説明

腰掛便座

【課題】便座に着座した際、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢となる便座を提供すること。
【解決手段】腰掛便座241は、使用者の身体を支持する支持体3と、支持体の上面において、使用者が着座した際に使用者の臀部と接触する位置に設けられ、使用者の骨盤上部側が前方に移動する向きで骨盤を回転させる前傾斜面部27とを備える。前傾斜面部は、前方側が低くなっており、使用者がその前傾斜面部の上に着座し、前傾斜面部と使用者の臀部とが接触する一方、臀部の内部側組織が、使用者に作用する重力の前傾斜面部と平行な分力により前傾斜面部に沿って下方にずり落ち、それにより、使用者の臀部の皮膚が上記前傾斜面部によって後方に引っ張り上げられることによって骨盤を回転させる。腰掛便座には、さらに、使用者の着座時の開脚を抑制する開脚抑制部243が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腰掛便座に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大便器の上方に設けられる腰掛便座は、通常、その中央に、排泄物を大便器に落下させるための開口が設けられ、その周囲を囲むように、使用者の身体を支持する支持体を有している。こうした腰掛便座に対しては、これまで、快適性の向上を目的として様々な開発が実施されてきている。例えば、快適性の一つとして座り心地を良くするための工夫がなされており、その一つに特許文献1に開示された便座がある。かかる便座では、便座内縁を長円形にし、その分、既存のものより座面を広くしている。これにより、臀部を支持する面は、臀部にかかる体重の大部分を座骨結節点直下の面で支持することとなり、臀部の落ち込みのない安定した座り心地を提供している。
【0003】
本発明者らは、快適性向上の一環として、使用者が排泄をよりスムーズに行うことができるといった排便性の向上について研究を重ねてきた。そして、検討を重ねたところ、これまでの便座では、着座した使用者がとる自然な姿勢は、直腸が湾曲したような姿勢となる傾向があり、それにより排便性が低下していることがわかってきた。このような観点で改良が施された便座は、上記特許文献1に開示のものを含め、これまでの便座には見当たらないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−117147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、便座に着座した際、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢となる便座を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、便器の上に置かれて使用される腰掛便座であって、排泄物が落下する開口の周囲にあって使用者の身体を支持する支持体と、上記支持体の上面において、使用者が着座した際に使用者の臀部と接触する位置に設けられ、使用者の骨盤上部側が前方に移動する向きで骨盤を回転させる前傾斜面部であって、前方側が低くなっており、使用者がその前傾斜面部の上に着座し、上記前傾斜面部と使用者の臀部とが接触する一方、臀部の内部側組織が、使用者に作用する重力の上記前傾斜面部と平行な分力により該前傾斜面部に沿って下方にずり落ち、それにより、使用者の臀部の皮膚が上記前傾斜面部によって後方に引っ張り上げられることによって骨盤を回転させるように構成されている上記前傾斜面部と、使用者の着座時の開脚を抑制する開脚抑制部とを備える。使用者が前傾斜面部に着座すると、使用者の臀部の内部側組織は、使用者に作用する重力の前傾斜面部と平行な分力により該前傾斜面部に沿って下方にずり落ちる一方、臀部の皮膚には前傾斜面部からの摩擦力が作用する。こうした作用によって、骨盤には、骨盤上部側を前方に移動させる向きの回転力がもたらされ、骨盤が、前転方向に立ち上がるようにして回転する。また、開脚抑制部によって、使用者の開脚が抑制される。
【0007】
このように構成された本発明によれば、使用者の開脚を抑制し、骨盤下部側に引張力を付与する筋群の弛緩を維持することで、骨盤を前転方向に立ち上がりやすくし、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を獲得することができる。
【0008】
また、好ましくは、上記開脚抑制部は、上記支持体の前方にいくほど間隔が広がるように平面視ハの字状に延びる一対の抑制凹溝を含み、大腿部が、対応する上記抑制凹溝に落とし込まれることで、大腿部がその側方から開脚抑制されるように構成されている。使用者の両脚それぞれの大腿部が対応する抑制凹溝にはまり、各大腿部それ自体が左右方向に動きにくくなるように構成されている。
【0009】
このように構成された本発明によれば、個々の大腿部に対し左右方向の動きを直接防止し、使用者の開脚を抑制することができる。加えて、個々の大腿部の側面にまで便座との接触領域が拡大されており、使用者に対し、より確実に摩擦力を作用させ、摩擦力と重力分力とによる骨盤の回転をさらに確実に生じさせる。
【0010】
また、好ましくは、上記支持体は、上記前傾斜面部の前方において座面の最も低い部分を含む座面最下部形成部を有しており、上記抑制凹溝はそれぞれ、上記座面最下部形成部近傍に設けられているように構成されている。
【0011】
このように構成された本発明によれば、抑制凹溝が骨盤のより近くにあることとなるので、抑制凹溝に起因した使用者への摩擦力もまた骨盤のより近くから作用させることができ、摩擦力と重力分力とが効率よく機能して骨盤を回転させることができる。
【0012】
また、好ましくは、上記抑制凹溝はそれぞれ、上記支持体の中央寄りに位置する内側斜面と、上記支持体の左右外側寄りに位置する外側斜面とを含み、上記内側斜面の傾斜度は、上記外側斜面の傾斜度よりも小さくなるように構成されている。抑制凹溝の内側斜面の傾斜度が外側斜面の傾斜度よりも小さくなっていることは、巨視的にみると、抑制凹溝が支持体の外側から中央(開口)に向けて傾いているものとみることができ、それにより、左右の大腿部それぞれは、開口に向けて落ち込むような内旋運動を行うような向きの回転力を受ける。そして、大腿骨に対し、その軸芯まわりに内旋運動を行う向きの回転力が作用すると、実際の大腿骨はその前端が膝につながることで旋回運動に対する拘束を受けていることから、結果的に左右の膝が接近する方向に移動するような大腿部の閉脚運動となって現れる。よって、大腿部と骨盤との間にある筋群の弛緩が維持されやすくなる。
【0013】
このように構成された本発明によれば、左右の膝が接近する方向に移動するような大腿部の閉脚運動が促され、上記筋群の弛緩が維持されやすくなり、骨盤の立ち上がりがより容易になるという利点が得られる。
【0014】
また、好ましくは、上記抑制凹溝はそれぞれ、上記支持体の中央寄りに位置する内側斜面と、上記支持体の左右外側寄りに位置する外側斜面とを含み、上記外側斜面の傾斜度は凹部の延長方向に関し前方にいくほど小さくなる。抑制凹溝の外側斜面の傾斜度は前方にいくほど小さくなるように構成されているので、使用者の大腿部の前方寄りの部分が圧迫されるのが回避される。
【0015】
大腿部の前部が圧迫される恐れがあるところ、このように構成された本発明によれば、外側斜面の傾斜度は前方にいくほど小さくなることで、大腿部の骨盤に近い部分では、開脚抑制による骨盤の立ち上がり促進効果を獲得しつつ、同促進効果への影響の少ない前方部分では、圧迫を回避し使用者の負担を減少させることができる。
【0016】
また、好ましくは、上記開脚抑制部は、上記抑制凹溝の上記内側斜面よりもさらに上記支持体の中央寄り且つ前方に、水平方向に延びるフラット面をさらに含むように構成されている。支持体において、使用者の大腿部の前方寄りの部分の下方は、フラット面を有しているので、使用者の大腿部の前方寄りの部分が圧迫されるのが回避される。
【0017】
大腿部の前部が圧迫される恐れがあるところ、このように構成された本発明によれば、内側斜面よりもさらに支持体の中央寄り且つ前方に水平方向に延びるフラット面が設けられることで、大腿部の骨盤に近い部分では、開脚抑制による骨盤の立ち上がり促進効果を獲得しつつ、同促進効果への影響の少ない前方部分では、圧迫を回避し使用者の負担を減少させることができる。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明によれば、便座に着座した際、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢となる便座を提供することができる。
なお、本発明の他の特徴及びそれによる作用効果は、添付図面を参照し、実施の形態によって更に詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施の形態による腰掛便座の平面図である。
【図2】図1の腰掛便座の斜視図である。
【図3】第1の実施の形態に係る腰掛便座の形状を、前後方向の断面で示す図である。
【図4】第1の実施の形態に係る腰掛便座の形状を、左右方向の断面で示す図である。
【図5】腰掛便座における稜線を示す図である。
【図6】排便性と骨盤及び直腸との関係を示す図である。
【図7】骨盤回転部の機能を説明する図である。
【図8】第1の実施の形態の変形例に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す図である。
【図9】第2の実施の形態の別の変形例に係る腰掛便座の側面図である。
【図10】第2の実施の形態に係る腰掛便座を示す図である。
【図11】第2の実施の形態の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図12】第2の実施の形態の別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図13】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図14】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図15】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図16】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す図である。
【図17】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図18】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図19】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図20】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図21】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図22】第2の実施の形態のさらに別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図23】第3の実施の形態に係る腰掛便座を示す図である。
【図24】第3の実施の形態の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図25】第4の実施の形態に係る腰掛便座を示す図である。
【図26】大腿部の開脚と骨盤の後傾との関係を示す図である。
【図27】大腿部の開脚抑制が骨盤に与える影響を示す図である。
【図28】大腿骨の旋回運動を示す図である。
【図29】第4の実施の形態の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図30】着座した使用者の臀部及び大腿部と支持体との位置関係を示す図である。
【図31】第4の実施の形態の別の変形例に係る腰掛便座を示す図である。
【図32】第5の実施の形態に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す図である。
【図33】第5の実施の形態の変形例に係る実施の形態に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す図である。
【図34】第5の実施の形態の別の変形例に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る実施の形態を添付図面に基づいて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は対応部分を示すものとする。
【0021】
第1の実施の形態.
