説明

腸溶性カプセル

【課題】カプセル表面を腸溶性皮膜で被覆することなく、カプセル基剤そのものが腸溶性フィルムで形成されてなる腸溶性カプセルおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】カプセル皮膜を形成するフィルムが、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびジェランガムを含有し、HPMCおよびHPCの総量100重量部あたり、HPMCを45重量部より多く80重量部より少なく、HPCを55重量部より少なく20重量部より多く、且つジェランガムをHPMCとHPCの総量100重量部に対して0より多く11重量部より少ない割合で含むものである腸溶性カプセル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸溶性カプセルに関する。より詳細には、カプセル表面を腸溶性皮膜で被覆することなく、カプセル基剤そのものが腸溶性フィルムで形成されてなる腸溶性カプセルおよびその製造方法に関する。さらに本発明は、当該腸溶性カプセルに経口医薬品や食品などの可食性の内容物が充填されてなる腸溶性カプセル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、腸溶性カプセルの調製方法としては、ゼラチンを基剤として成形された胃易溶性カプセルの表面をホルマリンや腸溶性高分子物質などで被覆する方法、ゼラチンと水溶性多価アルコールまたはその誘導体からなる基剤にアルギン酸ナトリウムを配合し、これをシームレスカプセル化した後に、2価以上の陽イオンで硬化処理する方法(特許文献1参照)、アルギン酸ナトリウム等の架橋性ゲル化剤またはこれと助剤からなる非ゼラチン系基剤より形成したシームレスカプセルを2価以上の陽イオンで硬化する方法(特許文献2参照)、アルギン酸ナトリウムを含有するゼラチン基剤から形成したカプセルを2価以上の陽イオンで硬化する方法(特許文献3参照)、およびマイナスの電荷をもつアルギン酸とプラスの電荷をもつキトサンを結合させることにより硬化処理する方法(非特許文献1参照)など、カプセル表面を腸溶性皮膜で被覆する方法が知られている。しかし、これらの方法は、製造工数の増加による生産性の低下やホルマリン使用による作業環境の悪化という問題がある。
【0003】
また、有効成分のアルギン酸ナトリウムの懸濁液を調製し、これをカルシウム溶液に滴下することにより腸溶性ビーズを作成する方法など、カプセル表面を腸溶性皮膜で被覆することなく、カプセル基剤そのものを腸溶性フィルムで形成する方法も知られている。上記方法は、腸溶性を付与できるという利点はあるものの、生産性が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−172313号公報
【特許文献2】特開昭61−44810号公報
【特許文献3】特開平1−228909号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Pharmaceutical Research 誌、2000年1月号; Volume 17 Issue 1: ページ 94-99
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術を鑑みて、従来の製造技術を工数を増加させることなくそのまま利用できるという利点を有し、かつ上記の従来方法による問題のない、カプセル基剤そのものを腸溶性フィルムで形成してなる腸溶性カプセルおよびその製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、当該腸溶性カプセルに経口医薬品や食品などの可食性内容物が充填されてなる腸溶性カプセル製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために日夜鋭意検討していたところ、カプセル基剤の成分として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(「ヒプロメロース」ともいう)、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを特定の割合で組み合わせて用いることにより、浸漬法によってカプセル成型が可能な、腸溶性フィルムを調製することができることを見出し、斯くして調製されたカプセルは、耐酸性を備え胃液と同等の酸性溶液中では難溶性である一方で、腸環境と同等の中性〜弱アルカリ性溶液中では易溶性であることを確認した。
【0008】
本発明はかかる知見に基づいて完成されたものであり、下記の態様を含むものである。
【0009】
(I)腸溶性カプセル
(I-1)ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、およびジェランガムを含有するフィルムからなる腸溶性カプセルであって、HPMCとHPCの総量100重量部あたりHPMCの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またHPCの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つHPMCとHPCの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないことを特徴とする腸溶性カプセル。
(I-2)HPMCとHPCの総量100重量部あたりHPMCの割合が50〜75重量部、HPCの割合が50〜25重量部であり、且つHPMCとHPCの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0.5〜10重量部であることを特徴とする(I-1)記載の腸溶性カプセル。
