説明

腸保定のための成形弾性バリアおよび使用の方法

本発明は、本質的に楕円の形状を有する、前記楕円の短軸に沿って本質的に対称である、腸パッキングのためのデバイスを提供し、該デバイスは、短軸において長軸の下に位置するノッチを備える。デバイスは、弾性ポリマーを含む材料からなり、デバイスは、哺乳動物の腸を保定するために適切なサイズである。本発明はさらに、本発明のデバイスの腸パッキングのための使用の方法を提供する。本発明はさらに、デバイスの使用により、腸パッキングの速度を増加させるための方法、腸の保定の有効性を増大させるための方法、手術後の腹腔内癒着の形成を低減するための方法、および手術の間に腹腔の温度を上昇させるための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2008年4月23日に出願された米国仮出願61/125,219に対する優先権を主張し、該仮出願はその全体において本明細書において参考として組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
背景
腹部および骨盤の開腹手術は、手術部位に適切な露出部を作るために、腸の転置(displacement)および保定(retention)を要する。腸の一部が包帯材から手術部位へ突出している場合、腸パッキング術(bowel packing procedure)全体を完全にやり直さなければならない。術野へ腸が連続的に入り込むことは、外科医には時間および資源の浪費を、患者には麻酔時間の延長をもたらす。
【0003】
今日手術室において用いられる現行のパッキング術は、外科手術におけるイベントの全体的な優先順位に比して時間を要する。外科医はまず、腸を手術部位から離れたところに転置するためにその手を使う。次いで、腹腔内用スポンジおよびタオルを用いて、腸を邪魔にならないところにパック(pack)する。手術用綿スポンジは、特許3,971,381;4,490,146;4,626,251;4,205,680;4,515,594;および4,704,109により記載されるもののような多数の形態において製造される。これらの綿スポンジは、高吸収性であり、どの近代的な手術室にも存在するものである。最後に、開腹器をそっと牽引しながら包帯材の上から当て、それらを適所に保持する。
【0004】
腸パッキングは、30分までの時間を要し、長時間の手術の間に頻繁に繰り返されなければならない。また、手術用パッキング材が腹腔内に置き忘れられる場合がある。さらに、腸をパッキングするために用いられる綿スポンジは緩い綿繊維から作られており、これはスポンジを除去した後でも腹腔内に残る。これらの繊維は、手術後の癒着形成の主要な原因である腹腔の炎症を促進し得る。さらに、スポンジは手術の経過の間に乾燥する傾向があり、腸自体に対して摩耗性かつ粘着性となり、術後死亡率の主要な原因である癒着の形成にさらに寄与する。
【発明の概要】
【0005】
発明の要旨
本発明は、本質的に楕円形の形状を有し、前記楕円の短軸に沿って本質的に対称性である、腸パッキングのためのデバイスであって、ここで前記楕円は、ある長さを有する短軸と、ある長さを有する長軸と、周囲(perimeter)とを有し、ここで前記デバイスは前記短軸上において前記長軸の下に位置するノッチを有し;および前記デバイスは弾性化合物を含む材料からなり、および前記デバイスは哺乳動物の腸を保定するために適切なサイズである、前記デバイスを提供する。
【0006】
本発明により提供されるデバイスの多様な態様において、本質的に楕円形の形状を有するデバイスは、周囲において少なくとも4個のラジアルノッチを備え、ここで、
(a)長軸の上に配置される1または2以上のラジアルノッチ、ここで各々のノッチは、前記周囲上の前記ノッチの中心から前記ノッチの基部までの長さを有し、ここで前記ノッチの長さは前記短軸の長さの約30%〜約40%であり、各々のノッチは前記楕円の周囲において前記楕円の長軸の長さの約10%〜約15%の幅を有する;
(b)前記短軸上において長軸の下に位置する第2のラジアルノッチ、ここで前記第2のノッチは、前記周囲から前記ノッチの頂部までの、前記短軸の長さの約30%〜約40%である長さ、および前記周囲において前記長軸の長さの約32%〜約42%の幅を有する;
(c)前記短軸の左右に配置される2または3以上のラジアルノッチ、ここで、各々のノッチは、前記長軸の長さの少なくとも約5〜15%である、前記周囲における前記ノッチの中心から前記ノッチの基部までの長さを有する;
ここで、前記デバイスは、約0.1MPa〜約10MPaの弾性係数を有する1または2以上の弾性ポリマーからなり、前記デバイスは、哺乳動物の腸を保定するために適切なサイズである。
【0007】
本発明により提供されるデバイスの多様な態様において、前記楕円の短軸の長さの前記楕円の長軸の長さに対する比は、約0.55〜約0.65である。
本発明のある態様において、デバイスは、(a)につき、前記長軸の上に配置される、1個、2個、3個、4個、5個、またはそれより多いラジアルノッチを、ならびに、(c)につき、前記短軸の左側に2個、4個、6個、8個またはそれより多いラジアルノッチを、および前記短軸の右側に1個のラジアルノッチを備えることができ、ここで、(c)のラジアルノッチは、前記長軸においてまたはその上に位置され、前記デバイスは、前記長軸と平行な線の近傍における、底部のラジアルノッチの頂部の近傍の線に沿った、2つの本質的に対称な位置にある(c)のラジアルノッチの間の線の近傍において屈曲を備える。前記デバイスにおけるこの屈曲、ならびに前記ノッチにより作られるフラップの湾曲および可撓性は、本発明のデバイスを本質的に凹状にする。
【0008】
本発明により提供されるデバイスは、独立して選択される本質的に任意の形状のラジアルノッチを備える。ノッチの形状は、V形状、U形状およびベル形状を含むがこれらに限定されない。
本発明は、変動する厚みを有するデバイスを提供する。一態様において、長軸と短軸との交点におけるデバイスの部分は、周囲におけるデバイスの厚みよりも大きい。腸と接触するための中央部におけるデバイスのより大きな厚みは、より高い剛性を提供し、一方、より薄い、より可撓性が高いフラップは、腸内におけるデバイスの正しい位置決めを可能にする。
多様な態様において、本発明は、コーティングを備えたデバイスを提供する。コーティングは、デバイスが腸にくっつくことを防止するため、またはデバイスに任意の他の所望の表面特性を提供するために有用である。当業者は多数の適切なコーティングを選択することができる。
【0009】
本発明は、第1の長端と、これと向かい合う第2の長端、ならびに第1の短端および第2の短端を備える、本質的に長方形の主部を備えるデバイスを提供し;ここで、前記第1および第2の短軸が前記長軸を分離し;ここで
a)前記第1の長端は、前記第1の長端の長さに沿って、高さおよび幅を有する頂部フラップに連続的に繋がり、ここで前記頂部フラップは、該フラップが結合している前記主部の長端と向かい合う前記フラップの端部からのカットアウトを備え、ここで前記カットアウトの深さは、前記頂部フラップの高さの少なくとも80%であり;
b)前記第2の長端は、第2の端部の長さに沿って、二分岐した底部フラップに連続的に繋がり、ここで、前記二分岐した底部フラップの各半体が高さおよび幅を有し、ここで前記各フラップ半体の高さおよび幅は、他方のフラップ半体の高さおよび幅と本質的に同じであり、前記フラップの幅は、前記長端の各々の側においてデバイスの主部の前記長端の長さを約10〜20%超えて伸長し、ここで前記底部フラップは、該フラップが結合している前記主部の長端に向かい合う前記フラップの端部において、カットアウトにより二分岐し、ここで前記カットアウトの幅は、前記デバイスの長端の長さの約30%〜約55%であり、前記カットアウトは、前記デバイスの主部の長端に沿った中心にあり、前記カットアウトの高さは、前記主部の第1の長端に垂直な最も高い点におけるデバイスの高さの約25%〜約40%であり;ならびに、
c)第1の短端は、前記第1の端部の長さに沿って第1の側部フラップに連続的に繋がり、第2の短端は、前記第2の短端の長さに沿って第2のフラップに連続的に繋がり、ここで前記第1の側部フラップおよび第2の側部フラップは、高さおよび幅を有し、前記第1の側部フラップの各々の高さおよび幅は、前記第2の側部フラップの高さおよび幅とほぼ同じであり;ここで各々の側部フラップの幅は、前記デバイスの全幅の約10〜20%であり、
ここで、各々の側部フラップの下端は、底部フラップ半体とともに、滑らかな端部を形成し;前記デバイスは、哺乳動物の腸パッキングのために適切なサイズであり;および前記デバイスは、約0.1MPa〜約10MPaの弾性係数を有する1または2以上の弾性ポリマーからなる。
【0010】
一態様において、本発明により提供されるデバイスの前記長方形の主部の短端の前記長方形の主部の長端に対する比は、約0.2〜約0.3である。
一態様において、本発明により提供されるデバイスは、本質的に凹状である。デバイスの凹状の形状は、部分的に、長方形の主部の頂部を形成する線の近傍における屈曲により、例えば(b)のノッチの頂部の近傍における線に沿って、提供される。
【0011】
本発明により提供されるデバイスは、独立して選択される本質的に任意の形状のラジアルノッチを備える。ノッチの形状は、V形状、U形状およびベル形状を含むがこれらに限定されない。
本発明は、変動する厚みを有するデバイスを提供する。一態様において、長軸と短軸との交点におけるデバイスの部分は、周囲におけるデバイスの厚みよりも大きい。ある態様において、二分岐した底部フラップの厚みは、頂部フラップの厚みよりも大きい。腸と接触するための中央部におけるデバイスのより大きな厚みは、より高い剛性を提供し、一方、より薄い、より可撓性が高いフラップは、腸内におけるデバイスの正しい位置決めを可能にする。
