説明

腸溶性固体分散体を含んでなる固形製剤

【課題】固形製剤の溶出性を損なうことなく、製剤中の薬物を迅速に溶出することができる腸溶性固体分散体を含む固形製剤又はその製造方法を提供する。
【解決手段】溶性薬物、腸溶性ポリマー、賦形剤及び崩壊剤を含む固形製剤であって、少なくとも賦形剤及び崩壊剤を含む混合粉末の一部又は全部が、難溶性薬物と腸溶性ポリマーを含む固体分散体で被覆された造粒物を含み、日本薬局方第1液(人工胃液)での120分経過後の難溶性薬物の溶出率が薬物初期投与濃度の10質量%以下となるように難溶性薬物の胃内での放出が抑制された固形製剤又はその製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難溶性薬物の溶出を改善する目的で製造された腸溶性固体分散体を含んでなる固形製剤に関するものである。特に、迅速な崩壊性と薬物の溶出性を有することを特徴とする固体分散体を含有する腸溶性固形製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難溶性薬物は結晶性が高く、水への溶解性が極めて低いために、これらを製剤化した場合、生物学的利用能又は体内吸収性が低く、薬効が不十分となる問題があった。この問題を解決するための技術として、難溶性薬物をセルロース誘導体等の高分子担体(キャリヤー)に非晶状態で分子分散させた固体分散体が開発されている。
【0003】
従来の固体分散体は、難溶性薬物とキャリヤーを共溶媒で溶解させた物を噴霧乾燥(スプレードライ)して得られた固形物をカプセルに詰めたり、そのまま細粒や顆粒に製剤化することで服用形態を取っていたが、定量処方及び定量服用、実際の患者の取り扱いや服用のし易さ等の点から、固形製剤の汎用的剤形である錠剤化が最も好ましい。
【0004】
しかしながら、これまでの知見から、固体分散体粉末を錠剤化すると、比表面積の低下のみならず、圧縮成型過程で非晶質の薬物分子が可塑性の変形を受けることと、キャリヤー高分子の強い結合性により、しばしば錠剤の空隙率が低くなり、その結果、投与時に錠
剤中への水分子の浸透が遅れ、錠剤の崩壊が遅延し、固体分散体本来の溶出改善性が得られないという問題が生じていた。また、キャリヤーとなる水溶性又は腸溶性高分子は、水和・溶解時に粘度が上昇するため、溶解時の錠剤表面に一種のハイドロゲル層を形成し、水の浸潤が更に妨げられてしまうということが生じていた。
【0005】
これらの問題を解決する手段として、特許文献1では、スプレードライにより得られた固体分散体粉末と崩壊剤及びポロシゲンなる賦形剤を含有した錠剤が、特許文献2では、難溶性薬物に水溶性高分子基剤、必要に応じて賦形剤、崩壊剤を添加した散剤が提案されている。しかし、キャリヤーである濃度向上ポリマーや水溶性高分子基剤の添加量が多いため、投与後発現するポリマーの粘性が増大し、薬物溶解速度が遅延する傾向にあった。また、特許文献1のようにスプレードライにより得られた固体分散体粉末は、粒子径が細かいため、他の賦形剤と単純混合すると偏析が起こり、成分不均一な打錠用粉末が得られる。そのため、特許文献1では造粒操作が必要である。具体的には、分散物とその他の成分と混合した後、一旦圧縮・解砕して打錠用造粒末とする乾式顆粒化法が例示されている。更に、このような工程を経ると、作業が煩雑となり一方、一旦圧縮することによる固体分散体が再結晶することが懸念される。また、崩壊剤が固体分散体を調製した後に添加されており、錠剤中で固体分散体同士がキャリヤーの強い結合力により凝集結合した場合、これが塊となって崩壊時に水中に分散されると、薬物の溶出性を低下させる原因となる。
【0006】
更に、特許文献1では難溶性薬物と濃度向上ポリマーによって予め固体分散体粉末を調
製し、その後崩壊剤及び賦形剤が物理的に混合されているのみのため、得られた錠剤は胃内でも崩壊してしまい(好ましい崩壊時間は、崩壊媒体に投入後10分以内と明記されている)、比表面積の増えた固体分散体が消化管水溶液の中で長時間さらされ、溶解した薬物の再結晶による溶解能の低下も懸念される。
【0007】
一方、特許文献3では、賦形剤と崩壊剤の混合末に、難溶性薬物のイトラコナゾール、水溶性ポリマー及び腸溶性ポリマーの溶液を噴霧、造粒、乾燥して得られる細粒を用いた錠剤が提案されている。しかし、崩壊剤の添加量が少なく、錠剤から薬物が溶出されるまで360分もかかっており、錠剤の崩壊性を改善するものではなかった。
【0008】
