラパチニブ非感受性株であることが示された3つの細胞株(MDA-MB231、MCF7およびT47D)では、Src阻害剤によるチロシンキナーゼ活性への阻害効果が低かったことが示唆されている。
しかしながら、特許文献1の実施例で用いられた測定用サンプルは、その調製においてSrc阻害剤の一種であるPP1で処理されているので、該測定用サンプル中のSrcのキナーゼ活性はPP1により既に阻害された状態となっている。つまり、特許文献1では、キナーゼ活性が既に阻害されたSrcを含む測定用サンプルを用いてSrcインヒビター1の阻害活性を測定している。したがって、特許文献1の実施例では、不適切な材料を用いてSrcインヒビター1の阻害活性を測定しているので、Srcインヒビター1の阻害活性を正確には測定できないものと考えられる。
よって、国際公開第2009/119502号には、当業者に本発明の判定方法を容易に想到させる開示および示唆は存在しない。
【0104】
(比較例1)
(1)細胞培養
表3に示される各乳癌細胞株を150 mmディッシュに80%コンフルエント程度まで培養した後、PBSおよびスクレイパーを用いて細胞を回収し、遠心操作(900×g、5分間、4℃)により細胞ペレットを得た。該ペレットを液体窒素で凍結し、測定用サンプルを調製するまで-80℃で保存した。
【0105】
(2)チロシンキナーゼ活性の測定用サンプルの調製およびHER2タンパク質の発現の確認
上記の各細胞株のペレットに氷冷した1% TritonX Lysisバッファー(20 mM Tris-HCl(pH7.5)、150 mM NaCl、1mM EDTA、1% TritonX-100、20 mM NaF、1mM Na3VO4、0.1%プロテアーゼインヒビターカクテル(#P8340:Sigma-Aldrich社(製品組成:104 mM AEBSF、80μMアプロチニン、4mMベスタチン、1.4 mM E-64、2mMロイペプチン、1.5 mMペプスタチンA))を加えてピペッティングにより細胞を溶解した後、氷上で20分間静置した。20000×g、4℃、15分間の遠心操作により不溶性の沈殿を除き、ライゼートを得た。タンパク濃度をDC protein assay(#500-0116JA :Bio-Rad社)を用いて測定し、ウエスタンブロッティング法によりHER2の発現の有無を確認した。1次抗体としてウサギ抗HER2ポリクローナル抗体(#06-562:Upstate社)、ウサギ抗GAPDHポリクローナル抗体(#2275-pc-100:Trevigen社)をそれぞれ用い、2次抗体としてブタ抗ウサギイムノグロブリンHRP(#P0399:Dako社)を用いた。検出はECL-Plus(#RPN2132:GE Healthcare社)を用いて行なった。
【0106】
上記で調製した測定用サンプルを用いたウエスタンブロッティング法により、表3に示される各乳癌細胞株のHER2タンパク質の発現を確認した。得られた結果を図4に示す。なお、GAPDHはサンプル間のタンパク質の量がほぼ等しいことを示すコントロールである。
【0107】
上記の参考例1での各乳癌細胞株のラパチニブ感受性と、比較例1でのHER2タンパク質の検出結果および実施例1でのSrc阻害剤野の阻害率に基づいたラパチニブ感受性判定の結果を、表9に示した。HER2のカラムにおいて「+」はウエスタンブロッティングの結果に基づいてHER2タンパク質発現が高いと判定された細胞株であり、「−」はHER2タンパク質の発現が低いか、または発現しないと判定された細胞株である。Src阻害剤の阻害能のカラムにおいて、「low」はSrc阻害剤の阻害率が閾値(=43.4%)より低い細胞株であり、「high」は該阻害率が該閾値以上である細胞株である。判定のカラムでは、Src阻害剤の阻害能が「low」である細胞株はラパチニブへの感受性がある判定とし、「high」である細胞株はラパチニブへの非感受性があると判定とした。
【0108】
【表9】

【0109】
表9より、本実施形態の判定方法による判定結果は、従来法である参考例1および比較例1の結果とほぼ一致することが明らかとなった。このことから、本実施形態の判定方法は、煩雑な細胞の増殖工程を必要とせず、また抗体のようなその特性により判定結果に影響を与え得る検出手段に依存することなく、腫瘍細胞のEGFR/HER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性を判定できることが分かる。
【符号の説明】
【0110】
100 判定装置
110 本体
110a CPU
110b ROM
110c RAM
110d ハードディスク(HD)
110e 読出装置
110f 入出力インターフェース
110g 画像出力インターフェース
110h バス
120 表示部
130 入力デバイス
140 可搬型記憶媒体
140a アプリケーションプログラム
200 測定装置
300 ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞を含む生体試料からチロシンキナーゼを含む細胞画分を調製することにより得られた測定用サンプルにおける、チロシンキナーゼSrcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価し、
前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能が低いと評価された場合に、前記腫瘍細胞はチロシンキナーゼEGFRおよび/またはHER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性があると判定し、および/または前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能が高いと評価された場合に、前記腫瘍細胞は前記EGFRおよび/またはHER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性がないと判定する、
腫瘍細胞のEGFRおよび/またはHER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性を判定する方法。
【請求項2】
前記腫瘍細胞が乳癌細胞である、請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
前記細胞画分が膜画分である、請求項1または2に記載の判定方法。
【請求項4】