一態様において、本発明は、コーティングを備えたデバイスを提供する。コーティングは、デバイスが腸にくっつくことを防止するため、またはデバイスに任意の他の所望の表面特性を提供するために有用である。当業者は多数の適切なコーティングを選択することができる。
【0012】
本発明は、本明細書において提供されるような適切な物理学的特性を有する任意の材料からなるデバイスを提供する。デバイスの製造のために用いられる例示的な材料として、多様な形態のシリコーン、液体シリコーンゴム(LSR)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、スチレンブタジエンゴム、スチレンブタジエンスチレン(SBS)ゴム、ニトリルゴムおよびポリクロロプレンを含む弾性化合物が挙げられるがこれらに限定されない。本発明のデバイスはまた、弾性化合物中に被覆された繊維または放射線不透過性な物質などの他の材料を含んでもよい。本発明のデバイスは、弾性材料の複合材料から製造してもよい。
【0013】
本発明は、腹部手術の間に術野の外に腸を保定するための、本発明のデバイスのための使用の方法を提供する。方法は、対象の腸をデバイスと接触させて、前記対象において手術部位から遠くに腸を保定すること、および腹部手術の間、前記デバイスを腸に対して保持することを含む。凹面を備えるデバイスの態様において、腸をデバイスの凹面に接触させる。
本発明のデバイスの使用の方法は、例えば、腹部手術の間に腹腔内温度を上昇させることにより、および腸パッキングに必要とされる時間を開腹手術用パッドの使用により必要とされる時間と比較して短縮することにより、スポンジおよび開腹手術用パッキング材の使用に対して利点を提供する。
【0014】
定義
本明細書において用いられる場合、「哺乳動物の腸を保定するために適切なサイズである」とは、哺乳動物の腹腔内への挿入を可能にする寸法であることとして理解され、パッキングおよび保定のための腸との接触のために適合する面、ならびに、デバイスが腹腔内において保定されて腸の手術領域への突出を防止することを可能にする長さおよび幅のフラップを有することを含む。例えば、成人ヒトにおいては、腹腔のサイズは、肋骨の基部の高さにおける横断面において約3.9〜5.8インチであり、肋骨の基部の高さにおける冠状面において約7.6〜11.3インチである。かかる寸法を有する哺乳動物における腸パッキングのために適切なサイズであるデバイスは、全体の高さが約5.2〜約7.5インチであり(設置した際、腹腔の腹側から背側へ)、全体の幅が約8.7〜約12.5インチである(設置した際、腹腔の外側から外側へ)。腸と接触するための面は、湾曲した角を有する長方形であって、幅約6.26〜約8.99インチ、高さ約2.60〜約3.74インチであり、前記長方形の長辺の中央に、脊椎を収容するための約2.80〜約4.02インチの直径を有する半円形のカットアウトを有する。したがって、適切なサイズのデバイスは、デバイスが用いられることになる哺乳動物の腹腔の寸法よりも横断面において全体的にいくらか大きく、腹腔の寸法よりも横断面においていくらか小さい面を有する。さらに、デバイスは、切開中への挿入のため、および哺乳動物においてデバイスを腸に対してぴったりと安全に配置するためのフラップの操作のための、デバイスの小型化を可能にするのに十分に小さい。
【0015】
本明細書において用いられる場合、「腸(bowels)」とは、一般的に、腸(bowel)、腸(intestine)、および、腹部手術を可能にするために腹腔において転置される必要があるであろう他の腹部臓器を含むように用いられる。転置されることになる具体的な臓器は、行われることになる具体的な手術に依存するであろうことが理解される。
本明細書において用いられる場合、「頭側に(cephally)」とは、対象の頭部に向かうものとして理解される。
「圧縮」とは、本明細書において用いられる場合、手術の間の腹部への挿入のために妥当な様式におけるデバイスの手動の折りたたみまたは巻回として理解される。これは、単層より多くの折りたたみ、または360度より大きな巻回、または代表的には180度より大きな捻回を伴わない。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「連続的に繋がる」とは、デバイスの2個の部材が、記載されるように、端の長さに沿って結合していることを意味することを理解される。連続的に繋がったフラップは、デバイスの主部の長さまたは幅を超えて伸長することができる。
「遠位」とは、本明細書において用いられる場合、デバイスの腸から遠い表面として理解される。ヒト対象に挿入された場合、デバイスの遠位面は、当該対象の足に向かって、頭部から離れた方向を指す。
「背側」とは、本明細書において用いられる場合、対象の身体の後ろに向かうものとして理解される。
【0017】
本明細書において用いられる場合、「弾性化合物」とは、本発明のデバイスにおける使用のために適切な可撓性/剛性、引裂抵抗および殺菌抵抗を有する弾性化合物として理解される。本発明のデバイスの製造のための使用のための弾性化合物は、非圧縮状態においてのデバイスとの接触により組織または臓器に損傷を生じることを防止するために十分に可撓性である。弾性化合物とは、本明細書において用いられる場合、代表的には弾性ポリマーを指す。連結してポリマーを形成するモノマーは、代表的には、炭素、水素、酸素および/またはケイ素から作られる。弾性ポリマーの例として、液体シリコーンゴム(LSR)およびシリコーンのカプセル化材料が挙げられる。本発明の好ましい態様において、弾性ポリマーは、「ケイ素ポリマー」である。「ケイ素ポリマー」とは、本発明のデバイスにおける使用のために適切な可撓性/剛性、引裂抵抗および殺菌抵抗を有する、任意のケイ素ベースのポリマー性材料として理解される。好ましい態様において、ケイ素ポリマーは光学的に透明(clear)である。本発明のデバイスにおける使用のための弾性化合物として、シリコーン、液体シリコーンゴム(LSR)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、スチレンブタジエンゴム,スチレンブタジエンスチレン(SBS)ゴム、ニトリルゴムおよびポリクロロプレン(Neoprene)が挙げられるがこれらに限定されない。好ましい態様において、ケイ素ポリマーは、ケイ素ベースの有機ポリマーであるポリジメチルシロキサン(PDMS)である。PDMSは、光学的に透明であり、一般に、不活性、非毒性および不燃性であると考えられる。これは時にジメチコーンと称され、数タイプのシリコーン油のうちの一つである(重合シロキサン)。
【0018】
本明細書において用いられる場合、「本質的に」、代表的には「本質的に楕円形である」または「本質的に長方形である」とは、デバイスの記載を容易にするために記述される形状に見積もることとして理解される。例えば、図1A中の正面図において示されるデバイスは、本質的に楕円形であり、これは、デバイスの形状が、明らかに一方の方向において他方よりも長く、全ての角が曲線であることを意味する。デバイスの中心部分が「本質的に長方形である」として記述される場合、フラップがデバイスの中心に最も近いノッチの先端により規定される場合において、フラップの除去の結果として三角形を生じることが理解される。「本質的に対称である」とは、デバイスが、本質的に対称な腔、すなわち腹腔(左右対称)中へ挿入されるためのものであって、右側のフラップまたはノッチが、左側に対応するフラップまたはノッチを有するデバイスであるものとして理解される。デバイスの内側矢状面上に位置するノッチは、該面に関して対称的な形状を有する。「本質的に凹状である」とは、フラップにより囲まれる中心部分であって、ここで前記フラップの全てが中心空間を規定する同じ一般的な方向を指し、連続的な湾曲を必要としないものであるものとして理解される。
【0019】
「外側」とは、本明細書において用いられる場合、対象の身体の側面に向かうこととして理解される。
「内側」とは、本明細書において用いられる場合、身体の矢状面における正中線として意味される(すなわち、脊椎に沿う)。
「近位」とは、本明細書において用いられる場合、デバイスの、囲まれることになる腸により近い面、特にデバイスの腸により近い面、として理解される。対象に挿入された場合、デバイスの近位面は頭側を指す。
【0020】
本明細書において用いられる場合、「剛性」とは、主部が崩壊することなく腸を支持することを可能にする、フラップを除いたデバイスの主要な主部の不撓性として理解される。約300KPa〜約900KPaのヤング係数および500KPaを超える降伏点を有する材料が適切である。
「滑らかな端部」とは、本明細書において用いられる場合、滑りに対する抵抗を生じない、連続的な平坦な表面を有する端部として理解される。代表的には、滑らかな端部とは、連続的な直線的または曲線的な端部として理解される。
「トレンデレンブルク体位」において、身体を仰向けに寝かし(仰臥位)、足を頭より高くする。用いられるべき具体的な角度は、外科医が選択し得る問題である。
「腹側」とは、本明細書において用いられる場合、身体の前に向かうことを意味すると理解される。
【0021】
本明細書において提供される範囲は、当該範囲内の数値の全てを省略するものとして理解される。例えば、1〜50の範囲は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49および50からなる群からの、任意の数、数の組み合わせ、または下位範囲を含むものと理解される。さらに、本明細書において提供される少数の範囲は、その間の同じ数の有効数字を有する数値の全てを含む。例えば、数値が100分位で提供される場合、範囲は、8.15〜8.25の範囲が、8.15、8.16、8.17、8.18、8.19、8.20、8.21、8.22、8.23、8.24および8.25を含むものと理解されるように、100分の1の間隔における全ての数値を含む。
【0022】
特に記述されるかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書において用いられる場合、用語「または(or)」は、両立的(inclusive)なものとして理解される。