(I-3)上記ジェランガムが脱アシル型ジェランガムまたは脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムとの混合物である(I-1)または(I-2)記載の腸溶性カプセル。
(I-4)上記フィルムが、さらにゲル化補助剤を含有するものである、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する腸溶性カプセル。
(I-5)ゲル化補助剤が、水溶性のカルシウム塩である(I-4)に記載する腸溶性カプセル。
(I-6)ゲル化補助剤が、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、および硝酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の水溶性カルシウム塩である(I-4)に記載する腸溶性カプセル。
(I-7)上記フィルムが、さらに腸溶性基剤を含有するものである、(I-1)乃至(I-6)のいずれかに記載する腸溶性カプセル。
(I-8)腸溶性基剤が、アルギン酸の水溶性塩、カルボキシメチルセルロースの水溶性塩、LMペクチン、およびHMペクチンからなる群から選択される少なくとも1種である(I-7)に記載する腸溶性カプセル。
【0010】
(II)腸溶性カプセルの製造方法
(II-1)HPMC、HPC、およびジェランガムを含むカプセル調製液であって、HPMCとHPCの総量100重量部あたりHPMCの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またHPCの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つHPMCとHPCの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収する工程を有する、(I-1)乃至(I-3)のいずれかに記載する腸溶性カプセルの調製方法。
(II-2)カプセル調製液が、HPMCとHPCの総量100重量部あたりHPMCの割合が50〜75重量部、HPCの割合が50〜25重量部であり、且つHPMCとHPCの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0.5〜10重量部であることを特徴とする(II-1)記載の調製方法。
(II-3)上記ジェランガムが脱アシル型ジェランガムまたは脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムとの混合物である(II-1)または(II-2)記載の調製方法。
(II-4)上記カプセル調製液が、さらにゲル化補助剤を含有するものである、(II-1)乃至(II-3)のいずれかに記載する調製方法。
(II-5)ゲル化補助剤が、水溶性のカルシウム塩である(II-4)に記載する調製方法。
(II-6)ゲル化補助剤が、乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、パントテン酸カルシウム、塩化カルシウム、臭化カルシウム、および硝酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種の水溶性カルシウム塩である(II-4)に記載する調製方法。
(II-7)上記カプセル調製液が、さらに腸溶性基剤を含有するものである、(II-1)乃至(II-6)のいずれかに記載する調製方法。
(II-8)腸溶性基剤が、アルギン酸の水溶性塩、カルボキシメチルセルロースの水溶性塩、LMペクチン、およびHMペクチンからなる群から選択される少なくとも1種である(II-7)に記載する調製方法。
【0011】
(III)腸溶性カプセル製剤
(III-1)(I-1)乃至(I-8)のいずれかに記載する腸溶性カプセルに内容物が充填されてなる腸溶性カプセル製剤。
(III-2)内容物が食品または経口医薬品である(III-1)に記載する腸溶性カプセル製剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カプセル皮膜(カプセルフィルム)の成分として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを特定の割合で組み合わせて用いることにより、カプセル皮膜表面を腸溶性皮膜で被覆することなく、カプセル皮膜そのものが腸溶性フィルムで形成されてなる腸溶性カプセルを提供することができる。
【0013】
本発明の腸溶性カプセルは、耐酸性を備え胃液と同等の酸性溶液中では難溶性である一方で、腸環境と同等の中性〜弱アルカリ性溶液中では易溶性である。また当該腸溶性カプセルの調製液であるカプセル調製液は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを特定の割合で含有することにより、従来の浸漬法を用いて、簡便にゲル化成形性よく硬質カプセルを調製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
I.腸溶性カプセルおよびその調製方法
本発明の腸溶性カプセルは、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、単に「HPMC」ともいう)、ヒドロキシプロピルセルロース(以下、単に「HPC」ともいう)、およびジェランガムを後述する特定の割合で含有するカプセル皮膜(カプセルフィルム)からなり、胃環境で溶解せず、腸環境で溶解する特性、すなわち腸溶性を有することを特徴とする。
【0015】
