説明

腸溶性ソフトカプセルの製造方法及び腸溶性ソフトカプセル

【課題】形状及び大きさの多様なカプセルを成形可能なロータリーダイ法を適用でき、腸溶性に優れると共に外観が美しいカプセルを、簡易な工程で製造することができる腸溶性ソフトカプセルの製造方法を提供する。
【解決手段】腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が20〜40%でゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、ロータリーダイ式成形装置により、カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備している。そして、本製造方法では、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩はカプセル皮膜液に添加されないと共に、成形されたソフトカプセルを多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腸溶性ソフトカプセルの製造方法及び腸溶性ソフトカプセルに関するものであり、特に、ロータリーダイ法による腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ソフトカプセルの皮膜基剤として一般的に用いられているゼラチンは、温度変化により可逆的にゾル・ゲル変化すること、皮膜形成能に優れると共に形成された皮膜の機械的強度が高いこと、体内で崩壊又は溶解し易いこと、それ自体が栄養的価値を有し体内に吸収され易いこと等、皮膜基剤としての利点を多く有している。しかしながら、ゼラチンは胃酸に対して易溶性であるため、胃酸によって効能を失う成分、或いは、胃の組織に刺激を与える成分等をソフトカプセルの内容物とするためには、胃では崩壊又は溶解せずに腸に到達してから崩壊又は溶解する性質(腸溶性)を、ゼラチン皮膜に付与する必要がある。
【0003】
従来、ゼラチン皮膜に腸溶性が付与されたカプセルとしては、成形されたカプセルの外表面にゼインやセラック等の腸溶性物質がコーティングされたカプセルが実施されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、アルギン酸塩、低メトキシルペクチン、ジェランガムなど、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等の多価金属イオンによりゲル化して耐酸性を示す多糖類をカプセル皮膜に含有させることにより、カプセル皮膜を腸溶性とする技術が開示されている。この技術は、カプセルの成形後に多価金属イオンを含有する水溶液に浸漬することにより多糖類をゲル化し、カプセル皮膜の表面に耐酸性の外皮を形成する技術(例えば、特許文献2参照)と、多価金属イオンの非水溶性塩(難水溶性塩)を予めカプセル皮膜に含有させておき、胃酸中で多価金属イオンを解離させて多糖類にゲル化反応を起こさせる技術(例えば、特許文献3参照)とに大別される。
【0005】
【特許文献1】特開2004−18443号公報
【特許文献2】特開昭61−151127号公報
【特許文献3】特開平4−27352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セラック等が外表面にコーティングされた従来のカプセルでは、均一なコーティング層が形成されにくく、表面の粗さによって外観が損なわれるという問題があった。ここで、ソフトカプセルは、透明性と独特の光沢に高い市場的価値を有するため、美しい外観が損なわれるという問題は重大であった。また、カプセルの成形工程に加えてコーティングの工程が必要であるため、その設備を必要とすると共に工程が煩雑となり、製造コストも嵩むという問題があった。加えて、コーティング層の剥離によって、カプセルの腸溶性が損なわれるというおそれがあった。
【0007】
一方、皮膜中に上記の多糖類を含むカプセルを成形し、その後に多価金属イオンを含有する水溶液にカプセルを浸漬して皮膜をゲル化する従来技術では、浸漬液からカプセル皮膜に水分が移行し、更には内容物にまで水分が及ぶおそれがあった。また、カプセルの成形工程に加えて浸漬のための工程が必要であるため、その設備を必要とすると共に工程が煩雑となり、製造コストも嵩むという問題があった。更に、浸漬液によってカプセルの表面が一部溶解して滑らかさや光沢が失われ、カプセルの外観が損なわれるという問題があった。
【0008】