平沢ら(非特許文献1)は、難溶性薬物のニルバジピンとクロスポビドン、メチルセルロースのエタノール分散液を結合液として、乳糖、メチルセルロースや低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の混合末に投入し撹拌造粒したものから錠剤を得ている。しかしながら、ニルバジピンはエタノールに溶解するが、クロスポビドン及びメチルセルロースはエタノールに溶解しないために、共溶解状態を経ず、単に非晶ニルバジピンの分散希釈剤として機能していると考えられる。キャリヤーであるポリマー中に非晶の薬物分子を分散させるためには、一旦両者を溶解する共溶媒で共溶解状態を経なくてはならないため、非特許文献1により得られた非晶質のニルバジピンの固体分散体は、十分な溶解性が得られないと考えられる。また、水溶性ポリマーの添加量が多いために、即溶出性の製剤を得ることが困難であると考えられる。
【特許文献1】特表2005−517690号公報
【特許文献2】特開平5−262642号公報
【特許文献3】特開2004−67606号公報
【非特許文献1】薬学雑誌,124(1), 19−23(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、固体分散体の溶出性を損なうことなく、製剤中の薬物を迅速に溶出することができる腸溶性固体分散体を含んでなる固形製剤及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行なった結果、少なくとも賦形剤と崩壊剤を含む混合粉末の一部又は全部を、難溶性薬物と腸溶性ポリマーを含んでなる固体分散体で被覆して得られる固形製剤は、圧縮成型した錠剤において崩壊性の低下を起すことなく、顆粒や錠剤等の固形製剤において優れた溶出性を示すことを見出し、本発明を成すに至ったものである。
具体的には、本発明は、難溶性薬物、腸溶性ポリマー、賦形剤及び崩壊剤を含む固形製剤であって、少なくとも賦形剤と崩壊剤を含む混合粉末が、難溶性薬物と腸溶性ポリマーを含む固体分散体で被覆されている固形製剤を提供する。本発明の好ましい形態の一つとして、上記腸溶性ポリマーの含有量が1〜37質量%で、かつ上記崩壊剤の含有量が15〜50質量%である固形製剤を提供する。また、賦形剤と崩壊剤の混合粉末に、難溶性薬物を分散又は溶解した腸溶性ポリマー溶液を噴霧し、造粒、乾燥することを含んでなる固形製剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、造粒物の場合には高い溶出性が認められ、錠剤の場合には適当な溶解媒体への導入後10分以内に崩壊し、難溶性薬物の少なくとも70質量%を放出することができる優れた溶解性を有する固形製剤が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明に用いる難溶性薬物は、水に対する溶解度が非常に低く、通常経口投与では吸収性の悪い薬物である。例えば、日本薬局方第14改正に定められている「ほとんど溶けない」又は「極めて溶けにくい」とされる薬物をいう。日本薬局方第14改正における薬物の「溶解性」とは、薬物が固形の場合には粉末とした後、溶媒中に入れ、20±5℃で5分毎に30秒間振り混ぜるときに30分以内に溶ける度合いをいい、「ほとんど溶けない」とは、薬物1g又は1mlを溶かすのに要する溶媒量(ここでは水)が10,000ml以上、「極めて溶けにくい」とは、薬物1g又は1mlを溶かすのに要する溶媒量が1,000ml以上、10,000ml未満の性状をいう。
【0013】
本発明に用いる難溶性薬物の具体例としては、ニフェジピン、フェナセチン、フェニトイン、ジギトキシン、ニルバジピン、ジアゼパム、グリセオフルビン、クロラムフェニコール等が挙げられるが、これらに特に限定されるものではない。
【0014】
本発明の固体分散体のキャリヤーは、腸溶性ポリマーを用いる。腸溶性ポリマーを固体分散体のキャリヤーとして用いる利点としては、固形製剤からの薬物放出が胃内では抑制され、胃から小腸へ移行後に、ようやく薬物が完全に放出され固体分散体から薬物が溶出されるという腸溶性ポリマーの溶解特性が挙げられる。これは体内の中で薬物の吸収面積及び吸収特性が最も高い小腸において、特異的・効率的に固体分散体の薬物を溶出、吸収ができることを意味する。また、固体分散体製剤における一般的問題点として挙げられる薬物溶解後の再結晶化を起す可能性のある薬物に対しても、有効である。すなわち、胃から腸へ製剤が移行する間に再結晶する可能性のある薬物に対して腸溶性ポリマーを固体分散体のキャリヤーとして用いることにより、再結晶化が抑えられ、再結晶化による薬物本来の低い溶解度に戻ってしまうことなく、小腸において、特異的・効率的に固体分散体の薬物を溶出、吸収ができる。
【0015】