ここで「胃環境で溶解しない」か否かは、第15改正日本薬局方に規定する腸溶性製剤の崩壊試験法に準じて評価することができる。具体的には、試験器のガラス管に試験対象とするカプセル剤(試料)6個を入れ、これをあらかじめ試験液として第1液(37±2℃)を入れたビーカー内に浸漬し、120分間上下運動を行った後、試験液から引き上げ、観察する。このとき、試料が壊れた場合、又はカプセルが開口若しくは破損した場合、崩壊したものとする。すべての試料が崩壊しない場合は、第1液試験に適合、すなわち「胃環境で溶解しない」と判断することができる。また、試料6個中、崩壊など前記の異状が認められたものが1個又は2個の場合は、新たに試料12個をとってこの試験を繰り返し、計18個の試料のうち16個以上の試料が崩壊しない場合に第1液試験適合、すなわち「胃環境で溶解しない」と判断される。
【0016】
また「腸環境で溶解する」か否かも、第14改正日本薬局方に規定する腸溶性製剤の崩壊試験法に準じて評価することができる。具体的には、試験器のガラス管に試験対象とするカプセル剤(試料)6個を入れ、これをあらかじめ試験液として第2液(37±2℃)を入れたビーカー内に浸漬し、補助盤を入れて、60分間上下運動を行った後、観察する。このとき、試料の残留物がガラス管内に認められないか、又は認められても皮膜若しくは海綿状の物質であるか、または軟質の物質若しくは泥状の物質がわずかのときは、第2液試験に適合、すなわち「腸環境で溶解する」と判断することができる。
【0017】
なお、ここで第1液および第2液として、下記の水溶液が使用される:
<第1液>
塩化ナトリウム2.0gに塩酸7.0mLおよび水を加えて溶かし1000mLに調整したもの(pHは約1.2)。
【0018】
<第2液>
0.2mol/Lのリン酸二水素カリウム試液250mLに、0.2mol/Lの水酸化ナトリウム試液118mLおよび水を加えて溶かし1000mLに調整したもの(pHは約6.8)。
【0019】
本発明の腸溶性カプセルは、そのフィルム成分として、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)とヒドロキシプロピルセルロース(HPC)からなる2種類の水溶性セルロース誘導体を組み合わせて用いることを特徴とする。
【0020】
ここでHPMCは下式で示されるように、メチルセルロースにヒドロキシプロピル基(置換基)を導入したセルロースエーテルである:
【0021】
【化1】

【0022】
本発明が対象とするHPMCには、日本国で食品添加剤としての使用が認められている下記分子量を有するHPMCも含まれる。
【0023】
<分子量>
非置換構造単位:162.14
置換構造単位:約180(置換度1.19)、約210(置換度2.37)
重合体:約13,000(n=約70)〜約200,000(n=約1000)。
【0024】
またHPCは下式で示される非イオン性のセルロースエーテルである:
【0025】
【化2】

【0026】
本発明が対象とするHPCには、日本国で食品添加剤や医薬品添加剤としての使用が認められている分子量が約30,000(n=約100)〜約1,000,000(n=約2,500)を有するHPCも含まれる(16th JECFA. Hydroxypropyl Cellulose (Revised Specification). FNP52 Add 12, 2004)。
【0027】
本発明で使用する水溶性セルロース誘導体は、フィルムまたはシート形成時の溶液(カプセル調製液)が、動粘度40〜40000mm/sになることを妨げないものであることが好ましい。なお、商業的に入手可能な水溶性セルロース誘導体(HPMC、HPC)は、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が、通常1.5〜4の範囲にある。なお、当該比(Mw/Mn)を算出する場合の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)はいずれもゲルクロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー)で求めることができる。ゲルクロマトグラフィーの原理および手法は、限定されないが、例えば「USP30 The United States Pharmacopeia / NF25 The National Formulary」の「Chromatography」の章の「Size-Exclusion Chromatography」の項の記載を参照することができる。
【0028】
また本発明が対象とするHPMCには、その2重量%水溶液を20℃の条件で粘度測定した場合に、粘度が3mPa・s〜4000mPa・sの範囲にあるものが含まれる(表示粘度が600mPa・s未満の場合は第15改正日本薬局方「ヒプロメロース」に規定の粘度測定法第1法「ウベローデ粘度計」使用、表示粘度が600mPa・s以上の場合は同上粘度測定法の第2法「単一円筒形回転粘度計 ブルックフィールド型粘度計LV型」使用)。
【0029】
さらに本発明が対象とするHPCには、その2重量%水溶液を20℃の条件で粘度測定した場合に、粘度が2mPa・s〜4000mPa・sの範囲にあるものが含まれる(第15改正日本薬局方「一般試験法」に規定の粘度測定法第2法(2)「単一円筒形回転粘度計 ブルックフィールド型粘度計」使用)。
【0030】
ここで本発明の腸溶性カプセルを構成するフィルム成分中のHPMCとHPCの配合割合としては、HPMCとHPCの総量を100重量部とした場合に、HPMCの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またHPCの割合が55重量部より少なく20重量部より多くなる割合を挙げることができる。好ましくは当該二者混合物中のHPMCとHPCとの割合が75:25〜50:50(重量比)となる割合であり、より好ましくは70:30〜55:45(重量比)、さらに好ましくは70:30〜60:40(重量比)である。