加えて、上記の多糖類では、アルギン酸塩、低メトキシルペクチンはゼラチンとは異なり温度によってゾル・ゲル変化する性質を有さず、ジェランガムは常温に近い温度でゾル・ゲル変化するゼラチンとはかけ離れた温度でゾル・ゲル変化するため、ロータリーダイ法でソフトカプセルを成形する場合のヒートシール性は、主にゼラチンによって担保されなくてはならない。そのため、皮膜液中の多糖類の配合割合を増加させると、ゼラチンの割合の低下に伴って接着性が低下し、カプセルの成形ができないおそれがあった。そのため、特許文献2に代表される従来技術では、ソフトカプセルの成形方法は、ヒートシールを必要としない滴下法(シームレスカプセル法)によって行われていた。また、上記の多糖類は増粘多糖類とも称され水溶液の粘度が高いため、皮膜液からシートを成形し、二枚のシートのヒートシールによりカプセル成形を行うロータリーダイ法では、カプセル成形がしにくいおそれがあり、その点からもカプセルの成形は滴下法によって行われていた。
【0009】
ここで、滴下法は、皮膜液の表面張力を利用してカプセルを成形する方法であるため、成形されるカプセルの形状は真球に限定される。そのため、oval型、round型、suppository型、oblong型、tube型の他、しずく型、三角型、ハート型など、鋳型の形状に応じて種々の形状が可能なロータリーダイ法とは異なり、滴下法ではカプセル形状に選択の余地がないという不都合があった。また、滴下法ではカプセルのサイズも小さいものに限定されるため、内容物の有効成分を必要量摂取するためには、多数個のカプセルを服用しなくてはならないという問題があった。
【0010】
これに対し、特許文献3では、pH調整剤及びキレート剤の添加によって、多糖類を含む皮膜液の粘度の増加を抑制することにより、ロータリーダイ法でカプセルの成形を行う技術を開示している。しかしながら、この技術では予めカプセル皮膜中に非水溶性のカルシウム塩を含有させているため、皮膜が白く濁って透明感が失われ、カプセルの外観が損なわれるという問題があった。
【0011】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、形状及び大きさの多様なカプセルを成形可能なロータリーダイ法を適用でき、腸溶性に優れると共に外観が美しいカプセルを、簡易な工程で製造することができる腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルの提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するため、本発明にかかる腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、「ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が20%〜40%でゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない」ものである。
【0013】
「ペクチン」は、ガラクチュロン酸とそのメチルエステルが重合した多糖類であり、「エステル化度(DE:Degree of Esterification)」とは、全ガラクチュロン酸のうちメチルエステルの形で存在するガラクチュロン酸の割合をいう。そして、エステル化度が50%以上のペクチンが「高メトキシルペクチン(HMペクチン)」と称されるのに対し、それよりエステル化度の低いペクチンは「低メトキシルペクチン(LMペクチン)」と称されている。
【0014】
低メトキシルペクチンと高メトキシルペクチンとでは、ゲル化の機構が大きく相違し、高メトキシルペクチンがpH3.5以下、約55%以上の糖の存在で水素結合によるゲルを形成するのに対し、低メトキシルペクチンは多価金属イオンの存在でゲル化する。このゲル化機構については、ガラクチュロン酸のカルボキシル基間を多価金属イオンがイオン結合により架橋するという考え方と、ガラクチュロン酸の孤立電子対と多価金属イオンとの配位結合によるとする考え方(卵箱モデル)とがある。ここで、「多価金属イオン」としては、カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、ストロンチウム、バリウム、ニッケル等の金属イオンを例示することができる。
【0015】
「可塑剤」としては、グリセリン、ソルビトール、マルチトール、ポリエチレングリコール等を、単独又は併用して使用することができる。なお、本発明の「カプセル皮膜液」には、ゼラチン、水、可塑剤に加えて、カラメルやタール色素等の着色剤、酸化チタン等の光隠ぺい剤、パラベン等の防腐剤を含有させても構わない。
【0016】
カプセル皮膜に充填する「内容物」としては、医薬成分、健康食品成分、栄養補助成分を油剤に溶解又は懸濁させたものを例示することができ、特に限定されるものではないが、乳酸菌など胃酸によって活性を失いやすい成分や、鉄分など胃の細胞壁に刺激を与えやすい成分は、本発明の内容物とする意義が高い。
【0017】