第1の実施の形態として、骨盤回転部を備え、それにより便座に着座した際、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を実現する腰掛便座について説明する。図1及び図2はそれぞれ、本実施の形態の腰掛便座全体の平面図及び斜視図である。なお、本明細書及び特許請求の範囲において方向に関する記載は、図1の紙面下側を「前」、紙面上側を「後」、紙面左側を「左」、紙面右側を「右」、紙面表側を「上」及び紙面裏側を「下」という関係に基づいて行われている。
【0022】
本実施の形態に係る腰掛便座1は、図示しない大便器の上に置かれて使用されるものであって、支持体3と、骨盤回転部5とを備える。支持体3は、使用者の身体を支持するものであり、排泄物が図示しない大便器へと落下するのを許容する開口7を囲むように構成されている。本実施の形態では、支持体3は、環状の部材であるが、例えばその前部が途切れたCの字状であるなど他の形態に構成されていてもよい。支持体3の後部には、腰掛便座1を大便器に対して揺動態様で上げ下ろしできるように支持する回転支持部9が設けられている。また、支持体3は、左右対称形状に構成されている。
【0023】
図3及び図4はそれぞれ、本実施の形態に係る腰掛便座の形状を前後方向断面及び左右方向断面で示す図である。図3には、4つの前後方向断面、すなわちそれぞれ腰掛便座1の左右中心線CLから、110mm、130mm、150mm及び170mm離れた位置の前後方向断面が示されている。これら前後方向断面に示されているように、腰掛便座1の支持体3は、その前半部が高低差が比較的少ない形状であって、後半部において後部ほど高い位置にあるように前傾した形状を有している。
【0024】
図4には、開口最大幅形成部13を前後中心として、後方に40mm、前方に17.3mm(−17.3mm)及び40mm(−40mm)離れた位置の左右方向断面が示されている。開口最大幅形成部13は、腰掛便座を上方から投影的にみて、開口7に関する左右方向の幅が最大となる部位を含むような左右延長線の部分である。図4の左右方向断面に示されているように、支持体3は、概略的に見て外縁15から内縁17に行くほど下方に位置する上面19すなわち開口7に近いほど下方に位置する上面19を有する。外縁15及び内縁17のそれぞれ上部には、湾曲21,23が形成されている。また、前述の開口最大幅形成部13は、上方から投影的にみた開口幅に関して決定される部分であるため、本実施の形態では湾曲23の存在に起因して、開口最大幅形成部13は、左右の内縁17の下寄りの部分の間隔Vが最も広いところに決定される。さらに、支持体3は、座面最下部形成部25を有している。ここで、本発明の座面最下部形成部について、図5を用いて説明する。図5は、腰掛便座における稜線を示す図であり、(b)は、(a)の符号305に沿う前後方向断面である。支持体3は、上述したように平坦な上面19と、その内縁17側の端部に湾曲23とを含んでいる。そして、開口7の中心から放射状に延びる断面における上面19と湾曲23との接続点Pを連ねることによって、図5に示されるような稜線Lを導出することができる。そして、座面最下部形成部25は、稜線Lのうちの最も低い部位を含むような左右延長線の部分である。
【0025】
骨盤回転部5は、支持体3の後部側上面に位置し、使用者が着座した際に使用者の臀部と接触する部分であり、後述するように摩擦力と重力とに起因し、骨盤上部側が前方に移動する向きで、使用者の骨盤を回転させるものである。骨盤回転部5は前傾斜面部27を含み、腰掛便座1に着座した使用者の体重は主に前傾斜面部27によって支持される。前傾斜面部27は、図3においてハッチングを施した領域であり、支持体3上面の、使用者が着座した際に使用者の臀部と接触する位置に設けられ、前方側が低くなるように前傾して構成されている。
図3に示されるように、前傾斜面部27は、座面最下部形成部25のすぐ後方にあり、前傾斜面部27の途中に開口最大幅形成部13が位置している。図3にはさらに、参照符号Zによって既存の便座の支持体上面を示すラインが参考に示されている。この参考ラインZからわかるように、既存の便座の支持体上面においては、座面最下部形成部のすぐ後方の領域は殆ど水平な状態にある。これに対して、本発明の支持体上面においては、使用者の臀部と接触して臀部を支持する領域である前傾斜面部27が、後方にいくほど高く盛り上がるように形成されている。
なお、本実施の形態においては、支持体3の前後長約414mm、左右長約393mmに対して、座面最下部形成部25は、支持体3の前端から約238mmの部分に位置している。また、前傾斜面部27は、座面最下部形成部25のすぐ後方の、前後方向約77mmの領域に亘って形成されている。
【0026】
次に、このような構成を有する本実施の形態に係る腰掛便座の作用について説明する。本発明は、排便性を向上させるべく、使用者の直腸の湾曲の緩和を図るものである。そこで、本発明者は、排便性と骨盤及び直腸との関係に着目し、さらに、そこから湾曲緩和のための具体的な一手段として、骨盤に着目した。図6の(a)及び(b)はそれぞれ、使用者の姿勢と骨盤及び直腸との関係を示す図である。図6の(a)に示されるように、腰掛便座に着座した使用者31は、通常、その上体を起こした自然で楽な姿勢をとる。しかしながら、この自然な姿勢では、骨盤33が後傾してしまい恥骨直腸筋35を介して直腸37に力が作用し、図6の(a)に示されるように直腸37が湾曲することとなる。よって、従来の腰掛便座において自然な姿勢をとると、排便性は悪化することになる。一方、本発明者の検討では、図6の(a)の状態に対して骨盤33の向きが前転された図6の(b)に示す状態にされると、恥骨直腸筋35が直腸37に及ぼす力が低減されて直腸37の湾曲が緩和される。これにより排便性は向上する。しかしながら、従来の便座において骨盤33を排便しやすい向きにするためには、図6の(b)に示されているように、着座した使用者31は上体を前傾させた窮屈且つ不自然な姿勢をとることを余儀なくされる。
【0027】
本発明の腰掛便座は上記に鑑みてなされたものであり、本発明の腰掛便座によれば、使用者は便座に自然に着座した姿勢をとっていても、骨盤は前転方向に回転された図6(b)の状態にされる。このため、自然な姿勢をとりながら、直腸の湾曲を緩和することができ、排便性が良好になるものである。