特に記述されるかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書において用いられる場合、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、単数または複数であると理解される。
特に記述されるかまたは文脈から明らかでない限り、本明細書において用いられる場合、用語「約(about)」は、当該分野における通常の許容の範囲内であるもの、例えば平均値の2標準偏差以内、として理解される。約は、記述される数値の10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.05%または0.01%以内として理解することができる。
本明細書において提供される任意の特徴、デバイスまたは方法は、本明細書において提供される他の特徴、デバイスまたは方法のいずれかの1または2以上と組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A−1B】図1Aは、本発明のデバイスの一態様の正面図を、図1Bは、本発明のデバイスの一態様の側面図を示す。
【図1C−1E】図1Cは、本発明のデバイスの一態様の上面図を、図1Dは、本発明のデバイスの一態様の別の側面図を、および図1Eは、楕円および長方形を重ねたデバイスの正面図を示す。
【0024】
【図2A−2B】図2Aおよび2Bは、A)デバイスのサイズが基礎とする、成人ヒトの腹腔の寸法;およびB)成人ヒトにおける使用のためのデバイスの可能な寸法の例を示すデバイスの正面図を示す。
【図3A−3B】図3Aおよび3Bは、多様なケイ素ポリマーについて行われた圧縮および引張試験からの結果を示す。
【図4】図4は、多様なケイ素ポリマーについて行われた引裂試験からの結果を示す。
【0025】
【図5A−5B】図5Aおよび5Bは、18cmの垂直切開または12cmの垂直切開を有するブタにおける、綿の開腹手術用パッキング材および本発明のデバイスの腸パッキング時間を比較する試験からの結果を示す。
【図6】図6は、綿の開腹手術用パッキング材(■)および本発明のデバイス(●)を用いた腸保定時間を示す。
【図7】図7は、綿の開腹手術用パッキング材(■)および本発明のデバイス(◆)による、腹腔内温度の経時的変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明および好ましい態様
本発明のデバイスは、手術時間の短縮を可能にして、コストを低下させ;麻酔時間の短縮を可能にして、患者に対する手術のリスクを低下させ;および現在の術式において用いられる手術用スポンジの使用と関連する術後死亡率の減少を可能にする。特に、本発明のデバイスは、スポンジにより生じるような微粒子状物質を後に残すことなく腸を包囲する。
【0027】
本発明は、好ましくは連続的な1ピースのデバイスであって、開腹手術の間に妨害となることを防ぐために、開腹手術の間に内臓を手術部位から離して保定することを可能にする、前記デバイスを提供する。腹腔が矢状面に関して本質的に対称であることから、デバイスは、好ましくは矢状面に関して本質的に対称である。デバイスは、本質的に楕円の形状を有する腹腔の内部にぴったりとフィットするように設計されるので、デバイスは本質的に楕円の形状である。対象の腹側に接触するための楕円の頂部は、代表的には、対象の背側に接触するための楕円の底部よりも狭い。腹側は、対象の脊椎を収容するために、底端部の中心にカットアウトを備える。
【0028】
本発明の一態様において、デバイスは、透明な弾性化合物、好ましくはケイ素ポリマーなどのポリマーから製造され、デバイスは全体として本質的に楕円の形状を有し、脊椎を収容するカットアウトを有する。デバイスは、好ましくは本質的に凹状である。デバイスは、デバイスが切開を通しての対象への挿入のために容易に圧縮されるが腹腔内に設置された後は膨張して1または2以上の開創器と組み合わせて腸を保定するために十分に剛性であることを可能にする物理的特性(例えば、弾性係数、可撓性/剛性、引裂抵抗など)を有する、1または2以上の弾性化合物で作られる。デバイスの寸法は、腹腔の内部のサイズとほぼ同じであるか、少々大きく、好ましくは約2%大きいか、約5%大きいか、約7%大きいか、約10%大きいか、約12%大きいか、または約15%大きい。腹腔と比較したデバイスの各々の方向における相対的なサイズは、独立して決定される。デバイスは、少なくとも1つのカットアウト、好ましくは半円状、U形状またはベル形状のカットアウトなどの、デバイスが用いられることになる対象の脊椎を収容するために適切な、デバイスの全体の幅の約30%〜約40%、デバイスの全体の高さの約30〜40%のサイズの、幅広いカットアウトを備える。対象の腹腔内に配置された場合、デバイスは、代表的には開創器によりその場所に固定される。少なくとも1時間の間手術部位への腸の突出またはリークを防ぐために、デバイスの端部の十分な部分が腹腔の内部と接触する。デバイスが本発明の基準に合致するか否かを決定するためにデバイスを試験する方法は、当該分野において通例的であり公知である。方法は以下の例において提供される。
【0029】
デバイスはさらに、デバイスの端部に沿ってラジアルノッチを備えてもよく、これはノッチ間に、腸におけるデバイスの設置を容易にするために頭側に折り込まれることになるタブを作る。ノッチは、本質的に任意の形状、例えばデバイスの外周の周りでV形状、U形状、ベル形状であってよい。ノッチは、ノッチにより作られるフラップの全てが折り込まれた場合にデバイスの主部が当該デバイスが用いられることになる腹腔より僅かに小さくなるように、十分な深さのものである。ノッチの長さは、デバイスの腸と接触するための面を保定するために限定されるべきであり、これは、腹腔の高さ(腹側から背側へ)の少なくとも約60%、および腹腔の幅(外側から外側へ)の少なくとも約75%である。代表的には、ノッチが短いほど、したがってノッチにより作られるフラップが短いほど、デバイスの面はより剛性が高くなるはずである。ノッチの数が多いほど、腸が術野内へリークすることを可能にするギャップの形成を防ぐために、ノッチの幅は狭くなるべきである。さらに、ノッチの数は、フラップが対象の内部において配置されることを可能にするのに十分であるが、デバイスを対象においてその位置に保定するために十分なフラップの剛性を維持するために十分に少ないものである。
【0030】
好ましい態様において、デバイスは、デバイスの底端部において、脊椎のための空間を提供するために二分岐したフラップを作る幅広いノッチを、およびデバイスの頂端部において、1または2以上の相対的に深いノッチを備え、これらは代表的には内部矢状面に関して対称的に配置される。頂部フラップにおける深いノッチは、頂部フラップが、対象の腹側において腸の上に折り込まれ、デバイスの頂部において圧縮または膨張の点を提供することを可能にする。頂部フラップの底部は、デバイスの側部における相対的に浅く狭いノッチによりさらに規定される。側部ノッチは、頂部フラップが折り込まれることを可能にするためのデバイスの屈曲を容易にし、頂部フラップの端部がデバイスの中心に向かって冠状面に向かって引き入れられることを容易にする。また、側部ノッチにより規定され、底部フラップと連続的であるのは、2つの側部フラップである。側部フラップにおいてさらなるノッチが存在してもよい。側部フラップは、腹腔の側部へ冠状面に向かって折り込まれ、該フラップの底部部分は、腸を保定するために頭側へ折り込まれる。フラップの屈曲および配置は、好ましくは、デバイスの腸に対する設置のための中心主部がフラップよりも剛性が高くなるようにデバイスを製造することにより容易となる。より高い剛性は、代表的には、デバイスの中心部分をフラップより厚く作ることにより達成される。しかし、より高い剛性はまた、剛性を高めるための繊維または他の材料のデバイスへの組み込みを含む複合化合物または複合材料を含む、異なる弾性化合物の使用により達成してもよい。剛性はまた、部分的にまたは完全にデバイスの中心部分を囲むフレームの使用により高めることができる。また、デバイスは、好ましくは、全体的に曲線的な形状を有し、デバイスの腸と接触して頭側を向く凹面が、腹腔の外周の周りで頭側を指して折り込まれることができる1または2以上のフラップにより囲まれている。
【0031】
デバイスは、腹腔の内部にフィットするように成形された主要な主部を備え、全体的に本質的に楕円の形状を有し、ほぼ半円形またはベル形状のカットアウトを有し、これは脊椎および骨盤の構造物を収容するための二分岐のフラップを作る。デバイスの主部および外周のフラップは、in vivoで見出される腹腔の形状およびサイズの範囲において、腸のパッキングを可能にするために適切なサイズである。デバイスが膨張して腹部筋壁の内部に対して僅かな圧力を生じるように、デバイスの全体的なサイズは、それが適用されることになる腹腔の内部の横断面よりも僅かに、約2%、約5%、約7%、約10%、約12%または約15%大きい。デバイスは、張力によりその位置に固定されてもよい;しかし、デバイスをその位置に保定するために、少なくとも1、好ましくは2または3以上の開創器の使用が好ましい。
【0032】
本発明のデバイスは、好ましくは、異なるサイズの(例えば小児および成人)患者における使用のために、異なるサイズで作られる。さらに、デバイスは、非ヒト動物における、例えばペットまたは他のヒトにとって価値がある家畜および非家畜動物、例えばネコ、イヌ、非ヒト霊長類、ブタなどの外科研究を含む医学研究のために用いられる動物、動物園の動物などにおける使用のために作られてもよいことが理解される。本開示は、成人ヒトにおける使用のためのデバイスの好ましいサイズ、および成人ヒトの腹腔のサイズに関する情報を提供する。この情報を前提として、ヒト成人以外の哺乳動物における使用のために適切なサイズであるデバイスを作ることができる。かかる改変は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0033】