【0031】
本発明の腸溶性カプセルは、上記水溶性セルロース誘導体(HPMCおよびHPC)にさらにジェランガムを組み合わせて用いることを特徴とする。
【0032】
ジェランガムは、アシル化の有無によってアシル化ジェランガム(ネイティブジェランガム)と脱アシル化ジェランガムに分類することができる。本発明では脱アシル化ジェランガムを好適に使用することができる。また脱アシル化ジェランガムは、アシル化ジェランガムと組み合わせて用いることもできる。なお、脱アシル化ジェランガムとアシル化ジェランガムとを組み合わせて用いる場合、制限はされないが、脱アシル化ジェランガム100重量部に対してアシル化ジェランガムを1〜100重量部の範囲、好ましくは5〜100重量部の範囲で併用することができる。
【0033】
ここで本発明の腸溶性カプセルを構成するフィルム成分中のジェランガムの配合割合としては、HPMCとHPCの総量を100重量部とした場合に、当該二者混合物100重量部に対するジェランガムの割合が11重量部未満、好ましくは0.5〜10重量部を挙げることができる。より好ましくは0.5〜9重量部、さらに好ましくは1.0〜8重量部である。
【0034】
本発明の腸溶性カプセルは、前述するようにフィルム成分として、上記水溶性セルロース誘導体としてHPMCとHPCに加えてジェランガムを、各々特定の組み合わせで含有することを特徴とするものであるが、必要に応じてジェランガムのゲル化能を調整する作用を有するゲル化補助剤を使用することもできる。
【0035】
ここでゲル化補助剤としては、ジェランガムのゲル化能を調整する作用を有するものであれば特に制限されないが、具体的には水中でカルシウムイオンを与えることができる塩、例えば乳酸カルシウム、酢酸カルシウム、パントテン酸カルシウムなどの有機酸の水溶性カルシウム塩、または塩化カルシウム、臭化カルシウム、硝酸カルシウムなどの無機酸の水溶性カルシウム塩を挙げることができる。好ましくは乳酸カルシウム、塩化カルシウムである。
【0036】
ゲル化補助剤を用いる場合、本発明の腸溶性カプセルを構成するフィルム成分中のゲル化補助剤の配合割合としては、フィルム成分中の水溶性セルロール誘導体(HPMCとHPC)の総量を100重量部とした場合、それに対して通常10−4〜4重量部、好ましくは10−4〜3重量部、より好ましくは10−3〜1重量部を挙げることができる。
【0037】
本発明の腸溶性カプセルには、本発明の目的・効果(成形性・ゲル化性、耐酸性・腸溶性)が妨げられないことを限度として、フィルムの一成分として、必要に応じて、別途腸溶性基剤を配合することもできる。ここで腸溶性基剤としては、アルギン酸の水溶性塩、カルボキシメチルセルロースの水溶性塩(例えば、ナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩)、LMペクチン、HMペクチンを例示することができる。
【0038】
好ましくはアルギン酸の水溶性塩である。ここでアルギン酸の水溶性塩としては、医薬および食品ならびに食品添加物として許容されるものを広く使用することができる。アルギン酸の水溶性塩として、具体的には、アルギン酸のナトリウム塩およびカリウム塩などのアルカリ金属塩;アルギン酸のマグネシウム塩;およびアルギン酸のアンモニウム塩を挙げることができる。好ましくはアルギン酸のアルカリ金属塩である。なお、これらのアルギン酸の水溶性塩は、一種単独で使用しても、また二種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0039】
ここで使用されるアルギン酸の水溶性塩は、それを1重量%水溶液に調整した場合に20℃で5〜1000mPa・sの範囲の粘度を呈するものが好ましい。好ましくは1重量%水溶液に調整した場合に、20℃で5〜500mPa・s、より好ましくは5〜200mPa・sの粘度を呈するアルギン酸の水溶性塩である。なお、ここで規定する粘度は、BL型回転粘度計で、粘度500mPa・s未満の場合はローター番号2、粘度500mPa・s以上2000mPa・s未満の場合はローター番号3、粘度2000mPa・s以上の場合はローター番号4を用いて、所定温度で、回転数60rpm、測定時間1分の条件で測定した場合の粘度を意味する(以下、同じ)。
【0040】
なお、アルギン酸の水溶性塩の1重量%水溶液が上記粘度範囲を満たす限りにおいて、アルギン酸を構成するマンヌロン酸とグルロン酸の割合は特に制限されない。好ましくはM/G比(マンヌロン酸/グルロン酸比)が0.4〜1.95の範囲、より好ましくは0.45〜1.6の範囲にあることが望ましい。本発明において使用に適した市販のアルギン酸水溶性塩としては、例えば、商品名ダックアルギン(紀文フードケミファ社製)、商品名キミカアルギン(株式会社キミカ社製)などを挙げることができる。
【0041】
上記の腸溶性基剤を用いる場合、本発明の腸溶性カプセルを構成するフィルム成分中の当該腸溶性基剤の配合割合としては、フィルム成分中の水溶性セルロール誘導体(HPMCとHPC)の総量を100重量部とした場合、それに対して、通常0.5〜10重量部、好ましくは0.5〜9重量部、より好ましくは0.5〜8重量部を挙げることができる。
【0042】
本発明の腸溶性カプセルを構成するフィルムには、前述する成分に加えて、必要に応じて、可塑剤を配合することができる。
【0043】
可塑剤の配合により、カプセルフィルムに柔軟性や可とう性を付与することができ、耐われ性を高めることができる。
【0044】