図7は、本発明に関する骨盤回転部の機能を説明する図である。支持体3の上面には、使用者が着座する位置に、前傾斜面部27が設けられている。使用者が前傾斜面部27の上に着座する際、初めに使用者の臀部39と前傾斜面部27は図7に点線で示す位置関係にある。次いで、使用者が支持体3の前傾斜面部27に体重をかけると、体重に応じた鉛直方向下向きの重力Mが前傾斜面部27により支持されるようになる。この重力Mは、前傾斜面部27と平行な分力aと、前傾斜面部27と直交する垂直分力(図示せず)とに分解でき、使用者の身体は、かかる重力Mにおける前傾斜面部27と平行な分力aによって、前傾斜面部27の斜面に沿って下方に滑り落ちようとする。さらに、このような滑り落ちに対し、使用者の臀部39における前傾斜面部27と接触する皮膚には、重力Mにおける前傾斜面部27と直交する垂直分力(図示せず)に起因した摩擦力dが前傾斜面部27の斜面上向きに作用する。これら分力aと摩擦力dとの作用によって、使用者の身体では、臀部39の皮膚内側の内部側組織は、重力Mの分力aによって前傾斜面部27に沿って下方にずり落ちるようとする一方、臀部39の皮膚は、前傾斜面部27との摩擦力dによって前傾斜面部27に留まり、使用者の臀部39は図7において実線で示す位置に落ち着く。これは、使用者の臀部(の内部側組織)を基準にみると、臀部の皮膚が前傾斜面部27との間の摩擦力によって後方に引っ張り上げられるような力を受けることに相当し、この力により使用者の骨盤33は、図7に実線で示すように前転される。客観的には、図7に示すように、臀部39の内部側組織は、分力aにより前傾斜面部27に沿って下方にずり落ち、且つ、臀部39の皮膚は、摩擦力dにより前傾斜面部27に留まる。内部側組織として、大腿骨やそれとつながる骨盤33、更には、それらを取り巻く組織が下方に移動するが、骨盤33の下部は、摩擦力dによって前傾斜面部27に留まる臀部39の皮膚に近いため、それら内部側組織の移動は、骨盤上部側を前方に移動させる向きの回転力Tを骨盤33にもたらす。これによって、骨盤33は、図7において、点線の状態から実線の状態へと回転し、すなわち前転方向に立ち上がる。
【0028】
このように、本実施の形態では、使用者31は前傾斜面部27に着座するだけで、図6の(b)で示したように前傾姿勢をとることなく自然な姿勢で骨盤33を前転方向に立ち上がるよう回転させることができ、排便性の良好な姿勢、すなわち、恥骨直腸筋35が直腸37に及ぼす力が低減され、直腸37の湾曲が緩和されている排便しやすい姿勢、を得ることができる。
【0029】
図8に基づいて、上述した第1の実施の形態の変形例について説明する。図8は、本変形例に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す。(b)は、(a)の符号308に沿う前後方向断面である。本変形例に係る腰掛便座51は、ずり落ち低減部53を備える。ずり落ち低減部53は、使用者に作用する重力の前傾斜面部27と平行な分力により、臀部39の内部側組織が前傾斜面部27に沿って下方にずり落ちる際、使用者の大腿部の裏面と接触して大腿部のずり落ちに抵抗を与えるように構成されている部分であり、骨盤回転部5の前方に設けられている。ずり落ち低減部53は、その前方側が高くなった後傾斜面部55を含んでいる。後傾斜面部55は、前傾斜面部27との間で座面最下部形成部25を挟むようにして前傾斜面部27の前方に設けられている。限定される態様ではないが、一例として、後傾斜面部55の傾斜度は、図8のように前傾斜面部27の傾斜度よりも小さくなるように設定されていてもよい。
【0030】
このような腰掛便座51においても、前傾斜面部27を含む骨盤回転部5を備えることによって、図1〜図7の腰掛便座1と同様、着座した際、使用者の骨盤が前転方向に立ち上がり、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を得ることできる。また、これに加えて、本変形例では、次のような作用も得られる。まず、前述したように前傾斜面部27に着座することによって、臀部の皮膚内側の内部側組織は、重力Mの分力aによって前傾斜面部27に沿って下方にずり落ちることとなる。ここで、使用者の大腿部が大きくずり落ちると、前傾斜面部27と接触している使用者の臀部の皮膚まで大きくずり落ちる恐れがある。これに対して、本変形例では、ずり落ち低減部53が使用者の大腿部の裏面と接触して大腿部の前方への移動に抵抗を与えるため、大腿部の大きなずり落ちが低減され、前述した重力Mの分力aと摩擦力dとによる前転のための回転力Tが骨盤にしっかりと働く。また、後傾斜面部55は、前傾斜面部27のすぐ前方に設けられ、すなわち、骨盤の近くに設けられているため、前述の回転力Tをより的確に骨盤に働かせることができる。また、後傾斜面部の傾斜度が大きすぎると、使用者の膝が上がりすぎ、前傾斜面部による骨盤の前転促進効果が減少してしまう恐れがあるところ、図示例のように後傾斜面部55の傾斜度を前傾斜面部27の傾斜度よりも小さくすることで、大腿部の大きなずり落ちを抑えながら、骨盤の前転促進効果の減少も回避することが可能となっている。
【0031】
図9に基づいて、第1の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図9の(a)及び(b)はそれぞれ、本変形例に係る腰掛便座の側面図である。本変形例に係る腰掛便座61は、図9の(a)の着座前傾機構63または(b)の着座前傾機構65を備える。着座前傾機構63,65は、着座時、使用者の体重が支持体3にかけられると支持体3全体が便器に対して前傾するように支持体3の姿勢を変化させる。より詳細には、(a)の着座前傾機構63は、脚部として腰掛便座61の支持体3の底面に設けられた弾性部材から構成される。また、(b)の着座前傾機構65は、同じく脚部として腰掛便座61の支持体3の底面に設けられた少なくとも前後二対の弾性部材から構成される。着座前傾機構65の弾性部材においては、後方側に設けられた弾性部材のほうが、前方側に設けられた弾性部材よりも弾性率が高くなる関係を有する。
【0032】
このような腰掛便座61においても、前傾斜面部27を含む骨盤回転部5を備えることによって、図1〜図7の腰掛便座1と同様、着座した際、使用者の骨盤が前転方向に立ち上がり、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を得ることできる。加えて、本変形例では、着座前傾機構63,65によって着座の動作中に座面の前傾が進行するので、使用者にずり落ち作用を追加的に与え、より確実に骨盤の回転を促すことができる。また、着座したときにずり落ち作用が不足している場合でも、体重がかかるとさらに座面が前傾するため、より確実にずり落ち作用を得ることができる。
【0033】
第2の実施の形態.