デバイスの主要な主部と連続しており外周から突出している外周のフラップは、デバイスと多様な異なるサイズおよび形状の腹壁ならびに脊柱との間に柔軟なシールを形成することにより、腸の保定を補助し、より大きなフラップは、露出された組織全体に引っ張られることができ、デバイスによりカバーされる面積を増大させる。フラップは、必要である場合は、主要な主部が折りたたまれるか圧縮されるかまたは巻回される場合に、フラップが直交方向へ折りたたまれるか圧縮されるかまたは巻回されることができるように、スリットを備えていてもよい。フラップにおけるスリットは、デバイスが最終の位置において腹腔内に挿入される場合に、必要な場合には腸の術野中への突出を防ぐためにフラップが重なるように、主要な主部から放射状に伸びる。より多くの数のスリットによる腹腔におけるデバイスのフィット性の可撓性は、より長いフラップを有することにより提供される剛性によりバランスを取られる。一態様において、腹腔の腹側および背側に対する配置のためのフラップのみがスリットを備える。一態様において、フラップは、独立して、0、1、2、3または4個のスリットを備える。主部の剛性は、フラップの長さおよび数によりバランスを取らなければならない。
【0034】
デバイスの主部のための部品は、直径僅か10cmの牽引(retract)された切開を通しての挿入のためのデバイスの折りたたみ、圧縮または巻回を可能にするために十分に可撓性であるものであり、一方、折りたたみ、圧縮または巻回の後で膨張し、開創ブレードと組み合わせて用いられた場合に、手術の間、腸を保定するために十分に剛性であるものである。デバイスは、1または2以上の弾性化合物、好ましくは、シリコーンまたはポリジメチルシロキサンなどの弾性ポリマーから製造される。デバイスは、1または2以上の弾性化合物またはポリマーの複合材料を随意にさらに繊維補強と組み合わせて含む、1つより多い化合物からなってもよく、ここで繊維は、デバイスの構造特性を調節するため、またはデバイスに他の特性を提供するために、弾性化合物中に完全に含まれる。一態様において、デバイスはさらに、デバイスをX線検出により可能にするために、放射線不透過性(radio-opaque)繊維または他の放射線不透過性材料を含んでもよい。
【0035】
本発明のための好ましい材料は、シリコーンベースの有機ポリマー、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であり、これは本来、非摩耗性、不活性および非毒性である。PDMSは、光学的に透明であり、一般に、不活性、非毒性および不燃性であると考えられ、変動する腹腔サイズに対するデバイスの立体構造を可能にするために十分に可撓性であるが、開創ブレードと接合してデバイスを所望の位置に保定することを可能にするために十分に頑強である。PDMSは、CAS番号63148−62−9を割り当てられており、ときにジメチコーンと称される。PDMSの化学式は、(HC)SiO[Si(CH20Si(CHであり、ここで、nは、繰り返しモノマー[SiO(CH]ユニットの数である。
【0036】
好ましい態様において、主要な主部は、主要な主部に剛性を提供するために厚み8〜14mmのSylgard(登録商標)184(Dow Corning)ポリジメチルシロキサンポリマーの内核からなり、デバイスに改善された引裂抵抗および耐久性を付与するためにSylgard(登録商標)186の層で覆われている。フラップは、引裂耐性のケイ素ポリマーから作られ、腹腔におけるフラップの調整を可能にするのに十分な可撓性を有し、一方、デバイスをその位置に保定するために十分な剛性を提供する。好ましい外周フラップ材料として、厚み2〜8mmのSylgard(登録商標)186が挙げられ、これは主部から20〜60度の角度で突出しており、主部から離れるとともに厚みが減少する。
【0037】
デバイスの製造のために1種より多くの弾性化合物を用いる場合、化合物は、任意の様式において一緒に用いることができる。例えば、所望の剛性を有するポリマーを、より高い滑らかさを有するポリマーで被覆してもよい。デバイスの主部とフラップとに異なる量の剛性を提供するために、デバイスの主部が1種のポリマーからなり、フラップが1または2以上の他のポリマーからなってもよい。
【0038】
本発明のデバイスはまた、ポリマー、特に生体適合性ポリマー(Seprafilm(登録商標)などの市販のコーティングによるもの)でコーティングすることによりデバイスの腸へのくっつきを低減するためのコーティングなどの、他の成分を含んでもよい。コーティングは薬物溶出性であってもよい。コーティングはバルク適用、主部材料との分子共役、またはナノ構造形成により適用することができる。可能なコーティングの例として以下が挙げられる:SEPRAFILM(登録商標)、INTERCEED(登録商標)、SIROLIMUS(登録商標)、PACLITAXEL(登録商標)、EVEROLIMUS(登録商標)、TRANILAST(登録商標)、DACRON(登録商標)、SPRAYGEL(登録商標)、ADHIBIT(登録商標)、TEFLON(登録商標)、PRECLUDE(登録商標)Gore、SyntheMed REPEL-CVTM、DuraGen、ADCONTM P(Gliatech)、REPELTMおよびRESOLVETM(Life Medical Sciences)、INTERGELTM(かつてのLUBRICOAT(登録商標))、イコデキストリン、ヒアルロン酸、ヘパリン、デキストラン、組織プラスミノーゲン活性化因子、コルチコステロイド類、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、デキサメタゾン、組み換え組織プラスミノーゲンを含む組織プラスミノーゲン、オキシフェンブタゾン、コラーゲン、コラーゲン阻害剤、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリカプロラクトン、グリコサミノグリカン類、ポリエチレンオキシド(PEO)、任意のモノマーの比におけるポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドコポリマー(PEG−PPO−PEG)、ヒドロキシエチルメチルアクリレート(HEMA)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(NIPAAm)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエステル類、およびシラン、または高周波ガス放電(radio frequency gas discharge:RFGD)、および放射線グラフティングによる修飾、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリカプロラクトン、グリコサミノグリカン類、HEMA、ePTFE、ポリエステル類、カルボキシメチルセルロース、デキサメタゾン、組み換え組織プラスミノーゲンを含む組織プラスミノーゲン、オキシフェンブタゾン、コルチコステロイド類、イコデキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロナン、およびコラーゲン阻害剤。さらに、デバイスの表面を、シリル化、RFGD、または放射線グラフティングにより修飾してもよい。
【0039】
あるいは、デバイスを、薬剤、例えば抗ウイルス剤または抗菌剤などの抗微生物剤でコーティングしてもよい。かかる剤の使用は、対象のみならず手術スタッフの保護のために、およびHIV、肝炎、特に薬物耐性形態の肝炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MERSA)などに感染している対象からの感染の伝播の可能性を低減するために、有用である。
【0040】
デバイスを作るために用いられる材料の可撓性はまた、単一のサイズのデバイスが、広範なサイズにわたる対象において用いられることを可能にする。しかし、好ましい態様において、デバイスは、異なる対象における使用のために異なるサイズにおいて作られる。本発明の複数のフラップを有する構造は、臓器を腹腔の好ましい位置内であって手術部位から遠くに保定するための表面を作る。特定の対象と共の使用のために適切なサイズのデバイスの決定および選択は、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0041】
デバイスの輪郭は、腹腔の側部に適合し、腸の術野中への突出を防ぎ、腸が単一の滑らかな動作で頭側へすくい挙げられることを可能にするために、挿入された場合に腸の近位で本質的に凹状の形状である。頂部フラップ(対象の腹側に隣接して配置するためのもの)は、好ましくは、腹腔において腸の頂部に折り重なって腸がデバイスの上からリークして術野を妨害することを防ぐための、1または2以上の腹側スリットを有するように設計される。好ましくは底部フラップはさらに、脊椎のための空間を提供するため、およびデバイスを腹腔に適合させるための、少なくとも1つのスリットまたは開口部を備える。デバイスを、側部および頂部フラップにより、腹腔の側部および頂部に適合させることにより、手術の間の腸の保定が可能になり、パッキング術が簡略化される。
【0042】
さらに、好ましい態様において、本発明のデバイスは、手術を通して腸を継続的にモニタリングすることを可能にする透明な材料から作られ、これは、現在用いられている開腹手術用パッキング材によっては可能でない利点である。さらに、本明細書において示されるように、弾性材料の使用は、外科用スポンジを用いるパッキング方法と比較して、腹腔中の湿度および温感の両方の保持を提供する。
【0043】
腹腔中への発明品の挿入:
患者へのデバイスの挿入は、好ましくは外科医により手で行われる。デバイスは、第1に、患者における牽引された切開を通しての挿入を可能にするために十分に圧縮される。デバイスは、好ましくは、挿入の前に、頂部フラップが患者の腹側を指し、デバイスの凹状近位面が除圧後に頭側を向くように、方向を合わせる。挿入は、患者をトレンデレンブルク体位に配置し、腹側に典型的には約15度傾け、足を頭より高くすることにより容易にすることができる。デバイスは、挿入された後、腹部側壁に対して膨張し、デバイスの中心を腸に対して配置し、フラップを頭側へ調整することにより、腸を頭側へすくい上げるために用いることができる。これが完了した後、デバイスは、開創ブレードを用いてその位置に固定される。デバイスの正確な位置は、切開の位置に依存し、外科医が選択し得るものである。デバイスの挿入の正確な方法は、本発明が限定するところではない。本発明のデバイスが、他の臓器を術野から遠くへパッキングするために用いることができることが理解される。デバイスの具体的な使用は、本発明のデバイスが限定するところではない。
【0044】
腹腔からのデバイスの除去:
患者からデバイスを取り除く場合、外科医は、デバイスを一方の手で支持しつつ開創ブレードを取り除く。外科医は、いずれかの手の人差し指を底部フラップの間のノッチに差し込み、デバイスを両掌で圧縮しつつ上方へ引き上げる。デバイスの除去の正確な方法は、本発明の限定するところではない。
【0045】
図1A〜Eは、本発明のデバイス1の態様を示す。本発明の態様の好ましい中間サイズを見積もるために、寸法を丸括弧中に提供する。本発明のヒト成人における使用のための中間サイズのデバイスは、以下の図1の詳細な記載において提供される基礎寸法から約5%までで変化してもよく、提供された寸法は、約0〜約5%(すなわち、約1%、約2%、約3%、約4%または約5%)の範囲内のこの変動を含むものと理解されるべきである。小さい成人ヒトにおける使用のためのデバイスは、中間サイズのデバイスについて提供された基礎寸法の約75%〜85%の範囲内、好ましくは約80%である。大きい成人ヒトにおける使用のためのデバイスは、中間サイズのデバイスについて提供された基礎寸法の約110%〜120%、好ましくは約115%である。当業者は、本明細書において提供される開示に基づいて、デバイスの適切なサイズを決定するために必要とされる計算を容易に行うことができる。
【0046】
デバイスの具体的なサイズは、本発明の限定するところではない。デバイスのサイズの限定は、それが、対象、好ましくはヒト対象の腹腔内への腸保定のための挿入のために適切なサイズでなければならないことである。本発明は、主部において互いに向かい合う2つの長端と、前記主部の両側の長端の間に2つの短端を有する前記主部を備える、デバイス、より好ましくは1ピースのデバイスを提供する。デバイスはさらに、主部の1つの長端において2つの頂部フラップを、前記主部の1つの長端に隣接する短端(複数)において2つの側部フラップを、および前記フラップを有する長端に向かい合う長端においてカットアウトを備える。デバイスは、腸を頭側へ転置して、腹部臓器を手術のために露出させるために、対象の腸に対する設置のための滑らかな近位表面を有する。
【0047】
図1Aにおけるデバイス1の一態様の正面図において示されるとおり、本質的に長方形のデバイスの中心部分207は、幅3(7.82インチ)および高さ5(3.63インチ)を有し、示される態様においては、デバイスの本質的に長方形の部分は、デバイスの第1および第2の頂部フラップを分離するノッチの基部における第1の長端と、二分岐した底部フラップにおけるベル形状のカットアウトの頂部により規定される第2の長端と、頂部フラップをデバイスの主部から分離するデバイスの両側における一対のノッチに隣接する長端(複数)に垂直な短端(複数)とにより規定される。デバイスの中心長方形207は、デバイスの構造的要素ではないが、本明細書において、デバイスの記載において、デバイスの多様な成分のサイズおよび位置の記載を可能にするために、代わりに用いられる。デバイスの主部7は、主に腸(bowel)および腸(intestines)の大部分を凹状近位面9上に支持するために役立ち、また、現在開腹手術において用いられる開創ブレードと凸状近位面11において接合する。標準的な開創ブレードのセットアップは、主部の外側に接合する2枚のブレードを用いる。頂部フラップを備える端部と向かい合って、底端部15内にはベル形状のカット13(腹腔の腹側壁に向けた設置のため)が存在する。ベル形状のカットは、高さ17(2.28インチ)および基部の幅19(4.00インチ)を有する。
【0048】
カットアウトは、矢状面において身体の腹側内部部分を収容するために提供され、脊髄に適合するように、および脊髄のために空間を提供するように設計される。カットはまた、デバイスの底端部15において2つのフラップ21および21’を作る。挿入の後で、2つの側部フラップ23および23’は、腹腔の外側と接触し、2つの頂部フラップ25および25’は、腹腔の腹側と接触する。これらのフラップとデバイスの主部とは、1つの連続的な構造であり、好ましくは、弾性材料、好ましくはケイ素ポリマーの、単一のピースから作られる。側部フラップは、示される態様において、所望の長さ27にわたり、デバイスの主部の近位面から上方向へ屈曲し(3.71インチ)、各々は、幅29(1.55インチ)および高さ31(3.63インチ)を有する。
【0049】
代替的な態様において、フラップの上方向の屈曲はより短いが、フラップが作られる材料は、腹腔においてデバイスを保持するために、いくらか剛性が高い。主部および側部フラップを含むデバイスの寸法は、幅33(10.92インチ)、高さ35(6.53)および深さ27(3.71インチ)である。側部フラップは、さもなくば腹腔においてデバイスの側部の周りに突出し得る腸を含めることにおいてデバイスの主部を補助するために役立つ。頂部フラップは、高さ37(2.90インチ)および幅39(4.75インチ)を有する。また、2つのフラップ25および25’を分離するための、幅43(0.86インチ)を有するU形状のカット41が存在する。頂部フラップは、デバイスの主部7に対して角度45で、好ましくは約145°〜155°の範囲の角度で、デバイスの主部の近位面に向かって傾く。デバイスの全体の高さを維持するために、フラップの長さがより短くなるほど、近位面に対するフラップの角度はより傾斜が大きくなる。頂部フラップ23および23’の目的は、対象の腹側において腸を固定することを補助することである。
【0050】
デバイスは、好ましくは、主部およびフラップ全体にわたって変動する厚みを有する。主部およびフラップの厚みは、異なるサイズのデバイスの間で一貫しているが、デバイスの多様な部分の具体的な厚みは、デバイスのために用いられる具体的な材料に依存する。デバイスがPDMSから作られ、フラップが詳細な態様において提供されるサイズである場合、頂部フラップ25および25’は最も薄く、約0.14〜0.16インチの範囲内であり;主部7は最も厚い部分であり、約0.60〜約0.68インチの範囲であり;側部フラップ23および23’は、中間の厚みを有し、約0.30〜0.34インチの範囲である。デバイスの多様な部分の厚みの改変は、当業者の能力の範囲内であり、本明細書において議論される、デバイスが作られる具体的な材料を含むがこれに限定されない多数の要因に依存する。
【0051】
図1Bは、仰臥位の対象において設置された場合に多様な部分が配置されたデバイスの一態様を、対象を外側から見て示す。デバイスの凸面11が示され、デバイスの凹面は、頂部25、側部23および底部フラップにより隠されている。頂部フラップ25は、デバイスの凹面に対して約140°〜約160°の角度101で頭側へ屈曲する。示される態様において、底部フラップにおけるベル形状のカットの高さに近い幅を有する底部フラップの底端部は、示された長さのフラップを有するデバイスの凹面の場合、デバイスの凹面に向かって約95°〜115°の角度105で折りたたまれる。より短い頂部および底部フラップの場合、デバイスの近位面に対するフラップの角度は、より傾斜が大きくなる。側部フラップもまた、デバイスの凹面に向かって頭側へ配置される。
【0052】
図1Cは、仰臥位の対象において設置された場合にデバイスが配置されるであろう一態様の、対象を上から腹側を通して見下ろした代替図を示す。頂部25、25’および側部23、23’のフラップは、デバイスの近位面9へ向かって角度を有する。
【0053】
図1Dは、対象において設置された場合にデバイスが配置されるであろう一態様の、対象の肩から足に向かって斜めの角度で見た代替図を示す。頂部25、25’、側部23、23’および底部21、21’は、頭側を指し、腸との接触のための凹状近位面9を規定する。示される態様において、デバイスの多様な部分の相対的な厚みが示される。デバイスの部分の異なる厚みは、異なる量の剛性または可撓性を可能にする。デバイスの主部7は、デバイスの最も厚い部分であり、デバイスの腸と接触するための部分において実質的な剛性を提供する。主部の剛性は、主部の弾性材料中に完全に被覆された繊維を含めることにより改変しても、または剛性を改変するためにフレームにより部分的にまたは完全に囲んでもよい。デバイスのフラップにおける厚みの減少は、フラップの操作を容易にする。示される態様においては、患者が仰臥位である可能性が高く、脊椎との不注意な接触を低減または排除するために位置に保定されるために、底部フラップが十分に剛性である必要があるであろうことから、デバイスの底部および側部フラップは、頂部フラップよりもいくらか厚い。好ましい態様において、適切な挿入の後で、デバイスは、脊椎と接触しない。デバイスの頂部フラップは、最も薄くかつ最も可撓性が高く、使用者にデバイスの正確な設置に関する選択肢を提供し、対象の間でのサイズのバリエーションについての許容性を提供する。
【0054】