腸溶性ポリマーは、日本薬局方第14改正に定められている条件において、「ほとんど溶けない(薬物1g又は1ml溶かすのに必要な水量が10,000ml以上)」に該当し、かつアルカリ性溶液に溶けるポリマーである。腸溶性ポリマーとしては、具体的にはセルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルトリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体(好ましくは質量比1:99から99:1)、及びメタクリル酸/メチルメタクリレート共重合体((好ましくは質量比1:99から99:1)等が挙げられる。中でもヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルトリメリテートが好ましく、特にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートが好ましい。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートの中でも特に、胃から小腸の上部、中部へ移行後、速やかに薬物溶出が始まると考えられる性質のものが好ましい。具体的には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートがpH5〜7(5.0〜6.8)の日局リン酸緩衝液中で120分以内に溶解する性質を示すものが好ましい。ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートのポリマーの溶解性を示す因子としては、各置換基の含有量及びアセチル基とサクシノイル基の組成比が考えられ、具体例としては以下に示すものが好ましいが、これに限られることはない。
具体例1:メトキシル基:20質量%〜24質量%、ヒドロキシプロポキシル基:5質量%〜9質量%、アセチル基:5質量%〜9質量%、サクシノイル基:14質量%〜18質量%、組成比:1.5〜2。
具体例2:メトキシル基:21質量%〜25質量%、ヒドロキシプロポキシル基:5質量%〜9質量%、アセチル基:7質量%〜11質量%、サクシノイル基:10質量%〜14質量%および組成比:0.9〜2.0。
なお、上記に挙げた置換基含有量以外のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートでも具体例1及び/又は具体例2のヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートと組み合わせることで、pH溶解性がpH5〜7(5.0〜6.8)のリン酸緩衝液で120分以内に溶解するのであれば用いることができる。
【0016】
腸溶性ポリマーの含有量は、好ましくは固形製剤全体中に1〜37質量%である。
腸溶性ポリマーの含有量が1質量%より少ないと固体分散体中の難溶性薬物を完全に非晶状態とすることが困難となる場合があり、37質量%より多いと製剤中に腸溶性ポリマーの割合が大きくなることで、造粒物の場合には投与量、錠剤の場合には製剤サイズが大きくなる場合があるため好ましくない。
【0017】
難溶性薬物に対する腸溶性ポリマーの添加比率は、難溶性薬物:腸溶性ポリマー=1:1〜5(質量比)が好ましい。腸溶性ポリマーの比率が1より小さいと固体分散体中の難溶性薬物を完全に非晶状態にすることができない場合があり、5よりも大きい場合は製剤中の腸溶性ポリマーの割合が大きくなるため、結果として製剤サイズが大きくなることになり、一般的な製剤として適さない場合がある。
【0018】
腸溶性ポリマーを含んでなる難溶性薬物の固体分散体を調製する際の溶媒は、難溶性薬物が良く溶け、かつ腸溶性ポリマーも溶ける溶媒が好ましい。例えばメタノール、エタノール、塩化メチレン、アセトン又はこれらの混合溶媒の他、これらと水との混合溶媒が挙げられるが、難溶性薬物と腸溶性ポリマーの溶媒への溶解性により適宜選択することができる。
溶媒の添加量は、固形分濃度が好ましくは3〜18質量%、特に好ましくは3.5〜12%溶液になる量である。
【0019】
また、必要に応じて固体分散体の成分中にポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドやポリプロピレングリコール等界面活性剤を第三成分として添加することも可能である。
【0020】
本発明で用いる賦形剤としては、例えば乳糖、コーンスターチ、白糖、マンニット、無水リン酸カルシウム、結晶セルロース、それらの混合物等が挙げられ、特に乳糖:コーンスターチ=7:3(質量比)の混合末が好ましい。
【0021】
賦形剤の含有量は、製剤全体中に、好ましくは2〜90質量%、特に好ましくは5〜60質量%である。賦形剤の含有量が2質量%より少ないと崩壊剤過多となり造粒末の流動性が不良となる場合があり、90質量%より多いと崩壊剤が少なくなるために溶出性の改善効果が期待できなくなる場合がある。