本発明者らは、検討の結果、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜液に、エステル化度が20〜40%の低メトキシルペクチンを、ゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部添加することにより、その他の条件は腸溶性ではないソフトカプセルをロータリーダイ式成形装置を用いて製造する定法と同一の製造方法で、腸溶性に優れるソフトカプセルを、良好な成形性で製造できることを見出した。従って、従来は、温度によってゾル・ゲル変化する性質を有しない低メトキシルペクチンを使用した場合、ロータリーダイ法による腸溶性ソフトカプセルの成形が困難であったところ、本発明によれば、ロータリーダイ法によって大きさ及び形状の多様な腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0018】
ここで、低メトキシルペクチンのエステル化度が20〜40%の範囲外の場合、及び、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合が10重量部に満たない場合は、低メトキシルペクチンのゲル化によって付与される胃酸に対する耐性が不十分なものとなる。一方、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合が30重量部を超える場合は、カプセル皮膜液の粘度が増加すると共に、カプセル皮膜のヒートシール性が低下することにより、ロータリーダイ法によるソフトカプセルの成形性が低下する。なお、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの割合が10〜20重量部であれば、上記の相反する作用の調和を図ることができ、より望ましい。
【0019】
また、上述の従来技術とは異なり、低メトキシルペクチンをゲル化するために、多価金属イオンの非水溶性塩をカプセル皮膜に予め添加しておく必要がないため、カプセル皮膜が白く濁ることがなく、透明感のある美しい腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0020】
更に、上述の従来技術とは異なり、成形されたカプセルを多価金属イオンを含有するゲル化液に浸漬する工程が必要ないため、付加的な設備や装置を要することなく、簡易な工程でコストを低減して、腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0021】
加えて、上述の従来技術とは異なり、成形されたカプセルの表面にセラック等の腸溶性物質をコーティングする工程も必要ないため、付加的な設備や装置を要することなく、簡易な工程でコストを低減して、腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0022】
次に、本発明にかかる腸溶性ソフトカプセルは、「ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、カプセル皮膜に、ゼラチン、及び、エステル化度が20%〜40%でゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有している」ものである。
【0023】
「継ぎ目」は、ロータリーダイ式成形装置による成形の際に、カプセル皮膜液から形成された二枚のシートを一対のダイロール間に送り、内容物の充填と共に両シートをヒートシールする際に形成される接合線である。かかる継ぎ目は、ロータリーダイ法により成形されたソフトカプセルに特有な構成であり、滴下法により成形されたソフトカプセル(シームレスカプセル)には存在しない。
【0024】
上記構成の腸溶性ソフトカプセルは、上述の腸溶性ソフトカプセルの製造方法により製造されるものであり、腸溶性に優れている。また、ロータリーダイ式製造装置により成形されるソフトカプセルであるため、大きさ及び形状の自由度が高い利点を有している。加えて、上述の腸溶性ソフトカプセルの製造方法により製造される本発明の腸溶性ソフトカプセルは、カプセル皮膜中に炭酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等の多価金属イオンの塩は含有しておらず、多価金属イオンを含む水溶液に浸漬されることによりゲル化された皮膜外皮も有していないと共に、外表面に腸溶性物質のコーティング層をも具備しないため、透明感を有する美しい外観を呈している。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明の効果として、形状及び大きさの多様なカプセルを成形可能なロータリーダイ法を適用でき、腸溶性に優れると共に外観が美しいカプセルを、簡易な工程で製造することができる腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の最良の一実施形態である腸溶性ソフトカプセルの製造方法、及び、該製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルについて説明する。
【0027】