図1Eは、デバイスの一態様と楕円201とのオーバーレイを示し、デバイスの多様な部分の相対的サイズを決定するために、長軸203および短軸205が示されている。図はまた、デバイスの一態様と、デバイスの多様な部分の相対的サイズを決定するためのデバイスの主部を規定する長方形207とのオーバーレイを示す。フラップの長さが、フラップがデバイスの近位面に対して配置される角度を決定する。
【0055】
図2Aは、成人ヒトにおける使用のためのデバイスの寸法を決定するために用いられた平均的なヒトの腹部の寸法を図示し、横断面301および冠状面303が示されている。成人ヒトの腹腔および本発明のデバイスの寸法を用いて、腹腔の寸法が提供された成人ヒト以外の対象(ヒト小児、イヌ、ネコ、他の哺乳動物)における使用のためのデバイスのための適切な寸法を容易に決定することができる。人類学的データを用いて、成人ヒト集団の少なくとも95%にフィットするように設計される、小、中、および大のサイズを決定した。このデバイスの可撓性は、それが、さもなくば大きすぎたり小さすぎたりし得る腔に適合することを可能にする。好ましい態様において、小さいサイズは、高さが全約5.20インチ、および幅が全約8.70インチであり;大きいサイズは、高さ約7.50インチおよび長さ約12.50インチであり;中間サイズのデバイスは、主部およびフラップを含めて高さ全約6.53インチおよび幅約10.92インチである。
【0056】
図2Bは、小、中および大の成人ヒトサイズについての寸法の例を示す、本発明のデバイスの一態様の透明図を示す。
本発明は、現在腸のパッキング術の間に用いられている手術用開創ブレードと相互に運用することが可能なように設計される。12cm〜18cmの切開サイズについて、デバイスが1時間の期間にわたって開創ブレードの支持なしで腸を保定することを見出した。
【0057】
さらに、側部および頂部のフラップは、下部骨盤腔を露出させるために、恥骨結合に対して頭側にパッキングする場合、腹腔の側部および頂部に適合するように設計される。さらに、デバイスは、上部および中間部の腹腔を露出させるために、尾側に向かってパッキングを行うことを可能にするように改変してもよい。したがって、デバイスは、腸の転置を必要とするより広い範囲の腹部および骨盤の開腹手術に適用することができる。フラップの長さおよび形状の改変は、本明細書において提供される教示に基づいた当業者の能力の範囲内である。
【0058】
本発明は、手術の間にある所望の転帰を達成するための本発明の方法およびデバイスの使用を提供する。例えば、本発明の弾性デバイスの使用は、開腹手術用スポンジに対して、以下の例において実証されるとおり、使用の容易性においてのみならず、手術の間の腹部内の温度および湿度の維持などの患者の転帰の改善においても、利点を提供する。本発明のデバイスは好ましくは透明であるため、本発明のデバイスの使用は、手術の間のパッキングされた腸の観察のための方法を提供する。手術の間に、デバイスを通して、変色、出血または他の望ましくないイベントについて、腸を観察することができる。
【0059】
本発明のデバイスの使用はまた、開腹手術用スポンジを用いて行われた腸パッキングと比較した場合の、パッキングの結果としての癒着形成の減少を提供する。癒着は、少なくとも部分的に、手術の終了時における除去後に腹腔内に残留する開腹手術用スポンジからの繊維に起因する。本発明のデバイスは露出する繊維を含まないので、残される可能性はなく、少なくとも1つの実質的な癒着の原因を除外する。デバイスはまた、開腹手術用スポンジとは異なり、手術の終了時において見過ごすことが困難な単一のピースであるので、医療過誤の可能性を低減する。
【0060】
本発明のデバイスの使用はまた、腸パッキング時間を短縮する方法、および、より長い手術においては腸をパッキングする必要がある回数を減少し、それにより手術時間を短縮する方法を提供する。全体的な手術時間の短縮は、全手術時間および腸をパッキングする必要があるであろう回数に依存する。しかし、本発明は、腸パッキング時間を、開腹手術用スポンジを用いる腸パッキングと比較して、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、または少なくとも35%短縮する方法を提供する。
【0061】
例1−本発明のデバイスの製造
本発明のプロトタイプデバイスを、シリコーンと漆喰のParisTMモールドの組み合わせを用いて成型した。デバイスの引裂抵抗を増大させるためにPDMS SylgardTM186を用いた。外科用開創ブレードによる剪断力および横方向力の適用の際の座屈を防止するために、デバイスの主要な主部をPDMS Sylgard(登録商標)184で強化した。現在のプロトタイプは、骨盤サイズ分布の多人類学的データから得られた寸法に基づいて、中間サイズのヒト成人にフィットするように見積もられた。
【0062】
例2−材料試験の結果
2種の例示的な材料を、より好ましい材料、およびプロトタイプの成型のために適切な架橋剤の比を選択するために試験した。本発明のデバイスは、所望の弾性係数、圧縮および引裂抵抗および滅菌され得る強さを有し、好ましくは透明であるか、少なくとも部分的に半透明である、任意の弾性材料から作ることができる。本発明におけるデバイスを製造するための材料の特性の決定は、以下に提供するものなどの通例の方法を用いて、経験的に決定することができる。あるいは、材料の特性は、カタログ、仕様書、技術告示、および他の製造者の情報において一般的に提供される。本発明のデバイスのための使用のために好ましい材料は、0.1MPa〜10MPaのヤング係数および250KPa〜5Mpaの降伏点を有する。材料は、100Nの剪断力に供された場合に、引裂抵抗性であるべきである。1回の滅菌は、材料にこれらの特性を失わせるべきではない。本発明のデバイスの製造のための弾性ポリマーは、1より多いポリマーを、ポリマーの混合物、デバイスの異なる部分のための異なるポリマー、または1種のポリマーを別のポリマーでコーティングすることのいずれかとして含んでもよい。かかる選択は、選択可能な問題であり、当業者により行われる。
【0063】
1.弾性係数の決定
Sylgard(登録商標)184およびSylgard(登録商標)186の弾性係数を、材料が、デバイスの挿入を容易にするために十分な可撓性および腸を効果的に保定するために十分なデバイスの剛性を提供する範囲内の弾性係数を有するか否かを決定するために、通例の方法を用いて試験した。弾性係数の標的範囲は、0.1MPa〜10MPaであった。Sylgard(登録商標)186の基剤と硬化剤との比(base to cure ratio)を、得られうる弾性係数の値の可能な範囲をさらに探索するために変化させた。さらに、応力−歪み曲線を決定して、各材料の降伏点を決定した。
【0064】
各々が2”×2”の寸法であるSylgard(登録商標)184および186の5個のサンプルを試験して結果を平均化した。試験器具は、ATS(Applied Test Systems(登録商標);Butler, PA)シリーズ1601およびComputer-Controlled Universal Test Machine(UTM)を含んだ。得られた結果を図3AおよびBにおいて提供する。
【0065】
Sylgard(登録商標)184および186が、それぞれ3.4KPaおよび2.9KPaの弾性係数を有することが決定された。これは、本発明のデバイスにおける使用のために適切な範囲内に該当する。500KPaに対して900KPaの、より高い降伏点により、Sylgard(登録商標)186が、Sylgard(登録商標)184よりも好ましい材料の選択肢として同定された。最後に、Sylgard(登録商標)186のために10:1の基剤と硬化剤との比を選択した。なぜならば、試験されたサンプルの中で、この比が最も高い弾性係数を示したからである。しかし、これは、0.1MPaの下限よりも十分に低い。
【0066】
2.引裂抵抗および引裂強度の決定
引裂抵抗は、最初の引き裂きに対する材料の抵抗であり、一方、引裂強度は、事前にスリットを入れた材料を引き裂くために必要とされる力を表わす。スリットを入れていない材料は、100Nの剪断力の適用の際に視認可能な引き裂きを有しない必要がある。また、1種の起こり得るデバイスの故障モードをさらに理解するために、事前にスリットを入れた材料を引き裂くために必要とされる剪断力の量を決定した。Sylgard(登録商標)184および/またはSylgard(登録商標)186が、開創ブレードによりデバイスの主部において適用される剪断力に耐えられるか否かを決定するために、材料の引裂抵抗および引裂強度の両方を決定した。Sylgard(登録商標)184および186を、最も引裂抵抗が高い材料を決定するために比較した。力の閾値を、シュミレートした腹腔においてなされた測定から決定した。
【0067】
材料の引裂抵抗を、サンプルを力量計の一方の末端に結合させることにより試験した。力量計の他方の末端は、定常状態に保った。剪断力を適用し、徐々に増大させた。断片が裂ける前の力量計のピーク読み取りを記録した。引裂強度を試験する場合、端部表面に垂直な1/8”の切開を作製し、同じ剪断力を適用して増大させた。各材料の5個のサンプルを試験して結果を平均化したものを図4に示す。示されるとおり、Sylgard(登録商標)186は、無傷のサンプルおよびスリットを入れたサンプルの両方を用いて、より高い引裂抵抗を示した。
【0068】
3.滅菌復元力(sterilization resiliency)の決定
Sylgard(登録商標)186のサンプルを、10サイクルのオートクレーブによる熱滅菌に供した。Sylgard(登録商標)186の張力および圧縮特性は、10回の滅菌サイクルの後で、9.3%の低下を示すことが示された。したがって、弾性係数は、10%未満の、本発明の方法における使用のための適切な範囲内に留まる。
【0069】
例3−開腹手術用パッキング材と本発明のデバイスとを比較するブタの試験の結果
腸パッキング時間