【0022】
本発明で用いる崩壊剤としては、例えばカルメロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロポキシル基5〜16質量%を有する低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン等やこれらの混合物が挙げられる。
本発明で用いる崩壊剤としては、特に造粒物の高い流動性を与え、圧縮成型した製剤からの高い溶出性を保証する点で低置換度ヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。更に、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースの中でもゆるめ嵩密度が0.40g/ml以上かつ固め嵩密度が0.60g/ml以上のものが特に好ましい。
【0023】
ここで、「ゆるめ嵩密度」とは、疎充填の状態の嵩密度をいい、直径5.03cm、高さ5.03cm(容積100ml)の円筒容器(材質:ステンレス)へ試料をJISの24メッシュの篩を通して、上方(23cm)から均一に供給し、上面をすり切って秤量することによって測定される。一方、「固め嵩密度」とは、これにタッピングを加えて密充填にした場合の嵩密度をいう。タッピングとは試料を充填した容器を一定の高さから繰り返し落下させて底部に軽い衝撃を与え、試料を密充填にする操作をいう。実際には、ゆるめ嵩密度を測定する際、上面をすり切って秤量した後、更にこの容器の上にキャップ(下記ホソカワミクロン社製パウダーテスターの備品)をはめ、この上縁まで粉体を加えてタップ高さ1.8cmのタッピングを180回行なう。タッピング終了後、キャップを外して容器の上面で粉体をすり切って秤量し、この状態の嵩密度を固め嵩密度とする。これらの操作は、ホソカワミクロン社製パウダーテスター(PT−D)を使用することにより測定できる。
【0024】
また、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとしては、圧縮度が35%以下であるものを用いることが好ましい。ここで、圧縮度とは、かさべりの度合いを示す値であり、以下の式で求められる。
圧縮度(%)=[(固め嵩密度−ゆるめ嵩密度)/固め嵩密度]×100
【0025】
崩壊剤の含有量は、製剤全体中に、好ましくは15〜50質量%、特に好ましくは20〜40質量%である。崩壊剤の含有量が15質量%より少ないと溶出性を改善する効果が弱くなってしまうため、期待する効果が得られない場合があり、50質量%より多いと得られる造粒末の流動性は低下する場合があるため打錠末として好ましくない。
【0026】
本発明の固体分散体の錠剤には、必要に応じて滑沢剤を添加することができる。滑沢剤としては、例えばステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、タルク、ステアリン酸等が挙げられる。
【0027】
滑沢剤を添加する場合、滑沢剤の添加量は、好ましくは滑沢剤を除く製剤全体に対して0.5〜2質量%である。滑沢剤の添加量が0.5質量%より少ないと十分な滑沢性が得られない場合があり、打錠時に臼杵への付着が見られる一方、2質量%より多いと硬度の低下や崩壊性の低下が見られる場合がある。
【0028】
本発明により得られた錠剤は、胃内の酸性環境下において錠剤の崩壊及び薬物の溶出を抑制し、かつ腸内の中性〜アルカリ性下で崩壊し、薬物の溶出を改善する特性を示す。これは、打錠末である造粒物を調製時、賦形剤と崩壊剤を含む混合粉末が、難溶性薬物と腸溶性ポリマーを含む固体分散体で被覆されるため、キャリヤーである腸溶性ポリマーが崩壊剤の表面に付着することによる。このような造粒物を用いた錠剤では、胃内では水が内部に浸透し難くなるため錠剤の崩壊を抑制し、一旦腸内でキャリヤーが溶解し始めれば水が浸入して崩壊剤の膨潤が可能となり錠剤が崩壊するようになる。この結果、固体分散体粒子の表面積が増え、溶解性が増大すると考えられる。
【0029】
次に、本発明の固形製剤のうち、代表的剤形である造粒物及び錠剤の製造方法について説明する。
本発明の固形製剤のうち造粒物は、賦形剤及び崩壊剤の混合粉末に難溶性薬物が分散又は溶解した腸溶性ポリマー溶液を噴霧、造粒した後、乾燥することによって得られる。具体的には、賦形剤及び崩壊剤の混合粉末を造粒装置内で流動させ、これに予め調製した難溶性薬物が分散又は溶解した腸溶性ポリマー溶液を噴霧、造粒して、乾燥後、整粒する。
造粒装置としては、流動層造粒コーティング装置、高速撹拌造粒装置、転動造粒装置等
が挙げられるが、流動層造粒コーティング装置が特に好ましい。