医薬品または食品に使用できる可塑剤としては、一般にアジピン酸ジオクチル,アジピン酸ポリエステル,エポキシ化ダイズ油,エポキシヘキサヒドロフタル酸ジエステル,カオリン,クエン酸トリエチル,グリセロール,グリセリン脂肪酸エステル,ゴマ油,ジメチルポリシロキサン・二酸化ケイ素混合物,ソルビトール,中鎖脂肪酸トリグリセリド,トウモロコシデンプン由来糖アルコール液,トリアセチン,濃グリセロール,ヒマシ油,フィトステロール,フタル酸ジエチル,フタル酸ジオクチル,フタル酸ジブチル,ブチルフタリルブチルグリコレート,プロピレングリコール,ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール,ポリソルベート80,平均分子量が1500,400,4000,600,6000のポリエチレングリコール(PEG1500、PEG400、PEG4000、PEG600、PEG6000),ミリスチン酸イソプロピル,綿実油・ダイズ油混合物,モノステアリン酸グリセリン,リノール酸イソプロピルなどが知られている。本発明において、可塑剤としてグリセロールおよびソルビトールが好適に使用できる。より好ましくはグリセロールである。
【0045】
なお、可塑剤を用いる場合、本発明で用いる硬質カプセル(カプセルフィルム)中の含有量として、フィルム成分中の水溶性セルロール誘導体(HPMCとHPC)の総量を100重量部とした場合、それに対して水分を除いたカプセルフィルムの重量を100重量%とした場合、通常50重量%以下の範囲を挙げることができる。好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下、さらに好ましくは20重量%以下の範囲である。なお、配合下限としては0.5重量%を挙げることができる。
【0046】
なお、本発明の腸溶性カプセル(カプセルフィルム)には、本発明の効果を妨げない範囲で、上記成分に加えて、必要に応じて、金属封鎖剤、不透明化剤、着色料または香料などを配合することもできる。これらはいずれも医薬品または食品に使用できるものであれば特に制限されない。
【0047】
本発明の腸溶性カプセルは、硬質カプセルの調製に通常使用される浸漬法を利用して製造することができる、具体的には前述する成分を含有する水溶液(ここでは、以下「カプセル調製液」という)を浸漬液とし、これにカプセル成型用ピンを浸漬し、次いで引き上げてカプセル成型用ピンの外表面に形成されたカプセル調製液からなる皮膜を冷却してゲル化させ(カプセル形態への成型)、次いで乾燥固化する工程を経て製造することができる。
【0048】
カプセル調製液は、カプセル成型用ピンの浸漬時に採用される温度(浸漬液の温度)条件下(30〜80℃、好ましくは40〜60℃)での粘度が100〜20000mPa・s、好ましくは100〜10000mPa・sとなるように、上記各成分(固形分の総量)が、5〜30重量%、好ましくは5〜25重量%、より好ましくは8〜24重量%の割合で含まれるように調整することが望ましい。
【0049】
カプセル調製液中に含まれる上記各成分(HPMC、HPCおよびジェランガム、必要に応じてさらにゲル化補助剤および/または他の腸溶性基剤)の濃度は、前述するカプセルフィルム中の各成分の割合ならびにカプセル調製液中の上記固形分含量に従って適宜調整することができる。
【0050】
具体的には、カプセル調製液中に含まれるHPMCの割合としては1.8〜23重量%、好ましくは2.1〜18重量%、より好ましくは3.8〜16重量%:HPCの割合としては0.8〜16重量%、好ましくは1.1〜12重量%、より好ましくは2.1〜10重量%:ジェランガムの割合としては0〜2.9重量%、好ましくは2.3x10−2〜2.2重量%、より好ましくは3.7x10−2〜1.9重量%を例示することができる。またゲル化補助剤を含む場合、カプセル調製液100重量%中の当該割合として4.2x10−6〜1.1重量%、好ましくは4.3x10−6〜0.7重量%、より好ましくは6.9x10−5〜0.2重量%を:また他の腸溶性基剤を含む場合、カプセル調製液100重量%中の当該割合として、2.2x10−2〜2.7量%、好ましくは2.3x10−2〜2重量%、より好ましくは3.7x10−2〜1.7重量%を挙げることができる。
【0051】
カプセル調製液(浸漬液)の調製において、上記各成分の溶解順序に制限はなく、上記各成分を同時に水に溶解してもよい。溶解温度は、通常60℃以上とすることが各成分の溶解性などから好ましいが、特に制限されるものではない。なお、使用される成分のうち、ジェランガムは、一般に水に難溶性であるため、先に80〜90℃程度の熱水に溶解しておき、これを60℃程度以下に冷却した後、他の成分を配合して溶解させてもよい。
【0052】
次いでカプセル調製液は、減圧脱泡、超音波脱泡、あるいは静置により微細な泡を取り除き、50〜60℃に保温した状態で、浸漬法によるカプセル成型に供することが好ましい。
【0053】
本発明の腸溶性カプセルは、かくして調製されるカプセル調製液(浸漬液)にカプセル成型用ピンを浸漬した後、これを引き上げ、カプセル成型用ピンに付着した溶液をゲル化させ、その後、ゲル化した皮膜を20〜80℃程度の温度で乾燥することによって製造される。具体的には、本発明で用いる腸溶性カプセルは下記の工程を経て製造することができる。
【0054】
(1)(a)HPMC、HPC、およびジェランガム(また必要に応じて、ゲル化補助剤および/または他の腸溶性基剤)を前述する特定の割合で含有するカプセル調製液(浸漬液)に、カプセル成型用ピンを浸漬する工程(浸漬工程)、
(2)カプセル調製液(浸漬液)からカプセル成型用ピンを引き上げて、当該ピンの外表面に付着したカプセル調製液をゲル化する工程(ゲル化工程(成型工程))、
(3)カプセル成型用ピンの外表面に被覆形成されたゲル化カプセルフィルム(ゲル化皮膜)を乾燥する工程(乾燥固化工程)、
(4)乾燥したカプセルフィルム(皮膜)をカプセル成型用ピンから脱離する工程(脱離工程)。
【0055】