第2の実施の形態として、着座位置誘導部を備え、それにより、使用者が、骨盤を回転させる前傾斜面部に着座するように促される腰掛便座について説明する。図10は、第2の実施の形態に係る腰掛便座の平面図である。腰掛便座71は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部73とを備える。
【0034】
支持体3は、前傾斜面部27の前方に設けられ座面の最も低い部分を含む座面最下部形成部25と、開口7の幅が平面視、最大となる位置を形成する開口最大幅形成部13とを有する。着座位置誘導部73は、前傾斜面部27への着座を誘導する機能を備えた手段である。着座位置誘導部73は、一態様として、視認可能な要素を有し、視覚的に使用者の着座位置を前傾斜面部27に誘導する。本実施の形態では、着座位置誘導部73は、前傾斜面部27の範囲内に設けられ且つ座面最下部形成部25の後方に形成された開口最大幅形成部13を含む。
【0035】
かかる腰掛便座71においては、前傾斜面部27への着座を誘導し、前傾斜面部27に着座させることによって、骨盤を前転方向に回転させて立ち上がらせ、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を得ることができる。とくに、着座位置誘導部73は、視認可能な要素を有するので、使用者は着座の前に一度は便座を見ることを利用し、着座位置の決定思考に含まれる視覚的情報を介して、視覚的に着座位置の誘導を行うことができる。また、前傾斜面部27の下部近傍の座面最下部形成部25に着座されてしまうとずり落ち作用が得られないところ、本実施の形態の着座位置誘導部73は、上記のような開口最大幅形成部13を備えており、便座の最も大きく開口している部分に着座しようとする使用者の習性を利用し、開口最大幅形成部13への着座を促し、すなわち、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0036】
図11に基づいて、第2の実施の形態の変形例について説明する。図11は、本変形例に係る腰掛便座の平面図である。腰掛便座81は、支持体3と、支持体の上面に設けられた前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部83とを備える。支持体3は、支持体最大幅形成部85を有する。支持体最大幅形成部85は、支持体3における、開口7に臨む内縁17と外縁15との幅が最大となる位置であり、前傾斜面部27の後方に形成されている。上記のように、支持体3の外縁15や内縁17の上部に湾曲21,23が形成されている場合には、支持体最大幅形成部85は、支持体3における下寄りの部分の幅が最も広いところに決定される。
このように、着座位置誘導部83は、座面最下部形成部25及び前傾斜面部27の後方に形成された支持体最大幅形成部85で構成される。
【0037】
かかる腰掛便座81においては、前傾斜面部27の下部近傍の座面最下部形成部25に着座されてしまうとずり落ち作用が得られないところ、より面積の大きな部分に着座しようとする使用者の習性を利用し、支持体最大幅形成部85を目標に使用者が腰を下ろし、前傾斜面部27へ着座するように誘導することができる。
【0038】
図12に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図12は、本変形例に係る腰掛便座の平面図である。腰掛便座91は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部93とを備える。本変形例では、着座位置誘導部93は、前傾斜面部27に設けられた着座マーカー95を備える。着座マーカー95は、目印として機能する形態であれば特に限定はなく、例えば、支持体3とは異なる色彩を施された部分として構成することができる。かかる腰掛便座91においては、目印によって着座位置を意識させ、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0039】
図13に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図13に、本変形例に係る腰掛便座に関し開口から放射方向に延びる断面を示す。(b)、(c)、(d)はそれぞれ、(a)の符号313、413、513に沿う放射方向の断面である。腰掛便座101は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部103とを備える。着座位置誘導部103は、前傾斜面部27への着座を誘導する機能を備えた手段であり、視認可能な要素を有している。
【0040】
本変形例では、着座位置誘導部103は、前傾斜面部27の座りにくさ感を低減するものであり、前傾斜面部27の前後方向傾斜の存在感を弱めるものである。具体的には、着座位置誘導部103は、便座後部に設けられ臀部を包み込むように立ち上がる凹面105を備える。凹面105は、図13の放射方向断面に示されるように、支持体3の上面における開口7の左右側方に設けられ、その一部は前傾斜面部27と重なるように設けられ、使用者の臀部が包み込まれるような形状を有している。
【0041】
かかる腰掛便座101においては、前傾斜面部が座りにくいという印象を薄れさせることによって、前傾斜面部への着座に関する抵抗を減らすことができ、また、前傾斜面部の前後方向の傾斜を意識させないようにすることによっても、前傾斜面部27への着座に関する抵抗を減らすことができる。また、着座位置誘導部103は、臀部を包み込むように立ち上がる凹面105を備えることによって、使用者に臀部を包み込むような形状を視認させ、安定感・落ち着き感からそこに着座しようとする使用者の習性を利用し、着座位置を前傾斜面部27に誘導することができる。
【0042】
図14に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図14は、本変形例に係る腰掛便座の平面及びその前後方向断面を示す図である。(b)は、(a)の符号314に沿う前後方向断面である。腰掛便座111は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部113とを備える。本変形例では、着座位置誘導部113は、後部急斜面部115を備える。後部急斜面部115は、図14に示されるように、前傾斜面部27の後方に設けられている。開口最大幅形成部13は、座面最下部形成部25の後方にあり、座面最下部形成部25は、前傾斜面部27の前方に設けられている。また、後部急斜面部115の傾斜度θ1は、前傾斜面部27の傾斜度θ2よりも大きくなるように設定されている。一例を示すと、傾斜度θ1は、約28度、傾斜度θ2は、約14度に設定されている。
【0043】
かかる腰掛便座111においては、使用者に対し、前傾斜面部27より急斜面である後部急斜面部115を意識させることによって、その反射的効果として前傾斜面部27の前後方向の傾斜への意識を弱め、後部急斜面部115手前の前傾斜面部27への着座に関する抵抗を減らすことができる。それによって、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0044】
図15に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図15の(a)は、本変形例に係る腰掛便座の平面図であり、(b)は、その斜視図であり、(c)、(d)はそれぞれ、(a)、(b)の符号315、415に沿う左右方向断面、前後方向断面である。腰掛便座121は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部123とを備える。本変形例では、前傾斜面部27は、前傾するだけでなく、図15に示されるように、左右方向にも傾いており、前後方向斜面27aと、左右方向斜面27bとを含む。本変形例では、着座位置誘導部123は、左右方向斜面27bを備えており、左右方向斜面27bの傾斜度θ4は、前後方向斜面27aの傾斜度θ3よりも大きくなるように設定されている。
【0045】
かかる腰掛便座121においては、使用者に前傾斜面部27の左右方向の傾斜を意識させることによって、その反射的効果として前傾斜面部の前後方向の傾斜への意識を弱め、前傾斜面部27への着座に関する抵抗を減らすことができる。それによって、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0046】
図16に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図16は、本変形例に係る腰掛便座の平面と前後方向断面とを示す図であり、(b)は、(a)の符号316に沿う前後方向断面である。腰掛便座131は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部133とを備える。着座位置誘導部133は、前傾斜面部27への着座を誘導する機能を備えた手段であり、視認可能な要素を有している。
【0047】
本変形例では、着座位置誘導部133は、座面最下部形成部25への座りにくさ感を強調するものであり、具体的には、前部急斜面部135を備えている。前部急斜面部135は、図16に示されるように、座面最下部形成部25と前傾斜面部27との間に設けられ、前方側が低くなった前傾の斜面である。また、前部急斜面部135の前後方向の傾斜度は、前傾斜面部27の前後方向の傾斜度よりも大きくなるように設定されている。
【0048】
かかる腰掛便座131においては、便座のより低い部位に着座しようとする使用者に対して、座面最下部形成部25が座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。また、着座位置誘導部133は、座面最下部形成部25と前傾斜面部27との間に前部急斜面部135を備えることによって、よりフラットな部分に着座しようとする使用者の習性を利用して、前傾斜面部27から急激に落とし込まれた位置にある座面最下部形成部25の方が座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0049】