このようにして得られた造粒物には、散剤や顆粒剤が含まれる。また、得られた造粒物をカプセル剤の充填物としても用いることができる。
【0030】
本発明の錠剤は、上記の方法で得られた造粒物を打錠末とし、必要に応じて滑沢剤を加えて打錠機にて圧縮成型することにより得られる。また、上記の方法で得られた造粒物について、粉体物性や溶出改善性等の観点で必要に応じて、打錠前に適切な粉砕装置を用いて粉砕しても良い。粉砕装置としては、例えばナイフミル、ローラーミル、ボールミル、ジェットミル、スクリーンミル、ビーズミル等が挙げられる。
【0031】
こうして得られた固形製剤のうち造粒物は、pH6.8の日局第2液(人工腸液)を用いて日本薬局方第14改正に記載された「溶出試験」で評価した場合に、投与後5分以内の溶出率が薬物初期投与濃度の70%以上となり、高い溶出性を示す。また、pH1.2の日局第1液(人工胃液)を用いて「溶出試験」で評価した場合には、120分経過後の溶出率は薬物初期投与濃度の10質量%以下で、胃内で溶出しないものである。
【0032】
一方、固形製剤のうち錠剤は、pH6.8の日局第2液(人工腸液)を用いて日本薬局方第14改正に記載された「崩壊試験」で評価した場合に、投与後10分以内に崩壊し、pH1.2の日局第1液(人工胃液)での崩壊時間が20分以上であり、高い崩壊性を示す。
また、pH6.8の日局第2液(人工腸液)を用いて日本薬局方第14改正に記載された「溶出試験」で評価した場合に、投与後10分以内の溶出率が薬物初期投与濃度の70%以上となり、高い溶出性を示す。また、pH1.2の日局第1液(人工胃液)を用いて「溶出試験」で評価した場合には、120分経過後の溶出率は薬物初期投与濃度の10質量%以下で、胃内で溶出しないものである。
【0033】
本発明で得られる固形製剤においては、味・臭気のマスキング、腸溶化又は徐放化を目的として、自体公知の方法によってコーティングしてもよい。この際、コーティング剤としては、例えば水溶性ポリマーである、メチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のヒドロキシアルキルアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等や、腸溶性ポリマーであるセルロースアセテートフタレート、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース等の他、胃溶性ポリマーであるポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマー等が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1及び比較例1
総固形分量が240gになるように計算した、表1に示す所定の添加量のニフェジピンと、表1の各種腸溶性ポリマーをエタノール:水=8:2(質量比)の混合溶媒中に溶解し、固体分散体液を調製した。同じく表1に示す所定量の低置換度ヒドロキシプロピルセルロース(L−HPC)(ヒドロキシプロポキシル基10.9質量%)、乳糖(DMV社製Pharmatose)及びコーンスターチ(日本食品加工社製コーンスターチW)の混合物を流動層造粒コーティング装置(POWREX社製Multiplex MP−01)中で流動させて固体分散体液を噴霧・造粒・乾燥した。その後、30メッシュ(目開き500μm)の篩で整粒して目的の造粒物を得た。比較例として崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加しない場合の造粒物及びpH溶解特性の異なるタイプの腸溶性ポリマー:ヒドロキシプロピルセルロースアセテートサクシネート(pH6.8以上で溶解)による固体分散体からなる顆粒を同様の方法で製造した。
得られた各処方(A〜K)の造粒物20gについて、オリフィスの流動性指標を用いて得られた造粒物の流動性を評価した結果を表1に示す。ここで、オリフィスの流動性指標とは、砂時計型じょうご(内径42mm、高さ90mm)の孔を塞ぎ、試料20gを入れた後に、孔からの流出を観察するものであり、流出した孔径により粉体の流動性を評価する指数である。
評価は「良好」が特に流動性に優れ、粉の流出が速い状態をいい、「不良」は流動性が悪く、オリフィスから粉が流出しない状態をいう。
実施例の造粒物(処方A〜K)の流動性は何れも「良好」で「不良」である比較例1のL及びMより優れていた。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例2及び比較例2