本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法は、ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が20〜40%でゼラチン100重量部に対して10〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、ロータリーダイ式成形装置により、カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備する。そして、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法では、低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩がカプセル皮膜液に添加されることはないと共に、成形されたソフトカプセルを多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程も具備しないものである。また、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法により製造される腸溶性ソフトカプセルは、ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、カプセル皮膜に、ゼラチン、及び、エステル化度が20%〜40%でゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有しているものである。
【0028】
より詳細に説明すると、調製工程では、まず、低メトキシルペクチン、可塑剤、及び水を加温溶解させる。更にゼラチンを添加し、混合し加温溶解させて、所望する粘度の混合液を調整する。このとき、必要に応じて、着色剤、光隠ぺい剤、防腐剤等の添加物を配合することができる。その後、混合液を脱泡することにより、カプセル皮膜液を得ることができる。
【0029】
成形工程は、ロータリーダイ式の成形装置を使用して行われるが、一般的なロータリーダイ式成形装置は、カプセル皮膜液をシート状に成形するキャスティングドラムと、外表面に成形鋳型が形成された一対のダイロールと、ダイロール間に配されたくさび状のセグメントと、セグメント内に内容物を圧入すると共にセグメントの先端から内容物を押し出すポンプとを主に具備している。
【0030】
成形工程では、まず、60〜100℃に保持されてゾル状態にあるカプセル皮膜液が、キャスティングドラム表面に流延され、冷却されてゲル化することによりシート化される。次に、形成されたシートの二枚が、セグメントに沿って一対のダイロール間に送入される。そして、一対のダイロールの相反する方向への回転に伴い、二枚のシートがヒートシールされて上方に開放したカプセルが形成されると、この中にセグメントから押し出された内容物が充填される。これと同時に、二枚のシートが上部でヒートシールされ、閉じた内部空間に内容物が充填されたソフトカプセルが形成される。なお、成形工程で成形されたカプセルは、所定の水分含量となるまで調湿乾燥機内で乾燥させることができる。
【0031】
次に、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法を、上記の構成とした根拠について説明する。まず、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜に腸溶性を付与する材料について検討した結果を示す。検討においては、可塑剤としてグリセリンを使用し、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、低メトキシルペクチン、高メトキシルペクチンを単独あるいは併用して、表1に示す皮膜組成A〜Hのカプセル皮膜液をそれぞれ調製した。それぞれのカプセル皮膜液を用い、ロータリーダイ式成形装置で上記と同様にソフトカプセルを成形した。なお、表1を含め、以下では、ゼラチン100重量部に対する重量部で皮膜組成を表示している。
【0032】
各皮膜組成のソフトカプセルについて、日本薬局方に規定された崩壊試験法に則り、腸溶性の評価を行った。その結果を、表1に併せて示す。ここで、第一液は耐胃液性を評価するためのpH1.2の試験液であり、試験液中でソフトカプセルを120分上下運動させ、その後の観察において、カプセル皮膜が残存し内容物が漏出していない場合を「○」、カプセル皮膜は残存するが内容物が漏出している場合を「△」、カプセル皮膜が残存しない場合を「×」で表示している。また、第二液は耐腸液性を評価するためのpH6.8の試験液であり、試験液中でソフトカプセルを60分上下運動させ、その後の観察において、カプセル皮膜形状が残らない場合を「○」、カプセル皮膜が残存するが内容物が漏出している場合を「△」、カプセル皮膜が残存し内容物も漏出していない場合を「×」で表示している。従って、第一液及び第二液の双方に対して「○」の場合に、腸溶性カプセルとして優れていると判断することができる。