図17に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図17は、本変形例に係る腰掛便座の平面及びその前後方向断面を示す図であり、(b)は、(a)の符号317に沿う前後方向断面である。腰掛便座141は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部143とを備える。本変形例では、着座位置誘導部143は、座面最下部形成部25の前方に設けられ前方側が高くなった後傾部145を備える。座面最下部形成部25を中心にその前方及び後方の双方において座面最下部形成部25からみて上向きの斜面(後傾部145、前傾斜面部27)が延びており、かかる態様により、支持体3には、座面最下部形成部25を内側に含むような窪み147が現れている。換言するならば、支持体3は、座面最下部形成部25が底となり、そこから立ち上がる側面を後傾部145、前傾斜面部27に構成されている窪み147を有している。
【0050】
かかる腰掛便座141においては、後傾部145と前傾斜面部27とに挟まれた座面最下部形成部25が窪み147の底にあるかのような印象を与え、よりフラットな部分に着座しようとする使用者の習性を利用して、座面最下部形成部25が座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導する。なお、図8に示した形態における、ずり落ち低減部53としての後傾斜面部55を、着座位置誘導部143の後傾部145として機能させるように構成することも可能であり、その場合、座面最下部形成部25の前方の後傾斜面は、使用者大腿部の大きなずり落ちを低減すると共に、座面最下部形成部25が座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導する。
【0051】
図18に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図18は、本変形例に係る腰掛便座の平面を示す図である。腰掛便座151は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部153とを備える。本変形例では、着座位置誘導部153は、座面最下部形成部25の前方に設けられた後傾部155を備える。座面最下部形成部25を中心にその前方及び後方の双方に上向きの斜面が延びている。また、後傾部155と前傾斜面部27とにおける、座面最下部形成部25寄りの部分は、開口7に向けて落ち込むように左右方向にも傾斜している。それによって、座面最下部形成部25における開口7寄りの部分には、座面最下部形成部25がほぼ中央に位置するような平面視三角形状にみえるような窪み157が現れる。
【0052】
かかる腰掛便座151においては、座面最下部形成部25の開口7寄りに、平面視三角形状に見えるような窪み157が存在し、座面最下部形成部25が座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0053】
図19に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図19は、本変形例に係る腰掛便座に関し、開口から放射状に延びる断面を示す図である。(b)、(c)はそれぞれ、(a)の符号319、419に沿う放射方向の断面である。腰掛便座161は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部163とを備える。支持体3の内縁17の上部には、湾曲23が設けられており、本変形例の着座位置誘導部163は、内縁17のうちの座面最下部形成部25が交差する部分を、誘導内縁部17aとして備える。そして、誘導内縁部17aの湾曲23aの曲率半径は、誘導内縁部17a後方、特に前傾斜面部27側方の内縁の湾曲17の曲率半径よりも小さくなるように設定されている。
【0054】
かかる腰掛便座161においては、よりフラットな部分に着座しようとする使用者の習性を利用して、座面最下部形成部25の方がその後方の前傾斜面部27が存在するあたりの部分よりも支持体内縁が角張っている分、座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導する。
【0055】
上述した誘導内縁部17aに加えて或いはそれに代えて、誘導外縁部を着座位置誘導部として用いる形態について説明する。支持体3の外縁15の上部には、湾曲21が設けられており、本変形例の着座位置誘導部173は、外縁15のうちの座面最下部形成部25が交差する部分を、誘導外縁部15aとして備える。そして、誘導外縁部15aの湾曲21aの曲率半径は、誘導外縁部15a後方、特に前傾斜面部27側方の外縁の湾曲21の曲率半径よりも小さくなるように設定されている。
【0056】
かかる構成によっても、よりフラットな部分に着座しようとする使用者の習性を利用して、座面最下部形成部25の方がその後方の前傾斜面部27が存在するあたりの部分よりも支持体外縁が角張っている分、座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導する。
【0057】
図20に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図20は、本変形例に係る腰掛便座に関する斜視図であり、二つの稜線を示す図である。腰掛便座181は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部183とを備える。さらに、支持体3は、座面最小幅形成部185を有している。ここで、座面最小幅形成部について、図5、図19及び図20を用いて説明する。図5及び図19に関して説明した形態と同様、支持体3は、上面19の内縁17側に湾曲23を備え、上面19の外縁15側に湾曲21を備える。そして、支持体3には、図20に示したように、上面19と湾曲23との接続点を連ねることによって内側の稜線Lと、上面19と湾曲21との接続点を連ねることによって外側の稜線Hという二つの稜線を導出することができる。そして、座面最小幅形成部185は、二つの稜線L,Hの左右方向の幅Wが最小となる部位を含むような左右延長線の部分である。座面最小幅形成部185は、座面最下部形成部25と一致しており、本変形例における着座位置誘導部183は、このような座面最小幅形成部185によって構成されている。
【0058】
かかる腰掛便座181においては、座面の幅が小さい部分には座り心地が悪いと感じる使用者の習性を利用して、座面最下部形成部25は座りにくいという印象を持たせ、前傾斜面部27への着座を誘導することができる。
【0059】
図21に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図21は、本変形例に係る腰掛便座の平面図である。腰掛便座191は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部と、前傾斜面部27の前方に座面最下部形成部25とを備える。前傾斜面部27の前後方向の中央部195と座面最下部形成部25との距離Yは、着座時の臀部の内部側組織のずり落ち距離よりも長い。着座位置誘導部は、前傾斜面部27への着座を誘導する機能を備えた手段であれば特に限定はない。なお、内部側組織のずり落ち距離は、例えば、使用者の着座初期の内部組織の位置と、着座終了時の内部組織の位置を、X線撮影等にて比較することにより求めることができる。
【0060】
本変形例によれば次のような作用が得られる。着座位置誘導部によって好適な着座位置に誘導しても、その着座位置から座面最下部形成部25までの距離が短いと、臀部の内部側組織が十分にずり落ちることができず、その結果、骨盤を十分に回転させることができない問題がある。これに対し、本変形例によれば、誘導された位置のほぼ真ん中に腰を下ろそうとする使用者の習性を利用し、傾斜面部27の前後方向の中央部195と座面最下部形成部25との距離Yが、着座時の臀部の内部側組織のずり落ち距離よりも長いので、使用者に対して十分なずり落ちスペースが確保され、前述のような骨盤が十分に回転できない問題を回避することができる。
【0061】
図22に基づいて、第2の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図22の(a)は、本変形例に係る腰掛便座の平面、(b)〜(d)は、(a)の符号322に沿う左右方向断面に関し、構成のバリエーションを示す図である。腰掛便座201は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27への着座を誘導する着座位置誘導部とを備える。便座後部における左右方向の中央領域205は、その左右の領域207と同じ高さか又は低く形成されている。具体的なバリエーションを示すと、図22の(b)は、便座後部における左右方向の中央領域205が、その左右の領域207と同じ高さに構成されている例であり、図22の(c)は、便座後部における左右方向の中央領域205が、その左右の領域207よりも低く形成されている例である。さらに、図22の(d)は、便座後部における左右方向の中央領域205が、その左右の領域207よりも低く形成されている態様において、さらに、領域207よりも外側の領域209が中央領域205と同様、領域207よりも低く形成されている構成の例である。着座位置誘導部は、前傾斜面部27への着座を誘導する機能を備えた手段であれば特に限定はない。本変形例によれば、着座位置誘導部により誘導され、便座の後方寄りにある前傾斜面部に着座した際、使用者31の尾てい骨39aが便座後部中央領域205に当たることを回避することができる。
【0062】
第3の実施の形態.