前記EGFRおよび/またはHER2に対するATP拮抗阻害剤が、N-(3-クロロ-4-[[(3-フルオロフェニル)メチル]オキシ]フェニル)-6-[5-([[2-(メチルスルホニル)エチル]アミノ]メチル)-2-フラニル]-4-キナゾリンアミンビス(4-メチルベンゼンスルホネート)モノハイドレート、N-[3-クロロ-4-[(3-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]-6-[5-[(2-メチルスルホニルエチルアミノ)メチル]-2-フリル]キナゾリン-4-アミン、N-[4-[(3-クロロ-4-フルオロフェニル)アミノ]-7-[[(3S)-テトラヒドロ-3-フラニル]オキシ]-6-キナゾリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド、6-[4-[(4-エチル-1-ピペラジニル)メチル]フェニル]-N-[(1S)-1-フェニルエチル]-7H-ピロロ[2,3-d]ピリミジン-4-アミン、(2E)-N-[4-[[3-クロロ-4-(2-ピリジニルメトキシ)フェニル]アミノ]-3-シアノ-7-エトキシ-6-キノリニル]-4-(ジメチルアミノ)-2-ブテンアミド、[4-[[1-(3-フルオロフェニル)メチル]-1H-インダゾール-5-イルアミノ]-5-メチルピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-6-イル]カルバミン酸(3S)-3-モルフォリニルメチルエステル、N4-[3-クロロ-4-(チアゾール-2-イルメトキシ)フェニル]-N6-[(4R)-4-メチル-4,5-ジヒドロオキサゾール-2-イル]キナゾリン-4,6-ジアミン、4-(4-ベンジルオキシアニリノ)-6,7-ジメトキシキナゾリン、N4-(1-ベンジル-1H-インダゾール-5-イル)-N6, N6-ジメチル-ピリド-[3,4-d]-ピリミジン-4,6-ジアミンまたはN-[3-クロロ-4-[(3-フルオロフェニル)メトキシ]フェニル]-6-[2-[[[2-(メチルスルホニル)エチル]アミノ]メチル]-4-チアゾリル]-4-キナゾリンアミンジヒドロクロリドである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の判定方法。
【請求項5】
前記Srcに対するATP拮抗阻害剤が、4-(4'-フェノキシアニリノ)-6,7-ジメトキシキナゾリン、1-(1,1-ジメチルエチル)-1-(4-メチルフェニル)-1H-ピラゾロ[3, 4-d]ピリミジン-4-アミン、4-アミノ-1-tert-ブチル-3-(1'-ナフチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン、4-アミノ-5-(4-クロロフェニル)-7-(t-ブチル)ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン、2-オキソ-3-(4,5,6,7-テトラヒドロ-1H-インドール-2-イルメチレン)-2,3-ジヒドロ-1H-インドール-5-スルホン酸ジメチルアミドまたは下記の構造式:
【化1】

で示される化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の判定方法。
【請求項6】
前記評価が、
Srcに対するATP拮抗阻害剤の存在下において、測定用サンプル中のチロシンキナーゼの活性値を測定し、
測定された活性値に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価することにより行われる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の判定方法。
【請求項7】
前記評価が、
Srcに対するATP拮抗阻害剤の非存在下において、測定用サンプル中のチロシンキナーゼの活性値をさらに測定し、
前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の存在下および非存在下でそれぞれ測定された活性値に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価することにより行われる、請求項6に記載の判定方法。
【請求項8】
前記評価が、Srcに対するATP拮抗阻害剤の存在下で測定された活性値とSrcに対するATP拮抗阻害剤の非存在下で測定された活性値との差または比の値に基づいて、前記Src阻害剤の阻害能を評価することにより行われる、請求項7に記載の判定方法。
【請求項9】
前記評価が、
Srcに対するATP拮抗阻害剤の存在下で測定された活性値とSrcに対するATP拮抗阻害剤の非存在下で測定された活性値との差または比の値と、閾値とを比較し、
比較結果に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を評価することにより行われる、請求項8に記載の判定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
チロシンキナーゼSrcに対するATP拮抗阻害剤の存在下における、腫瘍細胞を含む生体試料から得た測定用サンプル中のチロシンキナーゼの活性値を取得するステップと、
前記活性値に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値を算出するステップと、
前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値と閾値とを比較するステップと、
比較結果に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値が閾値より小さい場合に、前記腫瘍細胞はチロシンキナーゼEGFRおよび/またはHER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性があると判定し、および/または前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値が閾値以上の場合に、前記腫瘍細胞は前記EGFRおよび/またはHER2に対するATP拮抗阻害剤への感受性がないと判定するステップと、
判定結果を出力するステップと
を実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項11】
前記取得ステップが、Srcに対するATP拮抗阻害剤の非存在下における前記測定用サンプ
ル中のチロシンキナーゼの活性値をさらに取得するステップであり、
前記算出ステップが、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の存在下および非存在下における活性値に基づいて、前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値を算出するステップである、請求項10に記載のコンピュータプログラム。
【請求項12】
前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の阻害能を示す値が、Srcに対するATP拮抗阻害剤の存在下で測定された活性値と前記Srcに対するATP拮抗阻害剤の非存在下で測定された活性値との差または比の値である、請求項11に記載のコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24078(P2012−24078A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16759(P2011−16759)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】