なお、上記の(2)ゲル化工程は、用いるゲル化剤の特性に応じて加熱または冷却することによって行うことができる。例えば、本発明で使用するカプセル調製液(浸漬液)は、これを低温状態、特に35℃以下にすることでゲル化することを利用して、カプセル製造機周辺の温度を通常35℃以下、好ましくは30℃以下、好ましくは室温下に設定して、上記ゲル化工程(2)をカプセル成型用ピンの外表面に付着したカプセル調製溶液を放冷することによって行うことができる(冷ゲル法)。
【0056】
具体的には、浸漬工程(1)において、40〜60℃、好ましくは50〜60℃の一定温度に調整したカプセル調製溶液(浸漬液)に、その液温に応じて10〜30℃、好ましくは13〜28℃、より好ましくは15〜25℃に調整したカプセル成型用ピンを浸漬し、次いでゲル化工程(2)において、カプセル調製溶液(浸漬液)からカプセル成型用ピンを引き上げて、当該ピンの外表面に付着したカプセル調製溶液をゲル化する。
【0057】
乾燥工程(3)は20〜80℃程度の温度で行うことができる。好ましくは20〜40℃の空気を送風することによって行なわれる。脱離工程(4)は、カプセル成型用ピン表面に形成された乾燥カプセルフィルムをカプセル成型用ピンから抜き出すことによって行われる。
【0058】
斯くして調製されるカプセルフィルムは、所定の長さに切断調整された後、ボディ部とキャップ部を一対に嵌合した状態または嵌合しない状態で、腸溶性の硬質カプセルとして提供することができる。また、予め食用油等を剥離剤として成型ピンに塗布しておくことにより、得られたカプセル(ボディ部とキャップ部)の離型性が向上して、得られた硬質カプセルの剥離回収を容易することができる。
【0059】
斯くして得られる本発明の硬質カプセルは、別途、その表面を腸溶性被膜でコーティングすることなく、フィルムそのものの特性に基づいて、腸溶性(胃環境で溶解せず、腸環境で溶解する特性)を呈することを特徴とする。
【0060】
II.腸溶性カプセル製剤およびその調製方法
斯くして調製される硬質カプセルのボディ部とキャップ部は、前述する内容物をボディ部に充填したのち、該ボディ部にキャップ部を被覆して両者を嵌合させることによりボディ部とキャップ部を接合させることによって硬質カプセル剤として提供することができる。
【0061】
なお本発明の硬質カプセル剤には、上記で調製された硬質カプセルのボディ部とキャップ部の嵌合部に、バンドシールを付したものも含まれる。かかる硬質カプセル剤は、上記ボディ部とキャップ部を接合させた後、キャップ部の端縁部を中心として、それを跨ぐように一定幅でボディ部の表面とキャップ部の表面に、その円周方向に、バンドシール調製液を1回〜複数回、好ましくは1〜2回塗布して嵌合部を封緘することによって、調製することができる。
【0062】
硬質カプセルのボディ部とキャップ部の両者を嵌合させる際に、ボディ部の外周とキャップ部の内周とが重なっている嵌合巾はカプセルの軸線方向の距離で、3号カプセルについては約4.5〜6.5mm、4号カプセルについては約4〜6mmが一般的に好ましい。また、封緘(シール)巾は、3号カプセルで約1.5〜3mm、4号カプセルで約1.5〜2.8mmが一般的に好ましい。
【0063】
本発明の硬質カプセル剤のバンドシール形成には、腸溶性を有するフィルムを形成する溶液であれば制限はされないが、前述する腸溶性カプセルの調製に使用するカプセル調製液と同様の組成からなるバンドシール調製液を用いることができる。
【0064】
腸溶性カプセルに充填する内容物は、ヒトまたは動物の経口医薬品または食品を制限なく挙げることができる。なお、内容物の形状は特に問わない。例えば、液状物、ゲル状物、粉末状、顆粒状、錠剤状、ペレット状、またこれらの混合形状(ハイブリッド状)であってもよい。
【0065】
腸溶性カプセルに充填する内容物としては、経口医薬品の場合は、例えば滋養強壮保健薬、解熱鎮痛消炎薬、向精神薬、抗不安薬、抗うつ薬、催眠鎮静薬、鎮痙薬、中枢神経作用薬、脳代謝改善剤、脳循環改剤、抗てんかん剤、交感神経興奮剤、胃腸薬、制酸剤、抗潰瘍剤、鎮咳去痰剤、鎮吐剤、呼吸促進剤、気管支拡張剤、アレルギー用薬、歯科口腔用薬、抗ヒスタミン剤、強心剤、不整脈用剤、利尿薬。血圧降下剤、血管収縮薬、冠血管拡張剤、末梢血管拡張薬、抗高脂血症用剤、利胆剤、抗生物質、化学療法剤、糖尿病治療薬、骨粗鬆症用剤、抗リウマチ薬、骨格筋弛緩薬、鎮痙剤、ホルモン剤、アルカロイド系麻薬、サルファ剤、痛風治療薬、血液凝固阻止剤、抗悪性腫瘍剤などから選ばれる1種または2種以上の薬物成分を挙げることができる。なお、これらの薬効成分は、特に制限されず公知のものを広く挙げることができるが、具体的には、WO2006/070578号パンプレットの段落[0055]〜 [0060]に記載されている各成分を例示として挙げることができる。
【0066】
また、食品の場合は、例えばドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、α−リポ酸、ローヤルゼリー、イソフラボン、アガリクス、アセロラ、アロエ、アロエベラ、ウコン、エルカルニチン、オリゴ糖、カカオ、カテキン、カプサイシン、カモミール、寒天、トコフェロール、リノレン酸、キシリトール、キトサン、GABA、クエン酸、クロレラ、グルコサミン、高麗人参、コエンザイムQ10、黒糖、コラーゲン、コンドロイチン、サルノコシカケ、スクワレン、ステビア、セラミド、タウリン、サポニン、レシチン、デキストリン、どくだみ、ナイアシン、納豆菌、にがり、乳酸菌、ノコギリヤシ、ハチミツ、はとむぎ、梅肉エキス、パントテン酸、ヒアルロン酸、ビタミンA、ビタミンK、ビタミンC、ビタミンD、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ケルセチン、プロテイン、プロポリス、モロヘイヤ、葉酸、リコピン、リノール酸、ルチン、霊芝などの機能性成分などを挙げることができる。但し、これらに限定されるものではない。