第3の実施の形態として、骨盤姿勢保持部を備え、それにより、使用者のずり落ちを前傾斜面部の途中で終了させることによって、使用者の骨盤が回転されたままの状態を保つ腰掛便座について説明する。図23の(a)は、本実施の形態に係る腰掛便座の平面図であり、(b)は、(a)の符号323に沿う左右方向断面である。腰掛便座211は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、使用者の骨盤が回転された状態を保つ骨盤姿勢保持部とを備える。骨盤姿勢保持部は、前傾斜面部27の途中に設けられるものである。具体的には、骨盤姿勢保持部は、座面最下部形成部25の後方の前傾斜面部27の途中に使用者の臀部を保持するようにして使用者の上記ずり落ちを止める臀部ずり落ち抑制部213を備える。また、臀部ずり落ち抑制部213は、一例として、前傾斜面部27の途中で使用者の臀部を開口7に落とし込むように開口7に向けて傾斜した落とし込み傾斜部215を備える。落とし込み傾斜部215は、支持体3の内周上面であって開口7の左右側部に設けられている。本実施形態においては、落とし込み傾斜部215は、開口7において座面最下部形成部25が位置する部分217aよりも後方に位置する目標点217bを中心とするすり鉢状の曲面の一部として形成されている。従って、目標点217bよりも前方の落とし込み傾斜部215は目標点217bに向けて後傾し、目標点217bよりも後方の落とし込み傾斜部215は目標点217bに向けて前傾している。
【0063】
かかる腰掛便座211においては、着座した際、骨盤が前転方向に立ち上がり、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を獲得し、かつ、その姿勢を保持することができる。より詳細には、使用者の臀部が、座面最下部形成部25まで落ちてしまうと、前傾斜面部27による重力Mの分力aが得られなくなって骨盤の姿勢が戻ってしまう恐れがあるところ、本実施の形態では、使用者の臀部を、座面最下部形成部25の後方の前傾斜面部27の途中に位置するように止める臀部ずり落ち抑制部213を含むことで、そのような骨盤の姿勢が戻ってしまう問題を防止することができる。また、臀部ずり落ち抑制部213が、臀部の位置の保持を助けるため、使用者の体力的な負荷をより小さくすることができる。ずり落ち抑制の具体的態様としては、前傾斜面部27の途中で使用者の臀部を開口7に落とし込むように開口7に向けて傾斜した落とし込み傾斜部215が設けられていることによって、使用者の臀部が、前傾斜面部27の途中で開口7に向けて落とし込まれ、それ以上、前方にずり落ちることが抑制されて、骨盤の回転した姿勢が保持される。また、臀部が落ち込むことによって肛門が広がり、さらに排便しやすい姿勢を得ることもできるという効果も得られる。
【0064】
図24に基づいて、第3の実施の形態の変形例について説明する。図24の(a)は、本変形例に係る腰掛便座の平面図であり、(b)、(c)はそれぞれ、(a)の符号324、424に沿う左右方向断面である。腰掛便座211は、支持体3と、前傾斜面部27と、座面最下部形成部25と、使用者の骨盤が回転された状態を保つ骨盤姿勢保持部とを備える。支持体3には、使用者が着座目標とする位置としての開口最大幅形成部13が設けられている。骨盤姿勢保持部は、座面最下部形成部25の後方の前傾斜面部27の途中に使用者の臀部を保持するようにして使用者の上記ずり落ちを止める臀部ずり落ち抑制部223を備える。臀部ずり落ち抑制部223は、開口7を挟んだ左右の座面の間隔が最大となる座面間隔最大部225を備える。ここで、座面間隔最大部について説明すると、図5、図19及び図20に関し説明したように、支持体3には、上面19と湾曲23との接続点を連ねることによって内側の稜線Lが導出できるところ、座面間隔最大部は、図24に示すように、開口7を挟んで左右両側にある稜線L同士の左右方向の間隔Xが最小となる部位を含むような左右延長線の部分である。座面間隔最大部225は、座面最下部形成部25の後方の前傾斜面部27の途中に配置されており、前傾斜面部27の途中において、使用者の臀部が座面間隔最大部225にはまり込むことで臀部の内部側組織のずり落ちを終了させる。より好適な構成では、かかる構成に加えて、座面間隔最大部225が座面最下部形成部25と開口最大幅形成部13との間に位置しているようにするとよい。
【0065】
かかる腰掛便座221においては、使用者の臀部が、座面最下部形成部25まで落ちてしまうと、前傾斜面部27による重力Mの分力aが得られなくなって骨盤の姿勢が戻ってしまう恐れがあるところ、前傾斜面部27の途中に座面間隔最大部225があり、使用者の臀部は座面間隔最大部にはまり込みやすいため、臀部をより確実に前傾斜面部の途中で止めておき、骨盤の姿勢が戻ってしまう問題を防止することができる。
【0066】
さらに、座面間隔最大部225が座面最下部形成部25と開口最大幅形成部13との間に位置している場合には、開口最大幅形成部13を着座位置誘導部として機能させ、着座位置から座面間隔最大部225までの間に、骨盤を好適に回転させるためのずり落ち動作を得る距離をより確実に確保し、その上で、座面間隔最大部225において臀部のずり落ち抑制し回転した骨盤の保持を実現することができる。
【0067】
第4の実施の形態.
第4の実施の形態として、開脚抑制部を備え、それにより、使用者の開脚を抑制し、後述するような骨盤下部側に引張力を付与する筋群の弛緩を維持することで、骨盤を前転方向に立ち上がりやすくし、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を獲得する腰掛便座について説明する。図25の(a)は、本実施の形態に係る腰掛便座の平面図であり、(b)は、(a)の符号325で示した中央前方から外側後方に延びる切断線に沿う断面を示す図である。腰掛便座241は、支持体3と、前傾斜面部27と、前傾斜面部27の前方に設けられた座面最下部形成部25と、使用者の着座時の開脚を抑制する開脚抑制部243とを備える。本実施の形態では、開脚抑制部243は、支持体3の前方にいくほど間隔が広がるように平面視ハの字状に延びる一対の抑制凹溝245を備える。それにより、使用者の大腿部それぞれは、対応する抑制凹溝245に落とし込まれることで、大腿部がその側方から開脚抑制される。抑制凹溝245は、座面最下部形成部25近傍に設けられている。さらに、抑制凹溝245はそれぞれ、支持体3の中央寄りに位置する内側斜面245aと、支持体3の左右外側寄りに位置する外側斜面245bとを含み、内側斜面245aの傾斜度は、外側斜面245bの傾斜度よりも小さくなっている。
【0068】
次に、このような構成を有する本実施の形態に係る腰掛便座の作用について説明する。それに先立ち、大腿部の開脚と骨盤との関係を説明する。図26は、大腿部の開脚と骨盤の後傾との関係を示す図であり、図27は、大腿部の開脚抑制が骨盤に与える影響を示す図である。図26に示されるように、大腿骨41の付け根には、内転筋群43があり、内転筋群43の後端は、最終的には骨盤33の下部につながっており、内転筋群43の前端は、最終的には大腿骨41につながっている。このため、大腿部が開脚されると、図26に示されるように、内転筋群43は引っ張られ、内転筋群43に生じている張力が増大する。かかる張力の増大によって、骨盤33はその下部が前方に引っ張られ、すなわち、骨盤33には後転する向きの回転力が作用する。そして、かかる後転方向の回転力は、本発明が達成しようとする骨盤33の前転を阻害するものとなる。一方、図27に示されるように、大腿部の開脚が抑制され、すなわち、大腿部がある程度、閉じた状態に維持されていると、内転筋群43の弛緩も維持されることとなり、骨盤33において後転方向の回転力が増大することが回避され、骨盤33はより前転しやすくなる。
【0069】