【0033】
【表1】

【0034】
表1から明らかなように、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜に低メトキシルペクチン(LMペクチン)を添加した場合に、優れた腸溶性を示した。また、低メトキシルペクチンを単独で添加した場合(皮膜組成D)は、低メトキシルペクチンをアルギン酸ナトリウムと併用した場合(皮膜組成F)より腸溶性に優れており、低メトキシルペクチンをカラギーナンと併用した場合(皮膜組成G)は腸溶性を示さなかった。そして、同じペクチンであっても、高メトキシルペクチン(HMペクチン)は、腸溶性を示さなかった(皮膜組成H)。なお、ジェランガム、アルギン酸ナトリウム、カラギーナンを単独で用いた皮膜組成(それぞれ皮膜組成A,皮膜組成B,皮膜組成C)は、低メトキシルペクチンを単独で添加した場合(皮膜組成D)より添加量が少ないが、それより添加量を増加させると、カプセル皮膜液の粘度が増大してカプセル成形が困難となった。以上のことから、ゼラチンを基剤とするカプセル皮膜に腸溶性を付与するためには、カプセル皮膜液に低メトキシルペクチンを単独で添加することが好適であると考えられた。
【0035】
次に、低メトキシルペクチンのエステル化度(DE)と腸溶性との関係について、検討した結果を示す。表2に示すように、エステル化度が異なる低メトキシルペクチンを、それぞれゼラチン100重量部に対して20重量部添加した皮膜組成I〜Mのカプセル皮膜液を調製し、ロータリーダイ式成形装置でソフトカプセルを成形した。成形されたソフトカプセルについて、上記と同様の崩壊性試験を行った。その結果を表2に併せて示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2に示したように、低メトキシルペクチンとしてエステル化度が20〜40%のものを用いた場合に、腸溶性に優れるソフトカプセルを得ることができた。エステル化度がこれより小さい皮膜組成Iでは、カプセル皮膜が硬くて脆い様子が観察され、そのために第一液中で皮膜が崩壊して内容物が漏出したものと考えられた。これは、エステル化度が小さい場合は、ゲル化のための結合を担うガラクチュロン酸の割合が大きいため、ゲル化が急速に進行すると共にゲル化の程度が高いことに起因すると考えられた。
【0038】
一方、エステル化度が上記範囲より大きい皮膜組成Mでは、カプセル皮膜のゲル強度が弱い様子が観察され、そのために第一液中で皮膜がつぶれて内容物が漏出したものと考えられた。これは、エステル化度が大きい場合は、上記と逆にゲル化のための結合を担うガラクチュロン酸の割合が小さいため、ゲル化のための結合点の数が少なく、ゲル化の進行が遅いと共にゲル化の程度が低いことに起因すると考えられた。
【0039】
なお、崩壊性試験において、第一液中でカプセル皮膜の形状がしっかりと残存している様子が観察されたことから、エステル化度は20〜30%であれば更に好適であると考えられた。
【0040】
より好適なエステル化度(20〜30%)の範囲内である低メトキシルペクチンとして、エステル化度27%の低メトキシルペクチンを使用し、低メトキシルペクチンの添加量と腸溶性との関係を検討した結果を次に示す。表3に示すように、ゼラチン100重量部に対する低メトキシルペクチンの配合割合の異なる皮膜組成N〜Tについて、カプセル皮膜液を調製し、調製されたカプセル皮膜液の粘度を測定した。ここで、粘度測定は、B型粘度計(ロータNo.4,回転速度6rpm)を使用し、測定温度75℃で行った。更に、調製されたカプセル皮膜液を用いてロータリーダイ式成形装置でソフトカプセルを成形し、成形されたソフトカプセルについて、上記と同様の崩壊性試験を行った。粘度の測定結果及び崩壊性試験の結果を、表3に併せて示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3に示したように、ゼラチン100重量部に対して低メトキシルペクチンを10〜30重量部添加した場合に、優れた腸溶性を示した。低メトキシルペクチンの割合が10重量部に満たない皮膜組成N,Oでは、低メトキシルペクチンのゲル化によってゼラチン皮膜に付与される耐胃液性が不十分であると考えられた。一方、低メトキシルペクチンが30重量部を超える皮膜組成Tは、カプセル皮膜液の粘度が非常に高かった。そのため、ロータリーダイ式成形装置を用いた成形において取り扱いが困難であると共に、ヒートシール性が悪く、ソフトカプセルの成形を行うことができなかった。なお、ロータリーダイ式成形装置による成形の際の取り扱いのし易さを考慮すると、カプセル皮膜液の粘度は60000mPa・sを超えないことが望ましく、このことから、低メトキシルペクチンの添加量はゼラチン100重量部に対して10〜20重量部とすると、更に好適であると考えられた。
【実施例】
【0043】