【0067】
かかる内容物の腸溶性カプセル内への充填は、それ自体公知のカプセル充填機、例えば全自動カプセル充填機(型式名:LIQFILsuper80/150、クオリカプス(株)社製)、カプセル充填・シール機(型式名:LIQFILsuperFS、クオリカプス(株)社製)等を用いて実施することができる。また腸溶性カプセルの封緘は、それ自体公知のカプセル充填シール機、例えば前記カプセル充填・シール機またはカプセルシール機(型式名:HICAPSEAL 40/100、クオリカプス(株)社製)等を使用して実施することができる。
【0068】
カプセル封緘時、バンドシール調製液は、一般に室温あるいは加温下で使用することができる。硬質カプセルの液漏れ防止という観点から、好ましくは約23〜45℃、さらに好ましくは約23〜35℃、最も好ましくは約25〜35℃の温度範囲内にあるシール調製液を用いることが望ましい。なお、シール調製液の温度調節は、パネルヒーター、温水ヒーター等のそれ自体公知の方法で実施することができるが、例えば循環式温水ヒーターあるいは前記一体型カプセル充填シール機のシールパンユニットを循環式温水ヒーター型に改造したもの等で調節するのが、温度幅が微妙に調節できるので好ましい。
【0069】
斯くして得られる本発明の腸溶性カプセル製剤は、ヒトまたは動物の体内に投与および摂取されたときに、胃内では溶解せず、腸に移行して初めてカプセル皮膜が溶解し内容物が放出されるように設計されている。このため、胃内での放出が好ましくない医薬品や食品を充填した製剤として好適である。
【実施例】
【0070】
以下、実験例および実施例を示して本発明を説明するが、本発明はかかる実施例などによって制限されるものではない。なお、特に言及しない限り、下記でいう「%」は重量%を意味する。
【0071】
実験例
硬質カプセルの原料としてヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ジェランガム、ゲル化補助剤(乳酸カルシウム)、腸溶性基剤(アルギン酸ナトリウム)を用いて、表1〜5に記載する処方からなるカプセル調製液を調製した。
【0072】
なお、HPMCとして、その2重量%水溶液の粘度が、第15改正日本薬局方「ヒプロメロース」に規定の粘度測定法第1法「ウベローデ粘度計」を用いて、20℃の条件で測定した場合に15mPa・sであるものを使用した。またHPCとして、その2重量%水溶液の粘度が、第15改正日本薬局方「一般試験法」に規定の粘度測定法第2法(2)「単一円筒形回転粘度計 ブルックフィールド型粘度計」を用いて、20℃の条件で測定した場合に150〜400mPa・sであるものを使用した。
【0073】
カプセル調製液の調製は、60℃の精製水にHPMC、HPCおよびアルギン酸ナトリウムを加えて分散あるいは溶解させ、室温まで冷却後、75℃に昇温し、これにジェランガムと乳酸カルシウムを加えて溶解させ、約55℃まで冷却することによって行った。
【0074】
また、この際、カプセル調製液中の水溶性セルロース誘導体(HPMCとHPC)の総濃度を13重量%に調整した。なお、表1〜5中、各成分(ジェランガム、ゲル化補助剤、腸溶性基剤)の割合は、水溶性セルロース誘導体の総量を100重量部とした場合の、当該総量に対する割合(重量部)を意味する。
【0075】
斯くして調製したカプセル調製液を減圧下で約5時間脱泡し、これを浸漬法による慣用のカプセル製造装置に仕込んだ。カプセル調製液の温度を50〜55℃に保持しながら、これにカプセル成型ピンを浸漬して引き上げ、カプセル成型ピンの周囲に形成された皮膜を乾燥固化して、サイズ1号の硬質カプセル(ボディ、キャップ)を試作した。
【0076】
得られた硬質カプセルについて、(1)カプセル成型性(カプセル調製液の液ダレの有無、カプセル皮膜の乾燥時の亀裂の有無など)、および(2)耐酸性と腸溶性を下記の方法に従って評価した。
【0077】
<腸溶性カプセルの評価>
(1)カプセル成型性
下記の観点から、カプセル成型性を評価した。
(a)カプセル調製液の液ダレの有無
上記のカプセル調製に際して使用したカプセル調製液(50〜55℃)について、カプセル成型ピンを浸漬し引き上げたときの液ダレの有無を観察した。
(b)カプセル皮膜の亀裂の有無
各カプセル調製液(50〜55℃)にカプセル成型ピンを浸漬し引き上げ、次いでカプセル成型ピンの表面に形成された皮膜を27℃で乾燥固化させたときに、皮膜に亀裂が生じるか否かを観察した。
【0078】
上記基準をもとに判断して、乾燥固化後、カプセルとして使用可能な乾燥皮膜(キャップとボディ)が得られる場合を「成型可:○」、得られない場合を「成型不可:×」と評価した。
【0079】
(2)耐酸性および腸溶性の評価
上記方法で成型できた硬質カプセル(成型可:○)について、耐酸性と腸溶性の有無を評価した。
(a)耐酸性試験(第15改正日本薬局方崩壊試験法第1液(pH1.2)による試験)
試験器の6本のガラス管にそれぞれに試料1個ずつを入れ、試験液に崩壊試験第1液を用いて、37±2℃で試験器を作動させた。120分後試験器を試験液から引き上げ、試料の崩壊の様子を観察した。腸溶性カプセルが壊れた場合、又は腸溶性皮膜が開口、破損した場合、崩壊したものとした(耐酸性なし)。試験を行ったすべての試料(6個)が崩壊しない場合、適合とした(耐酸性あり)。なお、1個又は2個が崩壊した場合は、更に12個の試料について試験を行い、計18個の試料のうち16個以上の試料が崩壊しない場合に、適合とした(耐酸性あり)。
(b)腸溶性試験(第14改正日本薬局方崩壊試験法第2液(pH6.8)による試験)