本実施の形態は、このような大腿部の開脚と骨盤との関係に基づき、開脚抑制部243を備えることによって、使用者の開脚を抑制し、骨盤下部側に引張力を付与する筋群の弛緩を維持することで、骨盤を前転方向に立ち上がりやすくし、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を獲得する。また、開脚抑制部243として、支持体3の前方にいくほど間隔が広がるように平面視ハの字状に延びる一対の抑制凹溝245を採用することにより、個々の大腿部に対し左右方向の動きを直接防止し、使用者の開脚を抑制する。なお、一対の抑制凹溝245を採用することで、個々の大腿部の側面にまで便座との接触領域を拡大することができ、使用者に対し、より確実に摩擦力を作用させることで、摩擦力と重力分力とによる骨盤の前転をより確実に生じさせるという利点も得られている。さらに、抑制凹溝245はそれぞれ、座面最下部形成部25の近傍に設けられているため、抑制凹溝245が骨盤33のより近くにあることとなる。そのため、抑制凹溝245に起因した使用者への摩擦力もまた骨盤33のより近くから作用させることができ、摩擦力と重力分力とが効率よく機能して骨盤を回転させることができる。
【0070】
さらに、本実施の形態では、大腿骨の軸芯まわりの旋回運動に起因した利点も得られている。図28の(a)に大腿骨の旋回運動について示す。また、図28の(b)は、(a)の符号328に沿うような抽象的な断面において大腿骨の旋回運動を示すものである。図28の矢印41aに示されるように、大腿骨41に対して、その軸芯まわりに外旋運動を行う向きの回転力が作用すると、実際の大腿骨41はその前端が膝につながることで旋回運動に対する拘束を受けていることから、結果的には左右の膝が離隔する方向に移動するような大腿部の開脚運動となって現れる。逆に、大腿骨41に対し、矢印41bに示されるように、その軸芯まわりに内旋運動を行う向きの回転力が作用すると、結果的に左右の膝が接近する方向に移動するような大腿部の閉脚運動となって現れる。このような関係を前提とし、本実施の形態では、抑制凹溝245の内側斜面245aの傾斜度が外側斜面245bの傾斜度よりも小さくなっており、巨視的にみて、抑制凹溝245が支持体3の外側から中央(開口)に向けて傾いているものとみることができ、それにより、左右の大腿部それぞれは、開口7に向けて落ち込むような内旋運動を行うような向きの回転力を受ける。よって、結果的には、前述の関係から左右の膝が接近する方向に移動するような大腿部の閉脚運動が促され、上記筋群の弛緩がさらに維持されやすくなり、骨盤の立ち上がりがより容易になるという利点が得られる。
【0071】
図29に基づいて、第4の実施の形態の変形例について説明する。図29の(a)は、抑制凹溝の外側斜面の傾斜度が一様ではない本変形例に係る腰掛便座の平面を示し、(b)、(c)は、(a)の符号329、429で示した中央前方から外側後方に延びる切断線に沿う断面を示す図である。腰掛便座251は、支持体3と、前傾斜面部27と、座面最下部形成部25と、使用者の着座時の開脚を抑制する開脚抑制部253とを備える。開脚抑制部253は、支持体3の前方にいくほど間隔が広がるように平面視ハの字状に延びる一対の抑制凹溝255を備える。抑制凹溝255はそれぞれ、座面最下部形成部25の近傍に設けられている。また、抑制凹溝255はそれぞれ、支持体3の中央寄りに位置する内側斜面255aと、支持体3の左右外側寄りに位置する外側斜面255bとを含み、内側斜面255aの傾斜度は、外側斜面255bの傾斜度よりも小さくなっている。さらに、抑制凹溝255における外側斜面255bの傾斜度は、一様ではなく、抑制凹溝255の延長方向に関して前方にいくほど小さくなるように変化している。例示として、図29には二つの断面が示され、(c)の断面は、(b)の断面よりも抑制凹溝255の延長方向に関して前方に位置する断面である。そして、(c)の断面における外側斜面255bの傾斜度は、(b)の断面における外側斜面255bの傾斜度よりも小さくなっている。
【0072】
かかる腰掛便座251によっては、開脚抑制部253を備えることで、使用者の開脚を抑制し、骨盤下部側に引張力を付与する筋群の弛緩を維持することで、骨盤を前転方向に立ち上がりやすくし、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を獲得する。さらに、一対の抑制凹溝255を備えることで、個々の大腿部に対し左右方向の動きを直接防止し、使用者の開脚を抑制すると共に、個々の大腿部の側面にまで便座との接触領域を拡大し、摩擦力と重力分力とによる骨盤の前転をより確実に生じさせることができる。さらに、抑制凹溝255が骨盤33のより近くにあることで、摩擦力と重力分力とを効率よく機能させて骨盤を回転させることができる。さらに、内旋運動を行うような向きの回転力に起因して大腿部の閉脚運動が促され、上記筋群の弛緩がさらに維持されやすくなり、骨盤の立ち上がりがより容易になるという利点が得られる。
【0073】
また、便座に着座した使用者の大腿部は、前方寄りの部分の方が圧迫される。これについては、次のようなことによる。図30に示される、着座した使用者の臀部及び大腿部と支持体との位置関係から分かるように、大腿部の後方寄りの部分は、支持体3の内側に収まる一方、大腿部の前方寄りの部分は、支持体3から左右外側にはみ出す傾向が増える。このため、着座した使用者の大腿部は、前方寄りの部分の方がより圧迫される傾向にある。これに対し、本変形例では、前述の図29の(b)及び(c)の断面の例示で説明したように、抑制凹溝255の外側斜面255bの傾斜度は前方にいくほど小さくなるように構成されているので、このような圧迫を回避し使用者の負担を減少させることができるという利点が得られる。すなわち、本変形例では、大腿部の骨盤に近い部分では、開脚抑制による骨盤の立ち上がり促進効果を獲得しながらも、それに影響しない大腿部の部分では、圧迫を回避し使用者の負担を減少させることができるという利点も得られている。
【0074】
図31に基づいて、第4の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図31の(a)は、抑制凹溝がフラット面を含む本変形例に係る腰掛便座の平面を示し、(b)は、(a)の符号331で示した中央前方から外側後方に延びる切断線に沿う断面を示す図である。腰掛便座261は、支持体3と、前傾斜面部27と、座面最下部形成部25と、使用者の着座時の開脚を抑制する開脚抑制部263とを備える。開脚抑制部263は、支持体3の前方にいくほど間隔が広がるように平面視ハの字状に延びる一対の抑制凹溝265を備える。抑制凹溝265はそれぞれ、座面最下部形成部25の近傍に設けられている。また、抑制凹溝265はそれぞれ、支持体3の中央寄りに位置する内側斜面265aと、支持体3の左右外側寄りに位置する外側斜面265bとを含み、内側斜面265aの傾斜度は、外側斜面265bの傾斜度よりも小さくなっている。さらに、開脚抑制部263は、上記抑制凹溝の上記内側斜面よりもさらに上記支持体の中央寄り且つ前方に、水平方向に延びるフラット面267を備えている。なお、限定するものではないが、本変形例においても、外側斜面255bの傾斜度は抑制凹溝255の延長方向に関して前方にいくほど小さくなるように変化しているように構成してもよい。
【0075】
かかる腰掛便座261によっても、開脚抑制部263を備えることで、使用者の開脚を抑制し、骨盤を前転方向に立ち上がりやすくし、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を獲得する。さらに、一対の抑制凹溝265により、個々の大腿部に対し左右方向の動きを直接防止し、開脚を抑制すると共に、個々の大腿部の側面にまで便座との接触領域を拡大し、骨盤の前転をより確実に生じさせることができる。さらに、抑制凹溝245が骨盤33のより近くにあることで、摩擦力と重力分力とを効率よく機能させて骨盤を回転させることができる。さらに、内旋運動を行うような向きの回転力に起因して大腿部の閉脚運動を促し、骨盤の立ち上がりがより容易になるという利点が得られる。また、前述したように、大腿部は、その前方寄りの部分ほど、圧迫される恐れがあるところ、本変形例では、内側斜面265aよりもさらに支持体3の中央寄り且つ前方に水平方向に延びるフラット面267が設けられるので、大腿部の骨盤に近い部分では、開脚抑制による骨盤の立ち上がり促進効果を獲得しながらも、それに影響しない大腿部の部分では、圧迫を回避し使用者の負担を減少させることができるという利点も得られる。
【0076】
第5の実施の形態.