デバイスの適用のために必要な時間、ならびに現在使用されている綿の開腹手術用パッキング材に対しての腸を保持することにおけるその有効性を、ブタの動物モデルにおいて定量した。2個体のブタをデバイスの有効性を試験するために用いた。デバイスを適用する前に、医師は、腔内でデバイスの方向を合わせる方法、および腸は頭側へパッキングされるべきであることの、簡単な説明のみを与えられた。ブタを完全に麻酔した後、腹側正中切開を作って腹部内容物を露出させた。切開を、外科用開創ブレードを用いて牽引した。デバイスまたは綿の開腹手術用パッキング材による一連の腸パッキングの試験について、デバイスおよび綿の開腹手術用パッキング材を適用するために必要とされた時間を各々記録した。図5Aおよび6Bにおいて示されるとおり、パッキング時間は、18cmおよび12cmの切開の両方を通して、有意に短縮された(それぞれ80%および43%)。このことは、本発明のデバイスの使用が、腸パッキングが必要とされる場合に、手術時間を短縮することができることを実証する。さらに、デバイスは、ノッチ中に1本の指を挿入して上に持ち上げることにより取り除くことができ、個々の開腹手術用パッキング材を取り除くために必要とされる時間を除外し、かつ開腹手術用パッキング材が留置されるリスクを除外する。
【0070】
腹腔内温度の維持
腸のパッキングを、12または18cmの切開を通して本発明のデバイスまたは開腹手術用パッキング材を用いて行った。腸パッキングが完了した後に、10分間の間隔で6回、腹腔内温度を測定した。結果を図6に示す。実験の経過の間、腔の温度は、開腹手術用パッドを用いて腸パッキングが行われたブタにおいて低下し、実験の終了時において体温より約7℃低い腹腔温度をもたらした。対照的に、本発明のデバイスによる腸パッキングは、実験の経過にわたって腹腔温度の上昇をもたらし、本発明のデバイスによる腸パッキングの40分後で体温より約4.5℃低い腔温度をもたらした(n=1)。
【0071】
腸保定の維持
腸のパッキングを、12または18cmの切開を通して本発明のデバイスまたは開腹手術用パッキング材を用いて行った。5分間の間隔で合計1時間の間、静的および動的な両方の条件下において、腸の保定を観察した。試験の静的相は、完全に麻酔された動物においてパッキングされた腸を、外科医による影響を受けさせずに静置することにより行った。デバイスは、動物の生理学的プロセスにより生じる力にのみ供される。
試験の動的相は、外科医が腎摘出術を行うことにより開始された。デバイスを取り外す試みは、動物を骨盤で掴むことおよび腹部を振盪することを含んだ。
【0072】
腸は、1cmより長いセグメントが、術野に最も近いデバイスの表面を延長することにより形成される平面を遮断すると、術野に侵入した(すなわち、もはや保定されていない)とみなされる。
本発明のデバイスが実験の経過全体を通して腸を保定することを見出したが、一方、開腹手術用パッキング材を用いた場合、たった15分後に著しい腸のリークが生じ、20分において術野に腸が侵入した(図7)。開腹手術用パッキング材を用いた場合、1時間未満の時間の後で、再パッキングが必要であった。これらのデータは、本発明のデバイスが、標準的に用いられる開腹手術用パッキング材よりも良好な腸保定を提供することを実証する。
【0073】
当業者は、本明細書において開示される本発明の具体的な態様に対する多くの等価物を認識するか、または通例の実験のみを用いて確認することができるであろう。かかる等価物は、以下の請求の範囲により包含されることが意図される。
本明細書において引用される全ての参考文献、特許および特許公開は、本明細書において参考として組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腸パッキングのためのデバイスであって:
本質的に楕円形の形状の、前記楕円の短軸に沿って本質的に対称性のデバイス、ここで前記楕円は、長さを備える短軸と、長さを備える長軸と、周囲とを備え、ここで前記デバイスは前記短軸上において前記長軸の下に位置するノッチを備える;
ここで、前記デバイスは弾性化合物を含む材料からなり、および前記デバイスは哺乳動物の腸を保定するために適切なサイズである
を備える、前記デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載のデバイスであって:
本質的に楕円形の形状を有するデバイスが周囲において少なくとも4個のラジアルノッチを備え、ここで、
(a)長軸の上に配置される1または2以上のラジアルノッチ、ここで各々のノッチは、前記周囲上の前記ノッチの中心から前記ノッチの基部までの長さを備え、ここで前記ノッチの長さは前記短軸の長さの約30%〜約40%を含み、各々のノッチは前記楕円の周囲において前記楕円の長軸の長さの約10%〜約15%の幅を備える;
(b)前記短軸上において長軸の下に位置する第2のラジアルノッチ、ここで前記第2のノッチは、前記周囲から前記ノッチの頂部までの、前記短軸の長さの約30%〜約40%の長さ、および前記周囲において前記長軸の長さの約32%〜約42%の幅を備える;
(c)前記短軸の左右に配置される2または3以上のラジアルノッチ、ここで、各々のノッチは、前記長軸の長さの少なくとも約5〜15%を含む、前記周囲における前記ノッチの中心から前記ノッチの基部までの長さを備える;
ここで、前記デバイスは、弾性ポリマーを含む材料からなり、ここで前記弾性ポリマーは、約0.1MPa〜約10MPaの弾性係数を備え、前記デバイスは、哺乳動物の腸を保定するために適切なサイズである
前記デバイス。
【請求項3】
楕円の短軸の長さの前記楕円の長軸の長さに対する比が、約0.55〜約0.65である、請求項1または2に記載のデバイス。
【請求項4】
(a)の1または2以上のラジアルノッチが1個のラジアルノッチを含む、請求項2または3に記載のデバイス。
【請求項5】
(c)の2または3以上のラジアルノッチが、短軸の左側に1個のラジアルノッチおよび短軸の右側に1個のラジアルノッチを含む、請求項2〜4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
(c)のラジアルノッチが、長軸に、または長軸の上に位置する、請求項2〜5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
本質的に凹状である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
本質的に対称な位置にある2個の(c)のラジアルノッチの間の線の近傍において屈曲を備える、請求項2〜7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
長軸と平行な線の近傍において底部ラジアルノッチの頂部の近傍の線に沿って屈曲を備える、請求項1〜8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
ラジアルノッチの形状が、V形状、U形状およびベル形状からなる群より独立して選択される、請求項1〜9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
長軸と短軸との交点におけるデバイスの厚みが、周囲におけるデバイスの厚みよりも大きい、請求項1〜10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
さらにコーティングを備える、請求項1〜11のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
コーティングが、SEPRAFILM(登録商標)、INTERCEED(登録商標)、SIROLIMUS(登録商標)、PACLITAXEL(登録商標)、EVEROLIMUS(登録商標)、TRANILAST(登録商標)、DACRON(登録商標)、SPRAYGEL(登録商標)、ADHIBIT(登録商標)、TEFLON(登録商標)、PRECLUDE(登録商標)Gore、SyntheMed REPEL-CV(登録商標)、DuraGen、ADCONTM P(Gliatech)、REPELTMおよびRESOLVETM(Life Medical Sciences)、INTERGELTM(かつてのLUBRICOAT(登録商標))、イコデキストリン、ヒアルロン酸、ヘパリン、デキストラン、組織プラスミノーゲン活性化因子、コルチコステロイド類、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、デキサメタゾン、組み換え組織プラスミノーゲンを含む組織プラスミノーゲン、オキシフェンブタゾン、コラーゲン、コラーゲン阻害剤、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリカプロラクトン、グリコサミノグリカン類、ポリエチレンオキシド(PEO)、任意のモノマー比におけるポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドコポリマー(PEG-PPO-PEG)、ヒドロキシエチルメチルアクリレート(HEMA)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(NIPAAm)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエステル類、およびシランからなる群より選択される化合物、または高周波ガス放電(RFGD)および放射線グラフティングによる修飾、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリカプロラクトン、グリコサミノグリカン類、HEMA、ePTFE、ポリエステル類、カルボキシメチルセルロース、デキサメタゾン、組み換え組織プラスミノーゲンを含む組織プラスミノーゲン、オキシフェンブタゾン、コルチコステロイド類、イコデキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロナン、コラーゲン阻害剤、およびシラン、ならびに高周波ガス放電(RFGD)、および放射線グラフティングの修飾を含む、請求項12に記載のデバイス。