試験器の6本のガラス管にそれぞれに試料1個ずつを入れ、試験液に崩壊試験第2液を用い、補助盤を入れ、37±2℃で試験器を作動させた。60分後、試料の崩壊の様子を観察した。試料の残留物がガラス管内に認められないか、又は認められても皮膜若しくは海綿状の物質であるか、または軟質の物質若しくは泥状の物質がわずかのとき、試料は崩壊したものとした。試験を行ったすべての試料(6個)が崩壊した場合、適合とし(腸溶性あり)、そうでない場合を不適合とした(腸溶性なし)。
【0080】
結果を表1〜5に合わせて示す。
【0081】
【表1】

【0082】
この結果からわかるように、HPMC単独およびHPC単独では、ゲル化能がなく、カプセルを成型できなかった(処方例1、8)。またHPMCにジェランガムを併用した場合(処方例2〜6)、ジェランガムの量を調整することでカプセル成型は可能であったが、耐酸性を保持させることができなかった。またHPCにジェランガムを併用した場合(処方例9〜14)は、皮膜が脆く、カプセル成型ができなかった。
【0083】
【表2】

【0084】
この結果からわかるように、ジェランガムとともにHPMCおよびHPCを併用した場合、HPMCとHPCの総量100重量部あたり、HPMCの割合が45重量部以下であると皮膜が脆くカプセル成型ができず、一方、HPCの割合が20重量部以下であるとカプセル成型性は良好であるものの、耐酸性を保持させることができなかった。すなわち、ジェランガムとともにHPMCおよびHPCを併用して腸溶性の硬質カプセルを調製するためには、HPMCとHPCの総量100重量部あたり、HPMCの割合を45重量部より多く50重量部以上とすることが好ましく(他方のHPCは55重量部より少なく、50重量部以下であることが好ましい)、また、HPCの割合を20重量部より多く25重量部以上とすることが好ましい(他方のHPMCは80重量部より少なく、75重量部以下であることが好ましい)ことが判明した。
【0085】
【表3】

【0086】
この結果に示すように、ジェランガムとともにHPMCおよびHPCを併用した場合、HPMCとHPCの総量100重量部に対して、ジェランガムの割合が11重量部より多くなるとカプセル成型用ピンに目的量のカプセル調製液を付着させることができず、カプセルを成型することができなかった。この結果から、HPMCとHPCの総量100重量部に対して、ジェランガムを少なくとも10重量部以下、好ましくは0.5〜9重量部の割合で配合することにより、カプセル成型性が良好で、しかも耐酸性と腸溶性を備えた腸溶性の硬質カプセルを調製することができることが確認された。
【0087】
またこの結果から、ジェランガムとして、脱アシル型ジェランガムを単独で使用することも、また脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムを組み合わせて使用することもできることがわかる。
【0088】
【表4】

【0089】
この結果からわかるように、ゲル化補助剤(乳酸カルシウム)を配合しても、カプセル成型性および耐酸性および腸溶性に影響しないことが確認された。
【0090】
【表5】

【0091】
この結果からわかるように、腸溶性基剤(アルギン酸ナトリウム)を配合しても、カプセル成型性および耐酸性および腸溶性に影響しないことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを含有するフィルムからなる腸溶性カプセルであって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないことを特徴とする腸溶性カプセル。
【請求項2】
上記ジェランガムが脱アシル型ジェランガムまたは脱アシル型ジェランガムとネイティブ型ジェランガムとの混合物である請求項1記載の腸溶性カプセル。
【請求項3】
上記フィルムが、さらにゲル化補助剤を含有するものである、請求項1または2に記載する腸溶性カプセル。
【請求項4】
上記フィルムが、さらに腸溶性基剤を含有するものである、請求項1乃至3のいずれかに記載する腸溶性カプセル。
【請求項5】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、およびジェランガムを含むカプセル調製液であって、ヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部あたりヒドロキシプロピルメチルセルロースの割合が45重量部より多く80重量部より少なく、またヒドロキシプロピルセルロースの割合が55重量部より少なく20重量部より多く、且つヒドロキシプロピルメチルセルロースとヒドロキシプロピルセルロースの総量100重量部に対するジェランガムの割合が0より多く11重量部より少ないカプセル調製液に、カプセル成型用ピンを浸漬して引き上げ、当該成型用ピンに付着した上記カプセル調製液を乾燥固化し、これを成型ピンから脱離回収する工程を有する、請求項1乃至4のいずれかに記載する腸溶性カプセルの調製方法。
【請求項6】
上記カプセル調製液が、さらにゲル化補助剤を含有するものである、請求項5に記載する調製方法。
【請求項7】
上記カプセル調製液が、さらに腸溶性基剤を含有するものである、請求項5または6に記載する調製方法。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかに記載する腸溶性カプセルに内容物が充填されてなる腸溶性カプセル製剤。
【請求項9】
内容物が食品または経口医薬品である請求項8に記載する腸溶性カプセル製剤。

【公開番号】特開2010−202550(P2010−202550A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48494(P2009−48494)
【出願日】平成21年3月2日(2009.3.2)
【出願人】(000228110)クオリカプス株式会社 (22)
【Fターム(参考)】