本実施形態の構成要件を具備する皮膜組成P,Q,R(J),K,L,Sのソフトカプセル(実施例のソフトカプセル)について、崩壊性試験の結果をまとめて表4に示すと共に、対照のために市販品について同様の崩壊性試験を行った結果を表4に示す。また、実施例及び市販品について、外観の観察結果を表4に併せて示す。ここで、市販品は、ソフトカプセルの表面にセラック・ゼインがコーティングされることにより、腸溶性が付与されているタイプである。
【0044】
【表4】

【0045】
表4に示したように、本実施例の腸溶性ソフトカプセルは、市販品より腸溶性に優れていた。また、カプセルにくすみが見られる市販品に対し、本実施例の腸溶性ソフトカプセルは、光沢を有すると共に透明性に優れた美しい外観を呈するものであった。
【0046】
上記のように、本実施形態の腸溶性ソフトカプセルの製造方法によれば、エステル化度が20〜40%の低メトキシルペクチンを、ゼラチン100重量部に対して10〜30%添加してカプセル皮膜を形成することにより、その他の条件は腸溶性を有しない通常のソフトカプセルの製造方法と同一として、特別な工程を要することなく、腸溶性に優れたソフトカプセルを製造することができる。
【0047】
そして、従来、温度によってゾル・ゲル変化する性質を有しない低メトキシルペクチンを使用して、ロータリーダイ法による腸溶性ソフトカプセルを成形することは困難であったところ、本実施形態によれば、ロータリーダイ法を適用して、大きさ及び形状の多様な腸溶性ソフトカプセルを良好な成形性で製造することができる。
【0048】
なお、ゼラチンについては、牛骨由来ゼラチン、牛皮由来ゼラチン、豚皮由来ゼラチン、豚骨由来ゼラチン、魚皮由来ゼラチンの何れを用いた場合であっても、本実施形態の製造方法によって、腸溶性に優れると共に美しい外観を呈するソフトカプセルを、良好な成形性で製造することができた。
【0049】
また、本実施形態では、腸溶性を付与するためにセラック等の腸溶性物質をソフトカプセル表面にコーティングする必要がないため、製造工程が極めて簡易であり、製造コストを低減できると共に、くすみのない透明感のある腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0050】
更に、従来技術とは異なり、低メトキシルペクチンをゲル化するために、多価金属イオンの非水溶性塩をカプセル皮膜液に添加する必要がないため、透明感のある腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0051】
加えて、従来技術とは異なり、成形されたカプセルを多価金属イオンを含有するゲル化液に浸漬する工程が必要ないため、製造工程が極めて簡易であり、製造コストを低減することができると共に、ゲル化液により硬化した外皮を有さず、表面が滑らかで透明感のある腸溶性ソフトカプセルを製造することができる。
【0052】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0053】
例えば、上記では、可塑剤として、ゼラチン100重量部に対して50重量部のグリセリンを添加する場合を例示したが、これに限定されず、グリセリンの含量はゼラチン100重量部に対して20〜60重量部とすることができる。また、可塑剤の種類も、グリセリンに限定されるものではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼラチン、水、可塑剤、及び、エステル化度が20%〜40%でゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有するカプセル皮膜液を調製する調製工程と、
ロータリーダイ式成形装置により、前記カプセル皮膜液から形成されたカプセル皮膜に内容物が充填されたソフトカプセルを成形する成形工程とを具備し、
低メトキシルペクチンをゲル化する多価金属イオンを含む塩は前記カプセル皮膜液に添加されないと共に、成形された前記ソフトカプセルを前記多価金属イオンを含むゲル化液に浸漬する工程は具備しない
ことを特徴とする腸溶性ソフトカプセルの製造方法。
【請求項2】
ロータリーダイ式成形装置で成形されたことにより形成された継ぎ目を有するソフトカプセルであって、
カプセル皮膜に、ゼラチン、及び、エステル化度が20%〜40%でゼラチン100重量部に対して10重量部〜30重量部の低メトキシルペクチンを含有していることを特徴とする腸溶性ソフトカプセル。

【公開番号】特開2010−47548(P2010−47548A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215026(P2008−215026)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【特許番号】特許第4252619号(P4252619)
【特許公報発行日】平成21年4月8日(2009.4.8)
【出願人】(503315676)中日本カプセル 株式会社 (9)
【Fターム(参考)】