第5の実施の形態として、ずり落ち低減部を備え、それにより、大腿部の前方への移動に抵抗を与え、大腿部の大きなずり落ちが低減される腰掛便座について説明する。図32に基づいて、本実施の形態について説明する。図32の(a)は、本実施の形態に係る腰掛便座の平面を示し、(b)、(c)は、(a)の符号332、432に沿う前後方向断面である。腰掛便座271は、支持体3と、前傾斜面部27と、座面最下部形成部25と、ずり落ち低減部273とを備える。ずり落ち低減部273は、使用者に作用する重力の前傾斜面部27と平行な分力により、臀部39の内部側組織が前傾斜面部27に沿って下方にずり落ちる際、使用者の大腿部の裏面と接触して大腿部のずり落ちに抵抗を与えるように構成されている部分であり、前傾斜面部27の前方に設けられている。また、ずり落ち低減部273は、その前方側が高くなった後傾斜面部275を含んでいる。後傾斜面部275は、前傾斜面部27との間で座面最下部形成部25を挟むようにして前傾斜面部27の前方に設けられている。後傾斜面部275の前後方向の傾斜度は、支持体3の外側の位置ほど支持体3の中央よりも小さくなっている。例示として、図32には二つの断面が示され、(c)の断面は、(b)の断面よりも支持体3の外側に位置する断面である。そして、(b)の断面における後傾斜面部275の前後方向の傾斜度は、(c)の断面における後傾斜面部275の前後方向の傾斜度よりも小さくなっている。なお、後傾斜面部275の傾斜度は、前傾斜面部27の傾斜度よりも小さくなるように設定されていてもよい。
【0077】
このような腰掛便座271によっても、前傾斜面部27を備えることによって、図1〜図7の腰掛便座1と同様、着座した際、使用者の骨盤が前転方向に立ち上がり、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を得ることできる。また、これに加えて、本実施の形態では、次のような作用も得られる。まず、前述したように前傾斜面部27に着座することによって、臀部の皮膚内側の内部側組織は、重力の分力によって前傾斜面部27に沿って下方にずり落ちることとなる。ここで、使用者の大腿部が大きくずり落ちると、臀部の皮膚と前傾斜面部27との間の摩擦力による作用が十分に得られず、骨盤が前傾斜面部27と平行に併進してしまうか不十分な回転しか得られない問題がある。これに対して、本実施の形態では、ずり落ち低減部273が使用者の大腿部の裏面と接触して大腿部の前方への移動に抵抗を与えるため、大腿部の大きなずり落ちが低減され、重力の分力と摩擦力とによる前転のための回転力が骨盤にしっかりと働く。また、本実施の形態では、このような作用が、追加的なパーツを必須とすることなく、後傾斜面部275を形成するという支持体の形態の工夫だけで得られている。また、ずり落ち抑制のための後傾斜面部275が、大腿部裏側を圧迫し使用者に負担を及ぼす恐れがあるところ、後傾斜面部275における外側の傾斜度を中央の傾斜度よりも小さくすることで、大腿部裏側に作用する圧力を支持体の外側へと分散させることができる。これにより、後傾斜面部により使用者の大腿部の大きなずり落ちを抑制しながらも、使用者の身体に作用する負担を大幅に減少させることもできる。
【0078】
図33に基づいて、第5の実施の形態の変形例についてについて説明する。図33の(a)は、本変形例に係る腰掛便座の平面を示し、(b)は、(a)の符号333に沿う支持体の中央寄りの前後方向断面を示し、(c)、(d)は、(a)の符号433に沿う支持体の外側寄りの前後方向断面の異なるバリエーションを示す図である。
【0079】
腰掛便座281は、支持体3と、前傾斜面部27と、座面最下部形成部25と、ずり落ち低減部283とを備える。ずり落ち低減部283は、使用者の大腿部の裏面と接触して大腿部のずり落ちに抵抗を与えるように構成されている部分であり、前傾斜面部27の前方に設けられている。本変形例のずり落ち低減部283は、後傾斜面部285と、フラット面部287aまたは第2前傾斜面部287bとを備えている。後傾斜面部285と、フラット面部287aまたは第2前傾斜面部287bとは、何れも前傾斜面部27との間で座面最下部形成部25を挟むようにして前傾斜面部27の前方に設けられているが、後傾斜面部285は、図33における(b)の断面に示されるように、前傾斜面部27前方における支持体3の中央寄りのみに設けられ、フラット面部287aまたは第2前傾斜面部287bは、図33における(c)又は(d)の断面に示されるように、前傾斜面部27前方における支持体3の外側寄りのみに配置されている。なお、後傾斜面部285の傾斜度は、前傾斜面部27の傾斜度よりも小さくなるように設定されていてもよい。
【0080】
このような腰掛便座281によっても、前傾斜面部27を備えることによって、図32の腰掛便座271と同様、着座した際、使用者の骨盤が前転方向に立ち上がり、直腸の湾曲が緩和された排便しやすい姿勢を得ることできる。また、ずり落ち低減部283が使用者の大腿部の裏面と接触して大腿部の前方への移動に抵抗を与えるため、大腿部の大きなずり落ちが低減され、重力の分力と摩擦力とによる前転のための回転力が骨盤にしっかりと働く。また、このような作用は、追加的なパーツを必須とすることなく、後傾斜面部285と、フラット面部287aまたは第2前傾斜面部287bとを形成するという支持体の形態の工夫だけで得られている。また、ずり落ち抑制のための後傾斜面部が大腿部裏側を圧迫し使用者に負担を及ぼす恐れがあるところ、本変形例の後傾斜面部285は支持体3の中央寄りの位置にのみ設けられ、支持体3の外側寄り(後傾斜面部285の側方)の位置には、フラット面部287aまたは第2前傾斜面部287bが設けられているので、大腿部裏側に作用する圧力を支持体の外側へと分散させることができる。これにより、後傾斜面部により使用者の大腿部の大きなずり落ちを抑制しながらも、使用者の身体に作用する負担を大幅に減少させることもできる。
【0081】
図34に基づいて、第5の実施の形態のさらに別の変形例について説明する。図34の(a)は、本変形例に係る腰掛便座の平面を示し、(b)は、(a)の符号334に沿う前後方向断面である。本変形例の腰掛便座291は、図34における(b)の断面に示されるように、前述した図32または図33に示した変形例における後傾斜面部275または285の前方に、前方側が低くなった前方圧逃がし用前傾斜面部297を設けたものである。なお、後傾斜面部275,285の傾斜度は、前傾斜面部27の傾斜度よりも小さくなるように設定されていてもよい。
【0082】
このような腰掛便座291によっても、図32,33の腰掛便座271,281と同様な作用が得られる。それに加えて、腰掛便座291では、大腿部裏側に作用する圧力を、支持体の前方へと分散させ、それによっても使用者の身体に作用する負担を減少させることができる。
【0083】
以上、好ましい形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の改変態様を採り得ることが可能である。
【符号の説明】
【0084】
241、251、261 腰掛便座
3 支持体
7 開口
13 開口最大幅形成部
25 座面最下部形成部
27 前傾斜面部
243、253、263 開脚抑制部
245、255、265 抑制凹溝
245a、255a、265a 内側斜面
245b、255b、265b 外側斜面
267 フラット面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器の上に置かれて使用される腰掛便座であって、
排泄物が落下する開口の周囲にあって使用者の身体を支持する支持体と、
上記支持体の上面において、使用者が着座した際に使用者の臀部と接触する位置に設けられ、使用者の骨盤上部側が前方に移動する向きで骨盤を回転させる前傾斜面部であって、前方側が低くなっており、使用者がその前傾斜面部の上に着座し、上記前傾斜面部と使用者の臀部とが接触する一方、臀部の内部側組織が、使用者に作用する重力の上記前傾斜面部と平行な分力により該前傾斜面部に沿って下方にずり落ち、それにより、使用者の臀部の皮膚が上記前傾斜面部によって後方に引っ張り上げられることによって骨盤を回転させるように構成されている上記前傾斜面部と、
使用者の着座時の開脚を抑制する開脚抑制部と
を備える、腰掛便座。
【請求項2】
上記開脚抑制部は、上記支持体の前方にいくほど間隔が広がるように平面視ハの字状に延びる一対の抑制凹溝を含み、大腿部が、対応する上記抑制凹溝に落とし込まれることで、大腿部がその側方から開脚抑制されるように構成されている
請求項1記載の腰掛便座。
【請求項3】
上記支持体は、上記前傾斜面部の前方において座面の最も低い部分を含む座面最下部形成部を有しており、
上記抑制凹溝はそれぞれ、上記座面最下部形成部近傍に設けられている
請求項2記載の腰掛便座。
【請求項4】
上記抑制凹溝はそれぞれ、上記支持体の中央寄りに位置する内側斜面と、上記支持体の左右外側寄りに位置する外側斜面とを含み、
上記内側斜面の傾斜度は、上記外側斜面の傾斜度よりも小さい
請求項3記載の腰掛便座。
【請求項5】
上記外側斜面の傾斜度は凹部の延長方向に関し前方にいくほど小さくなる
請求項4記載の腰掛便座。
【請求項6】
上記開脚抑制部は、上記抑制凹溝の上記内側斜面よりもさらに上記支持体の中央寄り且つ前方に、水平方向に延びるフラット面をさらに含む
請求項4記載の腰掛便座。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2011−156279(P2011−156279A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22468(P2010−22468)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】