【請求項14】
請求項1に記載のデバイスであって:
第1の長端と、これと向かい合う第2の長端、ならびに第1の短端および第2の短端を備える、本質的に長方形の主部;ここで、前記第1および第2の短軸が前記長軸を分離し、ここで、
a)前記第1の長端は、前記第1の長端の長さに沿って、高さおよび幅を備える頂部フラップに連続的に繋がり、ここで前記頂部フラップは、該フラップが結合している前記主部の長端と向かい合う前記フラップの端部からのカットアウトを備え、ここで前記カットアウトの深さは、前記頂部フラップの高さの少なくとも80%を含み;
b)前記第2の長端は、第2の端部の長さに沿って、二分岐した底部フラップに連続的に繋がり、ここで、前記二分岐した底部フラップの各半体が高さおよび幅を備え、ここで前記各フラップ半体の高さおよび幅は、他方のフラップ半体の高さおよび幅と本質的に同じであり、前記フラップの幅は、前記長端の各々の側においてデバイスの主部の前記長端の長さを約10〜20%超えて伸長し、ここで前記底部フラップは、該フラップが結合している前記主部の長端に向かい合う前記フラップの端部において、カットアウトにより二分岐し、ここで前記カットアウトの幅は、前記デバイスの長端の長さの約30%〜約55%であり、前記カットアウトは、前記デバイスの主部の長端に沿った中心にあり、前記カットアウトの高さは、前記主部の第1の長端に垂直な最も高い点におけるデバイスの高さの約25%〜約40%であり;ならびに、
c)第1の短端は、前記第1の端部の長さに沿って第1の側部フラップに連続的に繋がり、第2の短端は、前記第2の短端の長さに沿って第2のフラップに連続的に繋がり、ここで前記第1の側部フラップおよび第2の側部フラップは、高さおよび幅を備え、前記第1の側部フラップの各々の高さおよび幅は、前記第2の側部フラップの高さおよび幅とほぼ同じであり;ここで各々の側部フラップの幅は、前記デバイスの全幅の約10〜20%であり、
ここで、各々の側部フラップの下端は、底部フラップ半体とともに、滑らかな端部を形成し;前記デバイスは、哺乳動物の腸パッキングのために適切なサイズであり;および前記デバイスは、弾性ポリマーを含む材料からなり、ここで該弾性ポリマーは、約0.1MPa〜約10MPaの弾性係数を備える、
を備える、前記デバイス。
【請求項15】
前記長方形の主部の短端の前記長方形の主部の長端に対する比が約0.2〜約0.3である、請求項14に記載のデバイス。
【請求項16】
本質的に凹状である、請求項13または14に記載のデバイス。
【請求項17】
長方形の主部の頂部を形成する線の近傍において屈曲を備える、請求項13〜15のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項18】
(b)のノッチの頂部の近傍における線に沿って屈曲を備える、請求項13〜16のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項19】
ラジアルノッチの形状が、V形状、U形状およびベル形状からなる群より独立して選択される、請求項13〜17のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項20】
長方形の主部の厚みが、フラップの長方形の主部から遠い端部の厚みよりも大きい、請求項13〜18のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項21】
二分岐した底部フラップの厚みが、頂部フラップの厚みよりも大きい、請求項13〜19のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項22】
さらにコーティングを備える、請求項13〜20のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項23】
コーティングが、SEPRAFILM(登録商標)、INTERCEED(登録商標)、SIROLIMUS(登録商標)、PACLITAXEL(登録商標)、EVEROLIMUS(登録商標)、TRANILAST(登録商標)、DACRON(登録商標)、SPRAYGEL(登録商標)、ADHIBIT(登録商標)、TEFLON(登録商標)、PRECLUDE(登録商標)Gore、SyntheMed REPEL-CV(登録商標)、DuraGen、ADCONTM P(Gliatech)、REPELTMおよびRESOLVETM(Life Medical Sciences)、INTERGELTM(かつてのLUBRICOAT(登録商標))、イコデキストリン、ヒアルロン酸、ヘパリン、デキストラン、組織プラスミノーゲン活性化因子、コルチコステロイド類、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、デキサメタゾン、組み換え組織プラスミノーゲンを含む組織プラスミノーゲン、オキシフェンブタゾン、コラーゲン、コラーゲン阻害剤、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリカプロラクトン、グリコサミノグリカン類、ポリエチレンオキシド(PEO)、任意のモノマー比におけるポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシドコポリマー(PEG-PPO-PEG)、ヒドロキシエチルメチルアクリレート(HEMA)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(NIPAAm)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエステル類、およびシランからなる群より選択される化合物、または高周波ガス放電(RFGD)および放射線グラフティングによる修飾、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、アルギン酸、ポリカプロラクトン、グリコサミノグリカン類、HEMA、ePTFE、ポリエステル類、カルボキシメチルセルロース、デキサメタゾン、組み換え組織プラスミノーゲンを含む組織プラスミノーゲン、オキシフェンブタゾン、コルチコステロイド類、イコデキストリン、ヒアルロン酸、ヒアルロナン、コラーゲン阻害剤、およびシラン、ならびに高周波ガス放電(RFGD)および放射線グラフティングの修飾を含む、請求項20に記載のデバイス。
【請求項24】
弾性化合物が、シリコーン、液体シリコーンゴム(LSR)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、スチレンブタジエンゴム、スチレンブタジエンスチレン(SBS)ゴム、ニトリルゴムおよびポリクロロプレンからなる群より選択される化合物を含む、請求項1〜23のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項25】
弾性化合物が、弾性化合物の複合材料を含む、請求項1〜24のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項26】
弾性化合物中に被覆された繊維を含む、請求項1〜25のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項27】
放射線不透過性物質を含む、請求項1〜26のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項28】
腹部手術の間に対象における腹腔内温度を維持するためのデバイスの使用であって:
請求項1〜27のいずれか一項に記載のデバイスを提供すること
対象において腸を手術部位から遠くに保定するために、前記対象の腸を前記デバイスと接触させること、および
前記腹部手術の間、前記デバイスを前記腸に対して保持すること
を含む、前記使用。
【請求項29】
デバイスが凹面を備え、腸が前記デバイスの凹面と接触させられる、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
デバイスが0.1MPa〜10MPaの圧縮の係数を備える、請求項28または29に記載の使用。
【請求項31】
方法が腹部手術の間に腹腔内温度を上昇させることをさらに含む、請求項28〜30のいずれか一項に記載の使用。
【請求項32】
方法が腸パッキングを含み、腸パッキング時間が、開腹手術用パッドによる腸パッキングと比較して短縮される、請求項28〜31のいずれか一項に記載の使用。

【図1A−1B】
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【図1C−1E】
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【図2A−2B】
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【図3A−3B】
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【図4】
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【図5A−5B】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−519296(P2011−519296A)
【公表日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506289(P2011−506289)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/002495
【国際公開番号】WO2009/131676
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(505011280)ザ ジョンズ ホプキンス ユニバーシティー (12)
【Fターム(参考)】