実施例1及び比較例1により得られた各処方の造粒物について、主薬のニフェジピン含有量が94.5mg相当量になるように造粒物3780mg(処方A,B)、1890mg(処方C〜E,H,I,L,M)、1260mg(処方F,J)及び525mg(処方G,K)を秤取り、日本薬局方第14改正の溶出試験のパドル法に従って試験を行った。また、参考のためにニフェジピン原末94.5mgについても同様の操作で溶出試験を行った。なお、溶出試験の条件は、回転数100rpm、試験液には日局第2液(人工腸液、pH6.8)900mlを用いた。その結果を表2に示す。
実施例2の造粒物全て(処方A〜K)について、日局第1液(人工胃液、pH1.2)を用いて日本薬局方第14改正に記載された「溶出試験」で評価した場合には、120分経過後の溶出率は薬物初期投与濃度の10%以下であり、日局第2液(人工腸液、pH6.8)を用いて日本薬局方第14改正に記載された「溶出試験」で評価した場合には、10分以内の溶出率が70%以上と、崩壊剤の低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加していない比較例2(処方L,M)よりも高い薬物溶出改善性を示した。また、日局第2液を用いた溶出試験では、ニフェジピン原末の溶解度と比較して有意に高い薬物溶出濃度及び溶出率を示した。
以上のことから、本願発明の固体分散体を含む造粒物は、優れた溶出性を有するものであることがわかる。
【0037】
【表2】

【0038】
実施例3及び比較例3
実施例1の処方A〜Kを用いて調製した造粒物を打錠末とし、滑沢剤としてこの打錠末に対して0.5質量%となるステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、ロータリー打錠機(菊水製作所社製Vergo)にて210mgの錠剤を製造した(処方a〜k)。比較例として比較例1の処方L,Mにおいて調製した造粒物を打錠末として、実施例3と同様の方法で錠剤を製造した(処方l,m)。得られた錠剤について硬度及び日局第1又は第2液中で崩壊試験を行った。その結果を表3に示す。
実施例3により得られた錠剤(処方a〜k)では、適切な硬度と優れた崩壊性(日局第2液)を示した。
一方、崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加しない比較例3の処方l、mは、良好な硬度及び崩壊性(日局第2液)を示したが、日局第1液(pH1.2)では崩壊時間が20分以下であった。
【0039】
【表3】

【0040】
実施例4及び比較例4
実施例3及び比較例3により得られた錠剤について、主薬のニフェジピン含有量が47.25mg相当量になるように錠剤1890mg(処方a,b)、945mg(処方c〜e,h,i,l,m)、630mg(処方f,j)及び262.5mg(処方g,k)を秤取り、実施例2と同様の溶出試験を行った。また、参考のためにニフェジピン原末47.25mgについても同様の操作で試験を行った。その結果を表4に示す。
実施例3の錠剤全て(処方a〜k)について、日局第1液中での120分経過後の薬物溶出率は薬物初期投与濃度の10%以下であり、日局第2液中での10分以内の溶出率は70%以上であり、優れた薬物溶出を示した。また、日局第2液を用いた溶出試験では、ニフェジピン原末の溶解度と比較して有意に高い薬物溶出濃度及び溶出率を示した。
一方、崩壊剤である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを添加しない場合(処方l、m)では、日局第1液(人工胃液)での120分経過後の薬物溶出率は薬物初期投与濃度の10%以下であったものの、日局第2液中での10分以内の溶出率は70%以上に達せず、溶出性の向上は見られなかった。
以上のことから本願発明の固体分散体の錠剤は、優れた崩壊性及び溶出性を有するもの
であることがわかる。
【0041】
【表4】

【0042】
本願の原出願(特願2007−087958号)の出願当初の特許請求の範囲は以下の通りです。
[請求項1]
難溶性薬物、腸溶性ポリマー、賦形剤及び崩壊剤を含む固形製剤であって、少なくとも賦形剤と崩壊剤を含む混合粉末の一部又は全部が、難溶性薬物と腸溶性ポリマーを含む固体分散体で被覆されている固形製剤。
[請求項2]
上記腸溶性ポリマーの含有量が1〜37質量%で、かつ該崩壊剤の含有量が15〜50質量%である請求項1記載の固形製剤。
[請求項3]
上記腸溶性ポリマーが、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリ
メリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロ
キシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレー
ト、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピル
メチルアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルトリメリテート、カルボキシメ
チルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテ
ートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体、及びメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる請求項1又は2に記載の固形製剤。
[請求項4]
上記崩壊剤が、ヒドロキシプロポキシル基5〜16質量%を有する低置換度ヒドロキシ
プロピルセルロースである請求項1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
[請求項5]
上記崩壊剤が、ゆるめ嵩密度が0.40g/ml以上であり、かつ固め嵩密度が0.6
0g/ml以上である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである請求項4に記載の固形製剤。
[請求項6]
賦形剤と崩壊剤の混合粉末に、難溶性薬物を分散又は溶解した腸溶性ポリマー溶液を噴
霧し、造粒、乾燥することを含んでなる固形製剤の製造方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶性薬物、腸溶性ポリマー、賦形剤及び崩壊剤を含む固形製剤であって、少なくとも上記賦形剤と上記崩壊剤を含む混合粉末の一部又は全部が、上記難溶性薬物と上記腸溶性ポリマーを含む固体分散体で被覆された造粒物を含み、日本薬局方第1液(人工胃液)での120分経過後の上記難溶性薬物の溶出率が薬物初期投与濃度の10質量%以下となるように上記難溶性薬物の胃内での放出が抑制された固形製剤。
【請求項2】
上記腸溶性ポリマーの含有量が1〜37質量%で、かつ該崩壊剤の含有量が10〜50質量%である請求項1記載の固形製剤。
【請求項3】
上記腸溶性ポリマーが、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリ
メリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロ
キシメチルセルロースエチルフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレー
ト、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピル
メチルアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルトリメリテート、カルボキシメ
チルエチルセルロース、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテ
ートフタレート、メタクリル酸/エチルアクリレート共重合体、及びメタクリル酸/メタクリル酸メチル共重合体から選ばれる請求項1又は2に記載の固形製剤。
【請求項4】
上記崩壊剤が、ヒドロキシプロポキシル基5〜16質量%を有する低置換度ヒドロキシ
プロピルセルロースである請求項1〜3のいずれかに記載の固形製剤。
【請求項5】
上記崩壊剤が、ゆるめ嵩密度が0.40g/ml以上であり、かつ固め嵩密度が0.6
0g/ml以上である低置換度ヒドロキシプロピルセルロースである請求項4に記載の固形製剤。
【請求項6】
賦形剤と崩壊剤の混合粉末に、難溶性薬物を分散又は溶解した腸溶性ポリマー溶液を噴
霧し、造粒、乾燥することを含んでなり、少なくとも上記賦形剤と上記崩壊剤を含む混合粉末の一部又は全部が、上記難溶性薬物と上記腸溶性ポリマーを含む固体分散体で被覆され、日本薬局方第1液(人工胃液)での120分経過後の上記難溶性薬物の溶出率が薬物初期投与濃度の10質量%以下となるように上記難溶性薬物の胃内での放出が抑制された固形製剤の製造方法。

【公開番号】特開2013−47258(P2013−47258A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−240328(P2012−240328)
【出願日】平成24年10月31日(2012.10.31)
【分割の表示】特願2007−87958(P2007−87958)の分割
【原出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】